平成11(う)289 詐欺被告

裁判年月日・裁判所
平成13年12月18日 東京高等裁判所
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判決文本文58,808 文字)

主文 本件控訴を棄却する。 理由 本件控訴の趣意は,検察官斉田國太郎作成の控訴趣意書に,これに対する答弁は,弁護人金子正嗣,同萩谷雅和,同狐塚鉄世及び同久連山陽子連名作成の答弁書に記載されたとおりであるから,これらを引用する。 論旨は,要するに,原判決には,事実誤認及び訴訟手続の法令違反があって,破棄を免れないというのである。 本件公訴事実の要旨は,「被告人(A)は,a百貨店商事本部医療機器部部長であったが,① 同医療機器部機器営業部長であったB,同機器営業部員であったC,医療機器等の輸入販売業を営む株式会社b代表取締役であったD及び同社常務取締役であったEと共謀の上,c株式会社等のリース会社がbから医療機器等を買い受けてこれをaに転売し,aがさらにこれを病院等に売り渡して納入し,その代金決済については,各リース会社が先にbに対する代金を支払い,その数か月後にaから転売代金の支払を受ける,いわゆる商社金融取引である旨装って,各リース会社から売買代金名下に金員を騙取しようと企て,平成2年10月31日ころから平成3年5月27日ころまでの間,前後21回にわたり,各リース会社の決裁権者に対し,真実はaが医療機器等を病院等のエンドユーザーに販売納入した事実,あるいは販売納入する事実などないのに,a内部の正規の決裁手続を経ないで作成したa名義の医療機器等購入の注文書及び医療機器等をaにおいて受領して病院等に既に納入済みである旨の内容虚偽の物件受領書を交付するなどし,あたかも,各リース会社がaに転売した医療機器等はaから病院等に売り渡されて納入済みであるか,あるいはaから病院等に売り渡されて納入されるのであるから,各リース会社が先にbに医療機器等の売買代金として金員の支払をしても,約束の期日 た医療機器等はaから病院等に売り渡されて納入済みであるか,あるいはaから病院等に売り渡されて納入されるのであるから,各リース会社が先にbに医療機器等の売買代金として金員の支払をしても,約束の期日にaから確実に代金の支払を受けられる旨装って,bに対する代金の支払方を請求し,各決裁権者をしてその旨誤信させ,平成2年11月22日から平成3年5月31日までの間,前後25回にわたり,上記c等合計6社のリース会社等から,現金合計197億9106万9989円及び約束手形合計28通(額面合計104億7987万1475円)を騙取し,② 上記B,C及び医療機器等の輸入販売業を営む株式会社d代表取締役であったFと共謀の上,前同様商社金融取引を装い,c等2社から売買代金名下に金員を騙取しようと企て,平成3年1月11日ころから同年5月2日ころまでの間,前後6回にわたり,各社の決裁権者に対し,真実はaが医療機器等を病院等のエンドユーザーに販売納入した事実などないのに,a内部の正規の決裁手続を経ないで作成したa名義の医療機器等購入の注文書及び医療機器等をaにおいて受領して病院等に既に納入済みである旨の内容虚偽の物件受領書を交付するなどし,あたかも,各社がaに転売した医療機器等はaから病院等に売り渡されて納入済みであるから,各社が先にdに医療機器等の売買代金として金員の支払をしても,約束の期日にaから確実に代金の支払を受けられる旨装って,dに対する代金の支払方を請求し,各決裁権者をしてその旨誤信させ,同年1月23日から同年5月10日までの間,前後6回にわたり,上記c等2社から現金合計8億6849万1901円を騙取した」というものであるところ,原判決は,被告人と原審相被告人B,同C,同D及び同Fらとの共謀を否定し,被告人に対し無罪を言い渡し,検察官が控訴した事案で 社から現金合計8億6849万1901円を騙取した」というものであるところ,原判決は,被告人と原審相被告人B,同C,同D及び同Fらとの共謀を否定し,被告人に対し無罪を言い渡し,検察官が控訴した事案である。 そこで,原審記録を調査し,当審における事実取調べの結果をも併せて検討し,所論(当審における弁論を含む。)に対し,以下のとおり判断する。 第1 本件の概要所論の検討に先立ち,当裁判所の判断に必要な限度で,関係証拠上明らかに認められる事実関係を摘示することとする。 1 商社金融取引の形態等株式会社b(前身である株式会社e科学貿易の時代を含めて,以下「b」という。),株式会社d(以下「d」という。)は,いずれも海外の医療機器メーカーから医療機器を輸入し,これを国内の病院に販売していたが,b,dが取り扱う医療機器は高額で大型のものが多い一方,国内での販売にあっては,エンドユーザーである病院との間で売買契約が成立し医療機器を納品しても,その検査等に長期間を要し,代金の支払いが納品後6か月を超えるのが通常であったことから,b,d,においては,病院から代金の支払いを受けられるまでの間の輸入代金の資金手当の方法として,医療機器は,輸入後,b,dによって直接病院に納入するものの,b,dと病院との間にリース会社や商社を介在させる,いわゆる商社金融取引を利用していた。その取引形態は,医療機器は,b,d→リース会社(本件ではc等の会社)→商社(本件ではa)→病院と転売され,代金決済は,リース会社がb,dに代金(その金額は,商社への転売価格から口銭等を差し引いた金額)を先払いし,後日,病院から商社に,商社からリース会社に,という流れで,順次支払いがなされるというものであったが,現実の取引形態は,病院は,メンテナンス等の関係からb,dより医療機器の購入を望む 額)を先払いし,後日,病院から商社に,商社からリース会社に,という流れで,順次支払いがなされるというものであったが,現実の取引形態は,病院は,メンテナンス等の関係からb,dより医療機器の購入を望むことが多いため,aが病院との間で売買契約を締結することはなく,aから再度b,dに医療機器を販売し,b,dが直接あるいはディーラーを通して病院に販売するという環状取引の形態が取られており,本件の商社金融取引は,b,d→c等の各リース会社→a→b,d→病院という流れで医療機器を順次売買する形になっていた。 2 b,d及びaにおける商社金融取引における手続き等(1) b,各リース会社,a間で行われていた商社金融取引の手順の概要は,以下のとおりである。すなわち,Dが,取引の対象となる医療機器の品名,数量,取引金額,取引相手となるリース会社,bが各リース会社から支払いを受ける日,代金の決済日,納品先等の取引内容を決定し,aの担当者(B及びC)に連絡を取るとともに,その取引内容を詰めて協力を取り付ける。Eは,Dのメモに基づいてbからa宛の注文書を作成してaの担当者に渡し,aの担当者は,この注文書に基づいて,リース会社に対する支払代金と支払日を決定し,リース会社に対し,注文書及び医療機器の受領通知書を作成して届け,aの担当者から連絡を受けたEは,bからリース会社宛の医療機器売買申込書等を作成してリース会社に送付する。さらに,Eは,リース会社に対する請求書と納品書を作成してリース会社に渡し,その後1週間程度でリース会社からbに代金の振込入金がなされる,というものである。 d,各リース会社,a間で行われていた商社金融取引の手順の概要もFが取引内容を決定して,上記のbと同様の手順で行われていた。 (2) a内部における商社金融取引に関連する医療機器売買取引の正規の 。 d,各リース会社,a間で行われていた商社金融取引の手順の概要もFが取引内容を決定して,上記のbと同様の手順で行われていた。 (2) a内部における商社金融取引に関連する医療機器売買取引の正規の発注手続きの概要は,以下のとおりである。すなわち,営業担当者は取引先から商談の申込みを受けると,その取引について引合受注連絡票を作成して上司に報告し,さらに,商談が事実上まとまった段階で再度引合受注連絡票を作成して,取引の可否について決裁権者の決裁を受ける(取引金額の多寡により決裁権者が異なっている。)。その後,b,d関連の取引のように取引限度額が与信限度額を超える場合は,営業担当者は,販売承認申請書を作成して商事業務部長,商事審査部長(平成3年3月以降),業務本部財務経理部長の決裁を受けた上,捺印請求依頼書を作成して部門部長,商事業務部長,商事審査部長(平成3年3月以降)の各決裁を受け,取引金額の多寡による決裁区分に従って決裁権者が決裁すると,捺印請求依頼書とともに,一綴りとなった取引先に対する注文書,注文請書を商事業務部ないし商事審査部(平成3年3月以降)に持ち込み,注文書に社判を押捺してもらった上,各取引先に交付する,というものである。 次に,医療機器に関する売上計上及び各リース会社への支払手続の概要については,営業担当者は,コンピューターに商品名,数量,仕入先,仕入原価,販売先,売上金額等を入力してプリントアウトした業務記録(納品売掛伝票)に,販売先からの注文書,荷物受取書,病院が作成した検収完了確認書の写し,仕入先からの注文書,引合受注連絡票を添付し,引合受注連絡票の決裁区分と同一の決裁区分に従って,営業課長,営業部長,部門部長,商事本部長の順で決裁権者の決裁を受け,業務記録を商事審査部(平成3年3月以降),商事業務部に回して審査 絡票を添付し,引合受注連絡票の決裁区分と同一の決裁区分に従って,営業課長,営業部長,部門部長,商事本部長の順で決裁権者の決裁を受け,業務記録を商事審査部(平成3年3月以降),商事業務部に回して審査を受けた上で売上げの計上を行い,支払期日の1週間ないし10日程前までに,仕入先に対する支払稟議書を作成し,決裁権者の決裁を受けた後,商事審査部(平成3年3月以降),商事業務部の確認を経て,その後,業務本部財務経理部において,商事業務部の経理担当者が作成した支払伝票に基づいて仕入先に支払う,というものである。その際,aと各リース会社との間で特段の約定はないものの,a社内では,医療機器の商社金融取引は利益が薄いため,販売先からの代金支払遅延による資金負担はできないという判断から,売先であるb,dからの代金入金確認後に,仕入先である各リース会社に代金を支払うこととされていた。 (3) 本件関連の商社金融取引においては,各リース会社に対しa名義の注文書が発行されているが,各注文書は,いずれも決裁権者の事前の引合受注連絡票による決裁を受けないで発行され,また,aから各リース会社宛の対外文書であるから,捺印請求依頼書の決裁を受けた上で社判を押捺して発行すべきものであるが,この手続は履践されておらず,商事本部医療機器部機器営業部長であるB及び担当者であるCの個人印が押捺されている。このように,B,Cが発行していた注文書は,上記のような正規の手続きに違背しているものであるが,aの商事本部内部においては,捺印請求依頼書による社判押印の手続を経ておらず,引合受注連絡票による取引の可否についての決裁も受けていない注文書の発行も黙認されており,担当部課長,担当者の個人印のみが押捺された注文書に基づく各リース会社への支払いもすべて履行されていた。 3 b,dの経営状況 る取引の可否についての決裁も受けていない注文書の発行も黙認されており,担当部課長,担当者の個人印のみが押捺された注文書に基づく各リース会社への支払いもすべて履行されていた。 3 b,dの経営状況,aとの商社金融取引の状況等(1) b関係(一) bは,昭和51年6月に設立された医療機器,理化学機器等の輸出入,販売等を目的とする資本金3000万円(昭和61年2月以降)のDのオーナー会社であり,Dは,経営全般を掌握し,担当部署に直接指示命令を与えていた。bが取り扱っていた大型医療機器は,金額が高額であり,販売粗利益が平均4割と高かったものの,売上げ実績では経常経費を支払うとほとんど利益が出ないか赤字が出る状態で,昭和58年ころから赤字傾向が続いており,bの本件に接着した時期での各決算期における累積赤字額は,平成元年3月期が約61億円,平成2年3月期が約130億円,平成3年3月期が約258億円であった。 (二) Dは,昭和61年ころから,g株を買い集め,昭和63年2月ころ,その売却による利益を得て,bの累積赤字を30億円ほどに減らすことができたが,さらに,昭和63年春ころからはh株を買い進め,平成2年ころから,i株も買い始めた。hは,平成2年3月ころに最高値をつけたが,同年夏ころから徐々に下がり始めたため,買い支えに努めるとともに,株売却を試みたがうまくいかず,同年12月には,「bほか」がh株を1750万株余(発行済み株式の17パーセント弱)を所有していることが新聞で報道され,これに対し,いわゆる仕手筋によって,平成3年1月から,大規模な空売りをかけられたため,h株は暴落した。その結果,Dは,ノンバンクからは株式担保融資の担保掛け目割れによる追加金の支払いを,信用取引では多額の追証の要求と決済代金の支払いを迫られ,その資金繰りに奔走し,同月 られたため,h株は暴落した。その結果,Dは,ノンバンクからは株式担保融資の担保掛け目割れによる追加金の支払いを,信用取引では多額の追証の要求と決済代金の支払いを迫られ,その資金繰りに奔走し,同月中に,所有する株式の1部を約34億円で処分するなどし,その後,毎月10億円から20億円前後程度処分することを余儀なくされた。h株は,一時値を戻したが,同年5月以後再び低落し,前記のとおり,bの累積赤字はさらに増大した。 (三) bは,設立当時は,海外メーカーから輸入した医療機器を直接病院に販売していたが,取引額の拡大に伴い,商社金融取引を行うようになり,昭和55年ころからは,aもbの医療機器取引に介入するようになった。そして,昭和59年ころから,取引にcが関与するようになり,また,一時中断していたaとbとの商社金融取引も昭和60年ころから再開された。そして,昭和63年ころからは,これまで介入することの多かったfに代わってaが取引に介入することが多くなり,b→c→a→b→病院という取引の形が主流を占めるようになって,この流れの取引が平成3年6月まで継続した。さらに,Dは,平成2年10月ころから平成3年5月にかけて,k,l,m,n,oの各社をそれぞれbとaとの間に介入させ,b→各リース会社→a→b→病院という商社金融取引も行うようになった。 (四) aとbとの医療機器取引の推移は,上記のとおりであるところ,aにおけるb関連の医療機器取引の月別受注高を見ると,昭和61年は,スポット的な取引が主体であり,1月に5億円余,4月に3億7000万円余,5月に8億円弱,11月に7億7000万円余,12月に11億円余で,それ以外の月は受注がなく,昭和62年も同様で,5月,6月に各3億7500万円,7月に10億8600万円,12月に9億6000万円で,それ以外の月 11月に7億7000万円余,12月に11億円余で,それ以外の月は受注がなく,昭和62年も同様で,5月,6月に各3億7500万円,7月に10億8600万円,12月に9億6000万円で,それ以外の月は受注がなく,債権残高も10億円台で推移している。 昭和63年になると,2月を除き,毎月受注するようになり,受注高は,4月に11億3100万円,6月に14億3700万円,9月に13億6300万円と10億円前後の取引が続き,10月には22億6600万円,11月には35億7200万円余と増加し,同年末の債権残高も100億円を超える状態となったが,平成元年になると,受注高は,2月,11月が零だったのを除き,毎月10億円から20億円程度で推移し,同年末の債権残高は67億500万円余に減少した。 平成2年は,1月,2月は受注零であり,3月から7月,9月,11月,12月は10億円台で推移したが,8月には41億円余,10月には24億円余の受注があり,同年末の債権残高も139億9800万円余に増加した。そして,平成3年になると,受注高は急激に増加し,1月が74億3600万円余,2月が47億6800万円余,3月が81億1500万円余,4月が92億2000万円余,5月が92億8400万円,本件が発覚した6月が50億円余であり,これに伴って,債権残高も,1月が209億9600万円余,2月が250億2400万円余,3月が299億6500万円余,4月が372億8000万円余,5月が429億7000万円余で,6月時点では,479億8600万円余に膨張した。 (五) Dは,商社金融取引を始めた早い時期から,bの資金繰りのため,病院に納入されているものの売買契約が成立していない医療機器や,bが在庫として倉庫に保管している医療機器を対象とし,あるいは,病院との間で売買契約が成立し 引を始めた早い時期から,bの資金繰りのため,病院に納入されているものの売買契約が成立していない医療機器や,bが在庫として倉庫に保管している医療機器を対象とし,あるいは,病院との間で売買契約が成立しておらず,納品もしていないのに,商社金融取引を組んで商社やリース会社等から売買代金を得るということも行っており,実体のない商社金融取引の代金決済資金調達の必要や,前記のとおり,h株の下落による株価買支えのための資金調達等の必要から,商品の流れを伴わない架空取引を組んで各リース会社から売買代金名目の支払いを受けており,平成2年度においては,b,aとの医療機器取引の大半が,平成3年度に至っては,そのすべてが架空取引であり,本件起訴にかかるb,c等6社のリース会社,aとの間の商社金融取引の形をとった医療機器取引は,すべて売買取引の対象となる医療機器が存在せず,商品の流れを伴わない架空取引であった。 (六) 平成3年6月6日ころ,aとbとの取引に不審を抱いたaG商事本部長がbとの取引の中止を命じたことから,大量の簿外取引が発覚し,aにおいてbとの取引関係を調査したところ,本件各取引が医療機器の流れを伴っていない架空取引であることが判明し,aは,b,d関連の医療機器取引について各リース会社に対する支払を停止したため,各リース会社は本件各架空取引についてaからの支払を受けることができなくなった。 a部内では,当初,G商事本部長,H商事本部商事審査部長らを中心として,原因究明のため,B,C,Dらから事情を聞く形で調査が行われたが,同年6月25日,I専務取締役を責任者,J総務部長を事務局長とする調査チームを発足させ,顧問弁護士らをメンバーに加えて調査を進めた結果,平成3年8月1日付けで,B,Cは,上司に報告することなく無断でb,dとの取引を行っていたとして, 者,J総務部長を事務局長とする調査チームを発足させ,顧問弁護士らをメンバーに加えて調査を進めた結果,平成3年8月1日付けで,B,Cは,上司に報告することなく無断でb,dとの取引を行っていたとして,いずれも懲戒解雇となり,被告人は,B,Cの管理・監督責任を問われて,同日付けで3か月の減給処分を受けた。なお,被告人は,同年7月,医療システム営業部(医療機器部が名称変更したもの)の部長職を解任されて同社人事部付きとなっている。aは,B及びCを都内のホテルやマンションに宿泊させ,調査を進めていたが,調査の過程で,Bは,取引の経過等を説明するため,同年6月22・23日付け顛末書(原審証拠等関係カード弁護人請求番号第22号証)を作成してH商事審査部長に提出し,Cも,H部長から,思いつく点があったら書面にしてはどうかといわれたため,同月27日付け報告文書(同第23号証,同文書には表題がないが,便宜,「上申書」と称する。)を作成して,調査メンバーの弁護士に提出した。 (2) d関係(一) dは,Fが,昭和50年3月に設立した医療機器,理化学機器等の輸出入及び国内販売等を目的とする資本金1400万円の株式会社(昭和55年6月以降)であり,Fが,経営全般を掌握していたものである。同社は,昭和52年,アメリカのj社と輸入販売代理権契約を結び,同社の全自動血液成分採取装置(以下「ヘモネ」という。)と同装置用の消耗品であるディスポーザブル血液回路(以下「ディスポ」という。)の輸入販売を始めたが,同装置が高額であることから,輸入代金の支払いのための資金繰りが苦しくなり,昭和55年ころから,Dの紹介によりa商事事業本部医療機器部のK課長を知り,fなどを介在させての商社金融取引をし,このころからdの取扱商品でない医療機器(以下「非取扱商品」という。)を取引対象とする 昭和55年ころから,Dの紹介によりa商事事業本部医療機器部のK課長を知り,fなどを介在させての商社金融取引をし,このころからdの取扱商品でない医療機器(以下「非取扱商品」という。)を取引対象とするなどした架空取引を作出して資金の調達をも図るようになった。 (二) 昭和60年ころから日本でもエイズの感染が社会的問題となり,その原因の一つが血液製剤にあることから,厚生省が全国の日本赤十字社の血液センターに今後5年間で1000台の全自動血液成分採取装置を配置するという計画を発表した。これを知ったFは,その独占を企図し,厚生省の担当者と販売価格の交渉をしたところ,1台あたり200万円という価格を提示された。当時Fが売り込みをしていた装置の輸入価格は,1台あたり約450万円から500万円であったことから,この価格では大幅な赤字が見込まれたが,納入に成功すれば,その後消耗品であるディスポの納入も確保できるため,Fは,200万円での販売に応じることとなった。しかしながら,このような逆ザヤ販売のため資金繰りが一層苦しくなり,商社金融取引の中に架空取引を織り交ぜることが増加した。このような商社金融取引のうち,fの介在するものは,昭和63年ころにはdを担当していた同社社員の大阪転勤により終わり,平成2年なかばころからは,もっぱらメーカー→d→c→a→d→エンドユーザーという契約の流れの取引を行うようになった。 (三) dのヘモネの販売台数は増加したが,献血者数の伸び悩みからディスポの販売個数はFが見込んだほどは増加せず,また,前立腺温熱治療システム(プリモス)等の新商品の販売に取り組むための費用等が嵩み,dの赤字は年々増加し,昭和60年には3億円弱であったものが,同61年,約5億9000万円,同62年,約7億7000万円,同63年,約10億円,平成元年,約 新商品の販売に取り組むための費用等が嵩み,dの赤字は年々増加し,昭和60年には3億円弱であったものが,同61年,約5億9000万円,同62年,約7億7000万円,同63年,約10億円,平成元年,約14億円,平成2年,約19億2000万円となり,平成3年には22億円を超えるまでになった。そのような中で,Fは,dの資金繰りのため,本件各架空取引を行った。架空取引の形態をみると,100パーセント非取扱商品による架空取引であるもの,非取扱商品と取扱商品との組み合わせによるもの,あるいは取扱商品の数量等の水増しを含むものなど様々な架空取引の形態があり,本件起訴にかかる架空取引のうち,5件は数量の水増し等による架空取引であり,1件は100パーセント非取扱商品による架空取引である。 (四) aにおけるd関連取引のうち,昭和61年から平成3年5月までの月別受注高の推移をみると,平成元年12月に10億5000万円余りというものがあるほかは,毎月定期的に1億円前後から8億円前後の受注高が続いており,dに対する債権残高も,10億円前後から30億円台で推移し,債権残高が増加した平成3年4月が43億2900万円余り,同年5月が41億5000万円余りである。 (五) 平成3年6月に,前記(1),(六)のとおり,aにおいてbとの取引の調査が行われたことから,dとの取引にも架空取引が含まれていることが発覚し,同年10月28日,同社は破産宣告を受け倒産した。 4 被告人の地位及びb,dとの商社金融取引への関与状況被告人は,昭和59年3月,aの商事事業本部機器エンジニアリング事業部医療機器部医療機器課の課長に就任したが,そのころb,d関連の医療機器取引は,医療機器部長のKと同部員のCが行っていたところ,Dがr大学に関連した贈収賄事件で逮捕されたことやKの出向等で取引は中断 医療機器部医療機器課の課長に就任したが,そのころb,d関連の医療機器取引は,医療機器部長のKと同部員のCが行っていたところ,Dがr大学に関連した贈収賄事件で逮捕されたことやKの出向等で取引は中断されていた。昭和60年春,被告人は医療機器展を見学して,bが扱っていた結石破砕装置のドルニエに注目し,上司の了解を得てDに取引の再開を申し込み,同年夏ころから,bとの取引を再開し,被告人が担当者としてCとともに営業を行うようになった。 被告人は,昭和61年9月に医療機器部付きとなり,後任の課長にBが就任した。被告人は,部付きのまま,商事本部の労働組合委員長として,組合の機構改革に取り組むことになり,b,dとの取引については営業のラインからはずれることになったが,部付きというBの実質的な上司の立場から,当初不慣れなBに対し,b,dとの取引についても,指導,助言を与えるなどしていた。被告人は,昭和62年3月に,商事本部エンジニアリング事業部医療機器1部(部長はG事業部長が兼務)の部付きと兼務する形で同部医療機器2課長に就任し,医療機器の直販等の営業活動を行うようになったが,b,dとの医療機器取引は医療機器1課の所管であり,同課長のB,Cが担当していた(なお,昭和63年3月に,医療機器1部と2部が統合され,医療システム部となった。)。昭和63年9月,被告人は,エンジニアリング事業部医療システム部長兼医療機器課長に就任し,b,dとの医療機器取引を扱う医療システム課長Bの直属の上司として,同医療機器取引の決裁に関与するようになったが,b,dとの取引は,B,Cが依然として担当していた。 被告人は,平成2年3月に商事本部医療機器部長に昇進した。医療機器部長は,商事本部の医療機器部門を統括する部門部長である。医療機器部門には機器営業部とシステム開発部があり 依然として担当していた。 被告人は,平成2年3月に商事本部医療機器部長に昇進した。医療機器部長は,商事本部の医療機器部門を統括する部門部長である。医療機器部門には機器営業部とシステム開発部があり,b,dとの取引は,機器営業部長に昇進したB(機器開発担当)がCとともに担当していた。以後,b,dとの取引は,被告人,B,Cのラインで行われることになり,本件各取引に至った。 第2 訴訟手続の法令違反の主張について 1 主張の要旨は,「原審は,被告人の検察官Lに対する平成4年7月25日付け,同月27日付け及び同年8月3日付け各供述調書について,供述の任意性に疑いが残る旨判断して検察官の取調請求を却下し,異議申立ても棄却した。しかしながら,被告人に対する取調状況,被告人の供述内容及び供述経過などのいずれの観点から見ても,被告人の各供述調書には任意性に疑いを抱かせる事情は何ら存しないのに,原審は被告人の弁解に引きずられ,刑訴法322条の解釈・適用を誤った結果,任意性の判断を誤り各調書の取調請求を却下したのであるから,前記却下決定には訴訟手続の法令違反があることは明らかである。しかして,各調書の証拠能力が認められ,これが採用されて取り調べられていたのであれば,被告人との共謀を認めるBらの供述と相まって,本件共謀が優に認定できたことは明白であるから,この訴訟手続の法令違反は,被告人とBらとの共謀についての事実誤認を招来しており,判決に影響を及ぼすことが明らかである。」というものである。 ところで,原審は,第58回公判において,上記の却下決定をしており,決定内容は同公判調書の証拠等関係カード(続)に記載されているので,便宜,原決定の要旨を掲記した上で所論を摘示し,検討を加えることとする。 2 原決定の要旨原審の却下決定の要旨は,以下のとおりである。 ( 同公判調書の証拠等関係カード(続)に記載されているので,便宜,原決定の要旨を掲記した上で所論を摘示し,検討を加えることとする。 2 原決定の要旨原審の却下決定の要旨は,以下のとおりである。 (1) L検事に対する調書とそれ以前の調書を比較すると,それ以前のものは,多数の介入取引の中には架空取引も含まれているかも知れないという限度で架空性の認識があり,また,それを知りながらBらにb等との取引を任せ,自らも決裁していたのであるから自己に責任があるという一般的,抽象的な内容であり,自白調書とは目せないのに引き替え,L検事に対する調書には,被告人がDらから架空取引を頼まれた経緯,状況,Bに対する架空取引の指示状況等が具体的,詳細に記載されており,架空性の認識についても具体的な内容となっている。そして,調書に記載された具体的な事実関係が,それ以前の調書には記載されていない事実であったり,被告人に記憶がないか,その事実を否定していた事実となっている。 被告人がL検事の取調べを受けるようになったのは平成4年7月19日ないし20日ころであり,その後,連日取調べを受けていながら,最初に作成された調書が同月25日付けであり,5,6日が経過していることなどを考慮すると,署名押印をする,しないでもめたことはないとの証人Lの供述を直ちに信用することはできない。 (2) 被告人が調書に署名指印をするに至った経緯に関する供述は,具体的で迫真性に富むものであり,被告人が意図的に作出した内容とも考えられないことに加え,被告人の供述は,第1回公判期日後に弁護人が捜査検事に宛てて発した抗議文書によっても一応裏付けられている(抗議文書の発出は自白調書作成直後ではなく,2か月弱を経過した時期であるが,その間,事実関係を認めて執行猶予判決を得ようとする被告人と,事実関係を争お 発した抗議文書によっても一応裏付けられている(抗議文書の発出は自白調書作成直後ではなく,2か月弱を経過した時期であるが,その間,事実関係を認めて執行猶予判決を得ようとする被告人と,事実関係を争おうとする弁護人との間で審理に臨む方針に対立があり,被告人は,自白調書作成前後に弁護人に対して検察官の取調状況を説明していたものの,被告人の依頼によって抗議文書の発出を見合わせていた旨の説明は不合理なものとはいえない。)。 L検事は,追起訴が終了し,本件の捜査が終了した後も東京拘置所で被告人と面接を重ね,本来は接触を慎むことが相当と思われる第1回公判期日の直前,直後においても被告人と面接しており,その際第1回公判期日での対応も話題に出ているのであり,第1回公判期日に向けての供述固めと受け取られてもやむを得ない行動に出ている。 (3) そうすると,被告人の弁解を否定するL検事の供述をもってしても,供述調書に署名指印すれば執行猶予判決が得られ,保釈も認められるとの検察官の説明を信じ,執行猶予判決や保釈による身柄の釈放を望む余り供述調書に署名指印した旨の被告人の供述を虚偽として排斥し去ることは困難であり,供述調書には任意性に疑いが残る。 3 所論の指摘する点は,以下のとおりである。 ① 被告人の取調べが開始されてからL検事に対する供述調書が作成されるまでの経過を見ると,M検事に対する被告人の供述内容は,取引の架空性についての認識の程度を除いては,Bらの供述と大筋において符合している反面,個々の事実や場面についての具体性が欠けている点で一部自白(一部否認)と評価すべきところ,N検事に対する供述は,架空取引についての認識が強めの表現となっているほかはM検事に対する供述と大差はなく,L検事に対する供述についても,架空性の認識についての程度がN検事に対する供 すべきところ,N検事に対する供述は,架空取引についての認識が強めの表現となっているほかはM検事に対する供述と大差はなく,L検事に対する供述についても,架空性の認識についての程度がN検事に対する供述よりも更に強く録取されているほか,何点かの新たな事実が付加されたものの,M検事及びN検事に対して供述した事実が多少詳細になったかあるいはその事実の延長線上の事実が録取されたものにすぎず,個々の取引の詳細については依然として知らなかったとの供述を維持し,個々の事実や場面についての供述がそれまでと同様に具体的でないなど,M検事に対する供述と大差はないのであり,基本的には個々の取引はBらが行っていたので自分は知らない旨の自己弁護を基礎とした一部自白(一部否認)と見るべきものである。 そして,M検事及びN検事による取調べと同様に,L検事の取調べにおいても,被告人とL検事との間で供述調書に署名指印するかどうかで紛糾した事実はない。原審は,L検事が取調べを開始してから供述調書が作成されるまで5,6日が経過したことを指摘するが,本件事案の規模,特質及びL検事の取調時間などを見れば,最初の供述調書を作成するまでに5,6日を要したことは異例ではなく,取調べの実情に対する理解を欠いた偏見によるものというほかない。 ② 被告人は,任意取調べを受けていた早い段階から弁護人を選任し,逮捕後も取調べについて接見等を通じて助言を受けており,被告人に対する弁護活動は第1回公判期日に至るまで十分に尽くされている。原審は,違法な利益誘導を受けた旨の被告人の供述は,第1回公判期日後の弁護人による抗議文書によって裏付けられているというが,文書が取調から2か月弱経過した後に発出されていることなどからすれば,弁護人は,第1回公判期日以降公訴事実を争うこととした被告人の弁解を鵜呑みにし 人による抗議文書によって裏付けられているというが,文書が取調から2か月弱経過した後に発出されていることなどからすれば,弁護人は,第1回公判期日以降公訴事実を争うこととした被告人の弁解を鵜呑みにして,第1回公判期日の翌日保釈請求をし,その後,保釈許可決定に対する検察官の不服申立を牽制するとともに,事後被告人の供述調書の任意性を争うことを意図して,その伏線として前記抗議文書を発したことがうかがわれる。 ③ 被告人の弁解は,L検事から執行猶予や保釈についての一般論について説明を受けた事実などから容易に作出できるものである上,被告人は,弁護人から,「保釈や執行猶予の見通しはなく事実に反する供述調書に署名してはならない」との助言を受けていたのに,自己の判断で供述調書に署名したことについて合理的理由を供述し得ないことなどからすれば,その弁解は,不自然,不合理というほかない。また,L検事が第1回公判期日の前後に被告人に面会したことについては,被告人から面会を依頼されていただけではなく,新たな派生事件の情報収集をも意図したものであり,このことは,L検事がその日に取調べを担当したことのないDに面会している事実などからも明らかである。したがって,L検事の面会事実がそれ以前になされた被告人の供述の任意性を左右するものではない。 4 所論の検討に先立ち,被告人に対する取調べの経過・状況,弁護人の対応等を見ることとする。関係証拠によれば,以下の事実が認められる。 (1) 被告人の取調状況・経過等(一) 東京地方検察庁特別捜査部は,平成4年4月下旬ころから被告人に対する任意の取調べを開始し,当初は捜査主任検事Nが取調べに当たり,同年5月上旬ころ,L検事が一時被告人を取調べたことがあったが,同年6月からは,M検事が被告人の取調べを担当した。被告人は,同年6月23日逮 意の取調べを開始し,当初は捜査主任検事Nが取調べに当たり,同年5月上旬ころ,L検事が一時被告人を取調べたことがあったが,同年6月からは,M検事が被告人の取調べを担当した。被告人は,同年6月23日逮捕されて,同月25日勾留され(接見等の禁止決定も併せてなされた。),同年7月3日勾留が延長された後,同月14日詐欺罪で起訴されたが(起訴後も接見等禁止決定がなされている。),この間引き続きM検事の取調べを受けた。被告人は,起訴後の同月17日,N主任検事の取調べを受けた。 この間,N検事が作成したのは,同年4月24日付け,同月25日付け,同月26日付け,同年5月2日付け,同年7月17日付け,同月18日付け,同月19日付け各供述調書,L検事が作成したのは,同年5月9日付け供述調書であり,M検事は,同年6月15日付け,同月18日付け,同月22日付け(3通),同月23日付け(2通),同月24日付け,同月25日付け(2通),同月28日付け(2通),同年7月1日付け,同月2日付け,同月3日付け,同月4日付け(2通),同月5日付け(2通),同月6日付け(2通),同月8日付け,同月9日付け(3通),同月10日付け(2通),同月12日付け(4通)各供述調書を作成している。 (二) 被告人は,同年7月19日ないし20日ころから,L検事の取調べを受けるようになり,L検事は,同月25日付け,同月27日付け,同年8月3日付け各供述調書を作成した。同月4日,被告人は,余罪の詐欺罪について追起訴された。 (三) L検事は,起訴が終了した同月4日以降も,東京拘置所で勾留中の被告人と数回面接し,同年10月12日の第1回公判期日の直前,直後にも被告人と面接し,その際,第1回公判期日での対応も話題になった。 (2) 弁護人の対応等(一) 被告人は,同年6月8日,弁護士金子正嗣,同萩 回面接し,同年10月12日の第1回公判期日の直前,直後にも被告人と面接し,その際,第1回公判期日での対応も話題になった。 (2) 弁護人の対応等(一) 被告人は,同年6月8日,弁護士金子正嗣,同萩谷雅和,同年7月7日,同狐塚鉄世を弁護人に選任した。 弁護人らは,同年7月8日,勾留期間延長決定,同月10日,接見等禁止決定に対しそれぞれ準抗告の申立てをしたが,いずれも棄却された。弁護人萩谷雅和は,同月2日付けで,N主任検事に対し,「取調検察官であるL検事が被告人に対し弁護人らが不適当であると述べていることについて調査しその善処方を求める」旨の通知書を送付し,さらに,弁護人らは,同月20日付けで,N主任検事に対し,「N検事の取調及びその調書作成方法が極めて不当であるとしてこれに抗議する」旨の通知書を送付している。 弁護人らは,同月29日,起訴後の接見等禁止決定に対し準抗告の申し立てをしたが,同月30日妻子との接見禁止一部解除の申し立てが認められたため,これを取り下げた。 (二) 被告人は,同年10月12日の第1回公判期日において,共謀の事実を否認し,弁護人も同旨の主張をして無罪の意見陳述をした。そして,同月21日付けで,特別捜査部部長O検事,N主任検事及びL検事に対し,「取調担当のL検事が長期間の独居房生活でノイローゼ状態にあった被告人に対し,事実を認めればすぐ保釈になるし,情状でがんばれば執行猶予の可能性もある,などと違法な利益誘導を繰り返し,自ら作文した自白調書に読み聞かせもしないまま署名押印させ,追起訴終了後も,余罪等の取調の必要性もないのに,被告人とひんぱんに面会して第1回公判期日まで,保釈や求刑が有利になることをほのめかして事実を認めるよう繰り返し申し向け,同期日直前にも被告人と面会し,調書を全部同意すれば,すぐ保釈になって執 に,被告人とひんぱんに面会して第1回公判期日まで,保釈や求刑が有利になることをほのめかして事実を認めるよう繰り返し申し向け,同期日直前にも被告人と面会し,調書を全部同意すれば,すぐ保釈になって執行猶予の可能性も十分あるなどと言うなどして起訴事実を認めて供述調書に同意するよう求めるなど,被告人の公判活動に干渉した」旨述べてこれに抗議する内容の通知書を送付した。 (三) 被告人に対する保釈の経過については,弁護人らは,第1回公判期日の翌日である同年10月13日保釈請求し(その請求書の中で,弁護人らは,被告人が同年8月4日以降連日にわたりL検事から露骨な利益誘導を繰り返し受けていることなどを主張している。),原審は,同年10月16日保釈を許可する決定をしたが,検察官の抗告が容れられて保釈許可決定は取り消された。弁護人らは,同年12月8日再度の保釈請求をして原審は保釈を許可する決定をしたが,前同様,検察官の抗告が容れられて保釈許可決定は取り消され,被告人に対する勾留は,平成5年3月15日に保釈を許可されるまで続いた。 5 当裁判所の判断そこで,検討すると,被告人のL検事に対する平成4年7月25日付け,同月27日付け及び同年8月3日付け各供述調書の任意性に関する原決定の判断はすべて相当として是認できるが,以下,所論に即して,補足的に説明を加えることとする。 (1) まず,所論①について検討する。被告人のL検事に対する上記3通の供述調書が作成される以前の被告人の検察官に対する供述調書は,前記4(1)(一)に掲記したものである。そのうち,N検事が作成した同年7月17日付け供述調書を除くその余の各供述調書の内容を見ると,各供述調書の中には,b,dとの多数の取引の中に架空取引が含まれていた可能性があるとして架空性の認識を抽象的に認め,また,Bらの上司 年7月17日付け供述調書を除くその余の各供述調書の内容を見ると,各供述調書の中には,b,dとの多数の取引の中に架空取引が含まれていた可能性があるとして架空性の認識を抽象的に認め,また,Bらの上司として取引の決裁をしていたので自分にも責任があることを一般的,抽象的に認めるものがあるほか,被告人がDから合計1500万円をもらったこと,h株の譲渡を受けたことなどを認める供述があるが,上記の金員授受や株式の譲受けと架空取引との関連についてはこれを否定しており,いずれの調書についても,自白調書と目されるものは見あたらない。また,N検事が起訴後に作成した同年7月19日付け供述調書は,Bらが行っていたbやdとの個々の取引の内容を一つ一つ把握していたわけではないが,これらの取引に架空取引のあることを承知した上で,aの売上や利益実績を上げるためにBらに任せていたので,上司として責任があることなどを抽象的,一般的に供述したものであり,Dから取引高を増やすことを依頼されたことや合計1500万円の金員を受け取ったこと,Cからbやdからの入金予定額を報告させたことなどを供述する部分もあるが,これらの事実と架空取引に関するB,Dとの共謀との関連は明らかにされておらず,自白調書とはいい難いものである。なお,原審において,上記の各供述調書は検察官から証拠請求されているが,その立証趣旨は「供述の経過」であり,犯罪事実を立証するものではない。 これに対し,L検事に対する同年7月25日付け供述調書の内容を見ると,被告人は,個々の取引の内容を具体的に把握していたわけではないが,売上げノルマや差益ノルマ達成のためB,Cに指示してbとの間で架空取引を行わせていたこと,平成2年夏ころにDから株取引等の資金調達へ協力を依頼され,さらには,株取引の失敗などによりbが倒産して架空取引 げノルマや差益ノルマ達成のためB,Cに指示してbとの間で架空取引を行わせていたこと,平成2年夏ころにDから株取引等の資金調達へ協力を依頼され,さらには,株取引の失敗などによりbが倒産して架空取引が発覚することを防ぐため,Bらに指示してbとの架空取引の金額を増大させ,Dの資金繰りに協力させていたこと,Dから架空取引への協力に対する見返りとして株式や金員を受け取ったことなどを具体的な事実を基に詳細に供述したもので,自白といえるものである(被告人は,同検事に対する同月27日付け供述調書においても,dとの取引に架空取引があることは知っており,Bがdとの取引に関係するようになってからも,Fからの資金繰りの依頼に応じてB,Cに架空取引に協力させていたこと,Fから架空取引への協力の見返りとして,リベート資金の立替え,飲食代金の用立てなどをしてもらったことなど,自白と目される供述をしている。)。したがって,被告人は,同年7月19日ないし20日から始まったL検事の取調べにおいて,はじめて自白するに至ったものと認められる。 L検事は,原審公判廷において,「被告人は,N検事の取調べですでに自白していたので,7月25日付け調書に署名指印する,しないで厳しいやりとりがあったことはない。」旨証言し,所論は,取調べから署名指印するまでに5,6日要したのは,担当検事の交替,取調べの実情からすれば異例ではないと主張する。しかしながら,被告人は,L検事の取調べで自白するに至ったことは前記のとおりである上,同検事は,それまでにCやEら事件関係者の取調べを担当し,被告人についても取調べをして同年5月9日付け供述調書を作成しており,事案の内容を十分に把握していたことがうかがわれるのであり,取調検事の交替や供述調書作成に要する時間等取調べの実情を考慮にいれても,所論は採用し難 調べをして同年5月9日付け供述調書を作成しており,事案の内容を十分に把握していたことがうかがわれるのであり,取調検事の交替や供述調書作成に要する時間等取調べの実情を考慮にいれても,所論は採用し難い。前記のL証言を直ちに信用することには躊躇を覚える旨の原決定の説示は首肯できるところである。 (2) 次に,所論②及び③について検討する。被告人は,L検事に自白し,供述調書に署名指印をするに至った経緯について,原審公判廷において,「L検事から,事実を認めず署名もしないで裁判を長引かせれば,最低5年はかかり,ここからはなかなか出られない,もし事件を認めれば,求刑5年,判決懲役3年,執行猶予5年で釈放されるし,保釈も認められる,という趣旨のこと言われた。接見の際に弁護人にこの話をして,弁護人から,N主任検事に面会した結果も含めて,事実を認めれば,検事の言っているような執行猶予がつくはずはないし,相当重い罪になると言われていたが,当時弁護人を必ずしも信用する気にはなっておらず,かえって,毎日取調べで接触していたL検事を信用できると考えて男と男の約束をしたと信じ,供述調書に署名指印した。自白した内容は事実ではない。」と供述しており,被告人が,弁護人に対し,自白に至った経緯について同旨の説明をしたことは,前記4(2)(二)に掲記した,弁護人作成の同年10月21日付け抗議文の内容からもうかがわれるところである。 所論は,被告人の供述は,L検事から,執行猶予や保釈の一般的説明を受けたことを基に被告人が作り上げたものであり,弁護人から,L検事の言うことを信用するなと助言されていながら供述調書に署名した理由も不自然であるという。しかしながら,被告人の供述内容は,刑事裁判の知識や執行猶予が付けられるのは3年以下の懲役刑の場合に限られるとの刑法の知識が前提になって 助言されていながら供述調書に署名した理由も不自然であるという。しかしながら,被告人の供述内容は,刑事裁判の知識や執行猶予が付けられるのは3年以下の懲役刑の場合に限られるとの刑法の知識が前提になっていると推測されるところ,これまで起訴された経験のない被告人が,取調べを受ける過程で,同検事から具体的な形で聞かない限り供述し得ないものと考えられるのであり,弁護人の助言に反して供述調書に署名した理由についても,前記供述に不自然,不合理な点があるとはいえない。次に,所論は,上記抗議文が自白から2か月弱経過後に出されたことなどから,抗議文の発出は,保釈に反対する検察官の動きを牽制し,自白調書の任意性を後日争うための戦術であり,被告人の供述を裏付けるものではない旨主張する。しかしながら,被告人は原審公判廷において,「第1回公判期日の直前まで,早く拘置所から出たいという気持もあってL検事を信用する気になっており,事実を争うと主張する弁護人らと対立し,弁護人から解任しろとまで言われ,ぎりぎりまで迷ったが,第1回公判の意見陳述では事実を否認することにした。」旨供述しており,第1回公判期日直前まで,被告人と弁護人らとの間で意見の対立があったことは明らかであるから,原決定が,弁護人らは,自白調書作成前後に取調状況の説明を受けていたが被告人の依頼によって抗議文書の発出を見合わせていた旨説示するところは相当と考える。また,所論は,L検事が公判期日の直前直後に被告人と面接したのは,派生事件の情報収集のためであった旨主張するが,関係証拠を検討しても,本来接触を控えるべきである上記の時期でなければ情報収集が困難であったとの事情はうかがえない上,前記4(1)(三)で認定したとおり,L検事と被告人との間で第1回公判期日での対応も話題になったことが明らかであるから,原決定が る上記の時期でなければ情報収集が困難であったとの事情はうかがえない上,前記4(1)(三)で認定したとおり,L検事と被告人との間で第1回公判期日での対応も話題になったことが明らかであるから,原決定が指摘するとおり,その主観的な意図はともかく,供述固めと受け取られてもやむを得ない行動と見ざるを得ないところである。所論はいずれも採用できない。 (3) 被告人の原審公判廷における供述と証人Lの原審公判廷における供述を併せ検討すれば,被告人の前記供述には,多分に誇張した面があることは否定できない上,利益誘導による自白がどのような効果をもたらすかを熟知している検察官が,執行猶予や保釈を露骨に約束して自白を得ようとすることは考え難く,L検事が被告人の供述するとおりの取調べを行ったとはいい難いところであるが,前記の検討の結果によれば,「被告人の供述を否定する証人Lの供述をもってしても,調書に署名指印すれば,執行猶予判決が得られ,保釈も認められるとの検察官の説明を信じ,執行猶予判決や保釈による身柄の解放を望む余り,調書に署名指印した旨の被告人の供述を虚偽として排斥し去ることは困難であると思われる」旨の原決定の説示は首肯しうるところである。 被告人の平成4年7月25日付け,同月27日付け及び同年8月3日付け各供述調書の任意性を否定した原決定の判断は相当であり,原判決に訴訟手続の法令違反はない。 第3 事実誤認の主張について 1 主張の要旨は,以下のとおりである。 (1) 本件は,被告人が,b及びdとの医療機器の取引に当たり,取引の中に架空取引が多数混入していることを知悉しながら,いわゆる商社金融取引を仮装して,取引を担当していた部下のB及びCに架空取引を行うことを包括的に委ねて本件各架空取引を実行させたものであり,被告人を中心とした医療機器部ぐるみの組織的 を知悉しながら,いわゆる商社金融取引を仮装して,取引を担当していた部下のB及びCに架空取引を行うことを包括的に委ねて本件各架空取引を実行させたものであり,被告人を中心とした医療機器部ぐるみの組織的犯行である。被告人は,b及びdとの取引に関与した早い段階から架空取引の存在を認識していたが,医療機器部門の予算達成のために,DやFに架空取引を利用した取引や利益の上乗せ要求を行うとともに,架空取引の隠蔽工作をし,とりわけb関連の取引については,Dから依頼を受けて架空取引への協力を約束し,また,架空取引に対する見返りないし謝礼として,D及びFから,株券の譲受け,現金の収受,遊興費等の借入れなど種々の利得を受けているのであり,上記の事実は,B,C,D,Fら関係者の供述によって明らかとなっている。しかるに,原判決は,取引の架空性の認識や共犯性を裏付けるB,D,Fら関係者の供述の信用性の判断を誤った結果,b及びdとの医療機器取引について,以下の(2)ないし(3)に指摘したとおり,事実を誤認したのみならず,原判決が認定した,被告人とBらとの共謀を推認させる多数の間接事実を総合すれば,共謀は優にこれを認定することができるのに,その評価も誤った結果,被告人の共謀の有無に関する事実を誤認してその存在を否定したものであるから,上記誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかである。 (2) b関係(あ) D,Bらの供述の信用性に関する事実誤認① 被告人は,bとの取引を再開させた昭和60年夏ころbとの取引の中に架空取引が混入していることを認識していたことは,p病院及びq病院への医療機器の未納入に関するCの供述等により明らかであるのに,これを否定している。 ② 被告人は,昭和61年10月30日ころDに「ホンネとタテマエ」という言葉を使って600万円の利益を要求しており,こ 医療機器の未納入に関するCの供述等により明らかであるのに,これを否定している。 ② 被告人は,昭和61年10月30日ころDに「ホンネとタテマエ」という言葉を使って600万円の利益を要求しており,このことは,Dの供述によって認められるのに,被告人は当時架空取引を依頼しに行ったわけではないことなどを理由として,その信用性を否定している。 ③ 被告人は,昭和62年ころBにリース会社からの残高確認書を経理部門に回さないように指示して架空取引を隠蔽しており,この事実は,B供述から明らかであるのに,その信用性を否定し,上記指示を架空取引の隠蔽工作と見ることは困難であると認定している。 ④ 被告人の関与により昭和63年中に行われた差益率向上のための3件の取引が架空取引であることは,D,B及びCの供述により明らかであるのに,客観的証拠がないこと等を理由として架空取引であることに疑問があると判断している。 ⑤ 被告人が昭和63年4月にDからh株を譲り受けたことは明らかであるが,この譲受けが架空取引に協力したことの謝礼の趣旨であることを否定している。 ⑥ 被告人は,昭和63年11月ころBにbとの取引の債権残高を減らすために通常の実取引ではあり得ない代金の早期回収をDに提案したことは,D及びBの供述によって明らかであるのに,各供述の信用性を否定している。 ⑦ B及びCに対する医療機器の納入先などに関する被告人の注意・指示が架空取引を隠蔽するためであったことは,B,Cの供述によって明らかであるのに,上司としての必要な指示であると認定している。また,被告人がCから平成2年秋以降本件発覚までに少なくとも2回bからの入金予定一覧表を渡されて架空取引の状況について説明を受けたことは,Cの供述によって認められるのに,信用性に欠ける被告人の弁解や後記のCの上申書などにより,上 降本件発覚までに少なくとも2回bからの入金予定一覧表を渡されて架空取引の状況について説明を受けたことは,Cの供述によって認められるのに,信用性に欠ける被告人の弁解や後記のCの上申書などにより,上記事実の存在を否定している。 ⑧ 被告人が,平成2年12月下旬ころBにbをつぶさないように協力することを指示し,さらに平成3年1月10日ころにもD及びBの面前で株式を早急に処分するまでbに全面援助を行うと発言したことは,B及びDの供述によって明らかであるのに,信用性に欠ける被告人の弁解やBの顛末書などにより,上記事実の存在を否定している。 ⑨ 被告人が,本件各取引に先立つ平成2年8月の時点でホテルニューオータニにおいてDの面前でBに対してDに協力してやるよう指示し,平成3年3月,aがbから担保を取得するための架空取引を発案したことは,B及びDの供述によって明らかであるのに,信用性に欠ける被告人の弁解やBの顛末書などにより,上記事実の存在を否定している。 ⑩ 原判決は,⑥ないし⑨の事実に関するB及びCらの供述は,架空取引がa社内で発覚した直後にB及びCが作成した顛末書や上申書の記載に反していて信用できないとするが,上記顛末書及び上申書は,本件各架空取引がBらによって上司の決裁を受けずに独断で行われたことを理由としてaの民事責任を免れようとする意図ないし目的のもとに作成されたものであり,原判決は,その内容を過大に評価して,Bらの供述の信用性に対する評価を誤ったものである。 (い) 間接事実の評価を誤ったことによる事実誤認原判決は,被告人が,D,Bらと共謀したことを推認させる多数の間接事実を認定しており,これらの間接事実を総合すれば,共謀の存在は優に認定することができるのに,その評価を誤った結果,事実誤認の誤りを犯している。 (3) d関係(う) たことを推認させる多数の間接事実を認定しており,これらの間接事実を総合すれば,共謀の存在は優に認定することができるのに,その評価を誤った結果,事実誤認の誤りを犯している。 (3) d関係(う) F,Bらの供述の信用性に関する事実誤認① 被告人は,dとの取引の中にdの非取扱商品を中心にした架空取引が混入していることを早くから確実に認識していたことは,Fが,「架空取引をする際は,被告人に対し,『資金繰りでお願いします』と言って取引を行っていた。」旨供述し,さらに,被告人は,dの取扱商品に関するカタログを交付されていたことなどに照らせば明らかであるのに,これを否定している。 ② 被告人が,昭和61年1月31日ころ売上目標達成のためFに依頼して行った取引は,d作成の発注依頼書が存在していることなどに照らせば架空取引であることが明らかであるのに,これを否定している。 ③ 被告人が,昭和63年ころ,架空取引隠蔽のためBと協議してdの決算報告書の修正をFに依頼した事実を否定している。 ④ Bの「昭和63年か平成元年ころ,被告人が『とにかく一般機器はなるべく早く減らしてもらった方がいい。』などと言った。被告人は架空取引を行っていたことを認識していた。」旨の供述の信用性を否定している。 (え) 間接事実の評価を誤ったことによる事実誤認原判決は,被告人が,F,Bらと共謀したことを推認させる多数の間接事実を認定しており,これらの間接事実を総合すれば,共謀の存在は優に認定することができるのに,その評価を誤った結果,事実の誤認をしている。 2 しかしながら,原審記録を調査し,当審における事実取調べの結果を併せ検討するに,原判決が,本件各公訴事実について,被告人が,D,F,Bらとの間で共謀をしたと認めるには合理的な疑いが残るとして,無罪としたことは正当として是認 調査し,当審における事実取調べの結果を併せ検討するに,原判決が,本件各公訴事実について,被告人が,D,F,Bらとの間で共謀をしたと認めるには合理的な疑いが残るとして,無罪としたことは正当として是認することができ,原判決の上記判断に所論指摘のような誤りがあるとは認められない。以下,所論に即して,その理由を説明する。 (1)b関係(一) 所論(あ)①についてCは,「昭和60年夏ころ,b→a→f→p病院という形でドルニエの売買取引が行われたが,同病院にドルニエ(ドルニエ社製腎結石破砕装置)の納品の確認に出向いたところ,納品されていなかった。そこで,その旨被告人に報告したが,被告人は特段異とすることもなく売上げの計上を指示した。また,このころ,上記と同様の売買の取引で,q病院分院に2台目のドルニエを納品するという用件で同病院を訪れたが,病院事務長から購入の話はなかったのに,売上げ計上を指示された。このため,bとaとの取引の中に架空取引が混入していることを明確に知ったが,被告人もこのことを認識していることが分かった。そして,被告人は,その後自分に納品の確認を指示することもなくなった。」旨,所論に沿うような供述をしており,関係証拠によれば,Cが納品の確認に出向いた当時,両病院にドルニエは納入されていなかったが,被告人はそのことを知りながら売上げ計上を指示したものと認められる。しかしながら,Cは,同じ供述の中で,bとの取引で,最初のころは,aへの注文の時点で,すでに病院等のエンドユーザーに納品されている場合と,近い将来医療機器が納品されることが確実な場合との2種類があり,後者の場合も架空取引ではなく普通の取引であると理解していたこと,p病院,q病院分院のいずれの取引についても,fに事情を尋ね,fから間違いなくドルニエが納入され,契約が締結されて 合との2種類があり,後者の場合も架空取引ではなく普通の取引であると理解していたこと,p病院,q病院分院のいずれの取引についても,fに事情を尋ね,fから間違いなくドルニエが納入され,契約が締結されて入金されるという点について納得できる説明を受けたため売上げを計上したが(なお,当時ドルニエは薬事承認が未了であり,昭和60年12月に薬事承認がおりている。),q病院分院には後に2台目のドルニエが納品されたことを確認したことを供述している上,Dは,原審公判廷において,p病院との取引では,病院の新築工事が遅れたため納入が遅れたが,間違いなくドルニエを販売して納品しており,q病院分院との取引ではドルニエを3台購入してもらっている旨供述していることを併せ考えれば,Cが,p病院やq病院分院とのドルニエの売買取引によって架空取引があることを明確に認識したとする点には疑問がある。また,所論は,原判決が,被告人が前記各病院にドルニエが納入されていないことを知りながら売上げ計上をした点について,当時取引に不慣れであった旨説示したことを論難するが,第1の4で認定したとおり,被告人が昭和59年3月医療機器課長に就任した当時,b,d関連の医療機器取引は,医療機器部長のKとCが行っていたが,Dがr大学に関連した贈収賄事件で逮捕されたことやKの出向で取引が中断されており,被告人は,昭和60年夏ころにbとの取引が再開されてからその取引に関与するようになったのであるから,原判決の上記説示が不当とはいえない。そうすると,p病院,q病院分院におけるドルニエの未納入をとらえて,被告人が,医療機器の取引の中に架空取引が含まれていることを認識し得た契機となったとはいえない。なお,所論は,その後被告人がCに対して行っていた納品確認の指示をしなくなったこと,昭和60年12月ころ取引の形態 療機器の取引の中に架空取引が含まれていることを認識し得た契機となったとはいえない。なお,所論は,その後被告人がCに対して行っていた納品確認の指示をしなくなったこと,昭和60年12月ころ取引の形態が環状取引となったこと,そのころから,注文書にCらが個人印を押捺して発行するようになり,医療機器の納入確認を行わないまま受領通知書を発行していたことなどをとらえて,被告人が架空取引を認識していたことの根拠とするが,p病院及びq病院分院における医療機器の未納入の事実が被告人の架空取引認識の契機となり得ないことは前記説示のとおりであるから,その後の取引における前記のような諸事情をもって被告人の架空取引に対する認識を裏付けるものとはいい難い。 所論は,また,原判決が,Cが「平成元年ころ,被告人から,伝票の決裁を受けた際,『この医療機器はこの病院に入っていない。』,『この病院には同じ機種が入っているから2台目を入れたことにしておけ。』などと指示され,被告人がDから聞いてどの取引が医療機器を伴わない架空取引であるかを把握していると認識していた。」旨供述した点についても,その信用性を否定したことを論難する。しかしながら,関係証拠によれば,Dが被告人ばかりでなく,C,Bにも取引の中に架空取引が混入していることを知られないようにしており,個々の取引について,Dが被告人に当該取引が医療機器の存在しない架空取引であることを話したことはなかったのであるから,個々の取引について医療機器の納入の有無を知らない被告人が,納入の有無について,Cに前記のような話をすることは考え難い上,Cが,被告人から,前記のような話を聞いたならば,被告人が,個々の取引について架空取引であるか実取引であるかを把握していたことを告知したことになるから,極めて印象的な事実であったと思われるのに 上,Cが,被告人から,前記のような話を聞いたならば,被告人が,個々の取引について架空取引であるか実取引であるかを把握していたことを告知したことになるから,極めて印象的な事実であったと思われるのに,この点についての記憶が曖昧であることも不自然であるといわざるを得ない。また,原判決が,前記会話が事務室の大部屋で行われたことが不自然であることを指摘する点についても,その内容に照らせば,架空取引という人前をはばかる話ということができるのであり,前記判断が不当であるとはいえない。C供述の信用性を否定した原判断は相当である。 所論は,原判決が,Cの供述について,供述の不備あるいは些細な矛盾を過大に評価したり,記憶の減退などを十分考慮しなかったことも,その信用性の評価を誤った原因である旨主張するが,Cに対する原審の証人尋問に所論のような不備があった証跡はなく,原判断に所論指摘のような点は認められない。 (二) 同②について関係証拠によれば,被告人がDと交渉し,昭和61年10月30日付け覚書を作成して,x病院とのドルニエの売買に関する販売手数料の名目で600万円を受領したことが明らかである。この600万円の性質について,原判決は,「bの入金の遅れに対する遅延利息を営業内損益に取り込むために,販売手数料の名目でbから受け取ったものである。」旨の被告人の供述を排斥し,「被告人の説明する取引は,当時完全に商談が決まっておらず,入金日もはっきり確定していないということで,暫定的に注文書だけ出していたものであり,600万円はこの決済遅延に対する販売手数料ではなく,ノルマ達成のため通常の取引とは関係なくDに依頼して得た利益である。」旨のCの供述を信用できるとしており,金員の性質に関するC供述と同旨のDの捜査段階の供述も信用できると判示している。関係証拠を検討 ノルマ達成のため通常の取引とは関係なくDに依頼して得た利益である。」旨のCの供述を信用できるとしており,金員の性質に関するC供述と同旨のDの捜査段階の供述も信用できると判示している。関係証拠を検討しても,右の認定説示に誤りはない。 所論は,原判決が,金員の性質に関するDの捜査段階の供述を信用できるとしながら,被告人が600万円の利益を要求した際,「ホンネとタテマエ」という言葉を使って,お互いに助け合っていこうと述べたとするDの捜査段階の供述を信用できないとしたことを論難する。 そこで,検討すると,Dの理解によれば,「ホンネとタテマエ」という言葉は,架空取引を暗示的に指すことになるから,被告人がこのような言葉を使うことはとりもなおさず,当時被告人が架空取引の認識を明確に持っていたことを示すことになる。しかしながら,Dは,原審公判廷で,この点について,否定するともとれるような曖昧な供述をしている上,原判決が認定するとおり,被告人は,Dのところに架空取引の依頼に行ったのではなく,通常の取引とは関係なくaに利益を提供してほしいと依頼しに行ったと認められるのである。そして,交渉に同行したCも,被告人が「ホンネとタテマエ」という言葉を出したとの供述はしていない上,Cは,「bが600万円の利益の提供に応じたのは,bの取引は,aが医療機器取引に介入することにより成立しているので,aの介入への見返りであり,架空取引に対する協力への対価としての意味ではない。」旨供述しており,上記事実を裏付けている。所論は,bとaの取引が昭和60年夏に再開してから前記覚書までの間の取引の中に占める架空取引の割合が50パーセントを超える率で推移していることや昭和61年6月から10月までなかった取引が同年11月から始まっていることを指摘するが,前記のとおり,Dは,被告人のみ 間の取引の中に占める架空取引の割合が50パーセントを超える率で推移していることや昭和61年6月から10月までなかった取引が同年11月から始まっていることを指摘するが,前記のとおり,Dは,被告人のみならず,B,Cにも架空取引の混入を隠し続けていたのであり,また,関係証拠を検討しても,600万円の利益の供与と同月に取引が復活したこととの関連はうかがえない。 原判断は相当であり,所論は採用できない。 (三) 同③について所論は,原判決が,被告人が架空取引の露見を防ぐために,昭和62年3,4月ころ,Bに対し,リース会社からの残高確認書が経理部門に行かないように指示した旨のB供述を信用できないと判断したことは,当時aがb関連取引で10億円に達する簿外取引を抱えていたことなどに照らし,企業における営業実務とはかけ離れた非現実的推論を展開するもので不当であると主張する。 そこで,関係証拠によって,aにおけるb関連取引の実態を見ると,原判決が認定するとおり,bとの医療機器取引では,aは,発注後直ちに売上を計上しておらず,売上計上までの間に相当の期間が置かれており,その間は,いわゆる簿外取引の状態にあるが,この事情は,a社内でG商事本部長や審査部門の担当者の間でも認識されていたこと,この未計上取引の理由は,受注から入金までの期間が半年程度と長期間にわたり,受注後直ちに売上計上すると,a社内での金利がかかるため営業外損益を含む計上損益で業績評価をされる事業部長の業績がマイナス評価を与えられることから,売上計上を遅らせて計上時期と入金時との間隔を短縮する必要があったことによること,この意味での簿外取引の対象となるaのbに対する債権残高は,昭和62年当時10億円台で推移していたことなどの事実が認められる。 前記の事実関係によれば,前記の簿外取引は,取引の存 たことによること,この意味での簿外取引の対象となるaのbに対する債権残高は,昭和62年当時10億円台で推移していたことなどの事実が認められる。 前記の事実関係によれば,前記の簿外取引は,取引の存在そのものを外部に隠蔽する目的で行う処理とは異なり,aの社内事情によって黙認されていたものであり,bとの簿外取引の存在及びその残高が審査部門に対して秘密にされていたという事情はうかがえない。そして,関係証拠によれば,本件発覚の端緒となったyからの残高確認が経理部門になされたのに対し,経理部門が独自に調査せずに,むしろ残高確認を営業担当部署に回してその処理を委ねており,経理部門が簿外取引があるということで問題視することはなかったものと認められるのであり,被告人が,Bに対し「リース会社からの残高確認書が経理部門に行かないように十分気をつけてほしい。」と指示する必要があったとはいい難い。原判決が,前記のB供述について,当時のaにおけるb関連取引における実態やyからの残高確認に対する経理部門の対応などの事実に照らして,その信用性に疑問が残る旨判断したことは相当であり,所論は採用できない。 (四) 同④について(イ) 関係証拠によれば,原判決が認定するとおり,aにおいては,毎年,本部,事業部以下,部,課単位で売上目標(ノルマ)となる売上高予算,利益目標(ノルマ)となる差益高予算等が定められ,その達成が各部署構成員の人事考課の重要な評価基準となっていたため,各課,部内はもとより,部門全体,商事本部全体で予算が達成できるかが管理職の重大な関心事となり,各部署でノルマが達成できないときは,売上や利益を作りやすい部署に対して,売上,利益を上乗せするように上司から指示されていたこと(この傾向は,決算期である2月と8月に特に強かった。),Dはこのようなaの社内事 マが達成できないときは,売上や利益を作りやすい部署に対して,売上,利益を上乗せするように上司から指示されていたこと(この傾向は,決算期である2月と8月に特に強かった。),Dはこのようなaの社内事情を十分承知していたことなどが認められる。 所論は,Bが,「昭和63年中に関与した(a)同年6月21日に引き合いのあったマルサシステムの取引(差益率9.09パーセント),(b)同年7月28日に引き合いのあったモナーク検査装置の取引(差益率6.12パーセント),(c)同年12月22日に引き合いのあったYAGレーザーの取引(差益率4.71パーセント)は,被告人の指示で,ノルマ達成のため,Dに依頼して行った取引であり,架空取引であったと思う。」旨の供述の信用性を否定したことを論難する。 ところで,前記第1の4で認定したところによれば,被告人は,昭和62年3月,医療機器1部(部長はG事業部長が兼務)の医療機器2課長(1課長はB),昭和63年9月,医療システム部長に就任しており,(c)の取引当時はBの上司であり,(a),(b)の各取引当時は,取引の担当はBであったが,被告人は当時医療機器1部部付きとしてBの実質的な上司の立場にあったこと,bとの医療機器取引におけるaの差益率は,通常1.0ないし1.1パーセント程度であったことが明らかであり,ノルマ達成のため,被告人がBに対し,Dに依頼して差益率の高い取引をするように指示することはあり得るものと考えられる。そして,前記のとおり,各取引が通常の取引に比べ差益率が格段に高いこと,DがBの要求に応じてそれに見合う金額の取引を行っているが,各取引はbにとってはさほどメリットのあるものではないことなど,不自然な点がないわけではない。しかしながら,Dは,捜査段階において,aには架空取引に協力してもらっているので,差益 引を行っているが,各取引はbにとってはさほどメリットのあるものではないことなど,不自然な点がないわけではない。しかしながら,Dは,捜査段階において,aには架空取引に協力してもらっているので,差益率の高い各取引を承諾せざるを得なかった旨供述しているものの,各取引が架空取引であったか否かについては明確な供述をしていない上,原審公判廷においては,「各取引の対象となった小型商品は,何十台単位で輸入しており,実際市場には何百台と売っているものもあるので,全く商品のないでっち上げという意味の架空ではないと思います。」などと証言しており,前記認定のとおり,Dは,Bらにaとの取引の中に架空取引が混入していることを隠していたため,前記のB供述や同旨のC供述も推測の域を出ないのであり,関係証拠を子細に検討しても,前記各取引が架空取引であることの客観的証拠は見あたらない。そうすると,原判決が,前記(a)ないし(c)の取引については,昭和63年中に,被告人がBに対し,Dとの間で差益率の高い取引を行うことを指示したという限度で事実を認めるとしたことは正当であり,これらの事実が,被告人の架空取引の認識をうかがわせるものではない。所論は採用できない。 (ロ) ところで,原判決は,ノルマ達成のため利益の上乗せを要求して行われた,昭和63年1月11日引き合いのモナーク検査装置の取引(差益率8.18パーセント,取引の流れは,b→s→a→b)は架空取引であったことを認定している(関係証拠によれば,上記取引は医療機器の存在しない架空取引と認められる。原判決の認定に誤りはない。)。 所論は,原判決が,s(bと取引のある関西地区のディーラー)関連の架空取引は,被告人が直接交渉して行った取引である旨のBの供述及びDの捜査段階の供述はいずれも信用性に乏しい旨判断したことを論難する 所論は,原判決が,s(bと取引のある関西地区のディーラー)関連の架空取引は,被告人が直接交渉して行った取引である旨のBの供述及びDの捜査段階の供述はいずれも信用性に乏しい旨判断したことを論難する。しかしながら,Bは,原審第25回公判において,「自分一人でbに行って交渉した。」旨供述し,記憶喚起のためとして,検察官から,「捜査段階では被告人と一緒に行った。」と供述していないかとの質問を受けても,「今の時点でははっきりしない。」と答えたのに,第26回公判では,「bへは被告人と一緒に行ったと記憶している。」旨供述を変更しているところ,原判決は,第25回公判で定かでなかった記憶が蘇った根拠等についてBが首肯しうるような説明をしていないとして,第26回公判の供述を信用できないとしたものであり,原判決の上記判断に誤りは見られない。また,Dも捜査段階では,「被告人とBが一緒に来た。」旨供述していたが,原審公判廷では,「これは本当に,どなたがいらっしゃったか記憶しておりません。」と供述しており,Dの捜査段階の供述は,変遷後のB供述と符合するが,変遷後のB供述は信用性に疑問が残るから,Dの捜査段階の供述にも疑問が残るとした原判決の判断に不合理なところはない。被告人は,上記取引に関し,「Bと一緒にDの所に行ったことはなく,取引の指示もしていない。」旨供述しているところ,前記のとおり,昭和63年1月ころ,Bがb関連の取引を直接担当する課長であったことをも考慮すると,被告人がBに同行したことに疑問が残るから,s関連の取引の存在それ自体から,被告人の架空性の認識を推認することは困難であるとした原判断は相当である。 (五) 同⑤について関係証拠によれば,被告人及びBは,昭和63年4月ころ,Dから,h株を時価より幾分安い1株2000円でそれぞれ1000株ずつ譲 することは困難であるとした原判断は相当である。 (五) 同⑤について関係証拠によれば,被告人及びBは,昭和63年4月ころ,Dから,h株を時価より幾分安い1株2000円でそれぞれ1000株ずつ譲り受けたことが明らかである。そして,Dは,譲渡の理由について,捜査段階において,h株の買い占めの資金調達に協力してくれること,すなわち架空取引に協力してもらうことへの謝礼の趣旨であった旨供述している。しかしながら,同じく株を譲り受けたBは,Dからh株を譲り受けた当時,時価より若干安いという程度で,これがリベートであるとは認識しておらず,bは会社の有余資金を充てて株を買っていると思っていた旨供述し,被告人も,Bと同様,リベートと思っていなかった旨供述しているところ,関係証拠によれば,h株の株価は,被告人の譲受け後値上がりしておらず,被告人は利得していないこと,bとaの取引は,前記第1の3(1)(四)で認定したとおり,被告人の株譲受け後も昭和63年10月ころまで特段増加しておらず,当時のbの株購入資金は,基本的には金融機関等からの借入金で賄える状態であったことが認められるから,所論指摘のとおり,当時バブル経済の影響で一般的に株価が値上がりするとの期待があったことを考慮しても,上記の株の有償譲渡に架空取引への協力によるリベート提供の目的があったとすることには疑問があり,Dの前記供述は信用し難い。h株の譲受けを架空取引に対するリベートと認めることはできないとした原判決の認定判断は相当である。 (六) 同⑩についてB作成の平成3年6月22・23日付け顛末書及びC作成の同月27日付け上申書が作成された経緯は,前記第1の3(1)(六)で認定したとおりである。上記顛末書及び上申書は,本件各取引の犯行発覚後間もなく作成され,bとの取引における被告人の関与状況 C作成の同月27日付け上申書が作成された経緯は,前記第1の3(1)(六)で認定したとおりである。上記顛末書及び上申書は,本件各取引の犯行発覚後間もなく作成され,bとの取引における被告人の関与状況を知る上で重要なものであるとともに,所論(あ)⑥ないし⑨を検討する上でも必要な書面であるから,各所論の判断に先行して,本項でその証拠価値等について検討する。 所論は,上記顛末書及び上申書について,B及びCは,aの民事責任をできるだけ免れることを意図した会社上層部の意向を受けて,上司である被告人の関与を否定する趣旨の顛末書等の作成を示唆されて作成したことが容易にうかがわれるのであり,被告人が架空取引に関与していたことを否定する記載は真相を話したものとはいえない旨主張する。 しかしながら,上記顛末書及び上申書が作成されたのは,前記のとおり,本件発覚間もなくの時期であり,関係証拠を検討しても,前記時期ころ,既にaの社内的な方針が決まり,G商事本部長やH商事審査部長が,aの民事責任をできるだけ免れることを意図して,B及びCに上記顛末書及び上申書を書かせた形跡は認められず,かえって,GやHらは膨大な簿外取引の存在に驚き,bとの取引の事実関係を明らかにするべく努力していたことがうかがわれるのである。また,当審で取り調べたIの平成10年6月9日付け検察官調書によれば,同人を責任者とする調査チームは,民事的な観点からaとして損害額をなるべく少なくするためにどのような主張ができるのかといった点を明らかにし,それとともに社員の社内規則違反を明らかにすることを目的としていたことがうかがわれるが,同人は,社内調査の際に前記顛末書や上申書を見た記憶はない旨供述し,事務局長であったJは,原審公判廷において,調査の過程でB作成の顛末書は見た記憶がある旨供述しているにすぎ いたことがうかがわれるが,同人は,社内調査の際に前記顛末書や上申書を見た記憶はない旨供述し,事務局長であったJは,原審公判廷において,調査の過程でB作成の顛末書は見た記憶がある旨供述しているにすぎず,前記顛末書や上申書が事実関係解明の資料として利用されたことは認められるものの,aの民事責任をできるだけ免れるための重要な資料としての扱いを受けていたことはうかがえない。所論は,aは,前記調査の結果,B及びCが上司である被告人の決裁を受けずに独断で取引を行ったと断定してリース会社に対する支払を拒絶する態度にでており,顛末書及び上申書はaの前記のような政治的方針に沿って作成されたというが,前記顛末書及び上申書に対する調査チームの扱いは上記のようなものである上,関係証拠を検討しても,前記顛末書や上申書が各リース会社との交渉に際してaに有利な資料として利用された証跡はないのであり,所論のような趣旨で作成されたものとはいい難い。 そして,Bは,顛末書の作成について,「大方,その当時自分が感じていたことを内容については書いていたかと思います。」と供述しており,故意に虚偽または不正確なことを記載したことはうかがえない。また,Cは,当審で取り調べた平成10年6月8日付け検察官調書において,「ある程度,抽象的,概括的に内部調査当時に直接問題となっていた取引について,スポット的に記載したというだけのことで,首になるのは困るという意識から,まだ,詳しい話についてまで記載したというものではありませんでした。」と供述し,上申書の内容が取引の経過等を体系立てて記載したものでないことを明らかにしているが,上記供述からもその記載内容が虚偽のものであることはうかがえない(なお,当時aの財務経理部審査部長であったPは,当審公判廷において,B,Cが顛末書等を書いたことについ ないことを明らかにしているが,上記供述からもその記載内容が虚偽のものであることはうかがえない(なお,当時aの財務経理部審査部長であったPは,当審公判廷において,B,Cが顛末書等を書いたことについて,「平社員というのは哀れなもんだ。トカゲのしっぽ切りだ」とa内で噂しあっていた旨証言しているが,単なる社内の風評に過ぎず,所論を裏付けるようなものとはいえない。)。 そうすると,前記顛末書及び上申書は,bとの取引が犯罪を構成するかなど刑事事件的な観点から作成されたものではないが,B及びCの作成当時の記憶,認識をそのとおり記載したものと考えられるのであり,所論のように一定の政治的意図で作成された虚偽ないし極めて不正確な書面とはいえない。 (七) 同⑥について前記第1の3(1)(四)で認定したところによれば,aのb関連取引の受注高は,昭和63年10月ころから多くなり,同年末の債権残高は100億円を超える状態となっている。所論は,これに関連して,Bが原審第26回公判において,「昭和63年11月ころ,Dから約40億円の取引を要請され,債権残高が一挙に膨れあがることを危惧して断ったが,被告人からDの要請を受けてあげたらどうかと言われてこれを受けた。 その結果100億円に達したbに対する債権残高を減らすため,被告人の発案で,bからの代金の支払時期を早めてもらうことにし,これをDに伝え実行してもらった。」旨供述していること,また,Dは捜査段階で「昭和63年11月には,取引金額が大きくなり,未決済残高も90億円に達してしまい,Bから,今後は1か月の発注額を半分くらいに減らしてもらって未決済残高を減らしていくように指示された。しかし,今後の資金需要を考え,被告人に対し,株を買い集めているのでホンネとタテマエの取引が増えているが,株が値上がりするから売れば決済 いに減らしてもらって未決済残高を減らしていくように指示された。しかし,今後の資金需要を考え,被告人に対し,株を買い集めているのでホンネとタテマエの取引が増えているが,株が値上がりするから売れば決済は心配ないなどと説明し,取引枠の拡大を依頼したところ,被告人からは,『担保を入れてもらえれば取引枠は拡大できる。未決済残高は,支払期日を早めて支払うことで減らすようにしてくれ。』と言われた。」旨B供述に沿う供述をしており,医療機器が実際に病院に納入されている実取引であれば,病院は代金を支払期日に遅れて払うことはあっても早く払うということは常識的にあり得ないから,被告人が架空取引の存在を認識していたことは明らかであるのに,原判決は,上記B及びDの各供述の評価を誤りその信用性を否定した旨主張する。 しかしながら,Cが作成した仕入売掛一覧表(原審証拠等関係カード検察官請求番号乙第84号証)によれば,昭和63年11月当時の未決済取引のなかで入金日が短縮された取引は1件のみであり,同月以降の取引で入金日が短縮された形跡はなく,組織的に入金日を当初の期日より早めに変更して支払いを受けている取引は,平成2年3月以降であることが明らかであって,B及びDの各供述の信用性には疑問がある。そして,被告人は,この点に関して,上記の時期は,事業本部長がQからGに変わり,これまでの売上拡大路線から利益重視路線へと転換した時期に当たり,この利益重視路線の努力の一環として,可能な限り支払期日を早めて債権の早期回収を図ったものである旨述べ,上記客観的事実と符合する供述をしている。また,関係証拠によれば,b関連取引は,1伝票1取引形態で,納入先の病院等が3個所,4個所とある場合でもbからaへの支払日は同じであったところ,前記仕入売掛一覧表によって平成2年3月以降の入金予定日の ,関係証拠によれば,b関連取引は,1伝票1取引形態で,納入先の病院等が3個所,4個所とある場合でもbからaへの支払日は同じであったところ,前記仕入売掛一覧表によって平成2年3月以降の入金予定日の変更状況を見ると,1伝票の中の取引の1つ,あるいは2つが変更されるという形態を取っている上,Gは「1枚の注文書の中で,3病院という場合,その中の1件1件について,これを見直し,もしくはオープンにしてもらって,1件でも早く取れるものについては,bに先に請求を出そうということで,被告人には細かな点検をお願いして,回収を早めてもらうようにお願いしてました。」と供述しており,架空取引であるから単純に入金日を早めることができたとするBの供述とは異なっている。 次に,Bは,原審第25回公判において,昭和63年10月,11月ころ,イスラエルで開発されたダイレックス社製の結石破砕装置トリプターX1の輸入について,Dからaも仲間に入らないかとの誘いを受け,いい話と考えて被告人に話し,Gの了承を得てその誘いに応じる方向で動いていたのであり,B自身もDを身近に感じ,いままで実態が必ずしもはっきりしなかったbがaに門戸を開いてくれたと感じ,それも取引金額の増加を受ける理由の1つとなったと供述しており,この供述は,Bが作成した前記顛末書中の「D社長がイスラエル,ダイレックス社製結石破砕装置トリプターX1を輸入販売するため,会社(t株式会社)を設立したのを知り,t社への出資を要請し,平成元年3月,会社の決裁により,1000万円(出資比率30パーセント)の出資を行った。 この様な過程のなかでD社長との接触も増え,D社長の把握が可能となった。」旨の記載と一致し,信用できるものである。そうすると,Bが,他方で,取引金額が膨れあがることに危惧を感じて,Dの要求を再三断った旨供述し 程のなかでD社長との接触も増え,D社長の把握が可能となった。」旨の記載と一致し,信用できるものである。そうすると,Bが,他方で,取引金額が膨れあがることに危惧を感じて,Dの要求を再三断った旨供述しているところは信用できないといわざるを得ない。所論は,Bの供述は,第25回公判と第26回公判で変遷しているところ,変遷後の所論に沿う供述が信用できると主張するが,原判決が説示するとおり,供述の変遷の根拠に合理的理由がない上,前記のところを併せ検討すれば,Bの所論に沿う供述は信用できないといわざるを得ない。 また,関係証拠によれば,bは,昭和63年11月当時h株については344万株程度しか取得しておらず(因みに,株価が6000円に達した平成2年2月ころの取得株式総数は約1392万株である),平均株価も2200円程度で,同株の購入を始めた同年春の時点とほぼ同じであったことが認められるから,上記程度の株式数をもって,株価が値上がりするから未決済分の決済も心配ない旨説明したとの前記D供述は,当時一般的に株価の値上がりを期待する風潮があったことを考慮しても,前記客観的事実と矛盾する上,Dが,Bに対しては,取引金額の増加は,ドルニエの金額が安くなったことに加え,近々健康保険の適用が許可になるので需要が増えているなどと異なる説明をしていることを併せ考えれば,D供述は信用できないといわざるを得ない。 所論に沿うB及びDの各供述は信用できず,所論の指摘する点は,被告人の架空取引に対する認識をうかがわせるものではない。原判断は相当であり,所論は採用できない。 (八) 同⑦について(イ) 所論は,被告人が,平成元年か平成2年ころ,u医大の所在地に関して,医療機器の納入先の所在地等を正確に把握しておくよう指示したことは,Cがb関連の取引については,経験豊かであっ 同⑦について(イ) 所論は,被告人が,平成元年か平成2年ころ,u医大の所在地に関して,医療機器の納入先の所在地等を正確に把握しておくよう指示したことは,Cがb関連の取引については,経験豊かであったことからすれば,実取引であれば考えられない注意である旨主張する。しかしながら,Cがb関連の取引において行っていた業務内容は,前記第1の2で認定したとおりであり,これによれば,Cは,上司の指示に従い,注文書等を作成し,bを訪れて受領書等を受け取るなどの単純なものであり,その経験年数のみをもって医療機器取引の実務経験が豊富だとはいい難い。原判決の説示するとおり,上記指示は,実取引の場合であっても必要な上司の指示ということができるのであり,被告人の指示が架空取引の隠蔽を意味するとはいえない。所論は失当である。 (ロ) また,所論は,原判決が,Cが「平成2年秋以降本件発覚までに少なくとも2回bからの入金予定一覧表を被告人に渡し,平成3年1月か2月ころ,被告人が『今後は毎月30億円以上売り掛けていかないとだめだな。大変だな』と言った覚えがある。」旨供述し,被告人がbとの債権残高を把握して架空取引の発覚を防ぐ意図があったことを明らかにしているのに,その信用性を否定した上,上記の入金予定一覧表の作成開始時期についても,Cが検察官の主尋問では平成3年に入ってからと供述する一方,検察官の再主尋問では昭和63年かあるいは平成元年ころからと供述し,同人の供述に変遷があるので,その作成時期が昭和63年ないし平成元年ころとはいえない旨説示したことも不当であると主張する。 しかしながら,被告人は,「売上未計上分も含めたbに対する債権残高の報告を受けたことはないし,Cから報告を受けたこともない。」旨供述しているところ,本件発覚後間もなくしてCが作成した前記上申書中には「 かしながら,被告人は,「売上未計上分も含めたbに対する債権残高の報告を受けたことはないし,Cから報告を受けたこともない。」旨供述しているところ,本件発覚後間もなくしてCが作成した前記上申書中には「私としては対得意先との打合せ内容,引合発注の依頼等すべて直属上司のB部長へは報告していました。(私とB部長の間のようなコミュニケーシヨン等が当然B部長とA部長の間ででも行われていると思っていましたので直接A部長への報告等はしていませんでした。A部長=部門部長・・・・担当者からみるとやはり偉い人なので直接話すのは極力避けたい面もあった。よって報告はすべてラインの直属の上司B部長への報告となっていた。)」,「平成3年1月ころより,今までに比べ急に発注が増えた。B部長へは今までに比べかなり増大していると話した。この時点では正確に集計した数字は出していなかった」との各記載があって,被告人の供述を裏付けているのであり,Cが入金予定一覧表を渡すなどして直接被告人にもbとの取引状況を報告していた旨の前記C供述は信用できないといわざるを得ない。また,上記入金予定一覧表の作成開始時期について,供述内容の変遷等から,昭和63年かあるいは平成元年ころとは認定し難いとした原判断に不当な点はない。Cの入金予定一覧表により,被告人が,平成3年1月,2月ころのbの債権残高を知り得たとは認められない。所論は採用できない。 (九) 同⑧について(イ) 関係証拠によれば,平成2年12月11日,いわゆる5パーセントルールに基づく大蔵省に対する報告結果が新聞に報道され,「bほか」がh株1750万株余(発行済株式総数の17パーセント弱)を保有していることが明らかになったことが認められる(なお,bの株取引の状況は,第1の3(1)(二)で認定したとおりである。)。所論は,当時bは深刻な経 0万株余(発行済株式総数の17パーセント弱)を保有していることが明らかになったことが認められる(なお,bの株取引の状況は,第1の3(1)(二)で認定したとおりである。)。所論は,当時bは深刻な経営状態にあり,大量の株式をどのように処分するかは,まさにbの存亡に関わる重大事であり,被告人もこのような事態を認識して架空取引に協力するようBに指示したのであり,このことは,同年12月下旬ころ開かれたtの決算役員会終了後におけるDらとの話し合いなどから明らかであるのに,原判決が所論に沿うB,Dらの供述の信用性を否定したことは不当である旨主張する。 所論のとおり,前記(七)記載のt株式会社(Dらが,イスラエルで開発されたダイレックス社製の結石破砕装置トリプターX1の輸入販売のために設立し,aが資本参加していた会社)決算役員会終了後の話し合いについて,Dは,捜査段階において,被告人に対し,株の処分を優先して考えなければ会社の存続に関わると説明し,「被告人らとは運命共同体だと思っているので,bを支えるようにお願いした。」旨供述し,Bも,「Dからbの株の処分計画の説明を受けたが,その後,被告人から,aとしてもbを倒産させるわけにいかないので倒産しないように全面的に協力すると言われた。」,「bの経理内容は正常ではないと考えていた。」と供述している。 しかしながら,Bは,一方で,5パーセントルールの関係でbのh株大量保有の報道があり,被告人の指示によって,Dに事情を聞きに行った際,Dから,その全部をbが保有しているわけではなく,bの株式保有の多くは名義貸しであり,実質的な保有はその一部だけであるとの説明を受けて納得し,被告人にもその旨説明したと供述しているところ(被告人は,Bから,同旨の報告を受けたと供述している。),Bは,前記顛末書でも,Dから同旨の説 実質的な保有はその一部だけであるとの説明を受けて納得し,被告人にもその旨説明したと供述しているところ(被告人は,Bから,同旨の報告を受けたと供述している。),Bは,前記顛末書でも,Dから同旨の説明を受け,「私自身も,bの規模から考え,D社長の説明は尤もだと思った。その直後・・・・株の大暴落が発生,株の所有がbの経営に大きな影響が出たのではないかと思い,D社長との面談で確認したが,特に懸念されるような点は見受けられなかった。」との記載をしており,その信用性が裏付けられている。そして,Dも,「平成2年中は,h株は5000円台を維持していたので,この段階で,株を処分するまで支援してほしいとは話していないと思う。」旨供述しているところ,bの経営については,第1の3(1)(二)及び(三)で認定したとおりの状況にあり,平成2年12月当時は厳しい財政状況であったことがうかがわれるものの,関係証拠を検討しても,Dが,被告人やBに対してbの財務内容を明らかにした事実はうかがえないから,これらの諸事実を総合考慮すれば,t社の決算役員会後の話し合いの席で,前記のような内容の話が出たとすることには疑問があり,原判決が説示するとおり,被告人が,bを倒産させるわけにはいかないので,倒産させないよう全面的に協力しようなどとBに言ったという点も認め難い。 (ロ) 次に,関係証拠によれば,被告人とBが,平成3年1月10日ころ,株の処分とaに対する担保提供の話し合いのため,bを訪れて,Dと会ったこと,その後h株が急落したことが認められる。所論は,被告人らのb訪問の際,被告人が「bを潰すわけにはいかないので株を早急に処分するまでbに対して全面的な援助を行う。bが未決済代金を支払えなくなったら被告人もBも首になる。」旨述べ,その後株価が暴落した後も,Bが心配になって「大丈夫 を潰すわけにはいかないので株を早急に処分するまでbに対して全面的な援助を行う。bが未決済代金を支払えなくなったら被告人もBも首になる。」旨述べ,その後株価が暴落した後も,Bが心配になって「大丈夫か。」と尋ねたところ,被告人は,bを潰すわけに行かないので全面的に協力するよう指示したことは,B供述及びDの捜査段階の供述から明らかであるのに,その信用性を否定したことは誤りであると主張する。 しかしながら,被告人らのb訪問は,h株暴落前であるから,訪問時におけるbの株保有の状況等を含めた経営内容に対する被告人の認識は,平成12年12月当時と異なるところはなかったものと認められるのであり,被告人が,b訪問時に,bの経営危機を前提として全面支援を約束したとすることには疑問がある。また,Bは,h株暴落後においても,前記顛末書に記載されたとおり,bの経営に懸念されるような影響を与えていないと認識していたのであり,被告人がBと異なる認識を持っていたことはうかがえない。そうすると,原判決が説示するとおり,平成3年1月の時点においても,被告人が,Bに対し,「bを潰すわけにはいかないので全面的に協力してやってくれ。」との指示をしたことは認め難いのである。 所論はいずれも採用できない。 (一〇) 同⑨について(イ) 所論は,本件各取引に先立つ平成2年8月,ホテルニューオータニのガーデンラウンジで,D,被告人,Bの3人が集まった際,被告人が,Dの面前で,Bに対して,Dに協力してやるよう指示したことは,架空取引の共謀を裏付ける事実であり,このことは,Dの捜査段階の供述及びBの供述により明らかであると主張する。 そこで,ガーデンラウンジで3人が集まった経緯について検討する。前記第1の3(1)(四)で認定したとおり,aとbとの医療機器取引は,平成2年3月から7月は1 びBの供述により明らかであると主張する。 そこで,ガーデンラウンジで3人が集まった経緯について検討する。前記第1の3(1)(四)で認定したとおり,aとbとの医療機器取引は,平成2年3月から7月は10億円台で推移したが,8月には41億円余に増加している。この点に関して,Dは,捜査段階において,「当初Bに取引の増額を要請したが,断られたので,被告人をガーデンラウンジに誘い,株を高値で売るために買い支えていく資金も必要だから,ホンネとタテマエということで認めてくれと説明して,41億円の取引を依頼したところ,承諾してくれた。この承諾の中には,c以外のノンバンクから商社金融取引を装って資金を騙し取ることについての承認も含まれている。その数日後,被告人,Bの3人でガーデンラウンジで話をする機会があった際,被告人がBに対し,Dとは運命共同体だから,協力していこうと言ってくれた。」旨供述し,Bは,「Dから,シュトルツという結石破砕装置を輸入販売していきたいが,メーカーとの契約で相当台数注文しなければならず,イマトロンの契約更新のためにも相当台数注文しなければならないので,30億円くらいの取引をしてほしいと依頼されたが,これを断った。その後,D,被告人とホテルニューオータニのラウンジで会った際,被告人から,Dからいろいろ話を聞いたので,Dに協力してやってくれと言われ,30億円の話を受けた。」旨供述している。 しかしながら,Dの取引依頼の理由の説明がBに対するものと被告人に対するものとで異なることは極めて不自然である上(所論は,Bが,Dからの取引要請の理由について,Dの捜査段階の供述と異なる供述をしたのは,記憶の減退によるものであると主張するが,供述内容等を検討しても,そのような事跡は認められない。),前記(九)で検討したところからうかがえるとおり,Dが て,Dの捜査段階の供述と異なる供述をしたのは,記憶の減退によるものであると主張するが,供述内容等を検討しても,そのような事跡は認められない。),前記(九)で検討したところからうかがえるとおり,Dが,平成2年8月の段階で,被告人に対し,bの株保有の状況や株取引の内容に関する話をすることは考え難い。そして,関係証拠によれば,平成2年8月の時点でhの株価は5200円台を維持しており,Dは,vと同株の一括売却交渉中であったこと,Dは,原審公判廷においては,「Bに取引を断られたが,被告人に依頼したことはなく,平成2年8月ころ,被告人と2人だけでホテルニューオータニのガーデンラウンジで会った記憶もない。」旨供述していることを併せ考えると,Dが,被告人に対し,直接41億円の取引を依頼した旨の捜査段階の供述は信用し難い。そうすると,Dの取引要請の理由は,医療機器取引における発注台数の増加等にあるものと考えられるが,原判決の指摘するとおり,このような目的のために,被告人とBがそろってホテルニューオータニまで出かけ,Dと会った上,被告人が,Bに対し,取引について協力を指示することは不自然であり(上記のような用件であれば,a社内の連絡で足りよう。),Bの前記供述も信用し難い。ところで,被告人は,平成2年8月,同ホテルのガーデンラウンジで,D,Bの3人で会ったことにつき,「結石破砕装置のトリプターX1をaが在庫で持ち,dの代表取締役Fが社長を務めるα社(実質はdのトリプター事業部)に販売していたが,同種の装置が安値で国内に出回るようになったため,トリプターX1を早期に売却できるようDを通じて値引きについてFを説得して貰うために自分の方からBを通じて約束を取り,会いに行った。売上拡大の話はなかった。」旨供述しているところ,Dも,原審公判廷で,ガーデンラウンジで 売却できるようDを通じて値引きについてFを説得して貰うために自分の方からBを通じて約束を取り,会いに行った。売上拡大の話はなかった。」旨供述しているところ,Dも,原審公判廷で,ガーデンラウンジでの3人の話し合いの際,トリプターX1の値引き依頼の話が出たことを認めている上,Fも,平成2年の夏ころから暮れまでの間に,トリプターX1の販売協力の件で被告人に何回か会ったことがある旨供述していることなどを総合すれば,この点に関する被告人の供述は信用できるものと考えられる。 原判決は,Dの捜査段階の供述は,取引依頼の理由や被告人がガーデンラウンジでは全く話題に出ていなかったc以外のリース会社との取引をも承認したとする点で信用性に疑問があるとし,また,Bの供述については,ガーデンラウンジにおける取引に対する協力指示の話に具体性がなく,また,Dの取引の依頼から被告人のBに対する協力指示に至るまでの経過が上司の被告人と部下のBとの関係から見て不自然であるとして,その信用性を否定しているが,その判断は相当である。所論は理由がない。 (ロ) 次に,所論は,平成3年3月初めころ,aがbに30億円の株式を担保提供させるにあたり,被告人から「注文書で架空取引に協力してやり,その分は株を担保で貰えばイーブンになるから同じではないかなどと指示された。」旨のBの供述は信用できると主張する。そして,Dの捜査段階の供述によれば,Dは,平成3年4月26日契約のb→n→a→bの流れでイマトロン社製超高速CT4式の架空取引を作り,Bの要請に応じてaにイマトロン株を担保として提供したことが認められる。 しかしながら,担保提供の経緯について,Bは,架空取引は被告人が発案してBに指示し,BがDにこれを伝えた旨供述するのに対し,Dは,捜査段階において,Dが発案してBに伝えBが被告人に が認められる。 しかしながら,担保提供の経緯について,Bは,架空取引は被告人が発案してBに指示し,BがDにこれを伝えた旨供述するのに対し,Dは,捜査段階において,Dが発案してBに伝えBが被告人にその旨報告したと供述し,食い違いがある上,D及びBの各供述によれば,Bは,上記のnがリース会社ではなく不動産会社であることから,当初取引を断った事実が認められるのであり,上司の被告人から事前に担保取得のため架空取引を組んで資金を作るよう指示されていた旨の前記Bの供述とも矛盾している。また,前記顛末書においては,担保取得の経緯について,「(bからの入金遅れを契機として)会社のbに対する管理が更に厳しくなり取引額に相当する担保を取得するよう指示があった。D社長に対し,会社の方針を説明し,1か月以内に担保物件の提供を申し入れた。数回の打合せにより,本社社屋をはじめ保有する不動産物件は全て評価額以上の担保設定がなされており,有価証券を30億円相当提供する事で合意した。」旨の記載があり,前記供述とは異なる事実が記載されているから,Bの供述は信用できないといわざるを得ない。 以上のとおりであって,所論はいずれも採用できない。 (一一) 所論(い)について(イ) 所論の要旨は,以下のとおりである。 本件各取引当時,被告人とBらとの間に共謀があったことは,Bらの供述から明らかであるのに,原判決は,その信用性を否定しているが,一方で,①被告人は,昭和60年夏ころ担当課長に就任してから一貫してbとの取引に関与しており,殊に,本件当時,被告人がBの直属の上司としてa内部のb関連取引の決裁を通じてその内容を把握しうる立場にあったこと,②被告人は,医療機器部門の責任者となってからは,予算(ノルマ)の達成状況を順次把握して部下にその達成を督励していたのであり,平成3年 b関連取引の決裁を通じてその内容を把握しうる立場にあったこと,②被告人は,医療機器部門の責任者となってからは,予算(ノルマ)の達成状況を順次把握して部下にその達成を督励していたのであり,平成3年度の予算の策定に当たっても,平成2年12月の時点でbに対する債権残高が139億9800万円余に達していることを把握していたこと,③被告人は,自らあるいはBに指示してDに度々取引価格の変更などを要求し,利益の上乗せを図っており,平成3年1月には4000万円もの利益の上乗せを要求していること,④被告人は,個人で自由に使える金員であることを認識しながら,平成2年12月と平成3年2月の2回にわたって,Dから合計1500万円の金員の供与を受けていること,⑤被告人は,平成2年11月から平成3年4月ころにかけてBがl商事などとの取引に応じたことを知りながら取引実体を調査せず,さらに,kリースやnとの取引を了承していたことなど,被告人とBらとの共謀を推認させる間接事実を認定している。そして,上記間接事実を前提として,aとbとの取引の推移,特に平成2年以降急増した取引額及び架空取引の状況,被告人の医療機器取引への関与の経緯,被告人の地位,社内における予算達成の必要などの事情を考慮すれば,被告人は,本件当時b関連の取引の大半が架空取引であることを認識した上で,Bらにこれらの取引を委ねていたことを優に認定できるのに,原判決は,その評価を誤った結果,本件共謀の有無についても事実を誤認するという二重の誤りを犯している。 (ロ) そこで検討すると,原判決が説示するとおり,所論の指摘する各間接事実に照らせば,被告人は,本件各取引を含め,継続的に行われたb関連取引の中に架空取引があるとの認識を有していたことが推認されるところである。 しかしながら,Dは,B及びCにも,架空取引 する各間接事実に照らせば,被告人は,本件各取引を含め,継続的に行われたb関連取引の中に架空取引があるとの認識を有していたことが推認されるところである。 しかしながら,Dは,B及びCにも,架空取引の存在を告知したことはなく,B,Cらは架空取引を知る根拠として,同じような医療機器,病院が何度も出てくることから,平成2年10月以降の取引についてその全部が架空取引であったと思う旨供述しているのであり,被告人がBの上司としてbとの取引に関与してきたことから,架空取引の内容を把握しうる立場にあったといえないことは明らかである。そして,本件各取引における決裁状況について検討すると(a内部における商社金融取引に関連する医療機器売買の正規の発注手続き及び本件各取引において実際に取られていた手続きの実情は,前記第1の2(2)(3)で認定したとおりである。),本件各取引に関する引合受注連絡票は,担当者のC,機器営業部長のBの印鑑が押されただけで,上司となる商事本部医療機器部長の被告人の決裁を受けていなかったため,被告人は,事前に本件各取引の詳細,すなわち取引先,取引対象商品,取引額等を引合受注連絡票によって具体的に認識することはできなかったものであり,関係証拠によれば,被告人は,本件各取引のうち個別に取引を許可したものはなく,また,Bらから,個々の取引について,その都度,詳しい報告を受けていた事実もなかったことが明らかである。所論は,事後に決裁するとしても,本件の架空取引は継続して行われているのであるから,決裁の過程で架空取引の存在を認識できた旨主張するが,取引の決裁の実情,引合受注連絡票等を含めた決裁書類の内容,被告人の繁忙状況に照らせば,原判決が「被告人が決裁をする引合受注連絡票には,資料としてbからの注文請書が添付されているとはいえ,引合受注連絡票 決裁の実情,引合受注連絡票等を含めた決裁書類の内容,被告人の繁忙状況に照らせば,原判決が「被告人が決裁をする引合受注連絡票には,資料としてbからの注文請書が添付されているとはいえ,引合受注連絡票本体には,細かな文字で商品名が記載され,要望事項欄に病院名が羅列されているにすぎず,当時,被告人は,部門部長としてb関連の取引だけでなく直販関連も含め多数の決裁をしていたのであるから,引合受注連絡票の記載だけから,b関連取引の大半が架空取引であると認識できたと推認することは困難である」旨認定説示しているところは相当として是認できる。また,平成2年12月時点のbへの債権残高は139億9800万円余と急増しているが,被告人の供述によれば,被告人の感覚でつかんでいる債権残高より数十億円程度高額であるとの認識であったと推認されること,当時bがh株等多数の株式を保有していたことが明らかになったが,前記(九)で検討したとおり,被告人は,Bから説明を受けて,bの株式保有の多くは名義貸しであり,実質的な保有はその一部だけであると認識しており,bの財政状況等を正確に知ることはできなかったことなどからすれば,債権残高が高額となったことから,取引の大半が架空取引であると認識したと認めることもできない。 そうすると,原判決が適切に説示するとおり,被告人には,b関連の継続的な取引の中に架空取引が含まれているとの認識はあったものの,その大半が架空取引であるとの認識を有していたとまでは認められないのである。 (ハ) 所論は,また,被告人との共謀を基礎づけるBらの供述は信用できるものであり,原判決が認定した各間接事実は,被告人とBらとの共謀をうかがわせるものであるから,被告人が架空取引であることを知悉してBらに本件各取引を任せた旨の共謀の事実が認められる旨主張する。 被 のであり,原判決が認定した各間接事実は,被告人とBらとの共謀をうかがわせるものであるから,被告人が架空取引であることを知悉してBらに本件各取引を任せた旨の共謀の事実が認められる旨主張する。 被告人との共謀を基礎づけるとされるBらの供述のうち,本件各取引に先立つ平成2年8月,ホテルニューオータニにおいて,被告人がDの面前でBに対し,Dに協力してやるよう指示したこと,同年12月下旬ころ開催されたt社の決算役員会後の話し合いの席で,被告人がBに,bを潰さないように協力してやるように言ったこと,平成3年1月10日ころ,被告人とBがbを訪問して,被告人が株を早急に処分するまでbに対し全面的な援助を行うなどと述べたこと,同年3月初めころ,被告人らが担保取得のため架空取引を作出したことなどについては,これらに関するB,Dの供述の信用性に疑いがあり,被告人とBらとの共謀を認めるに足りないものであることは,先に検討したとおりであるが,所論にかんがみ,被告人との共謀に関するB及びCのその余の供述の信用性についても,さらに検討を加えておく。 B及びCが本件発覚後間もなく作成した顛末書,上申書の作成経緯等については,前記第3の2(1)(六)で検討したとおりである。その記載内容については,判断に必要な範囲で適宜言及したが,B作成の顛末書においては,被告人の本件各取引への関与の事実は一切触れられていないばかりか,取引を上司に対して報告せず独断で行った旨の記載があり,その内容は,Bの公判供述とは大きく異なっている。また,C作成の上申書においても,得意先との打合せ内容,引合,発注の依頼等すべて直属上司のB部長に報告していたが,直接被告人には報告していなかった旨の記載があり,Cの公判供述とも異なっている。前記第1の3(1)(六)で認定したとおり,aにおいては本件発 合,発注の依頼等すべて直属上司のB部長に報告していたが,直接被告人には報告していなかった旨の記載があり,Cの公判供述とも異なっている。前記第1の3(1)(六)で認定したとおり,aにおいては本件発覚直後から,b関連の取引経過・内容等について調査が始められ,関係証拠によれば,Bは,関係者の前で泣いて謝るようなこともあったが,調査の過程でも被告人の取引への関与をうかがわせるような言動は一切しておらず,Bが被告人の関与について供述を始めたのは,本件詐欺罪で逮捕された平成4年6月3日よりさらに後の検察官による取調の時であったことが明らかである。しかるに,Bは,顛末書の記載内容と公判供述が大きく異なる理由について,なんら合理的な説明をしていないのであり,Cについても,上申書の記載内容と公判供述とが異なる理由について首肯しうるような説明をしていないことを考慮すると,原判決が指摘するとおり,共謀に関するBらの供述は,いずれもその信用性に疑いがあるといわざるを得ない。 原判決が認定した所論指摘の間接事実等から,原判決が説示するとおり,被告人とBらとの共謀を疑わせる点がないではないが,これまで検討してきたとおり,Bらの被告人との共謀に関する供述の信用性に疑問が残るのであるから,「関係証拠を総合しても,被告人とBらとの間に本件各取引を任せたという積極的な関与までは認められず,被告人の行為は,未だ,Bらの行為を放置したにとどまるといわざるを得ない」とした原判断は正当として是認できるところである。所論は理由がない。 (2) d関係(一) 所論(う)①について(イ) Fは,「昭和59年3月ころからaとの取引の中に全自動血球アナライザーなどdの取扱商品ではない商品を対象とした架空取引を混入させて資金を調達するようになり,その都度Kに,『資金繰りでお願いします』な Fは,「昭和59年3月ころからaとの取引の中に全自動血球アナライザーなどdの取扱商品ではない商品を対象とした架空取引を混入させて資金を調達するようになり,その都度Kに,『資金繰りでお願いします』などと言って,架空取引を依頼した。 昭和59年9月ころ,被告人が課長としてdの担当者となった際,Kから,『Aには全部話してあるから従前どおりやってもらえば大丈夫だ。』と言われたので,実取引については被告人の了解を得なかったが,架空取引のときは,『今月はこの取引を資金繰りの分でお願いします』などと断って架空取引を依頼した。」,「昭和61年9月,Bが被告人の後任となった後も,Bに架空取引を,『資金繰りでお願いします』と言って依頼していた。」旨所論に沿う供述をしている。 ところで,関係証拠によれば,原判決が,その判決書の306頁5行目から308頁5行目までの<ア>ないし<エ>で認定しているとおり,昭和61年1月9日の引き合いによるルミフォトメーター30台等の取引から,同年6月11日発注のバイオイメージシステム1式等の取引に至る前後4回にわたる取引が,dの取扱商品の台数の水増しによる一部が架空の取引であったり,dの非取扱商品を対象とした全部が架空の取引であったと認められる。所論は,被告人は,Fの「資金繰り」という言葉から上記の各取引が架空取引であることを認識し得た旨主張し,原判決の「仮に,Fが被告人に対し『資金繰り』という言葉で取引を依頼したとしても,その言葉だけで,ただちに架空取引を連想できたはずであるというのは,いささか飛躍があるように思われる」との説示を,理屈のみの空論であると論難する。しかしながら,商社金融取引そのものが一面では資金繰りという金融取引の側面をもつことは原判決の説示するとおりである上,被告人が前任者のKからそのような引継ぎを受けてい 理屈のみの空論であると論難する。しかしながら,商社金融取引そのものが一面では資金繰りという金融取引の側面をもつことは原判決の説示するとおりである上,被告人が前任者のKからそのような引継ぎを受けていたならば,被告人の後任であるBに同様の引継ぎがされることが通常であると考えられ,あるいは担当のCが「資金繰り」という言葉によって架空取引を依頼されていることを認識できたと考えられるのに,両名ともdとの取引の中に架空取引が含まれていることを認識する契機となった事実に関し,Fの供述するような「資金繰り」といった言葉によるという趣旨の供述をしていないばかりか,B及びCがdとの取引のなかに架空取引が混入していることを認識した時期及び根拠についてもそれぞれ異なる供述している。そして,Fは「資金繰りというだけで,特段架空取引をお願いすると被告人に話してはいない。」と供述しているところ,その供述内容をみると,原判決が指摘するとおり,F自身に上記各架空取引を行う際に「資金繰りで」と依頼したという具体的な記憶もない上,対象となる商品名を口に出して依頼したか否かについても供述が曖昧となっているのであるから,「この点は,被告人の本件各取引における架空性の認識に影響を与えないというべきである」旨説示した原判決の説示は相当である。 (ロ) つぎに,所論は,被告人はdから取扱商品についてのカタログの交付を受けており,取扱商品と非取扱商品は区別できたのであるから,非取扱商品を対象とした架空取引がされていたことは認識できた旨主張する。関係証拠によれば,被告人がdのカタログの交付を受け,これを見ていることは明らかである。しかしながら,同じようにカタログや取扱商品一覧表に接していたCが,dとの取引に架空取引が混入していると気付いたのは昭和62,3年だというのであり(所論は,Cが「 ,これを見ていることは明らかである。しかしながら,同じようにカタログや取扱商品一覧表に接していたCが,dとの取引に架空取引が混入していると気付いたのは昭和62,3年だというのであり(所論は,Cが「昭和60年末ころ,dとの取引の決裁の時に,被告人が,物がないのは分かっているのだから,見に行く必要はないと言っていたから,架空取引を知っていたと思う。」旨供述しているのであるから,Cの架空取引の認識は昭和60年末ころであり,この点でも事実の誤認がある旨主張するが,Fの供述から明らかなとおり,Fが被告人に対し,個々の取引について医療機器のない架空取引であることを告げたことはなかったのであるから,Cの供述が不自然で信用できないことは明白である。),Bが架空取引の混入に気付いたのは昭和62年後半ころというのであるから,カタログを見ることが直ちに架空取引の認識に結びつくとはいえない。これに加えて,Fは,「a以外の取引先からもdの取扱商品でないとクレームをつけられたことはない。」旨供述するとともに,同人自身がCに対し「病院等の要望で非取扱商品であるが仕入れている。」といった説明をし(所論は,Fはこのような説明をしたと供述していない旨主張するが,Fは「明確な記憶はないが,Cらがそういうなら,そのような説明をしたのだと思う。」旨供述しているのである。),これを受けて,Cが被告人に同様の説明をしたことがうかがえるのであるから,カタログに載っていないことからdの非取扱商品であることを認識し得たとしても,そのことがそのまま架空取引の認識に結びつくとはいえないことは明らかである。Fのこの点に関する供述の信用性を否定した原判決の判断は相当である。 (二) 同②について所論は,Fが原審において「被告人から,売上が必要なので取引を作ってくれという趣旨の依頼を受け,分離 ある。Fのこの点に関する供述の信用性を否定した原判決の判断は相当である。 (二) 同②について所論は,Fが原審において「被告人から,売上が必要なので取引を作ってくれという趣旨の依頼を受け,分離用超遠心機及び高速液体クロマトグラフを対象として,d→a→w→dという流れの取引を作り,昭和61年1月31日ころ,dからwに注文書を発行したが,取引の対象である医療機器はdの取扱商品ではなく,架空取引である。」旨供述し,これを裏付ける証拠として,発注日が同日付けで仕入先がw株式会社と記載されたdの発注依頼書が存在するのに,このFの供述を信用できないとして排斥した原判決は証拠判断を誤ったものである旨主張する。 aにおいては,各課,部内はもとより,部門全体,商事本部全体で予算(ノルマ)が達成できるかが管理職の重大な関心事となっていたことなどについては,前記2(2)(四)(イ)のとおりである。しかしながら,所論の指摘する発注依頼書中には,商品名の欄に意味不明の数字や「r/s→西→ダ→r/s」あるいは「ダよりサンモリエンデニアリング」などのFが記入したと思われる記載が存するという点で不自然なものであるとともに,これに対応するwからdに宛てて発行されるべき注文請書,納品書等やaからd宛てに発行されるべき注文書,物品受領書等の存在がうかがえず,Cの前記仕入売掛一覧表にもこれに相当する取引が見当たらないことは原判決が適切に認定,説示するとおりであり,これらの事実に加えて,Fの上記取引に関する供述は抽象的で,具体的な内容を記憶していないことをも併せ考えると,「この注文依頼書の存在だけから,Fが供述する取引や,その依頼があったと認めることは困難である」旨説示した原判決の判断に誤りはない。 (三) 同③について所論は,Bの「昭和63年ころ,審査部からの要請によ 依頼書の存在だけから,Fが供述する取引や,その依頼があったと認めることは困難である」旨説示した原判決の判断に誤りはない。 (三) 同③について所論は,Bの「昭和63年ころ,審査部からの要請によりdの61年度及び62年度の決算報告書を取り寄せ,dの仕入高がaのdに対する売上高と比べて異常に少ないことに気付き,これでは審査部などから不審を抱かれ,架空取引が露見するのではないかと危惧し,被告人と協議した上でFに対し,dの仕入高をaの売上高に見合うように決算報告書の修正をしてもらったことがある」旨の供述が信用できるのに,証拠の総合的,多角的評価を欠いたまま,独自の推論を展開してその信用性を否定していると論難する。しかしながら,B自身が,「架空取引の存在を確信するに至ったのは,昭和63年か平成元年ころ,決算報告書とは関係なくプリモスという前立腺治療器に関する説明をFから受けたときである。」旨供述しており,Bの上記各供述は,整合性がない上,Fは,決算報告書の修正の依頼を受けたなどとは供述していないこと,Bに架空取引は仮受金として処理していると説明したことがあると供述していることなどに照らし,Bの上記供述は信用性に疑問があることは明らかであり,これと同旨の判断を示した上,「仮に,決算報告書に疑問を持ったとしても,Fから仮受金で処理している旨の説明を受け,それ以上に,決算報告書の修正等は行わなかったとも考えられる」として,決算報告書の修正の事実を認定しなかった原判決の認定,説示は相当であって,所論のいうような独自の推論を展開するとの論難は失当である。所論は採用できない。 (四) 同④について所論の主張は,以下のとおりである。すなわち,Bの「『一般機器』という言葉は,被告人が担当課長をしていた時代から使われていた。昭和63年ころか平成元年ころ, 採用できない。 (四) 同④について所論の主張は,以下のとおりである。すなわち,Bの「『一般機器』という言葉は,被告人が担当課長をしていた時代から使われていた。昭和63年ころか平成元年ころ,『一般機器』の取引量が多いのでFに『一般機器』は減らせないのですかと尋ねたところ,Fが『虚を少なくして実を増やしていきます。』と答えたので,被告人に対して,虚とか実とかは言わなかったが,Fが『一般機器は最終的にはなくしていける。』と言っていた旨報告すると,被告人は自分に対し,『ともかく一般機器はなるべく早く減らしてもらった方がいい。』と言った。実取引であれば減らす必要はないから,架空取引を前提としたやりとりだった。」旨の供述が信用できることは,B,C及びFの各供述では,「一般機器」という言葉が最終的に架空取引の対象である商品を示しているという点で一致しているのであるから,明らかというべきところ,原判決は,Cがした「dとの取引に架空取引が混入していることを認識したのは昭和62,63年ころである」旨の供述など各当事者の供述の些細な相違を指摘し,あるいは記憶の減退等による供述のあいまいさを過大に評価するなどして,Bの上記供述が信用できないと説示し,上記会話が被告人とBとの間でかわされたことを否定しているが,B及びCにおいて,一般機器と言う言葉が架空取引の対象となっている商品を意味すると理解していたのに,被告人のみが別の意味に理解していたなどというのは不自然というべきであって,被告人のこの点に関する供述は信用できず,被告人は,dとの取引の中で,dの非取扱商品を利用しての架空取引がされているとの認識がKから担当を引き継いだころからあったというべきであり,Bらとの共謀も認められる。 そこで検討すると,「一般機器」という言葉に関するB,C,F及び被告人の各供 利用しての架空取引がされているとの認識がKから担当を引き継いだころからあったというべきであり,Bらとの共謀も認められる。 そこで検討すると,「一般機器」という言葉に関するB,C,F及び被告人の各供述の要旨は,原判決がその判決書の330頁12行目から335頁9行目にかけて摘示するとおりである。B,C及びFの供述は,最終的には「一般機器」という言葉の意味するところが架空取引の対象品であるという点では一致しているとはいうものの,「一般機器」が具体的にいかなる商品をいうかについて,Cは「ヘモネとディスポ以外をいう」と供述し,Bは「dの取扱商品以外をいう」と供述し(なお,Bは,dとの医療機器の取引について,個々の商品名を言われて,それが取扱商品であるか否かの確認を問われた際に,必ずしも明確に識別した応答をしておらず,取扱商品と非取扱商品の識別は不十分である。),Fは「dのその当時の主力商品以外の商品をいう」と供述しているのであって,そのとらえ方は様々であり,また,その言葉が使われるようになった経緯に関する供述内容にも相違が認められる上,さらに,その言葉により架空取引を示すとして使用し始めた時期についても,BやCは昭和62年ころと述べ,Fは平成2年ころと述べている。これらの各供述内容を検討し,原判決は「Fの供述を前提とするならば,昭和63年か平成元年ころにBとFの間で架空取引を減らす意味で一般機器は減らせないかといった会話が行われたとはいえない」と説示するところ,この説示に誤りはない。また,Bがした「Fと一般機器の減少についてした話した結果を被告人に報告するについて,Fが使ったという「虚と実」という表現を用いずに一般機器という言葉を用いて,Fは一般機器を減らせると言っていたと被告人に対して報告した」との供述部分は,架空取引を減らすことに関する上司 するについて,Fが使ったという「虚と実」という表現を用いずに一般機器という言葉を用いて,Fは一般機器を減らせると言っていたと被告人に対して報告した」との供述部分は,架空取引を減らすことに関する上司への報告として,より直截に架空取引を意味する「虚と実」という言葉を使用しなかった点で不自然といわざるを得ず,これと同旨の原判決の説示は首肯できるところである。さらに,原判決の指摘するとおり,一般機器の意味する商品の範囲についての供述内容がCと被告人とでは一致していると認められるのであり,Fはdの非取扱商品である多項目血球計算器についてディーラーに依頼して正規の預り証を発行して貰い,これをaに届けるなどして架空取引が発覚することを防止する行動をしていたことなどに照らせば,B,C及びFにおいて最終的には架空取引を意味する言葉として「一般機器」という言葉を使用していたとしても,被告人において,その意味を架空取引と同義と理解できたとは言い切れない。その旨説示した原判決の判断は是認できる。そして,これらの検討を経て,「Bの上記供述部分は信用性が乏しく,また,B,C,Fらが一般機器という言葉を架空取引を指す言葉として使用していたとしても,そのことから,ただちに,被告人も同様の認識を有していたと推認することは困難である」旨の原判決の説示は相当である。 以上のとおりであって,原判決の認定,説示に所論のいう事実の誤認あるいは供述の評価の誤りは認められず,所論はいずれも採用できない。 (五) 所論(え)について(イ) 所論の要旨は,以下のとおりである。 原判決は,F,Bらのした被告人のdとの取引に関する架空性の認識や共謀を推認させる各供述の信用性を否定する一方で,d関係の取引についても,①被告人が担当課長として注文書に印鑑を押した取引には,短期間で同一の機種が同 らのした被告人のdとの取引に関する架空性の認識や共謀を推認させる各供述の信用性を否定する一方で,d関係の取引についても,①被告人が担当課長として注文書に印鑑を押した取引には,短期間で同一の機種が同一病院に納入されている契約や,BやCが1回では販売できないと考える数量の契約が含まれていること,②被告人がdとは直接関係のない取引についてdから現金1000万円を借りたり,1080万円という現金を動かしてもらったりしていること,③aではdに対して多数回にわたり売上計上時点で利益の上乗せ要求をしているところ,被告人は売価の訂正された引合受注連絡票の決裁や月々の予算達成状況の把握を通じて,この利益の上乗せを認識し得たこと,④被告人は飲食代の支払いに窮したBからの相談で,その支払資金の捻出をdのFに依頼したらどうかと助言し,Bが借りた金で自らも飲食代金の支払いを受けるなどの利益を受けていたこと,⑤被告人はdから提出された病院名義の受領証の担当者印が三文判では困るとBらに注意したことなど,架空取引の認識があったこと及び被告人とBらの共謀を推認させる多数の間接事実を認定している。これらの事実に照らせば,被告人とFが持ちつ持たれつの特殊な関係にあり,被告人がdの非取扱商品を中心とする架空取引が行われていることを知悉した上,本件各取引当時B及びCにこれを委ねていたと十分認定でき,Bらとの共謀を優に認定できる。しかるに,原判決は,その評価を誤った結果,本件共謀についても事実の誤認をしたのは,b関係の架空取引における共謀の成否の判断と同様である。 (ロ) そこで検討すると,関係証拠によって認められるaとdとの医療機器の継続的取引の中での被告人の地位や各取引の決裁への関与の程度などは,以下のとおりである。 すなわち,被告人が,dとの取引に関わりを持つに至った経 ると,関係証拠によって認められるaとdとの医療機器の継続的取引の中での被告人の地位や各取引の決裁への関与の程度などは,以下のとおりである。 すなわち,被告人が,dとの取引に関わりを持つに至った経緯やその後のa内部における地位等については,前記第1の4のとおりであるが,本件当時のdとの取引への関与について若干付加すると,以下のとおりである。すなわち,本件起訴にかかる6件の各架空取引の引き合い受注連絡票は,いずれもC,Bの印鑑が押されているだけで,事前に被告人の決裁は受けていない上,lが関連する1件については,aの直接の取引相手はmとなるところ,同リースはaにとって新規の取引先であるにもかかわらず,口座開設承認願の決裁手続は行われていない。また,Bは,本件各取引の当時は,被告人に対し,d関連の取引について,dとの取引内容,受注高など細かな報告はしていないし,新規取引先であるmが取引相手になったことも報告していないと述べているところ,この供述に疑いを入れる点はない。 (ハ) ところで,①の点については,なるほど,所論の指摘するとおりの架空取引が被告人が課長としてdとの取引に関与していた時代に行われていた事実は認められるが,この事実に関連してされたFの「資金繰りでお願いしますと被告人にも告げた。」旨の供述が信用し難いものである上,この架空取引の存在が必ずしも本件各取引が架空取引であると被告人が認識できたことに結びつかないことは前記のとおりである。さらに,カタログの交付が架空取引の認識に結びつかないことも前記(一)(ロ)のとおりであって,被告人が課長を務めていた当時に架空取引が混入していたからといって,本件各取引が架空取引であると被告人が認識ができたこととはならない。②及び④の現金の動きの点については,いずれも,被告人が関与して1000万,10 務めていた当時に架空取引が混入していたからといって,本件各取引が架空取引であると被告人が認識ができたこととはならない。②及び④の現金の動きの点については,いずれも,被告人が関与して1000万,1080万,おおむね600万円の各金員が,Fから被告人あるいはBに渡った事実は認められるものの,1000万円については,z病院への医療機器納入に関して病院職員からリベートを要求されたが,a内部ではこれを捻出できなかったことから,dとの継続的な取引の中で返済する予定でFから借り,預り証を交付した,というのであって,継続的な取引をしているなかで,架空取引の容認を前提としなければ考えられない金銭の融通というものとは言い難く,したがって,架空取引を容認してくれていることに対する見返りと断定することはできない。1080万円の動きに関しても,各関係当事者の供述が必ずしも一致しておらず,原判決の説示するとおり,「工作資金として被告人が借りた可能性が相当に高いと思われるが,dの取引と無関係であるのに,aの取引の不明朗な形での清算に協力させ,dに,1080万円という多額の金を,何の利益を与えることもなく支払わせたという限度で,現金の動きの意味を認めることができる」との説示が誤りとはいえない上,これが架空取引の認容への見返りと断定することはできない。いずれの金銭の動きも一面では架空取引の認識,認容を前提としたと考えることができないものではないが,継続的な取引を続けている当事者間においては不正行為を前提にしなくても起こりうる事象であり,架空取引の認識,認容と必然的に結びつくと断定することもできない。さらに,BがFから飲食代金等として現金を受け取っていた点についても,Bが自己の預金口座に入金して管理していたものであり,dへの返済も,Bが独自に医療機器の取引の中で行ってい 断定することもできない。さらに,BがFから飲食代金等として現金を受け取っていた点についても,Bが自己の預金口座に入金して管理していたものであり,dへの返済も,Bが独自に医療機器の取引の中で行っていたのであって,「被告人が得た利益は比較的少額にとどまる」との原判決の認定に誤りはない。もっとも③及び⑤の点については,被告人に,架空取引の認識があったことをうかがわせ,あるいは,架空取引発覚防止のための指示との疑いを生じさせる間接的な事実と評価できないわけではない。 (ニ) ところで,所論は,「被告人が,dとの取引中には,dの非取扱商品を中心とする架空取引が行われていることを被告人が知悉した上,本件各取引をB及びCにこれを委ねていた」と主張し,原判決は,前記第3の2(2)①ないし④の事実の存否やFらの供述内容の信用性を判断するにあたって,関係する者の供述内容の些細な食い違いや記憶の減退等による供述のあいまいさを過大に評価し,証拠の総合的,多角的評価を行う視点を欠いて判断した結果その信用性等を否定するなどし,被告人のdとの取引中の架空取引の混入の認識及びBらとの共謀の事実に関して事実の誤認をした上,被告人とFが持ちつ持たれつの特殊な関係にあったことをうかがわせる事実及びBらに架空取引を隠蔽するためにしたと推認させるに足る指示等の間接事実を認定しながらその評価を誤って判断している,それらの間接事実をも加えて総合評価すれば,被告人とF,Bらとの共謀は優に認定できるのであるから,原判決には,事実の誤認がある,というのである。 しかしながら,被告人のdとの取引における架空取引混入についての認識を判断する上で最も重要なFの供述が信用できず,Bらとの共謀を推認させるという同人の「被告人から一般機器は減らしていったほうがいい旨指示された」旨の供述も信用できな における架空取引混入についての認識を判断する上で最も重要なFの供述が信用できず,Bらとの共謀を推認させるという同人の「被告人から一般機器は減らしていったほうがいい旨指示された」旨の供述も信用できないことは前記のとおりである。dとの取引の中に架空取引が混入していることの認識が被告人にあったとの疑いは,上記(ハ)の各事実に照らせば否定することはできないとはいえ,dの架空取引の中心をなしているのは,非取扱商品のみによる純然たる架空取引ではなく,取扱商品による実取引の中に非取扱商品を混入させて組み合わせる,あるいは取扱商品を納入する相手方や数量を水増しするといった形態によるものが多数を占めていることは証拠上明らかであって,必ずしも非取扱商品を中心としてされていたとも認められない。これに加えて,dとの取引は,前記第1の3(2)(四)で認定したとおり,安定した取引が継続していたもので,特段不審を差し挟むべき特別の変化が決裁書類の点検から読みとれるとはいえない状態で推移しているのであって,上記(ロ)で認定したとおりの本件各取引当時の被告人のdとの取引への関与の状況等を併せ考えると,これまで検討したとおり,Bらとの共謀を基礎づける供述の信用性に疑問が残るのであり,原判決が,認定した間接事実の評価を誤って事実を誤認した廉はない。dとの本件各取引に関しても「被告人が,本件取引のほとんどすべてが架空取引であるとの認識を有していたと窺わせる事情も認められない。また,未だ,Bらに本件各取引を委ねたとするに足りる積極的な関与の事実は認められない」旨判示した原判断は正当として是認できる。所論は理由がない。 (3) その他所論がb関係及びd関係について被告人とBらとの共謀に関してるる主張するところを逐一検討したが,いずれも採用の限りでない。 3 以上のとおり,本件各公 して是認できる。所論は理由がない。 (3) その他所論がb関係及びd関係について被告人とBらとの共謀に関してるる主張するところを逐一検討したが,いずれも採用の限りでない。 3 以上のとおり,本件各公訴事実については犯罪の証明がないとした原判決の認定に誤りがあるとはいえず,論旨は理由がない。 第4 結論よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。 平成14年1月11日東京高等裁判所第10刑事部裁判長裁判官吉本徹也裁判官岩瀬徹裁判官沼里豊滋

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