- 1 -主文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1請求被告が原告に対してした平成13年5月24日付け成空検第263号食品衛生法違反通知を取り消す。 第2事案の概要本件は,原告が「フローズン・スモークド・ツナ・フィレ」(冷凍スモークマグロ切り身)100キログラム(以下「本件食品」という。)を輸入しようとして食品衛生法(平成15年法律第55号による改正前のもの。以下「法」という。)16条に基づいて輸入の届出をしたところ,被告が,本件食品は一酸化炭素を添加物として使用しているものであるから法6条に違反するとの通知(以下「本件違反通知」という。)をしたため,原告がその取消しを求めた事案である。 差戻前の第一審判決(千葉地方裁判所平成13年(行ウ)第35号)は,本件違反通知は,取消訴訟の対象である行政処分に当たらないものとして本件訴えを却下し,控訴審判決(東京高等裁判所平成14年(行コ)第230号)は原告による控訴を棄却したが,上告審判決(最高裁判所平成15年(行ヒ)第206号)は,本件違反通知が取消訴訟の対象である行政処分に当たるとして控訴審判決を破棄し,差戻前の第一審判決を取り消した上で,本案について審理させるため,本件を当庁に差し戻した。 関係法令等(1)法2条2項は,添加物の定義につき,「添加物とは,食品の製造の過程において又は食品の加工若しくは保存の目的で,食品に添加,混和,浸潤その他の方法によって使用する物をいう。」と定める。 - 2 -(2)法6条は,「人の健康を損なうおそれのない場合として厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて定める場合を除いては,添加物(天然香料及び一般に食品として飲食に供されている物であって添加物として使用されるものを除く。)並びにこ のない場合として厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて定める場合を除いては,添加物(天然香料及び一般に食品として飲食に供されている物であって添加物として使用されるものを除く。)並びにこれを含む製剤及び食品は,これを販売し,又は販売の用に供するために,製造し,輸入し,加工し,使用し,貯蔵し,若しくは陳列してはならない。」と定めることにより,厚生労働大臣が定めた場合を除いて添加物の使用等を一般的に禁止している。 なお,薬事・食品衛生審議会は,厚生労働省設置法(平成11年7月16日号外法律第97号)により設置され,同法の施行(平成13年1月6日)以後,従前食品衛生調査会が処理してきた食品衛生法に関する事項を処理している。 (3)法6条の「人の健康を損なうおそれのない場合」として厚生労働大臣が定めた添加物(以下「指定添加物」といい,指定添加物以外の添加物を「指定外添加物」という。)は,食品衛生法施行規則別表第2及び既存添加物名簿に列挙されているが,一酸化炭素はそのいずれにも定めがない。 (4)法16条は,販売の用に供し,又は営業上使用する食品等を輸入しようとする者は,厚生労働省令の定めるところにより,そのつど厚生労働大臣に届け出なければならないと定め,厚生労働省は,当該輸入の届出に係る食品等が法に適合しているかどうか審査を行っている。 (5)厚生労働省設置法16条2項は,厚生労働大臣は,検疫所に,販売の用に供し,又は営業上使用する食品等の輸入に際しての検査及び指導を行わせることができる旨を定める。 前提となる事実(末尾に証拠等の記載のない事実は,当事者間に争いがないか,明らかに争わない事実である。)(1)当事者ア原告は,魚類の燻製等の水産加工食品の輸入・販売等を業とする会社で- 3 -ある。 イ被告は,食品衛生法 のない事実は,当事者間に争いがないか,明らかに争わない事実である。)(1)当事者ア原告は,魚類の燻製等の水産加工食品の輸入・販売等を業とする会社で- 3 -ある。 イ被告は,食品衛生法に基づき,輸入食品について食品衛生法違反の有無を検査し,違反物について廃棄・積戻し等の通知をしているものである。 (2)一酸化炭素のメト化防止作用マグロを含む食用鮮魚類等の血中に含まれるヘモグロビンや筋肉中に含まれるミオグロビンは,ヘムと呼ばれる鉄を含む色素を持ち,赤色ないし赤紫色を呈する。ヘム中の鉄は,第一鉄イオンとして存在しているが,酸化しやすく,第二鉄イオンに酸化すると,これらのタンパク質は褐色に変色したり退色し,結果として,鮮魚の赤い色調が時間の経過とともに褐色化する現象が起こる(以下「メト化」という。)。 これに対し,ヘム中の第一鉄イオンと一酸化炭素が結合した場合には,ヘム中の鉄が酸化しにくいため,メト化の発生が抑制され,魚肉が鮮やかな赤色を呈したままとなる。 その性質を利用して,マグロをはじめとする赤身の食用鮮魚類等を一酸化炭素に暴露させると,ヘム中の第一鉄イオンと一酸化炭素が結合してメト化が生じにくくなることから,食用鮮魚類の変色を防止するために,これらの食用鮮魚類等を一酸化炭素に暴露させる処理がされることがある。 (3)食品への一酸化炭素の使用に対する厚生労働省の取締りア厚生省(関係課長)は,平成6年9月22日,各検疫所長に対し,化学的合成品たる一酸化炭素を食品に使用することは法6条に違反する旨,また,化学的合成品でない一酸化炭素についても,消費者の判断を誤らせ,衛生上の危害が生じるおそれがあるので,かかる一酸化炭素を使用した鮮魚が輸入されることのないよう指導されたい旨の通知を発した(乙2)。 イ厚生省(関係課長)は,平 についても,消費者の判断を誤らせ,衛生上の危害が生じるおそれがあるので,かかる一酸化炭素を使用した鮮魚が輸入されることのないよう指導されたい旨の通知を発した(乙2)。 イ厚生省(関係課長)は,平成7年1月30日,各検疫所長に対し,イズミダイ及びマグロについて,魚肉中の一酸化炭素の分析法を定めたので,当該分析法に従い検査を実施し,一酸化炭素による処理を行ったものと見- 4 -なされる魚介類が輸入された場合には,廃棄,積戻し等の措置をとるべき旨,また,関係営業者に対し,鮮魚介類について一酸化炭素による処理を行うことは,法6条に違反することを周知されたい旨通知した(乙3)。 ウ厚生省(関係課長)は,平成9年5月21日,各検疫所長及び各都道府県等に対し,スモーク品(薫製品)と称しているマグロも含め,マグロへ一酸化炭素を使用したものと判断する基準を下記のとおり定めたとして,マグロの収去検査等においてこの基準を適正に運用するとともに,この基準により法6条違反とされたものに対する積戻し,廃棄等の措置を適正に講ずるよう通知した(以下「平成9年通知」という。)(甲6,乙3,4)。 記マグロの一酸化炭素処理についての検査方法は,魚肉試料を細切し,ホモジナイズした後,遠心分離し,その上清を蓋をした瓶に入れ,硫酸を加えて強く振とうさせることにより,魚肉試料内に含有する一酸化炭素を瓶内に放出させ,瓶内の気体層の一酸化炭素濃度をガスクロマトグラフ装置で定量する方法(以下「A法」という。)で行い,「検査開始日の定量値が200μg/kg以上であって,その2日後の定量値が検査開始日の定量値より明らかに減少した場合,又は検査開始日の定量値が500μg/kg以上である場合」には,マグロに一酸化炭素が使用された蓋然性が高く,法6条に違反するものとして取り扱って差し 値が検査開始日の定量値より明らかに減少した場合,又は検査開始日の定量値が500μg/kg以上である場合」には,マグロに一酸化炭素が使用された蓋然性が高く,法6条に違反するものとして取り扱って差し支えないことエハム,ソーセージ等の既存の燻製品(以下「既存燻製品」という。)を製造する際に用いられる燻煙には一酸化炭素が含まれるが,既存燻製品について,一酸化炭素を添加物として使用したことを理由に取締りが行われた例はない。 (4)本件食品の概要等- 5 -ア本件食品本件食品は,フィリピン共和国に所在する会社であるP1が製造した「冷凍スモークマグロ切り身」100キログラムである。 イ本件燻煙処理の概要等P1は,株式会社P2と共同で,マグロを含む鮮魚の切り身を燻煙を用いて加工する方法(以下「本件燻煙処理」という。)を開発し,本件燻煙処理により加工した食品を製造している。 本件燻煙処理は,概要,生マグロをステーキ状の切り身(以下「さく」という。)にして,0度ないし5度の燻煙(ココナッツの木屑)で燻し,真空パック詰めにしてマイナス18度で冷凍保存するというものであり,当該燻煙には,一酸化炭素が一定割合で含まれる。 (5)本件燻煙処理に関する食品衛生調査会における審議食品衛生調査会毒性・添加物合同部会(以下「合同部会」という。)は,P1及びP2から,本件燻煙処理により製造されたスモーク品は平成9年通知の対象外であるとして資料が提出されたことを受け,平成10年6月1日,同年7月7日及び平成11年2月4日の3回にわたり,本件燻煙処理が添加物の使用に当たるかについて審議をした(甲27,33,34。以下「調査会審議」という。)。 (6)平成10年実験調査会審議の過程で,平成10年12月,国立医薬品食品衛生研究所において,P1及びP2から提 に当たるかについて審議をした(甲27,33,34。以下「調査会審議」という。)。 (6)平成10年実験調査会審議の過程で,平成10年12月,国立医薬品食品衛生研究所において,P1及びP2から提供された試料に基づいて,マグロ切り身の色調の変化を測定する実験(以下「平成10年実験」という。)が行われ,その結果は調査会審議の資料として供された。 (7)平成11年2月10日付け通知厚生省(関係課長)は,平成11年2月10日付け通知により,「一酸化炭素を意図的に使用したものではないスモーク品」と称するマグロ及びブリ- 6 -等について,調査会審議の結果,その製法等により,製造時に一酸化炭素が使用されたと考えざるを得ないとの結論が得られたとして,当該製品及び同等の製法により製造されたものについては,法6条違反として取り扱うこととする旨を各都道府県等に通知した(甲29)。 (8)本件違反通知に至る経緯ア食品等輸入届出書の提出原告は,平成13年5月14日,P1から本件食品を輸入するため,法16条に基づき,被告に対し「食品等輸入届出書」を提出した(弁論の全趣旨)。 イ本件食品に係る一酸化炭素の検査原告は,同月16日,財団法人P3検査センター(以下「検査センター」という。)に対して,本件食品について一酸化炭素の検査を依頼した(甲1)。 検査センターは,A法に基づき本件食品について検査を行った結果,同月18日付けで,原告に対し,「輸入食品等試験成績証明書」(以下「本件成績証明書」という。)を郵送した(甲2)。 本件成績証明書の「検査成績」欄には,下記の記載があった。 記試験項目一酸化炭素(0日目)試験結果2370μg/㎏試験方法平成7年1月30日衛乳第10号,衛化第7号(A法による)ウ本件違反通知被告は,原告に対し,平成13 記の記載があった。 記試験項目一酸化炭素(0日目)試験結果2370μg/㎏試験方法平成7年1月30日衛乳第10号,衛化第7号(A法による)ウ本件違反通知被告は,原告に対し,平成13年5月24日付け成空検第263号「食品衛生法違反通知書」により,本件違反通知をした(甲3)。 前記通知書には,本件食品に関して,「食品衛生法第6条に違反してい- 7 -るため,次のように措置されたい。」として,「措置方法」欄に「当該品は積戻し又は廃棄すること。」と記載されている。また,前記通知書には,本件食品は,指定外添加物の一酸化炭素が500μg/㎏以上検出したため,法6条に違反すると認めたと記載されている。 (9)原告は,同年7月24日,本件違反通知の取消しを求める本件訴えを提起した。 差戻前の第一審判決(千葉地方裁判所平成13年(行ウ)第35号)は,本件違反通知は,取消訴訟の対象である行政処分に当たらないものとして本件訴えを却下し,控訴審判決(東京高等裁判所平成14年(行コ)第230号)は原告による控訴を棄却したが,上告審判決(最高裁判所平成15年(行ヒ)第206号)は,本件違反通知が取消訴訟の対象である行政処分に当たるとして控訴審判決を破棄し,差戻前の第一審判決を取り消した上で,本案について審理させるため,本件を当庁に差し戻した。 (当裁判所に顕著な事実)(10)平成16年実験被告は,差戻後の本件訴訟において,平成16年10月に国立医薬品食品衛生研究所において行われた,マグロ切り身の色調の変化を測定する実験(以下「平成16年実験」という。)の結果を,乙第16号証として提出した。 争点 本件においては,本件違反通知の適法性が争点となっており,具体的な争点は,以下の3点である。 (1)本件食品が一酸化炭素を添加物として使用した 。)の結果を,乙第16号証として提出した。 争点 本件においては,本件違反通知の適法性が争点となっており,具体的な争点は,以下の3点である。 (1)本件食品が一酸化炭素を添加物として使用した(法6条)ものか否か。 (2)本件違反通知が,平等原則(憲法14条)に違反するものか否か。 (3)本件食品について適用された一酸化炭素の検査方法(A法)が合理的なもか否か。 - 8 - 争点に関する当事者の主張(1)本件食品が一酸化炭素を添加物として使用した(法6条)ものであるか否か(争点(1))について【被告の主張】ア添加物の禁止各食品の製造,加工,保存,輸送,販売の形態及び手法は,業者や食品ごとに異なるものであることから,行政機関が個別に各食品の製造から販売までの各場面における安全性を具体的に判断して規制することは不可能であるから,行政機関としては,ある物質の潜在的危険性が顕在化し得る場面をある程度概括的に想定して危険性の有無を判断せざるを得ない。また,添加物は食品に人為的に使用するものであり,また,その機能や危険性について化学的に十分解明されていないものが多数存在する。 そこで,法6条は,消費者の安全性を確実に図るべく,原則として添加物の使用を禁止することとし,指定外添加物については抽象的に危険性があるものとみなして,その使用を違法としている。 イ一酸化炭素に関する取締りの合理性(ア)一酸化炭素が指定外添加物に該当することについて指定添加物は,食品衛生法施行規則別表2及び既存添加物名簿に列挙されているが,一酸化炭素はそのいずれにも定めがない。 (イ)基準値を用いた取締りの合理性一酸化炭素は,自然界の空気中にも存在し,食品そのものにも含まれることがあることから,食品中に一酸化炭素が少しでも含まれることをもって直ちに食 にも定めがない。 (イ)基準値を用いた取締りの合理性一酸化炭素は,自然界の空気中にも存在し,食品そのものにも含まれることがあることから,食品中に一酸化炭素が少しでも含まれることをもって直ちに食品衛生法違反であると扱うことは相当ではない。 そこで,厚生省は,平成9年通知により,A法により測定された一酸化炭素について,検査開始日の定量値が200μg/kg以上であって,その2日後の定量値が検査開始日の定量値より明らかに減少した場合,- 9 -又は検査開始日の定量値が500μg/kg以上である場合には,一酸化炭素が使用された蓋然性が高いと定めたものであり,当該基準値は,財団法人日本冷凍食品検査協会に委託したマグロの検査結果に照らして相当なものである。 ウ本件食品が法6条に違反することについて(ア)本件食品から検出された一酸化炭素の濃度本件食品から検出された一酸化炭素濃度は,2370μg/kgであり,前記イで述べた判断基準からすると,本件食品が一酸化炭素を使用したものであることは明らかである。 (イ)既存燻製品との違いについて既存燻製品は燻製品として広く認識されて流通している食品であり,もともと,燻製処理の過程において通常生じるような変化は生じているものとして流通しているものであるから,一酸化炭素が添加物として使用されたものとは評価されない。これに対し,本件食品は,刺身用に供されるもので,外観上も鮮魚と評価されるマグロについて,マイナス60度で冷凍保存された通常の冷凍マグロと同じように刺身として利用することができるよう,切り身でマイナス18度で冷凍保存するための技術であって,色調保持という食品保存等の目的で一酸化炭素が使用されているため,社会通念上,これを添加物と評価することができることから,本件食品は一酸化炭素を添加物として使 8度で冷凍保存するための技術であって,色調保持という食品保存等の目的で一酸化炭素が使用されているため,社会通念上,これを添加物と評価することができることから,本件食品は一酸化炭素を添加物として使用したものと評価される。 エ本件食品が本件燻煙処理によるものか明らかでないことについて原告は,本件食品は本件燻煙処理によるものであり,一酸化炭素処理と異なると主張する。 しかしながら,本件燻煙処理自体が曖昧な製造方法といわざるを得ない上に,本件食品が,本件燻煙処理により製造されたかについても定かではなく,原告の前記主張の前提自体明らかではない。 - 10 -【原告の主張】本件食品は,以下のとおり,一酸化炭素を「使用」したものではない。 ア本件燻煙処理は,添加物に該当しないことについて本件食品は,一酸化炭素ガスを施したものではなく,本件燻煙処理により燻煙加工されたものである。そもそも燻煙処理は,人類が火を使い始めた頃から,肉や魚に対する保存性やうま味を高めるために用いられた手法なのであって,「燻す」という行為はいわば,煮る・焼く・蒸す等と同様に,伝統的かつ一般的に用いられてきた調理法に過ぎないのであって,現に,燻製が添加物の使用に該当するものとは全く考えられていなかったものである。燻煙により付着する一酸化炭素について,添加物が使用されたものと評価する余地はない。 イ本件燻煙処理について(ア)本件燻製処理の開発の経緯一般に食品はマイナス18度で冷凍保存されるが,マイナス18度でマグロ等の鮮魚を保存した場合,メト化が発生するため,このようなメト化を防止するために,マイナス60度で冷凍保存する必要がある。本件燻煙処理は,このような冷凍中のメト化の発生を燻煙により解消することを目的として,P2等が平成3年から研究開発を進めてきたものであり 化を防止するために,マイナス60度で冷凍保存する必要がある。本件燻煙処理は,このような冷凍中のメト化の発生を燻煙により解消することを目的として,P2等が平成3年から研究開発を進めてきたものであり,燻煙中の一酸化炭素による解凍後のメト化防止効果などに着目したものではない。 かかる開発経緯からしても,本件燻煙処理をことさらに取り立てて一酸化炭素の「使用」とされなければならないいわれはない。 (イ)本件食品は,解凍後は無処理品と同様に変色するものである。この点で,本件食品は,純粋な一酸化炭素に暴露されたマグロとは色調保持効果につき有意な差がある。本件燻煙処理が魚肉の色調に与えた影響としては,被告のいうような一酸化炭素の作用が生じていないといえる。 - 11 -ウ既存燻製品との区別について添加物の「使用」という行為は,添加物それ自体の客観的属性と,それを付着させるという客観的な行為によって完結するものであり,製品が事後にどのように流通させられるかや,消費者がその製品を主観的にどのように受け止めているか,あるいは添加される客体の側が何であるか等によってその性質が変わるものではないはずである。 この点,既存燻製品については,一酸化炭素の添加物としての「使用」に該当しないと解するのであれば,本件食品もまた,一酸化炭素の「使用」には該当しないと考えるほかない。 被告は,既存燻製品と本件食品との違いについて,既存燻製品は,「もともと当該食品に,自然界において存在する他のものが何らかの形で含有される可能性がある食品というのではなく,原材料に,燻製処理の過程において通常生じるような変化は当然に生じているものとして流通している」から,これに含まれる一酸化炭素は「添加物」とはいえないと主張するが,なぜ「添加物」に当たらないのかが全く論証されておらず,この おいて通常生じるような変化は当然に生じているものとして流通している」から,これに含まれる一酸化炭素は「添加物」とはいえないと主張するが,なぜ「添加物」に当たらないのかが全く論証されておらず,このような区別は著しく不合理なものである。 エ本件食品が本件燻煙処理により製造されたものであることについて本件食品は本件燻煙処理により製造されたものであり,被告の主張は失当である。 (2)本件違反通知が,平等原則(憲法14条)に違反するものか否かについて【被告の主張】前記(1)【被告の主張】のとおり,既存燻製品は一酸化炭素を添加物として使用したと解されないことから,法6条違反ということはできない一方で,鮮魚に対する一酸化炭素の使用を法6条違反として取り締まることは,以下のとおり必要かつ合理的であり,本件違反通知は平等原則(憲法14条)に- 12 -違反していない。 ア一酸化炭素のメト化防止作用による鮮度誤認のおそれ前記2(2)のとおりの一酸化炭素の性質を利用して,食用鮮魚類の変色を防止するために一酸化炭素を暴露させる処理がされることがある。当該処理がされた食用鮮魚類が市場に出回った場合,何ら処理が施されていない食用鮮魚類と比較して明らかに退色が遅れる効果を有していることから,鮮度が高いものと消費者を誤信させるおそれがあり,一酸化炭素を添加物として規制する必要がある。 イ鮮魚を対象とすることの合理性消費者は,マグロ等の鮮魚の鮮度を衛生上安全かどうかを判断する基準の一つとしており,その判断に当たっては外見や色調を重要な要素としているため,(メト化により)退色していないことをもって新鮮だと判断していることは明らかである。とりわけ,魚肉が赤身でミオグロビンを多く含むマグロについては一酸化炭素を含む煙等で処理したものと何ら処理されていない ト化により)退色していないことをもって新鮮だと判断していることは明らかである。とりわけ,魚肉が赤身でミオグロビンを多く含むマグロについては一酸化炭素を含む煙等で処理したものと何ら処理されていないものの間には有意な色調の違いがあり,消費者の鮮度に関する判断に及ぼす影響が大きいといわざるを得ない。 また,本件食品は,店頭販売に当たり,解凍の上で,生食用の刺身として,生の切り身と同様の形状で「燻煙冷凍処理」等の特段の表示もなく提供される可能性が高く,特有の香気,風味の付与,脂肪の酸化防止,菌等の微生物の増殖防止を目的として燻煙処理され,鮮魚として取り扱われる可能性が明らかにない他の燻製加工品とは異なる対処をする必要がある。 ウ本件食品に関する調査会審議の結果等(ア)平成11年2月4日に開催された合同部会に出席した当時の厚生省生活衛生局食品化学課課長補佐であるP4は,本件訴訟の証人として,本件食品はマイナス18度でマグロを冷凍保存した場合に本来生じるメト化を防止する効果があり,そのような効果を目的として製造されたも- 13 -のであるところ,そのような効果は一酸化炭素によるものであり,その効果により解凍後も赤味が保持される可能性が高く,鮮度を誤認させるおそれがあることに変わりないことを供述している。 (イ)そして,合同部会は,合同部会に提出された平成10年実験の結果は科学的判断材料としては不安定で,よりどころとして不十分だという指摘をしながらも,結局,本件燻煙処理による燻煙処理は一酸化炭素による変色防止効果を目的としているとし,本件燻煙処理をされた製品については,その製造に当たり一酸化炭素が添加物として使用されたと考えざるを得ないと結論づけたものである。 エ実験結果について一酸化炭素が使用された鮮魚の色調変化を検証する実験は複数あ された製品については,その製造に当たり一酸化炭素が添加物として使用されたと考えざるを得ないと結論づけたものである。 エ実験結果について一酸化炭素が使用された鮮魚の色調変化を検証する実験は複数あるが,これらの実験は次のとおり評価できるのであって,一酸化炭素の効果による鮮度誤認のおそれを裏付けるものである。 (ア)平成10年実験平成10年実験の結果は,マグロを一酸化炭素に暴露させたことで色調変化に差異が見受けられず,資料に記載されたデータの変動幅が大きいものであった。 また,平成10年実験は,P2の提供した試料に基づき行われたため,当該試料についてされたとする「10パーセント一酸化炭素処理」及び「一酸化炭素10パーセントを含む燻煙処理」がどのような方法(使用部位,処理時間等)で行われたかについては不明である。また,当該試料に含まれる一酸化炭素の値を計測していないため,具体的数値については不明である。 (イ)平成16年実験平成16年実験の結果,メバチマグロ及びキハダマグロともに,一酸化炭素処理をした解凍後3日目のものの方が,無処理の解凍後0日目の- 14 -ものよりも赤色が維持されており,無処理の解凍後0日目のものよりも,燻煙冷凍処理区の解凍後3日目のものの方が,鮮度がよいと誤解する可能性が高いことが判明しており,一酸化炭素処理の効果によって,鮮魚の鮮度に関する消費者の判断を誤らせ,衛生上の危害が生じるおそれがあるといわざるを得ない。 (ウ)ティラピアに関する実験結果富山大学工学部物質生命システム工学科のP5教授が,ティラピア(イズミダイの一種)に関して行った実験の結果が記載された「ティラピアの色調変化に関する意見書」(乙18)によれば,色合いから鮮魚の鮮度を把握しようとする消費者が,本件燻煙処理の施されていない解凍後1 ズミダイの一種)に関して行った実験の結果が記載された「ティラピアの色調変化に関する意見書」(乙18)によれば,色合いから鮮魚の鮮度を把握しようとする消費者が,本件燻煙処理の施されていない解凍後1日目のティラピアよりも,本件燻煙処理の施された解凍後2日目のものの方が鮮度がよいと誤解するおそれがあることが明らかである。 オヨーロッパでの規制についてフランスをはじめとするヨーロッパ諸国においては,一酸化炭素で処理された食品(とりわけマグロ等の鮮魚)が細菌汚染による変質を隠す危険があることを理由に取締りがされ,しかも,燻煙をフィルターでろ過して行う「軽い燻製」「クリア・スモーク」などの低温で,燻製・燻煙香味のない燻製技術について一酸化炭素を食品に添加する間接的な方法として,取締りの対象としている。 【原告の主張】仮に,本件食品が一酸化炭素を添加物として使用していると解するときは,既存燻製品もまた,一酸化炭素を使用していることになる。その場合,同じく一酸化炭素を使用している,すなわち法6条に違反しているにもかかわらず,既存燻製品は規制されず,本件食品のみが規制されていることは,そのような差別的取扱いに合理性が認められない限り,平等原則(憲法14条)に違反して違憲・違法となる。 - 15 -ア差別の根拠が存在しないある差別的取扱いが平等原則の例外となるためには,前提として,異なる取扱いを受けるグループの違いが明確であり,かつ,異なる取扱いをすることについて法律上の根拠がある必要があるが,本件においては,法令上は,本件食品と既存燻製品を差別する根拠は何ら存在せず,異なる取扱いがされるグループの境界が全く不明である。 よって,本件差別は,差別の合理性を問うまでもなく,平等原則に反し違憲・違法である。また,仮に合理性の問題となりうるとしても, 拠は何ら存在せず,異なる取扱いがされるグループの境界が全く不明である。 よって,本件差別は,差別の合理性を問うまでもなく,平等原則に反し違憲・違法である。また,仮に合理性の問題となりうるとしても,差別について法律上の根拠が存在しない以上,合憲性の推定を考慮する余地は全くないから,合理性の審査は厳格に行われなければならない。 イ鮮度誤認のおそれを基準とすること自体が不合理な差別である。 被告は,消費者の鮮度誤認のおそれがあることをもって,本件食品を取り締まる根拠としている。 (ア)しかし,法6条は,文言上,指定外添加物を使用している食品について,安全であることを理由として適用除外を認めておらず,法6条に違反するかどうかは,使用者の目的といった主観的要素や,安全性といった実質的要素に関わりなく,指定外添加物を使用したかどうかという形式的・客観的基準によって判断されている。したがって,法6条の適用において,本件食品を含む燻煙加工品についてのみ,安全性についての誤認防止という実質的要素を含む目的のもとに不平等な取扱いをすることは許されず,本件差別には合理性がない。 (イ)また,消費者の鮮度誤認は適切な食品表示によって防止しうるのであり,色調による鮮度誤認を理由に差別することには合理性が乏しい。 ウ本件食品について鮮度誤認のおそれはない前記(1)【原告の主張】で述べたとおり,本件食品は,解凍後は無処理のマグロと同様に変色するのであり,「一酸化炭素の変色防止作用によっ- 16 -て消費者に鮮魚の加工後の時間経過の判断を誤らせるおそれ」があるという規制の前提事実自体が存在しないのであって,本件食品につき,既存燻製品と異なる差別的取扱いをすることは不合理な差別である。 (ア)各実験結果について平成10年実験において,無処理のマグロと10パー 規制の前提事実自体が存在しないのであって,本件食品につき,既存燻製品と異なる差別的取扱いをすることは不合理な差別である。 (ア)各実験結果について平成10年実験において,無処理のマグロと10パーセントの一酸化炭素を含む燻煙で処理したマグロの色調の経時変化を比較した結果,国立医薬品食品衛生研究所による測定(乙13)及び長岡保健所による測定(乙12)のいずれにおいても,両者は同様に変色した。平成10年実験は,当時P4及び長岡保健所の立会いのもと試料が作成され,国立医薬品食品衛生研究所及び長岡保健所が測定を行ったもので,信頼性は極めて高い。 これに対し,平成16年実験は,さく状の冷凍マグロをいったん解凍の上,マイナス18度で再冷凍した試料を使用しているところ,冷凍マグロをマイナス18度で保存した場合には,冷凍期間中にもメト化が進行するものであり,同実験の無処理解凍区についてのメト化の進行は,実際に店頭に並ぶマグロよりもはるかにメト化が進行した状態のものである。 また,ティラピア実験については,ティラピアはマグロと異なる魚であり,その保存方法もマグロと異なることから,これについての実験結果をマグロと比較することは不相当である。また,原告が実験後に確認したところ,乙第18号証で生ティラピアとされた試料が,一酸化炭素処理をされたものであることが後に判明したものであり,本件では参考とならない。 (イ)調査会審議についてP4は,本件訴訟の証人として,調査会審議の結果にいう「一定の変色防止効果」は解凍前(冷凍中)のメト化防止効果を指すものであると- 17 -し,本件食品については,解凍後のメト化防止効果ではなく,冷凍中のメト化防止効果があることが消費者の鮮度誤認に結びつくとの考え方に基づいて規制を行った旨証言した。 しかし,消費者の鮮度誤認 17 -し,本件食品については,解凍後のメト化防止効果ではなく,冷凍中のメト化防止効果があることが消費者の鮮度誤認に結びつくとの考え方に基づいて規制を行った旨証言した。 しかし,消費者の鮮度誤認を問題とするならば,問われるべきは解凍後の変色防止作用であり,上記の考え方は不合理である。 また,調査会審議自体,平成10年実験の結果により,本件食品が無処理のマグロと同様に変色することが明らかになっているにもかかわらず,この点を含めて,本件食品に鮮度誤認のおそれがあるか否かについてほとんど議論されないまま,厚生省による強引な誤導により,本件食品が一酸化炭素を添加物として使用したとの取りまとめがされたものである。 (ウ)他国での規制の状況被告が主張するヨーロッパ諸国における規制については,日本の食品衛生法との異同が全く不明であり,規制の対象とされる「クリア・スモーク」が何を意味しているのかも明確でなく,燻製処理と一酸化炭素との関係について,具体的にどのような議論がされているのかも明らかではない。また,もともと欧米には魚を生で食べる食文化がなく,生食の魚に関する知識と理解は,決して日本に先行しているものではない。したがって,これらの議論や書簡などを根拠に被告の原告に対する規制を正当化することはできない。 (エ)本件における危険性の考え方被告は,法6条に違反するとの判断は,指定外添加物を使用していること自体から認められる食品衛生上の危害の発生に係る抽象的な危険をもって足りる旨主張する。これは,法6条の解釈としては正しいが,平等原則との関係では,そのような抽象的な危険性を有するということは,本件食品だけではなく,既存燻製品にも当てはまることであり,本件食- 18 -品に抽象的な危険性があるということが差別の合理性の根拠となり得ないことは のような抽象的な危険性を有するということは,本件食品だけではなく,既存燻製品にも当てはまることであり,本件食- 18 -品に抽象的な危険性があるということが差別の合理性の根拠となり得ないことは明らかである。さらに,本件が平等原則という重要な憲法原則に関するものであり,かつ,本件はいわゆる警察目的規制であることに加え,前述のとおり本件差別には法律上の根拠がなく,合理性が厳格に問われるべきであることを考え合わせれば,抽象的な危険性を根拠に本件差別を合理化することは到底許されないというべきである。 したがって,燻煙処理には変色防止効果はないことが明らかになっているにもかかわらず,一酸化炭素を単体で使用した場合に変色防止効果があるということを理由に本件食品を規制することは,許されない。 (3)厚生労働省の検査方法の合理性について【被告の主張】原告は,厚生省の定めた検査方法であるA法が客観性のない不合理なものであると主張する。しかし,A法は,一酸化炭素を低く検出する傾向にあるものの測定値は安定しているのであって,鮮魚に対し一酸化炭素を暴露させていない製品について,誤って,一酸化炭素を使用したとして取り締まる危険性はおよそない検査方法であって,原告の主張は理由がない。 アA法は,一定の条件下で実施された場合再現性のあるものである。 イA法には,ホモジナイズ中に試料の組織から一酸化炭素が遊離して大気中に拡散して,一酸化炭素が損失するという問題点があると指摘されるが,測定値の変動は簡易分析法よりもA法の方が小さいとされている。 ウ原告は,A法の検査結果にばらつきがあり,検査方法として不適切であるとして,陳述書及び試験成績証明書を提出するが,当該試験成績証明書においては,各処理方法からはわずか1検体が提供されて検査をしたに過ぎず,個体差の影響 果にばらつきがあり,検査方法として不適切であるとして,陳述書及び試験成績証明書を提出するが,当該試験成績証明書においては,各処理方法からはわずか1検体が提供されて検査をしたに過ぎず,個体差の影響が除かれていないから,各処理方法の差が正確に反映された検体に基づいて比較したものではなく,これら検体の検査方法を比較することで検査方法の精度を検証することはできない。 - 19 -【原告の主張】A法は,その誤差が著しく大きく,到底合理的な検査方法とはいえない。 すなわち,P2が,燻煙中の一酸化炭素濃度と残留一酸化炭素濃度の関係を確認するため,国指定の検査機関等に依頼した検査結果によると,本来,残留値は燻煙中の一酸化炭素濃度に比例すると考えられるにもかかわらず,一酸化炭素濃度10パーセントの検体と50パーセントの検体がほとんど同じ残留値になり,20パーセントの検体が50パーセントの検体の2倍近い残留値となったほか,また,同濃度(30パーセント)の一酸化炭素を含む燻煙に5分間曝して同時期に作ったサンプルについて,最低値110μg/kg,最高値410μg/kgという,約4倍の差が生じた。 さらに,P5教授は,同一試料に燻煙処理を行って作成した9検体を,3検体ずつ厚生労働省指定の3検査機関に送り,A法による残留一酸化炭素濃度の測定を依頼したところ,測定値は最低75から最高1100μg/kgまで,14倍以上のばらつきがあった。 このように,A法は,同一検査機関で同一検体を検査しても4倍,検査機関が違うと14倍もの誤差を生じうるものであって,規制目的の達成手段として著しく不合理であり,このような検査方法に基づいてされた本件違反通知はそれ自体違法である。また,このような検査方法に基づき,本件食品と既存燻製品を差別的に取り扱うことは,平等原則に違反する。 第 して著しく不合理であり,このような検査方法に基づいてされた本件違反通知はそれ自体違法である。また,このような検査方法に基づき,本件食品と既存燻製品を差別的に取り扱うことは,平等原則に違反する。 第3当裁判所の判断 争点(1)について(1)前記第2の2の事実,証拠及び弁論の全趣旨(認定に用いた証拠等は後掲する。)によれば,以下の各事実が認められる。 ア本件食品は,P1が本件燻煙処理により製造したものであり,その工程は,概ね以下のとおりである(甲4,弁論の全趣旨)。 (ア)新鮮なマグロをさばき,血抜きをし,さくの状態に切る。 - 20 -(イ)さく状のマグロを塩水に漬け,塩出しする。 (ウ)ココナッツの木くずを加熱して発生したガスを,活性炭のフィルターでろ過してタールや不快臭を除去し,その後これを低温(0~5度)にした燻煙で約12時間燻し,真空パックし,マイナス18度で冷凍保存する。 (エ)前記(ウ)の燻煙には,一酸化炭素が数パーセントないし10パーセント前後の割合で含まれている(証人P6)。 イ通常,マグロは,マイナス18度で冷凍保存されるとメト化が進行し,商品価値を失うため,マイナス60度で冷凍保存される。本件燻煙処理は,マイナス18度での冷凍保存中のメト化を防止して,マイナス60度で保存される通常のマグロよりも,その保管・運搬の費用を節約することにより,廉価で刺身用マグロを供給することを主な目的として開発されたものである。 (甲25,32,証人P6,同P4,弁論の全趣旨)(2)法2条2項及び6条の文言及び趣旨ア法2条2項に規定する添加物は,食品の製造の過程又は食品の加工若しくは保存の目的で,食品に添加,混和,浸潤その他の方法で人為的に付加される物である。多数の物質の混合体が付加される場合,当該混合体及びこれに 項に規定する添加物は,食品の製造の過程又は食品の加工若しくは保存の目的で,食品に添加,混和,浸潤その他の方法で人為的に付加される物である。多数の物質の混合体が付加される場合,当該混合体及びこれに含まれる個々の物質は,ともに添加物であるといえる。 イ法2条2項及び6条の文言をみるに,法2条2項は,添加物の定義につき,その付加の方法・態様を幅広く規定しており,また,「食品の製造の過程」で付加される物については,その付加の目的に関する制限を設けていない。また,法6条は,禁止される添加物の範囲について,「天然香料及び一般に食品として飲食に供されている物であって添加物として使用されるもの」又は「人の健康を損なうおそれのない場合として厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて定める場合」のみを除外している- 21 -ものである。 また,法6条は,行政機関が個別に各食品の製造から販売までの各場面における安全性を具体的に判断して規制することは不可能であることや,添加物の機能や危険性について化学的に十分解明されていないものが多数存在することから,添加物の定義について,消費者の安全性を確実に図るべく,原則として添加物の使用を禁止することとし,人の健康を損なうおそれのない場合として厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて定める場合以外の添加物については抽象的に危険性があるものとみなして,その使用を違法としているものである。 このような法2条2項及び6条の文言及び趣旨に鑑みると,法6条は,指定外添加物が食品の製造の過程において食品に付加された場合には,その具体的な機能いかんにかかわらず(言い換えれば,その安全性の有無にかかわらず),また,これを食品に付加した者が当該物質の機能ないし効用を利用する目的ないし意図を有しているか否かにかかわらず は,その具体的な機能いかんにかかわらず(言い換えれば,その安全性の有無にかかわらず),また,これを食品に付加した者が当該物質の機能ないし効用を利用する目的ないし意図を有しているか否かにかかわらず,その使用を禁止しているものと解するのが相当であり,燻煙のような混合体についても,その成分たる個々の物質についての具体的機能や付加の目的等にかかわらず,その使用を禁止しているものと解するのが相当である。 ウ本件燻煙処理に用いられた燻煙は多種多様な成分の混合物であり,一酸化炭素がこれに含まれることは当事者間に争いがないところ,前記イで判示したところによれば,燻煙の一成分である一酸化炭素は,添加物であるというべきであり,前記(1)アのとおり,本件食品は,マグロに本件燻煙処理を施して製造されたものであるから,本件食品については,一酸化炭素が使用されたものというべきである。 そして,一酸化炭素は,法6条の「人の健康を損なうおそれのない場合として厚生労働大臣が食品衛生調査会の意見を聴いて定める場合」に該当しないことが明らかであるから,本件食品は,法6条に違反するものとい- 22 -える。 (3)以上の判示に関し,①原告は,燻製は,煮る・焼く・蒸す等と同様に,伝統的かつ一般的に用いられてきた調理法に過ぎず,既存燻製品については取締りがされておらず,添加物が使用されたものと評価されていないこと,②また,本件燻煙処理は燻煙中の一酸化炭素による解凍後の変色防止効果などに着目したものではなく,本件食品は解凍後は無処理のマグロと同様に変色することから,本件食品について添加物が使用されたものと評価する余地はない旨主張する。 しかしながら,前記のとおり,法2条2項及び6条の趣旨及び文言に照らせば,法6条に違反するかどうかは,使用者の目的といった主観的要素や, ついて添加物が使用されたものと評価する余地はない旨主張する。 しかしながら,前記のとおり,法2条2項及び6条の趣旨及び文言に照らせば,法6条に違反するかどうかは,使用者の目的といった主観的要素や,安全性といった実質的要素に関わりなく,指定されていない添加物を使用したかどうかという形式的・客観的基準によって判断されるものであって,原告が主張する前記各事情が,法6条による添加物の使用の禁止の例外となるものとは解し難い。 確かに,既存燻製品が法6条に違反するものとして取締りがされた例がないことについては当事者間に争いがないが,前記(2)のとおり,法6条が,添加物については抽象的に危険性があるものとみなして,その使用を違法としている趣旨に照らせば,燻煙中に含まれる一酸化炭素についても,そのような抽象的な危険性はなお存するものといわざるを得ず,既存燻製品についても,添加物として一酸化炭素を使用したものとして,法6条による取締りを受ける余地はあるものといわざるを得ない。そもそも,燻煙は極めて多様な成分の混合物であり,その機能について,十分に判明していない点も多いものと認められる(弁論の全趣旨)。そうすると,現在までに既存燻製品について法6条による取締りの例がないとしても,今後,ある種の燻煙中に人体に有害な物質が含まれていることが判明したり,一定の食品に対し又は一定の条件下で食品に付加された場合に人体に有害な影響があることが判明す- 23 -るといった事態もあり得るところであり,このような場合に,燻煙中の成分であるとの事情や,当該成分の機能又は効果に着目していなかったとの事情をもって,法6条の適用を除外されるとすれば,法がその目的とする食品の安全の確保は図り難いことは明らかである。 以上によれば,原告の前記主張は採用できない。 (4)なお,法 目していなかったとの事情をもって,法6条の適用を除外されるとすれば,法がその目的とする食品の安全の確保は図り難いことは明らかである。 以上によれば,原告の前記主張は採用できない。 (4)なお,法2条2項及び6条の解釈に関する被告の主張のうち,以上の判示に反する部分は採用できない。 争点(2)(平等原則違反の有無)について(1)前記1のとおり,本件食品については一酸化炭素が添加物として使用されているものと評価されるところ,既存燻製品についても,本件燻煙処理と同様に,食品に一酸化炭素を含む燻煙を付着させる加工方法がとられているものであって,既存燻製品もまた,添加物である一酸化炭素を含む食品であるというべきである。 前記第2の2(3)のとおり,厚生労働省は,マグロ等の鮮魚に関し,一酸化炭素の使用について取締りを行っており,本件食品についても,鮮魚に含まれるものとして本件違反通知をしているものである。一方で,既存燻製品については,燻煙又はその成分を添加物として使用したものとして取締りがなされたことはないものであるから,本件食品について,既存燻製品と異なる取扱いをする合理的理由の有無が,平等原則との関係で問題となる。 (2)「鮮魚」の定義「鮮魚」とは,社会通念上,特段の加工処理を施さない新鮮な魚として認識されて流通している魚介類として定義することができる。本件食品は,前記1(1)イのとおり,刺身として販売することを目的として開発されたものであり,燻製処理がされている旨の特段の表示がされることなく販売・提供される可能性があるものであって,「鮮魚」に該当するものというべきである。 - 24 -原告は,法令上「鮮魚」を定義したものはなく,その定義は曖昧であるとして,このような概念を取締りの有無の基準とすること自体が不合理な差別として許さ 」に該当するものというべきである。 - 24 -原告は,法令上「鮮魚」を定義したものはなく,その定義は曖昧であるとして,このような概念を取締りの有無の基準とすること自体が不合理な差別として許されない旨主張する。しかしながら,「鮮魚」の概念自体は,上記のとおり定義が可能であるし,「鮮魚」の定義につき法令上の根拠がないことのみをもって,当該取締りが違法と解されるものではないから,原告の前記主張は理由がない。 (3)鮮魚を取締りの対象とすることの合理性ア鮮魚は新鮮な状態で消費者に提供されることを前提とした食品であり,消費者は,鮮魚の鮮度を判断するにあたって,その色調を重要な判断要素としていることは明らかである。一方で,前記第2の2(2)のとおり,一酸化炭素は,鮮魚,特にマグロに付着した場合に,そのメト化を防止し,色調を鮮やかな赤色に保つ効果があることは争いがない。そうすると,このような一酸化炭素の作用によって,本来は鮮度が劣化したマグロについても,その魚肉の色調は鮮やかな赤色を保っている場合があることから,消費者は,一酸化炭素が付着したマグロ等の鮮度を誤認するおそれがあることとなる。 一方で,弁論の全趣旨によれば,既存燻製品については,燻煙に含まれる一酸化炭素によって,その鮮度を誤認させるおそれは現在のところ判明していないことが認められる。そうすると,鮮魚については一酸化炭素のメト化防止作用に着目して,その使用を禁ずる取締りが行われ,既存燻製品についてそのような取締りを全く行われていないとしても,そのような取扱いの差異が不合理なものとはいえないというべきである。 イそして,本件食品は,前記(2)のとおり,刺身として販売することを目的として開発された食品であって,鮮魚に該当するものであるから,本件食品について,法6条に違反するもの えないというべきである。 イそして,本件食品は,前記(2)のとおり,刺身として販売することを目的として開発された食品であって,鮮魚に該当するものであるから,本件食品について,法6条に違反するものとして取締りをした本件違反通知は,平等原則に違反するものとはいえないというべきである。 - 25 -ウ以上の判示に関し,原告は,法6条に違反するかどうかは,使用者の目的といった主観的要素や,安全性といった実質的要素に関わりなく,指定されていない添加物を使用したかどうかという形式的・客観的基準によって判断されることから,法6条の適用において,本件食品を含む燻煙加工品についてのみ,安全性についての誤認防止という実質的要素を含む目的のもとに不平等な取扱いをすることは許されず,当該取扱いには合理性がないと主張する。 しかしながら,前記1で判示したとおり,法6条は,行政機関が個別に各食品の製造から販売までの各場面における安全性を具体的に判断して規制することは不可能であり,また,添加物の機能や危険性について化学的に十分解明されていない物質は多数存在することから,指定外添加物の使用を包括的・一般的に禁止しているものであって,同条により取締りの対象となり得る添加物や,添加物を使用したものと評価される食品は,本来無数に存在するものといわざるを得ない。このような事情に照らせば,指定外添加物が使用された食品について,その全てを取締りの対象としなければ平等原則に違反するものとは言い難く,具体的な危険性が判明し,又は指摘された添加物や,これを使用したと評価される食品について取締りが行われ,そのような事情のない添加物や食品について取締りが行われていないとしても,それ自体が不合理であるとは言い難い。この点,前記のとおり,鮮魚については一酸化炭素の作用について鮮度誤認 て取締りが行われ,そのような事情のない添加物や食品について取締りが行われていないとしても,それ自体が不合理であるとは言い難い。この点,前記のとおり,鮮魚については一酸化炭素の作用について鮮度誤認のおそれがあり,既存燻製品についてはそのようなおそれが認められないのであるから,原告の前記主張は採用できない。 エまた,原告は,消費者の鮮度誤認は適切な食品表示によって防止し得るのであり,色調による鮮度誤認を理由に差別することには合理性が乏しい旨主張する。 しかしながら,法6条は,添加物の使用自体を禁止することにより,食- 26 -品の安全等を確保しようとするものであるから,たとえ適正な食品表示がされるとしても,法6条による規制が不要となるものとは言い難い。特に,鮮魚は,飲食店における提供をはじめとして,食品表示を付されずに消費者に販売・提供される場合があることを考慮すれば,仮に一酸化炭素の使用による鮮度誤認を適切な食品表示により防止しうる場面があるとしても,当該事実をもって,法6条による取締りが不必要又は不合理となるものとはいえない。したがって,原告の前記主張は採用できない。 (4)本件食品の取締りの合理性原告は,本件食品は,無処理のマグロと同様に変色するから,本件食品については,鮮度誤認のおそれはなく,既存燻製品と異なる取扱いをすることは合理性がない旨主張する。 ア鮮度誤認のおそれに関する各種実験等の結果について証拠及び弁論の全趣旨(認定に用いた証拠等は後掲する。)によれば,以下の各事実が認められる。 (ア)平成10年実験(甲28,30,31,乙12,13,証人P6,証人P4)a平成10年実験は,調査会審議の過程において,P4がP2代表者であるP6に対して,調査会審議の資料として提供するために,色調変化の比較試験を行うよう ,31,乙12,13,証人P6,証人P4)a平成10年実験は,調査会審議の過程において,P4がP2代表者であるP6に対して,調査会審議の資料として提供するために,色調変化の比較試験を行うよう依頼したため,P2及びP1が提供した試料により行われたものである。 b試料としては,平成10年12月14日,P4の立ち会いの下,市場で購入したメバチマグロについて,①無処理の検体(以下「無処理区」という。),②一酸化炭素を,その濃度が10パーセントとなるよう空気で希釈した気体に24時間暴露した検体(以下「10パーセントCO区」という。)及び③一酸化炭素濃度が10パーセントとなるよう調整した燻煙に24時間暴露した検体(以下「10パー- 27 -セント燻煙区」という。)を作成し,それぞれマイナス50度で凍結したものを使用した。 c前記bの試料は,国立医薬品食品衛生研究所に送付され,同研究所において,マイナス20度で保存された後,平成11年1月4日に解凍され,同日から7日後まで,魚肉の色調についてa値(魚肉の赤色度を示す数値)を測定した。 dその結果,無処理区,10パーセントCO区及び10パーセント燻煙区のいずれについても,魚肉の色調の変化につき有意な差は見られなかった。 eなお,P2は,前記bと同様の試料を作成し,長岡保健所に送付した上で,P2の職員において,前記cと同様の測定を行ったが,その結果は概ね前記dと同様であった。 (イ)共同添付資料(乙31,証人P6)aP2及びP1は,共同で,平成10年実験とは別途,以下の実験(以下「共同添付資料実験」という。)を行い,その結果を調査会審議の共同添付資料(乙31)として提出した。 b試料としては,市場で入手したキハダマグロについて,概ね前記(ア)b及びcと同様の無処理区,10パ 同添付資料実験」という。)を行い,その結果を調査会審議の共同添付資料(乙31)として提出した。 b試料としては,市場で入手したキハダマグロについて,概ね前記(ア)b及びcと同様の無処理区,10パーセントCO区及び10パーセント燻煙区を作成したほか,前記(ア)bのようなマイナス50度での凍結を経ず作成し,一酸化炭素又は燻煙を付加しない検体(以下「生無処理区」という。)及び濃度100パーセントの一酸化炭素に24時間暴露した検体(以下「100パーセントCO区」という。)を作成したものを使用した。 c前記bの試料は,マイナス18度で10日間冷凍保存された後,解凍され,7日間にわたってa値及びK値(魚肉の鮮度を示す数値)を測定した。 - 28 -dその結果,生無処理区,無処理区及び10パーセント燻煙区については,いずれも7日間の測定期間中にa値が約半分程度まで減少し,色調の顕著な変化が認められたのに対し,100パーセントCO区においては測定期間中ほとんどa値が変化せず,また,10パーセントCO区においてはa値の減少は1割程度であって,いずれも色調の顕著な変化は認められなかった。 (ウ)平成16年実験(乙16,弁論の全趣旨)a被告は,本件訴訟の係属後,以下の実験を行い,その結果を当裁判所に乙第16号証として提出した。 b試料としては,メバチマグロ及びキハダマグロそれぞれについて,無処理のもの及び99.5パーセントの一酸化炭素を含む気体に24時間暴露したものを作成し,これら4種類をさらに①冷蔵したもの,②マイナス18度で冷凍保存したもの及び③マイナス18度で冷凍後解凍したものに細分化した検体(12種類)を使用した。 c前記bの試料について,開始日から7日後までの間,その色調を目視して観察した。 dその結果,メバチマグロ及び 及び③マイナス18度で冷凍後解凍したものに細分化した検体(12種類)を使用した。 c前記bの試料について,開始日から7日後までの間,その色調を目視して観察した。 dその結果,メバチマグロ及びキハダマグロのいずれについても,また,冷蔵,冷凍及び冷凍後解凍のいずれの方法を採ったものについても,無処理のものの方が,一酸化炭素に暴露されたものよりも顕著な退色を示した。 イ各実験の評価(ア)まず,共同添付資料実験及び平成16年実験の各結果によれば,濃度100パーセントの一酸化炭素に,マグロのメト化を防止し,その色調を赤色に保つ効果があることは明らかであって,消費者に,マグロの鮮度を誤認させるおそれがあるというべきである。この点,原告は,平成16年実験の信用性を争うが,平成16年実験自体は,解凍後のマグ- 29 -ロについて,一酸化炭素によるメト化防止作用があることを示すものに過ぎないものであって,そもそも一酸化炭素に一般的にメト化防止作用があることは当事者間に争いがないことを考慮すれば,平成16年実験の信用性は否定できない。 (イ)次に,濃度10パーセントの一酸化炭素を含む気体については,平成10年実験の結果によれば顕著なメト化防止作用は認められない一方で,共同添付資料実験の結果によれば,顕著なメト化防止作用が認められることとなる。このように実験結果の差異が生じた理由について,証人P6は,共同添付資料実験において使用したマグロは,平成10年実験において使用したマグロよりも新鮮なものであったために,このような差異が生じた旨供述する。しかし,上記供述を前提としても,マグロの当初の鮮度によっては,10パーセントの一酸化炭素を含む気体の作用によって,マグロのメト化が防止されるものといわざるを得ない。また,上記供述は,マグロの当初の鮮 し,上記供述を前提としても,マグロの当初の鮮度によっては,10パーセントの一酸化炭素を含む気体の作用によって,マグロのメト化が防止されるものといわざるを得ない。また,上記供述は,マグロの当初の鮮度により上記の差異が生じた合理的理由を説明しているものとは言い難いのであって,平成10年実験と共同添付資料実験のその他の条件の差異等の理由によって,上記実験結果の差異が生じた可能性も否定できない。以上によれば,10パーセントの一酸化炭素を含む気体については,少なくとも,一定の条件の下ではマグロのメト化を防止する作用があるものと認められるから,マグロの鮮度を誤認させるおそれがあるというべきである。 なお,原告は,マグロに含まれ得る一酸化炭素の量は気体中の一酸化炭素に比例するとして,甲第36号証及び甲第50号証を提出するが,これらの証拠によっては,共同添付資料実験の結果を説明することができないし(これらの証拠はいずれもP5教授により作成された意見書であるが,甲第50号証によれば,同教授は,主に平成10年実験の結果を前提としてこれらの意見書を作成したものと認められる。),また,- 30 -濃度10パーセントの一酸化炭素を含む気体について,程度の差はあれメト化防止作用があり得ることが否定されるものではない。したがって,これらの証拠は,上記判示を左右するものとはいえない。 (ウ)平成10年実験及び共同添付資料実験の結果は,前記ア(ア)のとおり,10パーセントの一酸化炭素を含む燻煙に暴露されたマグロは解凍後,無処理区と同様に色調が変化するものとしており,これらの実験結果自体の信用性を否定するに足りる証拠はない。 ウ以上を前提として,本件食品について,既存燻製品と異なる取扱いをし,その取締りをすることにつき合理性があるといえるか否かにつき検討する。 らの実験結果自体の信用性を否定するに足りる証拠はない。 ウ以上を前提として,本件食品について,既存燻製品と異なる取扱いをし,その取締りをすることにつき合理性があるといえるか否かにつき検討する。 (ア)前記イ(ウ)のとおり,平成10年実験及び共同添付資料実験の結果は,10パーセントの一酸化炭素を含む燻煙に暴露されたマグロは解凍後,無処理区と同様に色調が変化するものとしている。 (イ)しかしながら,一酸化炭素にメト化防止作用があること自体は当事者間に争いがなく,また,前記イのとおり,濃度100パーセントの一酸化炭素のみならず,濃度10パーセントの一酸化炭素を含む気体にも,少なくとも一定の条件の下では,解凍後のマグロのメト化を防止し,鮮度を誤認させるおそれがあることが認められるものである。 一方,前記1(1)ア(エ)のとおり,本件燻煙処理において用いられる燻煙中には,数パーセントないし10パーセント前後の一酸化炭素が含まれるのであるから,本件食品についても,一酸化炭素のメト化防止作用により,解凍後のメト化が防止される可能性は,少なくとも潜在的には存在するものといわざるを得ない。 これに対し,本件燻煙処理において用いられる燻煙について,一酸化炭素の機能により,解凍後のメト化が防止されないこととなる機序については,本件全証拠及び弁論の全趣旨によっても,合理的な説明を見出すことができない。 - 31 -(ウ)また,本件燻煙処理は,もともと,前記1(1)イのとおり,マイナス18度での冷凍保存中に生ずるメト化を防止することを目的として開発された製法であるところ,甲第27号証(17頁)及び乙第22号証の2によれば,文献調査の結果,マグロ等の色調変化を防止し,鮮やかな赤色が維持される原因につき,一酸化炭素の機能以外の原因は発見されていないことが あるところ,甲第27号証(17頁)及び乙第22号証の2によれば,文献調査の結果,マグロ等の色調変化を防止し,鮮やかな赤色が維持される原因につき,一酸化炭素の機能以外の原因は発見されていないことが認められるのであって,このようなメト化の防止作用は燻煙中の一酸化炭素の機能によるものと推認するほかない。そうすると,本件燻煙処理で用いられる燻煙については,少なくとも冷凍保存中には一酸化炭素のメト化防止機能が作用しているものといわざるを得ないが,一方で,本件燻煙処理で用いられる燻煙について,解凍後のメト化防止作用がないこととなる機序については,本件全証拠及び弁論の全趣旨によっても,合理的な説明を見出すことができない。 (エ)ところで,法6条は,指定添加物として添加物の使用が許される要件として,厚生労働大臣が,学識経験のある者のうちから任命された委員等で構成される薬事・食品衛生審議会(厚生労働省設置法11条2項,薬事・食品衛生審議会令3条参照)の意見を聴いた上で,人の健康を害するおそれがないものと認められることが必要であるとしている。そうすると,法6条は,ある添加物の使用が許容されるか否かの判断に当たっては,当該添加物の使用により人の健康を害するおそれがないことについて,合理的な説明が可能か否かを重要な判断基準としているものと解するのが相当である。 この点,本件燻煙処理については,前記(イ),(ウ)のとおり,少なくとも一定の条件の下で,一酸化炭素を含む燻煙が付加されることにより,一酸化炭素のメト化防止作用が生じるおそれがあることをうかがわせる事情が認められるところ,そのような作用が生じない機序について,合理的な説明を見出すことができない。 - 32 -加えて,前記イ(イ)のとおり,平成10年実験及び共同添付資料実験の結果については,濃度1 認められるところ,そのような作用が生じない機序について,合理的な説明を見出すことができない。 - 32 -加えて,前記イ(イ)のとおり,平成10年実験及び共同添付資料実験の結果については,濃度10パーセントの一酸化炭素を含む気体に関して差異があるものであることを考慮すれば,これらの実験結果が,濃度10パーセントの一酸化炭素を含む燻煙について,無処理のマグロと同様に色調が変化するとの結論で一致しているとしても,前記のとおり,その機序につき合理的な説明を見出すことができないとの状況の下では,そのような結果が,一定の条件の下でのみ生ずる結果である可能性は否定できず,他の条件の下での鮮度誤認のおそれを否定にするに足りるほど,安定的な実験結果であると評価することはできない。 したがって,本件燻煙処理で使用される燻煙についても,一酸化炭素のメト化防止効果により,消費者をしてマグロの色調につき誤認させるおそれはなお存するものといわざるを得ない。 (オ)以上によれば,本件食品について,一酸化炭素を使用した鮮魚一般と同様に,既存燻製品と異なる取扱いをし,添加物として一酸化炭素を使用したものとして本件違反通知をしたことについては合理性が認められるのであって,平等原則違反に関する原告の主張は理由がない。 (5)なお,原告は,①厚生労働省の担当者であるP4は,本件燻煙処理について,本来解凍後のメト化防止作用の有無を判断すべきところ,冷凍中のメト化防止作用に着目して本件燻煙処理に対する規制を行ったものであり,また,②調査会審議についても,本件食品に鮮度誤認のおそれがあるか否かについてほとんど議論されないまま,厚生労働省による強引な誤導により,本件食品が一酸化炭素を添加物として使用したとの取りまとめをしたものであるとして,本件食品に対する取締りは不合理 それがあるか否かについてほとんど議論されないまま,厚生労働省による強引な誤導により,本件食品が一酸化炭素を添加物として使用したとの取りまとめをしたものであるとして,本件食品に対する取締りは不合理である旨主張する。 しかしながら,前記(4)のとおり,本件食品に鮮度誤認のおそれが認められ,既存燻製品と異なる取扱いをすることに合理性が認められる以上,仮に原告の前記主張を前提としても,本件の結論を左右するものとはいえない。 - 33 -また,前記(4)アのとおり,平成10年実験及び共同添付資料実験の結果は,いずれも調査会審議の資料として供されているところ,これらの実験は,いずれも,解凍後のマグロの色調変化を測定したものである。特に,平成10年実験は,P4の指定により使用する検体の種類が選定され,実験自体にもP4が立ち会ったというものであるから,P4としては,鮮度誤認のおそれの有無の判断に当たっては,解凍後の色調変化の有無を問題とすべきことを十分に理解していたものというべきである。確かに,P4は,本件訴訟において,本件燻煙処理について,解凍前のメト化の防止に着目した旨供述しているものはあるが,上記のような事情に照らせば,上記供述をもって,厚生労働省において,解凍前のメト化防止作用のみに着目して本件燻煙処理の取締りを行ったものとは認め難いのであって,P4の上記供述は,前記(4)で判示したところを左右するものではない。 また,証拠(甲27,33,34)によれば,調査会審議においては,平成10年実験の結果について,無処理区と10パーセント燻煙処理区が同じ色調変化を示したことについて十分な審議がされないなど,その審議に問題があることはうかがわれるものの,これを全体としてみれば,一酸化炭素に一般的にメト化防止効果が認められることや,本件燻煙処理に解凍前 調変化を示したことについて十分な審議がされないなど,その審議に問題があることはうかがわれるものの,これを全体としてみれば,一酸化炭素に一般的にメト化防止効果が認められることや,本件燻煙処理に解凍前のメト化防止効果があることを前提として,平成10年実験及び共同添付資料実験の結果について,安定的な実験結果が得られていない(甲27の20頁(P7委員の発言))等の発言を受けて,結論として,本件燻煙処理は,一酸化化炭素を添加物として使用したものといわざるを得ないとの取りまとめに至ったものと認められるのであって,その審議に不合理な点があったものとは認められない。 以上によれば,原告の前記主張は採用できない。 本件処分の適法性以上によれば,前記1で判示したとおり,本件食品は,一酸化炭素を添加物- 34 -として使用したものであり,前記2で判示したとおり,かつこれに対して本件違反通知をすることが,平等原則に違反するものとはいえないから,本件違反通知は適法なものというべきである。 なお,原告は,厚生労働省の採用する検査方法(A法)は,その誤差が著しく大きいものであって,到底合理的な検査方法とはいえない旨主張する(争点(3))。 しかし,本件食品には,燻煙に含まれる一酸化炭素が人為的に付加されていることは争いがないところ,前記1で判示したところによれば,本件食品が法6条に違反するか否かは,本件食品について,一酸化炭素を含む燻煙が付加されたという客観的事実によって判断されるものであるから,検査方法の当不当は,本件食品が法6条に違反したか否かの判断を左右しないというべきである。 また,前記2で判示したところによれば,鮮魚(本件食品を含む。)への一酸化炭素の使用につき取締りを行う一方で,既存燻製品につき全く取締りを行わないことについて合理性が認められるの というべきである。 また,前記2で判示したところによれば,鮮魚(本件食品を含む。)への一酸化炭素の使用につき取締りを行う一方で,既存燻製品につき全く取締りを行わないことについて合理性が認められるのであり,かつ,本件食品については,一酸化炭素が使用されたものといえることについては前記1で判示したとおりであるから,検査方法の当不当は,本件違反通知についての平等原則の適用に関する判断を左右しないというべきである。 以上によれば,原告の前記主張は,本件訴訟の帰趨に影響を与えるものとはいえない。 第4 結論 よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 千葉地方裁判所民事第3部裁判長裁判官山口博- 35 -裁判官前澤達朗裁判官佐々木清一
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