- 1 -平成17年(行ケ)第10603号審決取消請求事件口頭弁論終結日平成18年5月17日判決原告三星エスディアイ株式会社訴訟代理人弁理士志賀正武同渡辺隆同村山靖彦訴訟復代理人弁理士阿部達彦同大島孝文被告特許庁長官中嶋誠指定代理人末政清滋同江塚政弘同立川功同小林和男主文 特許庁が不服2003-22060号事件について平成17年3月22日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1請求主文同旨第2事案の概要日本電気株式会社は,後記特許の出願をしたところ,特許庁から拒絶査定を受けたので,これに対する不服の審判請求をした。その後,日本電気株式会社は原告に対し,特許を受ける権利を譲渡したので,原告が上記審判事件の当事- 2 -者(請求人)となったが,特許庁が請求不成立の審決をしたことから,原告がその取消しを求めた事案である。 第3当事者の主張 請求の原因(1)特許庁における手続の経緯日本電気株式会社は,平成12年7月5日(特許法41条に基づく優先権主張・優先日平成11年7月14日,名称を「有機エレクトロルミネッセ)ンス素子及びパネルの製造方法と製造装置」とする発明につき特許出願(以。 ,下「本願」という)をしたところ,特許庁が拒絶査定をしたため,同社は平成15年11月13日,これに対する不服の審判請求をするとともに,発明の名称を「有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法」とし,特許請求の範囲の記載等を変更する補正をした(甲6。以下「本件補正」という。 。)特許庁は,上記審判請求を不服2003-22060号事件として審理することになったが,同事件係属中の平成16 し,特許請求の範囲の記載等を変更する補正をした(甲6。以下「本件補正」という。 。)特許庁は,上記審判請求を不服2003-22060号事件として審理することになったが,同事件係属中の平成16年3月15日,請求人たる同社は原告に対し,上記特許を受ける権利を譲渡し,翌3月16日に名義変更届が特許庁長官に提出された。そして,特許庁は,平成17年3月22日,本件補正を却下した上「本件審判の請求は,成り立たない」との審決をし,,。 その謄本は平成17年4月5日原告に送達された。なお,出訴期間として90日が附加された。 (2)発明の内容ア本件補正前のもの(本願発明)平成15年11月13日になされた本件補正前の特許請求の範囲は,請求項1ないし10から成るが,その請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という)は,下記のとおりである(甲5。 。 )記- 3 -「基板上に,A)第一の電極を成膜する工程と,B)該第一の電極上に発光層を含む一層以上の有機化合物薄膜層を積層する工程と,C)該有機化合物薄膜層上に第二の電極を積層する工程と,を少なくとも有する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において,工程B及びCと,工程BとCとの間と,工程C終了後,基板温度が室温となるまでの間と,における該基板温度が70℃以下であり,かつ,温度変化速度の絶対値が1.5℃/sec以内である有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法」。 イ本件補正後のもの(本願補正発明)本件補正後の特許請求の範囲は,請求項1からのみ成るところ,その発明(以下「本願補正発明」という)の内容は,下記のとおりである(甲。 6。下線部は補正に係る部分。 。)記「基板上に,A)第一の電極を成膜する工程と,B)該第一の電極上に発光層を含む一層以上の有機化合物薄 補正発明」という)の内容は,下記のとおりである(甲。 6。下線部は補正に係る部分。 。)記「基板上に,A)第一の電極を成膜する工程と,B)該第一の電極上に発光層を含む一層以上の有機化合物薄膜層を積層する工程と,C)該有機化合物薄膜層上に第二の電極を積層する工程と,を少なくとも有する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において,前記工程B及びCを真空蒸着法で行い,前記真空蒸着法で用いる真空蒸着装置が,構成する部材として,1)基板を支持するための滑らかな平面を有する基板支持具と,2)基板の成膜側表面の温度を制御するために少なくとも- 4 -2-1)温度センサー,2-2)演算ユニット,2-3)熱放出・吸収体より構成される基板温度制御装置と,を少なくとも有し,前記基板支持具の前記滑らかな平面の表面粗さがJISB0601-1994よる算術平均粗さ(Ra)が200nm以下であり,かつ,最大高さ(Ry)が800nm以下であって,前記基板支持具の滑らかな平面と支持すべき基板の間がインジウムまたはアルミニウムにより隙間なく充填されており,工程B及びCと,工程BとCとの間と,工程C終了後,基板温度が室温となるまでの間と,における該基板温度が70℃以下であり,かつ,温度変化速度の絶対値が1.5℃/sec以内である有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法」。 (3)審決の内容ア審決の内容は,別添審決写しのとおりである。 その要点は,①本願補正発明は,下記刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたから,特許法29条2項により特許出願の際独立して特許を受けることができないとして,本件補正を却下し,②本願発明は,刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたから,特許法29条2 法29条2項により特許出願の際独立して特許を受けることができないとして,本件補正を却下し,②本願発明は,刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたから,特許法29条2項により特許を受けることができないとしたものである。 記刊行物1:特開平10-214682号公報(甲1(ここに記載され)た発明を以下「引用発明」という)。 刊行物2:特開昭58-185766号公報(甲2)刊行物3:特開平3-20464号公報(甲3)刊行物4:特開平11-102783号公報(甲4)イなお審決は,上記判断に当たり,引用発明の内容並びに本願補正発明と- 5 -の一致点及び相違点を次のとおり認定した。 <引用発明>「基板上に,A)陽極を形成する工程と,B)該陽極上に正孔注入層,正孔輸送層,電子輸送層からなる薄膜層を積層する工程と,C)該薄膜層上に陰極を積層する工程と,を少なくとも有する有機電界発光素子の製造方法において,前記工程B及びCを真空室内で蒸着形成で行い,工程B,工程C,における基板温度を室温とする有機電界発光素子の製造方法」。 <一致点>「基板上に,A)第一の電極を成膜する工程と,B)該第一の電極上に発光層を含む一層以上の有機化合物薄膜層を積層する工程と,C)該有機化合物薄膜層上に第二の電極を積層する工程と,を少なくとも有する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において,前記工程B及びCを真空蒸着法で行い,工程B及びCにおける該基板温度が70℃以下である有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法」である点。 。 <相違点1>本願補正発明では「工程BとCとの間,工程C終了後,基板温度が,室温となるまでの間と,における該基板温度が70℃以下」とされているのに対し,引用発明では工程BとCとの間 ある点。 。 <相違点1>本願補正発明では「工程BとCとの間,工程C終了後,基板温度が,室温となるまでの間と,における該基板温度が70℃以下」とされているのに対し,引用発明では工程BとCとの間および工程C終了後の基板温度についての限定がない点。 - 6 -<相違点2>本願補正発明では(基板温度が室温となるまでの間の「温度変化,)速度の絶対値が1.5℃/sec以内」とされているのに対し,引用発明ではそのような限定がない点。 <相違点3>本願補正発明では,真空蒸着法で用いる真空蒸着装置を構成する部材が「1)基板を支持するための滑らかな平面を有する基板支持具と,,2)基板の成膜側表面の温度を制御するために少なくとも2-1)温度センサー,2-2)演算ユニット,2-3)熱放出・吸収体より構成される基板温度制御装置と,を少なくとも有し,前記基板支持具の前記滑らかな平面の表面粗さがJISB0601-1994よる算術平均粗さ(Ra)が200nm以下であり,かつ,最大高さ(Ry)が800nm以下であって,前記基板支持具の滑らかな平面と支持すべき基板の間がインジウムまたはアルミニウムにより隙間なく充填されている」とされているのに対し,引用発明では真空蒸着を行う装置を構成する部材に限定がない点。 (4)審決の取消事由しかしながら,審決は,本願補正発明と引用発明との一致点の認定を誤り(取消事由1,相違点についての判断を誤った(取消事由2,3)もので)あるから,違法として取り消されるべきである。 ア取消事由1(一致点の認定の誤り)審決は,本願補正発明と引用発明とは,「基板上に,A)第一の電極を成膜する工程と,B)該第一の電極上に発光層を含む一層以上の有機化合物薄膜層を積層する工程と,- 7 -C)該有機化合物薄膜層上に第二の電 補正発明と引用発明とは,「基板上に,A)第一の電極を成膜する工程と,B)該第一の電極上に発光層を含む一層以上の有機化合物薄膜層を積層する工程と,- 7 -C)該有機化合物薄膜層上に第二の電極を積層する工程と,を少なくとも有する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において,前記工程B及びCを真空蒸着法で行い,工程B及びCにおける該基板温度が70℃以下である有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法」である点。 で一致するとしたが,引用発明における「室温」が本願補正発明における「70℃以下」に相当するので工程B及びCにおける該基板温度が70℃以下である,とした部分は,以下に述べるとおり,誤りである(その余の部分は争わない。 。)・すなわち,本願補正発明の「…工程B及びCと,工程BとCとの間,と,工程C終了後,基板温度が室温となるまでの間と,における該基板温度が70℃以下であり,…」との文言からすれば,そもそも「工程C」が室温であれば「工程C終了後,基板温度が室温となる」ことは,あり得ないから「工程C」はそもそも本来的に「室温」よりも高い温,度であることを意味している。このことは,第二電極を真空蒸着によって形成するための「工程C」を室温で行うことはそもそも困難であることからも裏付けられる。 ・これに対し,引用発明における「室温」は,漠然とした温度が示唆されるのみで,一定の温度に温度制御を行うものとして具体的温度が開示されているとはいえない。なぜなら,一般的に,有機化合物よりも金属の方が,高い温度まで加熱する必要があるから,金属蒸着工程である工程Cにおいて,高温で蒸発した金属が,真空中で他の分子等との衝突をしないで蒸発源から飛び出すときの蒸発エネルギーを保持したまま基板に衝突し,堆積していく際に,基板温度が高 から,金属蒸着工程である工程Cにおいて,高温で蒸発した金属が,真空中で他の分子等との衝突をしないで蒸発源から飛び出すときの蒸発エネルギーを保持したまま基板に衝突し,堆積していく際に,基板温度が高温になることは明らかである。すなわち,基板温度は,工程Cの蒸着開始時の室温から徐々に,例えば80℃前後まで上昇し,次いで蒸着終了後に室温まで下降する温度- 8 -変化を必然的に伴う。したがって,基板温度を「室温」に保持するためには,このような温度変化を管理する具体的手段が必要であるはずであるが,かかる具体的手段が何ら開示されていないからである。 ・以上によれば,引用発明における「室温」が本願補正発明における「70℃以下」に相当するとはいえないから,工程B及びCにおける該基板温度が70℃以下である,という点で一致するとはいえない。 イ取消事由2(相違点1及び2についての判断の誤り)審決は,相違点1及び2は実質的な相違点ではないか,あるいは当業者が容易に想到し得る程度の相違点である,と判断したが,誤りである。 ,,・審決は,上記の判断の根拠として「…引用発明は工程BとCとの間工程C終了後の基板の温度についての記載はないことから,格別温度制御を行っていないと理解すべきである。とするならば,工程Bと工程Cでの基板温度が室温であることから工程BとCとの間,工程C終了後も,室温から大きくはずれた温度変化はなく,基板温度は室温であるとするのが相当である。そして温度制御を行わない場合,通常の室温変化は1. 5℃/secより大きいとは考えられない(6頁第2段落)と説示す」る。 ・しかし,引用発明においては,上記ア・に記載したように,温度変化を必然的に伴うにもかかわらず,工程Cにおける基板の温度制御に関しては何らの示唆も開示もされていない。したがっ )と説示す」る。 ・しかし,引用発明においては,上記ア・に記載したように,温度変化を必然的に伴うにもかかわらず,工程Cにおける基板の温度制御に関しては何らの示唆も開示もされていない。したがって,引用発明においては「室温」に当たる一定の具体的温度も「温度変化速度」に当たる,,温度変化の具体的速度も,明らかではないというべきであり,これを本願補正発明と対比して,実質的な相違点ではないか,あるいは当業者が容易に想到し得る程度の相違点であるということはできない。 ・また,引用発明は,室温に「保持」するとの文言からみても,基板の温度変化を許容しない内容であるとみられるのに対し,本願補正発明は,- 9 -基板の温度変化を一定の範囲で許容することは明らかであるから,両者は温度制御に関する技術思想を根本的に異にするものである。 ウ取消事由3(相違点3についての判断の誤り)審決は,相違点3は,刊行物2ないし4に基づき当業者が容易に想到することができると判断したが,以下の点に照らし,誤りである。 ・刊行物3には,基板等の平面精度を上げても高価なものとなるだけでそれほど基板と基板支持治具の間の熱的密着性が良くならない旨の記載がある。これに照らせば,刊行物3は,熱的密着性を向上させるために,基板や基板支持治具の平面精度を向上させるよりも,熱伝導膜を設ける道を選択させるものである。したがって,同刊行物には,少なくとも,成膜された膜の特性に対する基板支持治具の平面精度の影響を定量的に精密に検討しようとする動機付けに関する示唆はない。 ・その他の刊行物をみても,本願補正発明におけるように,逆バイアス電圧印加時におけるリーク電流を防止することを目的として特に工程Cにおける基板温度の制御を厳密に行うために基板支持具の表面粗さに着目した技術を開示した みても,本願補正発明におけるように,逆バイアス電圧印加時におけるリーク電流を防止することを目的として特に工程Cにおける基板温度の制御を厳密に行うために基板支持具の表面粗さに着目した技術を開示したり示唆したりしたものはない。 ・本願補正発明は,表面粗さを特定することによって,基板を速やかに冷却することを可能にして逆バイアス電圧印加時の微量のリーク電流によるクロストークを可及的に回避し,画質が向上するという,刊行物1ないし4では奏し得ない顕著な作用効果を有する。 請求原因に対する認否請求原因(1)~(3)の各事実は認めるが,同(4)は争う。 被告の反論審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。 (1)取消事由1(一致点の認定の誤り)に対し審決の一致点の認定に誤りはない。なぜなら,まず,本願補正発明には- 10 -「70℃以下」との文言があり下限については何ら規定されていないところ,引用発明の「室温」との文言も「70℃以下」に相当するからである。そして,引用発明において,蒸着を行い温度上昇が生じる「工程B「工程C」」においては,基板温度を室温に保持しているのであるから,蒸着を行わず温度上昇の原因がない「工程BとCとの間「工程C終了後」においては,」,格別温度制御を行っていないと理解すべきであり,蒸着時に保持されていた室温から大きくはずれた温度変化があるとはいえないと考えられ,70℃より高温になるとは考えられない。 (2)取消事由2(相違点1及び2についての判断の誤り)に対し審決の相違点1及び2についての判断に誤りはない。なぜなら,相違点1については,上記(1)に述べたとおりであり,相違点2についても,上記(1)に述べたことが妥当するからである。若干敷衍すると,引用発明において,工程BとCでは の判断に誤りはない。なぜなら,相違点1については,上記(1)に述べたとおりであり,相違点2についても,上記(1)に述べたことが妥当するからである。若干敷衍すると,引用発明において,工程BとCでは,基板温度を「室温に保持」するとの温度制御を行うところ,工程Bと工程Cの間,工程C終了後では,温度上昇の原因がなく,また,それまで室温に保持されていたことから,格別温度制御が行われないとしても室温程度の温度であるといえる。そうすると,基板温度は,工程B,工程Bと工程Cの間,工程Cおよび工程C終了後,を通じて,室温もしくは室温程度と考えられ,通常の室温の温度変化は1.5℃/secより大きいとは考えられないから,基板温度もそのような大きな変化はない,といえるからである。 (3)取消事由3(相違点3についての判断の誤り)に対し審決の相違点3についての判断に誤りはない。 ・原告は,本願補正発明と異なり,引用発明では,真空蒸着を行う装置を構成する部材に限定がない点(相違点3)について,刊行物2ないし。 4に基づき当業者が容易に想到し得たとの判断は誤りであると主張するしかし,刊行物2に基板とホルダの間に隙間を形成しないことが,刊行- 11 -物3に基板の平面精度を上げて熱的密着性を高めることが,刊行物4に温度制御装置が記載されている。 なお,たとえ刊行物3に,原告が主張するような記載があったとしても,基板や基板支持治具の平面精度を上げることも,熱的密着性を高めることの技術的課題解決手段のひとつであることに違いはない。 ・原告は,引用発明は,蒸着時において基板の温度を制御していないことを前提として,本願補正発明の顕著な作用効果について主張するが,かかる前提自体が誤っている。 第4当裁判所の判断 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯,(2)( 板の温度を制御していないことを前提として,本願補正発明の顕著な作用効果について主張するが,かかる前提自体が誤っている。 第4当裁判所の判断 請求原因(1)(特許庁における手続の経緯,(2)(発明の内容,(3)(審決))の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。 そこで,審決の違法の有無に関し,原告主張の取消事由ごとに判断する。 取消事由1(一致点の認定の誤り)について(1)本願補正発明と引用発明とを比較すると,引用発明における「陽極」は本願補正発明における「第一の電極」に相当し,以下同様に「形成」は「成,膜」に「正孔注入層,正孔輸送層,電子輸送層からなる薄膜層」は「発光,層を含む一層以上の有機化合物薄膜層」に「陰極」は「第二の電極」に,,「有機電界発光素子」は「有機エレクトロルミネッセンス素子」にそれぞれ相当するものであって,本願補正発明と引用発明の両者が「基板上に,,A)第一の電極を成膜する工程と,B)該第一の電極上に発光層を含む一層以上の有機化合物薄膜層を積層する工程と,C)該有機化合物薄膜上に第二の電極を積層する工程と,を少なくとも有する有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法において,前記工程B及びCを真空蒸着法で行(う)有機エレクトロルミネッセンス素。 。 子の製造方法」という点で一致することについては当事者間で争いがない- 12 -しかるに,原告は,審決が,両者は「…工程B及びCにおける該基板温度が70℃以下である有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法」とい。 う点で一致する,と認定したのは誤りである(一致点の認定の誤り,と主)張するので,以下検討する。 (2)本願補正発明における「70℃以下」との文言につきア本願補正発明に係る特許請求の範囲の請求項1には「基板上に,A), は誤りである(一致点の認定の誤り,と主)張するので,以下検討する。 (2)本願補正発明における「70℃以下」との文言につきア本願補正発明に係る特許請求の範囲の請求項1には「基板上に,A),第一の電極を成膜する工程と,B)該第一の電極上に発光層を含む一層以上の有機化合物薄膜層を積層する工程と,C)該有機化合物薄膜層上に第二の電極を積層する工程と,を…工程BとCとの間と,工程C終了後,基板温度が室温となるまでの間と,における該基板温度が70℃以下であ…る有機エレクトロルミネッセンス素子の製造方法」と記載されている。 。 この記載によれば,本願補正発明は,文言上「工程C終了後,基板温,,度が室温となるまでの間」とされているところ,工程C終了直後の時点と同時点から一定時間経過後に至るまでの間において,基板温度が室温と異なっていないのであれば,上記の「室温となるまでの間」との記載は意味をなさないことになる。そうすると,この記載が意味を持つためには,工程C終了後,基板温度が室温となるまでの間,という,まさに基板温度が室温と異なっている一定の経過時間において,その基板温度については70℃以下にするものと記載されていることになる。 したがって,本願補正発明において,工程C終了後の上記時間において「70℃以下」を室温と解することはできない以上,工程Cの終了時点の基板温度についても,その「70℃以下」との文言を室温と解することはできず,これは,室温とは異なる「70℃以下」の温度をいうものと解するのが相当である。 イ以上のことは,本願補正明細書(甲5。ただし,甲6による一部補正後のもの)の〔発明の詳細な説明〕からも裏付けられる。すなわち,同発。 - 13 -明の詳細な説明には,以下の記載がある。 ・発明の属する技術分野(段落【0001) 。ただし,甲6による一部補正後のもの)の〔発明の詳細な説明〕からも裏付けられる。すなわち,同発。 - 13 -明の詳細な説明には,以下の記載がある。 ・発明の属する技術分野(段落【0001)】本発明は,平面光源や表示素子に利用される有機エレクトロルミネッセンス素子(以下「有機EL素子」という)の製造法に関するもので,。 ある。 ・従来の技術(段落【0003】~【0005)】256×64ドット単純マトリクス駆動方式の有機ELパネルは,通常,陰極を1/64デューティーで走査し,陽極を駆動する線順次駆動方式がとられる。その際に整流性が優れた有機EL素子が得られてないと,非選択の画素も発光してしまい,いわゆるクロストーク現象が見ら,れ,表示品位を大きく低下させてしまう(例えば選択画素を中心として隣接する画素が十文字に発光する等の現象である。… 。 )有機EL素子は,正負のキャリア注入型の発光素子なので,原理的には逆バイアス印加時(正孔輸送層側の電極にマイナスの,電子輸送層側の電極にプラスの電圧を印加したとき)電流は流れない。しかし,実際のデバイスでは,逆バイアス印加時に微量のリーク電流が流れることがある。…はっきりしたメカニズムは現在のところ不明である。…製造プロセスの条件を検討した例は少なく,優れた整流特性を有する素子作成に必要な有効な条件は今まで見出されていない。 以上のように,有機EL素子をX-Y平面に配列しパネルを形成し,単純マトリックス駆動をしようとする場合,素子の整流性が低いと前述のリーク電流が原因となりクロストーク現象が発生し表示品位が大きく損なわれてしまう。 ・発明が解決しようとする課題(段落【0006)】本発明は,上述の問題点に鑑みなされたものであり,従来の有機EL素子の特性を維持しつつ,高い整流比を が発生し表示品位が大きく損なわれてしまう。 ・発明が解決しようとする課題(段落【0006)】本発明は,上述の問題点に鑑みなされたものであり,従来の有機EL素子の特性を維持しつつ,高い整流比を示す素子…の製造方法を提供す- 14 -ることが目的である。 ・課題を解決するための手段(段落【0007【0010【001】,】, 【0028)】,】本発明者らは,この課題を解決すべく実験および研究を重ねた結果,有機膜および電極の成膜の際,支持基板の成膜側表面の温度変化の速度および温度を特定の範囲内に保つことが,前記課題を解決することを見出し本発明に至った。…基板の成膜側表面の最高温度は,80℃以下であれば本発明の効果が確認できるが,本発明の効果が明確となるのは70℃以下であり,最も望ましくは50℃以下である。 また,基板の最低温度は,-200℃程度の低温で実施することも可能であるが,実用的には室温程度での実施が一般的である。 …本発明で提供する逆バイアス電圧印加時のリーク電流が少ない有機EL素子によりディスプレイパネルを作製することで,クロストークが抑えられた表示品質の良いディスプレイパネルを得ることができる。 ・発明の実施の形態(段落【0041【0042【0043)】,】,】一般に,真空蒸着法で成膜を行う際の基板の温度は,蒸発源加熱開始と共に緩やかに上昇する。そしてメインシャッター開放と同時により急激に上昇し,温度上昇はメインシャッターを閉じるまで継続する。蒸発源加熱開始から成膜終了までの温度上昇を緩やかとし,かつ基板温度を70℃以下とすることが本発明の第一の重要部分である。…成膜が終了し,メインシャッターを閉じ蒸発源加熱を停止すると,熱の供給が絶たれるため基板温度は急激に低下する。この温度低下を緩やかと 板温度を70℃以下とすることが本発明の第一の重要部分である。…成膜が終了し,メインシャッターを閉じ蒸発源加熱を停止すると,熱の供給が絶たれるため基板温度は急激に低下する。この温度低下を緩やかとすることが,本発明の第二の重要部分である。…なお,このような基板の昇温・降温現象は,特に高沸点材料を蒸着させる場合に見られ,一般的な有機EL素子作成プロセスでは,電極に用- 15 -いる金属材料の成膜の際に特に問題となる。 ・実施例〈実施例1(段落【0055)〉】基板温度制御装置は,真空槽を開放し,完成した素子を取り出すまで動作させておいた。また,途中の基板表面の温度は最高でも60℃前後で,70℃を上回ることはなかった。…ウ上記イの・~・によれば,本願補正発明は,有機エレクトロルミネッセンス素子の製造法に関し,素子の整流性が低いとリーク電流が原因となり,クロストーク現象が発生し表示品位が大きく損なわれてしまうことに鑑み従来の有機エレクトロルミネッセンス素子の特性を維持しつつ,高い整流比を示す素子の製造方法を提供することを技術的課題とし,この課題を解決するための手段として,有機膜および電極の成膜の際,支持基板の成膜側表面の温度変化の速度および温度を特定の範囲内に保つという構成を採用した点に技術的特徴が認められるものである。そして,かかる基板の成膜側表面の温度は,特に第二の電極を積層する工程(工程C)の際は上昇するので,これを「70℃以下」とすること,上記の工程が終了した後(工程Cの後)は,基板温度は急激に低下するので,その温度低下を緩やかとすること,が本願補正発明の重要な部分である,というのである。さらに,全工程を通じての基板の温度としては,その最高温度につき,80℃以下であれば本発明の効果が確認できるが,本発明の効果が明確とな かとすること,が本願補正発明の重要な部分である,というのである。さらに,全工程を通じての基板の温度としては,その最高温度につき,80℃以下であれば本発明の効果が確認できるが,本発明の効果が明確となるのは70℃以下であり,最も望ましくは50℃以下である,との記載がある一方,その最低温度につき,-200℃程度の低温で実施することも可能であるが,実用的には室温程度での実施が一般的である,との記載がなされている。 これらの点に照らせば,本願補正発明は,少なくとも工程C以降についてみれば,工程Cにおいて,基板の温度が上昇するのを「70℃以下」に抑えた上,工程C終了後において,基板の温度が下降するのを緩やかにす- 16 -るという構成を採用することにより上記の技術的課題を解決するものというべきであるから,工程Cにおける基板温度が室温であるとの解釈を採用することは困難である。したがって〔発明の詳細な説明〕の記載からし,ても,本願補正発明における,工程Cにおける基板温度が「70℃以下」であるとの文言を,室温を意味するものと解することはできない。 (3)刊行物1における「室温」との文言につきアこれに対し,刊行物1(甲1)には,以下の記載がある。 ・「この有機電界発光素子の製造装置であれば,第1のユニットの搬送用真空室,第1のユニットの作業用真空室,第1のユニットの搬送用真空室,第2のユニットの搬送用真空室,第2のユニットの作業用真空室及び第2のユニットの搬送用真空室,…第(n-1)のユニットの搬送用真空室,第nのユニットの搬送用真空室,第nのユニットの作業用真空室,第nのユニットの搬送用真空室の順で基板を順次移送することにより,基板を大気に晒すことなく,真空状態を維持して層状堆積物を効率的に形成することができる… (段落【0009)」】 の作業用真空室,第nのユニットの搬送用真空室の順で基板を順次移送することにより,基板を大気に晒すことなく,真空状態を維持して層状堆積物を効率的に形成することができる… (段落【0009)」】・「有機電界発光素子の製造に当っては,基板1上にパターニングされた陽極2が形成されたものを…作業用真空室22では…基板表面をプラズマ処理する。次に,…作業用真空室23内では正孔注入層3c及び正孔輸送層3aが順次蒸着形成され,その後…作業用真空室24内では電子輸送層3bが蒸着形成され,その後…作業用真空室25内では陰極4が蒸着形成され,その後…作業用真空室26内では保護層5が蒸着形成され… (段落【0058)」】・「…ロボットアームは搬送用真空室に1つ以上あることが必要で,これを複数台設けた場合には,基板やマスクの移送が効率的になり,作業時間をより短縮できる。 ここでいうロボットアームとは,真空室間を基板やマスクを保持して- 17 -移動できる機構のことを指し,装置の形状,基板の保持手段或いは移動手段を何ら規定するものではなく,例えば,コンベア式移動手段などとの組み合わせも可能である(段落【0062】~【0063)。」】・「なお,上記の正孔注入層3c,正孔輸送層3a及び電子輸送層3bを真空蒸着する時の基板温度は室温に保持した(段落【0077)。」】・「次に,…作業用真空室25内にて,陰極4として,マグネシウムと銀の合金電極を2元同時蒸着法によって…蒸着した。…更に続いて,…アルミニウムを…マグネシウム・銀合金膜の上に積層して陰極4を完成させた。…以上のマグネシウム・銀合金とアルミニウムの2層型陰極の蒸着時の基板温度は室温に保持した(段落【0079)。」】・「次に,…作業用真空室26内にて,保護層5として, て陰極4を完成させた。…以上のマグネシウム・銀合金とアルミニウムの2層型陰極の蒸着時の基板温度は室温に保持した(段落【0079)。」】・「次に,…作業用真空室26内にて,保護層5として,酸化ケイ素(SiOx;x=1.0~2.0)を…蒸着した。…この蒸着時の基板温度は室温に保持した。これにより,陽極及び陰極の取り出し部分を除いた素子部は保護層5によりカバーされた(段落【0080)。」】イ以上のアの・~・によれば,刊行物1に記載された引用発明における有機電界発光素子の製造は,まず,①基板1上にパターニングされた陽極2が形成されたものに,②正孔注入層3c,正孔輸送層3a及び電子輸送層3bを順次蒸着形成し,③その後,陰極4を蒸着形成し,④その後,保護層5を蒸着形成するという工程を経て行われるものである。そして,上記②の工程が,本願補正発明における工程Bに,上記③の工程が,本願補正発明における工程Cにそれぞれ相当するところ,上記②,③,④のそれぞれの工程である蒸着形成が行われているとき,基板温度を室温に保持していることが認められる。 (4)以上の(2),(3)に照らせば,引用発明においては,工程Cに相当する③の工程は室温であるが,本願補正発明においては,工程C終了時の「70℃以下」は,室温とは異なる温度である「70℃以下」の温度であるというので- 18 -ある。したがって,少なくとも,両者が,工程Cにおける基板温度につき「70℃以下である」との点で一致するとした審決の認定は,誤りであるというべきである。したがって,原告主張の取消事由1には理由がある。 (5)被告は,本願補正発明には「70℃以下」との文言があり下限については何ら規定されていないところ,引用発明の「室温」との文言も「70℃以下」に相当する,引用発明において 事由1には理由がある。 (5)被告は,本願補正発明には「70℃以下」との文言があり下限については何ら規定されていないところ,引用発明の「室温」との文言も「70℃以下」に相当する,引用発明において,蒸着を行わず温度上昇の原因がない「工程BとCとの間「工程C終了後」においては,格別温度制御を行って」,いないと理解すべきであり,蒸着時に保持されていた室温から大きくはずれた温度変化があるとはいえない,と主張し,乙1(化学大辞典)及び乙2(特開平11-186195号公報)を提出する。しかし,そもそも引用発明が記載されている刊行物1においては「工程BとCとの間「工程C終,」,了後」の基板温度については何らの記載もなく示唆もされていないところである。しかも,引用発明の工程C終了時における「室温」を,いわゆる室温と異なる温度を指すものとみるべき根拠も見当たらないし,また,前記認定のとおり,本願補正発明の工程C終了時における「70℃以下」の文言の解釈としては,室温とは異なる温度と解するのが相当というのであるから,工程C終了時,すなわち工程Cにおける基板温度につき,本願補正発明の上記「70℃以下」の文言を,引用発明の「室温」に相当するといえないことは明らかである。したがって,被告の上記の主張・立証にかかわらず,両者がこの点において一致するとはいえないことに変わりはない。 以上によれば,被告の上記の主張は採用することができない。 取消事由2(相違点1及び2についての判断の誤り)について(1)審決は,本願補正発明と引用発明の相違点について,相違点1として,本願補正発明では「工程BとCとの間,工程C終了後,基板温度が室温とな,るまでの間と,における該基板温度が70℃以下」とされているのに対し,引用発明では工程BとCとの間および工程C終了後の して,本願補正発明では「工程BとCとの間,工程C終了後,基板温度が室温とな,るまでの間と,における該基板温度が70℃以下」とされているのに対し,引用発明では工程BとCとの間および工程C終了後の基板温度についての限- 19 -定がない点を挙げ,また,相違点2として,本願補正発明では(基板温度,が室温となるまでの間の「温度変化速度の絶対値が1.5℃/sec以)内」とされているのに対し,引用発明ではそのような限定がない点,を挙げている。 (2)この点につき,原告は,審決が,上記の相違点1及び2について,実質的な相違点ではないか,あるいは当業者が容易に想到し得る程度の相違点である,と判断したのは誤りである旨主張する。 そこで検討すると,上記2(2)ないし(5)の認定判断によると,本願補正発明において「70℃以下」は室温とは異なる温度であるというのであるか,ら,工程C終了後から一定の時間が経過するまでの間に,同「70℃以下」に該当する温度から室温へ至る温度変化が生ずることは明らかというべきである。しかるに,引用発明においては,本願補正発明の工程Cに相当する③の工程の終了後において,基板温度を変えることについては何ら触れられておらず,何らの示唆もない。 さらに,本願補正発明は,上記2に認定したとおり,従来の有機エレクトロルミネッセンス素子の特性を維持しつつ,高い整流比を示す素子の製造方法を提供することを技術的課題とし,この課題を解決するための手段として,有機膜および電極の成膜の際,支持基板の成膜側表面の温度変化の速度および温度を特定の範囲内に保つという構成を採用した点に技術的特徴が認められるものである。これに対し,刊行物1(甲1)を精査しても,本願補正発明のかかる技術的課題も,基板を室温に保持する技術的意義も何ら開示されていないと に保つという構成を採用した点に技術的特徴が認められるものである。これに対し,刊行物1(甲1)を精査しても,本願補正発明のかかる技術的課題も,基板を室温に保持する技術的意義も何ら開示されていないとみるほかない。 以上に照らせば,本願補正発明における「工程C終了後,基板温度が室,温となるまでの間における該基板温度が70℃以下(基板温度が室温と」,なるまでの間の「温度変化速度の絶対値が1.5℃/sec以内」との構)成が,引用発明における,③の工程の終了後の基板温度についての構成や基- 20 -板の温度変化についての構成と実質的に異ならないとは認めがたいし,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が容易に想到し得る程度の相違点であるとも認めがたい。 したがって,上記の相違点1及び2についての審決の判断は誤りというほかなく,原告主張の取消事由2も理由がある。 (3)被告は,引用発明において,基板温度は,工程Bにおいても,工程Bと工程Cの間においても,また,工程C及び工程C終了後においても,室温もしくは室温程度と考えられ,通常の室温の温度変化は1.5℃/secより大きいとは考えられないから,基板温度もそのような大きな変化はない,と主張する。 ,しかし,上記2(4),(5),3(2)で説示したとおり,そもそも引用発明は本願補正発明の課題である有機エレクトロルミネッセンス素子におけるクロストーク現象の発生防止や,その解決手段として温度変化の速度および温度を特定の範囲に保つという構成を採用するという技術思想を何ら有していないものであり,しかも,本願補正発明の工程Cに相当する③の工程の終了後において,基板温度を変えることについては何ら触れておらず,何らの示唆もされていないものであるから,かかる引用発明と本願補正発明の いものであり,しかも,本願補正発明の工程Cに相当する③の工程の終了後において,基板温度を変えることについては何ら触れておらず,何らの示唆もされていないものであるから,かかる引用発明と本願補正発明の相違点1,2が,実質的に異ならないとか,当業者が容易に想到し得る程度の相違点であるということはできないというべきである。 結語以上のとおり,原告主張の取消事由1及び2は理由があり,審決には結論に影響を及ぼす違法があるから,取消事由3について判断するまでもなく,審決は取り消されるべきである。 よって,原告の本訴請求は理由があるからこれを認容することとして,主文のとおり判決する。 - 21 -知的財産高等裁判所第2部裁判長裁判官中野哲弘裁判官森義之裁判官田中孝一
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