平成14(ワ)1887 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成16年4月15日 神戸地方裁判所
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判決文本文16,429 文字)

主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は,原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告らは,連帯して,原告Aに対し,1441万円及びこれに対する平成12年3月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告らは,連帯して,原告Bに対し,720万5000円及びこれに対する平成12年3月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告らは,連帯して,原告Cに対し,720万5000円及びこれに対する平成12年3月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 請求原因 1 当事者(1) 亡Dは,大正6年5月20日生まれで,平成11年5月14日から後記2記載の事故により死亡した平成12年3月3日までの間,被告社会福祉法人Y(以下「被告Y」という。)が設置運営する神戸市a区b町c丁目d番e号所在の特別養護老人ホームZ(以下Zという。)に入所していた。 (2) 原告Aは亡Dの妻であり,原告B及び同Cは亡Dの子らである。 (3) 被告YはZの設置運営等の社会福祉事業を行う社会福祉法人である。 (4) 被告Eは,前記事故当時,被告Yの被用者としてZに勤務していた。 2 事故の発生(1) 本件事故の概要平成12年3月3日午前8時10分ころ,Zにおいて,被告Eが亡D(当時82歳)に対して,食事の介助を行っていたところ,亡Dは食事を喉に詰まらせて,同日午前8時40分ころ,同所において,死亡した(以下「本件事故」という。)。 (2) 本件事故の詳細本件事故当日である平成12年3月3日の朝食の献立は,ベーコンと野菜の炒め物,ヨーグルト,牛乳と真ん中にクリームがあり,その上に缶詰のみかんのようなものが3切 。 (2) 本件事故の詳細本件事故当日である平成12年3月3日の朝食の献立は,ベーコンと野菜の炒め物,ヨーグルト,牛乳と真ん中にクリームがあり,その上に缶詰のみかんのようなものが3切くらい載った大きなパンであった。被告Eは,同日午前7時30分から亡Dの朝食の介助を開始した。被告Eはまず最初に,亡Dに牛乳を1口飲ませたが,ちょっとむせるような形であった。次に,1口大にちぎったパンを1口食べさせたが,亡Dは,それがなかなか飲み込めずにとても苦しそうであった。被告Eは,亡Dに対して,口の中のパンを飲み込むように促したところ,ようやく,亡Dはそれを飲み込んだ。そこで被告Eは,マグカップに入った温かい牛乳に1口大に切ったパンを入れ,とろとろの状態にしたパン粥状のもの(以下「パン粥」という。)を3ないし40分かけて,3口ないし4口食べさせたが,飲み込めずに口に溜めることが多く,飲み込むのがしんどそうであった。午前8時8分ころ,被告Eが他人の食事の介護をしている最中に亡Dが「ヒーヒー」と言い出した。被告Eは,亡Dの動静を注視するだけであり,医務室に亡Dが運ばれた午前8時12ないし13分ころに吸引したり,背中を叩いたりした。それでも,詰まったはずのパンが出てこなかったので,職員が持ってきた掃除機の先にノズルをつけた吸引機で吸引したところ,パン粥を多量に吸引した。午前8時20分ころからアンビューバックで人工呼吸がされ,心臓マッサージが開始されたが功を奏せず,午前8時25分にX病院のF医師が来たが,すでに瞳孔が散大し,意識がなく,心停止,呼吸停止状態であり,直ちにX病院に搬送したが,午前8時40分にF医師により死亡が確認された。 3 被告Eの責任(1) 被告Eの亡Dの介護における注意義務の内容ア包括的自立支援プログラム 態であり,直ちにX病院に搬送したが,午前8時40分にF医師により死亡が確認された。 3 被告Eの責任(1) 被告Eの亡Dの介護における注意義務の内容ア包括的自立支援プログラム(検証調書206丁以下)における亡Dに対する被告Eの注意義務平成11年12月27日に作成された「ケアチェック表包括的自立支援プログラム(記入者G,H)では,「食事,水分摂取等に関するケア」のうち,「食事等の摂取介助について」には,今後は食事中の見守り,食事介助(切る,すりつぶす等),食事摂取介助,食事摂取・水分量チェック,飲み物摂取介助等をすることを予定していると記載されていた。そして,「問題点や解決すべき課題等」として,被告Yは亡Dの「嚥下機能面での問題等」を「有」として,これに対する措置として,水分摂取の際,誤嚥する傾向にあり,とろみ材を用いて摂取しやすくすると記載している。また,嚥下に関し,「医療面での指示管理等」が「有」となっていて,これに対する措置として,「呼吸器ー誤嚥性肺炎の予防→食事のすすめ方に注意。一般状態のチェック,呼吸音,喘鳴のチェック,バイタルサインのチェック」。「誤嚥性肺炎を起こしやすい,できるだけ状態を起こし,誤嚥しない体位の工夫。とろみをつけ気管に入らない様注意する。異常の早期発見に努めるー呼吸音チェック,必要時は主治医に依頼」と記載されている。被告Eは,上記包括的自立支援プログラムを遂行すべき責任者であったから,これらの事項を理解し,実践すべき義務があった。 イ亡Dに投与されたミラドールの副作用にともなう注意義務被告Eは,入所当初から亡Dが抗うつ剤であるミラドールの投与を受けていたことを知っていたから,亡Dに嚥下困難や喉の渇きという副作用が生じ,他の入所者に比べ,誤嚥による窒 にともなう注意義務被告Eは,入所当初から亡Dが抗うつ剤であるミラドールの投与を受けていたことを知っていたから,亡Dに嚥下困難や喉の渇きという副作用が生じ,他の入所者に比べ,誤嚥による窒息を回避すべき高度な注意義務があった。 (2) 被告Eの注意義務違反行為①被告Eは亡Dに関する上記包括的自立支援プログラムを遂行すべき責任者であり,平成11年11月から12月にかけて亡Dの嚥下機能が著しく低下した状態を把握していたにもかかわらず,前記プログラムの評価,具体的注意事項の検討,緊急時の対処方法の検討等を一切行わなかった。 (3) 被告Eの注意義務違反行為②本件事故の2ないし3日前から亡Dは食事中にかなりむせることがあり,本件事故当日も朝食介助のはじめからむせており,嚥下機能に低下が見られているのであるから,ア被告Eは,亡Dに対し,横向き嚥下,うなずき嚥下の方法で食事の介助をすべきであった。特にうなずき嚥下は30度の仰臥位であると有効であるにもかかわらず,このような姿勢で介助をしていなかった。 イ被告Eは,亡Dが,パンやパン粥をなかなか飲み込めなかったことを認識していたのであるから,亡Dの誤嚥を予測して,同人の様子を注意深く観察し続け,かつ,不測の事態に備えるために他の職員に呼びかけるなどして吸引機を直ちに用意すべきであったのに,他の入所者への介助を行っている間,同人へ注意を向けることを止めてしまい,吸引機の用意も怠った。 ウ被告Eは,亡Dがパンあるいはパン粥を飲み込めなかった以上は,一旦朝食を中止し,その原因を調査し,亡Dに対して,飲み込めないで口に溜めているパンあるいはパン粥をはき出すよう促すべきであるのに,被告Eは,亡Dが口の中にためていたパンあるいはパン粥を飲み込むように 朝食を中止し,その原因を調査し,亡Dに対して,飲み込めないで口に溜めているパンあるいはパン粥をはき出すよう促すべきであるのに,被告Eは,亡Dが口の中にためていたパンあるいはパン粥を飲み込むようにうながしたことにより,亡Dにおいて,誤嚥が起こった可能性があり,さらに被告Eが,パン粥を亡Dの口の中へ入れたことによって,事態が悪化したものである。 エ仮に食事を継続する場合には,食事内容(エンシュア(嚥下困難者に対する補助食品)など),食事性状(ミキサー食,ゼラチンゼリーなど)の変更,体位変換(体幹仰臥位の角度を60度から30度に変更),嚥下方法(うなずき嚥下,鼻つまみ嚥下,横向き嚥下)の工夫を行うべきであったにもかかわらず,いずれも行っていない。被告Eが介助したパン粥は,密度がまばらでべとついたものであり,かえって誤嚥,窒息の可能性がある。 オ亡Dが「ヒーヒー」と言い始めて窒息が始まった後,被告Eはすぐに同人の口の中に指を入れてかき回す(咽頭反射を引き起こして吐かせる),ハイムリッヒ法(横隔膜の圧迫によって詰まったものを吐かせる)を行う,吸引するといった措置を行うべきであったにもかかわらず,これらをせず,窒息開始後4ないし5分も経過した後に初めて吸引の措置を行っており,遅きに失している。 カ被告Eは,亡Dの窒息が始まった後,直ちに吸引等の措置を行うとともに,他の職員に応援を求めて医師の派遣を依頼し,医師による気管内挿管をしてもらうべきであったのに,窒息開始後約12分後にアンビューバックを用いて人工呼吸が開始されると共に,心臓マッサージもされたが,功を奏せず,窒息開始後,約17分後にF医師が到着したときには,すでに瞳孔が散大し,救命が不可能の状態であった。 以上から,被告Eには,上記各注意義務に違反する行為 心臓マッサージもされたが,功を奏せず,窒息開始後,約17分後にF医師が到着したときには,すでに瞳孔が散大し,救命が不可能の状態であった。 以上から,被告Eには,上記各注意義務に違反する行為があり,亡Dが死亡したことについて,不法行為責任を負うものである。 4 被告Yの責任(1) 被告Eの使用者としての責任被告Eは,本件事故当時被告Yの被用者としてZで勤務していた。被告Eは,前記のとおり,被告Yの業務を行うについて,その注意義務違反により,亡Dを死亡させたのであるから,被告Yは被告Eの使用者としての責任がある。 (2) 被告Y自身の責任ア亡Dに対するミラドールの投与亡Dは精神科で受診した際,うつ状態と診断されたので,入所した当初から毎日抗うつ剤であるミラドールを3錠(合計150ミリグラム)を投与され,平成11年11月ころから,毎日6錠(合計300ミリグラム)に増量された。 イミラドールの副作用ミラドールには,嚥下困難,喉の渇きという副作用があり,亡Dはミラドールが増量された平成11年11月ころから顕著な嚥下機能の低下が見られるようになった。 ウ被告Yの注意義務違反行為被告Yにおいては,ミラドールの副作用を認識したうえで,平成11年12月27日作成の包括的自立支援プログラムにおける嚥下に関する事項を職員に徹底して遵守させ,かつ,日々の介護における問題点を検討して,将来の介護にそれを反映させる義務があり,さらに,誤嚥による窒息の事態に備え,亡Dの食事介助を行う従業員には,亡Dが窒息した場合の対処方法を検討,確立させ,訓練を行うべき注意義務があったにもかかわらず,前記包括的自立支援プログラムの評価,具体的注意事項の検討,緊急時の対処方法の検討を一切行わなかった。 は,亡Dが窒息した場合の対処方法を検討,確立させ,訓練を行うべき注意義務があったにもかかわらず,前記包括的自立支援プログラムの評価,具体的注意事項の検討,緊急時の対処方法の検討を一切行わなかった。 エ以上から,被告Yは,上記注意義務に反する行為によって,亡Dを死亡させたのであるから,被告Y自身においても,不法行為責任がある。 5 損害葬儀関係費用 120万円死亡による慰謝料 2500万円弁護士費用 262万円合計 2882万円 6 相続原告Aは亡Dの妻であり,原告B及び同Cは亡Dの子らである。原告Aの法定相続分は2分の1であり,原告B及び同Cの法定相続分はそれぞれ4分の1である。 7 まとめ(1) 原告Aは,被告らに対し,連帯して,民法709条及び同715条に基づいて,損害額2882万円の2分の1である1441万円及びこれに対する本件不法行為時である平成12年3月3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うことを求める。 (2) 原告Bは,被告らに対し,連帯して,民法709条及び同715条に基づいて,損害額2882万円の4分の1である720万5000円及びこれに対する本件不法行為時である平成12年3月3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うことを求める。 (3) 原告Cは,被告らに対し,連帯して,民法709条及び同715条に基づいて,損害額2882万円の4分の1である720万5000円及びこれに対する本件不法行為時である平成12年3月3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うことを求める。 第3 請求原因に対する認否および反論 1 請求原因1は認める。 2 同2について 時である平成12年3月3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払うことを求める。 第3 請求原因に対する認否および反論 1 請求原因1は認める。 2 同2について(1) 同(1)は認める。 亡Dの死亡診断書によると,亡Dの死因は食物誤飲による窒息死となっている。しかし,確定的な死因は不明である。亡Dが事故当日食べた食物の量は極めて少量であるし,誤嚥による兆候や異変はなかった。 (2) 同(2)についてア被告Eが亡Dの朝食の介助をしたこと,本件事故当日の朝食の献立が,ベーコンと野菜の炒め物,ヨーグルト,牛乳と真ん中にクリームがあり,その上に缶詰のみかんのようなものが3切くらい載った大きなパンであったことは認め,その余は否認する。 イ本件事故当時の状況は以下のとおりである。 本件事故当日である平成12年3月3日の朝食の介助は午前7時40分ころから開始され,食堂の四角テーブルの長辺に亡Dが車いすで位置し,短辺には入所者Iがすわり,両名の間のテーブルの角のところに被告Eが座って2名の食事の介助をした(乙16の写真)。食事中の亡Dの姿勢は,リクライニングの背もたれをおおむね60度に起こし,枕を後頭部にあてがって前屈状態にしていた。被告Eは,自分の左手に位置している亡Dにはじめに牛乳を2口を吸い飲みで介助し,パンを小さめの1口大にちぎって口の中に入れたが,咳き込んでパンを吹き出した。そこで,ヨーグルト2ないし3口をスプーンで介助した。副食のレタスベーコン炒めは1口食べてむせたので,その後は介助しなかった。当日,亡Dはよくむせるので被告Eはパン粥をスプーンで1口介助したが,なかなか飲み込めず,しばらく口の中に溜めていたので,飲み込むようにうながすと,少し口を動かして たので,その後は介助しなかった。当日,亡Dはよくむせるので被告Eはパン粥をスプーンで1口介助したが,なかなか飲み込めず,しばらく口の中に溜めていたので,飲み込むようにうながすと,少し口を動かしてようやく飲み込んだ。その後,被告Eは隣のIを介助しながら,亡Dの様子を観察していたが,むせたり,咳き込んだりする様子はなく,何ら異変はなかった。午前8時に被告Eは一旦席を立って下膳の手伝いをして,同日午前8時5分ころ,再び亡Dに対して,食事介助を始めた。再開後,被告Eは,亡Dに再びパン粥を1口介助したが,口を開けようとしないので,被告EはIの介助をしていたところ,午前8時8分頃,急に亡Dが「ヒーヒー」と言い始め,顔面蒼白となったので,2分間,体を前傾させて背中をたたいたが,変わりがなく,午前8時12分から13分ころに看護婦が吸引を開始したところ,パンらしきものが少量吸引できた。午前8時20分ころにアンビューバックで人工呼吸をし,心臓マッサージを開始したが功を奏せず,午前8時25分にX病院のF医師が来たが,すでに瞳孔が散大し,意識がなく,心停止,呼吸停止状態であり,直ちにX病院に搬送したが,午前8時40分にF医師により死亡が確認された。 3 同3について(1) 同(1)についてア同アのうち,包括的自立支援プログラムの記載内容については認め,その余は否認する。 イ同イは否認する。ミラドールの投与によって,嚥下機能が低下した事実はない。また,ミラドールの副作用を知って,これを特別注意しなければならない注意義務はない。 (2) 同(2)は否認する。 (3) 同(3)は否認する。 ア口から入った食べ物が気管に詰まって窒息する場合,胃にたまっていた食物が逆流して気管に詰まって窒息する場合,い (2) 同(2)は否認する。 (3) 同(3)は否認する。 ア口から入った食べ物が気管に詰まって窒息する場合,胃にたまっていた食物が逆流して気管に詰まって窒息する場合,いずれも何らの誤嚥の兆候がないということは十分あり得ることであり,介助者としていくら注意しても窒息に気がつかないことがある。 イ亡Dは上下ともほぼ完全に近いほど自身の歯を備えていて,そしゃくする能力が十分あったから,パン粥は不適切な食事でない。また,1口パン粥を介助したときにすでに誤嚥しているというのは何らの根拠がない憶測であり,被告Eは最初の1口の嚥下を確認している。 ウ原告は脳血管障害等の既往歴がある嚥下障害者に対する対処方法(横向き嚥下,うなずき嚥下,鼻つまみ嚥下,体幹仰臥位の角度を30度にする。)を求めているが,亡Dはそのような嚥下障害のある病人ではない。特別養護老人ホームは病院ではなく,家庭におけるのと同じ食事をするのであり,特に,リクライニングの背もたれを30度から45度で食事介助をすると,被介助者は,すぐに眠ってしまうという弊害があった。 エ亡Dの異常に気がついた被告Eは,誤嚥による窒息の可能性があると考え,直ちにタッピングなどの必要な措置を行い,亡Dを医務室に運び,吸引し,さらに職員が心肺蘇生術を行っており,緊急に呼び出されたF医師も必要な医学的措置を取った。 4 同4について(1) 同(1)のうち,被告Eが本件事故当時,被告Yの運営するZに勤務していたことは認め,その余は否認する。 (2) 同(2)についてア同アについて亡Dにミラドールが投与されていたことは認める。 イ同イについて否認する。ミラドールに嚥下機能の低下という副作用はないし,その事実 (2)についてア同アについて亡Dにミラドールが投与されていたことは認める。 イ同イについて否認する。ミラドールに嚥下機能の低下という副作用はないし,その事実もない。悪性症候群などの臨床症状のひとつして,嚥下困難があげられているが,亡Dにそのような症状はなかった。 ウ同ウについて否認する。 エ同エについて争う。 5 同5は知らない。 6 同6のうち,原告らが,亡Dの妻と子らであることは認め,その余は知らない。 7 同7は争う。 第4 当裁判所の判断 1 請求原因1は当事者間に争いがない。 2 亡Dの死因について(1) 亡Dの死因については,食物の誤嚥による窒息死であることは当事者間に争いがない。まず,問題となるのは,食物の誤嚥がいかなる機序によって生じたかであるので,この点をについて,まず検討する。 (2) 嚥下のメカニズムについて(甲5の20頁以下)ア食物の認識摂食及び嚥下のスタートは,食物の認識であり,食物を認識して初めて食事に対する意欲がわき,食事を始めることができる。 イそしゃくと食塊形成口に取り込んだ食物は,舌と歯を使って唾液と混ぜられ,そしゃくされる。そしゃく動作を繰り返すうちに食物は唾液と混合され,飲み込みやすい形すなわち食塊に整えられる。 ウ咽頭への送り込み舌の運動によって食塊は,口の中を口唇側から舌の後ろ側(奥舌)へと移動し,奥舌と軟口蓋で作られたドアを通過して咽頭に送り込まれる。 エ咽頭通過,食道への送り込み食塊は,一連の嚥下反射によって咽頭を通過し,正常な状態では,0.5秒以内に食道へ送り込まれる。嚥下反射は,食塊が咽頭に入ると鼻と気管へ通じる2つの窓 エ咽頭通過,食道への送り込み食塊は,一連の嚥下反射によって咽頭を通過し,正常な状態では,0.5秒以内に食道へ送り込まれる。嚥下反射は,食塊が咽頭に入ると鼻と気管へ通じる2つの窓と口へ通じるドアが閉じ,食道へ通じるドアが開くというものであり,これによって,一気に食塊が食道へ送り込まれる。 オ食道通過食道に食塊が送り込まれると,逆流しないように食道括約筋はぴったりと閉鎖され,その後食塊は蠕動運動により胃へ運ばれていく。食道括約筋は,上下2つあり,1つは上食道括約筋であり,もう1つは下食道括約筋で,下食道括約筋の閉鎖が不完全であると胃から食道への逆流が起こり,さらに上食道括約筋の閉鎖が不完全であると,胃酸,消化液及び細菌を含んだ食物が咽頭に逆流し,誤嚥すると肺炎の原因となる。 (3) 誤嚥についてア前記エの段階において,気管へ通じるドアが閉鎖されていないと,食塊は気管に入り,生命の危険につながる誤嚥が生じることとなる(以下「エの段階の誤嚥」という。)(甲5)。 イ前記オの段階における誤嚥は,外形的には嚥下反射は良好であり,むせることもないが,食物が胸につかえる,あるいは,食物が喉を通らないといった症状があり,飲み込んだはずの食塊が,梨状陥凹や咽頭蓋谷に残っており,呼吸と共に気管に流れ込んで,誤嚥を引き起こすものである(以下「オの段階の誤嚥」という。)(甲5,乙5)。 (4) 以上を前提に亡Dの誤嚥の機序について検討する。 ア上記2つの誤嚥の特徴誤嚥が生じるのは,前記エないしオの段階であり,それぞれの誤嚥の特徴は,エの段階の誤嚥は,嚥下反射がおこり食塊が飲み込まれて即時に生じるのに対し,オの段階の誤嚥は,嚥下反射がおこり,食塊が飲み込まれて一定の時間が経過しておこ しオの段階であり,それぞれの誤嚥の特徴は,エの段階の誤嚥は,嚥下反射がおこり食塊が飲み込まれて即時に生じるのに対し,オの段階の誤嚥は,嚥下反射がおこり,食塊が飲み込まれて一定の時間が経過しておこるものである。 イ亡Dの誤嚥について亡Dの朝食開始時から死亡するまでの経過について,原告ら及び被告らの主張に差異はあるが,両者の主張ともパンないしパン粥の介助を受けて嚥下した後,一定時間が経過して,窒息が生じている点においては合致しており,このことからして,亡Dの誤嚥は,オの段階の誤嚥であると認められる。 次に,誤嚥した食塊について検討すると,当事者の主張によると,被告Eは,まず,牛乳及びヨーグルトを介助しているが,これらのものは,その性質上食道に滞留することはないと考えられるから,亡Dが誤嚥したのは,そしゃくされ食塊となったパンないしパン粥であり,亡Dは,これを嚥下したものの,これが食道に残り,その後呼吸と共にこれを気管に吸い込んだものと考えられる。このことは,X病院の医師であるFが,胃の内容物が反すうされ,それを吸引することで誤嚥することはありうるし,そしゃくされたパンないしパン粥は流動的なものであり,気管の一部に狭窄があれば比較的少量であっても窒息する可能性があると証言していること(F証言15,28頁),このオの段階の誤嚥の場合には,前記のとおり,食物が胸につかえる,あるいは,食物が喉を通らないといった症状があるところ,本件事故当時,亡Dは,食塊を口に溜め込み,なかなか嚥下できなかった点では当事者の主張は一致しており,これは,食物が胸につかえる,あるいは,食物が喉を通らないという兆候と考えることも十分可能であることからもうかがえる。 ウこの点について,原告らは,被告Eが亡Dに対して,多量のパンないしパ ,これは,食物が胸につかえる,あるいは,食物が喉を通らないという兆候と考えることも十分可能であることからもうかがえる。 ウこの点について,原告らは,被告Eが亡Dに対して,多量のパンないしパン粥を介助したことによって,エの段階の誤嚥が生じていると主張し,原告らが指摘する検証の結果(7丁)には,パンがゆを吸引ノズルにて多量吸引と記載されているが,それが,一義的にパン粥が大量に吸引されたとは読めないうえ,原告らの主張をもとにしても亡Dに介助されたパンないしパン粥は4口程度であり,亡Dは,それを30分以上かけて摂取していること,吸引機はZに2種類あり(乙15の1,2の写真参照),それは,掃除機にノズルを装着したものとそれ以外のものであるが,前者で吸引したときにパン粥の量を明確に認識できるとは考えられず,また,後者で吸引したときにその形状からパン粥を大量に吸引できたとするには疑問があるうえ,証人J及び被告Eもほとんどパン粥は吸引されなかったと証言(J証言8,9頁)あるいは供述(被告E34,35頁)しているから,原告らの主張は理由がない。 (5) まとめ以上から,亡Dは,被告Eから介助されたパンないしパン粥を嚥下したものの,これが食道に残っており,後に呼吸と共に気管に流れ込み,これによって,窒息死したものと認められる。 3 被告Eの過失について(1) Zの概要等(甲6,乙1,2の3)Zは,その母体がX病院であり,平成11年4月にX病院の敷地内に設立された地上5階建の建物であり,その事業内容は,特別養護老人ホームの設置,デイサービス,在宅介護支援事業等であり,本件事故当時のZの職員組織は別紙職員組織図のとおりであり,被告Eは生活介護の主任寮母であり,3階のリーダーであった。 (2) 亡Dの経歴等(甲11) イサービス,在宅介護支援事業等であり,本件事故当時のZの職員組織は別紙職員組織図のとおりであり,被告Eは生活介護の主任寮母であり,3階のリーダーであった。 (2) 亡Dの経歴等(甲11)亡Dは,大正6年5月20日生まれで,昭和19年に原告Aと結婚し,その後,2人で満州へ行き,昭和21年4月に帰国した。このころ,亡Dは獣医の仕事をしていたが,昭和22年ころWに就職した。昭和35年にWを退職し,その後は主として,恩給をもらって生活していた。平成3年ころ,亡Dは視力障害に陥り,平成8年ころからは在宅での暮らしが困難となった。平成9年に西宮市内のV病院に入院し,平成10年に兵庫県三田市所在の医療法人U病院に併設されていた老人健康保険施設T(以下「T」という。)に入所した。 (3) 亡DのZへの入所(検証の結果78,79,101丁,甲10,11)亡Dは,Zに入所する前は,Tに入所していたが,平成11年1月30日,肺炎にかかり,あいの病院に入院した。一時はMRSAが陽性であったが,平成11年4月27日には陰性となり,肺炎は改善していた。亡Dの他の疾患としては,老人性痴呆症,骨粗鬆症,白内障及び緑内障で,全盲であった。原告A及び同Cは,あいの病院が住居から遠く,見舞いに行くのが不便であること,亡DがX病院で眼の手術を受けたことがあること,ZがX病院に併設されていて便利がいいと考え,亡DをZに入所させることとした。平成11年5月14日,亡Dは,Zに入所し,同所の3階に居住することとなった。 (4) 入所当時の亡Dの状態(検証の結果84,101,137丁,F証言9頁,被告E3,4,6頁)平成11年2月18日,Zの主任生活相談員であるKらがあいの病院からの情報をもとに原告らの意見を聞いて,主食はお粥,副食はキザミ食と 84,101,137丁,F証言9頁,被告E3,4,6頁)平成11年2月18日,Zの主任生活相談員であるKらがあいの病院からの情報をもとに原告らの意見を聞いて,主食はお粥,副食はキザミ食と決めた。亡Dは入所当初その食事を受け付けず,話の受け答えもしなかった。Fは,亡Dはうつ状態が強いと判断し,抗うつ剤であるミラドールを処方した。平成11年6月ころからは,食事をほぼ全量を摂取するようになった。亡Dは歯は殆どそろっていて,そしゃく能力が高く,また,食べたくないものを介助しても口を開けず,好き嫌いがはっきりしており,また,食べる食べないの意思表示もはっきりしていた。 被告Eは,亡Dが全盲であることから,介助する前には必ずどのような物を介助するか説明していた。 (5) 本件事故に近接した時期の亡Dの嚥下能力について(検証の結果153丁ないし199丁)平成11年11月2日,最近は体温も安定し,食事摂取もしっかりしている。平成11年11月10日,最近,食事の際,むせることが多い。NSにその旨報告している。平成11年11月14日,最近,嚥下能力が低下しており,食事介助には注意が必要。同年11月21日,誕生日会に出席して,ケーキを全量食べた。同年11月30日,体温が安定し,昼食おやつとも全量摂取した。同年12月14日,昼食のバイキングのお寿司,天ぷらをおいしいと言って食べた。同年12月19日,昼食時咳き込むことが多く,摂取時注意。同年12月26日,最近はむせることが少なく,昼食おやつとも全量摂取した。(なお,平成11年7月から平成11年11月1日までと,平成11年12月26日以降亡Dが死亡した平成12年3月3日までの間は,前掲証拠から,亡Dの嚥下能力についての特記事項は見いだせない。)(6) 本件事故当時の状況(乙3,6,1 1月1日までと,平成11年12月26日以降亡Dが死亡した平成12年3月3日までの間は,前掲証拠から,亡Dの嚥下能力についての特記事項は見いだせない。)(6) 本件事故当時の状況(乙3,6,10,11,13ないし16,検証の結果7丁,証人J,証人F,被告E,弁論の全趣旨)本件事故当日の朝食の献立は,ベーコンと野菜の炒め物,ヨーグルト,牛乳と真ん中にクリームがあり,その上に缶詰のみかんのようなものが3切くらい載った大きなパンであった。同日午前7時40分ころから,Z3階食堂の四角テーブルの長辺に亡Dが車いすで位置し,短辺には入所者Iがすわり,両名の間のテーブルの角のところに被告Eが座って2名の食事の介助を開始した。食事中の亡Dの姿勢は,リクライニングの背もたれはおおむね60度に起こし,枕を後頭部にあてがって前屈状態であった。被告Eは,自分の左手に位置している亡Dにはじめに牛乳を2口を吸い飲みで介助し,パンを小さめの1口大にちぎって口の中に入れたが,咳き込んでパンを吹き出した。そこで,ヨーグルト2ないし3口をスプーンで介助した。2口目から口にためている時間が長かった。副食のレタスベーコン炒めは1口食べてむせたので,その後は介助しなかった。当日,亡Dはよくむせるので被告Eはパン粥をスプーンで1口介助したが,なかなか飲み込めず,しばらく口の中に溜めていたので,飲み込むようにうながすと,ようやく飲み込んだ。その後,被告Eは隣のIを介助しながら,亡Dの様子を観察していたが,むせたり,咳き込んだりする様子はなく,何ら異変はなかった。午前8時に被告Eは一旦席を立って下膳の手伝いをして,同日午前8時5分ころ,再び亡Dに対して,食事介助を始めた。再開後,被告Eは,亡Dに再びパン粥を1口介助したが,口を開けようとしないので,Iの介助をしていた 告Eは一旦席を立って下膳の手伝いをして,同日午前8時5分ころ,再び亡Dに対して,食事介助を始めた。再開後,被告Eは,亡Dに再びパン粥を1口介助したが,口を開けようとしないので,Iの介助をしていたところ,午前8時8分頃,急に亡Dが「ヒーヒー」と言い始め,顔面蒼白となったので,2分間くらい,体を前傾させて背中をたたいたが,変わりがなく,医務室に被告Dを運び,看護師が吸引機(乙15の1の写真のもの)により吸引を開始したところ,パンらしきものが少量吸引できた。さらに,被告Eが掃除機にノズルを付けた吸引機(乙15の2の写真のもの)で吸引したが,異物は吸引できなかった。その後,亡Dは車いすから降ろされ,看護師がアンビューバックでの人工呼吸をし,Jが心臓マッサージをしたところ,亡Dは,一旦は自発呼吸を開始したが,すぐに停止し,午前8時25分に連絡をうけてX病院のF医師が医務室来たが,すでに瞳孔が散大し,反応もないようであったので,X病院の救急室に搬送するように指示し,搬送中及び救急室で心肺蘇生術を継続しつつ挿管の準備をしたが,瞳孔散大が続き,対光反射も消失し,末梢チアノーゼも出現したので,午前8時40分にF医師は亡Dが死亡したと判断した。 (7) 亡Dの誤嚥の特徴について亡Dに起こったオの段階の誤嚥の特徴としては,食物がのどを通らない,食物が口にもどってくる,食べるとむせる,1口目はむせないのに,2,3口目になるとむせる,食べるとすぐ咳が出る,食事中や食後に咳が出る,肺炎を繰り返す,数口以上食べない,食後に呼吸が苦しいというものである(乙5)。 (8) 本件事故前に亡Dにその兆候があったか否か前記(1)ないし(5)認定の事実によると,亡Dにおいて,食べるとむせるという状況はあったものの,それにも波があり,また,亡Dは尿路感 。 (8) 本件事故前に亡Dにその兆候があったか否か前記(1)ないし(5)認定の事実によると,亡Dにおいて,食べるとむせるという状況はあったものの,それにも波があり,また,亡Dは尿路感染による発熱はあったが,肺炎を繰り返すという状況ではなく(F証言8頁),その他の症状についてはいずれもこれを認めることができない。かえって,亡Dは,食事を全量摂取することも多かったのであり,本件事故以前にオの段階の誤嚥の兆候を認めることはできない。 (9) 被告Eの亡Dの死に対する予見可能性ないし予見義務についてア被告Eとしては,亡Dにおいて,本件事故において生じたオの段階の誤嚥の兆候は認識していないのであるから,亡Dが介助したパン粥を口に溜め込み,なかなか飲み込まないという事態を受けて,上記誤嚥の可能性を認識することは不可能であり,仮に認識すべき義務があるとすると,これには,食事介護中は常に肺か頸部の呼吸音を聞く必要があり(但し正確に聞くには熟練が必要である),また,誤嚥を一番正確に評価するには嚥下造影をすることになる(乙5)が,このようなことを病院でない特別養護老人ホームであるZの職員に義務づけることは不可能を強いることとなり,このような義務を認めることはできない。 以上を前提とすると,原告らが主張する被告Eの注意義務違反行為②のイ及びウはいずれも認められない。 イ原告らの主張する被告Eの注意義務違反行為②にかかるその他の注意義務について検討すると,原告ら主張の被告Eの注意義務違反行為②のア及びエの注意義務は,いずれも,エの段階の誤嚥が生じないようにするためであるから,本件では,その前提を欠き,理由がない。同オの注意義務のうち,口の中に指を入れてかき回す(咽頭反射を引き起こして吐かせる),ハイムリッヒ法(横隔膜 ,エの段階の誤嚥が生じないようにするためであるから,本件では,その前提を欠き,理由がない。同オの注意義務のうち,口の中に指を入れてかき回す(咽頭反射を引き起こして吐かせる),ハイムリッヒ法(横隔膜の圧迫によって詰まったものを吐かせる)を行う義務については,前記事実からして,亡Dに対して功を奏しないものであるから,このような注意義務を認めることはできず,また,吸引の措置については,それが本件において有効であったか疑問である上,前記認定の経緯と3階食堂及び医務室の位置関係(乙16)からして,吸引の措置を取ることが遅きに失したとまではいえない。同カについては,前記認定の事実からして,被告Eにおいて,亡Dに対する救命措置について落ち度があったと認めるに足りる具体的な事情はうかがわれない。 以上から,被告Eの注意義務違反行為②は認めることができない。 ウさらに,原告らは,①亡Dは本件事故の2ないし3日前からむせることが多かった。②被告Eが亡Dに対して,牛乳を介助したとき,ちょっとむせるような感じであった。③被告Eが亡Dに対して,最初にパンを1口大にちぎって介助したが,なかなか嚥下できず,苦しそうであった。④被告Eが亡Dに対して,パン粥を介助したときも,亡Dは飲み込むのがしんどそうであった。⑤介助したパン粥は3ないし4口であったから,被告Eには過失があると主張している。 しかし,検証の結果(198,199)には,亡Dが本件事故の2ないし3日前からむせることが多かった旨の記載がなく,その他,これを認めるに足りる的確な証拠はない。ちょっとむせるような感じ,苦しそうである,あるいは,しんどそうであるというのは主観的な評価であり,このように被告Eが感じたとしても,そのことから本件事故において亡Dに生じたオの段階の誤嚥を予見しえた ょっとむせるような感じ,苦しそうである,あるいは,しんどそうであるというのは主観的な評価であり,このように被告Eが感じたとしても,そのことから本件事故において亡Dに生じたオの段階の誤嚥を予見しえたとはいえないし,パンをそのまま介助したか否か,パン粥の量が1口であったのか,3ないし4口であったのかについては,被告Eは,亡Dに生じたオの段階の誤嚥を予見できなかった以上,エの段階の誤嚥に関係する上記事実はいずれも被告Eの過失の有無の判断を左右する事実とは評価できない。 (10) 原告らは,被告Eは,入所当初から亡Dが抗うつ剤であるミラドールの投与を受けていたことを知っていたから,亡Dに嚥下困難や喉の渇きといった副作用が生じ,他の入所者に比べ,誤嚥による窒息を回避すべき高度な注意義務があったと主張しているから,亡Dがミラドールの投与を受けていた事実によって,被告Eの過失の有無の判断が左右されるか否か検討する。 抗うつ剤であるミラドールには,重大な副作用として,悪性症候群があらわれることがあり,この症状のうちの1つとして,嚥下困難や喉の渇きがあげられている(乙17)。しかし,亡Dにおいて,ミラドールを服用したことによって悪性症候群が現れた事実はなく,嚥下困難や喉の渇きが生じていることもない(F証言)から,ミラドールが亡Dに投与されていた事実によって,被告Eの過失の有無の判断が左右されることはない。 (11) 包括的自立支援プログラムの位置づけ及びその被告Eの注意義務違反①について包括的自立支援プラグラム(検証の結果206ないし212丁)は,平成12年から実施される介護保険の適用をうけるために作成されたケアプランであり,介護保険によって提供される介護内容が記載されており,(乙10,14),そこには,少しでも問題点があればそ 2丁)は,平成12年から実施される介護保険の適用をうけるために作成されたケアプランであり,介護保険によって提供される介護内容が記載されており,(乙10,14),そこには,少しでも問題点があればそれを記載しているものであり(F証言19頁),亡Dの嚥下能力等を反映した措置を示しているものであるとは言えないから,ここに記載されている事項が実行されていないとしても,そのことから直ちに被告Eの注意義務違反が認められることにはならないし,また,被告Eにおいて,これを検討したりする具体的な義務を認める根拠も見いだすことができない。 以上から,被告Eにおいては,注意義務違反行為①は認めることができない。 4 被告Yの責任(1) 被告Eの使用者としての責任被告Eにおいて,亡Dに対する不法行為が成立しない以上,被告Yは被告Eの使用者としての責任を負わない。 (2) 被告Y自身の責任前記のとおり,亡Dにミラドールが投与されたことによって,同人に原告ら主張の副作用が生じたとは認められず,また,包括的自立支援プログラムの作成の趣旨は前記のとおりであるから,被告Yにおいて,包括的自立支援プログラムに基づいて日々の介護の方針等を作成すべき義務や亡Dに対するための窒息の対処方法の検討や訓練を行うべき義務等を認めることはできない。 5 まとめ以上から,原告らの請求はいずれも理由がないので,主文のとおり,判決する。 神戸地方裁判所第2民事部裁判官今中秀雄

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