- 1 - 主文 本件各控訴をいずれも棄却する。 理由 検察官の控訴の趣意は,検察官矢野敬一提出にかかる広島地方検察庁検察官松田成作成の控訴趣意書及び検察官矢野敬一作成の「控訴趣意書(補充)」と題する書面(なお,検察官は,訴訟手続の法令違反の主張は,裁判所に対し職権調査を求める趣旨であると釈明した。)に,これに対する答弁は差戻前控訴審主任弁護人井上明彦及び同弁護人神原多恵連名作成の答弁書に,被告人の控訴の趣意は差戻前控訴審主任弁護人井上明彦及び同弁護人神原多恵連名作成の控訴趣意書及び「控訴趣意補充書1」と題する書面に,これに対する答弁は検察官矢野敬一作成の答弁書にそれぞれ記載されているとおりであるから,これらを引用する。 なお,以下,人名の表記については,二度目以降姓のみで行う。かっこ内の「検甲」又は「検乙」を付した数字は,第一審における検察官請求に係る証拠の請求番号であり,「差戻前検」を付した数字は,差戻前控訴審における検察官請求に係る証拠の請求番号であり,「弁」を付した数字は,第一審における弁護人請求に係る証拠の請求番号であり,「差戻前弁」を付した数字は,差戻前控訴審における弁護人請求に係る証拠の請求番号である。第一審ないし差戻前控訴審と一体となる証人尋問調書等の供述部分を引用するときは,その公判期日,供述者,該当箇所の順に表記している。 第1当裁判所において,差戻後の審理をするに至った経緯について控訴審である当裁判所において,被告人に対する強制わいせつ致死,殺人,死体遺棄,出入国管理及び難民認定法違反被告事件についての審理を再び行う- 2 -こととなった経緯は,以下のとおりである。 本件について,平成2 判所において,被告人に対する強制わいせつ致死,殺人,死体遺棄,出入国管理及び難民認定法違反被告事件についての審理を再び行う- 2 -こととなった経緯は,以下のとおりである。 本件について,平成20年12月9日,差戻前控訴審である広島高等裁判所において,原判決(第一審判決)を破棄し,本件を広島地方裁判所に差し戻すとの判決がされた。この差戻前控訴審判決に対し,差戻前控訴審弁護人から,上告申立てがされるとともに,上告受理申立てがあり,その上告受理申立てが受理され(ただし,申立ての理由中,第4を除く部分は排除された。),平成21年10月16日,最高裁判所において,原判決を破棄し,本件を広島高等裁判所に差し戻すとの判決がされた。すなわち,差戻前控訴審判決においては,第一審判示第2の強制わいせつ致死,殺人の犯行(以下「本件犯行」ともいう。)が行われた場所を確定するために,平成17年12月18日付け検察官調書2通(検乙8,11,以下「本件検察官調書」という。)を取り調べる必要性が高かったにもかかわらず,本件検察官調書を却下した第一審裁判所は審理を尽くしておらず,その訴訟手続には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反があり,第一審において,本件検察官調書が証拠能力を有するか否か,その証拠調べ請求を却下すべき否かについての審理を遂げるとともに,その結果に基づいて更に審理を尽くす必要があるとしたが,最高裁判所の判決においては,第一次的に第一審裁判所の合理的裁量にゆだねられた証拠の採否について,当事者からの主張もないのに,上記審理不尽の違法を認めた点において,差戻前控訴審判決は,刑訴法294条,379条,刑訴規則208条の解釈適用を誤った違法があり,これが判決に影響を及ぼすことが明らかであり,刑訴法411条1号により破棄を免れないとされ,本件が広島 ,差戻前控訴審判決は,刑訴法294条,379条,刑訴規則208条の解釈適用を誤った違法があり,これが判決に影響を及ぼすことが明らかであり,刑訴法411条1号により破棄を免れないとされ,本件が広島高等裁判所に差し戻された。 - 3 -したがって,当裁判所においては,差戻前控訴審の弁論終結時点までの審理を前提にして,審理を行った。 第2弁護人及び検察官の訴訟手続の法令違反の各主張について弁護人の論旨は,本件犯行について,(1)第一審弁護人が,被害児童の死因の鑑定を行った医師Aの第一審公判供述の信用性を判定する上で不可欠な証拠である死体解剖状況報告書(弁19)及び捜査報告書(弁20)を,刑訴法328条の証拠として証拠調べ請求したにもかかわらず,これらの証拠調べ請求について,第一審裁判所が,同法316条の32第1項のやむを得ない事由によって公判前整理手続において請求することができなかったものではないとして,その証拠調べ請求を却下したことには,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反があり,(2)第一審第5回公判期日において,検察官が訴因変更を請求したのは,刑訴規則1条に違反しており,権利の濫用であるにもかかわらず,第一審裁判所が,その訴因変更を許可したことには,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある,というのである。なお,弁護人は,(1)と同様の証拠として証拠調べ請求したA作成の死体検案書(弁18)について,第一審裁判所が,その証拠調べ請求を却下したことは,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反があると主張している。 他方,検察官は,ペルー共和国に対する捜査共助要請に基づき入手した資料(検乙15ないし24以下「前歴関係証拠」という。)を検察官が第一審公判で証拠調べ請求し,この証拠調べ請求について 張している。 他方,検察官は,ペルー共和国に対する捜査共助要請に基づき入手した資料(検乙15ないし24以下「前歴関係証拠」という。)を検察官が第一審公判で証拠調べ請求し,この証拠調べ請求について,刑訴法316条の32の「やむを得ない事由」があったことは明らかであるにもかかわらず,第一審裁判所が,同条の「やむを得ない事由」がないとして,その請求を却下したこと- 4 -は,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反があると主張し,職権調査を求めている。 そこで,検討する。 刑訴法328条による証拠調べ請求の却下について(弁護人の論旨(1)及び弁護人の主張)(1)刑訴法328条にいう弾劾証拠は,信用性を争う供述をした者のそれと矛盾する内容の供述が,その者の供述書,供述を録取した書面(刑訴法が定める要件を満たすものに限る。),その者の供述を聞いたとする者の公判期日の供述又はこれらと同視し得る証拠の中に現れている部分,すなわち,自己矛盾供述に限られるというべきであり(最高裁平成17年(あ)第378号平成18年11月7日第三小法廷判決・刑集60巻9号561頁),死体解剖状況報告書(弁19)及び捜査報告書(弁20)は,いずれも,その作成者がAではなく,Aの供述を聞いたとする者の公判期日の供述又はこれと同視し得る証拠でもないから,Aの第一審公判供述に対する同条による弾劾証拠に当たらないことは明らかであり,第一審裁判所がこれらの証拠調べ請求を却下したことについて違法を論じる余地はない。 (2)一方,Aが作成した死体検案書(弁18〔差戻前控訴審で差戻前弁7として取り調べられたもの〕)については,その「死亡の原因」の「(ア)直接死因」欄に「窒息死」,「(イ)(ア)の原因」欄に「頚部圧迫」,「解剖」欄に,主要所見として「顔面 〔差戻前控訴審で差戻前弁7として取り調べられたもの〕)については,その「死亡の原因」の「(ア)直接死因」欄に「窒息死」,「(イ)(ア)の原因」欄に「頚部圧迫」,「解剖」欄に,主要所見として「顔面はうっ血し,頚部に少なくとも一周する圧迫痕あり。いわゆる急死の所見を呈する」とそれぞれ記載されており,これらの記載によると,被害児童は,その頚部の周囲に索条物を巻かれて絞められたこ- 5 -とにより窒息死したものと解されるところ,Aは,第一審公判廷において,被害児童の死因は,被害児童の頚部が手指により圧迫されたと考えるのが一番自然である旨供述しており,この供述は,死体検案書(弁18)の上記記載と実質的に相反しているというほかなく(なお,差戻前控訴審において,弁護人が証拠調べ請求し,取り調べられた検察官澤田康広ら3名連名作成の死体解剖状況報告書〔差戻前弁8,弁19と同じもの〕には,澤田らが,平成17年11月23日,被害児童の死体解剖に当たったAから「頸部圧迫痕は,その形状から幅の広い柔らかい索条物によって成傷されたものと推測される。たとえば,着衣を挟んで布様索条物によって絞められたり,あるいは,着衣そのものによって絞められたとも考えられる。また,腕を頸部に巻き付ける方法で絞められたとも考えられる。」との所見を聞いた旨記載されている。),上記の内容を含むAの第一審公判廷における供述が終了するまでは,弁護人において,刑訴法328条により死体検案書(弁18)の証拠調べ請求をすることはできなかったというべきであり,公判前整理手続が終わるまでの間,弁護人がその証拠調べ請求をしなかったことには,同法316条の32第1項の「やむを得ない事由」があり,第一審裁判所が,死体検案書(弁18)の証拠調べ請求を却下したことには,同法328条,316条の32の解釈 の証拠調べ請求をしなかったことには,同法316条の32第1項の「やむを得ない事由」があり,第一審裁判所が,死体検案書(弁18)の証拠調べ請求を却下したことには,同法328条,316条の32の解釈適用を誤っている違法があるといわざるを得ず,このことは,差戻前控訴審判決が理由中の2(3)ないし(5)に適切にその認定,判断を説示しているとおりである。 もっとも,差戻前控訴審判決が理由中の2(6)に説示しているとおり,差戻前控訴審で取り調べられた死体検案書(差戻前弁7,弁18と同じもの),- 6 -Aが作成した被害児童の死因に関する鑑定書(検甲51)における疑問点を鑑定したBの差戻前控訴審公判供述及び同人作成の鑑定書(差戻前弁10)を検討しても,被害児童の死因は,索条物による頚部圧迫による絞死の可能性が高い(差戻前控訴審第2回B114,117,141項)ものの,頚部圧迫による窒息死の場合,手指によるものか,ひも状のものによるものかの区別は非常に難しい場合もあること(同B23項),被害児童についても,手指により絞められた可能性を完全には否定できないこと(同B142項)が認められ,後記第3の3のとおり,被害児童の窒息死の機序について,被告人が被害児童の口鼻や頚部に手を置いたことにより,被害児童が頚動脈洞反射を起こしてショック死した可能性,あるいは,ギャグリフレックスにより窒息死した可能性があるとの弁護人の主張を採用する余地はなく,被害児童の頚部圧迫の方法に関する第一審判決の誤認が,判決に影響を及ぼすものではないことにも照らせば,上記の訴訟手続の法令違反は,判決に影響を及ぼすことが明らかとはいえない。 弁護人の論旨(1)は理由がなく,その主張も採用できない。 2 訴因変更許可について(弁護人の論旨(2))本件犯行に係る起訴状記載の公訴事実 反は,判決に影響を及ぼすことが明らかとはいえない。 弁護人の論旨(1)は理由がなく,その主張も採用できない。 2 訴因変更許可について(弁護人の論旨(2))本件犯行に係る起訴状記載の公訴事実では,犯行場所について,「C荘D号室の被告人方において」とされていたが,検察官は,第一審第5回公判期日において,これを「C荘及びその付近において」に改める旨の訴因変更(以下「本件訴因変更」という。)を請求し,弁護人は,本件訴因変更請求が権利の濫用であり,違法である旨の意見を述べたものの,第一審裁判所は,同公判期日において,本件訴因変更を許可し,それに対する弁護人の異議を棄却したも- 7 -のであるところ,その訴因変更が,公訴事実の同一性を害しないことは明らかであり,また,被告人及び弁護人は,わいせつ目的や殺意を争っていたものの,被告人が,被害児童の口鼻付近に手を置くなどしたり,被害児童の死亡後にその陰部や肛門付近に触るなどした場所は,公訴事実に掲げられた被告人方ではなく,すべてC荘の1階階段付近である旨主張していたのであり,本件訴因変更の請求は,被告人及び弁護人の主張に一部沿うものといえるのであり,本件訴因変更が許可されることにより,被告人及び弁護人が立証活動を立て直すことを余儀なくされるなど,被告人の防御に実質的な不利益を及ぼし,審理が遅延することによって迅速な裁判の要請が害されることがないことも明らかであって,本件が公判前整理手続を経て集中審理が行われていることなどの事情を考慮しても,検察官の本件訴因変更請求が権利の濫用に当たるとはいえず,また,本件訴因変更の許可が,刑訴規則1条に反するともいえず,本件訴因変更を許可した第一審裁判所の訴訟手続に法令違反はなく,このことは,差戻前控訴審判決が理由中の4(1)及び(2)に適切にその認定,判 た,本件訴因変更の許可が,刑訴規則1条に反するともいえず,本件訴因変更を許可した第一審裁判所の訴訟手続に法令違反はなく,このことは,差戻前控訴審判決が理由中の4(1)及び(2)に適切にその認定,判断を説示しているとおりである。 弁護人の論旨(2)は理由がない。 3 前歴関係の証拠調べ請求却下について(検察官の主張)(1) 前歴関係証拠は,平成18年4月3日,広島県警察本部がペルー共和国からの回答書(以下「本件回答書」という。)を正式に受理したものの一部であり,その翻訳文は,同月19日に広島県E警察署が入手し,それを同月21日に広島地方検察庁が入手しており,この翻訳文が不完全なものであったにせよ,検察官は,少なくとも,前歴関係証拠の取調べを請求する必要性- 8 -について検討すべきか否かに関しては判断できたはずであり,その検討をする必要があると判断したのであれば,以後に開かれた第一審における公判前整理手続期日において,弁護人及び第一審裁判所に対し,その検討に必要な翻訳のやり直しを行う間,公判前整理手続を終結しないよう求めるべきであり,そのように求めることについて,法的に問題はなかったはずであるところ,そのような求めは行っていないこと,しかも,検察官は,第2回公判前整理手続期日において,ペルー大使館に被告人の人定関係及びペルー共和国における前科関係を照会中であり,回答を得られ次第,証明予定事実の補充及び追加証拠の請求をしたいと述べていたところ,第3回公判前整理手続期日には,ペルー大使館からの被告人の人定関係の照会回答についての立証趣旨は,被告人の人定に限る予定であるという意見を述べており,そこにいう照会回答とは,本件回答書のことであったと推認されることにもかんがみれば,その当時,検察官は,「ICPOリマ(ペ についての立証趣旨は,被告人の人定に限る予定であるという意見を述べており,そこにいう照会回答とは,本件回答書のことであったと推認されることにもかんがみれば,その当時,検察官は,「ICPOリマ(ペルー共和国)に対する捜査協力要請について(追加回答)」と題する書面(検乙12)のほかには,被告人の前歴関係についての立証をしない意思であったと考えざるを得ないことからすると,公判前整理手続において請求されなかった前歴関係証拠は,刑訴法316条の32第1項にいう「やむを得ない事由によって公判前整理手続において請求することができなかったもの」には当たらないというべきであり,これについて,第一審裁判所が,同条第2項により職権で取り調べることなく,取調請求を却下したことに,その裁量の範囲を逸脱した違法があるともいえず,このことは,差戻前控訴審判決が理由中の3(1)ないし(3)に適切にその認定,判断を説示するとおりである。 - 9 -検察官の主張は採用できない。 (2)ところで,差戻前控訴審において,検察官は,前歴関係証拠を改めて証拠調べ請求するとともに(差戻前検21ないし24,30,32,36,38,43,50),第一審判決後にペルー共和国から受理した被告人の前歴に関する証拠(同検26ないし29,31,33ないし35,37,39ないし42,44ないし49,51)も証拠調べ請求し,これらについて,弁護人はいずれも不同意,必要性なし,証拠能力なしの意見を述べたが,差戻前控訴審裁判所は,その一部(同検22,29,30,32,38,39)を,刑訴法323条,393条1項本文により採用し,この採用決定に対する弁護人の異議も棄却し,取り調べている。これに対し,弁護人は,当審における公判手続の更新に当たっての意見及び事実取調べの結果に基づく弁論 法323条,393条1項本文により採用し,この採用決定に対する弁護人の異議も棄却し,取り調べている。これに対し,弁護人は,当審における公判手続の更新に当たっての意見及び事実取調べの結果に基づく弁論において,差戻前控訴審が採用した被告人の前歴に関する上記各証拠について,職権による排除決定(刑訴規則207条)をすべきであると主張している。 ア差戻前控訴審判決が理由中の3(4)に説示するところによれば,被告人の前歴に関する上記各証拠を採用した理由は,以下のとおりである。 検察官の量刑不当の主張の中には,被告人が,ペルー共和国においても,幼い女児に対する性犯罪で2回刑事訴追され,裁判所で審理が開始されたものの,被告人が逃亡したため実質的な審理が行えない状態になった,という主張がある。しかし,被告人は,ペルー共和国の裁判所には行ったことがなく,同国の検察庁の検事から,自分は無罪であると言われたなどと供述し,検察官の上記主張を否定している。そして,第一審で取り調べら- 10 -れた「ICPOリマ(ペルー共和国)に対する捜査協力要請について(追加回答)」と題する書面(検乙12)には,同国の裁判所から,被告人について,性的犯罪を根拠とする逮捕状が発付されているということが記載されているところ,第一審判決は,有罪の判決を受けたという立証がなされていないのに,嫌疑を受けたことだけをもって,量刑上,前科があるのと同様の不利な取扱いをすることは許されず,本件は,被告人の前科の点においては,特に悪質性が高く,非難の程度が高い事案であるというには足りない旨説示している。確かに,検察官の主張によっても,被告人に前科はない。しかし,検察官の主張に差戻前控訴審で検察官から提出された意見書等をも併せて検討すると,被告人について,ペルー共和国の裁判所で い旨説示している。確かに,検察官の主張によっても,被告人に前科はない。しかし,検察官の主張に差戻前控訴審で検察官から提出された意見書等をも併せて検討すると,被告人について,ペルー共和国の裁判所で審理が開始されたという2件の犯罪は,いずれも被害児童と年齢が似通った少女に対する性犯罪であって,被告人について予審が請求され,うち1件については,予審裁判所の最終報告書及び高等検察庁検察官の求刑意見書が提出されて,未だその事件がペルー共和国の裁判所に係属中であり,もう1件についても,求刑意見書が作成され,郡検察庁検察官が裁判所に略式の裁判手続による公訴を提起したものの,被告人が裁判所に出頭しないまま,時効により刑事裁判が終了した,というのである。そして,同国における検察官の意見書は,当該事案における犯罪事実及び犯罪について被疑者が有罪か無罪かという点にまで及ぶ内容のものとなる,というのである。ところで,被告人が,前に罪を犯して検挙されるなどしたものの,公訴を提起されなかったために,刑罰を受けるには至らなかった,いわゆる前歴についても,被告人が罪を犯したことが確実である場合においては,- 11 -その内容に応じて,被告人に対する刑を量定するに当たり適切に考慮すべき場合があることは明らかである。第一審判決は,嫌疑を受けたことだけをもって,量刑上,前科があるのと同様の不利な取扱いをすることは許されない旨説示しており,その説示する限りにおいては正当であるものの,被告人のペルー共和国における前歴について,およそ考慮する必要がないかのようにも受け取れる点は,賛同することができない。そこで,被告人が,第一審公判において,ペルー共和国における前歴につき,その嫌疑自体を否認し,差戻前控訴審公判においては,検察官からの質問に対して黙秘したこと,被告人自身が 賛同することができない。そこで,被告人が,第一審公判において,ペルー共和国における前歴につき,その嫌疑自体を否認し,差戻前控訴審公判においては,検察官からの質問に対して黙秘したこと,被告人自身が,第一審公判において,裁判長からの質問に対し,同国の方から被告人の前歴について既に確認しているはずであり,裁判所や訴訟関係者は,被告人の同国での前歴について知っているはずである,自分は一切罪を犯していないという趣旨の供述をしており,これは,同国での前歴関係の書類が,裁判官や検察官に読まれることを前提とした供述であることなどを踏まえ,かつ,被告人の前歴に関する証拠を取り調べることは,量刑判断に資するだけでなく,被告人の第一審及び差戻前控訴審における各公判供述の信用性を判断する上でも有用であることも考慮して,検察官の量刑不当の主張を調査するについて必要があると認められる限度において,刑訴法393条1項本文により,採用し取り調べたものである。 イしかし,当事者主義を前提とし,合理的期間内に充実した審理を行って事案の真相を解明するとの要請を実現するべく,公判前整理手続における証拠の整理を実効あらしめるために定められた刑訴法316条の32第1- 12 -項による証拠調べ請求の制限が及ぶとされる証拠について,控訴審でその制限に配慮することなく取り調べることになれば,同条項の意義を損ない,ひいては,上記の要請にも反することになり,そのような証拠については,基本的に刑訴法382条の2第1項にいう「やむを得ない事由によって第一審の弁論終結前に取調を請求することができなかった証拠」には当たらないというべきであり,さらに,同法393条1項本文により取り調べるか否かを判断する場合にも,同法316条の32第1項による証拠調べ請求の制限が及んでいるこ 求することができなかった証拠」には当たらないというべきであり,さらに,同法393条1項本文により取り調べるか否かを判断する場合にも,同法316条の32第1項による証拠調べ請求の制限が及んでいることを考慮することが必要であり,第一審が同条項による証拠調べ請求の制限に抵触するとして証拠調べ請求を却下している場合には,その第一審の判断が,違法又は同条2項による職権での証拠調べの裁量を逸脱している場合であり,あるいは,違法又は裁量を逸脱しているとまではいえないとしても,実体的真実の発見,具体的妥当性の観点から,その妥当性,合理性に疑問が存するというような場合に限り,取調べを行うのが相当であると考えられる。 そして,本件において,第一審裁判所が,刑訴法316条の32第1項にいう「やむを得ない事由によって公判前整理手続において請求することができなかったもの」には当たらないとして,その証拠調べ請求を却下した前歴関係証拠及び第一審判決後にペルー共和国から受理した被告人の前歴に関する証拠については,検察官が,公判前整理手続において,前歴関係証拠を証拠調べ請求をする必要性を検討するべく手立てを講じることが困難であったというような事情は見当たらないにもかかわらず,そのような手立てを講じておらず,そもそも,当時,「ICPOリマ(ペルー共和- 13 -国)に対する捜査協力要請について(追加回答)」と題する書面(検乙12)のほかには,被告人の前歴関係についての立証をしない意思であったと考えざるを得ないところ,証拠の内容自体も,前科ではなく,前歴にとどまるものであり,この検察官の立証方針が,およそ誤っており,実体的真実発見ないし具体的妥当性の観点から,その是正が必要であったとはいい難く,刑訴法316条の32第1項による証拠調べ請求の制限が及んでいるとして前 ,この検察官の立証方針が,およそ誤っており,実体的真実発見ないし具体的妥当性の観点から,その是正が必要であったとはいい難く,刑訴法316条の32第1項による証拠調べ請求の制限が及んでいるとして前歴関係証拠を却下した第一審裁判所の判断が妥当性,合理性を欠いているとすることもできず,この前歴関係証拠及び第一審判決後にペルー共和国から受理した被告人の前歴に関する証拠が,刑訴法393条1項本文により取調べをするのが相当であると解するのは困難である。 さらに,第一審判決が,「量刑の理由」の項4(3)ウ(イ)において,有罪の判決を受けたという立証がなされていないにもかかわらず,嫌疑を受けたことだけをもって,量刑上,前科があるのと同様の不利な取扱いをすることは許されない旨説示するところは,正当という以外になく,この説示が,被告人のペルー共和国における前歴について,およそ考慮する必要がないかのようにも受け取れるとする差戻前控訴審判決の指摘は,当を得ないものといわざるを得ない。のみならず,ペルー共和国の刑事手続については,本件の審理において十分な検討がされているとはいい難く,そもそも,同国における前歴を,我が国における前歴と同様のものとして評価できるのかを判断するために,ペルー共和国の刑事手続に関する十分な検討に時間を費やすべきであるともにわかに考え難いところ,検察官作成の平成19年10月31日付け「疎明資料の提出について」と題する書面添- 14 -付のF作成の「ペルー刑事裁判制度の概要」によれば,ペルー共和国の刑事手続上,予審裁判官は被疑者に対して,被疑者の黙秘は有罪性の推定を導く可能性があることを告げなければならないと定められているとされており(「ペルー刑事裁判制度の概要」9頁・「(2)黙秘権」),黙秘権の実質的な保障がされていないのではない 者の黙秘は有罪性の推定を導く可能性があることを告げなければならないと定められているとされており(「ペルー刑事裁判制度の概要」9頁・「(2)黙秘権」),黙秘権の実質的な保障がされていないのではないかという看過できない疑問を抱かざるを得ないことなどにも照らせば,量刑上,同国における前歴について,少なくとも,我が国における同内容の前科がある場合と同程度にまで不利な取り扱いをすることが許されないことは無論のこと,我が国における同内容の前歴がある場合と同程度にまで不利な取り扱いをすることも許されないものと考えざるを得ない。また,被告人が特段前歴の存在を争っていないというならともかく,本件の如く前歴に当たる罪を犯していないとして真っ向から争っている場合に,上記のとおり,十分な検討がされているとはいい難く,看過できない疑問も抱かざるを得ないペルー共和国の刑事手続における前歴の存在を,十分な原証拠を検討することもなく,その刑事手続上の書面だけで認定するのが適切とも考えられず,そのような認定に基づいて被告人の供述の信用性を判断するのが相当とも考えられない。 加えて,被告人が真実同国において前歴に当たる罪を犯したか否かはさておき,同国において前歴に当たる刑事手続がとられているとの事実のみを認定するに過ぎないというのであれば,そのことに量刑上どれほどの意味があるのかとの疑問も抱かざるを得ない。差戻前控訴審判決は,前歴についても,被告人が罪を犯したことが確実である場合においては,その内容に応じて,被告人に対する刑を量定するに当たり適切に考慮すべき場合が- 15 -あることは明らかであるとしており,それ自体は当然というべきであるが,他方,これは,我が国における前歴を念頭に置いたものであれば格別,十分な検討もされておらず,看過できない疑問も抱かざるを得ない -あることは明らかであるとしており,それ自体は当然というべきであるが,他方,これは,我が国における前歴を念頭に置いたものであれば格別,十分な検討もされておらず,看過できない疑問も抱かざるを得ない他国の刑事手続における前歴を,我が国における前歴と同様のものとして評価し,刑の量定に当たり考慮することが適切であるなどとはいえないことは明らかであり,そのような刑事手続における前歴の内容を,被告人が否定しているにもかかわらず,刑事手続上の書面だけをもって,罪を犯したことが確実であるなどとすることもできない。 以上のような検討,考慮の結果,当裁判所としては,差戻前控訴審において採用された被告人のペルー共和国における前歴関係の証拠(差戻前控訴審検22,29,30,32,38,39)については,量刑に関する心証形成上の資料として用いないものとする。 第3 弁護人の事実誤認の主張について弁護人の論旨は,(1)被告人の供述及び関係各証拠から,本件犯行が行われた場所は,C荘北側敷地内階段下付近であると認定すべきであるにもかかわらず,「C荘及びその付近において」と認定した第一審判決には,事実の誤認があり(2)被害児童の窒息死の機序について,被告人が被害児童の口鼻や頚部に手を置いたことにより,被害児童が頚動脈洞反射を起こしてショック死した可能性や,ギャグリフレックスにより窒息死した可能性があるにもかかわらず,被告人が,被害児童の頚部を片手で絞め付け,被害児童を頚部圧迫による窒息により死亡させた旨認定した第一審判決には,事実の誤認があり,(3)被告人は,被害児童の口,首付近に手を置いただけに過ぎず,また,その他の事情を- 16 -考慮しても,被告人には被害児童に対する殺意はなかったにもかかわらず,被告人が殺意をもって被害児童を殺害した 告人は,被害児童の口,首付近に手を置いただけに過ぎず,また,その他の事情を- 16 -考慮しても,被告人には被害児童に対する殺意はなかったにもかかわらず,被告人が殺意をもって被害児童を殺害した旨認定した第一審判決には,事実の誤認があり,(4)被告人が被害児童の陰部等を触る行為に及んだのは致死行為の後であり,致死行為の際,被告人にはわいせつ目的はなく,また,被告人には,致死行為に及んだ後,被害児童が死亡したとの認識の下に陰部等を触る行為に及んだものであるにもかかわらず,被告人が,被害児童に対し,強いてわいせつな行為をすることを企て,わいせつな行為に及んだ旨認定した第一審判決には,事実の誤認があり,(5)被告人の一連の行動を合理的に説明することは到底困難であり,被告人が何らかの要因によって異常な精神状態にあったとの疑いが払拭できず,被告人の完全責任能力を否定すべきであるにもかかわらず,被告人の完全責任能力を肯定した第一審判決には,事実の誤認があり,これらの誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかである,というのである。 そこで,検討する。 関係証拠により認められる事実(1)被告人は,本件犯行当時,C荘2階D号室に単身で居住しており,C荘1階には,被告人の親戚であるGがその父親及び息子と共に居住していた。 被告人は,平成16年4月に来日してから,本件に至るまでの間,兄であるHやGに対して,異常な言動を示すこともなく,同人らから見ても,普通の日常生活を送っていた。 (2)C荘は,1階及び2階にそれぞれ2戸ずつが並んでいる木造モルタル2階建てのアパートであり,被告人方であるD号室は,2階の西側にある。各階北側には,幅約1.2メートルの通路があり,2階の通路のほぼ真ん中辺- 17 -りに,東方向に下る形で幅員約0.9メートルの 階建てのアパートであり,被告人方であるD号室は,2階の西側にある。各階北側には,幅約1.2メートルの通路があり,2階の通路のほぼ真ん中辺- 17 -りに,東方向に下る形で幅員約0.9メートルの鉄製階段が外付けされており,この階段下には,洗濯機や自転車が置かれている。なお,被告人方には,ディズニーの日本語ビデオやぬいぐるみが置かれていた。 C荘の北側敷地は,C荘1階に接する幅員約1.2メートルの通路部分を含んでおり,その北側で接する幅約3.4メートルの市道の路面よりも約0. 7メートル高くなっており,市道との間を隔てる形で高さ約0.62メートルのブロック塀が設置されているが,この北側ブロック塀が途切れた西端からC荘の西隣の敷地を含めて約4.3メートルの開放部分があり,ここからC荘敷地内に出入りすることが可能となっている。 C荘東側敷地は,幅約0.64ないし0.7メートルであり,隣接する民家との間に沿って,高さ約0.63メートルから1.1メートルのブロック塀が設置されており,前記市道からの見通しは良くない。C荘南側敷地は,幅約0.83ないし0.88メートルであり,民家と接しており,上記市道から見通すことはできない。C荘西側敷地は,幅約0.77ないし0.82メートルであり,民家と接しており,上記市道から見通すことはできるが,日中でも薄暗い。 C荘付近には,一般民家やアパート等が密集している。なお,被害児童が通学していた小学校からC荘までは,直線距離で500メートル余である。 (3) 平成17年11月22日(以下「本件当日」という。),被害児童が通っていた小学校では,就学前検診実施のため,3時間目の授業終了後には,児童を下校させることになっており,被害児童も,給食を食べた後,午後零時40分ころに下校した。 - 当日」という。),被害児童が通っていた小学校では,就学前検診実施のため,3時間目の授業終了後には,児童を下校させることになっており,被害児童も,給食を食べた後,午後零時40分ころに下校した。 - 18 -被告人は,本件当日午後零時50分前後ころ,C荘と市道を挟んで向かい合う形となっている民家(以下「I方」という。)前の石段に腰掛け,携帯電話を開いて見るなどしながら,下校途中の被害児童と,手の届くほどの距離で向き合い,スペイン語のあいさつである「オーラ」という言葉を言うなどして,被害児童と言葉を交わした。なお,被告人は,当時,携帯電話を見たりしていたこと,被害児童と言葉を交わしたことは認めているものの,腰掛けていたのは,C荘の西隣にある民家の石段であって,I方前の石段ではない旨第一審公判廷において供述しているが,このころの状況を目撃したJの第一審公判供述及びKの警察官調書写し(弁1)から,I方前の石段に座っていたものと認定できることは,第一審判決が「争点に対する判断」の項2(1)ウに説示しているとおりである。 (4)被告人は,本件当日午後零時50分ころから,同日午後1時40分ころまでの間,被害児童に身体的に接触し,被害児童は窒息により死亡した。 被告人は,被害児童の死亡後,その死体を,自ら購入したガスコンロが入れられていた段ボール箱に入れ,ビニールテープで梱包した上,これをC荘から約118メートルないし149メートル離れた空き地まで自転車で運び,そこに遺棄した。そして,被告人は,C荘に戻り,被害児童の帽子を被害児童のランドセルに入れ,このランドセルを紙袋に入れ,これを放置するために上記の空き地まで自転車で運んだが,そこには人がいたので怖くなり,C荘から見て,その空き地とは反対方向に約375メートル離れたところにあ ドセルに入れ,このランドセルを紙袋に入れ,これを放置するために上記の空き地まで自転車で運んだが,そこには人がいたので怖くなり,C荘から見て,その空き地とは反対方向に約375メートル離れたところにある駐車場付近まで赴き,そこにこの紙袋を放置した。その後,被告人は,コンビニエンスストアで買い物をしてC荘に戻る途中,Gに出会い,同女にど- 19 -こに行くのかと尋ね,おむつを買いに行くという同女と共に薬局に行き,一緒にC荘に戻って,被告人方でコーヒーを入れ,料理をし,Gと食事をしたりした。その間,被告人がGに対して異常な言動を示すようなことはなく,また,Gは,C荘1階にある同女方に下りた際,警察官や新聞記者が大勢来ているのを見かけ,そのことを被告人に伝えたが,これに対し,被告人が特に変わった様子を見せることもなかった。 被害児童の死体は,本件当日午後1時40分ころから同日午後3時ころの間に,被告人が遺棄した上記空き地において,段ボール箱の中に,膝を抱え込むような形で横臥した状態で発見された。その着衣の状態は,両手に黄色手袋をし,左足にのみ靴下を履き,小学校の制服のほか,ポロシャツ,シャツ,パンツを着用していたが,パンツは前後逆に着用されていた。また,被害児童のランドセルは,本件当日午後10時40分までの間に,被告人が放置した上記駐車場付近から発見されたが,その中には,被害児童の帽子のほか,被害児童のブルマーも入っていた。 (5) 本件犯行の4日後となる平成17年11月26日,被告人は,ガスコンロを別の段ボール箱に入れて梱包し,被告人方からロープで下に降ろし,C荘南側敷地に置いた。同月27日,被告人は,C荘の大家に対し,このガスコンロについて,多分盗まれたと言った。同日,翌日から広島にある会社で働く予定であった被告人は,三重 方からロープで下に降ろし,C荘南側敷地に置いた。同月27日,被告人は,C荘の大家に対し,このガスコンロについて,多分盗まれたと言った。同日,翌日から広島にある会社で働く予定であった被告人は,三重県に居住する姉方に行った。 (6)被告人は,逮捕された直後,本名を偽り,虚偽のアリバイを述べるなどした。 本件犯行が行われた場所について(弁護人の論旨(1))- 20 -(1)被告人方の押入れ天袋内から発見され,押収された毛布には,極めて高い蓋然性で被害児童のものと認められる毛髪1本が付着しており,また,被害児童のDNA型と被告人のDNA型が混在したものと見ても矛盾しないと判断される人血も付着しており,これらを主な根拠として,検察官は,本件犯行が,被告人方において行われたものと主張するが,一方で,被告人は,この毛布について,本件当日に被害児童に会う前に,C荘1階階段下に置いてある洗濯機で洗濯するため,被告人方から持ち出したが,洗濯機に入らないことが分かったので,洗濯機の横に置いていたところ,本件犯行後,この毛布で被害児童の死体をくるみ,その後に段ボール箱に死体を移したと供述しており,この供述内容自体が,およそ不自然であって信用できないとして排斥するに足りるものではないことからすると,検察官が種々主張するところを検討しても,本件犯行は,C荘敷地内あるいは被告人方を含むC荘及びその付近を越えない範囲で行われたものと認めることができるものの,更にそのうちのいずれかを確定することはできず,本件犯行が行われた場所は,C荘及びその付近の限度で認定できるにとどまることは,第一審判決が「争点に対する判断」の項2(4)にその認定,判断を説示するとおりである。 (2)差戻前控訴審判決は,その理由中4(4)において,C荘に接する市道を 限度で認定できるにとどまることは,第一審判決が「争点に対する判断」の項2(4)にその認定,判断を説示するとおりである。 (2)差戻前控訴審判決は,その理由中4(4)において,C荘に接する市道を通行する者が,ブロック塀越しにC荘北側敷地内の様子を見通すことができないような状況にはなかったし,このブロック塀が途切れたところから西隣の敷地を含めた開放部分があり,そこから,C荘北側敷地内に被告人及び被害児童がいれば,その姿が丸見えであることは明らかであり,また,本件犯行態様からして,被害児童は,被害にあった際,抵抗したり暴れたり声を出- 21 -したりしたはずであるが,C荘1階の住人は,いずれも異常な物音を聞いたことはなかった旨供述しており,さらに,被告人は,そのような被害児童の抵抗等があることを予想していたと考えられ,C荘1階に人がいないと確信していたともいえず,加えて,犯行直前,複数の通行人がいたという事情もあることなどからすると,被告人が,白昼,C荘北側敷地内において,被害児童を殺害してわいせつなことをするという行為を真実しようとしたのか,同敷地内でそのような行為をすることが,心理的又は精神的に果たして可能であるのかという疑問は否定し難く,C荘敷地内は,C荘階段下付近も含めて,市道からの見通しは良くなく,極めて人目に付きやすい場所であるとまではいえないし,昼間であっても付近を通行する人や車の量は多くないという第一審判決は,事実を誤認しているといわざるを得ず,本件犯行が行われた場所は,被告人が供述するC荘敷地内北側階段下ではなかったのではないかという疑問を払拭することができないのであり,C荘北側敷地の見通し状況等についての認定を誤り,かつ,被告人の第一審公判供述の信用性を否定せず,同供述によって,本件犯行の場所がC荘敷地内北側階 ないかという疑問を払拭することができないのであり,C荘北側敷地の見通し状況等についての認定を誤り,かつ,被告人の第一審公判供述の信用性を否定せず,同供述によって,本件犯行の場所がC荘敷地内北側階段下である可能性を肯認した第一審判決には,疑問を呈せざるを得ないと指摘している。 この点,確かに,差戻前控訴審判決が指摘するように,C荘に接する市道を通行する者が,ブロック塀越しに,C荘北側敷地内の様子を見通すことができないというわけではなく,この北側ブロック塀が途切れた西端からC荘の西隣の敷地を含めた開放部分方向であれば,C荘敷地内北側階段下付近で犯行が行われた場合,少なくとも,被告人の姿は丸見えになるものといわざるを得ず,この意味において,第一審判決が「争点に対する判断」の項2- 22 -(4)イ(ア)において,C荘敷地内は,C荘階段下付近も含めて,市道からの見通しが良くない旨説示するのは,措辞適切とはいい難い面もないではない。 しかし,C荘敷地内北側階段下付近が,市道からブロック塀である程度遮へいされた形になっているのは事実であり,本件犯行が,計画的なものであると断定できるのであればともかく,後記5に説示するとおり,少なくとも,後先を考えることなく,衝動的に敢行されたものであることを否定できないのであれば,そのような衝動に駆られた被告人において,それでもI方前で直ちに犯行に及んだりはせずに,被害児童と共に,I方前から,上記のようにある程度市道から遮へいされているC荘敷地内北側階段下付近に移動し,なお人目に付くのではないか,あるいは,被害児童が抵抗等するなどし,C荘の住人に気付かれるのではないかということまでは考慮することもなく,犯行に及んだとしても,直ちに不自然,不合理であるとまではいえない。また,成人男性である被告人が,上記 児童が抵抗等するなどし,C荘の住人に気付かれるのではないかということまでは考慮することもなく,犯行に及んだとしても,直ちに不自然,不合理であるとまではいえない。また,成人男性である被告人が,上記の開放部分に面した市道に背を向ける形で,身長125.0センチメートル,体重22.5キログラムの被害児童に対する犯行に及んだのであれば,上記の開放部分方向からC荘敷地内を見た者にとって,被害児童の存在,さらには,犯行が行われていることを認識することが容易であるともいえないのみならず,被告人が,C荘敷地内で本件犯行に及ぶところを目撃した者がいない一方,本件犯行当時,被告人が,外から丸見えとなるC荘の階段を上り,2階にある被告人方に被害児童を連れ込む様子や,被告人方から段ボール箱を抱えてこの階段を下りる様子などを目撃した者も見当たらないことからすると,要するに,本件犯行当時,C荘近辺ないし被告人の行動を視認している者がいなかったと認めざるを得ない。 - 23 -そして,C荘が特段の防音設備等を施されていたというような事情は全く見当たらず,犯行場所がC荘北側敷地内であれ,被告人方であれ,被害児童が大声を出したり,激しく抵抗したりした場合は,いずれにせよC荘の住民がそれに気付くのではないかという疑問を抱かざるを得ないのであり,むしろ,被害児童は,突然の被告人の凶行により身がすくむなどし,圧倒的に体格,体力に勝る被告人に押さえ込まれ,さらには,後記3のとおり,被告人により,頚部を圧迫されて短時間のうちに窒息死させられたため,大声を出したり,激しく抵抗したりすることがほとんどできなかった,あるいは,その暇がほとんどなかったと見るのが相当である。なお,C荘付近の人通りが日中頻繁であったなどという事情はうかがわれず,日中のC荘及びその付近を撮影したビデオテ ことがほとんどできなかった,あるいは,その暇がほとんどなかったと見るのが相当である。なお,C荘付近の人通りが日中頻繁であったなどという事情はうかがわれず,日中のC荘及びその付近を撮影したビデオテープ(弁9)から,付近を通行する人車や付近の家屋からの人の出入りは多くはなかったと認定した第一審判決が誤っているとはいえない。 そして,第一審判決は,毛布及びこれに付着していた毛髪や人血に関する前記(1)の事実関係から,本件犯行が被告人方で行われたものと推認することにも相応の合理性はあるものの,他方で,本件犯行当時,この毛布をC荘敷地内北側階段下付近にある洗濯機の横に置いており,同階段下付近での本件犯行後,被害児童の死体をこの毛布でくるんだという被告人の供述について,全くの虚偽であると断ずることができるほどの事情も見当たらず,さりとてこの供述に,上記の相応の合理性ある推認を排斥できるほどの信用性も見出せないとして,結局本件犯行が行われた場所は,C荘及びその付近の限度で認定できるにとどまるとしたものであると解されるのであり,後記のと- 24 -おり,被告人が,被害児童を殺害した態様や,殺意及びわいせつ目的の有無という本件犯行の核心部分について,信用できない供述をしていることにもかんがみれば,第一審判決の判断は相当なものと認められる。 本件犯行が行われた場所について,C荘敷地内あるいは被告人方を含むC荘及びその付近を越えない範囲以上に確定することができず,C荘及びその付近の限度で認定できるにとどまるとした第一審判決の認定は正当であり,このことは,差戻前控訴審判決の上記指摘によっても左右されない。 (3)所論は,①毛布に付着していた毛髪及び人血に関するDNA鑑定関係の証拠は,それ自体証拠能力も信用性もなく,また,毛布に付着して のことは,差戻前控訴審判決の上記指摘によっても左右されない。 (3)所論は,①毛布に付着していた毛髪及び人血に関するDNA鑑定関係の証拠は,それ自体証拠能力も信用性もなく,また,毛布に付着していたとされる毛髪及び人血以外の,被害児童の失禁の痕跡,被害児童の帽子やブルマーと同一の繊維等,被告人方で本件犯行が行われたことと結び付く客観的証拠が存在せず,②被告人の日本語での会話能力や当時の状況からは,被害児童を被告人方に連れ込めず,③被告人が,被害児童を被告人方に連れ込んだり,被告人方から,被害児童の死体を入れて梱包した段ボールを運び出したりしたとすれば,その状況を目撃されているはずであるのに,そのような目撃者がいないのは不自然であり,④被告人と被害児童がC荘周辺にいた後,被害児童の死体が入った段ボール箱が目撃されるまで,最短で約50分間であるところ,被告人が犯行等の全行動に要した時間からすれば,被告人方での犯行は不可能であり,また,仮に,被害児童を被告人方に連れ込むことができたのであれば,これほどまでの短時間で犯行等の全行動を行う必要性や合理的理由がなく,不自然であり,被告人が,被害児童を被告人方に連れ込み,そこで本件犯行を行ったという事実と整合せず,⑤C荘の他の居住者は,- 25 -本件犯行当時の被告人方からの不審な物音や声等を聞いておらず,これらに照らせば,本件犯行の現場が,被告人方でないことは明白であり,被告人の供述を前提に,本件犯行の現場をC荘敷地内北側階段下付近である旨認定すべきであると主張する。 しかし,①については,DNA鑑定関係の証拠には証拠能力も信用性もないとして,毛髪の収集や保管過程,DNA鑑定そのものの証拠能力や信用性,毛髪の形態,血液型,DNA鑑定の方法,結果等(検甲24,67),毛布に付着してい DNA鑑定関係の証拠には証拠能力も信用性もないとして,毛髪の収集や保管過程,DNA鑑定そのものの証拠能力や信用性,毛髪の形態,血液型,DNA鑑定の方法,結果等(検甲24,67),毛布に付着していたという体液のDNA鑑定(検甲27)について,所論がるる掲げる事情は,いずれも抽象的な危険性ないし可能性を問題とするか,独自の見解に立脚して論難するものに過ぎず,それ自体によって直ちに証拠能力あるいは信用性に疑問を抱かせるものではない。また,前記のとおり,毛髪や人血が付着していたのは毛布であり,しかも,この毛布が被告人方の押入れ天袋内から発見されていることに照らせば,本件犯行が行われた現場が被告人方で行われたものと推認することにも相応の合理性があることは否定できず,毛布の上で犯行を行ったのであれば,本件犯行による遺留物と認められる毛髪や人血が毛布以外の場所に残っていなくても不自然ではなく,また,毛髪及び人血以外の遺留物が必ず残っていなければならないはずであるとまで決め付けられるほどの事情も見当たらない。②については,確かに,被告人が,日本語に通じず,また,一見して外国人の風貌を有しており,被害児童とは一面識もない一方,被害児童が,幼いなりにもしっかりとした性格であったことなどは,第一審判決も指摘するとおり,被告人が被害児童を被告人方に誘い込んだとするのは不自然ではないかと疑わせる事情ではあるもの- 26 -の,他方で,強引な手段も含め,被告人が被害児童を被告人方に連れ込むことがあり得ないとまでいえるほどの事情でもない。③については,所論の指摘する事情がある一方,被告人が,本件犯行を含む一連の行動を,屋外であるC荘敷地内北側階段下等で行ったとして,それを他者が視認することは困難であるとはいえないのに,結局のところ,視認している者は見当たらな 事情がある一方,被告人が,本件犯行を含む一連の行動を,屋外であるC荘敷地内北側階段下等で行ったとして,それを他者が視認することは困難であるとはいえないのに,結局のところ,視認している者は見当たらないことからすれば,前記(2)でも述べたとおり,要するに,本件犯行当時,C荘近辺ないし被告人の行動を視認している者がいなかったということであり,被告人において,被害児童を被告人方に連れ込んだり,被告人方から段ボールを運び出したりするところを目撃している者がいないから,そのような事実はなかったとすることもできない。④については,被告人が本件犯行に及び,その後被害児童の死体を段ボールに入れて梱包し,遺棄するに至るまで,約50分間に満たないほどの時間であったとして,そのことにより,本件犯行が,被告人方で行われたのであれば不可能であり,C荘敷地内北側階段下で行われたのであれば不可能ではないほどに有意的な差が生じるとはおよそ認め難く,また,本件犯行が,後先を考えずに敢行された衝動的なものであったことは否定できないのであり,犯行等の全行動を短時間のうちに行ったとしても,不自然とはいえない。⑤については,前記(2)で述べたとおり,犯行の場所がC荘北側敷地内であれ,被告人方であれ,被害児童が大声を出したり,激しく抵抗したりしたというのであれば,いずれにせよC荘の住民が気付いたのではないかという疑問は生じるのであり,被害児童は,突然の被告人の凶行により身がすくむなどし,圧倒的に体格,体力に勝る被告人に押さえ込まれ,頚部を圧迫されて短時間のうちに窒息死させられたため,大- 27 -声を出したり,激しく抵抗したりすることがほとんどできなかった,あるいは,その暇がほとんどなかったと見るのが相当である。 そして,本件犯行を行った場所に関する被告人の供述につい - 27 -声を出したり,激しく抵抗したりすることがほとんどできなかった,あるいは,その暇がほとんどなかったと見るのが相当である。 そして,本件犯行を行った場所に関する被告人の供述について,全くの虚偽とまで断ずることもできないが,本件犯行が被告人方で行われたのではないかという,毛布及びこれに付着していた毛髪や人血に関する事実関係に基づく相応に合理的な推認を排斥するほどの信用性も見出せないとして,結局本件犯行が行われた場所は,C荘及びその付近の限度で認定できるにとどまるとしたものである第一審判決の判断は,前記(2)のとおり適切なものと認められるから,所論主張のごとく,被告人の供述を前提として,本件犯行場所をC荘敷地内北側階段下付近と特定して認定することはできない。 3 被害児童が窒息死した原因について(弁護人の論旨(2))(1)前記1で認定したとおり,被告人は,下校途中の被害児童に声を掛け,言葉を交わしてからさほど時を置かずして,被害児童を窒息死させているところ,A作成の鑑定書(検甲51)及びAの第一審公判供述のほか,関係証拠によれば,被害児童の死体の状況として,身長125.0センチメートル,体重22.5キログラム,顔面が全体にややうっ血し,左眼瞼結膜に十数個,右眼瞼結膜に数個,右眼球結膜に数個,心臓前面に9個,後面に二十数個,左肺胸膜下に十数個,右肺胸膜下に多数,右腎盂粘膜下に数個の溢血点(右肺胸膜下については溢血斑)があり,心臓内血液は暗赤色流動性であり,左肺粘膜,口腔・頚部器官の粘膜にうっ血,左右側頚リンパ節に腫大及びうっ血(一部出血状)がそれぞれあったが,舌骨や甲状軟骨の骨折は認められなかったこと,被害児童の脳には,くも膜下血管の強度の拡張,くも膜下腔の- 28 -浮腫が見られたこと,被害児童の頚部 大及びうっ血(一部出血状)がそれぞれあったが,舌骨や甲状軟骨の骨折は認められなかったこと,被害児童の脳には,くも膜下血管の強度の拡張,くも膜下腔の- 28 -浮腫が見られたこと,被害児童の頚部には,左前頚下部から前頚下部及び右前頚下部を経由して,不鮮明ではあるものの,幅約1センチメートルの蒼白帯があり,左下顎下部に米粒大以下の淡褐色表皮剥脱1個,左側頚部中部にごま粒大以下の暗褐色表皮剥脱十数個,右側頚下部から前頚下部にかけて,ごま粒大以下の赤褐色表皮剥脱十数個が認められたが,電気コードや縄ひものようなもので頚部を圧迫したような表皮剥脱ないし出血は見られず,また,典型的な扼痕も認められなかったこと,被害児童の左右胸鎖乳突筋後面上部(左右の耳の下辺り),胸骨舌骨筋後面(のど仏の辺り),左胸骨甲状筋下部,左頭最長筋(左後頚部)に筋肉内出血があり,それが上から下へ点々と広がっていたことが認められる。 (2)そして,上記(1)の被害児童の死体の状況からすれば,少なくとも,被害児童が窒息死した原因は,被告人によって,比較的柔らかい物で,被害児童の頚部を圧迫したことによるものと十分に認定でき,A作成の鑑定書における疑問点を鑑定した弁護人の申請証人であるBも,差戻前控訴審公判廷において,被害児童の死因が頚部圧迫であることは間違いない旨明言していること(差戻前控訴審第2回B114項)に照らしても,この認定に疑いをいれる余地はない。 他方,上記(1)の被害児童の死体の状況からすると,第一審判決が「争点に対する判断」の項2(2)イ(ア)に説示するように,被告人が,被害児童の頚部を片手で絞め付けた可能性も相応に認めることができるものの,そこに認定するように,被告人が,片手を広げた状態で,被害児童の首を前から突き上げるように握っ )に説示するように,被告人が,被害児童の頚部を片手で絞め付けた可能性も相応に認めることができるものの,そこに認定するように,被告人が,片手を広げた状態で,被害児童の首を前から突き上げるように握って絞めた場合に,被害児童の側頚部の後ろにあると認め- 29 -られる蒼白帯(差戻前検53の写真番号9号)が形成されるのか(なお,首を握っている手を,首の前から後方に移動させたのではないかとも考えられるが,そのような行為がなされたと疑いなく認定できるほどの的確な証拠は見当たらない。),あるいは,そもそも,この蒼白帯が指で圧迫したことによって生じたものなのか(差戻前控訴審第2回B34,118ないし133項)について,いずれも疑問がないわけではないこと,前記第2の1(2)のとおり,Bは,頚部圧迫による窒息死の場合,手指によるものか,ひも状のものによるものかの区別は非常に難しい場合もあるとし,索条物による頚部圧迫による絞死の可能性が高いと供述しており,Aも,当初は,被害児童の頚部圧迫痕について,その形状から,幅の広い柔らかい索条物によって成傷されたものと推測したことがうかがわれることに照らすと,被告人において,被害児童の頚部を圧迫することにより,被害児童を死亡させたことに疑いはないものの,その方法については,柔らかい索状物ないし手指によるものであるという以上に特定することが困難であり,その限度で,第一審判決には誤認があるといわざるを得ない。しかし,この誤認は,要するに,柔らかい索状物ないし手指による頚部圧迫であると認定すべきを,手指による頚部圧迫と特定して認定したものであり,犯行の態様がより概括的なものとなるにとどまり,後記のとおり,殺意の点も含めた罪体の認定に大きな影響を及ぼすものではなく,なお,量刑判断に当たっても,柔らかい索状物で圧迫した て認定したものであり,犯行の態様がより概括的なものとなるにとどまり,後記のとおり,殺意の点も含めた罪体の認定に大きな影響を及ぼすものではなく,なお,量刑判断に当たっても,柔らかい索状物で圧迫したのか,手指で圧迫したのかは特定できないという限度でしか認定できないとの前提に立つことになるのであり,その誤認により量刑上特段の差異を生じるものとも認め難く,判決に影響を及ぼすことが明らかであるとはいえない。 - 30 -(3) 所論は,被害児童が被告人により頚部を圧迫されて窒息死したと認定できないとし,頚部を圧迫することによって,舌骨が折れることが多いところ,被害児童の舌骨は骨折しておらず,頚部の筋肉内出血は頚椎捻挫によっても生じ得るのであり,Aの第一審公判供述によれば,被告人が,被害児童の頚部に手を置いて,気道の閉塞が起こらない程度に頚部を圧迫することでもリンパ節が腫大することがあることは否定されず,胸骨舌骨筋の裏側の出血について,この筋肉に対して,より圧迫がかかったと見られる表面側には出血の存在が確認されておらず,その部位の表面側の外表においても,表皮剥脱が存在しておらず,Aの第一審公判供述では,頚部圧迫によって引き起こされるはずの頚動静脈が詰まるということがなかったことを認めていると主張し,さらに,窒息死の機序について,被告人が,被害児童の口鼻や頚部に手を置いたことにより,被害児童が頚動脈洞反射を起こしてショック死した可能性があり,あるいは,猿ぐつわで鼻と口を同時に覆われた場合などに誤嚥が生じ,異物により気道が塞がれ窒息死するギャグリフレックスという現象があるところ,被害児童が嘔吐した結果,胃内容物が気管や気管支内に逆流することでギャグリフレックスが生じ,これにより被害児童が窒息死した可能性があると主張する。 しかし フレックスという現象があるところ,被害児童が嘔吐した結果,胃内容物が気管や気管支内に逆流することでギャグリフレックスが生じ,これにより被害児童が窒息死した可能性があると主張する。 しかし,前記(1)のとおり,被害児童について,顔面が全体にややうっ血していること,左右側頚リンパ節に腫大及びうっ血があること,左右胸鎖乳突筋後面上部,胸骨舌骨筋後面,左胸骨甲状筋下部,左頭最長筋に筋肉内出血があることからすると,被害児童が頚部圧迫により短時間のうちに窒息死させられたことが認められ,差戻前控訴審において弁護人申請証人として供- 31 -述したBも,被害児童の死因が頚部圧迫であることは間違いない旨明言しているところであって,この点に疑いをいれる余地はない。そして,Aは,第一審公判廷において,強く頚部を圧迫したとしても,舌骨骨折を生じないことは幾らでもあると供述している(第一審第2回A34丁)のみならず,Bも,差戻前控訴審公判廷において,被害児童のような小学校低学年の幼児の場合,むしろ頚部圧迫による舌骨骨折はあまり起きない旨供述している(差戻前控訴審第2回B33項)こと,被害児童が本件犯行当時に頚椎捻挫を起こしたのではないかと具体的に疑わせる事情はないこと,そもそも気道の閉塞が起こらない程度の頚部圧迫によるリンパ節の腫大自体が想定困難なものといわざるを得ず,Aは,弁護人が指摘する第一審公判供述において,圧迫によってリンパ節の腫大が生じる旨述べているに過ぎないこと,胸骨舌骨筋は,その裏側で硬度のある箇所と接しており(検甲51添付の写真24,25),柔らかい索状物ないし手指で頚部を圧迫された結果,その表面側ではなく,裏側に出血が生じたとしても不自然ではなく,その表面側の外表に当たる前頚下部に表皮剥脱が存在することは明白である(検甲51)こ ),柔らかい索状物ないし手指で頚部を圧迫された結果,その表面側ではなく,裏側に出血が生じたとしても不自然ではなく,その表面側の外表に当たる前頚下部に表皮剥脱が存在することは明白である(検甲51)こと,Aは,頚部圧迫により頚動静脈が詰まるはずであるなどとは述べておらず,頚部圧迫により,気道が塞がれることと頚動静脈の圧迫とが両方とも死亡の原因になり得るものであるとした上で,被害児童について,頚動静脈が圧迫された場合に著明に起こるクモ膜下の血管の充血とクモ膜下腔の浮腫が認められるが,頚動静脈が詰まった場合に生じる脳梗塞による脳軟化症は認められなかったと述べているものである(第一審第2回A20ないし21丁)ことからすると,所論が主張するところを検討しても,上記の認定は左右されな- 32 -い。 なお,被害児童が頚動脈洞反射を起こしてショック死した可能性があり,あるいは,ギャグリフレックスにより被害児童が窒息死した可能性があるとの所論については,第一審判決が「争点に対する判断」の項2(2)イ(イ)dに適切に認定,判断を説示するとおりであり,そもそも,被害児童の頚動脈洞に出血がなく,頚動脈洞反射が起こったことを具体的にうかがわせる所見はなく,また,そもそも,そのような事態があったことを具体的にうかがわせる事情は存在しない。そして,被害児童の胃内容物として,本件犯行の直前に食べた給食と推認される米飯,こんにゃく,にんじん片,のり,豆腐片,菜片等を含む淡黄色粥状物350ミリリットルが存在し,一方で,被害児童の嘔吐をうかがわせる外部的痕跡も見当たらないこと(なお,被害児童が本件犯行当時着用していたポロシャツの右前腕部に,ご飯粒が多数付着しているが,これらは,その付着態様からして,嘔吐によるものではないことが明らかである〔検甲4添付 見当たらないこと(なお,被害児童が本件犯行当時着用していたポロシャツの右前腕部に,ご飯粒が多数付着しているが,これらは,その付着態様からして,嘔吐によるものではないことが明らかである〔検甲4添付の写真第12号〕。)からすれば,所論が主張するような被害児童の嘔吐による胃内容物の気管ないし気管支内への逆流を具体的にうかがわせる事情もない。 被告人の殺意について(弁護人の論旨(3))(1)本件犯行において,被告人は,前記3のとおり,被害児童に対し,柔らかい索状物ないし手指により,頚部及びその近辺の筋肉内出血並びに左右側頚リンパ節の腫大及びうっ血を生じさせるほどの力を加え,その頚部を圧迫し,被害児童を窒息死させたのであり,この行為態様からして,確定的な殺意を有していたものと十分に推認できる。そして,被告人については,後記- 33 -5に説示するとおり,本件犯行当時にわいせつ目的も有していたものと優に認定できるものの,本件犯行直前ころ,被害児童と何らかの言葉を交わすうちに,この目的を抱いた疑いを払拭できないところ,殺意を抱いた動機については,第一審判決が「争点に対する判断」の項2(2)ウ(イ)に認定,判断するとおり,被告人が,被害児童に対して,頚部圧迫行為に先行ないし並行してわいせつ行為を行っていたと認められることからすれば,そのわいせつ目的を遂げるため,あるいは,顔を知られた被害児童を殺害して,自身が犯行を犯したという事実の発覚を免れるためであったと推認できるが,その殺意を抱いた時期については,わいせつ目的を抱いたのが,本件犯行直前ころであることを否定できず,また,被告人の殺意を認定する主要な根拠が,被告人の被害児童に対する致死行為である頚部圧迫の態様であることからすれば,第一審判決が同項2(5)イに認定,判断するとおり, ころであることを否定できず,また,被告人の殺意を認定する主要な根拠が,被告人の被害児童に対する致死行為である頚部圧迫の態様であることからすれば,第一審判決が同項2(5)イに認定,判断するとおり,この頚部圧迫の行為を始めるまでには生じていたものと推認できるにとどまる。 (2)これに対し,検察官は,控訴趣意書の量刑不当の論旨中において,本件犯行では犯跡を隠ぺいするために殺害したことを認める証拠は一切なく,事前に被害児童の抵抗を排除する行動があったと考えられること,肛門部への指の挿入は,被害児童の心臓がわずかに拍動している死戦期に行われていたことからすると,被告人は,殺害行為に着手し,これと並行して,ないしは,殺害の実行行為の後に,わいせつ行為に及んでいたものと優に認定でき,このことからすれば,わいせつ行為をする目的で殺害に及んでいたこともまた明らかというべきであって,第一審判決が,犯跡隠ぺいをも殺害の動機としている点は誤りというほかないと主張し,一方,当審における公判手続の更- 34 -新に当たっての意見として,「意見書」と題する書面において,第一審判決は,強制わいせつ致死及び殺害の各犯行状況について,①生前のわいせつ行為と頚部圧迫行為とが並行して行われ,頚部圧迫行為の際に死戦期のわいせつ行為が行われた,②生前のわいせつ行為と頚部圧迫行為が並行して行われ,その直後,死戦期のわいせつ行為が行われた,③生前のわいせつ行為に引き続いて,頚部圧迫行為が行われ,その際,死戦期のわいせつ行為が行われた,④生前のわいせつ行為,頚部圧迫行為,死戦期のわいせつ行為が順次行われたかのいずれかであると認定しているものと考えられるところ,①,②の場合,生前のわいせつ行為と頚部圧迫行為とは並行して行われているのであるから,被告人が頚部圧迫行為に及んだの いせつ行為が順次行われたかのいずれかであると認定しているものと考えられるところ,①,②の場合,生前のわいせつ行為と頚部圧迫行為とは並行して行われているのであるから,被告人が頚部圧迫行為に及んだのは,わいせつ行為を遂行するためか,せいぜい犯行の発覚を免れる目的もあったかのいずれかであったと解され,③,④の場合,わいせつ行為を遂行する意思は継続しているのであるから,頚部圧迫行為は,わいせつ行為を遂行するためか,あるいは,犯行発覚を免れる目的もあって行われたかのいずれかであると解するべきであり,いずれの場合であっても,頚部圧迫行為は,わいせつ行為を遂行するために,あるいは,犯行の発覚を免れる目的も併存して行われたものと考えるべきであると主張している。 これらの検察官の主張は,必ずしも一貫していないようにも思われるが,量刑不当の論旨中の主張については,後記5(3)に説示するとおり,殺害行為がわいせつ行為に先行して始まったとまで断定できるほどの事情はなく,被告人が,頚部圧迫行為に先行ないし並行してわいせつ行為を行っていたものと認めるべきであるところ,これを前提としても,わいせつ行為を目的と- 35 -して頚部圧迫行為を行ったものと見る余地が十分あるものの,後記6のとおり,被告人が被害児童の死体を段ボールに入れ,C荘から百数十メートル離れた空き地に遺棄したのは自身の犯跡の隠ぺい行為であると認められ,本件犯行を開始してから,この隠ぺい行為を終えるまで,最短で約50分間に満たない程度であること,被告人が被害児童の抵抗を排除してわいせつ行為を行うこと自体は,殺害行為を行うまでもなく,容易になし得たものと認められることにもかんがみれば,被告人が,犯跡隠ぺいを目的として殺害行為に及んだものではないとまで断定することは困難であり,この目的が,わ こと自体は,殺害行為を行うまでもなく,容易になし得たものと認められることにもかんがみれば,被告人が,犯跡隠ぺいを目的として殺害行為に及んだものではないとまで断定することは困難であり,この目的が,わいせつ目的との択一的な形で殺害の動機に含まれ得るものとした第一審判決の認定が誤りであるとすることはできず,さらに,公判手続更新の際の意見中の主張については,これは,わいせつ行為と殺害行為とが並行して行われていれば,あるいは,わいせつ行為を遂行する意思が継続している状態で殺害行為が行われれば,殺害の動機として,必ずわいせつ行為を遂行することが含まれているものと断定できるということが前提になっているものといわざるを得ず,この前提自体に飛躍があり,いずれの主張についても採用できない。 (3)さらに,弁護人の所論は,被害児童が被告人による頚部圧迫で窒息死したものであれば,被害児童の抵抗の結果,その四肢等が壁や地面に衝突することにより擦過傷などの外傷が必然的に発生しているはずであり,また,被害児童が被告人の手や衣服をつかむなどして抵抗することにより,被害児童の爪片に被告人の皮膚片や着衣の繊維等が残っているはずであるのに,被害児童の左右上肢,胸部,腹部,背面に何ら外傷は残っておらず,爪片からも被告人の皮膚片や着衣の繊維等は発見されておらず,これらは被害児童が抵- 36 -抗していなかったことを如実に表しているものであることからすれば,被告人の供述するとおり,被告人は,被害児童の口,首付近に手を置いたに過ぎず,被害児童の死因については,頚動脈洞反射によるショック死,あるいは,ギャグリフレックスによる窒息死が考えられるのであり,また,被告人は,その供述しているとおり,あらがうことのできない声を聞き,その声に従って行動したに過ぎず,さらに,本件犯 るショック死,あるいは,ギャグリフレックスによる窒息死が考えられるのであり,また,被告人は,その供述しているとおり,あらがうことのできない声を聞き,その声に従って行動したに過ぎず,さらに,本件犯行が行われた場所は,C荘階段下付近という外部から認識しやすい場所であったこと,被告人と被害児童との接触が偶発的なものであったこと,被告人は,犯跡隠ぺい行為を行っていないこと,被告人には,暴力癖も幼児性愛性向などもないことなどからすれば,被告人に殺意はなかった旨主張する。 しかし,前記3のとおり,被告人は,被害児童の頚部を,柔らかい索状物ないし手指で圧迫することにより,被害児童を窒息死させたものと十分認定でき,被害児童の死因が,頚動脈洞反射によるショック死,あるいは,ギャグリフレックスによる窒息死ではないかなどと疑う余地はなく,加えて,前記2(2)のとおり,被害児童は,突然の被告人の凶行により身がすくむなどし,圧倒的に体格,体力に勝る被告人に押さえ込まれ,頚部を圧迫されて短時間のうちに窒息死させられたため,大声を出したり,激しく抵抗したりすることがほとんどできなかった,あるいは,その暇がほとんどなかったものと見るのが相当であることにもかんがみれば,被害児童に抵抗による外傷が見当たらず,その爪片からも被告人の皮膚片や着衣の繊維等は発見されていないことが不自然であるとはいえず,被害児童の口,首付近に手を置いたに過ぎないとする被告人の供述は信用できないという以外にない。また,前記- 37 -2(2)のとおり,被告人が,後先を考えることなく,衝動的に本件犯行の実行を決意したことを否定できず,被害児童と共に,I方前からC荘北側敷地内階段下付近まで移動した上で,本件犯行に及んだとしても不自然不合理とはいえないことからすれば,被告人がC荘階段下付 本件犯行の実行を決意したことを否定できず,被害児童と共に,I方前からC荘北側敷地内階段下付近まで移動した上で,本件犯行に及んだとしても不自然不合理とはいえないことからすれば,被告人がC荘階段下付近で犯行に及んだことや,被告人と被害児童との接触が偶発的なものであったことが,殺意の存在に疑問を抱かせるものともいえない。そして,後記6のとおり,被告人が被害児童の死体を段ボールに入れて空き地に遺棄したのは,自身の犯跡の隠ぺい行為であると認められ,本件犯行当時,被告人が,あらがうことのできない声を聞き,その声に従って行動したに過ぎないのではないかなどと疑う余地はなく,その他所論が主張するところを検討しても,被告人に殺意がなかったのではないかとの疑いは残らない。 わいせつ目的について(弁護人の論旨(4))(1)被害児童において,その膣口部には,約0.2ないし0.3センチメートルの亀裂が入り,外子宮口の周囲に点状の出血が多数あり,肛門部やや上部には,はっきりとした出血が認められる米粒大の赤褐色表皮剥脱が1個あり,また,肛門部には,少量の出血が認められる1センチメートル前後の表皮亀裂部4個があったこと,被害児童の肛門の表面及び表面から約1センチメートル内部並びに被害児童のパンツの表面に人精液が付着しており,そのDNA型は,被告人の精液のDNA型と矛盾しなかったこと,これらの状況に加え,被告人自身が,被害児童の陰部を手で触れた旨自認していることからすれば,被告人は,被害児童の陰部である膣口部から外子宮口,肛門部に手指を挿入したものと推認でき,さらに,上記の膣口部の亀裂及び肛門部や- 38 -や上部の表皮剥脱は,生活反応である出血を伴っていることから,被害児童の生前に生じたもの,上記の肛門部の4個の表皮亀裂は,弱い生活反応がある き,さらに,上記の膣口部の亀裂及び肛門部や- 38 -や上部の表皮剥脱は,生活反応である出血を伴っていることから,被害児童の生前に生じたもの,上記の肛門部の4個の表皮亀裂は,弱い生活反応があることから,被害児童の心臓がわずかに拍動している死戦期に生じたものとそれぞれ推認できること,上記の人精液の付着状況及びそのDNA型が被告人の精液のDNA型と矛盾しないことに,本件犯行当時に自慰をしたとの被告人の第一審公判供述を併せ考慮すると,被告人において,被害児童の陰部等に手指を挿入した前後ころ,自慰をして射精したと認められ,これらの被告人の行為態様にかんがみれば,被告人にわいせつ目的があったことが推認できることは,第一審判決が「争点に対する判断」の項2(3)に適切にその認定,判断を説示しているとおりである。 そして,本件犯行当日,被害児童の通学していた小学校の下校時間は,就学前検診のため早まっており,被害児童がC荘付近を通りかかったのは,いつもの下校時間よりも早かったと認められ,単身で日本語にも十分に通じない被告人が,そのような事情を知っていたとは認め難いこと,被告人が日中屋外で携帯電話を操作していたことから,直ちにわいせつ行為をするために女児を物色していた根拠とするには足りないこと,この携帯電話の画像も格別子供の興味を引くようなものではなく,ディズニーのビデオ等も被告人方に置いてあったのであり,日本語に十分に通じない被告人がどのようにして巧みに被害児童の警戒心を解いたのかについて,検察官も証拠に基づく具体的な主張をなし得ないこと,被告人は,被害児童と言葉を交わした後,短時間のうちに被害児童をC荘敷地内に向けて連れ込む行為を開始したものと推認でき,自己の劣情の赴くままに,後先を考えずに衝動的に犯行に及んだと- 39 -しても不自 ,被害児童と言葉を交わした後,短時間のうちに被害児童をC荘敷地内に向けて連れ込む行為を開始したものと推認でき,自己の劣情の赴くままに,後先を考えずに衝動的に犯行に及んだと- 39 -しても不自然とはいえない犯罪形態であることからすれば,被告人は,本件犯行直前ころ,被害児童と何らかの言葉を交わすうちに,衝動的に被害児童に対する劣情を抱き,その欲望の赴くままに,被害児童に対して強いてわいせつな行為をしようと企てた疑いを払拭できず,遅くとも被害児童をC荘敷地内に向けて連れ込む行為を開始した時点において,わいせつ行為の犯意が生じたと推認できるにとどまることは,第一審判決が「争点に対する判断」の項2(5)に適切にその認定,判断を説示しているとおりである。 (2)これに対し,検察官は,量刑不当の論旨中において,第一審判決は,被告人があらかじめ幼児にわいせつな行為をすることをたくらんでいたか否かの点について否定的な認定をしたが,被告人が,I方前の石段にわざわざ腰を掛け,少なくとも,数分以上は座っていたものと認められること,その後,被害児童に携帯電話を見せるなどの行動をしていること,被害児童に声を掛けた後,短時間に,殺害行為に着手するとともに,わいせつ行為をも敢行し,自慰行為をして射精までしているのであり,こうした声掛け後のわずかの時間で,殺害行為やわいせつ行為に着手していることを併せ考えれば,被告人は,被害児童にうまく接触できればわいせつなことをしようと考えていたことは優に推認できるとし,また,差戻前控訴審における事実取調べの結果に基づく弁論において,事件の全体を総合的に見れば,被告人は,性的対象とする下校途中の女児を待ち受け,たまたま通りかかった被害児童に声をかけて本件犯行に及んだと見ることも十分可能であるとし,さらに,公判手続更新の いて,事件の全体を総合的に見れば,被告人は,性的対象とする下校途中の女児を待ち受け,たまたま通りかかった被害児童に声をかけて本件犯行に及んだと見ることも十分可能であるとし,さらに,公判手続更新の際の意見中において,仕事先の電話番号を入力するため携帯電話を操作していた旨の被告人の供述と,その際に自身がいた場所についての被告人の- 40 -供述は一体のものであるから,第一審判決が,後者の供述の信用性を否定する一方で,前者の供述の信用性を否定しないのは不合理であるといわざるを得ず,被告人は,あらかじめI方前石段に座って,通行人の目からは携帯電話を操作している様子をとりながら,わいせつ行為の対象となる女児を物色し,あるいは,そのような女児に対し,携帯電話の画像等を口実に声を掛けようと考えていたという事実が推認されることをおそれているなどと主張する。 しかし,そもそも,被告人が,事前にわいせつ目的を抱いていたと認定するためには,単にその可能性があるというだけでは足りず,そのような目的がなかったのではないか,すなわち,衝動的にわいせつ行為に及んだのではないかとの疑いが残らないことまで求められるのであり,このことは量刑上の評価として検討する場合においても,何ら異ならないところ,検察官の主張は,結局,検察官自身が,差戻前控訴審における事実取調べの結果に基づく弁論で自認するとおり,被告人において事前にわいせつ目的を有していたと見ることも可能であるというにとどまり,衝動的にわいせつ行為に及んだのではないかという疑いを排斥できるものではない。なお,第一審判決も指摘するとおり,被告人が被害児童に声を掛けてから短時間で犯行遂行に至っている事実は,犯意が衝動的なものであったこととむしろ符合する面もあるといわざるを得ず,この事実に,本件犯行の直前,被 審判決も指摘するとおり,被告人が被害児童に声を掛けてから短時間で犯行遂行に至っている事実は,犯意が衝動的なものであったこととむしろ符合する面もあるといわざるを得ず,この事実に,本件犯行の直前,被告人が,自身の居住するC荘の向かいにあるI方の石段に数分以上は座っていたことと,被害児童に携帯電話を見せるなどの行動をしたこととを併せ考慮すれば,被告人は,被害児童にうまく接触できればわいせつなことをしようと考えていたことが- 41 -優に推認できるとする主張は採用できない。また,仕事先の電話番号を入力するため携帯電話を操作していた旨の被告人の供述と,その際に自身がいた場所についての被告人の供述は,必ずしも一体とはいい難く,仮に,被告人において,真実わいせつ行為の対象となる女児を物色したり,あるいは,そのような女児に対して携帯電話の画像等を口実に声を掛けようと考えたりはしていなかったとしても,そのような事実が推認されてしまうのをおそれることは当然あり得るといわざるを得ないのであり,この点についての検察官の主張も,被告人が衝動的にわいせつ行為に及んだものではないかとの疑いを排斥するものではない。 (3)弁護人の所論は,第一審判決が,被告人は,被害児童に対し,殺意をもって致死行為を行った前後,いまだ被害児童が生存しているときに,被害児童の陰部である膣口部から外子宮口,あるいは,肛門部に自己の手指を挿入するなどしたと認定し,また,膣口部の亀裂及び肛門部やや上部の表皮剥脱を生じさせた行為が,致死行為に先立って行われた可能性を含めた上で認定するのが相当である旨説示しているのは,陰部等を触る行為が,致死行為に先立って行われたことについて,確信に至っていないことの証左であることに加え,被害児童の身体には,被害児童の抵抗を阻止するためにできたと が相当である旨説示しているのは,陰部等を触る行為が,致死行為に先立って行われたことについて,確信に至っていないことの証左であることに加え,被害児童の身体には,被害児童の抵抗を阻止するためにできたと思われる圧迫痕や,被害児童が抵抗した際にできたと思われる擦過傷等の外傷が残っておらず,被害児童の爪片から被告人の皮膚片等も発見されておらず,これらは,被告人が被害児童の陰部等を触った際,被害児童は抵抗できる状態になかったこと,つまり,被告人が被害児童の陰部等を触る行為に及んだ時期が,致死行為を行った後であることを強く推認させるものであり,また,- 42 -被告人が被害児童の陰部等を触る行為を中断して致死行為を行うことは常識的に考え難いことから,被告人が被害児童の陰部等を触るなどした行為は,致死行為後に行われたことが明白であるところ,仮に,被告人が,被害児童を死に至らしめた行為に及ぶ当初からわいせつ目的を有していたのであれば,人目に付きにくい場所に移動してわいせつ行為に及んでいるはずであり,しかも,被害児童の死体を短時間で遺棄していること,被害児童を全裸にしていないこと,陰部等を触ったにもかかわらず,被害児童の肛門部に付着した糞便を払拭することもしていないこと,被告人方から幼児性愛者であることを裏付けるビデオ等が発見されていないこと,被告人は,当時成人女性と交際していたこと,被告人は,悪魔の声が聞こえ,その声の指示に従って他動的に行動していたことからすると,致死行為に及んだ際,被告人には,わいせつ目的がなかったことは明白であり,強制わいせつ致死罪は成立しないと主張する。 しかし,既に繰り返し説示しているとおり,被害児童は,突然の被告人の凶行により身がすくむなどし,圧倒的に体格,体力に勝る被告人に押さえ込まれ,頚部を圧迫され 成立しないと主張する。 しかし,既に繰り返し説示しているとおり,被害児童は,突然の被告人の凶行により身がすくむなどし,圧倒的に体格,体力に勝る被告人に押さえ込まれ,頚部を圧迫されて短時間のうちに窒息死させられたため,大声を出したり,激しく抵抗したりすることがほとんどできなかった,あるいは,その暇がほとんどなかったものと見るのが相当であり,このような状況下では,被害児童に所論主張のような外傷等の痕跡が残っていないことはもとより,その頚部付近以外に被告人による圧迫痕が見当たらないことも不自然とはいえず,かつ,被害児童の陰部等に自己の手指を挿入するわいせつ行為が,頚部圧迫行為に先立ってされたとしても,特段不自然とはいえず,また,被告- 43 -人が,被害児童の陰部等を触る行為を中断し,頚部圧迫行為を行うことが常識的に考え難いなどともいえないのであるから,生活反応である出血を伴っている被害児童の膣口部の亀裂及び肛門部やや上部の表皮剥脱は,被害児童の生前に生じたもの,弱い生活反応がある被害児童の肛門部の4個の表皮亀裂は,被害児童の心臓がわずかに拍動している死戦期に生じたものとそれぞれ推認できることを踏まえ,所論の指摘する第一審判決の説示でも明らかにしているとおり,本件犯行当時,被害児童に対する殺意とわいせつ目的とを有していた被告人において,被害児童に対する頚部圧迫行為を行い,この行為前,あるいは,その行為中,そして,行為後の時点で,いまだ生存している被害児童に対し,陰部あるいは肛門部に自己の手指を挿入するなどしたとして,膣口部の亀裂及び肛門部やや上部の表皮剥脱を生じさせた行為が,頚部圧迫行為に先立ってなされた可能性をも含めた上で,本件におけるわいせつ行為が行われたものと認定し,強制わいせつ致死罪及び殺人罪の成立を認めるこ 裂及び肛門部やや上部の表皮剥脱を生じさせた行為が,頚部圧迫行為に先立ってなされた可能性をも含めた上で,本件におけるわいせつ行為が行われたものと認定し,強制わいせつ致死罪及び殺人罪の成立を認めることに何ら問題はない。そして,前記(1)のとおり,被告人は,遅くとも被害児童をC荘敷地内に向けて連れ込む行為を開始した時点において,わいせつ行為の犯意が生じたと認定でき,本件犯行が衝動的なものであることが否定できないこと,後記6のとおり,本件犯行当時,被告人が,悪魔の声の指示に従って他動的に行動していたのではないかなどと疑う余地はないことにも照らせば,所論がるる指摘する点は,第一審判決が「争点に対する判断」の項2(3)ウ(ウ)に判断,説示するとおり,上記認定を左右するものではない。 責任能力について(弁護人の論旨(5))- 44 -(1)前記1,3ないし5に認定したとおり,被告人は,平成16年4月に来日してから本件犯行に至るまでの間,兄であるHや親戚のGに対して,特段異常な言動を見せたりすることもなく,同人らから見て普通の日常生活を送っており,被告人の犯行態様,動機は,それ自体不当ではあっても,その目的に照らせば了解可能なものであり,被告人は,被害児童殺害直後,その死体を,最近購入したガスコンロの梱包材であった段ボール箱に入れて梱包した上,犯行場所であるC荘から100メートル以上離れた場所まで運んで遺棄し,被害児童のランドセルも,いったん同じ場所に遺棄しようとしたが,人がいたため断念し,C荘から見て反対方向に400メートル近く離れた場所まで運んで放置し,その後,上記のガスコンロを,人目に付きにくいC荘南側敷地に置いており,また,広島の就職先に働きに出る前日に,三重県に住む姉方に赴き,逮捕当初は,本名を偽り,虚偽のアリバイを述べ 所まで運んで放置し,その後,上記のガスコンロを,人目に付きにくいC荘南側敷地に置いており,また,広島の就職先に働きに出る前日に,三重県に住む姉方に赴き,逮捕当初は,本名を偽り,虚偽のアリバイを述べるなどしていたものである。これらの事実に加え,第一審公判廷においても,意識は清明で,記憶の欠落があるとはうかがわれず,自身が行った行為の結果に対して,被害児童の遺族に謝罪する一方,殺意やわいせつ目的はなかったと主張していること,被告人が第一審公判廷で供述するような異常体験が真実あり,それが何らかの精神障害に由来するものであれば,被告人の日常生活においても,そのような精神障害をうかがわせる行動となって現れるのが自然であるのに,犯行前後の行動に不自然な点がないばかりか,生活歴においても,そのような行動があったとはうかがえないことにかんがみれば,被告人が,本件犯行当時,是非善悪を弁別し,これに従って自己の行為を制御する能力を有していたことは明らかであり,その責任能力を肯定することができ- 45 -ることは,第一審判決が「争点に対する判断」の項3に適切にその認定,判断を説示しているとおりである。 (2)所論は,①C荘北側通路階段下付近は,C荘の敷地北西角部のブロック塀が途切れている箇所から,完全に見通せる状況にあり,このブロック塀の高さも約62センチメートルでしかなく,ブロック塀越しに上記階段下付近をのぞき見ることが可能な状態であったのであり,このように誰にでもすぐに目撃される可能性のある屋外において,被告人が本件犯行を行ったことは,異常であり,また,被告人は,本件犯行直前に,被害児童と一緒にいる場面を第三者に目撃されており,犯行が発覚した際に,まず犯行への関与を疑われてしまう可能性が高いことは当然理解できるはずであるのに,本件犯行に ,また,被告人は,本件犯行直前に,被害児童と一緒にいる場面を第三者に目撃されており,犯行が発覚した際に,まず犯行への関与を疑われてしまう可能性が高いことは当然理解できるはずであるのに,本件犯行に及んでおり,これも異常であり,②被告人は,被害児童の死体を入れて梱包した段ボール箱を,遺棄した場合に発見されにくいと考えられる近所のゴミ捨て場を通過し,目立つ場所であって早期の発見が確実な空き地内に遺棄しており,また,ガスコンロを隠したとされる場所であるC荘南側通路も,当時捜査機関がC荘付近で大規模な捜索を行っており,大勢の報道関係者もいたことからすれば,すぐに見付かってしまう場所であり,しかも,このガスコンロが被告人のものであると容易に判明してしまう場所でもある上,被告人は,ガスコンロの処分について周囲に漏らした形跡もあり,これらのことからも被告人の精神に障害が生じていたことが強くうかがわれ,③被告人は,自己の意思で身体をコントロールすることができなかった旨を供述しているのであり,記憶を喪失した旨を供述しておらず,また,被告人の主張は,それが受け入れられない場合には,かえって反省が不十分であるなどとして,- 46 -罪責を重くしかねないものであることは明らかであり,にもかかわらず,あえて殺意やわいせつ目的を否認していることは,ある意味リスキーな主張なのであり,これを自己の罪責を軽減するための防御活動を行っていると評価することは,刑事裁判において被告人が置かれている立場をよく理解しようとしていないことを示すものであり,④被告人は,本件犯行当時,日本で職を転々とするなどし,日本での生活になじめない状況にあったことは明らかであり,このような来日後の状況と,幼児期における実父からの虐待,さらに15歳で入隊した軍隊から脱走を余儀なくされ,その後逃 で職を転々とするなどし,日本での生活になじめない状況にあったことは明らかであり,このような来日後の状況と,幼児期における実父からの虐待,さらに15歳で入隊した軍隊から脱走を余儀なくされ,その後逃亡生活を送ったことが相まって,被告人にPTSDや解離性同一障害ないしそれに類する障害を引き起こした可能性があることは否定できず,精神鑑定が行われていれば,本件以前の段階でその徴候が認められていた可能性は否定できないのであり,精神鑑定が行われていない以上,そのような徴候がなかったのかは不明といわざるを得ず,⑤Gは,本件犯行後,被告人の様子が普通であったと供述しているが,被告人としては,自らの犯行がGに発覚しないように努めて平静を装っていたであろうことは想像に難くなく,自らが被害児童を死に至らしめてしまった現実をなかなか理解することができなかった被告人が,被告人自身さえもよく理解できない状態のままで,Gに相談することはしなかったとしても特段不自然とはいえず,⑥第一審公判廷におけるHの供述により,被告人の実姉に悪魔が入ったような状態に陥っていたことが明らかになっており,この症状は,精神科医による治療によってではなく,牧師や教会関係者の祈りによって治癒しているが,このことによって精神障害に由来するものとは考え難いとすることは,精神科医による治療と牧師等による治- 47 -療を全く別物としている点で誤りであり,精神的な安定をもたらす点では共通しているはずであり,被告人にも同じような異常状態が生じていた可能性は十分考えられ,⑦第一審公判廷において,被告人は,要領を得ない発言をしたり,突然泣き出し,「ごめんなさい。ごめんなさい。」などと言ったり,被告人質問の際に問われた質問に対して回答せず,突然自分の供述態度についての考え方を述べ始めるなど,不自然な 要領を得ない発言をしたり,突然泣き出し,「ごめんなさい。ごめんなさい。」などと言ったり,被告人質問の際に問われた質問に対して回答せず,突然自分の供述態度についての考え方を述べ始めるなど,不自然な言動が多々あり,拘置所においても,奇声を発したり,窓を叩いたりするなどの異常行動に及び,その理由について,実際には認められない他の収容者の声や物音が聞こえると言っており,統合失調症の特徴的症状の1つである幻聴が生じている可能性が高く,当審第1回公判廷においても,不規則発言や不可解な言動に及んでおり,被告人が重篤な精神疾患に罹患していることを十分に疑わせるとし,被告人の一連の行動を合理的に説明することは到底困難であり,被告人が何らかの要因によって,異常な精神状態にあったという疑いは到底払拭できないと主張する。なお,弁護人は,当審における事実取調べの結果に基づく弁論において,当裁判所が,弁護人による被告人の精神鑑定の請求を却下し,これに対する弁護人の異議も棄却したことについて,訴訟手続の法令違反,審理不尽の違法があると主張する。 しかし,①については,前記2(2)のとおり,本件犯行が,衝動的に敢行されたものであることが否定できず,C荘敷地内北側階段下付近が,市道からブロック塀である程度遮へいされた形になっていること(なお,C荘北側敷地は,市道よりも約0.7メートル高くなっており,市道側から見て,遮へい部分の高さは約1.3メートルほどあることになる。)も併せ考慮すれ- 48 -ば,被告人において,I方前でそのまま犯行に及んだというならともかく,被害児童と共に,I方前からC荘北側敷地内に移動した上で,なお人目に付くのではないかなどということまで最早考慮することもなく,犯行に及んだとしても,直ちに不自然,不合理であるとはいえない。さ かく,被害児童と共に,I方前からC荘北側敷地内に移動した上で,なお人目に付くのではないかなどということまで最早考慮することもなく,犯行に及んだとしても,直ちに不自然,不合理であるとはいえない。さらに,このように自らの性的欲望を押さえられずに衝動的に敢行された犯行であるからこそ,直前に被害児童と一緒にいる場面を第三者に目撃されているという自身の認識により,犯行を思いとどまることができなかったものと見て不自然,不合理ではなく,また,直前に目撃されているという認識もあったがために,後記のとおり,本件犯行後直ちに,被害児童の死体を段ボールに入れて梱包した上,C荘から離れた空き地に遺棄するなどの,自身の犯跡隠ぺいを目的としたものと認められる行為に及んだものと見るのがむしろ自然である。所論が指摘する点は,いずれも責任能力に疑問を抱かせるような精神の異常さを感じさせるものとはいえない。②については,前記1(4)ないし(6)のとおり,被告人は,本件犯行直後,被害児童の死体を,購入したガスコンロが入れられていた段ボール箱に入れた上,これを梱包し,本件犯行場所であるC荘から100メートル以上離れた空き地まで運んで遺棄し,被害児童のランドセルも紙袋に入れた上,これも同じ場所に放置しようとしたものの,人がいたので怖くなり,C荘から見て,その空き地とは反対方向に400メートル近く離れた駐車場付近にこの紙袋を放置し,さらに,本件犯行から4日後,上記ガスコンロを,別の段ボール箱に入れて梱包した上,被告人方からロープで下に降ろすことにより,市道から見通すことができないC荘南側敷地に置き,翌日には,C荘の大家に対し,このガスコンロが多分盗まれたと虚偽- 49 -の内容を告げ,同日,次の日から広島で働く予定があったにもかかわらず,三重県に住む姉の元に行き,逮捕さ 荘南側敷地に置き,翌日には,C荘の大家に対し,このガスコンロが多分盗まれたと虚偽- 49 -の内容を告げ,同日,次の日から広島で働く予定があったにもかかわらず,三重県に住む姉の元に行き,逮捕された当初においては,本名を偽った上,虚偽のアリバイを述べるなどしたものであり,これら一連の行動を併せ考慮すると,本件犯行の罪責を免れるべく,被害児童の死体を梱包して遺棄し,この梱包に用いた段ボールと結び付けられかねないガスコンロを梱包して遺棄するなどの犯跡隠ぺい行為に及び,広島から離れて捜査の手を逃れようとしたものと認められるのみならず,被告人が,このように,十分な考慮ないし検討に基づいているとはいい難い場当たり的な犯跡隠ぺい行為等に及んでいること自体,本件犯行が衝動的に敢行されたものであり,それ故に被告人が動揺し,慌ててそれらの行為に及んでいるものであることを強くうかがわせるものということができ,そこに不自然なところはなく,所論の主張するような精神の異常さを見出すことなどできない。所論は,被告人が,ガスコンロの処分について周囲に漏らしたことは精神の障害をうかがわせるとも主張するが,被告人が,事前に十分な計画を練って本件犯行に及んだというならまだしも,衝動的に本件犯行に及んでしまい,動揺し,慌てて何とかその罪責を免れようと犯跡隠ぺいを図る中,被害児童の死体を入れた段ボール箱と結び付けられかねないガスコンロについて,何とか自身から遠ざけたい,このガスコンロと自身とが結び付けられないようにしたいという思いの余り,ガスコンロを処分したいということを周囲に漏らしてしまったとしても,不自然ではなく,そこに精神の障害をうかがうことなどできない。なお,被告人は,第一審公判廷において,ガスコンロを梱包した上でC荘南側敷地に置いたのは,ガスコンロを盗んだと 漏らしてしまったとしても,不自然ではなく,そこに精神の障害をうかがうことなどできない。なお,被告人は,第一審公判廷において,ガスコンロを梱包した上でC荘南側敷地に置いたのは,ガスコンロを盗んだと疑われていると思ったためであると供述し,- 50 -さらに,翌日から広島で働く予定があったにもかかわらず,三重県に住む姉の元に行ったのは,新聞記者にうんざりしたのでリラックスするためであったなどと供述しているが,それ自体がいずれも不自然である上,上記の一連の行動に照らしても,信用できないというしかないことは,第一審判決が「争点に対する判断」の項3(3)イ(ウ)に適切にその認定,判断を説示しているとおりである。③については,被告人が,当時の記憶を喪失することなく保持していること自体,精神に障害が生じていなかったことを推認させる一事情となることは明らかである。そして,殺人やわいせつの罪に問われている被告人が,殺意やわいせつ目的について否認していることから,被告人は,事の是非善悪を理解して,防御活動を行っているものと評価することは,何ら不合理なものではない。④については,前記(1)のとおり,本件犯行当時及びその前後における被告人の言動を中核とする諸事情からすれば,被告人の責任能力に疑問を持つ余地はないというべきであり,所論が指摘する実父からの虐待や軍隊からの脱走とその後の逃亡生活等の事情は,本件犯行がそれから相当期間経過後に敢行されたものであり,本件犯行前後において,被告人に心身の障害をうかがわせる言動も見られないことからすれば,被告人の精神障害を疑うべき根拠にならないといわざるを得ないことは,第一審判決が「争点に対する判断」の項3(3)エに適切にその認定,判断を説示するとおりである。所論は,精神鑑定が行われていれば,被告人についてPTSDや べき根拠にならないといわざるを得ないことは,第一審判決が「争点に対する判断」の項3(3)エに適切にその認定,判断を説示するとおりである。所論は,精神鑑定が行われていれば,被告人についてPTSDや解離性同一障害ないしそれに類する障害の徴候が認められていた可能性を否定できないと主張するが,それ自体,抽象的な可能性を問題とするものに過ぎず,そもそも採用し難い上,第一審判決が「争点に対する判断」の- 51 -項3(4)イ(ウ)に適切に説示するとおり,身体が少し持ち上がったような感じがして,座っている自身の姿を上から見るような形になり,被害児童だけがスポットライトを浴びたように映し出され,逆らうことのできない声が聞こえてきて,その声に従い,被害児童に対する加害行為や,自慰行為を行うなどしたという,被告人が第一審公判廷で供述する異常体験が真実あり,それが精神障害に由来するというのであれば,相当重度の精神障害であるという以外になく,本件犯行前後のみならず日本に来てからの生活歴の中での他者に対する言動において,その精神障害をうかがわせるだけの異常な徴候がにわかに出てこないというほうがむしろ不自然であり,およそ考え難いことであり,精神鑑定を行わない限り,そのような重度の精神障害の徴候がなかったとはいえないとする所論を採用する余地はない。⑤については,上記のとおり,本件犯行当時,被告人が,自身で供述するような異常体験をもたらしたほどの重篤な精神障害に罹患していたのであるならば,犯行直後に行動を相当時間共にしたGに対して,そのような重篤な精神障害をうかがわせる異常な言動を全く示さなかったなどとはおよそ考え難い。また,所論が主張するように,被告人が,自身が犯行を犯したという事実の発覚を防ぐため,Gに対して努めて平静を装っていたというのであれば,そのよう 異常な言動を全く示さなかったなどとはおよそ考え難い。また,所論が主張するように,被告人が,自身が犯行を犯したという事実の発覚を防ぐため,Gに対して努めて平静を装っていたというのであれば,そのような振る舞いができたこと自体が,被告人の責任能力に問題がなかったことを強く推認させるものであるといえる。⑥については,精神的な安定をもたらす点では共通しているはずであるから,牧師等の祈りによって治癒する症状を,精神科医による治療を要する精神障害に起因するものとして扱うべきであるとする主張自体採用し難く,これまで述べてきたところから明らかなとおり,被告- 52 -人が,自身の供述するような異常体験をもたらした重篤な精神障害に罹患していたのではないかなどと疑う余地はない。⑦については,被告人は,第一審公判廷において,要領を得ない発言をしたことがあったり,質問に答えることなく自身の主張を述べることがあったりしたことは認められるが,これらが直ちに精神障害を疑わせるものであるなどとはいえず,さらに,被告人は,兄であるHが,第一審公判廷において,被害者の遺族に対し,謝罪の思いと,被告人に対する宥恕を乞い願う気持ちとを懸命に供述した際,所論が指摘するように,泣き崩れ,「ごめんなさい。ごめんなさい。」などと述べたものであり,これが精神の異常をうかがわせるものなどとは到底いい難く,むしろ,その精神に特段の異常がないことをうかがわせるものというべきである。さらに,被告人は,確かに,当審第1回公判廷において,床に座り込み,人定質問において奇声を発するなどし,ボールペンのキャップをかじった後口の中に入れ,サンダルを持ち奇声を発し,自身の車であると発言し,自身の車でみんなで海に行こうと発言するなどしたが,他方,開廷に当たり,裁判長が,被告人に対し,法廷にふさわしく キャップをかじった後口の中に入れ,サンダルを持ち奇声を発し,自身の車であると発言し,自身の車でみんなで海に行こうと発言するなどしたが,他方,開廷に当たり,裁判長が,被告人に対し,法廷にふさわしくない言動があれば,直ちに退廷させることになる旨注意を与えた当審第2回公判廷においては,そのように奇声を発したり,不可解な行動ないし発言をしたりすることは全くなかったものであり,これらの奇声や不可解な行動ないし発言は,詐病なのか,それとも母国ではない国において刑事裁判を受け,死刑を求刑されていることによる不安な心情ないしそれ故の現実逃避の表れなのかは判然としないが,少なくとも,精神障害に由来するのではないかなどと疑うべきものでないことは明らかであり,拘置所での振る舞いも同様のものと考えざるを得ない。そ- 53 -して,以上に説示してきたところからすれば,当裁判所が,弁護人による被告人の精神鑑定の請求を却下し,これに対する弁護人の異議も棄却したことについて,訴訟手続の法令違反,審理不尽の違法がないことも明らかである。 弁護人の論旨はいずれも理由がない。 第4弁護人の法令適用の誤りの主張について論旨は,殺意を有しつつ,強制わいせつ行為を行い,強制わいせつの機会に被害者を殺害した場合には,強制わいせつ罪と殺人罪との観念的競合が成立すると解すべきであるのに,第一審判示第2の事実について,強制わいせつ致死罪と殺人罪との観念的競合として処理している第一審判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。 そこで,検討するに,13歳未満の被害者に対し,殺意をもってわいせつ行為に及び,被害者を死亡させた場合には,強制わいせつ致死罪と殺人罪が成立し,両罪は観念的競合の関係に立つものと解される(最高裁昭和31年(あ)第 に,13歳未満の被害者に対し,殺意をもってわいせつ行為に及び,被害者を死亡させた場合には,強制わいせつ致死罪と殺人罪が成立し,両罪は観念的競合の関係に立つものと解される(最高裁昭和31年(あ)第1219号昭和31年10月25日第一小法廷判決・刑集10巻10号1455頁参照)ところ,同様の見解に立って,第一審判示第2の事実について,強制わいせつ致死罪と殺人罪が成立し,両罪が観念的競合の関係にあるとした第一審判決に法令適用の誤りはない。 所論は,強制わいせつ致死罪と殺人罪との観念的競合とすることは,1つの行為によって生じた1人の死の結果を過失的かつ故意的な殺害と評価している点で理論的に破綻していると主張するが,採用できない。 論旨は理由がない。 第5検察官及び弁護人の量刑不当の各主張について- 54 -検察官の論旨は,本件の殺人,強制わいせつ致死,死体遺棄の各犯行の罪質は劣悪であり,殺害された被害者が1名の事案の中でも格段に悪質な事案であること,これらの犯行の動機に酌量の余地は一片もなく,本件は,被告人の幼女への異常な性癖と,願望達成のためなら手段を選ばない悪辣極まりない性格に基づく犯行であること,犯行の態様は,冷酷残忍極まりなく,殺害行為をわいせつの手段として冷徹に利用した犯行であること,犯行の結果は,悲惨,重大であり,社会全体で育み守るべき対象である幼い生命を抹殺している点で,単純に殺害された被害者は1人に過ぎないと数量化し得ないこと,遺族の処罰感情は,峻烈を極め,無期懲役とした第一審判決に不満を抱いていること,本件の社会的影響は余りにも甚大であり,国民感情においても極刑を望む声が多く,この種事犯においては,同種事犯の再発防止のためにも,従来にも増して重い刑罰を科すことが司法の務めであること,被告人に反省悔悟の情は一切認められな 甚大であり,国民感情においても極刑を望む声が多く,この種事犯においては,同種事犯の再発防止のためにも,従来にも増して重い刑罰を科すことが司法の務めであること,被告人に反省悔悟の情は一切認められないこと,被告人のペルー共和国での前歴に照らし,この種事犯の犯罪性向は根深く,再犯のおそれも極めて高く,被告人の反社会的性格,性向の矯正改善は困難であることなどの情状を総合勘案すれば,本件は,死刑をもって臨むのがやむを得ない重大事犯であり,第一審判決が死刑回避の事由として挙示した諸点はいずれも理由がなく,死刑の選択を回避して,被告人を無期懲役に処した第一審判決の量刑は著しく軽きに失し不当である,というのである。 弁護人の論旨は,第一審判示第2の事実について,被告人に強制わいせつ致死,殺人罪が成立するとしても,犯行に至る経緯,動機,犯行態様,犯行後の被告人の行動等,犯行結果,第一審判示第1の不法入国,在留事件,被告人の生育環境,来日後の状況,家族との関係の各情状を考慮すると,有期懲役が選- 55 -択されるべきであり,第一審判決の上記量刑は不当に重い,というのである。 そこで,記録を調査し,差戻前を含む当審における事実取調べの結果を併せて検討する。 本件は,ペルー共和国国籍の被告人が,有効な旅券又は乗員手帳を所持せずに我が国に入国し,引き続き,1年7か月余の間不法に在留し(第一審判示第1の犯行),当時7歳の女子児童に強制わいせつ行為をして殺害し(第一審判示第2の犯行),その死体を遺棄した(第一審判示第3の犯行)出入国管理及び難民認定法違反,強制わいせつ致死,殺人,死体遺棄の事案である。 第一審判示第1の出入国管理及び難民認定法違反の犯行については,その犯情により,検察官及び弁護人の各論旨に対する判断が大きく左右されるものではなく,以下, せつ致死,殺人,死体遺棄の事案である。 第一審判示第1の出入国管理及び難民認定法違反の犯行については,その犯情により,検察官及び弁護人の各論旨に対する判断が大きく左右されるものではなく,以下,第一審判示第2の強制わいせつ致死,殺人及び第一審判示第3の死体遺棄の各犯行の犯情について検討する。 (1)犯行結果被害児童のLちゃんは当時7歳であり,両親に愛され,慈しみ育まれ,友人と遊び,語らい,様々な経験,体験を重ね,夢と希望を抱いて元気に成長していくはずであった。しかし,被告人の凶行により,その人生は,耐え難い苦しみの中で,無惨にも断たれた。非道な陵辱を受け,そのかけがえのない一命を奪われたのみならず,殺害された後,段ボール箱に詰め込まれて梱包された状態で遺棄されたのである。両親の悲しみは想像を絶する。「どうして,私たちはこんな悲しい思いをしなければいけないのか」との母の言葉,「私達にとって自分の命よりも大切な宝物で,生き甲斐であり,希望でもありました。」との父の言葉などには,答えるすべもない。また,優しい姉を- 56 -失った幼い弟の心情と今後の成長への影響,大切な孫を失った祖父母の悲痛な心情にも深く思いを致さざるを得ない。被告人の凶行がもたらした結果はあまりに重い。 (2)犯行態様被告人は,わいせつ目的の下,当時わずか7歳の被害児童に対し,陰部や肛門部に,何度も自己の手指を強引に挿入し,その前後ころ,自慰行為に及んだのみならず,確定的殺意をもって,柔らかい索状物ないし手指により(どちらかは特定できないという限度での認定を前提として量刑判断せざるを得ないことは,前記第3の3(2)に説示するとおりである。),頚部を圧迫し,被害児童を窒息死させたのであり,無慈悲かつ残忍にして,冷酷な犯行というべきである。さらに,被告 前提として量刑判断せざるを得ないことは,前記第3の3(2)に説示するとおりである。),頚部を圧迫し,被害児童を窒息死させたのであり,無慈悲かつ残忍にして,冷酷な犯行というべきである。さらに,被告人は,犯跡隠ぺいのため,被害児童の死体を折り曲げるようにして段ボール箱に詰め込み,ビニールテープで梱包した上,自転車で運んで遺棄したのであり,死者への畏敬の念など一片たりともうかがうことのできない,遺族の心情を踏みにじる非情な犯行という以外にない。これらの犯行態様が極めて悪質であることは明らかである。 なお,弁護人は,殺害行為の態様について,被告人の供述を前提として,被告人は,口,鼻,頚部付近に両手を置いただけであると主張しているが,この主張が採用できないことは,前記第3の3に説示するとおりである。また,検察官は,被告人が沈着冷静に犯行を敢行したものであると主張しているが,前記第3の6(2)に説示するとおり,本件犯行直後の犯跡隠ぺい行為等の内容が,到底十分な検討や考慮に基づいているものとはいえない場当たり的なものであることからすると,被告人は,当時,相当に動揺し,慌てて- 57 -いたものと推認されるのであり,沈着冷静に犯行を遂行したものとまで見ることは困難である。 (3)犯行に至る経緯,動機被告人は,当時わずか7歳の被害児童に対し,自己の性的欲望の赴くままにわいせつ行為に及び,そのわいせつ目的を遂げるため,あるいは,自己の犯行であることが発覚することを免れるため,被害児童の殺害を決意して実行に移したものであり,その経緯,動機は,身勝手の極みにして卑劣,冷酷というしかなく,酌むべき余地はない。また,被告人は,自己が凶行を犯したことを隠ぺいするため,死体遺棄の犯行にも及んでいるところ,これまた身勝手の一語に尽き,その経緯,動機にも何ら にして卑劣,冷酷というしかなく,酌むべき余地はない。また,被告人は,自己が凶行を犯したことを隠ぺいするため,死体遺棄の犯行にも及んでいるところ,これまた身勝手の一語に尽き,その経緯,動機にも何ら酌むべき点はない。 弁護人は,被告人の供述を前提にして,被告人には殺意もわいせつ目的もなく,被害児童の死体を遺棄したのは,犯跡隠ぺいのためではないと主張しているが,これらが採用できないことは,前記第3の4及び5並びに6(2)にそれぞれ説示するとおりである。また,検察官は,殺害の動機は,わいせつ行為を遂行するためであり,被告人が事前にわいせつ目的を有していたものであると主張するが,この主張が採用できないことは,前記第3の4(2)及び5(2)にそれぞれ説示するとおりである。 (4)犯行後の行動被告人は,強制わいせつ致死,殺人,死体遺棄の各犯行後,被害児童のランドセルを紙袋に入れ,これも遺棄し,その後も,被害児童の死体を入れた段ボール箱によってもともと梱包されていたものであり,この段ボール箱の外面の表記から,被告人と犯行との結び付きを疑われかねないガスコンロを,- 58 -別の箱に梱包してC荘南側敷地に隠し,さらに,上記各犯行の5日後には,広島を離れて捜査の手から逃れようとし,逮捕後も,当初は虚偽のアリバイを述べるなどしており,この間一貫して自身の刑責を免れることに汲々としている。弁護人は,これらの行為について,被告人の供述を前提にして,被告人が犯跡を隠ぺいしようとしたり,捜査機関の手を逃れようとしたりしたものではないと主張しているが,これが採用できないものであることは,前記第3の6(2)に説示するとおりである。 もっとも,被告人は,それ以降,犯行への関与自体は認めているが,殺害の態様や殺意及びわいせつ目的の点について,不自然,不合理で信用 きないものであることは,前記第3の6(2)に説示するとおりである。 もっとも,被告人は,それ以降,犯行への関与自体は認めているが,殺害の態様や殺意及びわいせつ目的の点について,不自然,不合理で信用できない供述を繰り返しており,せめて愛する娘の最後を知りたいとの両親の悲痛な願いにすら全く応えていない。被告人が,犯行への関与自体は認め,公判廷において,あるいは,自ら作成した書面において,被害児童と両親に対する謝罪の念を述べていることからすれば,検察官が主張するように,反省,悔悟の情が微塵もないとまで断ずることはできないが,少なくとも,被告人の反省の態度が十分なものというにはほど遠い。 (5) 遺族の被害感情等遺族の被害感情は,当然のことながら,峻烈を極める。両親は被告人に対する極刑を強く求めており,被害児童の父は,当審公判廷においても,その意思を明確に示している。そして,犯行は,白昼,下校途中であった小学校1年生である被害児童が,無惨にも殺害され,その死体が遺棄された事件として,地域住民のみならず,社会全体に大きな衝撃と恐怖を与えたものであり,この点も軽視できない。 - 59 - そこで,以上の情状を前提に,第一審判決の量刑判断の当否について,検討する。 (1)死刑選択の判断基準死刑は,人間存在の根元である生命そのものを永遠に奪い去る冷厳な極刑であり,誠にやむを得ない場合における窮極の刑罰であることにかんがみると,その適用は慎重に行われなければならない。そして,死刑制度を存置する現行法制の下では,犯行の罪質,動機,態様,ことに,殺害の手段方法の執拗性,残虐性,結果の重大性,ことに,殺害された被害者の数,遺族の被害感情,社会的影響,犯人の年齢,前科,犯行後の情状等各般の情状を併せ考察したとき,その罪責が誠に重大であっ に,殺害の手段方法の執拗性,残虐性,結果の重大性,ことに,殺害された被害者の数,遺族の被害感情,社会的影響,犯人の年齢,前科,犯行後の情状等各般の情状を併せ考察したとき,その罪責が誠に重大であって,罪刑の均衡の見地からも,一般予防の見地からも極刑がやむを得ないと認められる場合には,死刑の選択も許される(最高裁昭和56年(あ)第1505号昭和58年7月8日第二小法廷判決・刑集37巻6号609頁〔以下「永山事件判決」ともいう。〕)。 (2)第一審判決の量刑判断の要旨第一審判決は,上記の死刑選択の基準に照らし,特に,第一審判示第2及び第3の各犯行について,犯行の動機,経緯は,卑劣かつ冷酷で身勝手極まりないものであって,何ら酌むべき点がなく,一連の犯行態様も,冷酷非情であって,極めて悪質というほかなく,犯行後の被告人の行動等を見ても,犯跡隠ぺい工作や逃亡を企てているほか,反省の態度も到底真摯なものとはいえず,犯行結果を見ても,被害児童を陵辱した挙げ句,その尊い一命を奪い,遺族に対し決して癒されることのない甚大な悲しみや苦しみを与え,さらには,社会にも多大な影響を与え,遺族の被害感情は現在においても極め- 60 -て峻烈で,被告人の極刑を求めていると説示する一方,①「結果の重大性ことに殺害された被害者の数」の点について,殺害された被害者が1名であっても,他の量刑事情を総合して極めて重大悪質というべき情状がある場合には,死刑の適用を考慮すべきことは当然である(最高裁平成9年(あ)第655号平成11年11月29日第二小法廷判決・裁判集刑事276号595頁参照)が,人ひとりひとりの命がかけがえのない尊いものであるからこそ,それを複数奪う行為と単数奪う行為とを比較した場合,共に強い非難に値する行為とはいえ,なおその非難の程度に相当の差異 6号595頁参照)が,人ひとりひとりの命がかけがえのない尊いものであるからこそ,それを複数奪う行為と単数奪う行為とを比較した場合,共に強い非難に値する行為とはいえ,なおその非難の程度に相当の差異があり,犯罪結果の重大性の観点においては,複数の命を奪う行為がより強い非難に値することも,また否定できないところであって,殺害された被害者が単数の事案において死刑を選択するには,それが複数である事案に比べて,他の量刑要素においてより悪質性の高い事案であると認められることを要するものと解され(最高裁昭和63年(あ)第589号平成8年9月20日第二小法廷判決・刑集50巻8号571頁参照),②上記の死刑選択の基準にいう犯行の「動機,態様」には,計画性も含まれ,これを重要な量刑要素と考えているものと理解できる(上記最高裁平成11年11月29日判決,最高裁平成9年(あ)第479号平成11年12月10日第二小法廷判決・刑集53巻9号1160頁参照),ところ,犯行を事前に計画した上で準備を遂げ,それに従って,長時間犯意を翻すことなく犯行を完遂したという犯人の態度からは,その反社会性,犯罪性の強固さをみてとることができ,ひいては,犯罪自体の悪質性のほか,犯人の矯正が困難であることを強く推認することができるというべきであるが,これを本件について見るに,被害児童と話すうちに,被害児童- 61 -に対する劣情を催し,その欲望の赴くままに,衝動的に第一審判示第2の犯行に至った疑いが払拭できず,殺害行為のみならず,強制わいせつ行為の点においても,計画性がなく衝動的に行われた疑いが払拭できない事案というほかなく,③「前科」の点について,特に,当該犯行と類似の重大犯罪の前科があり,それによって服役したような事実がある場合には,そのこと自体から,犯人の犯罪傾向の根深さ た疑いが払拭できない事案というほかなく,③「前科」の点について,特に,当該犯行と類似の重大犯罪の前科があり,それによって服役したような事実がある場合には,そのこと自体から,犯人の犯罪傾向の根深さが強くうかがえるほか,前刑による長期の服役の中,自己の犯罪に対する十分な反省の機会が与えられるとともに,厳しい規律のもとでの集団生活や矯正労働等,社会性を身に付けるための措置がとられたにもかかわらず,その効果もなく,なお同種の重大犯罪を敢行したという点において,犯人の反社会性,犯罪性が,もはや矯正不可能な程度に達していることを容易に推認できることが考慮されたものであり,被害者が1名にとどまる事案において死刑の適用を考慮する場合,犯人の前科の有無,内容は,その反社会性,犯罪性が矯正不可能な程度に達しているかを判断する上での重要な量刑要素になるというべきである(上記最高裁平成8年9月20日判決,最高裁平成11年12月10日判決)ところ,被告人は,我が国においてはもとより,ペルー共和国においても,前科が見当たらないとし,本件は,その犯行動機,経緯,犯行態様,犯行後の行動,犯行結果,遺族の処罰感情,社会に与えた影響のいずれを見ても,極めて悪質ではあるものの,殺害された被害者が1名にとどまる事案であり,犯行の計画性が認められず,むしろ衝動的犯行である疑いが払拭できず,被告人の前科を認めるに足りる証拠がないことから,犯行の計画性及び前科のいずれの点においても,被告人に矯正不可能な程度までの反社会性,犯罪性があると裏付けられたと言い- 62 -切るには足りず,以上からすれば,被告人に死刑をもって臨むには,なお疑念が残る事案であり,被告人には無期懲役をもって臨むほかないと判断している。 さらに,第一審判決は,この永山事件判決が示し,以後現在に至るまでの 以上からすれば,被告人に死刑をもって臨むには,なお疑念が残る事案であり,被告人には無期懲役をもって臨むほかないと判断している。 さらに,第一審判決は,この永山事件判決が示し,以後現在に至るまでの最高裁判例を含む多くの裁判例が踏襲してきた死刑選択の一般的な基準に従い,殺害された被害者が単数であり,かつ,犯人の反社会性,犯罪性,ひいては,その矯正困難性を裏付ける量刑上の重要な要素と解される前科や犯行の計画性のいずれの点においても,これを認めるに足りるだけの証拠がない本件事案において,法的判断の安定性や永山事件判決においても考慮すべき量刑要素とされる罪刑均衡の見地にも配慮して,慎重な態度をとることが,刑事司法への信頼を損なうことになるとは思われない旨説示している。 (3)検察官の所論についてア所論は,国家が刑罰権を独占し,違法行為に対する私的報復を禁じ,国民がこれを受け入れて法秩序が維持されるゆえんは,司法が適正な刑罰を具現するという国民の司法に対する信頼に由来するのであり,刑罰権は,国民の負託に基づいて行使されるべきものであり,刑事裁判における量刑判断も国民の法感情を源泉としていることから,量刑判断が,国民の法感情を的確に反映しなければならないのは自明の理であり,安易な寛刑は,裁判に対する国民の正義回復への期待に背を向けるものであって,刑罰の有する一般予防的意義を無に帰せしめるものであるといわざるを得ず,司法の場でも,従前の判例における基準を形式的に当てはめるのではなく,昨今の社会的要請に応えて毅然とした態度を示し,厳罰化をもって臨む責- 63 -務があるといわなければならないと主張し,また,類似事案の裁判例(最高裁昭和31年10月25日第一小法廷判決・刑集10巻10号1455頁)を掲げ,この判決に立ち返り,その犯行自体 む責- 63 -務があるといわなければならないと主張し,また,類似事案の裁判例(最高裁昭和31年10月25日第一小法廷判決・刑集10巻10号1455頁)を掲げ,この判決に立ち返り,その犯行自体の重大性を直視する必要があると主張している。 しかし,刑罰権は国民の負託に基づいて行使されるべきものではあるが,当然のことながら,まず求められるのは,量刑における行為責任の原則を踏まえ,公平公正の観点から,法的安定性及び罪刑均衡の見地にも十分配慮した判断であり,まさにそのような考慮から,死刑か無期懲役かが問われる困難な事案において,永山事件判決を嚆矢として多くの裁判例の中で死刑選択の判断基準の客観化,明確化が図られてきたのであり,所論の主張するところには直ちに賛同することはできない。 イ所論は,第一審判決は,殺害された被害者が1名であるという事象だけにとらわれ,本件犯行の罪質が,わずか7歳の女児に対して敢行された人倫の根本に反する犯罪であることについての理解,洞察が不十分であり,殺害された被害者が1名であるという事象のみから,本件は,被害者が複数の事案に比べて非難の程度に相当の差異があるものと結論付けているといわざるを得ず,永山事件判決以後,殺害された被害者が1名でも死刑を選択している最高裁判決の事案を見ると,無期懲役刑の仮出所中の犯行,あるいは,前科がないか,少なくとも生命侵害の罪に関する前科を有しないものについては,身代金目的拐取,強盗殺人,保険金目的の殺人が主であるとしつつ,金銭的利欲目的でない被害者1名の殺人等の事案で,かつ,強盗致傷を含む懲役前科3犯やその他の前歴はあるものの,生命侵害の罪- 64 -の前科はない被告人について,死刑の判断を是認して上告を棄却した事案(最高裁平成17年(あ)第959号平成20年2月29日第二小法 む懲役前科3犯やその他の前歴はあるものの,生命侵害の罪- 64 -の前科はない被告人について,死刑の判断を是認して上告を棄却した事案(最高裁平成17年(あ)第959号平成20年2月29日第二小法廷判決・判例タイムズ1265号154頁)を引用し,性犯罪の法定刑が引き上げられたことも踏まえ,犯罪結果という観点からは,性被害を伴うか否かという点も,量刑上重要な意味を持っていることに留意すべきであり,また,第一審判決は,上記の死刑判断の基準に示された個々の量刑要素の1つ1つについて,それが基準に当てはまるかどうかを検討し,幾つかの要素でそれを満たしても,他の要素で満たさなければ死刑とするには足りないとの考え方に立って判断しているが,このような量刑判断の在り方は誤りというほかなく,量刑判断である以上,すべての量刑要素を全体的に考察して判断されるべきであって,上記の死刑の判断基準もこの総合考慮による死刑選択の基準を示すのみであり,第一審判決が引用する上記最高裁平成8年9月20日判決も,殺害された被害者の数が単数である事案において死刑を選択するには,それが複数である事案に比べて他の量刑要素においてより悪質性の高い事案であることを要する旨判示しているものではなく,諸事情を総合的に考慮すると死刑を選択することがやむを得ないと認められる場合に当たるとはいい難い旨判示しているに過ぎないと主張する。 しかし,法益侵害の観点からも,応報の観点からも,死刑判断の基準において,命を奪われた結果そのものが,相対的に見て他の量刑要素より重視されることは必然であり,また,命を奪われた被害者が複数か否かにより,相対的にその非難の程度に差異が生ずることも否定できないのであり,- 65 -そうであるからこそ,永山事件判決においても,「結果の重大性,ことに殺 り,また,命を奪われた被害者が複数か否かにより,相対的にその非難の程度に差異が生ずることも否定できないのであり,- 65 -そうであるからこそ,永山事件判決においても,「結果の重大性,ことに殺害された被害者の数」とされているのであり,その結果として,命を奪われた被害者が1名の事案で死刑が選択される場合は,被害者が複数である事案で死刑が選択される場合に比べると,他の量刑要素がより悪質な事案であることを要することになり,上記最高裁平成8年9月20日判決もこの理を前提にするものであることは,同判決が,被告人に対し死刑を科した第一審判決を是認した原判決を破棄するに際し,原判決の量刑判断は,あながち理解できなくはないとした上で,「しかし,本件において生命をねらわれた者は3名であるが,結局殺害されたのは1名である。」と説示していることからも推察でき,また,永山事件判決の死刑判断の基準を説示した上で,「殺害された被害者が1名の事案においても,前記のような諸般の情状を考慮して,極刑がやむを得ないと認められる場合があることはいうまでもない。」と説示する上記最高裁平成11年11月29日判決,また,無期懲役とした原判決の判断を破棄するに際し,「以上の諸点を総合すると,本件で殺害された被害者は1名であるが,被告人の罪責は誠に重大」と説示した上記最高裁平成11年12月10日判決も,同じ前提に立っていると理解できる。第一審判決は,本件の量刑判断に先立ち,この当然の理を述べているに過ぎず,本件犯行の結果について,被害児童を陵辱した挙げ句,その尊い一命を奪い,遺族に対して決して癒されることのない甚大な悲しみや苦しみを与えていると正当に指摘していることからも明らかなとおり,本件について,殺害された被害者が1名であるということのみから,被害者が複数の事案に比べて して決して癒されることのない甚大な悲しみや苦しみを与えていると正当に指摘していることからも明らかなとおり,本件について,殺害された被害者が1名であるということのみから,被害者が複数の事案に比べて非難の程度に相当の差異がある- 66 -ものと直ちに結論付けているものなどではない。また,性被害の有無が量刑上重要な意味を持つことは,所論の指摘を待つまでもなく当然のことであり,既に説示したところからも明らかなとおり,第一審判決も同様の見地から量刑判断を行っているものであるところ,所論が引用する最高裁平成20年2月29日判決は,当時19歳の被害者を,強姦目的で逮捕監禁した上,強姦した後,「処置に困った被害者の殺害を決意し」「同女を人気のない場所まで連行し,ガムテープを同女の両手首に巻き付けて後ろ手に縛り,その口にも張り付けて路上に座らせ,その頭から灯油を浴びせ掛けて頭髪にライターで点火し」「同女を全身性の火傷により焼死させて殺害した」事案であり,「意識のある人間の身体に灯油を掛けた上,火を付けて焼き殺すという誠に残虐な方法で同女を殺害した」点が重視されていること,また,この点とともに,被告人が強盗致傷等を犯したことにより「長期の服役を経験したのに」「仮出獄を許されてから,わずか約9か月で本件犯行に至っているのであって,被告人の根深い犯罪性向は更に深化,凶悪化しているといわざるを得ず,改善更生の可能性に乏しいことは明らか」である点も重視されていることがその説示からも明白であり,殺害方法は,柔らかい索状物ないし手指による頚部圧迫というものであり,また,そもそも,証拠上被告人に前科が見当たらない本件と,量刑判断において同様に扱うのが相当な事案とはいい難い。さらに,第一審判決の量刑判断の在り方が誤っているとする所論は,その趣旨が明確ではないが, ,そもそも,証拠上被告人に前科が見当たらない本件と,量刑判断において同様に扱うのが相当な事案とはいい難い。さらに,第一審判決の量刑判断の在り方が誤っているとする所論は,その趣旨が明確ではないが,上記の死刑判断の基準は,各量刑要素を考慮した上,総合判断すべきであるとしていることはいうまでもなく,第一審判決もそのような判断をしているこ- 67 -とは明らかである。 ウ所論は,そもそも,各種の犯罪の中には,一般的な類型として,犯行の計画性を観念できる事案もあれば,もともと衝動的な犯行の類型とされ,計画性が問題視されない事案もあり,例えば,通り魔的な犯罪のように,もともと衝動的な犯行として類型化された犯罪においては,いかに計画性がないことを論じてみても全く意味がないのであり,永山事件判決の死刑選択の判断基準において,犯行の計画性を掲げていないのは,計画性が認められなくとも,罪責が重大な犯罪類型があり得るからにほかならず,仮に,本件が衝動的な事犯であるとするならば,本件は,下校途中の女子小学生である被害児童と言葉を交わしたことに端を発し,衝動的に,被害児童にわいせつ行為をしようとの思いに駆られ,被害児童を殺害するまでに至ったという,いわば通り魔的,無差別的な犯行であって,社会の目からは,それだけでも危険極まりない犯行であり,その一方で,犯人の主観的要素においても,いつ何時幼児に対して異常な性癖を発露させかねない危険性を有していることの表れとしての犯行と評価しなければならないのであり,計画的犯行と比較しても,悪質さにおいて劣るところのない犯罪類型といわなければならず,本件のように,計画性が問題となり得ない犯罪類型において,計画性がないことを死刑回避の1つの理由とする第一審判決の考え方は誤りであり,最高裁平成14年(あ)第73 ない犯罪類型といわなければならず,本件のように,計画性が問題となり得ない犯罪類型において,計画性がないことを死刑回避の1つの理由とする第一審判決の考え方は誤りであり,最高裁平成14年(あ)第730号平成18年6月20日第三小法廷判決・裁判所時報1414号304頁によれば,死刑選択の判断基準を検討するに当たって,殺害行為それ自体の計画性まで必要とされないことは明らかであり,あるいは,殺害自体に計画性があるこ- 68 -とは,死刑選択方向に作用する事情であることは間違いないものの,それは,計画的犯行には,多くの場合,犯意が確定的かつ強固であること,沈着冷静に犯行を遂行する冷酷さがあることなどの諸要素が認められ,それらが犯行の動機,態様の悪質性に影響するからにほかならず,殺害の動機が,わいせつ行為を遂行するためであった本件において,事前の周到な計画性まで認められないとしても,犯意が確定的かつ強固であること,沈着冷静に犯行を遂行する冷酷さがあることなど,犯行の動機,態様が極めて悪質な場合に当たるのであるから,計画的犯行と同様に評価すべきであると主張する。なお,所論は,前記第3の5(2)においても触れたとおり,被告人は,被害児童にうまく接触できれば,わいせつなことをしようと考えていたことは優に推認でき,本件が衝動的な犯行であるとしても,被告人がこのようにあらかじめ考えていたという点では,計画性に類似する悪性を有する,あるいは,事件の全体を総合的に見れば,被告人は,性的対象とする下校途中の女児を待ち受け,たまたま通りかかった被害児童に声を掛けて本件犯行に及んだと見ることも十分可能であるとしており,被告人は,無差別にうまく誘いに乗った幼児にわいせつな行為をすることを企み,被害児童を認めて本件犯行を敢行し,殺害行為をわいせつ行為の手段として 件犯行に及んだと見ることも十分可能であるとしており,被告人は,無差別にうまく誘いに乗った幼児にわいせつな行為をすることを企み,被害児童を認めて本件犯行を敢行し,殺害行為をわいせつ行為の手段として冷徹に利用したものと認められるとも主張している。 まず,第一審判決が説示するとおり,犯行を事前に計画した上で,準備を遂げ,それに従って,長時間犯意を翻すことなく犯行を完遂したという犯人の態度からは,その反社会性,犯罪性の強固さを見て取ることができ,ひいては,犯罪自体の悪質性のほか,犯人の矯正が困難であることを強く- 69 -推認することができることからすれば,上記死刑選択の判断基準においても,計画性は「動機,態様」に含まれる重要な要素となっているというべきであり,このことは,第一審判決が引用する上記最高裁平成11年11月29日判決が,「本件強盗強姦・強盗殺人の犯行において,強盗強姦の点については,計画的犯行であり,犯行遂行意思が強固であったとはいえ,殺人の点については」「それが事前に周到に計画されたものとまではいい難いものがある。」と説示していること,同じく第一審判決が引用する上記最高裁平成11年12月10日判決が,無期懲役とした原判決の判断を破棄するに際し,「本件強盗殺人の計画性が低いと評価することは,相当でない。」と説示していることからも明らかといえるところ,既に繰り返し説示するとおり,本件犯行が衝動的に敢行されたものであることは否定できず,殺害行為のみならず,強制わいせつ行為の点においても,計画性がなく衝動的に行われた疑いが払拭できない事案というほかないとする第一審判決の認定は相当であり,この点は,上記死刑選択の判断基準を検討するに際し,相応に考慮せざるを得ない事情というべきである。所論は,いわゆる通り魔的犯行の が払拭できない事案というほかないとする第一審判決の認定は相当であり,この点は,上記死刑選択の判断基準を検討するに際し,相応に考慮せざるを得ない事情というべきである。所論は,いわゆる通り魔的犯行の場合であれば,計画性がないことを論じてみても全く意味がないとするのであるが,そのような犯行であっても,事前に計画,準備を行い,それに従って犯行を実行に移した場合と,そうでない場合とで,犯情に差異が生じることは自明であり,所論が引用する上記最高裁平成18年6月20日判決も,「強姦を遂げるため被害者を殺害して姦淫し,更にいたいけな幼児までも殺害した各犯行の罪質は甚だ悪質であり,2名の尊い命を奪った結果も極めて重大である。」とした上で,「強姦に- 70 -ついては相応の計画を巡らせていたものの,事前に被害者らを殺害することまでは予定しておらず」「当初から被害者らを殺害することをも計画していた場合と対比すれば,その非難の程度には差異がある。」「しかしながら,被告人は,強姦という凶悪事犯を計画し,その実行に際し,反抗抑圧の手段ないし犯行発覚防止のために被害者らの殺害を決意して次々と実行し,それぞれ所期の目的も達しているのであり,各殺害が偶発的なものといえないことはもとより,冷徹にこれを利用したものであることが明らかである。してみると,本件において殺害についての計画性がないことは,死刑回避を相当とするような特に有利に酌むべき事情と評価するには足りないものというべきである。」と説示しており,上記死刑選択の判断基準の検討に際して,殺害行為の計画性を重要な要素として考慮した上で,強姦を計画し,その実行に際して殺害を冷徹に利用したものと見るべき事案では,なお死刑回避を相当とする事情と評価するには足りないとしているものであることは明らかである。そして,前記第 て考慮した上で,強姦を計画し,その実行に際して殺害を冷徹に利用したものと見るべき事案では,なお死刑回避を相当とする事情と評価するには足りないとしているものであることは明らかである。そして,前記第3の5(2)に説示するとおり,被告人において事前にわいせつ目的があることと,本件犯行が衝動的なものであるとすることとが両立するかのごとき所論の主張は採用できず,被告人が,事前にわいせつ目的を抱いていたと認定するためには,単にその可能性があるというだけでは足りず,事前にそのような目的はなかったのではないか,すなわち,衝動的にわいせつ行為に及んだのではないかという疑いが残らないことまで求められ,このことは量刑上の評価として検討する場合においても何ら異ならないところ,所論は,被告人において事前にわいせつ目的を有していたと見ることも可能であるということに- 71 -とどまり,衝動的にわいせつ行為に及んだのではないかという疑いを排斥できるものではないといわざるを得ず,このように,周到なものであるかどうかを問う以前に,殺害行為についてはもとより,わいせつ行為についても計画性自体を認めることができないのみならず,事前にわいせつ目的があったものとすら認定することができない本件において,動機,態様の悪質さをもって,計画的犯行と同視すべきであるとする主張は採用の余地がなく,さらに,殺害の動機がわいせつ行為を遂行するためであり,沈着冷静に犯行を遂行したとする主張も,前記第3の4(2)のとおり,動機をそのようにまで断ずることまではできず,また,前記2(2)に説示するとおり,本件犯行直後の犯跡隠ぺい行為等の内容からしても,被告人が,相当に動揺し,慌てていたものと推認され,沈着冷静に犯行を遂行したものとまで見ることは困難であり,当を得ていないというべきである。 おり,本件犯行直後の犯跡隠ぺい行為等の内容からしても,被告人が,相当に動揺し,慌てていたものと推認され,沈着冷静に犯行を遂行したものとまで見ることは困難であり,当を得ていないというべきである。 エ所論は,被告人には,ペルー共和国においても幼い女児に対する性犯罪で2回刑事訴追された前歴があり,被告人の幼女への異常な性癖やこの種事犯の犯罪性向の根深さを裏付けるものといえるところ,これらの前歴は,第一審判決が指摘するとおり,あくまでも前科とは異なるが,前科がないことを過大に評価し,死刑を回避する重要な量刑要素とするのであれば行き過ぎであり,本件の量刑を判断する上では軽視できない要素というべきであると主張する。 しかし,前記第2の3(2)イに説示するとおり,そもそも所論の主張の根拠となる前歴関係証拠及び第一審判決後にペルー共和国から受理した被告人の前歴に関する証拠は,刑訴法393条1項本文により取調べをする- 72 -のが相当であると解するのは困難であり,むしろ,これらの証拠をあえて取り調べることは,公判前整理手続を経た第一審の尊重の見地に反しかねないものと考えられること,有罪の判決を受けたという立証がなされていないのに,嫌疑を受けたことだけをもって,量刑上,前科があるのと同様の不利な取扱いをすることは許されないとする第一審判決の説示はもとより正当であるのみならず,前歴に当たる罪を犯していないとして被告人が真っ向から争っている場合に,十分な検討がされているとはいい難く,黙秘権の実質的な保障がされていないのではないかという看過できない疑問も抱かざるを得ないペルー共和国の刑事手続における前歴の存在を,十分な原証拠に当たることもなく,その刑事手続上の書面だけで認定するのが適切とも考えられず,そのような認定に基づいて被告人 できない疑問も抱かざるを得ないペルー共和国の刑事手続における前歴の存在を,十分な原証拠に当たることもなく,その刑事手続上の書面だけで認定するのが適切とも考えられず,そのような認定に基づいて被告人の供述の信用性を判断するのが相当とも考えられず,まして,我が国における前歴と同様のものとして評価し,刑の量定に当たり考慮することが適切であるなどとはいえないことからすると,当裁判所としては,差戻前控訴審において採用された被告人のペルー共和国に関する前歴の証拠(差戻前検22,29,30,32,38,39)については,心証形成上の資料として用いないものとすることにしたのであり,所論は採用の限りではない。 なお,上記死刑選択の判断基準における「前科」について,特に,当該犯行と類似の重大犯罪の前科によって服役した事実がある場合,そのこと自体から,犯人の犯罪傾向の根深さが強くうかがわれ,前刑による長期の服役により,十分な反省の機会が与えられるとともに,厳しい規律のもとで社会性を身に付けるための措置がとられたにもかかわらず,その効果も- 73 -なく,なお同種の重大犯罪を敢行したという点において,犯人の反社会性,犯罪性が,もはや矯正不可能な程度に達していることを容易に推認できることが考慮されたものであり,被害者が1名にとどまる事案において死刑の適用を考慮する場合,犯人の前科の有無,内容は,その反社会性,犯罪性が矯正不可能な程度に達しているかを判断する上での重要な量刑要素になるというべきであるとする第一審判決の説示は,それ自体正当ということができ,殺害された者が1名であることを明示した上で,死刑を選択することがやむを得ないと認められる場合に当たるとはいい難いという判断に至る際に考慮した要素として,「被告人には前科がなく,特段の問題行動もなく 害された者が1名であることを明示した上で,死刑を選択することがやむを得ないと認められる場合に当たるとはいい難いという判断に至る際に考慮した要素として,「被告人には前科がなく,特段の問題行動もなく社会生活を送ってきたこと」を説示している上記最高裁平成8年9月20日判決や,「以上の諸点を総合すると,本件で殺害された被害者は1名であるが,被告人の罪責は誠に重大」とし,無期懲役とした原判決の判断を破棄するに際し,「被告人は、強盗殺人罪により無期懲役に処せられて服役しながら,その仮出獄中に再び本件強盗殺人の犯行に及んだものであり,この点は,非常に悪質であるというほかない。」と説示する上記最高裁平成11年12月10日判決,さらには,被害者1名の殺人等の事案で,死刑の判断を是認して上告を棄却するに際し,被告人が強盗致傷等を犯したことにより「長期の服役を経験したのに」「仮出獄を許されてから,わずか約9か月で本件犯行に至っているのであって,被告人の根深い犯罪性向は更に深化,凶悪化している」と説示している上記最高裁平成20年2月29日判決に照らしても,相当ということができ,本件において,検察官の所論を前提としても,被告人にこのような形で考慮すること- 74 -ができる前科が証拠上存在しないことも明らかである。 オ所論は,第一審判決が,被告人について,犯行の計画性及び前科のいずれの点においても,被告人に矯正不可能な程度までの反社会性,犯罪性があると裏付けられたと言い切るには足りないとした点について,計画性の有無が矯正可能性の有無を判断する1つの要素であることは間違いないとしても,それが,死刑適用の判断に当たって重要な要素とまではいえないことは,上記最高裁平成20年2月29日判決が,「本件犯行が周到な計画に基づくものではない」としながらも 素であることは間違いないとしても,それが,死刑適用の判断に当たって重要な要素とまではいえないことは,上記最高裁平成20年2月29日判決が,「本件犯行が周到な計画に基づくものではない」としながらも,改善更生の可能性に乏しい理由としては,被告人の前科,前歴を挙げていることからも明らかなところであり,また,被告人が,我が国に入国したのは本件の約1年7か月前のことであり,この間被告人には我が国における前科がないことをもって,直ちに矯正不可能な程度の反社会性,犯罪性があると裏付けられたと言い切るには足らないというのは皮相的に過ぎ,被告人のペルー共和国での前歴や,被告人も子を持つ親であり,子供にかける親の愛情の深さを知りながらもあえて本件凶行を敢行したこと,被告人に反省悔悟の情は微塵も感じられないことに照らし,被告人の反社会的性格,性向の矯正改善は極めて困難であるというしかないと主張する。 しかし,被告人のペルー共和国における前歴の存在を前提として主張する所論は,その前提を欠き,また,所論が引用する上記最高裁平成20年2月29日判決は,既に繰り返し触れているとおり,被告人が強盗致傷等を犯したことにより「長期の服役を経験したのに」「仮出獄を許されてから,わずか約9か月で本件犯行に至っているのであって,被告人の根深い- 75 -犯罪性向は更に深化,凶悪化しているといわざるを得ず,改善更生の可能性に乏しいことは明らか」であると説示するものであり,本件における被告人について,これと同視できる事情は見当たらない。そして,第一審判決が正当に指摘するとおり,証拠上,被告人は,我が国のみならずペルー共和国においても前科が見当たらないという以外にないのであるから,ことさら我が国に入国してからの期間のみを問題とすることも当を得ないものであ 指摘するとおり,証拠上,被告人は,我が国のみならずペルー共和国においても前科が見当たらないという以外にないのであるから,ことさら我が国に入国してからの期間のみを問題とすることも当を得ないものであり,被告人が衝動的に犯行に及んだことを否定できない以上,子供にかける親の愛情の深さを知りながらもあえて犯行に及んだとまでは断じ得ず,そもそも,子供を持つ親である者が,他人の子を殺害した場合に,親の愛情の深さを知りながらもあえて犯行に及んだものであるとして,子供を持つ親ではない者が殺害した場合よりも,子供を持つ親であるということそれ自体により責任が加重されるというのであれば,相当とはいい難く,被告人の反省の態度が,到底十分なものといえないことは明らかであるものの,他方で,所論主張の如く,反省悔悟の情が微塵も感じられないとまで断ずることもできないことは上記2(4)に説示したとおりであり,上記ウ及びエの点も踏まえるなら,犯行の計画性及び前科のいずれの点においても,被告人に矯正不可能な程度までの反社会性,犯罪性があると裏付けられたと言い切るには足りないとした第一審判決に誤りはないというべきである。 (4)弁護人の所論について弁護人の所論は,被告人の供述を前提にして,殺害行為の態様は,口,鼻,頚部付近に両手を置いただけであり,本件犯行当時の被告人にはわいせつ目- 76 -的も殺意もなく,被害児童の死体を遺棄したのは犯跡隠ぺいのためではなく,ガスコンロを隠したりもしておらず,広島を離れたのも逃走目的ではなかったなどと主張するほか,犯行態様はそれほど悪質とはいえず,計画性はなく,被告人なりに被害児童を死に至らしめたことを反省悔悟しており,被告人に前科はなく,被告人を愛し助けようとする兄弟姉妹,妻子,母親がおり,また,被告人の 行態様はそれほど悪質とはいえず,計画性はなく,被告人なりに被害児童を死に至らしめたことを反省悔悟しており,被告人に前科はなく,被告人を愛し助けようとする兄弟姉妹,妻子,母親がおり,また,被告人の生育環境には同情の余地があり,この生育環境が人格形成に影響を与えた可能性は大きく,犯行の遠因となっている疑いもあり,さらに,被告人は既に長期間にわたり勾留されており,被告人は,受刑後ペルーに強制送還されることになるのであるから,日本で再犯を犯すことは物理的に不可能であり,被告人の懲役刑を継続することによる特別予防の効果はなく,被告人を社会内処遇で受け入れるかどうかは,できるだけペルー共和国の国家的判断に委ねるべきであるなどと主張し,第一審判決が,「量刑の理由」の項5において,裁判所の希望として,仮釈放の運用について可能な限り慎重な運用がなされるよう付言しているのは,裁判所の職務の範囲を超えていると主張する。 しかし,既に説示したところからすると,被告人の供述を前提とする所論の主張は,いずれも採用できず,また,第一審判示第2及び第3の各犯行の態様が,それほど悪質ではないとする主張には到底与し得ず,さらに,その他所論が主張するところを十分に考慮しても,被告人に対して有期懲役刑に処するのを相当とすべきほどに,第一審判示第2及び第3の各犯行の刑責を軽減する事情を見出すことはできない。なお,刑の執行及び運用に関しては,裁判所の権限外の事項であるにもかかわらず,第一審裁判所が,上記のとお- 77 -り希望という形をとっているとはいえ,仮釈放の運用について言及しているのは,必ずしも適切とはいえないといわざるを得ないが,この付言の存在故に量刑判断が不当になっているとはおよそ認め難い。 以上のとおりであり,検察官及び弁護人の各所論を 用について言及しているのは,必ずしも適切とはいえないといわざるを得ないが,この付言の存在故に量刑判断が不当になっているとはおよそ認め難い。 以上のとおりであり,検察官及び弁護人の各所論を踏まえて検討しても,被告人を無期懲役に処した第一審判決の量刑は相当であり,その量刑が軽過ぎて不当であるといえないとともに,これが重過ぎて不当であるともいえない。 各論旨はいずれも理由がない。 よって,刑訴法396条により本件各控訴をいずれも棄却することとし,差戻前の控訴審及び上告審並びに当審で生じた訴訟費用を被告人に負担させないことについて同法181条1項ただし書を適用し,主文のとおり判決する。 平成22年8月2日広島高等裁判所第1部裁判長裁判官竹田隆裁判官野原利幸裁判官結城剛行
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