平成14(行ウ)30 所得税更正処分等取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成16年11月2日 神戸地方裁判所 租税
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判決文本文39,168 文字)

主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 原告の請求 1 被告が,原告に対し,平成13年12月21日付けをもってした,平成11年分所得税の更正処分のうち,課税所得金額6558万2000円,納付すべき税額1682万7300円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 第2 事案の概要 1 事案の骨子(1) アプライドマテリアルズジャパン株式会社(以下「日本アプライド社」という。)に勤務していた原告は,平成11年分の所得税の申告に際し,日本アプライド社の親会社であるアメリカ合衆国法人アプライドマテリアルズ・インク(以下「米国アプライド社」という。)から付与されたストック・オプション(以下「本件ストック・オプション」という。)に係る権利を行使して得た利益(ストック・オプションに係る権利を行使したときの株式の時価と権利行使価格との差額分。以下「権利行使益」という。また,本件ストック・オプションに係る権利を行使して得た権利行使益を「本件権利行使益」という。)を一時所得として申告(修正申告)したところ,被告は,ストック・オプションの権利行使益は,一時所得ではなく給与所得にあたるとして更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい,本件更正処分と併せて,「本件更正処分等」という。)を行った。 (2) 本件は,原告が,①本件権利行使益は,給与所得ではなく一時所得にあたる,②本件更正処分の通知書には,更正の理由の記載がないから,本件更正処分は違法である,③仮に,本件更正処分は適法だとしても, ) 本件は,原告が,①本件権利行使益は,給与所得ではなく一時所得にあたる,②本件更正処分の通知書には,更正の理由の記載がないから,本件更正処分は違法である,③仮に,本件更正処分は適法だとしても,原告が本件権利行使益を一時所得として申告したことには,国税通則法65条4項の「正当な理由」があるから,本件賦課決定処分は違法であるなどと主張して,本件更正処分のうち,課税所得金額6558万2000円,納付すべき税額1682万7300円を超える部分及び本件賦課決定処分の取消しを求めた事案である。 2 前提事実括弧内に証拠を記載したもの以外は,当事者間に争いがない。 (1) 当事者等ア原告原告は,昭和59年6月1日から平成11年7月17日まで,日本アプライド社の従業員であった(なお,原告は,○部長を経て,退職当時は,○兼○部長の役職にあった。)者である(乙11)。 なお,原告は,4半期ごとに,米国アプライド社の重役とミーティングを行ったり,月に1度の月例報告などを行ったりしていたものの,米国アプライド社と雇用契約等を締結したことはなく,原告と米国アプライド社との間に,直接の雇用関係は存在しなかった(甲42)。 イ被告被告は,原告に対し,本件更正処分等を行った課税庁である。 ウ日本アプライド社及び米国アプライド社日本アプライド社は,昭和54年10月1日,半導体装置メーカーである米国アプライド社の日本法人として設立され,米国アプライド社は,日本アプライド社の発行済株式の100パーセントを所有している(乙10の1ないし3,乙11)。 (2) ストック・オプション制度(一般論)アストック・オプションの定義 日本アプライド社の発行済株式の100パーセントを所有している(乙10の1ないし3,乙11)。 (2) ストック・オプション制度(一般論)アストック・オプションの定義ストック・オプションとは,会社の役員,従業員等が一定の権利行使期間にあらかじめ定められた権利行使価格で所定の数の株式を会社から買い取ることができる権利のことをいう。 イストック・オプション制度の特色ストック・オプション制度は,長期インセンティブ報酬制度の一種であり,会社は,従業員等に対し,ストック・オプションを付与(以下,従業員等に対し,ストック・オプションを付与した会社のことを「付与会社」,ストック・オプションの付与を受けた者を「被付与者」ということがある。)することにより,従業員等の会社に対する精勤意欲の向上を期待することができ,優秀な人材を誘因,確保することができることとなるとともに,会社の業績の向上をも図ることが期待できることとなる。 また,従業員等は,付与されたストック・オプションを行使して,権利行使益を獲得することができることとなる。 ウストック・オプション行使の条件通常,ストック・オプション付与の対象者は,付与会社の従業員又はその者の勤務が付与会社の業績に影響を与える者に限られ,ストック・オプションを行使するためには,一定期間の勤務の継続,権利行使可能期間,権利行使価格などの条件が付されている。 また,通常,付与されたストック・オプションの譲渡は禁止され,退職等により,雇用契約等が消滅した場合には,ストック・オプションが消滅したり,行使期間が制限されたりする。 (3) 米国アプライド社のストック・オプション制度 渡は禁止され,退職等により,雇用契約等が消滅した場合には,ストック・オプションが消滅したり,行使期間が制限されたりする。 (3) 米国アプライド社のストック・オプション制度米国アプライド社には,3種類のストック・オプション制度(1976年マネジメントストック・オプションプラン,1995エクイティ・インセンティブプラン,30周年記念従業員ストック・オプション・プラン)が存在する。 なお,本件において,原告が,いずれのストック・オプションの付与を受けたのかは不明であるが,各ストック・オプション制度に共通する特徴は,概ね次のとおりである(乙12ないし14)。 ア米国アプライド社ないしは同社の関連会社の従業員等に対してのみ,米国アプライド社のストック・オプションが付与される。 イストック・オプションを行使するためには,ストック・オプションの付与後,半年ないし1年間の勤務の継続が必要である。 ウ被付与者の死亡や退職など雇用契約が解消された場合,一定期間が経過した後は,ストック・オプションを行使することができなくなる(ただし,雇用契約解消の原因やプランの種類により,行使ができなくなる期間は異なる。)。 エストック・オプションは,被付与者の存命中は,被付与者のみが行使することができ,ストック・オプションを他人に譲渡することはできない。 (4) 原告の本件権利行使益の取得ア本件ストック・オプション付与契約原告は,日本アプライド社に在職中,米国アプライド社との間で,ストック・オプション付与契約を締結(以下「本件ストック・オプション付与契約」という。)し,同社から,同社のストック・オプション(本件ストック・オプション)の付与を受けた ,米国アプライド社との間で,ストック・オプション付与契約を締結(以下「本件ストック・オプション付与契約」という。)し,同社から,同社のストック・オプション(本件ストック・オプション)の付与を受けた。 イ本件権利行使益の取得原告は,別紙1の「権利行使日」欄記載の日付において,同「権利行使株数」欄記載の株数のストック・オプションに係る権利を行使して,米国アプライド社の株式を取得し,同「権利行使利益」欄記載の権利行使益(本件権利行使益)を取得した。 (5) 原告の申告ア確定申告原告は,平成12年3月15日,平成11年分の所得税につき,別紙2の「確定申告」欄記載のとおり,申告した。 なお,確定申告の際,本件権利行使益については,申告しなかった。 イ修正申告原告は,平成13年3月9日,上記アの確定申告時に申告していなかった本件権利行使益を一時所得に区分した上で,課税所得金額を6558万2000円,納付すべき税額を1682万7300円(別紙2の「修正申告」欄)と修正申告した。 (6) 本件更正処分等被告は,平成13年12月21日,原告に対し,本件権利行使益は一時所得ではなく給与所得に該当するとして,課税所得金額を1億0793万8000円,納付すべき税額を3249万9000円,過少申告加算税額を214万1000円(別紙2の「更正処分等」欄)とする本件更正処分等を行った(甲1)。 なお,本件更正処分等の通知書には,更正の理由が記載されていなかった(甲1)。 (7) 審査請求等ア審査請求原告は,本件更正処分等を不服として,平成14年1月16日付けで,国税不服審判所長に対し,審査請求 由が記載されていなかった(甲1)。 (7) 審査請求等ア審査請求原告は,本件更正処分等を不服として,平成14年1月16日付けで,国税不服審判所長に対し,審査請求をしたところ,同審査請求の翌日から3か月以内に裁決がなされなかった(なお,同審査請求については,平成14年12月11日付けで,原告の請求を棄却する旨の裁決がなされている。)(甲2,乙15)。 イ訴えの提起そこで,原告は,平成14年8月2日,本件更正処分等取消しの訴えを提起した。 (8) 所得税法及び国税通則法の規定所得税法(以下,単に「法」という。)には,次のとおり,給与所得,一時所得及び雑所得の定義に関する規定が存在し,国税通則法には,次のとおり,過少申告加算税に関する規定が存在する。 ア法28条1項給与所得とは,俸給,給料,賃金,歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得をいう。 イ法34条1項一時所得とは,利子所得,配当所得,不動産所得,事業所得,給与所得,退職所得,山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち,営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう。 ウ法35条1項雑所得とは,利子所得,配当所得,不動産所得,事業所得,給与所得,退職所得,山林所得,譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいう。 エ国税通則法65条4項第1項及び第2項に規定する納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちにその修正申告又は更正前の税額(還付金の額に相当する税額を含む。)の計算の基礎とされていなかっ 65条4項第1項及び第2項に規定する納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちにその修正申告又は更正前の税額(還付金の額に相当する税額を含む。)の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合には,これらの項に規定する納付すべき税額からその正当な理由があると認められる事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除して,これらの項を適用する。 3 争点本件の争点は,抽象的には,本件更正処分等の適法性であるが,具体的には,次の4点である。 (1) 争点1(本件権利行使益の所得区分)本件権利行使益(海外親会社から子会社の従業員等に付与されたストック・オプションの権利行使益)は,給与所得,一時所得,雑所得のいずれに該当するか。 (2) 争点2(理由不備)本件更正処分の通知書において,更正の理由を附記しなかったことは適法か。 (3) 争点3(課税所得金額及び納付すべき税額)原告の課税所得金額,納付すべき税額は幾らか。 (4) 争点4(国税通則法65条4項の「正当な理由」の有無)原告が,本件権利行使益を一時所得として申告したことにつき,国税通則法65条4項の「正当な理由」があるか。 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(本件権利行使益の所得区分)について(被告の主張)本件権利行使益は,法28条1項の「給与所得」に該当する。 また,仮に,本件権利行使益が,法28条1項の「給与所得」に該当しないとしても,法35条1項の「雑所得」に該当する。 (1) ストック・オプションの課税時期及び課税対象ア権利確定主義法36条1項は 8条1項の「給与所得」に該当しないとしても,法35条1項の「雑所得」に該当する。 (1) ストック・オプションの課税時期及び課税対象ア権利確定主義法36条1項は,所得金額計算の前提となる収入金額につき,「その年に収入すべき金額」と規定する。 この法36条1項の「収入すべき金額」とは,実現した収益,すなわち,まだ収入がなくても「収入すべき権利の確定した金額」をいい,広義の発生主義のうち,いわゆる権利確定主義を採用したものである。 イ権利確定主義からみたストック・オプションに係る経済的利益の所得実現時この点,ストック・オプション付与契約は,会社と従業員等との間の雇用契約等を不可欠の前提として締結される売買の一方の予約に類似する契約であるところ,ストック・オプションの被付与者は,予約完結権を行使して,株式引渡請求権を取得したことにより発生,実現する権利行使益を取得することが,利益を得る唯一の方法であり,予約完結権を行使しない限り,何らの利益も取得することができない。 また,通常,ストック・オプションには,譲渡性がなく,換金処分の途も存在しないこと,権利行使のためには,一定期間の役務の提供が必要であることなどの条件が付されていることなどからすれば,ストック・オプションを有するからといって,それだけでは所得が実現したとはいえない。 したがって,ストック・オプションを行使しない段階では,被付与者の享受する経済的利益の価額は不確定であり,付与されたストック・オプションを行使したときが,収入すべき権利が確定した時であるといえる。 ウ小括以上より,ストック・オプションの被付与者が得る経済的利益は,予 り,付与されたストック・オプションを行使したときが,収入すべき権利が確定した時であるといえる。 ウ小括以上より,ストック・オプションの被付与者が得る経済的利益は,予約完結権を行使し,株式引渡請求権を取得したことにより発生,実現する権利行使益にほかならず,これにより初めて法36条1項の「収入すべき権利」が確定したといえるから,ストック・オプションに係る経済的利益の課税時期は権利行使時,課税対象はストック・オプションの権利行使益であると考えるべきであり,課税時期をストック・オプション付与時,課税対象をストック・オプション自体と考える余地はない。 (2) 本件権利行使益の給与所得該当性ア給与所得該当性の要件(ア) 給与所得の意義給与所得とは,「俸給,給料,賃金,歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得」(法28条1項)であり,勤労所得のうち,雇用契約又はこれに類する原因に基づく経済的給付を広く含む概念である。 (イ) 給与所得該当性の要件この点,給与所得該当性の判断にあたり,個別具体的な労務提供とそれに対する対価支払という具体的対応関係を要求することは困難ないし不可能であって,むしろ従業員と使用者の関係を包括的に給与所得の発生原因としてとらえ,使用者から従業員に対して支給される金品は,原則として給与所得とするのが相当というべきである。 したがって,ある所得の給与所得該当性の判断は,①労務の提供が「非独立的・従属的」になされたものか否か(雇用類似要件)②従業員等の地位又は職務に関連して受ける給付という「労務の提供があるからこそ給付がされるという関係」が認められるか否か(対価性要件)という実質的な観点か 従属的」になされたものか否か(雇用類似要件)②従業員等の地位又は職務に関連して受ける給付という「労務の提供があるからこそ給付がされるという関係」が認められるか否か(対価性要件)という実質的な観点から決すべきである。 イ勤務先会社から付与されたストック・オプションの権利行使益の給与所得該当性(ア) 雇用類似要件まず,勤務先会社からストック・オプションを付与された場合については,その勤務先会社と被付与者の間に直接の雇用関係が認められるのであるから,被付与者による勤務先会社に対する労務の提供が,「非独立的・従属的」になされたものであることは明らかである。 (イ) 対価性要件また,ストック・オプション付与契約は,従業員等とその勤務先会社との雇用契約等を不可欠の前提として締結される契約であり,従業員等に対し,労務の対価としてストック・オプションの権利行使益を取得させるためのものである。 そして,被付与者たる従業員等は,勤務先会社に対して労務の提供を行わなければ,ストック・オプションの権利行使益を得ることができないのであるから,従業員等の勤務先会社に対する労務の提供とストック・オプションの権利行使益との間には,「労務の提供があるからこそ給付されるという関係」が認められる。 (ウ) 小括以上より,勤務先会社から付与されたストック・オプションの権利行使益は,給与所得の課税要件である「雇用類似要件」及び「対価性要件」のいずれをも充足しており,給与所得に該当する。 ウ本件権利行使益(海外親会社から子会社の従業員等に付与されたストック・オプションの権利行使益)の給与所得該当性(ア) 使用者と給与支給者の一 足しており,給与所得に該当する。 ウ本件権利行使益(海外親会社から子会社の従業員等に付与されたストック・オプションの権利行使益)の給与所得該当性(ア) 使用者と給与支給者の一致が給与所得の要件ではないこと法は,所得がその性質や発生の態様によって担税力が異なるという前提に立ち,各種所得区分を設け,それぞれ異なる計算方法を定めているところ,労務の対価を受ける者にとっては,当該給付が「雇用契約又はこれに類する原因に基づき,使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価」と認められる場合,その支給者の相違によって,当該所得の担税力や性質に相違が生ずるとは考えられない。 また,法28条1項も,その文言上,支給者と使用者が一致することを要求していない。 したがって,支給者と使用者の同一性を給与所得の課税要件の一つと解すべきではなく,支給者と使用者の同一性は,給与所得の課税要件ではない。 (イ) 米国アプライド社と日本アプライド社及び原告との関係a 日本アプライド社と米国アプライド社の関係米国アプライド社と各国の子会社との間には,各国子会社を縦断する事業部単位の命令系統があり,米国アプライド社の100パーセント子会社たる日本アプライド社は,米国アプライド社の指揮命令を受けている。 b 原告と米国アプライド社の関係また,原告は,本件ストック・オプションが付与された当時,日本アプライド社の○部門や○部門の部長として就労しており,米国アプライド社から強い指揮命令を受け,これに従って当該部門等を動かすとともに,米国アプライド社に対し,報告等を行っていた。 (ウ) 雇用類似要件 部門や○部門の部長として就労しており,米国アプライド社から強い指揮命令を受け,これに従って当該部門等を動かすとともに,米国アプライド社に対し,報告等を行っていた。 (ウ) 雇用類似要件原告は,日本アプライド社との間に直接の雇用関係があったものであるから,原告の労務の提供が,日本アプライド社との関係で,「非独立的・従属的」になされたことは明らかである。 そして,それにとどまらず,原告は,上記(イ)bのとおり,米国アプライド社に対しても,報告等を行うなどして,同社からの指揮命令にも服しつつ,労務の提供を行っていたのであるから,原告の労務の提供は,米国アプライド社との関係においても,「非独立的・従属的」になされたものであるといえる。 (エ) 対価性要件米国アプライド社のストック・オプション制度は,米国アプライド社及びその子会社に対する従業員等の労務の提供と不可分に結びつけられた制度である。 原告は,使用者たる日本アプライド社に対して労務の提供を行ったからこそ,給与支給者たる米国アプライド社から本件権利行使益を給付されたものである。 この点,給与所得該当性の判断にあたり,使用者(日本アプライド社)と給与支給者(米国アプライド社)との一致は要求されていないのは上記(ア)で述べたとおりである。 また,原告は,上記(イ)bのとおり,米国アプライド社に対しても,報告等を行うなどして,重畳的に労務の提供を行っていたといえる(この点に関しては,使用者と給与支給者が一致しているといえる。)。 したがって,原告の労務の提供と本件権利行使益との間には,「労務の提供があるからこそ給付される いたといえる(この点に関しては,使用者と給与支給者が一致しているといえる。)。 したがって,原告の労務の提供と本件権利行使益との間には,「労務の提供があるからこそ給付される関係」が認められる。 エ小括以上より,本件権利行使益は,給与所得の課税要件である「対価性要件」及び「雇用類似要件」をともに満たしており,給与所得に該当する。 (3) 本件権利行使益の雑所得該当性仮に,本件権利行使益が給与所得に該当しないとすると,次のとおり,雑所得に該当する。 ア一時所得該当性の要件(ア) 一時所得は,①利子所得,配当所得,不動産所得,事業所得,給与所得,退職所得,山林所得及び譲渡所得以外の所得であること,②営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の所得であること,③労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しない所得であること,④その性質が一時のものであることのいずれの要件をも満たす必要があり,いずれの要件を欠いても,当該所得は一時所得に該当しないこととなる。 そして,当該所得が,一時所得に該当しない場合には,雑所得に該当することとなる。 (イ) なお,上記③の「労務その他の役務又は資産の譲渡の対価」とは,給与所得の課税要件たる「対価性」と同様,双務契約における一方の履行に対する他方の給付という意味での「対価」にとどまらず,「労務その他の役務」が契約上の義務として行われた場合でなくとも,広く一般に人の地位及び職務に関連してなされる給付をも含むと解すべきである。 イ本件についてのあてはめまず,上記(2)で述べたとおり,本件権利行使益は給与所得に該当するのであるから,当該所得は,上 連してなされる給付をも含むと解すべきである。 イ本件についてのあてはめまず,上記(2)で述べたとおり,本件権利行使益は給与所得に該当するのであるから,当該所得は,上記ア(ア)の①の要件を充足しない。 また,仮に,本件権利行使益が給与所得に該当しないとしても,原告が本件権利行使益を享受することができたのは,原告が,日本アプライド社との雇用契約に基づき,日本アプライド社のみならず,米国アプライド社に対しても,重畳的に役務の提供を継続したことによるものであるから,本件権利行使益が原告の地位及び職務に関連して給付されたものであることは明らかであり,上記ア(ア)の③の要件も充足しない。 ウ小括以上より,本件権利行使益は,一時所得に該当する余地はなく,雑所得に該当する。 (4) 総括以上の次第で,本件権利行使益は,給与所得に該当し,仮に,給与所得に該当しないとしても,雑所得に該当する。 (原告の主張)本件権利行使益は,法28条1項の「給与所得」には該当せず,法34条1項の「一時所得」に該当する。 また,本件権利行使益が,法34条1項の「一時所得」に該当する以上,法35条1項の「雑所得」に該当する余地はない。 (1) ストック・オプションの課税時期及び課税対象アはじめに被告は,ストック・オプションに係る経済的利益の課税時期はストック・オプションの行使時,課税対象はストック・オプションの権利行使益であると主張する。 しかし,次に述べるとおり,理論的には,ストック・オプションに係る経済的利益の課税時期はストック・オプション付与時,課税対象はストック・オプションという期待権そ であると主張する。 しかし,次に述べるとおり,理論的には,ストック・オプションに係る経済的利益の課税時期はストック・オプション付与時,課税対象はストック・オプションという期待権そのものという解釈も十分に成り立ち得るものである。 したがって,ストック・オプション自体を課税対象とするのであれば,ストック・オプション自体が米国アプライド社から給付されたものであることは確かであるから,これを給与所得として課税する余地もあるが,本件権利行使益を課税対象とするのであれば,これは,米国アプライド社から給付されたものではないから,給与所得ではなく,一時所得として課税すべきである。 イ課税庁の解釈の矛盾(ア) 課税庁は,成功報酬型ワラントについては,付与時の課税を採用している。 この点,被告は,ストック・オプションには様々な条件(譲渡禁止,一定期間の勤務の継続の必要性など)が付いていること等を理由に付与時には権利が確定していないと主張するが,成功報酬型ワラントについても,ストック・オプションと同様の条件が付されていることが通常であることからすれば,理論的には,ストック・オプションについても,付与時の課税が十分可能であるということとなる。 (イ) また,課税庁は,ストック・オプションの権利行使前に相続が開始した場合,ストック・オプション自体も財産的価値のある権利として相続財産を構成するものとして扱っている。 ストック・オプション自体について,所得税法の課税に際しては財産的価値のない権利とする一方,相続税法の課税に際しては財産的価値のある権利として扱うという課税庁の姿勢は首尾一貫していない。 ウ小括結局のと 得税法の課税に際しては財産的価値のない権利とする一方,相続税法の課税に際しては財産的価値のある権利として扱うという課税庁の姿勢は首尾一貫していない。 ウ小括結局のところ,被告が,ストック・オプションの権利行使益を課税対象としているのは,ストック・オプションが市場で流通するものではないため,その価値を算定することが困難であるということにすぎず,何ら理論的な理由に基づくものではない。 そして,ストック・オプション自体が課税対象となるとすると,本件ストック・オプションは,付与時の株式の時価を行使価格として付与されたものであり,株式の時価から行使価格を控除した金額は零となるから,結局,給与所得としては,課税関係が生じないこととなる。 (2) 本件権利行使益の給与所得非該当性ア給与所得該当性の要件最高裁昭和56年4月24日判決(民集35巻3号672ページ,以下「最高裁昭和56年判決」という。)は,給与所得とは,「雇傭契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいう」と判示した上で,「給与所得については,とりわけ,給与支給者との関係において何らかの空間的,時間的な拘束を受け,継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり,その対価として支給されるものであるかどうかが重視されなければならない。」としている。 したがって,ある所得が給与所得に該当するというためには,①雇用契約又はこれに類する原因があること(雇用類似要件),及び②使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価であること(対価性要件)が必要となる。 イ使用者と給与支給者の一致の必要性法9条1項,租税特別措置法 (雇用類似要件),及び②使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価であること(対価性要件)が必要となる。 イ使用者と給与支給者の一致の必要性法9条1項,租税特別措置法29条は,文言上,給与の支給者と使用者が同一であることを当然の前提としている。 また,最高裁昭和56年判決も,「給与支給者との関係において空間的・時間的な拘束を受け,継続的ないし断続的労務の提供があり」と判示し,給与支給者と労務の提供を受ける者(使用者)が同一であることを当然の前提としている。 したがって,当該給付が給与所得に該当するというためには,当該給付の支給者と使用者が同一であることが必要である。 ウ本件についてのあてはめ(ア) 雇用類似要件a 原告と米国アプライド社との間に雇用契約又はこれに類する関係がないこと原告と米国アプライド社との間には,直接的な雇用関係は存在しない。 そして,原告は,日本アプライド社の従業員ないし○として,自由な裁量で業務を行っていたのであり,米国アプライド社から指揮命令を受け,これに従い当該部門等を動かしていたわけではない。 原告と米国アプライド社との間には,4半期ごとのミーティングと月に1度の月例報告で重要な案件について報告するという関係があるにすぎず,原告は,米国アプライド社に対して何らの勤務関係を義務付けられていない。 したがって,原告と米国アプライド社との間に,雇用関係に類似する関係があるともいえない。 b 親会社と子会社を同視すべきでないこと親子会社のように,グループ関係にある企業であって 国アプライド社との間に,雇用関係に類似する関係があるともいえない。 b 親会社と子会社を同視すべきでないこと親子会社のように,グループ関係にある企業であっても,法に特別な規定がない限りは,別個独立した者と扱うべきであり,グループの一企業の内部の雇用関係を他のグループ関係にある企業との雇用関係と同視すべきではない。 仮にグループ間の関係を広義の雇用関係若しくは委任関係に類するものとして課税するのであれば,少なくとも税法上明文のみなし規定が必要である。 c まとめ以上より,原告と米国アプライド社との間には,雇用契約又はこれに類する原因は存在せず,雇用類似要件を充足しない。 (イ) 対価性要件a ストック・オプションの権利行使益の発生の有無及び額の多寡の偶発性株価は,将来予想される企業の業績のみならず,金利,為替,株価格付け,国際情勢など様々な要素により形成されていくものである。 また,付与されたストック・オプションをいつ行使するかという被付与者の投資判断によっても,権利行使益の発生の有無及び額の多寡は左右される。 以上のように,ストック・オプションの権利行使益の発生の有無及び額の多寡は,様々な要素により形成される株価の変動と被付与者の投資判断という偶発的な要素により大きく左右されるものであり,原告の労務の提供と本件権利行使益との間には,原告の精勤により,結果として米国アプライド社の株価が上昇するという相関関係は全く認められない。 b ストック・オプションの権利行使益は市場から得られるものであること原告 より,結果として米国アプライド社の株価が上昇するという相関関係は全く認められない。 b ストック・オプションの権利行使益は市場から得られるものであること原告が米国アプライド社から与えられたのは,ストック・オプションという権利そのものである。 そして,ストック・オプションの権利行使益は,与えられたオプションの含み益にすぎず,その含み益は,上記aの株価の変動に影響を与える様々な要素や被付与者の投資判断の結果として,市場から得られたものであり,米国アプライド社から給付されたものではない。 c まとめ以上より,本件権利行使益は,様々な要素により形成される株価の変動と原告自身の権利行使時期に関する判断という偶発性に大きく起因するものであり,原告の精勤と株価の上昇との相関関係は認められない上,米国アプライド社から原告に与えられた経済的利益ではなく,市場から与えられた含み益にすぎないのであるから,対価性要件も充足しない。 エ小括以上より,本件ストック・オプションの権利行使益は,対価性要件,雇用類似要件のいずれをも欠いているので,給与所得に該当しない。 (3) 本件権利行使益の一時所得該当性ア一時所得該当性の要件当該所得が,一時所得に該当するというためには,①利子所得,配当所得,不動産所得,事業所得,給与所得,退職所得,山林所得,譲渡所得以外の所得であること(利子所得等非該当性),②営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得であること(一時性,偶発性),③労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないこと(非対価性)が必要である。 イ本件についての 的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得であること(一時性,偶発性),③労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないこと(非対価性)が必要である。 イ本件についてのあてはめ(ア) ①(利子所得等非該当性)について上記(2)のとおり,本件権利行使益は給与所得に該当せず,また,利子所得等の他の所得にも該当しない。 したがって,本件ストック・オプションの権利行使益は,上記アの①の要件を充足する。 (イ) ②(一時性,偶発性)について本件ストック・オプションは,米国アプライド社の任意の意思で,一方的に決定・付与されるものであり,付与の翌年には再度の付与が行われる保証はどこにもなく,ストック・オプションの付与自体が臨時的な給付である。 また,上記(2)ウ(イ)で述べたとおり,権利行使益の発生の有無及び額の多寡は,株価の変動に影響を与える様々な要素と被付与者の投資判断という偶発的な要素により大きく左右される。 かかる偶発的な要素によって実現するストック・オプションの権利行使益が,偶発性を有する所得であることは明らかであり,上記アの②の要件も充足する。 (ウ) ③(非対価性)について上記(2)ウ(イ)で述べたとおり,ストック・オプションの権利行使益の発生の有無及び額の多寡は,様々な要素により形成される株価の変動と被付与者の投資判断という偶発的な事情により大きく左右されるのであり,原告の労務の提供と本件権利行使益との間には,原告の精勤の結果,米国アプライド社の株価が上昇するという相関関係は全く認められない。 また,ストック・オプション されるのであり,原告の労務の提供と本件権利行使益との間には,原告の精勤の結果,米国アプライド社の株価が上昇するという相関関係は全く認められない。 また,ストック・オプションの権利行使益は,与えられたオプションの含み益にすぎず,その含み益は,市場から得られたものであり,付与会社(米国アプライド社)から給付されたものではない。 したがって,株価の上昇により発生するストック・オプションの権利行使益を役務提供の対価ということはできず,上記アの③の要件も充足する。 ウ小括以上より,本件権利行使益は,一時所得に該当する。 (4) 雑所得非該当性ア本件更正処分が適法要件を具備していないこと課税処分が適法であるためには,実体上の適法要件と手続上の適法要件が具備されていなければならない。 (ア) 実体上の適法要件についてまず,上記(3)で述べたとおり,本件権利行使益は,一時所得に該当する以上,雑所得には該当しない。 したがって,本件更正処分は,雑所得の実体上の適法要件を具備していない。 (イ) 手続上の適法要件について法154条2項は,更正通知書には,その年分の総所得金額,所得控除額,純損失金額等について法2条1項21号に規定する所得別の内訳を記載しなければならない旨規定しているところ,本件更正処分の更正通知書には,給与所得との記載はあるが雑所得との記載はない。 したがって,本件権利行使益が雑所得に該当するのであれば,法154条2項の手続要件を具備していないこととなる。 イ課税庁の対応の矛盾雪谷税務署長は したがって,本件権利行使益が雑所得に該当するのであれば,法154条2項の手続要件を具備していないこととなる。 イ課税庁の対応の矛盾雪谷税務署長は,ある納税者が,ストック・オプションの権利行使益を雑所得として申告したところ,これを給与所得とする更正処分を行った(甲75)。 本件権利行使益を雑所得と解するのは,上記課税庁の対応と矛盾する。 ウ小括以上より,本件権利行使益が雑所得に該当する余地はない。 (5) 総括以上の次第で,本件権利行使益は,給与所得,雑所得には該当せず,一時所得に該当する。 2 争点2(理由不備)について(原告の主張)本件更正処分の通知書には,理由の記載が全くないから,本件更正処分は違法である。 (被告の主張)更正の理由の附記が必要となるのは,法定の帳簿書類の記載に基づいて計上される青色申告書提出承認のあった所得(不動産所得,事業所得,山林所得)に係る更正のあった場合に限られると考えるべきであり,給与所得に係る本件更正処分の通知書に理由を附記しなかったことは適法である(法155条2項参照)。 3 争点3(課税所得金額及び納付すべき税額)について(被告の主張)(1) 本件権利行使益が給与所得に該当する場合原告の平成11年分の課税所得金額及び納付すべき税額は,次のとおりであり,本件更正処分に係る課税所得金額,納付すべき税額と同額であるから,本件更正処分は適法である。 ア課税所得金額 1億0793万8000円上記の金額は,次の(ア)の金額から(イ)の金額を控除した後の金額(ただし,国税通則法118条1項により1000 適法である。 ア課税所得金額 1億0793万8000円上記の金額は,次の(ア)の金額から(イ)の金額を控除した後の金額(ただし,国税通則法118条1項により1000円未満の端数切捨て後のもの。)である。 (ア) 総所得金額 1億1090万6036円上記の金額は,次のa及びbの金額の合計額である。 a 給与所得金額合計1億1051万4349円次の(a)ないし(c) の各給与収入金額の合計額から法28条3項に規定する給与所得控除額を同条2項の規定に基づいて控除した後の金額である。 (a) 日本アプライド社からの給与収入金額1360万2881円(b) 日本ノベラシステムズ株式会社からの給与収入金額1132万5225円(c) 本件ストック・オプションの権利行使に係る米国アプライド社からの給与収入金額(本件ストック・オプションの権利行使益の額)9319万2262円b 不動産所得金額 39万1687円(イ) 所得控除金額 296万7497円イ納付すべき税額 3249万9000円上記金額は,次の(ア)の金額から(イ)及び(ウ)の金額の合計額を差し引いた後の金額である(ただし,国税通則法119条1項の規定により100円未満の端数切捨て後のもの。)。 (ア) 課税総所得金額に対する税額 3744万7060円(イ) 定率減税額 25万円(ウ) 源泉徴収税額 469万7996円(2) 本件権利行使益が雑所得に該当する場合 課税総所得金額に対する税額 3744万7060円(イ) 定率減税額 25万円(ウ) 源泉徴収税額 469万7996円(2) 本件権利行使益が雑所得に該当する場合原告の平成11年分の課税所得金額及び納付すべき税額は,次のとおりであり,本件更正処分に係る課税所得金額,納付すべき税額を上回ることとなるから,本件更正処分は適法である。 ア課税所得金額 1億1259万8000円上記の金額は,次の(ア)の金額から(イ)の金額を控除した後の金額(ただし,国税通則法118条1項により1000円未満の端数切捨て後のもの。)である。 (ア) 総所得金額 1億1556万5649円上記の金額は,次のaないしcの各金額の合計額である。 a 給与所得金額 2198万1700円上記金額は上記(1)ア(ア)a(a)及び(b) の各給与収入金額の合計額から法28条3項に規定する給与所得控除額を同条2項の規定に基づいて控除した後の金額である。 b 不動産所得金額 39万1687円c 雑所得金額 9319万2262円上記金額は,本件権利行使益の額と同額である。 (イ) 所得控除金額 296万7497円イ納付すべき税額 3422万3200円上記金額は,次の(ア)の金額から(イ)及び(ウ)の金額の合計額を差し引いた後の金額である(ただし,国税通則法119条1項の規定により100円未満の端数切捨て後のもの。)。 (ア) 課税総所得金額に対する税額 3917万1260円(イ) 定率減税額 25万円 る(ただし,国税通則法119条1項の規定により100円未満の端数切捨て後のもの。)。 (ア) 課税総所得金額に対する税額 3917万1260円(イ) 定率減税額 25万円(ウ) 源泉徴収税額 469万7996円(原告の主張)被告の主張のうち,日本アプライド社からの給与収入金額,日本ノベラシステムズ株式会社からの給与収入金額,不動産所得金額,本件権利行使益の額など,課税所得金額及び納付すべき税額の算出の基礎となる金額自体については争わないが,課税所得金額及び納付すべき税額は,本件権利行使益を一時所得に区分した上で算出されるべきであるから,本件権利行使益を給与所得ないしは雑所得に区分して算出された総所得金額及び納付すべき税額は争う。 本件権利行使益を一時所得に区分して課税所得金額及び納付すべき税額を算出すると,課税所得金額は6558万2000円,納付すべき税額は1682万7300円となる。 したがって,本件更正処分のうち,上記課税所得金額及び納付すべき税額を超える部分は違法である。 4 争点4(国税通則法65条4項の「正当な理由」の有無)について(原告の主張)(1) 国税通則法65条4項の「正当な理由」の意義国税通則法が,過少申告をした者に対し,過少申告加算税を課すこととしている趣旨は,過少申告をした者に対し,行政上の制裁を加え,申告秩序を維持する必要があるためである。 したがって,国税通則法65条4項の「正当な理由」がある場合とは,申告秩序を維持するために行政上の制裁を課すことが相当でない事情が存した場合をいうと解すべきである。 (2) 本件についてのあてはめア課税庁は,昭和59年ころから平成11年中ごろまで を維持するために行政上の制裁を課すことが相当でない事情が存した場合をいうと解すべきである。 (2) 本件についてのあてはめア課税庁は,昭和59年ころから平成11年中ごろまで,ストック・オプションの権利行使益の所得区分につき,一時所得であるとの見解を採っており,これを公的見解として表示していた。 ところが,課税庁は,平成11年の中ごろから,ストック・オプションの権利行使益の所得区分につき,突如,給与所得として過去に遡って更正処分を行うようになった。 イ平成14年6月に通達変更がなされるまで,海外親会社から日本子会社の従業員等に付与されたストック・オプションの課税に関し,通達を含め,明文の規定は一切存在しておらず,現在に至っても,明文を定めた法令は一切存在しない。 ウそうすると,海外親会社から日本子会社の従業員等に付与されたストック・オプションの権利行使益の所得区分については,法の解釈によって判断することとなるが,平成14,15年当時は,同権利行使益の所得区分は一時所得である旨の判決しか存在しなかった。 このような状況にかんがみれば,仮に,海外親会社から日本子会社の従業員等に付与されたストック・オプションの権利行使益が,給与所得に該当するという解釈が正しかったとしても,一時所得という法解釈も十分成り立ち得ることは明らかである。 エ以上の状況にかんがみれば,原告が,司法の判断を信頼してストック・オプションの権利行使益を一時所得として申告したことは,納税者が一時所得として申告することもやむを得ない事情があり,申告秩序を維持するために行政上の制裁を科すことが相当でない事情が存したといえる。 (3) まとめよって,原告が本件権 者が一時所得として申告することもやむを得ない事情があり,申告秩序を維持するために行政上の制裁を科すことが相当でない事情が存したといえる。 (3) まとめよって,原告が本件権利行使益を給与所得として申告しなかったことにつき,国税通則法65条4項に規定する「正当な理由」が存在する。 (被告の主張)(1) 国税通則法65条4項の「正当な理由」の意義「正当な理由」がある場合とは,過少に税額を申告したことが納税者の責めに帰することができない客観的な障害に起因する場合など,当該申告が真にやむを得ない理由によるものであり,納税者に過少申告加算税を課すことが不当若しくは酷になる場合を意味するものであって,その過少申告が納税者の税法の不知又は誤解であるとか,納税者の単なる主観的な事情に基づくような場合までを含むものではないと解すべきである。 (2) 本件についてのあてはめこの点,日本アプライド社は,平成9年以降,課税庁の指導の下,原告を含む従業員等に対し,ストック・オプションの権利行使益を給与所得として申告するよう指導しており,原告は,ストック・オプションの権利行使益が給与所得に該当するという課税庁の公的見解を認識し,平成9年分の所得税の確定申告の際には,米国アプライド社から得たストック・オプションの権利行使益を給与所得として申告した。 しかしながら,原告は,平成11年分の所得税の確定申告書には,本件権利行使益を計上せず,その後,訴訟を提起する前提で,当該所得を一時所得として修正申告をしたものである。 これらの事実に照らせば,原告が,本件権利行使益を給与所得とする課税庁の公的見解を承知した上で,独自の判断に基づき,本件権利行使益を一時所得として修正申告を行 告をしたものである。 これらの事実に照らせば,原告が,本件権利行使益を給与所得とする課税庁の公的見解を承知した上で,独自の判断に基づき,本件権利行使益を一時所得として修正申告を行ったことは明らかである。 したがって,本件においては,原告が本件権利行使益を給与所得として申告しなかったことが,真にやむを得ない理由によるものであり,原告に過少申告加算税を課すことが不当若しくは酷な場合にあたるとはおよそいい得ない。 (3) まとめよって,原告が本件権利行使益を給与所得として申告しなかったことにつき,国税通則法65条4項に規定する「正当な理由」は存在しない。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(本件権利行使益の所得区分)について(1) はじめにア所得区分の検討順序について本件訴訟においては,本件権利行使益が,給与所得,一時所得,雑所得のいずれに該当するかが問題となっているところ,前記第2の2(8)のとおり,法は,一時所得につき,利子所得,配当所得,不動産所得,事業所得,給与所得,退職所得,山林所得及び譲渡所得以外の所得である旨規定し,雑所得につき,上記8種類の所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得である旨規定している。 すなわち,本件権利行使益が一時所得に該当するというためには,同権利行使益が,給与所得に該当しないことが必要であり,雑所得に該当するというためには,同権利行使益が,給与所得にも一時所得にも該当しないことが必要となる。 したがって,本件権利行使益の所得区分の判断にあたり,まず,同権利行使益が,給与所得に該当するか否かにつき,検討することとする。 イ本件ストック・オプションに係る経済的利益の課税時期 したがって,本件権利行使益の所得区分の判断にあたり,まず,同権利行使益が,給与所得に該当するか否かにつき,検討することとする。 イ本件ストック・オプションに係る経済的利益の課税時期及び課税対象について被告は,本件ストック・オプションに係る経済的利益の課税時期は,本来的に,ストック・オプションに係る権利の行使時であり,その課税対象は,本来的に,本件権利行使益である旨主張している。 これに対し,原告も,ストックオプション自体の価値の算定が困難であることを理由に,本件ストック・オプションに係る経済的利益の課税時期がストック・オプションに係る権利の行使時であり,その課税対象が本件権利行使益であること自体は争わない。 したがって,当裁判所も,本件ストック・オプションに係る経済的利益の課税時期を権利行使時とし,課税対象を本件権利行使益とすることを前提として,以下,本件権利行使益が,給与所得,一時所得,雑所得のいずれに該当するかを検討していくこととする。 もっとも,原告は,理論的には,本件ストック・オプションに係る経済的利益の課税時期をストック・オプション付与時,課税対象をストック・オプションそのものと解する余地が十分にある(実務上,上記のような課税をしないのは,ストックオプション自体の価値の算定が困難であるからにすぎない。)から,課税時期をストック・オプションに係る権利の行使時,課税対象を本件権利行使益とするのであれば,給与所得ではなく,一時所得として課税すべきである(給与所得として課税するのであれば,課税時期をストックオプション付与時,課税対象をストックオプション自体とすべきである。)旨主張するので,その点については,別途,後記(6)で検討することとする。 (給与所得として課税するのであれば,課税時期をストックオプション付与時,課税対象をストックオプション自体とすべきである。)旨主張するので,その点については,別途,後記(6)で検討することとする。 (2) 給与所得該当性の要件ア雇用類似要件及び対価性要件最高裁昭和56年判決は,「給与所得とは雇傭契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいう」と判示している。 したがって,ある所得が給与所得に該当するというためには,①雇用契約又はこれに類する原因に基づき,使用者の指揮命令に服して,労務を提供したこと,②当該所得が,所得者の提供した労務の対価であるといえることの2つの要件を充足する必要があると解するのが相当である。 イ使用者と支給者の一致(ア) 他方,最高裁昭和56年判決は,上記アのとおり,給与所得とは,「使用者」の指揮命令に服して提供した労務の対価として,「使用者」から受ける給付である旨判示しており,使用者と経済的利益の支給者(以下,単に「支給者」という。)が一致していることを前提としている。 そこで,給与所得該当性の3番目の要件として,使用者と支給者の一致が必要であるか否かにつき検討する。 (イ) まず,法28条1項は,給与所得の意義につき,「俸給,給料,賃金,歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る所得」と規定するにとどまり,その文言上,使用者と支給者が一致することを要求していない。 (ウ) また,法は,所得の性質や発生の態様によって,その所得が有する担税力が異なるという前提に立ち,租税の公平負担という観点から,10種類の所得区分を設け, ることを要求していない。 (ウ) また,法は,所得の性質や発生の態様によって,その所得が有する担税力が異なるという前提に立ち,租税の公平負担という観点から,10種類の所得区分を設け,それぞれの担税力に応じた所得額の計算方法を定めているところ,従業員等が,上記アの①,②の要件を充足する経済的利益を得ている場合,支給者が使用者であるかそれ以外の者であるかという支給者の違いによって,当該所得の担税力に差が生じるとは考えられない。 すなわち,支給者の違いにより,所得区分が変わり,その結果,税額の計算方法が異なることに合理性があるとはいえない。 (エ) さらに,最高裁昭和56年判決は,使用者と支給者がもともと一致していた事案であり,使用者と支給者の一致が給与所得該当性の要件であるか否かについては何ら争点になっていない。 最高裁昭和56年判決は,使用者と支給者が一致している通常の形態を想定してなされた判示とみるべきであって,使用者と支給者が異なる場合の給与所得該当性を否定する趣旨ではないと解すべきである。 (オ) 以上の各点にかんがみれば,使用者と給与の支給者の一致は,給与所得該当性の要件ではないと解するのが相当である。 ウ小括以上より,給与所得該当性の要件は,上記アの雇用類似要件及び対価性要件のみであり,使用者と支給者の一致は給与所得該当性の要件とはならないと解するのが相当である。 もっとも,使用者と支給者が異なる場合には,支給者から給付された経済的利益が,真に,使用者に対する労務の提供の対価といえるのか疑問のある場合もあり,一般的には,使用者と支給者の不一致は,役務提供の対価性(対価性要件)を否定す 異なる場合には,支給者から給付された経済的利益が,真に,使用者に対する労務の提供の対価といえるのか疑問のある場合もあり,一般的には,使用者と支給者の不一致は,役務提供の対価性(対価性要件)を否定する一事情となり得ることは否定できない。 したがって,本件において,使用者と支給者の不一致が,役務提供の対価性を否定する事情となるかについては,別途,後記(4)エにおいて検討することとする。 (3) 雇用類似要件についての検討前記第2の2(1)アのとおり,原告は,昭和59年6月1日から平成11年7月17日まで,日本アプライド社の従業員(退職当時の役職は,○兼○部長であった。)として稼働していた。 したがって,原告が,日本アプライド社との雇用契約に基づき,同社の指揮命令に服して,労務の提供を行っていたことは明らかであり,雇用類似要件を充足する。 (4) 対価性要件についての検討アはじめに上記(3)のとおり,本件においては,原告と日本アプライド社との雇用関係をもって,雇用類似要件を充足することとなる以上,対価性要件をも充足するというためには,本件権利行使益が,原告の日本アプライド社に対する役務提供の対価として給付されたものである必要がある。 ところで,本件においては,原告の使用者が日本アプライド社である一方,本件権利行使益が,日本アプライド社から給付されたものではないこと,すなわち,使用者と給付者が一致しないことは明らかである。 そこで,以下,①本件権利行使益の給付者は誰か,②給付者はいかなる目的・意図で同権利行使益を原告に給付したのか,③本件において,使用者と支給者の不一致が対価性要件を否定する事情となるかに そこで,以下,①本件権利行使益の給付者は誰か,②給付者はいかなる目的・意図で同権利行使益を原告に給付したのか,③本件において,使用者と支給者の不一致が対価性要件を否定する事情となるかにつき検討した上で,本件権利行使益が,原告の日本アプライド社に対する役務提供の対価として給付されたものといえるかにつき判断する。 イ本件権利行使益の給付者(ア) まず,ストック・オプション付与契約の法的性格であるが,これは,付与会社が,従業員等に対し,株式の権利行使時における時価と権利行使価格との差額に相当する経済的利益を取得させるため,付与会社と従業員等との間の雇用契約等(親会社が子会社の従業員等に付与する場合は,子会社と従業員等との間の雇用契約等)を不可欠の前提として締結される売買(株式譲渡)の一方の予約に類似する契約であると解するのが相当である。 (イ) そして,従業員等の地位にあるストック・オプションの被付与者がストック・オプション(予約完結権)を行使すると,株式譲渡契約(本契約)が成立し,被付与者は,付与会社から株式を取得することにより,権利行使時における株式の時価と権利行使価格との差額に相当する経済的利益を得ることとなる。 これに対し,付与会社は,もし,被付与者との間でストック・オプション契約を締結していなければ,株式を被付与者に安値で発行せずに,市場において,時価で発行することができ(新株の有償発行),その結果,時価相当額の金員を得られたはずであるが,被付与者とストック・オプション契約を締結し,被付与者がストック・オプションに係る権利を行使した結果,実質的に,権利行使時の時価相当額と権利行使価格の差額に相当する金員分の損失を被ることとなる。 すなわ ン契約を締結し,被付与者がストック・オプションに係る権利を行使した結果,実質的に,権利行使時の時価相当額と権利行使価格の差額に相当する金員分の損失を被ることとなる。 すなわち,付与会社は,権利行使時における株式の時価と権利行使価格との差額に相当する経済的利益を得る地位を喪失する(得べかりし利益を喪失する)こととなるのである。 (ウ) 上記の付与会社と被付与者の経済的利益の得喪関係にかんがみれば,ストック・オプションの権利行使益は,被付与者の権利行使により,付与会社から被付与者に移転する,すなわち,付与会社が,被付与者に対し,ストック・オプション付与契約に基づき,権利行使時における時価と権利行使価格との差額に相当する経済的利益を給付したものと解するのが相当である。 (エ) よって,本件においても,本件ストック・オプションの付与会社である米国アプライド社が,被付与者たる原告に対し,本件権利行使益を給付したものといえる。 ウ本件権利行使益の給付の意図・目的(ア) 一般論a ストック・オプション制度の特色からの検討(a) 前記第2の2(2)イのとおり,ストック・オプション制度は,長期インセンティブ報酬制度の一種であり,会社が,従業員等に対し,ストック・オプションを付与するのは,従業員等の付与会社に対する精勤意欲の向上,優秀な人材の確保及び流出の防止,付与会社の業績の向上を図ることが期待できるからである。 すなわち,付与会社が,被付与者に対し,将来の株価の値上がり益(権利行使益)を取得させることを約束すれば,被付与者は,付与会社に対して精勤を行うことが動機付けられ,付与会社の株価の上昇に貢献すべく,付与会社に精 与会社が,被付与者に対し,将来の株価の値上がり益(権利行使益)を取得させることを約束すれば,被付与者は,付与会社に対して精勤を行うことが動機付けられ,付与会社の株価の上昇に貢献すべく,付与会社に精勤することとなり,付与会社としても,優秀な人材に対し,一定期間の勤務の継続を条件として,ストック・オプションを付与することにより,優秀な人材の確保及び流出の防止を図ることができる。 特に,被付与者が,複数年にわたり,ストック・オプションの付与を受けている場合,前年度に権利行使益を取得した者は,次年度は,前年度を上回る権利行使益を取得すべく,付与会社の株価上昇のために,より一層の精勤を果たすことの動機付けになると考えられる。 そして,付与会社は,精勤意欲の高い優秀な人材が増え,これらの者による精勤が得られることにより,業績の向上が期待できることとなる。 (b) この点,上記イ(イ)のとおり,付与会社は,被付与者の権利行使の結果,権利行使時の時価相当額と権利行使価格との差額に相当する金員分の損失を被ることとなるが,営利企業たる付与会社が,何らの見返りもなくかかる損失を負担するとは考え難く,付与会社が被付与者に権利行使益を取得させるのは,被付与者の勤務先会社における役務の提供及び今後の精勤の継続に,付与会社が着目しているからにほかならない。 (c) 他方,被付与者も,自らの精勤が,付与会社の業績の向上及び株価の上昇に貢献し,その株価の上昇が権利行使益の額の増加につながり得るからこそ,精勤を動機付けられるのであり,もし,自らの精勤が,付与会社の株価に何らの影響も与えないのであれば,被付与者が精勤を動機付けられることはないのである。 増加につながり得るからこそ,精勤を動機付けられるのであり,もし,自らの精勤が,付与会社の株価に何らの影響も与えないのであれば,被付与者が精勤を動機付けられることはないのである。 (d) 以上のとおり,ストック・オプション制度は,従業員等の精勤意欲の向上→付与会社の業績の向上→従業員等のさらなる精勤意欲の向上→付与会社の一層の業績の向上という好循環をもたらし,その結果として,付与会社・被付与者の双方が恩恵を被ることができるという点に着目した制度であるといえる。 b ストック・オプション行使の条件からの検討(a) 前記第2の2(2)ウのとおり,通常,ストック・オプション付与の対象者は,付与会社の従業員又はその者の勤務が付与会社の業績に影響を与える者に限られ,ストック・オプションには,一定期間の勤務の継続,権利行使期間,権利行使価格などの条件が付されている。 また,付与されたストック・オプションの譲渡は禁止され,退職等により,雇用契約等が消滅した場合には,ストック・オプションが消滅したり,行使期間が制限されたりする。 (b) したがって,被付与者が,ストック・オプションの権利行使益を得るためには,付与会社に対する一定期間の勤務の継続が必要であり,付与会社も,勤務を継続した者に対してのみ,ストック・オプションに係る権利の行使を認め,被付与者が,権利行使益を取得しているのであり,被付与者の役務の提供と権利行使益の取得は,密接に関連しているといえる。 c まとめ以上の各点に照らせば,付与会社は,被付与者の一定期間の役務の提供に報いるとともに,今後の一層の精勤を期待して,被付与者に対し,権利行使益を給付して c まとめ以上の各点に照らせば,付与会社は,被付与者の一定期間の役務の提供に報いるとともに,今後の一層の精勤を期待して,被付与者に対し,権利行使益を給付しているものと解するのが相当である。 (イ) 米国アプライド社の本件権利行使益の給付の意図・目的a 米国アプライド社のストック・オプション制度の特徴ないし付されている条件などは,ストック・オプション制度一般の特徴ないし付されている条件などと基本的には同様である(前記第2の2(3))。 したがって,米国アプライド社は,上記(ア)の一般のストック・オプション制度と同様,原告の日本アプライド社に対する一定期間の役務の提供に報いるとともに,今後の一層の精勤を期待して,原告に対し,本件権利行使益を給付したものと考えるのが相当である。 b なお,本件においては,上記(3)のとおり,原告の使用者(役務の提供先)は日本アプライド社であり,上記イのとおり,本件権利行使益の支給者は米国アプライド社である。 すなわち,原告と支給者たる米国アプライド社との間には,直接の雇用関係はなく,原告は,日本アプライド社に対し,役務を提供しているのみであり,支給者たる米国アプライド社に対しては,直接に役務を提供しているわけではない点で,本件ストック・オプションは,通常のストック・オプション制度と異なる。 そこで,本件において,なぜ,米国アプライド社は,別会社である日本アプライド社に役務を提供する原告に対し,役務提供の対価として本件権利行使益を給付するのか,別会社である日本アプライド社に対する役務の提供につき,本件権利行使益を給付するのは不自然ではないかという アプライド社に役務を提供する原告に対し,役務提供の対価として本件権利行使益を給付するのか,別会社である日本アプライド社に対する役務の提供につき,本件権利行使益を給付するのは不自然ではないかという点につき,以下検討する。 エ使用者と支給者の不一致について(ア) 一般的に,親会社は,子会社の株式を保有するという形で,子会社そのものをいわば資産の一部として保有しており,子会社の業績の向上は,親会社の資産の増加につながり,ひいては,それが親会社の業績の向上,株価の上昇にもつながり得ることとなる。 すなわち,子会社の従業員等の精勤の継続が,親会社の利益につながり得るという関係にあるのである。 このことは,親会社が子会社の株式の100パーセントを保有している場合にはなおさら妥当するものである。すなわち,親会社が子会社の株式の100パーセントを所有している場合には,子会社の損益がそのまま親会社の連結決算に計上される。そして,日本を初めとする世界の主要国は,会社の業績を評価するに際しては,単独決算ではなく,連結決算によっているのが実情である。 (イ) この点,前記第2の2(1)ウのとおり,日本アプライド社は,米国アプライド社の100パーセント子会社であるところ,米国アプライド社は,まさに上記(ア)の点に着目して,日本アプライド社の従業員たる原告に対し,同社に対する一定期間の役務の提供に報いるとともに,今後の一層の精勤の継続を期待して,本件権利行使益を給付しているものと認められる。 (ウ) また,米国アプライド社が,日本アプライド社のすべての株式を保有しているため,日本アプライド社は,自社株式を保有しておらず,かつ同社の株式には市場における換価性がない る。 (ウ) また,米国アプライド社が,日本アプライド社のすべての株式を保有しているため,日本アプライド社は,自社株式を保有しておらず,かつ同社の株式には市場における換価性がない。 したがって,日本アプライド社が自社株式を用いたストック・オプション制度を構築するのはおよそ不可能であり,日本アプライド社の従業員等は,米国アプライド社のストック・オプション制度を利用するほかないのである。 (エ) 以上より,米国アプライド社が,日本アプライド社の従業員たる原告に対し,ストック・オプションを付与することには,合理的な理由があるというべきであり,本件における使用者と支給者の不一致は,対価性要件を否定する事情とはなり得ない。 オ小括上記イないしエで検討してきたとおり,本件権利行使益は,米国アプライド社から原告に給付されたものであるといえること,米国アプライド社は,原告の日本アプライド社に対する一定期間の役務の提供に報いるとともに,今後の一層の精勤の継続を期待して,同権利行使益を給付していること,原告から直接に役務の提供を受けていない米国アプライド社が,原告に対し,本件権利行使益を給付することには,合理的な理由があることからすれば,本件権利行使益は,原告の日本アプライド社に対する役務提供の対価として給付されたものと認めるのが相当である。 (5) 総括以上の次第で,本件権利行使益は,雇用類似要件,対価性要件の双方を充足するから,給与所得に該当する。 (6) 前記判断に反する原告主張の検討ア原告主張の要旨原告は,①ある所得が給与所得に該当するというためには,使用者と支給者が一致する必要がある,②原告と米国アプ (6) 前記判断に反する原告主張の検討ア原告主張の要旨原告は,①ある所得が給与所得に該当するというためには,使用者と支給者が一致する必要がある,②原告と米国アプライド社との間には,雇用契約又はそれに類する関係が存在せず,また,原告と日本アプライド社との雇用関係を米国アプライド社との雇用関係に類するものとして扱って課税すべきではないから,雇用類似関係を充足しない,③権利行使益が発生するか否か及び発生するとして額が幾らになるかは多分に偶発性を有し,役務の提供の質ないし量とは相関関係がなく,かつ,同権利行使益は市場から得られるものであり,付与会社から得られるものではないから,対価性要件も充足しない,④擬似ストック・オプションやストック・オプションの相続に関する課税状況にかんがみれば,ストック・オプションに係る経済的利益に関する課税については,課税時期をストック・オプション付与時,課税対象をストック・オプション自体とする余地がある以上,給与所得としては,課税時期を権利行使時,課税対象を権利行使益として課税すべきではないなどと主張して,本件権利行使益は,給与所得には該当しない旨主張するので,以下,検討する。 イ ①について使用者と支給者の一致が給与所得該当性の要件とはならないことは,上記(2)イで述べたとおりである。 したがって,①の主張は採用できない。 ウ ②について(ア) 原告と支給者たる米国アプライド社との間には,雇用類似関係がないとの点についてa 上記(2)イで述べたとおり,使用者と支給者の一致は給与所得該当性の要件とはならない以上,雇用類似関係の要件につき,必ずしも支給者と被支給者との間に雇用類似関係を要すると考える必 a 上記(2)イで述べたとおり,使用者と支給者の一致は給与所得該当性の要件とはならない以上,雇用類似関係の要件につき,必ずしも支給者と被支給者との間に雇用類似関係を要すると考える必要はない。 支給者と被支給者との間に雇用類似関係が存在しない点は,対価性要件の検討の際に,支給者は,被支給者に対し,支給者とは別の者との雇用類似関係に基づく役務の提供の対価を給付したといえるか,なぜ,支給者と被支給者との間には,雇用類似関係がないにもかかわらず,支給者が給与を支給したといえるのか,という観点から検討されれば足りると解すべきである(なお,本件においては,上記(4)イないしエのとおり,米国アプライド社が原告に本件権利行使益を給付することには合理的な理由があるといえ,米国アプライド社が,原告に対し,日本アプライド社に対する役務の提供の対価として,本件権利行使益を給付したものといえる。)。 b したがって,原告と米国アプライド社との間に雇用類似関係がないことを雇用類似要件否定の理由とする原告の主張は採用できない。 (イ) 原告と日本アプライド社との雇用関係を原告と米国アプライド社との雇用関係に類するものと扱うべきではないとの点についてa 当裁判所は,上記(2)ないし(5)のとおり,米国アプライド社が,原告に対し,日本アプライド社に対する役務の提供の対価として,本件権利行使益を給付したことを理由に,同権利行使益の給与所得該当性を肯定したものであり,原告と日本アプライド社との雇用関係を原告と米国アプライド社との雇用関係に類するものと扱って給与所得該当性を肯定しているものではない。 b したがって,原告と日本アプライド社との雇用関係を原告と米国アプラ 用関係を原告と米国アプライド社との雇用関係に類するものと扱って給与所得該当性を肯定しているものではない。 b したがって,原告と日本アプライド社との雇用関係を原告と米国アプライド社との雇用関係に類するものと扱うべきではないとの原告の主張は理由がない。 (ウ) 小括以上より,②の主張は採用できない。 エ ③について(ア) 役務の提供と権利行使益の発生の有無及び額の多寡との間には相関関係がないとの点についてa 確かに,ストック・オプションの権利行使益が発生するか否か及び発生するとしてその額が幾らになるかは,金利,為替,国際情勢などの様々な株価を形成する要素や被付与者の権利行使時期の判断に左右されるから,被付与者が勤務先会社に対して提供した労務の質ないし量とストック・オプションの権利行使益の発生の有無及びその額との関係は間接的かつ希薄であるといわざるを得ない。 しかし,ストック・オプションの場合に限らず,通常の給与,賞与等であっても,その額は,会社を取り巻く経済状況,勤続年数など,個々の従業員等が現実に提供した役務の質ないし量と関係の希薄な要素によって決定されることがあるのであり,必ずしも個々の従業員等の提供する役務の質ないし量によって決定されるとは限らない。上場会社のような大企業については,このことは明らかであろう。 したがって,従業員等が提供した役務の質ないし量とこれに対して支給される経済的利益の多寡との間の相関関係が希薄であることは,当該経済的利益が役務の提供の対価といえるか否かを判断する上での一つの考慮要素になることはあり得るとしても,そのことのみをもって,現に発生した所得が給与所得に該 寡との間の相関関係が希薄であることは,当該経済的利益が役務の提供の対価といえるか否かを判断する上での一つの考慮要素になることはあり得るとしても,そのことのみをもって,現に発生した所得が給与所得に該当することを否定することはできないものというべきである。 b また,様々な要素によって株価が形成されるものであるとしても,当該会社の業績が,当該会社の株価を形成する重要な要素の一つであることは明らかであり,会社の業績が従業員等の提供した役務の集合した成果であることにかんがみれば,従業員等の当該会社における精勤の継続が,会社の業績の向上,株価の上昇に貢献し得るという関係にあるというべきである。 そもそも,従業員等の精勤の継続が株価に全く影響を与えないのであれば,従業員等が会社に対する精勤を動機付けられることはないのであり,ストック・オプション制度自体が成り立たないものとなってしまう。 c そして,上記(3)ウで述べたとおり,被付与者の一定期間の役務の提供に報いるとともに,今後の一層の精勤を動機付ける趣旨,目的のためにストック・オプションが付与された以上,仮に,被付与者である従業員等の精勤の継続が,勤務先会社の業績の向上や付与会社の株価の上昇に十分に結びつかず,結果的に,権利行使益が生じなかったり,権利行使益の額が予想と異なったりしたとしても,被付与者である従業員等の勤務先会社における精勤の継続を動機付けるという趣旨,目的からストック・オプションが付与されたという事実が左右されるものではなく,現実に発生した権利行使益が,そのような動機付けにより従業員等が精勤を継続したことに対する報奨として支払われるものであるという点に変わりはない。 d また,所得の担税力には,所 現実に発生した権利行使益が,そのような動機付けにより従業員等が精勤を継続したことに対する報奨として支払われるものであるという点に変わりはない。 d また,所得の担税力には,所得の性質や発生の態様の違いにより担税力の大きさは異なるという質的担税力と,所得の性質や発生の態様が同じである場合であっても,所得の額の多寡により,担税力の大きさは異なるという量的担税力が存在するが,質的担税力の違いこそが,所得区分の判断に影響を与えるものであり,量的担税力の違いは,基本的には所得区分の判断には影響を与えないと解するのが相当である。 すなわち,法が,10種類の所得区分を設けているのは,資産性所得か勤労性所得か,一時的な所得か継続的な所得かなど,所得の性質や発生の態様によって質的担税力が異なることに着目し,各種の所得について,それぞれ質的担税力の相違に応じた計算方法及び課税方法を定め,租税の公平負担を実現するためである。 そして,上記のように,所得区分の分類は,所得の性質や発生の態様の違い,すなわち質的担税力の違いにより変わってくるものであって,高い所得か低い所得かという量的担税力の違いで変わることはないのである。 したがって,本件においては,なぜ,原告が権利行使益を享受し得る地位を付与されているのかという点,すなわち,原告は,日本アプライド社に対し,役務を提供しているからこそ,権利行使益を享受し得る地位を付与されたという点が,所得区分の判断の基礎となる質的担税力に影響を与えることとなる。 これに対し,権利行使益が発生するか否か,発生するとしてその額が幾らになるかという点は,量的担税力には影響するものの,質的担税力とは無関係である に影響を与えることとなる。 これに対し,権利行使益が発生するか否か,発生するとしてその額が幾らになるかという点は,量的担税力には影響するものの,質的担税力とは無関係であるから,所得区分の判断には影響を与えないこととなる。 e 以上より,役務の提供と権利行使益の発生の有無及び額の多寡との間の相関関係が希薄であることを対価性要件否定の理由とする原告の主張は採用できない。 (イ) 支給者は米国アプライド社ではないとの点についてa 確かに,本件権利行使益は,直接的には,市場から得られた利益であるが,上記(4)イで述べたとおり,米国アプライド社が,原告の権利行使時における株式の時価と権利行使価格との差額に相当する経済的利益を得る地位を喪失したからこそ,原告は,同権利行使益を取得できたものであり,実質的には,米国アプライド社が同権利行使益を給付したものといえる。 b したがって,本件権利行使益の支給者が米国アプライド社ではないとの主張は採用できない。 (ウ) 小括以上より,③の主張は採用できない。 オ ④について(ア) 権利確定主義a 所得税は,経済的利得が生じたところに担税力を認めて課税するものであるから,所得の課税時期は,利得者が自己のために事実上自由に享受し得る経済的利得を得た時点でとらえるのが最も合理的であり,その時点として最も明確な時点は,現実に収入があったときである。 b しかし,常に現実に収入があったときまで課税することができないとしたのでは,納税者の恣意を許し,公平な課税を実現することが困難となる。 c そこで,法36条1項,2項 b しかし,常に現実に収入があったときまで課税することができないとしたのでは,納税者の恣意を許し,公平な課税を実現することが困難となる。 c そこで,法36条1項,2項は,現実の収入がなくても,その収入の原因たる権利が確定的に発生した場合には,その時点で所得の実現があったものとして,その権利発生時点の属する年度の課税所得となるという権利確定主義を採用したものと解するのが相当である。 すなわち,法36条1項が,収入金額又は総収入金額の計算につき,その年において「収入すべき金額」とする旨規定し,「収入した金額」とはしていないことからすると,法は,現実の収入がなくとも,その原因たる権利が確定的に発生した場合には,その時点で所得の実現があったものとして,課税所得を計算するという,いわゆる権利確定主義を採用しているものと解される(最高裁昭和49年3月8日第二小法廷判決・民集28巻2号186ページ参照)。 (イ) ストック・オプション付与時の課税についての検討a ストック・オプションは,上記(4)イで述べたとおり,株式の売買の一方の予約又はこれに類似する法律関係から発生した予約完結権であり,それ自体は,株式の引渡しを請求できる権利ではなく,株式譲渡契約を成立させることのできる権利にすぎない。 また,前記第2の2(3)のとおり,本件ストック・オプションは,譲渡が禁止されているため,予約完結権を行使して権利行使益を取得することが利益を得る唯一の方法であり,ストック・オプションそのものに市場における換価可能性はないから,ストック・オプションの付与を受けた時点で,収入の原因たる権利が確定的に発生したとはいえず,ストック・オプション自体が所得税の担税 ,ストック・オプションそのものに市場における換価可能性はないから,ストック・オプションの付与を受けた時点で,収入の原因たる権利が確定的に発生したとはいえず,ストック・オプション自体が所得税の担税力を増加させる経済的利益たる「所得」に該当するとはいえない。 b したがって,ストック・オプションの付与を受けたからといって,それだけで所得が実現したとはいえず,ストック・オプションに係る経済的利益の課税時期をストック・オプション付与時,課税対象をストック・オプションそのものと考える余地はない。 (ウ) 権利行使可能時の課税についての検討a 権利行使可能時の課税についての考え方も,ストック・オプション付与時の課税と基本的に同様である。 すなわち,たとえ,ストック・オプションに係る権利が行使可能となったとしても,実際に権利を行使しない以上は,ストック・オプションそのものを課税対象と考えざるを得ないところ,上記(イ)で述べたとおり,ストック・オプションそれ自体は,単なる予約完結権にすぎない。 また,前記第2の2(3)のとおり,本件ストック・オプションは,譲渡が禁止されているため,予約完結権を行使して権利行使益を取得することが利益を得る唯一の方法であるところ,単に,権利行使が可能となったというだけでは,収入の原因たる権利が確定的に発生したとはいえない。 権利行使可能時点においては,株式の時価と権利行使価格の差額分の利益が潜在的に生じていたとしても,権利行使を差し控えた結果,その後の株価の変動により,結局,権利行使益が発生しなかったり,少額の権利行使益しか発生しないことは十分考えられるのであり,権利行使をしない限りは,権利行使 ていたとしても,権利行使を差し控えた結果,その後の株価の変動により,結局,権利行使益が発生しなかったり,少額の権利行使益しか発生しないことは十分考えられるのであり,権利行使をしない限りは,権利行使益が発生するか否か確定したとはいえないのである。 b 確かに,ストック・オプション付与時と異なり,権利行使可能時点においては,ストック・オプションに係る経済的利益の算定が比較的容易であり,課税し易い状況になっていることは否定できない。 しかし,実際上,権利行使可能時点における課税を認めると,いまだ利得が現実化していない段階での潜在的利得を所得として課税することとなり,その後の株価の下落のリスクを被付与者に負わせることとなる。 その結果,権利行使可能時点以降の株価下落のリスクを負うことをおそれる被付与者は,権利行使可能となった時点において,事実上,権利行使することを強制されることとなってしまう。 かかる観点からみても,権利行使可能時における課税が妥当であるとは言い難い。 c 以上より,ストック・オプションに係る経済的利益の課税時を権利行使可能時と考える余地もない。 (エ) 権利行使時の課税についての検討結局のところ,権利確定主義によれば,ストック・オプション付与時及び権利行使可能時に課税する余地はないのであり,ストック・オプションについては,権利を行使し,具体的な株式引渡請求権が発生し,享受する権利行使益の価額が確定して初めて,法36条1項の「収入すべき権利」が確定するといえる。 したがって,ストック・オプションに係る経済的利益に対する課税時期は権利行使時,課税対象はスト 益の価額が確定して初めて,法36条1項の「収入すべき権利」が確定するといえる。 したがって,ストック・オプションに係る経済的利益に対する課税時期は権利行使時,課税対象はストック・オプションの権利行使益であることとなる。 (オ) 成功報酬型ワラントについてa もっとも,原告は,課税時期を権利行使時,課税対象をストック・オプションの権利行使益とすることは,成功報酬型ワラントに対する課税についての取扱いと矛盾する旨主張するので,以下,検討する。 b 原告は,いわゆる擬似ストック・オプションのうちの成功報酬型ワラントについては,会社が,従業員等に対し,給与に変えてワラントを無償で支給した時点で,その価額相当部分について給与所得として課税され,支給を受けた従業員等が権利行使をした場合の権利行使益には課税されない取扱いであるとして,本件ストック・オプションについても,理論的には,同様の取扱いをすべきはずである旨主張する。 c しかし,ワラントは,有価証券上の権利として,本来的に譲渡性があり(旧商法341条の14参照),市場における経済的価値を有するため,担税力の点でストック・オプションとは異なる。 すなわち,ワラントは,それ自体有価証券として株式と同様に本来的に譲渡が認められていることから,会社が買い戻したワラントを無償で支給された時点で,ワラントの時価相当部分の経済的利益が実現されたと評価できるのに対し,ストック・オプションの場合には,役務提供等を前提とした譲渡制限付きの契約から生じる一身専属的な権利であって,市場価格がそもそも存在せず,ストック・オプションに係る権利を行使して初めて経済的利益が実現するという違いがある。 務提供等を前提とした譲渡制限付きの契約から生じる一身専属的な権利であって,市場価格がそもそも存在せず,ストック・オプションに係る権利を行使して初めて経済的利益が実現するという違いがある。 なお,ワラント付与時にワラント自体に課税される場合に,権利行使時に権利行使益に課税しない取扱いとされているのは,新株引受権等の価額が将来の権利行使益の現在価値として算定されるために,権利行使時には権利行使益に課税しない扱いとされているにとどまると理解することができ,権利行使時には,発行会社から権利者への実質的な経済的利益の移転がないことまでをも意味するものではないというべきである。 c 以上より,ワラントとストック・オプションとは異なる権利であり,その性質も異なるから,両者で課税関係が異なることに合理的理由があるといえる。 (カ) ストック・オプションの相続についてa 原告は,ストック・オプションを相続した場合,相続時における株価と権利行使価格との差額について相続税を課税する取扱いとされていることを指摘して,ストック・オプション自体が経済的価値を有するものとして課税の対象とすることも,理論的には可能なはずである旨主張する。 b しかし,相続税は,相続人又は受遺者が「相続又は遺贈により取得した財産」(相続税法2条)を課税物件とし,その財産の価額の合計額を課税標準(同法11条の2)とするのであって,実現した所得を課税対象とする所得税とは,その課税対象や課税標準が全く異なる。 c したがって,相続税法上ストック・オプションが課税対象とされたからといって,所得税法上も課税対象とされなければならないものではない。 (キ) 小括 c したがって,相続税法上ストック・オプションが課税対象とされたからといって,所得税法上も課税対象とされなければならないものではない。 (キ) 小括以上より,④の主張は採用できない。 カ総括以上の次第で,原告の①ないし④の主張は,いずれも採用できない。 2 争点2(理由不備)について(1) 法155条2項は,青色申告に係る更正処分につき,居住者の提出した青色申告書に係る年分の総所得金額,退職所得金額,若しくは山林所得金額又は純損失の金額の更正をする場合には,不動産所得,事業所得及び山林所得の金額以外の各種所得の金額の計算,又は損益通算及び損失の繰越控除の規定の適用について誤りがあったことのみに起因するものを除いて更正通知書に更正の理由を附記しなければならない旨規定している。 これは,青色申告書提出承認のある不動産所得,事業所得及び山林所得については,法が,その計算を法定の帳簿書類に基づいて行い,その帳簿書類に基づく実額調査によらないで更正されることのないよう保障している関係上,その更正にあたっては,調査により明らかとなった具体的な処分根拠を明確にする必要があり,かつ,それが妥当であるとしたからである。 (2) 上記法155条2項の規定及びその趣旨にかんがみれば,更正の理由附記が必要となるのは,法定の帳簿書類の記載に基づく実額調査によらなければ更正できない青色申告書提出承認のあった所得に係る更正に限られ,それ以外の部分に関する更正の場合には,特段の理由附記は必要ないものと解するのが相当である(最高裁昭和42年9月12日第三小法廷判決・集民88号387395ページ参照)。 (3) 以上より,原告の給与所得の計 る更正の場合には,特段の理由附記は必要ないものと解するのが相当である(最高裁昭和42年9月12日第三小法廷判決・集民88号387395ページ参照)。 (3) 以上より,原告の給与所得の計算方法に誤りがあるとしてなされた本件更正処分につき,理由を附記しなかったことに違法はない。 3 争点3(課税所得金額及び納付すべき税額)について前記1(本件権利行使益の所得区分)の認定判断及び弁論の全趣旨を総合すると,前記第3の3の被告の主張(1)(前記22~24ページ)記載の事実が認められ,原告の平成11年分の課税所得金額及び納付すべき税額は前記第3の3の被告の主張(1)の該当欄記載の金額であることが認められる。 したがって,原告の平成11年分の所得税について,課税所得金額を1億0793万8000円,納付すべき税額を3249万9000円とした本件更正処分には,課税所得金額,納付すべき税額を過大に認定した違法はない。 4 争点4(国税通則法65条4項の「正当な理由」の有無)について(1) はじめに本件更正処分は,上記1ないし3のとおり適法である。 したがって,本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことにつき,国税通則法65条4項に規定する「正当な理由」があると認められる場合を除き,同条1項及び2項の規定に基づいてなされた本件賦課決定処分も適法であることとなる。 この点,本件において,原告が,本件更正処分により納付すべき税額の計算と異なる計算方法により申告(修正申告)することとなったのは,本件権利行使益を給与所得ではなく一時所得として申告したためである。 そこで,以下,原告が本件権利行使益 付すべき税額の計算と異なる計算方法により申告(修正申告)することとなったのは,本件権利行使益を給与所得ではなく一時所得として申告したためである。 そこで,以下,原告が本件権利行使益を一時所得として申告(修正申告)したことが,法65条4項の「正当な理由」がある場合に該当するか否かにつき検討する。 (2) 一般論ア法が,納付すべき税額を過少に申告した者に対し,過少申告加算税を課すこととした趣旨は,当初から適法に申告・納税した者とこれを怠った者との間に生じる不公平を是正することにより,申告納税制度の適正な履行を確保し,同制度の信用を維持するためである。 かかる趣旨にかんがみれば,国税通則法65条4項の「正当な理由」については厳格に解釈する必要がある。 イしたがって,国税通則法65条4項の「正当な理由」がある場合とは,過少に税額を申告したことが納税者の責めに帰することができない客観的な障害に起因する場合など,当該申告が真にやむを得ない理由によるものであり,納税者に過少申告加算税を課すことが不当若しくは酷になる場合をいい,過少申告が納税者の税法の不知又は誤解であるとか,納税者の主観的な事情に基づくような場合までを含むものではないと解するのが相当である。 (3) 本件についてのあてはめア事実の認定証拠(甲4,6〔枝番を含む〕,34,乙11)及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる。 (ア) 国税庁は,昭和59年ころから,海外親会社から子会社の従業員等に付与されたストック・オプションの権利行使益は,一時所得に該当するとの見解を採っていたが,平成9年ころないし11年ころにかけて,同権利行使益は給与所得に該当する旨見解を変更 社から子会社の従業員等に付与されたストック・オプションの権利行使益は,一時所得に該当するとの見解を採っていたが,平成9年ころないし11年ころにかけて,同権利行使益は給与所得に該当する旨見解を変更するに至った(甲4,6の1ないし6の7,34)。 (イ) 日本アプライド社は,平成9年以降,課税庁及び同社の監査法人であるプライスウォーターハウスの指導の下,米国アプライド社のストック・オプションの被付与者に対し,権利行使益に対する課税庁の取扱いが一時所得から給与所得に変更された旨の連絡文書を配布し,同権利行使益については,給与所得として申告するよう指導していた(乙11,弁論の全趣旨)。 (ウ) 原告は,上記(イ)の指導に基づき,平成9年分のストック・オプションの権利行使益につき,給与所得として確定申告をした。 (エ) ところが,前記第2の2(4)のとおり,原告は,平成11年分の所得税の確定申告の際には,本件権利行使益については申告せず,その後,同権利行使益を一時所得として修正申告するに至った。 イ検討(ア) 上記アの各事実によれば,原告は,課税当局が,平成9年以降は,海外親会社から子会社の従業員等に付与されたストック・オプションの権利行使益については給与所得に該当するとの見解を採っていることを十分に認識しながら,平成11年分の所得税につき,当初は,本件権利行使益を申告せず,その後,本件更正処分を受けることを覚悟した上で,同権利行使益をあえて一時所得として修正申告をしたことが認められる。 (イ) したがって,原告は,平成11年分の所得税につき,当初より,本件権利行使益を給与所得として申告することが十分に可能であったといえ,本件において,原告に過少申告加算 られる。 (イ) したがって,原告は,平成11年分の所得税につき,当初より,本件権利行使益を給与所得として申告することが十分に可能であったといえ,本件において,原告に過少申告加算税を課すことが不当若しくは酷であるとはいえない。 原告は,課税当局が本件権利行使益が給与所得に該当するとの見解を採っていることを認識しながら,あえてこれを一時所得として修正申告したものであって,課税当局が,同権利行使益は一時所得に該当するとの見解を採っていた時期に,かかる課税当局の見解を信頼して,同権利行使益を一時所得として申告した場合とは,事案を異にするといわざるを得ない。 (ウ) また,国税通則法65条4項の「正当な理由」の判断に際し,納税者の主観的な事情を考慮すべきでないことは上記(2)のとおりであり,原告が本件権利行使益は一時所得に該当するとの見解を採っていたことを「正当な理由」の判断材料とすべきではない。 確かに,親会社から子会社の従業員等に付与されたストック・オプションの権利行使益の所得区分については,多数の訴訟が提起されており,いまだ見解が統一されたとは言い難い状況にある。 しかし,納税者の中には,上記権利行使益につき,当初より,これを給与所得として適法に申告・納税している者も存在し,かかる者と同権利行使益を一時所得として申告した者との間に不公平が生じていることもまた事実であり,かかる不公平を是正し,申告納税制度の適正な履行の確保,信用の維持を図るためには,同権利行使益を一時所得として申告した者に対しても,過少申告加算税を賦課せざるを得ないのである。 (4) まとめ以上より,原告が,本件権利行使益を一時所得として修正申告したことに 権利行使益を一時所得として申告した者に対しても,過少申告加算税を賦課せざるを得ないのである。 (4) まとめ以上より,原告が,本件権利行使益を一時所得として修正申告したことには,法65条4項の「正当な理由」は認められないから,本件賦課決定は適法である。 第5 結語以上の次第で,本件更正処分等に違法はなく,原告の本件更正処分等取消請求はいずれも理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 神戸地方裁判所第2民事部裁判長裁判官紙浦健二 裁判官今中秀雄 裁判官向井宣人

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