主文 被告人3名をそれぞれ懲役1年に処する。 この裁判の確定した日から,被告人3名に対し3年間それぞれその刑の執行を猶予する。 理由 (罪となるべき事実)被告人3名は,仲間多数と共に兵庫県明石市a町bc番地先の砂浜で遊んでいたものであるが,平成14年7月28日午後4時15分頃,いずれも制服を着用した海上保安庁第5管区海上保安本部神戸海上保安部勤務の海上保安官であるA,B及びCが,同県同市a町d地先の瀬戸川河口付近の海上でプレジャーボートが水上オートバイに衝突した業務上過失往来妨害事件の捜査のため,上記砂浜先海上でゴムボートに乗船して上記プレジャーボートの操船者(以下単に「操船者」という。)を検索しているのを認め,被告人Dは,単独で,Bらの職務を妨害することを企て,上記海上において,Aら海上保安官3名に対し,「何しに来たんじゃ」等と怒号しながらAら海上保安官3名が乗船しているゴムボートを沖合に向けて手で押し返す暴行を加え,その後Bが,砂浜側にテトラポットが並べられている防潮堤に立てかけられた梯子辺りに,操船者を追って来た際,被告人Eは,右手や左手でBの肩や胸を押すなどの暴行を加え,被告人Fは被告人Eに加勢しようと考え,ここに被告人Eと被告人Fは暗黙のうちに意思を相通じて,手で肩をついたり,肩付近を掴み,防潮堤に押しつけ,その胸ぐらを掴むなどの暴行を加え,被告人E及び被告人Dは共謀の上,Bの頭部を手で押さえつけるなどの暴行を加え,次いで,被告人Dは単独で,上記砂浜において,Aに対し,その胸部に被告人Dの胸部を押し当ててAを押し戻す暴行を加え,もって,被告人DはAら3名の,被告人F及び被告人EはBの職務の執行を妨害したものである。 (証拠の標目)-カッコ内は証拠等関係 Aに対し,その胸部に被告人Dの胸部を押し当ててAを押し戻す暴行を加え,もって,被告人DはAら3名の,被告人F及び被告人EはBの職務の執行を妨害したものである。 (証拠の標目)-カッコ内は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠甲乙の番号省略(事実認定の補足説明)被告人Fの弁護人は,被告人Fは,被告人Eとの共謀はあるが,被告人Dとの共謀はないこと,海上保安官B(以下単に「B」という。)を防潮堤に押さえ付けていないことを主張し,被告人もこれに沿う公判供述をする。 そこで関係各証拠に基づき,検討する。 被告人Dは本件当日被告人Eに誘われて,他に2人くらいの友人と本件砂浜に遊びに来たものものであり,その中に被告人Fは含まれていない。被告人Dらは,本件砂浜到着後他の15人くらいのグループのバーベキューのグループに入れてもらったが,その中に,被告人Fもいた。被告人Eは被告人Fとは顔見知りで何回か遊んだことはあるが,被告人Dは被告人Fとはそのような顔見知りというようなものではなく,かえって被告人Fが入れ墨をしていることから後に「難儀な人」と思ったくらいである。被告人らは総勢約20名弱の集団の中でバーベキューに加わったり,砂浜,海などで遊んでいたわけであるが,本件犯行当時までには相当の飲酒をしており,被告人らの間で程度に違いこそあれ相当酔った状態であった。そのような中,海上保安官3名が操船者を検索し,本件砂浜の波打ち際の近くに来たところ,被告人Dが面白半分で「何しにきたんじゃ」などといってやってきた。そのような中操船者は防潮堤にたてかけてあるはしごを使い逃走しようとしていたわけであるが,このような操船者をBは追いかけ,テトラポット上に来たところ,まず被告人Eが面白半分で,Bに暴行を加え,次いで被告人Fが操船者を逃がすため及び被告人Eに加勢す を使い逃走しようとしていたわけであるが,このような操船者をBは追いかけ,テトラポット上に来たところ,まず被告人Eが面白半分で,Bに暴行を加え,次いで被告人Fが操船者を逃がすため及び被告人Eに加勢するため,同所に到着し,暴行を加えた。この点被告人Fは暴行の事実は認めるものの,防潮堤に押さえつける行為はしていない旨弁解するが,Aの検察官調書によれば,同人は波打ち際からBの様子を見ており,被告人Eと被告人FがBを防潮堤に押さえ付けていた旨供述している。 この供述はBの供述と一致する上,Bの状況を同僚として意識して見ているのであり,信用できる。また,Bは職務の執行として本件現場に臨んでおり,被告人らのように相当酔っており,かつ,面白半分であったような状態ではないこと,暴行などにおいてはやられた者はその痛みを覚えていることが多く,Bも防潮堤に押さえつけられる前に,被告人らに防潮堤に向けて突き飛ばされヘルメットを着用していた後頭部を防潮堤の壁面に打ち付けられた旨,暴行された状況を具体的に供述しているのである。反対に被告人Fの公判供述は,この点を否定する。被告人Fの弁解は,第1回公判における被告事件における陳述からしても,そもそも防潮堤とテトラポットの間には大きな凹状の隙間があって体を防潮堤に押さえつけようとすれば落ちてしまうということを根拠の1つにしているようである。たしかに,テトラポットの突起部間の水平部分と防潮堤の間には隙間があり,Bが水平部分を足場としていれば,押さえつけると人が落ちてしまうことを否定できない。しかし,被告人ら立会いの実況見分によっても,そもそもBは突起部の三角柱の防潮堤側を足場にしていたのであり,そうであれば下に落ちることもない。この点に加えて,被告人Fが当時相当酔っていたことからして記憶の保持力は減退していると推認でき ても,そもそもBは突起部の三角柱の防潮堤側を足場にしていたのであり,そうであれば下に落ちることもない。この点に加えて,被告人Fが当時相当酔っていたことからして記憶の保持力は減退していると推認できること,捜査段階において被告人F立会いの実況見分においても,防潮堤に押さえつける状況が再現されていること(なお,弁護人は,甲10の写真⑱において,「海上保安官を掴む立会人」との説明を1つの根拠に防潮堤への押さえつけを否定する主張をするようだが,その写真は,被告人FがBの肩の袖口を掴み,手を伸ばし,Bが防潮堤を背にして,接しているものであり,防潮堤への押しつけを否定するものではなく,むしろ押し付けていると見うるものである。なお,被告人Fは立会人としての実況見分において,前記のような再現をしておきながら,自分の犯行状況の再現とは思っていなかったような旨公判で述べるが信用できない。),捜査段階でも被告人Fは防潮堤への押しつけを否定しているわけではないのに,公判段階においては明確に否定しており,より時間が経過し記憶が減退しているにもかかわらず,不自然であり,この被告人Fの公判供述は信用できない。あえて言えば,被告人Fのこの点の否認の理由は,公判供述からも窺われるように①防潮堤に押さえつければBは下に落ちてしまうこと,②記憶にないから,していない旨述べる部分があり,要するに記憶にないということのようである。①の点はそもそも前記の通り,前提とする位置が違うこと,②の点の被告人Fに記憶がないことは,その行為を否定するものではない。 よって,B供述の信用性からして,被告人Fと被告人Eによる防潮堤への押しつけは認定できる。なお,被告人Eは被告人Fの存在を認識していなかった旨公判で供述するが,C撮影の甲5の写真④によっても,Bを被告人Fと被告人Eが取り囲んでいる 被告人Fと被告人Eによる防潮堤への押しつけは認定できる。なお,被告人Eは被告人Fの存在を認識していなかった旨公判で供述するが,C撮影の甲5の写真④によっても,Bを被告人Fと被告人Eが取り囲んでいるのは明らかであり,被告人Dも公判供述において,被告人Fと被告人EがBを押さえ付けていたことを肯定しているのである。被告人Eの公判供述も結局のところ記憶にないということであると解される。なお,弁護人はDが,10メートル離れれば人の顔が分からないほどの近眼ということを指摘するが,そもそも前記甲5の写真,被告人Dの公判供述によっても1メートルくらいに接近したところにいたこと,被告人Eは親しい間柄であること,被告人Fは上半身に入れ墨があることから,判別を誤ったとは認められない。以上より,前記罪となるべき事実のとおり,認定できる。 次に,被告人Fと被告人Dの共謀について検討する。C撮影の甲5の写真④及び被告人Dの公判供述によっても,被告人Dは,被告人F及び被告人Eの少なくとも約1メートル近くまでは接近したことは認められる。その後の状況については,Bの平成14年11月14日付け検察官調書によれば,「Fが,「何しとんじゃ。」と喚きながら両手で私の救命胴衣の胸元に掴み掛かってきたので,私は,FとEに向かって「仕事中じゃ。邪魔すんな。お前らには用はない。」と強い口調で言ってやりました。するとFが,興奮して「お前とは誰に向かって言うとんじゃ。謝れ。」と言いながら,私の救命胴衣の胸元を両手で掴んだまま私の身体を揺さぶり,4回か5回くらい,私の背中を防潮堤の壁面に打ち付けました。その時,FかEのどちらかが「公務執行妨害で逮捕できるもんならしてみい。」と私に怒鳴り付けてきました。」と,更に「Eが私に向かって「兄貴に謝らんかい。」と怒鳴り付けてきました。そして,その ました。その時,FかEのどちらかが「公務執行妨害で逮捕できるもんならしてみい。」と私に怒鳴り付けてきました。」と,更に「Eが私に向かって「兄貴に謝らんかい。」と怒鳴り付けてきました。そして,その直後,FとEがいるその場で,私の左の方から,FとEの声とは違う甲高い別の男の声で「兄貴に謝らんかい。」という声が聞こえ,その瞬間,私は,背後から,強い力で私が着用しているヘルメットを押さえ付けられ,お辞儀をする格好をさせられました。こうして私のヘルメットを押さえ付けてきた男は,Eと一緒になって,私を,その場にいるFに謝らせようとしたわけです。その私のヘルメットを押さえ付ける力は強いものであり,私がお辞儀をする格好をさせられていたのは,30秒ほどの間だったと思います。そうするうち,私は,目の前にいた男に両手で救命胴衣の胸元を掴まれ,上半身を引き起こされたのですが,こうして私の胸元を掴んでいたのはEで,その時,私の直ぐ左側にDが立っていました。その時には,Fは,どこかへ立ち去っており,その場にはE及びD以外には誰もいませんでした。ですから,私のヘルメットを押さえ付けて私にお辞儀をする格好をさせていたのは,Dだったことに間違いありません。」(甲3)との供述がある。被告人Dの平成14年11月15日の起訴日後に作成された平成14年11月17日付け検察官調書によれば,テトラポットの上で「私は,EとFの2人と一緒になってBさんを押さえ付けてやろうと思っていたわけですが,EとFの2人は,私がそのように怒鳴った時も,Bさんを防潮堤に押さえ付けており,私がその場に加わったことを不思議そうにする様子は少しもありませんでした。ですから,EとFも,私も加わった3人で一緒になってBさんを押さえ付けてやるつもりになっていたことに間違いありません。私は,そうして怒鳴った たことを不思議そうにする様子は少しもありませんでした。ですから,EとFも,私も加わった3人で一緒になってBさんを押さえ付けてやるつもりになっていたことに間違いありません。私は,そうして怒鳴った直ぐ後で,Bさんに,ヘルメットの後頭部の辺りを押さえ付ける暴行を加えたわけですが,EとFとしても,私の方で,そのようにしてBさんを押さえ付けるくらいのことをするのは当然だと思っていたはずです。このようにテトラポット上で,EとFと私は,3人一緒になって,Bさんの身体を防潮堤に押さえ付けたり,Bさんのヘルメットを押さえ付けたりする暴行を加えたわけです。」との供述がある。しかしながら,結論として被告人Dと被告人Fの共謀を認めることはできない。理由は以下の通りである。被告人Fは,同人より先にテトラポット上に,被告人Eがおり,被告人Eに加勢するため及び操船者を逃がすため,同所に来たことは認められるものの,被告人Dと同所で一緒になってBに暴行したことは記憶にない旨述べている。被告人Fの平成14年11月18日付けの検察官調書でも,前記B,被告人Dの検察官調書の内容を聞かされ,「BさんとDが,そのようなことについて嘘の供述をするとは思えませんから,その2人がそのように供述しているのであれば,そのとおりだったのだろうと思います。」と供述しているにすぎず,この部分にそれほどの証拠価値を認めることはできない。そこで,次ぎに,前記B及び被告人Dの調書の信用性が問題となる。そもそも,Bの検察官調書によっても,被告人DがBの頭を押さえ付けているときに被告人Fがその場にいたかについては頭を下に押さえつけられていたことから必ずしもはっきりしないこと(なお,Bは,被告人Dが,Bの頭を押さえつけ,その場にいる被告人Fに謝らせようとした旨言うが,他方前記のようにBは頭を上げた時 いては頭を下に押さえつけられていたことから必ずしもはっきりしないこと(なお,Bは,被告人Dが,Bの頭を押さえつけ,その場にいる被告人Fに謝らせようとした旨言うが,他方前記のようにBは頭を上げた時は被告人Fはいなかったとも言っていること,被告人DがBに対し,被告人Fに謝らせようとすることは,その関係からして不自然であることからして,この部分のB供述は事実の認識というより,Bがそのときにはそう思ったというに過ぎず,また,その時点でのBが思ったことは結果的には違っていたと解さざるを得ない。したがって,他の事実認識の部分と異なりそれほどの証拠価値を認めることはできない。),被告人らの立ち会いによる実況見分によっても,また,C撮影の4枚の現場写真(甲5)によっても,被告人Dが供述するような被告人3名が共同して,Bに暴行していた状況はないこと,被告人Dはテトラポット上で被告人Dと被告人FがBに対し暴行をしているのを見て「Eにいがやっているのだから,いっちょかみしたいと思った。」旨司法警察員に対する供述調書では述べていること(この供述は被告人Eとの従前の関係から自然である。),これに対し被告人Dと被告人Fの関係は希薄であること,それまでの捜査段階での供述からして被告人Dの前記検察官調書の供述は唐突な印象を否めないことからして,被告人3名の共謀を認めるかのような前記B及び被告人Dの供述部分については信用できない。したがって,被告人Dは被告人E,被告人Fが暴行している際接近した場所にいたが,共同しての暴行はもとより,何らかの黙示のものも含めた被告人3名の共謀の成立を認めることには合理的疑問が残こる。ところで,被告人Eと被告人Fとの共謀は認められるので,被告人Fはその後,その場を離れたが被告人Fにはいわゆる共犯からの離脱が認められる状況はないので, の成立を認めることには合理的疑問が残こる。ところで,被告人Eと被告人Fとの共謀は認められるので,被告人Fはその後,その場を離れたが被告人Fにはいわゆる共犯からの離脱が認められる状況はないので,その後,被告人EがBの胸ぐらを掴んだことについては,責任を負う。しかし,被告人Dの行動については,責任を負わないのは前記のとおりである。 (法令の適用)被告人3名について・罰条刑法60条,95条1項・刑種の選択懲役刑・執行猶予刑法25条1項(量刑の理由)・被告人D及び被告人Eは面白半分で,被告人Fは操船者を逃がすため及び面白半分で本件犯行を敢行したものであり,いずれも安易かつ短絡的である。 ・海上保安官は,海上における犯罪の予防及び鎮圧などの任務に就いているものであり,海で遊んだりしているものとしてはその職務に感謝しこそすれ,本件のような妨害行為を働くことはもってのほかといわざるを得ない。特に,被告人Dは3名の中では,最も面白半分で調子に乗って行動していることが目立ち,その行動は,被告人Eにさえ,諫められている場面があるくらいである。 ・被告人3名の行為により結果としてこの時点で,プレジャーボートの操船者は逃走してしまったのである。 他方,次の事実も認められる。 ・被告人Eが代表して,本件に関連してのBの怪我の治療費を支払い,他の被告人もその分担をすると思われる。 ・被告人3名は本件を反省している。 ・被告人3名とも勤労意欲はある。 ・被告人Eと被告人Dには前科はない。 ・被告人Fには,罰金前科2犯及び平成8年12月19日恐喝未遂で懲役1年6月,3年間執行猶予に処せられた前科があるものの,既に執行猶予期間も経過している。 ・被告人3名は相当期間勾留されている。 したがって,前記の被告人に有利,不利の一切の事 19日恐喝未遂で懲役1年6月,3年間執行猶予に処せられた前科があるものの,既に執行猶予期間も経過している。 ・被告人3名は相当期間勾留されている。 したがって,前記の被告人に有利,不利の一切の事情を考慮して,主文のとおり判決する。 (求刑・被告人3名につき,それぞれ懲役1年)平成15年3月12日神戸地方裁判所第12刑事係乙裁判官前田昌宏
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