平成15(ワ)4569 損害賠償

裁判年月日・裁判所
平成16年11月24日 東京地方裁判所
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判決文本文20,841 文字)

平成16年11月24日判決言渡平成15年(ワ)第4569号損害賠償請求事件判決 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は、原告に対し、金2125万6540円及びこれに対する平成13年5月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は、被告が原告に対して行った近視矯正手術(レイシック手術)について、原告が、①本来必要性がなく、適応に欠ける手術をあえて行った、②手術に際して必要な説明をしなかったなどと主張して、被告に対し、不法行為又は診療契約の債務不履行に基づき、損害賠償を請求している事案である。 1 争いのない事実等(1)ア原告は、昭和54年8月18日生まれの男性であり、本件当時は、A大学B部に所属していた(争いのない事実、乙A1、原告本人)。 イ被告は、東京都豊島区abにおいて眼科Cクリニック(以下「被告クリニック」という。)を経営し、自らも診療を行う医師である(争いのない事実、乙A1)。 (2) 原告は、両眼ともに近視であったところ、レイシック手術という近視矯正手術の存在を知り、茨城県所在のD眼科医院において、平成13年2月23日、レイシック手術を受けた(以下「本件初回手術」という。)(なお、原告は本件初回手術の実施日を同月22日であると主張しており、被告もこれを争っていないが、甲A1、B10の記載によれば、同月23日の実施であることが明らかである。)。 本件初回手術によって原告の視力は相 術の実施日を同月22日であると主張しており、被告もこれを争っていないが、甲A1、B10の記載によれば、同月23日の実施であることが明らかである。)。 本件初回手術によって原告の視力は相当程度改善されたが、なお右眼が左眼に比べると見えにくいとの思いから、原告は、同年4月19日、被告クリニックを受診し、被告の診察を受け、同年5月4日、右眼に関して再度のレイシック手術を受けた(以下「本件再手術」という。)。 その後、原告は、同年7月5日まで、被告クリニックへ断続的に通院していたが、同日以降、被告クリニックへは通院していない(争いのない事実、甲A3、乙A1)。 2 争点(1) 原告について本件再手術をする適応の有無(2) 説明義務違反の有無(3) 損害額(判断の必要がなかった争点) 3 争点についての主張(1) 争点(1)(原告について本件再手術をする適応の有無)について(原告の主張)レイシック再手術については、そもそも使用する機械毎、施設毎にノモグラムがそれぞれ異なっているから、最低限同じ施設で実施するべきである。 その上で、再手術の適応基準について述べると、1回目の手術が失敗に終わり、術後の裸眼視力が0.5以下である場合及び屈折度数が-1.0D以上である場合に限られる。また、レイシック手術の結果は、術後3箇月を経過しないと結果の正確な分析が困難であるから、1回目と2回目の手術の間には、少なくとも3箇月の期間が必要である。 本件においては、原告は、本件初回手術により右眼の視力が0.04から1.0まで回復しており、十分見える状態になっていたことが明らかである。また、屈折度数も球面度数-0.75D、円柱度数-0.75Dと改善しており、弱い近視と乱視が残る程度に 右眼の視力が0.04から1.0まで回復しており、十分見える状態になっていたことが明らかである。また、屈折度数も球面度数-0.75D、円柱度数-0.75Dと改善しており、弱い近視と乱視が残る程度になっていたのであるから、本件初回手術はほぼ成功を収めていたのであり、上記の基準に照らし、再手術の適応がないことは明らかである。 被告は、屈折度数について、等価球面置換法を持ち出して、円柱レンズの2分の1に相当する度数を球面度数に加えるべきであると主張するが、等価球面置換法について言及している乙B1は「屈折異常の際の眼鏡矯正をする手段」を述べているにとどまり、レイシック再手術の際の適応基準における屈折度数に適用できる旨述べるものではないから、被告の主張は医学的根拠を欠く。 また、本件の場合、本件初回手術と本件再手術は、手術施設、機械、担当医師が全く別なのであり、そのような場合、さらに再手術の適応の判断には慎重さが要求されるところ、被告は、本件初回手術を実施したD眼科の機械についてニデック社製のものであると思い込んでいたが、実際にはアメリカのVISX社製のSTARS2であった。このように、異なる機械でレイシック再手術を行うこと自体異例であり、不安定要素が重なり極めて危険であるのに、被告は上記のとおり、本件初回手術で用いられた機械の種類を勘違いして本件再手術を行っていたのであって、原告に被告が行った本件再手術の適応が存しなかったことは明白である。 さらに、被告は、平成13年5月31日、本件再手術の結果右眼の視力が改善されておらず逆に悪化していることを理由に再々手術を希望した原告に対し、約3箇月間経過しないと不完全な手術になるということを理由にこれを断っているところ、本件再手術は本件初回手術から2箇月と10日しか経過していない段階 していることを理由に再々手術を希望した原告に対し、約3箇月間経過しないと不完全な手術になるということを理由にこれを断っているところ、本件再手術は本件初回手術から2箇月と10日しか経過していない段階で行われたものであるから、被告自身本件再手術が不完全な手術であることを自認しているともいい得るのである。 (被告の主張)レイシック再手術については、甲B3に「術後に何ジオプトリー以上のずれや戻りが生じたら再手術の適応とするとか、視力が0.7以下になったら再手術をするといった、線を引くような決め方は現実的でない」とあるように、未だ確たる適応基準は存在していない。本件においては原告が熱心に再手術を希望したため、被告において、再手術の適応を慎重に検討した上でこれを実施したものである。 また、原告は、レイシック再手術の基準を屈折度数-1.0D以上とした上で、原告は適応を欠いていたと主張しているところ、そもそもこのような画一的な基準が存在するわけではないのは上記のとおりであるが、さらに、原告の本件再手術前の屈折度数は、球面度数(近視)-0.75D、円柱度数(乱視)-0.75Dないし-1.25Dであって、これについて乱視のレンズの2分の1に相当する度数を近視のレンズの度数に加えて計算する等価球面置換法を適用すると、-1.12Dないし-1.37Dとなり、原告の主張する上記基準に照らしても、原告には本件再手術の適応があったことになる。なお、甲B4・64頁に引用の20歳女性の症例では、左眼は-0.75Dの近視のみであるが再手術を行っている。 さらに、被告が本件再手術では早期の手術を受け入れたのに対し、その後の再々手術の申入れについてはこれを受け入れなかった理由は以下のとおりである。すなわち、レイシック手術というのは、時間が経過すると手 さらに、被告が本件再手術では早期の手術を受け入れたのに対し、その後の再々手術の申入れについてはこれを受け入れなかった理由は以下のとおりである。すなわち、レイシック手術というのは、時間が経過すると手術効果は必ず弱まるものであり、仮にレイシック手術後遠視になっていたとしても、3箇月ないし6箇月様子を見ていれば、正視に近づいてくるものである。つまり、手術後近視が残っている場合には、早期の再手術を行うことがあるが、遠視になっている場合には、手術効果が弱まることによってこれが解消する可能性があるから、これを待つべきなのである。他方、本件再手術については、原告の右眼に近視が残存していたことに加え、原告が早期の再手術を強く希望していたため、再手術時期を繰り上げて実施したのである。 (2) 争点(2)(説明義務違反の有無)について(原告の主張)原告は、本件初回手術によって、右眼の視力が1.0程度まで回復しており、上記(1)(原告の主張)のとおり、再手術の必要性も適応もなかった。ところが、左眼に比べると右眼がやや見えにくかったことから興味本位で訪れた被告クリニックにおいて、被告から「あなたは右眼に乱視が残っている。そのため右眼が見えにくくなっている。私のところでもう一度右眼だけ手術をすればバッチリ見えるようになる」などと強く勧められ、原告が「本当に手術をすれば左眼と同じように治るんですか」と質問したところ、被告が「バッチリ治る」と断言し、併せて自らの技量の高いことを告げたことから、再手術を決断したものである。 その際、被告としては、再手術であることによる不安定要素の存在や再手術に伴う不正乱視、遠視、調節機能の低下といった危険性について説明し、たとえ原告が再手術を希望したとしてもこれをやめるよう説得すべきであった 被告としては、再手術であることによる不安定要素の存在や再手術に伴う不正乱視、遠視、調節機能の低下といった危険性について説明し、たとえ原告が再手術を希望したとしてもこれをやめるよう説得すべきであったのに、こういった説明、説得を何らせず、原告の希望に安易に応じて再手術を勧め、これを実施したものであって、説明義務違反がある。 確かに、原告は、被告から合併症等を記載した書面を受け取り、それに署名押印して被告へ提出しており、一通りの説明は行われたのかもしれないが、上記(1)(原告の主張)のとおり、本件再手術は、本来適応基準を満たしていないものであったのであり、専門家医師としては、本件初回手術の結果が裸眼視力及び屈折度数ともに良好であること、再手術を初回手術と異なる施設で行うことは危険性が高く、結果についてもとても保証できるものではないことを十分に説明し、再手術を被告のもとで行うことはできない旨説明すべきであったにもかかわらず、こういった詳細な説明は一切されていないから、被告が説明義務を果たしたとは到底いえない。 (被告の主張)被告は、一般に患者に対し、手術承諾書等を来院してすぐに渡し、待ち時間にそれを読んでもらってから診察室で15ないし30分の時間をかけて、手術の内容、合併症等について説明をしており、原告についても同様に十分な説明をしている。決して「バッチリ治る」などと断言はしていない。また、手術承諾書については、原告は初診(平成13年4月19日)の説明の際に受け取り、本件再手術(同年5月4日)の日に提出しているのであって、熟考する時間も十分にあったものである。 本件においては、むしろ原告の方が本件再手術に極めて熱心であった。このことは、当初の予定よりも本件再手術の日程が繰り上げられたことや、本件再 って、熟考する時間も十分にあったものである。 本件においては、むしろ原告の方が本件再手術に極めて熱心であった。このことは、当初の予定よりも本件再手術の日程が繰り上げられたことや、本件再手術後原告の方から再々手術を希望していることからも裏付けられる。 (3) 争点(3)(損害額)について(原告の主張)ア原告の右眼の視力低下について原告の本件再手術前の右眼の裸眼視力は1.0弱であったところ、本件再手術後、平成14年9月6日には裸眼視力0.4、矯正視力0.9、平成15年9月2日には裸眼視力0.3、矯正視力0.6となっており、明らかに術前に比べて視力が悪化している。 さらに、視力のみならず、遠視も屈折度数+2.25Dとかなりきつくなり、調節力も左眼と比較すると40ないし50パーセントまで低下し、加えて、角膜不正乱視にもなっているのであって、本件再手術に起因して原告の右眼の状態が悪化したことは明白である。 以上の後遺症は、「1眼の眼球に著しい調節機能障害」が残存したものとして、身体障害等級表12級に該当するものである。 被告は、原告の視力検査法が適当ではないとか、原告自身正確な申告をしていないのではないかなどと主張しているが、検査結果は、複数の適切な眼科医院で行っており、適正かつ信頼に値するものである。 また、被告は再々手術も可能であるなどと主張しているが、角膜の残存厚等に事実誤認があり、また、再々手術には危険性が高く、再々手術を実施することによって原告の右眼が回復するということはあり得ない。 イ治療費用28万3500円ウ逸失利益原告の最終学歴は、A大学B部卒業であり、平成13年の賃金センサスによれば、平均年収は680万4900円で はあり得ない。 イ治療費用28万3500円ウ逸失利益原告の最終学歴は、A大学B部卒業であり、平成13年の賃金センサスによれば、平均年収は680万4900円である。そして本件再手術当時22歳であるから稼働可能年数は45年であり、ライプニッツ係数は17.774である。さらに、上記アにおいて述べたとおり、原告の後遺症は12級に相当するから、その労働能力喪失率は14パーセントと計算される。したがって、逸失利益は、680万4900円×17.774×0.14=1693万3040円となる。 エ慰謝料本件再手術による右眼の視力の低下は、原告の学業、就職等に多大な被害を及ぼすものであり、これを金銭に換算すれば、224万円は下らない。 オ弁護士費用180万円カ合計以上アないしオを合計すると、2125万6540円となる。 (被告の主張)いずれも争う。 なお、本件再手術後、少なくとも被告クリニック通院期間中においては、原告は良好な裸眼視力及び矯正視力を保持しており、そもそも原告主張の損害が実際に発生しているのかという点も疑問ではある。また、原告が提出している右眼に関する検査結果が客観性を有するものであるのか否かも不明であり、仮に右眼の状態が悪化していたとしてもそれが本件再手術に起因しているという確証もない。 さらに、原告の右眼は十分な角膜厚が残存しており、再々手術によって視力を回復することも可能であると考えられる。 第3 当裁判所の判断 1 証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件診療経過について以下のとおり認められる。 (1) 原告は、中学生の頃から近視となり、本件初回手術の少し前まではコンタクトレンズを使 第3 当裁判所の判断 1 証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件診療経過について以下のとおり認められる。 (1) 原告は、中学生の頃から近視となり、本件初回手術の少し前まではコンタクトレンズを使用していたところ、近所の眼科において、結膜炎がひどい状態であるのでコンタクトレンズの使用をやめた方がよいと言われたため、眼鏡を使用することにした。しかしながら、それまでコンタクトレンズを使用していたことから眼鏡に違和感を感じ、できれば眼鏡をかけたくないと思っていたところ、インターネット上でレイシック手術という新しくかつ成果の挙がっている手術法があるという知識を得て、これについて強い関心を抱くようになり、インターネット上で検索を行うなどして熱心に調査した結果、茨城県のD眼科医院のホームページを閲覧し、同病院においてレイシック手術が行われていることを知り、電話連絡して、遠方ではあったが同医院を受診することにした(甲A1、3、原告本人)。 (2) 原告は、平成13年1月27日、D眼科医院を受診した。同日の視力検査では、両眼とも裸眼視力は0.04、矯正視力は1.5であった。 原告は、D眼科医院において、レイシック手術においては、矯正視力が低下する可能性があること、ドライアイやサンド・オブ・サハラが起こり得ること、乱視が発生する可能性もあることなど発生し得る合併症、後遺症等について、一定の時間をかけて説明された。その上で、原告は、D眼科医院において、レイシック手術を始めてからの1年間程度の手術成績によれば、従前はほとんどの場合良好な結果を得られている、感染症等が起こっても適切なフォローを受けられると説明されたことなども勘案し、上記のようなリスクを考慮しても同医院においてレイシック手術を受けて視力を改善したいと考えた(甲A1、3、原告本人)。 染症等が起こっても適切なフォローを受けられると説明されたことなども勘案し、上記のようなリスクを考慮しても同医院においてレイシック手術を受けて視力を改善したいと考えた(甲A1、3、原告本人)。 (3) 原告は、同年2月23日、D眼科医院においてレイシック手術(本件初回手術)を受けた。術後の経過は特に問題がなく、同年4月12日の視力検査では、裸眼視力で右眼が1.5弱、左眼が1.5であった。 もっとも、原告は、検査数値の差以上に右眼が左眼と比較して見えにくいという感覚を有しており、同医院の医師に対しても、その旨伝えていたが、同医院の医師は、手術自体は成功であるし、右眼に若干の近視(屈折度数-0.75D)が残っていることは事実であるが、それはやむを得ないものであって、危険性等も考慮すると、再手術は行わない方が良いのではないかと述べていた(甲A1、3、B10、原告本人)。 (4)アしかしながら、原告は、被告の著書等を目にし、自分の右眼の視力はより改善できるのではないかという思いを抱き、被告クリニックを受診することにした。 原告は、同月18日にD眼科医院を受診した際に(これが同医院への最後の受診である。)、今後は原告の近所でレイシック手術を行っている医院において定期検診を受けても構わないと言われたこともあり、早速翌19日、被告クリニックを受診した(甲A1、3、乙A1、原告本人)。 イ被告は、昭和60年3月にE医科大学を卒業し、翌年5月に医師国家試験に合格して医師免許を取得した後、昭和62年7月に眼科の医院を開業したが、平成元年1月にこれを閉院した。その後平成4年にモスクワにおいてRK手術(近視矯正手術の一種である。)の研修を受け、同年4月に被告クリニックを開設した。 被告クリニックにおいては当初RK手術を行っ 月にこれを閉院した。その後平成4年にモスクワにおいてRK手術(近視矯正手術の一種である。)の研修を受け、同年4月に被告クリニックを開設した。 被告クリニックにおいては当初RK手術を行っていたが、平成6年にはPRK手術(これも近視矯正手術の一種であり、レイシック手術同様レーザーを用いるものである。)を開始し、さらに、平成8年ころからレイシック手術について動物実験を開始し、平成12年から実際に人間に対するレイシック手術を行うようになり、本件再手術の当時までにおいて、レイシック手術を約300例経験していた(乙A3、被告本人)。 (5)ア平成13年4月19日、被告クリニックにおいて実施された視力検査では、右眼は裸眼視力1.0弱、矯正視力1.2ないし1.5弱、球面度数が-0.75D(軽度の近視)、円柱度数が-0.75Dないし-1.0D(乱視)、左眼は裸眼視力1.2、矯正視力1.5、近視の球面度数が-0.37Dであった。また、調節麻痺剤であるミドリンPを点眼した後の検査数値は、右眼が裸眼視力0.8、矯正視力1.5、球面度数-0.75D、円柱度数-1.25D、左眼が裸眼視力1.5で矯正不能であった。 また、角膜厚については、522マイクロメートルないし604マイクロメートルであると測定された。 さらに、被告クリニックにおいては、顧問であるF医師が、レイシック手術を行う患者に対し、手術の障害となる隠れた目の疾患がないかどうかを検査することになっていたところ、F医師は、原告につき、特に問題はないと診断した(乙A1ないし3、証人F、原告本人、被告本人)。 イ原告は、被告に対し、D眼科医院においてレイシック手術を行ったが、右眼の視力が十分ではないように感じられることを述べ、もし再手術をしたらこれが十分に治るのかどうか 原告本人、被告本人)。 イ原告は、被告に対し、D眼科医院においてレイシック手術を行ったが、右眼の視力が十分ではないように感じられることを述べ、もし再手術をしたらこれが十分に治るのかどうか、被告クリニックでは再手術を行ったことがあるのかという質問をした。これに対して被告が、これまでも再手術を行ったことはあり、原告に対して再手術を行うことは可能であると答えたことから、原告は、是非被告に再手術を行って欲しい旨述べ、被告はこれを承諾した。 なお、再手術の日は、当初同年5月22日前後が予定されていたが、原告が、5月後半に大学で学会の予定があり、5月22日ころだとその学会の予定に重なってしまうことから、なるべく早く手術して欲しい旨電話で申し入れたため、同月4日に繰り上げられた(甲A1、乙A1、3、原告本人、被告本人)。 ウ被告は、原告に対し、「エキシマレーザー屈折矯正手術について」と題する書面を交付した。同書面には、レイシック手術について、①新しい方法で長期予測は不明である、②屈折度安定までに一定の期間が必要である、③ハードコンタクトレンズの装着が困難になる、④視機能低下がみられることがある a矯正視力低下 bコントラスト感度低下 cグレア発生 dハロー(光輪症)、⑤老眼になったとき裸眼での近見視が不便になる、⑥術後も眼鏡やコンタクトレンズによる追加矯正が必要となる場合がある、⑦円錐角膜になることがある(術後拡張)、⑧角膜強度低下、⑨感染、⑩ドライアイ、⑪サンド・オブ・サハラ、⑫角膜弁(フラップ)形成時の合併症(不完全フラップ、穿孔など)、⑬乱視発生(不正乱視を含む)といった問題点・合併症があることが記載されており、被告はこのうち、④a矯正視力低下、⑩ドライアイ、⑪サンド・オブ・サハラ、⑬乱視発生(不正乱視を含む)について など)、⑬乱視発生(不正乱視を含む)といった問題点・合併症があることが記載されており、被告はこのうち、④a矯正視力低下、⑩ドライアイ、⑪サンド・オブ・サハラ、⑬乱視発生(不正乱視を含む)について、マーカーを引きながら原告に説明し、同書面を読んだ上で、手術を受けるまでに書面下部にある手術承諾書に署名押印して提出するよう指示した。 同書面下部には「手術承諾書」と題する部分があり、「私は、この度エキシマレーザーによる屈折矯正手術を受けるにあたり、担当医師から上記に記載されている手術の適応、問題点及び合併症の各項目の説明を受け、十分に理解し納得しましたので、それを受けることを承諾します」との記載がされていた。原告は、同日に同書面を受け取り、本件再手術日である同年5月4日に署名押印の上、提出した(乙A1、3、原告本人、被告本人)。 (6) 原告は、平成13年5月4日、被告を術者としてレイシック手術(本件再手術)を受け、手術料金等として、合計29万8260円を支払った(乙A1)。 (7) 本件再手術後に被告クリニックにおいて計測された原告の右眼視力は、次のとおりである。 裸眼視力矯正視力平成13年5月 5日 0.9 1.2弱同月10日 1.2弱 1.5弱同月15日 1.2 1.5弱同月22日 1.0 1.2同月26日 1.2弱 1.2同月31日 1.0 1.2同年6月12日 1.2 1.2同月23日 0.9弱 1.0同年7 同月31日 1.0 1.2同年6月12日 1.2 1.2同月23日 0.9弱 1.0同年7月 5日 1.0 1.2また、屈折度数については、球面度数は+0.5Dないし+1.75Dでやや遠視に傾いており、円柱度数は-0.5Dないし-1.0Dで本件再手術前とあまり変わらない程度の乱視が残存していた(なお、被告クリニックへの最後の受診日である同年7月5日の屈折度数の検査結果は、球面度数が+1.0D(遠視)、円柱度数が-0.75D(本件再手術前と同一の数値)となっていた。)(乙A1)。 (8) 原告は、本件再手術後、視力が改善しておらず、むしろ見えにくくなったという気持ちから、同年5月31日の受診時に、被告に対し、同年6月8日に再々手術をして欲しい旨申し入れたが、被告は、術後3箇月程度経過しないと不完全な手術になるとしてこれを断った。その後も原告は、本件再手術が失敗であるとして、何らかの処置をするよう何度も被告に求めたが、被告は、現在の状態で手術等を行うことはできないとして断ったため、原告は同年7月5日を最後に被告クリニックへ通院するのを止めた(甲A3、7、乙A1、3、原告本人、被告本人)。 (9) 原告は、上記のように被告クリニックへの通院を止める前後から、別の医師の意見も聞きたいと考えるようになり、情報を収集した結果、Gクリニックという病院がレイシック手術においては有名であるとの情報を得て、同クリニックへ通院するようになった(甲A3、原告本人)。 (10)ア原告の視力についてのGクリニックでの診断は以下のとおりである。 (ア) 平成14年9月6日付けの診断書には、右眼につき、裸眼視力0.4、矯正視 なった(甲A3、原告本人)。 (10)ア原告の視力についてのGクリニックでの診断は以下のとおりである。 (ア) 平成14年9月6日付けの診断書には、右眼につき、裸眼視力0.4、矯正視力0.9、球面度数+2.25D(遠視)、円柱度数-1.0Dと記載されている(甲A2)。 (イ) 本訴提起後の平成15年6月18日付けの診断書においては、右眼につき、裸眼視力0.5弱、矯正視力0.8弱、球面度数+2.25D、円柱度数-0.5Dであり、右眼角膜形状解析にて非対称性の不正乱視が認められるとされた(甲A4)。 (ウ) 当裁判所が原告に対し、後遺症が12級(1眼の眼球の調節力が通常の2分の1以下であること)に該当するか否かを明らかにするよう指示した後である同年7月10日付けの診断書においては、右眼につき、裸眼視力0.4、矯正視力0.9、球面度数+2.0D、円柱度数-0.75Dであり、自覚症状にグレア・ハローを伴う夜間の見にくさ、眼精疲労等があることが記載されているほか、「右眼調節機能は左眼の2分の1程度に低下している」旨の付記がされている(甲A5、弁論の全趣旨(同年6月26日付けプロセスカード))。もっとも、同日の他覚屈折検査結果は、球面度数+1.0D、円柱度数-0.5Dと記載されている(甲A6の1)。 (エ) 同年8月28日付けの診断書においては、同年6月19日の時点で、 右眼につき、裸眼視力0.4、矯正視力0.8、球面度数+2.25D、円柱度数-1.0Dとされ、さらに右眼の調節力が左眼に比べて約2分の1に低下している旨の検査結果が示されている(甲A6(枝番を含む。))。もっとも、同日の他覚屈折検査結果には、球面度数+2.0D、円柱度数-0.75Dという記載もあった(甲A6の2)。 イ原告の視力について、H病院角 果が示されている(甲A6(枝番を含む。))。もっとも、同日の他覚屈折検査結果には、球面度数+2.0D、円柱度数-0.75Dという記載もあった(甲A6の2)。 イ原告の視力について、H病院角膜移植部のI医師が同年9月2日に検査した結果は以下のとおりである。 右眼の視力は、5メートル試視力表(万国式平仮名試視力表)を用いて患者の応答に基づいて計測する方法を採用し、裸眼視力0.3、矯正視力0.6であり、調節力についても患者の応答に基づいて計測する方法を採用し、右眼は左眼と比較して概ね40ないし50パーセント程度であるとの結果を得た。 前房、水晶体、硝子体、網膜及び視神経には異常所見がなかったことから、右眼矯正視力低下の因子としては、角膜不正乱視のみが考えられる。もっとも、角膜不正乱視の増加のみで矯正視力の低下のすべてを説明できるとは断言できない(甲B7)。 2 証拠及び弁論の全趣旨によれば、レイシック手術等について以下のとおり認められる。 (1) 屈折異常の程度は厳密には度数によって分類される。これは「ジオプター」といい、「D」として略記される。 近視又は遠視は球面レンズで矯正され、近視は凹レンズ、遠視は凸レンズによって矯正される(なお、屈折度数は近視の場合は-、遠視の場合は+で表される。)。 乱視は、球面レンズとは別個の種類である円柱レンズで矯正される。 もっとも、近視も乱視も「見えにくい」という現象に変わりがあるわけではなく、これらを包括的に理解するために、等価球面置換法という計算方法が用いられる。これは近視の度数に乱視の度数の2分の1を加えて算出するものであり、このようにして計算された度数を等価球面度数という(甲B6、乙A2、3、B1、被告本人)。 (2) レイシック手術とは、正確には これは近視の度数に乱視の度数の2分の1を加えて算出するものであり、このようにして計算された度数を等価球面度数という(甲B6、乙A2、3、B1、被告本人)。 (2) レイシック手術とは、正確にはレーザー角膜内切除形成術といい、マイクロケラトームにて角膜表層を層状に切開して角膜フラップを作製し、飜転して露出した角膜実質面をエキシマレーザーの照射によって切除し、その後無縫合にてフラップを元の位置に戻す屈折矯正手術である。 この術式が世界で始めて報告されたのは平成2年のことである(乙A2、B4、5)。 (3) レイシック手術の一般的適応については、基本的な適応としては、①18歳以上、②近視の進行が止まっている、③-1Dないし-15Dの近視、④角膜厚500ないし550マイクロメートル以上、⑤角膜曲率39.24D以上、47.0D以下であり、基本的な非適応としては、①単眼、②円錐角膜、③ヘルペス角膜炎の既往、④角膜内皮細胞1500以下、⑤異常な奥目・狭い瞼裂、⑥緑内障、糖尿病網膜症、⑦角膜厚450マイクロメートル以下であるが、これらの点から非適応の症例であっても、術者が適応と判断したときには、レイシック手術を行うこともあるとする平成13年の文献が存在する(乙B2・永原國宏執筆部分)。 また、同文献の森本晶子及び島崎潤執筆部分においても、適応不適応の基準はあくまで目安であって、その基準に満たなくても手術を行うことがある旨の記載がある。 (4) レイシック再手術の適応については、以下のように記載する文献がある。 ア再手術の適応については、数値的な線引きをすることは難しく、まず第一に重要なのは、患者が術後視力に満足しているか否かである。また、患者が不満足である場合であっても、再手術によって視力が改善する確率が高いと判断されなけれ は、数値的な線引きをすることは難しく、まず第一に重要なのは、患者が術後視力に満足しているか否かである。また、患者が不満足である場合であっても、再手術によって視力が改善する確率が高いと判断されなければ、再手術は行うべきではない。具体的には、眼鏡による矯正視力は良好か、角膜厚は追加矯正が可能であるくらい十分に残っているか、不正乱視の有無と程度等を勘案して、最終的には患者との合意に基づいて再手術の適応を決定すべきである。 再手術の時期については、様々な考え方があり、早期に行う場合には初回手術より4ないし6週間後くらいで行うという考え方と、最低でも3箇月程度は待ってからの方が良いという考え方があるが、基本的には術後の屈折度数が安定していることを確認してから再手術を行う方が好ましいと考えられる。 Gアイクリニック(甲B3の著者が所属する病院)における再手術率は3.1パーセントであり、再手術直前の屈折度数は、球面度数が-0.25Dないし-4.25D(平均-1.45±0.83D)、円柱度数が0ないし-3.5D(平均-0.50D±0.60D)で、裸眼視力は0.03ないし1.2(平均0.34)であった。再手術時期は、初回手術から3箇月未満が15.5パーセント、3箇月以上6箇月以下が69.8パーセント、7箇月以上が14.7パーセントであった。再手術の結果については概ね良好な結果が得られているものの、再びリグレッション(屈折の戻り)を認める症例も散見される(甲B3・平成12年の文献)。 イ再手術(エンハンスメント)を要する症例は、予定より低矯正ないし過矯正であった場合と、術後のリグレッションによる場合がほとんどである。患者の多くが裸眼視力1.0以上を望んでこの手術を受けるため、術後視力が自分の期待に満たない場合に再手術を行うことにな 正ないし過矯正であった場合と、術後のリグレッションによる場合がほとんどである。患者の多くが裸眼視力1.0以上を望んでこの手術を受けるため、術後視力が自分の期待に満たない場合に再手術を行うことになる。即ち、再手術を行うか否かは、医学的適応というより、患者自身の満足度による部分が大きい。 以下、個別の要素について述べると、視力については、これのみで基準を決めるのは難しいが、一応術後裸眼視力が0.5以下を基準とする。 屈折度数については、一般には-1.0D以上を基本とする。もっともこれが絶対ではなく、患者がどのように不自由に感じているかを十分に聞く必要がある。 角膜厚については、多少余裕をみて考えた方がよい。 最初から低矯正の場合には、リグレッションの症例と比較すると早期に再手術を行う。他方、過矯正の場合には、術後のリグレッションの可能性を考慮して、3箇月以上、できれば6箇月以上経過観察してから行う(甲B4・平成14年の文献)。 3 争点(1)(原告について本件再手術をする適応の有無)について(1) 前記2(3)において認定したとおり、レイシック手術の適応に関しては、一応数値的な基準が挙げられることもあるが、必ずしもそれが絶対的なものではなく、また、前記2(4)において認定したとおり、レイシック再手術の適応に関しても、数値的な基準がないわけではないが、やはりそれが絶対的なものとはいえず、むしろ患者の満足度を重視すべきことが指摘されている。 本件の場合、前記1(3)ないし(5)において認定したとおり、原告は、本件初回手術の結果、右眼に関して1.0程度の裸眼視力を得てはいたものの、右眼が左眼に比べて見えにくいという感覚があることについて不満を持ち、本件初回手術を行ったD眼科医院の医師に対しても相談し 、本件初回手術の結果、右眼に関して1.0程度の裸眼視力を得てはいたものの、右眼が左眼に比べて見えにくいという感覚があることについて不満を持ち、本件初回手術を行ったD眼科医院の医師に対しても相談したが、再手術は行わない方がよいとされ、それでもなお右眼の視力をより一層改善させたいという気持ちを諦められずに被告クリニックを受診し、再手術を申し込んだのであり、原告が、レイシック再手術に関し、極めて強い意欲を有していたと認められる。このことは、前記1(8)において認定したとおり、本件再手術の後、1箇月も経たないうちに、被告に再々手術の施行を申し入れていることからも明らかであって、上記に判示したとおり、患者の満足度を第一に考える限り、このような場合に、手術の適応自体を否定することは困難であるといわなければならない。 原告は、本件再手術が不必要であったと主張するところ、確かに第三者の立場からすれば本件再手術が真に必要であったかという点に関し疑問を呈する余地もあるが、その場合でも、本人があくまでなお一層の視力向上を求めていたような場合、レイシック再手術を行ってはならないとまでいうことは到底できない。即ち、本件の場合、手術の客観的必要性の有無と適応の有無は必ずしも一致しないと考えられるから、かかる原告の主張は採用の限りでない。 (2) 上記(1)において判示したとおり、レイシック再手術については、客観的な基準で一義的に適応の有無を判断することは困難であるから、そのような客観的な基準があることを前提とする原告の主張は、既にその前提を欠くものというべきであるが、原告が主張する各要素についても個別に検討をしておくこととする。 ア視力等について(ア) 原告の本件再手術直前の右眼裸眼視力は1.0弱であったところ(前記1(5)ア)、確か るが、原告が主張する各要素についても個別に検討をしておくこととする。 ア視力等について(ア) 原告の本件再手術直前の右眼裸眼視力は1.0弱であったところ(前記1(5)ア)、確かに、前記2(4)イにおいて認定したとおり、再手術の基準は一応裸眼視力0.5以下であると述べている文献は存在するが、これはあくまで「一応」とされており、さらに、同文献自身、再手術を行うか否かは医学的適応というより患者自身の満足度による部分が大きいとしているのであるから、同文献を根拠として原告に本件再手術の適応がなかったということはできない。 かえって、前記2(4)アにおいて認定したとおり、原告が後に通院したGアイクリニックにおいては、裸眼視力が1.2という場合でも再手術を行った例があるのであるから、原告のように裸眼視力が1.0弱であるからといって、即再手術の適応を欠くことにならないことは明らかである。 (イ) さらに、原告は、甲B4の記載から、再手術の適応は球面度数が-1.0D以上であるのに、原告は-0.75Dであったから再手術の適応を欠くと主張するところ、そもそも、前記2(4)イにおいて認定したとおり、この基準も唯一絶対のものではないと考えられるだけではなく、前記2(4)アにおいて認定したとおり、球面度数が-0.25Dという患者も再手術を受けた例があるのであるから、これについても原告の本件再手術直前の球面度数が-0.75Dであったことをもって再手術の適応を欠くとする根拠にはなり得ない。 なお、仮に一応の基準として上記の「球面度数-1.0D以上」を参考にするとしても、被告本人が陳述(乙A3)ないし供述し、証人Fが陳述(乙A2)するように、この球面度数について、前記2(1)において判示した等価球面置換法(球面度数に円柱度 度数-1.0D以上」を参考にするとしても、被告本人が陳述(乙A3)ないし供述し、証人Fが陳述(乙A2)するように、この球面度数について、前記2(1)において判示した等価球面置換法(球面度数に円柱度数の2分の1を加えて計算する方法)を用いて算出された等価球面度数を使用するのであれば、原告の場合、前記1(5)アにおいて認定した検査結果から算出すると、等価球面度数は-1.125ないし-1.375Dであるから、上記基準を満たすことになる。 この点、甲B4自体はこれについて触れるところはなく、その他に上記供述ないし陳述を覆すに足りる証拠は何ら存しないばかりか(甲B5は球面度数のみを用いるという結論を述べるだけであって、その論拠について何ら言及するものではない。)、かえって甲B9・1309頁の第4図には患者の裸眼視力を図表化する際の指標として等価球面度数が用いられていることが認められるのであって、上記基準における球面度数は等価球面度数を用いるという被告の主張を補強するものとも考えられるから、上記の被告の主張を排斥することはできない。 したがって、この点に関する原告の主張もすべて採用できない。 (ウ) なお、甲B5(意見書)は、甲B4の記載に依拠して裸眼視力0.5以下、屈折度数-1.0D以上という基準を満たさないから、レイシック再手術の適応がないとするが、上記に判示したとおり、甲B4はそのような趣旨をいうものとは認められないから、かかる見解も採用の限りでない。 イ角膜厚について原告の本件再手術直前の角膜厚は、522ないし604マイクロメートルであり、前記2(3)において認定したとおり、角膜厚については500ないし550マイクロメートル以上が適応、450マイクロメートル以下が非適応(ただし、これ以下でも絶対 2ないし604マイクロメートルであり、前記2(3)において認定したとおり、角膜厚については500ないし550マイクロメートル以上が適応、450マイクロメートル以下が非適応(ただし、これ以下でも絶対に不適応ではない。)とされているのであるから、角膜厚の観点からは、原告に再手術の適応が認められるというべきである。 ウ再手術時期について原告の本件初回手術から本件再手術までの期間は約2箇月半であるところ、確かに、前記2(4)アにおいて認定したとおり、再手術までの期間は3箇月以上空けるのが望ましい旨述べる文献が存在するが、同文献は同時に、Gクリニックにおいては、初回手術から3箇月未満の期間に再手術を行った例が15.5パーセントあるという事実も述べており、3箇月未満の手術がすべて不適切であるとする趣旨ではないことが明らかである。また、前記2(4)イにおいて認定したとおり、低矯正の場合には過矯正の場合と比較して、早期に再手術を行うことが述べられており、これは、「レイシック手術は…手術後近視が残っている場合には、早期の再手術を行うことがあるが、遠視になっている場合には、手術効果が弱まることによってこれが解消する可能性があるから、これを待つべきなのである」とする被告の主張及びこれに沿う被告本人の陳述(乙A3)ないし供述に符合するものである。これらに加えて、前記1(5)イにおいて認定したとおり、本件再手術は、当初本件初回手術からほぼ3箇月が経過した平成13年5月22日前後に予定されていたところ、原告が大学の用事との関係で都合が合わないとしてわざわざ同月4日に繰り上げたものであるという事情も考慮するならば、本件再手術の時期が不適切であって適応を欠くものとはいえない。 エその他について原告は、そもそも他院においてレイシック ざ同月4日に繰り上げたものであるという事情も考慮するならば、本件再手術の時期が不適切であって適応を欠くものとはいえない。 エその他について原告は、そもそも他院においてレイシック手術を行った患者について再手術を実施することが不適切であるとか、被告が想定していたD眼科医院の機械と実際のものとが食い違っていたことが問題であるなどと主張しているが、前者については、甲B4・63頁の冒頭において「自分の施設で手術を受けている場合…」と対象を限定した記載がされていることからして、再手術が別個の施設で行われること自体はあり得るものと考えられ、後者については、確かに被告が想定していたD眼科医院の機械(ニデック社製)と実際のもの(米国VISX社製)に齟齬があったことは事実であるが(甲B10、被告本人)、それによりいかなる影響があるかを示す証拠はなく、本件再手術の適応の判断を左右するものではない。 また、その他前記2(3)において認定したような様々な非適応事由については、前記1(5)アにおいて認定したとおり、F医師が原告について眼の隠れた疾患等を検査して異常がないと診断しており、この点についても特段の問題は見出せない。 (3) さらに、原告は、レイシック手術においては多くの患者が満足する結果を得ているのであって、そうではない本件再手術は失敗であると主張するところ、前記1(10)において認定した本件再手術後の他院での診断内容が原告の右眼の現状を正確にとらえていると仮定するならば、原告の期待する結果が得られなかった可能性は否定できないものの、そのことから直ちに本件再手術に適応を欠いていたなどということは到底できない。すなわち、前記1(5)ウにおいて認定し、また、甲B3・521頁において示唆されるように(再手術後の裸眼視力について0 の、そのことから直ちに本件再手術に適応を欠いていたなどということは到底できない。すなわち、前記1(5)ウにおいて認定し、また、甲B3・521頁において示唆されるように(再手術後の裸眼視力について0.5以上の結果が得られた症例が95.5パーセントであるとされていることから、逆に4.5パーセントの症例では裸眼視力が0.5に満たなかったものと考えられる。)、レイシック手術において期待される視力が得られない可能性は当然否定できないのであって、このことから遡って手術の適応を否定することはできないものというべきである。 なお、上記他院での診断内容については、前記1(10)で認定した内容からして、他覚的ないし客観的所見によって十分に裏付けられているとはいえないから、これらが原告の右眼の現状を正確にとらえたものとは認め難いし、仮にその内容が正確なものとしても、前記1(7)で認定した本件再手術後の被告クリニックにおける検査結果に照らすと、それが本件再手術の結果生じたものか否かは明らかでなく、本件再手術が失敗に終わったか否かも本件証拠上明らかでないといわざるを得ない。 (4) 以上のとおり、本件においては、原告が再手術に対する強い意欲を有していた以上、再手術の適応を否定することは困難であるというべきであり、さらに、原告が指摘する各要素を個別に検討しても、いずれも適応を否定する理由とはなり得ないから、争点(1)にかかる原告の主張はいずれも採用できない。 4 争点(2)(説明義務違反の有無)について争点(2)については、当初原告は第1回口頭弁論期日において、「原告主張の被告の過失は、再度の手術をすべきでなかったのにこれを実施したということのみである」として適応の有無のみを主張すると述べ、その後過失の主張を明示的に追加することなく訴訟を遂行し、 いて、「原告主張の被告の過失は、再度の手術をすべきでなかったのにこれを実施したということのみである」として適応の有無のみを主張すると述べ、その後過失の主張を明示的に追加することなく訴訟を遂行し、当裁判所からの手術適応以外の過失を主張するのか検討されたいとの指示に対しても手術適応以外の過失の主張はしないと応答していたにもかかわらず(以上平成16年6月16日付け及び同年7月15日付けプロセスカード)、平成16年9月17日付けの準備書面(5)(最終準備書面)において初めて明示的に説明義務違反の主張をするに至ったのであり、このような主張の追加は、時期に後れた攻撃防御方法の提出ではないかとの疑問がある。 もっとも、被告においてこれを却下すべきであるとの申立てはなく、また、本争点についても被告は一応の反論を行っており不意打ちの危険は乏しいと考えられるから、当裁判所は本争点についても判断することとする。 (1) 前記1(1)(2)において認定したとおり、原告は、眼鏡をかけなくて済むようにしたいという気持ちから、レイシック手術という方法があるという知識を得て、これについて極めて高い関心を持って情報を収集し、さらに、本件初回手術の際には、レイシック手術においては矯正視力が低下する可能性があること、ドライアイやサンド・オブ・サハラが起こり得ること、乱視が発生する可能性もあることなど発生し得る合併症、後遺症等について時間をかけて説明を受けるなどして十分な情報を得た上で、なお視力を改善したいという気持ちが勝って本件初回手術を受けたものであって、本件再手術の前に、既にレイシック手術に関する相当程度の知識を得ていたものと認められる。 加えて、前記1(5)ウにおいて認定したとおり、被告クリニックへの初診時には、レイシック手術の合併症や問題点について詳 、既にレイシック手術に関する相当程度の知識を得ていたものと認められる。 加えて、前記1(5)ウにおいて認定したとおり、被告クリニックへの初診時には、レイシック手術の合併症や問題点について詳しく記載された書面を交付された上、矯正視力低下、ドライアイ、サンド・オブ・サハラ、乱視発生(不正乱視を含む)があり得ることについては、マーカーを引きながら説明されたのであり、さらに、平成13年4月19日に交付されたこの書面について、その承諾書の部分を同年5月4日の本件再手術日に署名押印して提出しており、その間約半月が経過しており、再手術をするか否かについて熟考するために十分な時間があったというべきである。 以上の事情の下においては、被告は、原告に対し、既に成人して大学生であった原告が本件再手術を受けるか否かを決断するに当たり必要な情報は提供したものと認めることができ、原告は、これらの情報を総合勘案した上で、自らの責任において、なお再手術を行うという自律的決定を下したものというほかはない。 (2) 原告は、被告が「バッチリ治る」と断言し、手術の問題点や不正乱視等の合併症については説明しなかったと主張し、これに沿う陳述(甲A3)ないし供述をするが、上記のとおり、被告は、重要な合併症等についてはマーカーを引くなどして説明をしているのであって、このこと自体は原告も認めているのであるから、上記供述等は採用できない。 また、原告は、本件再手術について、原告が希望したとしてもこれをやめるよう被告は説得すべきであったと主張するが、前記1において判示したとおり、本件再手術について適応を欠くものということはできず、また、レイシック手術において患者の希望は第一に考慮されるべき要素なのであるから、被告において、本件再手術を行わないようあえて説得すべき義 おり、本件再手術について適応を欠くものということはできず、また、レイシック手術において患者の希望は第一に考慮されるべき要素なのであるから、被告において、本件再手術を行わないようあえて説得すべき義務を認めることはできない。前記1(3)(4)アにおいて認定したとおり、原告は、D眼科医院において再手術は行わない方が良いのではないかとアドバイスされていながら、なお視力の一層の改善を諦めきれずに被告クリニックを訪れ、再手術を希望していたものであり(原告は被告が再手術を強く勧めたと主張するが、前記1(8)において認定したとおり、本件再手術後まもなく再々手術を申し入れて被告に拒絶されていることからして、本件再手術についてむしろ原告が熱心であったことは明らかである。)、そういった場合、特に再手術が不適当であるという事由がない限り、再手術をやめるよう説得すべきであるとはいえず、そのような事由の存在が窺われないことは前記1において認定説示したとおりである。 (3) 以上検討したとおり、争点(2)にかかる原告の主張も採用できない。 5 結論以上のとおり、原告の主張はすべて理由がないから、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がなく、これらを棄却することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第34部裁判長裁判官藤山雅行 裁判官金光秀明 裁判官金光秀明 裁判官熊代雅音

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