主文 1 被告は,平成13年度以降の綾町後継者住宅整備資金利子補給要綱(平成3年7月9日告示第30号)に基づく利子補給金のうち未支出分の支出をしてはならない。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求主文と同旨第2 事案の概要本件は,綾町において,後継者の定住を進める目的で設けられた,後継者が住宅整備に要する融資を受けた場合に利子補給金を交付する補助制度について,同町の住民が,補助の要件を定めた地方自治法232条の2に規定する「公益上必要がある場合」に当たらず違法であるとして,同法242条の2第1項1号に基づく住民訴訟により,その支出の差止めを求めた事案である。 1 前提となる事実当事者間に争いのない事実並びに甲1号証,甲3号証,甲10ないし17号証,乙10号証の1ないし3,乙12号証,乙14ないし21号証及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。 (1) 本件利子補給本件利子補給は,綾町後継者住宅整備資金利子補給要綱(平成3年7月9日告示第30号。以下「本件要綱」という。)に規定される。 本件利子補給の制度目的は,後継者の定住を進め,親子2,3世代が共に快適な生活を送ることを目的に,生きがいのある町づくりを目ざすことにあり(本件要綱1条),その給付内容は,住宅整備に関する融資を受けた住民に対し,融資額1人500万円を限度に年5パーセント以内(最大で年額25万円)の利子を借入年度から10年間(10年未満の場合はその期間)補給するものである(本件要綱3条、4条)。 本件利子補給の補助を受けられる住民は,後継者(本件要綱1条)であり,具体的には,住宅整備後,町内への定住が確約できる18~40歳未満の住民(本件要綱2条)で,親が綾町内に居住していることが必要とされる。なお、兄 補助を受けられる住民は,後継者(本件要綱1条)であり,具体的には,住宅整備後,町内への定住が確約できる18~40歳未満の住民(本件要綱2条)で,親が綾町内に居住していることが必要とされる。なお、兄弟がいる場合には,そのうちの1人に限り補助の対象となる。 (2) 申請手続本件利子補給の申請手続は,次のとおりである。 ア利子補給を受けようとする住民は,住宅整備着工前に,後継者住宅整備計画承認申請書を町長に提出し,その承認を受ける。 町長は,計画の内容を審査して,適当と認めた場合には承認通知をする。 イ承認通知を受けた後,利子補給(補助金)申請書に,初年度は融資証明書及び約定償還表を,2年目以降は償還実績書を,それぞれ添付して,1年ごとに申請する。 町長は,住宅整備の状況,借入償還実績,親子の町内居住状況等の前記計画の実施内容等を調査し,適当と認めた場合,利子補給(補助金交付)決定をして申請者に通知する。 ウ利子補給決定を受けた後,利子補給(補助金)請求書を提出し,申請者が金融機関に償還した実績に基づき(精算払い)所定の限度額内で利子補給金の交付を受ける。 (3) 新規利子補給の打ち切り平成4年及び平成8年に本件要綱が改正され(平成4年1月30日告示第1号及び平成8年4月1日告示第16号),平成10年3月31日限りで失効することとされ,以後,新規の利子補給金の交付は打ち切られたが,経過措置として,既に実行されたものについては本件要綱を平成21年3月31日まで適用するものと規定され,既に承認通知を受けた住民に対しては,平成20年度まで利子補給金の交付が継続されることとされた。 (4) 利子補給金の交付の状況等被告は、平成4年度から本件要綱が失効するまでに118件の計画を承認し,その後うち5件については町外転出,死亡,倒産などの理 給金の交付が継続されることとされた。 (4) 利子補給金の交付の状況等被告は、平成4年度から本件要綱が失効するまでに118件の計画を承認し,その後うち5件については町外転出,死亡,倒産などの理由により要件を満たさなくなり支給を打ち切られたため,現在は利子補給を受けているのは113件である。 綾町は,平成4年度から平成11年度分として1億0131万5800円を支出し,平成12年度分として2206万5000円が支出予定金額であり,平成13年度から平成21年度までとして1億0629万2000円を支出する予定となっている。なお,綾町においては平成3年から平成11年までの住宅新築戸数は543戸である。 綾町は,昭和52年ないし54年ころには7400人台の人口がいたが,その後は,人口は伸び悩み,7200人台と7300人台を推移し,平成2年から平成5年までは人口減少が続いていた。平成6年以降は上昇を続け,平成11年には7566人となっている。 (5) 原告は,平成12年6月12日本件利子補給に関して監査請求を申立て,これに対し,綾町監査委員は同年8月4日請求棄却の判断をし,同日原告に通知した。原告は,同年8月25日,本件訴訟を提起した。 2 争点本件利子補給の平等性が本件の主要な争点である。 (原告の主張)本件利子補給は,次のとおり不平等かつ不合理なものであるから,地方自治法232条の2に規定する「公益上の必要がある場合」の要件を欠く違法な補助である。 (1) 本件利子補給は受給資格者を綾町内に親が居住している住民に限定しているが,親が綾町内にいてもいなくても定住促進に貢献する点について何ら変わりはないのであるから,そのような事情で利子補給受給の有無について差を付けるのは不平等であって,町民格差を不当に拡大させることになる。 (2) 本件 もいなくても定住促進に貢献する点について何ら変わりはないのであるから,そのような事情で利子補給受給の有無について差を付けるのは不平等であって,町民格差を不当に拡大させることになる。 (2) 本件利子補給は,住宅整備という個人の資産形成に直結する内容の補助であるから,交付を行うか否か判定するにあたっては所得の差も考慮すべきであり,所得制限を規定していないのは不合理である。 (3) 受給者名や個別の交付額など利子補給の内容を公開していないため,運用等が適正であるかを検証する方法がない。 (被告の主張)(1) 本件利子補給は,後継者定住を進め,人口減少,過疎傾向を脱却するため必要なものであって,本件要綱で定める運用基準は,その日的を達成するため合理的な内容を有しており,原告の主張するような不平等を生じさせるものではなく,地方自治法232条の2所定の要件に欠けるところはない。 綾町では,過疎化が漸次進行していたが,平成2年に現町長体制になったところで,「農業後継者育成」,「町の活性化」,「親子3代で楽しく暮らしのできる町づくり」等々の公約を実現するための1施策として,「若者が定住していくことは親子3世代暮らすことにつなげていくことであり,そのことはとりもなおさず綾町の人口が増えることになる。人口が増えることは商店街の活性化にもつながっていく。そのような面からも親子3代が綾町で暮らせる町になる。」との所信のもとに,平成3年度に本件要綱を制定してそのための予算を計上し,本件利子補給を実施することとなったもので,他の施策と相まって,綾町からの人口流出を現実に阻止する成果を上げた。本件利子補給の実施を前提とする各年度の当初予算については今日まで議会において反対するものはなく,綾町議会は全会一致で過疎対策の一環としての本件利子補給施策に賛同してきた。 に阻止する成果を上げた。本件利子補給の実施を前提とする各年度の当初予算については今日まで議会において反対するものはなく,綾町議会は全会一致で過疎対策の一環としての本件利子補給施策に賛同してきた。したがって,本件利子補給に公益上の必要があるとする被告の判断を綾町としても正当なものと判断したことになる。 綾町に若者が定住し,親子,孫の3世代が暮らせることを目的とする本件利子補給の趣旨からすれば,親が町内に居住していること及び1家族1人とする交付の要件は合理的である。 (2) 利子補給については,本件利子補給に限らず,受給者名や個別の交付額等の情報を公表すれば,受給者の借入金額等が事実上公表されることになり,プライバシー侵害の問題などが生ずる。よって,このような情報の公表は不適切であり,他の利子補給についても一切行われていない。 (3) 綾町と利子補給を受ける住民との間では,後継者住宅整備計画承認申請及び補助金交付申請に対して承認及び交付決定をするという手続の結果,本件要綱に基づく一定の条件に添って最長10年間にわたり給付を行う約束が成立したことになる。受給者側も要綱に規定した内容の利子補給を将来にわたり受けられることを期待していると考えられるから,本件利子補給金の交付を中止することは,約束違反となり,受給者に予期しない損害を与える危険があって著しく公平正義に反する。 よって,特段の事情の変動がない限り,行政執行者としては,本件利子補給金の交付を中止することは許されない。 第3 争点に対する判断 1 差止訴訟の訴詮要件の存否本件利子補給金の支出については,これが法定の要件を欠いて違法と判断された場合,前記予定支出総額及び案件数の大きさに照らせば,支出後にこれを是正することは困難であると認めることができるから,本件は,地方自治法242条 出については,これが法定の要件を欠いて違法と判断された場合,前記予定支出総額及び案件数の大きさに照らせば,支出後にこれを是正することは困難であると認めることができるから,本件は,地方自治法242条の2第1項本文但書前段に規定する「当該行為により地方公共団体に回復の困難な損害を生ずるおそれがある場合」に該当すると解することができる。 2 本件利子補給の平等性について(1) 地方自治法232条の2は,普通地方公共団体は,その公益上必要がある場合においては,寄附又は補助をすることができる旨規定し,地方公共団体が補助金を支出することができるのは,当該地方公共団体において公益上必要がある場合に限られることを明らかにしている。 この要件の存否については,当該地方公共団体の長が当該地方公共団体をめぐる社会的経済的状況と捕助を行った場合の効果など諸般の事情を総合的に考慮し,個々の事案に即して認定するものであり,したがって,その認定には相応の裁量があると解される。しかし,この認定は全くの自由裁量行為ではなく,考慮されるべき諸事情に照らして客観的合理性が認められなければならない。 地方公共団体が補助金を交付する場合に,これを受給できる住民とそうでない住民とが生じることは避けられないが,補助金の交付が行政上の施策であることからすれば,交付内容や受給資格等の決定に際して,平等性が強く要請されることは当然であり,したがって,同等の条件にある住民を区別してその一部にのみ補助金が交付される場合には,当該補助により実現すべき公益との関係においてこのような区別を容認するに足りる合理的な理由が存在する必要があり,合理的な理由を欠く場合には,当該補助金の支出は前記裁量の範囲を逸脱したものとして,前記「公益上の必要がある場合」という要件を欠くことになると解すべきである。 りる合理的な理由が存在する必要があり,合理的な理由を欠く場合には,当該補助金の支出は前記裁量の範囲を逸脱したものとして,前記「公益上の必要がある場合」という要件を欠くことになると解すべきである。特に、本件利子補給のように補助が直接私人の資産形成に結びつく内容のものである場合は,その合理性については厳格に判断されるべきである。 本件利子補給を受けることができる住民は,前記のとおり、親が綾町に在住している住民に限られているため,住宅を整備した綾町民のうちでも,本件利子補給の対象となる住民とそうでない住民があることになるところ,原告は,このような区別は合理性を欠き不公平であると主張する。そこで,本件利子補給が親が綾町民であることを受給の要件にしていることについて,合理性の有無を検討する。 (2) 本件利子補給の制度目的は,本件要綱1条の規定からすれば,親子2,3世代が共に快適な暮らしを送ることができる町づくりにあると認められるから,そのため,被告は,本件利子補給の受給資格を親が綾町民である住民に限定したものと考えられる。 しかし,確かに,前記目的自体は不合理なものとはいえないが,当該目的達成のため,端的に親が綾町に居住している住民に対してのみ補助金を交付するという手法を取ることは,住宅の整備(新築、増築、改築)が,親が町内に居住している住民に固有に必要な行為ではなく,住民総てにとって一般的な必要性のある行為であるため,同じ綾町民であっても親が綾町民でない住民や親が死亡した住民等については補助金を受給することができない不平等が生じる結果を必然的に伴うものである。特に,本件利子補給には,資産形成の効果を有しながらも対象者の所得制限は設けられておらず,高所得者であっても所定の要件を満たせば受給できるのであるから,受給資格のない住民の感じる不平 うものである。特に,本件利子補給には,資産形成の効果を有しながらも対象者の所得制限は設けられておらず,高所得者であっても所定の要件を満たせば受給できるのであるから,受給資格のない住民の感じる不平等感は大きいと考えられる。 そして,住宅の整備について,親が町内に居住している住民において,その他の住民と区別して支援すべき格別の資金的な困難があると認めるに足りる根拠はなく,また,若年層に対する住宅整備の資金的補助を行うについて,親が町内に居住している住民に限って行った方が後継者の定住をより多く期待できる効果があると認めるべき根拠もなく,その他,補助の対象者をこのように区別することについて,合理的な根拠があると認めることはできない。補助の財源が住民総てが負担する税金にあることを考慮すれば,このような条件下で親が町内に居住している住民に限定して行われる住宅整備の補助は,親子2,3世代が共に快適な暮らしを送ることができる町づくりには資するといえるが,他方では,合理的根拠がないのに,親が居住していない同世代の住民には当該恩恵を受ける機会を与えず負担のみを課することとなるものであり,平等性を欠く施策というべきである。 (3) 結局、本件利子補給は,制度目的自体に問題はないものの,その具体的手法において、住民総てにとって一般的な必要性のある行為で,かつ,私人の資産形成に結びつく住宅の整備について,合理的根拠がないのに一部の住民のみに便益を供与する補助策を採用した点で平等性に欠けており,補助の交付に関して地方公共団体の長に付与された裁量を逸脱した施策であると認めざるを得ない。 3 被告の主張(3)について被告は,既に本件利子補給金の交付を受け始めた住民について,最長で10年間利子補給を続けることを予定して住宅整備計画の承認がされたものであり,受給者は ざるを得ない。 3 被告の主張(3)について被告は,既に本件利子補給金の交付を受け始めた住民について,最長で10年間利子補給を続けることを予定して住宅整備計画の承認がされたものであり,受給者は,所定の期間利子補給を受けられることを期待していると考えられるから,本件差止請求を認めて本件利子補給金の交付を中止することは,受給者に予期せぬ損害を与える危険があり,著しく公平正義に反する旨主張する。 しかし,補助金の交付が違法と判断される以上,これを受けられるという受給者の期待は法的保護に値するものではないから,被告の主張する受給者の期待等の存在は,本件結論を左右するに足りない。 4 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,本件利子補給は地方自治法232条の2に規定する「公益上必要がある場合」という要件を欠く違法な公金の支出というべきであり,原告の請求には理由がある。 よって,主文のとおり判決する。 宮崎地方裁判所民事第2部裁判長裁判官中山顕裕裁判官中村心裁判官橋本耕太郎
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