平成26(ワ)2193 損害賠償等請求事件

裁判年月日・裁判所
平成31年4月11日 札幌地方裁判所
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判決文本文48,139 文字)

主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求 被告は,原告らに対し,各1万円を支払え。 第2 事案の概要等 1 事案の概要本件は,平成16年法律第163号(以下「平成16年改正法」という。)による裁判所法の改正(以下「平成16年改正」という。)により,改正前の裁判所法 67条2項本文が定めていた,司法修習生が,修習の期間中,国庫から一定額の金員の支給を受ける制度(以下「給費制」という。)が廃止されたことについて,66期司法修習生であった原告らが,それぞれ,被告に対し,①給費制の廃止は,憲法14条1項,25条1項,27条1項及び2項に違反し無効であるから,上記改正前の裁判所法67条2項本文はなお現存すると主張して,同条項に基づき, 現行65期司法修習生に対する支給額と同額の支給額(237万2480円)のうち1万円の支払を請求するとともに,選択的に②給費制を廃止する立法をしたこと,及び,これを復活させる立法をしなかったことが,それぞれ国家賠償法1条1項の適用上違法であり,それにより得べかりし支給額237万2480円及び慰謝料100万円の損害を負ったと主張して,同項に基づく国家賠償請求とし て,上記損害額のうち1万円の支払を請求した事案である。 2 前提事実(証拠の掲記のない事実は争いがない事実であり,証拠の掲記のある事実は当該証拠から容易に認められる事実である。)⑴ 統一的な法曹養成制度及び給費制の創設ア統一的な法曹養成制度の創設 大日本帝国憲法下において,法曹の養成は,裁判所構成法が定める判事 及び検事の養成のための司法官試補の制度と,弁護士法が定める弁護士の養成のための弁護士試補の制度に 成制度の創設 大日本帝国憲法下において,法曹の養成は,裁判所構成法が定める判事 及び検事の養成のための司法官試補の制度と,弁護士法が定める弁護士の養成のための弁護士試補の制度に分かれていた。 日本国憲法下において,法曹養成が一元化されることになった。すなわち,昭和22年4月16日に公布し,同年5月3日に施行された裁判所法(昭和22年法律第59号。以下「昭和22年裁判所法」という。)66条 1項は,最高裁判所が司法修習生を高等試験司法科試験に合格した者の中から命ずる旨を定め,これにより,裁判官,検察官又は弁護士のいずれになるかを問わず,同一の修習を行う統一的な法曹養成制度(統一司法修習制度)が開始された。司法修習生は,修習の後,試験(以下「考試」という。)に合格して初めて修習を終え(同法67条1項),判事補,検事又は 弁護士となる資格を取得することとされた(同法43条,検察庁法18条1項1号,弁護士法4条)。 その後,昭和24年法律第177号により,司法修習生は司法試験に合格した者の中から最高裁判所がこれを命ずることとされた。 イ給費制の創設 昭和22年裁判所法67条2項は,「司法修習生は,その修習期間中,国庫から一定額の給与を受ける。」と規定し,給費制を定めた(以下,法令の文言に従い,給費制における支給を「給与」ということがあるが,これが勤労を前提とするものか否かについては争いがある。)。給費制において,司法修習生は,一般職の国家公務員の例に準じて,給与(現行65期司法修習生の支 給額は平成24年3月31日までは月額20万4200円,同年4月1日以降は月額19万4460円)及び各種手当(扶養手当,調整手当,住居手当,通勤手当,期末手当及び勤勉手当)の支給を受け,裁判所共済組合への加 成24年3月31日までは月額20万4200円,同年4月1日以降は月額19万4460円)及び各種手当(扶養手当,調整手当,住居手当,通勤手当,期末手当及び勤勉手当)の支給を受け,裁判所共済組合への加入も認められていた。 平成10年法律第50号により,同項ただし書として,「ただし,修習のた め通常必要な期間として最高裁判所が定める期間を超える部分については, この限りでない。」と定められたことにより,司法修習生は,考試に合格しなかった場合,司法修習生の身分を直ちには失わないが,続く修習期間中は同項本文が定める支給を受けられないこととなった。 ⑵ 司法修習制度の概要ア採用年度別の呼称 司法修習生は,司法試験に合格後,最高裁判所から司法修習生として採用されるが,採用の年度により期で区別して呼称される。 また,60期から65期までについては,平成14年法律第138号による改正前の司法試験(以下,同法附則7条1項に定める試験を含め「旧司法試験」という。)と同改正後の司法試験(以下「新司法試験」という。)が併 存していたため,旧司法試験合格者として司法修習生となった者の期には「現行」が,新司法試験合格者として司法修習生となった者の期には「新」が付される。 イ修習期間昭和22年裁判所法67条1項は,少なくとも2年間修習をした後試験に 合格したときは,司法修習生の修習を終える旨定め,このうち修習期間については,平成10年法律第50号により1年6月間に,平成14年法律第138号により1年間に改められた。 原告らは66期司法修習生であった者らであるところ,同期の司法修習は,平成24年11月27日から平成25年12月まで行われた。 ウ修習内容の概要司法修習生は,全国各地の実務修習 原告らは66期司法修習生であった者らであるところ,同期の司法修習は,平成24年11月27日から平成25年12月まで行われた。 ウ修習内容の概要司法修習生は,全国各地の実務修習庁(裁判所,検察庁及び弁護士会)に配属され,裁判修習(民事裁判修習及び刑事裁判修習),検察修習及び弁護修習(以下「分野別実務修習」という。分野別実務修習中には,司法研修所による一斉起案及び司法研修所の教官による出張講義もある。)を各2か月行 った後,司法修習生が自ら修習内容を選択して行う修習(以下「選択型修習」 という。)及び埼玉県和光市所在の司法研修所における修習(以下「集合修習」という。)を行う。このような司法修習の構成は,給費制の前後で変わらない。 司法修習は,実務修習においては,配属庁や配属された指導担当弁護士によって差はあるが,おおむね原則として平日午前9時から午後5時まで行わ れ,集合修習も,平日午前9時から午後5時まで行われていた。 エ司法修習生の修習目的司法修習生の修習目的は,「高い識見と円満な常識を養い,法律に関する理論と実務を身につけ,裁判官,検察官又は弁護士にふさわしい品位と能力を備える」ことにある(司法修習生に関する規則4条)。 オ司法修習生の身分,権限司法修習生は公務員ではない。 また,司法修習生には,公務であるか否かを問わず,法令上,職務に関する権限は与えられていない。 司法修習生は,考試に合格し修習を終えても,判事補及び検事の任命資 格を取得するにとどまり,これらの官職に任命されるとは限らない。 カ司法修習生の義務及び負担統括・監督司法修習生は,修習の全期間を通じて,修習に関して,司法研修所長の統括に服し(司法修習生に関する規則1条),実務修習期間 職に任命されるとは限らない。 カ司法修習生の義務及び負担統括・監督司法修習生は,修習の全期間を通じて,修習に関して,司法研修所長の統括に服し(司法修習生に関する規則1条),実務修習期間中は,配属地 の高等裁判所長官,地方裁判所長,検事長,検事正又は弁護士会長の監督を受ける(同規則8条)。 修習専念義務司法修習生は,修習期間中,修習に専念すべき義務(以下「修習専念義務」という。)を負う(裁判所法67条2項)。 兼職禁止 司法修習生は,最高裁判所の許可を受けなければ,公務員となり,又は他の職業に就き,若しくは財産上の利益を目的とする業務を行うことができない(司法修習生に関する規則2条)。 守秘義務司法修習生は,修習にあたって知った秘密を漏らしてはならない(司法 修習生に関する規則3条)。 罷免等司法修習生は,上記義務に違反した場合,最高裁判所により,罷免され,修習の停止を命じられ,あるいは戒告され得る(裁判所法68条2項,司法修習生に関する規則17条2項)。 転居の負担分野別実務修習の配属先は,司法修習生の希望に沿わないこともあり,転居を要する場合もある。また,集合修習も,埼玉県和光市所在の司法研修所で行われるため,転居を要する場合がある。集合修習中の転居先としては司法研修所の寮があるが,入寮抽選に外れた場合には,自ら住居を確 保する必要がある。 ⑶ 平成16年改正(給費制の廃止及び貸与制への移行)ア司法制度改革審議会における議論(甲13~25,乙4~7)平成11年7月,司法制度改革審議会設置法に基づき,内閣に司法制度改革審議会(以下「審議会」という。)が設置された。 審議会においては,社会の複雑化や多様化,国際化に加え,規制緩和 7)平成11年7月,司法制度改革審議会設置法に基づき,内閣に司法制度改革審議会(以下「審議会」という。)が設置された。 審議会においては,社会の複雑化や多様化,国際化に加え,規制緩和などの改革により,「事前規制型」から「事後監視・救済型」に移行するなどの社会変化に伴って司法の役割がより一層重要なものになると考えられること,司法が国民の権利の実現を図るとともに,基本的人権を擁護するなど,国民生活にとって極めて重要な役割を果たしていることに鑑みて, 司法制度改革の必要があるとして,21世紀の日本社会において司法が果 たすべき役割を明らかにし,国民がより利用しやすい司法制度の実現,国民の司法制度への関与,法曹の在り方とその機能の充実強化その他の司法制度の改革と基盤の整備に関し必要な基本的施策について調査審議することとされた。 審議会は,平成12年11月20日,その中間報告において,司法制度 改革の3つの柱の1つである人的基盤の拡充に関し,今後,国民生活の様々な場面で法曹に対する需要の多様化,高度化の予想,日本の法曹人口は先進諸国と比べて極めて少ないことから,国民と司法とをつなぐ法曹の質と量の拡充・強化を図るため,計画的になるべく早期に,年間3000人程度の新規法曹の確保を目指す必要があるとした。また,同報告では, 法曹人口の大幅増員にふさわしい法曹養成制度の整備が不可欠であり,法科大学院を基幹的な高等専門教育機関として,法学教育,司法試験,司法修習を有機的に連携させたプロセスとしての法曹養成制度を新たに整備すべきであることが指摘された。 平成13年3月2日の第50回会議では,経済界からの指摘として,現 行の司法修習は,修習期間の長さが適切か,修習内容が適切か,給費制は必要か等,様々な疑 備すべきであることが指摘された。 平成13年3月2日の第50回会議では,経済界からの指摘として,現 行の司法修習は,修習期間の長さが適切か,修習内容が適切か,給費制は必要か等,様々な疑問があり,抜本的な見直しが必要である,法曹人口は市場が決定すべきものであり,競争原理を導入すれば質も自ずと確保できる,年間3000人の養成では極めて不十分であり,1万2000人の養成を目指すべきであるという指摘があったことが紹介された。また,大学 界からの指摘として,法科大学院への財政的措置は一過性のものであってはならず,大学改革にふさわしいものであるべきであり,設置の見返りに特段の財政的・人員的措置が保障されない限り,法科大学院の設置は凍結されるべきであるという指摘があったことが紹介された。 平成13年4月24日の第57回会議では,委員の一人から,給費制は 廃止する方向で進めることを希望する,給費制に代わるものとして,奨学 金を充実させ,例えば,法曹になった後,なかなか人が行かないところに積極的に行くというような場合に返還を免除する規定を置くとか,優秀な人に対しては給付奨学金を与えるとか,いろいろなことで対応できる部分があると思う,ただし,司法修習のときに地方へ行くので,住宅費の補填だけは必要とは思っている,3000人,4000人となるのであるから, 思い切ってそこのところの検討をお願いしたい,という趣旨の意見が述べられた。これを受けて,別の委員から,その議論は当然しないといけないことになる,その場合も,いきなり廃止して奨学金にするという考え方もあれば,もう少し穏やかに一定の補助を与える,給与や賞与を与えるという今の制度ではなく中間的なアプローチもある,そういうことを含めて考 える必要があるだろうという趣 奨学金にするという考え方もあれば,もう少し穏やかに一定の補助を与える,給与や賞与を与えるという今の制度ではなく中間的なアプローチもある,そういうことを含めて考 える必要があるだろうという趣旨の意見が述べられた。 これらに対して,委員の一人からは,勉強しながら月給をもらうのはけしからんというのは非常に素朴に理解できるが,法の支配の思想の社会への浸透とか,公益性とかを考えてのことだろうと思う,現実論として心配するのは,法科大学院で2年ないし3年,更に修習で1年か1年半余分に かかるため,現状と比べて条件がかなり厳しくなってきており,行政官優位のフランスでは,優秀な人材は行政官に集まると言われているが,優秀ではない人材ばかり法曹界に来ることになると,一番被害を受けるのは国民であり,弁護士であろうと思う,そういう意味で人材の各分野への適正な配分ということを考えると,手厚い配慮をするということも考慮に入れ た上で制度を考えた方がいいのではないかという趣旨の意見が述べられた。 これに対して,別の委員から,いろいろな負担を負っている人についても,法科大学院の枠組みの中で十分な配慮をしていくという趣旨の意見が述べられた。 審議会は,平成13年6月12日,その意見書において,給費制の在り 方について,将来的には貸与制への切替えや廃止をすべきではないかとの指摘があったこと,新たな法曹養成制度全体の中での司法修習の位置付けを考慮しつつ,その在り方を検討すべきであることを指摘し,また,司法関連予算に関しては,裁判所,検察庁等の人的体制の充実を始め,今般の司法制度改革を実現するためには,財政面での十分な手当が不可欠である ため,政府に対して,司法制度改革に関する施策を実施するために必要な財政上の措置について,特 等の人的体制の充実を始め,今般の司法制度改革を実現するためには,財政面での十分な手当が不可欠である ため,政府に対して,司法制度改革に関する施策を実施するために必要な財政上の措置について,特段の配慮がなされるよう求めるとした。 イ司法制度改革推進本部における議論(乙8,9)平成13年11月,司法制度改革推進法が制定された。 同法の基本理念は,国民が容易に利用できるとともに,公正かつ適正な 手続の下,より迅速,適切かつ実効的にその使命を果たすことができる司法制度を構築し,高度の専門的な法律知識,幅広い教養,豊かな人間性及び職業倫理を備えた多数の法曹の養成及び確保その他の司法制度を支える体制の充実強化を図り,並びに国民の司法制度への関与の拡充等を通じて司法に対する国民の理解の増進及び信頼の向上を目指し,もってより自 由かつ公正な社会の形成に資することを基本として行われるものとすることとされた(同法2条)。 また,同法では,司法制度を支える体制を充実強化させるため,法曹人口の大幅な増加,裁判所,検察庁等の人的体制の充実,法曹養成のための教育を行う大学院に関する制度の整備その他の法曹養成のための制度の 見直し,裁判官,検察官及び弁護士の能力及び資質の一層の向上のための制度の整備等を図ることが基本方針の1つとされた(同法5条2号)。 平成13年12月,審議会の意見書を受けて,司法制度改革推進法に基づき,内閣総理大臣を本部長とする司法制度改革推進本部(以下「推進本部」という。)が設置された。 平成14年3月19日,閣議決定として,司法制度改革推進計画(以下 「推進計画」という。)が策定された。 推進計画では,現在の法曹人口が日本社会の法的需要に十分に対応できていない状況にあること,今後も法 19日,閣議決定として,司法制度改革推進計画(以下 「推進計画」という。)が策定された。 推進計画では,現在の法曹人口が日本社会の法的需要に十分に対応できていない状況にあること,今後も法的需要が増大すると予想されることから,法曹人口の大幅な増加が急務となっていることを踏まえ,新たな法曹養成制度の整備の状況等を見定めながら,平成22年頃には司法試験の合 格者数を年間3000人程度とすることを目指すとされた。 また,同計画において,法曹養成について,多様かつ優秀な人材確保の見地から法科大学院を設置し,法学教育,司法試験,司法修習を有機的に連携させた新たな法曹養成制度を整備すること,司法修習生の増加に実効的に対応するとともに,司法修習内容等について検討を加えること,合わ せて司法修習生の給費制の在り方について検討を行うこととされた。 ウ法曹養成検討会における議論(乙10~22)推進本部の下には,法曹養成検討会(以下「検討会」という。)が置かれ,給費制の在り方を含む法曹養成制度に関する議論が行われた。 検討会においては,司法修習生を年間3000人程度まで増加させること, その場合の給費制の維持には少なくとも50億円以上の予算増強が必要となるが,司法制度改革の他の施策に相当な予算措置を必要とする中,財政支出の合理化が求められること,他国の法曹養成制度との比較,他の高等専門職育成プロセスとのバランス,給費制に対する国民感情,司法修習以前の教育課程についての奨学金による負担軽減,司法修習生の将来の返済能力,修 習専念義務の意義と給費制との関係,給費制を維持すべきとする下記主張から論理必然的に給費制維持となるわけではないこと,貸与制の内容次第では移行も考えられること,貸与金の返還免除・猶予の制度を設けることも考 義務の意義と給費制との関係,給費制を維持すべきとする下記主張から論理必然的に給費制維持となるわけではないこと,貸与制の内容次第では移行も考えられること,貸与金の返還免除・猶予の制度を設けることも考えられることなどが議論された。議論の中では,財政制度等審議会において,国家公務員の身分を持たない者に対する給与支給は極めて異例であり,公費 の在り方が厳格に問われるようになった今日,説明が困難である,司法修習 は個人が法曹資格を取得するためのものであり,受益者負担論からは,司法修習生が費用負担するのが筋である,給費制は法曹人口が希少であった戦後間もなく導入されたものであるが,法曹人口に係る情勢は大きく変化し,現下の厳しい社会経済情勢や各種の公的給与・給付の見直し等に照らしても妥当とはいえないなどの考えから,貸与制への移行を求める建議がされたこと が紹介された。 一方,給費制の維持を求める立場からは,他国の法曹養成制度との比較,研修医制度との比較,防衛医科大学等の学生との比較,法曹養成の特殊性,給費制の歴史的経緯,法曹になる者の社会階層が限定されないようにすべきであること,司法修習生の経済的負担,修習専念義務の意義と給費制との関 係,質の良い法曹を大量に増やしたいというのであれば,国家予算として相当の覚悟をすべきであることなどが議論された。 検討会においては,賛否双方の立場から議論がされたが,最終的に,少数意見はあるが,給費制を見直し,貸与制に移行する方針がまとめられた。 エ国会の審理経過(乙23~27) 概要検討会の検討結果を受けて,平成16年第161回国会に,給費制を廃止して貸与制を新設することなどを内容とする「裁判所法の一部を改正する法律案」が提出された。 衆議院法務委員会においては,平成 要検討会の検討結果を受けて,平成16年第161回国会に,給費制を廃止して貸与制を新設することなどを内容とする「裁判所法の一部を改正する法律案」が提出された。 衆議院法務委員会においては,平成16年11月24日及び同月26日, 上記法律案に関する質疑が行われ,同日,同法律案の施行期日に関する修正を内容とする修正案が提出され,上記法律案及び上記修正案は,全会一致で可決された。上記可決後,附帯決議案が提出され,全会一致で可決された。修正後の法律案は,同月30日,衆議院本会議で賛成多数により可決された。参議院法務委員会においては,同年12月1日,同案について 質疑が行われ,上記修正後の法律案は賛成多数で可決された。その後,同 委員会において附帯決議案が提出され,賛成多数で可決された。修正後の法律案は,同月3日,参議院本会議において賛成多数により可決され,平成16年改正法は,同月10日公布された(平成16年改正)。 衆議院法務委員会及び参議院法務委員会における議論の概要衆議院法務委員会及び参議院法務委員会における議論の概要は,次のと おりである。 法務大臣からは,法曹を質,量ともに充実させるため,司法修習生の大幅な増加が求められており,また,司法制度改革を実現していくに当たっては,国民の負担を伴うことについて国民の理解を得る必要がある状況に鑑みると,今後もさらに国民の負担を増やして給費制を維持することにつ いて,国民の理解を得ることは困難であり,司法修習生が修習に専念できる環境を確保しながら,給費制を貸与制に切り替える必要がある旨の答弁がされた。 推進本部事務局長からは,司法制度改革に係る財政負担について国民の理解を得る必要があり,給費制については,給費制の創設当初の司法修習 生が200名 に切り替える必要がある旨の答弁がされた。 推進本部事務局長からは,司法制度改革に係る財政負担について国民の理解を得る必要があり,給費制については,給費制の創設当初の司法修習 生が200名台であったのに対して,司法修習生が大幅に増加していること,公務員ではなく公務にも従事しない者に国が給与を支給するのは異例の制度であり,給費制に対して様々な批判もあったことなどの状況を総合的に勘案し,給費制を維持することについて国民の理解を得ることは困難であり,貸与制に移行することにしたものであり,単に財政事情が厳しい からというだけではなく,司法制度改革を実現するために財政資金をより効率的に投入する趣旨から貸与制に移行する旨の答弁がされた。 上記答弁のうち,司法修習生の大幅な増加の点については,政府参考人から,年間3000人程度に増やす旨の説明がされていた。 政府参考人からは,法曹は非常に公的な仕事をするものであり,国庫で 修習を行うという理念は非常に大切であり,この点はこれからもずっと守 っていきたいが,給費制か貸与制かは別の配慮で行っていくという趣旨の説明がされた。 一方,貸与制への移行に慎重な立場の委員からは,検討会における指摘と同様の観点からの指摘などがされた。 附帯決議の内容 衆議院法務委員会の附帯決議は,政府並びに最高裁判所が平成16年改正法の施行に当たり格段の配慮をすべき事項として,①修習資金の額については,法曹の使命の重要性や公共性に鑑み,高度の専門的能力と職業倫理を備えた法曹を養成する見地から,引き続き,司法修習生が修習に専念することができるよう,必要かつ十分な額を確保すること,②修習資金の 返還の期限については,返還の負担が法曹としての活動に影響を与えることがないよう,必要か ,引き続き,司法修習生が修習に専念することができるよう,必要かつ十分な額を確保すること,②修習資金の 返還の期限については,返還の負担が法曹としての活動に影響を与えることがないよう,必要かつ十分な期間を確保するとともに,司法修習を終えてから返還を開始するまでに,一定の据置期間を置くこと,③給費制の廃止及び貸与制の導入によって,統一・公平・平等という司法修習の理念が損なわれることがないよう,また,経済的事情から法曹への道を断念する 事態を招くことのないよう,法曹養成制度全体の財政支援の在り方も含め,関係機関と十分な協議を行うこととした。 参議院法務委員会の附帯決議は,政府及び最高裁判所が格段の配慮をすべき事項として,上記①ないし③に加えて,④新司法試験については,法科大学院における教育及び司法修習との連携によるプロセスとしての新し い法曹養成制度の理念と成立の経緯を踏まえた実施を図ることを追加した。 オ平成16年改正の内容給費制の廃止平成16年改正は,昭和22年裁判所法67条2項について,給費制を定める文言を削除し,給費制を廃止した。 貸与制の創設 a 平成16年改正は,裁判所法に新たに67条の2を設け,次のとおり,修習資金の貸与に関する制度(以下「貸与制」という。)を定めた。 ⒜ 1項最高裁判所は,司法修習生の修習のため通常必要な期間として最高裁判所が定める期間,司法修習生に対し,その申請により,無利息で, 修習資金(司法修習生がその修習に専念することを確保するための資金をいう。以下この条において同じ。)を貸与するものとする。 ⒝ 2項修習資金の額及び返還の期限は,最高裁判所の定めるところによる。 ⒞ 3項 最高裁判所は,修習資金の貸与を受けた者が災害, 。以下この条において同じ。)を貸与するものとする。 ⒝ 2項修習資金の額及び返還の期限は,最高裁判所の定めるところによる。 ⒞ 3項 最高裁判所は,修習資金の貸与を受けた者が災害,傷病その他やむを得ない理由により修習資金を返還することが困難となったときは,その返還の期限を猶予することができる。この場合においては,国の債権の管理等に関する法律(昭和31年法律第114号)26条の規定は,適用しない。 ⒟ 4項最高裁判所は,修習資金の貸与を受けた者が死亡又は精神若しくは身体の障害により修習資金を返還することができなくなったときは,その修習資金の全部又は一部の返還を免除することができる。 ⒠ 5項 前各項に定めるもののほか,修習資金の貸与及び返還に関し必要な事項は,最高裁判所がこれを定める。 b 最高裁判所は,平成21年,司法修習生の修習資金の貸与等に関する規則(平成21年最高裁判所規則第10号)を定め,貸与制の内容を,次のとおり定めた。 ⒜ 資力要件は課さない。 ⒝ 利息は付さない。ただし,返還期限を経過したときは,年14.5%の延滞利息が付される。 ⒞ 貸与額(月額)は,次のとおりである。 ① 基本額23万円 ② 扶養家族があるか,住居を賃借する場合25万5000円③ 扶養家族があり,かつ,住居を賃借する場合28万0000円④ 基本額未満の額の貸与を希望した場合 18万0000円⒟ 自然人2人又は指定金融機関の連帯保証を要する。 ⒠ 修習期間終了後5年間据え置き,その後10年間以内に分割返還する。繰上返還をすることも可能である。 ⒡ 災害,傷病その他やむを得ない理由により返還することが困難とな の連帯保証を要する。 ⒠ 修習期間終了後5年間据え置き,その後10年間以内に分割返還する。繰上返還をすることも可能である。 ⒡ 災害,傷病その他やむを得ない理由により返還することが困難とな ったときは,返還を猶予される。 ⒢ 貸与を受けた者の死亡又は精神若しくは身体の障害により返還することができなくなったときは,返還を免除される。 修習専念義務平成16年改正法は,裁判所法に新たに67条2項として,「司法修習 生は,その修習期間中,最高裁判所の定めるところにより,その修習に専念しなければならない。」旨,修習専念義務を定めた。 施行期日平成16年改正法は,当初提出された法律案では,平成18年11月1日から施行することとされていたが,国会における審議を経て,十分な周 知期間を確保するなどの趣旨も踏まえた上で,平成22年11月1日から 施行することとされた。 ⑷ 平成22年改正(貸与制への移行の延期)ア法曹養成制度に関する検討ワーキングチームにおける議論(乙28)新司法試験が平成18年度から開始したが,法曹志望者は減少した。 そこで,平成22年,法曹養成制度の問題点の検証及び対策の検討のため, 法務省及び文部科学省によって,両省の副大臣が主宰する法曹養成制度に関する検討ワーキングチーム(以下「ワーキングチーム」という。)が設置された。 ワーキングチームは,平成22年7月6日付けで「法曹養成制度に関する検討ワーキングチームにおける検討結果(取りまとめ)」を公表した。そこで は,給費制廃止に懸念を示す意見として,司法修習生になるまでに多額の経済的負担が必要となる,給費制が廃止されれば,優れた資質を備えた多様な人材が経済的な事情から法曹を志すことを断念せざるを得なくなる事態が拡大 止に懸念を示す意見として,司法修習生になるまでに多額の経済的負担が必要となる,給費制が廃止されれば,優れた資質を備えた多様な人材が経済的な事情から法曹を志すことを断念せざるを得なくなる事態が拡大することが避けられないなどの意見が紹介された。一方,給費制廃止に賛成する意見として,貸与制の導入は,審議会以来の様々な議論を経て導入さ れたものである,給費制を存続するためには国民的理解が必要ではないか,貸与制の具体的な内容を見ても返済の負担が過大とはいえないのではないかなどの意見が紹介された。 イ国会の審理経過(乙29~32)平成22年10月1日に招集された第176回臨時国会の衆議院法務委 員会においては,昨今の法曹志望者が置かれている厳しい経済状況に鑑み,それらの者が経済的理由から法曹になることを断念することがないよう,法曹養成制度に対する財政支援の在り方について見直しを行うことが緊要な課題となっている旨の説明がされ,平成23年10月31日までの間,暫定的に貸与制を開始せず,給費制を維持することとする法律案を同委員会の提 出法律案とする旨が全会一致で決議された。同法律案は,平成22年11月 25日の衆議院本会議で賛成多数により可決され,同日の参議院法務委員会でも賛成多数で可決され,同月26日の参議院本会議において賛成多数で可決され,平成22年法律第64号は,同年12月3日,公布,施行され,貸与制への移行が平成23年10月31日まで延期された(以下「平成22年改正」という。)。 ⑸ 貸与制の開始平成23年11月から修習を開始した新65期司法修習生から,貸与制が開始した。 ⑹ 平成24年改正(貸与制における返還猶予要件の緩和)ア法曹の養成に関するフォーラムにおける議論(乙33,34) 年11月から修習を開始した新65期司法修習生から,貸与制が開始した。 ⑹ 平成24年改正(貸与制における返還猶予要件の緩和)ア法曹の養成に関するフォーラムにおける議論(乙33,34) 平成23年5月13日,内閣官房長官,総務大臣,法務大臣,財務大臣,文部科学大臣,経済産業大臣の申合せにより,平成22年改正に当たって格段の配慮がされるべきとされた事項についての検討をすることなどを目的とした「法曹の養成に関するフォーラム」(以下「フォーラム」という。)が設置された。 フォーラムでは,給費制の廃止に賛成する意見として,貸与制の内容からすれば司法修習に専念できる環境の確保がされていると考えられること,弁護士の所得の減少についても,所得の減少傾向は国民一般にいえるし,減少を踏まえても弁護士の所得は国民の一般のそれに比べて高水準にあること,貸与制の存在により,資力に乏しい者が法曹となる機会も十分 に担保されているといえること,給費制廃止が法曹志望者減少に大きな影響を与えるとも限らず,法科大学院での就学,法曹の所得減少等他の原因も十分に考えられること,弁護士の公益活動は給費制によって担保されるものではなく,教育や志の問題であること,修習専念義務等の司法修習の実態と給費制とは論理的な関係には立たないこと,司法試験合格者を年間 3000人とすることが実現できていないとしても,司法制度改革全体の 財政負担を考慮し,国民の理解を得られる合理的な経済支援として貸与制が導入されたことによれば,貸与制の前提が崩れているとはいえないことなどが指摘された。 一方,給費制の廃止に反対する少数意見として,財政負担の増大を理由に給費制が廃止されるべきでないこと,司法修習生は公務員でないが,公 務員と同様に種々の るとはいえないことなどが指摘された。 一方,給費制の廃止に反対する少数意見として,財政負担の増大を理由に給費制が廃止されるべきでないこと,司法修習生は公務員でないが,公 務員と同様に種々の制限を受けるなど特異な地位にあるからこれに即した経済的支援の在り方を検討する必要があること,連帯保証人が確保できずに貸与を受けられない可能性がある以上,貸与制の存在をもってしても経済的事情により司法修習が受けられない可能性があることなどが指摘された。 フォーラムは,平成23年8月31日,「法曹の養成に関するフォーラム第一次取りまとめ」を公表した。 そこでは,司法修習は,新しい法曹養成プロセスにおいて必須の課程であるから,司法修習生が修習に専念できるようにするため,修習期間中の生活の基盤を確保する必要があり,司法修習生に経済的支援を行う必要が あるが,経済的支援の基本的な在り方については,貸与制を基本とした上で,個々の司法修習終了者の経済的な状況等を勘案した措置(十分な資力を有しない者に対する負担軽減措置)を講ずるという意見が大勢を占めたとされた。 フォーラムは,平成24年5月10日,「論点整理(取りまとめ)」を公 表した。 そこでは,司法修習生に対する経済的支援については,司法修習生に対する経済的支援の在り方として,貸与制を基本として,十分な資力を有しない者を対象に,貸与された修習資金の返還期限について猶予措置を講ずるべきであると記載されたのみであった。 イ国会の審理経過(乙35~38) 平成23年12月2日,衆議院法務委員会に対し,貸与制における修習資金の返還期限の猶予の要件を拡大する内容の内閣提出の裁判所法改正案,及び平成25年10月31日まで貸与制を停止し,暫定的に給与を支給するこ 3年12月2日,衆議院法務委員会に対し,貸与制における修習資金の返還期限の猶予の要件を拡大する内容の内閣提出の裁判所法改正案,及び平成25年10月31日まで貸与制を停止し,暫定的に給与を支給することや,経済的理由から法曹になることを断念しないよう適切な財政支援を行うことなどを内容とする公明党提出の同修正案が提出され,平成23年12 月6日,同委員会において,各法案の審議が行われたが,同月9日,閉会中審査をすることとなり,継続審議とされた。 平成24年7月27日,上記内閣提出案に,法曹養成制度の検討において,司法修習生に対する適切な経済的支援を行う観点から,法曹養成における司法修習の位置付けを踏まえつつ,給費制に戻すことを排除せずに検討するこ とを目的とした新たな検討組織の設置等を内容とすることを追加した民主党修正案が可決され,平成24年法律第54号(以下「平成24年改正」という。)は,同年8月3日,公布された。 ウ平成24年改正の内容平成24年改正により,裁判所法67条の2第3項により,修習資金を返 還することが経済的に困難である事由として最高裁判所の定める事由があるときは,修習資金の返還期限を猶予できるとされた。 これを受けて,平成24年10月26日,司法修習生の修習資金の貸与等に関する規則が改正され,同規則7条の2により,上記猶予事由として,収入金額から法科大学院における借入金を控除した残額が,給与所得者であれ ば300万円以下,給与所得者以外であれば200万円以下であることが定められた。 ⑺ 平成29年改正(修習給付金制度の創設)ア各所における議論平成24年8月21日,上記⑹イにおける「新たな検討組織」として, 法曹養成制度検討会議(以下「検討会議」という。)が設置された。 改正(修習給付金制度の創設)ア各所における議論平成24年8月21日,上記⑹イにおける「新たな検討組織」として, 法曹養成制度検討会議(以下「検討会議」という。)が設置された。 検討会議は,平成25年6月26日付けの最終取りまとめにおいて,司法修習生に対する具体的な経済的支援の在り方について,貸与制を導入した趣旨,貸与制の内容,これまでの政府における検討経過に照らし,貸与制を維持すべきであるとした上で,経済的な事情によって法曹への道を断念する事態を招くことがないようにするため,措置を講じる必要があると して,分野別実務修習開始にあたり現居住地から実務修習地への転居を要する者に旅費を支給し,集合修習期間中は入寮できることとし,修習専念義務を緩和して教育活動によって収入を得ることを認めることとした。 これに続いて,法曹養成制度改革推進会議及び法曹養成制度改革顧問会議において,司法修習生に対して経済的支援が必要である旨の意見が出さ れ,各政党においても,給費制の復活や,司法修習生への修習のための資金的手当の制度の必要性に言及する意見が出された。 さらに,国会においても,貸与制の見直しの必要性についての言及や,給費制の復活の必要性を指摘する質問等がされ,司法修習生に対する経済的支援の必要性が議論された。 内閣は,このような動きを踏まえて,平成28年6月2日,司法修習生に対する経済的支援を含む法曹人材確保の充実・強化を推進することをその内容に含む「経済財政運営と改革の基本方針2016」を閣議決定し,法務省は,最高裁判所及び日本弁護士連合会とともに対応を検討した結果,同年12月19日,平成29年度以降に採用予定の71期以降の司法修習 生に対する新たな経済的支援策となる給付制度を新設する 法務省は,最高裁判所及び日本弁護士連合会とともに対応を検討した結果,同年12月19日,平成29年度以降に採用予定の71期以降の司法修習 生に対する新たな経済的支援策となる給付制度を新設することを公表した。 内閣は,平成29年2月3日,平成29年以降の司法試験に合格した司法修習生に対して修習給付金を支給するとともに,司法修習生の申請により,無利息で,司法修習生がその司法修習に専念することを確保するため に,修習給付金の支給を受けてもなお司法修習に必要な資金を貸与すると いう新制度を定めた裁判所法改正案を閣議決定した。 イ国会の審理経過(乙45)上記法律案は,平成29年3月31日の衆議院法務委員会において可決された上,同年4月4日,衆議院本会議で可決された。 同月18日の第193回参議院法務委員会においては,同法律案について, 法曹志望者が大幅に減少しており,新たな時代に対応した質の高い法曹を多数輩出していくためにも法曹志望者の確保が喫緊の課題となっているところ,法曹人材確保の充実・強化の推進等を図るためのものであるとの趣旨説明がされ,修習給付金の額が給費制における給与の額よりも低い根拠,新65期から70期までの司法修習生のみが給付の対象外となってしまうこと の是非,給付金の支給と法曹志望者の増加との関係,給費制廃止の際の理由との関係等について質疑がなされた。このうち新65期から70期までの司法修習生のみが給付の対象外となってしまうことの是非については,政府参考人から,貸与制移行時の考慮事情はなお考慮すべきであること,法曹人材確保の充実・強化の推進等を図るという修習給付金制度の趣旨からすれば, 修習給付金は今後新たに司法修習生として採用される者を対象とすれば足り,貸与制下の司法修習 考慮すべきであること,法曹人材確保の充実・強化の推進等を図るという修習給付金制度の趣旨からすれば, 修習給付金は今後新たに司法修習生として採用される者を対象とすれば足り,貸与制下の司法修習生をも対象とする必要性には欠けること,仮に何らかの措置を実施するとしても,貸与制下において貸与を受けていない者の取扱いをどうするかといった制度設計上の困難な問題があること,既に修習を終えている者に対して事後的な救済措置を実施することにつき,国民的理解 が得られないのではないかとも考えられることから,貸与制下の司法修習生に対する救済制度を設けることは予定していない旨述べられた。 上記法律案は,同月19日,参議院本会議で可決され,同月26日,平成29年法律第23号(以下「平成29年改正法」という。)が公布された(以下「平成29年改正」という。)。 ウ平成29年改正の内容 修習給付金制度の創設平成29年改正法は,平成16年改正後の裁判所法67条の2を改め,修習給付金制度を定めた。 最高裁判所は,平成29年改正を受けて,平成29年8月4日,「司法修習生の修習給付金の給付に関する規則」(同年最高裁判所規則第3号) を定めた。 修習給付金制度の概要は,次のとおりである。 司法修習生には,修習のため通常必要な期間として最高裁判所が定める期間,毎月,修習給付金として,①13万5000円(司法修習生がその修習期間中の生活を維持するために必要な費用であって,その修習に専念 しなければならないことその他の司法修習生の置かれている状況を勘案して最高裁判所が定める額)の基本給付金を支給するとともに,②3万5000円(司法修習生が自ら居住するため住宅を借り受け,家賃を支払っている場合には,家賃として通常必要な費用の範囲 ている状況を勘案して最高裁判所が定める額)の基本給付金を支給するとともに,②3万5000円(司法修習生が自ら居住するため住宅を借り受け,家賃を支払っている場合には,家賃として通常必要な費用の範囲内において最高裁判所が定める額)の住居給付金を支給し,さらに③司法修習生がその修習に伴 い住所又は居所を移転することが必要と認められる場合には,路程に応じて最高裁判所が定める額の移転給付金を支給する(平成29年改正法67条の2第1項ないし第5項)。 貸与制の変更平成29年改正法は,裁判所法に67条の3を新設して,修習専念資金 (従前の「修習資金」の呼称を改めたもの)の貸与制度を定めた。これは,修習給付金制度と併存し,修習給付金の支給を受けてもなお必要な修習に専念することを確保するための資金を修習専念資金として貸与するものであり,その余の点は従前の貸与制と同じである。 施行期日 平成29年改正法の施行日は,平成29年11月1日とされ,同日以降 に採用される71期司法修習生から適用されることとされた。 新65期から70期までの司法修習生の取扱い平成29年改正において,新65期から70期までの司法修習生については特段の措置は設けられなかった(以下,現行65期までの司法修習生を「給費制下の司法修習生」,新65期から70期までの司法修習生を「貸 与制下の司法修習生」,71期以降の司法修習生を「修習給付金制度下の司法修習生」という。)。 ⑻ 裁判所書記官養成課程裁判所書記官養成課程は,裁判所職員として採用され,一定期間勤務した後,裁判所職員総合研修所の入所試験に合格した者が,裁判所書記官となるに当た って必要な知識や技能を習得するためのものである。 裁判所書記官研修生(以下「書記官研修生」と れ,一定期間勤務した後,裁判所職員総合研修所の入所試験に合格した者が,裁判所書記官となるに当た って必要な知識や技能を習得するためのものである。 裁判所書記官研修生(以下「書記官研修生」という。)は,研修生でいる間も,裁判所事務官として給与を受け,地域手当等の諸手当を支給される。 3 争点本件の争点は,次のとおりである。 ⑴ 給費制が憲法上要請された制度であり,その廃止及びこれを復活させなかったことが違憲であるか(争点1)⑵ 給費制の廃止が憲法27条1項及び2項に違反するか(争点2)⑶ 給費制の廃止が憲法25条1項に違反するか(争点3)⑷ 給費制の廃止が憲法14条1項に違反するか(争点4) ⑸ 給費制を廃止する立法をしたこと及び給費制を復活させる立法をしなかったことがそれぞれ国家賠償法1条1項の適用上違法か(争点5)⑹ 損害(争点6) 4 争点1(給費制が憲法上要請された制度であり,その廃止及びこれを復活させなかったことが違憲であるか)に関する当事者の主張 ⑴ 原告らの主張 ア給費制が憲法上の要請であること大日本帝国憲法下では,司法権が行政権及び立法権に劣後し,司法権内部において弁護士が裁判官及び検察官に劣後するという構造があり,同構造等を背景に,人権弾圧等が防げなかった。日本国憲法は,このような反省を踏まえ,基本的人権の尊重を基本原理に掲げ,これを具体的に実現すべく,司 法権に行政権及び立法権に対する違憲審査権を付与して三権分立を確立するとともに,司法権を担う法曹三者を明記した。そして,日本国憲法の附属法典である裁判所法において,法曹三者のいずれになるかを問わず,統一司法修習を義務付け,その不可分一体の制度として,修習期間中給与等を支給する給費制を具体化し 者を明記した。そして,日本国憲法の附属法典である裁判所法において,法曹三者のいずれになるかを問わず,統一司法修習を義務付け,その不可分一体の制度として,修習期間中給与等を支給する給費制を具体化した。 給費制下において,司法修習生は,修習期間中,国民のための司法を担う修習に従事する者として,公務員に準ずる身分地位として扱われ,修習専念義務や兼業禁止など公務員と同様の制約を課され,その反対給付として,給与等を支給されることにより,経済的な支障なく司法修習に専念し国民のための司法を担う上での素養を身に付けることができるようにされていた。 以上のとおり,憲法上,国の法曹養成義務が具体化され,給費制が要請されており,司法修習生に給与を支給される権利が保障されている。 イ給費制の廃止及びこれを復活させなかったことが違憲であること給費制の廃止及び復活に係る立法裁量は,次の観点から,極めて減縮される。すなわち,①給費制廃止は,上記アのとおり,憲法上の要請に反し, 司法修習生の憲法上の権利を侵害する。②給費制廃止は,争点4のとおり,法の下の平等に反する。③給費制廃止は,法曹に有為な人材を集めるという立法目的に照らして,当初から合理性のないものであったが,時の経過により,人材の法曹離れが顕著になり,制度設計に合理性がないことが一層明らかになった。④給費制廃止後,法曹志願者が激減するとともに,司 法試験に合格したにもかかわらず,司法修習を辞退する者が急激に増加し, また,司法修習に進んだ者についても修習に専念することについて顕著な弊害が生じたものであり,上記立法理由に照らして首尾一貫した制度設計となっていない。⑤給費制は,戦後一貫して行われてきた司法修習の実施状況に照らせば,我が国の法律家集団に広く共有され について顕著な弊害が生じたものであり,上記立法理由に照らして首尾一貫した制度設計となっていない。⑤給費制は,戦後一貫して行われてきた司法修習の実施状況に照らせば,我が国の法律家集団に広く共有された理解となっており,標準的な制度形態(ベースライン)といえる。⑥立法者は,憲法上の権利 を実現するためにいかなる制度を形成するかについて広い裁量を有するが,一旦一定の制度を形成した場合,それを後退させる際には,制度形成時と同様の広い裁量は認められない。憲法上重要な地位と任務を与えられた法曹三者の養成課程の劣化は,法曹集団の劣化を来し,法治国家としての我が国の基盤を掘り崩しかねないことに思いを致せば,給費制廃止とい う制度の劣化は,単に立法政策といって済む問題ではない。⑦給費制から貸与制への移行に際しては,財政的な視点ばかりが先行し,司法修習生の生活実態や司法修習の実情,他の公務員における研修や各種大学校における教育の実情などを何ら考慮せず,十分な議論をしないまま,司法内部での財政需要の高まりから,予算のつじつま合わせのために給費制が廃止さ れたものであり,立法府の判断過程には,考慮すべき事情を考慮しないという瑕疵があった。⑧法曹は憲法上の構造体として不可欠な存在であり,その存在等を保障されているところ,法曹となる者である司法修習生にも当該保障が及び,給費制は当該保障の核心的内容の一つとして保障されているものである。 給費制廃止の立法目的及び立法事実を検討する。 給費制廃止の主たる根拠は,①給費制の維持が国家財政上困難であること,及び②給費制の維持について国民の理解が得られないことであった。 しかし,いずれも,理性とエビデンスに基づく議論といえない。 すなわち,①については,そもそも,司法権の確立のため憲法上要請さ ること,及び②給費制の維持について国民の理解が得られないことであった。 しかし,いずれも,理性とエビデンスに基づく議論といえない。 すなわち,①については,そもそも,司法権の確立のため憲法上要請さ れ具体化された給費制を,財政難という理由で廃止すること自体,正当性 を欠く。司法試験合格者数を3000人程度まで増やすことを踏まえても,国民のための司法の実現という司法制度改革のそもそもの理念からすれば,本来は司法予算を増額すべきなのであり,司法予算の補強をしないまま,給費制を廃止したという財政論それ自体が,正当性を欠く。また,本当に給費制の維持が国家財政上困難なのかという点については,給費制の 維持に必要な金額は国家予算の規模に比較すれば些細な金額であるにもかかわらず,議論の中では「予算の都合」以上の具体的根拠は明らかにされていない。 ②については,給費制に対する一般国民の意見を調査したことがないにもかかわらず,給費制の維持が国民の反対に遭っているような根拠のない 説明がされた。 以上のとおり,平成16年改正時において,①及び②という立法事実は存在しなかった。 平成16年改正時から,給費制の廃止により看過し難い弊害が発生することが具体的に指摘されていたが,同改正以後,実際に,弊害がさらに顕 著に指摘されるようなった。 すなわち,法曹志願者は激減し,司法試験合格者の修習辞退は増加した。 後者について,給費制下の新63期は辞退者22名(辞退率約1.1%)であったのに対して,貸与制に移行することが予定されていた新64期は辞退者52名(辞退率約2.5%),貸与制に移行した新66期は辞退者 67名(辞退率約3.2%)であった。 また,司法修習中の経済的支障として,生活費の負担,修習に伴う居住地移転に 64期は辞退者52名(辞退率約2.5%),貸与制に移行した新66期は辞退者 67名(辞退率約3.2%)であった。 また,司法修習中の経済的支障として,生活費の負担,修習に伴う居住地移転に伴う負担,奨学金返済の負担,就職活動のための移動に伴う負担などが指摘された。 平成16年改正は「国民の理解」を根拠の一つとするものであったが, 平成25年4月のパブリック・コメントにおいては,給費制復活の意見が 大多数であった。 その後,様々な議論や運動を経て,司法修習生に対して経済的支援が必要であるという立法事実が次々と明らかになった。 以上の経過を経ながら,貸与制の実施延期,兼業許可の緩和その他の措置が段階的に実施され,最終的に,修習給付金制度が創設され,実質的に 給費制が復活した。これら給費制廃止後の事情は,給費制廃止を正当化する根拠が全くなかったことを示している。 以上によれば,給費制廃止及びこれを復活させなかったことは,いずれも違憲である。 ⑵ 被告の主張 憲法は,給費制はもとより,司法修習ないし法曹養成の方法や在り方に関する規定を設けていないから,給費制は憲法上の要請ではない。法曹養成制度の具体的内容をどのようなものにするかは,立法府の政策的な判断に委ねられている。 給費制における「給与」とは,司法修習生をして修習に専念させるための配 慮として支給されていたものにすぎない。 5 争点2(憲法27条1項及び2項)に関する当事者の主張⑴ 原告らの主張司法修習生は,国民のための法曹になる者の義務として,修習期間中,修習専念義務を課され,最高裁判所,司法研修所及び各配属先実務庁の指揮監督命 令下において,法曹実務に関与しつつ,時間的場所的拘束を伴う研修に従事する者であること 者の義務として,修習期間中,修習専念義務を課され,最高裁判所,司法研修所及び各配属先実務庁の指揮監督命 令下において,法曹実務に関与しつつ,時間的場所的拘束を伴う研修に従事する者であること,昭和22年裁判所法67条2項は「給与」の文言を使用していること,同法制定時の経緯,修習の実態等によれば,司法修習生は「勤労」者(憲法27条1項)に該当し,司法修習に従事する代価としての「賃金」(同条2項)の保障を受けることが明らかであり,給費制の廃止は憲法27条1項, 2項に違反する。 被告らは,司法修習生は国に労務を提供しないから「勤労」者に当たらない旨主張するが,労務の提供が認められるためには,指揮命令権者が課した任務を遂行すればよく,その任務は,指揮命令権者の固有業務に限定されることなく,使用者にとって利益を生み出すものである必要もないのであって,司法修習生については,国の指揮命令に従って修習をすること自体が労務の提供とい える。 ⑵ 被告の主張憲法27条1項の「勤労」は,使用者に対する労務の提供を不可欠の要素とするのに対し,司法修習は,法曹に必要な能力を養成するため,すなわち司法修習生自身の自己研さんとして,実際の法律実務活動の中で行われる,臨床教 育課程であり,司法修習において,司法修習生は,裁判官,検察官又は弁護士の職務その他国の事務に関する職務を遂行する権限も義務もなく,司法修習生がこれらの職務を遂行することは予定されていない上,具体的な修習内容に照らしても,司法修習は,裁判官,検察官又は弁護士の事務その他国の事務に従事するものではないから,使用者(国)に対する労務の提供に当たらない。よ って,給費制の廃止は,憲法27条に違反するものではない。 6 争点3(憲法25条1項)に関する当事 その他国の事務に従事するものではないから,使用者(国)に対する労務の提供に当たらない。よ って,給費制の廃止は,憲法27条に違反するものではない。 6 争点3(憲法25条1項)に関する当事者の主張⑴ 原告らの主張司法修習生は,修習期間中,兼業禁止等の制約により,経済的に自立した生計の維持ができない中,修習に専念するために必要な経済的負担を強いられて いる。給費制は,司法修習における経済的生活保障として裁判所法により具体化され,憲法25条による保障を受ける。これらは,給費制の実施実態及び司法修習における費用等からも具体的に裏付けられるものである。 貸与制は,借金であり,既に多額の奨学金債務を負っている者にさらに借金を重ねることを事実上強制するものにほかならないから,司法修習生に対する 保障とはならない。 ⑵ 被告の主張給費制下に支給されていた給与は,司法修習生をして修習に専念させるための配慮にすぎず,昭和22年裁判所法67条2項が司法修習生の生存権の保障を具体化したものであるとはいえない。 司法修習生が修習専念義務により生活の糧を得ることが制限されるとして も,それは司法修習生が自ら司法修習生となることを選択した結果であるから,そもそも生存権の保障を及ぼすべき場面には当たらない。 給費制に代わる貸与制は,修習期間中の生活の基盤を確保するのに十分合理的なものとなっているから,給費制の廃止が生存権を侵害するものとはいえない。 よって,給費制の廃止は憲法25条に違反しない。 7 争点4(憲法14条1項)に関する当事者の主張⑴ 原告らの主張ア給費制下の司法修習生との比較給費制下の司法修習生である新64期司法修習生と,原告らを含む貸与制 下の司法修習生である66期司法修 14条1項)に関する当事者の主張⑴ 原告らの主張ア給費制下の司法修習生との比較給費制下の司法修習生である新64期司法修習生と,原告らを含む貸与制 下の司法修習生である66期司法修習生とでは,前者は給与等を受けられ,後者は給与等を受けられないという取扱いの差異があるところ,給与等の支給は修習に従事する上で極めて重要であることや,両者で修習実態及び身分取扱い等がほぼ同一であることによれば,上記取扱いの差異は,憲法14条1項が禁止する「差別」に該当する。 イ修習給付金制度下の司法修習生との比較原告らと修習給付金制度下の司法修習生との間には,修習給付金制度による給付を受けられるかという著しい取扱いの差異がある。 このような差別的取扱いに合理的理由はなく,憲法14条1項が禁止する「差別」に該当する。 ウ裁判所書記官研修生との比較 司法修習生は,最高裁判所の機関である司法研修所において司法を担う義務研修に従事する点で公務員に準じた身分地位にあり,最高裁判所の機関である裁判所職員総合研修所における書記官研修生と実質的に同一の身分地位にある。このため,書記官研修生との間における給費その他諸手当支給取扱いに差異を設けることは,憲法14条1項が禁止する「差別」に該当する。 ⑵ 被告の主張ア給費制下の司法修習生との比較法曹養成の方法に関し,いかなる制度を採用するか,当該制度の具体的内容をどのようなものにするかは,国の政策的な判断に委ねられており,給費制は憲法上保障されたものではない。 法曹養成の方法として,現行の司法修習制度は,司法修習を国費で運営し,司法修習生に費用を負担させていない。その上で,さらに司法修習に専念させるために何らかの方策を講じるとしても,どのような方策を講 法曹養成の方法として,現行の司法修習制度は,司法修習を国費で運営し,司法修習生に費用を負担させていない。その上で,さらに司法修習に専念させるために何らかの方策を講じるとしても,どのような方策を講じるかといった事柄については,経済的・社会的条件,一般的な国民生活の状況,国の財政事情,他の政策等を踏まえて検討される必要があり,国の政策的な裁量 判断に委ねられるべきである。 給費制は,法曹の資格要件としての司法修習生の地位の重要性に鑑み,これに人材を吸収し,また,修習に専念させる等の見地から,特に一定額の「給与」を支給することとしたものである。 平成16年改正により貸与制への移行がされたのは,慎重な議論を踏まえ, 法曹の質・量の充実,法曹人口の増加等も含め,新たな財政負担を伴う司法制度改革を推進する中で,限りある財政資金をより効率的に活用し,司法制度改革全体について国民の理解が得られる合理的な国民負担(財政負担)を図る必要があること,給費制創設当初と比較して司法修習生が大幅に増加しており,新たな法曹養成制度の整備に当たり,司法修習生の増加に実効的に 対応できる制度とする必要があること,公務に従事しない者に国が「給与」 を支給するのは異例の制度であることなどを踏まえ,司法修習生の「給与」を国民が負担することについて国民の理解を得られるか否かといった観点などによるものであり,合理的な根拠を有していることは明らかである。 貸与制は,資力要件や利息がないなど,国の他の修学資金の貸与制度よりも要件が緩和されており,貸与を申請した司法修習生は全て貸与を受けてい る。貸与額や返還方法等に照らしても,修習期間中の生活の基盤を確保するのに十分合理的なものとなっている。 よって,平成16年改正による給費制から貸与制への移 した司法修習生は全て貸与を受けてい る。貸与額や返還方法等に照らしても,修習期間中の生活の基盤を確保するのに十分合理的なものとなっている。 よって,平成16年改正による給費制から貸与制への移行は,合理的な政策判断であり,上記区別は事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づく区別といえるから,憲法14条1項に違反しない。 イ修習給付金制度下の司法修習生との比較平成29年改正法における制度設計は,平成16年改正時と同様,司法制度全体に関して合理的な財政負担を図る必要があること,公務に従事しない者に給与を支給することは異例であることといった事情をも考慮してされたものであり,合理的な政策判断に基づくものである。 修習給付金制度の趣旨が,法曹志望者が大幅に減少している中,法曹人材確保の充実・強化の推進等を図ることにあることからすれば,今後新たに司法修習生として採用されるものを対象とすれば足り,従前の貸与制下の司法修習生をも対象とする必要はない。仮に従前の貸与制下の司法修習生について,給付金の対象とする,あるいは何らかの経済的措置を実施することとし た場合,貸与制下で貸与を受けていない者や,基本貸与額以下の貸与を受けた者の取扱いをどうするかという制度設計上の困難な問題が生じる。そもそも,既に修習を終えている者に対して,事後的な救済措置などを実施することにつき,国民の理解を得るのは困難である。 平成29年改正は以上の点を踏まえたものであり,合理的な政策判断に基 づくものである。 したがって,修習給付金制度下の司法修習生との取扱いの差異は,事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づく区別といえるから,憲法14条1項に違反しない。 ウ裁判所書記官研修生との比較裁判所書記官研修生は,国家公務員である 下の司法修習生との取扱いの差異は,事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づく区別といえるから,憲法14条1項に違反しない。 ウ裁判所書記官研修生との比較裁判所書記官研修生は,国家公務員である裁判所の職員であり,司法修習 生とは身分地位が全く異なる。すなわち,国家公務員の研修は,国家公務員が国家公務員としての職責を適切に果たすことができるよう,現在就いている官職又は将来就くことが見込まれる官職において求められる職務遂行能力を身に付けるべく行われるものであるのに対し,司法修習生については,司法修習生という官職そのものや,将来就くことが見込まれる官職自体を観 念できない。したがって,両者では,身分立場が異なり,研修の性格も異なるから,待遇の差異があるのは当然であって,憲法14条1項違反はそもそも問題とならない。 8 争点5(給費制を廃止する立法をしたこと及び給費制を復活させる立法をしなかったことの国家賠償法上の違法性)に関する当事者の主張 ⑴ 原告らの主張給費制は司法権確立のための法曹養成に必要であるところ,その廃止は,立法権及び行政権による司法権に対する侵害と評価でき,原則として違法であり,適法とする特段の事情はない。 立法不作為に関して,仮に被告が主張する判断枠組みによるとしても,違憲 性が明白であること及びそれを放置したことは明白であり,違法性は明らかである。 ⑵ 被告の主張国会議員の立法行為が国家賠償法1条1項の適用上違法となるかどうかは,国会議員の立法過程における行動が個別の国民に対して負う職務上の法的義 務に違背したかどうかの問題であり,国会議員の立法行為又は立法不作為は, 立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場 の法的義 務に違背したかどうかの問題であり,国会議員の立法行為又は立法不作為は, 立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や,国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり,それが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などに,例外的に,国家賠償法1条1項の適用上,違法の評価を受ける。 上記のとおり,給費制の廃止は憲法に違反せず,これを復活させなかったという立法不作為も国家賠償法上違法の評価を受けない。 なお,平成29年改正は,法曹志望者が大幅に減少する中,法曹人材確保の充実・強化の推進等を図るため,新たに修習給付金制度を設けるとともに,貸与額等を見直した上で貸与制を併存させることとしたものであり,従前の給費 制を復活させたものではない。同改正において,貸与制移行の前提は失われておらず,同改正は平成16年改正時に立法事実がなかったことなどを裏付ける事情ではない。 9 争点6(損害)に関する当事者の主張⑴ 原告らの主張 給費制廃止により,原告らには,司法修習において得られるべき給費相当額の逸失利益が生じたものであり,その額は,現行65期司法修習生に支給された237万2480円を下らない。 また,原告らは,給費制廃止により修習に関して看過できない重大な精神的苦痛を被ったものであり,これに対する慰謝料は少なくとも100万円は下ら ない。 ⑵ 被告の主張否認ないし争う。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実(前提事実及び掲記の証拠により認められる事実) ⑴ 法曹人口に関する事情 ア平成16年改正以前,我が国の法曹人 否認ないし争う。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実(前提事実及び掲記の証拠により認められる事実) ⑴ 法曹人口に関する事情 ア平成16年改正以前,我が国の法曹人口は,先進諸国との比較において,極めて少ない状況にあり,その増加の必要性は早くから指摘されてきた。平成9年時点の法曹人口(下記各aの欄),及び法曹1人に対する国民の数(下記各bの欄)の国際比較は,次のとおりである。(乙6〔21頁〕)日本 a 約2万人(ただし,法曹に隣接する職種は様々あり,例えば司法書士は約1万7000人いる。甲19〔42頁〕)b 約6300人アメリカa 約94万1000人 b 約290人イギリスa 約8万3000人b 約710人ドイツ a 約11万1000人b 約740人フランスa 約3万6000人b 約1640人 イ平成13年時点において,司法試験合格者数を3000人を目指して段階的に増加させた場合,平成29年頃までに法曹人口が5万人に達するなどのシミュレーションがされていた(甲23〔31頁〕)。 ウ平成14年時点における見通しとして,旧司法試験合格者に加えて新司法試験合格者の修習が始まる平成18年には,司法修習生が2000人を大き く上回る見通しであった(乙10〔8頁〕)。 ⑵ 財政負担に関する事情ア法科大学院への財政支援については,平成16年度分として,約108億円の新たな予算措置がされた(乙19〔2頁〕)。 イ司法修習の実施経費には,給費を除いても何十億円とかかっており,司法修習生が増加すれば,それがさらに数十億円規模で増えることになる (乙16〔2頁〕,23〔8頁〕)。司法修習生が年間3000 司法修習の実施経費には,給費を除いても何十億円とかかっており,司法修習生が増加すれば,それがさらに数十億円規模で増えることになる (乙16〔2頁〕,23〔8頁〕)。司法修習生が年間3000人となった場合,貸与制に移行したとしても,司法修習の維持のために,年間数十億円の純増の財政措置が必要となる(乙20〔7頁〕)。 給費制を維持した場合,司法修習生が年間1000人,修習期間が1年6月として,給与及び諸手当の総額は年間65億円程度となる(乙11〔2 5頁〕)。司法修習生が年間3000人,給与を年間300万円程度とした場合,給与に係る予算だけで年間90億円となり,従前の予算に比して約30億円の増額が必要となる(乙16〔2頁〕)。 ⑶ 司法修習の内容(前提事実⑺,甲117~121,123~126,131~144,甲B1~7,10,11,原告A,原告B,原告C) ア分野別実務修習 裁判修習(民事裁判修習及び刑事裁判修習)司法修習生は,裁判修習において,配属された部の裁判官の指導の下に,事件記録を検討し(法令及び判例等の調査を含む。),裁判手続を傍聴し,傍聴の前後で裁判官と手続や心証等について議論し,一部の事件について 起案(起案の内容及び形式は様々であり,例えば,判決形式の起案,論点を絞ったレポート形式の起案,争点整理案,和解条項案などがある。)等を行い,その講評を受ける。司法修習生は,主に配属された部で修習をするが,民事執行・民事保全に関して担当部で修習することや,家事事件・少年事件に関して家庭裁判所で修習することもある。 裁判修習中は,裁判官等による講義や,演習問題を使用した問題研究も ある。 検察修習司法修習生は,検察修習において,検察官の指導の下に, 所で修習することもある。 裁判修習中は,裁判官等による講義や,演習問題を使用した問題研究も ある。 検察修習司法修習生は,検察修習において,検察官の指導の下に,捜査に関して,捜査方針の検討,被疑者及び事件関係者の取調べ,警察への補充捜査の指示,終局処分の検討等を行い,公判に関して,各種起案(起訴状,不起訴 裁定書,冒頭陳述,論告など),証拠整理,公判傍聴等を行う。 検察修習中は,検察官等による講義,演習問題を使用した問題研究,関連施設の見学もある。 弁護修習司法修習生は,弁護修習において,個々の法律事務所に配属され,担当 弁護士の指導の下,弁護方針の検討,各種起案(検討メモ,契約書,準備書面,弁論要旨など),法律相談・依頼者との打合せ・交渉・契約締結・裁判手続等の傍聴を行う。 弁護修習中は,配属庁会の司法修習委員会が主催する合同修習において,講義を受けることもある。 もっとも,司法修習生は,裁判官,検察官又は弁護士としての権限を何ら有していないことから,実務修習中も,自らの権限で裁判事務,検察事務又は弁護活動に携わることはない。 イ選択型実務修習選択型実務修習は,配属庁会等において,司法修習生の主体的な選択によ り,分野別実務修習の成果の深化と補完を図り,又は各自が関心を持つ法曹の活動領域における知識・技法の習得を図るものであり,分野別実務修習で体験できなかった法曹実務を体験し,あるいは,分野別実務修習において体験した法曹実務をより高い水準で体験するものである。裁判所,検察庁及び弁護士会等が様々なプログラムを提供するほか,司法研修所の許可が必要で あるが,司法修習生自らプログラムを開発することもできる。司法修習生は, 自己の関 のである。裁判所,検察庁及び弁護士会等が様々なプログラムを提供するほか,司法研修所の許可が必要で あるが,司法修習生自らプログラムを開発することもできる。司法修習生は, 自己の関心に応じて,プログラムを選択して参加し(ただし,希望者多数の場合などは,希望したプログラムに参加できないこともある。),プログラムに参加しない期間は,弁護修習先の法律事務所において修習を行う。プログラムの例としては,裁判修習の関連では,模擬裁判のプログラム,非訟事件・家事事件・知的財産事件など一定類型の事件を集中的に扱うプログラム,検 察修習の関連では,検察修習で扱った事件よりも複雑な事件を扱うプログラム,弁護修習の関連では,離島など過疎地の法律事務所で弁護修習をするプログラムなどがある。 ウ集合修習集合修習は,分野別実務修習の体験を補完して,座学により,体系的,汎 用的な実務教育を行うものである。 司法修習生は,集合修習において,司法研修所において,教官による講義(起案の講評を含む。)の受講,模擬記録を使用した即日起案や問題演習,模擬裁判等を行う。 エ司法修習中に利用可能な書籍 司法修習においては,司法研修所や各教官室から各司法修習生に,無償で資料が配付される上,司法修習生は,分野別実務修習及び選択型修習中は修習先が所蔵する文献を利用でき,集合修習中は司法研修所が所蔵する文献を利用することができる。 ⑷ 貸与制下の司法修習生の経済状況 新65期及び66期の司法修習生を対象としたアンケート(複数回にわたって実施されているが,以下「アンケート」と総称する。甲117~121,123~126),元司法修習生の陳述書(甲131~144),原告らの陳述書(甲B1~7,10,11)及び原告らの本人尋問における て実施されているが,以下「アンケート」と総称する。甲117~121,123~126),元司法修習生の陳述書(甲131~144),原告らの陳述書(甲B1~7,10,11)及び原告らの本人尋問における供述(原告A,原告B,原告C)によれば,原告らを含む貸与制下の司法修習生の修習中の経済 状況について,次の事実が認められる。 ア生活費の額アンケートに回答した新65期司法修習生の分野別実務修習及び選択型修習中の標準的な生活費の額(月平均)は,住居費がある場合で21万5800円,住居費がない場合で13万8000円であった。上記生活費には,住居費,水道光熱費,食費(住居費がある場合で3万9000円,住居費が ない場合で2万7700円),交通費(住居費がある場合で6300円,住居費がない場合で1万5600円),情報通信費,学習費(住居費がある場合で9900円,住居費がない場合で1万円),日用品費,医療費(住居費がある場合で2000円,住居費がない場合で2200円),衣服費,諸雑費,就職活動費(住居費がある場合で1万8700円,住居費がない場合で6300 円),奨学金の返済(住居費がある場合で6200円,住居費がない場合で7700円),交際費(住居費がある場合で2万1500円,住居費がない場合で1万9700円),年金・各種保険料,その他を含む。 食費に関して,63期司法修習生の食費は月平均4万8000円であった。 イ経済的支障の内容 元司法修習生が訴える経済的支障の主なものは,次のとおりである。 食費を削った。 病院にかかったり,薬を買ったりすることを控えた。 自己研さんのための書籍を購入できなかった。 法曹等との懇親会に参加できなかった。 実家や就職希望地からあまりに遠い修習地 た。 病院にかかったり,薬を買ったりすることを控えた。 自己研さんのための書籍を購入できなかった。 法曹等との懇親会に参加できなかった。 実家や就職希望地からあまりに遠い修習地であったため,住居費や引越費用,就職活動費が多大なものとなった。 修習に使用するパソコンが古くなっても新たに購入できなかった。 住居を借りられず,借りられたとしても保証人が必要となった。 2 争点1(給費制が憲法上要請された制度であり,その廃止及びこれを復活させ なかったことが違憲であるか) ⑴ 憲法は,明文上,国民の基本的人権の擁護をはじめとする普遍的価値を定め,その実現のために三権分立を定め(第4章ないし第6章),三権の一つである司法権に関する規定を定め(第6章),司法権の実効的な機能のためにいずれもその職務を全うすることが必要である法曹三者(裁判官,検察官及び弁護士)の存在を予定した規定を設けている(76条3項,77条等)。このことからす れば,憲法は,その普遍的価値の実現のために,国に対し,司法権が実効的に機能するに足りる法曹養成を要請しているものと解すべきである。 ⑵ 一方で,憲法は,法曹養成制度の具体的設計について何ら規定を定めていない。憲法が定める普遍的価値の実現のために国が具体的に法曹をどのように養成するか,司法権が実効的に機能するために必要かつ適切な法曹養成の在り方 は時代によって異なり,法曹養成制度の具体的設計は様々なものが考えられるから,憲法は,上記⑴の要請(司法権の実効的な機能を確保するに足りる法曹養成制度であること)を満たす法曹養成制度の具体的設計(変更を含む。)を,立法府の合理的判断に委ねたものと解すべきである。 ⑶ 以上によれば,給費制が憲法上要請された制度であるというためには る法曹養成制度であること)を満たす法曹養成制度の具体的設計(変更を含む。)を,立法府の合理的判断に委ねたものと解すべきである。 ⑶ 以上によれば,給費制が憲法上要請された制度であるというためには,給費 制が上記⑴の要請を満たすのに必須の制度であるといえることが必要となるので,この点を検討する。 ア原告らは,給費制は,日本国憲法制定時,憲法附属法である裁判所法によって,統一司法修習とともに統一司法修習に不可分一体の制度として創設されたものであるから,憲法上要請された制度であると主張する。 しかし,給費制は,法律である裁判所法によって定められた制度であり,前記のとおり,憲法は,法曹養成制度の具体的設計について何ら規定を定めていない。給費制の創設時期が憲法制定と同時期であるというだけで,憲法上の要請であるということはできず,原告らの上記主張は採用できない。 原告らは,司法修習生は,修習専念義務等を負って修習に従事する反対 給付として,給費制により給与の支給を受けるものである旨主張する。 しかし,修習専念義務等は,次のとおり,司法修習の性質に内在するものであって,給費制の対価として課せられるものではない。 a 修習専念義務及び兼職禁止について司法修習は,司法修習生に対して,司法修習を通じて,高い識見と円 満な常識を養い,法律に関する理論と実務を身につけ,裁判官,検察官又は弁護士にふさわしい品位と能力を備えることを求め(前提事実⑵エ),おおむね原則として平日午前9時頃から午後5時頃まで修習を行うこととしている(同ウ)。このような司法修習の要求水準を満たすためには,兼職せずに修習に専念する必要がある。修習専念義務及び兼職 禁止は,司法修習における内在的制約であり,給費制の対価として課 こととしている(同ウ)。このような司法修習の要求水準を満たすためには,兼職せずに修習に専念する必要がある。修習専念義務及び兼職 禁止は,司法修習における内在的制約であり,給費制の対価として課せられるものではない。 b 司法研修所長等の統括及び監督並びに守秘義務について司法修習は,司法修習生が実際の事件を通して法曹実務を学ぶことができるようにしたものであり,分野別実務修習及び選択型修習において 実際の事件を扱うことはもちろん,集合修習においても実際の事件から作成した模擬事案を扱う(認定事実⑶ア~ウ)。それに伴って,裁判修習における合議の秘密,評議の秘密,検察修習における捜査の秘密,弁護修習における依頼者の秘密など,様々な秘匿情報に触れることになる。 司法修習生がこれらに対して守秘義務を負わないとすれば,司法修習生 にこれらを見せることができなくなり,実務を通した司法修習は困難になる。司法修習生が司法研修所長等の統括及び監督を受け,守秘義務を負うのは,このような司法修習の内容から必然的に導かれる内在的制約であって,給費制とは関係がない。 c 以上によれば,原告らの上記主張は採用できない。 ウ原告らは,給費制は,司法修習を経済的に支える仕組みであり,司法修 習の目的達成上不可欠であると主張する(給費制と統一司法修習の不可分一体性を主張する根拠の一つとしても主張されている。)。具体的には,給費制により,①修習期間中の生活の基盤が確保され,書籍の購入や法曹との懇親会への参加など修習に要する諸費用が捻出できるようになる,②司法修習生において法曹の公的役割を強く自覚させられる,③弁護士になる 者に関しては,司法修習終了後直ちに弁護士業務を開始するために必要な諸費用をまかなえるようになり,公的活動に ようになる,②司法修習生において法曹の公的役割を強く自覚させられる,③弁護士になる 者に関しては,司法修習終了後直ちに弁護士業務を開始するために必要な諸費用をまかなえるようになり,公的活動に取り組む上での経済的支障がなくなる旨を主張する。 a 上記①について貸与制における貸与額は,住居の賃借がある場合で25万5000円, ⒞),アンケートから算出された司法修習生の分野別実務修習及び選択型修習中の標準的な生活費の額(月平均)は,住居費がある場合で21万5800円,住居費がない場合で13万8000円であり(認定事実⑷ア),貸与額は,上記標準的な生活費をまかなうに足りる金額となっている。 アンケートから算出された標準的な生活費の額は,実際の支出額の平均であり,客観的に生活費として足りているかは別論であるが,客観的にも貸与額が生活費として不足しているとは認められない。 アンケートに回答した司法修習生が経済的支障として主張している項目(認定事実⑷イ)を見ても,貸与制によって司法修習の目的が達せ られなくなったとは認められない。 すなわち,食費,医療費,交通費の点は,平均額について不足は認められず,不足を訴える者の生活実態が不明である以上,他の支出を見直してもなお捻出できない状況にあったのかは不明である。 書籍の購入費用については,司法修習生は無償配付される資料や修習 先等の文献を利用できるから(認定事実⑶エ),別途購入することが司 法修習に必要不可欠とはいえない。 懇親会への参加費用については,交際費の平均額は一定程度のものである上,仮に懇親会への参加ができなかったとしても,法曹と交流する機会は所定の修習時間中に十分あるから,修習時間外の懇親会等への参加が司法修習に必要不可欠とはいえない。 費の平均額は一定程度のものである上,仮に懇親会への参加ができなかったとしても,法曹と交流する機会は所定の修習時間中に十分あるから,修習時間外の懇親会等への参加が司法修習に必要不可欠とはいえない。 住居費や引越費用等に多大な費用を要したとの主張については,たしかに修習準的な生活費以上の出費を要することになり得るが,貸与額と上記標準的な生活費との差額が一定程度あること等に鑑みると,住居費等を捻出することが不可能であったとまでは認められない。就職活動費について も同様である。 パソコンの購入費用については,不足を訴える者の生活実態が不明である以上,他の支出を見直してもなお捻出できない状況にあったのかは不明である。 借家が困難であったとの主張については,アンケートを見ても,家族 の名義で賃借した,保証人が必要となったなどの記載はあるが,最終的に住居を確保できなかったとの記載は見当たらない。 その他,原告らを含む元司法修習生が主張する出費は,いずれも,司法修習をさらに充実させるために有用であるとしても,司法修習の目的を達成するために必要不可欠なものとは認められない。 以上によれば,貸与制によっても司法修習生の生活の基盤の確保は可能といえる。よって,給費制以外にも司法修習生を経済的に支える仕組みはあり得るから,給費制が司法修習の実現に不可欠であるとはいえず,原告らの上記主張は採用できない。 b 上記②について 法曹の公的役割は,給費制における給与の対価ではなく,その職責か ら導かれるものである。また,原告らは国費により司法修習を支えられたという感覚を重視するようであるが,貸与制においても,司法修習が司法修習生に無償で提供されているのは国費によるのである(認定事実⑵イ)。 よって,給費 た,原告らは国費により司法修習を支えられたという感覚を重視するようであるが,貸与制においても,司法修習が司法修習生に無償で提供されているのは国費によるのである(認定事実⑵イ)。 よって,給費制によらずとも,司法修習を通して,法曹の職責に対す る理解を深めることはできるというべきであり,原告らの上記主張は採用できない。 c 上記③について原告らは,給費制による給与を貯蓄し,それを修習後の活動に使用することを想定しているが,そのような想定は給費制の下においても給与 支給の趣旨を超えていると言わざるを得ず,原告らの主張は採用できない。 さらに検討すると,司法権が立法権及び行政権を抑制して均衡を維持し,国民の基本的人権の擁護等を果たすべき責務を負っていること,法曹がその司法権の担い手であること,司法修習は法曹という職業に就くための必 須の過程であり,教育としての性格を有すること等に鑑みると,司法権を脆弱にする法曹養成制度であってはならず,また,司法試験を合格し,法曹となるための基本的能力を認められた者については,司法修習に進む道が公平に開かれているべきである。 このような観点によれば,例えば,①司法修習に過酷な経済的負担を課 し,各種奨学金の存在や法曹になった後の収入等を考慮しても,一部の経済的に恵まれた者を除いて,司法修習に進むことをあきらめざるを得ないような法曹養成制度や,②特定の属性を有する者に司法修習に進むことをあきらめさせることを狙って不当な負担や条件を課すような不公平な法曹養成制度は,上記⑴の要請を満たすかについて,一層慎重な検討を要す るというべきである。 この点,アンケートには,給費制から貸与制への移行を受けて,経済的事情により司法修習を断念し辞退した者がいる旨の を満たすかについて,一層慎重な検討を要す るというべきである。 この点,アンケートには,給費制から貸与制への移行を受けて,経済的事情により司法修習を断念し辞退した者がいる旨の記載がある(甲117〔1頁〕など)。しかし,上記ウ,及び本件の証拠上,辞退者の実態が明らかにされているとはいえないことなどによれば,給費制でなければ上記のような不公平な法曹養成制度に該当するとまでは認められず,上記観 点によっても,給費制が上記⑴の要請から必須であるとはいえない。 オ以上によれば,給費制が上記⑴の要請を満たすのに必須の制度であるとはいえず,よって,憲法上要請された制度であるとはいえない。 3 争点2(給費制の廃止が憲法27条1項及び2項に違反するか)⑴ 判断枠組み 憲法27条1項の「勤労」者に該当するためには,その文理解釈上,使用者に対して労務を提供していることが必要と解される。 これに対して,原告らは,「勤労」者に当たるか否かは,使用従属性を基準とすべきであり,使用従属性の判断は,仕事の依頼・業務従事の指示等に関する諾否の自由の有無,業務遂行上の指揮監督の有無,時間的・場所的拘束の有無, 業務の代替性の有無,報酬の労務対価(対償)性,公租公課関係の源泉徴収等の有無が検討されなければならない旨主張する。しかし,これらの判断要素は,労働者が使用者に「仕事」「業務」「労務」を提供していることを前提としており,労務の提供が必須であるという上記判断は変わらない。 ⑵ 司法修習生が国に労務を提供しているか ア司法修習生は,公務員ではなく,法令上,職務に関する何らの権限も付与されておらず,司法修習中,裁判官,検察官及び弁護士の職務を遂行することもなければ,その他国の事務に関して何らかの職務に従事する ア司法修習生は,公務員ではなく,法令上,職務に関する何らの権限も付与されておらず,司法修習中,裁判官,検察官及び弁護士の職務を遂行することもなければ,その他国の事務に関して何らかの職務に従事することも予定されていない(前提事実)。 イ司法修習生は,裁判官,検察官及び弁護士の補助者として同人らに労務を 提供することもない。 すなわち,司法修習は,おおまかには,①実際の事件を検討し,これを進行するための書面の作成,議論,関係者への連絡等を行うもの,②裁判官,検察官及び弁護士に帯同して実務を見るもの,③講義を受けるもの,④試験としての起案を行い,その講評を受けるもの,⑤施設見学,及び⑥模擬裁判などから構成される(認定事実⑶ア~ウ)。これらは全て,司法修習の目的及 び内容に照らせば,司法修習生が法曹に必要な能力を身に付けるための臨床教育課程であって,司法修習生をして修習中に司法修習生自身以外に成果を提供させることを目的としたものではなく,労務の提供といえないことは明らかである。このうち,上記①及び②は,実際の法律実務活動の中で実施されるが,裁判官,検察官及び弁護士は,司法修習生の研さんのために,法曹 の職務を体験させ,あるいは司法修習生に課題を与えているものであり,高度の専門的実務能力と職業倫理を備えた質の高い法曹を確保するために必要なこととして行われているものである。このことは,分野別実務修習又は選択型実務修習が行われていない期間に,司法修習生に代わる職員が補充されず,他の職員が司法修習生の役割を代替することもないことからも裏付け られている。これらの点に鑑みると,国が上記①及び②を労務として要求しているとも,司法修習生がこれを労務として引き受けているともいえない。 ウ原告らは,国の指揮命令下 ないことからも裏付け られている。これらの点に鑑みると,国が上記①及び②を労務として要求しているとも,司法修習生がこれを労務として引き受けているともいえない。 ウ原告らは,国の指揮命令下で,修習専念義務等を負いながら,修習をすること自体が債務の本旨の履行であり,労務の提供である旨主張する。 たしかに,司法修習生は,将来,司法権を担うに足りる法曹になるために, 義務的に司法修習を受けているものであり,司法修習生が修習によりその素養を高めることは,将来的には国の利益となる。 しかし,憲法27条の「勤労」の文理解釈によれば,上記ア,イのように客観的に労務の提供といえない活動について,潜在的な有益性を捉えて,「勤労」ということはできない。 原告らは,上記主張に関連して,修習専念義務等は給費制における給与の 対価である旨主張するが,そのような対価関係が認められないことは前述のとおりである。 エ原告らは,民間企業や官公庁における職員の研修については,職員が使用者の指揮監督下にあることを捉えて労働と認められており,司法修習についても,司法修習生は司法研修所長等の指揮監督下で研修をするものであるか ら,労働と認められるべきである旨主張する。 しかし,原告らのいう民間企業や官公庁における研修は,採用済みの職員に対し,将来,同職員が使用者に対して労務を提供できるようにするために参加させているものである。これに対して,司法修習生は,修習終了後,公務員になり,国の事務を負担することが必ずしも予定されていない(前提事 。たしかに,法曹は,外形的に国の事務を負担しない者であっても,その職務を通して憲法の普遍的価値の実現等に寄与することが予定されているが,憲法27条の「勤労」の文理解釈上,そのような寄与のみを 。たしかに,法曹は,外形的に国の事務を負担しない者であっても,その職務を通して憲法の普遍的価値の実現等に寄与することが予定されているが,憲法27条の「勤労」の文理解釈上,そのような寄与のみをもって,国に対する労務の提供があるということはできない。 よって,原告らの上記主張は採用できない。 オよって,司法修習生が国に労務を提供しているとは認められず,憲法27条1項,2項の「勤労」者に当たるとはいえない。 ⑶ 小括したがって,給費制が憲法27条1項,2項により保障されているとはいえないから,給費制の廃止が憲法27条1項,2項に違反するとはいえない。 4 給費制における給与の性格以上の検討を踏まえると,給費制における給与とは,司法権を担う者としての法曹の重要性に鑑み,その資格要件である司法修習に人材を吸収するとともに,司法修習に専念させる見地から,司法修習生に対する配慮として支給されていたものというべきである(最高裁昭和38年(オ)第5号同42年4月28日第二 小法廷判決・民集21巻3号759頁参照)。 5 争点3(給費制の廃止が憲法25条1項に違反するか)⑴ 給費制は生存権を保障したものではないことア上記4のとおり,給費制における給与は,司法修習生に対する立法政策上の配慮として支給されていたものであり,生存権の保障を具体化したものではない。このことは,生存権の保障のためには,別途,生活保護法等の法律 が定められていることからも明らかである。 イ原告らは,多くの司法修習生が修習までの教育課程のために多額の経済的負担をしていることを指摘するが,修習前の教育課程は各自が費用負担すべきものであり,それが困難な者には奨学金制度も用意されているから,修習前の教育課程に要した費用を での教育課程のために多額の経済的負担をしていることを指摘するが,修習前の教育課程は各自が費用負担すべきものであり,それが困難な者には奨学金制度も用意されているから,修習前の教育課程に要した費用をまかなえるほどの支給をすることが憲 法25条1項により保障されているとはいえない。 原告らは,貸与制においては,貸与金の返還時期が家庭を持ち扶養家族が増える時期や弁護士の独立時期と重なり,多額かつ集中的な経済的負担がもたらされることを指摘するが,奨学金の返済時期が他の出費の多い時期と重なるという事態は,法曹ではない国民にも見られるものであり,法 曹のみが給費制によりそのような事態を免れることを要求できるものではなく,この点が憲法25条1 項により保障されているとはいえない。 ⑵ 貸与制が生存権を侵害しないこと原告らの主張は,給費制を廃止し貸与制に移行したことにより,司法修習生が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができなくなったという事実を 前提にするが,同事実を認めることはできない。 ア司法修習中の生活について貸与制下の司法修習生の経済的支障として訴えられている多くは,書籍を購入できなかった,懇親会に参加できなかった,就職活動費等を節約せざるを得なかった,パソコンを新調できなかった,借家の際に苦労したといった ものであり(認定事実⑷イ),健康で文化的な最低限度の生活に関わ るようなものではない。中には,食費や医療費を節約せざるを得なかった旨の主張もあるが(同),その程度及び他の出費を見直すことにより同費用を捻出できなかったかなどの点は不明である。さらに,原告らは,修習終了後の生活について,貸与金の返還に関する不安を述べるが,客観的に,貸与金の返還により健康で文化的な最低限度の生活を維持で り同費用を捻出できなかったかなどの点は不明である。さらに,原告らは,修習終了後の生活について,貸与金の返還に関する不安を述べるが,客観的に,貸与金の返還により健康で文化的な最低限度の生活を維持できなくなる可能 性が高いとは認められない。 貸与金という借金により生活することを不健全と感じる者がいるとしても,そのことは生活を維持できているという事実に影響しない。 イ司法修習終了後の生活について貸与制は,その返還時期,無利息であること,経済状況に鑑みて返還が免 終了後の生活の基盤を脅かすものであったとも認められない。 ⑶ 小括したがって,給費制の廃止が憲法25条1項に違反するとはいえない。 6 争点4(給費制の廃止が憲法14条1項に違反するか) ⑴ 給費制下の司法修習生との比較ア別異取扱いの内容平成16年改正法は,給費制を廃止し,貸与制を導入するものであり,給費制下の司法修習生が給与(現行65期では基本給のみで月額19万4460円から20万4200円)等を得られていたのに対し,貸与制下の司法修 習生はこれを得られないという,貸与制下の司法修習生にとって不利な別異取扱いを生じさせた(前提事実⑴イ,⑶オ)。 原告らは,上記別異取扱いが憲法14条1項に違反すると主張する。 イ判断枠組み憲法14条1項は,国民に対し,絶対的な平等を保障したものではなく, 合理的理由のない差別を禁止する趣旨であり,事柄の性質に即応した合理 的な根拠に基づく区別は同項に違反するものではないと解される(最高裁昭和37年(オ)第1472号同39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁,最高裁昭和45年(あ)第1310号同48年4月4日大法廷判決・刑集27巻3号265頁参照)。 前述のとおり, 昭和37年(オ)第1472号同39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁,最高裁昭和45年(あ)第1310号同48年4月4日大法廷判決・刑集27巻3号265頁参照)。 前述のとおり,給費制は,憲法上要請ないし保障された制度でも,司法 修習生の憲法上の権利を保障する制度でもなく,法曹養成制度の具体的内容は,立法府の合理的な裁量判断に委ねられている。そうすると,事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づく区別であるか否かは,立法府の裁量を踏まえて判断すべきであり,(A)給費制の廃止について合理的な立法理由があり,(B)給費制を廃止して貸与制に移行するという手段が,当 該立法理由に照らして著しく不合理なものではない場合,上記別異取扱いは,立法府に与えられた合理的な裁量判断の限界を超えておらず,憲法14条1項に違反するものではないというべきである。 上記立法裁量に関して,原告らは,給費制の廃止及び復活についての立法裁量は極めて減縮されている旨主張するとともに(下記aないしd), 目的及び手段に関する審査だけではなく,立法過程に着目した審査もすべきである旨主張する(下記e)。しかし,次のとおり,いずれも採用できない。 a 原告らは,法曹は憲法によりその存在を保障されている集団であるから,その集団にはふさわしい待遇が与えられるべきであり,制度の細部 にわたる裁量は否定できないにせよ,その核心的内容を否定する立法は憲法違反のそしりを免れない旨主張する。 しかし,法曹集団の存在が憲法により保障されているからといって,直ちに,給費制がいまだ法曹養成課程にある司法修習生に「ふさわしい待遇」の「核心」であるという結論が導かれるわけではない。よって, 原告らの主張は採用できない。 b 原告らは, 直ちに,給費制がいまだ法曹養成課程にある司法修習生に「ふさわしい待遇」の「核心」であるという結論が導かれるわけではない。よって, 原告らの主張は採用できない。 b 原告らは,給費制が標準的な制度形態(ベースライン)である旨主張する。 しかし,給費制が長年にわたって実施されてきた制度であるとしても,そのことのみから,他の経済的支援ではなく給費制という経済的支援によって法曹養成がされるべきであるという共通理解が形成されたとま では認められない。よって,原告らの主張は採用できない。 c 原告らは,立法府は一旦給費制を創設した以上,同制度を後退させる立法をすることは許されない旨主張する。 しかし,法曹養成制度の具体的設計は国家財政の状況等を踏まえる必要があるところ,国家財政の状況等は時代により当然変わるものである から,給費制の創設により,その後の立法裁量が消滅ないし縮減したとは考えられない。よって,原告らの主張は採用できない。 d 原告らは,修習専念義務を課されている司法修習生にとって,国からの経済的保障は,生活を維持するために不可欠であり,経済上,身分上の不安なく,自己研さん等に取り組み,司法権の担い手として人間的に 成長する機会を得る上でも極めて重要であって,国は憲法上の要請である法曹養成義務を果たすために給費制という経済的保障をしていたものであるから,給費制の廃止は,憲法上重要な価値がある地位ないし取扱いに関する差別であり,その合理性は厳格に判断されるべきである旨主張する。 しかし,給費制は憲法上の要請ではなく,給費制により給付を受けることは司法修習生の憲法上の権利であるということはないから,原告らの主張は採用できない。 e 原告らは,平成16年改正においては十分な議論がさ 給費制は憲法上の要請ではなく,給費制により給付を受けることは司法修習生の憲法上の権利であるということはないから,原告らの主張は採用できない。 e 原告らは,平成16年改正においては十分な議論がされておらず,考慮すべき事情を考慮しないという瑕疵があった旨主張する。 しかし,同改正における審理の経過は前提事実⑶アないしエのとおり であり,給費制の廃止に慎重な立場の観点,法曹になるまでに負うことになる経済的負担の重さ,それを緩和するための法科大学院生のための奨学金制度の拡充,研修生に対して給付がされる他の制度との比較,司法制度改革のための具体的な予算措置や給費制を維持した場合の費用の試算なども議論されていたものであり,立法過程に裁量の逸脱といえ るほどの瑕疵があったとは認められない。よって,原告らの主張は採用できない。 ウ給費制の廃止について合理的な立法理由があるか(A)立法理由平成16年改正の立法理由は,同改正に向けた議論(前提事実⑶ア~エ) に照らせば,おおむね次のとおりであったと認められる。 社会が多様化,複雑化する中,今後,市民生活の様々な場面において法曹需要が量的に増大するとともに,質的に多様化,高度化することが予想される。これに対応するためには,法曹を質及び量の両面において拡充し,司法機能を充実させることが必要である。法曹の質に関する主な改革とし ては,法曹養成課程として,従前の司法修習に加えて,法科大学院を新設する。法曹の量に関する主な改革としては,司法試験の合格者を,平成22年頃に年間3000人程度まで増やすことを目指す。 上記司法制度改革に伴う財政負担として,法科大学院の新設及び維持には,国費による補助を必要とする。また,司法試験の合格者が増えて司法 修習生が増え 年間3000人程度まで増やすことを目指す。 上記司法制度改革に伴う財政負担として,法科大学院の新設及び維持には,国費による補助を必要とする。また,司法試験の合格者が増えて司法 修習生が増えれば,給費を措いても司法修習の実施経費が増える。その上,仮に給費制を維持した場合,司法修習生の増加に伴い,司法修習生に対する給与支払の負担が増加することになる。 以上を踏まえても給費制を維持すべきかを検討すると,司法制度改革は新たな財政負担を必要とするところ,司法制度改革を実現するためには, 有限の国家予算を効率的に投入する必要がある。一般的にも,有限の国家 予算は,財政状況や政策の重要性等を考慮して,適切に配分されるべきである。このような観点で給費制を見ると,給費制は,国が労務を提供しない者に対して給与を支払うという異例の制度であり,これを法曹に限って維持すべき合理性は認められない。 よって,給費制を廃止し,貸与制に移行することとする。 立法理由の合理性a 法曹需要が量的に増大し,質的に多様化,高度化するとの予測は,法曹人口の国際比較(認定事実⑴ア)も踏まえると,およそ不合理であったということはできず,司法試験の合格者を年間3000人程度まで増やすなどの政策判断も,上記予測に照らすと,およそ不合理であったと いうことはできないし,これらの司法制度改革に伴って多額の経費負担等が発生することは認定事実⑵のとおりである。 そして,司法修習生に対する給費制が国が労務を提供しない者に対して給与を支払うという異例の制度であることは客観的な事実であり(上記3参照),有限の国家予算を効率的に投入するという観点からは,給 不合理な判断であるということはできない。 b 以上の判断は,平成29年改正を踏まえても変わ あることは客観的な事実であり(上記3参照),有限の国家予算を効率的に投入するという観点からは,給 不合理な判断であるということはできない。 b 以上の判断は,平成29年改正を踏まえても変わるものではない。 すなわち,平成29年改正は,貸与制移行後の法曹志望者の減少という,平成16年改正時には予測していなかった新たな立法事実等を踏ま えた立法判断である(前提事実⑺ア,イ)。平成29年改正は,平成16年改正から事情変更がある以上,平成16年改正と矛盾するものではなく,平成29年改正を根拠として,平成16年改正において立法理由が不合理であったとか,同改正後に立法理由が消滅したということはできない。 エ給費制を廃止して貸与制に移行するという手段が,立法理由に照らして著 しく不合理なものではないか(B)給費制の廃止により,財政支出を大幅に抑制することができる(認定事実⑵イ)。 原告らは,給費制廃止後,法曹志願者が激減するとともに,司法試験に合格したにもかかわらず,司法修習を辞退する者が急激に増加したもので あり,給費制の廃止は法曹に有為な人材を集めるという立法理由に照らして首尾一貫した制度設計となっていない旨主張する。 a しかし,給費制の廃止は,司法試験の合格枠の拡大を実現可能にするものであり(乙18〔23頁〕参照),従前であれば司法試験の受かりにくさを理由に受験を忌避していた者らを法曹志望者に取り込み,法曹 志望者を増加させ得るものであった。 b また,貸与制は,修習中の生活の基盤を確保するに足りるものであり,修習終了後には法曹資格を得て一定の返済能力が見込まれることによれば,貸与制に移行することで相当数の者が経済的理由から法曹を志望しなくなると予測することが容易であったとはいえ るに足りるものであり,修習終了後には法曹資格を得て一定の返済能力が見込まれることによれば,貸与制に移行することで相当数の者が経済的理由から法曹を志望しなくなると予測することが容易であったとはいえない。 c 以上によれば,給費制から貸与制への移行が,法曹を質及び量の両面において拡充するという立法目的に逆行することが明らかであったとはいえない。 貸与制は,司法権が実効的に機能するに足りる法曹養成制度(上記1⑴)の一つであって,給費制に代わる制度として貸与制を採用することが不合 理とはいえない。 アンケートの中には,国家財政に鑑みて給費制における従前の給与額を減額することはさておき,司法修習の実費程度の支給はすべきではないかという意見がある(甲117〔26頁〕,甲123〔24,26頁〕など)。 これは,上記立法目的を達成する手段として,貸与制よりも司法修習生へ の負担が小さい手段があり得るから,貸与制への移行には合理性がない旨 を主張するものと解される。 しかし,上記意見の立法政策としての当否は措いても,そもそも給費制が憲法上要請ないし保障された制度ではなく,憲法上の権利を保障したものでもない以上,給費制を縮小の上で維持することが財政的に不可能ではなかったとしても,諸般の事情に照らして,これを廃止し,それによって 生じた余剰を他の政策に供するという判断をすることも立法裁量として許容される。よって,上記意見が前提とする判断枠組みは採用できるものではない。 以上によれば,給費制を廃止して貸与制に移行することが,上記立法理由に照らして著しく不合理であるとはいえない。 オ小括よって,給費制下の司法修習生と,原告らを含む貸与制下の司法修習生との別異取扱いは,事柄の性質に即応した合理的な根 とが,上記立法理由に照らして著しく不合理であるとはいえない。 オ小括よって,給費制下の司法修習生と,原告らを含む貸与制下の司法修習生との別異取扱いは,事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づくものであるから,憲法14条1項に違反するものとはいえない。 ⑵ 修習給付金制度下の司法修習生との比較 ア別異取扱いの内容平成29年改正法が,71期以降の司法修習生に修習給付金制度を創設しながら,貸与制下の司法修習生には何らの措置も講じなかったことは,修習給付金制度下の司法修習生は修習給付金(基本給付金として月額13万5000円,さらに住居給付金として月額3万5000円)を得られるのに対し, 貸与制下の司法修習生はこれを得られないという,貸与制下の司法修習生にとって不利な別異取扱いを生じさせた(前提。 原告らは,上記別異取扱いが憲法14条1項に違反すると主張する。 イ判断枠組み判断枠組みは上記⑴イのとおりであり,上記別異取扱いが事柄の性質に即 応した合理的な根拠に基づく区別であるか否かは,平成16年改正法及び平 成29年改正法のそれぞれについて,(A)合理的な立法理由があり,(B)当該立法理由に照らして著しく不合理ではないかによって判断すべきである。 ウ平成16年改正法について平成16年改正法について合理的な立法理由があり,当該立法理由に照ら して著しく不合理ではないことは,上記⑴のとおりである。 エ平成29年改正法について合理的な立法理由があるか(A)a 立法理由平成29年改正に向けた議論(前提事実⑺ア,イ)に照らすと,同改 正の立法理由は,法曹志望者が減少し,法曹志望者を確保する必要が生じたため,司法修習の経済的負担を緩和することとし,71期以降の司法 9年改正に向けた議論(前提事実⑺ア,イ)に照らすと,同改 正の立法理由は,法曹志望者が減少し,法曹志望者を確保する必要が生じたため,司法修習の経済的負担を緩和することとし,71期以降の司法修習生に対し,修習給付金制度を新設するという点にあると認められる。 b 立法理由の合理性 上記立法理由について検討すると,法曹志望者が減少していた事態に対して,法曹人材確保の充実・強化の推進等を図るため,司法修習生に対する経済的支援制度を強化する要請が生じたという状況の変化によるものであり,上記立法理由が不合理であるとはいえない。 立法理由に照らして著しく不合理なものではないか(B) 上記⑴エで検討したところに加えて,上記立法理由によれば,改正前後で別異取扱いとなることはやむを得ず(これから司法修習生になる者に給付をすることは将来の法曹志望者の確保に寄与するのに対し,既に法曹となった者に給付をすることに同等の効果があると認めなかったことが不合理とはいえない。),立法理由に照らして著しく不合理であるとはいえな い。 なお,貸与制下で司法修習を受けた者と,修習給付金制度下で司法修習を受けた者との間の別異取扱いの大きさに照らし,前者に何らかの補償措置等を行うことも考慮されて然るべきではある。しかしながら,前述のとおり,給費制は憲法上要請ないし保障された制度でも,司法修習生の憲法上の権利を保障する制度でもないから,こうした補償措置等を行うべきか 否かは,有限の国家予算の効率的投入という観点から行われるべき,専ら政策判断の問題であって,補償措置等がないからといって,これら別異取扱いが著しく不合理なものであるとまでいうことはできない。 オよって,貸与制下の司法修習生と修習給付金制度下の司法修習生との区別 政策判断の問題であって,補償措置等がないからといって,これら別異取扱いが著しく不合理なものであるとまでいうことはできない。 オよって,貸与制下の司法修習生と修習給付金制度下の司法修習生との区別は,事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づくものであるから,憲法14 条1項に違反するものとはいえない。 ⑶ 書記官研修生との比較ア別異取扱いの内容書記官研修生は,研修中,国から給与を支払われるのに対し(前提事実⑻),貸与制下の司法修習生は,修習中,国から給与を支払われないものであり, この点で貸与制下の司法修習生に不利な別異取扱いがある。 イ判断枠組み判断枠組みは上記⑴イのとおりである。 ウ検討書記官研修生は,現に裁判所職員としての身分を有し,将来,裁判所書記 官として裁判所における職務に就くことが予定されているのに対し(前提事実⑻),司法修習生は,国家公務員としての身分を持たず,将来国の事務に就くことが予定されているわけでもない(同⑵オ)。両者の給与の有無は,このような差異に基づくものであり,合理的理由があるから,憲法14条1項に違反しない。 ⑷ 小括 以上によれば,給費制の廃止が憲法14条1項に違反するとはいえない。 7 昭和22年裁判所法67条2項本文に基づく請求について以上のとおり,平成16年改正法は,違憲無効であるとはいえない。 よって,昭和22年裁判所法67条2項は,平成16年改正法により改正されたものであり,原告らの昭和22年裁判所法67条2項本文に基づく請求は,理 由がない。 8 争点5(給費制を廃止する立法をしたこと及び給費制を復活させる立法をしなかったことがそれぞれ国家賠償法1条1項の適用上違法か)⑴ 判断枠組み国家賠償法1条1項は,国 理 由がない。 8 争点5(給費制を廃止する立法をしたこと及び給費制を復活させる立法をしなかったことがそれぞれ国家賠償法1条1項の適用上違法か)⑴ 判断枠組み国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が 個々の国民に対して負担する職務上の法的義務に違反して当該国民に損害を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを定めるものであるところ,国会議員の立法行為又は立法不作為が同項の適用上違法となるかどうかは,国会議員の立法過程における行動が個々の国民に対して負う職務上の法的義務に違反したかどうかの問題であり,立法の内容の違憲性の問題と は区別されるべきものである。そして,上記行動についての評価は原則として国民の政治的判断に委ねられるべき事柄であって,仮に当該立法の内容が憲法の規定に違反するものであるとしても,そのことから直ちに国会議員の立法行為又は立法不作為が同項の適用上違法の評価を受けるものではない。 もっとも,立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を 違法に侵害するものであることが明白な場合や,国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり,それが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには,例外的に,国会議員の立法行為又は立法不作為は,同項の適用上,違法の評価を受けるものというべきである(最高裁平成13年 (行ツ)第82号,同年(行ツ)第83号,同年(行ヒ)第76号,同年(行 ヒ)第77号同17年9月14日大法廷判決・民集59巻7号2087頁,最高裁平成25年(オ)第1079号同27年12月16日大法廷判決・民集69巻8号2427頁)。 )第76号,同年(行 ヒ)第77号同17年9月14日大法廷判決・民集59巻7号2087頁,最高裁平成25年(オ)第1079号同27年12月16日大法廷判決・民集69巻8号2427頁)。 ⑵ 本件の検討国会は,平成16年改正において給費制を廃止する立法をし,その後,給費 制を復活させる立法をしなかったものであるが,前述のとおり,いずれも原告らの憲法上の権利を侵害するものとは認められないから,国会議員の立法行為又は立法不作為が国家賠償法1条1項の適用上違法であるとはいえない。 なお,原告らは,平成29年改正において貸与制下の司法修習生について何らの補償措置等も講じなかったことは,意図的な立法不作為であり,国家賠償 法1条1項の適用上違法である旨主張するようであるが,前記6⑵エのとおり,貸与制下の司法修習生について何らかの補償措置等を講じるか否かは専ら政策判断の問題であって,国会が,平成29年改正において,貸与制下の司法修習生が前後の期の司法修習生と比べて不利に取り扱われることになるという帰結を認識していたことは,上記判断を左右するものではない。 よって,原告らの国家賠償法1条1項に基づく請求は理由がない。 第4 結論よって,原告らの請求はいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 札幌地方裁判所民事第3部 裁判長裁判官 髙木勝己 裁判官 股直子 裁判官 坂本桃 裁判官 坂本桃

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