令和6年10月17日判決言渡令和5年(行ウ)第181号国籍確認請求事件主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求原告が日本国籍を有することを確認する。 第2 事案の概要原告は、日本人として出生し、特別養子縁組により法定代理人親権者ら(英 国国籍の男性と日本国籍の女性の夫婦)の養子となった後、同人らが行った原告の英国市民登録の申請に基づき、英国市民として登録され、英国国籍を取得した。 本件は、原告が、①法定代理人が行った上記申請に基づく原告の英国国籍の取得について、国籍法11条1項の規定は適用されない、②同項の規定は、憲 法の規定(憲法10条、13条、14条1項及び22条2項)に違反し無効である、又は未成年者である原告に適用することは憲法14条1項に違反するため、原告が国籍法11条1項により日本国籍を喪失することはないと主張して、原告が日本国籍を有することの確認を求める事案である。 1 国籍法の定め 別紙「国籍法の定め」に記載のとおり。 なお、同別紙中で定義した略称等は、以下の本文においても同様に用いるものとする。 2 前提事実(当事者間に争いがないか後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) ⑴ 原告の法定代理人親権者であるA(英国国籍)及びB(日本国籍)は、平 成18年▲月▲日に婚姻し(以下、この夫婦を「原告養親」という。)、同年▲月▲日には長女が出生した。同長女は、出生により日本国籍及び英国国籍を取得した。(甲1、弁論の全趣旨)⑵ 原告は、平成22年▲月▲日、日本国籍を有する親の子として出生し、出生により日本国籍を取得した。 ⑶ 原告は、平成23年▲月▲日、原告養親との間の特別養子縁組 た。(甲1、弁論の全趣旨)⑵ 原告は、平成22年▲月▲日、日本国籍を有する親の子として出生し、出生により日本国籍を取得した。 ⑶ 原告は、平成23年▲月▲日、原告養親との間の特別養子縁組の成立により、原告養親の養子となった。 ⑷ 原告養親は、平成24年▲月頃、英国国務長官に対し、原告の英国市民登録を申請した(甲45)。 英国国務長官は、同年▲月▲日、上記申請に基づき、原告を英国市民とし て登録し、これにより、原告は英国国籍を取得した(甲2。以下、この登録手続を「本件登録手続」という。)。 18歳未満の児童について英国市民登録を申請する際に用いられる申請書(乙7の1・2。以下「本件申請書」という。)には、同登録に関する説明が記載されたガイド(乙8の1・2。以下「本件ガイド」という。)を読み理解 したことを確認する欄(チェックボックス(□)にチェック印等を書き込む体裁のもの。以下「チェック欄」という。)があった。また、本件ガイドには、英国市民登録が英国国籍を取得するための手続であり、その取得により原国籍を喪失するおそれがある旨の記載があった。 3 争点 ⑴ 本件登録手続による英国国籍の取得に国籍法11条1項が適用されるか否か(争点1)⑵ 国籍法11条1項が憲法10条、13条及び22条2項に違反するか否か(争点2)⑶ 国籍法11条1項が憲法14条1項に違反するか否か(未成年者である原 告に国籍法11条1項を適用することが憲法14条1項に違反するか否かを 含む。争点3) 4 争点に関する当事者の主張⑴ 争点1(本件登録手続による英国国籍の取得に国籍法11条1項が適用されるか否か)(被告の主張) ア法定代理人による外国籍の取得行為に国籍法11条1項が適用されること外国 主張⑴ 争点1(本件登録手続による英国国籍の取得に国籍法11条1項が適用されるか否か)(被告の主張) ア法定代理人による外国籍の取得行為に国籍法11条1項が適用されること外国籍の取得につき国籍法11条1項が適用されるか否かは、原則として、外国籍の取得を希望する意思行為がされ、その法的効果として直接当該外国籍を付与されたものであるか否かによって決すべきである。 そして、法定代理人によって未成年者の外国籍の取得を希望する意思行為がされ、その法的効果として直接当該外国籍を付与されたのであれば、当該未成年者は「自己の志望によって外国の国籍を取得した」者として、同法11条1項が適用される。 国籍法18条は、国籍取得の届出等の行為が自己の意思に基づく必要が あるとしても、代理によることを認めないとすれば、意思能力を欠く未成年者がこのような行為をする途を閉ざすことになるため、意思能力を欠く可能性の高い一定年齢に達しない者については、常に法定代理人が代わってしなければならないとしたものであり、むしろこの趣旨は、外国籍の取得の場合である国籍法11条1項にも当てはまる。 イ原告養親が原告の英国国籍を取得する意思を有していたこと原告養親は、本件申請書及び本件ガイドの記載を通じ、本件登録手続により原告が英国国籍を取得し、日本国籍を喪失するおそれがあることを理解していたものであり、原告の英国国籍を取得する意思があった。 そして、原告養親は、英国国籍の取得を希望する意思行為である本件登 録手続を行い、その法的効果として原告には英国国籍が付与されたのであ るから、本件登録手続による英国国籍の取得には国籍法11条1項が適用される。 (原告の主張)ア法定代理人による外国籍の取得行為に国籍法11条1項 として原告には英国国籍が付与されたのであ るから、本件登録手続による英国国籍の取得には国籍法11条1項が適用される。 (原告の主張)ア法定代理人による外国籍の取得行為に国籍法11条1項は適用されないこと 国籍法11条1項の「自己」とは、外国籍を取得する本人を指し、これに法定代理人が含まれないことは、その文言上明らかである。 また、本来代理に親しまない日本国籍の得喪に関する意思表示について限定的に法定代理人に授権した国籍法18条が同法11条1項を列挙していない趣旨からすれば、同法は、法定代理人による外国籍の取得行為に について、同法11条1項を適用することを予定していない。 そもそも、国籍法11条1項が規定する日本国籍の喪失という効果は、重国籍発生防止のために同法が政策的に結合させたものであり、本人の日本国籍の喪失に向けた意思行為に対応する効果ではないから、代理行為の対象が存在せず、これに法定代理制度が適用される余地はない。かえって、 同項に法定代理制度を適用すると、未成年者は、自身はもちろん法定代理人も意図しないままに日本国籍を喪失し、かつ、国籍選択の機会が与えられないという不利益を被る場合がある。 したがって、法定代理人による外国籍の取得行為に国籍法11条1項は適用されない。 イ原告養親が原告の英国国籍を取得する意思を有していなかったこと(ア) 外国の法律が定めるところに従って外国籍を取得する手続をした者が、その手続について、出生の登録の手続又は既に国籍を有する者を行政機関に登録する手続等と誤認し、外国籍の取得手続であることを認識していなかった場合、その者は当該外国籍取得の意思があったとはいえ ない。このような場合であっても、当該外国籍の取得の成否は当該外国 の法律及びそ 誤認し、外国籍の取得手続であることを認識していなかった場合、その者は当該外国籍取得の意思があったとはいえ ない。このような場合であっても、当該外国籍の取得の成否は当該外国 の法律及びその権限ある当局の判断により決せられるから、当該外国が外国籍の取得を認めることはあり得る。 しかし、国籍法11条1項を適用するに当たっては、日本国籍喪失の要件として、外国籍の取得の成否とは別に、外国籍取得の意思の有無を判断する必要があるから、その適用に当たっては、当該外国籍の取得が 日本の法律に照らしても本人の意思に基づき任意になされたと評価できることを要すると解すべきである。そのため、上記のように手続を誤認していた場合には、その手続の際に外国籍取得の意思があったとは認められないものとして、同項の「自己の志望によって外国の国籍を取得」する意思を有していなかったものと解すべきである。 (イ) 原告養親は、英国市民登録について、原告の英国旅券発給申請の前提として必要であると説明され、本件登録手続を行った。この際、原告養親は、原告が特別養子縁組によって実子である長女と同じ立場になり、英国国籍を当然取得したと誤認していたため、本件登録手続について、原告が英国国籍を有することを英国政府に報告し、英国市民として登録 する手続であると誤認していた。そのため、原告養親には、本件登録手続により原告が新たに英国国籍を取得したという具体的認識はなかった。なお、原告養親は、本件登録手続の際に本件申請書や本件ガイドを見た覚えはなく、チェック欄に書込みをした記憶はないし、これらを示されていたとしても細かくは読んでいなかった。 以上によれば、原告養親は本件登録手続について誤認しており、原告の英国国籍を取得する意思を有していなかったから、本件登 記憶はないし、これらを示されていたとしても細かくは読んでいなかった。 以上によれば、原告養親は本件登録手続について誤認しており、原告の英国国籍を取得する意思を有していなかったから、本件登録手続による英国国籍の取得に、国籍法11条1項は適用されない。 ⑵ 争点2(国籍法11条1項が憲法10条、13条及び22条2項に違反するか否か)(原告の主張)ア国籍法11条1項が憲法22条2項に違反すること憲法上、表現しない自由や信仰を強制されない自由は、表現の自由(2 1条)や信仰の自由(20条)と表裏の関係にあるものとして保障されていると解されているところ、これらと同様に、日本国籍を離脱しない自由は、日本国籍を離脱する自由(22条2項)と表裏の関係にある。また、日本国籍を離脱しない自由ないし日本国籍を保持する権利は、日本国籍離脱の自由とともに個人の幸福追求権の一内容として尊重されるべきであ ることからすれば、これらは等しく憲法22条2項により無制限に保障される。 また、憲法22条2項は、解釈上、無国籍となる自由を保障するものではなく、外国籍を有することが国籍離脱の条件となるから、重国籍の存在を予定している。したがって、同項は、重国籍の状態にある者に対し、日 本国籍を離脱して外国籍のみを保有するか、重国籍の状態を継続させるかを本人の意思に委ねることを保障するものであるから、重国籍の解消を理由に日本国籍を喪失させることは許されない。 そして、「自己の志望によって外国の国籍を取得したとき」に限って、上記権利を制限して重国籍の発生を防止すべき合理的な理由はないから、 国籍法11条1項は憲法22条2項に違反する。 イ国籍法11条1項が憲法10条及び13条に違反すること(ア) 本人の意思に反する国籍 して重国籍の発生を防止すべき合理的な理由はないから、 国籍法11条1項は憲法22条2項に違反する。 イ国籍法11条1項が憲法10条及び13条に違反すること(ア) 本人の意思に反する国籍喪失についての立法裁量は制限されていること日本国籍は、日本国の主権者たる地位を示し、また、憲法が保障する 基本的人権、公的資格の付与及び公的給付を受けるための条件となる重 要な法的地位であるほか、日本での生活を維持し、あるいは家族の統合を守るための重要な地位でもある。さらに、生育国の国籍や両親から継承した国籍は、本人のアイデンティティを形成する重要な要素の一つであって、これら国籍の重要性は、憲法22条2項の思想的根拠である憲法13条に基礎を求めることができる。 以上の国籍の重要性に鑑みれば、憲法10条に基づく立法裁量は、本人の意思に反して国籍を喪失させることについては制限的に解すべきであり、立法目的及びその目的達成手段の合理性の有無を具体的に検討してこれを逸脱したといえる場合には、その立法は同条に違反する。そして、次のとおり、国籍法11条1項は、立法目的又はその目的達成手段 の合理性を欠くことから、憲法10条に違反する。 (イ) 国籍変更の自由の保障という立法目的について国籍法11条1項の立法目的である国籍変更の自由の保障とは、原国籍の離脱を条件とする外国への帰化を希望する日本国民のために、その帰化の妨げにならないようにするものである。 上記立法目的は、ある外国の法律が、自国の国籍取得の条件として、遅くとも国籍取得と同時に原国籍を離脱することを条件とし、かつ、日本国民もその国籍取得を希望している場面に限り、合理性を有する。 しかし、国籍法11条1項は、その文言上も運用上も、その適用を上記場面に限定し 籍取得と同時に原国籍を離脱することを条件とし、かつ、日本国民もその国籍取得を希望している場面に限り、合理性を有する。 しかし、国籍法11条1項は、その文言上も運用上も、その適用を上記場面に限定していない。その結果、本件のように、外国籍を取得する ために日本国籍を喪失させる必要のない者の日本国籍を喪失させる事態を生じさせているが、これは上記立法目的の実現とは無関係である。 これに対し、フランス共和国が採用する国籍喪失宣明制度のように、外国籍を取得するに当たり、日本国籍を離脱することを希望する者に限って日本国籍を喪失させる制度を採用すれば、本人の意思に反する日本 国籍の喪失という重大な不利益を生じさせることなく上記立法目的を実 現することができるから、国籍法11条1項は、国籍変更の自由の保障という立法目的を達成する手段として合理性を有しない。 (ウ) 重国籍防止という立法目的についてa 国籍法11条1項の立法目的である重国籍の防止は、同項の制度内容の厳格さからすれば、自己の志望による外国籍の取得(以下「志望 取得」ということがある。)による重国籍の発生を完全に防止するものと捉えられるが、そうであれば、当該場面に限り重国籍の発生の防止を厳格にすべき合理的理由はないから、それ自体合理性を欠く。 b 国籍法11条1項の立法目的を、より緩やかに、最終的に重国籍の発生を防止し、又は解消するものであると解する場合、立法目的自体 は合理性を有する。 しかし、国籍法は、重国籍の発生を一旦広く認めた上で事後的に解消するという立法政策に立脚しているから、同法11条1項に限って、本人の意思を反映しない仕組みを採用する合理的理由はない。また、被告が挙げる日本における重国籍の弊害は、次のとおり、全く根拠が ないか、抽象的 政策に立脚しているから、同法11条1項に限って、本人の意思を反映しない仕組みを採用する合理的理由はない。また、被告が挙げる日本における重国籍の弊害は、次のとおり、全く根拠が ないか、抽象的・観念的なものにとどまる。そして、どのような者に国籍を与えるかは国内管轄事項であり、各国の国籍法制も多種多様であるから、発生を避けられない重国籍の防止はそもそも普遍的な要請ではないのであり、日本の国籍行政の運用や社会の実情からしても、重国籍の防止を厳格に行う必要性があるとはいえない。したがって、 同項は、その立法目的を達成する手段として過剰であり、合理性を欠く。 (a) 外交保護権の衝突について重国籍者について外交保護権の衝突が具体的に問題となった先例はないから、その回避のために重国籍者の日本国籍を一律に予め剥 奪する必要はない。そもそも、外交保護権の衝突を回避するために は、その行使を抑制すれば足りる。 (b) 兵役義務の抵触について徴兵制度のない日本において、外国との間で兵役義務の衝突が生じる余地はない。 (c) 納税義務の抵触について 現在の日本の税制において、日本国籍を保有することを理由に課税する制度はなく、今後創設されるとしても、租税条約締結の際に二重課税対策を講じれば足りる。 (d) 適正な出入国管理の阻害について外国籍を有する者に対する出入国管理と日本国籍を有する者に対 する出入国管理とでは、その内容を異にする。また、重国籍者による適正な出入国管理の阻害が社会問題化したことはない。 (e) 重婚の発生について重婚の発生原因は、外国で有効に成立した婚姻を本籍地に適切に報告しないことにあるから、重国籍による弊害ではない。 (f) 単一国籍者が得られない利益を享受する者の発生 重婚の発生について重婚の発生原因は、外国で有効に成立した婚姻を本籍地に適切に報告しないことにあるから、重国籍による弊害ではない。 (f) 単一国籍者が得られない利益を享受する者の発生について重国籍者は、各国籍国において提供される便益を享受する一方、各国籍国において課される義務を負担するから、法的保護に値しない便益と評価される理由はない。 (被告の主張) ア国籍法11条1項は憲法22条2項に違反するものではないこと(ア) 原告の主張の内実は、重国籍を保持する利益が保障されるというものであり、理由がないこと原告の主張を前提とすると、日本国籍を有する者は、外国籍を志望取得しても、その意思に反して日本国籍を失わない権利が憲法上保障され ていることになるが、このことは、原告の主張する権利の内実が重国籍 を保持する利益であることを示している。 そうすると、各国籍国のいずれにおいても、主権者たる地位を与えられ、旅券の発給を受け、参政権を行使し、居住の権利、出入国の権利が保障され、社会保障を受け得る地位を取得し、外交保護権によって庇護を受けるという立場を取得する利益があるということになるが、このよ うな便益を求める関係は、国籍概念が前提としている国民と国家との結合関係とかけ離れている。国籍の得喪の問題は、その者と国家との結合関係をどのように把握するかという問題であり、その者が受けることのできる便益のみを考慮して決まるものではない。 したがって、重国籍を保持する利益が保障されるとの原告の主張は、 国民と国家との結合関係を考慮しないものであり、その前提を欠くものである。 (イ) 国籍の得喪に起因する利益は前国家的な権利利益ではないこと国籍の得喪に起因する利益は、表現の自由や信仰の自由のよう 民と国家との結合関係を考慮しないものであり、その前提を欠くものである。 (イ) 国籍の得喪に起因する利益は前国家的な権利利益ではないこと国籍の得喪に起因する利益は、表現の自由や信仰の自由のような前国家的な権利利益ではなく、広範な立法裁量のもとに定められた国籍制度 を前提とした利益である。このような利益に何らかの制約が課せられるとしても、その不利益の程度は、表現の自由や信仰の自由に比して限定的である。また、国籍法11条1項の適用の前提には、日本国籍を喪失する者の自己決定が存在する。 したがって、憲法上、表現の自由や信仰の自由と表裏の関係にある表 現しない自由や信仰を強制されない自由が保障されるとしても、そのことから、国籍を離脱しない自由が保障されることにはならない。 (ウ) 小括以上に加えて、国籍唯一の原則(後記イ(イ))が国籍の存在意義から当然に導かれる原理又は国籍立法のあるべき姿であって、憲法22条2項 が重国籍を前提としていないことからすれば、国籍法11条1項は憲法 22条2項に違反するものではない。 イ国籍法11条1項は憲法10条に違反するものではないこと(ア) 憲法10条は、国籍喪失につき広範な立法裁量を認めていること憲法10条は、国籍は国家の構成員としての資格であり、国籍の得喪に関する要件を定めるに当たってはそれぞれの国の歴史的事情、伝統、 政治的、社会的及び経済的環境等、種々の要因を考慮する必要があることから、これをどのように定めるかについて、立法府の裁量判断に委ねる趣旨の規定である。 また、国籍の性質上、国家と国民との関係をどのように定めるかについて各国の立法府の裁量判断に委ねられていることに照らせば、憲法1 0条が国籍喪失の要件に係る法律への委任の範囲を限定してい 。 また、国籍の性質上、国家と国民との関係をどのように定めるかについて各国の立法府の裁量判断に委ねられていることに照らせば、憲法1 0条が国籍喪失の要件に係る法律への委任の範囲を限定していると解すべき根拠はない。 (イ) 国籍法11条1項の立法目的は合理的であること国籍法11条1項の立法目的は、①国籍変更の自由を認めるとともに、②国籍の積極的抵触(重国籍の発生)をできる限り防止することにあり、 これらは相互に密接に関連する。 国籍立法における一つの理想として、国家は個人の意思に反して自国の国籍を強制すべきでないとする国籍自由の原則があり、日本においても、国籍離脱の自由を認める憲法22条2項の一場面として、国籍変更の自由を認めていることからすれば、①国籍変更の自由を認めるという 立法目的は合理性を有する。 また、重国籍者は二以上の国家に所属するため、国家が国民に対して有する対人主権が重複して及ぶこととなり、外交保護権の衝突等により国際的摩擦が生じるおそれがある。また、国家は、自国民に対し、兵役義務、納税義務等を課し得るが、重国籍者は各国籍国からの義務の履行 を要求され、その義務が抵触する事態も生じ得る。さらに、重国籍者は、 関係国間の通報制度がない限り、各国籍国において別個の氏名により国民として登録されることも可能であり、別個の旅券を行使し得るから、個人の同一性の判断が困難となり、場合によっては、適正な出入国管理が阻害され、重婚を防止し得ないという事態も生じ得る。他方、重国籍者は、各国籍国において国民としての権利を与えられ、複数の本国に自 由に往来居住し、社会保障の利益、経済活動の自由を享受し得ることになるが、これらは単一の国籍のみを有する者には与えられていない利益であり、保護に値する利益 しての権利を与えられ、複数の本国に自 由に往来居住し、社会保障の利益、経済活動の自由を享受し得ることになるが、これらは単一の国籍のみを有する者には与えられていない利益であり、保護に値する利益とはいえない。このような見地から、人は必ず国籍を持ち、かつ、国籍は唯一であるべきであるという国籍唯一の原則は、国籍立法のあるべき姿として国際的に承認されてきたものである。 そして、重国籍が常態化することは、国家間、国家と個人との間又は個人間の権利義務に重大な矛盾衝突を生じさせるおそれがあるから、できる限り重国籍を防止するという理念は合理的なものである。 (ウ) 国籍法11条1項の立法目的達成の手段が合理性を有すること日本国籍を有する者が「自己の志望によって外国の国籍を取得したと き」に日本国籍を喪失させなければ、その者は必ず重国籍者となる。そうすると、外国籍を志望取得する場合において、国籍変更の自由を認めるとともに、重国籍の弊害を回避するためには、その者が外国籍を取得した段階で日本国籍を喪失させ、重国籍の状態に至るのを防ぐことが合理的である。 したがって、国籍法11条1項の立法目的達成の手段は合理的である。 (エ) 小括以上のとおり、国籍法11条1項は、その立法目的及びその達成手段のいずれも合理的であるから、憲法10条に違反しない。 ⑶ 争点3(国籍法11条1項が憲法14条1項に違反するか否か)(原告の主張)ア国籍法11条1項が憲法14条1項に違反すること(ア) 外国籍の志望取得の場合と異なる取扱いが存在すること①外国籍の当然取得による重国籍の場合、②生来的取得による重国籍 の場合及び③日本国籍の志望取得による重国籍の場合は、一旦重国籍となることが認められた上で、所定の猶予期間内に日本 存在すること①外国籍の当然取得による重国籍の場合、②生来的取得による重国籍 の場合及び③日本国籍の志望取得による重国籍の場合は、一旦重国籍となることが認められた上で、所定の猶予期間内に日本国籍又は外国籍のいずれかを選択する機会が与えられ(国籍法14条1項)、その選択方法も自由に選択することができる(同法11条2項、13条、14条2項前段)。加えて、所定の猶予期間内に国籍選択をしない者に対しても 法務大臣による選択義務の履行催告という方法により選択の機会を具体的に保障し(同法15条)、かつ、当該方法の運用は控えられている。 これに対し、国籍法11条1項にいう「自己の志望によって外国の国籍を取得した」者は、国籍選択の機会を与えられずに当然に日本国籍を喪失する。このように、志望により外国籍を取得した者とそれ以外の重 国籍者との間には、国籍選択の機会の保障につき異なる取扱いが存在する。 (イ) 憲法14条1項適合性の判断基準立法府に与えられた裁量権を考慮しても、なおそのような区別をする立法目的に合理的な根拠が認められない場合、又はその具体的な区別と 立法目的との間に合理的関連性が認められない場合、特に、重要な権利・利益を制限する規定である国籍法11条1項については、より区別の度合いの低い方法で立法目的が達成できる場合には、上記(ア)の異なる取扱いは、合理的な理由のない差別として憲法14条1項に違反する。 (ウ) 立法目的及びその達成手段との間の合理的関連性について 国籍法11条1項の立法目的及び立法目的との間の合理的関連性に関 する主張は、上記⑵(原告の主張)イ(イ)及び(ウ)と同様である。 また、本件のように、外国籍を志望取得する意思を有していなかった場合は、事前に外国籍を取得するか否かにつ の合理的関連性に関 する主張は、上記⑵(原告の主張)イ(イ)及び(ウ)と同様である。 また、本件のように、外国籍を志望取得する意思を有していなかった場合は、事前に外国籍を取得するか否かについて選択する機会がなかったという点において、外国籍の当然取得の場面及び生来的取得の場面と変わりがない。 したがって、上記(ア)の各場合との対比において、国籍法11条1項が志望により外国籍を取得した者の意思に反して日本国籍を喪失させることは、立法目的との関係で合理的関連性が認められない。 (エ) 小括以上によれば、国籍法11条1項は、憲法14条1項に違反する。 イ未成年者への国籍法11条1項の適用は憲法14条1項に違反すること未成年者が重国籍となった場合、国籍選択義務の履行は20歳に達するまで猶予される一方(国籍法14条1項)、その猶予期間を徒過したとしても、法務大臣の催告を経ない限り日本国籍を失うことはない(同法15条1項、3項。なお、現時点まで催告が行われたことは一度もない。)。ま た、重国籍の未成年者が15歳未満の場合、法定代理人が代わって国籍選択をすることができるが(同法18条)、これは義務ではないから、本人の意思に委ねるために国籍選択をしないことも当然に認められる。 このように、国籍法は、重国籍の弊害の少ない未成年者に対しては、本人自身の成熟した意思に基づいて国籍を選択できるよう、国籍選択の機会 を実質的・具体的に保障している。 これに対し、法定代理人による外国籍の取得行為により未成年者が外国籍を取得した場合に国籍法11条1項を適用すると、その未成年者は国籍選択の機会の保障なしに日本国籍を喪失することになる。これは、本人の意思に基づく重国籍の防止解消という同法の立法目的との合理的関連性 た場合に国籍法11条1項を適用すると、その未成年者は国籍選択の機会の保障なしに日本国籍を喪失することになる。これは、本人の意思に基づく重国籍の防止解消という同法の立法目的との合理的関連性 を欠いた差別的取扱いである。 したがって、法定代理人による外国籍の取得行為により未成年者である原告が外国籍を取得した場合である本件について、国籍法11条1項を適用することは憲法14条1項に違反する。 (被告の主張)ア総論 国籍法11条1項は、志望により外国籍を取得した者については、国籍変更の自由を保障している以上、重国籍防止の見地から、当然に原国籍(日本国籍)を放棄する意思があるとみるべきであるとして、その反射的効果として日本国籍を失うとしたものである。 後記イの各場合とは、そもそも制度目的及び趣旨が異なるものである上、 これらと比較しても、取扱いの差には合理性が認められる。 イ取扱いの差に合理性が認められること(ア) ①外国籍の当然取得による重国籍の場合及び②生来的取得による重国籍の場合①外国籍の当然取得による重国籍の場合及び②生来的取得による重国 籍の場合は、外国籍の取得に自己の意思が介在していないから、当該外国籍の取得によって直ちに日本国籍を失わせると、自己の意思を介在させることなく日本国籍を失わせることとなる。そこで、これらの者に対しては、一旦重国籍が発生することを許容した上で、自己の意思によりどちらかの国籍を選択することによって重国籍を解消させるのが相当で ある。 一方、志望により外国籍を取得した者は、外国籍を取得した段階で自己の意思が介在しているため、上記のような不都合は存在しない。 したがって、①外国籍の当然取得による重国籍の場合及び②生来的取得による重国籍の場合と、外国籍 を取得した者は、外国籍を取得した段階で自己の意思が介在しているため、上記のような不都合は存在しない。 したがって、①外国籍の当然取得による重国籍の場合及び②生来的取得による重国籍の場合と、外国籍を志望取得したことにより国籍法11 条1項の適用を受ける場合との間に取扱いの差を設けることは合理的で ある。 (イ) ③日本国籍の志望取得による重国籍の場合国籍法3条又は17条1項の規定により日本国籍を取得した者が従来から有する外国籍について、その得喪の決定が国内管轄事項であることからすると、これらの者に重国籍防止義務を一律に課すことは相当で ない。また、同法5条2項は、帰化による重国籍は人為的なものであり、出生による重国籍に比べ重国籍防止の要請が強いことから、昭和59年法律第45号による国籍法の改正(以下「昭和59年国籍法改正」という。)により、重国籍防止要件(現行の国籍法5条1項5号)を維持する一方、当該外国人が属する国の法制上、帰化前に当該外国籍を失うこ とができない場合において、日本国民との親族関係又は境遇につき特別の事情があると認めるときに帰化を許可することができるとしたものである。そのため、これらの場合は、一旦重国籍が発生することを許容した上で、自己の意思によりどちらかの国籍を選択することによって重国籍を解消させることとしたものである。 したがって、③日本国籍の志望取得による重国籍の場合と、外国籍を志望取得したことにより国籍法11条1項の適用を受ける場合との間に取扱いに差を設けることは合理的である。 ウ小括以上のとおり、国籍法11条1項は、これによる区別とその立法目的と の間に合理的関連性が認められるから、憲法14条1項に違反しない。 また、国籍法11条1項を未成年者に適用するこ ウ小括以上のとおり、国籍法11条1項は、これによる区別とその立法目的と の間に合理的関連性が認められるから、憲法14条1項に違反しない。 また、国籍法11条1項を未成年者に適用することも憲法14条1項に違反しない。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(本件登録手続による英国国籍の取得に国籍法11条1項が適用されるか否か)について⑴ 国籍法11条1項についてア国籍法11条1項は、「日本国民は、自己の志望によって外国の国籍を取 得したときは、日本の国籍を失う」と規定しているところ、後記2⑵ア(イ)のとおり、同項は、重国籍の発生をできる限り防止するとともに、国籍離脱の自由を保障する憲法22条2項の規定を受けて、国籍離脱の一場面として国籍変更の自由を保障する趣旨の規定であると解される。そして、国籍法11条1項の「自己の志望によって外国の国籍を取得したとき」とは、 帰化、国籍の回復・選択・登録・申告その他手続の名称にかかわらず、外国籍の取得を希望する意思行為をし、その法的効果として直接当該外国籍を付与される場合をいい、婚姻や養子縁組等の身分行為や親権者の帰化の効果が当然に子に及ぶ場合など、一定の事実に伴って法律上当然の効果として外国籍を取得した場合(当然取得)を除外する趣旨と解される。 イ上記アで説示したところによれば、国籍法11条1項の「自己の志望によって」とは、外国籍の取得が、当該外国籍の取得を希望する本人の意思行為に基づくものであることを広く指すものと解される。 また、同項の「外国の国籍を取得したとき」とは、外国籍を有効に取得したことを意味するものと解されるところ、外国籍の取得の有効性は、当 該外国の法律に基づいて判断されるべきものであり(国内管轄の原則。乙1)、外国籍の取得を したとき」とは、外国籍を有効に取得したことを意味するものと解されるところ、外国籍の取得の有効性は、当 該外国の法律に基づいて判断されるべきものであり(国内管轄の原則。乙1)、外国籍の取得を希望する意思を欠くこと等によりその意思行為に瑕疵があるか否かについても、当該外国の権限ある当局によって、当該外国籍の取得の有効性に関する検討の過程で判断されるべきものである。 一方、外国籍の取得の有効性が当該外国の権限ある当局によって認めら れた場合であっても、抵抗し難い強迫によって外国籍の取得を希望する意 思行為をした場合その他これに準ずる場合のように、外国籍を取得する意思があったことを否定すべき特段の事情が認められる場合には、同項の「自己の志望によって」の要件を満たさないものと解すべきである。 ウ上記イのとおり、外国籍の取得を希望する意思行為に関しては当該外国の法律によって規律される結果、所定の年齢に達しない者については、当 該外国の法律において認められる法定代理人によってそれがされることがあり得る。このような場合、法定代理人は、当該外国の法律により、外国籍の取得を希望する意思行為を本人に代わって行うことが認められているのであるから、当該行為は本人の意思行為であると評価することができ、また、その法的効果として直接外国籍が本人に付与されたとすれば、それ は上記意思行為によるものであって、一定の事実に伴って法律上当然の効果として外国籍を取得した場合(当然取得)には当たらないというべきである。 以上によれば、国籍法11条1項は、法定代理人による外国籍の取得行為についても適用されるものと解するのが相当である。 エ原告は、上記第2の4⑴(原告の主張)アのとおり、国籍法11条1項の文言や同法18条との整合性から は、法定代理人による外国籍の取得行為についても適用されるものと解するのが相当である。 エ原告は、上記第2の4⑴(原告の主張)アのとおり、国籍法11条1項の文言や同法18条との整合性からすれば、ここにいう「自己」とは外国籍を取得する本人を指し、法定代理人は含まれない旨主張する。 しかし、上記ウで説示したとおり、外国において行われた法定代理人による未成年者の外国籍の取得を希望する意思行為は、当該外国の法律にお いて、本人に代わって法定代理人が行ったものとされる以上、本人の意思行為として評価することができるのであるから、これに国籍法11条1項を適用することは、「自己の志望によって」という文言に反するものではない。また、同法18条は、日本国内において行われる法定代理人による国籍の得喪行為について定めたものであって、国内管轄の原則からすれば、 外国において行われる法定代理人による外国籍の取得行為について同条 に掲げられていないのは当然といえる。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 オ原告は、上記第2の4⑴(原告の主張)アのとおり、本人の日本国籍の喪失に向けた意思行為という代理行為の対象が存在しない以上、国籍法11条1項に法定代理制度を適用する余地はなく、これを適用すると、未成 年者及び法定代理人が意図しないままに日本国籍を喪失し、かつ、国籍選択の機会が与えられないという不利益を被る場合があるとも主張する。 しかし、国籍法11条1項は、「自己の志望によって外国の国籍を取得した」という事実により日本国籍の喪失という効果が生じると定めているのであるから、未成年者の日本国籍の喪失に向けた意思行為は必要ではな い。 また、未成年者の法定代理人による意思行為に基づいて当該未成年者が外国籍を 国籍の喪失という効果が生じると定めているのであるから、未成年者の日本国籍の喪失に向けた意思行為は必要ではな い。 また、未成年者の法定代理人による意思行為に基づいて当該未成年者が外国籍を有効に取得した場合に、これを意図していたか否かは、上記イの特段の事情が認められるか否かという観点で判断されるべきものであり、国籍法11条1項の適用一般において、法定代理制度の適用を否定する根 拠とならない。なお、上記の特段の事情が認められず、国籍法11条1項が適用される場合、そもそも同規定が日本国籍に加えて外国籍を取得することを想定したものではないことからすると、法定代理人は、未成年者である本人について、外国籍を取得せずに日本国籍のままとするか、外国籍を取得して日本国籍を喪失させるかを比較衡量して、いずれが本人の利益 になるか否かを検討する必要があるのであって、後者を選択した以上、外国籍の取得という点を捨象して、日本国籍の喪失という効果のみに着目して未成年者に不利益であるということもできない。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 ⑵ 本件登録手続による英国国籍の取得に国籍法11条1項が適用されるか否かア原告は、原告養親による本件登録手続に基づき、英国国籍を取得しているところ、これは、英国の権限ある当局が、原告養親による本件登録手続が適式なものであると判断して、原告の英国国籍の取得が有効であると認 めたということを意味し、国籍法11条1項の「外国の国籍を取得したとき」の要件を満たす。 そして、原告には、原告養親による本件登録手続、すなわち原告の英国国籍の取得を希望する意思行為に基づき、その法的効果として直接英国国籍が有効に付与されているから、特段の事情のない限り、原告養親には原 告の英 、原告養親による本件登録手続、すなわち原告の英国国籍の取得を希望する意思行為に基づき、その法的効果として直接英国国籍が有効に付与されているから、特段の事情のない限り、原告養親には原 告の英国国籍を取得する意思があったものと認められるのであり、原告は「自己の志望によって」英国国籍を取得したものといえる。 原告養親について原告の英国国籍を取得する意思があったことを否定すべき特段の事情の有無について検討するに、上記のとおり、英国の権限ある当局が、原告養親による本件登録手続が適式なものであると判断したこ とによれば、原告養親は、本件登録手続において本件申請書を提出するに当たり、本件ガイドを読み理解したことを確認する旨のチェック欄に所定の書込みをしていたものと認めるのが相当であり、この認定を左右するに足りる証拠はない。そして、本件ガイドには、英国市民登録が英国国籍を取得するための手続であり、その取得により原国籍を喪失するおそれがあ る旨の記載があったことについては、前提事実⑷のとおりである。以上の各事実によれば、原告養親は、英国市民登録が英国国籍を取得するための手続であり、原告が英国国籍を取得することを理解し、更には原国籍である日本国籍を喪失するおそれがあることも理解した上で本件申請書を提出し、本件登録手続をしたものと認められる。同事実に照らすと、原告養 親について、原告の英国国籍を取得する意思があったことを否定すべき特 段の事情は認められない。 したがって、原告養親が行った原告の英国国籍の取得行為である本件登録手続については、国籍法11条1項が適用される。 イ原告は、上記第2の4⑴(原告の主張)イのとおり、原告養親は、本件登録手続について、原告が英国国籍を有することを英国政府に報告し、英 国市民とし については、国籍法11条1項が適用される。 イ原告は、上記第2の4⑴(原告の主張)イのとおり、原告養親は、本件登録手続について、原告が英国国籍を有することを英国政府に報告し、英 国市民として登録する手続であると誤認していたから、原告の英国国籍を取得する意思を有していなかった旨主張し、これに沿う原告の養母(法定代理人)であるBの陳述書(甲45)を提出するが、上記アの認定に反し、採用することができない。 これを措き、仮に、原告養親において、本件登録手続の意味につき、原 告が英国国籍を有することを英国政府に報告するものであるなどと誤認していたことがあったとしても、原告養親は、それが原告の英国国籍に関する手続であることは認識していたものと認められ、かつ、原告が英国国籍を保有すること自体は原告養親の意に沿うものといえる。また、本件申請書及び本件ガイドの記載内容からすれば、上記誤認をした原告養親は、 手続の意味を理解する機会を自ら放棄したものと評価せざるを得ない上、上記誤認についても、原告養親において、原告が特別養子縁組によって英国国籍を当然取得して日本国籍との重国籍状態になったという、英国の法制の内容に反する思い込みをしたことに起因するものである。 以上によれば、原告養親に上記誤認があったとしても、それは、抵抗し 難い強迫によって外国籍の取得を希望する意思行為をした場合その他これに準ずる場合のように、原告の英国国籍を取得する意思があったことを否定すべき特段の事情には当たらないというべきである。 2 争点2(国籍法11条1項が憲法10条、13条及び22条2項に違反するか否か)について ⑴ 判断枠組み 憲法10条は、「日本国民たる要件は、法律でこれを定める。」と規定し、これを受けて、国籍法は、日本国 が憲法10条、13条及び22条2項に違反するか否か)について ⑴ 判断枠組み 憲法10条は、「日本国民たる要件は、法律でこれを定める。」と規定し、これを受けて、国籍法は、日本国籍の得喪に関する要件を規定している。憲法10条の規定は、国籍は国家の構成員としての資格であり、国籍の得喪に関する要件を定めるに当たってはそれぞれの国の歴史的事情、伝統、政治的、社会的及び経済的環境等、種々の要因を考慮する必要があることから、これ をどのように定めるかについて、立法府の裁量判断に委ねる趣旨のものであると解される(最高裁平成18年(行ツ)第135号同20年6月4日大法廷判決・民集62巻6号1367頁(以下「平成20年大法廷判決」という。)、最高裁平成25年(行ツ)第230号同27年3月10日第三小法廷判決・民集69巻2号265頁(以下「平成27年第三小法廷判決」という。)参照)。 このように、日本国籍の得喪に関する要件の定立は立法府の裁量判断に委ねられているところ、憲法は、22条2項において、「何人も〔中略〕国籍を離脱する自由を侵されない。」と規定して、国籍離脱の自由を定めているものの、国籍を離脱しない自由ないし国籍を保持する権利が保障されるか否かについては何らの定めも置いていない。そうすると、同項の定める国籍離脱の 自由は、日本国籍からの離脱を望む者に対して、その者が無国籍者となるのでない限り、国家がこれを妨げることを禁止するという消極的権利を定めたものにすぎないということができ、同項の規定を根拠に、憲法上、日本国籍を離脱しない自由ないし日本国籍を保持する権利が積極的に保障されているということはできない。また、上記のとおり、憲法10条が、日本国籍の得 喪に関する要件を立法府の裁量判断に委ねている以上、そ を離脱しない自由ないし日本国籍を保持する権利が積極的に保障されているということはできない。また、上記のとおり、憲法10条が、日本国籍の得 喪に関する要件を立法府の裁量判断に委ねている以上、そのような立法府の裁量によって付与される地位について、憲法13条に基づいて直ちに何らかの権利が保障されるものとは解し難いというべきである。そうすると、原告の主張する日本国籍の離脱を強制されない権利が憲法13条及び22条2項によって保障されるものと解することは、困難といわざるを得ない。 そして、日本国籍が、我が国の構成員としての資格であるとともに、基本 的人権の保障、公的資格の付与、公的給付等を受ける上で意味を持つ重要な法的地位でもあること(平成20年大法廷判決参照)に鑑み、仮に、日本国籍を意思に反して奪われないという利益又は法的地位が、基本的人権の保障等の観点から憲法13条、22条2項の規定等の精神に照らして尊重されるべきものであることにより、憲法10条に基づき国籍の得喪に関する要件に ついて立法府に与えられた裁量に一定の制約が及び得るとしても、同条が国籍の得喪に関する要件の定めを立法府の裁量判断に委ねており、その文言上、日本国民たる要件についての法律の委任の範囲に限定がないことからすれば、国籍の喪失を定める立法については、当該立法に係る立法目的及びその目的を達成する手段が合理的である場合には、立法府の裁量の範囲を逸脱し、又 はこれを濫用したものということはできないと解するのが相当である。 上記説示に反する原告の主張(上記第2の4⑵(原告の主張)ア及びイ(ア))は、いずれも採用することができない。 ⑵ 国籍法11条1項の合理性についてア立法目的について (ア) 国籍法11条1項の沿革等後掲各証拠及び の4⑵(原告の主張)ア及びイ(ア))は、いずれも採用することができない。 ⑵ 国籍法11条1項の合理性についてア立法目的について (ア) 国籍法11条1項の沿革等後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。 a 明治32年に制定された国籍法(同年法律第66号。以下「旧国籍法」という。)は、出生による国籍の取得について父系血統主義を採用するとともに、無国籍防止の見地から補充的に生地主義を採用した。 他方において、旧国籍法は、国籍喪失事由として、外国人の妻となった場合など、一定の身分行為又は身分関係に基づいて当然の喪失を認めていたほか、「自己ノ志望ニ依リテ外國ノ國籍ヲ取得シタル者ハ日本ノ國籍ヲ失フ」(20条)として、自己の志望による外国籍の取得によって国籍を喪失すると定めていた。もっとも、国籍の喪失につい ては、17歳以上の男子は既に陸海軍の現役に服したとき又はこれに 服する義務がない場合でなければ日本国籍を失わないなどの一般的制限が設けられていた。(乙1)旧国籍法20条の趣旨については、国籍の積極的衝突が生じるという弊害を回避するためであるなどと説明されていた(甲12)。 b 昭和25年に旧国籍法を廃止した上で制定された国籍法(同年法律 第147号)は、憲法22条2項が国籍離脱の自由を保障したことを受けて、上記aの国籍の喪失に関する一般的制限を撤廃し、外国籍を有する日本国民は届出により日本国籍を離脱することができるものとした(国籍法13条。昭和59年国籍法改正前の10条)。国籍喪失事由の一つである自己の志望による外国籍の取得に関する規定は、そ のまま引き継がれた(国籍法11条1項。昭和59年国籍法改正前の8条)。(乙1、弁論の全趣旨)国籍法制定の際の法案審議におけ 事由の一つである自己の志望による外国籍の取得に関する規定は、そ のまま引き継がれた(国籍法11条1項。昭和59年国籍法改正前の8条)。(乙1、弁論の全趣旨)国籍法制定の際の法案審議における立案担当者の説明によれば、新たな国籍法においても、国籍の積極的抵触(重国籍)及び消極的抵触(無国籍)の発生防止等の原則そのものには変更がないとされ、また、 国籍喪失事由の一つである自己の志望による外国籍の取得に関する規定は、国籍変更の自由を認めるとともに国籍の抵触を防止することを目的とするものであり、旧国籍法20条の規定をそのまま踏襲したものであるとされた(甲47)。 c 昭和59年国籍法改正では、昭和55年に政府が署名した「女子に 対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」の批准に備えること、昭和25年の国籍法制定以降の国際情勢及び社会情勢の変化に対応することなどを理由に、出生による国籍の取得について、従来の父系血統主義が改められ、父母両系血統主義(国籍法2条1号)が採用された。また、重国籍者は成年に達した後、所定期間内にいずれかの国籍 を選択しなければならないものとする国籍選択制度(同法14条から 16条まで)が新設されるとともに、国籍留保制度の対象範囲を国外で出生した血統による重国籍者に拡大した(同法12条)。一方、国籍喪失事由の一つである自己の志望による外国籍の取得に関する規定は、そのまま引き継がれた。(乙1、6、弁論の全趣旨)(イ) 上記(ア)の沿革を踏まえて検討すると、国籍法11条1項は、旧国籍 法20条の規定を踏襲したものであって、その趣旨は、「自己の志望によって外国の国籍を取得したとき」には従前の日本国籍を当然に喪失することとして、重国籍の発生を防止するとともに、憲法22条2項が国籍離 20条の規定を踏襲したものであって、その趣旨は、「自己の志望によって外国の国籍を取得したとき」には従前の日本国籍を当然に喪失することとして、重国籍の発生を防止するとともに、憲法22条2項が国籍離脱の自由を保障するに至ったことを受けて、国籍離脱の一場面として国籍変更の自由を保障したものと解される。このように、国籍法11 条1項の立法目的は、①重国籍の発生をできる限り防止しつつ、②国籍変更の自由を保障するというものであるといえる。 イ立法目的の合理性について国籍法11条1項の立法目的の合理性について検討すると、重国籍の発生をできる限り防止するという点についてみれば、国籍は、国家の基本的 構成要素である国民、すなわち、国家の主権者たる地位や権利と共に国家の統治権に服する地位や義務を持つ者の範囲を画するものであって、個人に対して複数の国家が対人主権を持つ場合、又は個人が複数の国家に対して主権を持つ場合には、国家間の摩擦を生じるおそれがあるほか、国家と個人との間又は個人間の権利義務に矛盾衝突を生じさせるおそれがあると いえる。具体的には、重国籍者に対しては、複数の国家が対人主権を持つことになるから、国家間の外交保護権の衝突を招くおそれがある。また、国家は、自国民に対し、納税義務、兵役義務等の種々の義務を課し得るところ、重国籍者については、これらの義務が衝突したり抵触したりする事態が生じ得る。さらに、重国籍者は、関係国間の通報制度がない限り、そ の属する各国籍国において別個の氏名により国民として登録されることも 可能であり、個人の同一性の判断が困難となる結果、別個の旅券を行使することが可能となって出入国管理が阻害されたり、重婚を防止し得ない事態が生じたりする可能性も否定することができない。 このように、重 能であり、個人の同一性の判断が困難となる結果、別個の旅券を行使することが可能となって出入国管理が阻害されたり、重婚を防止し得ない事態が生じたりする可能性も否定することができない。 このように、重国籍が常態化した場合には、国家間の外交保護権が衝突し、国家と個人との間又は個人間の権利義務に矛盾衝突を生じさせ、これ らの種々の弊害が生ずるおそれがあるから、重国籍の発生をできる限り防止し、重国籍を解消させるべきであるという理念は合理性を有するものといえる。 そして、国籍法11条1項は、重国籍の発生をできる限り防止しつつ、憲法22条2項により保障される国籍離脱の自由の一場面として外国籍 への変更を認めることにより、国籍変更の自由を保障したものであるから、その立法目的は合理的であるということができる。 ウ立法目的を達成する手段について上記ア(イ)の立法目的を達成する手段についてみると、重国籍の発生をできる限り防止しつつ、国籍変更の自由を保障するという観点からは、自己 の志望による外国籍の取得に伴って当然に日本国籍を喪失させることが相当であり、国籍法11条1項は立法目的を達成する手段として合理的であるといえる。 ⑶ 原告の主張についてア原告は、上記第2の4⑵(原告の主張)イ(ウ)aのとおり、国籍法11条 1項の立法目的である重国籍の防止は、同項の制度内容の厳格さからすれば、外国籍の志望取得による重国籍の発生を完全に防止するものと捉えられる旨主張する。 しかし、上記⑵ア(イ)のとおり、国籍法11条1項の立法目的は、重国籍の発生をできる限り防止しつつ、国籍変更の自由を保障するというもので あるところ、重国籍の発生をできる限り防止するという点については、同 項に限らず、国籍法全体として、上記⑵イのとお 籍の発生をできる限り防止しつつ、国籍変更の自由を保障するというもので あるところ、重国籍の発生をできる限り防止するという点については、同 項に限らず、国籍法全体として、上記⑵イのとおり、重国籍の発生を防止する必要性がある一方、国内管轄の原則からこれを完全に防止することはできないため、我が国においてできる限りにおいて、重国籍に至った原因を考慮しつつ、重国籍の発生を防止しようとする趣旨のものである(後記イ参照)。このように、同項の立法目的は、外国籍の志望取得による重国 籍の発生を完全に防止することそれ自体ではない。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 イ原告は、上記第2の4⑵(原告の主張)イ(イ)及び(ウ)bのとおり、重国籍の発生を一旦広く認めた上で事後的に解消するという立法政策に沿った、より権利侵害的でない手段があるから、国籍法11条1項が志望により外 国籍を取得した者につき当然に日本国籍を喪失する旨定めていることは、手段として合理性を欠く旨主張する。 しかし、日本国籍の得喪に関する要件をどのように定めるかは各国の国内管轄事項であるため、重国籍が生じる原因には様々なものがあり得るところ、重国籍をできる限り解消するための手段としてどのような制度を設 けるのが相当であるかは、重国籍が生じた原因によって異なり得る。そして、自己の志望によって外国籍を取得する場合以外に重国籍の問題が生じる場合、例えば、出生によって重国籍を取得する場合や、外国人との婚姻等の身分行為によって当然に重国籍を取得する場合のように、自己の意思によらずに重国籍が発生する場合もあるから、国籍離脱制度や国籍選択制 度のように、自己の意思によって事後的に重国籍を解消させる制度を採ることは合理性があるといえる。これに対し うに、自己の意思によらずに重国籍が発生する場合もあるから、国籍離脱制度や国籍選択制 度のように、自己の意思によって事後的に重国籍を解消させる制度を採ることは合理性があるといえる。これに対して、志望により外国籍を取得した者については、上記のように自己の意思によらずに重国籍を取得する場合とは異なり、外国籍を取得するか否かを選択する機会が与えられているのであるから、一旦重国籍の発生を認めた上で自己の意思によって事後的 に重国籍を解消させる制度を採る必要性は乏しいものというべきである。 また、国籍法11条1項は、「自己の志望によって外国の国籍を取得したとき」には日本国籍を喪失するとの効果が生ずることを明示的に規定することにより、日本国籍を喪失することになっても自己の志望により外国籍を取得するか否かを自身で選択する機会を与えているともいえる。 そうすると、国籍法11条1項が、志望により外国籍を取得した者につ いて、重国籍の発生をできる限り防止しつつ国籍離脱の一場面である国籍変更の自由を保障するという立法目的を達成するため、重国籍を解消するための手段として国籍離脱制度や国籍選択制度を採用せず、外国籍の志望取得により当然に日本国籍を喪失するものとしたことが不合理であるということはできない。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 ウ原告は、上記第2の4⑵(原告の主張)イ(ウ)bのとおり、重国籍による弊害は全く根拠がないか、抽象的・観念的なものにとどまるとして、重国籍の防止を厳格に行う必要性があるとはいえない旨主張する。 しかし、そもそも重国籍によって生じ得る種々の弊害について、それら を回避する方法が他にあり得るとしても、あるいは、必ずしも重国籍のみが原因でその弊害が生じるものではないとし い旨主張する。 しかし、そもそも重国籍によって生じ得る種々の弊害について、それら を回避する方法が他にあり得るとしても、あるいは、必ずしも重国籍のみが原因でその弊害が生じるものではないとしても、弊害の原因となる重国籍それ自体について、できる限りその発生を防止しようとする立法目的そのものが直ちに不合理になるものではない。また、重国籍による弊害の中に、納税義務の抵触のように国家間の条約等によって解決することができ る事項があるとしても、全ての国との間においてそのような弊害の防止等を目的とする条約等を締結することは現実的とはいえず、現に我が国がそのような条約等を締結している状況にあるわけでもない。さらに、例えば外交保護権の衝突について、重国籍によって生じる国家間の紛争を解決する国際慣習法上のルールが存在するとしても、その解釈や適用等をめぐる 紛争を未然に防ぐ必要性があることは否定できない。 そうすると、原告の上記主張を踏まえても、重国籍から生じる弊害をできる限り解消するという国籍法11条1項の立法目的が不合理であるとはいえないのであり、これを達成するための手段として同項の規定が合理的であることについては、上記イのとおりである。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 エ原告は、上記第2の4⑵(原告の主張)イ(ウ)bのとおり、重国籍の防止は普遍的な要請ではないことなどから、重国籍の防止を厳格に行う必要性があるとはいえない旨主張する。 証拠(甲21、22、49~53)及び弁論の全趣旨によれば、重国籍に対して寛容な態度を採る国も存在するものの、重国籍自体を許容してい ない国や重国籍の発生自体は許容しつつもその解消のための方策を採る国もそれぞれ相当数存在していることが認められ、重国籍から に対して寛容な態度を採る国も存在するものの、重国籍自体を許容してい ない国や重国籍の発生自体は許容しつつもその解消のための方策を採る国もそれぞれ相当数存在していることが認められ、重国籍から生じる弊害を防止する必要性が低下しているとはいえない。また、国籍の得喪に関する要件を定めるに当たっては、それぞれの国の歴史的事情、伝統、政治的、社会的及び経済的環境等、種々の要因を考慮する必要があるところ(平成 20年大法廷判決、平成27年第三小法廷判決参照)、上記ウで説示したとおり、我が国が全ての国との間で重国籍の弊害の防止等を目的とする条約等を締結することは現実的とはいえず、現に我が国がそのような条約等を締結している状況にあるわけでもない。 そうすると、原告の上記主張を踏まえても、重国籍から生じる弊害をで きる限り解消するという国籍法11条1項の立法目的が不合理であるとはいえないのであり、これを達成するための手段として同項の規定が合理的であることについては、上記イのとおりである。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 ⑷ 小括 以上のとおり、国籍法11条1項は、その立法目的や当該立法目的と手段 との関連性の観点から合理性を欠くものとは認められないことから、同項が憲法10条に基づき立法府に与えられた裁量の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものであるということはできない。 3 争点3(国籍法11条1項が憲法14条1項に違反するか否か)について⑴ 判断枠組み等 上記2⑴のとおり、憲法10条の規定は、国籍の得喪に関する要件をどのように定めるかについて、立法府の裁量判断に委ねる趣旨のものであると解される。もっとも、このようにして定められた日本国籍の得喪に関する法律の要件によって生じた区別が、 、国籍の得喪に関する要件をどのように定めるかについて、立法府の裁量判断に委ねる趣旨のものであると解される。もっとも、このようにして定められた日本国籍の得喪に関する法律の要件によって生じた区別が、合理的な理由のない差別的取扱いとなるとき、すなわち、立法府に与えられた上記のような裁量権を考慮しても、なおその ような区別をすることの立法目的に合理的な根拠が認められない場合、又はその具体的な区別と上記の立法目的との間に合理的関連性が認められない場合には、当該区別は、合理的な理由のない差別として、憲法14条1項に違反するものと解すべきである(平成20年大法廷判決、平成27年第三小法廷判決参照)。 原告は、上記第2の4⑶(原告の主張)ア(ア)のとおり、国籍法11条1項の適用を受ける者と、①外国籍の当然取得による重国籍の場合、②生来的取得による重国籍の場合、③日本国籍の志望取得による重国籍の場合にそれぞれ該当する者との間に存する国籍選択の機会の保障についての取扱いの差異は、合理的な理由のない差別である旨主張するので、以下検討する。 ⑵ ①外国籍の当然取得による重国籍の場合についてア日本国籍を有する者が、外国人との婚姻等の身分行為によって外国籍を取得した場合や親族の外国への帰化等に伴って外国籍を取得した場合など、自己の志望によらずに外国籍を当然取得した場合には、国籍法11条1項は適用されず、当該重国籍を有するに至った者は、重国籍となった時から 2年以内(重国籍となった時が18歳に達する前であれば20歳に達する まで)にいずれかの国籍を選択しなければならないとされている(同法14条1項)。そして、日本国籍の選択の方法は、外国籍を離脱することによるほか、選択の宣言をすることによって行うものとされている(同条2 )にいずれかの国籍を選択しなければならないとされている(同法14条1項)。そして、日本国籍の選択の方法は、外国籍を離脱することによるほか、選択の宣言をすることによって行うものとされている(同条2項)。 原告は、外国籍の取得につき、それが当然取得又は志望取得のいずれな のかは当該外国の法律の定め方次第であり、両者間に本質的な違いはないにもかかわらず、前者の場合には国籍選択の機会が与えられる上、選択の宣言を行った場合であっても重国籍を継続することができる一方、後者の場合にはそのような選択の機会もなく、自己の志望による外国籍の取得に伴って当然に日本国籍を喪失することとなるから、両者の間の区別は不合 理な差別的取扱いに当たる旨主張する。 イ国籍の得喪に関する要件をどのように定めるかは国内管轄事項であるため、外国の法律において身分行為等により外国籍を当然取得することについて、我が国の法律で規律することはできない。そのため、外国籍を当然取得した者について、何ら自己の意思を介在することなく外国籍を取得し たことを考慮するとともに、できる限り重国籍を解消するために、直ちに日本国籍を失うものとはせずに国籍選択の機会を与えることは合理的である。そして、その手段として、重国籍の発生を一旦許容し、重国籍が生じた時から所定の猶予期間内にいずれかの国籍を選択しなければならないとしたこと(国籍法14条1項)には、上記目的との間の合理的関連性を認 めることができる。 このように、外国籍を当然取得した者について、志望により外国籍を取得した者と異なり、国籍選択の機会が与えられているのは、自己の意思を介在することなく外国籍を取得したことが考慮されたものであるところ、志望により外国籍を取得した者は、これとは異なり、外国籍を取得するか なり、国籍選択の機会が与えられているのは、自己の意思を介在することなく外国籍を取得したことが考慮されたものであるところ、志望により外国籍を取得した者は、これとは異なり、外国籍を取得するか 否かについて選択する機会が与えられているから、外国籍の取得後にあえ て国籍選択のための猶予期間を設ける必要性は乏しい。一方、重国籍から生じる弊害をできる限り防止する観点からは、速やかに日本国籍を喪失させることが望ましいところ、その実現を図るという国籍法11条1項の立法目的には合理的な根拠があると認められ、また、その手段として、同項が志望により外国籍を取得したときは日本国籍を当然に喪失すると定め ていることには、上記立法目的との間の合理的関連性を認めることができる。 そうすると、上記アの区別は、合理的な立法目的によるものであり、かつ、立法目的との間に合理的関連性を有する手段により生じたものであるといえる。 ウしたがって、国籍法11条1項により、志望により外国籍を取得した者と外国籍を当然取得した者との間に生じる上記アの区別は、合理的な理由のない差別には当たらない。 ⑶ ②生来的取得による重国籍の場合についてア血統主義を採用する外国の国籍を有する者とその配偶者である日本国民 との間に生まれた者や、一方の親が日本国民であって生地主義を採る国で生まれた者(国籍法12条により出生の時に遡って日本国籍を失った者を除く。)は、出生によって日本国籍及び外国籍を取得することになる。このように生来的に重国籍となった者は、20歳に達するまでにいずれかの国籍を選択しなければならないとされている(同法14条1項)。 原告は、上記第2の4⑶(原告の主張)ア(ア)のとおり、生来的に重国籍となった者と志望により外国籍を取得した者と でにいずれかの国籍を選択しなければならないとされている(同法14条1項)。 原告は、上記第2の4⑶(原告の主張)ア(ア)のとおり、生来的に重国籍となった者と志望により外国籍を取得した者との間に生じる国籍選択の機会の有無という区別があると主張するほか、前者の場合は血統のみを根拠に重国籍が許容されるのに対し、後者の場合は既に日本と密接な関係を形成しているにもかかわらず重国籍の防止を理由に日本国籍を剥奪され る点で、両者の間の区別は、不合理な差別的取扱いに当たる旨主張する。 イしかし、生来的に外国籍と日本国籍を取得する者は、自己の意思によらずに重国籍となるという点で、上記⑵の外国籍の当然取得の場合と異ならない。そのため、上記⑵イと同様、生来的取得による重国籍者に対し、何ら自己の意思を介在することなく外国籍を取得したことを考慮するとともに、できる限り重国籍を解消するために、直ちに日本国籍を失うものとは せずに国籍選択の機会を与えることは合理的であり、その手段として20歳に達するまでの猶予期間を設けることには、同目的との間の合理的関連性を認めることができる。 これに対し、志望により外国籍を取得した者については、外国籍を取得するか否かについて選択する機会が与えられているから、上記⑵イで説示 したとおり、国籍法11条1項は、その立法目的に合理的根拠があり、同立法目的とその手段との間に合理的関連性があるといえる。このように、生来的に重国籍となった者と志望により外国籍を取得した者との間に生じる国籍選択の機会の有無という区別は、何ら自己の意思を介在することなく外国籍を取得したか否かという点にあり、原告の主張するように、我 が国との間の関係性の程度を理由とするものではない。 そうすると、上記アの区別は、合理的 別は、何ら自己の意思を介在することなく外国籍を取得したか否かという点にあり、原告の主張するように、我 が国との間の関係性の程度を理由とするものではない。 そうすると、上記アの区別は、合理的な立法目的によるものであり、かつ、立法目的との間に合理的関連性を有する手段により生じたものであるといえる。 ウしたがって、国籍法11条1項により、志望により外国籍を取得した者 と生来的に重国籍となった者との間に生じる上記アの区別は、合理的理由のない差別には当たらない。 ⑷ ③日本国籍の志望取得による重国籍の場合についてア国籍法3条1項は、出生後に日本国民である親から認知された子について、認知をした父又は母が子の出生の時に日本国民であった場合であって、 その父又は母が現に日本国民であるとき、又はその死亡の時に日本国民で あったときは、届出によって日本国籍を取得することができることを定め、同法17条1項は、国籍留保制度によって日本国籍を失った者で18歳未満の者は、日本に住所を有するときは届出によって日本国籍の再取得ができると定めている。また、法務大臣が外国人の帰化を許可するためには、日本国籍の取得によって原国籍が喪失される必要があるところ(同法5条 1項5号)、同条2項は、外国人がその意思にかかわらずその原国籍を失うことができない場合、特別の事情があると認めるときは、帰化を許可することができる旨を定めている。 原告は、上記第2の4⑶(原告の主張)ア(ア)のとおり、志望により日本国籍を取得した者と志望により外国籍を取得した者との間に生じる国籍 選択の機会の有無という区別があると主張するほか、上記のような届出による日本国籍の取得及び帰化による日本国籍の取得によって重国籍が生じ得る場合、日本国籍を志望取得する際 者との間に生じる国籍 選択の機会の有無という区別があると主張するほか、上記のような届出による日本国籍の取得及び帰化による日本国籍の取得によって重国籍が生じ得る場合、日本国籍を志望取得する際に原国籍の離脱を要件とすることは法技術的に可能であるにもかかわらず、一旦重国籍を発生させることを許容している点について、国籍法11条1項が適用される場合との間に区 別があり、その区別は不合理な差別的取扱いに当たる旨主張する。 イしかし、国籍法11条1項は、日本国籍を有する者が「自己の志望によって外国の国籍を取得したとき」に元々有していた日本国籍を喪失する旨を定めているのに対し、同法3条1項、17条1項及び5条2項の各規定は、外国籍を有する者が届出や帰化によって日本国籍を取得した場合を定 めているのであり、この際に問題となるのは、その者が元々有していた外国籍をいかなる方法で喪失させるかという点である。このように、両者は異なる場面・問題を想定した規定といえるから、そもそも単純に比較することはできない。 そして、外国籍の得喪について我が国の法律で規律することができない 以上、日本国籍を志望取得する際に原国籍の離脱を要件とすることは相当 でないから、志望により日本国籍を取得した者について、上記⑵イと同様、重国籍の発生を一旦許容し、重国籍が生じた時から所定の猶予期間内にいずれかの国籍を選択しなければならないとしたことについて、その立法目的や手段が不合理であるとはいえない。 また、国籍法11条1項の立法目的が合理的であり、同立法目的とその 手段との間に合理的関連性があることについては、上記⑵イで説示したとおりであるところ、志望により日本国籍を取得した者と志望により外国籍を取得した者との間に生じる区別、すなわち、原国籍と とその 手段との間に合理的関連性があることについては、上記⑵イで説示したとおりであるところ、志望により日本国籍を取得した者と志望により外国籍を取得した者との間に生じる区別、すなわち、原国籍とは異なる国籍を取得した場合に原国籍を失うか否か、国籍選択の機会が与えられているか否かという点については、外国籍の得喪について我が国の法律で規律するこ とができないことによるものであるから、そのような区別は、合理的な立法目的によるものであり、かつ、立法目的との間に合理的関連性を有する手段により生じたものであるといえる。 ウしたがって、国籍法11条1項により、志望により外国籍を取得した者と志望により日本国籍を取得した者との間に生じる上記アの区別は、合理 的理由のない差別には当たらない。 ⑸ 原告の主張についてア原告は、上記第2の4⑶ア(ウ)のとおり、本件のように、外国籍を志望取得する意思も、日本国籍を放棄する意思も有していない場合は、事前に外国籍を取得するか否かについて選択する機会がなかった旨主張する。 しかし、上記1⑵アのとおり、少なくとも本件においては、原告の法定代理人である原告養親につき、事前に外国籍を取得するか否かについて選択する機会がなかったとはいえない。また、上記1⑴イのとおり、外国籍の志望取得に当たり、外国籍を取得する意思があったことを否定すべき特段の事情が認められる場合には「自己の志望によって」の要件を満たさず、 外国籍を取得する意思を欠くこと等によりその意思行為に瑕疵があると して当該外国において外国籍の取得の有効性が否定される場合には「外国の国籍を取得したとき」の要件を満たさないのであるから、事前に外国籍を取得するか否かについて選択する機会がなかった場合に国籍法11条1項が適用され いて外国籍の取得の有効性が否定される場合には「外国の国籍を取得したとき」の要件を満たさないのであるから、事前に外国籍を取得するか否かについて選択する機会がなかった場合に国籍法11条1項が適用されるものではない。そして、上記2⑶イのとおり、同項はその効果を明示的に規定することを通じて、日本国籍を喪失することになっ ても自己の志望により外国籍を取得するか否かを自身で選択する機会を与えているともいえる。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 イ原告は、上記第2の4⑶(原告の主張)イのとおり、重国籍の弊害の少ない未成年者に対する国籍法11条1項の適用は憲法14条1項に違反す る旨主張する。 しかし、国籍法11条1項により、志望により外国籍を取得した者と①外国籍を当然取得した者、②生来的に重国籍になった者及び③志望により日本国籍を取得した者との間に生じる区別が合理的理由のない差別に当たらないことについては上記⑵、⑶及び⑷で説示したとおりであり、同項 が適用される場面において、改めて国籍選択のための猶予期間を設ける必要性が乏しいことは、同項の適用対象者が未成年者であるか否かによって変わるものではない。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 ⑹ 小括 以上のとおり、原告の主張する各区別については、いずれも合理的な理由のない差別的な取扱いであるとは認められないから、国籍法11条1項が憲法14条1項に違反するということはできない。 4 結論以上によれば、原告は、本件登録手続によって英国国籍を取得したことによ り、国籍法11条1項に該当し、日本国籍を喪失したものと認められる。 よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁 を取得したことによ り、国籍法11条1項に該当し、日本国籍を喪失したものと認められる。 よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第2部 裁判長裁判官品田幸男 裁判官石神有吾 裁判官大久保陽久 (別紙)国籍法の定め 1 2条子は、次の場合には、日本国民とする。 1号出生の時に父又は母が日本国民であるとき。 2号出生前に死亡した父が死亡の時に日本国民であったとき。 3号日本で生まれた場合において、父母がともに知れないとき、又は国籍を有しないとき。 2 3条1項父又は母が認知した子で18歳未満のもの(日本国民であった者を除く。)は、 認知をした父又は母が子の出生の時に日本国民であった場合において、その父又は母が現に日本国民であるとき、又はその死亡の時に日本国民であったときは、法務大臣に届け出ることによって、日本の国籍を取得することができる。 3 5条⑴ 1項 法務大臣は、次の条件を備える外国人でなければ、その帰化を許可することができない。 1~4号略5号国籍を有せず、又は日本の国籍の取得によってその国籍を失うべきこと。 6号略 ⑵ 2項法務大臣は、外国人がその意思にかかわらずその国籍を失うことができない場合において、日本国民との親族関係又は境遇につき特別の事情があると認めるときは、その者が前項5号に掲げる条件を備えないときでも、帰化を許可することができる。 4 11条 ⑴ 1項日本国民は、自己の志望によって外国の国籍を取得したときは、日本の国籍 ときは、その者が前項5号に掲げる条件を備えないときでも、帰化を許可することができる。 4 11条 ⑴ 1項日本国民は、自己の志望によって外国の国籍を取得したときは、日本の国籍を失う。 ⑵ 2項外国の国籍を有する日本国民は、その外国の法令によりその国の国籍を選択 したときは、日本の国籍を失う。 5 12条出生により外国の国籍を取得した日本国民で国外で生まれたものは、戸籍法の定めるところにより日本の国籍を留保する意思を表示しなければ、その出生の時にさかのぼって日本の国籍を失う。 6 13条⑴ 1項外国の国籍を有する日本国民は、法務大臣に届け出ることによって、日本の国籍を離脱することができる。 ⑵ 2項 前項の規定による届出をした者は、その届出の時に日本の国籍を失う。 7 14条⑴ 1項外国の国籍を有する日本国民は、外国及び日本の国籍を有することとなった時が18歳に達する以前であるときは20歳に達するまでに、その時が18歳 に達した後であるときはその時から2年以内に、いずれかの国籍を選択しなければならない。 ⑵ 2項日本の国籍の選択は、外国の国籍を離脱することによるほかは、戸籍法の定めるところにより、日本の国籍を選択し、かつ、外国の国籍を放棄する旨の宣 言(以下「選択の宣言」という。)をすることによってする。 8 15条⑴ 1項法務大臣は、外国の国籍を有する日本国民で前条1項に定める期限内に日本の国籍の選択をしないものに対して、書面により、国籍の選択をすべきことを催告することができる。 ⑵ 2項前項に規定する催告は、これを受けるべき者の所在を知ることができないときその他書面によってすることができないやむを得ない事情があるときは 選択をすべきことを催告することができる。 ⑵ 2項前項に規定する催告は、これを受けるべき者の所在を知ることができないときその他書面によってすることができないやむを得ない事情があるときは、催告すべき事項を官報に掲載してすることができる。この場合における催告は、官報に掲載された日の翌日に到達したものとみなす。 ⑶ 3項前2項の規定による催告を受けた者は、催告を受けた日から1月以内に日本の国籍の選択をしなければ、その期間が経過した時に日本の国籍を失う。ただし、その者が天災その他その責めに帰することができない事由によってその期間内に日本の国籍の選択をすることができない場合において、その選択をする ことができるに至った時から2週間以内にこれをしたときは、この限りでない。 9 16条⑴ 1項選択の宣言をした日本国民は、外国の国籍の離脱に努めなければならない。 ⑵ 2項 法務大臣は、選択の宣言をした日本国民で外国の国籍を失っていないものが自己の志望によりその外国の公務員の職(その国の国籍を有しない者であっても就任することができる職を除く。)に就任した場合において、その就任が日本の国籍を選択した趣旨に著しく反すると認めるときは、その者に対し日本の国籍の喪失の宣告をすることができる。 ⑶ 3項 前項の宣告に係る聴聞の期日における審理は、公開により行わなければならない。 ⑷ 4項2項の宣告は、官報に告示してしなければならない。 ⑸ 5項 2項の宣告を受けた者は、前項の告示の日に日本の国籍を失う。 10 17条1項12条の規定により日本の国籍を失った者で18歳未満のものは、日本に住所を有するときは、法務大臣に届け出ることによって、日本の国籍を取得することができる。 国籍を失う。 10 17条1項12条の規定により日本の国籍を失った者で18歳未満のものは、日本に住所を有するときは、法務大臣に届け出ることによって、日本の国籍を取得することができる。 11 18条3条1項若しくは前条1項の規定による国籍取得の届出、帰化の許可の申請、選択の宣言又は国籍離脱の届出は、国籍の取得、選択又は離脱をしようとする者が15歳未満であるときは、法定代理人が代わってする。 以上
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