平成29年3月17日判決言渡平成25第5249号損害賠償請求事件主文 1 被告は,原告に対し,117万7330円及びこれに対する平成16年7月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は,これを100分し,その99を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由第1 請求被告は,原告に対し,1億6012万3224円及びこれに対する平成16年7月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 事案の概要本件は,浮動性めまい(非回転性めまい)の症状を訴えて,被告が開設する国立循環器病研究センター(以下「被告病院」という。)で通院治療を受けた原告が,ベンゾジアゼピン系薬物依存となって重篤な離脱症状を生じたのは,被告病院医師が,①ベンゾジアゼピン系薬物を適応のない症例に投与しない注意義務に違反し,②ベンゾジアゼピン系薬物の総投与量を管理すべき注意義務に違反し,③離脱症状を回避する適切な減薬・断薬方法を実施すべき注意義務に違反し,④ベンゾジアゼピン系薬物の性質及び副作用等に関する説明義務に違反したからであると主張して,被告に対し,不法行為(使用者責任)又は診療契約上の債務不履行に基づき,損害賠償(遅延損害金の支払を含む。)を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いがない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により容 易に認めることができる事実)⑴ 当事者等ア原告は,昭和33年○月○日生まれの男性である。 イ被告は,大阪府吹田市において被告病院を開設 い事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により容 易に認めることができる事実)⑴ 当事者等ア原告は,昭和33年○月○日生まれの男性である。 イ被告は,大阪府吹田市において被告病院を開設する法人である。なお,平成27年4月1日変更前の被告の名称は,独立行政法人国立循環器病研究センターであった。 ⑵ 診療経過の概要ア原告は,平成13年8月以降,浮動性めまいの症状を訴えて,A病院,B病院,C病院,D病院,Eクリニック等の複数の医療機関を受診し,平成15年1月からはF内科で,自律神経失調症・うつ状態の診断の下に抗不安薬を処方されていたが,めまいの症状は消失しないでいたところ,被告病院と日立製作所が共同で行っていためまい症の治療に関する研究の存在を知った。 イ原告は,平成16年4月21日,浮動性のめまいを訴えて被告病院を受診し,G医師から,慢性ふらつき症候群の疑い等とされた上で,同年7月2日,デパケンRを処方され,また,同月14日以降平成17年10月27日まで,G医師からランドセンを継続的に処方された。 その後,G医師が被告病院から異動し,その治療方針をH医師が引き継ぐこととなり,原告は,同年12月5日,H医師からランドセンを処方された。 G医師及びH医師がそれぞれ原告に処方したランドセンの量は,別紙のとおりである(ただし,上記医師らが服用を指示した量につき,一部争いがある。)。 ウ原告は,平成17年8月頃からランドセンの減薬を試みていたが,これによって生じた不安感・焦燥感・不眠の症状が,同年末頃の減薬で増悪したなどと訴えて,平成18年1月4日にD病院を,同月6日にA病院ここ ろの医療センター(以下「こころの医療センター」という。)を各受診し,同日以降,こころの医療センターにおいて通院及び入院( たなどと訴えて,平成18年1月4日にD病院を,同月6日にA病院ここ ろの医療センター(以下「こころの医療センター」という。)を各受診し,同日以降,こころの医療センターにおいて通院及び入院(入院期間は同年6月12日から同年9月17日まで)して治療を受けた。 3 一般的医学的知見⑴ ベンゾジアゼピン系薬物(以下,ベンゾジアゼピンを「BZ」と表記する。)(甲B1)ア抗不安薬,睡眠薬として1960年代から使用が開始され,日本国内において広く使用されている。 イ主な作用として,抗不安作用,鎮静・催眠作用,筋弛緩作用,抗けいれん作用の4つがあり,いずれのBZ系薬物も上記4つの作用を持ち合わせているが,その強弱は各誘導体によって異なっており,それらの薬力学的特徴に基づいた使用法が選択される必要がある。 ウ BZ系薬物の選択においては薬物動態が重要であり,そのポイントの一つが効果の持続である。効果の持続は,BZの血中濃度の持続に依存すると考えられ,半減期の長いBZは,投与間の反跳現象が少なく,離脱状態が起こりにくいなどの長所が期待できるが,反面,蓄積しやすく,作用が過剰となって持続する危険性もある。一方,半減期の短いものは,蓄積が起こりにくいが,離脱状態,反跳現象が生じやすいため,頻回の服用が必要となりやすく,依存症候群は短い半減期のBZの方が生じやすいとされる。 力価に関しては,高力価のものほど作用がはっきりと自覚され,おおむねどのBZでも用量依存的に増強し,鎮静・催眠作用が出現するようになるが,薬物動態的に血中濃度のピークの時間的差異,受容体での親和性の差異などの特徴により,各誘導体で違いがある。 ⑵ 本件に関連のあるBZ系薬物(末尾記載のもののほか,甲B52,乙B24,26の1) アクロナゼパ クの時間的差異,受容体での親和性の差異などの特徴により,各誘導体で違いがある。 ⑵ 本件に関連のあるBZ系薬物(末尾記載のもののほか,甲B52,乙B24,26の1) アクロナゼパム(商品名ランドセン,リボトリール)(甲B7,92) 小型(運動)発作,精神運動発作,自律神経発作に効能・効果があり,抗てんかん剤として処方される。 成人に対しては,通常,1日0.5~1mgを初回量として1~3回に分けて経口投与し,以後,症状に応じて至適効果が得られるまで徐々に増量し,1日2~6mgを維持量として,1~3回に分けて経口投与するものとされる。 血中半減期は約27時間であり,長時間作用型に分類される。また,高力価に分類される。 イアルプラゾラム(商品名ソラナックス,コンスタン)(甲B2,54。)心身症(自律神経失調症等)における身体症候及び不安,緊張,抑うつ,睡眠障害に効能・効果があり,抗不安剤として処方される。 血中半減期は約14時間であり,短時間作用型ないし中時間作用型に分類される。また,高力価であるとされる。 ウエチゾラム(商品名デパス)半減期は約6時間であり,短時間作用型に分類される。また,高力価であるとされる。 エジアゼパム(商品名セルシン)(甲B4)神経症における不安・緊張・抑うつ,うつ病における不安・緊張,心身症における身体症候及び不安・緊張・抑うつ等に効能・効果があり,向精神薬として処方される。 最も標準的なBZ系薬物とされる。 ⑶ その他の薬剤バルプロ酸ナトリウム(商品名デパケンR)(乙B1)各種てんかん及びてんかんに伴う性格行動障害の治療,躁病及び躁うつ病 の躁状態の治療,片頭痛発作の発症抑制に効能・効 ⑶ その他の薬剤バルプロ酸ナトリウム(商品名デパケンR)(乙B1)各種てんかん及びてんかんに伴う性格行動障害の治療,躁病及び躁うつ病 の躁状態の治療,片頭痛発作の発症抑制に効能・効果がある。 4 本件の争点⑴ G医師はBZ系薬物を適応のない症例に投与しない注意義務に違反したか(平成16年7月14日)⑵ G医師はBZ系薬物の総投与量を管理すべき注意義務に違反したか(平成16年9月17日)⑶ G医師及びH医師は離脱症状を回避する適切な減・断薬方法を実施すべき注意義務に違反したか(G医師につき平成17年5月9日及び同年8月1日,H医師につき同年12月21日及び同月22日)⑷ G医師はBZ系薬物の性質及び副作用等に関する説明義務に違反したか(平成16年7月14日)⑸ 各注意義務違反と原告に平成18年1月以降生じた症状ないし障害との因果関係の有無⑹ 原告の損害の有無及びその額 5 争点に対する当事者の主張⑴ 争点⑴(G医師はBZ系薬物を適応のない症例に投与しない注意義務に違反したか(平成16年7月14日))について(原告の主張)ア医薬品の選択に関する医師の注意義務違反の有無を判断するには,当該診断の確実性,当該治療法の有効性及び副作用のもたらす危険等を比較衡量することが必要であり,診断の確実性・当該治療法の有効性に疑問があって,当該治療法を実施する必要が高くないと考えられる場合には,危険性を伴う治療は避けるべきである。また,向精神薬を治療に用いる場合には,その副作用を常に念頭において治療に当たるべきであり,向精神薬の副作用に関する医療上の知見については,その最新の添付文書を確認し,必要に応じて文献を参照するなど,当該医師の置かれた状況の下で可能な 限り最新の情報を収集する義務がある であり,向精神薬の副作用に関する医療上の知見については,その最新の添付文書を確認し,必要に応じて文献を参照するなど,当該医師の置かれた状況の下で可能な 限り最新の情報を収集する義務がある。 イ非回転性めまいの治療については,本件当時,確立した医療水準といい得るものは存在しない状況にあったが,運動療法,薬物療法等,一定の評価がなされた治療法は存在していた。しかし,非回転性めまいを含むめまいに対し,抗てんかん薬やBZ系薬物が有効であることを裏付ける研究やこれらを投与した事例は医学文献上見当たらず,一般に使用されていなかった。 ウBZ系薬物については,1970年代に入り,臨床用量の範囲内でも長期服用のうちに身体依存が形成され(常用量依存ないし臨床用量依存と呼ばれる。),退薬に伴って退薬症候(離脱症状)が現れるとの指摘がなされ,1970年代後半に,欧米先進国を中心に,処方件数が激減する動きがみられた。 BZ系薬物については,基準薬物のジアゼパムに等価換算して評価する方法が標準化しているところ,BZ系薬物の依存症発症の閾値は,ジアゼパム換算量で2700mgとされている。また,処方は急性期の二,三週間程度に制限することとされ,長期連用を禁止するガイドラインも出されていた。さらに,原則的に通常の治療用量で2か月以上処方された場合には,上記の閾値以下であっても,3人に1人は依存が形成されるとの報告もされていた。 ランドセンは,他のBZ系薬物と比較して力価が格段に高いため,短期間で依存閾値となり,また,半減期が長い長時間作動型であるため,体内に滞留して蓄積されやすい。そのため,離脱症状が不可避といわれ,ひとたび依存・離脱症状が発現した場合,その症状は激烈であり,治療に難渋し,重篤な後遺障害が発生することとなる 間作動型であるため,体内に滞留して蓄積されやすい。そのため,離脱症状が不可避といわれ,ひとたび依存・離脱症状が発現した場合,その症状は激烈であり,治療に難渋し,重篤な後遺障害が発生することとなる。離脱症状の発現は,BZの血中濃度の急激な変化に起因するものであるため,高力価のランドセンを高用量に処方すれば,離脱症状の危険性が高いことは薬物動態 からも明らかである。 抗てんかん薬には,認知機能障害などの多様な副作用が存在し,精神症状を発症させる危険性がある。また,てんかん患者が抗てんかん薬の服用漏れにより,重大な交通事故などを引き起こすことが知られている。 したがって,抗てんかん薬は,てんかん治療ガイドラインなどで警告されているように,厳重な服薬コンプライアンスが求められる薬物であり,また,てんかんの確定診断なく診断的治療として処方することは戒められているのである。 エ前記イのとおり,非回転性のめまいを訴えていた原告に対して,ランドセンを投与しても治療の有効性はおよそ望めない反面,前記ウのとおり,BZ系薬物・抗てんかん薬による依存・離脱等の重篤な障害が発生する危険性が高く,特にランドセンは力価が高いため,ひとたび依存・離脱等の症状が発症すれば重篤となることが予期された。 そして,このようなBZ系薬物・抗てんかん薬の危険性については,G医師が情報収集義務を尽くしていれば,その情報に接することは容易であったから,てんかん類似めまい症という仮説の下にランドセンによる治療を選択すべきではなかった。 ところが,G医師は,原告に対し,別紙のとおりランドセンを処方したものであり,その注意義務違反は明らかである。 オ被告は,原告に対するランドセンの処方が,当時被告病院で行われていたという「X研究」やG医師自身の臨床経験に基づく 別紙のとおりランドセンを処方したものであり,その注意義務違反は明らかである。 オ被告は,原告に対するランドセンの処方が,当時被告病院で行われていたという「X研究」やG医師自身の臨床経験に基づく合理的かつ有効な治療法である旨主張するが,上記の研究は,症例数が少なく,また,適切な対照群が設定されておらず,医師の主観に基づく症例報告の域を出ないものであり,非回転性めまいに対する抗てんかん薬の有効性が確認されていたとはいえない。 また,上記の研究は,高齢の循環器病患者のうち脳磁計検査で異常が認 められた者という極めて限定的な適応条件下で一応の効果が認められたにすぎない。 さらに,上記の研究においては,治療薬としてデパケンRが用いられ,ランドセンに関しては,眠気,ふらつき,嘔気,骨髄抑制,肝機能障害などの副作用を伴いやすいため,保険適応外となる慢性めまい感の治療には適さないとされていた。 このように原告に対するランドセンの処方は,上記の研究とも異なるものであって,G医師が,BZ系薬物を適応のない症例に投与しない注意義務に違反したことは明らかである。なお,G医師が処方薬をランドセンに変更したのは,デパケンRが効かない患者について他の抗てんかん薬の効果を試すための薬物実験であったと推察される。 (被告の主張)ア G医師は,原告の症状をてんかん類似の電気的易刺激性活動に原因があると考えて,抗てんかん薬を投与したのであり,当時の医学的知見に照らして合理的であり,適応のない症例に投与したものではない。 被告病院ではX医師の指導の下,G医師が中心となって,脳磁計を用いた慢性ふらつき症の診断治療の研究(以下「X研究」という。)が行われ,この研究によって,慢性ふらつき・めまいの症状を訴える患者の中に,側頭頭頂葉の聴覚中枢から前庭 G医師が中心となって,脳磁計を用いた慢性ふらつき症の診断治療の研究(以下「X研究」という。)が行われ,この研究によって,慢性ふらつき・めまいの症状を訴える患者の中に,側頭頭頂葉の聴覚中枢から前庭中枢に放散するてんかんに類似した電気的易刺激性状態が認められることがあり,これに抗てんかん薬が奏効する場合があることが確認された。 G医師は,平成16年4月21日の初診時,原告から自覚症状やこれまでに受診した医療機関での診断履歴を聴き取り,前医の紹介状等も確認した上で,X研究で得た知見及び自身の臨床経験に基づき,原告のめまいの症状の原因がてんかん類似の電気的易刺激性活動にある可能性があり,抗てんかん薬を投与することが検討に値すると判断した。そこで, 前医から処方され服用中のソラナックスの影響がない状態で脳波等を詳細に検査するため,1週間程度の入院を勧めたが,原告は,仕事を理由に入院検査を拒否し,また,同年7月2日の診察時,同日実施の脳磁図検査の結果が出ていなかったが,一刻も早い投薬治療の開始を強く求めてきた。そのため,G医師は,それまでの診察状況から,本件において原告の症状はてんかんと共通する発生機序が存在する可能性があると考え,原告の症状をてんかんの一種と仮定した上で,抗てんかん薬を処方して症状が改善するか経過を観察することとしたのである(診断的治療)。 また,同月14日には,前回の診察時に実施した脳磁計を用いた検査で原告に脳波異常が認められなかったことが報告されたが,受診前に服用していたソラナックスによって一時的に症状が抑えられていた可能性があると考えられたことから,抗てんかん薬の処方を継続し,原告の症状が改善するかどうかを確認することとした。 このようなG医師の治療は,目の前の困っている患者を治療する必要に迫 れていた可能性があると考えられたことから,抗てんかん薬の処方を継続し,原告の症状が改善するかどうかを確認することとした。 このようなG医師の治療は,目の前の困っている患者を治療する必要に迫られている医師の合理的な裁量の範囲内のものといえる。 原告は,X研究について,高齢かつ循環器系の疾患を有するなど一定の条件の下で抗てんかん薬の効果が認められたにすぎない旨主張するが,対象者の年齢等が限定されているのは,研究の性質上やむを得ず,治療の場面において上記のように限定された条件の下でしか投与が認められないものではない。X医師はもとより,被告病院以外の医療機関においても,てんかん性のふらつき・めまいの症状を訴える患者に対して抗てんかん薬を投与する治療方法が用いられており,臨床レベルでは,ふらつきやめまいの症状がてんかんに起因するものと認められる場合に,抗てんかん薬を処方することが普通に行われている。 脳波異常等の客観的な所見が得られない本件において,抗てんかん薬 を処方して効果を得られるかどうか確認することは診断的治療であり,医師の合理的な裁量において実施し得るものである。 原告は,てんかんについて診断的治療は認められない旨主張するが,診断的治療は,てんかんを含む多くの疾病・症状に対して一般的に広く行われており,一律に禁止されるものではない。 G医師がランドセンを処方したのも合理的な根拠に基づくものである。 すなわち,G医師は抗てんかん薬を処方することとして,X研究で用いられたデパケンRを処方したが効果がみられなかったところ,長期にわたって慢性ふらつき・めまいの症状に苦しんできた原告が,デパケンRに代わる薬の処方を強く希望したので,他の抗てんかん薬を処方することとし,原告に慢性C型肝炎陽性の既往があることや血 ところ,長期にわたって慢性ふらつき・めまいの症状に苦しんできた原告が,デパケンRに代わる薬の処方を強く希望したので,他の抗てんかん薬を処方することとし,原告に慢性C型肝炎陽性の既往があることや血液検査で白血球数の減少がみられたこと等を考慮して,肝機能障害や白血球減少の副作用が出る可能性の高いテグレトール等を除外し,前医で処方されて一定の効果のあったソラナックスと同様の薬理作用を有するランドセンを選択した。そして,原告から,ランドセンの服用により症状の改善が認められた旨の報告を受けたため,効果があったものと判断し,処方を継続したのである。 X研究で用いられたのがデパケンRだけであったのは,研究の性格上,治療薬を統一したにすぎず,研究成果がデパケンRに限定されるものではなく,実際の治療の場面でランドセンを投与することはあった。ランドセンがBZ系薬物であることを理由に,抗てんかん薬として投与する際に特別な注意が必要であるという見解は存在せず,何ら問題はない。 結果的にも,原告の症状は,ランドセンの服用により著しく改善しているのであって,医学的に合理的な根拠に基づくものであったといえる。 したがって,めまいの症状等を訴える原告に対して抗てんかん薬を処方したことが,何ら適応のない症例への処方と評価されるべきでないこ とは明らかである。 イまた,G医師は,原告に対して,抗てんかん薬であるランドセンを投与する意味,すなわち,X研究やその後の臨床経験で得られた知見から,原告の症状はてんかん類似の電気的易刺激性活動に原因がある可能性があり,抗てんかん薬の服用によって改善する可能性があること,脳磁図検査で明らかな脳波異常は確認できなかったが,服用中のソラナックスの影響で,異常脳波が抑制されていた可能性があることに加え,ランドセンの副 抗てんかん薬の服用によって改善する可能性があること,脳磁図検査で明らかな脳波異常は確認できなかったが,服用中のソラナックスの影響で,異常脳波が抑制されていた可能性があることに加え,ランドセンの副作用を説明し,原告の同意を得た上で,ランドセンを処方した。 したがって,ランドセンを適応のない症例に投与しない義務違反自体が問題とならない。 ⑵ 争点⑵(G医師はBZ系薬物の総投与量を管理すべき注意義務に違反したか(平成16年9月17日))について(原告の主張)ア BZ系薬物の依存症発症の閾値として,ジアゼパム換算量で2700mgが提唱されて,広く周知されている。そして,BZ系薬物の依存状態下での急激な減薬又は中断によって離脱症状が生じ,幻覚,錯乱,せん妄等の重度な精神症状が発現するとされる。離脱症状には用量依存性があるとされる。これらの薬物依存及び離脱症状は,ランドセンの添付文書で重大な副作用として警告されている。 したがって,BZ系薬物を投与する医師は,依存症発症の閾値とされる累積投与量2700mgに到達する前の時点で,依存症を作出することがないように,BZ系薬物を減薬又は休薬すべき注意義務がある。 イ G医師の注意義務違反G医師は,平成16年7月14日以降,原告に対し,別紙のとおり,ランドセンを処方し,同年9月17日には,処方を継続すれば,依存症発症の閾値であるジアゼパム換算で2700mgを超えることを認識し得たの であるから,同時点において上記閾値を超えないように減薬して処方し,暫時休薬すべき注意義務があった。 ところが,G医師は,上記のような減薬ないし休薬の措置をとることなく,上記閾値を超える量を処方し,その後もランドセンの処方を継続したため,被告病院でのランドセンの累積投与量は2万mgを があった。 ところが,G医師は,上記のような減薬ないし休薬の措置をとることなく,上記閾値を超える量を処方し,その後もランドセンの処方を継続したため,被告病院でのランドセンの累積投与量は2万mgを大きく超えるに至った。よって,G医師がBZ系薬物の総投与量を管理すべき注意義務に違反したことは明らかである。 (被告の主張)ア BZ系薬物の常用量依存発症の閾値がジアゼパム換算量で2700mgであるという基準は,本件当時,BZ系薬物の添付文書や各種ガイドラインに記載されておらず,確立した基準ではなかったし,現在においても確立した基準にはなっていない。 抗てんかん薬は,症状が継続する限り服用を続ける必要があり,数年以上の長期にわたって服用が必要となる患者も珍しくない。上記のような閾値が存在するとすれば,ランドセンを服用するてんかん患者は,ほぼ全員が閾値を超えて服用していることになるのであって,原告の主張は,不合理かつ非現実的である。 イしたがって,原告の主張するような総投与量を管理すべき注意義務は認められない。ランドセンの投与に当たっては,添付文書に記載の用量・用法を遵守すれば足りるところ,G医師は,上記記載の用量・用法を遵守して処方していたから,注意義務違反は認められない。 ⑶ 争点⑶(G医師及びH医師は離脱症状を回避する適切な減・断薬方法を実施すべき注意義務に違反したか(G医師につき平成17年5月9日及び同年8月1日,H医師につき同年12月21日及び同月22日))について(原告の主張)ア BZ系薬物・抗てんかん薬の急激な中止は,けいれん発作,錯乱状態等 の重篤な離脱症状を生じさせる危険があるから,減薬時には漸減が原則であり,その用量はジアゼパム換算でみる必要がある。離脱症状を回避するためには,少量ずつ徐 止は,けいれん発作,錯乱状態等 の重篤な離脱症状を生じさせる危険があるから,減薬時には漸減が原則であり,その用量はジアゼパム換算でみる必要がある。離脱症状を回避するためには,少量ずつ徐々に減量すること,ジアゼパム当量で1週間ごと0. 5~2.5mgずつ減量すること,さらに,減薬の途中で離脱症状が発現した場合には,一旦,減薬を中断することが必要である。 ランドセンの添付文書にも,重要な基本的注意として,連用中における投与量の急激な減少ないし投与の中止により,てんかん重積状態が現れることがあるため,投与を中止する場合には,徐々に減量するなど慎重に行うよう求めた記載がある。 したがって,医師がランドセンを処方していた患者への投与量を減量する際には,患者の症状を観察しながら,徐々に減量すべき注意義務がある。 イ G医師の注意義務違反(平成17年5月9日及び同年8月1日) 原告に対しては,平成16年7月14日以降,別紙のとおりランドセンが処方され,平成17年3月25日,その処方量はジアゼパム換算で1日80mgにまで達していた。 ジアゼパム換算で1日80mgの用量を減量して断薬するのに必要な期間は,BZ系薬物の減薬の速度に関する医学文献等に従えば,最低4週間(甲B50の1),被告が提出するI医師の意見書(乙B19)の基準に従えば2年,原告が提出するJ医師の意見書( 甲B175) のようにモーズレイ処方ガイドラインに従えば最短64週間である。 ところが,G医師は,同年5月9日の診察時,原告が体重減少を訴えたことから,ジアゼパム換算量で1日20mgまで減量し,入院措置もとることなく1日の服用量を突如4分の1まで急減させたのであるから,ランドセンの減薬方法として不適切かつ危険であり,その注意義務違反は明らかで ,ジアゼパム換算量で1日20mgまで減量し,入院措置もとることなく1日の服用量を突如4分の1まで急減させたのであるから,ランドセンの減薬方法として不適切かつ危険であり,その注意義務違反は明らかである。 また,G医師は,原告に送信した平成17年8月1日付けの電子メー ルで,ふらつきの症状が改善すればランドセンを中止した上で,体重が増加傾向に転じるか観察するよう指示した。これは,原告の症状を観察することなく,いきなりランドセンの服用を中止するよう指示したもので,ランドセンの断薬方法の指示として不適切かつ危険であり,その注意義務違反は明らかである。 ウ H医師の注意義務違反(平成17年12月21日及び同月22日)H医師は,原告に対するBZ系薬物の従前の処方量や投与期間,自身が担当を引き継ぐまでの原告とG医師とのやり取り及びランドセン減量の経緯について認識しないまま,直近の処方量だけを見て,常用量依存の可能性を否定し,原告の症状を厳重に観察することもなく,平成17年12月21日及び同月22日の電子メールで服薬量の漸減を指示した。よって,H医師にも,離脱症状が生じないように適切な減薬・断薬を実施しなかった注意義務違反が認められる。 (被告の主張)アランドセンを減薬する場合に,患者の様子を見ながら服用量を漸減すべき注意義務があることは争わないが,原告が主張するような具体的な基準やガイドライン等は存在せず,具体的な減量のペースに一律の基準はない。 イ G医師の注意義務違反(平成17年5月9日及び同年8月1日) G医師は,平成17年5月9日の診察時,原告が自己判断で服用量を2mgに減らしていること,2mgを3週間継続しているがふらつきはないことを申告してきたため,そのまま2mgの服用を指示したにすぎない。同 師は,平成17年5月9日の診察時,原告が自己判断で服用量を2mgに減らしていること,2mgを3週間継続しているがふらつきはないことを申告してきたため,そのまま2mgの服用を指示したにすぎない。同日時点で,原告は既に2mgを3週間継続して問題なかったのであるから,その用量を維持するようにとの指示が急激な減量の指示に当たるはずがなく,注意義務違反は認められない。なお,同日以前に,G医師が原告に対して服用量を調整してよい旨指示したことはない。 また,同年8月1日のメールは,中止を指示したものではなく,将来 的にふらつきの症状が改善した場合に,ランドセンを中止できることを伝えたにすぎないから,注意義務違反は認められない。 ウ H医師の注意義務違反(平成17年12月21日及び同月22日)H医師は,原告から減量方法について教示を求めるメールを受け取った平成17年12月21日時点での服用量がランドセン0.25mg,コンスタン0.25mgと極めて少量であったことから,原告に対し,減量の必要がないことを説いた上で,それでも減量したい場合には,二,三日に1回内服するというスタンスで内服間隔を開けていき,頓服,更には翌年2月末から3月初旬までに中止するようにと説明しているから,十分慎重に減薬を指示していたということができ,注意義務違反は認められない。 ⑷ 争点⑷(G医師はBZ系薬物の性質及び副作用等に関する説明義務に違反したか(平成16年7月14日))について(原告の主張)ア非回転性のめまいについては複数の治療法が存在するところ,非回転性のめまいに対しててんかん薬を投与する治療方法は,医療水準として確立しておらず,試行的治療として行うものなのであるから,治療方法が医療水準として確立している場合に比べて,厳格に説 るところ,非回転性のめまいに対しててんかん薬を投与する治療方法は,医療水準として確立しておらず,試行的治療として行うものなのであるから,治療方法が医療水準として確立している場合に比べて,厳格に説明義務が履践される必要がある。 したがって,G医師は,一般的な非回転性めまいの治療方法の内容,適応,治療効果・予後等について十分説明した上で,BZ系薬物で抗てんかん薬であるランドセン投与の危険性,治療効果・予後,ランドセンによる治療の安全性・有効性が確立しておらず試行的治療であること,X研究と原告に対して行おうとする処方の関係及び目的について正確な情報を提供すべき注意義務があった。さらに,被告病院においては,非回転性めまいについて脳磁計等を使用して適応の評価を行うという独自の判断基準に基づいて適応の評価が行われていたのであるから,脳磁計による適応判断の 内容について十分説明を行う必要があり,また,一般的な適応判断とは異なるのであるから,脳磁計の検査結果によって,どのような評価で適応を決定したかを明らかにする必要があった。 イところが,G医師は,原告に対し,一般的な非回転性めまいの治療法について十分説明せず,非回転性めまいに対する抗てんかん薬投与が試行的医療であることやランドセン投与に危険が伴うことの説明を行わなかった上,脳磁計に異常が見られない場合には,そもそも抗てんかん薬投与の適応自体否定される可能性が高いことを説明しなかった。そればかりでなく,有効性・安全性が確立し,治療実績が多数ある副作用の少ない処方であるなどと不実の説明をして,ランドセンによる治療を強く迫った。 したがって,G医師の説明義務違反は明らかである。 (被告の主張)ア前記⑴で主張したとおり,原告に対するランドセンの投与は,合理的な根拠に基づくもの して,ランドセンによる治療を強く迫った。 したがって,G医師の説明義務違反は明らかである。 (被告の主張)ア前記⑴で主張したとおり,原告に対するランドセンの投与は,合理的な根拠に基づくものであり,原告の主張するような実験目的の処方や試行的治療とは異なることから,説明義務が加重されることはない。 依存や離脱症状については,添付文書の用量を超えて処方するような場合でない限り,処方時にそれらが発生する可能性を説明する義務はなく,減薬の段階で説明すれば足りる。G医師は,添付文書の用量を遵守することを前提としていたから,大量連用により生じることのある依存症の副作用について説明する義務はない。また,急激な投与量の減少により生じうる離脱症状については,一定期間薬を処方した後の減薬又は退薬時の問題であり,減薬又は退薬の場面で医師が適切に対応すれば防げるものである。 ランドセンはBZ系薬物の中でも半減期が長い薬物に分類されるところ,一般に半減期の長い薬物は半減期の短い薬物に比べて離脱症状は生じにくいとされ,仮に離脱症状が生じたとしても,その程度は軽く済むと理解されているのであるから,処方の開始時に殊更に離脱症状のリスクを説明し て患者を不安にさせる必要はない。 イ G医師は,最初の処方時に,抗てんかん薬の副作用である,眠気,ふらつき,白血球減少,肝機能障害などの副作用が生じる場合があるので注意して内服するよう説明した。また,ランドセンの効果が認められ,継続して処方することになった際には,服用中に身体・精神の不調を感じた場合にはすぐに連絡をすること,継続的に服用して状態を見ていくこと,定期的に通院することなどを指示した。このような説明・指示は,G医師による継続的な観察が必要であることを原告に知らせるもので,定期的な通院により原 絡をすること,継続的に服用して状態を見ていくこと,定期的に通院することなどを指示した。このような説明・指示は,G医師による継続的な観察が必要であることを原告に知らせるもので,定期的な通院により原告が勝手に投薬量を調整することがないようにするとともに,不調があればすぐに対応できるようにしており,減薬や退薬の場面でも医師が適切に指導できることを担保するものであった。 したがって,G医師は十分に説明義務を果たしたというべきである。 ⑸ 争点⑸(各注意義務違反と原告に平成18年1月以降生じた症状ないし障害との因果関係の有無)について(原告の主張)争点⑴ないし⑷に係る被告病院医師らの各注意義務違反と平成18年1月以降に原告に生じた症状ないし障害との間に相当因果関係が認められることは,以下の事実から明らかである。 アランドセン投与による依存・離脱症状の発現に関する医学的知見前記⑴で主張したとおり,BZ系薬物については,臨床用量内であっても,長期服用のうちに身体依存が形成され,退薬に伴い離脱症状が現れることが指摘されている。この依存発症の閾値は,ジアゼパム換算量で2700mgとされ,8か月以上の長期服用者については,離脱症状の出現頻度の危険性が90%と高くなるとされる。 BZ系薬物の離脱症状は,BZ系薬物が不安感,けいれんなどを鎮める物質を生成する人間の脳が本来有する機能を代償するため,その長期服用 によって,脳の本来の機能が退化し,その状態でBZ系薬物を減薬又は断薬すると,不安感やけいれんを制御できなくなることが,その発症のメカニズムであるとされ,減薬に際しては,この本来の機能を回復させる期間が必要となることは確立した医学的知見である。 イランドセン投与と原告の症状発現との時間的関係G の発症のメカニズムであるとされ,減薬に際しては,この本来の機能を回復させる期間が必要となることは確立した医学的知見である。 イランドセン投与と原告の症状発現との時間的関係G医師が,平成17年8月1日,原告に対し,ランドセン断薬の指示を行った直後,原告にはそれまで見られなかったけいれん等の重篤な症状が発現し,自殺企図という行動に出ている。また,原告は,同年12月にランドセンの減薬を開始し,同月末に断薬したところ,断薬した直後に,不安と緊張が増強し,振戦,けいれんなどの症状が見られ,振戦せん妄の状態となった。 ランドセンを断薬した直後に重篤な離脱症状が見られており,このような時間的関係からすると,原告がランドセンの依存・離脱の状態に陥っていたことは明らかであるといえる。 ウ原告には精神疾患が存在していなかったこと被告は,平成18年1月以降の症状が,原告が被告病院を受診する以前から有していた精神疾患が発現したものに過ぎない旨主張するが,原告は,もともと精神疾患を有していない。 診療経過等① B病院脳神経内科における診断等同病院のK医師は,過換気症候群を疑っているものの,「緊張,不安の背景が不明であり,その解明が必要」としているように,原告の不安について,パニック障害が原因とはされておらず,過換気症候群との確定診断もなされていない。実際,原告には過換気症候群に特徴的な過呼吸などの症状,パニック障害に特徴的なパニック発作等の症状はなく,同医師の意見は推測の域を出ず,精神科領域を専門としな い同医師の診断を根拠として,原告に精神疾患が存在するとはいえない。 原告の主治医であったL医師は,めまい症治療のための治療薬を処方しているに過ぎず,過換気症候群に対する治療 門としな い同医師の診断を根拠として,原告に精神疾患が存在するとはいえない。 原告の主治医であったL医師は,めまい症治療のための治療薬を処方しているに過ぎず,過換気症候群に対する治療は実施していない。 ② C病院耳鼻咽喉科における診断等原告は「前庭神経炎」と診断されているに過ぎない。診療録には「自律神経失調の可能性 orMental」との記載があるが,めまいを主訴とし,長期間めまいの症状に悩まされる患者は,治療は奏効するのか,仕事を続けられるのかというストレスを覚えることが多く,このようなカルテの記載は,決して特異的なものではない。しかも,後医として紹介されたのは,院内の漢方内科である。 ③ D病院心療内科での診断原告は「心身症」と診断され,「身体表現性障害」と評価されているが,心身症とは,身体疾患の中で,その発症や経過に心理社会的な因子が密接に関与する器質的ないし機能的障害が認められる病態をいい,神経症やうつ病など他の精神障害に伴う身体症状は除外するものとされ,身体疾患の診断が確定していることが必要条件である。 そして,原告の場合には,めまいという身体疾患に起因して不安などが惹起されたものであり,心身症との診断は,原告が精神疾患であることを否定するものであっても,決して肯定するものではない。 こころの医療センターにおける原告の主治医であるM医師も,身体表現性障害を否定している。 ④ F内科における診療経過うつとの診断は,めまいの多発によるうつ状態という病者の一般的な心理状態を示したにすぎず,原告のうつ状態はめまいという身体症状に起因するものであり,精神疾患の存在を証明するものではない。 ⑤ 被告病院における経過原告は,被告病院において,平成16年4月から平成18年12月 のうつ状態はめまいという身体症状に起因するものであり,精神疾患の存在を証明するものではない。 ⑤ 被告病院における経過原告は,被告病院において,平成16年4月から平成18年12月までの受診期間中,離脱症状を発現するまでは,G医師らから精神科を受診するように勧められたことは一切ない。また,現在,原告のめまいは治癒しているが,離脱症状発症以前には不安は存在しなかったため,原告の症状がめまいから来る不安と位置付けることはできない。 ⑥ こころの医療センターにおける経過同センターのN医師は,初診時の診断名として,身体表現性障害を挙げているが,想定する病名を挙げたにすぎない。なお,同医師が多くの想定病名を上げなければならなかった原因は,ランドセンを長期間処方していた経緯をH医師が情報提供しなかったことにある。 そして,身体表現性障害との評価は,その後,確定診断される過程で除外されている。後任のM医師は,原告が身体表現性障害であったことを否定している。 めまいによって不安など症状が生じること原告は被告病院受診前の医療機関において,不安等を訴えてデパス等の抗不安薬を処方されている。 しかし,めまい症の患者は,めまいが様々な原因で生じることから原因の特定が困難であるとされ,治療が長期化する過程で,治療が奏効するのか,仕事を辞めなければならないのではないだろうか等の不安が生じるのであり,原告が被告病院受診前に訴えていた不安も同様である。 ところで,浮動性めまいの原因は,ストレス又は自律神経の乱れであることが指摘されている。原告のめまい症は,休職した4年間に完全に消失して残遺していないため,上記の原因であったと考えられる。 被告病院受診前の不安とBZ系薬物依存・離脱の症状とは全く異なるものであること れている。原告のめまい症は,休職した4年間に完全に消失して残遺していないため,上記の原因であったと考えられる。 被告病院受診前の不安とBZ系薬物依存・離脱の症状とは全く異なるものであること BZ系薬物の強い離脱症状は,常用量であっても,症例の20%の高率において発現し,その症状として,てんかん発作,意識混濁,運動感覚の異常,離人症状や非現実感,筋の搐搦(ちくじゃく,けいれんと同義),知覚刺激への閾値低下,精神病態症状が発現するとされる。そして,幻覚,錯乱,せん妄などの精神病様症状や意識障害,全身けいれんなどの重度の症状にまで至ることがあり,特に,長期にわたる大量使用の中断では,重度のうつ病などの症状が出現することがあり,遷延性の長期離脱症候群に至ることも示されている。DMS-Ⅳ-TRにおいても,「物質が長期的に摂取されていればいるほど,より高用量が用いられれば用いられるほど,より重症の離脱がある可能性がある。しかし,離脱は,数カ月間毎日摂取される場合,15mgのジアゼパムという少量(または他のBZの等価量)でも報告されている。毎日約40mgのジアゼパム(またはその等価量)は,臨床的に意味ある離脱症状を産出しやすく,より高用量(例:100mgのジアゼパム)は,離脱けいれん,またはせん妄をより起こしやすい。」とされている。 原告の場合,BZ系薬物のランドセンが,高用量かつ長期間処方された上,極めて急激に減薬及び断薬をしたことから,離脱症状が重篤化したのである。 このようにBZ系薬物依存・離脱の症状としては,けいれんやせん妄という重篤な症状が発現するのに対し,心身症や身体表現性障害で見られる精神症状は不安等の軽度のものであり,性状において大きく異なるものであり,専ら心療内科が対象とする疾患である。 原告には,心 妄という重篤な症状が発現するのに対し,心身症や身体表現性障害で見られる精神症状は不安等の軽度のものであり,性状において大きく異なるものであり,専ら心療内科が対象とする疾患である。 原告には,心身症や身体表現性障害としては説明できないけいれん他の症状が認められているのであり,従前の精神疾患が顕在化したとすることはできない。 原告がこころの医療センターにおけるBZ離脱に対する治療に反応し ていること原告は,BZ系薬物離脱症状を発症して,こころの医療センターを受診し,既往の精神疾患がないことを確認された上で,BZ系薬物依存離脱と診断された後,BZの置換療法等が実施されたところ,この治療に原告は反応し,BZ系薬物による離脱症状は軽減していった。同センターでは,BZ系薬物の減薬及び離脱症状の治療しか施行されていない。 M医師の診断M医師は,原告に発症した精神病様症状のうつ病について,BZ系薬物の離脱症状が発症に関与していたと推察される抑うつ状態として,BZ系薬物離脱症状の際には,うつ状態が出現することが周知であり,原告の病状の経過から離脱症状とうつ病は因果関係があるとの意見を述べている。被告が主張する心身症,身体表現性障害,てんかん等の関与は否定されている。 被告病院受診当時の原告の役職等原告は,被告病院を受診した当時,ガス事業法で精神疾患が欠格事由となるガス主任技術者の要職にあり,平成16年6月には,事業所長に昇進し,地域社会の複数の公益法人の役員理事にも就任している。また,平成17年には,技術士の国家試験に合格している。さらに,地方公共団体の内部監査員を担ってもいた。 したがって,O診療所のJ医師が原告の健康管理記録より,既往の精神疾患がないことを証明しているとおり,被告病院受診以前に原告 家試験に合格している。さらに,地方公共団体の内部監査員を担ってもいた。 したがって,O診療所のJ医師が原告の健康管理記録より,既往の精神疾患がないことを証明しているとおり,被告病院受診以前に原告が精神疾患を有していたことはあり得ない。 以上のとおり,複数の医療機関が既往の精神疾患がないことを確認しており,原告には被告病院受診前に精神疾患は存在しておらず,被告が主張する素因による精神疾患の発症は否定されるため,原告に発現した症状はBZ依存・離脱によることは明白である。 エ原告の離婚問題・債務問題は精神疾患発症の原因ではないこと原告と元妻との関係は,平成17年夏頃まで波風が立つような状態ではなかった。原告は,同年8月,G医師の指示に従ってランドセンの断薬を行ったところ,希死念慮に襲われ突然刃物で自殺を図ろうとし,同年12月末に断薬した際も,振戦,けいれん等の重篤な症状が発症した。 また,平成16年頃から,BZの副作用である奇異反応による脱抑制によって,不動産に係る不合理で過大な金員の消費行動があった。これらのBZ系薬物に起因する奇異反応等や離脱症状による理解困難な原告の行動・病状を,元妻らが恐れ,これらの出来事が契機となって婚姻関係が破綻することになったものであって,離婚問題が原告の精神疾患を発症させたものではない。 また,不動産の債務問題についても,こころの医療センターの診療録に記録されているような5億円もの多額な債務は現実には存在せず,これもBZ系薬物依存のために,現実よりも過大な債務を負うことになるなどの無根拠な不安を抱くようになったことによるのであって,債務問題が原告の精神疾患を発症させたものではない。 オ原告のBZ系薬物依存離脱に被告病院受診前のBZ系薬物投与が関与していないこと原告が平 根拠な不安を抱くようになったことによるのであって,債務問題が原告の精神疾患を発症させたものではない。 オ原告のBZ系薬物依存離脱に被告病院受診前のBZ系薬物投与が関与していないこと原告が平成13年8月にめまい症を発症した後,複数の医療機関においてBZ系薬物を投与されていたことはあるが,低力価のBZが小用量,かつ,間欠的に投与されていたに過ぎない(平成13年8月のBZ系薬物投与開始後,平成13年12月,平成14年5月ないし同年7月,同年9月ないし同年11月には処方されていない。)。 常用量依存がBZ系薬物の連用によって発症するとされていることからすれば,かかる不連続の間欠的な投与によって依存・離脱が発症することはあり得ないもので,被告病院受診前のBZ系薬物の服用が依存・離脱の 原因であるとすることは薬理学上困難である。 カ後遺症について原告は,平成18年から平成19年頃に逆行性健忘があり,現在も前向性健忘と下痢が継続しており,離脱症状の残遺障害と思われる旨診断されているとおり,現在も,認知機能障害及び内臓機能障害の後遺障害があり,精神障碍者手帳の交付を継続して受けている。 キ以上のとおり,G医師及びH医師の争点⑴ないし⑷に係る各注意義務違反と原告の症状との間には優に因果関係が認められる。 争点⑷に係る説明義務違反との関係でも,G医師が,試行的医療であること及びBZ系薬物の危険性について適切な説明を行っていれば,原告はあえて危険性の高いランドセンの投与による治療を選択するとは考え難く,BZ依存が生じることはなかったといえる。 (被告の主張)ア平成18年1月以降に原告に生じた症状は,原告がそれまで慢性ふらつき・めまい症状に対して効いていた薬を止めることへの不安をきっかけに,原告が被 生じることはなかったといえる。 (被告の主張)ア平成18年1月以降に原告に生じた症状は,原告がそれまで慢性ふらつき・めまい症状に対して効いていた薬を止めることへの不安をきっかけに,原告が被告病院受診前から既に有していた精神症状が発現したものに過ぎない。 前医での診断及び治療内容以下の①ないし⑤のとおり,原告が被告病院を受診する前に各医療機関で付された診断名は,いずれも原告の訴える様々な症状が精神的な要素を多く含んだものであることを端的に示している。また,BZ系抗不安薬であるデパスやコンスタン,ワイパックス,ソラナックスが処方されて一定の効果がみられていたことからすると,原告は,被告病院受診以前から,身体表現性障害,心身症又はうつ病といった不安感を主たる要素とする精神疾患を有していたものといえる。 ① B病院脳神経内科での診断及び治療内容 原告は,パニック障害の患者に多く見られる過換気症候群と診断され,その背景に神経質性の不安があるとカルテ上にも記載され,抗不安薬のコンスタンが処方されている。当時面談を行った医師もその後も原告の精神的な疾患を疑い,原告に対して,精神科医の意見を聴くことを勧めている。その上でBZ系抗不安薬のデパスが処方され,一定の効果があった。 ② C病院耳鼻咽喉科での診断及び治療内容原告に対しては,初診時から抗不安薬であるデパスが処方され,約5か月もの間,継続してデパスが処方され続け,一定の効果があった。 カルテ上にも「自律神経失調の可能性 orMental(精神的なもの)」との記載が認められる。 ③ D病院心療内科での診断及び治療内容原告は自律神経失調症・心身症と診断され,身体表現性障害との評価もなされている。また orMental(精神的なもの)」との記載が認められる。 ③ D病院心療内科での診断及び治療内容原告は自律神経失調症・心身症と診断され,身体表現性障害との評価もなされている。また,その後の受診では神経症・ドクターショッピングとの診断名が付されている。 ④ Eクリニック原告は心身症と診断され,初診時の平成14年12月21日からBZ系抗不安薬のワイパックスが投与され,同月28日からはワイパックスに代わりBZ系抗不安薬コンスタンが投与され,翌平成15年1月10日からはBZ系抗不安薬レキソタンが追加して処方されている。 ⑤ F内科原告は自律神経失調症・うつ状態と診断され,神経症やうつ病などの精神疾患に対する治療法である自律訓練法や森田療法の指導を受けている。そして,BZ系抗不安薬であるソラナックスが投与され,1年以上通院を継続している。 後医における診断及び治療内容 こころの医療センターでの原告に対する治療は,抗うつ薬を中心とした薬物療法であり,うつ病に対する一般的な治療法である。 原告は,うつ病がBZ系薬物依存の離脱症状として発現したものである旨主張するが,BZ系薬物の退薬によってうつ状態を呈する場合には通常一過性であり,2~4週間で軽快するものであって,うつ状態が相当長期間にわたって継続し,抗うつ薬を用いた治療がされている場合は,BZ系薬物の離脱症状ではなく,もともとその患者が有していたうつ病等の精神疾患の症状が発現したものと理解されるべきである。 イまた,争点⑷に係る説明義務違反に関していえば,G医師が副作用等を説明したとしても,原告が服用を断った可能性はないから,原告の症状との間に因果関係が認められない。すなわち,原告は,慢性めまい・ふらつき症状を治療するた 明義務違反に関していえば,G医師が副作用等を説明したとしても,原告が服用を断った可能性はないから,原告の症状との間に因果関係が認められない。すなわち,原告は,慢性めまい・ふらつき症状を治療するために多数の病院を転々と受診するも満足のいく治療効果を得られずにいる中で,慢性ふらつき症の診断治療の研究が被告病院で行われていることを知り,藁にもすがる思いで名古屋からはるばる大阪にある被告病院まで足を運び,受診時には検査結果を待たずに投薬を希望し,また,効果がみられなかったデパケンRに代わる薬を積極的に希望するなど,治療薬を切望していたものであり,仮にG医師がランドセンを長期間服用した場合には急激な減薬・断薬によって離脱症状が現れることがあり得ること等を説明したとしても,慢性めまい・ふらつき症に効果があるかもしれない旨の説明を受けた薬の処方を拒否したとは考えられない。 ウ仮に原告の主張する注意義務違反と平成18年1月以降の症状の発現との間に因果関係があるとしても,BZ系薬物依存の離脱症状は2~4週間で軽快するものであるから,相当因果関係が認められるのは,どんなに遅くとも同年2月末までである。現に原告は同年2月には職場に復帰している。その後の症状の悪化は,同年3月頃に離婚の話が出て妻と別居状態になったことや多額の借金の問題が顕在化したことによるものであって,原 告が主張する被告病院医師らの注意義務違反との間に因果関係はない。 ⑹ 争点⑹(原告の損害の有無及びその額)について(原告の主張)原告は,被告病院医師らによる上記各注意義務違反によって以下のとおり損害を被った。なお,原告の症状固定日は,平成21年12月24日である。 ア治療費合計 90万9310円原告は,BZ系薬物 各注意義務違反によって以下のとおり損害を被った。なお,原告の症状固定日は,平成21年12月24日である。 ア治療費合計 90万9310円原告は,BZ系薬物依存及び離脱症状の治療のために,平成18年1月6日から平成21年12月24日(症状固定日)まで,こころの医療センターへの入通院を余儀なくされた。また,上記症状固定日以降も,主治医から定期的な通院を指示されており,今後も定期的な経過観察が必要とされている。なお,金額には文書料を含む。 (内訳)平成21年12月24日(症状固定日)まで56万8570円平成22年1月から平成27年2月まで8万7050円将来分 25万3690円ただし,毎月1回通院し,1回の治療費を1500円として,平均余命25年に対応するライプニッツ係数14.0939を用いて算出した金額イ入院雑費 14万7000円原告は,離脱症状の治療のために,平成18年6月12日から同年9月17日までの98日間,こころの医療センターに入院したところ,入院雑費は日額1500円が相当である。 ウ介護費用 6万7652円原告は,離脱症状により,身辺の世話をしてもらうために介護事業者に依頼せざるを得ず,平成19年度から平成24年度まで,上記金額を支出 した。 エ通院交通費合計 36万4922円原告の自宅からA病院までの移動にかかる費用は,片道480円である。 下記括弧内の回数は,各期間における通院の回数である。 (内訳)症状固 36万4922円原告の自宅からA病院までの移動にかかる費用は,片道480円である。 下記括弧内の回数は,各期間における通院の回数である。 (内訳)症状固定日まで(107回) 10万2720円平成27年2月まで(104回) 9万9840円将来分 16万2362円ただし,毎月1回通院するものとし,前記ライプニッツ係数14.0939を用いて算出した金額オ診療記録開示費用 4万8450円カ文書謄写費用 13万5000円キ文書購入費用 2万9154円ク休業損害 6274万4891円原告は,離脱症状のために平成18年1月から平成21年12月までの間,欠勤・休職を余儀なくされ 欠勤・休職による減収分 4644万4891円上記期間中に勤務先から支払われた給与等は,平成18年が1335万8083円,平成19年が121万円7309円,平成20年が369万0584円,平成21年が805万3125円であるが,平成18年及び平成19年の支払金額は,合計70日間の有給休暇を全て消費して得られたものであるから,平成18年及び平成19年の収入は0円とみるべきであり,各年の収入と平成17年の収入1454万7150円との差額の合計が減収による損害である。 昇給によって得られたはずの収入分 200万円原告に対する勤務先の評価は高く,平成17年までの過去6年間と同様のペースで昇給した可能性が高かったところ,離脱症状による欠勤・ 休職がなければ, て得られたはずの収入分 200万円原告に対する勤務先の評価は高く,平成17年までの過去6年間と同様のペースで昇給した可能性が高かったところ,離脱症状による欠勤・ 休職がなければ,休職期間に合計200万円の収入増があったはずである。 退職金予定額の減額分 1430万円上記期間中,原告の勤務先では,欠勤及び有給休暇期間が1年,休職期間が3年との扱いであるが,社内規程により,休職期間は勤続期間に算入されないため,退職金予定額が減額となった。 また,原告の人事考課は,休職以前にはAランクであったが,復職後には最低のDランクとなり,退職金予定金額が減額となった。 これらによる退職金予定金額の減額分は,上記金額であって,原告の損害となる。 ケ逸失利益 5912万0189円原告が離脱症状を発症する前の平成17年の収入は1454万7150円であり,離脱症状がなければ2年に1回のペースで昇給し,定年となる平成30年には,1800万円になったはずである。したがって,逸失利益の算定における原告の基礎収入は,上記各金額の平均値である1627万3575円とすべきである。 そして,原告は,現在もBZ系薬物の離脱に起因する前向性健忘及び逆行性健忘が残遺しているところ,復職した後,短時間勤務や軽作業主体の勤務とされており,このような状態は,「神経系統の機能又は精神に障害を残し,服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」(後遺障害等級9級10号。労働能力喪失率0.35)に該当する。また,原告の勤務先における定年後の再雇用の条件は「健康である者」と定められているため,原告は,定年後の再雇用を望めず,収入の道は閉ざされる見込みである。そこで,上記基礎収入に就労 5)に該当する。また,原告の勤務先における定年後の再雇用の条件は「健康である者」と定められているため,原告は,定年後の再雇用を望めず,収入の道は閉ざされる見込みである。そこで,上記基礎収入に就労可能年数15年に相当するライプニッツ係数10.3797を用いて逸失利益を算出すると,5912万0189円となる。 コ傷害慰謝料 500万円原告は,平成18年1月6日から平成21年12月24日まで,離脱症状の治療のために入通院を強いられたところ,入院期間は98日間,通院期間はおよそ48か月である。また,原告は,激烈な離脱症状に苦しみ,生命の危険を感じるほどの苦痛に耐えなければならなかった。 サ後遺障害慰謝料 700万円原告の後遺障害等級は,上記ケのとおり,9級10号に該当する。 シ本件固有の慰謝料 1000万円原告は,重篤な依存・離脱症状に苦しんだだけでなく,勤務先での評価は落ち,妻子との関係も壊れて家庭が崩壊した。また,本件訴訟において,被告が周知の医学的知見・医療倫理に反する主張をしたこと等によって,一層の精神的苦痛を被った。 ス弁護士費用 1455万6656円セ合計 1億6012万3224円(被告の主張)否認ないし争う。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前記前提事実に,証拠(甲A2~4,8,9,12~21,24~29,31~37,40~42,60~64,66,68,71,乙A1~4,8,9,26,28,証人G。枝番のある書証は枝番を含む。)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事 8,9,12~21,24~29,31~37,40~42,60~64,66,68,71,乙A1~4,8,9,26,28,証人G。枝番のある書証は枝番を含む。)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められ,この認定を左右するに足りる証拠はない。 ⑴ 被告病院受診前の診療経過の概略ア原告は,平成13年8月頃以降,ふらつきや浮動性めまい等の症状を訴えて,複数の医療機関を受診していた。 被告病院を受診するまでの原告の通院歴の概略は,次のとおりである。 O診療所(平成13年8月27日)(甲A60の1)数日前からふらつきを感じると訴え,血液検査,心電図検査等を受けたが異常なしとされた。 A病院耳鼻科(同年8月29日ないし同年10月2日)(甲A61の1)浮動性のめまいを訴え,頭部MRI検査で左椎骨動脈の蛇行による神経圧迫の可能性を指摘された。 A病院脳神経外科(同年9月14日ないし同月21日)(甲A61の2)一過性脳虚血発作の可能性,前庭神経圧迫の可能性を指摘された。 B病院神経内科及び耳鼻咽喉科(同年10月13日ないし平成14年3月2日)(甲A62)初診時,内耳性めまいを否定できないとされ,デパスを処方された。 平成13年10月24日の診察時には,過換気症候群と診断され,背景に神経質,不安があるように思う旨がカルテに記載され,コンスタン等を処方された。同年11月14日には,めまいは回転性とは思われず,積極的に神経血管圧迫ではないと考えられること,過換気症候群に近いと考えられることがカルテに記載され,同日以降,アデホス,メリスロン,デパス,メチコバール等を処方された。 C病院耳鼻咽喉科(同年11月29日ないし平成14年3月28 れること,過換気症候群に近いと考えられることがカルテに記載され,同日以降,アデホス,メリスロン,デパス,メチコバール等を処方された。 C病院耳鼻咽喉科(同年11月29日ないし平成14年3月28日)(甲A63の1)初診時,顔面神経麻痺とされ,平成13年12月10日,前庭神経炎疑いとされた。平成14年2月7日の受診時には,自律神経失調の可能性又は精神的なものであり,検査が必要であるとされ,デパス,メリスロン,アデホスなどが処方されたが,同年3月7日,原告の希望により,漢方外来へ紹介された。 P病院耳鼻科(平成13年12月18日)C病院第2内科(漢方外来)(平成14年3月7日ないし同年8月5日)(甲A63の2)漢方薬,デパス等を処方された。 D病院心療内科(同年7月12日及び平成15年1月16日)(甲A64)初診時,自律神経失調症,心身症の診断名が付けられ,身体表現性障害との記載もカルテになされた。 Q診療所(平成14年8月ないし同年12月)Eクリニック(心療内科・精神科)(同年12月21日ないし平成15年1月10日)(甲A66)めまい等で上記期間中に3回通院し,心身症の診断が付けられ,ワイパックス,コンスタン,レキソタンを処方された。 F内科(平成15年1月以降)(乙A2の1)自律神経失調症及びうつ状態との診断を受け,ソラナックスを処方された。 イ原告は,被告病院と日立製作所が共同で行っていためまい症の研究に関するウェブサイトを見て同研究を知り,日立製作所のR研究員に対して問い合わせをし,平成16年4月15日,被告病院との共同研究によって投薬でめまいが改善される可能性があることが判明していること,約6割程度の者に改善がみられていること,受診を希望する場 究員に対して問い合わせをし,平成16年4月15日,被告病院との共同研究によって投薬でめまいが改善される可能性があることが判明していること,約6割程度の者に改善がみられていること,受診を希望する場合には被告病院のG医師に尋ねてほしいことなどの回答を得た。(甲A8,9)⑵ 被告病院における診療経過(メールのやり取りを含む。)ア平成16年4月21日原告は,初めて被告病院を受診し,浮動性のめまいを訴えた。 G医師は,原告の診察を行い,カルテに仮面様顔貌,うつ状態の疑いな どと記載した。また,総括として,うつ状態及び慢性ふらつき症候群疑いなどと記載した。 G医師は,原告に対して入院を勧めたが,原告は,1週間以上も会社を休むとリストラにあうかもしれないなどと言って,外来での精査を希望した。(乙A3・5~8頁)イ同年7月2日脳磁図検査,脳波検査,頸部血管エコー検査が施行された。なお,原告は,同日,ふらつきはましである旨述べていた。 原告が同日からの投薬を希望したため,G医師は,デパケンRの服用を指示した。(乙A3・9頁)ウ同年7月14日原告は,G医師に対し,デパケンRを服用しても効果がなかった旨述べた。なお,血液検査の結果,白血球数が3600であり,少し低下がみられた。 G医師は,同月2日に実施した脳磁図及び脳波検査等の結果で異常は認められなかったが,原告が上記検査までソラナックスを継続して服用しており,血中濃度が高く残っている可能性もあると考えた。そこで,G医師は,原告に相談したところ,原告がデパケンRに代わる薬を試してほしい旨述べたので,ランドセン1日0.5mgの服用を指示して同量を15日分処方した。(乙A3・10,11頁)エ同年7月29日原告は, ろ,原告がデパケンRに代わる薬を試してほしい旨述べたので,ランドセン1日0.5mgの服用を指示して同量を15日分処方した。(乙A3・10,11頁)エ同年7月29日原告は,G医師に対し,ランドセンの服用開始3日目から,徐々に水平方向の揺れがなくなってきたこと,ソラナックスも減量できたことを報告した。 G医師は,ランドセンの効果があったものと判断し,ランドセン1日1mgの服用を指示して同量を30日分処方した。(乙A3・11頁) オ同年8月19日原告は,G医師に対し,ランドセンの服用によって,ゆれが当初の3割程度まで減少したこと,軽度の下痢がみられること,ソラナックスを飲まなくてもよくなったことなどを報告した。G医師は,ランドセンの効果があるものと判断し,ランドセン1日1.5mgの服用を指示して同量を30日分処方した。(乙A3・12頁)カ同年9月17日原告は,G医師に対し,ランドセンの服用によって,ゆれが当初の2割程度になったことを報告した。1日4錠に増薬してみたいとの原告の希望があり,G医師は,ランドセン1日2mgの服用を指示して同量を40日分処方した。(乙A3・12,13頁)キ同年10月21日原告は,G医師に対し,当初の1割から3割程度のふらつきがあり,なくなってはいないが,改善はしている旨報告した。原告から増量の希望があり,G医師は,原告の自覚的にはランドセンが効果的であり,副作用も出ていなかったことから,増量して様子をみることとして,ランドセン1日2.5mgを45日分処方した。(乙A3・13頁)ク同年11月26日原告は,G医師に対し,ふらつきは当初の一,二割程度残存している旨報告した。G医 こととして,ランドセン1日2.5mgを45日分処方した。(乙A3・13頁)ク同年11月26日原告は,G医師に対し,ふらつきは当初の一,二割程度残存している旨報告した。G医師は,ランドセンが明らかに浮動感に対して効果があると認められるものの消失まではしていないことから,原告と相談の上,ランドセン1日3mgを30日分処方した。(乙A3・14頁)ケ同年12月9日原告は,G医師に対し,かなりよくなってきた旨報告した。 G医師は,しばらくランドセン1日3mgを維持することとし,同量を45日分処方した。(乙A3・14頁) また,脳磁図検査が施行された。(乙A3・14頁)コ平成17年1月21日原告は,G医師に対し,めまいは0から当初の1割程度に低下した旨報告した。G医師は,原告と相談の上,ランドセンを1日3.5mgに増量することとし,同量を35日分処方した。(乙A3・15,16頁)サ同年2月25日原告は,G医師に対し,ふらつきはほとんど消失した旨報告した。G医師は,更に1か月間,ランドセン1日3.5mgを維持することとし,30日分を処方した。(乙A3・16,17頁)シ同年3月25日原告は,G医師に対し,仕事が忙しく,めまいが多い旨報告した。G医師は,原告の希望によりランドセンを増量することとし,ランドセン1日4mgとして40日分処方した。(乙A3・18頁)ス同年5月9日原告は,G医師に対し,ランドセンを1日4mg服用してから体がだるいため,1日3mg,さらに,1日2mgに減量してそれを3週間続けているが,ふらつきはないことのほか,4か月で体重が67kgから59kgに減少し 師に対し,ランドセンを1日4mg服用してから体がだるいため,1日3mg,さらに,1日2mgに減量してそれを3週間続けているが,ふらつきはないことのほか,4か月で体重が67kgから59kgに減少したことを報告した。 G医師は,上記報告を踏まえ,ランドセン1日2mgの服用を指示した上,薬の残量を考慮して,1日当たり1mgを42日分処方した。(乙A3・19頁)セ同年6月20日原告は,G医師に対し,体重が57.2kgで減少傾向にあること,ランドセンの服用量を2週間前から1日0.5mgから1.5mgに増やして改善がみられたことを報告するとともに,1日1mgくらいにして徐々に減量したい旨述べた。(乙A3・19頁) G医師は,原告の減薬に対する希望を踏まえ,ランドセン1日1.5mgを60日分処方し,また,体重減少に関しては勤務先の診療所で精査を受けるよう話した。(乙A3・19,20頁)なお,次回受診を,同年8月8日に予約した。(乙A3・19頁)ソ同年7月28日(メール)原告は,G医師に対し,勤務先の診療所で胃・腸のバリウム検査や腫瘍マーカー検査を受けたが特に異常なかったこと,再度,他の病院で検査を受けるよう言われて紹介状を書いてもらったこと,平成16年6月から体重減少が始まっていること,同月から平成17年7月までの体重変化の推移,特段の自覚症状はめまい以外にはないことなどを記載したメールを送信した。(甲A12)G医師は,体重減少に関しては広範囲の全身検索の必要があり,総合診療が可能な医療機関が適切であると考えられる旨などを記載したメールを返信した。(甲A13)タ同年7月29日(メール)(甲A14ないし16)原告は,G医師に対し,体重減少は,ランドセン投与 療機関が適切であると考えられる旨などを記載したメールを返信した。(甲A13)タ同年7月29日(メール)(甲A14ないし16)原告は,G医師に対し,体重減少は,ランドセン投与の時期と一致しており,他の重篤な疾患をうかがわせる自覚症状もないことから,ランドセン服用の影響が考えられるのではないかと問うメールを送信した。(甲A14)G医師は,ランドセンの添付文書には,副作用として体重減少の記載があるものの経験がないので製薬会社に問い合わせていること,副作用を疑うなら,めまいが落ち着いているのであれば,ランドセンを中止して体重が回復するのをみるのがよいと思う旨のメールを返信した。(甲A15)原告は,ランドセンを中止して体重が回復するかをみることは了解した旨,ただし,現状では服用を中止すると半日程度で浮動性のめまいが出現することから,1日0.5mgを3錠服用していること,これを少しでも 減らすことができないか試しているが,症状が出るため減らせていないことなどを記載したメールを再返信した。(甲A16)チ同年8月1日(メール)G医師は,原告に対し,ランドセンの副作用として,発症頻度は0. 1%未満と低く発生機序も不明であるが,体重減少が生じる可能性があるので,ふらつきの症状が改善すればランドセンを中止していただければ幸いです,などと記載したメールを送信した。(乙A4の2)原告は,G医師に対し,現状でランドセンを中止するとめまいが出るため,さらに服用量を減らせるよう努める旨のメールを送信した。(甲A20)ツ同年8月4日(メール)原告は,G医師に対し,同月2日にA病院総合内科を受診し,体重減少に関して診察を受け,採血検査及び胸部レントゲン検査も受けたこと,ラ ルを送信した。(甲A20)ツ同年8月4日(メール)原告は,G医師に対し,同月2日にA病院総合内科を受診し,体重減少に関して診察を受け,採血検査及び胸部レントゲン検査も受けたこと,ランドセンの副作用に関しては服用時期が一致するものの,低率であるため副作用かどうかは判断されなかったことなどをメールで報告した。(甲A21)テ同年8月12日(メール)原告は,G医師に対し,同月5日から,1日にランドセン0.5mg錠を3錠服用していたものを,1日1錠ずつ減量してみたところ,睡眠障害,振戦,不安,焦燥感,気分の落ち込み,下痢の離脱症状とともにめまいが出現したこと,3日目にランドセンの減量を諦め,現在は1日0.5mg錠3錠を服用していること,とりあえずは0.25mg錠を1週間単位で減量して6週間を目途に服薬を中止する方向で試してみようと考えていること,体重減少は横ばいになっていることなどを記載したメールを送信した。(甲A24)G医師は,ランドセンの離脱症状が出現するのであれば,本当に少量ず つ減量していくしか方法がないと思われること,1週間ないし2週間で0. 25mgずつ程度のゆっくりとした速度で可能であれば減量してもらいたいことなどを記載したメールを返信した。(甲A25)ト同年8月22日原告は,被告病院を受診し,G医師に対し,現在ランドセンを1日1. 0mg服用しているが,ふらつきがあり,これ以上はどうしても減量できない旨述べた。 G医師は,ランドセンを少し減量して以前服用していたソラナックス(コンスタン)を併用して体重を戻す方針とし,コンスタン(0.4mg錠を2錠)及びランドセン(0.5mg錠を1錠)を30日分処方した。 (乙A3・20頁)ナ同年8月30日(メール)原告は (コンスタン)を併用して体重を戻す方針とし,コンスタン(0.4mg錠を2錠)及びランドセン(0.5mg錠を1錠)を30日分処方した。 (乙A3・20頁)ナ同年8月30日(メール)原告は,G医師に対し,現在,1日にランドセン1錠及びコンスタン2錠を服用しており,ランドセンを1錠に減らしてから,ふらつき感等に襲われること,うつ病的な感覚があるが,これはコンスタンの服用によって弱まること,しばらく上記の量の服用を継続して様子を見てみようと思っていることなどを報告するメールを送信した。(甲A26)ニ同年9月1日(メール)G医師は,上記ナのメールに対する返信として,ランドセン1錠とコンスタン2錠でうつ症状とめまい感と体重減少がコントロールできるのであれば,このままこれで体重の回復をみるのが良いと思われること,コンスタン2錠に代えてドグマチールを試してみるのがよいかもしれないことなどを記載したメールを送信した。(甲A27)原告は,これに対する返信として,揺れや不安感の出現状況のほか,ランドセンやコンスタンの服用による効果の自覚症状を述べた上,急に出現する不安感や揺れによって仕事や生活を維持することが難しく感じられる 場合には,ランドセンを1日2錠服用してもよいかを問うとともに,これまでめまいの揺れ感覚のみで気分のふさぎ込みを経験したことがないので,非常に不安であることなどを訴えるメールを送った。(甲A28)G医師は,さらにこれに対する返信として,めまいの症状が強いときは一時的にランドセン2錠の服用も仕方ないが,連用すると体重減少が気になるので注意すること,うつ状態が危険な状態にあると感じるのであれば,精神科受診を考慮した方が良いことなどを記載したメールを送った。(甲A29)ヌ同年9月5 が,連用すると体重減少が気になるので注意すること,うつ状態が危険な状態にあると感じるのであれば,精神科受診を考慮した方が良いことなどを記載したメールを送った。(甲A29)ヌ同年9月5日(メール)原告は,G医師に対し,他院(F内科)で処方されたドグマチール(50mg)とともに,ランドセン(0.5mg),ソラナックス(0.4mg)を1日3回服用していること,症状は改善し,ふさぎ込みやうつ感覚は消失し,ふらつき感も弱くなっていること,それに伴い気分も改善していることなどを報告するメールを送信した。(甲A31)G医師は,精神面とふらつきが両者ともコントロール可能であればよいと思うこと,体重が少しでも増加傾向にあれば,しばらくこの処方で継続してはどうかなどと記載したメールを返信した。(甲A32)ネ同年9月20日(メール)原告は,G医師に対し,現在は,1日ランドセン3錠のみを服用し,コンスタン及びドグマチールについては服用を中止したこと,他院(F内科)の医師から,体調が良ければ長く飲まずに減らすようにと指示され,少しずつ減量し,服用しなくても,精神面及びめまいについて同年7月頃の状態に戻って安定していることなどを報告するメールを送信した。(甲A33)ノ同年9月21日(メール)原告は,G医師に対し,ランドセンの服用量は同年7月頃より増えてい るので,再度少しずつ減量し,1日2錠に減らせるように努力してみる旨を記載したメールを送信した。(甲A34)G医師は,以前も服用していたランドセン3錠であれば,血液学的な副作用はないと考えてよいと思われることを記載したメールを返信した。 (甲A35)ハ同年9月28日原告は,被告病 G医師は,以前も服用していたランドセン3錠であれば,血液学的な副作用はないと考えてよいと思われることを記載したメールを返信した。 (甲A35)ハ同年9月28日原告は,被告病院を受診し,G医師に対し,現在ランドセンを1日3錠服用し,不安感はなく,ふらつきはないか少しある程度であるなどと述べた。 G医師は,しばらくランドセン1日1.25mg(0.5mgを2.5錠)として様子をみることとし,その旨を指示した上で,ランドセン0. 5mg錠2錠を30日分処方した。(乙A3・21頁)ヒ同年10月26日(メール)原告は,G医師に対し,現在,前回診察時に指示された1日当たりランドセン2.5錠の服用を継続しており,めまいの症状は安定しているが,試しに2錠に減量した途端にめまい及び不安感が生じること,体重が復元できない以上,ランドセンの服用継続にも不安があることなどを記載したメールを送信した。(甲A36)G医師は,ランドセンの服用はそれほど長期間ではないが,デパスやコンスタンの服用期間を考えると,BZ系薬物としての離脱は,かなり長期間をかけて行うことが通常であるなどと記載したメールを返信した。(甲A37)フ同年10月27日原告は,被告病院を受診し,G医師に対し,ランドセンは2.5錠を服用しないと,めまいや不安感が持続するなどと述べた。 G医師は,原告と相談の上,ランドセン2.5錠とドグマチールで体重 が増加するまで様子をみて,体重増加があればドグマチールは中止することとして,ランドセン0.5mg錠3錠及びドグマチール(50mg)2錠を30日分処方した。 なお,同日は,G医師が原告を診察した最後の日であり,G医師は,同日のカルテ チールは中止することとして,ランドセン0.5mg錠3錠及びドグマチール(50mg)2錠を30日分処方した。 なお,同日は,G医師が原告を診察した最後の日であり,G医師は,同日のカルテに,ランドセン2.5錠にドグマチールを加えていることや,体重変化をみてほしいことなど,H医師に対する引継事項を記載した。 (以上,乙A3・21,22頁)ヘ同年12月5日原告は,被告病院を受診し,G医師の後任であるH医師に対し,ドグマチール及びランドセンの服用でうまくいっているが,やめようとすると禁断症状が出ること,現在ランドセンを漸減しており,1日3回0.5mg錠の2分の1を服用しているが,それ以上減らすとだるさが増強することなどを訴えた。 H医師は,ドグマチール2カプセル,ランドセン0.5mg錠3錠及び漸減用のランドセン細粒0.6mgを30日分処方した。(乙A3・22頁)ホ同年12月21日(メール)原告は,H医師に対し,ランドセンを1日0.5mg錠の2分の1を3回服用していたものを,一週間単位で少しずつ漸減し,現在は1日0.5mg錠の2分の1を朝1回にまで減らしたが,不安感,焦燥感,不眠の症状が出てきたため,コンスタン0.5mg錠の2分の1を1回服用し,また,ドグマチールを1日1錠服用していること,これから先の減量の仕方等について教示を求めるメールを送信した。(甲A40)H医師は,現在の内服量は極めて少量であり,この量を年余に渡って内服しても全く問題はなく,不安や焦り,不眠等の症状が出ない程度でこれ以上の減量は不要と考えるなどと記載したメールを返信した。(甲A4 1)マ同年12月22日(メール)原告は,H医師に対し,ランドセンの服用 の症状が出ない程度でこれ以上の減量は不要と考えるなどと記載したメールを返信した。(甲A4 1)マ同年12月22日(メール)原告は,H医師に対し,ランドセンの服用によってめまいの症状は安定してきたが,体重減少の副作用等があり,服用を継続することには恐怖があること,体調や体力・気力が急速に落ちていること,抗不安薬を一生飲み続けるのは今後の服用量の増加などを考えると耐えられないこと,仕事を続けながら減量を進めるには,長期間の休暇がとれる年末年始しかないので,薬を止められるように指導を願いたいことなどを記載したメールを送信した。(甲A42)H医師は,最終的に減量・中止を優先するか,現在の少量内服を継続するかは,本人が決めるのがよいと思うが,内服の中止を目指すのであれば,二,三日に1回内服するというスタンスで,内服間隔をあけていき,頓服,更には2月末から3月初旬までに中止をしてはどうかなどと記載したメールを返信した。(甲A43)⑶ その後の診療経過等ア D病院原告は,H医師から傷病名をめまい症候群及び全般性不安障害(GAD)とするこころの医療センター宛紹介状の交付を受け,平成18年1月4日,同紹介状の写しを持参し,めまい,不安感を訴えて,D病院を受診し,全般性不安障害及び抑うつ状態との診断名で,パキシル,コンスタン,ガスモチン及びデパスを処方された。原告は,同月11日及び同年6月1日にも同病院を受診し,同日,抑うつ神経症と診断された。 イこころの医療センター原告は,同年1月6日,上記紹介状を持参して,主として,めまい,不安感等を訴えて,こころの医療センターを受診し,パキシル,テトラミド,ソラナックスを処方された。担当は,N医師であった。 原告は,同月11日, 上記紹介状を持参して,主として,めまい,不安感等を訴えて,こころの医療センターを受診し,パキシル,テトラミド,ソラナックスを処方された。担当は,N医師であった。 原告は,同月11日,家族とともに,同センターに来て,入院治療を希望し,同センターの紹介を受けて,S病院に入院したが,すぐに退院を希望し,入院の適応がないものとされて翌日には退院した。 原告は,引き続きこころの医療センターにおいて通院治療を受けることとし,同月17日以降,トレドミン,テトラミド,コンスタンを処方され,同年2月14日頃には抑うつ,不安とも改善傾向を見せていた。 その後,原告は,同年4月3日の受診時,フルタイムで再開した仕事の疲れ等のほか,妻から離婚の話が出て大変であること,家で一人になったことを述べ,同年5月1日の受診時には,耳鳴りがひどいこと,その原因は薬ではなく家族がバラバラになったことにあると思うこと,自宅のローンや借金があることを述べ,同月29日の受診時にも,借金の返済がつらいこと,妻から弁護士を介して離婚の話が出ていることなどを述べ,同年6月12日に勤務先の部長の付添を受けて来院した際も,金や仕事のことが頭から離れないこと,自宅のローンも心配であり,自分ではどうしたらいいか分からないことなどを訴え,入院休養を勧められてこれに同意した。 原告は,同日,こころの医療センターに入院した。担当はT医師となった。 原告は,入院中,度々,離婚問題に関する不安,1億円を超える借金の返済に対する不安,抗不安薬の依存・離脱に対する不安を訴えた。 同センターのカルテには,T医師による次のような記載がある。 ①同年6月14日抑うつは妻の家出を契機→適応障害?離別反応? しかし,それに伴い,自分の身体的な不安の訴えも大きくなっている。やはり,心気妄 のカルテには,T医師による次のような記載がある。 ①同年6月14日抑うつは妻の家出を契機→適応障害?離別反応? しかし,それに伴い,自分の身体的な不安の訴えも大きくなっている。やはり,心気妄想・貧困妄想を伴った大うつ病性障害か②同年7月27日 ♯1 抑うつ気分病前性格が分からないが,入院時よりは若干改善♯2 不安原因がはっきりしている。 ①離婚問題,②借金,③抗不安薬の離脱,④休職状態原告は,同年9月17日,こころの医療センターを退院し,引き続き,同月27日から通院治療を受け,メチコバール,トレドミン,テトラミド等を処方された。担当は,M医師になった。 平成24年1月4日,M医師により,BZ系薬物依存既往の診断名が追加された。 ⑷ 原告の就業状況等についてア原告は,平成18年1月6日から勤務先に全く行くことができず,休んでいたが,同月末頃からは2週間に6日程度フレックスで出勤するようになり,同年4月3日までには,フルタイムでの勤務を再開した。 イその後,原告は,前記⑶イのとおり,同年6月12日から同年9月17日まで入院することとなったが,この入院期間中の7月2日以降,勤務先において要療養につき欠勤扱いとなり,同年12月29日からは休職扱いとなった。 ウ原告は,平成21年11月1日に復職支援制度によるリハビリ出社を開始し,同年12月24日に復職し,しばらくは,勤務時間制限の措置(平成22年1月6日までは1日3時間勤務,同月21日までは1日5時間勤務,同年2月25日までは時間外労働の禁止等)が取られたが,同年2月25日以降,勤務時間等の制限はなくなり,定期的に医師の観察指導を必要とするものとされ,月1回程度,勤務先の診療所において病状確認を行うこと 月25日までは時間外労働の禁止等)が取られたが,同年2月25日以降,勤務時間等の制限はなくなり,定期的に医師の観察指導を必要とするものとされ,月1回程度,勤務先の診療所において病状確認を行うこととされている。 エ原告は,平成18年9月29日,精神保健及び精神障害者福祉に関する 法律45条に基づき,障害等級3級の保健福祉手帳の交付を受け,その後,2年ごとに更新を受けている。 2 本件に関する医学的知見⑴ ランドセンの添付文書(甲B7)ア使用上の重要な基本的注意として,「連用中における投与量の急激な減少ないし投与の中止により,てんかん重積状態があらわれることがあるので,投与を中止する場合には,徐々に減量するなど慎重に行うこと。」との記載がある。 イ重大な副作用の一つとして,「依存症(頻度不明) 大量連用により薬物依存を生じることがあるので,観察を十分に行い,用量を超えないよう慎重に投与すること。また,大量投与又は連用中における投与量の急激な減少ないし投与の中止により,けいれん発作,せん妄,振戦,不眠,不安,幻覚,妄想等の禁断症状があらわれることがあるので,投与を中止する場合には徐々に減量するなど慎重に行うこと。」との記載がされている。 ⑵ BZ系薬物の常用量依存に関する医学文献等の記載ア BZ系薬物は,臨床用量の範囲内でも長期服用のうちに身体依存が形成され,退薬に伴って退薬症候が現れる場合があり,臨床用量依存又は常用量依存と呼ばれる。(甲B1・207頁,213頁)イ BZ臨床用量依存については,1981年にHallstrom らが低用量BZ依存を「ジアゼパム30mg以下,あるいはこれと等価量のほかのBZを継続的に使用し,断薬時に明らかな離脱症状がみられること」,1986年にBusto ,1981年にHallstrom らが低用量BZ依存を「ジアゼパム30mg以下,あるいはこれと等価量のほかのBZを継続的に使用し,断薬時に明らかな離脱症状がみられること」,1986年にBusto らがBZ治療的長期使用を「少なくとも3か月間BZを毎日使用し,累積量がジアゼパムに換算して2700mg以上を服薬したケース」とした定義がある。(甲B74・802頁)⑶ BZ系薬物の離脱症状に関する医学文献等の記載ア退薬症候の出現機序 BZは中枢神経系における主要な抑制性神経伝達物質であるGABAの作用を増強することにより,抗不安,抗けいれん,筋弛緩,鎮静,催眠,健忘などの薬理作用を発揮する。(甲B1,5)BZ系薬物の服用によりBZが慢性に中枢型BZ受容体に作用し続けると,BZ受容体自体のダウン・レギュレーションが生じ,GABAの感受性が低下する。この状態が維持されることにより,GABAによって抑制されている他の部位の神経伝達系の感受性が代償性に亢進した状態となる。 この状態で,BZ系薬物の服用を突然中止すると,GABAの活動の急激な低下による脱抑制が生じ,脳の他の部位での神経伝達物質の活動性が高まり,退薬症候として種々の症状が出現すると考えられている。(甲B5・1672頁)イ BZ長期服用患者の退薬時の症状は,再燃,反跳現象,退薬症候の3つのタイプに分けられる。 このうち退薬症候とは,元の症状とそれまでに認められなかった症状が出現することをいい,いわゆる離脱症状と呼ばれるものである(以下では,離脱症状という。)。(甲B1,5)離脱症状は,心理,身体,知覚の3領域に現れるとされ,心理的症状としては,不安や焦燥,不眠,イライラ,抑うつ気分,記憶障害,集中力障害などが,身体症状としては, 離脱症状という。)。(甲B1,5)離脱症状は,心理,身体,知覚の3領域に現れるとされ,心理的症状としては,不安や焦燥,不眠,イライラ,抑うつ気分,記憶障害,集中力障害などが,身体症状としては,発汗や心悸亢進,悪心,嘔吐,食欲低下,体重減少,筋肉痛,振戦,けいれんなどが,知覚障害としては,知覚過敏や味覚異常,身体動揺感などが挙げられる。(甲B5・1671頁)離脱症状としては,出現頻度は高いが非特異的なもの(不眠,不安,気分不快,筋肉痛,振戦,頭痛等)と,比較的頻度は低いが特異性が高いもの(知覚障害(知覚過敏,知覚変容),離人感)があり,その他,稀にけいれんや精神病症状が現れることがあるとされる。(甲B222・67頁) 長期的又は高用量の摂取であればより重度の離脱症状が出る可能性がある。毎日約40mgのジアゼパム又はその等価量の摂取は,臨床的に意味ある離脱症状をより産出しやすく,より高用量(例えば100mgのジアゼパム)では,離脱けいれん又はせん妄をより起こしやすい。(甲B13・282頁)ウ BZ離脱症状の出現頻度は,BZの臨床力価,薬物動態の特徴,投与量,投与期間に強く関係する。(甲B1,5)高用量投与の場合や半減期の短いBZの場合は,その投与期間に関わらず出現頻度は高くなる。また,長期使用の場合は出現率が高くなる。( 甲B5)エ離脱症状の出現時期は,血中半減期の短いものほど血中濃度の低下に伴い早期に出現し,自覚的に気付かれやすい。半減期の長いものでは数日か一,二週間後に遅延して生じる。程度も軽いため,自覚的な重症度は比較的軽くなる。離脱症状の推移は,出現後約7日でピークとなり,時間の経過とともに軽減する経過をとる。(甲B1・215頁)オ一般に,離脱症状は,服薬中止後,二,三 度も軽いため,自覚的な重症度は比較的軽くなる。離脱症状の推移は,出現後約7日でピークとなり,時間の経過とともに軽減する経過をとる。(甲B1・215頁)オ一般に,離脱症状は,服薬中止後,二,三日で出現し,血中半減期が短いほど,早期に症状が出現する。持続時間は,通常2~4週間であるが,時に筋れん縮によって特徴づけられるような遷延性の離脱症状を長期にわたって呈することもある。(甲B222・67頁)カ長い半減期をもつジアゼパムなどの場合,症状は1週間以上発現せず,その強さは第2週にピークがあり,第3週又は第4週の間に著明に減少することが予測される。(甲B177・179頁)キ離脱症状は,1~6週間続き,その後よい状態が得られる患者と不安定な状況になる患者がある。(甲B50の1・336頁)⑷ 減薬方法等に関する医学文献等の記載ア反跳現象と離脱症状を避けるために,漸減したうえでの中止が原則であ る。元の症状の程度に応じて一,二週間ごとに,1日の4分の1~2分の1ずつを減量し,4~8週以上かけて漸減した後に中止することが推奨される。半減期の短いBZでは中止による症状が早くかつ強く出現しうるので,半減期の長いBZに置き換えた後に漸減することが推奨される。(甲B88・218頁)イ BZ系薬物の急激な中止は,重篤な離脱症状を生じさせる可能性を高めるので,少量ずつ徐々に減量することが望ましい。中止までには最低4週間,できれば16週間が必要であるとして,ジアゼパム当量で0.5~2. 5mgずつ減量することを薦める見解もある。(甲B50の1・338頁)ウ 50%の減量までは離脱症状がほとんど出現しないとされていることから,最初の50%までは2週間程度の比較的早い減量が可能であるが,その後は症状に合わせて4~ 。(甲B50の1・338頁)ウ 50%の減量までは離脱症状がほとんど出現しないとされていることから,最初の50%までは2週間程度の比較的早い減量が可能であるが,その後は症状に合わせて4~7日ごとに10~20%ずつ減量し,4~8週間かけて減量すべきであるとされている。(甲B222・68頁)エ BZ系薬物の中断方法には,漸減法と隔日法の2つがある。超短時間型ないし短時間型は漸減法が推奨されるが,うまくいかない場合には,いったん中間型~長時間型に置換した後,漸減法又は隔日法を用いて減量・中止する。また,非BZ系薬のゾピクロンやゾルピデム,鎮静作用がある抗うつ薬のミアンセリンやトラゾドン等を併用しながら,BZ系薬を減量する方法も行われる。 ⅰ 漸減法2~4週間ごとに経過をみながら,1日量の4分の1ずつ漸減し,4~8週間かけて減量し中止する。 50%の減量までは離脱症状がほとんど発現せず,その後の減量過程で症状が現れるとされているので,最初の50%までは2週間程度の比較的早い減量が可能であるが,その後は症状に合わせて,4~7日ごと に10~20%ずつ減量し,4~8週間かけて減量する。 ⅱ 隔日法血中半減期が長い中間型~長時間型は,急に服用を中止しても血中濃度は穏やかに下降するため,超短時間型~短時間型に比べると中断時症候は起こりにくい。したがって,この場合は服用しない日を設けて,それを1日,2日,3日と1~2か月ずつかけながら徐々に休薬期間を増やして中止する。(乙B26の1)オ抗てんかん薬の減量速度を推奨できる確かなエビデンスはない。薬物減量の手順は漸減中止が原則であり,今まで服用していた抗てんかん薬を急激に中止することは,思わぬ反跳発作やけいれん重積状態を引き起こす危険がある 薬の減量速度を推奨できる確かなエビデンスはない。薬物減量の手順は漸減中止が原則であり,今まで服用していた抗てんかん薬を急激に中止することは,思わぬ反跳発作やけいれん重積状態を引き起こす危険がある。特にフェノバルビタールやクロナゼパムなどは慎重に減量した方がよい。(甲B12・102頁)カ抗てんかん薬漸減のスピードは十分には検討されていないが,参考として,クロナゼパムは4~8週ごとに0.5mgである。(臨床神経学42巻6号「てんかん治療ガイドライン2002」。乙B3・573頁)⑸ ジアゼパムを基準とする等価換算に関する医学文献等の記載(甲B38,39)アジアゼパムを基準薬物として,他の抗不安薬・睡眠薬についてジアゼパム5mgと等価となる用量を示す等価換算の考え方が示されている。 イクロナゼパムに関しては,0.25mg説,0.5mg説,1mg説,2mg説の4通りがあるが,離脱症状に関する等価換算では低力価とみなされる傾向があり,また,全体的にみて年代を経るごとに高力価とされる傾向があるとされる。慶應義塾大学精神神経科臨床精神薬理研究班1999版の等価換算表(クロナゼパムに関しては,従来の等価換算のデータを参考として作成したとされている。)及び稲垣中・稲田俊也「第18回:2006年版向精神薬等価換算」では,0.25mg説が採用されている。 ウまた,アルプラゾラムに関しては,上記2つの等価換算表では0.8mgとされている。 3 争点⑴(G医師はBZ系薬物を適応のない症例に投与しない注意義務に違反したか(平成16年7月14日))について⑴ X研究について証拠(甲B10,112,132,134,232,乙A28,乙B4,8,20の1・2,21,証人G)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が 16年7月14日))について⑴ X研究について証拠(甲B10,112,132,134,232,乙A28,乙B4,8,20の1・2,21,証人G)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 ア平成13年頃,被告病院において,当時の内科脳血管部門部長であったX医師を総括主任研究者とし,当時同部門所属のG医師や日立製作所研究員のRら4名を分担研究者として,慢性ふらつき・めまいの症状に関する研究が行われ,その研究成果が厚生労働科学研究費補助金効果的医療技術の確立推進臨床研究事業として,平成15年3月,「脳磁図を用いた高齢者平衡機能障害の診断と機序解明および転倒防止に関する研究(平成14年度研究報告書)」と題する報告書(甲B10)により発表された。 イ X研究のうち本件に関連する部分の概要は,次のとおりである。 平成13年度の研究により,慢性めまい感を訴える高齢者の約半数に,聴覚刺激誘発脳磁計測において側頭葉電流の回旋性方向異常が認められることが明らかとなった。 これと類似する側頭葉電流の回旋性方向異常が側頭葉てんかん症例でも認められるところ,高齢者の慢性めまい感についても,側頭葉てんかんと類似する機序,すなわち側頭葉の神経異常興奮によって生じる可能性が高いと考えられたことから,慢性めまい感を訴える高齢者に対して抗てんかん薬治療を行い,その効果を検討したところ,側頭葉電流方向異常を有する症例では著明なふらつきの改善が認められた。 ウ上記報告書中のG医師らによる分担研究報告書「慢性めまい感に対する 抗てんかん薬治療の効果に関する検討」においては,要旨次のとおりの報告がされている。 神経学的に異常がなく,耳科的疾患の既往のない慢性めまい症例18例を対象として,抗けいれん薬のバルプロ酸ナト 抗てんかん薬治療の効果に関する検討」においては,要旨次のとおりの報告がされている。 神経学的に異常がなく,耳科的疾患の既往のない慢性めまい症例18例を対象として,抗けいれん薬のバルプロ酸ナトリウムを1か月から3か月の間投与し,投与前と投与後の自覚的ふらつき度の評価(GradeⅠ~Ⅳの4段階で評価するもの)及び聴性刺激誘発脳磁界計測(側頭葉電流の回旋性方向異常の程度がdIrot値という定量値で評価される。)を行ったところ,抗けいれん薬投与前のdIrot値が正常であった7例では,ふらつき度の改善がみられたものはなかったが,異常高値を示した11例(前者に比べてふらつき度は高度であった。)では,全例でふらつき度の改善がみられ,このうち4例でdIrot値の正常化がみられた。 この研究結果から,慢性めまい感症例の約半数では抗けいれん薬が有効であることが示唆され,抗けいれん薬は自覚的なふらつき度が高度のめまい感症例に対して有効性を発揮する可能性が高く,その有効性を証明するためには,プラセボを用いた無作為化二重盲検試験が必要である。 なお,治療薬の選択に関しては,従来,側頭葉てんかんやその他の部分てんかん発作にはクロナゼパム,カルバマゼピン,フェニィトイン等が使用されているが,これらの抗てんかん薬は,眠気,ふらつき,嘔気,骨髄抑制,肝機能障害などの副作用を伴いやすく,保険適応外となる慢性めまい感の治療には適していないことから,本研究では,比較的副作用の少ないバルプロ酸ナトリウムを選択した。 エ G医師がY医師と共同執筆した論文(医学雑誌エントーニ2008年4月・増大号中の「高齢者の慢性ふらつき感について」。乙B4)には,「慢性ふらつき症で側頭頭頂部に観察される回旋性電流成分は,てんかん発作波に類似した電気的異常興奮であると考えた。そ ーニ2008年4月・増大号中の「高齢者の慢性ふらつき感について」。乙B4)には,「慢性ふらつき症で側頭頭頂部に観察される回旋性電流成分は,てんかん発作波に類似した電気的異常興奮であると考えた。そのため興奮性電流を 抑制する目的で,抗痙攣薬(バルプロ酸ナトリウム,カルマゼピン,クロナゼパム)投与にて効果が認められた。」という記載がある。 オ X研究の成果は,X医師やG医師らによって,前記の報告書等以外にも,各種学会のセミナーや医学文献で発表されていた。また,脳波異常の認められるめまいの症状を有する患者に対し,抗てんかん薬を投与する治療方法は,X医師及びG医師だけでなく,複数の医師によって臨床上実施されたことがあった。 カ前プラセボを用いた無作為化二重盲検試験は,現在まで行われていない。 ⑵ 前記⑴のとおり,X研究によって,抗けいれん薬がふらつき度の高いめまい感症例に対して有効性を発揮する可能性が高いという結果が得られ,また,X研究の成果は,X医師やG医師らによって各種学会のセミナーや医学文献で発表され,脳波異常の認められるめまいの症状を有する患者に対し,抗てんかん薬を投与する治療方法は,X医師及びG医師以外の複数の医師によっても実施されていたものである。 他方で,前記⑴のとおり,X研究の対象症例は18件にとどまり,X研究の有効性を証明するためのプラセボを用いた無作為化二重盲試験までは行われていなかったものであり,原告に対しランドセンの投与が行われた当時,X研究で得られた知見によって,抗けいれん薬の投与による慢性めまい症の治療が医療水準として確立していたとまでは認められず,また,前記認定事実⑵のとおり,原告については,脳磁計検査の結果,脳異常が認められなかったのであるから,原告に対する投与は診断的治療として行わ の治療が医療水準として確立していたとまでは認められず,また,前記認定事実⑵のとおり,原告については,脳磁計検査の結果,脳異常が認められなかったのであるから,原告に対する投与は診断的治療として行われたものということができる。 ⑶ ところで,医療水準として確立していない治療法であっても,それが医学的に相応の合理性を有するのであれば,当該治療が違法であるとはいえず,また,診断的治療は,一般的に,医師の合理的な裁量において行うことが許 容されると解されるところ,本件においても異なるところはないというべきである。 この点につき,原告は,抗てんかん薬については診断的治療として処方することが許されない旨主張し,原告が提出する医学文献(甲B187)には,てんかんの診断の基本原則として,治療の開始前に十分な病歴の聴取と検査による診断の確立が必要であること,診断が困難な症例に試験的に抗てんかん薬を投与し,薬物への反応性を診断の参考にすることがある(治療的診断)が,離脱発作の危険性と誤診の可能性が生じるため,このような対処が正当とされることは稀であるとの記載があるが,これ自体は一研究者の見解として記載されているものにとどまり,抗てんかん薬の診断的処方を一切否定するものとは解されず,本件全証拠によっても,抗てんかん薬の処方については診断的治療が許されないとは認められない。 ⑷ そこで,原告に対するランドセンの処方が,医学的に相応の合理性があって,医師の合理的な裁量で行うことが許容されるものであったといえるかについて,更に検討する。 ア X研究で用いられた治療薬はデパケンRであって,ランドセンではない。 しかし,前記⑴のとおり,X研究の基本的な発想は,慢性のめまい症の患者にみられる脳波異常がてんかん患者にみられるそれと類似す ア X研究で用いられた治療薬はデパケンRであって,ランドセンではない。 しかし,前記⑴のとおり,X研究の基本的な発想は,慢性のめまい症の患者にみられる脳波異常がてんかん患者にみられるそれと類似するので,抗てんかん薬が有効であると考えられたことから,そのような抗てんかん薬の作用機序に着目したものであり,また,X研究でデパケンRが用いられたのは,他の抗てんかん薬について有効性が否定されたからではないことからすると,ランドセンを代替薬として考えることにも相応の理由がある。 そして,証拠(乙B4,証人G)によれば,臨床上,原告への投与以外にも,デパケンR以外の抗てんかん薬(カルバマゼピン,クロナゼパム)が使用されて効果が認められていた例があると認められ,このことも併せ考えると,デパケンRに代えてランドセンを処方することには,医学的に相 応の合理性があったということができる。 イ前記2⑴のとおり,ランドセンの添付文書(甲B7)には,重大な副作用として,頻度不明の依存症等の記載があるところ,依存症に関しては,ランドセンの服用が原告の症例に有効であると判断された場合には長期にわたって服用することも考えられたから,これを急激に減薬又は中止した場合に生じる可能性があるとされる臨床用量依存の離脱症状についても考慮するのが相当であるが,前記前提事実のとおり,ランドセン(クロナゼパム)は,長時間作用型のBZ系薬物であり,前記2の医学的知見によれば,長時間作用型はその薬物動態から比較的離脱症状が出にくいとされていること,離脱症状は急激な減薬又は中断によって生じるものであることが認められるから,上記のような副作用の可能性を考慮しても,めまい症にランドセンを投与するという治療法を採用すること自体が,適応のない症例への処方であるということはで 断によって生じるものであることが認められるから,上記のような副作用の可能性を考慮しても,めまい症にランドセンを投与するという治療法を採用すること自体が,適応のない症例への処方であるということはできない。 ウそして,前記1の認定事実に加え,証拠(証人G)によれば,G医師は,原告に対し,初診日である平成16年4月21日,当時服用中であったソラナックスの影響がない状態で脳磁計による脳波検査を実施するため,原告に入院を勧めたが,仕事を理由に原告からの同意が得られなかったこと,G医師は,同年7月2日,原告による投薬の希望を受けて,デパケンRを投与することとしたこと,同日に実施された脳波検査等では異常が認められなかったが,同月14日の受診時には,効果がみられないデパケンRに代わる薬の投薬を原告が希望したことから,G医師は,原告にランドセンを処方し,その次の受診時である同月29日には,原告からランドセンによってめまいの改善がみられた旨の申告を受けたため,それ以降もランドセンの処方を継続したことが認められる。 前記ア及びイに加え,上記の処方経過を総合すれば,診断的治療として投与したことも含めて,G医師が原告に対しランドセンを投与したことは, 医師の合理的な裁量で行うことが許容されるものであったといえるから,適応のない症例に対する処方であって違法であるということはできない。 ⑸ したがって,G医師がBZ系薬物を適応のない症例に投与しない注意義務に違反したとは認められない。 4 争点⑷(G医師はBZ系薬物の性質及び副作用等に関する説明義務に違反したか(平成16年7月14日))について時的経過に従い,争点⑵及び⑶の検討に先立ち,争点⑷について判断する。 ⑴ 証拠(乙A3,28,証人G)及び弁論の全趣旨によ 関する説明義務に違反したか(平成16年7月14日))について時的経過に従い,争点⑵及び⑶の検討に先立ち,争点⑷について判断する。 ⑴ 証拠(乙A3,28,証人G)及び弁論の全趣旨によれば,原告に対しランドセンが処方された平成16年7月14日までにG医師が原告に対して行った説明に関して,以下の事実を認めることができ,この認定を左右するに足りる証拠はない。 ア平成16年4月21日の説明G医師は,同日,原告に対し,大脳皮質の電気活動異常であるてんかんの一種である可能性があること,仮にそうであれば,抗てんかん薬で大脳皮質の電気活動異常を抑制することで症状が改善されると思われること,そのためには脳波検査や脳磁計を用いた検査を行う必要があること,これらの検査で確実な所見を得るためには,1週間程度の入院精査により服用中のソラナックスの薬効を完全に排除する必要があることを説明した。 イ同年7月2日の説明G医師は,同日,原告に対し,抗てんかん薬の中で副作用が少ないデパケンRを服用し効果があるかどうかをみること,デパケンRにも,眠気,ふらつき,白血球減少,肝機能障害等の副作用が生じる場合があること,2週間服用した後,効果を確認するとともに,次回の外来受診時に血液検査を行い,副作用の有無を確認することなどを説明した。 ウ同月14日の説明G医師は,同日,原告に対し,抗てんかん薬であるランドセンを処方し ようと考えていること,眠気,ふらつき,白血球減少,肝機能障害等の副作用を生ずる場合があるので注意して服用するよう説明した上,服用中に身体・精神の不調を感じた場合にはすぐに連絡をするよう伝えた。また,原告は,同日,原告に対し,脳磁計検査で異常が認められなかったことも伝えた。 ⑵ 医師は, 意して服用するよう説明した上,服用中に身体・精神の不調を感じた場合にはすぐに連絡をするよう伝えた。また,原告は,同日,原告に対し,脳磁計検査で異常が認められなかったことも伝えた。 ⑵ 医師は,生命,身体に軽微ではない結果を発生させる可能性のある療法を実施するに当たっては,特別の事情のない限り,患者が自らの意思で当該療法を受けるか否かを決することができるようにするために必要な情報,すなわち,当該疾患の診断,実施予定の療法の内容や危険性などを説明すべき義務を負う。そして,医師が患者に対して行うべき説明の程度は実施される医療行為の内容との関係でみるべきであり,一般に,医療水準として確立していない治療法を行う場合や診断的治療を行う場合には,患者が当該治療を受けるかどうかについての選択の幅は大きいと考えられるから,医学水準として確立した治療法を行う場合と比較して,提供されるべき情報も十分なものでなければならず,その意味において医師には高度の説明義務が課せられていると解するのが相当である。 ⑶ア本件においては,前記3で説示したとおり,原告に対するランドセンの処方は,医学的に相応の合理性がある治療法であったといい得るが,X研究自体が,医療水準として確立した治療法であったというわけではなく,ランドセンを用いて行われた研究でもない上,G医師の証言によれば,原告に対する投与を行うまでにランドセンを投与して有効性を認めた症例があったとはいえ,その件数は10件程度にとどまり,脳波検査上は異常が認められない症例においては,診断的治療として行う面もあったものである。 これらの事情は,患者が当該治療を受けるか否かを選択するに当たって重要な事項であるといえるから,G医師が原告に対するランドセン処方に つき説明義務を果たしたといえるか否かを判 る。 これらの事情は,患者が当該治療を受けるか否かを選択するに当たって重要な事項であるといえるから,G医師が原告に対するランドセン処方に つき説明義務を果たしたといえるか否かを判断するに当たっては,①医療水準として確立したものではないことも含めたX研究の概要,②X研究とランドセン投与との関係,③ランドセンがX研究において使用されたのとは異なる治療薬であること,④原告には脳波異常が認められていないことから診断的治療として投与するものであることが説明されていたかについて検討しなければならず,また,原告に対するランドセンの投与は,有効性が認められた場合には,長期服用となることも想定されていたところ,投与開始後の時期によっては直ちに投与を中止することが難しくなることも考えられるから,⑤ランドセンの副作用として,長期服用によって依存(臨床容量依存)を形成し,急激な減薬・中断を行った場合に離脱症状が生ずる可能性があることの説明がされていたかについても検討しなければならない。 イなお,原告は,一般的な非回転性めまいの治療方法の内容,適応,治療効果・予後等についても,説明義務がある旨主張するが,本件では,非回転性めまいについて医療水準として確立した一般的な治療方法がなかったものであり,かつ,患者である原告は,従前からめまい症等を訴えて複数の医療機関を受診したが治療が奏功しなかったところ,被告病院で行われた共同研究について知って被告病院を受診したものであり,他の治療方法に関心を有しているなどの事情があったわけでもないから,G医師にこの点に関する説明義務があったとは解されない。 また,原告は,脳磁計による適応判断の内容についても説明義務があった旨主張するが,その詳細な説明が,ランドセンの投与を受けるかどうかの選択にあたって 点に関する説明義務があったとは解されない。 また,原告は,脳磁計による適応判断の内容についても説明義務があった旨主張するが,その詳細な説明が,ランドセンの投与を受けるかどうかの選択にあたって重大な影響をもつとは考え難いから,これについて説明義務があると認めることはできない。 ⑷ 以上を前提にG医師に具体的説明義務違反があったか否かを検討すると,前記⑴のとおり,G医師は,X研究で得られた知見については説明したもの の,それが医療水準として確立したものでないこと(前記⑶アの①),原告に処方を試みるランドセンはX研究で使用された抗てんかん薬ではないこと(同③)及びランドセンの有効性はG医師自身が経験した10件程度の症例で確認されたにとどまること(同②)を説明しておらず,また,脳磁計検査で異常が認められなかったことは説明したものの,診断的治療として投与するものであること(同④)については説明してない。さらに,ランドセンの副作用についても,G医師は,眠気,ふらつき,白血球減少,肝機能障害等を説明したものの,長期服用によって依存を形成し,急激な減薬等によって離脱症状が生ずる可能性があること(同⑤)については説明していない。このようなG医師の説明状況によれば,G医師において,患者である原告が非回転性めまいに対するランドセンの処方を受けるかどうかを決するのに十分な情報を提供した,すなわち説明義務を尽くしたということはできないから,G医師には説明義務違反があったと認められる。 5 争点⑵(G医師はBZ系薬物の総投与量を管理すべき注意義務に違反したか(平成16年9月17日))について⑴ 原告は,BZ系薬物を投与する医師には,依存症発症の閾値とされる累積投与量がジアゼパム換算で2700mgに到達する前の時点で,減薬又は休薬 に違反したか(平成16年9月17日))について⑴ 原告は,BZ系薬物を投与する医師には,依存症発症の閾値とされる累積投与量がジアゼパム換算で2700mgに到達する前の時点で,減薬又は休薬すべき注意義務がある旨主張し,前記2⑵イで示した医学文献には,低用量BZ依存を「ジアゼパム30mg以下,あるいはこれと等価量のほかのBZを継続的に使用し,断薬時に明らかな離脱症状がみられること」と,BZ治療的長期使用を「少なくとも3か月間BZを毎日使用し,累積量がジアゼパムに換算して2700mg以上を服薬したケース」と定義した例が紹介されている。 しかしながら,上記医学文献の記載は,常用量依存を呈した患者についてのBZ処方状況から後方視的に臨床用量依存を定義したものにすぎず,累積投与量が2700mgに到達する前に減薬又は休薬することを提唱したもの ではないと解されるから,これをもって原告の主張する注意義務の根拠とすることはできず,他に原告の上記主張を認めるに足りる証拠はない。むしろ,BZ系薬物の添付文書(甲B2,7)には,総投与量を制限する趣旨の記載はなく,用量に関しては,前記第2の3⑵アにとどまることや,I医師作成の意見書(乙B19の2・第4項),U医師作成の回答書(乙B20の2・第5項),V医師作成の意見書(乙B29・第3項)及びW医師作成の意見書(乙B30・第2項)のいずれにおいても,ジアゼパム換算により総投与量を管理することが一般的な医学的知見であることを否定していることからすると,ジアゼパム換算で2700mgの用量を超えるBZ系薬物を投与すべきでないということが,医療水準になっていたとはいえないというべきである。 ⑵ したがって,G医師がBZ系薬物の総投与量を管理すべき注意義務に違反した旨の原告の主張は理由がな Z系薬物を投与すべきでないということが,医療水準になっていたとはいえないというべきである。 ⑵ したがって,G医師がBZ系薬物の総投与量を管理すべき注意義務に違反した旨の原告の主張は理由がない。 6 争点⑶(G医師及びH医師は離脱症状を回避する適切な減・断薬方法を実施すべき注意義務に違反したか(G医師につき平成17年5月9日及び同年8月1日,H医師につき同年12月21日及び同月22日))について⑴ 前記2⑷で示したBZ系薬物の減薬方法等に関する医学文献等の各記載によれば,BZ系薬物を減薬するに当たっては漸減を原則とすることが一般的な医学的知見となっていることが認められるが(そのこと自体は被告も争っていない。),漸減の速度については,様々な速度,方法が提唱されており,一般的に確立した基準といいうるものがあることを認めるに足りる証拠はなく,また,ジアゼパム換算でみる必要があることが確立した知見になっていることを認めるに足りる証拠もない。 したがって,医師がBZ系薬物を減薬するに際しては,漸減すべき注意義務があるものの,その速度については,医師の合理的な裁量に委ねられていると考えるほかない。 ⑵ G医師の注意義務違反についてア平成17年5月9日について原告は,G医師が,平成17年5月9日,原告に対し,前回受診時に処方した1日の服用量が4mgであったのを突如4分の1に当たる1mgにまで急減させたとして,このランドセンの減薬方法は不適切かつ危険であり,注意義務違反は明らかである旨主張する。 しかしながら,G医師が同日に1日の服薬量を1mgと指示したことを認めるに足りる証拠はなく,かえって,前記1の認定事実⑵スのとおり,G医師は,同日,原告から体がだるいので1日2mgまで減量し,それを3週間継続してふ 師が同日に1日の服薬量を1mgと指示したことを認めるに足りる証拠はなく,かえって,前記1の認定事実⑵スのとおり,G医師は,同日,原告から体がだるいので1日2mgまで減量し,それを3週間継続してふらつきがないこと等の報告を受けたことから,1日当たり2mgの服用を指示した上,薬の残量を考慮して1日当たり1mgを42日分処方したことが認められる。この点に関するG医師の証言及び同人作成の陳述書(乙A28)の記載は,同日のカルテ(乙A3)に,上記のような前回受診以降の服用量の減量経過等について原告が申告した内容のほか,「しばらくランドセン1.0 0.5 0. 5mgにて行く」との記載があることと整合しており,原告が申告した服用量の減量経過からすれば,残量を考慮して処方したというのは自然かつ合理的なものであって,信用することができる。 したがって,G医師が同日の診察時に,突如ランドセンの1日当たりの服用量を前回受診時の4分の1である1mgに減量した旨の原告の主張は採用することができず,また,M医師の診断書(甲B188)のうち,G医師による減薬方法が危険である旨の意見については,原告の主張する上記のような事実関係を前提とするものであるから,採用することができない。 そして,BZ系薬物の減薬において漸減が原則とされるのは,急激な減薬によって離脱症状が生じるおそれがあるからであるところ,同日に G医師が原告に対し1日当たり2mgの服薬を指示したことは,原告から1日当たり2mgの服用を3週間継続して問題がないとの申告を受けてなされたものであることからすれば,前記2⑶エの離脱症状の出現時期に関する医学的知見を踏まえても,上記指示が不適切であったとはいえない。 したがって,G医師が同日にBZ系薬物の漸減に係る注意義務に違反したとは ことからすれば,前記2⑶エの離脱症状の出現時期に関する医学的知見を踏まえても,上記指示が不適切であったとはいえない。 したがって,G医師が同日にBZ系薬物の漸減に係る注意義務に違反したとは認められない。 イ同年8月1日の注意義務違反について原告は,G医師が,平成17年8月1日付けの電子メールで,原告の症状を観察することなく,いきなりランドセンの服用を中止するよう指示したとして,このランドセンの断薬方法の指示は不適切かつ危険であり,その注意義務違反は明らかである旨主張するところ,前記1の認定事実⑵チのとおり,G医師は,同日,原告に対し,ふらつきの症状が改善すればランドセンを中止していただければ幸いである旨のメール(乙A4の2)を送っており,同メールの文面上は,直ちにランドセンの服用を中止するよう指示したようにも理解し得るところである。 しかしながら,前記1の認定事実⑵タのとおり,原告は,その3日前の同年7月29日のメール(甲A16)で,G医師に対し,服用を中止するとめまいの症状が出現する旨述べており,同年8月1日のG医師の前記メールは,これを受けてのものであって,被告が主張するように,将来的にふらつきの症状が改善した場合に中止できることを伝える意図であったと考えられること,同⑵チ及びツのとおり,原告は,上記メールを受けて直ちに服用を中止したわけではなく,服用量を減らすよう努めることとしていたところ,G医師は,原告から,1日1錠ずつ減量したことによって睡眠障害,振戦,不安,焦燥感,気分の落ち込み,下痢の症状が出たことなどの報告がされたことを受けて,同年8月12日には,離脱症状が出現す るのであれば,本当に少量ずつ減量していくほかなく,1週間ないし2週間に0.25mgずつの速度であれば減量してもらいたいと の報告がされたことを受けて,同年8月12日には,離脱症状が出現す るのであれば,本当に少量ずつ減量していくほかなく,1週間ないし2週間に0.25mgずつの速度であれば減量してもらいたいとのメール(甲A25)を送信していることからすれば,G医師が原告に対しランドセンを漸減するのではなく直ちに中止することを指示したということはできず,また,G医師が同日に指示した減薬速度も,前記2⑷で示した医学文献等の記載に照らして不合理とはいえない。 したがって,G医師が同日にBZ系薬物の漸減に係る注意義務に違反したとは認められない。 ⑶ H医師の注意義務違反について原告は,H医師が,直近の処方量だけを見て,常用量依存の可能性を否定し,原告の症状を厳重に観察することもなく,平成17年12月21日及び同月22日の電子メールで服薬量の漸減を指示したとして,H医師にも,離脱症状が生じないように適切な減薬・断薬を実施しなかった注意義務違反が認められる旨主張する。 しかしながら,前記1の認定事実⑵ホ及びマのとおり,H医師は,原告から,現状の服用量や減量によって不安感等の症状が出たことなどの報告を受けて,これ以上の減量は不要である旨述べ,それでもなお年末年始に減量を進めたいとして減量方法の指導を依頼した原告の希望を受けて,中止を目指すのであれば,二,三日に1回内服間隔をあけていき,頓服,更には2月末から3月初旬までに中止してはどうかというメールを送ったものであるところ,当時の服用量が1日0.25mgにまで減量されていたことに加え,前記2⑷のとおり長時間作用型のBZ系薬物については隔日法を推奨する文献も存在していたこと,H医師が指示した減薬方法は約2か月間かけて中止するという内容であったことなどからすれば,H医師の上記指示内容が不適切であったと 作用型のBZ系薬物については隔日法を推奨する文献も存在していたこと,H医師が指示した減薬方法は約2か月間かけて中止するという内容であったことなどからすれば,H医師の上記指示内容が不適切であったということはできない。 したがって,H医師にも,BZ系薬物の漸減に係る注意義務違反があった とは認められない。 7 争点⑸(各注意義務違反と原告に平成18年1月以降に生じた症状ないし障害との因果関係の有無)について説明義務違反とランドセン投与との相当因果関係の有無ア前記2⑶イで示した医学的知見によれば,BZ長期服用患者の離脱症状は,心理,身体,知覚の3領域に現れるとされ,心理的症状としては,不安や焦燥,不眠,イライラ,抑うつ気分,記憶障害,集中力障害などが,身体症状としては,発汗や心悸亢進,悪心,嘔吐,食欲低下,体重減少,筋肉痛,振戦,けいれんなどが,知覚障害としては,知覚過敏や味覚異常,身体動揺感などが挙げられ,また,出現頻度は高いが非特異的なもの(不眠,不安,気分不快,筋肉痛,振戦,頭痛等)と,比較的頻度は低いが特異性が高いもの(知覚障害(知覚過敏,知覚変容),離人感)があり,その他,稀にけいれんや精神病症状が現れることがあるとされている。 イ証拠(甲A85,甲C5)によれば,原告は,O株式会社に勤務する会社員であるところ,被告病院を受診した当時,ガス事業法で精神疾患が欠格事由とされるガス主任技術者の資格を有しており,平成17年6月には,名古屋市内の事業所長に昇進していたところ,前記1の認定事実⑵アのとおり,原告は,被告病院の初診時,G医師から入院を勧められても,仕事を休むことによる勤務先での不利益を怖れて,外来治療を希望していたものである。そのような原告であれば,ふらつきやめまいを訴えて被告病院受診前に多数の医 院の初診時,G医師から入院を勧められても,仕事を休むことによる勤務先での不利益を怖れて,外来治療を希望していたものである。そのような原告であれば,ふらつきやめまいを訴えて被告病院受診前に多数の医療機関を受診していたことや被告病院でもBZ系薬物の投与を受けることに積極的であったことを考慮しても,G医師が前記4⑶アの①ないし⑤の事項について適切な説明を行っていれば,前記アのような離脱症状の危険性を有するランドセンの投与を受けることを選択しなかった高度の蓋然性があると認めることができるから,前記4⑷で認定したG医師の説明義務違反と原告がランドセンの投与を受けたこととの間には 相当因果関係が認められるというべきである。 ランドセン投与と原告に平成18年1月以降に生じた症状ないし障害との因果関係の有無ア平成18年1月以降の診療経過に関する医師の診断書又は意見書の要旨 M医師の診断書(甲B188)原告は,離脱症状の経過中にうつ病を発症しており,時間的経過から,うつ病の発症には離脱症状が影響していると考えられる。 うつ病と離脱症状の治療も兼ねて入院治療を行い,BZの減薬期間を短くできたので,4年間でうつ病も改善した。併発したうつ病が回復して就労まで4年かかったのは離脱症状の影響が主な理由である。 V医師の意見書(乙B29)原告がこころの医療センターで受けた治療は,抗うつ薬を中心とした薬物療法であり,うつ病に対する一般的な治療そのものと感じられる。 うつ病の症状は,BZの退薬症状という考え方もあり得るが,BZの退薬でうつ状態を呈するのは通常一過性である。自身の臨床経験では,ほとんどが2~4週間程度で自然軽快し,抗うつ薬を投与するほど重篤な状態にならない。 原告の場合,うつ状態がかなり長 が,BZの退薬でうつ状態を呈するのは通常一過性である。自身の臨床経験では,ほとんどが2~4週間程度で自然軽快し,抗うつ薬を投与するほど重篤な状態にならない。 原告の場合,うつ状態がかなり長期にわたって持続し,抗うつ薬に反応している,このことは,原告のうつ状態がBZ離脱によるものではなく,もともと潜在していたうつ病がBZ離脱によって顕在化したと捉えるべきであることを示す。 なお,こころの医療センターでの治療において,原告に対して抗うつ薬とともにコンスタンが処方されているが,一般にコンスタンのように比較的力価が高く,作用時間の短いBZ系薬物は依存性が極めて強く,その危険性はランドセンの比ではなく,薬物依存治療の専門家の立場から疑問がある。 イ前記1の認定事実⑵及び⑶のとおり,原告は,被告病院において継続的にランドセンを処方され,これを服用していたが,平成17年12月頃に,ランドセン1日0.25mgまで減量し,その頃から,不安感,焦燥感,不眠等の症状が出てくるなどし,平成18年1月頃にも,めまいのほか,不安感等が生じていたことが認められる。 前記2⑶イで示した医学的知見によれば,このような不安感,焦燥感,不眠等の症状は,BZ系薬物の離脱症状としてもみられるものであり,ランドセンの減量と時期を同じくして出現しているものであることからすると,減薬に伴う離脱症状であると考えて矛盾しない。 被告は,これらの症状が,ランドセンを止めることに対する不安をきっかけとして,原告が被告病院受診前から有していた精神症状が発現したものにすぎない旨主張し,前記1の認定事実⑴によれば,原告は,被告病院を受診する以前からめまい等の症状を訴えて複数の医療機関を受診し,それらの医療機関において,過換気症候群,自律神経失調症,心身 たものにすぎない旨主張し,前記1の認定事実⑴によれば,原告は,被告病院を受診する以前からめまい等の症状を訴えて複数の医療機関を受診し,それらの医療機関において,過換気症候群,自律神経失調症,心身症,身体表現性障害などと診断され,コンスタン,デパス,ワイパックス等の抗不安薬を処方されてきたことが認められる。しかし,この頃の原告の主訴はめまい症状であり,また,上記のような処方薬を服用しながらではあるものの継続的に勤務していたことからすると,前記1の⑶ア,イ及び⑷アで認定した平成18年1月頃の原告の症状は,その就業状況等に鑑みても,相当悪化していることが認められる。そうすると,被告の上記主張は採用することができず,平成18年1月以降に生じた原告の不安感,焦燥感,不眠等の症状は,ランドセンの離脱症状であると認めるのが相当である。 ウ原告は,平成18年1月以降に原告に生じた症状は全てランドセンの離脱症状によるものである旨主張する。 しかしながら,前記2⑶で示した医学的知見によれば,一般的に離脱症状の持続期間は1か月程度とするものが多いところ,前記1の認定事実⑶ のとおり,原告は,同月6日からこころの医療センターでの通院治療を開始した後,同年3月頃にかけては徐々に回復し,遅くとも同月末頃にはフルタイムで仕事を再開したことが認められ,この事実は原告が離脱症状から回復したことを示すものといえる。 一方で,前記1の認定事実⑶によれば,原告は,同年3月頃に妻から離婚の話が出たことなどを契機として,その後,妻子との関係の悪化や自宅のローンの返済や不動産の投資による多額の負債に対する不安等が増大していたことが認められ,これらの事柄が原告の精神状態に深刻な影響を及ぼし,原告の不安等の症状を増悪させたと推認することができる。 のローンの返済や不動産の投資による多額の負債に対する不安等が増大していたことが認められ,これらの事柄が原告の精神状態に深刻な影響を及ぼし,原告の不安等の症状を増悪させたと推認することができる。 以上のような経過にV医師の意見書の記載を併せ考慮すると,原告は,遅くとも同年3月末までにはランドセンの離脱症状から脱したものと認めるのが相当である。これに対し,前記のM医師の診断書では,4年に及ぶ治療の主たる要因が離脱症状によるものであるという趣旨の意見が述べられているが,上記のように原告の症状が一度は回復傾向に見られたこと及び離婚や借金の問題など原告の不安等を増悪させる身辺事情の変化等に対して適切な評価がされているか疑問があり,これを採用することはできない。 エしたがって,ランドセン投与との間で相当因果関係があると認められる原告の症状は,平成18年3月末までに生じたものに限られ,同年4月以降に生じた症状との間に相当因果関係があると認めることはできない。 8 争点⑹(原告の損害の有無及びその額)について⑴ 前記4で説示したとおり,被告の被用者であるG医師には,争点⑷に係る説明義務違反(過失)が認められるから,被告は,使用者責任に基づき,原告に対し,上記説明義務違反と相当因果関係が認められる損害を賠償すべき責任を負う。 ⑵ 当裁判所は,被告が原告に対し賠償すべき損害の範囲及び額について,以 下のとおりであると認定,判断する。 ア治療費 1万4170円前記7⑵で説示したところによれば,被告が原告に対し損害賠償すべき治療費は,原告が平成18年1月から同年3月までに受けた治療に係るものに限られるところ,証拠(甲C28)によれば,原告は,上記期間に,こころの医療センターで受けた治療について1万 対し損害賠償すべき治療費は,原告が平成18年1月から同年3月までに受けた治療に係るものに限られるところ,証拠(甲C28)によれば,原告は,上記期間に,こころの医療センターで受けた治療について1万4170円(文書料を含む。)を負担したことが認められるから,上記金額の限度で,相当因果関係のある損害と認める。 イ入院雑費 0円原告は,平成18年6月12日から同年9月17日までの間,こころの医療センターに入院した際の入院雑費を請求するところ,前記7のとおり,G医師の説明義務違反と平成18年4月以降の原告の症状との間には相当因果関係が認められないから,入院雑費に係る損害は認められない。 ウ介護費用 0円原告は,平成19年ないし平成24年までの間に支払った介護費用を請求するところ,上記イと同様の理由により,相当因果関係のある損害とは認められない。 エ通院交通費 7680円証拠(甲C28)によれば,原告は,平成18年1月に5回,同年2月に2回,同年3月に1回,こころの医療センターを受診したことが認められるところ,弁論の全趣旨によれば,その通院に必要な交通費(往復)は,960円であると認められるから,合計7680円をもって損害と認める。 オ診療記録開示費用 4万8450円弁論の全趣旨によれば,原告は,診療記録開示費用として4万8450円を負担したことが認められるところ,本件事案の性質及び本件訴訟の経過に照らし,上記金額を相当因果関係のある損害として認める。 カ文書謄写費用 0円本件事案の性質等を考慮しても,必要かつ相当な費用であるとはいい難いから,相当因果関係のある損害とは認められない。 キ文書購入費用 0円上記カと同様の理由により,相 円本件事案の性質等を考慮しても,必要かつ相当な費用であるとはいい難いから,相当因果関係のある損害とは認められない。 キ文書購入費用 0円上記カと同様の理由により,相当因果関係のある損害とは認められない。 ク休業損害 0円前記1の認定事実⑷に加え,弁論の全趣旨によれば,原告は,平成18年1月から3月までの間に,原告が勤務先を相当日数休んだこと,上記期間においては有給休暇が充てられたことが認められるものの,具体的欠勤日数は証拠上明らかでなく,また,前記エで認定したこころの医療センターへの通院頻度に照らしても,欠勤日数全てがやむを得ないものであったかどうか定かでないから,休業損害については,これを認めることができない。ただし,原告が実際に欠勤し相当日数の有給休暇を消費したことは,下記コの慰謝料の額を認定する際に考慮することとする。 なお,前記7⑵で説示したところによれば,G医師の説明義務違反と平成18年4月以降の原告の欠勤及び休職との間には,相当因果関係が認められず,また同年1月から3月までの間の欠勤により退職金が減額されるとも認められない。 ケ逸失利益 0円前記7⑵で説示したところによれば,G医師の説明義務違反と平成18年4月以降に原告に生じた症状及び障害との間に相当因果関係を認めることができないから,後遺障害による逸失利益は認められない。 コ傷害慰謝料 100万円原告は,G医師の説明義務違反に起因してランドセンの離脱症状を呈し,平成18年1月から同年3月までの3か月間にわたり,不安感,焦燥感,不眠等の離脱症状,その治療のための通院を余儀なくされ,精神的苦痛を 被ったものと認められるところ,前記クで説示した有給休暇の費消を含め から同年3月までの3か月間にわたり,不安感,焦燥感,不眠等の離脱症状,その治療のための通院を余儀なくされ,精神的苦痛を 被ったものと認められるところ,前記クで説示した有給休暇の費消を含めた本件に現れた一切の事情を考慮すると,その精神的苦痛を慰謝するための金額は,100万円をもって相当と認める。 サ後遺障害慰謝料 0円前記ケで説示したのと同様の理由により,後遺障害による慰謝料は認められない。 シ本件固有の慰謝料 0円原告の主張する本件固有の慰謝料が法的にいかなるものなのかは必ずしも明らかでないが,本件全証拠によっても,G医師の説明義務違反と,原告と家族との関係の悪化や原告の不動産投資による借金との間に相当因果関係があると認めることはできず,また,被告の訴訟活動が別途原告に対する不法行為を構成する,あるいは,慰謝料の増額事由になるとは認められない。 ス弁護士費用 10万7030円上記アないしシの認容額107万0300円の1割をもって相当因果関係のある損害と認める。 セ合計 117万7330円 9 結論以上の次第で,原告の不法行為(使用者責任)に基づく請求は,主文第1項記載の限度で理由があるが,その余は理由がない。なお,選択請求である債務不履行に基づく請求については,不法行為に基づく請求の認容額を超えて認容されるものでないことが明らかであるから,判断を要しない。また,仮執行免脱宣言については,これを付することは相当でない。 よって,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第4部 裁判長裁判官 朝日貴浩 裁判官 横山真通 名古屋地方裁判所民事第4部 裁判長裁判官 朝日貴浩 裁判官 横山真通 裁判官 黒木美帆 別紙 担当医師処方年月日ランドセン処方量原告の主張ジアゼパム換算量ジアゼパム換算での累積投与量mg/日日分mg/日mg G医師平成16年7月14日0.5 7月29日1.0 8月19日1.5 16509月17日2.0 325010月21日2.5 550011月26日3.0 730012月9日3.0 10000平成17年1月21日3.5 124502月25日3.5 145503月25日4.0 177505月9日1.0 185906月20日1.5 203908月22日0.5 206909月28日1.0 2129010月27日1.5 22190H医師12月5日2.1 23450
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