主文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1請求被告は,原告に対し,5074万5025円及びこれに対する平成11年7月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,被告の開設するa病院(以下「被告病院」という)において受診。 していた原告が,被告に対し,原告に対して喀痰細胞診又は気管支鏡検査を実施すべき義務があったにもかかわらず,これを怠った結果,肺癌の発見が遅れて左肺をすべて摘出する必要が生じたとして,不法行為又は診療契約の債務不履行に基づき,損害賠償(遅延損害金を含む)を請求した事案である。 。 前提となる事実(証拠の摘示のない事実は当事者間に争いがない)。 㨯診療契約(準委任契約)の締結原告(昭和20年3月27日生)は,平成10年3月6日,被告との間で,適切な診療行為を行う準委任契約を締結した。 㨯被告病院における診療経過ア原告は,平成10年3月6日,b医院の紹介により,被告病院に入院し,同月17日退院した。 イ原告は,平成10年3月24日から同年10月24日まで,被告病院に通院した。平成10年4月24日,原告に対し,喀痰細胞診が実施されたが,判定不能との結果が出た。 ウ原告は,平成10年10月27日,被告病院に入院し,同年11月10日退院した。 エ原告は,平成10年11月20日から平成11年7月6日まで被告病院 に通院した。 オ原告は,平成11年7月6日から同月9日まで被告病院に入院した。 カ原告は,被告病院において,平成11年7月12日に胸部単純CT検査を受け,同月16日に胸部造影CT検査を受け,同月19日及び同月22日に喀痰細胞診を受けた。 キ平成10年4月25日から平成11年7月18日まで,原告に対し,喀痰 1年7月12日に胸部単純CT検査を受け,同月16日に胸部造影CT検査を受け,同月19日及び同月22日に喀痰細胞診を受けた。 キ平成10年4月25日から平成11年7月18日まで,原告に対し,喀痰細胞診及び気管支鏡検査は,実施されていなかった。 㨯左肺の摘出等ア原告は,平成11年7月27日,山形大学医学部附属病院(以下「山大病院」という)を受診し,同年8月5日,山大病院において,気管支鏡。 検査を受けて,肺癌(扁平上皮癌)と診断された(乙A5・3頁,同6。 頁)イ原告は,平成11年8月24日,山大病院に入院し,同年9月2日,肺癌の進行度がⅢ期である旨告知され,同月14日左肺上葉及び区域S6切除並びに肺動脈形成及び気管支形成術を受け,同年12月17日退院した。 (乙A6・18頁,同63頁,同172頁)ウ原告は,左肺に癌が発生したため,平成15年1月8日,山大病院に入院し,同年1月28日左肺をすべて摘出する手術を受けた(甲A1,乙。 A7・1頁,同98頁) 争点 㨯喀痰細胞診を実施すべき注意義務の有無㨯気管支鏡検査を実施すべき注意義務の有無㨯喀痰細胞診実施義務の懈怠と原告の左肺全部の摘出との相当因果関係㨯気管支鏡検査実施義務の懈怠と原告の左肺全部の摘出との相当因果関係㨯損害額 争点に関する当事者の主張 㨯争点㨯について(原告の主張)2003年版肺癌診療ガイドラインによれば,喀痰細胞診は重喫煙者などの高危険群を対象として「行うよう勧められる」検査方法である。肺癌検,診でも40歳以上で6か月以内に血痰を訴えた人(これらの人を高危険群と呼ぶ)に対して喀痰細胞診を施行するものとされている。重喫煙者の概念。 は細部で見解が分かれるが,肺癌検診では50歳以上で喫煙指数(1日の平均喫煙数×喫煙年数)600以上の人 これらの人を高危険群と呼ぶ)に対して喀痰細胞診を施行するものとされている。重喫煙者の概念。 は細部で見解が分かれるが,肺癌検診では50歳以上で喫煙指数(1日の平均喫煙数×喫煙年数)600以上の人が重喫煙者とされる。山大病院のカルテには,原告の喫煙指数が600である旨記載されており,原告は,平成10年当時50歳を超え,かつ,同年3月10日ころに血痰も訴えているから,いかなる基準を用いても肺癌の高危険群であった。また,平成10年4月20日のCT検査報告書には「管舌区域にギザギザな変化?が見られるので喀痰細胞診は時々行ってみた方がいいと思います」と書かれ「時々」とは,,「症状あるいは画像所見が存在する限りは定期的に」ということを意味するところ,同年8月の時点のCTでも異常陰影が残存し,咳や痰の症状も認められたのである。そうすると,被告病院担当医師には,遅くとも同月以降短い間隔,例えば1か月おきくらいに定期的に喀痰細胞診を行うべき義務があったのであるから,これを怠った過失がある。 仮に平成10年8月の時点で上記注意義務が認められなくても,原告は,同年10月2日の外来で咳を訴え,同月22日には昨夜咳止まらずと訴え,同月24日にも咳が続いていると訴え,同月27日には咳が酷いために被告病院に再入院し,この入院時点では,被告病院医師は原告が1日にたばこを20本吸っていることを認識している。したがって,どんなに遅くとも前記再入院時においては喀痰細胞診を行うべき義務があった。 (被告の主張)本人において何らかの症状がありその治療を目的として受診する一般的臨 床医学においては,その症状を治療することが医療行為の主たる目的であり,受診者は,医療機関に対してその治療を求めている。そこにおける医療契約は,患者の求める特定の疾患の治療に向けられた委託契約で 床医学においては,その症状を治療することが医療行為の主たる目的であり,受診者は,医療機関に対してその治療を求めている。そこにおける医療契約は,患者の求める特定の疾患の治療に向けられた委託契約であるといえる。 これに対し,検診は,格別の自覚症状がなくても検査すること自体を目的とするのであり,特定の疾患の治療に向けられたものでなく,この点において臨床治療と異なる。したがって,当該臨床における医療水準をどこに求めるかについては,予防ないし早期発見目的の検診医療ではなく,臨床医療のそれを基準とするべきである。原告が被告に求めたのは,咳又は喘息の治療であり,被告は,それを受けて検査と治療を施した。その結果,原告の咳が改善されて治まり,通院や入院治療における所期の成果をあげている。咳又は喘息の治療としての本件臨床医療現場において,検診における検査と同水準の検査を要求することは,相当性を欠く。 原告が主張の拠り所とする2003年版肺癌診療ガイドラインは,これが初版であって,それ以前に,肺癌診療に関し,前記ガイドラインに相当するマニュアルないし規範は示されていなかった。また,このガイドラインは,その時代における医療の先端のあるべき条件を指し示そうとして,少数の医師らによって研究された結果を編集して公表したものであり,実際の診療に対して拘束力を有しない。したがって,このガイドラインの内容をもって,病院や診療所などの一般的な民間の医療機関がなすべき医療水準が示されているものとは認められない。これに対し,本件の診察治療行為の時期は,平成10年3月から平成11年7月までである。また,被告病院は,私立病院であり,必ずしも先端医療を担うことが期待されている医療機関ではない。 被告病院担当医師は,その中で,原告のために誠意と注意をもって十分な水準の医療サービス 7月までである。また,被告病院は,私立病院であり,必ずしも先端医療を担うことが期待されている医療機関ではない。 被告病院担当医師は,その中で,原告のために誠意と注意をもって十分な水準の医療サービスを提供したと評価されるべきである。結局,原告は,原告が肺癌になったという結果から遡って検証しようとしており,その際に,本件医療行為時より数年後の,それも同時代でも先端的で理想的とされる医療 水準を当てはめて,被告の義務を規定しているが,それが医療機関の義務の履行又は過失の有無の判断根拠になり得ないことは明らかである。 㨯争点㨯について(原告の主張)c医師の作成した意見書には「陰影が残存していること,ハイリスク患者であること,肺癌合併を考慮して,早期に気管支鏡検査を実施する方法もある。喀痰検査,胸部CTよりも気管支を直視できるため,肺門部肺癌の診断率は高い」と記載されているのであるから,定期的な喀痰細胞診で陽性あるいは擬陽性の結果を示さない場合でも,6か月くらい経過してもなお咳,痰の症状が持続する場合には,気管支鏡検査を実施すべきである。そうすると,被告病院担当医師には,原告に対する定期的な喀痰細胞診で陽性あるいは擬陽性の結果が出なくとも,平成11年2月ころの時点では原告に対して気管支鏡検査を行うべき義務があったのであるから,これを怠った過失がある。 (被告の主張)争う。 㨯争点㨯について(原告の主張)2003年版肺癌診療ガイドラインにおいて,中心型早期肺癌の喀痰細胞診の陽性率について,20ないし70パーセントと幅のある記載がされているのは,検討対象とした文献の中に古いものが含まれていたためであり,現在の知見によれば,中心型肺癌の陽性率は70ないし80パーセント以上であるとされている。これらの数値は,1回3日採痰法を行った場合の確率 ,検討対象とした文献の中に古いものが含まれていたためであり,現在の知見によれば,中心型肺癌の陽性率は70ないし80パーセント以上であるとされている。これらの数値は,1回3日採痰法を行った場合の確率であるが,本件では咳,痰,血痰などの症状が持続しているのであるから,何度も喀痰細胞診が行われるべきであったのであり,複数回の喀痰細胞診が行われれば,その陽性率は高まり,少なくとも70パーセント以上の確率で陽性を示した蓋然性がある。本件では,平成10年4月20日のCT検査報告 書の勧めに従って複数回の喀痰細胞診が実施されていれば,喀痰細胞診で日本肺癌学会肺癌取扱い規約の判定区分であるD又はE判定の結果が出た高度の蓋然性があるというべきである。そしてその場合には気管支鏡検査で癌病変を肉眼的に確認でき,生検によって中心型早期肺癌と確定診断し得た高度の蓋然性がある。このような方法で確定診断に至ることができた場合には,外科的切除術によって少なくとも80パーセント以上の確率で根治でき,癌が再発して原告の左肺を摘出することもなかったのである。 (被告の主張)喀痰細胞診を実施しなかったことと原告の左肺全部の摘出による損害との間には因果関係がない。平成15年1月28日の手術により切除された癌は,平成11年9月14日の手術により癌を切除した後に残った肺部分に出現したものであり,同日の手術により切除された癌が転移などして再発したものではなく,双方の癌の関連性は薄い。 㨯争点㨯について(原告の主張)平成11年2月ころの時点では,長期間にわたって咳及び痰が持続していたのであるから,気管支鏡検査のような侵襲的な検査であっても原告が応じた蓋然性が高く,径1㎝以下の段階で肺門部肺癌を発見できた蓋然性がある。 そうすると,TMN分類上,径1㎝以下はT因子(腫瘍の大きさ たのであるから,気管支鏡検査のような侵襲的な検査であっても原告が応じた蓋然性が高く,径1㎝以下の段階で肺門部肺癌を発見できた蓋然性がある。 そうすると,TMN分類上,径1㎝以下はT因子(腫瘍の大きさ)1であり,その時点でM因子(局所リンパ節への転移状況)及びN因子(遠隔臓器への転移状況)は不明で,少なくともリンパ節転移や遠隔転移を起こしていたことを示す所見はどこにも存在しないので,病期はⅠA期となる。その場合の5年生存率は77.4パーセントであるから,再発の可能性の低い根治的手術をできた高度の蓋然性が認められる。 (被告の主張)気管支鏡検査を実施しなかったことと原告の左肺全部の摘出による損害と の間には因果関係がない。平成11年9月14日の手術により切除された癌は,内腔の外側に生育した癌であり,原告が同検査を実施すべきであったと主張する平成11年2月ころには,内腔の上皮層つまり気管支鏡による可視範囲外で生育しているため,同検査をしても発見するのが困難であったと推測できる。 㨯争点㨯について(原告の主張)ア入通院慰謝料350万円原告は,次のとおり,入通院をしており,入通院慰謝料としては350万円が相当である。 㨯平成11年8月24日から同年12月17日までの116日間,山大病院に入院した。 㨯平成15年1月8日から同年6月6日までの150日間,肺癌の再発により,山大病院に入院した。 㨯平成15年10月17日から同年11月14日までの28日間,山大病院に入院した。 㨯平成11年7月22日から平成15年11月14日まで,継続的に山大病院に通院した。 イ入院雑費44万1000円原告は,294日間入院し,1日あたりの入院雑費は1500円となる。 ウ後遺障害慰謝料1500万円原告は左肺をすべて摘出されたため,拘束性肺機 大病院に通院した。 イ入院雑費44万1000円原告は,294日間入院し,1日あたりの入院雑費は1500円となる。 ウ後遺障害慰謝料1500万円原告は左肺をすべて摘出されたため,拘束性肺機能障害により身体障害者福祉法別表4級該当と診断されている。認定基準では「呼吸器の機能の障害により社会での日常生活活動が著しく制限されるもの」が4級に当たるとされている。事実,原告は労作時息切れがあるため就労は困難であり,活動能力の程度も階段をゆっくりとでも昇れない状態である。自賠責の後 遺障害等級表に当てはめれば,7級10号の「中等度の胸部臓器の障害のために労働能力が一般平均人以下に明らかに低下しているもの」に該当する。 また,再発がなければ今後の生存の可能性が高くなるが,原告は平成15年に再発しており今後も再発の可能性は高い。のみならず,本件医療過誤により原告の5年生存率が少なくとも60ないし80パーセント低下しており,原告は,今後再発による死の恐怖を抱えながら生きていかねばならないのであって,そのことによる精神的苦痛は甚大なものがある。 エ逸失利益2318万8573円肺癌再発による再手術後の退院日である平成15年11月14日が症状固定日と解されるところ,58歳のライプニッツ係数は8.306,7級の労働能力喪失率は56パーセント,原告の本件医療事故前の年収は498万5332円であるから,逸失利益は次のとおり2318万8573円となる。 4,985,332 8.306 0.56=23,188,573××オ休業損害401万5452円原告の本件医療事故前の1日あたりの収入は1万3658円,入院日数が294日であるから,原告の休業損害は,次のとおり401万5452円となる。 294 13,658=4,015,452×カ弁護士 告の本件医療事故前の1日あたりの収入は1万3658円,入院日数が294日であるから,原告の休業損害は,次のとおり401万5452円となる。 294 13,658=4,015,452×カ弁護士費用460万円原告は原告代理人に訴訟追行を依頼したが,弁護士費用としては上記損害額の1割が相当である。 (被告の主張)術後の経過では,身障者と認定される条件である酸素濃度低下の事実がなく,それによって仕事ができなくなるわけではない。原告が職を失ったとし ても,それは,勤務先と原告の個別の事情によるものと思われる。 平成11年9月14日に癌が切除されてから現在まで7年以上が経過しており,前記癌の切除手術の結果が原告の生命に重大な影響を及ぼしているとは認められない。 第3当裁判所の判断 争点㨯について㨯前提となる事実,証拠(甲A1,2,乙A1ないし8,26,証人d,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,本件の診療経過について,次の事実が認められる。 ア平成10年2月20日ころより,原告は,発熱,咳及び痰の症状により,b医院に通院していたが,胸部X線撮影で肺炎像が認められ,同医院より肺炎治療のために被告病院を紹介されて,同年3月6日被告病院に入院した。原告は,被告病院に入院したとき,1日にたばこを20本吸う旨申告し,被告病院担当医師であるd医師もそのことを認識していた(乙A1。 ・9頁,同20頁,乙A2・20頁,乙A26・6頁,証人d30頁,原告本人2頁)平成10年3月12日に原告に対して行われた胸部造影CT検査の所見は,肺炎瘢痕化の症状があるが,腫瘤の存在は指摘できないというものであった(乙A1・8頁,乙A26・7頁)。 平成10年3月14日,d医師は,原告から,血痰が出た旨告げられるとともにティッシュペーパーにはき出された痰様 あるが,腫瘤の存在は指摘できないというものであった(乙A1・8頁,乙A26・7頁)。 平成10年3月14日,d医師は,原告から,血痰が出た旨告げられるとともにティッシュペーパーにはき出された痰様のものを見せられたが,その痰に赤い糸状のものが付着しているのを確認して,喉などに炎症があり出血したものが痰に出たもので血痰ではないと判断して,原告に対し,その旨説明するとともに,カルテに「血痰?血がまじる(+」と記載し)た(乙A2・5頁,乙A26・8頁)。 平成10年3月16日,d医師は,原告から,以前にも血痰が出たこと があった旨聞いていたため,原告の喀痰を採取して結核菌検査を行うように指示した(乙A1・7頁,乙A2・7頁)。 平成10年3月17日,原告の咳などの症状が改善したことから,原告は,被告病院を退院した。この入院中,原告には,痰の症状が認められていた(乙A2・22頁,同24頁)。 イ平成10年3月24日に原告に対して行われた胸部レントゲン検査の結果によれば,左肺に陰影が残存していたため,経過を観察することとなった(乙A1・6頁,同20頁)。 平成10年4月20日に原告に対して胸部単純CT検査が行われ,放射線科の医師は,前回と同様,左舌区末梢に線状斑状の病変が見られるものの,前回に比べて収束性変化は少なくなっており,瘢痕化と考えるが,気管舌区枝にギザギザな変化がみられるので喀痰細胞診は時々行ってみた方がいい旨報告した(乙A1・26頁,証人d33頁)。 平成10年4月24日,放射線科の医師による前記報告を受けて,原告に対し,喀痰細胞診が行われたが,同月25日,組織球が見られず検査材。 ,料が不適当であるため,判定不能である旨報告された(乙A1・17頁証人d33頁)平成10年5月1日ころ,d医師は,原告に対し,自宅で 痰細胞診が行われたが,同月25日,組織球が見られず検査材。 ,料が不適当であるため,判定不能である旨報告された(乙A1・17頁証人d33頁)平成10年5月1日ころ,d医師は,原告に対し,自宅で痰を採取して被告病院に提出するように指示した。原告は,その翌朝,痰を出そうとしたが出せず,被告病院の看護師に対し,その旨報告した。その後,喀痰細胞診については,被告病院からの指示や原告からの申し出もなく,平成11年7月18日まで,原告に対し,喀痰細胞診は実施されなかった(甲。 A2・2頁,乙A26・8頁)平成10年5月29日,原告は,被告病院で受診したが,d医師から同年8月にCT検査を受けるため来院するように指示された(甲A2・2。 頁,乙A1・27頁) 原告は,平成10年8月19日,同月21日及び同月22日に被告病院で受診した際,咳の症状を訴えていた。同月26日に原告に対して行われた胸部単純CT検査の結果は,左SSの浸潤影は同年4月20日のCT 検査と比べて淡くなっており,肺門に腫大は認められないというものであった。同年8月26日,原告は,咳が少ししか減らない旨述べていた。 (乙A1・27頁ないし29頁,同45頁)平成10年9月4日ころ,d医師は,原告が気管支喘息であると診断した(甲A2・3頁,乙A26・9頁)。 ウ原告は,平成10年10月22日より夜間咳が止まらず,呼気のラ音が強く,症状が改善しないため,気管支喘息と診断されて,同月27日,被告病院に入院し,同年11月10日,退院した。この入院中,原告には,咳の症状が認められ,痰も出ており,同年10月28日及び同月29日に原告が出した痰には血液が混入していた(乙A1・49頁,乙A3・2。 5頁,同26頁,原告本人8頁)エ原告は,平成10年11月20日から平成11年7月 も出ており,同年10月28日及び同月29日に原告が出した痰には血液が混入していた(乙A1・49頁,乙A3・2。 5頁,同26頁,原告本人8頁)エ原告は,平成10年11月20日から平成11年7月6日まで,被告病院に21回通院し,その間も咳の症状を訴えることがあった(乙A1・。 46ないし60頁)平成11年5月16日,原告は,被告病院で受診した際,d医師に対し,朝犬を連れて散歩をしていたときにひどく咳き込んで血の塊が出た旨話すと,同医師は,咳のために気道粘膜が損傷して出血している旨説明した。 (甲A2・4頁,乙A1・55頁,原告本人・10頁)オ平成11年7月6日,原告は,咳がひどいため,被告病院に入院し,急性気管支肺炎及び気管支喘息と診断されて,投薬措置を受けて,その症状が改善し,同月9日退院した(乙A1・63頁,乙A4・13頁,同1。 5頁,乙A26・9頁)カ平成11年7月12日,原告に対して胸部単純CT検査が行われた。そ の所見は,左上葉気管支内に突出する腫瘤が認められ,造影CT検査及び気管支鏡検査が必要であり,左肺癌の疑いがあるというものであった。 (乙A1・64頁)平成11年7月16日,原告に対して胸部造影CT検査が行われた。その所見は,左主気管支及び左上葉気管支周囲に軟部腫瘤が認められ,単純CTで見たときより左肺門頭尾側のかなりの範囲で腫瘤が存在しているように認められ,左肺癌の印象であり,進行度がⅡb期になっている疑いがあるというものであった(乙A1・65頁,証人d5頁)。 平成11年7月23日,d医師は,山大病院に対して原告を紹介し,肺癌の精査を依頼した(乙A1・66頁)。 平成11年8月5日,原告は,山大病院において,気管支鏡検査を受けて扁平上皮癌である旨診断され,同年9月2日,同病院の医師から,肺癌の進 て原告を紹介し,肺癌の精査を依頼した(乙A1・66頁)。 平成11年8月5日,原告は,山大病院において,気管支鏡検査を受けて扁平上皮癌である旨診断され,同年9月2日,同病院の医師から,肺癌の進行度がⅢ期である旨説明された(乙A6・7頁,乙A6・18頁)。 平成11年8月24日,原告は,山大病院に入院した。その際,原告は,30年間,1日にたばこを20本吸ってきたが,同年7月24日ころより禁煙している旨申告し,山大病院では原告の喫煙指数が600であると判断された(乙A6・4頁,乙A6・13頁)。 原告の癌が発見された部位は肺門部であった。原告の罹患した肺癌の種類は,中心型早期肺癌(肺門部早期肺癌)であった(甲B2・24頁,。 B5,乙A26・10頁,乙B1・4頁)㨯証拠(甲B1ないし4,7ないし10,乙A26,B1ないし6,11ないし14,証人d)及び弁論の全趣旨によれば,医学的知見について,次の事実が認められる。 ア喀痰細胞診は,主に肺癌の有無を診断するため,喀痰に含まれる細胞を形態学的に検討して,その中に含まれる悪性細胞の有無を検索する検査である(乙B5・4頁)。 イ平成元年1月10日に発行された「癌の臨床別冊癌診断・治療マニュアル」には,咳,痰などの気管支症状,それも持続する症状を主訴とする場合は疑って,喀痰細胞診などの精検を行い,血痰患者には喀痰細胞診を手軽に行わなければならない旨記載されている(甲B9・4頁)。 平成2年2月1日に発行された「図説臨床看護医学第1巻呼吸器」には,肺門部肺癌の中に胸部X線写真で異常陰影として検出できない肺癌があり,このような肺癌には外科的手術療法で完全治癒の望める早期肺癌が多く,その診断に喀痰細胞診が非常に有力である旨記載されている(乙B5・。 4頁)平成5年6月25日に発 として検出できない肺癌があり,このような肺癌には外科的手術療法で完全治癒の望める早期肺癌が多く,その診断に喀痰細胞診が非常に有力である旨記載されている(乙B5・。 4頁)平成5年6月25日に発行された「看護必携シリーズ第3巻内科Ⅰ」には,肺癌の検査方法の一つとして喀痰細胞診があり,咳,血痰を訴える40代以上の人及び胸部異常陰影のある人に喀痰細胞診を実施する旨記載されている(乙B1・4頁)。 平成7年11月20日に発行された第4版の「臨床・病理肺癌取扱い規約」は,肺癌診療の際の各種取決め事項に視点を置いて基準を示したものであり,病気分類法及び異型扁平上皮細胞の判定基準などが記載されていた。これは,日本肺癌学会が編者となっていた。同書には,集団検診における喀痰細胞診の判定基準と指導区分について,次のように記載されている(乙B3・5頁,甲B2・4頁)。 判定区分細胞所見指導区分A喀痰中に組織球を認めない材料不適,再検査正常上皮細胞のみB基底細胞増生現在異常を認めない軽度異型扁平上皮細胞次回定期検査絨毛円柱上皮細胞 中等度異型扁平上皮細胞程度に応じて6か月以内C核の増大や濃染を伴う円柱上皮の追加検査と追跡細胞高度(境界)異型扁平上皮細胞Dまたは悪性腫瘍の疑いある細胞ただちに精密検査を認めるE悪性腫瘍細胞を認める平成15年に発行された「今日の診療プレミアムVol.13」のうち,e国立がんセンター中央病院総合病棟部長が執筆した部分には,40歳以上であれば,高危険群(男性,喫煙指数〈1日当たりの喫煙本数と喫煙年数をかけた数値〉400以上,40歳以上)であろうとなかろうと肺癌を念頭において診療,検査を進めるべきであり,喫煙者,ことに高危険群では,胸部X線撮影で異常影が認められない場合でも,喀痰細胞 喫煙年数をかけた数値〉400以上,40歳以上)であろうとなかろうと肺癌を念頭において診療,検査を進めるべきであり,喫煙者,ことに高危険群では,胸部X線撮影で異常影が認められない場合でも,喀痰細胞診を行い,陰性の場合は1年後に,C判定の場合は6か月後に再検査を行う旨記載されている。前記部長が執筆した部分で引用されている文献はすべて平成9年以前に発行されたものであり,平成10年当時の知見を反映したものである。 (甲B1・4頁,同9ないし10頁,証人d20ないし22頁)㨯前記㨯のとおり,平成10年当時においても,咳又は血痰を訴える患者には喀痰細胞診を実施すべきである旨記載した文献が存在し,喫煙者には喀痰細胞診を実施すべきであるとの見解も存在していたところ,前記㨯のとおり,原告は,平成10年3月6日から同月17日まで被告病院に入院したときに,被告に対し,過去に血痰が出たことがあり,1日に20本喫煙している旨申告し,実際にも原告には咳及び痰の症状が認められたほか,平成10年8月に被告病院で受診したときにも,原告は咳の症状を訴えているのであるから,前記文献等によれば,原告は喀痰細胞診の対象者であるといえること,平成 10年4月20日に被告病院放射線科の医師が,担当医師に対して,原告に対する喀痰細胞診の実施を勧め,同月24日には,被告病院において原告に対する喀痰細胞診が実施され,その結果が判定不能であったことにより,同年5月1日ころには,担当医師から原告に対して喀痰を採取すべき旨指示がなされていることを総合考慮すれば,被告は,遅くとも平成10年8月以降,原告に対し,喀痰を提出させて喀痰細胞診を実施し,異常の有無を確認すべき注意義務があったというべきである。 そうすると,被告において,原告に対する喀痰細胞診で検査材料が不適当なため判定不能と 以降,原告に対し,喀痰を提出させて喀痰細胞診を実施し,異常の有無を確認すべき注意義務があったというべきである。 そうすると,被告において,原告に対する喀痰細胞診で検査材料が不適当なため判定不能との結果が出たにもかかわらず,平成10年5月1日ころに原告に対して喀痰を採取して提出するよう指示したにとどまり,平成11年7月18日まで,痰の症状が認められた原告から喀痰の提出を求めて喀痰細胞診を実施して異常の有無を確認しなかったことは,前記注意義務に違反し,過失があったといわざるをえず,この点に関する被告の主張には理由がない。 㨯なお,原告は,平成10年8月以降,原告に対し,短い間隔,例えば1か月おきくらいに定期的に喀痰細胞診を行うべき義務があった旨主張する。 しかしながら「臨床・病理肺癌取扱い規約」には,判定区分がBである,場合には定期検査の受診を指導し,判定区分がCの場合に6か月以内に追加検査を受診するように指導すべきである旨記載され「今日の診療プレミア,ムVol.13」にも,胸部X線撮影で異常影がない場合,喫煙者,ことに高危険群の者(男性,喫煙指数〈1日当たりの喫煙本数と喫煙年数をかけた数値〉400以上,40歳以上)に対しては,喀痰細胞診の結果が陰性のときには1年後に,C判定のときには6か月後に再検査を行うべき旨記載されているにとどまり,また,原告に対する胸部X線撮影で指摘されたのは肺炎像であって腫瘍の存在が指摘されたことはなく,CT検査で肺癌の疑いが指摘されたのは平成11年7月12日以降であったのであるから,原告に対し,平成10年8月以降,6か月よりも短い間隔で定期的に喀痰細胞診を実施すべき 義務があったとまでは認められず,原告の前記主張は理由がない。 争点㨯について㨯証拠(甲B1,2,4,9,10,14,15,乙A26 ,6か月よりも短い間隔で定期的に喀痰細胞診を実施すべき 義務があったとまでは認められず,原告の前記主張は理由がない。 争点㨯について㨯証拠(甲B1,2,4,9,10,14,15,乙A26,B1ないし6,13,証人d)及び弁論の全趣旨によれば,医学的知見について,次の事実が認められる。 ア気管支鏡検査は,気管支鏡を鼻又は口から挿入して気管まで進めて,局部麻酔をしながら,必要に応じて生検等を行うものである。その合併症としては,低酸素血症,呼吸抑制,咽頭攣縮,気管支攣縮,不整脈及び出血などがある。気管支が攣縮すると,窒息及び出血等を引き起こす危険もある(乙A26・4頁,乙B6・2頁)。 イ平成元年1月10日に発行された「癌の臨床別冊癌診断・治療マニュアル」には,血痰を訴える患者には,できれば気管支鏡検査を施行して出血の原因,出血部位の確認と経気管支鏡的検査により癌の確定診断を行う旨記載されている(甲B9・4頁)。 平成5年6月25日に発行された「看護必携シリーズ第3巻内科Ⅰ」には,肺癌の検査方法の一つとして気管支鏡検査があり,この検査は,咳,血痰,胸部異常陰影のある人に実施し,病理組織学的確診を得るため,また治療方針確立のために必要である旨記載されている(乙B1・4頁)。 平成7年11月20日に発行された第4版の「臨床・病理肺癌取扱い規約」には,喀痰細胞診において,判定区分がD又はEであった場合,直ちに気管支鏡検査をはじめ精密検査を実施しなければならない旨記載されている(乙B3・5頁)。 平成12年10月20日に発行された「NursingMook1 呼吸器疾患ナーシング」には,胸部X線及びCTなどの画像診断で肺癌が疑われるものは,気管支鏡下生検,経皮的吸引細胞診などにより診断を確定する旨記載されている(乙B2・20 ursingMook1 呼吸器疾患ナーシング」には,胸部X線及びCTなどの画像診断で肺癌が疑われるものは,気管支鏡下生検,経皮的吸引細胞診などにより診断を確定する旨記載されている(乙B2・20頁)。 平成15年に発行された「今日の診療プレミアムVol.13」のうち,e国立がんセンター中央病院総合病棟部長が執筆した部分には,胸部X線撮影で異常影が認められない場合,喀痰細胞診を行い,D,E判定のとき又は再検後C判定が続いたときは気管支鏡検査を行って部位を同定するのに対し,胸部X線撮影で異常影が認められる場合,胸部CT検査を行って画像的特徴を把握した上で,質的診断のために,必ず喀痰細胞診及び気管支鏡検査を実施すべきである旨記載されている(甲B1・4頁)。 平成15年10月25日に発行された「EBMの手法による肺癌診療ガイドライン2003年版」の第6章には,中心型早期肺癌の検査方法として気管支鏡検査が記載されているが,気管支鏡検査の実施が勧められるのは喀痰細胞診の判定区分がD又はEとなった場合である旨記載されている。 この文献は,厚生労働省医療技術評価総合研究事業「EBMの手法による肺癌診療ガイドライン策定に関する研究」研究班を構成する専門家により作成されたものであり,肺癌診療の専門医を対象としたものであった。 (甲B2・2頁,同5頁,同25頁)㨯平成11年より前に発行された「癌の臨床別冊癌診断・治療マニュアル」及び「看護必携シリーズ第3巻内科Ⅰ」には,咳及び血痰の症状を訴える患者が気管支鏡検査の対象者になる旨指摘されているものの,平成11年以後に発行された文献の中には,喀痰細胞診の結果がD又はE判定であった場合若しくは再検後C判定が続いた場合又は胸部X線及びCTなどの画像診断で肺癌が疑われる場合に気管支鏡検査を実施すべきである 1年以後に発行された文献の中には,喀痰細胞診の結果がD又はE判定であった場合若しくは再検後C判定が続いた場合又は胸部X線及びCTなどの画像診断で肺癌が疑われる場合に気管支鏡検査を実施すべきである旨記載されている文献もあり,厚生労働省医療技術評価総合研究事業の一環として平成15年に発行された「EBMの手法による肺癌診療ガイドライン2003年版」においてすら,中心型早期肺癌の検査について,喀痰細胞診の結果がD又はE判定となった場合に気管支鏡検査の実施を勧めているところ,前記1㨯のとおり,原告について,平成11年2月までに,胸部X線撮影及びCT検査で肺 癌の疑いが指摘されたり,喀痰細胞診の結果がCないしE判定になったことはなかったこと,気管支鏡検査は,窒息等を引き起こす危険があり,胸部X線撮影,CT検査及び喀痰細胞診ほど容易に行える検査ではないことなどに照らせば,平成11年2月の時点で,被告は,原告に対し,気管支鏡検査を実施すべき注意義務があったとは認められない。 㨯なお,原告は,平成11年2月ころの時点では原告に対して気管支鏡検査を行うべき義務があったことの裏付けとして,c医師の作成した意見書(乙B13)に「陰影が残存していること,ハイリスク患者であること,肺癌合併を考慮して,早期に気管支鏡を実施する方法もある。喀痰検査,胸部CTよりも気管支を直視できるため,肺門部肺癌の診断率は高い」と記載されている旨指摘する。 しかしながら,前記意見書には,気管支鏡検査について「侵襲度が強いことを理由に実施に応じることはさらに少ない・・・胃カメラ並みに実施す。 ることは困難である」とも記載されており,前記意見書は,気管支鏡検査。 の実施が容易ではなく,被告病院において同検査を実施しなくても原告に対する処置が不適切なものではなかったことを示唆し 実施す。 ることは困難である」とも記載されており,前記意見書は,気管支鏡検査。 の実施が容易ではなく,被告病院において同検査を実施しなくても原告に対する処置が不適切なものではなかったことを示唆しているものと解されるのであるから,前記意見書は,原告に対して気管支鏡検査を実施すべき義務があったことの根拠とはならないというべきである。 よって,原告の前記主張は理由がない。 争点㨯について㨯前提となる事実,証拠(甲A1,2,乙A1,5ないし7,26,証人d)及び弁論の全趣旨によれば,本件の診療経過について,次の事実が認められる。 ア平成11年7月12日,原告に対して胸部単純CT検査が行われ,左上葉気管支内に突出する腫瘤が認められた(乙A1・64頁)。 平成11年7月16日,原告に対して胸部造影CT検査が行われ,左主 気管支及び左上葉気管支周囲に軟部腫瘤が認められた(乙A1・65。 頁)平成11年7月19日に原告から喀痰が採取され,被告から山形市医師会健診センターに対して喀痰細胞診の実施が依頼された。同月22日,同センターから被告に対し,原告の喀痰に腫瘍細胞が認められない旨報告された(乙A1・67頁)。 平成11年7月22日に再び原告から喀痰が採取され,被告から財団法人山形県結核成人病予防協会に対して喀痰細胞診の実施が依頼された。同月26日,同協会から被告に対し,原告は扁平上皮癌であり,組織診を要す旨報告された(乙A1・68頁)。 原告は,平成11年8月24日,山大病院に入院し,同年9月14日,左肺上葉及び区域S6切除並びに肺動脈形成及び気管支形成術を受けた。 (乙A6・1頁,同63頁,同172頁)イ原告は,平成15年1月8日,肺癌の再発が疑われて山大病院に入院し,。 ,同年1月28日,残存する左肺をすべて摘出する手術を 成及び気管支形成術を受けた。 (乙A6・1頁,同63頁,同172頁)イ原告は,平成15年1月8日,肺癌の再発が疑われて山大病院に入院し,。 ,同年1月28日,残存する左肺をすべて摘出する手術を受けた(甲A1乙A7・6頁,同95頁)平成15年1月28日に採取された病理組織の顕微鏡検査の結果は,再発が考えられるが,切除線とは離れていたというものであった(乙A7。 ・86頁)平成15年2月10日,前記手術の執刀医であったf医師は,原告及びその娘に対し「左肺癌。前回と同様のタイプ。よって,新たなものか,,。 。 再発か断定できない。明らかな断端再発という訳でもない」と説明した(乙A7・25頁)平成16年10月29日,f医師は,第2内科に対する紹介状において,平成15年1月に左肺癌の手術を行ったときの診断は初発であった旨記載した(乙A5・38頁)。 㨯証拠(甲B2,3,5,14,15,乙A26,B1,2,13,証人d)及び弁論の全趣旨によれば,医学的知見について,次の事実が認められる。 ア中心型肺癌とは,区域気管支より中枢側に発生した肺癌であり,肺門型肺癌といわれることもある(甲B2・24頁,乙B1・4頁)。 中心型早期肺癌とは,中心型肺癌のうち,癌の浸潤が組織学的に気管支壁を越えないで,かつ,リンパ節転移及び遠隔転移がないものとされている(甲B2・24頁)。 イ平成12年10月20日に発行された「NursingMook1 呼吸器疾患ナーシング」には,喀痰細胞診について,中心型肺癌では陽性率が高い旨記載されている(乙B2・20頁)。 「今日の診療プレミアムVol.15」のうち,gが執筆した部分には,喀痰細胞診の陽性率が60パーセント程度であり,起床時に3日間連続して喀痰を採取することが望ましい旨記載されている(甲 20頁)。 「今日の診療プレミアムVol.15」のうち,gが執筆した部分には,喀痰細胞診の陽性率が60パーセント程度であり,起床時に3日間連続して喀痰を採取することが望ましい旨記載されている(甲B3・4頁)。 平成15年10月25日に発行された「EBMの手法による肺癌診療ガイドライン2003年版」の第1章には,肺癌の検出方法として,胸部X線写真,CT検査,腫瘍マーカー及び喀痰細胞診などがあるが,喀痰細胞診をX線写真に追加するスクリーニング法の有効性を検討したランダム化比較試験では,喀痰細胞診を追加するグループにおいて早期癌の割合,切除率及び5年生存率が上昇することが示されたものの,長期フォローで肺癌死亡率の低下は証明されず,また,肺癌症例における喀痰細胞診の検出感度は36ないし40パーセントにすぎず,一方で喀痰細胞診で発見されたX線陰性肺癌は長期生存例の割合が高いと報告されており,喀痰細胞診のスクリーニング法としての感度を上げるために喀痰細胞の免疫染色,PCRによる遺伝子異常の検出及び悪性関連変化のコンピューター定量解析が研究されているものの,現時点では検査法として確立していない旨記載 されている(甲B2・20ないし22頁)。 「EBMの手法による肺癌診療ガイドライン2003年版」の第6章には,中心型早期肺癌の診断・治療との表題が付けられており,中心型早期肺癌は喀痰細胞診のみで発見されることが多く,その感度を報告した論文は少ないものの,検索した論文には20ないし70パーセントであると報告されている旨記載されている(甲B2・25頁)。 東海大学医学部呼吸器内科に所属するh及びiが作成した「肺癌の診断指針」と題するホームページには,喀痰細胞診について,中心型肺癌で陽性率が高いが,喀痰細胞診が陰性であっても肺癌の否定にはならない 。 東海大学医学部呼吸器内科に所属するh及びiが作成した「肺癌の診断指針」と題するホームページには,喀痰細胞診について,中心型肺癌で陽性率が高いが,喀痰細胞診が陰性であっても肺癌の否定にはならない旨掲載されている(甲B14・2頁)。 日本医事新報社より平成元年5月20日発刊された「内科診断検査アクセス」に基づき,北里大学医学部医用情報学に所属するj,k及びlが作成した「内科診断検査アクセス」と題するホームページには,喀痰細胞診の陽性率について,中心型肺癌では70ないし80パーセント以上と高い旨掲載されている(甲B15・5頁)。 㨯訴訟上の因果関係の立証は,一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく,経験則に照らして全証拠を総合検討し,特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり,その判定は,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とし,かつ,それで足りるものである。これは,医師が注意義務に従って行うべき診療行為を行わなかった不作為と患者の後遺障害の発生との間の因果関係の存否の判断においても異なるところはなく,経験則に照らして統計資料その他の医学的知見に関するものを含む全証拠を総合的に検討し,医師の上記不作為が患者の後遺障害の発生を招来したこと,すなわち,医師が注意義務を尽くして診療行為を行っていたならば患者が後遺障害を発生していなかったであろうことを是認し得る程度の高度の蓋然性が証明され れば,医師の上記不作為と患者の後遺障害の発生との間の因果関係は肯定されるものと解すべきである(最高裁平成8年㨯第2043号同11年2月。 25日第一小法廷判決・民集53巻2号235頁参照)前記㨯イのとおり,中心型肺癌について喀痰細胞診の陽性率が高い旨指摘する文献 れるものと解すべきである(最高裁平成8年㨯第2043号同11年2月。 25日第一小法廷判決・民集53巻2号235頁参照)前記㨯イのとおり,中心型肺癌について喀痰細胞診の陽性率が高い旨指摘する文献があるものの,中心型早期肺癌における喀痰細胞診の陽性率について「EBMの手法による肺癌診療ガイドライン2003年版」では,20,ないし70パーセントと報告されている旨記載されており,この数値では,原告に対して喀痰細胞診が実施された場合に原告の喀痰から癌細胞が検出されて中心型早期肺癌との診断がなされたであろうことを是認しうる高度の蓋然性が証明されたとはいえない上,前記㨯アのとおり,平成11年7月19日に原告から採取された喀痰について実施された喀痰細胞診では,原告の胸部CT検査で左肺に腫瘍が認められたにもかかわらず,癌細胞が発見されなかったのであるから,平成10年8月以降に原告に対して喀痰細胞診が実施されていても,その結果が陰性になった可能性が少なからずあったといえる。 そして,平成15年1月28日に左肺全部の摘出手術を行った執刀医は,同日切除された癌(以下「第2の癌」という)について,平成11年9月。 14日に切除された癌(以下「第1の癌」という)が再発したものか否か。 不明である旨述べており,第2の癌が第1の癌の再発したものであるとまでは認められず,第2の癌が新たに発生したものである可能性を否定できないところ,第2の癌が新たに発生したものであるとすれば,第1の癌の切除が平成11年9月14日よりも早期に行われたとしても,第2の癌の発生を回避できたとは推認することができない。 以上の事情に照らせば,平成10年8月以降に原告から喀痰を採取して喀痰細胞診を実施していれば,原告の喀痰から癌細胞が発見されて中心型早期肺癌との診断がなされ,第1の癌が早期 推認することができない。 以上の事情に照らせば,平成10年8月以降に原告から喀痰を採取して喀痰細胞診を実施していれば,原告の喀痰から癌細胞が発見されて中心型早期肺癌との診断がなされ,第1の癌が早期に摘出されることによって第2の癌の発生を回避できたであろうことを是認し得る程度の高度の蓋然性があった とは認めがたく,喀痰細胞診の実施義務の懈怠と原告の左肺全部の摘出との間に相当因果関係は認められない。 㨯なお,原告は,現在の知見によれば,中心型肺癌における喀痰細胞診の陽性率は70ないし80パーセント以上であり,本件では何度も喀痰細胞診が実施されるべきだったから,複数回の喀痰細胞診が実施されれば,その陽性率が高まり,喀痰細胞診で癌細胞が発見されて早期に中心型早期肺癌との診断がなされ,左肺全部の摘出を回避できた高度の蓋然性がある旨主張し,喀痰細胞診の陽性率について「NursingMook1 呼吸器疾患ナーシング(乙,」B2)及び「肺癌の診断指針」と題するホームページ(甲B14)には,中心型肺癌における陽性率が高い旨掲載され「内科診断検査アクセス」と題,するホームページ(甲B15)には,中心型肺癌における陽性率が70ないし80パーセント以上である旨掲載されている。 しかしながら「内科診断検査アクセス」と題するホームページに掲載さ,れているデータは,平成元年5月20日に発行された医学文献を根拠にしたものであって,同ホームページに掲載された喀痰細胞診の陽性率の値が現在の知見を反映したものとはいえない上「EBMの手法による肺癌診療ガイ,ドライン2003年版」第6章に記載されている喀痰細胞診の陽性率は,中心型早期肺癌に対する喀痰細胞診の陽性率が記載されているのに対し「Nu,rsingMook1 呼吸器疾患ナーシング」には「肺門型肺が ン2003年版」第6章に記載されている喀痰細胞診の陽性率は,中心型早期肺癌に対する喀痰細胞診の陽性率が記載されているのに対し「Nu,rsingMook1 呼吸器疾患ナーシング」には「肺門型肺がんでは陽性率が高,い」と記載され「肺癌の診断指針」と題するホームページには「重喫煙。 ,,者にみられる中心型肺癌(気管支の亜区域支より中枢側に発生したもの)で陽性率が高い」と記載され「内科診断検査アクセス」と題するホームペ。 ,ージには「肺門型肺癌では陽性率が70~80%以上と高く,肺野型でも,40%前後の陽性率である」と記載されていて,その陽性率に関する数値。 が中心型肺癌全体に対する喀痰細胞診の陽性率であると認められるところ,中心型早期肺癌は,中心型肺癌の中で,癌の浸潤が比較的進んでおらず,か つ,リンパ節転移及び遠隔転移がないものに限られ,中心型早期肺癌に対する喀痰細胞診の陽性率は,中心型肺癌全体に対する喀痰細胞診の陽性率よりも低くなると推認できるのであるから,中心型早期肺癌に対する喀痰細胞診の陽性率が70ないし80パーセント以上であることが現在の知見になっているとは到底認められない。また,前記1㨯のとおり,平成10年8月以降,原告に対して,6か月よりも短い間隔で定期的に喀痰細胞診を行うべき義務があったわけではないのであるから,原告に対して何度も喀痰細胞診が行われるべきであったとはいえない上,喀痰細胞診の実施回数を増やせば,中心型早期肺癌に対する喀痰細胞診の陽性率が有意に高まることを認めるに足りる的確な証拠もない。よって,原告の前記主張は理由がない。 結論 以上によれば,被告の喀痰細胞診の実施義務の懈怠と原告の左肺全部の摘出による損害など原告が主張する損害との間には相当因果関係が認められないから,原告の請求は,理由が 前記主張は理由がない。 結論 以上によれば,被告の喀痰細胞診の実施義務の懈怠と原告の左肺全部の摘出による損害など原告が主張する損害との間には相当因果関係が認められないから,原告の請求は,理由がない。 山形地方裁判所民事部裁判長裁判官片瀬敏寿裁判官鈴木和典裁判官田中良武
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