令和7年3月18日宣告裁判所書記官令和5年(わ)第273号、同第289号傷害致死、傷害被告事件判決 主文 被告人を懲役8年に処する。 未決勾留日数中320日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、分離前の相被告人A、同B及び同Cが共同で販売していた薬物リキッドを、D及び同人の友人であるEが代金を支払うことなく持ち逃げしたことから、Aらに加勢してD及びEに対して制裁のために暴行を加えようと考え、A、B、C及び分離前の相被告人Fと共謀の上、第1 令和5年9月26日午後8時39分頃から同日午後9時頃までの間に、高知市ab番地南西約150メートル先路上において、Eに対し、その顔面等を拳で多数回殴り、足で多数回蹴るなどの暴行を加え、よって、同人に加療約4週間を要する鼻骨骨折、頭部・顔面・四肢打撲傷及び頸椎捻挫の傷害を負わせ(同年10月18日付け起訴状公訴事実)、第2 令和5年9月26日午後9時34分頃から同日午後9時50分頃までの間に、同所において、Dに対し、その顔面等を拳と掌で多数回殴り、足で多数回蹴り、その臀部を安全靴を履いた足で1回蹴るなどの暴行を加え、同人に頭部打撲傷、外傷性くも膜下出血、鼻骨骨折、多量鼻出血等の傷害を負わせ、よって、その頃から同月27日午前1時頃までの間に、同所において、同人を前記傷害に基づく外傷性ショックにより死亡させた(同年11月8日付け起訴状公訴事実)。 (争点に対する判断)本件の争点は自首の成否であり、弁護人は、被告人が高知東警察署に出頭した時点(令和5年9月27日午後10時41分頃)で、被告人が本件の犯人であること が捜査機関に発覚していたとはいえず、被告人に自 争点は自首の成否であり、弁護人は、被告人が高知東警察署に出頭した時点(令和5年9月27日午後10時41分頃)で、被告人が本件の犯人であること が捜査機関に発覚していたとはいえず、被告人に自首(刑法42条1項)が成立すると主張する。 しかしながら、証拠(証人E及び同Gの各公判供述、甲88)によれば、①同日午後0時20分頃にEが高知東警察署に出頭した際、Eの雇用主であるH及び高知県警察本部に所属する警察官であるIから、高知東警察署刑事課長であったGに対し、本件の犯人のうちの一人が「被告人(カタカナ表記)」という人物である旨をEが述べているとの情報提供がなされ、その後、Gがホワイトボードを利用するなどしてかかる情報の課内での共有を図った事実、②同日午後4時55分頃、同課に所属する警察官が、被告人の生年月日を入力して「被告人(カタカナ表記)」に係る犯罪経歴照会を行った事実が認められ、これらの事実からすれば、被告人が高知東警察署に出頭した時点では、Gら警察の捜査担当者が、合理的根拠をもって被告人を本件の犯人として把握していたことは明らかであるから、被告人に自首は成立しない。 この点、弁護人は、被告人が同署に出頭した際に自首調書が作成されたことなどを指摘し、捜査機関が被告人を本件の犯人として特定していなかった可能性があると主張するが、本件の捜査を担当したGの公判供述によれば、被告人が自ら出頭してきたことを踏まえて念のために自首調書を作成したというのであり、前記の経緯に照らしても、被告人が同署に出頭した時点で被告人が犯人であることが捜査機関に発覚していたのは明らかであるから、弁護人の主張は採用できない。 したがって、自首の成否に関するその余の点について判断するまでもなく、被告人には自首が成立しない。 (量刑の理由) 1 本件は、 に発覚していたのは明らかであるから、弁護人の主張は採用できない。 したがって、自首の成否に関するその余の点について判断するまでもなく、被告人には自首が成立しない。 (量刑の理由) 1 本件は、被告人が、いずれも他の共犯者4名と共謀の上、被害者に対し殴る蹴るの暴行を加えて傷害を負わせた傷害の事案(判示第1)と、その直後に、別の被害者に対し殴る蹴るの暴行を加えて傷害を負わせ、外傷性ショックにより死亡させた傷害致死の事案(判示第2)である。 そこで、本件の量刑判断の中心となる重い判示第2の傷害致死の事案について、共犯として関与し、動機が集団リンチであり、被害者の遺族と示談等をしておらず、被告人に見るべき前科がない事案を同種事案として犯情を検討し、更に判示第1の傷害の事案の犯情、被告人個別の犯情及び一般情状を検討して被告人に対する量刑を決める。 2 まず、判示第2の傷害致死の事案についてみると、被告人らは、犯行に使用する道具を準備し、人気のない場所を犯行現場として選定した上、Fの知人を介して同所にDを連れ出すなど、一定の計画を立てて犯行に及んでいる。犯行態様は、無抵抗の同人を複数名で取り囲んだ上、その頭部や顔面等の重要な部位を数十回にわたって殴る蹴るなどして一方的に暴行を加えるというもので、強度かつ執拗である。 かかる犯行は、本件各犯行の被害者であるD及びEがA、B及びCが販売していた薬物リキッドを持ち逃げしたことが発端となってはいるが、これについて制裁を加えるため集団で暴行を加えるというのは極めて反社会的な発想であって、動機や経緯に酌むべき点を見出すことはできない。 被害者であるDは、前記のとおり人気のない場所で激しい暴行を受けて重傷を負い、十分な救命活動もなされないまま22歳という若さで命を失ったものであり、同人が受け に酌むべき点を見出すことはできない。 被害者であるDは、前記のとおり人気のない場所で激しい暴行を受けて重傷を負い、十分な救命活動もなされないまま22歳という若さで命を失ったものであり、同人が受けた肉体的・精神的苦痛が大きいことは明らかであって、その無念は察するに余りある。被害結果は取り返しのつかない重大なものであり、愛する家族を奪われたその遺族らが厳重処罰を望むのは当然である。 加えて、被告人らは、判示第2の犯行後、Bが単独で犯行に及んだと偽装することを合意し、同人のみを犯行現場に残して立ち去った後、犯行時に着用していた衣服等を処分したりするなどの各種証拠隠滅行為を行っており、犯行後の事情も芳しくない。 3 判示第1の犯行も、判示第2の犯行の直前にこれと同様の動機・経緯で敢行したもので、同様に無抵抗のEに対して激しい暴行を一方的に加えており、同人が 負った傷害の程度も比較的重いから、軽く見ることはできない。 4 次に、被告人個別の犯情等について検討する。 被告人は、前記の薬物リキッド販売の当事者ではないが、友人であるAから同人が販売していた薬物リキッドを被害者らに持ち逃げされたことを聞き、執行猶予中のAが犯罪行為に関与すれば重い処分を受ける可能性があることから、同人に代わって被害者らに制裁を加えようと考えて本件各犯行に加担したもので、被告人自身が関与するに至った事情に酌むべき点はない。被告人は、拳にバンテージを巻くなどの準備をした上、判示第2の犯行においては、Dに対し、上半身を複数回蹴ったり頬に2回掌底打ちをしたりするなどの暴行を加え、判示第1の犯行においても、Eに対し、馬乗りになって顔面等を多数回殴ったり足蹴りにしたりするなどの共犯者間で最も激しい暴行を加えており、いずれの犯行においても主体的かつ積極的に行動してい 行を加え、判示第1の犯行においても、Eに対し、馬乗りになって顔面等を多数回殴ったり足蹴りにしたりするなどの共犯者間で最も激しい暴行を加えており、いずれの犯行においても主体的かつ積極的に行動している。 そして、被告人は、共犯者間で特に優位な立場にはなかったものの、各犯行において果たした役割は他の共犯者らと同様従属的なものではなく、その責任は、被告人と同様に直接的な暴行を加えた局面が多かったA、B及びCと概ね同等の範囲にある。 5 最後に一般情状について検討すると、自首は成立しないものの自ら警察署に出頭したこと、本件各犯行を認めて反省の言葉を述べていること、社会福祉士が情状証人として出廷し被告人の成育歴や特性を踏まえて更生支援計画を策定したことや今後も被告人を継続的に支援することを述べ、被告人がそれに従う意向を示していること、まだ若年であることなどは被告人に有利な事情として認められる。 6 以上で検討したところを基に、被告人の量刑を決める。同種事案の量刑傾向をみると、概ね懲役4年から12年までの範囲に分布し、中間値は懲役8年である。 集団リンチによる傷害致死の事案は、複数の共犯者が関与するもので、被害者に対して一方的に激しい暴行が加えられるのが通常であること、同種事案に、判示第2の犯行で使用された安全靴や竹の棒に比べて危険性が高い刃物や火気等の凶 器を危険な用法で使用した事案や、長期間にわたり常習的に同一の被害者に激しい暴行を加えた事案など犯行態様が本件より苛烈なものが相当数存在することを踏まえ、判示第2の犯行の直前に敢行された判示第1の事案の犯情も考慮すると、同種事案における本件の犯情は中程度に位置付けられる。そして、本件の犯情に、被告人個別の犯情及び一般情状を考慮し、さらに、共犯者4名の判決結果(A及びFについて懲役8 第1の事案の犯情も考慮すると、同種事案における本件の犯情は中程度に位置付けられる。そして、本件の犯情に、被告人個別の犯情及び一般情状を考慮し、さらに、共犯者4名の判決結果(A及びFについて懲役8年6月、B及びCについて懲役8年の判決がそれぞれ言い渡されている。)を合わせ考えると、被告人に対し、主文の刑をもって臨むのが相当である。 (求刑:懲役12年、被害者参加人の科刑意見:懲役15年)(弁護人の科刑意見:寛大な判決)令和7年3月18日高知地方裁判所刑事部 裁判長裁判官稲田康史 裁判官大友真紀子 裁判官徳舛純一
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