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平成10(ワ)654 損害賠償請求

裁判所

平成15年1月9日 福岡地方裁判所 小倉支部

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53,363 文字

主文 1 被告は,原告らに対し,それぞれ3358万1473円及びこれに対する平成10年1月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。3 訴訟費用は,これを4分し,その3を被告の負担とし,その余を原告らの負担とする。4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。事実及び理由 第1 請求被告は,原告らに対し,それぞれ4381万0967円及びこれに対する平成10年1月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。第2 事案の概要本件は,被告の開設しているC病院(以下「被告病院」という。)で胃内視鏡検査を受ける予定であった亡E(以下「亡E」という。)が,同検査の前処置として,塩酸リドカインを含有する経口表面麻酔剤(商品名キシロカインビスカス)を嚥下し,抗不安剤であるジアゼパム注射液(商品名セルシン注射液)をブドウ糖液で希釈した液体の静脈内注射,及び,鎮痙剤である臭化ブチルスコポラミンを含有する注射液(商品名ブスコパン注射液)の静脈内注射を受けたところ,その注射終了直後(内視鏡挿入前)に,頻脈,心室細動,呼吸停止等の症状を呈し,上記各薬剤の投与から約6時間後に死亡したことについて,亡Eの遺族である原告らが,被告に対し,債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償を請求した事案である。1 争いのない事実並びに証拠(甲1,2,4,6,8,9,10,17,18,乙1,2,3,4の(3),6,10,11,12,29,30,証人Fの証言(第1,2回),G大学法医学教室に対する調査嘱託の結果(平成11年11月25日到着分))及び弁論の全趣旨により認められる事実(1) 当事者ア亡E(昭和49年8月8日生)は,平成10年1月28日午後4時40分,被告病院で死亡した(死亡当時23 結果(平成11年11月25日到着分))及び弁論の全趣旨により認められる事実(1) 当事者ア亡E(昭和49年8月8日生)は,平成10年1月28日午後4時40分,被告病院で死亡した(死亡当時23歳)。 る調査嘱託の結果(平成11年11月25日到着分))及び弁論の全趣旨により認められる事実(1) 当事者ア亡E(昭和49年8月8日生)は,平成10年1月28日午後4時40分,被告病院で死亡した(死亡当時23 結果(平成11年11月25日到着分))及び弁論の全趣旨により認められる事実(1) 当事者ア亡E(昭和49年8月8日生)は,平成10年1月28日午後4時40分,被告病院で死亡した(死亡当時23歳)。亡Eは,平成9年3月に大学を卒業後,同年4月から死亡時まで,H株式会社において事務及び営業の仕事をしていた。イ原告Aは亡Eの父であり,同Bは亡Eの母である(争いがない)。ウ被告は,北九州市内において,被告病院を開設している社会福祉法人である(争いがない)。(2) 本件の診療経過ア平成10年1月16日(ア) 亡Eは,平成10年1月16日,同年の正月明けころから食後に心窩部痛,腹痛があるとの訴えで,被告病院の内科を受診し,内科医長のF医師(以下「F医師」という。)の診察を受けた。(イ) 亡Eに対する問診等の結果としてカルテに記載されている事項は,概ね以下のとおりである。身長150センチメートル,体重44キログラム。血圧105/60mmHg,脈拍59/分,体温36.5度。吐き気,下痢,咳はいずれもない。便通は一,二日に1回。月経は順調で,最終月経は1週間前に終了した。(ウ) F医師の触診及び観察によれば,亡Eの心窩部と下腹部に圧痛が認められ,腹部は平坦で軟らかく,腫瘤は触知されなかった。結膜には貧血や黄疸の異常は認められず,頚部にもリンパ節腫脹や甲状腺腫の異常は認められなかった。また,下肢に浮腫はなかった。(エ) F医師は,同日,急性ウイルス性胃腸炎の疑いと診断し,消化管運動改善剤であるドンペリドン(商品名ナウゼリン),H2受容体拮抗剤であるシメチジン(商品名タガメット)各4日分(いずれも内服薬)を処方した。イ同年1月24日亡Eは,同年1月24日,前回(同月16日)に処方された薬を服用したが症状が変わらない, 容体拮抗剤であるシメチジン(商品名タガメット)各4日分(いずれも内服薬)を処方した。イ同年1月24日亡Eは,同年1月24日,前回(同月16日)に処方された薬を服用したが症状が変わらない,発熱はない,との訴えで,被告病院の内科を受診し,I医師(以下「I医師」という。)の診察を受けた。 )を処方した。イ同年1月24日亡Eは,同年1月24日,前回(同月16日)に処方された薬を服用したが症状が変わらない, 容体拮抗剤であるシメチジン(商品名タガメット)各4日分(いずれも内服薬)を処方した。イ同年1月24日亡Eは,同年1月24日,前回(同月16日)に処方された薬を服用したが症状が変わらない,発熱はない,との訴えで,被告病院の内科を受診し,I医師(以下「I医師」という。)の診察を受けた。I医師は,同年1月28日に胃内視鏡検査を行うこととし,ナウゼリン及びタガメット各5日分を処方した。亡Eは,血液検査(生化学,免疫血清学,血計)のための採血を受けた。ウ同年1月28日亡Eは,同年1月28日午前9時30分ころ,被告病院の内科に行き,胃内視鏡検査のための前処置を受けた。なお,看護婦の処置は,いずれもF医師の指示に基づいて行われた。(ア) 午前10時30分より少し前亡Eは,午前10時30分より少し前に,内視鏡室の入口前の前室で,胃粘膜の付着粘液や気泡を除去する目的で,重曹・プロナーゼが加わったガスコンドロップ希釈液を飲用した。(イ) 午前10時30分ころ亡Eは,午前10時30分ころ,内視鏡室内のベッドに臥床のうえ,咽喉部の麻酔の目的で,100ミリリットル中に塩酸リドカイン2グラムを含有するリドカイン製剤(商品名キシロカインビスカス。以下「キシロカイン」という。)3ミリリットルを口内に含み,数分後に嚥下した。F医師は,亡Eに対し,「まだ治らないそうですね。薬は全部飲んだけど治らないのですね。」などと問いかけ,亡Eから胃の痛みが続いているとの回答を得たうえで,触診により,心窩部に圧痛が認められるものの,へそ周囲や初診時に認められた下腹部の圧痛が認められず,腫瘤が触知されないことを確認した。その後,動脈血酸素飽和度を測定するため,亡Eの左手人差し指にパルスオキシメーターが装着された。この時点で,血中酸素飽和度は98パーセントであ 圧痛が認められず,腫瘤が触知されないことを確認した。その後,動脈血酸素飽和度を測定するため,亡Eの左手人差し指にパルスオキシメーターが装着された。この時点で,血中酸素飽和度は98パーセントであった。(ウ) 午前10時40分ころ看護婦は,午前10時40分ころ,翼状針を用いて,亡Eの右腕静脈内に,1管(1ミリリットル)にジアゼパム5ミリグラムを含有するジアゼパム注射液(商品名セルシン注射液。 ントであ 圧痛が認められず,腫瘤が触知されないことを確認した。その後,動脈血酸素飽和度を測定するため,亡Eの左手人差し指にパルスオキシメーターが装着された。この時点で,血中酸素飽和度は98パーセントであった。(ウ) 午前10時40分ころ看護婦は,午前10時40分ころ,翼状針を用いて,亡Eの右腕静脈内に,1管(1ミリリットル)にジアゼパム5ミリグラムを含有するジアゼパム注射液(商品名セルシン注射液。以下「セルシン」という。)1管を,20パーセントブドウ糖液20ミリリットルで希釈した液(以下「セルシン希釈液」という。)の4分の3程度を,約1分30秒かけて注射した。続けて,看護婦は,1管(1ミリリットル)に臭化ブチルスコポラミン20ミリグラムを含有する臭化ブチルスコポラミン製剤(商品名ブスコパン注射液。以下「ブスコパン」という。)1管を,約30秒かけて,翼状針から静脈内に注射した。さらに続けて,看護婦は,翼状針の接続チューブに残留しているブスコパン(約0.3ないし0.4ミリリットル)を押し出すため,セルシン希釈液の残量(約5ミリリットル)のうち,約2ミリリットルを静脈内に注射した。(エ) 亡Eの容態急変及び蘇生措置a 亡Eは,翼状針の抜針後,看護婦の指示により,ベッドの上で左側臥位になり,亡Eの口にマウスピースが装着されたが,亡Eは,翼状針の抜針から5ないし15秒経過後,「気分が悪い,苦しい。」と訴えた。その際,パルスオキシメーターの脈拍数は毎分150を示していた。bF医師は,すぐに看護婦に血管確保を命じ,また,院内携帯電話をかけて,I医師に応援を求めた。I医師は呼出後10ないし15秒で内視鏡室に到着した。この時点で,パルスオキシメーターの脈拍数は毎分180にまで上昇し,左ぎょう骨動脈にて触知できる脈は微弱であった。cF医師は に応援を求めた。I医師は呼出後10ないし15秒で内視鏡室に到着した。この時点で,パルスオキシメーターの脈拍数は毎分180にまで上昇し,左ぎょう骨動脈にて触知できる脈は微弱であった。cF医師は,亡Eの容態急変後約20ないし30秒以内に,循環血液量を増加させる目的で,左前腕に乳酸リンゲル液(ラクテック)500ミリリットルの点滴を開始した。その後,右上肢からも乳酸リンゲル液の点滴を開始した。d 亡Eの自発呼吸は大きくはっきりしており,パルスオキシメーターの血中酸素飽和度は98ないし99パーセントを示していたが,意識が消失し,そ径部にも脈を触知できなくなり,心音聴取不能になったため,I医師が来室後30秒以内の時点で,I医師の判断により,心マッサージが開始された。 ,左前腕に乳酸リンゲル液(ラクテック)500ミリリットルの点滴を開始した。その後,右上肢からも乳酸リンゲル液の点滴を開始した。d 亡Eの自発呼吸は大きくはっきりしており,パルスオキシメーターの血中酸素飽和度は98ないし99パーセントを示していたが,意識が消失し,そ径部にも脈を触知できなくなり,心音聴取不能になったため,I医師が来室後30秒以内の時点で,I医師の判断により,心マッサージが開始された。e 亡Eに心電図モニターが装着されたが,モニター上は心室細動であった。亡Eの自発呼吸が弱くなったため,F医師は,エアウェーを挿入し,酸素投与を開始した。I医師は,心室細動を改善するため,エピネフリン(ボスミン1ミリグラム/A)1管を側注した。カウンターショックが300ジュールより開始されたが,心停止となり,自発心拍が出なくなったため,再び心マッサージが行われた。自発呼吸がさらに減少したため,アンビューバックによる人工呼吸(酸素全開)が開始された。さらに,亡Eに対し,エピネフリン1ないし2管の側注が繰り返され,炭酸水素ナトリウム(メイロン250ミリリットル)の滴下,コハク酸メチルプレドニゾロン(ソル・メドロール500ミリグラム/V)1000ミリグラムの側注,グルコン酸カルシウム(カルチコール5ミリリットル/A)2管の側注の処置がされた。J院長を含む内科医5名,外科医3名にて心肺蘇生が行われたが,心マッサージ中は強い拍動をそ径部に触知するものの,心マッサージを止めると (カルチコール5ミリリットル/A)2管の側注の処置がされた。J院長を含む内科医5名,外科医3名にて心肺蘇生が行われたが,心マッサージ中は強い拍動をそ径部に触知するものの,心マッサージを止めると触知できなくなり,また,カウンターショックを掛けると心電図モニターの波形が平坦な波形になり,心マッサージを続けると心室細動が出現するといった状態が繰り返された。f 午前10時45分ころ(ショック後5ないし10分後),K副院長が気管内挿管を実施した。挿管前より,亡Eの口からは,ピンク状の泡沫痰が排出されていたが,挿入後次第にその量が増えたため,コハク酸メチルプレドニゾロン500ミリグラムを挿管チューブより注入し,泡沫痰の吸引を繰り返しながら,アンビューバックによる人工呼吸が継続された。また,気管内挿管前後に,エピネフリン1ミリグラムが心腔内に投与されたが,モニター上有意な波形の変化は見られず,心室細動のままであったため,心マッサージが継続された。 前より,亡Eの口からは,ピンク状の泡沫痰が排出されていたが,挿入後次第にその量が増えたため,コハク酸メチルプレドニゾロン500ミリグラムを挿管チューブより注入し,泡沫痰の吸引を繰り返しながら,アンビューバックによる人工呼吸が継続された。また,気管内挿管前後に,エピネフリン1ミリグラムが心腔内に投与されたが,モニター上有意な波形の変化は見られず,心室細動のままであったため,心マッサージが継続された。(オ) 開胸術の施行a 亡Eは,午前11時10分ころ,心肺蘇生をされながら,内視鏡室の隣にある救急処置室に搬送された。搬送中は対光反射があった。bK副院長は,午前11時20分,開胸術を施行し,直ちに直接心マッサージを開始した。呼吸をアンビューバックによる強制換気で確保しながら,エピネフリンを心腔内に投与し,グルコン酸カルシウム,炭酸水素ナトリウム,ステロイド,硫酸アトロピン等の側注がなされ,心臓に対する直接のカウンターバージョンが試みられたが,一度も心室の有効な収縮が出現せず,心筋にわずかな細動様の動きが認められるのみであった。c 午後0時20分から午後2時50分までは,5分毎にエピネフリン1ないし2アンプルの心腔内投与が続けられた。午後0時過ぎから死亡までの間,多量のピンク状の泡沫痰を 動きが認められるのみであった。c 午後0時20分から午後2時50分までは,5分毎にエピネフリン1ないし2アンプルの心腔内投与が続けられた。午後0時過ぎから死亡までの間,多量のピンク状の泡沫痰を気管内挿管チューブより排出し,吸引しながら,アンビューバックによる人工換気が続けられ,開胸心マッサージも続けられた。(カ) 亡Eの死亡午後4時40分,心筋に認められていたわずかな細動様の動きがなくなったため,家族の了解を得て亡Eの死亡確認が行われた。(3) 亡Eの死体解剖等について亡Eの遺体は,平成10年1月29日午前10時,G大学法医学解剖室において,L医師により解剖に付された。L医師は,亡Eの死因について,平成11年1月17日付け「被疑者氏名Fに対する業務上過失致死被疑事件についての鑑定書」と題する書面(甲17)において,キシロカイン,セルシン及びブスコパンによるショックと考えるのが妥当であるが,投与後のショック発現までの経過時間から,キシロカインの可能性は低く,ブスコパン又は(及び)セルシンによるショックで死亡した可能性が高いと思われる旨を記載している。 剖に付された。L医師は,亡Eの死因について,平成11年1月17日付け「被疑者氏名Fに対する業務上過失致死被疑事件についての鑑定書」と題する書面(甲17)において,キシロカイン,セルシン及びブスコパンによるショックと考えるのが妥当であるが,投与後のショック発現までの経過時間から,キシロカインの可能性は低く,ブスコパン又は(及び)セルシンによるショックで死亡した可能性が高いと思われる旨を記載している。(4) 本件の胃内視鏡検査の前処置において投与された薬剤についてアキシロカインキシロカインビスカスとは,100ミリリットル中に塩酸リドカイン2グラムを含有する液体状の経口表面麻酔剤である。キシロカインの添付文書(乙11)によれば,一般に成人に対し,1回5ないし15ミリリットル(塩酸リドカインとして100ないし300ミリグラム)を1日1ないし3回経口的に投与し,また,内視鏡検査のための麻酔としては,徐々に嚥下して使用することとされている。キシロカインは,添付文書によれば,同剤又はアニリド系局所麻酔剤に対し過敏症の既往歴のある患者に対して禁忌であり,副作用として,まれに(0. 麻酔としては,徐々に嚥下して使用することとされている。キシロカインは,添付文書によれば,同剤又はアニリド系局所麻酔剤に対し過敏症の既往歴のある患者に対して禁忌であり,副作用として,まれに(0.1パーセント未満)ショックや中毒症状があらわれることがあるとされており,そのため,注意事項として,局所麻酔剤の使用に際しては,常時,直ちに救急処置のとれる準備が望ましいこと,副作用を完全に防止する方法はないが,ショック又は中毒症状をできるだけ避けるために,患者の全身状態の観察を十分に行うこと,できるだけ必要最少量の投与にとどめること,血圧降下,顔面蒼白,脈拍の異常,呼吸抑制等があらわれた場合には,直ちに投与を中止し,適切な処置を行うことなどが指摘されている。イブスコパンブスコパン注射液とは,1管(1ミリリットル)中に臭化ブチルスコポラミン20ミリグラムを含有する液状の鎮痙剤である。ブスコパンの添付文書(平成9年5月に改訂されたもの。乙4の(3))によれば,一般に成人に対し,1回2分の1ないし1管(臭化ブチルスコポラミンとして10ないし20ミリグラム)を静脈内又は皮下,筋肉内に注射することとされている。そして,同文書には,適用上の注意として,静脈内注射にあたっては患者の状態を観察しながらゆっくり注射すること,と記載されている。 ラミン20ミリグラムを含有する液状の鎮痙剤である。ブスコパンの添付文書(平成9年5月に改訂されたもの。乙4の(3))によれば,一般に成人に対し,1回2分の1ないし1管(臭化ブチルスコポラミンとして10ないし20ミリグラム)を静脈内又は皮下,筋肉内に注射することとされている。そして,同文書には,適用上の注意として,静脈内注射にあたっては患者の状態を観察しながらゆっくり注射すること,と記載されている。ブスコパンは,添付文書によれば,同薬剤に対し過敏症の既往歴のある患者,出血性大腸炎の患者,緑内障患者,前立腺肥大による排尿障害のある患者,重篤な心疾患患者,麻痺性イレウスの患者には禁忌,細菌性下痢の患者には原則禁忌であり,前立腺肥大のある患者,うっ血性心不全のある患者,不整脈のある患者,潰瘍性大腸炎の患者,甲状腺機能亢進症の患者,高温環境にある患者に対しては慎重に投与する必要性があり,また,ブスコパンの副作用と ,前立腺肥大のある患者,うっ血性心不全のある患者,不整脈のある患者,潰瘍性大腸炎の患者,甲状腺機能亢進症の患者,高温環境にある患者に対しては慎重に投与する必要性があり,また,ブスコパンの副作用として,まれに(0.1パーセント未満)ショック症状があらわれることがあるので観察を十分に行い,悪心・嘔吐,悪寒,皮膚蒼白,血圧低下等があらわれた場合には,投与を中止し,適切な処置を行う必要があるとされている。そして,上記禁忌に該当することなどにより,胃内視鏡検査の前投薬としてブスコパンを使用できない被検者に対しては,グルカゴン等のホルモン剤を投与する方法が採られている。ウセルシンセルシン注射液とは,1管(1ミリリットル)中にジアゼパム5ミリグラムを含有する液状の抗不安剤,鎮静剤であり,胃内視鏡検査においては,意識下鎮静法(医師と被検者との間で意思疎通ができるが,検査後は被検者に軽い健忘がもたらされるような浅い鎮静状態で検査を実施する方法。)を実施する際に投与されるものである。セルシンの添付文書(乙12)によれば,一般に成人に対し,初回2ミリリットル(ジアゼパムとして10ミリグラム)を,静脈内又は筋肉内にできるだけ緩徐に注射し,以後必要に応じて3ないし4時間ごとに注射し,また,静脈内に注射する場合には,なるべく太い静脈を選んで,できるだけ緩徐に(2分間以上の時間をかけて)注射することとされている。 な浅い鎮静状態で検査を実施する方法。)を実施する際に投与されるものである。セルシンの添付文書(乙12)によれば,一般に成人に対し,初回2ミリリットル(ジアゼパムとして10ミリグラム)を,静脈内又は筋肉内にできるだけ緩徐に注射し,以後必要に応じて3ないし4時間ごとに注射し,また,静脈内に注射する場合には,なるべく太い静脈を選んで,できるだけ緩徐に(2分間以上の時間をかけて)注射することとされている。セルシンは,添付文書によれば,心障害,肝障害,腎障害のある患者,脳に気質的障害のある患者,乳児・幼児,高齢者,衰弱患者,高度重症患者,呼吸予備力の制限されている患者に対しては慎重に投与する必要があるとされている。また,副作用として,舌根の沈下による上気道閉塞(0.1ないし5パーセント未満の確率),慢性気管支炎等の呼吸器疾患に用いた場合の呼吸抑 されている患者に対しては慎重に投与する必要があるとされている。また,副作用として,舌根の沈下による上気道閉塞(0.1ないし5パーセント未満の確率),慢性気管支炎等の呼吸器疾患に用いた場合の呼吸抑制(頻度不明),循環性ショック(頻度不明),血圧低下(0.1ないし5パーセント未満)頻脈,徐脈,失神(0.1パーセント未満)などの副作用があらわれることがあるとされており,そのため,観察を十分に行い,異常が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を行う必要があるとされている。2 争点に関する当事者の主張(1) 亡Eの死因について原告らの主張)亡Eの死因は,キシロカイン,セルシン及びブスコパンのうち1つ又は2つ以上の薬剤によるショックである。もっとも,本件において,上記3種類の薬剤を順に投与し,最後にセルシンを投与した直後にショック症状が発生していること,日本消化器内視鏡学会偶発症対策委員会の調査において,セルシンの投与による死亡例が多く報告されていることに照らせば,上記3種類の薬剤のうち,ショックを発生させた可能性が最も高いのはセルシンであり,セルシン単独,又は,セルシンと他の薬剤との相互作用により,ショックが発生した可能性が高い。(被告の主張)亡Eの死因は,キシロカイン,セルシン及びブスコパンのうち1つ又は2つ以上の薬剤によるショックであるとされ,それ以上の特定はできないから,起因薬剤がセルシンであるとは断定できない。むしろ,本件においては,ブスコパンやキシロカインがショックの起因薬剤である可能性に比べ,セルシンが起因薬剤である可能性は低い。 単独,又は,セルシンと他の薬剤との相互作用により,ショックが発生した可能性が高い。(被告の主張)亡Eの死因は,キシロカイン,セルシン及びブスコパンのうち1つ又は2つ以上の薬剤によるショックであるとされ,それ以上の特定はできないから,起因薬剤がセルシンであるとは断定できない。むしろ,本件においては,ブスコパンやキシロカインがショックの起因薬剤である可能性に比べ,セルシンが起因薬剤である可能性は低い。すなわち,ブスコパンは,末梢神経抑制を主作用とし,副作用として血圧低下等のショックの出現の可能性があるから,亡Eに発現した頻脈や心室細動を主とするショック症状の起因薬剤であると考えるこ 性は低い。すなわち,ブスコパンは,末梢神経抑制を主作用とし,副作用として血圧低下等のショックの出現の可能性があるから,亡Eに発現した頻脈や心室細動を主とするショック症状の起因薬剤であると考えることができる。また,キシロカインも副作用として血圧降下,脈拍異常,呼吸抑制のショックの出現の可能性があるから,亡Eに生じたショック症状の起因薬剤であると考えることができる。これに対し,セルシンは,脳脊髄への中枢神経抑制を主作用とし,副作用として呼吸抑制のショックの出現の可能性があるが,亡Eに発現したショック症状は頻脈であり,自発呼吸はその後もしばらく続いていたのであるから,セルシンによるショックであるとは考えにくい。(2) F医師の過失―その1―(不必要な前投薬の投与について)(原告らの主張)ア前投薬の投与について本件は,治療の前段階である検査の段階,中でも検査の前処置の段階での投薬により発生した事故であり,手術や病気治療のための投薬により発生した医療事故に比し,投薬の必要性や緊急性が極めて乏しいものであった。また,本件事故当時においては,既に前投薬(キシロカイン,ブスコパン,セルシン等)の薬物ショックにより死に至る重篤な結果を生ぜしめる危険性が認識されていた。したがって,内視鏡検査の前処置として,キシロカイン,ブスコパン,セルシン等の薬剤を使用すべきではないとするのが,本件事故当時の医療水準であった。それにもかかわらず,F医師は,亡Eに対し,漫然と上記各薬剤を投与した過失がある。イセルシンの投与について特に,セルシン等の鎮静剤の投与による薬物ショック等の偶発症発生の危険性は周知されており,鎮静剤がなくても上部消化管内視鏡検査は十分可能なのであるから,医師は原則として鎮静剤の投与を回避する義務がある。 ン,ブスコパン,セルシン等の薬剤を使用すべきではないとするのが,本件事故当時の医療水準であった。それにもかかわらず,F医師は,亡Eに対し,漫然と上記各薬剤を投与した過失がある。イセルシンの投与について特に,セルシン等の鎮静剤の投与による薬物ショック等の偶発症発生の危険性は周知されており,鎮静剤がなくても上部消化管内視鏡検査は十分可能なのであるから,医師は原則として鎮静剤の投与を回避する義務がある。すなわち,セルシンは,患者の る薬物ショック等の偶発症発生の危険性は周知されており,鎮静剤がなくても上部消化管内視鏡検査は十分可能なのであるから,医師は原則として鎮静剤の投与を回避する義務がある。すなわち,セルシンは,患者の不安や不快感の軽減等の利益があるが,薬物ショック発生の危険性と比較すれば,それを投与する必要性はない。本件において,亡Eは,上部消化管内視鏡検査を受けるに際してセルシンの投与を必要とするほどの不安をもっていたわけではないから,F医師は,薬物ショックの発生の危険を冒してまでセルシンを投与すべきではなかったにもかかわらず,漫然とセルシンを投与した過失がある。(被告の主張)ア前投薬の投与について被告病院では,胃内視鏡検査の前処置として,①6時間以上の絶飲食,②ガスコンドロップ5ないし10ミリリットルの服用,③ブスコパン1ないし2管の筋肉注射又は静脈内注射,④キシロカインビスカス5ないし10ミリリットルの服用,⑤不安感や内視鏡検査中に起こる心因的反応(内視鏡挿入時及び検査中の挿入に伴う強い嘔吐反射)及び自律神経反応(咽頭及び上部食道筋の強い収縮)の強い患者に対し,セルシン5ないし10ミリリットルの筋肉注射又は静脈内注射を行うこととしている。したがって,キシロカイン,ブスコパン及びセルシンの投与は,胃内視鏡検査の前処置として一般的なものであり,何ら過失はない。胃内視鏡検査において,キシロカインによる咽頭麻酔を行わない方法を採用する医師はおらず,胃内視鏡検査において不可欠な前投薬である。また,ブスコパンを投与しなければ,胃の収縮運動を抑えることができないため,これも胃内視鏡検査において不可欠な前投薬である。イセルシンの投与についてセルシンは,胃内視鏡検査において不可欠のものではなく,意識下鎮静法を目的とした前処置のときに使用されるもので ないため,これも胃内視鏡検査において不可欠な前投薬である。 頭麻酔を行わない方法を採用する医師はおらず,胃内視鏡検査において不可欠な前投薬である。また,ブスコパンを投与しなければ,胃の収縮運動を抑えることができないため,これも胃内視鏡検査において不可欠な前投薬である。イセルシンの投与についてセルシンは,胃内視鏡検査において不可欠のものではなく,意識下鎮静法を目的とした前処置のときに使用されるもので ないため,これも胃内視鏡検査において不可欠な前投薬である。イセルシンの投与についてセルシンは,胃内視鏡検査において不可欠のものではなく,意識下鎮静法を目的とした前処置のときに使用されるものであるが,適量のセルシンの投与は一般的に承認された医療行為である。すなわち,胃内視鏡検査は苦痛を伴い,特に若年者ほど,前記の心因的反応及び自律神経反応が強く,また初めての被検者はさらに強い不安を伴い,上記反応が相乗的に出現しやすいため,検査に伴う不安・苦痛を取り除いて内視鏡検査を行うことが重要であるというべきであるが,これに対し,セルシン等のベンゾジアゼピン系薬剤を投与した場合の内視鏡検査死亡例は0.0009パーセントと極めて稀であるから,苦痛を緩和する利益の方が大きい。本件においては,亡Eには,強い不安や心因的反応,自律神経反応が予想されたため,セルシンを投与した。(3) F医師の過失―その2―(ブスコパン及びセルシンの投与方法について)(原告らの主張)アブスコパンの静脈内注射及び投与量内視鏡検査の前措置としてブスコパンを注射するについては,本来筋肉注射で必要かつ十分であったにもかかわらず,F医師は,ショック症状が生じやすい静脈内注射を漫然と実施し,また,ブスコパンを適量より多く投与した過失がある。イセルシンとブドウ糖との混合・希釈投与,セルシンとブスコパンの連続投与(ほぼ同時の投与)についてセルシンを投与するに当たっては,他の注射液と混合又は希釈して使用してはならないとされている。しかしながら,F医師は,看護婦をして,①セルシンをブドウ糖液で希釈して使用し,②セルシン希釈液を注射した直後にブスコパンを注射し,さらにその直後にセルシン希釈液で接続チューブ内に残存するブスコパンを押し出して,いずれも神経抑制作用をもつセルシンと ドウ糖液で希釈して使用し,②セルシン希釈液を注射した直後にブスコパンを注射し,さらにその直後にセルシン希釈液で接続チューブ内に残存するブスコパンを押し出して,いずれも神経抑制作用をもつセルシンとブスコパンをほぼ同時に静脈内に注入することで混合して使用した。 直後にブスコパンを注射し,さらにその直後にセルシン希釈液で接続チューブ内に残存するブスコパンを押し出して,いずれも神経抑制作用をもつセルシンと ドウ糖液で希釈して使用し,②セルシン希釈液を注射した直後にブスコパンを注射し,さらにその直後にセルシン希釈液で接続チューブ内に残存するブスコパンを押し出して,いずれも神経抑制作用をもつセルシンとブスコパンをほぼ同時に静脈内に注入することで混合して使用した。ウセルシン及びブスコパンの注入速度(ア) セルシンを投与するに当たっては,疾患の種類,症状の程度,年齢及び体重等を考慮して,一般成人には初回2ミリリットル(ジアゼパムとして10ミリグラム)を静脈内又は筋肉内にできるだけ緩徐に注射し,また,静脈内に注射する場合には,なるべく太い静脈を選んで,できるだけ緩徐に(2分以上の時間をかけて)注射する必要があるとされている。亡Eは,一般成人より小柄であったから,セルシン1管(5ミリグラム)の4分の3程度の量であっても,2分間以上の時間をかけて注射すべきであった。それにもかかわらず,F医師は,上記義務に反し,看護婦をして,セルシン1管(5ミリグラム)と20パーセントブドウ糖液20ミリリットルの混合液の約4分の3(15ミリリットル)を,1分30秒程度という短い時間で静脈内注射した。(イ) ブスコパンの静脈内注射を実施する場合には,仮に健康状態に問題がないことが明らかな場合でも,患者の状態を観察しながらゆっくり注射すべきであったのに,F医師は,看護婦をして,亡Eの状態の観察を怠り,漫然と一気に注射をさせた。(被告の主張)アブスコパンの静脈内注射及び投与量について内視鏡検査の前処置としては,ブスコパン1ないし2管を筋肉注射又は静脈内注射することとされており,静脈内注射は広く一般的な医療行為として容認されている。また,セルシンは,静脈内注射が原則的用法であるところ,引き続き,ブスコパンを投与する場合,ブスコパンの筋肉内注射をすると,患 ととされており,静脈内注射は広く一般的な医療行為として容認されている。また,セルシンは,静脈内注射が原則的用法であるところ,引き続き,ブスコパンを投与する場合,ブスコパンの筋肉内注射をすると,患者に新たな痛みを与えることになるため,翼状針を用いて血管を確保し,両薬剤を静脈内注射するのが合理的である。イセルシンとブドウ糖との混合・希釈投与,セルシンとブスコパンの連続投与(ほぼ同時の投与)についてブスコパンとセルシンの併用は,一般に承認された用法であり,併用により,各薬剤の神経抑制作用が相加的又は相乗的に増幅されることはない。 続き,ブスコパンを投与する場合,ブスコパンの筋肉内注射をすると,患者に新たな痛みを与えることになるため,翼状針を用いて血管を確保し,両薬剤を静脈内注射するのが合理的である。イセルシンとブドウ糖との混合・希釈投与,セルシンとブスコパンの連続投与(ほぼ同時の投与)についてブスコパンとセルシンの併用は,一般に承認された用法であり,併用により,各薬剤の神経抑制作用が相加的又は相乗的に増幅されることはない。すなわち,ブスコパンは,抗コリン剤に分類され,自律神経に属する副交感神経の働きを抑制するものであり,この投与により,胃腸の運動が抑制され,消化管の検査に適した状態となる。セルシンは,中枢神経抑制剤に分類され,眠気,注意力,反射運動能力等の低下をもたらし,ブスコパンとは異なる働きをする。セルシン注射液の添付文書において禁止行為とされている「他の注射液との混合」とは,投与前の混合を指し,本件のようにブスコパンとセルシンを経時的に投与したことによる,いわゆる血管内混合は,同書にいう混合には当たらない。また,セルシンをブドウ糖液で希釈したものを患者に投与したことによって,副作用を生じた症状の報告はなく,何ら危険性のないものである。ただ,混合・希釈により,白濁が生じること,血管痛を惹起することがあるというにとどまる。ウその他,本件における前投薬の使用薬剤・使用量・投与の順序・方法はいずれも適切である。(4) F医師の過失―その3―(問診及び観察義務違反について)(原告らの主張)ア劇薬指定を受けているブスコパンの投与によって薬物ショック症状を発症する場合があることは広く周知されているから,ブスコパン注射液の添 失―その3―(問診及び観察義務違反について)(原告らの主張)ア劇薬指定を受けているブスコパンの投与によって薬物ショック症状を発症する場合があることは広く周知されているから,ブスコパン注射液の添付文書にも記載されているとおり,ブスコパンの投与前には,問診,観察により以下の事項を確認して,投与すべきか否かを判断し,投与する場合には適切な投与方法を講じる注意義務がある。(ア) ブスコパンを投与してはならない緑内障,前立腺肥大による排尿障害,心疾患,麻痺性イレウス,ブスコパンに対する過敏性の既往症といった禁忌症の有無を問診により確認すべきであった。(イ) ブスコパンを慎重に投与すべき場合にあたる前立腺肥大,うっ血性心不全,不整脈,潰瘍性大腸炎,甲状腺機能亢進症,高温環境といった疾患の有無を問診により確認すべきであった。 場合には適切な投与方法を講じる注意義務がある。(ア) ブスコパンを投与してはならない緑内障,前立腺肥大による排尿障害,心疾患,麻痺性イレウス,ブスコパンに対する過敏性の既往症といった禁忌症の有無を問診により確認すべきであった。(イ) ブスコパンを慎重に投与すべき場合にあたる前立腺肥大,うっ血性心不全,不整脈,潰瘍性大腸炎,甲状腺機能亢進症,高温環境といった疾患の有無を問診により確認すべきであった。(ウ) 本人や家族にアレルギー(気管支喘息,発疹,鼻炎等)を起こしやすい体質の者がいるか否かを問診し,出血,脱水症状,長期間の絶食,発熱等の有無といった現在の健康状態を十分に確認すべきであった。そして,本人又は家族にアレルギー体質の者がいる場合には投与をしないか,投与するにしても慎重に行うべきであったし,健康状態が不良であることが認められた場合には,本件のような検査目的の場合にはブスコパンの投与を見送り,健康状態が回復するまで検査を延期すべきであった。イまた,セルシンの添付文書には問診そのものについての記載はないが,禁忌や慎重投与の記載があることからすれば,問診を十分に行い,セルシンを投与すべきか否かを判断し,投与する場合には適切な投与方法を講じる注意義務がある。ウ F医師は,上記各義務を怠り,問診,観察を全くせずに,あるいは問診票の作成さえしないような極めて不十分な問診,観察のみで漫然とブスコパンやセルシンを には適切な投与方法を講じる注意義務がある。ウ F医師は,上記各義務を怠り,問診,観察を全くせずに,あるいは問診票の作成さえしないような極めて不十分な問診,観察のみで漫然とブスコパンやセルシンを投与した過失がある。特に,亡Eの場合は,原因が明らかでない胃腸の不調を訴えていたのであり,その原因が潰瘍性大腸炎であることも考えられたのであるから,問診,観察を注意深く行った上で投与を実施するか否かや投与方法を検討すべきであったのに,このような配慮が全くなされなかった。(被告の主張)亡Eは,初診以来,出血や下血(潰瘍性大腸炎では血便や粘液便が見られる。)の訴えがなく,長時間の絶食を示す体重の変化も認められなかった。発熱もなく,脱水を示唆する所見も全くなかった。妊娠の可能性は,初診時に否定されている。また,F医師は,問診において,特に指摘できるような病気をしたことがないとの返事を得ており,このため,緑内障,心疾患(心不全や不整脈),甲状腺疾患は否定でき,また,アレルギー体質ではないと判断した。 ,出血や下血(潰瘍性大腸炎では血便や粘液便が見られる。)の訴えがなく,長時間の絶食を示す体重の変化も認められなかった。発熱もなく,脱水を示唆する所見も全くなかった。妊娠の可能性は,初診時に否定されている。また,F医師は,問診において,特に指摘できるような病気をしたことがないとの返事を得ており,このため,緑内障,心疾患(心不全や不整脈),甲状腺疾患は否定でき,また,アレルギー体質ではないと判断した。また,3回の診察で,心疾患を示唆する所見はなかった。1日ないし2日に1回の排便はあったとのことで,イレウスでないことは明らかである。亡Eは,胃内視鏡検査を初めて受けたものであるから,ブスコパンに対する過敏症の認知は不可能であった。(5) F医師の過失―その4―(セルシン投与の説明義務について)(原告らの主張)ア仮に,セルシン等の鎮静剤を投与しての内視鏡検査が許される場合でも,医師は,患者に対し,自ら行おうとする鎮静下での内視鏡検査で使用する薬剤の名称,効果,副作用や偶発症の危険性(呼吸抑制や薬物ショック),当該薬剤を使用する利点(不安や不快感の軽減),医療水準として確立され,かつ,選択可能な他の検査方法(意識下での内視鏡検査)などの事項を, ,効果,副作用や偶発症の危険性(呼吸抑制や薬物ショック),当該薬剤を使用する利点(不安や不快感の軽減),医療水準として確立され,かつ,選択可能な他の検査方法(意識下での内視鏡検査)などの事項を,患者が検査方法を選択できる程度に説明し,患者の同意を得たうえで施行する義務を負う。F医師は,上記説明義務を怠り,亡Eに対して全く説明を行わなかったため,亡Eは,より安全な検査方法であるセルシンを使用しない意識下での検査方法を選択する機会を奪われ,セルシンの投与を受け,その結果死に至らしめられた。イ F医師が鎮静剤の危険性及び意識下での検査方法の存在を説明していたなら,亡Eはセルシンの投与による鎮静下での検査をあえて希望するはずはなかったというべきであるから,F医師の説明義務違反と死亡の結果との間の因果関係も認められる。(被告の主張)ア現時点の日本のインフォームド・コンセントの水準では,極めて低い確率のリスクについては,説明することによっていたずらに患者を不安に陥らせるから,説明する必要がない。本件においては,胃内視鏡検査は,健康診断でなされるほど一般的で安全性が高く,また,すべての薬剤は,薬物ショックを引き起こす可能性があるものの,薬物ショックによる死亡の可能性は極めて低いから,前投薬(キシロカイン・セルシン・ブスコパン)の薬物ショック症状すべてを説明する必要はなく,F医師がこれらの説明をしなかったことに何ら過失はない。 とによっていたずらに患者を不安に陥らせるから,説明する必要がない。本件においては,胃内視鏡検査は,健康診断でなされるほど一般的で安全性が高く,また,すべての薬剤は,薬物ショックを引き起こす可能性があるものの,薬物ショックによる死亡の可能性は極めて低いから,前投薬(キシロカイン・セルシン・ブスコパン)の薬物ショック症状すべてを説明する必要はなく,F医師がこれらの説明をしなかったことに何ら過失はない。また,仮に,F医師が前投薬による薬物ショックの可能性について説明をしていたとしても,亡Eが前投薬の投与を拒否したはずだという事情や理由は見出し難いから,前投薬による副作用を説明しなかったことをもって,F医師に説明義務違反があったとはいえない。イ仮に,F医師に説明義務違反ないし説明不十分があったとしても,これと いう事情や理由は見出し難いから,前投薬による副作用を説明しなかったことをもって,F医師に説明義務違反があったとはいえない。イ仮に,F医師に説明義務違反ないし説明不十分があったとしても,これと亡Eの死亡との間に因果関係はない。すなわち,亡Eの死亡との間で直接的な因果関係が認められる原因行為は,説明義務違反ではなくて,キシロカイン,セルシン及びブスコパンの投与自体である。そして,本件でとられた上記前投薬の処置は,医療水準に従った適切な行為であり,それ自体適法であるから,結局,亡Eの死亡という結果について,医師に過失責任はない。(6) 亡Eの死亡の予見可能性について(原告らの主張)ア本件事故の発生した平成10年1月当時,上部消化管内視鏡検査におけるセルシン等の前投薬の薬物ショックによる死亡例が報告されていたから,同検査の前投薬であるキシロカイン,セルシン,ブスコパン等の投与により,死亡の可能性を生ぜしめる重篤な偶発症(薬物ショック)が発症することは,標準的な臨床医にとって一般的知見になっていたというべきである。したがって,F医師は,亡Eが上記前投薬の薬物ショックにより死亡する可能性を当然に予見し得たというべきである。なお,亡Eが一般人に比べて高い確率で薬物ショックを起こし死亡することが予見できなかったとしても,亡Eの死亡の予見可能性がないとはいえない。イ亡Eは,胸腺リンパ体質ではなかった。(被告の主張)ア投薬により発生する心室細動(心機能停止)やアナフィラキシーショックの出現については,医学上予測不可能な領域にあるため,予見可能性はない。 薬の薬物ショックにより死亡する可能性を当然に予見し得たというべきである。なお,亡Eが一般人に比べて高い確率で薬物ショックを起こし死亡することが予見できなかったとしても,亡Eの死亡の予見可能性がないとはいえない。イ亡Eは,胸腺リンパ体質ではなかった。(被告の主張)ア投薬により発生する心室細動(心機能停止)やアナフィラキシーショックの出現については,医学上予測不可能な領域にあるため,予見可能性はない。そのため,上記のような副作用に対して最も重要なことは,被検者を注意深く観察し,万が一副作用が出現した場合には,それに素早く対応することである。被告病院では,常時,被検者1名につ 可能性はない。そのため,上記のような副作用に対して最も重要なことは,被検者を注意深く観察し,万が一副作用が出現した場合には,それに素早く対応することである。被告病院では,常時,被検者1名につき,日本消化器内視鏡学会認定消化器内視鏡技師でもある看護士2名(M,N)が応対し,1人が医師を介助し,1人が被検者を観察,介護する役割を果たしていた。そして,すべての被検者に脈拍と血中酸素濃度を測定するためのパルスオキシメーターを装着して被検者の変調の早期発見に努めていた。また,内視鏡室には,セルシンの拮抗剤であるフルマゼニルが常備され,酸素投与には天井から2ラインが確保され,心電図モニター,血圧モニターが常備され,さらには,救急時に対処するための気管内挿管も常備されていた。本件において,被告病院では,このような万全の体制の下で注意深い観察を行い,極めて早くショックに対応し,万全の救急医療を施したにもかかわらず,超急性の心室細動とアナフィラキシーショックのために,亡Eを救命できなかったものであり,亡Eの死亡の予見可能性及び結果回避可能性はなかった。イブスコパンの添付文書によれば,まれにショック症状が現れることがあるので,観察を十分に行うこととされ,ショック症状として,悪心・嘔吐,悪寒,皮膚蒼白,血圧低下等が記載されているものの,この記載からは,アナフィラキシーショック(劇症型アレルギー反応)や心室細動(心機能停止)の出現を読みとることはできない。セルシンやブスコパンによる薬物ショック症例は,極めて少なく,副作用の少ない安全な薬剤であると一般に認知されている。また,ブスコパンもセルシンも,高齢者への投与は慎重であることとされており,前投薬と高齢者の死亡例との間の相関関係は有意であるが,若年者の死亡例との相関関係は皆無に近いというべきで ,アナフィラキシーショック(劇症型アレルギー反応)や心室細動(心機能停止)の出現を読みとることはできない。セルシンやブスコパンによる薬物ショック症例は,極めて少なく,副作用の少ない安全な薬剤であると一般に認知されている。また,ブスコパンもセルシンも,高齢者への投与は慎重であることとされており,前投薬と高齢者の死亡例との間の相関関係は有意であるが,若年者の死亡例との相関関係は皆無に近いというべきで 認知されている。また,ブスコパンもセルシンも,高齢者への投与は慎重であることとされており,前投薬と高齢者の死亡例との間の相関関係は有意であるが,若年者の死亡例との相関関係は皆無に近いというべきである。そして,亡Eは,初めて胃内視鏡検査を受けたものであり,薬物ショック発生の蓋然性を裏付ける具体的な医学情報は存在しなかった。そうすると,23歳の健康な女性である亡Eに重篤な偶発症を招来することはないと考えるのが一般的であり,F医師には,亡Eの死亡という結果発生の予見可能性はなかった。ウ本件においては,亡Eが胸腺リンパ体質であったために,セルシンやブスコパンに異常に反応して突然死した可能性があるから,F医師において,このような事情による亡Eの死亡の予見可能性はないというべきである。すなわち,胸腺リンパ体質とは,胸腺の肥大やリンパ節の腫大と,またこれとは逆に,副腎や心臓等の形成不全を呈す身体的特徴を有し,種々のストレスや急激な刺激に対し,心臓等の循環器が過敏な生体反応を示したり,緊張亢進状態に陥ったりする体質であるが,亡Eの胸腺は約30グラムであり,年齢に比して明らかに重く,また,副腎は左約4.1グラム,右約4.3グラムと明らかに軽いので,亡Eは胸腺リンパ体質である可能性があり,そのため,セルシンやブスコパンに異常に反応して突然死した可能性がある。(7) 損害について(原告らの主張)ア亡Eの損害① 逸失利益  4766万3335円亡Eは,大学卒の死亡当時23歳の会社員であったから,賃金センサス女子労働者大学卒の全年齢平均賃金297万0400円を基礎収入とし,生活費控除割合を3割,就労可能年数を44年間とし,新ホフマン係数(22.923)により中間利息を控除して算出すると,亡Eの逸失利益は4766万3335円になる。計算式 0400円を基礎収入とし,生活費控除割合を3割,就労可能年数を44年間とし,新ホフマン係数(22.923)により中間利息を控除して算出すると,亡Eの逸失利益は4766万3335円になる。 年齢平均賃金297万0400円を基礎収入とし,生活費控除割合を3割,就労可能年数を44年間とし,新ホフマン係数(22.923)により中間利息を控除して算出すると,亡Eの逸失利益は4766万3335円になる。計算式 0400円を基礎収入とし,生活費控除割合を3割,就労可能年数を44年間とし,新ホフマン係数(22.923)により中間利息を控除して算出すると,亡Eの逸失利益は4766万3335円になる。計算式 297万0400円×(1-0.3)×22.923=4766万3335円(円未満切捨て)② 死亡慰謝料 3000万円③ 葬祭費等 215万8600円④ 弁護士費用  780万円イ原告らの相続上記(ア)(①ないし④)の合計8762万1935円につき,原告らは法定相続分に従い,各2分の1である4381万0967円(円未満切捨て)をそれぞれ取得した。ウ合計各4381万0967円エよって,原告らは,被告に対し,債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償として,それぞれ4381万0967円及びこれに対する亡Eの死亡の日である平成10年1月28日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。(被告の主張)損害については争う。第3 当裁判所の判断 1 亡Eの死因について(1) 亡Eの解剖所見においては,ショックに伴う多臓器不全によると思われる疾病のほかには器質的疾病が認められなかったとされているところ(甲17),解剖医であるL医師は,亡Eの死因について,キシロカイン,セルシン及びブスコパンによるショックと考えるのが妥当であるが,投与後のショック発現までの経過時間から,キシロカインの可能性は低く,ブスコパン又は(及び)セルシンによるショックで死亡した可能性が高いと思われると判断し,また,本件事件において鑑定を行ったO大学医学部のP教授は,亡Eに発現した症状は,アナフィラキシーショックにおける循環器症状に酷似している旨を指摘している。そこで,亡Eの死亡が,薬物によるショック,中でも,アナフィラキシーショッ たO大学医学部のP教授は,亡Eに発現した症状は,アナフィラキシーショックにおける循環器症状に酷似している旨を指摘している。そこで,亡Eの死亡が,薬物によるショック,中でも,アナフィラキシーショックによる死亡であるか否か,アナフィラキシーショックによる死亡である場合には,その起因物質が何であるか,を検討する必要がある。 ている。そこで,亡Eの死亡が,薬物によるショック,中でも,アナフィラキシーショッ たO大学医学部のP教授は,亡Eに発現した症状は,アナフィラキシーショックにおける循環器症状に酷似している旨を指摘している。そこで,亡Eの死亡が,薬物によるショック,中でも,アナフィラキシーショックによる死亡であるか否か,アナフィラキシーショックによる死亡である場合には,その起因物質が何であるか,を検討する必要がある。ア証拠(乙7,8)によれば,アナフィラキシーショックとは,特定の原因抗原により惹起される急速な全身性のI型アレルギー反応であること,アナフィラキシーショックは,その発生機序により,①起因物質がIgE抗体と結合し,IgE受容体が架橋されたことにより活性化された細胞から化学伝達物質(ヒスタミン,ロイコトリエン等)が遊離し,これらの化学伝達物質が,血管拡張,血管透過性の亢進,気道平滑筋の収縮などを引き起こすことによる「狭義のアナフィラキシー」と,②起因物質がIgE抗体を介さずに化学伝達物質を遊離することにより引き起こされる「アナフィラキシー様反応」とに分類されること,アナフィラキシーショックは,通常,起因物質摂取後5ないし10分後くらいに始まり,最も早い場合は30秒以内に始まると解されること,その臨床症状としては,呼吸困難,チアノーゼ,血圧低下,中心静脈圧の低下,頻脈,尿量減少,失神等がみられること,アナフィラキシーショックによる死亡は,初期の1ないし2時間に起こり,喉頭浮腫や不整脈による心停止が死因となる場合が多いこと,アナフィラキシーショックの主な原因薬物として,抗コリン剤(ブスコパン等の鎮痙剤),局所麻酔剤(キシロカイン等),全身麻酔剤,抗生物質,解熱・鎮痛・消炎剤などがあると指摘されていること,が認められる。本件において,亡Eが,前投薬であるキシロカインを嚥下し,その約10分後に,翼状針により,セルシン希釈液, ),全身麻酔剤,抗生物質,解熱・鎮痛・消炎剤などがあると指摘されていること,が認められる。本件において,亡Eが,前投薬であるキシロカインを嚥下し,その約10分後に,翼状針により,セルシン希釈液,続いてブスコパン,さらに続いてセルシン希釈液の静脈内注射を受けたところ,翼状針の抜針後5ないし15秒後には苦しいなどと訴えて頻脈や心室細動を引き起こし,意識も消失し,心マッサージ等の処置を受けるに至り,また,容態急変から5分経過したころには呼吸困難に陥り人工呼吸を受けるに至ったことは,前記認定のとおりであるところ,上記前投薬(キシロカイン,セルシン,ブスコパン)の投与から亡Eの容態急変までの時間と亡Eに発現した上記症状は,いずれも上記のアナフィラキシーショックの臨床症状と共通しているというべきであるから,亡Eの死因は,前投薬によるアナフィラキシーショックによるものと解するのが相当である。 に至り,また,容態急変から5分経過したころには呼吸困難に陥り人工呼吸を受けるに至ったことは,前記認定のとおりであるところ,上記前投薬(キシロカイン,セルシン,ブスコパン)の投与から亡Eの容態急変までの時間と亡Eに発現した上記症状は,いずれも上記のアナフィラキシーショックの臨床症状と共通しているというべきであるから,亡Eの死因は,前投薬によるアナフィラキシーショックによるものと解するのが相当である。イそして,前記認定のとおり,ブスコパン等の鎮痙剤やキシロカイン等の局所麻酔剤がアナフィラキシーショックの主な原因薬物であると指摘されていることに加え,キシロカインの添付文書(乙11)においては,キシロカインの投与により,まれにショックがあらわれることがあるので,血圧降下,顔面蒼白,脈拍の異常,呼吸抑制等があらわれた場合には,直ちに投与を中止し,適切な処置を行う必要がある旨が指摘され,ブスコパンの添付文書(乙4の(3))においては,ブスコパンの投与により,まれにショック症状があらわれることがあるので観察を十分に行い,悪心・嘔吐,悪寒,皮膚蒼白,血圧低下等があらわれた場合には,投与を中止し,適切な処置を行う必要がある旨が指摘され,さらに,セルシンの添付文書(乙12)においても,セルシンの投与により,循環性ショック,血圧低下,頻脈,失神等があらわれることがあ た場合には,投与を中止し,適切な処置を行う必要がある旨が指摘され,さらに,セルシンの添付文書(乙12)においても,セルシンの投与により,循環性ショック,血圧低下,頻脈,失神等があらわれることがあるため,観察を十分に行い,異常が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を行う必要がある旨が指摘されているところ,各添付文書において指摘されている上記症状は,いずれも,アナフィラキシーショックの前記臨床症状と共通しているというべきであることを併せて考慮すれば,亡Eの死因であるアナフィラキシーショックの起因物質は,キシロカイン,セルシン及びブスコパンのうち1つ又は2つ以上の薬剤であると解すべきである。(2) この点,被告は,セルシンの副作用としては呼吸抑制が挙げられているところ,亡Eの自発呼吸は頻脈発生後もしばらく続いていたため,キシロカインやブスコパンによるショックの可能性に比べて,セルシンによるショックの可能性は低い旨を主張する。 を併せて考慮すれば,亡Eの死因であるアナフィラキシーショックの起因物質は,キシロカイン,セルシン及びブスコパンのうち1つ又は2つ以上の薬剤であると解すべきである。(2) この点,被告は,セルシンの副作用としては呼吸抑制が挙げられているところ,亡Eの自発呼吸は頻脈発生後もしばらく続いていたため,キシロカインやブスコパンによるショックの可能性に比べて,セルシンによるショックの可能性は低い旨を主張する。前記認定によれば,前投薬投与後,亡Eに最初に発現した症状は,気分不良,頻脈及び心室細動であり,呼吸抑制ではない。しかしながら,セルシンの添付文書(乙12)によれば,セルシンの副作用としては,慢性気管支炎等の呼吸器疾患に用いた場合には,呼吸抑制(頻度不明)が現れることがある旨指摘されているものの,頻度は不明ながら,循環性ショックが現れることがあり,また,0.1パーセント未満の確率で頻脈の症状が現れることがあるとの指摘もされているものであるから,セルシンによるアナフィラキシーショックの可能性を否定することはできないというべきである。(3) また,L医師は,亡Eの死因について,前投薬投与後のショック発現までの経過時間から考慮して,キシロカインによるショックである可能性が低い旨を指摘しているが(甲17),本件の いうべきである。(3) また,L医師は,亡Eの死因について,前投薬投与後のショック発現までの経過時間から考慮して,キシロカインによるショックである可能性が低い旨を指摘しているが(甲17),本件のキシロカイン投与後ショック発現までの時間は約10分間であり,アナフィラキシーショックが最も早い場合は起因物質摂取後30秒以内に始まるが,通常は5ないし10分後くらいに始まると考えられていることと矛盾がないこと,キシロカインがアナフィラキシーショックの主な原因薬物の1つであると指摘されていることに照らせば,キシロカインによるショックである可能性も否定することはできないというべきである。(4) 以上によれば,亡Eの死因は,キシロカイン,セルシン及びブスコパンのうち1つ又は2つ以上の薬剤によるアナフィラキシーショックであると解するのが相当である。2 前投薬の投与の必要性について原告らは,本件前投薬(キシロカイン,ブスコパン,セルシン)が,そもそも,不必要又は投与すべきではない薬剤であるとして,F医師が前投薬を投与したことに過失があると主張する。 定することはできないというべきである。(4) 以上によれば,亡Eの死因は,キシロカイン,セルシン及びブスコパンのうち1つ又は2つ以上の薬剤によるアナフィラキシーショックであると解するのが相当である。2 前投薬の投与の必要性について原告らは,本件前投薬(キシロカイン,ブスコパン,セルシン)が,そもそも,不必要又は投与すべきではない薬剤であるとして,F医師が前投薬を投与したことに過失があると主張する。(1) キシロカイン及びブスコパンの投与について証拠(甲18,乙7,16,鑑定の結果)によれば,胃(上部消化管)内視鏡検査の前処置としては,①胃粘膜の付着粘液や気泡の除去の目的で,ガスコン・ドロップ2ミリリットルの飲用,②咽喉部の粘膜表面麻酔の目的で,キシロカイン・ビスカス5ミリリットル程度によるうがい若しくは飲用,③平滑筋弛緩,胃腸管運動抑制と各種の外分泌(唾液,胃液,腸液等)を抑制する目的で,鎮痙剤であるブスコパン(臭化ブチルスコポラミンとして10ないし20ミリグラム)の筋肉注射又は静脈内注射が行われるのが一般的であること,キシロカインやブスコパンを投与しないでも内視鏡検査自体を行うことは可能であ スコパン(臭化ブチルスコポラミンとして10ないし20ミリグラム)の筋肉注射又は静脈内注射が行われるのが一般的であること,キシロカインやブスコパンを投与しないでも内視鏡検査自体を行うことは可能であるが,これらを投与しない場合は,咽頭麻酔がないことによる被検者の苦痛の増強や内視鏡検査時間の延長の可能性があり,また,ブスコパンの分泌抑制作用が働かないことにより,唾液・胃液の呼吸器への誤飲による気管支炎・肺炎の発生や,病変見落としの危険性の増大の可能性があること,が認められる。そうすると,胃内視鏡検査を安全,適切に行う上で,同検査の前処置として咽喉部の局所麻酔剤であるキシロカイン及び鎮痙剤であるブスコパンを投与する必要性は認められるというべきである。もっとも,前記認定のとおり,キシロカインは,同薬剤やアニリド系局所麻酔剤に対し過敏症の既往歴のある患者には禁忌であり,キシロカインの副作用として,少ない頻度ではあるがショックや中毒症状があらわれる可能性があるものであり,また,ブスコパンは,同薬剤に対し過敏症の既往歴のある患者のほか,出血性大腸炎の患者,緑内障患者,前立腺肥大による排尿障害のある患者,重篤な心疾患患者,麻痺性イレウスの患者には禁忌,細菌性下痢の患者には原則禁忌であり,前立腺肥大のある患者,うっ血性心不全のある患者,不整脈のある患者,潰瘍性大腸炎の患者,甲状腺機能亢進症の患者,高温環境にある患者に対しては慎重に投与する必要性があり,ブスコパンの副作用としてショックが現れる可能性もあり,ブスコパンを使用できない被検者に対してはグルカゴン等のホルモン剤を投与する方法が採られているものであるから,キシロカイン及びブスコパンを使用するに当たり,後述のとおり,問診や観察によって,これらの薬剤の適応の有無を判断するとともに,これらの薬剤を投 性大腸炎の患者,甲状腺機能亢進症の患者,高温環境にある患者に対しては慎重に投与する必要性があり,ブスコパンの副作用としてショックが現れる可能性もあり,ブスコパンを使用できない被検者に対してはグルカゴン等のホルモン剤を投与する方法が採られているものであるから,キシロカイン及びブスコパンを使用するに当たり,後述のとおり,問診や観察によって,これらの薬剤の適応の有無を判断するとともに,これらの薬剤を投 ホルモン剤を投与する方法が採られているものであるから,キシロカイン及びブスコパンを使用するに当たり,後述のとおり,問診や観察によって,これらの薬剤の適応の有無を判断するとともに,これらの薬剤を投与することにより発現する可能性のある副作用やショック症状の内容や頻度を説明し,被検者の同意を得たうえで投与する必要があるというべきである。(2) セルシンの投与について前記認定及び証拠(甲18,乙7,16,19)によれば,内視鏡検査においては,セルシン等を投与する意識下鎮静法(医師と被検者との間で意思疎通ができるが,検査後は被検者に軽い健忘がもたらされるような浅い鎮静状態で検査を実施する方法。)とセルシン等を投与しないで実施する検査方法が存在すること,意識下鎮静法の長所として,①被検者の不安,疼痛,不快感を軽減させ,嘔吐反射を抑制することができる,②医師が,被検者の諸動作や苦痛の声に邪魔されないので,内視鏡に集中することができ,見逃しのない質の高い検査が可能となる,③被検者は,過度の苦痛に対しては防御反応を示し,医者の無理な操作を警告することができる,などの点が挙げられるが,他方で,短所として,①被検者の反応が乏しいので,偶発症(特に消化管穿孔)の察知が遅れがちになる,②セルシン等の鎮静剤の投与により,呼吸抑制,血圧低下,徐脈,不整脈など,呼吸器系及び循環器系への副作用があらわれる危険性がある,③鎮静剤の影響がなくなるまで被検者の観察を行う必要があるためリカバリー室や看護士の配置が必要になる,④被検者がなかなか帰宅できない,⑤使用する鎮静剤の拮抗薬を投与する場合には,検査に要する費用が高くなる,などの点が挙げられていること,上部消化管の内視鏡検査や内視鏡的治療について,原則として全件に意識下鎮静法を行う医師も存在するが,他方で,内視鏡的 薬を投与する場合には,検査に要する費用が高くなる,などの点が挙げられていること,上部消化管の内視鏡検査や内視鏡的治療について,原則として全件に意識下鎮静法を行う医師も存在するが,他方で,内視鏡的食道静脈瘤硬化療法(EIS)や内視鏡的粘膜切除術(EMR)などの内視鏡的治療に対しては意識下鎮静法を行い,観察や診断を目的とする一般内視鏡検査の場合には意識下鎮静法を行わない医師や,一般内視鏡検査の場合には,緊張や嘔吐反射の強い被検者や特に被検者が希望する場合にのみ意識下鎮静法を行う医師も存在すること,セルシンは,心障害,肝障害,腎障害のある患者,脳に気質的障害のある患者,乳児・幼児,高齢者,衰弱患者,高度重症患者,呼吸予備力の制限されている患者に対しては慎重に投与する必要があり,副作用として,舌根の沈下による上気道閉塞(0.1ないし5パーセント未満の確率),慢性気管支炎等の呼吸器疾患に用いた場合の呼吸抑制(頻度不明),循環性ショック(頻度不明),血圧低下(0.1ないし5パーセント未満)頻脈,徐脈,失神(0.1パーセント未満)などの副作用があらわれる可能性があること,が認められる。 者,衰弱患者,高度重症患者,呼吸予備力の制限されている患者に対しては慎重に投与する必要があり,副作用として,舌根の沈下による上気道閉塞(0.1ないし5パーセント未満の確率),慢性気管支炎等の呼吸器疾患に用いた場合の呼吸抑制(頻度不明),循環性ショック(頻度不明),血圧低下(0.1ないし5パーセント未満)頻脈,徐脈,失神(0.1パーセント未満)などの副作用があらわれる可能性があること,が認められる。上記の事情を総合考慮すれば,観察や診断を目的とする一般胃内視鏡検査を行うに際しては,被検者の不安,疼痛,不快感を軽減させ,嘔吐反射を抑制することができるなどの意識下鎮静法の長所に鑑みれば,セルシン等を投与して行う同法の実施が不必要,不適切なものであるとはいえないが,同法を実施することが必要不可欠であるとまではいえないものと認められるから,同法の実施としてセルシンを投与するに当たっては,後述のとおり,問診や観察により被検者に対するセルシンの適応の有無を慎重に判断するとともに,被検者に対しては,セルシンを投与することによる利点のみならず,一般胃内視鏡検査の内容や所 るに当たっては,後述のとおり,問診や観察により被検者に対するセルシンの適応の有無を慎重に判断するとともに,被検者に対しては,セルシンを投与することによる利点のみならず,一般胃内視鏡検査の内容や所要時間,セルシンの投与が必要不可欠ではなく,これを投与しない検査方法が存在すること,セルシンの投与により発現する可能性のある副作用やショック症状の内容や頻度等を説明したうえで,これを使用することについての許諾の意思を確認し,被検者の同意を得て,投与する必要があると解すべきである。(3) 以上によれば,本件前投薬が投与されたことにつき,そもそも,前投薬が不必要又は投与すべきではない薬剤であったとの原告らの主張は,これを採用することができないというべきである。3 ブスコパン及びセルシンの投与方法について(1) ブスコパンの静脈内注射及び投与量について原告らは,ブスコパンを静脈内注射したという注射方法及びブスコパン1管(臭化ブチルスコポラミンとして20ミリグラム)を投与したという投与量に誤りがある旨を主張する。しかしながら,ブスコパンの添付文書に,一般に成人に対し,1回2分の1ないし1管(臭化ブチルスコポラミンとして10ないし20ミリグラム)を,静脈内又は皮下,筋肉内に投与することと記載されており,また,臨床的にもブスコパンの静脈内注射は一般的に行われていると認められる(乙7,16,19)から,原告らの上記主張を採用することはできないというべきである。 ム)を投与したという投与量に誤りがある旨を主張する。しかしながら,ブスコパンの添付文書に,一般に成人に対し,1回2分の1ないし1管(臭化ブチルスコポラミンとして10ないし20ミリグラム)を,静脈内又は皮下,筋肉内に投与することと記載されており,また,臨床的にもブスコパンの静脈内注射は一般的に行われていると認められる(乙7,16,19)から,原告らの上記主張を採用することはできないというべきである。(3) セルシンとブドウ糖との混合・希釈投与,セルシンとブスコパンの連続投与(ほぼ同時の投与)についてア原告らは,本件において,セルシンをブドウ糖液で希釈したことが,セルシンと他の注射液との混合又は希釈を禁止する使用法に違反した旨を主張する。武田薬品工業株式会社の回答(乙24の(1),(2 てア原告らは,本件において,セルシンをブドウ糖液で希釈したことが,セルシンと他の注射液との混合又は希釈を禁止する使用法に違反した旨を主張する。武田薬品工業株式会社の回答(乙24の(1),(2))によれば,セルシンをブドウ糖液で希釈することは,セルシンの添付文書において禁止事項とされている「混合又は希釈」に該当すること,これらを混合することにより,白濁,沈殿等が生じ,有効成分であるジアゼパムの結晶が析出して血管痛,血栓性静脈炎を惹起することがある旨を指摘する報告が存在することが認められるが,他方で,セルシンをブドウ糖液で希釈したことにより副作用が生じた症例は報告されていないことが認められるから,セルシンをブドウ糖液で希釈して投与することは,セルシンの使用法に反するものではあるが,アナフィラキシーショック等の薬物ショックを誘引する原因になるとは認められないというべきである。そして,セルシンの効き目には個人差があり,被検者にとって最適な投与量を調整する必要があるところ,1ミリリットル(1管)のセルシンの原液ではその調整が困難であるため,ブドウ糖液で希釈して体積を増加させたうえで徐々に注射し,適量を投与する方法を採る旨のF医師の証言(証人F)にも合理性が認められるというべきである。これらの事情を考慮すれば,セルシンをブドウ糖液で希釈して投与したというF医師の投与方法について,過失があるとは認められないと解するのが相当である。イ原告らは,セルシンとブスコパンを連続してほぼ同時に投与したことが,他の注射液と混合又は希釈して使用してはならないというセルシンの使用法に違反する旨を主張する。 し,適量を投与する方法を採る旨のF医師の証言(証人F)にも合理性が認められるというべきである。これらの事情を考慮すれば,セルシンをブドウ糖液で希釈して投与したというF医師の投与方法について,過失があるとは認められないと解するのが相当である。イ原告らは,セルシンとブスコパンを連続してほぼ同時に投与したことが,他の注射液と混合又は希釈して使用してはならないというセルシンの使用法に違反する旨を主張する。本件において,亡Eの右腕静脈内に,翼状針で,セルシン希釈液の4分の3程度が注射され,続けて,ブスコパン1管が注射され,さらに続けて,翼状針に残留し というセルシンの使用法に違反する旨を主張する。本件において,亡Eの右腕静脈内に,翼状針で,セルシン希釈液の4分の3程度が注射され,続けて,ブスコパン1管が注射され,さらに続けて,翼状針に残留しているブスコパンを押し出すため,セルシン希釈量の残量の一部が注射されたことは,前記認定のとおりであるところ,セルシンの添付文書(乙12)には,使用上の注意事項として,「(4)配合変化他の注射液と混合又は希釈して使用しないこと。」と記載されているが,セルシンとブスコパンを翼状針を用いて連続的に投与することで薬剤の配合変化が生じるとの事実を裏付ける客観的証拠は存在せず,かえって,セルシンの製造発売元である武田薬品工業株式会社から,添付文書記載の「混合」とは,投与前の薬剤の混合を意味し,連続投与により血管内で混合されることを意味しない旨の回答がなされていること(乙24の(1),(2))に照らせば,薬剤の配合変化の観点からは,本件のセルシンとブスコパンの連続投与は,セルシンの使用法に違反したものであると認めることはできないというべきである。そして,セルシンとブスコパンを併用した場合に,両薬剤の作用が増強したり,相乗作用があるとの事実は,これを認めるに足りる証拠がないから,本件のセルシンとブスコパンの連続投与は,両薬剤の併用による効果・作用の観点からも,使用法に違反したものであると認めることができないというべきである。(3) セルシンとブスコパンの注入速度についてア原告らは,セルシン希釈液を約1分30秒間かけて注射したことが,できるだけ緩徐に注射すべきとされるセルシンの使用法に違反する旨を主張する。しかしながら,セルシンの添付文書(乙12)によれば,同剤の成人に対する一般的な使用量は,セルシン2ミリリットル(ジアゼパムとして10ミリグラム らも,使用法に違反したものであると認めることができないというべきである。(3) セルシンとブスコパンの注入速度についてア原告らは,セルシン希釈液を約1分30秒間かけて注射したことが,できるだけ緩徐に注射すべきとされるセルシンの使用法に違反する旨を主張する。しかしながら,セルシンの添付文書(乙12)によれば,同剤の成人に対する一般的な使用量は,セルシン2ミリリットル(ジアゼパムとして10ミリグラム きとされるセルシンの使用法に違反する旨を主張する。しかしながら,セルシンの添付文書(乙12)によれば,同剤の成人に対する一般的な使用量は,セルシン2ミリリットル(ジアゼパムとして10ミリグラム)であり,用法として,静脈内に注射する場合には,なるべく太い静脈を選んで,できるだけ緩徐に(2分間以上の時間をかけて)注射することと記載されているから,本件のように,セルシン1ミリリットル(ジアゼパムとして5ミリグラム)とブドウ糖液の希釈液の4分の3程度を約1分30秒間かけて注射したことは,添付文書記載の使用法に違反したものとは認めることができないというべきである。イまた,原告らは,ブスコパンを約30秒間かけて注射したことが,患者の状態を観察しながらゆっくり注射することとされているブスコパンの添付文書記載の使用法に違反している旨を主張する。しかしながら,本件のようにブスコパン1ミリリットルを約30秒間かけて注射したことは,添付文書に記載されている「静脈内注射にあたっては患者の状態を観察しながらゆっくり注射すること」の文意に照らし,明らかに反する速度であるとは認められないというべきであり,また,亡Eが「気分が悪い,苦しい。」と訴えたのは,翼状針の抜針から5ないし15秒経過後であって,ブスコパンの注射中ではないから,F医師や看護婦が亡Eの状態の観察を怠って漫然と注射したものとも認めることができないというべきである。そうすると,ブスコパンの注入速度が添付文書記載の使用法に違反しているものとは認めることができない。(4) したがって,原告らのブスコパンとセルシンの投与方法に関する上記主張は,いずれも採用することができないと解するのが相当である。なお,その他,本件全証拠によっても,亡Eに対して投与された前投薬(キシロカイン,ブスコパン,セルシン とセルシンの投与方法に関する上記主張は,いずれも採用することができないと解するのが相当である。 入速度が添付文書記載の使用法に違反しているものとは認めることができない。(4) したがって,原告らのブスコパンとセルシンの投与方法に関する上記主張は,いずれも採用することができないと解するのが相当である。なお,その他,本件全証拠によっても,亡Eに対して投与された前投薬(キシロカイン,ブスコパン,セルシン とセルシンの投与方法に関する上記主張は,いずれも採用することができないと解するのが相当である。なお,その他,本件全証拠によっても,亡Eに対して投与された前投薬(キシロカイン,ブスコパン,セルシン)の投与量,投与の順序及び方法について,被告に過失があるものとは認めることができないというべきである。4 問診,観察義務違反及び説明義務違反の主張について原告らは,F医師が,胃内視鏡検査を実施するに当たり,問診及び観察を行わず,又は,極めて不十分な問診及び観察のみで漫然と前投薬であるブスコパンやセルシンを投与したこと(問診,観察義務違反),及び,セルシンを投与するにつき,その利点や副作用の危険性等を説明し,患者の同意を得る義務を怠ったこと(説明義務)を主張するが,本件は,亡Eの死因が胃内視鏡検査の前投薬であるキシロカイン,ブスコパン及びセルシンのうち1つ又は2つ以上の薬剤によるアナフィラキシーショックであると認められ,それ以上に起因薬剤の特定ができない事案であるから,当裁判所は,原告らの主張を,F医師が胃内視鏡検査の実施及び前投薬の投与に当たって行うべき問診,観察義務及び説明義務に違反したことを内容とするものと理解したうえで,以下,これを判断することとする。(1) 胃内視鏡検査における問診,観察義務及び説明義務の根拠ア一般に,医師は,患者の自覚症状を問診し,触診等の観察を行うとともに,必要な検査を行うなどの過程を経て,当該患者の疾病の有無,内容,程度等を確定的に診断し,適切な治療方針を決定して治療行為を行うことが期待されているところ,検査は,適切な治療行為という医療の最も重要な目的のためのデータ収集手段の1つ,すなわち治療行為の前提に位置づけられるものである。そして,内視鏡を用いる医療行為は,内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST),内視 切な治療行為という医療の最も重要な目的のためのデータ収集手段の1つ,すなわち治療行為の前提に位置づけられるものである。そして,内視鏡を用いる医療行為は,内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST),内視鏡的粘膜切除術(EMR),内視鏡的食道静脈瘤硬化療法(EIS)等の「内視鏡的治療」と,内視鏡による観察,生検,内視鏡的逆行性膵胆管造影(ERCP)等の「内視鏡的検査」に大別されるが(甲25,26),本件で亡Eに対して行われる予定であったものは,内視鏡的検査の中でも,内視鏡による観察や診断のみを目的とした一般胃内視鏡検査であった。 て,内視鏡を用いる医療行為は,内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST),内視鏡的粘膜切除術(EMR),内視鏡的食道静脈瘤硬化療法(EIS)等の「内視鏡的治療」と,内視鏡による観察,生検,内視鏡的逆行性膵胆管造影(ERCP)等の「内視鏡的検査」に大別されるが(甲25,26),本件で亡Eに対して行われる予定であったものは,内視鏡的検査の中でも,内視鏡による観察や診断のみを目的とした一般胃内視鏡検査であった。このような位置づけに鑑みれば,観察や診断のみを目的とした一般胃内視鏡検査は,患者の疾病を発見するために極めて重要な役割を果たしていることは否定できないものの,治療行為そのものや,内視鏡によるその他の医療行為との比較においては,一般的に,その実施の必要性や緊急性が必ずしも高くはないというべきである。そのうえ,本件のような胃内視鏡検査における前投薬は,検査そのものではなく,検査を迅速かつ適切に行うための前処置であって,その投与の必要性や緊急性は,検査の実施に必要不可欠な前投薬を除いては,検査そのものの実施の必要性や緊急性と比べても,より低いというべきである。イところで,胃内視鏡検査は,消化管の粘膜面を直視することができるため,造影剤を用いて行う消化管検査では観察できない粘膜の色調の変化や微小病変の発見が可能になるという特徴を有しているものの,他方で,同検査は,長時間(6時間以上)の絶飲食を経て,前投薬(キシロカイン,ブスコパンのほか,場合によってはセルシン等)を投与し,咽頭部から直径10ミリメートル前後の内視鏡を挿入するという,身体に対する侵襲を伴い,被検者に少なからぬ不安や精神的苦痛を与えるものであるばかりか,極 ンのほか,場合によってはセルシン等)を投与し,咽頭部から直径10ミリメートル前後の内視鏡を挿入するという,身体に対する侵襲を伴い,被検者に少なからぬ不安や精神的苦痛を与えるものであるばかりか,極めて低い確率ではあるが,前投薬によるショック等の重篤な副作用の発生や,内視鏡の挿入による出血,穿孔など,身体及び生命に対する重篤な障害を与える危険性すらあることが知られている(甲18,乙7)。ウ以上の事情に鑑みれば,医師は,胃内視鏡検査の実施の当否及び同検査を実施する場合の前投薬の適応の有無を判断するについては,必要不可欠な投薬治療や手術等の治療行為そのものを行う場合に比べ,より慎重に検討する必要があるというべきである。 前投薬によるショック等の重篤な副作用の発生や,内視鏡の挿入による出血,穿孔など,身体及び生命に対する重篤な障害を与える危険性すらあることが知られている(甲18,乙7)。ウ以上の事情に鑑みれば,医師は,胃内視鏡検査の実施の当否及び同検査を実施する場合の前投薬の適応の有無を判断するについては,必要不可欠な投薬治療や手術等の治療行為そのものを行う場合に比べ,より慎重に検討する必要があるというべきである。すなわち,医師は,被検者に対し,問診や観察,より安全な他の検査等を実施し,それらによって得られた情報に基づいて,胃内視鏡検査を実施する必要性・緊急性や前投薬を投与する目的・効果・必要性と,同検査の実施により予測される被検者の肉体的,精神的な苦痛の程度や同検査の実施や前投薬の投与により生じうる危険の内容・頻度などとを具体的に比較衡量し,そのうえで,胃内視鏡検査の実施の当否や各前投薬の適応の有無を判断する必要があるというべきである(問診,観察義務)。また,胃内視鏡検査の実施や前投薬の投与の必要性,緊急性が,治療行為そのものに比較して必ずしも高くはないことや,発生する確率が極めて低いとはいえ,同検査の実施及び前投薬の投与により生命,身体に対する重篤な障害を与える危険性があることに鑑みれば,医師は,胃内視鏡検査を実施すべきであると判断した場合であっても,当該被検者に対し,上記のような医師の検討内容等を説明したうえで,同検査を受けるか否か,及び,各前投薬の投与を受けるか否かについて,被検者自身に選択させる(同意を得る)必要がある た場合であっても,当該被検者に対し,上記のような医師の検討内容等を説明したうえで,同検査を受けるか否か,及び,各前投薬の投与を受けるか否かについて,被検者自身に選択させる(同意を得る)必要があるというべきである(説明義務)。特に,後述のとおり,危険発生を予見したり,結果を回避することが必ずしも確実,容易ではなく,通常期待される問診や観察義務を尽くしたとしても,その予見や結果の回避には困難を伴う本件のような場合にあっては,医師としては,極めて慎重に,問診,観察義務を尽くすべきことに加えて,被検者に対する上記の説明義務を尽くし,検査を受けることについての被検者の同意を得ることによって初めて,結果発生についての責任を免れることができるものと解すべきであって,実施の必要性や緊急性が必ずしも高くない検査にあっては,医師の説明に基づく被検者の同意の重要性は,決して軽視し得るものではないと思料する。 本件のような場合にあっては,医師としては,極めて慎重に,問診,観察義務を尽くすべきことに加えて,被検者に対する上記の説明義務を尽くし,検査を受けることについての被検者の同意を得ることによって初めて,結果発生についての責任を免れることができるものと解すべきであって,実施の必要性や緊急性が必ずしも高くない検査にあっては,医師の説明に基づく被検者の同意の重要性は,決して軽視し得るものではないと思料する。エなお,この点につき,被告は,極めて低い確率のリスクについては,説明することによりいたずらに患者を不安に陥らせるため,説明する必要がない旨を主張する。しかしながら,被検者を不安に陥らせないために医師が採るべき措置は,検査の実施や前投薬の投与により生じうる危険の内容を告知しないことではなく,被検者に対し,発生しうる危険の内容を告知したうえで,さらに,危険の発生する頻度や,医師が問診や観察によって可能な限り危険の発生を回避する方法を検討したことを具体的かつ詳細に説明することであるというべきである。また,医師がこのように説明することにより,被検者が当該検査の受診や前投薬の投与を許諾するか否かを選択するなど,被検者の自由意思を尊重することができるのである。したがって,被告の上記主張を採用することはできない。(2) 胃内視鏡検査において要求される問診, 受診や前投薬の投与を許諾するか否かを選択するなど,被検者の自由意思を尊重することができるのである。したがって,被告の上記主張を採用することはできない。(2) 胃内視鏡検査において要求される問診,観察義務及び説明義務の内容ア問診,観察義務の内容胃内視鏡検査を実施の当否及び前投薬の適応の有無を検討するために,医師に対して要求される問診,観察義務の具体的内容について判断する。(ア) 胃内視鏡検査の禁忌証拠(甲18)によれば,一般的に,高度の心疾患,呼吸機能障害のある患者,高熱患者,その他重篤な内臓疾患患者や咽喉部疾患患者,内視鏡の挿入を拒絶する者などに対しては,胃内視鏡検査を実施すべきでないと解されていること,及び,検査当日の朝の体の具合,例えば,かぜ,咽頭痛,頭痛,激しい咳嗽,発熱,腹痛,下痢,便秘,動悸,めまいなどがあれば前処置に工夫を要し,場合によっては内視鏡検査を中止し,延期する必要もあると解されていることが認められる。(イ) 前投薬の禁忌前投薬のうち,キシロカインは,前記認定及び証拠(甲18)によれば,キシロカイン又はアニリド系局所麻酔剤に対し過敏症の既往歴のある患者に対して禁忌であり,副作用としては,まれに(0.1パーセント未満)ショックや中毒症状があらわれることがあること,キシロカイン等の表面麻酔剤に対する過敏症の既往歴のある者に対しては,同薬剤を使用しないで胃内視鏡検査を実施すべきである旨を指摘する医師が存在することが認められる。 のうち,キシロカインは,前記認定及び証拠(甲18)によれば,キシロカイン又はアニリド系局所麻酔剤に対し過敏症の既往歴のある患者に対して禁忌であり,副作用としては,まれに(0.1パーセント未満)ショックや中毒症状があらわれることがあること,キシロカイン等の表面麻酔剤に対する過敏症の既往歴のある者に対しては,同薬剤を使用しないで胃内視鏡検査を実施すべきである旨を指摘する医師が存在することが認められる。ブスコパンについては,前記認定及び証拠(甲18,乙7)によれば,ブスコパンに対し過敏症の既往歴のある患者,出血性大腸炎の患者,緑内障患者,前立腺肥大による排尿障害のある患者,重篤な心疾患患者,麻痺性イレウスの患者には禁忌,細菌性下痢の患者には原則禁忌であり,前立腺肥大のある患者,う 既往歴のある患者,出血性大腸炎の患者,緑内障患者,前立腺肥大による排尿障害のある患者,重篤な心疾患患者,麻痺性イレウスの患者には禁忌,細菌性下痢の患者には原則禁忌であり,前立腺肥大のある患者,うっ血性心不全のある患者,不整脈のある患者,潰瘍性大腸炎の患者,甲状腺機能亢進症の患者,高温環境にある患者に対しては慎重に投与する必要性があり,ブスコパンの副作用としては,まれに(0.1パーセント未満)ショック症状があらわれることがあるので観察を十分に行い,悪心・嘔吐,悪寒,皮膚蒼白,血圧低下等があらわれた場合には,投与を中止し,適切な処置を行う必要があること,胃内視鏡検査を実施するに際し,禁忌等によりブスコパンを使用できない者に対しては,グルカゴン等のホルモン剤を投与するという代替手段が存在することが認められる。また,セルシンは,心障害,肝障害,腎障害のある患者,脳に気質的障害のある患者,乳児・幼児,高齢者,衰弱患者,高度重症患者,呼吸予備力の制限されている患者に対しては慎重に投与する必要があり,副作用としては,舌根の沈下による上気道閉塞(0.1ないし5パーセント未満の確率),慢性気管支炎等の呼吸器疾患に用いた場合の呼吸抑制(頻度不明),循環性ショック(頻度不明),血圧低下(0.1ないし5パーセント未満)頻脈,徐脈,失神(0.1パーセント未満)などの副作用があらわれることがあるとされていること,観察や診断を目的とする一般内視鏡検査を行うに際しては,セルシン等を投与する意識下鎮静法を行うことが必須であるとはいえないことは,前記認定のとおりである。 5パーセント未満の確率),慢性気管支炎等の呼吸器疾患に用いた場合の呼吸抑制(頻度不明),循環性ショック(頻度不明),血圧低下(0.1ないし5パーセント未満)頻脈,徐脈,失神(0.1パーセント未満)などの副作用があらわれることがあるとされていること,観察や診断を目的とする一般内視鏡検査を行うに際しては,セルシン等を投与する意識下鎮静法を行うことが必須であるとはいえないことは,前記認定のとおりである。そして,平成3年8月にブスコパンの輸入元の日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社と発売元の田辺製薬株式会社が作成した「鎮痙剤ブスコパン注射液のお知らせ」と題する書面(甲4)には,ショック等の副作 そして,平成3年8月にブスコパンの輸入元の日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社と発売元の田辺製薬株式会社が作成した「鎮痙剤ブスコパン注射液のお知らせ」と題する書面(甲4)には,ショック等の副作用を未然に防ぐために,同薬剤投与前に十分に問診を行う必要があるとして,①禁忌症(緑内障・前立腺肥大・心疾患・麻痺性イレウス・同薬剤に対する過敏症の既往)の有無の確認,②慎重投与疾患(不整脈・潰瘍性大腸炎・甲状腺機能亢進症)の有無の確認,③本人やその家族がアレルギー(気管支喘息,発疹,鼻炎等)を起こしやすい体質か否かの確認,④現在の健康状態(出血,脱水症状,長期間の絶食,発熱等の有無)の観察を行い,検査目的の場合は,健康状態が不良であれば,回復するまで検査を延期する必要がある旨が記載されている。(ウ) 前記の事情を総合考慮すれば,医師は,問診,観察義務として,胃内視鏡検査実施時までに,被検者に問診票を記入させたり口頭で問診するなどの方法により,①被検者が胃内視鏡検査の禁忌症,各薬剤の禁忌症や慎重投与疾患に該当するか否かの確認,②本人や家族がアレルギー(気管支喘息,発疹,鼻炎等)を起こしやすい体質か否かの確認を行い,また,同検査実施当日には問診や医師の観察により,③被検者の検査当日の健康状態(出血,脱水症状,長期間の絶食,発熱等の有無)を確認する義務を負うというべきである。そして,問診は,医学的専門知識を欠く一般人に対してなされるものであり,質問の趣旨が理解されなかったり,的確な応答がなされなかったりする危険性があるものであるから,医師は,上記問診をするに当たっては,単に概括的,抽象的に被検査者に質問をするだけでは足りず,被検者から的確な応答を得られるよう,個別的で具体的な質問方法で行う義務を負うというべきである。 発熱等の有無)を確認する義務を負うというべきである。そして,問診は,医学的専門知識を欠く一般人に対してなされるものであり,質問の趣旨が理解されなかったり,的確な応答がなされなかったりする危険性があるものであるから,医師は,上記問診をするに当たっては,単に概括的,抽象的に被検査者に質問をするだけでは足りず,被検者から的確な応答を得られるよう,個別的で具体的な質問方法で行う義務を負うというべきである。イ問診,観察に基づいて するに当たっては,単に概括的,抽象的に被検査者に質問をするだけでは足りず,被検者から的確な応答を得られるよう,個別的で具体的な質問方法で行う義務を負うというべきである。イ問診,観察に基づいて採るべき措置及び説明義務の内容(ア) キシロカイン及びブスコパンについて前記の問診及び観察を実施することにより,被検者がキシロカイン又はブスコパンの禁忌症に該当することが判明した場合は,医師は当該薬剤を投与してはならないというべきである。また,被検者がブスコパンの原則禁忌疾患や慎重投与疾患に該当することが判明した場合,及び,被検者やその家族がアレルギーを起こしやすい体質であることや,被検者の検査当日の健康状態が不良であることが判明した場合は,医師は,必要に応じて各疾患の専門医に相談するなどしてその疾患や症状の内容・程度等を正確に把握し,ブスコパンやキシロカインを投与する必要性や,ブスコパンの場合には代替手段であるグルカゴンの適応の有無も考慮して,ブスコパンやキシロカインの投与を止めるか,投与するかを慎重に決定する必要があるというべきである。そして,上記各症状に該当するにもかかわらず各薬剤を投与する場合には,それらを投与する目的・効果・必要性や,それらを投与することにより発現する可能性のある副作用やショック症状の内容や頻度等を説明し,被検者の同意を得たうえで,投与する義務を負うというべきである。さらに,上記のいずれにも該当せず,医師がキシロカインやブスコパンを投与することが可能であると判断した場合であっても,内視鏡検査の前投薬による死亡例が報告されていること(甲25,乙18),アナフィラキシーショックは特定の原因抗原により惹起される急速な全身性のI型アレルギー反応であるから,当該薬剤の禁忌症や慎重投与疾患等に該当せず,被検者や家族がア されていること(甲25,乙18),アナフィラキシーショックは特定の原因抗原により惹起される急速な全身性のI型アレルギー反応であるから,当該薬剤の禁忌症や慎重投与疾患等に該当せず,被検者や家族がアレルギーを起こしやすい体質ではない場合でも発現する可能性があり得ると解されることに鑑みれば,医師は,キシロカインやブスコパンを投与する目的・効果・必要性や,それらを投与することにより発現する可能性のある副作用やショック症状の内容や頻度等を説明し,被検者の同意を得たうえで,投与する義務を負うというべきである。 のI型アレルギー反応であるから,当該薬剤の禁忌症や慎重投与疾患等に該当せず,被検者や家族がアレルギーを起こしやすい体質ではない場合でも発現する可能性があり得ると解されることに鑑みれば,医師は,キシロカインやブスコパンを投与する目的・効果・必要性や,それらを投与することにより発現する可能性のある副作用やショック症状の内容や頻度等を説明し,被検者の同意を得たうえで,投与する義務を負うというべきである。(イ) セルシンについてこれに対し,セルシンの投与については,そもそも,本件のような観察・診断目的の一般胃内視鏡検査においてセルシンの投与が必要不可欠であるとはいえないことに鑑みれば,被検者がセルシンの慎重投与疾患に該当することが判明した場合のみならず,被検者やその家族がアレルギーを起こしやすい体質であることや,検査当日の健康状態が不良であることが判明した場合には,医師は,セルシンを投与してはならないというべきである。そして,被検者が上記のいずれにも該当せず,医師がセルシンを投与することが可能であると判断した場合であっても,医師は,セルシンを投与することによる利点(目的,効果,必要性)だけではなく,一般胃内視鏡検査の内容や所要時間,同検査を実施するに当たってセルシンの投与が必要不可欠ではなく,これを投与しない検査方法が存在すること,セルシンを投与することにより発現する可能性のある副作用やショック症状の内容や頻度等を説明したうえで,被検者に対してこれを使用することについての許諾の意思を確認し,被検者の同意を得て,セルシンを投与する義務を負うというべきである。(ウ) 胃内視鏡検査の実施についてなお,そもそも,被検者が,前記の胃内視 してこれを使用することについての許諾の意思を確認し,被検者の同意を得て,セルシンを投与する義務を負うというべきである。(ウ) 胃内視鏡検査の実施についてなお,そもそも,被検者が,前記の胃内視鏡検査の禁忌(高度の心疾患,呼吸機能障害のある患者,高熱患者,その他重篤な内臓疾患患者や咽喉部疾患患者,又は,内視鏡の挿入を拒絶する者)に該当する場合は,医師は,同検査を実施すべきではないというべきである。さらに,前記各前投薬のいずれか又は全部を投与しないことにより,胃内視鏡検査を安全,適切に実施することが困難であると見込まれる場合,検査当日の体調が悪く,予測される被検者の肉体的,精神的な苦痛の程度や前投薬の投与により副作用が発生する危険性の程度が,同検査を実施する必要性を上回ると判断される場合や,前記の説明により,被検者が同検査の実施を拒否した場合には,医師は,同検査自体を延期又は取りやめる義務を負うというべきである。 いずれか又は全部を投与しないことにより,胃内視鏡検査を安全,適切に実施することが困難であると見込まれる場合,検査当日の体調が悪く,予測される被検者の肉体的,精神的な苦痛の程度や前投薬の投与により副作用が発生する危険性の程度が,同検査を実施する必要性を上回ると判断される場合や,前記の説明により,被検者が同検査の実施を拒否した場合には,医師は,同検査自体を延期又は取りやめる義務を負うというべきである。(3) 胃内視鏡検査の前投薬による死亡の予見可能性について医師が負うべき問診,観察義務及びこれらに基づいて医師が採るべき措置並びに説明義務の内容は前記のとおりであるが,被告の主張するとおり,前投薬のアナフィラキシーショックにより亡Eが死亡することについて予見可能性がない場合には,被告が問診,観察義務違反及び説明義務違反による責任を負わないと解される余地があるので,予見可能性の点について判断する。ア前投薬によるアナフィラキシーショック発生の予見可能性について(ア) 被告は,本件の前投薬(キシロカイン,セルシン,ブスコパン)によるアナフィラキシーショック発生の可能性を予見することは不可能であった,あるいは,前投薬によるアナフィラキシーショックにより被検者が死亡する可能性を予見することは不可能であった旨を主張する。しかし アナフィラキシーショック発生の可能性を予見することは不可能であった,あるいは,前投薬によるアナフィラキシーショックにより被検者が死亡する可能性を予見することは不可能であった旨を主張する。しかしながら,キシロカイン,セルシン及びブスコパンが,いずれも,その添付文書等において,副作用としてショック症状やアナフィラキシーショックの前記臨床症状と共通する症状があらわれる危険性があることを指摘されている薬剤であること,ブスコパンやキシロカインが,いずれもアナフィラキシーショックの主な原因薬剤として指摘されている薬剤であることは前記認定のとおりであるから,キシロカイン,セルシン及びブスコパンが,いずれも,極めて低い確率ではあるものの,アナフィラキシーショックの副作用を有するものであることは,本件事故の発生した平成10年1月当時の一般の医師における医療上の知見であったというべきである。さらに,前記認定によれば,アナフィラキシーショックによる死亡は,最初の徴候が発現してから数分ないし数時間以内に起こるものであるというべきであり,これに,昭和58年から昭和62年までの集計に基づく「消化器内視鏡の偶発症に関する全国アンケート調査報告」(昭和63年学会報告,平成元年公刊物出版。 のであることは,本件事故の発生した平成10年1月当時の一般の医師における医療上の知見であったというべきである。さらに,前記認定によれば,アナフィラキシーショックによる死亡は,最初の徴候が発現してから数分ないし数時間以内に起こるものであるというべきであり,これに,昭和58年から昭和62年までの集計に基づく「消化器内視鏡の偶発症に関する全国アンケート調査報告」(昭和63年学会報告,平成元年公刊物出版。甲25)において,上部消化器内視鏡の前投薬による死亡例が40件報告されていること,昭和63年から平成4年までの集計に基づく「消化器内視鏡関連の偶発症に関する第2回全国調査報告」(平成7年公刊物出版。乙18)において,一般内視鏡(内視鏡的逆行性膵胆管造影(ERCP),硬化療法などの検査や処置を含む。)の前処置による死亡例が129件報告され,その死因は,アナフィラキシー,低酸素血症による心肺不全,誤飲性肺炎などである旨が指摘されていることを併せて考慮すれば,キシロカイン,セルシ や処置を含む。)の前処置による死亡例が129件報告され,その死因は,アナフィラキシー,低酸素血症による心肺不全,誤飲性肺炎などである旨が指摘されていることを併せて考慮すれば,キシロカイン,セルシン及びブスコパンを投与して,アナフィラキシーショックが発現した場合,最初の徴候の発現から数時間以内で死亡するに至るという結果が発生する可能性があることも,平成10年1月当時の一般の医師における医療上の知見であったというべきである。そうすると,キシロカイン,ブスコパン及びセルシンを被検者に投与することにより,アナフィラキシーショックが発現し,その後数時間以内で死亡するに至るという結果が発生する可能性があることは,本件事故当時の一般の医師における医療上の知見であったというべきであり,予見可能性が認められるものと解するのが相当である。そして,F医師自身も,本件事故当時,セルシン等の前投薬により,呼吸抑制やショック等の重篤な偶発症が起こり得ることを知っていた旨を証言していること(証人F)に照らせば,F医師は,本件事故当時,被検者に前投薬を投与することにより,アナフィラキシーショックが発現することがあり,その場合,数時間以内で死亡するに至るという結果が発生する可能性があることについては,認識を有していたものというべきである。 ある。そして,F医師自身も,本件事故当時,セルシン等の前投薬により,呼吸抑制やショック等の重篤な偶発症が起こり得ることを知っていた旨を証言していること(証人F)に照らせば,F医師は,本件事故当時,被検者に前投薬を投与することにより,アナフィラキシーショックが発現することがあり,その場合,数時間以内で死亡するに至るという結果が発生する可能性があることについては,認識を有していたものというべきである。(イ) この点,被告は,セルシンやブスコパンは,高齢者に対しては慎重に投与する必要があるが,これらの薬剤の副作用と若年者の死亡との相関関係はない旨を主張しており,証拠(甲6,18,26,27,乙18,24の(2))によれば,統計上,内視鏡検査の前処置による死亡例における患者の年齢は,中高年層が圧倒的に多く,30歳未満の若年者の死亡例は,消化器内視鏡関連の偶発症に関する第2回全国調査報告において1例報告されているにすぎないこ 内視鏡検査の前処置による死亡例における患者の年齢は,中高年層が圧倒的に多く,30歳未満の若年者の死亡例は,消化器内視鏡関連の偶発症に関する第2回全国調査報告において1例報告されているにすぎないことが認められる。しかしながら,これらの統計は,いずれも内視鏡検査総数の年齢分布が明らかにされていないため,若年層に対する検査実施件数が中高年層のそれに比較して少ないことに起因して上記結果が導き出された可能性を否定することができず,若年者にショック等が発生しにくいという事実を裏付けることはできないというべきであり,また,アナフィラキシーショックの発生機序に照らせば,中高年層に比べ,若年層にアナフィラキシーショックが発生しにくいという根拠を見出すことはできないというべきであるから,被告の上記主張を採用することはできない。(ウ) なお,被告は,前投薬によるアナフィラキシーショックの出現は,医学上予測不可能な領域にあるため,被告病院において万全の体制等が採られていたものであるとして,予見可能性や結果回避可能性がなかった旨を主張する。前記認定及び証拠(乙3,6,10)によれば,被告の主張するとおり,被告病院においては,胃内視鏡検査を実施するに当たり,万全の救命措置体制が整えられており,本件において亡Eにパルスオキシメーターが装着されたことや亡Eの容態が急変した後に行われた救命措置,心肺蘇生措置はいずれも適正な処置であったことが認められるというべきであるが,このような万全の救命措置体制が採られているのは,胃内視鏡検査やその前投薬により,重篤な偶発症が発生することがあり得るためにほかならないのであって,このような体制が採られていたことをもって,本件の予見可能性や結果回避可能性がなかったことを肯定する根拠にはならないというべきであり,被告の上記主張を 変した後に行われた救命措置,心肺蘇生措置はいずれも適正な処置であったことが認められるというべきであるが,このような万全の救命措置体制が採られているのは,胃内視鏡検査やその前投薬により,重篤な偶発症が発生することがあり得るためにほかならないのであって,このような体制が採られていたことをもって,本件の予見可能性や結果回避可能性がなかったことを肯定する根拠にはならないというべきであり,被告の上記主張を ることがあり得るためにほかならないのであって,このような体制が採られていたことをもって,本件の予見可能性や結果回避可能性がなかったことを肯定する根拠にはならないというべきであり,被告の上記主張を採用することはできない。イ問診,観察義務及び説明義務と,アナフィラキシーショックによる死亡の予見可能性及び結果回避可能性との関係についてアナフィラキシーショックは,特定の原因抗原により惹起される急速な全身性のI型アレルギー反応であるから,客観的には当該被検者に対する前投薬の投与の適応が肯定される場合,すなわち,客観的にみて,被検者が前投薬の禁忌症や慎重投与疾患等に該当せず,被検者やその家族がアレルギーを起こしやすい体質ではなく,被検者の健康状態が不良でない場合であっても,当該被検者がアナフィラキシーショックにより死亡する可能性があったものと認め得る余地がある(被告も,予見可能性を否定する理由として,亡Eが初めて胃内視鏡検査を受けたものであったから,薬物ショック発生の蓋然性を裏付ける具体的な医学情報が存在しなかった旨を主張しているところである。)。そこで,このような場合,アナフィラキシーショックにより当該被検者が死亡することについて,予見可能性又は結果回避可能性がなかったとして,医師が責任を負わないというべきかが問題となる。前判示のとおり,医師に要求される問診,観察義務の内容が,禁忌症や慎重投与疾患の有無のほか,アレルギー体質の有無や検査当日の健康状態など,副作用の発生を抑止するために可能な限り広範囲にわたるものであり,これにより被検者に対する具体的かつ詳細な情報を収集することができることに鑑みれば,これらの問診,観察義務が尽くされていれば,前投薬の投与によるアナフィラキシーショックを含む副作用の発生を予見できる可能性を全く否定する る具体的かつ詳細な情報を収集することができることに鑑みれば,これらの問診,観察義務が尽くされていれば,前投薬の投与によるアナフィラキシーショックを含む副作用の発生を予見できる可能性を全く否定することはできないというべきであり,また,胃内視鏡検査の実施や前投薬の投与の必要性や緊急性が治療行為そのものに比較して必ずしも高くはなく,かえって,胃内視鏡検査や前投薬の投与による危険性があることに鑑みれば,医師は,何らかの副作用の発生の可能性があると判断した場合には,前投薬の投与を取りやめたり,場合によっては検査自体を実施しないことで被検者の死亡の結果を回避することが十分可能であるといえるから,医師に要求される問診,観察義務を実際には尽くしていなかった場合にあっては,予見可能性又は結果回避可能性がなかったことを口実にして結果発生に関する責任を安易に否定すべきではないと解すべきであり,被検者が問診及び観察を尽くしても発見することができない特異体質等の個人的素因を有していたことや,医師が問診,観察義務及び説明義務を尽くし,被検者の同意を得たうえで前投薬を投与したにもかかわらず,重篤な障害,死亡等の結果が生じてしまったものであることなどの特段の事情が立証されない限り,上記予見可能性及び結果回避可能性がなかったことを理由にその責任を否定されることはないと解するのが相当である。 であり,被検者が問診及び観察を尽くしても発見することができない特異体質等の個人的素因を有していたことや,医師が問診,観察義務及び説明義務を尽くし,被検者の同意を得たうえで前投薬を投与したにもかかわらず,重篤な障害,死亡等の結果が生じてしまったものであることなどの特段の事情が立証されない限り,上記予見可能性及び結果回避可能性がなかったことを理由にその責任を否定されることはないと解するのが相当である。ウ鑑定人の見解についてなお,P教授は,本件のような結果の発症を予見することとは,当該患者が本件のような結果を発症する確率が一般の患者の場合に比べて高いという根拠を挙げることができることをいう,との見解を述べたうえで,本件では結果発生の予見可能性がなかった旨を述べているが(鑑定の結果),ある結果発生の予見可能性とは,一般の患者に比べて結果発生の確率が高い場合のみに限定される ことをいう,との見解を述べたうえで,本件では結果発生の予見可能性がなかった旨を述べているが(鑑定の結果),ある結果発生の予見可能性とは,一般の患者に比べて結果発生の確率が高い場合のみに限定されるものではなく,本件事故当時の一般の医師における医療上の知見として,一般的に本件のような結果の発生を予見することができる場合で,かつ,当該患者(被検者)に本件のような結果が発生することを予見することができる場合に認められるものであるというべきであるから,上記見解を採用することはできない。エ特異体質(胸腺リンパ体質)の有無について被告は,亡Eが,胸腺の肥大と副腎の形成不全を呈する胸腺リンパ体質という特異体質であったため,セルシンやブスコパンに異常に反応して突然死した可能性があるとして,亡Eの死亡の予見可能性はなかった旨を主張する。解剖所見(甲17)によれば,亡Eの胸腺は,大きさ約9.0×4.0,9.0×4.0×0.6センチメートル,重量約30グラムであり,亡Eの副腎は,大きさ左約5.3×2.8×0.8センチメートル,右約5.8×3.0×0.4センチメートル,重量左約4.1グラム,右約4.3グラムであったことが認められるところ,被告病院のJ院長は,その意見書(乙32)において,「小児血液病学Ⅱ」(新小児医学大系第23巻B。乙22)によれば20歳から29歳の女性の胸腺の平均値が24.89±0.97グラム(平均値±標準偏差)であると記載されているから,亡Eの胸腺は1388万人に1人という極めて稀な確率の肥大胸腺であること,「副腎皮質機能病理学における性差の意義」(笹野伸昭ほか著。 約4.3グラムであったことが認められるところ,被告病院のJ院長は,その意見書(乙32)において,「小児血液病学Ⅱ」(新小児医学大系第23巻B。乙22)によれば20歳から29歳の女性の胸腺の平均値が24.89±0.97グラム(平均値±標準偏差)であると記載されているから,亡Eの胸腺は1388万人に1人という極めて稀な確率の肥大胸腺であること,「副腎皮質機能病理学における性差の意義」(笹野伸昭ほか著。乙32)によれば体重40ないし49.9キログラムの成人女性の副腎重量の比体重百分率の平均値は0.0243±0.0009グラムであるから,亡Eの副腎比体重百分率0.018 の意義」(笹野伸昭ほか著。乙32)によれば体重40ないし49.9キログラムの成人女性の副腎重量の比体重百分率の平均値は0.0243±0.0009グラムであるから,亡Eの副腎比体重百分率0.018876(体重44.5キログラム)は,十億人に1人以下という極めて稀な確率であることを指摘している。しかしながら,「胸腺に関する研究」(柴田衛敏著。甲22)によれば,20歳から29歳までの女性のうち,重量10グラム未満と50グラム以上を除いた293例の胸腺の平均重量は,24.60±9.34グラムであることが認められ,亡Eの胸腺の重量は,平均値よりやや重いものの,1標準偏差の範囲内であったと解されること,「現代日本人の臓器計測値昭和60(1985)年~平成3(1991)年」(日本法医学会課題調査委員会。甲23)によれば,21歳から25歳の日本人女性の副腎の平均重量は,左5.9±1. 92グラム(62例),右5.5±1.61グラム(58例)であることが認められ,亡Eの副腎の重量は,平均値よりかなり軽いものの,1標準偏差の範囲内であったと解されること,解剖所見(甲17)によれば,亡Eの副腎は左右とも硬度が普通であり,皮質及び髄質に著変が認められず,肉眼的にも病的所見が認められなかったこと,さらに,L医師の回答書(甲19)によれば,亡Eの副腎皮質の平均幅が約0.75ミリメートルであり,皮質の萎縮を疑うべき値ではないこと,球状層,束状層及び網状層の細胞に萎縮を含めた著変が認められなかったこと,髄質の細胞にも萎縮を含めた著変が認められなかったことが認められるから,亡Eが,胸腺の肥大や副腎の形成不全を呈する胸腺リンパ体質という特異体質であったとまでは推認することができないというべきであり,被告の主張を採用することはできない。 れば,亡Eの副腎皮質の平均幅が約0.75ミリメートルであり,皮質の萎縮を疑うべき値ではないこと,球状層,束状層及び網状層の細胞に萎縮を含めた著変が認められなかったこと,髄質の細胞にも萎縮を含めた著変が認められなかったことが認められるから,亡Eが,胸腺の肥大や副腎の形成不全を呈する胸腺リンパ体質という特異体質であったとまでは推認することができないというべきであり,被告の主張を採用することはできない。なお,仮に,亡Eに胸腺の肥大 ,亡Eが,胸腺の肥大や副腎の形成不全を呈する胸腺リンパ体質という特異体質であったとまでは推認することができないというべきであり,被告の主張を採用することはできない。なお,仮に,亡Eに胸腺の肥大や副腎の機能異常(形成不全)が認められるとしても,証拠(甲24)によれば,原因不明の突然死例の中には,肥大胸腺の者や副腎の機能異常のものが存在するものの,肥大胸腺や副腎の機能異常という体質が突然死の原因となるとの因果関係を立証する報告例が存在しないことが認められ,他にこの因果関係を推認するに足りる証拠はないから,胸腺の肥大や副腎の機能異常が,突然死を引き起こす原因であるとは認めることができないというべきである。したがって,亡Eが胸腺リンパ体質であったため,亡Eの死亡の予見可能性がなかったとの被告の主張を採用することはできない。(4) 本件についてア前記認定及び証拠(乙1,2,証人F)によれば,本件胃内視鏡検査実施までの間に,F医師又は被告病院の医師,看護婦が行った問診及び観察は,以下のとおりであると認められる。(ア) 平成10年1月16日(初診日)同年1月16日は,亡Eの血圧,脈拍,体重,体温が測定され,F医師の問診により,最終月経が1週間前に終了したこと,便通が一,二日に1回であること及び自覚症状(食後に心窩部痛,腹痛があること,吐き気,下痢,咳はいずれもないこと)を聞き,F医師の触診及び観察により,心窩部と下腹部に圧痛が認められ,腹部は平坦で軟らかく,腫瘤が触知されないこと,結膜には貧血や黄疸の異常が認められないこと,頚部にもリンパ節腫脹や甲状腺腫の異常が認められないこと,下肢に浮腫がないこと,を確認した。(イ) 同年1月24日同年1月24日は,亡Eの血圧,脈拍,体重が測定され,I医師の問診により,同年1月16日に処方された 脹や甲状腺腫の異常が認められないこと,下肢に浮腫がないこと,を確認した。 と下腹部に圧痛が認められ,腹部は平坦で軟らかく,腫瘤が触知されないこと,結膜には貧血や黄疸の異常が認められないこと,頚部にもリンパ節腫脹や甲状腺腫の異常が認められないこと,下肢に浮腫がないこと,を確認した。(イ) 同年1月24日同年1月24日は,亡Eの血圧,脈拍,体重が測定され,I医師の問診により,同年1月16日に処方された 脹や甲状腺腫の異常が認められないこと,下肢に浮腫がないこと,を確認した。(イ) 同年1月24日同年1月24日は,亡Eの血圧,脈拍,体重が測定され,I医師の問診により,同年1月16日に処方された薬(ナウゼリン,タガメット)を服用したが変わらないこと,発熱はないことを確認した。(ウ) 同年1月28日(胃内視鏡検査日)亡Eの血圧,脈拍,体重が測定された。F医師は,同年1月24日に行われた採血に基づく血液検査報告書,生化学検査報告書,蛋白分画報告書に目を通し,好中球(状好中球,分葉好中球)の合計が76パーセントとやや高いため,体内のどこかに若干の炎症の可能性があると判断したが,それ以外には,血液検査の所見上は異常がないと判断した。F医師は,亡Eがキシロカインを嚥下した後,亡Eに対し,「まだ治らないそうですね。薬は全部飲んだけど治らないのですね。」などと問いかけ,亡Eから胃の痛みが続いているとの回答を得た。そして,触診により,心窩部に圧痛を認めるも,へそ周囲や初診時に認められた下腹部の圧痛は認められず,腫瘤を触知しないことを確認した。また,F医師は,同日,亡Eが胃内視鏡検査を受けるのが初めてであることを聞いた。イこの点,F医師は,その証人尋問において,同年1月16日に,亡Eに対し,過去に重大な病気を起こしたことがないかという質問をした旨を証言するが,この事実を客観的に裏付ける証拠が存在しないことや,それ以外の問診事項は診療録に明確に記載されていることに照らし,F医師の証言中,上記証言部分は信用することができないというべきである。ウ(ア) 前記事実関係に鑑みれば,F医師は,初診日から胃内視鏡検査を実施するまでの間に,前記各前投薬の禁忌症及び慎重投与疾患に該当するか否か,特に,キシロカイン等の局所麻酔剤やブスコパン等の鎮痙剤に対 前記事実関係に鑑みれば,F医師は,初診日から胃内視鏡検査を実施するまでの間に,前記各前投薬の禁忌症及び慎重投与疾患に該当するか否か,特に,キシロカイン等の局所麻酔剤やブスコパン等の鎮痙剤に対し過敏症の既往症があるか否か,出血性大腸炎,心疾患,うっ血性心不全,不整脈,潰瘍性大腸炎,脳の気質的障害の罹患の有無のほか,本人や家族がアレルギー(気管支喘息,発疹,鼻炎等)を起こしやすい体質か否かなどについて,具体的な問診を行わなかったものと認められる。 内視鏡検査を実施するまでの間に,前記各前投薬の禁忌症及び慎重投与疾患に該当するか否か,特に,キシロカイン等の局所麻酔剤やブスコパン等の鎮痙剤に対し過敏症の既往症があるか否か,出血性大腸炎,心疾患,うっ血性心不全,不整脈,潰瘍性大腸炎,脳の気質的障害の罹患の有無のほか,本人や家族がアレルギー(気管支喘息,発疹,鼻炎等)を起こしやすい体質か否かなどについて,具体的な問診を行わなかったものと認められる。また,胃内視鏡検査当日の健康状態については,「まだ治らないそうですね。薬は全部飲んだけど治らないのですね。」などと問いかけ,亡Eから胃の痛みが続いているとの回答を得たうえで,触診により,心窩部に圧痛があり,へそ周囲や初診時に認められた下腹部の圧痛がないこと,腫瘤を触知しないことを確認し,血液検査の結果を確認したものの,それ以外の当日の体調,すなわち,咽頭痛,頭痛,激しい咳嗽,発熱,下痢,便秘,動悸,めまいの有無等について問診を行わなかったものと認められる。そうすると,本件において,F医師は,胃内視鏡検査の実施の当否や前投薬の適応の有無を判断するために必要となる問診,観察義務を怠り,不十分な問診,観察の結果に基づいて胃内視鏡検査のための前投薬(キシロカイン,ブスコパン,セルシン)を漫然と投与したものであって,前投薬の適否を十分に検討しなかったために前投薬の適応についての判断を誤ったものということができる(なお,咳や便通については,初診日に問診がなされているところであるが,本件の検査は初診日から10日以上経過した後になされているから,検査当日の状況について再度確認すべきであり,発熱についても,変動が激しいものであるから,検査当日の状況を確認すべきであったというべきである。)。さらに,前投 0日以上経過した後になされているから,検査当日の状況について再度確認すべきであり,発熱についても,変動が激しいものであるから,検査当日の状況を確認すべきであったというべきである。)。さらに,前投薬(キシロカイン,ブスコパン,セルシン)を投与するに際し,前判示のような説明を何ら行わず,亡Eから何ら同意を得なかったこと,及び,セルシンの投与について亡Eに選択の機会が与えられず,F医師の判断で投与されたことが認められるから,F医師は,前記説明義務をも怠ったものといわざるを得ない。(イ) この点,被告は,F医師が平成10年1月16日に,過去に重大な病気を起こしたことがないかという質問をした際に,亡Eから特に指摘できるような病気をしたことがないとの返事を得たため,緑内障,心疾患(心不全や不整脈),甲状腺疾患は否定でき,アレルギー体質ではないと判断した旨を主張する。 与えられず,F医師の判断で投与されたことが認められるから,F医師は,前記説明義務をも怠ったものといわざるを得ない。(イ) この点,被告は,F医師が平成10年1月16日に,過去に重大な病気を起こしたことがないかという質問をした際に,亡Eから特に指摘できるような病気をしたことがないとの返事を得たため,緑内障,心疾患(心不全や不整脈),甲状腺疾患は否定でき,アレルギー体質ではないと判断した旨を主張する。しかしながら,仮に,F医師と亡Eとの間で,上記のような問答がなされていたとしても,医学的専門知識を有しない亡Eが,自主的に,胃内視鏡検査の実施及び前投薬の投与の当否を判断するに当たり必要とされる病歴を選別して上記疾患の有無を回答することは,極めて困難であるというべきであるから,上記のように,過去に重大な病気を起こしたことがないか,という程度の概括的かつ抽象的な質問をしただけでは,F医師の問診義務が尽くされたものとは認めることができないというべきである。(5) 問診,観察義務違反及び説明義務違反と亡Eの死亡との間の因果関係F医師は,胃内視鏡検査の実施の当否や前投薬の適応の有無を判断するために必要となる問診,観察を行うことにより,前投薬の投与による副作用やアナフィラキシーショックの発現する可能性を発見できる機会を有していたにもかかわらず,問診,観察義務を怠ったため,このような機会 ために必要となる問診,観察を行うことにより,前投薬の投与による副作用やアナフィラキシーショックの発現する可能性を発見できる機会を有していたにもかかわらず,問診,観察義務を怠ったため,このような機会を自ら放棄し,極めて不十分な問診,観察の結果に基づいて漫然と前投薬(キシロカイン,ブスコパン,セルシン)を投与し,前投薬の適否を十分に検討しなかったために前投薬についての適応判断を誤ったものであること,また,F医師が前投薬の副作用の内容やセルシンの投与が必要不可欠ではないことなどについて説明をすることにより,胃内視鏡検査や前投薬の投与を受けることについて亡Eに選択の機会が与えられ,亡Eが胃内視鏡検査の実施を拒絶した可能性や,上記前投薬の投与,なかでも,セルシンの投与を拒絶した可能性は十分あったにもかかわらず,F医師が説明義務を怠ったため,亡Eの上記選択の機会が奪われたことについては,前判示のとおりである。したがって,F医師が問診,観察を怠ったことにより,F医師が前投薬の適応判断を誤り,さらに,F医師が前投薬の説明及び亡Eの同意を得ることを怠ったことにより,F医師の前投薬の適応判断の誤りを是正する機会が奪われ,その結果,上記前投薬のうち1つ又は2つ以上の薬剤によるアナフィラキシーショックにより亡Eが死亡するに至ったというべきであるから,F医師の問診,観察義務違反及び説明義務違反と亡Eの死亡との間には因果関係が認められると解するのが相当である。 より,F医師が前投薬の適応判断を誤り,さらに,F医師が前投薬の説明及び亡Eの同意を得ることを怠ったことにより,F医師の前投薬の適応判断の誤りを是正する機会が奪われ,その結果,上記前投薬のうち1つ又は2つ以上の薬剤によるアナフィラキシーショックにより亡Eが死亡するに至ったというべきであるから,F医師の問診,観察義務違反及び説明義務違反と亡Eの死亡との間には因果関係が認められると解するのが相当である。(6) 以上によれば,被告は,被告病院の医師であるF医師が問診,観察義務及び説明義務を怠ったことに基づく過失により,亡Eを死亡させるに至らしめたものであるから,亡Eの死亡による損害を賠償する義務を負うものというべきである。5 損害について(1) 亡Eの損害  5986万2947円ア逸失利益 により,亡Eを死亡させるに至らしめたものであるから,亡Eの死亡による損害を賠償する義務を負うものというべきである。5 損害について(1) 亡Eの損害  5986万2947円ア逸失利益 3986万2947円亡Eは,死亡当時23歳の会社員であった。したがって,亡Eの逸失利益については,平成10年賃金センサス女子労働者大学卒の全年齢平均賃金451万3800円を基礎収入とし,生活費控除割合を5割とし,就労可能期間を67歳までの44年間とし,5パーセントのライプニッツ方式により中間利息を控除して算出するのが相当である。そうすると,亡Eの逸失利益は,以下の計算式のとおり,3986万2947円(円未満切捨て)となる。(計算式)451万3800円×(1-0.5)×17.6627=3986万2947円(円未満切捨て)イ死亡慰謝料  2000万円以上の認定事実及び本件にあらわれた諸事情を総合考慮すれば,亡Eの被った精神的苦痛に対する慰謝料は2000万円をもって相当であると判断する。ウ相続本件において,亡Eが被った損害は,5986万2947円であるところ,前記認定によれば,原告らは亡Eの損害賠償請求権を法定相続分各2分の1の割合で相続したと解されるから,原告らが相続により取得した損害賠償請求権は,それぞれ2993万1473円(円未満切捨て)となる。(2) 葬儀関係費用各65万円証拠(甲11の(1),(2),12)によれば,原告らは,亡Eの葬儀関係費用として合計215万8600円を支出したものと認められるところ,本件事件と相当因果関係のある損害としては,130万円と認めるのが相当である。 償請求権を法定相続分各2分の1の割合で相続したと解されるから,原告らが相続により取得した損害賠償請求権は,それぞれ2993万1473円(円未満切捨て)となる。(2) 葬儀関係費用各65万円証拠(甲11の(1),(2),12)によれば,原告らは,亡Eの葬儀関係費用として合計215万8600円を支出したものと認められるところ,本件事件と相当因果関係のある損害としては,130万円と認めるのが相当である。そうすると,原告らの葬儀関係費用に関する損害は,それぞれ65万円となる。(3) 弁護士費用各300万円本件事件と相当因果関係のある弁護 のある損害としては,130万円と認めるのが相当である。そうすると,原告らの葬儀関係費用に関する損害は,それぞれ65万円となる。(3) 弁護士費用各300万円本件事件と相当因果関係のある弁護士費用として,それぞれ300万円と認めるのが相当である。(4) 損害額合計各3358万1473円以上合計すると,原告らの損害額の合計は,それぞれ3358万1473円となる。6 結論以上によれば,原告らの請求は,それぞれ3358万1473円及びこれに対する亡Eの死亡の日である平成10年1月28日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが,その余はいずれも理由がない。なお,仮執行免脱宣言の申立てについては,相当でないからこれを付さないこととする。(口頭弁論終結日平成14年9月27日)福岡地方裁判所小倉支部第3民事部裁判長裁判官杉本正樹裁判官田村政巳裁判官山田真依子

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