平成30(ワ)34729 特許権侵害差止等請求事件

裁判年月日・裁判所
令和2年2月26日 東京地方裁判所
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令和2年2月26日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成30年(ワ)第34729号特許権侵害差止等請求事件口頭弁論終結日令和元年12月18日判決 原告 株式会社東京精密 同訴訟代理人弁護士 半場秀筬 島裕斗 志前田直哉 三縄隆 松村啓 同補佐人弁理士 石田良平 被告 浜松ホトニクス株式会社 同訴訟代理人弁護士 設樂隆一 塚原朋一 松本直樹 尾関孝彰 寺下雄介 石川裕彬 大澤恒夫 同訴訟代理人弁理士 長谷川芳樹 柴田昌聰 同補佐人弁理士 小曳満昭 今村玲英子 深沢正志 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟 村玲英子 深沢正志 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,別紙被告製品目録記載の各製品の製造,譲渡,若しくは貸渡し又は譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。 2 被告は,別紙被告製品目録記載の各製品を廃棄せよ。 第2 事案の概要本件は,発明の名称を「抗折強度の高い薄型チップの形成方法及び形成システム」 とする特許第6276437号の特許権(以下「本件特許権」といい,この特許を「本件特許」という。また,本件特許の願書に添付した明細書及び図面を併せて「本件明細書」という。)を有する原告が,別紙被告製品目録記載1及び2の各レーザエンジン(以下,これらを併せて「被告各製品」という。)を搭載し,所定の条件でウェーハにレーザ光を照射するための装置であるSDレーザソーを含むSDBGプロセス(「S DBG」とは「StealthDicingBeforeGrinding」の略である。)を実行するために必要な全ての装置から成るシステムは,本件特許の特許請求の範囲請求項2に係る発明(以下「本件発明」という。)の技術的範囲に属し,被告において被告各製品の製造,譲渡若しくは貸渡し又は譲渡若しくは貸渡しの申出(以下「製造等」という。)をする行為は,特許法101条2号の間接侵害に当たると主張して,被告に対し,同法10 0条1項に基づき被告各製品の製造等の差止めを,同条2項に基づき被告各製品の廃棄をそれぞれ求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いがない事実又は後掲の証拠(以下,書証番号は特記しな 0条1項に基づき被告各製品の製造等の差止めを,同条2項に基づき被告各製品の廃棄をそれぞれ求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いがない事実又は後掲の証拠(以下,書証番号は特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)当事者 ア原告は,半導体製造装置及び精密計測機器の製造,販売等を目的とする株式会 社である。 イ被告は,光電子増倍管,イメージ機器,光源,光半導体素子,画像処理・計測装置の製造,販売等を目的とする株式会社である。 本件特許権ア原告は次の内容の本件特許権を有している。 出願日平成29年2月16日分割の表示特願2016-132264の分割原出願日平成23年6月13日登録日平成30年1月19日特許番号特許第6276437号 発明の名称抗折強度の高い薄型チップの形成方法及び形成システムイ本件発明に係る特許請求の範囲の内容は次のとおりである。 レーザ光でウェーハの内部に改質領域を形成する改質領域形成手段と,前記ウェーハの裏面を研削することにより,前記改質領域から延びた微小亀裂を前記ウェーハの表面に到達しない位置まで進展させつつ前記改質領域を取り除く研削手段と,前記ウ ェーハに貼り付けたシートをエキスパンドするエキスパンド手段と,を備える,抗折強度の高い薄型チップの形成システム。 本件発明の構成要件の分説本件発明は,次のとおり構成要件に分説することができる。 A レーザ光でウェーハの内部に改質領域を形成する改質領域形成手段と, B 前記ウェーハの裏面を研削することにより,前記改質領域から延びた微小亀裂を前記ウェーハの表面に到達しない位置ま 。 A レーザ光でウェーハの内部に改質領域を形成する改質領域形成手段と, B 前記ウェーハの裏面を研削することにより,前記改質領域から延びた微小亀裂を前記ウェーハの表面に到達しない位置まで進展させつつ前記改質領域を取り除く研削手段と,C 前記ウェーハに貼り付けたシートをエキスパンドするエキスパンド手段と,D を備える,抗折強度の高い薄型チップの形成システム。 被告の行為等 ア被告は,別紙被告製品目録記載の製品を除く被告各製品を製造し,訴外株式会社ディスコ(以下「本件訴外会社」という。)に販売している。 イ本件訴外会社は,SDレーザソー(型番DFL7361又はDFL7362),研削装置(型番DGP8761)及びエキスパンド装置(型番DDS2300又はDDS2310)を含むSDBGプロセスを実行するために必要な全ての装置から成る システム(以下「SDBGプロセス実行システム」という。)を製造販売等している。 ている。 ウ SDと略称されることもあるステルスダイシング(StealthDicing)は,レーザ光をウェーハ等の被加工物内部に集光することで任意の位置に改質領域を形成し た上で,被加工物に貼り付けたテープを拡張するなどして,被加工物を個片化する技術である。そして,SDBGプロセスは,ステルスダイシングにおいて,被加工物の個片化に当たってその裏面の研削を行う前に,上記改質領域の形成を行うことを内容とする技術である(甲4~6,11,乙1,26~28)。 被告各製品 被告各製品は,レーザ加工を行うためのレーザエンジンである。レーザエンジンとは,レーザ光源,光学系ユニット,自動焦点ユニット及びこれらの制御装置から成り,制御装置による制御の下で,レーザ出射装置からウェーハに は,レーザ加工を行うためのレーザエンジンである。レーザエンジンとは,レーザ光源,光学系ユニット,自動焦点ユニット及びこれらの制御装置から成り,制御装置による制御の下で,レーザ出射装置からウェーハに向けて所定の条件でレーザ光を出射することにより,ウェーハ内部に改質領域が形成される。 2 争点 本件特許権について特許法101条2号の間接侵害が成立するか(争点1)ア SDBGプロセス実行システムは,文言上,本件発明の技術的範囲に属し,その製造販売等は本件発明の実施に当たるか(争点1-1)イ被告各製品は,本件発明による課題の解決に不可欠なものに該当するか(争点1-2) ウ被告において被告各製品が本件発明の実施に用いられることを知っているか (争点1-3)本件特許の特許請求の範囲請求項2は特許無効審判により無効とされるべきものか(争点2)ア特許法36条6項2号に違反しているか(争点2-1)イ特許法36条6項1号に違反しているか(争点2-2) ウ特許法39条1項に違反しているか(争点2-3)エ特許法17条の2第3項に違反しているか(争点2-4)オ本件特許の出願が冒認出願(特許法123条1項6号)に該当し,又は特許法38条に違反しているか(争点2-5)第3 争点に対する当事者の主張 1 争点1(本件特許権について特許法101条2号の間接侵害が成立するか)について 争点1-1(SDBGプロセス実行システムは,文言上,本件発明の技術的範囲に属し,その製造販売等は本件発明の実施に当たるか)について【原告の主張】 ア SDBGプロセス実行システムは,本件発明の構成要件を全て充足するから,同システムは,文言上,本件発明の技術的範囲に属する。 イ本 発明の実施に当たるか)について【原告の主張】 ア SDBGプロセス実行システムは,本件発明の構成要件を全て充足するから,同システムは,文言上,本件発明の技術的範囲に属する。 イ本件発明の構成要件Bの「改質領域から延びた微小亀裂を…進展させ」るを充足するには,その文言どおり,改質領域から延びた微小亀裂を進展させれば足り,改質領域内に形成された微小亀裂と改質領域外に形成された微小亀裂とを区別する必 要はない。 そして,次の各点に照らすと,SDBGプロセス実行システムは,改質領域の形成されたウェーハの裏面を研削して,改質領域から延びた微小亀裂をウェーハの表面に到達しない位置まで進展させつつ改質領域を取り除く構成を有している。 したがって,SDBGプロセス実行システムは,本件発明の構成要件Bを充足する。 被告がSDBGプロセスを説明するために作成し,平成29年8月9日に公開 された動画(甲6)では,研削工程終了時点で,ウェーハから改質領域が取り除かれている一方,亀裂はウェーハの表面まで達していない。 SDBGプロセス実行システムは,改質領域を形成する深さ,間隔等種々の条件から成るウェーハの切断態様をアプリケーションとして複数組み込んでおり,研削時に改質領域から延びた微小亀裂をウェーハの表面に到達しない位置まで進展させ つつ改質領域を取り除く態様(甲13の②の態様)も実行することができる。 【被告の主張】 SDBGプロセス実行システムにおいては,改質領域を形成する際に微小亀裂がウェーハの表面に到達するか,又は改質領域形成後研削工程の際に微小亀裂がウェーハの表面に到達している。 本件特許に係る出願の原出願(特願2016-132264)の原出願(特願2015-202032)の に到達するか,又は改質領域形成後研削工程の際に微小亀裂がウェーハの表面に到達している。 本件特許に係る出願の原出願(特願2016-132264)の原出願(特願2015-202032)の原出願(特願2011-131491)の出願当初の特許請求の範囲及び明細書の記載を参酌すると,本件発明の構成要件Bにおいて研削により「進展」されるのは改質領域内に形成された微小亀裂であると解釈せざるを得ない。これに対し,SDBGプロセス実行システムでは,研削による微小亀裂の進展が 発生する場合,進展させられるのは改質領域外に形成された微小亀裂である。 したがって,SDBGプロセス実行システムは,少なくとも本件発明の構成要件Bを充足しない。 イ原告が【原告で指摘する動画は,SDBGプロセスの概略を紹介する目的のもので技術的に正確なものではなく,SDBGプロセス実行システムにお ける加工工程を示すものでもない上に,上記動画の内容を前提としても,エキスパンド工程に先立ち微小亀裂がウェーハの表面に到達していることが示されている。 また,SDBGプロセス実行システムは,微小亀裂がウェーハの表面に到達しないようにするアプリケーションを組み込んでいない。原告の指摘する甲第13号証の②の態様は,改質領域形成工程が終了した時点で微小亀裂がウェーハの表面に到達して いない態様を示すことを意図したもので,裏面を研削することにより微小亀裂を成長 させつつ,研削及び研磨工程が終了した時点で微小亀裂がウェーハの表面に到達していない態様を示すものではない。 争点1-2(被告各製品は,本件発明による課題の解決に不可欠なものに該当するか)について【原告の主張】 ウェーハの切断の際に,チップが割れたりチップが断面から発 ものではない。 争点1-2(被告各製品は,本件発明による課題の解決に不可欠なものに該当するか)について【原告の主張】 ウェーハの切断の際に,チップが割れたりチップが断面から発塵したりする不具合によって,安定した品質のチップを得ることができないという課題を解決するために新たに開示された従来技術に見られない本件発明の特徴的技術手段は,構成要件Bの「前記改質領域から延びた微小亀裂を前記ウェーハの表面に到達しない位置まで進展させつつ前記改質領域を取り除く」点にある。 そのためには,研削手段による研削の仕方だけでなく,レーザ光による改質領域及びこれから延びる微小亀裂の作り込みも重要であるところ,改質領域と微小亀裂の形成のされ方は,集光方法等のレーザエンジン自体の性能に依存し,亀裂の延び量は,波長,パルス幅等のレーザエンジン内部のパラメータに大きく依存するものである。 したがって,改質領域を研削除去した際に,改質領域から延びる微小亀裂をウェー ハの表面に到達させないことが可能となるような改質領域を形成するレーザ光は,本件発明の特徴的技術手段を特徴付ける特有の構成に該当する。 そうすると,上記レーザ光を照射するレーザエンジンである被告各製品は,上記構成を直接もたらす特徴的な部材に該当し,SDBGプロセス実行システムは,被告各製品を用いて初めて本件発明の特徴的技術手段を達成することができるのであるか ら,被告各製品は,本件発明による課題の解決に不可欠なものに該当する。 【被告の主張】従来技術(乙7)の内容及び本件明細書の記載等に照らすと,本件発明の特徴的技術手段は,研削により改質領域を取り除く際に,砥石又はウェーハへの給水を制御し,ウェーハ温度を制御することにより,研削中に進展する微小亀裂がウェーハの 本件明細書の記載等に照らすと,本件発明の特徴的技術手段は,研削により改質領域を取り除く際に,砥石又はウェーハへの給水を制御し,ウェーハ温度を制御することにより,研削中に進展する微小亀裂がウェーハの表面に 到達しないように制御する手段であるというべきである。レーザ光の照射によりウェ ーハの内部に改質領域と微小亀裂を形成すること及び微小亀裂をウェーハの表面に到達させたりさせなかったりすることは本件発明以前の公知技術であって,本件発明の特徴的技術手段ではないし,上記の特徴的技術手段と有意な関連性もない。 したがって,改質領域形成工程にのみ関与する被告各製品は,本件発明の上記特徴的技術手段を特徴付けている特有の構成を直接もたらす特徴的な部材ではなく,本件 発明による課題の解決に不可欠なものに該当しない。 争点1-3(被告において被告各製品が本件発明の実施に用いられることを知っているか)について【原告の主張】被告は,遅くとも本件訴状の送達により,本件発明が特許発明であること及び被告 各製品が本件発明の実施に用いられることを知った。 【被告の主張】原告の主張は争う。 2 争点2(本件特許の特許請求の範囲請求項2は特許無効審判により無効とされるべきものか)について 争点2-1(特許法36条6項2号に違反しているか)について【被告の主張】ア 「抗折強度の高い」(構成要件D)について次のとおり,「抗折強度の高い」の記載は,特許法36条6項2号に違反する。 「抗折強度の高い」の記載は,抗折強度の測定方法,比較すべき物や測定値が 明確ではない。 本件明細書(段落【0010】,【0014】,【0022】,【0131】,【0132】,【0164】)の記載からすれ 記載は,抗折強度の測定方法,比較すべき物や測定値が 明確ではない。 本件明細書(段落【0010】,【0014】,【0022】,【0131】,【0132】,【0164】)の記載からすれば,「抗折強度の高い」チップとは,形成された改質領域を除去する研削除去工程に加えて化学機械研磨工程が行われるものをいうと解されるか,仮にそうでないとしても,研削除去工程及び化学機械研磨工程の双方 を行う場合のチップの抗折強度は,後者を行わないものと比べて高いと解されるので あり,仮に,本件発明における「抗折強度の高い」薄型チップにつき,研削除去工程によりチップ断面に改質領域が残っていないものを意味するにとどまるというのであれば,本件発明の「抗折強度の高い」の記載は明確ではないこととなる。 イ 「研削手段」(構成要件B)について本件特許出願時の技術常識として,クラックを一様に緩やかに進展させ,微小亀裂 をウェーハの表面に到達しない位置まで進展させるための制御は容易でないところ,本件明細書には,「前記改質領域から延びた微小亀裂を前記ウェーハの表面に到達しない位置まで進展させつつ前記改質領域を取り除く」研削手段の内容を示す記載はない。そうすると,当業者は,本件発明の機能又は特性を実現する具体的な物の範囲を把握することはできないから,本件発明の研削手段に係る記載は特許法36条6項2 号に違反する。 【原告の主張】ア 「抗折強度の高い」(構成要件D)について本件明細書(段落【0010】)の記載に照らすと,「抗折強度の高い」の記載は,チップ断面に改質領域が残っていない薄型チップを意味すると理解できる。したがっ て,上記記載が特許法36条6項2号に違反するとはいえない。 イ 「研削手段」(構成要件B) の高い」の記載は,チップ断面に改質領域が残っていない薄型チップを意味すると理解できる。したがっ て,上記記載が特許法36条6項2号に違反するとはいえない。 イ 「研削手段」(構成要件B)について本件発明の構成要件Bの「前記改質領域から延びた微小亀裂を前記ウェーハの表面に到達しない位置まで進展させつつ前記改質領域を取り除く」という表現の意味内容は明確であるし,本件明細書(段落【0113】~【0127】)には,研削工程につ いて説明されており,当業者が実施できる程度に具体的な記載もあるから,本件発明の研削手段に係る記載が特許法36条6項2号に違反するとはいえない。 争点2-2(特許法36条6項1号に違反しているか)について【被告の主張】ア 「抗折強度の高い」(構成要件D)について 本件明細書(段落【0010】,【0014】,【0022】,【0131】,【0132】, 【0164】)の記載からすれば,本件発明の「抗折強度の高い薄型チップ」を形成するためには,本件発明の構成要件Bの研削に加えて,研削されたウェーハの裏面を化学機械研磨してからウェーハを分割することが必要不可欠である。しかしながら,本件発明は,化学機械研磨手段を備えない構成のものを含むものであるから,特許法36条6項1号に違反する。 イ割断手段について本件明細書(段落【0022】,【0181】,【0182】)の記載に照らすと,本件発明の課題を解決するためには,研削工程とエキスパンド工程の間に,ウェーハに曲げ応力を加えることで亀裂をさらに進展させてウェーハを割断する手段が必要であることとなる。しかしながら,本件発明は,上記割断手段を備えない構成のものを含 むものであるから,特許法36条6項1号に違反する。 ことで亀裂をさらに進展させてウェーハを割断する手段が必要であることとなる。しかしながら,本件発明は,上記割断手段を備えない構成のものを含 むものであるから,特許法36条6項1号に違反する。 ウ 「研削手段」(構成要件B)について本件発明の課題は,微小亀裂をウェーハ表面に到達しない位置まで進展させつつ改質領域を取り除くことで,外周部のチップが飛散することを防止しつつ抗折強度の高いチップを得る装置を提供することである(本件明細書段落【0181】,【0182】)。 そして,本件明細書の発明の詳細な説明において上記課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲は,①ウェーハの略全面を減圧吸着する手段と,②研削によるウェーハの熱膨張を制御可能な研削速度の調整手段及び給水の制御手段とを備えた装置である(本件明細書段落【0121】~【0127】,【0149】~【0155】)。しかしながら,本件発明は,上記各手段を備えない構成のものを含 むものであるから,特許法36条6項1号に違反する。 エ研磨手段について本件明細書(段落【0181】,【0182】)の記載からは,本件発明において,改質領域形成工程及び研削工程の際には微小亀裂は表面に到達していないが,研磨工程中に微小亀裂が延びて表面に到達している場合には,本件発明の課題が解決できるこ とが認識できない。しかしながら,本件発明は,上記の場合を含むものであるから, 特許法36条6項1号に違反する。 【原告の主張】ア 「抗折強度の高い」(構成要件D)について抗折強度の高い」薄型チップとは,チップ断面に改質領域が残っていない薄型チップを意味する。そして, 本件発明は,改質領域がチップ断面に残存していることでチップの抗折強度が低くな 件D)について抗折強度の高い」薄型チップとは,チップ断面に改質領域が残っていない薄型チップを意味する。そして, 本件発明は,改質領域がチップ断面に残存していることでチップの抗折強度が低くなることから,改質領域を研削除去工程により除去する構成を採用することで抗折強度を高くした発明であるところ,このことは構成要件Bにおいて特定されている。したがって,本件発明が特許法36条6項1号に違反するとはいえない。 イ割断手段について 本件発明の課題は,安定した品質のチップを提供することである。そして,構成要件Bの構成を採用することで,ウェーハが完全に分離していない状態でウェーハの裏面の研削が行われるため,ウェーハの裏面を研削する際にウェーハの外周部のチップが飛散することがないという作用効果を奏することができ,上記課題を解決することができる。したがって,本件発明が特許法36条6項1号に違反するとはいえない。 ウ 「研削手段」(構成要件B)について上記イのとおり,本件発明は,本件発明の課題を解決できるものであるから,特許法36条6項1号に違反するとはいえない。 エ研磨手段について本件発明は,本件明細書の記載(段落【0181】,【0182】)から認識できる課 題のうち,研削中に亀裂が進展して表面に到達すると,研削及び研磨時のせん断応力が生じ,チッピングの問題が生じる点を課題とするものであり,研磨中に亀裂が進展して表面に到達すると,研磨時のせん断応力が生じチッピングの問題が生じるとの点を課題とするものではない。そして,本件発明は研削中に亀裂が進展して表面に到達すると,研削及び研磨時のせん断応力が生じ,チッピングの問題が生じるとの課題を 解決できるものであるから,特許法36条6項1号に違反するとはいえな て,本件発明は研削中に亀裂が進展して表面に到達すると,研削及び研磨時のせん断応力が生じ,チッピングの問題が生じるとの課題を 解決できるものであるから,特許法36条6項1号に違反するとはいえない。 争点2-3(特許法39条1項に違反しているか)について【被告の主張】ア特願2010-256217号(乙8)の特許請求の範囲請求項1に係る発明との同一本件特許の原出願日である平成23年6月13日より前の平成22年11月 16日に出願され,平成28年6月24日に設定登録された特許第5953645号に係る出願(特願2010-256217号。以下「本件先願」という。)の特許請求の範囲請求項1に係る方法の発明(以下「本件先願発明1」という。)と本件発明とを対比すると,次のとおりである。 a 本件発明の構成要件Aは,その文言上,本件先願発明1の改質領域形成工程を 実現する手段を含んでいる。 b 本件発明の構成要件Bは,その文言上,本件先願発明1の吸着工程及び研削工程を併せた工程を実現する手段を含んでいる。 c 本件発明の構成要件Cの「ウェーハに貼り付けたシートをエキスパンドするエキスパンド手段」と,本件先願発明1の「割断後複数のチップに分割する分割工程」 とは文言上一応相違する。しかしながら,ウェーハを切断してチップを作製する過程において,ウェーハの表面に貼付した弾性テープを拡張することで複数のチップに分割するエキスパンド工程は,周知慣用の技術である。そうすると,本件先願発明1の分割工程は上記エキスパンド工程を意味するというべきである。 d 本件明細書の記載(段落【0164】)に照らすと,研削工程及び化学機械的研 磨工程を含む本件先願発明1により切断されるチップは,本件発明の構成要件Dの ド工程を意味するというべきである。 d 本件明細書の記載(段落【0164】)に照らすと,研削工程及び化学機械的研 磨工程を含む本件先願発明1により切断されるチップは,本件発明の構成要件Dの「抗折強度の高い薄型チップ」に該当する。 以上によれば,本件発明は,本件先願発明1の方法を実現するシステムを含んでいるから,本件発明は,本件先願発明1を上位概念化し,本件先願発明1とは異なるカテゴリーの発明として表現したにすぎないものである。 したがって,本件発明と本件先願発明1は実質的に同一である。 イ本件先願の特許請求の範囲請求項4に係る発明との同一本件先願の特許請求の範囲請求項4に係る方法の発明(以下「本件先願発明2」といい,本件先願発明1と併せて「本件先願発明」という。)と本件発明とを対比すると本件発明の構成要件Cは,その文言上,本件先願発明2のウェーハの表面に弾性テープを貼付する工程及び当該弾性テー プを拡張する工程を含む分割工程を実現する手段を含んでいる。 そうすると,本件発明は,本件先願発明2の方法を実現するシステムを含んでいるから,本件発明は,本件先願発明2を上位概念化し,本件先願発明2とは異なるカテゴリーの発明として表現したにすぎないものである。 したがって,本件発明と本件先願発明2は実質的に同一である。 【原告の主張】ア本件発明と本件先願発明との技術的思想が異なること本件発明は,ウェーハの裏面の研削を,ウェーハが完全に分離していない状態で行うという技術的思想の下に完成された発明であるのに対し,本件先願発明は,ウェーハの表面の略全面を一様に前記ウェーハよりも熱容量の大きいテーブルに真空で吸 着させることにより,研削による研削熱によって,亀裂を進展させるという技術 発明であるのに対し,本件先願発明は,ウェーハの表面の略全面を一様に前記ウェーハよりも熱容量の大きいテーブルに真空で吸 着させることにより,研削による研削熱によって,亀裂を進展させるという技術的思想の下に完成された,亀裂の進展方法にも特徴のある発明である(乙8,段落【0025】,【0026】参照)。 以上のとおり,本件発明と本件先願発明とでは技術的思想が大きく異なるから,両者は同一の発明ではない。 イ本件先願発明1との同一について本件発明の「エキスパンド手段」は,本件先願発明1の「分割工程」の下位概念である。したがって,本件発明の構成要件Cは本件先願発明1の分割工程の上位概念を構成していないから,本件発明は本件先願発明1の上位概念ではない。 そうすると,本件発明は本件先願発明1と実質的に同一であるとはいえない。 ウ本件先願発明2との同一について 原告は,令和元年11月21日,特許庁に対し,特許第5953645号の特許請求の範囲請求項4の発明を削除する内容の訂正審判請求をしたところ,同請求は訂正要件を充足する。これにより,被告主張の無効理由は存しなくなった。 争点2-4(特許法17条の2第3項に違反しているか)について【被告の主張】 本件発明の構成要件Bの「前記ウェーハの表面に到達しない位置まで」の文言は,原告の平成29年11月30日付け手続補正書による補正により導入されたもので改質領域形成工程及び研削工程の際には微小亀裂は表面に到達していないが,研磨工程中に微小亀裂が延びて表面に到達している作用を奏するシステムを含むものである。 しかしながら,と同様の理由により,本件特許の願書に最初に添付された明細書には,上記作用を奏するシステムに相当する技術的事項が記 表面に到達している作用を奏するシステムを含むものである。 しかしながら,と同様の理由により,本件特許の願書に最初に添付された明細書には,上記作用を奏するシステムに相当する技術的事項が記載されていたとはいえない。 したがって,上記補正は,本件特許の願書に最初に添付された明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を 導入するものであり,特許法17条の2第3項に違反する。 【原告の主張】改質領域形成工程及び研削工程の際には微小亀裂は表面に到達していないが,研磨工程中に微小亀裂が延びて表面に到達しているという被告主張に係る作用,並びに改質領域形成工程,研削工程及び研磨工程の際には微小亀裂は表面に到達していない作 用の両者を含む,改質領域形成工程及び研削工程の際には微小亀裂は表面に到達していないとの作用が本件特許の願書に最初に添付された明細書に記載されている。 したがって,被告主張に係る補正は,新たな技術的事項を導入するものではなく,特許法17条の2第3項に違反するとはいえない。 争点2-5(本件特許の出願が冒認出願(特許法123条1項6号)に該当し, 又は特許法38条に違反しているか)について 【被告の主張】ア本件発明の特徴的部分は,研削により改質領域を取り除く際に進展する微小亀裂が,改質領域を取り除く工程においてウェーハの表面に到達しない点にある。 イ原告と被告は,平成14年9月18日頃から,被告が開発したステルスダイシング技術を搭載した新たな装置の共同開発を行っていた。 その中で,被告従業員は,平成16年10月19日午後5時12分の電子メール(以下「本件第1電子メール」という。)により,原告従業員に対し,厚さ200μ 載した新たな装置の共同開発を行っていた。 その中で,被告従業員は,平成16年10月19日午後5時12分の電子メール(以下「本件第1電子メール」という。)により,原告従業員に対し,厚さ200μmのウェーハについて,レーザ光入射面(裏面,研削面)から20ないし40μmの位置に単一の改質層を形成し,最下層の改質領域の下端とウェーハ表面(下面)との間の距離を160μmとした後,裏面研削をして150μmの厚さにし,改質領域を取り除 く加工条件を開示した。上記加工条件の下では,研削時の微小亀裂の進展を考慮しても,改質領域が取り除かれる際に単一層の改質領域から延びる微小亀裂がウェーハの表面に到達しない。 さらに,被告従業員は,平成16年10月19日午後6時1分の電子メール(以下「本件第2電子メール」という)により,原告従業員に対し,上記加工条件における 研削後のウェーハは少しつながった状態であること,すなわち上記加工条件の下では,微小亀裂がウェーハの表面には到達していないことを指摘することにより,改質領域を取り除く際に微小亀裂がウェーハの表面に到達していないことを明示した。 以上のとおり,被告従業員は,遅くとも平成16年10月19日までに,本件発明の特徴的部分を完成し,その頃,これを原告従業員に対して開示したということがで きる。 また,被告従業員は,遅くとも平成21年7月27日の電子メール(以下「本件第3電子メール」という。)により,本件発明の発明者とされている原告従業員に対し,ウェーハを研削して改質領域を除去しても微小亀裂がウェーハの表面に到達しない加工条件を提示し,これにより本件発明の特徴的部分を開示した。 ウしたがって,本件特許の出願は,冒認出願(特許法123条1項6号)に該当 する がウェーハの表面に到達しない加工条件を提示し,これにより本件発明の特徴的部分を開示した。 ウしたがって,本件特許の出願は,冒認出願(特許法123条1項6号)に該当 するか,又は特許法38条に違反してされたものである。 【原告の主張】ア本件発明の特徴的部分は,本件発明の構成要件Bの構成を採用することにより,研削液がチップ間に侵入してウェーハと表面保護フィルムの間に侵入するのを防止する点にある。被告は,上記の点につき何ら関与していない。 イ本件第1電子メールは,レーザ光が深くまで侵入しない特殊なウェーハについてのものであり,かつ,改質領域を除去することを開示していない。本件第2電子メールの内容は,微小亀裂が表面まで到達していないことを意味するものではない。本件第3メールは,研削時に微小亀裂を進展させることを開示するものではない。仮に本件第2電子メール及び本件第3メールに上記の各点が開示されていたとしても,原 告従業員は,本件第2電子メール及び本件第3メールの受信に先立ち,被告従業員に対し,改質領域が取り除かれる際に単一層の改質領域から延びる微小亀裂がウェーハの表面に到達しない加工条件を示しているから,上記各メールは被告の主張を根拠付けるものではない。 ウしたがって,本件特許の出願は,冒認出願(特許法123条1項6号)に該当 するとも,特許法38条に違反してされたともいうことはできない。 第4 当裁判所の判断 1 争点1-2(被告各製品は,本件発明による課題の解決に不可欠なものに該当するか)について事案に鑑み,まず争点1-2について判断する。 本件明細書の記載内容本件発明に係る特許請求の範囲本件明細書の発明の詳細な説明には次の記載がある(甲2。明らかな誤 るか)について事案に鑑み,まず争点1-2について判断する。 本件明細書の記載内容本件発明に係る特許請求の範囲本件明細書の発明の詳細な説明には次の記載がある(甲2。明らかな誤記は訂正した。)。 ア技術分野 「【0001】 本発明は,内部にレーザ光で改質領域を形成したウェーハを割断するための技術に関する。」イ背景技術「【0002】特許文献1には,裏面を上向きにして載置された半導体基板にレーザを照射して基 板内部に改質領域を形成し,半導体基板の裏面にエキスパンドテープを装着し,エキスパンドテープの上からナイフエッジを当てて改質領域を基点として基板を割ることで,半導体基板をチップに切断することが記載されている。」「【0003】また,特許文献1には,裏面を上向きにして載置された半導体基板にレーザを照射 して基板内部に改質領域を形成した後で基板を研削して薄くし,半導体基板の裏面にエキスパンドテープを装着し,エキスパンドテープを伸張させることで改質領域を基点として基板を割ることが記載されている。」「【0004】特許文献2には,裏面を上向きにして載置された半導体基板にレーザを照射して基 板内部に改質領域を形成することで半導体基板の厚さ方向に割れを発生させ,基板の裏面を研削及びケミカルエッチングすることで割れを裏面に露出させることで,半導体基板をチップに切断することが記載されている。そして,特許文献2には,自然に或いは比較的小さな力,例えば人為的な力や基板に温度差を与えることにより熱応力を発生させたりすることにより,改質領域から厚さ方向に割れが発生することが記載 されている。」ウ発明が解決しようとする課題「【0006】特許文献1に記載の発明 えることにより熱応力を発生させたりすることにより,改質領域から厚さ方向に割れが発生することが記載 されている。」ウ発明が解決しようとする課題「【0006】特許文献1に記載の発明では,ナイフエッジにより局所的に外力を印加することで基板を割るが,この局所的に外力を印加するために曲げ応力やせん断応力を基板に付 与させることになる。しかし,曲げ応力やせん断応力は基板全面に一様に分布させる ことは難しい。例えば,曲げ応力やせん断応力を基板にかける場合,どこか弱い点に応力が集中することになり,効率的に所望の部分に対して必要最低限の応力を一様に付与できない。」「【0007】したがって,基板の割れにばらつきが生じ,割れが緩やかに進行しなかった場合に は基板がチップ内においても破壊するという問題がある。また,基板を切断する部分に対して,局所的に順番に応力を与えて切断していく場合,例えば一枚の基板から多数のチップを収集する場合などでは,多数の切断ラインが存在するため,生産性が非常に低下するという問題がある。」「【0008】 また,外力を印加して基板を割る場合に,基板を薄く加工していない場合には,ウェーハを割る際に非常に大きい応力を必要とするという問題がある。」「【0009】特にレーザ加工の改質深さ幅に対して,基板厚みが充分厚い場合は,外力を印加しても,急激な外力の影響によって,基板に対してきれいに垂直に割断できるとは限ら ない。そのため,いくつかレーザパルスを基板の厚み方向に多段に照射するなどが必要な場合がある。」「【0010】また,特許文献1,2に記載の発明では,レーザの照射により基板内部に形成された改質領域は,最終的にチップ断面に残ることとなる。そのため,チップ断面の改質 どが必要な場合がある。」「【0010】また,特許文献1,2に記載の発明では,レーザの照射により基板内部に形成された改質領域は,最終的にチップ断面に残ることとなる。そのため,チップ断面の改質 領域の部分から発塵する場合がある。また,チップ断面部分が局所的に破砕した結果,その破砕した断面がきっかけとなって,チップが破断する場合もある。その結果,チップの抗折強度は小さくなるという問題点がある。」「【0011】特許文献2に記載の発明では,自然に改質領域から厚さ方向に割れが発生すると記 載されているが,他方自然に割れる場合は必ずしも自然に割れない場合も存在する。 割るという安定した効果を必然的に得るためには,時として恣意的な手段をとる必要があり,自然に割れる場合は恣意的な手段に該当しない。」「【0012】また,比較的小さな力として,温度差を与えることにより熱応力を発生させて,改質領域から厚さ方向に割れを発生させることも考えられる。この場合においては,基 板の面内に一様な熱勾配をどのように与えるかという点が非常に難しいという問題がある。すなわち,人為的に熱勾配を与えたとしても熱伝導によって,一部熱勾配を緩和するように基板内に熱が分散していく。したがって,一定の基板を切断する程度の安定した熱勾配(安定した温度差)をどのように絶えずに形成するか,という点で極めて難しい問題がある。」 「【0013】また,特許文献2に記載の発明では,半導体基板を研削後,裏面にケミカルエッチングするが,研削した後には,研削後の表面は固定砥粒による研削条痕が残り,付随して微小なクラックが形成され,加工変質層が残存している。その表面をケミカルエッチングした場合には,微小クラックなどの格子歪が大きい部分が選択的にエッ 研削後の表面は固定砥粒による研削条痕が残り,付随して微小なクラックが形成され,加工変質層が残存している。その表面をケミカルエッチングした場合には,微小クラックなどの格子歪が大きい部分が選択的にエッチン グされることになる。そのため,微小クラックはかえって助長され大きいクラックになる。そのため,切断起点領域だけではなく,時として,研削とエッチングによって形成された微小クラックから破断する場合もあり,安定した切断加工が難しいという問題がある。」「【0014】 また,エッチングにより基板表面の凹凸が助長されるため,基板表面は鏡面化されていない。そのため,分割されたチップにも凹凸が残るため,凹凸の大きい部分,すなわち微小クラックから破壊することが十分に考えられ,チップの抗折強度は低くなるという問題がある。」「【0015】 また,さらに,レーザ加工し,改質した部分にエッチング液が作用した場合,改質 した部分は一度溶融して再結晶化して固まっているため,大きな粒界が形成されている。」「【0016】こうした粒界部分にエッチング液が作用すると,粒界からシリコン粒が剥げ落ちるようにエッチングが進行するため,さらに凹凸が助長されるようにエッチングされることになる。」 「【0017】研磨工程としては,具体的には引用文献p.12_1行目において,研削工程と裏面にケミカルエッチングを施すことであると記載されている。ケミカルエッチングの場合,そのまま放置していても,クラック内にケミカルエッチング液が浸透し,クラック部分を溶かす作用がある。」 「【0018】特に,クラックが基板の表面上にまで先走っている場合,エッチング液がチップとチップを接着しているフィルムの間に浸透し,チップをフィルムから剥離 ク部分を溶かす作用がある。」 「【0018】特に,クラックが基板の表面上にまで先走っている場合,エッチング液がチップとチップを接着しているフィルムの間に浸透し,チップをフィルムから剥離するという問題が発生する。」「【0019】 また,クラックが基板の表面上にまで走っていなくても,クラックに沿ってエッチングは進行する。特に研削後に,薄くなった状態でエッチングを行う場合,クラックにエッチング液が毛細管現象によって浸透し,クラック先端を溶かしながら微小クラックをさらに深くするとともに,さらにそこへ新たなエッチング液が入り込むといった形となる。…」 「【0020】また,こうした場合,結果的にクラックが表面上にまで先走って,一部チップとフィルムの間にエッチング液が入り込み,処理中にチップが剥がれる問題が発生することもある。…」「【0021】 特許文献2には,基板の裏面を研削することにより改質領域から割れが発生するこ とが記載されているが,特許文献2には基板を研削する時の基板の固定方法が記載されていない。図20に示すように基板をリテーナ等に嵌め込むことで基板の外周を支持する場合や,図21に示すように基板の一部のみを吸着する場合には,基板が全面的に一様に拘束されないため,このような場合には基板の裏面を研削したとしても改質領域から割れが発生しない。」 「【0022】本発明は,このような事情に鑑みてなされたものであり,安定した品質のチップを効率よく得ることができる抗折強度の高い薄型チップの形成方法及び形成システムを提供することを目的とする。」エ課題を解決するための手段 「【0024】…上記目的を達成するために,本発明に係る抗折強度の高い薄型チップの形成システム の形成方法及び形成システムを提供することを目的とする。」エ課題を解決するための手段 「【0024】…上記目的を達成するために,本発明に係る抗折強度の高い薄型チップの形成システムの一態様は,レーザ光でウェーハの内部に改質領域を形成する改質領域形成手段と,前記ウェーハの裏面を研削することにより,前記改質領域から延びた微小亀裂を前記ウェーハの表面に到達しない位置まで進展させつつ前記改質領域を取り除く研 削手段と,前記ウェーハに貼り付けたシートをエキスパンドするエキスパンド手段と,を備える。」オ発明の効果「【0026】本発明によれば,割断が確実に効率よく行え,安定した品質のチップを効率よく得 ることができる。」カ発明を実施するための形態「【0155】…本実施の形態によれば,研削によりレーザ光により形成された改質領域内のクラックを進展させることができるため,チップCの断面にレーザ光により形成された改 質領域が残らないようにすることができる。そのため,チップCが割れたり,チップ C断面から発塵したりするという不具合を防ぐことができる。したがって,安定した品質のチップを効率よく得ることができる。また,ウェーハの切断ラインに対して押圧部材の応力を集中させ,割断が確実に効率よく行うことが可能になる。さらに,ウェーハを載置する弾性体上に割断時の汚染を残さず,割断を連続して行ってもウェーハに悪影響を及ぼさない。」 「【0181】…本願発明の方法においては,研削後及び化学機械研磨を施した後においても,微小空孔が大きくなり亀裂が進展するものの,完全に基板は分割されていない。仮に,研削中ないしは化学機械研磨中に亀裂が進展して完全に基板が分割されてしまうと,特にウェーハ外周部のチ した後においても,微小空孔が大きくなり亀裂が進展するものの,完全に基板は分割されていない。仮に,研削中ないしは化学機械研磨中に亀裂が進展して完全に基板が分割されてしまうと,特にウェーハ外周部のチップは研削や研磨時のせん断応力に耐え切れず,吸着テーブ ルから剥がされてチッピングを起こしてしまう問題がある。」「【0182】しかし,本願発明においては,研削,研磨を行った後においても,亀裂は進展するものの,完全に分断されていない。完全に分断されていない状態から亀裂をさらに進展させて完全に割断するためには,さらに割断する工程が必要となる。割断工程とし ては,ウェーハ裏面にエキスパンドテープを貼り付けた後,そのテープを介して押圧部材を押圧して,局所的にウェーハに曲げ応力を与える。これにより,研削によって進展された亀裂を起点として,効率よく割断することが可能となる。」 判断 ア特許法101条2号の「発明による課題の解決に不可欠なもの」の判断基準 特許法101条2号の「発明による課題の解決に不可欠なもの」とは,従来技術の問題点を解決するための方法として当該発明が新たに開示する従来技術にみられない特徴的技術手段について,当該手段を特徴付けている特有の構成を直接もたらす特徴的な部材等を意味すると解するのが相当である。 イ本件発明が開示する特徴的技術手段 本件明細書の発明の詳細な説明の記載によれば,従来技術の問題点及びそ れを解決するための方法として本件発明が開示する特徴的技術手段は次のとおりである。すなわち,従来技術において,裏面を上向きにして載置された半導体基板にレーザを照射して基板内部に改質領域を形成し,①その後,基板を研削して薄くし,半導体基板の裏面にエキスパンドテープを装着し,エキスパンド ち,従来技術において,裏面を上向きにして載置された半導体基板にレーザを照射して基板内部に改質領域を形成し,①その後,基板を研削して薄くし,半導体基板の裏面にエキスパンドテープを装着し,エキスパンドテープを伸張させることで改質領域を基点として基板を割ることや,②改質領域を形成することにより半導 体基板の厚さ方向に割れを発生させ,基板の裏面を研削及びケミカルエッチングすることで割れを裏面に露出させることで,半導体基板をチップに切断することが行われていたが,これらの従来技術においては,チップ断面の改質領域の部分から発塵する場合やチップが破断する場合があり,チップの抗折強度が小さくなるという問題点があるほか(段落【0010】),上記②の従来技術においては,改質領域から必ずしも 自然に割れが発生しない場合もあるといった問題点や,熱応力を利用する場合の問題点(段落【0011】,【0012】),ケミカルエッチングを行うことに伴う問題点(段落【0013】~【0020】)及び基板の裏面を研削して改質領域から割れを発生させる際に,基板の固定方法が開示されていないという問題点(段落【0021】)がある。そして,上記問題点を解決し,割断を確実に効率よく行って,安定した品質のチ ップを効率よく得るという効果を奏する(段落【0026】)ものとして,レーザ光により形成された改質領域内のクラックを研削により進展させて改質領域がウェーハの断面に残らないようにする実施形態(段落【0155】)や,研削中に亀裂が進展するものの研削後完全に基板が分割されていない状態が保たれ,その後割断工程を経てウェーハを効率よく割断することができる実施形態(段落【0181】,【0182】) がそれぞれ開示されている。 そうすると,本件発明は,ウェーハを割断する技術におい たれ,その後割断工程を経てウェーハを効率よく割断することができる実施形態(段落【0181】,【0182】) がそれぞれ開示されている。 そうすると,本件発明は,ウェーハを割断する技術において,レーザ光により既に内部に改質領域の形成されているウェーハの割断に当たり,従来技術における上記の各問題点を解決するために,ウェーハの裏面を研削することにより,改質領域から延びた微小亀裂をウェーハの表面に到達させずに進展させるようにコントロールしつ つ,改質領域を除去する点にその技術的意義を有するものであるということできる。 以上によれば,従来技術の問題点を解決するために本件発明が開示する特徴的技術手段は,構成要件Bに係る改質領域が形成されたウェーハの「裏面を研削することにより,前記改質領域から延びた微小亀裂を前記ウェーハの表面に到達しない位置まで進展させつつ前記改質領域を取り除く研削手段」の構成であるということができる。 ウ被告各製品が「発明による課題の解決に不可欠なもの」に該当するかについて 前記第2の1のとおり,SDレーザソーに搭載される被告各製品は,あくまでウェーハの内部にレーザ光で改質領域を形成するための装置であって,前記イの本件発明の特徴的技術手段の構成を直接実現する装置ではない。そうすると,被告各製品は,本件発明による課題の解決に不可欠なものに該当するとはいえない。 原告の主張について 原告は,本件発明の特徴的技術手段,そのためには,研削手段による研削の仕方だけでなく,レーザ光による改質領域及びこれから延びる微小亀裂の作り込みも重要であり,改質領域と微小亀裂の形成のされ方は,集光方法等のレーザエンジン自体の性能に依存し,亀裂の延び量は,波長,パルス幅等のレーザエンジン内部のパラメータ びこれから延びる微小亀裂の作り込みも重要であり,改質領域と微小亀裂の形成のされ方は,集光方法等のレーザエンジン自体の性能に依存し,亀裂の延び量は,波長,パルス幅等のレーザエンジン内部のパラメータに大きく依存するものであるから,改質 領域を研削除去した際に,改質領域から延びる微小亀裂をウェーハの表面に到達させないことが可能となるような改質領域を形成するレーザ光は,本件発明の特徴的技術手段を特徴付ける特有の構成に該当し,上記レーザ光を照射するレーザエンジンである被告各製品は,上記構成を直接もたらす特徴的な部材に該当する旨主張する。 この点,本件明細書には,本件発明を実施するための形態として,レーザエンジン を搭載したレーザダイシング装置の構成,レーザ光の条件及び改質領域の形成方法等に関する記載(段落【0030】~【0054】)があるものの,上記の構成や方法等がイの本件発明の技術的意義に有意に関連することを示すような記載はない。 イの本件発明の技術的意義と有意な関連性を有する,改質領域から延びる微小亀裂をウェーハの表面に到達させないことが可能となるよ うな改質領域を形成するレーザエンジンの備えるべき構成や条件等を示す記載はな い。 そうすると,被告各製品が本件発明の特徴的技術手段を特徴付ける特有の構成を直接もたらす特徴的な部材に該当するとはいえないから,原告の上記主張は採用することができない。 2 結論 以上によれば,その余の点につき判断するまでもなく,原告の請求には理由がないから,いずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 山 として,主文のとおり判決する。 主文 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 山田真紀 裁判官 神谷厚毅 裁判官 矢野紀夫 別紙 被告製品目録 1 次の型番のレーザダイシング装置用のレーザエンジン 800DS 700DS 2 波長1099nmのレーザ光を照射するレーザダイシング装置用のレーザエンジン 以上

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