主文 1 原告らの請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告はAに対し,金525万円及びこれに対する平成15年4月23日から支払済みまで年5分の割合による損害賠償の請求をせよ。 第2 事案の概要本件は,山口市の住民である原告らが被告を相手方として,山口市の住民が前山口市長であるBを相手方として平成14年法律第4号による改正前の地方自治法(以下「旧法」という。)242条の2第1項4号に基づき提起した住民訴訟は取下げにより終了したが,Bが上記訴訟の追行を委任した弁護士に対して支払うべき報酬525万円は山口市長であるAの支出命令に基づいて山口市の公金から支出されているところ,同支出命令は旧法242条の2第8項に違反し,違法であると主張し,上記法律による改正後の地方自治法(以下「新法」という。)242条の2第1項4号に基づき,Aに対して上記支出に係る525万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成15年4月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による損害賠償の請求をするよう求めた事案である。 1 基礎事実(当事者間に争いがない事実及び各末尾の証拠等により認められる事実)(1) 当事者等ア原告らは,山口市の住民である。 イ Bは,平成2年5月から平成14年5月までの間,山口市長の地位にあった者である(甲6)。 ウ Aは,Bの後任として山口市長に就任し,現在もその地位にある者である(弁論の全趣旨)。 (2) Bを被告とする住民訴訟の提起等ア山口市の住民らは,平成12年11月,Bらを相手方として,旧法242条の2第1項4号に基づく住民訴訟を山口地方 ある(弁論の全趣旨)。 (2) Bを被告とする住民訴訟の提起等ア山口市の住民らは,平成12年11月,Bらを相手方として,旧法242条の2第1項4号に基づく住民訴訟を山口地方裁判所に提起した(同裁判所平成12年(行ウ)第10号,以下「別件訴訟」という。)(甲6,15,乙1)。 イ Bは,別件訴訟の追行を弁護士Cに委任した(甲6,15)。 ウ別件訴訟の原告らは,平成14年8月2日付けでその訴えを取り下げ,Bらは,同月15日付けでこれに同意した(甲6,15)。 (3) 山口市の公金による弁護士費用の支出等ア Aは山口市議会に対し,同年12月2日付けで,Cに対してBが支払うべき報酬525万円を山口市が負担することについて議決を求める内容の議案を提出し,山口市議会は,同月17日,同議案について議決した(甲7,15)。 イ原告らは山口市監査委員に対し,平成15年1月9日,上記支出の差止めを求める内容の監査請求を行ったが,山口市監査委員は原告らに対し,同年2月7日付けで,上記支出の差止めを勧告しないことを通知した。 ウ Aは,同月10日,上記報酬について支出命令(以下「本件支出命令」という。)を発し,同月19日,その支出がなされた(弁論の全趣旨)。 エ原告らは,同年3月7日,本件訴えを提起した(当裁判所に顕著な事実)。 2 争点(1) 本件支出命令は,旧法242条の2第8項に違反するものか(請求原因)。 (2) (1)が肯定される場合,違法な本件支出命令を発したことについて,Aに故意ないし過失があるか(請求原因)。 3 争点に関する当事者の主張(1) 争点(1)について(原告らの主張)訴えの 法な本件支出命令を発したことについて,Aに故意ないし過失があるか(請求原因)。 3 争点に関する当事者の主張(1) 争点(1)について(原告らの主張)訴えの取下げは旧法242条の2第8項の「勝訴」には該当せず,本件支出命令は同条項に違反してなされたものである。そう解すべき根拠は以下のとおりである。 ア旧法242条の2第1項4号の規定による住民訴訟(以下「4号訴訟」という。)における被告は職員個人であり,当該職員は自己の個人的利益の防御のために応訴するのであるから,その費用は個人で負担するのが原則と考えられる。 しかし,4号訴訟においては,実質的に自治体の財務のあり方そのものが争点になっていることが多く,応訴費用を個人負担とすることが酷と考えられる場合もあるから,同条8項は,例外的に,被告職員が勝訴し,その応訴費用が適正な職務執行に関して生じた費用と位置づけられる場合には,これを普通地方公共団体が一定の要件の下で負担することを認めたものである。 このような同条項の立法趣旨に照らせば,例外的に普通地方公共団体による費用の負担を認めるか否かの要件については,同条項の文言に従った厳格な解釈が求められるというべきであり,このような解釈は住民のチェックにより普通地方公共団体の恣意的支出による税金の無駄遣いを防止するという住民訴訟制度の趣旨にも副うものである。 したがって,同条項の「勝訴」とは,文字通り勝訴判決,即ち原告の請求を棄却,却下する判決が確定したときをいうものと解すべきである。 イ被告は,旧法242条の2第7項及び8項の「勝訴」について異なる解釈をする理由はないと主張するが,両規定は,規定ぶりは似ているが考え方は異なるものというべ いうものと解すべきである。 イ被告は,旧法242条の2第7項及び8項の「勝訴」について異なる解釈をする理由はないと主張するが,両規定は,規定ぶりは似ているが考え方は異なるものというべきである(なお,同条8項は,同条7項とは異なり,被告職員の請求権を認める内容の規定ではない。)。 即ち,同条7項は,4号訴訟においては,住民が自己の個人的な権利利益を擁護するためではなく,住民全般の公共の利益を確保するために提起されるものである上,原告たる住民が勝訴したときは,普通地方公共団体が現実に経済的利益を受けることになり,相当と認められる弁護士報酬額を原告に支払うのが衡平の理念に合致するので,その支出を認めるものである。 他方,同条8項は,被告職員が勝訴した場合においては,その応訴費用は適正な職務行為に関して生じた費用と位置づけることができるのに,それを適正な職務を行った職員個人に負担させるのは酷であるとの考えに基づくものである。 そうすると,住民勝訴の場合における「勝訴」の概念の解釈については,地方公共団体が勝訴判決と同様の経済的利益を受けたかどうかという実質的な勝訴概念により決するのが妥当であるとしても,職員勝訴の場合における「勝訴」の概念の解釈については,結果として職務の適正が明らかになったか否かという点を無視できず,この点について裁判所の公権的判断を経たことを要件とすべきである。 そして,勝訴判決と訴えの取下げとは,当該事案に対する裁判所の判断が下されているかどうかという点において決定的な相違があるから,同条項は,裁判所の判断によって当該職員の行為の適法性が認められた場合(その多くは財務会計行為の適法性が認められた場合であろう。)に限り,普通地方公共団体による費用 において決定的な相違があるから,同条項は,裁判所の判断によって当該職員の行為の適法性が認められた場合(その多くは財務会計行為の適法性が認められた場合であろう。)に限り,普通地方公共団体による費用の負担を許容したものと解すべきであり,このような裁判所の判断が示されていない訴えの取下げを「勝訴」に含めるべきではない。 ウ旧法242条の2第8項は,平成6年の地方自治法改正により付加された規定であるが,それ以前においては,せめて被告が勝訴判決を受けたときには自治体に費用を負担させてもよいのではないかという立法論が一般になされていた。 また,上記法改正後における平成6年7月19日自治省行政課長通知は,同条項における「勝訴」とは,確定した勝訴判決を得たことを意味するとしており,このような解釈が通説でもあった。 更に,平成14年の地方自治法改正においても,以上のような通説的解釈を前提として普通地方公共団体の長や職員の弁護士費用負担の問題が議論され,法改正に至ったものであるから,訴え取下げを「勝訴」に含めるべきではない。 エ被告は,前記条項における「勝訴」とは実質的な勝訴をいうと主張するが,このような見解に立ったのでは,「勝訴」という概念はあいまいになり,行政側の恣意的判断により,無限定に解釈が広げられるおそれがある。現に,別件訴訟については,原告側も,訴えの取下げを実質的な勝訴と評価しているのである。 また,訴えの取下げがなされた事案について,当該訴訟を審理した裁判所とは異なる裁判所が,当該訴訟の審理の実体に踏み込んで実質的な勝訴といえるかどうかを事後的に判断するような事態を法は予定していないというべきである。 このような個別具体的な検討を行う手法は,勝訴判決が確定した事案において, 該訴訟の審理の実体に踏み込んで実質的な勝訴といえるかどうかを事後的に判断するような事態を法は予定していないというべきである。 このような個別具体的な検討を行う手法は,勝訴判決が確定した事案において,費用を負担するか否かをその裁量により検討する際には採り得る手法かもしれないが,「勝訴」に当たるか否かの判断をこのような手法により行うことは相当でない。 (被告の主張)原告らの前記主張は争う。訴えの取下げは旧法242条の2第8項の「勝訴」に該当するものであり,本件支出命令は同条項に違反してなされたものではない。そう解すべき根拠は以下のとおりである。 ア原告らは,4号訴訟における弁護士費用の負担について,自己の個人的利益を防御するためのものであるから,その費用は個人で負担するのが原則であると主張するが,自己責任,自己負担という理念が先行しているわけではない。 イ旧法の規定の文言に照らしてみても,旧法242条の2第8項が原告らが主張するような原則,例外を定めた規定であるとは考えられない。むしろ,同条項及び同条7項を併せて読めば,住民側と当該職員側の勝訴した方に地方自治体が相当額の範囲内で弁護士費用を支払うことを規定していると解した方が文理にかなうというべきである。したがって,同条7項及び8項の「勝訴」について異なる解釈をする理由はないし,同条7項及び8項は,一部勝訴等の場合を除き,基本的に二者択一的な両立しない関係を定めたものと解される。 ウ同条7項及び8項の「勝訴」は,確定判決に限られるものではなく,実質的な勝訴をいうものと解すべきところ,別件訴訟においては,Bらが請求の一部を認容したり,和解に応じたり,賠償金を支払ったりしたことはなく,同訴訟の原告らは,自らの都合によりその訴えすべ はなく,実質的な勝訴をいうものと解すべきところ,別件訴訟においては,Bらが請求の一部を認容したり,和解に応じたり,賠償金を支払ったりしたことはなく,同訴訟の原告らは,自らの都合によりその訴えすべてを取り下げたものであること,同訴訟において問題とされた財務会計行為については既に監査請求期間が経過しており,もはや適法なものとして確定していることに照らせば,本件訴えの取下げは実質的な勝訴に当たるというべきである。 (2) 争点(2)について(原告らの主張)違法な本件支出命令がなされたことについて,Aには故意ないし過失がある。 (被告の主張)原告らの上記主張は否認する。 第3 当裁判所の判断(争点(1)について) 1 旧法242条の2第8項は,4号訴訟の当該職員が勝訴(一部勝訴を含む。)した場合において,弁護士に報酬を支払うべきときは,普通地方公共団体は,議会の議決によりその報酬額の範囲内で相当と認められる額を負担することができると定めており,その文言上,判決により訴訟が終了したことは普通地方公共団体が上記費用を負担するための要件とはされていない。 また,同条7項の「勝訴(一部勝訴を含む。)した場合」には,同訴訟を提起された者が請求の認諾をし,それが調書に記載された場合も含まれると解されている(最高裁平成8年(オ)第52号同10年6月16日第三小法廷判決・集民188号675頁)。 これらに照らせば,同条8項の「勝訴(一部勝訴を含む。)した場合」とは,請求を棄却(一部棄却を含む。)ないし却下する判決がなされた場合がこれに該当することは明らかであるが,必ずしもこれに限らないと解すべきである。 2 ところで,旧法242条の2第8項は,4号訴訟において当該職員が勝訴した場合には,そ 却下する判決がなされた場合がこれに該当することは明らかであるが,必ずしもこれに限らないと解すべきである。 2 ところで,旧法242条の2第8項は,4号訴訟において当該職員が勝訴した場合には,その応訴費用は適正な職務行為に関して生じた費用と位置づけることができるのに,これを適正な職務を行った職員個人に負担させるのは酷であるとの考えに基づき,普通地方公共団体が上記費用を負担することを認めたものと解される。 しかるところ,訴えの取下げがなされた場合には,当該4号訴訟は,請求棄却ないし訴え却下の判決がなされた場合と同様に,当該行為ないし怠る事実に基づく損害賠償請求権等の存在が確定されることなく終了するのであるから,前記のような立法趣旨に照らすと,同条8項の適用について,請求棄却ないし訴え却下の判決で訴訟が終了した場合と訴えの取下げで訴訟が終了した場合とで別異に解すべき合理的理由はない。 仮に同条8項の「勝訴(一部勝訴を含む。)した場合」に訴えの取下げがなされた場合を含まないと解したならば,たとえ当該職員の行った財務会計行為が適正であり,その応訴費用を適正な職務執行に関して生じた費用と位置づけることができる場合であっても,訴えの取下げにより4号訴訟が終了したときには,普通地方公共団体が当該職員の応訴費用を負担することは一切許されないということになるが,これは適正な職務を行った当該職員を保護すべきであるとの上記立法趣旨に反する結果となる。 そして,同条8項は,当該職員に対して何らかの請求権を認めるものではなく,普通地方公共団体が議会の議決により報酬額の範囲内で相当と認められる額を負担することができる旨を定めたものにすぎず,普通地方公共団体が相当と認めない場合には応訴費用を全く負担しないこともできると解されることも考慮すれ 議会の議決により報酬額の範囲内で相当と認められる額を負担することができる旨を定めたものにすぎず,普通地方公共団体が相当と認めない場合には応訴費用を全く負担しないこともできると解されることも考慮すれば,同条8項の「勝訴(一部勝訴を含む。)した場合」には,訴えの取下げがなされた場合も含まれると解すべきである。 3 原告らは,旧法242条の2第8項の立法趣旨に照らせば,同条8項についてはその文言に従った厳格な解釈が求められるのであって,同条8項の「勝訴」とは文字通り勝訴判決を意味するものと解すべきであると主張するが,同条8項の「勝訴」が,その文言上,当然に判決がなされた場合のみを意味するものではなく,同条8項の立法趣旨に照らしてみても,同条8項の「勝訴」には訴えの取下げがなされた場合が含まれると解すべきことは前記のとおりであるから,原告らの上記主張は採用できない。 また,原告らは,訴えの取下げがなされた場合においては,4号訴訟において問題とされている財務会計行為が適正になされたものかどうかという点について裁判所の公権的判断を経ることなく訴訟が終了することになるから,これを「勝訴」に含めるべきではないと主張するが,訴え却下の判決をする場合には,当該財務会計行為の適否について裁判所が判断することなく訴訟は終了するのであり,請求棄却の判決をする場合にも裁判所は当該財務会計行為の適法性を積極的に判断する必要はない(当該財務会計行為が違法とはいえないと判断することで足りる。)のであるから,原告らの上記主張は採用できない。 原告らは,平成6年7月19日自治省行政課長通知が,同条項における「勝訴」とは,確定した勝訴判決を得たことを意味するとしていることに照らせば,同条8項の「勝訴(一部勝訴を含む。)した場合」には,訴えの取下げが 平成6年7月19日自治省行政課長通知が,同条項における「勝訴」とは,確定した勝訴判決を得たことを意味するとしていることに照らせば,同条8項の「勝訴(一部勝訴を含む。)した場合」には,訴えの取下げがなされた場合は含まれないと解すべきであると主張するが,裁判所は行政庁の法令解釈に拘束されるものではない。また,確かに,上記通知は,「改正後の法(旧法を指す。)第242条の2第8項に規定する『勝訴(一部勝訴を含む。)』とは,同条第7項と同様,勝訴判決の確定を意味するものであること。」としている。しかし,同通知は他に,「なお,昭和38年5月16日付け自治丁行発第41号福島県総務部長あて行政課長回答,昭和42年1月5日付け自治行第2号福井地方裁判所長あて行政課長回答及び昭和42年11月21日付け自治行第102号広島県総務部長あて行政課長回答は,今回の法改正を踏まえ変更するものであること。」としており,同通知が引用する上記各回答は4号訴訟の被告に対して応訴費用を公費から支出することはできないとの趣旨のものであるが,このうち昭和42年11月21日付け自治行第102号広島県総務部長あて行政課長回答は,「地方自治法第242条の2第7項の規定による『勝訴』とは勝訴判決の確定を意味するのか,または各審級ごとの勝訴を意味するのか。」との問に対し,「勝訴判決の確定を意味するものと解する。」としていることに照らせば,上記通知は,同条8項の「勝訴(一部勝訴を含む。)」が同条7項と同様に各審級ごとの勝訴を意味しないとの趣旨を示したにすぎないものと解されるのであって,上記通知を根拠とする原告らの上記主張はいずれにしても採用できない。 そして,原告らは,「勝訴」には実質的な勝訴を含むと解すべきではないから,同条8項の「勝訴(一部勝訴を含む。)した場合」には,訴 を根拠とする原告らの上記主張はいずれにしても採用できない。 そして,原告らは,「勝訴」には実質的な勝訴を含むと解すべきではないから,同条8項の「勝訴(一部勝訴を含む。)した場合」には,訴えの取下げがなされた場合は含まれないと解すべきであると主張するが,訴えの取下げがなされた場合は,その実質を問わず同条8項の「勝訴(一部勝訴を含む。)した場合」に該当すると解すべきであるから,原告らの上記主張は採用できない。 4 以上のとおりであるから,本件支出命令は旧法242条の2第8項に違反するとはいえない。 第4 結論よって,争点(2)について判断するまでもなく,原告らの請求は理由がないから,これを棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,65条を適用して,主文のとおり判決する。 (平成15年11月27日口頭弁論終結)山口地方裁判所第1部裁判長裁判官辻川昭裁判官杉山順一裁判官栄岳夫
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