平成12(行コ)14 地公災基金広島市支部長公務外認定処分取消

裁判年月日・裁判所
平成15年4月25日 広島高等裁判所 広島地方裁判所 平成7(行ウ)5
ファイル
hanrei-pdf-18587.txt

判決文本文17,017 文字)

主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 控訴人(1) 原判決を取り消す。 (2) 被控訴人が,控訴人に対し,平成4年9月17日付けでした地方公務員災害補償法に基づく公務外災害認定処分を取り消す。 2 被控訴人主文同旨第2 事案の概要本件は,広島市の職員である控訴人が,広島市中区ゴミ処理場における廃棄書類焼却作業に従事したこと等により肺真菌症を発症したこと及び肺真菌症は同作業(本件公務)に起因することを理由として,被控訴人に対して地方公務員災害補償法に基づき公務災害の認定請求をしたところ,肺真菌症は公務と相当因果関係をもって発生したことが明らかな疾病とは認められないとして公務外の災害と認定されたため,これを不服として地方公務員災害補償基金広島支部審査会に対して審査請求をしたが棄却され,さらに地方公務員災害補償基金審査会に対してした再審査請求も棄却されたことから,被控訴人に対し,公務外災害認定処分の取消しを求めた事案である。 原審は,肺真菌症が公務に起因するものとは認められないとして,控訴人の請求を棄却した。 控訴人がこれを不服として提起したのが本件控訴事件である。 1 争いのない事実等(争いがないか,掲記証拠によって容易に認定できる事実)(1) 控訴人(昭和29年6月2日生まれ)は,昭和53年4月1日,広島市に職員として採用され,それ以降次のとおりの職場に勤務してきた(甲8,139,弁論の全趣旨)。 昭和53年4月1日安佐北税務事務所市民税課市民税係配属昭和54年4月1日安佐北総合支所課税課市民税係配属昭和55年5月1 してきた(甲8,139,弁論の全趣旨)。 昭和53年4月1日安佐北税務事務所市民税課市民税係配属昭和54年4月1日安佐北総合支所課税課市民税係配属昭和55年5月15日中区収納課第1収納係配属昭和56年6月22日から昭和56年10月31日まで休職(人事課付)昭和56年11月1日中区収納課第2収納係配属昭和60年4月1日安佐南区地域振興課広報公聴係配属昭和60年4月19日から昭和60年4月30日まで休職(人事課付)昭和61年4月1日安佐南区地域振興課振興係配属昭和63年4月1日安佐南区祇園出張所平成元年4月1日西区厚生課年金係配属平成4年4月1日衛生局環境保全課環境管理係配属(2) 控訴人は,この間の昭和55年3月に慢性腎不全を発症して人工透析を受けるようになり,同年5月には身体障害者1級(腎臓の機能の障害により自己の身辺の日常生活活動が極度に制限されるもの。身体障害者福祉法施行規則7条別表5号)の認定を受け,昭和56年4月,生体腎移植手術を受けた(甲32の2,3,甲38の4)。 (3) 控訴人は,西区厚生課年金係において勤務していた平成3年4月11日午前9時ころから10時30分ころまでの間,同僚職員1名とともに廃棄文書(約320キログラム)を持参して広島市a区bc丁目d番e号所在の広島市環境事業局中工場のゴミ焼却施設(以下「中工場」という。)に赴き,ゴミ搬入用投入口前のプラットホームで廃棄文書を燃えやすくなるようにばらばらにほぐしてゴミピットに投入して焼却処分をする作業(以下「本件公務」という。)に従事した。 (4) 控訴人は,平成3年5月27日,京都府立医科大学附属病院第2外科で受診した際,胸部レ うにばらばらにほぐしてゴミピットに投入して焼却処分をする作業(以下「本件公務」という。)に従事した。 (4) 控訴人は,平成3年5月27日,京都府立医科大学附属病院第2外科で受診した際,胸部レントゲン撮影により左上肺野に浸潤影(以下「本件異常陰影」という。)の発現が指摘され,疑肺真菌症と診断され,同月31日,広島大学医学部附属病院第2内科で受診し,肺真菌症(臨床診断)との診断を受け,抗真菌剤の投薬などの治療を受けた(甲4,8,284)。 (5) 控訴人は,平成3年12月19日,被控訴人に対し,本件公務により肺真菌症を発症したもので,肺真菌症は本件公務に起因するとして,地方公務員災害補償法に基づき公務災害の認定請求をしたところ,被控訴人は,平成4年9月17日,控訴人の肺真菌症は「公務と相当因果関係をもって発生したことが明らかな疾病とは認められない」として公務外の災害と認定した(以下「本件処分」という。)。控訴人は,同年11月6日,本件処分を不服として地方公務員災害補償基金広島市支部審査会に対して審査請求をしたところ,平成5年12月27日棄却の裁決がされたので,さらに平成6年1月24日,地方公務員災害補償基金審査会に対して再審査請求をしたが,同年9月7日に前同様棄却の裁決がされ,平成7年1月27日,裁決書が控訴人に送達された。 2 争点公務起因性の有無(1) 控訴人の主張ア公務起因性(ア) 控訴人は,本件公務に従事中病原真菌に感染し肺真菌症を発症した。 仮に他の場所で既に病原真菌に感染していたとしても,過重危険業務である本件公務及び当時の西区厚生課における4月の繁忙期の過重業務とが相まって,潜伏感染していたものが日和見感染により肺真菌症を発症したものである。 (イ) 被控訴人は,本 ても,過重危険業務である本件公務及び当時の西区厚生課における4月の繁忙期の過重業務とが相まって,潜伏感染していたものが日和見感染により肺真菌症を発症したものである。 (イ) 被控訴人は,本件公務と肺真菌症との間の相当因果関係のみならず事実的因果関係も認められない旨主張する。しかし,控訴人は免疫抑制剤等を服用し免疫機能が低下していることから日常生活において感染症には十分注意し,腎移植後本件まで真菌症に罹患したことはなかったこと,中工場内はゴミの粉塵や悪臭がひどいなど不衛生であったことからすると,控訴人が中工場で病原真菌に感染した可能性は極めて高いのであって,事実的因果関係は容易に認めることができる。 このことは,本件異常陰影の発現が確認された平成3年5月27日当時,その大きさは約1センチメートルであったところ,控訴人のように免疫機能が低下している場合,半年も1年も前に感染していたとすれば,その程度の大きさにとどまることはなく,左肺はもとより両肺全体に感染が広がっていたはずであり,大きさからすると2か月以内に感染したものと考えられることからも明らかである。 また,西区は広島市最大の人口を抱え,例年3月ないし4月は住民の転出入が1年のうちで最も多くなることから,西区厚生課においても,1日中立ちっぱなしで窓口業務に従事しなければならないほど多忙を極めていた。免疫抑制剤等を服用し,免疫機能が低下している控訴人にとって,このような西区厚生課における業務や320キログラムもの廃棄文書を焼却する本件公務による精神的・肉体的負荷は計り知れないものであった。そして,肉体的負荷のみならず,精神的負荷(精神的ストレス)も免疫機能を低下させる要因となるものであり,このような精神的・肉体的負荷が肺真菌症発症の原因であったことは明らかであって,相当 のであった。そして,肉体的負荷のみならず,精神的負荷(精神的ストレス)も免疫機能を低下させる要因となるものであり,このような精神的・肉体的負荷が肺真菌症発症の原因であったことは明らかであって,相当因果関係も認められる。 なお,被控訴人は,業務の過重性の判断に当たり,同僚職員を基準とすべき旨主張するが,控訴人のように基礎疾病を有するため公務を制限される公務員について,業務の過重性を同僚職員と比較することは,事実上,当該職員を公務災害補償制度の対象外におくことになり相当ではなく,個々の公務員本人を基準に判断すべきである。 イ立証責任控訴人は,昭和56年4月に腎移植手術を受けた後,終生免疫抑制剤の服用に起因する免疫機能の低下により感染症等の予防に注意を要する身体となり,医師から勤務内容は内勤,軽作業が望ましい等の診断を受けていたことから,広島市に対し,診断書を提出して勤務条件の改善措置を求めていたにもかかわらず,広島市は,使用者として労働者に対する就労上の安全配慮義務を怠り,控訴人に対して何ら適切な措置を採らなかった結果,本件公務を命じて肺真菌症を発症させたのであるから,安全配慮義務違反の責めを負うべきところ,このように使用者に安全配慮義務違反がある場合には,公務災害認定請求における労働者の労務と疾病との間の因果関係の立証責任は転換されるべきであり,被控訴人において本件労務と肺真菌症との間に因果関係がないことを立証すべきである。 (2) 被控訴人の主張ア公務起因性(ア) 公務災害補償の公務起因性については,公務と疾病との間に相当因果関係が認められることが必要であり,その前提として事実的因果関係,すなわち公務と疾病との間の条件関係が認められなければならない。 しかし,控訴人に本件 ついては,公務と疾病との間に相当因果関係が認められることが必要であり,その前提として事実的因果関係,すなわち公務と疾病との間の条件関係が認められなければならない。 しかし,控訴人に本件異常陰影の発現が確認されたのは平成3年5月27日であるが,発現時期は不明であり,それが肺真菌症によるものであるとしても(控訴人の疾病は肺結核の疑いがある。),感染時期及び起炎菌が不明であることから中工場において病原真菌に感染したものと特定することは到底できない。しかも,中工場における浮遊真菌濃度は住宅等と比較しても高くはない。また,控訴人の服用していた免疫抑制剤が免疫機能の低下をもたらし,肺真菌症発症の有力原因となることは医学的経験則上明らかなことである。すなわち,控訴人は,腎移植後の拒絶反応を抑制するための免疫抑制剤を服用する中で,結核菌や真菌を含めた生活環境にごく普通に存在する微生物あるいは控訴人の体内に住んでいる常在菌によって,移植後の合併症の第1位である感染症に日和見的に感染したものと推認することが最も合理的で自然である。 以上によれば,中工場において病原真菌に感染したものと特定できないことはもとより,本件公務及び西区厚生課における業務と本件疾病との間の事実的因果関係も認められない。 (イ) 仮に,本件において事実的因果関係が認められるとしても,次のとおり相当因果関係を認めることはできない。 相当因果関係の有無を判断するに当たっては,当該公務が災害との間に条件関係を有する他の原因(公務以外の要因)と比較して,当該災害との関係で相対的に有力な比重を占めていること(相対的有力原因であること)が必要であるところ,前記のとおり,肺真菌症発症の有力原因は免疫抑制剤等の服用による免疫機能の低下にあるというべきであり, 害との関係で相対的に有力な比重を占めていること(相対的有力原因であること)が必要であるところ,前記のとおり,肺真菌症発症の有力原因は免疫抑制剤等の服用による免疫機能の低下にあるというべきであり,本件公務及び西区厚生課における業務が原因であるということはできない。 また,相当因果関係が認められるためには,当該公務が日常業務に比較して「特に過重な業務」でなければならず,業務の過重性については,「同僚職員」,すなわち,当該被災職員と同程度の年齢,経験等を有し,日常業務を支障なく遂行できる健康状態にある者を基準として,客観的に判断されなければならないところ,本件公務及び西区厚生課における平成3年4月当時の業務は,何ら過重なものではなかった。しかも,控訴人は,同課の他の職員に比べて大幅な業務の軽減を受けていたのであって,控訴人にとっても過重な業務ではなかった。 イ立証責任地方公務員災害補償法による災害補償制度において,災害と公務との間に相当因果関係が存在することの立証責任が認定請求権者にあることは明らかであるところ,公務上外の認定の適否と安全配慮義務違反の有無との間に関連性はないのであって,仮に安全配慮義務違反が認められる場合であっても,その立証責任が転換されることはない。 第3 当裁判所の判断当裁判所も,控訴人の本訴請求は理由がないものと判断する。その理由は,次のとおりである。 1 前提事実前記争いのない事実,証拠(甲1ないし23〔枝番号を含む。以下同様〕,31ないし38,41,44,46,49,61,67,71,74ないし78,80ないし82,104ないし120,122,123,127ないし132,138,139,141,142,194,198,207,213ないし223,227,235ないし 7,71,74ないし78,80ないし82,104ないし120,122,123,127ないし132,138,139,141,142,194,198,207,213ないし223,227,235ないし238,241,251,252,254,255,266,275,281,284ないし287,293,294,302,313,314,乙1ないし9,18,24ないし38)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められ,同証拠中これに反する部分は採用しない。 (1) 西区厚生課における業務及び本件公務についてア控訴人は,平成元年4月1日西区厚生課年金係に配属された。平成3年当時,同係には6名の職員がおり,控訴人を含め,国民年金制度の普及,宣伝,国民年金に関する届出,申請裁定書請求等の受理,審査及び推進,国民年金保険料の納付督励及び国民年金印紙の検認の事務等に従事していた。このように西区厚生課における業務は主として内勤事務であり,窓口業務はあったものの,控訴人は昼時間の窓口当番は免除されていた。もっとも,住民の転出入が多く窓口業務が増加する3月及び4月には,控訴人も窓口業務に従事した。また,西区厚生課年金係職員の時間外勤務は3月及び4月には増加するものの,平均すると長時間には及んでなく,控訴人の場合,時間外勤務は原則として免除されており,平成3年度の時間外勤務は月平均0.3時間であった。 同課には保存年限が経過した廃棄文書(市民の住所・氏名・生年月日・性別・国民年金の種別及び国民年金保険料の納付状況が記載された「収納一覧表」が主で,他にも一般に公開することを予定していない個人機密が記載された文書が多く含まれている。)を廃棄する業務があり,同廃棄文書の性質上通常のゴミとして投棄するなどの措置が採れないことから,毎年度当初同課職員が中 一般に公開することを予定していない個人機密が記載された文書が多く含まれている。)を廃棄する業務があり,同廃棄文書の性質上通常のゴミとして投棄するなどの措置が採れないことから,毎年度当初同課職員が中工場に直接搬入した上で焼却場所へ投入して,焼却処理を確認することになっていた。 イ控訴人は,平成3年4月11日午前9時ころから10時30分ころまでの間,同僚職員1名とともに本件公務に従事した。中工場におけるゴミの焼却作業は次のように行われている。 市内のゴミを収集してきたゴミ収集車は,ゴミ搬入用投入口前プラットホームに進入する前に計量された後,プラットホームに並んだ5基のゴミ投入口の前に駐車し,荷箱を傾斜させてゴミをゴミピットに投入する。通常,5基のゴミ投入口のうち2基のゴミ投入口がゴミ収集車用として,1基のゴミ投入口が個人のゴミ搬入用としてそれぞれ使用され,残る2基のゴミ投入口は閉鎖されている。ゴミピットのゴミはゴミクレーンによって投入ホッパーに投入され,自動的に乾燥火格子に移送されて焼却される。ゴミをばらばらにして燃えやすくするため,ゴミクレーンでゴミピットのゴミをつかんで高く持ち上げ,上でゴミを離して下に落とす作業をしている(控訴人が本件公務に従事していた際も,このようにしてゴミクレーンがゴミピットに集積されたゴミを攪拌していた。)。燃焼に必要な空気は,押込送風機によりゴミピットから吸引されるため,ゴミピット内は常に負圧状態になっている。そのため,ゴミ収集車からゴミを投入する際,空気がゴミピットの外部から内部に向かって流れ込むことになり,ピット内部のゴミの粉塵や悪臭等が外部に向けて発散することが少ない構造となっている。 ウ被控訴人は,平成4年7月30日の木曜日及び翌31日の金曜日,中外テクノス株式会社(以下「中外 とになり,ピット内部のゴミの粉塵や悪臭等が外部に向けて発散することが少ない構造となっている。 ウ被控訴人は,平成4年7月30日の木曜日及び翌31日の金曜日,中外テクノス株式会社(以下「中外テクノス」という。)に委託して中工場における浮遊真菌濃度の測定を行った(なお,浮遊真菌のサンプリング中,ゴミクレーンがゴミピット内のゴミを攪拌していた。)。午前9時30分から午前10時までの間における中工場プラットホームにおける浮遊真菌濃度の測定結果は,ゴミ投入用ゲート近くで0.20から0.27個/リットル,同ゲート向かい側で0.11から0.15個/リットルであった。他の施設における浮遊真菌濃度を測定した結果は,事務所ビルで0.02から0.03個/リットル,病院(病室)で0.03個/リットル,地下鉄構内で夏0.20から0.47個/リットル,冬0.17から0.22個/リットル,住宅では居間0.46個/リットル,寝室0.50個/リットル,地下街で0.36から0.67個/リットル,というものであった。 (2) 肺真菌症についてア控訴人は,昭和56年4月,京都府立医科大学附属病院で生体腎移植の手術を受けた後,経過観察のため同病院第2外科で定期的に受診していたところ,平成3年5月27日の胸部レントゲン撮影の結果本件異常陰影の発現が確認された(なお,これ以前では,平成元年10月30日に胸部レントゲン撮影が行われたが,その際には異常陰影は認められていない。)。そこで,同病院の医師の紹介により,同月31日,広島大学医学部附属病院第2内科を受診した。同病院の医師A(以下「A医師」という。)は肺真菌症を疑い,控訴人に対して抗真菌剤であるジフルカンを投与して治療を行ったところ,同年6月11日の胸部レントゲン撮影の結果では本件異常陰影の縮小傾向が見られた 医師A(以下「A医師」という。)は肺真菌症を疑い,控訴人に対して抗真菌剤であるジフルカンを投与して治療を行ったところ,同年6月11日の胸部レントゲン撮影の結果では本件異常陰影の縮小傾向が見られたので,肺真菌症(臨床診断)と診断して同年7月16日までジフルカンを継続投与したところ,本件異常陰影は消失するに至った。A医師は,控訴人の症状について,真菌が検出されず起炎菌の採取もできなかったこと,ツベルクリン検査及び血沈検査の擬陽性反応から肺結核も疑ったが喀痰培養検査によって結核菌が検出されなかったこと及び抗真菌剤であるジフルカンの投与により本件異常陰影が縮小したことから,治療的診断として肺真菌症と診断したものであった。 イ肺真菌症は肺に真菌(かび)が感染・寄生して起こる病気である。人体にはいろいろな細菌,ウイルス等の微生物が常在し,これらの微生物は人体の周囲にも数多く浮遊するなどして存在するが,人体には抵抗力が備わっているので,通常これらの微生物による感染,発症は生じない。しかし,抵抗力が低下すると,これらの微生物が病原性を発揮して感染,炎症を起こすことがある。真菌もこのような微生物の1つであり,人体内及びその周辺に広く存在し,病原性が弱く,通常は病気を起こすことはないが,身体の抵抗力が落ちてくると,病原性を発揮していわゆる日和見感染を起こすことがある(後記(3)イのとおり,免疫抑制剤を服用している場合,免疫機能の低下により通常なら何ら問題のない体内の真菌等による感染症の発症の可能性が高いとされている。)。このような真菌は,種類は多いが,日本で問題になるのは,アスペルギルス,カンジダ,クリプトコッカス等である。現在,日本おける内臓真菌症の大部分は,抵抗力が低下した宿主に発生する弱病原性真菌による日和見感染といわれており,肺は生命維 本で問題になるのは,アスペルギルス,カンジダ,クリプトコッカス等である。現在,日本おける内臓真菌症の大部分は,抵抗力が低下した宿主に発生する弱病原性真菌による日和見感染といわれており,肺は生命維持に必要な酸素を取り込むために外界と大きな面積をもって常に接しているため真菌症を最も来しやすい臓器とされ,また,全身の静脈血が必ず還流するため,他の臓器からの転移巣もできやすく,内臓真菌症では肺真菌症が最も多い。このような感染,発症のしくみから,肺真菌症は感染の時期,場所,原因を特定することが一般に困難とされている。 ウ控訴人の肺真菌症発症の原因等に関する医師の意見は次のとおりである。 (ア) A医師(甲8)免疫抑制状態にあることが第1の原因と考えられるとしている。また,感染場所を特定することは不可能であるが,中工場に真菌が多数存在することが明らかであれば相対的に肺真菌症になる確率は高くなるかもしれないが,原因とするには不確定要素が多いと感じるとしている。 (イ) B(B神経内科クリニックの医師。以下「B医師」という。甲80)肺真菌症の発症が腎移植後10年経過後であることから,免疫抑制剤の服用というだけでは十分な説明がつかないとし,本件公務中真菌を多量に吸い込んだ可能性が発症要因として最も重要であるとしながら,さらに,職場のストレスが関与していた可能性が否定できないとする。 (ウ) C(後記(3)アの昭和60年に控訴人が深部下大静脈血栓症を発症した当時広島大学医学部付属病院で治療を担当した医師。以下「C医師」という。甲207,223,254,302)C医師は,腎移植後16年(ただし,「16年」は「10年」の誤記と思われる。)経過していることから,肺真菌症発症直前に何か特段の状 下「C医師」という。甲207,223,254,302)C医師は,腎移植後16年(ただし,「16年」は「10年」の誤記と思われる。)経過していることから,肺真菌症発症直前に何か特段の状況変化があったものと考えられるとし,控訴人からの聞き取りのみならず,中工場に実際に赴いた上,西区厚生課の過重業務及び不衛生な環境下での本件公務が肺真菌症発症の原因となった可能性が非常に高いとしている。 (エ) D(社会保険広島市民病院の医師。以下「D医師」という。乙28,38)免疫抑制剤を服用している場合に罹患する真菌症は,外から真菌が体内に入って感染する外因性の感染よりも常在菌による内因性の可能性が高いこと,感染時期の確定は非常に難しいこと,中工場の浮遊真菌濃度は高くないとの科学的データがあることから,中工場での真菌の吸引により肺真菌症を発症した可能性は低いとしている。また,免疫抑制剤服用患者の日和見感染については,労働負荷のみに発症原因を特定することは困難であるとする。 (3) 控訴人の病歴等についてア控訴人は,昭和55年3月ころ,慢性腎不全を発症し,同年5月には身体障害者1級(腎臓の機能の障害により自己の身辺の日常生活活動が極度に制限されるもの)の認定を受け,昭和56年4月14日,京都府立医科大学付属病院で生体腎移植手術を受けた。その後の控訴人の病歴はおおむね次のとおりであるが,他に咽頭炎,湿疹等にも罹患したことがある。 昭和60年1月深部下大静脈血栓症発症昭和61年7月唾液腺炎発症昭和61年10月肝炎発症,以後慢性化昭和62年1月帯状疱疹発症昭和62年8月血栓症の症状出現昭和62年9月肝機能の増悪昭和62年 昭和61年10月肝炎発症,以後慢性化昭和62年1月帯状疱疹発症昭和62年8月血栓症の症状出現昭和62年9月肝機能の増悪昭和62年12月カンジダ舌炎発症昭和63年4月肝機能が更に増悪平成3年5月本件肺真菌症平成3年8月肺感染症(結核)平成4年2月舌炎発症(なお,控訴人は,カンジダ舌炎発症の事実を否認するが,京都府立医科大学付属病院のカルテ(甲286)に「舌炎」が繰り返し発症していること,口腔内抗真菌剤であるファンギゾンシロップを服用していることが記載され,A医師の学会報告(甲82)にも時々カンジダ舌炎を発症しファンギゾンシロップを服用している旨の記載があり,これらが誤りであることを示す根拠はなく,カンジダ舌炎の発症を否定することはできない。また,控訴人は,平成3年8月の結核発症の事実も否認するが,レントゲン撮影による異常陰影は本件異常陰影の消失後新たに発生したものであること,この後抗真菌剤であるアンコチル(5-FC)に反応しなかったこと,平成4年1月ツベルクリン反応で強陽性となったこと,同年6月広島市民病院において3回にわたり喀痰培養検査を実施したところ,結核菌が検出されたこと〔控訴人は,同結果を検査ミスであると主張するが,他の病院では検出されなかったというだけでは検査ミスであると認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠もない。〕,平成5年1月から3月にかけて抗結核剤であるイソニアジド,リファンピシンが投与されたところ肺陰影は増悪しなかったことからすると,結核を発症していた可能性が極めて高いというべきである〔もっとも,控訴人には,咳,痰などの呼吸器症状はなかったが,結核に罹患しても呼吸器 ピシンが投与されたところ肺陰影は増悪しなかったことからすると,結核を発症していた可能性が極めて高いというべきである〔もっとも,控訴人には,咳,痰などの呼吸器症状はなかったが,結核に罹患しても呼吸器症状のない場合もあり,呼吸器症状がないからといって結核を発症していないとはいえない。〕)。 イ移植は,他人の臓器を体内に取り入れるものであることから,これを異物と認め,取り除こうとする作用,すなわち拒絶反応が生じる。この拒絶反応をいかに抑えるかが移植の成否を決める重要なポイントであるところ,拒絶反応を抑え,移植腎を生着させるために免疫抑制剤が不可欠であり,しかも,腎臓が生着している限り,終生その使用を継続しなければならない。免疫抑制剤には,作用の仕方により副腎皮質ステロイド剤のほか,代謝拮抗剤,カリシニューリニンヒビター,抗リンパ抗体の種類があるが,効果域(薬剤が効果を発揮する血中量となる用量域)と中毒域(薬剤による機能障害すなわち副作用を発現する用量域)の範囲が比較的狭いことから,数種類の作用の異なる免疫抑制剤を組み合わせて投与するのが一般的である。また,使用量が適正であっても,長年投与を続けることによる副作用もある(例えば,イムランは肝機能異常を生じやすい。)。免疫抑制剤の使用によって,免疫機能が低下するため,感染症を発症しやすく,しかも重篤化しやすい。このため感染症は,腎移植後の合併症の第1位を占めている。主要な感染症の75パーセントは腎移植後4か月前後までに発症するとされているが,その後もときに真菌感染症や結核などが起こることがあるとされる。真菌症については,1年以内の発症が60パーセント余りとの研究もある。また,真菌症と免疫抑制剤との関係でいうと,近年使用されるようになったシクロスポリン,タクロリムスといった免疫抑制剤と比 される。真菌症については,1年以内の発症が60パーセント余りとの研究もある。また,真菌症と免疫抑制剤との関係でいうと,近年使用されるようになったシクロスポリン,タクロリムスといった免疫抑制剤と比較して,副腎皮質ステロイド剤やイムランを使用している場合の方が真菌症発症が多い傾向にある。 ウ控訴人は,腎移植手術後,終生免疫抑制剤の服用が必要となり,副腎皮質ステロイド剤であるプレドニン,代謝拮抗剤であるイムラン及びブレジニン(昭和62年10月以降)を服用してきている。そのため控訴人は,これに起因する免疫機能の低下により感染症等の予防に注意を要する身体となり,医師等から勤務内容は内勤,軽作業が望ましい,就労は軽易な労務に限るといった診断を受け(ただし,日常生活においては,外出の制限はなく,軽いレジャーやスポーツは可能とされている。),自らも飲酒・喫煙を辞め,できるだけ雑踏を避け,含嗽剤であるイソジンガーグル等感染症予防のために薬剤を使用したり,休養を取るよう心がけていた。 2 判断(1) 公務起因性ア地方公務員災害補償法に基づく補償制度は,地方公務員の公務上の災害等による災害(負傷,疾病,障害又は死亡をいう。)に対する補償を迅速かつ公正に実施し,もって地方公務員及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とするものである。このことから「公務上の災害」とは,公務と相当因果関係をもって生じた災害を指し,当該公務員の使用者たる地方公共団体の過失の有無は問わないものと解すべきところ,前記の相当因果関係があるというためには,経験則,科学的知識に照らし,その災害が当該公務に内在又は随伴する危険が現実化したことによるものと認められることが必要であると解するのが相当である。また,相当因果関係を認める前提として,当該公務に 経験則,科学的知識に照らし,その災害が当該公務に内在又は随伴する危険が現実化したことによるものと認められることが必要であると解するのが相当である。また,相当因果関係を認める前提として,当該公務に従事しなければ災害が発生しなかったといえること,すなわち,公務と災害との間に条件関係ないし事実的因果関係のあることが必要となる。 イそこで,本件に関し,まず,前記の条件関係ないし事実的因果関係があったかどうかについて検討する。 (ア) 控訴人は,中工場で本件公務に従事中病原真菌に感染して肺真菌症を発症した旨主張するところ,抗真菌剤であるジフルカンの投与により本件異常陰影が縮小,消失し,また,医師らも肺真菌症を発症した,あるいはその可能性が高い,その疑いがある等の診断,意見を述べており,肺真菌症の発症を否定する根拠もないこと(前記1(2)ア,ウ)からすると,控訴人が肺真菌症を発症したこと自体の可能性は高いということができる。そして,B医師,C医師は,本件公務中に浮遊真菌を吸引して肺真菌症に感染したとの意見を述べる(前記1(2)ウ)ところ,これらの意見は,真菌症の発症が,腎移植後10年も経過した後であること及び中工場に浮遊真菌が多いことを前提としたものである。 しかしながら,控訴人は,前記1(3)アのとおり,腎移植後昭和62年に帯状疱疹,カンジダ舌炎(カンジダは真菌の1種である。),平成3年8月に結核等に感染しており,咽頭炎の発症も含めれば,控訴人の腎移植後の感染症発症は少なくないものであること,腎移植後の真菌症の60パーセント余りは1年以内の発症であるとしてもそれ以後も発症するものであること(前記1(3)イ)からすると,肺真菌症の発症が腎移植後10年経過後のことであるからといって,そのことが直ちにそのころ控訴人の身辺に りは1年以内の発症であるとしてもそれ以後も発症するものであること(前記1(3)イ)からすると,肺真菌症の発症が腎移植後10年経過後のことであるからといって,そのことが直ちにそのころ控訴人の身辺に格別状況変化のあったことを根拠づけるというものとはいえない。また,前記1(1)ウによれば,中工場のゴミ投入口付近の浮遊真菌濃度は,通常の生活圏の濃度と比較しても高いとはいえず,むしろ低いとすらいえることからすると,中工場における浮遊真菌が多いことを前提として,控訴人の肺真菌症発症の可能性,発症時期等を推測することもできない。以上の諸事情に照らすと,B医師,C医師の前記意見はこれを直ちに採用することはできないというべきである。 なお,この点に関し,控訴人は,中工場が不衛生であること,中外テクノスの測定結果は信用できないことを主張し,中外テクノスの測定に関する陳述書(甲242)を提出する。しかし,中工場のようなゴミ焼却場は不衛生に違いないといった日常の衛生感覚の存在することは否定し難いとしても,そのことから直ちに浮遊真菌濃度が高いと根拠づけることは困難である。また,中外テクノスの測定に関しては,前掲陳述書が伝聞にすぎないものであることを考慮すると,これを採用することは困難であるし,中外テクノスがサンプリングのみ自ら行い真菌培養を別法人に委託したことや,他施設との比較のために使用した資料が既に廃棄されていることなどは,直ちに前記測定結果の信用性が乏しいことの根拠とはならず,真菌のサンプリングに関し,本件公務中と比較して浮遊真菌濃度が低くなるような状況の設定をしたことを認めるに足りる証拠もないのであって,中外テクノスの測定結果を排斥することはできないというべきである。 ところで,前記1(2)アによれば,本件異常陰影は,平成3年5 状況の設定をしたことを認めるに足りる証拠もないのであって,中外テクノスの測定結果を排斥することはできないというべきである。 ところで,前記1(2)アによれば,本件異常陰影は,平成3年5月27日にその出現が確認され,平成元年10月30日には存在していなかったことが認められるが,真菌症に感染した時期は不明であり,起炎菌が特定されていないのであるから,潜伏期間を推測することも困難である。この点控訴人は,半年とか1年前ではあり得ない,2か月以内である等主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。加えて,前記1(2)イのとおり,一般に肺真菌症は感染の時期,場所,原因を特定することは困難であること,A医師,D医師も感染時期,感染場所を特定することは不可能ないし困難との意見を述べていること(前記1(2)ウ),控訴人は,これまでにも感染症に複数回罹患した経験があること(前記1(3)ア),腎移植後の合併症の第1位は感染症であるように免疫抑制剤を服用している場合感染症を発症しやすいこと(前記1(3)イ),A医師は,本件肺真菌症について免疫抑制状態にあることが第1の原因と考えられるとしていることなども併せて考慮すれば,その浮遊真菌濃度が通常の生活圏の濃度と比較しても高いとはいえない(むしろ低い)中工場における約1時間半の作業中に控訴人が病原真菌に感染したものと認めることは到底できないというべきである。 (イ) 控訴人は,他の場所で既に病原真菌に感染していたとしても,西区厚生課における4月の繁忙期における過重業務及び過重危険業務である本件公務が相まって日和見感染により肺真菌症を発症した旨主張する。 しかしながら,前記(ア)のとおり,控訴人が真菌に感染した時期及び場所は不明であり,中工場ではなく他の場所で既に真菌に感染していたこと まって日和見感染により肺真菌症を発症した旨主張する。 しかしながら,前記(ア)のとおり,控訴人が真菌に感染した時期及び場所は不明であり,中工場ではなく他の場所で既に真菌に感染していたことを認めるに足りる証拠は何もない。控訴人は,西区厚生課における4月の繁忙期の過重業務による精神的ストレスが免疫機能を低下させ感染症を発症しやすい状況にあった旨主張し,職場のストレスが関与していた可能性が否定できないとのB医師の意見書(甲80),精神的ストレスが免疫機能に影響を及ぼす旨記載された医学書(甲174ないし180)を証拠として提出する。しかし,精神的ストレスは,職場内のものに限られないし,影響を受ける程度には相当の個人差のあることやB医師の意見書によっても本件において精神的なストレスが肺真菌症の発症に関与した程度は判明しないことなどからすれば,真菌に感染した場所及び時期が特定できない本件において,これ(4月の繁忙期の業務による精神的ストレス)を直ちに免疫機能の低下と関連づけることはできないし,精神的ストレスが免疫機能の低下に影響を及ぼすものであるとしても,D医師が,日和見感染の場合,労働負荷のみに発症原因を特定することはできないとの意見を述べている(前記1(2)ウ)ことなどをも考慮すると,本件において,精神的ストレスが免疫機能の低下を招来して日和見感染したとまで認めることは困難である。 そして,前記1(2)イのとおり,肺真菌症のような内臓真菌症の大部分は,抵抗力が低下した宿主に発生する弱病原性真菌による日和見感染といわれていること,腎移植後免疫抑制剤を服用している場合に罹患する真菌症も外因性ではなく常在菌による内因性の可能性が高いこと(前記1(2)ウ)や,控訴人がこれまでにも真菌症を含めた感染症に罹患していること,A医師が免 腎移植後免疫抑制剤を服用している場合に罹患する真菌症も外因性ではなく常在菌による内因性の可能性が高いこと(前記1(2)ウ)や,控訴人がこれまでにも真菌症を含めた感染症に罹患していること,A医師が免疫抑制状態にあることが第1の原因と考えられるとしていることからすると,控訴人の肺真菌症も常在菌による日和見感染の可能性が極めて高いものと推認するのが相当であり,本件公務及び西区厚生課における4月の業務に従事したことにより肺真菌症を発症したと認めることはできない。 (ウ) 以上によれば,本件公務及び西区厚生課における業務に従事していなければ肺真菌症を発症していなかったということはできず,したがって,本件においては,そもそも本件公務等と肺真菌症との間の条件関係ないし事実的因果関係を認めることはできないというべきである。 ウなお,条件関係ないし事実的因果関係の点をひとまずおくとしても,次に述べるとおり,本件公務及び西区厚生課における業務と本件肺真菌症との間に相当因果関係(すなわち,経験則,科学的知識に照らし,肺真菌症の発症が公務に内在ないし随伴する危険が現実化したこと)を認めることもできない。 すなわち,前記1(3)ウのとおり,控訴人は,医師等から勤務内容について,内勤,軽作業が望ましいとの診断を受けていたところ(ただし,日常生活については,外出は制限されていなかったし,軽いレジャーやスポーツも可能とされていた。),西区厚生課における業務は,前記1(1)アのとおり基本的に内勤であり,全体として時間外勤務の少ない職場であるが,控訴人は昼の窓口業務及び時間外勤務を免除され,従事していた業務も同僚職員と比較して大幅に軽減されていたものであり,医師の診断に反するものとはいえなかった。また,控訴人は西区厚生課に在職中の平成2年10月に の窓口業務及び時間外勤務を免除され,従事していた業務も同僚職員と比較して大幅に軽減されていたものであり,医師の診断に反するものとはいえなかった。また,控訴人は西区厚生課に在職中の平成2年10月に社会保険労務士の資格を取得し,同年11月には,結果的に不許可になったものの,営利を目的とする私企業を営むことの許可申請書を広島市長あてに提出し,副業としてコンサルタント業を開始することを計画する(甲49の1)など公務以外の営業まで行おうとしており,控訴人にとって,西区厚生課における業務がことさら精神的・肉体的に負担になっていたことは窺えない。さらに,控訴人は,免疫抑制剤の服用により免疫機能が低下した状態にあり,公務とは関係なく常在菌によって日和見感染する可能性も高かったのである(なお,控訴人は,西区厚生課における業務及び本件公務が控訴人にとって過重であったことを縷々主張するところであるが,これを裏付ける的確な証拠はない。)。 以上によれば,控訴人の肺真菌症の発症は,仮に控訴人を基準として判断し,西区厚生課は4月が繁忙期であることを考慮しても,経験則,科学的知識に照らし,同課における業務及び中工場において約1時間半同僚職員1名とともに従事した本件公務に内在又は随伴する危険が現実化したものと認めることはできないというべきである。 (2) 立証責任控訴人は,使用者に安全配慮義務違反の事実があるときは,公務起因性の立証責任は転換され,被控訴人において公務と疾病との間に相当因果関係が存在しないことを立証すべきである旨主張する。 しかし,地方公務員災害補償法に基づく災害補償制度は,前記のとおり,使用者たる地方公共団体の過失を要件とせず,相当因果関係が認められれば,公務起因性が認められ,また,災害によって当該公務員に生じた全損害 し,地方公務員災害補償法に基づく災害補償制度は,前記のとおり,使用者たる地方公共団体の過失を要件とせず,相当因果関係が認められれば,公務起因性が認められ,また,災害によって当該公務員に生じた全損害を填補するものでもないことからすると,使用者の責任を追及する根拠となる安全配慮義務違反(故意又は過失)の有無と,地方公務員災害補償法に基づく災害補償制度における公務起因性の有無とは全く次元を異にするものであり,安全配慮義務違反の有無が相当因果関係の立証責任に影響を及ぼすものということは到底できないのであって,控訴人の主張は採用できない。 3 以上の次第で,控訴人の本訴請求は理由がないから,これを棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 広島高等裁判所第2部裁判長裁判官鈴木敏之 裁判官松井千鶴子 裁判官工藤涼二

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る