主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決中,控訴人に関する部分を取り消す。 2 被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して,292万2100円及びこれに対する平成5年10月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。 4 仮執行宣言第2 事案の概要被控訴人鳥取県が開設した鳥取県立中央病院(以下「中央病院」という。)で人工骨頭置換手術を受けた患者であるE(以下「故E」という。)が,同病院の泌尿器科に転院後,鎖骨下静脈穿刺手術(IVH(中心静脈栄養)穿刺手術)を受けた翌日死亡した。本件は,故Eの妻である控訴人他3名が,故Eが死亡したのは,中央病院の医師である被控訴人F,同G(以下「被控訴人ら医師」という。)が,IVH穿刺手術を施行するに際して適切な経過観察を行わず,同手術の手技に失敗した過失によるものであり,また故Eの容態が急変した際に適切な救命治療を怠る過失があったなどと主張して,被控訴人らに対し,不法行為又は債務不履行による損害賠償を求める事案である。原審は,被控訴人ら医師に控訴人他3名が主張する過失は認められないとして,控訴人らの請求をいずれも棄却するとの判決をしたところ,控訴人はこれを不服として控訴した(その余の3名については,控訴がなく,同判決は確定した。)。 事実関係の概要は,次のとおり補正するほか,原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」欄に記載(ただし,控訴人に関する部分)のとおりであるから,これを引用する。 1 原判決3頁4行目の「同病院」の次に「の泌尿器科」を加える。 2 原判決3頁14行目の「再入院」から同行の末尾までを「再 記載(ただし,控訴人に関する部分)のとおりであるから,これを引用する。 1 原判決3頁4行目の「同病院」の次に「の泌尿器科」を加える。 2 原判決3頁14行目の「再入院」から同行の末尾までを「再入院し同病院(被控訴人鳥取県)との間で上記傷病の治療を目的とする診療契約を締結した(以下,この入院を「本件入院」と,この契約を「本件診療契約」と,各いう。)。」と改める。 3 原判決6頁16行目の「手術」の前に「上記のIVH穿刺」を加える。 4 原判決7頁17行目の「生じさせ,」の次に「交感神経が昂進し,血管が収縮して」を,同19行目の「遅れにより」の次に「脳出血を起こさせ,」をそれぞれ加える。 5 原判決8頁5行目の「新鮮血」の次に「の下血」を,同11行目の「術後」の前に「人工骨頭置換」をそれぞれ加える。 6 原判決13頁21行目の「種大」を「腫大」と改める。 7 原判決24頁6行目の「胃」を「腎」と改める。 8 原判決27頁12行目の「2100万円」を「2100円」と改める。 第3 当裁判所の判断当裁判所も,控訴人の本件請求はいずれも理由がないからこれを棄却すべきものと判断するが,その理由は,次のとおり補正するほか,原判決「事実及び理由」中の「第5 当裁判所の判断」欄に記載のとおりであるから,これを引用する。 1 原判決28頁2行目の「故Eは,」から同7行目の「以上によると,」までを削除し,同11行目の「数回の」を「同年9月3日及び同月8日に」と,「同年9月13日」を「同月13日」とそれぞれ改める。 2 原判決28頁14行目の「中央病院」の前に「翌14日に」を,同22行目の「症状として,」の次に「同月16日ころには」を,同23行目の「手指」の前に「両」をそれぞれ加える。 3 原判決29頁1行目の「であったこと,」を「であり 病院」の前に「翌14日に」を,同22行目の「症状として,」の次に「同月16日ころには」を,同23行目の「手指」の前に「両」をそれぞれ加える。 3 原判決29頁1行目の「であったこと,」を「であり,腎不全に対する術前の全身コントロールを要したこと,」と改め,同7行目の「処方された。」の次に「同月24日の血液検査の結果は,前記「第3 争点に関する当事者の主張」1,(2)ア(ア)d(原判決11頁18行目から同23行目まで)に記載のとおりである。」を,原判決29頁9行目の「(本件手術)。」の次に「同手術後(同月30日)の血液検査等の結果は,前記「第 3 争点に関する当事者の主張」1,(2)ア(ア)e(原判決12頁2行目から同9行目まで)に記載のとおりである。」をそれぞれ加え,原判決29頁14行目の「本件手術後の」を「本件手術後に血圧が低下するなどしたため,翌」と,同21行目の「同月4日」を「同月3日」とそれぞれ改める。 4 原判決30頁6行目の「投与することとした」の次に「(翌4日には投与中止)」を加え,同16行目の「濃厚赤血球(A型)」を「貧血解消のため濃厚赤血球(A型,400ml)2パック」と改め,「嘔気,嘔吐」の前に「絶飲食をしているにもかかわらず,」を,同22行目の「胆嚢腫張」の前に「リンパ節腫大はなかったが,」をそれぞれ加える。 5 原判決31頁5行目の「示された。」の次に「なお,内科診断に基づいて同日行われたアミラーゼ検査では,アミラーゼ上昇はごく軽度で,尿中アミラーゼも高値ではなかった。」を加え,同19行目と20行目との間に改行して次のとおり加える。 「セ故Eが泌尿器科に転科,入院した平成5年10月1日から同人が死亡した同月8日までの間の故Eの血液検査の結果,尿量の変化,脈拍・体温の変化,症状の経過は,前記「第3 争 次のとおり加える。 「セ故Eが泌尿器科に転科,入院した平成5年10月1日から同人が死亡した同月8日までの間の故Eの血液検査の結果,尿量の変化,脈拍・体温の変化,症状の経過は,前記「第3 争点に関する当事者の主張」1,(2)ア(イ)c,d(a)ないし(d)(原判決14頁25行目から20頁5行目まで)に記載のとおりである。」 6 原判決31頁20行目の「セ」を「ソ」と,32頁4行目の「ソ」を「タ」と,同10行目の「タ」を「チ」と,33頁6行目の「チ」を「ツ」と,同18行目の「ツ」を「テ」とそれぞれ改める。 7 原判決31頁24行目の「同人に対し」を「控訴人の承諾を得て,故Eに対し,」と改める。 8 原判決32頁5行目の「同日ころ」を「平成5年10月7日の午前11時ころ」と改める。 9 原判決32頁16行目の「瞳孔も散大し,同日」を「瞳孔が散大(左>右)し,対光反射も消失して同日午前」と改める。 10 原判決33頁20行目の「カルテ(乙9)には,」を「被控訴人Fが作成したカルテの同日欄には,「IVH挿入す→うまく入らず,外科DrJに挿入してもらう」との記載があり(乙9),」と改める。 11 原判決34頁15行目の「なさて」を「なされて」と改め,同22行目から同23行目までを次のとおり改める。 「イ以上によると,もともと故Eは,脳血管障害を引き起こしやすい慢性腎不全(平成5年9月以降およそ一週間に1回の割合で人工透析を受けていた。),高血圧症(前記のとおり,故Eの容態が急変する直前ころの収縮時血圧は190㎜Hg近くを持続していた。),脳梗塞症など種々の基礎疾患を有しており,これに本件手術(人工骨頭置換手術)を経て泌尿器科転院後の,腎不全(尿量減少など),麻痺性イレウス,消化管潰瘍による出血状態,低栄養状態などの不良な全身状 脳梗塞症など種々の基礎疾患を有しており,これに本件手術(人工骨頭置換手術)を経て泌尿器科転院後の,腎不全(尿量減少など),麻痺性イレウス,消化管潰瘍による出血状態,低栄養状態などの不良な全身状態が加わって,急激な意識喪失等の発症経過をたどる脳幹付近の脳出血を起こし死亡したものと推認するのが相当である。 この点,控訴人は,故Eの死因について,人工骨頭置換手術後ストレス状態にあった故Eに対し,長時間にわたるIVH穿刺手術を試みたため,故Eに極度の精神的ストレスを生じさせ,これが原因で同人を脳出血により死亡させた旨主張する。 確かに,控訴人の日記をみても,人工骨頭置換手術後,故Eがかなりのストレス状態にあったことがうかがわれるが(甲8),前記のとおり,IVH穿刺手術の際に被控訴人Fにおいてカテーテルの挿入がうまくいかなかったため外科医であるJ医師が交代してこれを施行するなどしているものの,手術自体は,気胸,血胸など,ショックを引き起こす合併症を発症することなく終了しているうえ,同手術前後で,血圧,脈拍などのバイタルサインにも急激な変化はなく(むしろ手術後の血圧,脈拍とも手術前より一時低下している。),控訴人主張のIVH穿刺手術の四肢振戦も,すでに手術前から断続的かつ著明に出現していたものであり(乙9),同手術から約11時間が経過した後に,故Eの容態が全身けいれんを起こすなどして急変していることなどの事実にかんがみると,控訴人主張のように,IVH穿刺手術が故Eに極度の精神的ストレスを生じさせ,これが原因で同人を脳出血により死亡させたとまで認めるのは困難であるというべきである。 控訴人のこの点に関する主張は理由がない。」 12 原判決35頁20行目の「の欄に,」の次に「『・・・本人は随分とイライラしている様子幻覚症状きびしいた とまで認めるのは困難であるというべきである。 控訴人のこの点に関する主張は理由がない。」 12 原判決35頁20行目の「の欄に,」の次に「『・・・本人は随分とイライラしている様子幻覚症状きびしいたまりかねてF先生と看護に状態を訴える月曜日脳内の先生へ診察していただこうと云ってくださる-安心だ』とあるように,控訴人が」を加える。 13 原判決37頁15行目の「上記(1)スのとおり,」の次に「IVH穿刺手術前に」を加え,同17行目の「じていた。」を「じており,術前に控訴人に対し,故Eに同手術を行うことについて承諾も得ていた。」と改め,同21行目から38頁12行目までを削除する。 14 原判決38頁13行目の「(ウ)」を「(イ)」と改める。 15 原判決39頁5行目の「あることが確認されている。」を「あって,気胸,血胸など,ショックを引き起こす合併症を発症したことをうかがわせる兆候も見当たらなかったことが確認されているうえ,前記のとおり,IVH穿刺手術前後で,血圧,脈拍などのバイタルサインに急激な変化はなく,控訴人主張の同手術後の四肢振戦もすでに手術前から断続的かつ著明に出現していたものである。」と改める。 16 原判決40頁2行目の「同日」の次に「午前」を加え,同13行目の「主張するが」から14行目末尾までを「主張するところ,救急措置をとった当直医は,主治医の被控訴人F医師と交代して病室を去ってはいるが,同被控訴人が亡Eの状況を把握できない場所に移動したとは認められない。」と,同18行目の「脳出血」から19行目の「照らすと」までを「急激な意識喪失等の発症経過をたどる脳幹付近の脳出血であって,生命中枢には既に回復困難な重篤障害が及んでいたと推認されることなどを総合すると」とそれぞれ改め,同20行目の「作為,不作為」を「過失」と改める。 喪失等の発症経過をたどる脳幹付近の脳出血であって,生命中枢には既に回復困難な重篤障害が及んでいたと推認されることなどを総合すると」とそれぞれ改め,同20行目の「作為,不作為」を「過失」と改める。 17 原判決40頁26行目の「以上によれば,」の次に「被控訴人F医師及び同G医師に控訴人主張の医療行為上の過失があるとはいえず,また,本件診療契約に関し債務不履行があるともいえないから,」を加える。 第4 結論よって,原判決は相当であり,本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 (平成15年11月5日口頭弁論終結)広島高等裁判所松江支部裁判長裁判官廣田聰裁判官吉波佳希裁判官植屋伸一(参考原審判決) 主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 原告ら(1) 被告らは,原告Aに対し各自金292万2100円,同B,同Cそれぞれに対し各自金171万1050円,同Dに対し各自金50万円及びこれらに対する平成5年10月8日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 訴訟費用は被告らの負担とする。 (3) 仮執行宣言 2 被告ら(主位的答弁)主文同旨(認容判決に対する予備的答弁)担保を条件とする仮執行免脱宣言第2 事案の概要本件は,大腿骨頸部骨頭骨折のため病院に入院中死亡した男性患者の相続人等である原告らが, 主文同旨(認容判決に対する予備的答弁)担保を条件とする仮執行免脱宣言第2 事案の概要本件は,大腿骨頸部骨頭骨折のため病院に入院中死亡した男性患者の相続人等である原告らが,病院の医師らにおいて,患者に対しIVHカテーテル挿入を施行するに際して適切な経過観察を怠り,患者の容態が急変した際に適切な救命治療等を怠るなどの過失があると主張して,病院の医師ら2名及び病院を開設して医療業務を営む鳥取県に対し,不法行為(使用者責任)又は債務不履行に基づき損害賠償を請求した事案である。 1 前提となる事実(証拠等の掲記のない事実は,当事者間に争いがない。)(1) 当事者等ア故Eは,昭和9年3月17日生まれの男性である。 イ原告Aは,故Eの妻であり,原告B及び原告Cは,いずれも故Eの子である。 ウ原告Dは,原告Aの兄(故Eの義兄)である。 エ被告F医師及び被告G医師は,いずれも故Eが鳥取県立中央病院(以下「中央病院」という。)に入院した際,同病院に勤務し,故Eの治療を担当した医師である。 オ被告鳥取県は,中央病院を開設し,医療業務を営む地方公共団体である。 (2) 故Eの診療経過等ア故Eは,平成5年7月27日,腎機能の検査,コントロールの目的で,中央病院に入院し,同年8月24日,血液透析をするための腕内シャントを作成し,数回の血液透析を受けた後,同年9月13日,いったん同病院を退院した(乙6)。 イ故Eは,平成5年9月14日,右大腿骨頸部内側骨折により,中央病院に再入院した(以下「本件入院」という。)。 同月30日,故Eに対し人工骨頭置換手術が実施された(以下「本件手術」という。)。 故Eに対し,同年10月7日,鎖骨下静脈へのIVHカテーテル挿 た(以下「本件入院」という。)。 同月30日,故Eに対し人工骨頭置換手術が実施された(以下「本件手術」という。)。 故Eに対し,同年10月7日,鎖骨下静脈へのIVHカテーテル挿入が施行された。 ウ故Eは,平成5年10月8日,死亡し,被告F医師によって,故Eの死因は腎不全を原因とする脳出血であるとの診断がなされた。 (3) 原告A,原告B及び原告Cの相続原告A,原告B及び原告Cは,故Eの死亡により,故Eを,法定相続分に従い,原告Aが2分の1,原告B及び原告Cが各4分の1,それぞれ相続した。 2 争点(1) 争点1被告F医師及び被告G医師の過失の有無(2) 争点2故Eの損害等第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(被告F医師及び被告G医師の過失の有無)について(1) 原告らの主張ア 本件入院後の診療経過(ア)故Eは,平成5年9月13日,自宅前で下車しようとして転倒し,その後下肢部の激痛を訴え,翌14日未明,中央病院に入院し,被告G医師の診察を受けた。故Eは入院時,右上下肢の痙攣,痛みによる動揺で喋れない状態であった。故Eは,精査により,大腿骨頸部骨頭骨折が認められ,同日整形外科に転科となり,担当のH医師から人工骨頭置換手術の必要性及びこれを翌週早々に施行する旨の説明を受け,家族は承諾した。 (イ) 故Eは,平成5年9月14日,H医師から鋼線刺入術を受け,牽引による拘禁,緊縛による体動制限,痛みや不安による肉体的,精神的苦痛を誘因として,次第に食欲低下,不眠,血圧の上下変動,痙攣などのストレス症状を増大させ,同月22日からセルシンの投与がなされた。 (ウ) 平成5年9月16日,人工骨頭置換手術の施行日が病院の都合により同月30日に 食欲低下,不眠,血圧の上下変動,痙攣などのストレス症状を増大させ,同月22日からセルシンの投与がなされた。 (ウ) 平成5年9月16日,人工骨頭置換手術の施行日が病院の都合により同月30日に延期するとの決定がなされ,その旨原告Aらに知らされた。故Eは,18日間にわたり拘禁,緊縛状態での仰臥を余儀なくされ,精神的苦痛と痛みや不安によるストレス症状をますます増大させたが,ようやく同月30日午前中に人工骨頭置換手術(本件手術)が終了した。 (エ) 故Eは,本件手術後も,精神的,肉体的苦痛や異常を訴えるようになり,ストレス症状が激しくなって,食欲不振,特に深夜の不眠症状や痙攣の頻発,怯えなどのため,精神安定剤をセルシンからロヒプノールに変更するも効果はなく,血圧の上下変動,腹部の膨満があり,排便がなくなり,排尿についても,本件手術直後からストレスの影響により急激に尿量が減少した。 (オ)故Eは,整形外科に入院後も,被告F医師や被告G医師(以下「被告医師ら」という。)らの指示で,平成5年9月17日,同月24日,同月29日の3回の血液透析を受けていたので,同月30日の本件手術後も全身管理をするため泌尿器科に転科となり,被告医師らの指示で治療を受け,術後の血液透析も同年10月5日に受けたが,血液透析の前日である同月4日の血液検査結果は,RBC272万,WBC10400,Hb7. 3,PLT42.2万,Ht23.6,血小板数42.4,(生化),BUN119,Ca4.5,Na14.5,Cr14.1,P6.9,K4. 6,Cl102であり,血液透析施行直後の同月6日の検査結果は,RBC326万,WBC12500,Hb9.4,PLT44.2,Ht28. 0,(生化),BUN46,Ca4.9,Na14.7,Cr5.8,P3.3,K3.5,C 透析施行直後の同月6日の検査結果は,RBC326万,WBC12500,Hb9.4,PLT44.2,Ht28. 0,(生化),BUN46,Ca4.9,Na14.7,Cr5.8,P3.3,K3.5,C1106であった。 (カ) 原告Aは,平成5年10月1日には,故Eの腹部の異常を看護婦に伝え,被告医師らの診察を依頼するも,被告F医師は,5日後の同月6日に内科医に診察を依頼したにとどまり,やっと同日午後,内科医が診察したが,腸に内容物やガスが充満していて,エコー撮影が不可で,浣腸後に大量の摘便,しばらくして新鮮血の下血があり,内科医は看護婦に「どうしてこんなになるまで放置していたんだ。」と叱っていた。その時,内科医は病気についての原告Aの質問には答えなかったが,「直腸」ということを言っており,「胃カメラをのんでみようか。」と言ったが,原告Aは,故Eの全身的な状態がよくないからと,断った。 (キ) 平成5年10月7日朝,原告Aのところに看護婦が来て,「首のところにちょっとしたことをするが,麻酔はするし,痛くないから。」と伝えてきた。原告Aが原告Dに相談したところ,同人は「本人の承諾しない治療は断れ。」と言ったが,同日午後,被告F医師が来て,「30分で済むし,すぐ元気になる。」と言い,看護婦が故Eの肩のところに消毒しようとすると,同人は,原告Aの手を握り,「あー」と叫んだ。そこで,原告Aが「やめてください。」と言うと,看護婦は,「病院の言うことを聴かないなら,退院してもらいます。外に出てください。」と言ったので,原告Aは,病室の外の入口のところに立っていたが,故Eは大きな声で叫んでいた。何十分か経ってから,被告F医師が入口から覗き,「失敗したから反対側にやり直すから。」と言い,しばらくすると,故Eの「あー」と叫ぶ声がずっと外に聞こ ころに立っていたが,故Eは大きな声で叫んでいた。何十分か経ってから,被告F医師が入口から覗き,「失敗したから反対側にやり直すから。」と言い,しばらくすると,故Eの「あー」と叫ぶ声がずっと外に聞こえてきた。結局失敗して1時間以上は掛かった。手術終了直後の午後5時前,原告Dが来て,被告F医師に文句を言うと,同人はフィルムを見せて説明した。 (ク) 故Eは,手術後,原告Dが午後6時過ぎまで励ましたりしていたので,気分も落ち着いていたが,午後9時ころから,激しい痙攣・発作の症状を繰り返すようになり,さらに,午後11時ころには,大きな黒目を剥いて,痙攣を起こした。心配になり,看護婦を呼んだが,看護婦は,「血圧も異常はないし,大丈夫だ。」と言った。しかし,その後も,故Eは,痙攣を繰り返し,翌8日午前2時ころ,ベッドが大きな音を立てて揺れるほど大きな黒目を剥いて激しい痙攣を起こしたため,看護婦もベッドの音で飛び込んで来た。その時,故Eの黒目は異様で,看護婦は,血圧を測りながら「あーどうしよう。」と騒ぎだした。原告Aも異常を感じ,公衆電話で神戸に住む同人の子や鳥取市内に住む同人の姉に電話をして,病室に戻ると,機械が準備され,当直医と思われる医師が来ており,しばらくして被告F医師も来て,故Eに心マッサージをした。何十分か心マッサージをすると,故Eは自発呼吸をするようになり,被告F医師らは,「大丈夫だ。」と言って引き上げていった。その後,看護婦は機器を片付けていたが,再び慌てだし,被告医師らを呼んで心マッサージをしたが,しばらくして故Eの死亡が確認された。 イ 故Eの死因(ア) 故Eは,精神的,肉体的苦痛によるストレス症状があり,食欲はなく,不眠状態が続き,血圧も上下変動し,ロヒプノールの投与を受けるなど,過度の精神的ストレス状態 た。 イ 故Eの死因(ア) 故Eは,精神的,肉体的苦痛によるストレス症状があり,食欲はなく,不眠状態が続き,血圧も上下変動し,ロヒプノールの投与を受けるなど,過度の精神的ストレス状態で,身体的状態が悪化していた。被告F医師は,故Eが極めて精神的ストレスを起こしやすい病態にあったことを認識していたにもかかわらず,怖がり,叫ぶ同人に対し,鎖骨下静脈への穿刺針挿入手技を試みたが,失敗し,長時間にわたり穿刺を繰り返した。そのため,故Eに,不安・緊張・痛みなどの極度の精神的ストレスを生じさせ,痙攣・発作を引き起こすなど重篤な状態に陥らせ,術後においても同人の容態の経過観察を怠ったため,異常の早期発見,救急措置の遅れにより急性呼吸不全,心停止を生じさせて死亡させた。 (イ) 被告F医師は,故Eの死亡の直接の原因は脳出血であり,その原因は腎不全であると診断しているが,平成5年10月5日の血液透析後の検査数値からは,同月8日に腎不全を原因として脳出血を起こしたとは到底考えられない。 ウ 被告F医師及び被告G医師の過失(ア) 故Eの病状,病態などを的確に把握して治療すべき注意義務違反被告医師らは,医師として故Eの病状,病態などを的確に把握し,適切な治療を施すべき注意義務があるにもかかわらず,これを怠って故Eを死亡させた。 (イ) 閉鎖性イレウスを防止すべき注意義務違反平成5年10月6日の摘便後の故Eにおける新鮮血は,下部消化管出血である。腸管には交感神経等の神経叢が錯綜しているため,ストレスの影響を受けやすい。故Eにおいては,蠕動運動が不活発となり,ガスや内容物が溜まりやすい状態にあって,またその影響で憩室等による少量の出血が続いており,長期間のストレスによる腸の機能障害により,ガスや糞便が けやすい。故Eにおいては,蠕動運動が不活発となり,ガスや内容物が溜まりやすい状態にあって,またその影響で憩室等による少量の出血が続いており,長期間のストレスによる腸の機能障害により,ガスや糞便が大量に滞留したため,閉鎖性のイレウスが発症したと思われる。被告医師らは,術後の患者は,当然にこのような合併症が起きることを十分に予見できたにもかかわらず,適切な治療を施すべき注意義務を怠った。 (ウ) IVH穿刺を実施するに際して適切な経過観察をすべき注意義務違反被告F医師は,故Eが透析患者であり,精神的ストレス等で,全身状態が極めて悪いことを十分知っており,鎖骨下静脈穿刺法を行うに当たっては,故Eのバイタルサインをチェックするなど,全身状態の回復を優先させ,イレウスについて内科医が指摘したように,パントール100㎎,浣腸,点滴など患者の全身的状態に適した最善の保存的治療法で経過観察をすべきであるのにこれを怠った。 (エ) 鎖骨下静脈穿刺法施行上の過失鎖骨下静脈穿刺法は,施行する医師において,見えない鎖骨下静脈を穿刺針で探りながら穿刺するのであるから,自らの技量に自信と確信を持たなくてはならないが,そのことは,手術を行う医師が経験を積んでいることが前提であり,十分注意していても必ず成功する保証はないという重大な認識のもとに,細心の注意義務をもって行わなくてはならない。穿刺を拒んでいる故Eの場合,鎖骨下の静脈に的確に命中させることは極めて困難であるにもかかわらず,被告F医師は,安易に自己の技量を過信し,故Eや原告Aに十分説明しないまま,注意義務を怠りあえて施行して失敗した。 (オ) 緊急救命治療上の過失看護婦は,故Eにおける痙攣・発作の異常に気付き,自ら病室に駆け込み,同人の瞳孔を確認し,瞳孔が 分説明しないまま,注意義務を怠りあえて施行して失敗した。 (オ) 緊急救命治療上の過失看護婦は,故Eにおける痙攣・発作の異常に気付き,自ら病室に駆け込み,同人の瞳孔を確認し,瞳孔が散大して,様態が急変しているのに,「いつもこんなに大きな目ですか。」と言い,血圧の測定をしながら「あー,どうしよう,血圧が下がる。」と狼狽し,救命措置を迅速,適切になさなかった。故Eの蘇生後も,被告F医師らは,「大丈夫だ。」と言って,故Eの自発呼吸の状態を観察せずに引き上げてしまうなど,同人の家族の少しでも生きていてほしいという切なる願いに応えるべき医師としての職務上の義務,また,故Eの治療に当たる医師として少しでも長く生きられるよう最善の努力をなすべき職務上の義務があるにもかかわらず,大丈夫であると軽信し,蘇生直後の故Eを放置した。このような場合,被告医師らは,故Eに付き添うなどして同人の経過を観察するなどの治療上の責任があったにもかかわらず,かかる治療上の注意義務を怠ったものというべきである。 (カ) 以上のように,被告医師らには過失があり,不法行為に基づき原告Aらの損害を賠償すべき責任を負う。 エ 被告鳥取県の責任(ア) 被告鳥取県は,被告医師らの使用者として,民法715条に基づき,原告Aらの損害を賠償すべき責任を負う。 (イ)また,故Eは,平成5年9月14日,中央病院に緊急入院した際,被告鳥取県との間で医療水準に適った診療を行う旨の診療契約を締結しており,被告鳥取県は,同契約に基づき,故Eに対し,善良な管理者の注意を尽くして治療を行うべき債務を負っていたところ,上記のとおり,被告医師らには過失があるから,被告鳥取県は,民法415条に基づき,原告Aらの損害を賠償すべき責任を負う。 (2) 被告らの主張 を尽くして治療を行うべき債務を負っていたところ,上記のとおり,被告医師らには過失があるから,被告鳥取県は,民法415条に基づき,原告Aらの損害を賠償すべき責任を負う。 (2) 被告らの主張ア 本件入院後の診療経過(ア) 本件入院後の整形外科での経過a 泌尿器科入院故Eは,平成5年9月13日午後10時ころ,トイレに起きて転倒し,後頭部をドアにぶつけ,その後,右下肢痛が出現して歩行不能となり,同月14日,中央病院の救急外来を受診し,泌尿器科に入院した。 b 整形外科入院同日,入院後のエックス線検査の結果,右大腿骨頸部内側骨折が認められ,整形外科に転科,入院した。 同日,故Eに対し,保存的治療方法である右下肢鋼線牽引療法が開始された。鋼線牽引は,大腿骨頸部骨折の場合に必要な処置であり,骨折による骨のずれを整復し,局所の安静を保って,疼痛を緩和することを目的としており,このことは,整形外科の主治医から故Eの家族に説明がなされ,疼痛のあるときは,鎮痛剤を適宜使用して苦痛の除去に努めた。 大腿骨頸部骨折による疼痛及びストレスと,鋼線牽引中のベッド上安静によるストレスとを比較すると,前者の疼痛及びストレスが後者のそれをはるかに上回ることは明らかであり,前者のストレスを緩和する目的で行う牽引処置により,故Eが一定のストレスを受けたとしても,治療上やむを得ない事態であった。 故Eには,高血圧,脳梗塞,パーキンソン症候群の既往疾患があり,その症状として,言語不明瞭,四肢不随意運動,手指振戦の症状があった。 c 手術日が延期された経緯当初,故Eを担当したH医師は,泌尿器科の被告F医師と相談の上,翌週に人工骨頭置換手術をする方針であったが 四肢不随意運動,手指振戦の症状があった。 c 手術日が延期された経緯当初,故Eを担当したH医師は,泌尿器科の被告F医師と相談の上,翌週に人工骨頭置換手術をする方針であったが,その後,故Eが透析患者であり,腎不全に対する術前の全身コントロールを要したこと,故Eにはパーキンソン病等の脳神経内科的疾患があり,これに関して術前に脳神経内科と十分に相談する必要があったことを理由として,同月15日,手術日を同月30日に延期することが決定された。 d 本件手術日までの経過本件手術までの入院期間中,同月17日,24日,29日の3回にわたり故Eに対し血液透析が実施され,また,同月22日からは不眠症状緩和のため,催眠鎮静剤であるセルシンが投与された。 24日の血液検査の結果は,以下のとおりであった。 (末梢血液) 白血球:7700/mm3↑,赤血球:342万/mm3↓,ヘモグロビン:9.1g/dl↓,ヘマトクリット:29.0%↓,血小板:50.4万/mm3(生化学) BUN:132㎎/dl↑,Cr:13.5㎎/dl↑,Na:143mEq/l,K:4.8mEq/l,Cl:104mEq/l,P:6.3mEq/l↑,CRP:9.7㎎/dle 本件手術の実施同月30日,故Eに対し予定されていた本件手術(人工骨頭置換手術)が施行された。 手術後(30日)の検査結果は,以下のとおりであった。 (末梢血液) 白血球:17200/mm3↑,赤血球:327万/mm3↓,ヘモグロビン:9.1g/dl↓,ヘマトクリット:28.2%↓,血小板:46.7万/mm3(生化学) BUN:86㎎/dl↑,Cr:10.6㎎/dl↑,Na:141mEq/l, m3↓,ヘモグロビン:9.1g/dl↓,ヘマトクリット:28.2%↓,血小板:46.7万/mm3(生化学) BUN:86㎎/dl↑,Cr:10.6㎎/dl↑,Na:141mEq/l,K:4.4mEq/l,Cl:99mEq/l(血液ガス) PO2:128.5mmHg,PCO2:34.6mmHg(血糖) 163㎎/dl↑(良好)(胸部エックス線) 異常なしf 本件手術後,故Eの血圧が70~80mmHg台に低下し,カタボン(昇圧剤)を10μg/kg/分にて使用し,その後,血圧が120mmHgへ上昇したため,カタボンを5μg/kg/分に減量し,このまま調子がよければ明朝にはカタボンを中止するという方針とした。 (イ) 本件入院後の泌尿器科での経過a 平成5年10月1日の転科故Eは,本件手術後,血圧低下が出現したため,平成5年10月1日,全身管理目的のため,泌尿器科に転科,入院した。 b 入院中の症状経過被告F医師は,ほぼ毎日,故Eを回診して診察し,診察結果を診療録に記載した。 平成5年10月1日,故Eによる朝食摂取後の嘔気,嘔吐の訴えに対して,トランサミンS(止血剤)の影響を考慮して,プリンペラン(制吐剤)を投与したところ,同日中にはある程度食事摂取が可能となった。また,血液検査(末梢血液,生化学)を実施し,胸部エックス線検査では異常がなかった。 同月2日には,故Eに,呂律がまわらない(言語障害),手の震えがひどい(手の振戦)などの症状が出現したので,同月4日に脳神経内科に紹介する方針とし,同日同科を受診した。その受診結果は,腎不全及び薬物中毒で,振戦は腎性の羽ばたき振戦であるとの診断であった。薬物中毒について 振戦)などの症状が出現したので,同月4日に脳神経内科に紹介する方針とし,同日同科を受診した。その受診結果は,腎不全及び薬物中毒で,振戦は腎性の羽ばたき振戦であるとの診断であった。薬物中毒については,可能性のあるシンメトレルなどの抗パーキンソン病薬を考慮して,同科にて,従前の1日3回投与を1日1回投与に減量した。 また,同月3日午前5時から,四肢振戦,不穏状態持続,言語不明瞭などの症状が持続したため,鎮痛,安定剤の種類をセルシンからロヒプノールに変更して投与したが,同月4日午後8時には同薬剤投与を中止した。 同月5日から,絶飲食として,輸液等治療,抗生剤治療を実施し,また,同日,人工透析を実施し,透析中に濃厚赤血球(A型400ml)2パックの輸血を実施した。 故Eにおいて,絶飲食としているにもかかわらず,嘔気,嘔吐症状が持続していることから,同月6日,内科へ紹介受診し,腹部単純エックス線検査,腹部エコー検査,心電図検査,血液検査,尿検査を実施した。 腹部単純エックス線検査では,胃や腸管ガスが増加しており,麻痺性イレウスの所見がみられた。また,腹部エコーでは腸管ガスが多く,膵臓は観察不能であったが,胆嚢腫脹があり,リンパ節種大はなかった。また,両側腎臓の多発性嚢胞腎も認められた。 以上の検査結果を総合した診察結果は,① 麻痺性イレウス,② 胃潰瘍の疑い,③ 栄養不良との診断であった。 そして,嘔気,嘔吐の原因としては,① 腎不全,② 手術中の血圧低下(40/台)による腸管等の虚血による麻痺性イレウス,③ 胃潰瘍や十二指腸潰瘍等が考えられる。 また,胆嚢腫大は,麻痺性イレウスが原因と考えられるが,胆嚢炎等も考慮することとのことであり,鑑別疾患として,アミラーゼ値 による麻痺性イレウス,③ 胃潰瘍や十二指腸潰瘍等が考えられる。 また,胆嚢腫大は,麻痺性イレウスが原因と考えられるが,胆嚢炎等も考慮することとのことであり,鑑別疾患として,アミラーゼ値をチェックすることが指摘された。 対策として,① 腎不全に対する透析,② 麻痺性イレウスに対するパントール(術後腸管麻痺改善剤)の点滴静注,③ 上部消化管胃潰瘍に対するタガメット投与が指示された。さらに,栄養状態が悪いので,IVH等を考慮してくださいとのことであった。 内科診断に基づいて検査した同月6日の2回目のアミラーゼ検査(再検)でも,アミラーゼ上昇は極軽度で,尿中アミラーゼも高値ではなかった。 上記の内科診断,指示に基づいて,故Eに対して,以下の処置が実施された。 ① パントール(術後腸管麻痺改善剤)100mg×2/日を点滴静注(10月7日朝,夕2回),② グリセリン浣腸(便秘改善措置)(10月6日150ml施行,7日朝60ml施行),③ 摘便処置(便秘改善処置)(10月6日午後4時),④ NGチューブ(経鼻胃管)挿入による胃貯留物(液体,空気)の持続的吸引(麻痺性イレウス改善処置)の実施,⑤ タガメット(H2ブロッカー)200ml×2回/日静注(胃潰瘍に対する治療)の開始(10月6日夕方1回,7日朝夕1回ずつ投与),⑥ IVH(中心静脈栄養:低栄養状態の改善処置)を開始するために(10月8日から開始予定とする),10月7日午後3時ころIVHカテーテルを挿入,⑦ 10月6日,7日に従来の輸液等治療,抗生剤治療を実施c 血液検査(平成5年10月1日から同月7日まで)の実施転科後の血液検査の結果は,およそ以下のとおりであった。 10月1日(末梢血 ,抗生剤治療を実施c 血液検査(平成5年10月1日から同月7日まで)の実施転科後の血液検査の結果は,およそ以下のとおりであった。 10月1日(末梢血液) 白血球:15600/mm3↑,赤血球:306万/mm3↓,ヘモグロビン:8.5g/dl↓,ヘマトクリット:26.4%↓,血小板:42.2万/mm3(生化学) BUN:97㎎/dl↑,Cr:11.7㎎/dl↑,Na:141mEq/l,K:5.1mEq/l,Cl:99mEq/l10月4日(末梢血液) 白血球:10400/mm3↑,赤血球:272万/mm3↓,ヘモグロビン:7.3g/dl↓,ヘマトクリット:23.6%↓,血小板:42.2万/mm3(生化学) BUN:119㎎/dl↑,Cr:14.1㎎/dl↑,Na:145mEq/l,K:4.6mEq/l,Cl:102mEq/l,P:6.9mEq/l↑10月5日(末梢血液:透析後) 白血球:12500/mm3↑,赤血球:326万/mm3↓,ヘモグロビン:9.4g/dl↓,ヘマトクリット:28.0%↓,血小板:44.2万/mm3(生化学) BUN:46㎎/dl↑,Cr:5.8㎎/dl↑,Na:147mEq/l,K:3.5mEq/l,Cl:106mEq/l,P:3.3mEq/l10月6日(末梢血液) 白血球:12100/mm3↑,赤血球:323万/mm3↓,ヘモグロビン:9.1g/dl↓,ヘマトクリット:29.0%↓,血小板:40.7万/mm3(生化学:1回目) BUN:73㎎/dl↑,Cr:9.2㎎/dl↑,Na:146mEq/l,K:4.4mEq/l,Cl:103mEq クリット:29.0%↓,血小板:40.7万/mm3(生化学:1回目) BUN:73㎎/dl↑,Cr:9.2㎎/dl↑,Na:146mEq/l,K:4.4mEq/l,Cl:103mEq/l,シアル酸:108.9㎎/dl↑,CRP:11.8㎎/dl↑,総タンパク:6.8g/dl,アルブミン:3.6g/dl↓,アミラーゼ:238U↑(生化学:2回目) BUN:72㎎/dl↑,Cr:9.2㎎/dl↑,Na:146mEq/l,K:4.4mEq/l,Cl:103mEq/l,シアル酸:107.8㎎/dl↑,CRP:11,6㎎/dl↑,総タンパク:6.8g/dl,アルブミン:3.7g/dl↓,アミラーゼ:242U↑,アミラーゼ(尿)189U10月7日(末梢血液:至急検査) 白血球:14600/mm3↑,赤血球:315万/mm3↓,ヘモグロビン:9.1g/dl↓,ヘマトクリット:28.2%↓,血小板:39.2万/mm3(生化学) BUN:85㎎/dl↑,Cr:10.3㎎/dl↑,Na:148mEq/l,K:4.6mEq/l,Cl:109mEq/ld 急変までの経過(平成5年10月1日から同月8日午前3時まで)(a) 尿量10月1日 275ml+α10月2日 600ml+α10月3日 1000ml+α10月4日 400ml+α10月5日 480ml+α10月6日 355ml+α10月7日11時 80ml10月7日16時 100ml10月7日23時 130ml 10月6日 355ml+α10月7日11時 80ml10月7日16時 100ml10月7日23時 130ml10月8日02時 150ml平成5年10月1日の看護記録には尿量について「275ml+α」と記載されているところ,この「α」の意味は,故Eにおいて尿失禁の状態にあったため,尿瓶による計測では正確な尿量の計測が困難な状態にあったからである。同月2日には600ml+α,同月3日には1000ml+αと,測定された尿量が増加してきた。その後同月4日以後は,400ml前後に変動して減少傾向にあったが,これは,故Eにおいて,当時,腸管麻痺によるイレウス状態にあり,胃管チューブからの排液や持続的な下血による出血,さらに,イレウス状態から来る腸管内での水分の貯留,発熱による発汗蒸泄などの影響,さらには同月5日に実施した,透析時の除水の影響も加わっているものである。また,このような尿量減少は,基礎的には,故Eが罹患していた慢性腎不全状態(胃機能低下状態)に由来するものであったことも間違いない。すなわち,上記cのとおり,故Eの腎臓の排泄機能は著しく低下していたのである(腎排泄機能の低下により,血中のBUN,Cre値が上昇する。)。 (b) 血圧(mmHg)10月7日01時30分 168/6210月7日03時20分 194/10010月7日05時20分 186/9410月7日08時 190/10010月7日11時 194/10410月7日13時50分 206/108アダラート(降圧剤)1カプセル舌下投与 190/10010月7日11時 194/10410月7日13時50分 206/108アダラート(降圧剤)1カプセル舌下投与10月7日15時40分 156/8410月7日19時30分 180/8010月7日23時 184/8610月8日02時 186(約190)/11210月8日02時40分 90/↓10月8日03時 0/↓(c) 脈拍・体温(体温) (脈拍/分)10月7日01時30分 36.810月7日03時20分10月7日08時10月7日11時 38.1 10010月7日13時50分 38.0 10010月7日15時40分 38.1 10610月7日19時30分 37.710月7日23時 37.910月8日02時 37.9 10410月8日02時40分 60↓10月8日03時 0↓(d) 症状経過10月7日01時30分下血(出血量:100g)10月7日03時20分下血持続。腹痛・嘔気なし。 10月7日05時20分下血(新鮮血:124g)10月7日08時下血持続10月7日09時30分嘔気なし「治まった」 血持続。腹痛・嘔気なし。 10月7日05時20分下血(新鮮血:124g)10月7日08時下血持続10月7日09時30分嘔気なし「治まった」10月7日10時腹満なし。創痛異常なし。 10月7日11時腹鳴聴取可。排ガス自覚なし。体動時,四肢振戦著明。 10月7日12時トロトロ寝ている,刺激にて目覚め,四肢振戦。 10月7日13時50分ゆっくり会話できる。 10月7日15時~16時IVH挿入部ガーゼ上層汚染あり。腹満なし。下血なし。嘔気なし。発汗著明。 10月7日19時30分~20時体動時四肢振戦著明,発汗あり。暑い。腹満なし。 10月7日20時~20時30分腹鳴聴取不可・下血なし。嘔気なし。 10月7日22時~23時IVH挿入部ガーゼ上層汚染なし。言語不明瞭。 10月7日23時~24時下血なし。嘔気なし。排ガス不明。 10月8日02時下血なし。全く入眠されず,眼球をキョロキョロさせる。四肢振戦(++)。皮膚湿潤(+)。腹満なし。腹鳴聴取不可。(I看護婦が患者の一般状態の観察に行った際,血圧,脈,熱は申し送りのとおり,あまり変わりはなかった。ちょっと触れただけでピリピリと震えが来ているが,意識は明瞭で開眼していた。目をきょろきょろ動かし,訪室者に対して敏感になっていた。原告Aは「今日は夕方から全く寝ません。」と言った。)10月8日02時40分~55分意識なし。瞳孔(左)>(右),対光反射(-)。(午前2 して敏感になっていた。原告Aは「今日は夕方から全く寝ません。」と言った。)10月8日02時40分~55分意識なし。瞳孔(左)>(右),対光反射(-)。(午前2時40分ころ,詰所で大きな呻きのような声が聞こえたため,I看護婦が急ぎ訪室してみると,故Eが大声を出し,身体を激しく動かしていた。そのため,血圧も測れず,原告Aと一緒になだめているうちに,呼んでも返事がなくなった。開眼していたが,焦点が定まらず,脈もなくなった。痙攣様のピリピリが増強し,みるみる瞳孔が散大し,午前2時55分に呼吸停止した。)10月8日02時55分心肺停止。 10月8日15時58分瞳孔(左)=(右)散大。死亡確認。 (e) 治療経過(平成5年10月7日~8日)10月7日08時採血10月7日09時腹部・両股エックス線検査(腹部エックス線検査では,同月6日と比べて,ガス像が減少しており,麻痺性イレウスは改善傾向にあると判断された。)10月7日13時50分アダラート(降圧剤)1カプセル舌下投与,スペロン(解熱・鎮痛剤)1A筋注10月7日15時外科のJ医師においてIVHカテーテル挿入。被告F医師によるIVH挿入はうまく入らず,外科のJ医師に挿入してもらう。IVH挿入後の胸部エックス線にて,IVHチューブの位置を確認して良好であり,また肺野所見も良好であった。 10月8日02時40分~03時58分ICU報告。心マッサージ。(午前2時55分に心肺停止して,I看護婦は,すぐ心臓マッサージをし,当直に連絡を取ったが,ICU当直医のK医師のポケットベルの応 時40分~03時58分ICU報告。心マッサージ。(午前2時55分に心肺停止して,I看護婦は,すぐ心臓マッサージをし,当直に連絡を取ったが,ICU当直医のK医師のポケットベルの応答がなく,事務当直に連絡した。午前3時5分,ICU当直医のK医師が到着した。その時,呼吸停止から10分位経過していたが,すぐ挿管し,アンビュー(人工呼吸),心マッサージをした。心電図モニターを装着し,ボスミン(昇圧剤)を数本心嚢穿刺,カタボンLOW(昇圧剤)の点滴静注を開始した。そのうちに,被告F医師,被告G医師も来診した。バード(人工呼吸器)接続にて呼吸回数16回/分で人工呼吸をした(午前3時30分~58分)。午前3時から3時58分まで,ボスミン(昇圧剤)等を静注した。心電図モニターで最初VT(心室頻拍),VF(心室細動)であったが,徐々に整脈となったことが確認され,血圧も190まで上昇した。しばらくして,午前3時45分,再び,血圧,脈がダウンしてきたので,カタボンLOWをスピードアップしたが,効果がなかった。 心電図モニターの脈が0となり,午前3時58分,被告F医師が家人へ故Eの死亡を告げた。 イ 故Eの死因(ア) 故Eに対しては,解剖を実施していないので,剖検上の死因は不明であるが,直接的死因を「脳出血」と臨床的に診断したものである。 (イ) 臨床診断の根拠は以下のとおりである。 a 故Eは,既往疾患として,高血圧,脳梗塞(昭和60年入院)という動脈硬化や脳血管障害の既往を有しており,また,平成5年9月3日から,慢性腎不全による人工透析治療を開始していた。 b 一般に,透析患者の死因の上位には脳血管障害があり,また,慢性透析患者の死因の15~20パーセントを脳卒中が占め,特に,脳 年9月3日から,慢性腎不全による人工透析治療を開始していた。 b 一般に,透析患者の死因の上位には脳血管障害があり,また,慢性透析患者の死因の15~20パーセントを脳卒中が占め,特に,脳出血の一般住民に対する相対的危険率は,10.7倍と高い。また,慢性透析患者の脳卒中多発に寄与する因子として,高血圧症が有意とされ,透析患者に脳出血が発症した場合の1か月以内の急性死亡率は,62.7パーセントと極めて高いことが知られている。 c 死亡直前(平成5年10月7日午前)に消化管出血を起こし,出血傾向となっていたと推測される。 d 短時間に急激にバイタルサイン(呼吸,脈拍,意識レベル等)が悪化して死亡に至っている。 e 慢性透析患者に脳卒中が起こりやすい原因として,① 尿毒症,② 高血圧,③ 透析導入前の動脈硬化症,④ 長期透析に続発する因子が挙げられるが,故Eには,これらの脳出血危険因子のほとんどが該当していた。 f 事後的にではあるが,平成5年10月8日午前2時40分~55分ころの急変時の故Eの中枢神経系理学所見は,「意識なし。瞳孔(左)>(右)/対光反射(-)~呼吸停止」というものであった。この意識消失と併存する特徴的な瞳孔所見は,急性の脳血管性病変(脳出血)に極めて特徴的である。 (ウ) 原告らは,故Eが,極度の精神的ストレス状態によって,呼吸不全,心停止を招いたと主張するが,これは十分な医学的根拠に基づくものとは解されない。 ウ 被告F医師及び被告G医師の過失の不存在(ア) 故Eの病状,病態などを的確に把握して治療すべき注意義務違反について被告医師らは,故Eが平成5年10月1日に泌尿器科に入院した後,整形外科,脳神経内科,外科等の各科の医師に相談し,連携 故Eの病状,病態などを的確に把握して治療すべき注意義務違反について被告医師らは,故Eが平成5年10月1日に泌尿器科に入院した後,整形外科,脳神経内科,外科等の各科の医師に相談し,連携して,病状把握に努めながら治療を行った。回診はほぼ毎日行い,患者の状態,検査データを把握し,適切な治療を行った。 したがって,被告医師らに,故Eの病状,病態などを的確に把握して治療すべき注意義務に違反した過失はない。 (イ) 閉鎖性イレウスを防止すべき注意義務違反について被告医師らは,持続する故Eの嘔気・嘔吐症状について,平成5年10月6日に内科専門医の診察を受け,腹部画像検査(エックス線,エコー)や血液検査所見等から,麻痺性イレウスの診断がなされ,その指示に従って,上記の内容の適切な治療を実施した(絶飲食の継続,浣腸・摘便,抗潰瘍剤,腸管蠕動促進剤,同月7日の腹部単純エックス線検査,血液検査による経過観察,中心静脈栄養の準備)。 したがって,被告医師らに,閉鎖性イレウスを防止すべき注意義務に違反した過失はない。 (ウ) IVH穿刺を実施するに際して適切な経過観察をすべき注意義務違反について被告F医師は,平成5年10月7日にIVHカテーテルを挿入するための鎖骨下静脈穿刺を実施するに際して,故Eの状態観察及び麻痺性イレウスに対する適切な保存的治療を実施しており,適切な診療行為を実施していた。IVH(中心静脈栄養)は,一定の期間,食事摂取等が困難・禁忌の患者の栄養管理を目的として行われる手技であり,通常,患者の状態は,栄養状態不良ないし全身状態不良であることが多い。他方,IVH穿刺行為は,鎖骨下より経皮的に穿刺して鎖骨下静脈に細いカテーテルを挿入する処置であり,生体への侵襲性は比較的軽度で 通常,患者の状態は,栄養状態不良ないし全身状態不良であることが多い。他方,IVH穿刺行為は,鎖骨下より経皮的に穿刺して鎖骨下静脈に細いカテーテルを挿入する処置であり,生体への侵襲性は比較的軽度であり,バイタルサインが低下した患者に対しても十分に実施可能なものである(ただし,血気胸等の合併症はある。)。 本件では,IVH穿刺を実施する必要性があり,以下のとおり,故EはIVH穿刺に十分に耐えられると判断し得る状態であって,同手技の適応や判断に何ら問題はなかった。 a 平成5年10月7日午後3時ころまでに,内科医の指示に従い,輸液治療のほか,上記ア(イ)bのとおり,パントールの静注などの麻痺性イレウス及び消化管潰瘍に対する治療を実施していた。 b 同月7日午前9時に,腹部検査を実施し,前日に比べてガス像が減少して麻痺性イレウスは改善傾向にあることを確認した。 c 同月7日朝の血液検査は,上記ア(イ)cのとおりであり,白血球の増多はあるものの,貧血は進行しておらず,BUN,Cre値からもIVHに支障を来すほどの胃機能の増悪もないと判断された。 d 臨床症状も,上記ア(イ)d(b)ないし(d)のとおりであり,同月7日午後3時ころには,IVH穿刺に支障を来すほどの全身状態の悪化はないと判断された。 (エ) 鎖骨下静脈穿刺法施行上の過失についてa IVH穿刺を最初に担当した被告F医師は,当時,卒業後6年目の医師であり,泌尿器科医師として透析治療にも従事していたものである。一般に,IVH穿刺技術は,卒後研修2年間で修得できる技術である。 被告F医師のIVH穿刺技術が一般の医師のそれに比べて未熟であったとはいえない。 b もちろん,患者によっては,穿刺困難な症例もあり,その場合に は,卒後研修2年間で修得できる技術である。 被告F医師のIVH穿刺技術が一般の医師のそれに比べて未熟であったとはいえない。 b もちろん,患者によっては,穿刺困難な症例もあり,その場合には,IVH穿刺等に熟達した外科系医師の応援を依頼する場合がある。本件でも,透析中の患者で,術後麻痺性イレウスや消化管潰瘍があり,さらに,食事摂取不良による低栄養状態にあった患者であったが故に,鎖骨下静脈の虚脱等の理由から,通常の患者に比べて,穿刺困難な状態であったと推測され,そのために,被告F医師が慎重に穿刺したにもかかわらず,うまく挿入できなかったものと推測される。 c 被告F医師は,IVH穿刺の合併症を考慮して,無理をせず,同技術により熟達した外科医師であるJ医師に代わって実施してもらったものであり,その判断は適切であった。また,IVHカテーテル挿入後の胸部エックス線写真でも,カテーテルの位置が適切で,また,血気胸などの肺合併症がないことを確認しており,IVH穿刺による合併症は起こらなかった。 d また,被告F医師は,IVH穿刺の実施を,故Eや家族に事前に説明して,その了承を受けて行ったものである。何ら説明なくIVHを実施することはない。 e なお,原告らは,IVH穿刺の失敗が故Eに極度の精神的ストレスを与えて,重篤な状態に陥らせたと主張するが,いかなる機序を想定してそのような主張をするのか不明であり,また,故Eの死亡原因は脳出血であるから,IVH穿刺とは関係がなく,原告らの主張には理由がない。 f したがって,被告医師らに,鎖骨下静脈穿刺法施行上の過失はない。 (オ) 緊急救命治療上の過失についてa 故Eの病状が急変した後,担当看護婦は,直ちに救命救急センター(ICU)の当直医師 て,被告医師らに,鎖骨下静脈穿刺法施行上の過失はない。 (オ) 緊急救命治療上の過失についてa 故Eの病状が急変した後,担当看護婦は,直ちに救命救急センター(ICU)の当直医師に連絡し,適切な救急救命処置を行った。その結果,故Eは,いったんは蘇生して(一時心臓が動き出す),人工呼吸管理を実施した。この間,被告F医師及び同G医師も病棟へ駆け付けている。しかし,その後,再び心室細動となり,死亡したものである。 b 具体的な経過は,上記のとおりであり,救急救命治療(心肺蘇生処置)に不適切な点はなかった。 c また,本件の場合,故Eは,透析患者で,高血圧症,脳梗塞症(動脈硬化症),パーキンソン症候群等の種々の基礎疾患を持ち,しかも,入院当時,麻痺性イレウス,消化管潰瘍による出血状態,低栄養状態などの全身状態が不良な状態にあった。しかも,死亡直前には急激な発症経過をたどる脳出血等の頭蓋内病変を原因として急激な心肺停止が起こったケースである。このような場合に,適切な救急救命処置を実施しても,その救命は困難であった。特に,発症後間もなく,瞳孔所見等から既に晩期第3脳神経期ないし延髄期という脳ヘルニア状態に陥ったケースであるから,更に救命は困難であった。 d したがって,被告医師らに,緊急救命治療上の過失はない。 (カ) 以上のとおり,被告F医師及び被告G医師には過失はない。 2 争点2(故Eの損害等)について(1) 原告らの主張被告医師らの過失により故Eは死亡し,以下のとおり故Eの損害ないし原告ら固有の損害が発生した。 ア 故Eの年金収入45万2140円(2か月分)×6回=271万2840円イ 原告Aの遺族年金32万4000円(2か月分)×6回= いし原告ら固有の損害が発生した。 ア 故Eの年金収入45万2140円(2か月分)×6回=271万2840円イ 原告Aの遺族年金32万4000円(2か月分)×6回=194万4000円ウ 故Eの年金収入アと原告Aの遺族年金イの差額271万2840円-194万4000円=76万8840円エ 故Eが生存した場合の得べかりし利益血液透析患者であり,当時59歳という年齢を考慮すると,64歳までの5年間を生存可能期間として,76万8840円×5年=384万4200円オ 慰謝料原告A 100万円原告B 75万円原告C 75万円原告D 50万円合計 300万円カ 相続原告A,同B及び同Cは,故Eの相続人であるから,原告Aは,故Eの配偶者として,エの384万4200円の2分の1である192万2100円を相続し,これとオの100万円との合計額である292万2100円を,原告B及び同Cは,いずれも故Eの子として,それぞれエの384万4200円の4分の1である96万1050円を相続し,これとオの各75万円の合計額である各171万1050円をそれぞれ請求する。 キ よって,原告らは,それぞれ,被告らに対し,不法行為(使用者責任)又は債務不履行に基づき,原告Aについては292万2100万円,原告B及び同留美についてはそれぞれ171万1050円,原告Dについては50万円及びこれらに対する故Eの死亡の日である平成5年10月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を各自支払うことを求める。 (2) 被告らの主張ア 争う。 イ なお,原告Dは,原告Aの実兄であり,死 ある平成5年10月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を各自支払うことを求める。 (2) 被告らの主張ア 争う。 イ なお,原告Dは,原告Aの実兄であり,死亡による親族固有の慰謝料(民法711条)は発生しない。 第4 証拠本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。 第5 当裁判所の判断 1 争点1(被告F医師及び被告G医師の過失の有無)について(1) 本件入院後の故Eに対する診療経過について上記前提となる事実(第2の1)並びに証拠(甲2,3,5ないし13,乙1ないし15,原告A本人,被告F医師本人,被告G医師本人)及び弁論の全趣旨によれば,故Eは,平成5年7月27日,中央病院に入院し,同年9月13日,いったん退院したものの,自宅で骨折したため,再入院(本件入院)したが,本件入院後,同年10月8日に死亡するまでの経緯については,後述の点(後記チ,ツ)を除くほか,上記第3の1(2)アのとおりであったことが認められる。 以上によると,次のとおりの事実を認めることができる。 ア 故Eは,本件入院に先立つ平成5年5月7日に腎不全との診断がなされ,同年7月27日,腎機能の検査,コントロールの目的で中央病院に入院し,同年8月24日,血液透析をするための腕内シャントを作成し,数回の血液透析を受けた後,同年9月13日,いったん同病院を退院した。 イ 故Eは,自宅に戻った後,足に力が入らず歩行が不能となったとして,中央病院の救急外来を受診し,いったん様子観察のため泌尿器科に入院したが,右下肢痛があったため,入院後エックス線検査を実施した結果,右大腿骨頸部内側に骨折が認められ,同日整形外科に転科,入院した(本件入院)。 故Eに対しては,苦痛の緩和等を目的と に入院したが,右下肢痛があったため,入院後エックス線検査を実施した結果,右大腿骨頸部内側に骨折が認められ,同日整形外科に転科,入院した(本件入院)。 故Eに対しては,苦痛の緩和等を目的とする右下肢への鋼線牽引が開始され,その旨が担当のH医師から原告Aら故Eの家族に伝えられた。 ウ また,同人には,本件入院の時点で,高血圧,脳梗塞,パーキンソン症候群といった既往疾患もあり,これらの症状として,言語不明瞭,四肢不随意運動,手指振戦がみられた。 故Eの上記右大腿骨頸部内側の骨折については,当初,入院翌週に人工骨頭置換手術が施行される予定であったが,同月15日,手術の担当医師であったH医師と泌尿器科の被告F医師とが相談した結果,上記のとおり故Eが当時透析患者であったこと,手術前に同人のパーキンソン症候群等の疾患に関して脳神経内科と十分相談する必要があったことを理由として,手術が同月30日に延期されることとなった。 エ 本件入院後,人工骨頭置換手術施行までの間,故Eに対しては,平成5年9月17日,同月24日,同月29日の3回にわたり,血液透析が施行され,同月22日からは不眠症状緩和のため,催眠鎮静剤であるセルシンが処方された。 オ 平成5年9月30日,故Eに対し,人工骨頭置換手術が施行された(本件手術)。 本件手術後,故Eの血圧が70~80mmHg台に低下したため,被告F医師において,昇圧剤であるカタボンを使用したところ,120mmHg程度に上昇したため,カタボンを減量し,調子がよければ明朝にはカタボンの使用を中止するという方針とした。 カ 故Eは,本件手術後の平成5年10月1日,全身管理をする目的で,整形外科から泌尿器科に転科,入院となった。 泌尿器科における故Eの担当医は,被告F医師と被 中止するという方針とした。 カ 故Eは,本件手術後の平成5年10月1日,全身管理をする目的で,整形外科から泌尿器科に転科,入院となった。 泌尿器科における故Eの担当医は,被告F医師と被告G医師であり,主治医である被告F医師(当時大学医学部卒後6年目)が指導医師である被告G医師(当時大学医学部卒後21年目)から適宜必要な助言を受けるという関係にあった。 被告F医師は,故Eの同日の泌尿器科への入院後,同月8日に同人が死亡するまでの間,同月4日を除く毎日,故Eを診察し,その結果を診療録に記載していた。 キ 故Eは,平成5年10月1日,朝食後に嘔気,嘔吐を訴えたため,被告F医師が,制吐剤であるプリンペランを投与したところ,比較的食事を取れるようになった。また,故Eに対し,血液検査及び胸部エックス線検査が実施されたが,特段の異常はみられなかった。 ク 平成5年10月2日,故Eに,呂律が回らない,手の震えがひどいといった症状が現れたため,被告F医師において,同月4日に脳神経内科に紹介するという方針とした。 ケ 平成5年10月3日午前5時ころ,故Eに,四肢振戦,不穏状態持続,言語不明瞭な発語といった症状が現れたため,鎮静剤の種類をセルシンからロヒプノールに変更して投与することとした。 コ 平成5年10月4日,故Eは,上記クの方針に従い脳神経内科を受診した。その結果,同人については,粗大な振戦,意識混濁(失見当),夜間の幻視がみられること,尿毒症であること,抗パーキンソン剤であるシンメトレル等を投与中であることなどから,腎不全及び薬物中毒と診断された。脳神経内科の担当医師は,振戦について腎性の羽ばたき振戦と思う旨の意見であった。薬物中毒については,薬物の投与回数を,従前の1日3回から1日1回に減らすこととさ ら,腎不全及び薬物中毒と診断された。脳神経内科の担当医師は,振戦について腎性の羽ばたき振戦と思う旨の意見であった。薬物中毒については,薬物の投与回数を,従前の1日3回から1日1回に減らすこととされた。 サ 平成5年10月5日からは,故Eについて絶飲食が開始され,輸液等治療が実施された。また,同日,故Eに対し,人工透析が施行され,透析中,濃厚赤血球(A型)の輸血がなされた。また,嘔気,嘔吐が続いていたため,被告F医師において,内科に紹介する方針とした。 シ 平成5年10月6日,故Eは,上記サの方針に従い内科を受診し,腹部単純エックス線検査,腹部エコー検査,血液検査等が実施された。 腹部単純エックス線検査の結果,胃や腸管のガスが増加し,麻痺性イレウスの所見がみられた。また,腹部エコー検査の結果,腸管ガスが多いことに加え,胆嚢腫脹,両側多発性嚢胞腎がみられた。 以上の検査結果を総合した結果,故Eについては,内科の担当医師によって,麻痺性イレウス,胃潰瘍の疑い,栄養不良との診断がなされ,嘔気の原因としては,腎不全,手術中の血圧低下による腸管等の低酸素による麻痺性イレウス,胃潰瘍又は十二指腸潰瘍等が考えられるとの意見が出された。 そして,これらの対策としては,腎不全に対しては透析,麻痺性イレウスに対しては術後腸管麻痺改善剤であるパントールの点滴,胃潰瘍等についてはタガメット等の投与が指示され,さらに,栄養不良について,中心静脈栄養法等を考慮してはどうかとの意見が示された。 ス 上記の内科での受診結果及び担当医師の意見を受け,故Eに対しては,平成5年10月6日及び7日にかけて,下記①ないし④の処置がなされた。 ① 麻痺性イレウスに対する改善処置として,胃管チューブを挿入しての胃貯留物の持続的吸引及び 見を受け,故Eに対しては,平成5年10月6日及び7日にかけて,下記①ないし④の処置がなされた。 ① 麻痺性イレウスに対する改善処置として,胃管チューブを挿入しての胃貯留物の持続的吸引及び術後腸管麻痺改善剤であるパントールの点滴静注(7日に朝夕200mlずつ)の施行② 便秘改善処置として,グリセリン浣腸(6日150ml,7日60ml)の施行及び摘便処置(6日)③ 胃潰瘍に対する治療としてタガメットの静注(6日の夕方及び7日の朝夕200mlずつ)の施行④ 栄養不良改善処置としての中心静脈栄養法を同月8日に開始するため,IVHカテーテルの挿入(7日午後3時ころ)また,同月5日から開始された絶飲食に伴う輸血等治療も引き続き実施された。 セ 故Eに対しては,平成5年10月7日午前9時ころ,腹部及び両股のエックス線検査が実施され,その結果,腹部のガス像が前日6日と比較して減少しており,改善傾向にあると判断された。 同日午後3時ころ,故Eの栄養不良改善処置として,中心静脈栄養法を実施するため,同人に対し,IVHカテーテルの挿入が施行された。当初は,被告F医師が施行しようとしたが,同人においてうまくカテーテルの挿入ができなかったため,最終的には,同人に代わり,外科医であるJ医師が挿入をした。カテーテル挿入後,故Eに対して胸部エックス線検査が実施され,その結果,IVHカテーテルの位置は良好であり,肺野の所見も良好であった。 ソ 故Eには本件入院時から四肢振戦の症状が断続的に現われていたが,この症状は,同日ころには著明となっていた。IVHカテーテル挿入後も,四肢振戦や言語不明瞭の症状が現れ,深夜になっても入眠することなく,翌8日午前2時ころ,当時夜勤であったI看護婦が故Eの一般状態の観察 状は,同日ころには著明となっていた。IVHカテーテル挿入後も,四肢振戦や言語不明瞭の症状が現れ,深夜になっても入眠することなく,翌8日午前2時ころ,当時夜勤であったI看護婦が故Eの一般状態の観察に行った時には,同人は,眼球をキョロキョロさせ,訪室者に対して敏感となるなどの状態であった。 タ その後,同日午前2時40分ころ,看護婦詰所にいたI看護婦において,故Eが大きな呻き声を上げているのを聴き,同看護婦が故Eの病室を訪れたところ,同人は,大声を出し,身体を激しく動かしている状態であった。そのため,血圧を測ることができず,付き添っていた原告Aと共になだめているうち,故Eは,呼んでも返事がなくなり,目の焦点も定まらず,脈拍もなくなった。また,痙攣症状が強くなると共に瞳孔も散大し,同日2時55分ころには呼吸停止に至った。 I看護婦は,直ちに,故Eに心臓マッサージをし,当直の医師に連絡を取ろうとしたが,当時のICU当直医であるK医師のポケットベルの応答がなかったため,事務当直に連絡を取った。 同日午前3時5分ころ,K医師が到着し,直ちに故Eに対し人工呼吸や心臓マッサージを施行した。また,併せて,心電図モニターを装着し,いずれも昇圧剤であるボスミンの心嚢穿刺やカタボンLOWの点滴静注等を開始した。 そのうち,被告F医師も来診した。 心電図の所見は,当初は心室頻拍,心室細動であったが,徐々に整脈となり,血圧も上昇し,K医師は,被告F医師を残して退室した。 その後,同日午前3時45分ころ,再び故Eの血圧,脈拍が下がってきたため,昇圧剤であるカタボンLOWの投与速度を速めたが,効果はみられず,午前3時58分には心電図モニターの脈拍が0となり,被告Fによって,故Eの死亡が確認され,その旨が原告Aに伝えられた。 ってきたため,昇圧剤であるカタボンLOWの投与速度を速めたが,効果はみられず,午前3時58分には心電図モニターの脈拍が0となり,被告Fによって,故Eの死亡が確認され,その旨が原告Aに伝えられた。 チ なお,原告らは,故Eの骨折の原因について,下車しようとした際に,転倒したと主張し,被告らは,自宅のトイレで転倒したと主張する。 いずれであっても,結論に影響を及ぼすことは考えられないが,カルテ(乙2,7)には,自宅のトイレで転倒したと記載されており,H医師が虚偽の記載をする理由は見あたらず,少なくとも,故Eもしくは同行した家族からその事実が告げられたものと認めることができる。もっとも,故Eは,平成5年9月13日,中央病院をいったん退院し,その後,自宅において歩行不能になったが,骨折したとまでは分からなかったこと(原告A本人)から考えても,再入院の時点では,故Eについての行動等を報告する中で,骨折後の歩行不能の結果,トイレでの転倒が告げられ,H医師において,これを記載した可能性を否定できない。 ツ また,原告らは,平成5年10月7日に施行された故Eに対するIVHカテーテル挿入に際し,被告F医師からJ医師に交代したような事実はなかったと主張するが,カルテ(乙9)には,交代の事実が明記されており,被告F医師において,上記記載の時点で,交代していないにもかかわらず,他の医師と交代したという虚偽の事実を記載する理由があるとは考えられず,J医師への交代を認めることができる。原告Aは交代したのを目撃していないと供述するが,IVHカテーテル挿入の途中からは,処置室の外に出ていたことに照らすと,上記供述をもって,上記認定を妨げることにはならない。 (2) 故Eの死因についてア 証拠(甲3,8,9ないし12,乙1ないし15,原 入の途中からは,処置室の外に出ていたことに照らすと,上記供述をもって,上記認定を妨げることにはならない。 (2) 故Eの死因についてア 証拠(甲3,8,9ないし12,乙1ないし15,原告A本人,被告F医師本人,被告G医師本人)及び弁論の全趣旨によれば,故Eは,高血圧及び脳梗塞の既往歴(昭和60年に中央病院に入院)を有していたこと,慢性腎不全であり,平成5年9月3日からは人工透析治療を開始していたこと,慢性透析患者の死因の上位に脳血管障害があり(平成12年度に死亡した慢性透析患者のうち約11パーセントの死因が脳血管障害である。),脳出血についての一般住民に対する相対危険率は約10倍であること(昭和63年から3年間の沖縄県全域を対象とした沖縄循環器疾患発症率調査による。),慢性透析患者の脳卒中多発に寄与する因子として,高血圧症が有意とされる外,長期透析に続発する因子としてヘパリンの使用,低栄養状態が挙げられていること,故Eに対しては,平成5年9月3日から同年10月5日までの間,およそ1週間に1回の割合で人工透析が施行され,いずれもヘパリンが使用されており,同月6日には,内科の担当医から栄養不良との診断がなさていること,故Eは,同月7日に消化管出血を起こしており,出血傾向となっていたものと推測されること,故Eの容態が,同月8日午前2時40分ころ急変し,瞳孔の不同及び対光反射消失,急性呼吸停止,痙攣症状等を経た後,午前3時58分までの短時間のうちに死亡に至っており,これらの所見は脳出血時の所見に極めて特徴的であることが認められる。 イ 以上の事実を総合すれば,故Eの直接的な死因は,脳出血であると判断するのが相当である。 (3) 上記(1)及び(2)を前提として,被告F医師及び被告G医師の過失の有無について検討する。 イ 以上の事実を総合すれば,故Eの直接的な死因は,脳出血であると判断するのが相当である。 (3) 上記(1)及び(2)を前提として,被告F医師及び被告G医師の過失の有無について検討する。 ア 故Eの病状,病態などを的確に把握して治療すべき注意義務違反について(ア) 上記(1)にみたとおり,被告F医師らは,故Eが平成5年9月14日に中央病院に入院した後,同年10月1日に泌尿器科に転科,入院してからは,同月3日を除く毎日,故Eに対する回診を行い,必要に応じて各種検査を実施するとともに,場合によっては,脳神経内科,内科等の医師に相談をしたり,応援を得たりしながら,故Eに対する診療をしてきており,そこに故Eの病状把握等に関し特段の注意義務違反の事実は認められない。 (イ) 原告らは,原告Aが平成5年10月1日に故Eの腹部の異常を看護婦に伝え,被告医師らの診察を依頼するも,被告F医師は同月6日に内科医に診察を依頼したにとどまっていたなどと主張し,原告Aも,故Eには本件入院後24時間態勢で付き添っていたが,被告F医師は,同年9月30日の夕方に診察をした後,同年10月7日にIVHカテーテルの挿入が施行された時まで全く診察をしていなかったなどと供述する。 しかし,診療録(乙9)には,故Eが平成5年10月1日に泌尿器科に転科,入院した後,同月7日までのうち,同月3日を除く毎日について,相当詳細な故Eに関する診療経過が被告F医師によって記載されている上,当時の原告Aの日記(甲8)にも,同月3日の欄に,被告F医師及び看護婦に故Eの状態を訴えた旨の記載がなされており,上記認定のとおり,被告F医師は,ほぼ毎日故Eの診察をしていたものというべきであって,この点についての原告らの主張は採用できない。 (ウ) したがっ 故Eの状態を訴えた旨の記載がなされており,上記認定のとおり,被告F医師は,ほぼ毎日故Eの診察をしていたものというべきであって,この点についての原告らの主張は採用できない。 (ウ) したがって,被告F医師及び被告G医師に,故Eの病状,病態などを的確に把握して治療すべき注意義務に違反した過失を認めることはできない。 イ 閉鎖性イレウスを防止すべき注意義務違反について(ア) 上記(1)にみたとおり,被告F医師らは,故Eが平成5年10月1日に泌尿器科に転科,入院した後,同月3日を除く毎日,故Eに対する回診を行っており,その間,同月1日に故Eが嘔気,嘔吐を訴えた際には,制吐剤であるプリンペランを投与して食事摂取を一時的にある程度改善させ,同月5日には絶飲食を開始するとともに,内科に紹介する方針を取ることとし,翌6日には同方針に従い,故Eに内科を受診させ,内科担当医によって,腹部単純エックス線検査,腹部エコー検査,血液検査等が実施されている。 また,内科担当医から麻痺性イレウスの診断がなされ,その対策として,術後腸管麻痺改善剤であるパントールの点滴等を指示された後も,被告F医師らにおいて,直ちに胃管チューブを挿入しての胃貯留物の持続的吸引や術後腸管麻痺改善剤であるパントールの点滴静注の施行,さらには便秘改善処置としてグリセリン浣腸や摘便処置を実施している。 これらの事実に照らすと,被告F医師らは,故Eに対し相当の診察と治療を実施したというべきである(なお,原告らは,「閉鎖性イレウス」の発生を指摘するが,上記(1)シのとおり,故Eに実際に発症したのは「麻痺性イレウス」である。)。 (イ) したがって,被告F医師及び被告G医師に,閉鎖性イレウスを防止すべき注意義務に違反した過失を認めることはできない。 シのとおり,故Eに実際に発症したのは「麻痺性イレウス」である。)。 (イ) したがって,被告F医師及び被告G医師に,閉鎖性イレウスを防止すべき注意義務に違反した過失を認めることはできない。 ウ IVH穿刺を実施するに際して適切な経過観察をすべき注意義務違反について(ア) 中心静脈栄養法は,食事摂取が困難な患者等の栄養管理を目的とするものであるところ,故Eについては,上記(1)シのとおり,平成5年10月6日に内科担当医から栄養不良との診断がなされており,その対策として中心静脈栄養法を考慮してみてはどうかとの意見が示されていたのであって,同月5日から故Eについて絶飲食が開始されていたことも考慮すると,故Eに対して中心静脈栄養法を実施すべき必要性があったものといえる。 そして,中心静脈栄養法の実施のためのIVHカテーテルの挿入は,鎖骨下から穿刺して鎖骨下静脈にカテーテルを挿入するというものであって,身体への侵襲性が比較的軽いといえるところ,IVHカテーテル挿入時である平成5年10月7日ころの故Eの状態については,上記(1)セのとおり,同日午前9時ころに実施された腹部エックス線検査の結果,腹部のガス像が前日と比較して減少しており,改善傾向にあると判断されている上,同日の血液検査や血圧,脈拍,体温等の臨床症状についても,IVHカテーテル挿入に支障がある状態にまでは至っていなかったことが証拠上認められる(乙9,15,被告F医師本人,被告G医師本人)。 さらに,被告F医師らは,上記(1)スのとおり,故Eに対し,必要な回診,検査等をし,麻痺性イレウス等に対する相当な対策も講じていた。 これらの事実に照らすと,被告F医師らにおいて,IVHカテーテル挿入を実施するに先立ち,相当な経過観察や対策をしてい 要な回診,検査等をし,麻痺性イレウス等に対する相当な対策も講じていた。 これらの事実に照らすと,被告F医師らにおいて,IVHカテーテル挿入を実施するに先立ち,相当な経過観察や対策をしているものというべきである。 (イ) 原告らは,故Eの死因に関し,過度の精神的ストレス状態にあり,身体的状態が悪化していた同人に対して,IVHカテーテル挿入を繰り返し施行したため,同人に,極度の精神的ストレスを生じさせたために故Eが死亡したなどと主張する。 確かに,上記(1)のとおり,当時,故Eには精神的ストレス状態があったと窺えるが,上記(ア)にみたとおり,故Eに対してIVHカテーテルを挿入し,中心静脈栄養法を実施すべき必要性があり,一方,故Eの状態に照らし,IVHカテーテルの挿入を回避すべきであったとは認められない。 また,後記エのとおり,カテーテル挿入に際しては,一回で挿入することができなかったものの,結局は成功していること,カテーテル挿入後,故Eが急変するまでに約11時間が経過していること(上記(1)セ~タ),その間,故Eは,原告Dから,もうすぐ車椅子に乗れるから,家に連れて帰ってやるからといって励まされると,喜んで頷くなど安定した状態であったと窺われることに照らすと,IVHカテーテルの挿入と故Eの脳出血との間に因果関係を認めること自体困難というべきであり,施行上の過失があったということもできない。 (ウ) したがって,被告F医師及び被告G医師に,IVH穿刺を実施するに際して適切な経過観察をすべき注意義務に違反した過失を認めることはできない。 エ 鎖骨下静脈穿刺法施行上の過失について(ア) 上記(1)のとおり,故Eには,本件入院の時点で,高血圧,脳梗塞,パーキンソン症候群といった既往疾患 した過失を認めることはできない。 エ 鎖骨下静脈穿刺法施行上の過失について(ア) 上記(1)のとおり,故Eには,本件入院の時点で,高血圧,脳梗塞,パーキンソン症候群といった既往疾患があり,これらの症状として四肢不随運動や手指振戦がみられ,IVHカテーテル挿入時である平成5年10月7日ころには,本件入院時から断続的にみられていた四肢振戦の症状が著明となっていた上,同月5日からは絶飲食も開始されているなど,栄養不良状態による血管の虚脱のため比較的IVHカテーテルの挿入が困難な状態にあったことが窺われる。 そうすると,泌尿器科の医師であった被告F医師において,本件で一回でカテーテルを挿入することができなかったとしても,直ちに過失があったとはいえない。 そして,被告F医師において,IVHカテーテル挿入がうまくいかなかったことを受け,外科医であるJ医師の応援を得,結果的にカテーテル挿入そのものは成功し,挿入後の故Eに対する胸部エックス線検査の結果,カテーテルの位置も良好で,肺野の所見も良好であることが確認されている。 これらの事実に照らすと,被告F医師らにおいて,IVHカテーテル挿入を実施するに際して,過失があったとまでいうことはできない。 (イ) 原告らは,平成5年10月7日に施行された故Eに対するIVHカテーテル挿入に関し,被告F医師が安易に自己の技量を過信して施行し,失敗して1時間以上掛かったなどと主張する。 しかし,診療録(乙9)には,カテーテルがうまく入らず,外科のJ医師に挿入してもらったこと,カテーテル挿入後の胸部エックス線撮影の結果,カテーテルの位置が良好であったことなどの記載がなされており,当初被告F医師によって施行されたものの,途中でJ医師が交代して,結果的にカテ もらったこと,カテーテル挿入後の胸部エックス線撮影の結果,カテーテルの位置が良好であったことなどの記載がなされており,当初被告F医師によって施行されたものの,途中でJ医師が交代して,結果的にカテーテル挿入が成功したことは明らかであるというべきであるし,上記のとおり,故Eの状態に照らすと,当時の故Eに対するIVHカテーテル挿入が必ずしも容易とはいえなかったものというべきであって,当初の被告F医師によるカテーテル挿入が失敗したからといって,同人において,安易に自己の技量を過信してカテーテル挿入を施行したものということもできない。 (ウ) したがって,被告F医師及び被告G医師に,鎖骨下静脈穿刺法施行上の過失を認めることはできない。 オ 緊急救命治療上の過失について(ア) 上記(1)のとおり,平成5年10月8日午前2時40分ころの故Eの容態の急変を受けて,夜勤の看護婦において,同人の病室を訪れ,同日午前2時55分ころ同人が呼吸停止に至るや,心臓マッサージをするともに当直に連絡を取るなどしており,同日3時5分ころ到着した当直医においても人工呼吸や心臓マッサージを施行し,昇圧剤を点滴静注するなどの措置をしていること,その後,故Eの心電図の所見が徐々に整脈となったため,そのころ来診していた被告F医師に引き継いだこと,しかし,同日午前3時45分ころ,再び故Eの容態が悪化し,被告F医師において,昇圧剤の投与速度を高めるなどの措置をするも,同日午前3時58分に故Eの死亡が確認されたことが認められる。 以上によると,被告ら医師に緊急救命治療上の過失があったと認めることはできない。 なお,原告らは,被告医師らが,故Eが蘇生した後,故Eの自発呼吸の状態を観察せずに引き上げたと主張するが,全員が引き上げたことを認める 急救命治療上の過失があったと認めることはできない。 なお,原告らは,被告医師らが,故Eが蘇生した後,故Eの自発呼吸の状態を観察せずに引き上げたと主張するが,全員が引き上げたことを認めるに足りる証拠はない。 そして,故Eが,透析中の患者であり,高血圧,脳梗塞,パーキンソン症候群といった既往疾患を有していた上,当時麻痺性イレウスに罹患し,栄養不良状態にあるなど,不安定な状態にあったこと,当時の容態の急変が,上記(2)にみたように,脳出血によるものと考えられることなどにも照らすと,急変後一時的に整脈となった後の故Eの状態の変化が,被告医師らの作為,不作為に起因するものと認めること自体困難というべきである。 これらの事実に照らすと,被告F医師らにおいてなされた故Eの急変後の処置について不適切な点は認められない。 (イ) したがって,被告F医師及び被告G医師に,緊急救命治療上の過失を認めることはできない。 2 以上によれば,その余の争点について検討するまでもなく,原告らの請求はいずれも理由がない。 第6 結論以上の次第であって,原告らの請求はいずれも理由がないからこれをいずれも棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴法61条,65条1項本文をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。 (口頭弁論終結日平成15年2月25日)鳥取地方裁判所民事部裁判長裁判官山田陽三裁判官下澤良太裁判官中村昭子は,転補につき,署名押印することができない。 裁判長裁判官山田陽三 裁判長 裁判官山田陽三
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