平成27(行ウ)534 障害基礎年金不支給処分取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成30年3月14日 東京地方裁判所 その他
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判決文本文22,840 文字)

平成30年3月14日判決言渡平成27年(行ウ)第534号障害基礎年金不支給処分取消請求事件 主文 1 厚生労働大臣が平成26年3月3日付けで原告に対してした障害基礎年金を支給しない旨の処分を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求主文同旨第2 事案の概要 本件は,原告が,20歳未満の時に初診を受けた知的障害により,20歳に達した日に障害等級に該当する程度の障害の状態にあり,国民年金法(以下「法」という。)30条の4第1項所定の障害基礎年金の支給要件を充足しているとして,障害基礎年金の支給の裁定の請求をしたところ,厚生労働大臣から,20歳に達した日において障害等級に該当する程度の障害の状態にあると はいえないとして,障害基礎年金を支給しない旨の処分(以下「本件処分」という。)を受けたため,原告の障害の状態は障害等級2級に該当する程度のものであり,同処分は障害の程度の評価を誤った違法なものであるとして,同処分の取消しを求める事案である。 1 関係法令等の定めの概要 別紙のとおりである(同別紙における略称は,以下においても用いることとする。)。 2 前提事実(証拠等を掲記しない事実は当事者間に争いがない。)(1) 原告は,平成5年▲月▲日生まれの女性であり,知的障害(以下「本件傷病」ともいう。)に係る初診日は平成12年9月4日であり(甲1,乙1 1),20歳に達した日は平成25年▲月▲日であった。 (2) 原告は,平成25年12月25日,厚生労働大臣に対し,本件傷病により20歳に達した日に法30条2項所定の障害等級に該当する障害の状態にあるとして,法30条の4第1項 日であった。 (2) 原告は,平成25年12月25日,厚生労働大臣に対し,本件傷病により20歳に達した日に法30条2項所定の障害等級に該当する障害の状態にあるとして,法30条の4第1項所定の20歳前の傷病による障害基礎年金に係る裁定の請求(以下「本件裁定請求」という。)をした。 (3) 厚生労働大臣は,平成26年3月3日付けで,原告に対し,20歳に達 した日である平成25年▲月▲日(以下「本件基準日」という。)現在の障害の状態は令別表に定める程度に該当していないとして,本件裁定請求に係る障害基礎年金を支給しない旨の処分(本件処分)をした。 (4) 原告は,本件処分を不服として,平成26年3月24日付けで,関東信越厚生局社会保険審査官に対し,審査請求をしたところ,同社会保険審査官 は,同年7月23日付けで,原告に対し,審査請求を棄却する旨の決定をした。 (5) 原告は,上記(4)の決定を不服として,平成26年7月26日付けで,社会保険審査会に対し,再審査請求をしたところ,社会保険審査会は,平成27年3月31日付けで,原告に対し,再審査請求を棄却する旨の裁決をした。 (6) 原告は,平成27年9月1日,本件訴えを提起した(顕著な事実)。 3 争点原告の本件基準日における障害の状態が障害等級2級に該当する程度のものであるか否か。 4 当事者の主張の要旨 (原告の主張)(1) 障害等級2級に該当する程度の障害の状態であるか否かの判断枠組みは,障害認定基準によれば,「身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が,日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの」に該当するか否かであり,これを知的 障害の事案について 障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が,日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの」に該当するか否かであり,これを知的 障害の事案について具体化すると,「知的障害があり,食事や身のまわりの ことなどの基本的な行為を行うのに援助が必要であって,かつ,会話による意思の疎通が簡単なものに限られるため,日常生活にあたって援助が必要なもの」に該当するか否かとなる。 また,障害認定基準には,上記の判断に関し,「労働により収入を得ることができない程度のもの」とする旨の記載があるが,他方で,「労働に従事 していることをもって,直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず,現に労働に従事している者については,その療養状況を考慮するとともに,仕事の種類,内容,就労状況,仕事場で受けている援助の内容,他の従業員との意思疎通の状況等を十分確認したうえで日常生活能力を判断すること」と定められており,保護的な就労や配慮された就労はしているが日常生活が自立 できない場合は障害等級2級に当たるとされる。 そして,日常生活能力の判断は,本人の一人暮らしを想定して判断すべきであり,また,特定の状況において社会的適応性が向上したように見えても,環境が変わればまた一からやり直しということが多いことに注意を要する。 (2) 原告は就労しているが,従業員全員が障害者手帳所持者である特例子会 社(障害者の雇用の促進等に関する法律44条参照)において,障害者対応の専門的知識を有する社員から手厚い保護・援助・配慮を受けて初めて働くことができている状態である。家庭内においては,起床・就寝,食事,着替え・衛生面,金銭管理等につき,家族の指示や援助を常に必要とし,やっと日常生活の基本的行為ができている。限定さ を受けて初めて働くことができている状態である。家庭内においては,起床・就寝,食事,着替え・衛生面,金銭管理等につき,家族の指示や援助を常に必要とし,やっと日常生活の基本的行為ができている。限定された単純なパターンの作業につ いてすら,他者の指示や援助がなければ困難な状況で,一人暮らしをするなど不可能である。意思疎通についても,単純で具体的な指示をやっと理解できるという状況であり,言葉の意味や相手の意図をくみ取ることはできず,自身の考えや意図を他者に伝えることも基本的にはできないため,意思疎通はごく単純なものに限られる。 以上からすれば,原告の本件基準日における障害の状態は,「知的障害が あり,食事や身のまわりのことなどの基本的な行為を行うのに援助が必要であって,かつ,会話による意思の疎通が簡単なものに限られるため,日常生活にあたって援助が必要なもの」であり,障害等級2級に該当する程度のものであるというべきである。 (被告の主張) (1) 令別表に定める障害等級2級の障害の状態は,「日常生活が著しい制限を受けるか,又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの」であるところ,これは障害認定基準上,具体的には,「必ずしも他人の助けを借りる必要はないが,日常生活は極めて困難で,労働により収入を得ることができない程度のもの」であり,「例えば,家庭内の極めて温和な活動 (軽食作り,下着程度の洗濯等)はできるが,それ以上の活動はできないもの又は行ってはいけないもの,すなわち,病院の生活でいえば,活動の範囲がおおむね病棟内に限られるものであり,家庭内の生活でいえば,活動の範囲がおおむね家屋内に限られるもの」であり,知的障害の例示でいえば,「知的障害があり,食事や身のまわりのことなどの ば,活動の範囲がおおむね病棟内に限られるものであり,家庭内の生活でいえば,活動の範囲がおおむね家屋内に限られるもの」であり,知的障害の例示でいえば,「知的障害があり,食事や身のまわりのことなどの基本的な行為を行うのに 援助が必要であって,かつ,会話による意思の疎通が簡単なものに限られるため,日常生活にあたって援助が必要なもの」となる。 (2) 原告は,その知的障害は軽度と認定されているものである上,日常生活においてある程度の指導や助言が必要であるとしても,基本的な日常生活動作については自発的にできることも決して少なくなく,家族や原告の障害を 理解できる者との会話もある程度可能であり,また,制服管理作業の仕事をしており,細分化された業務を上司の指示のもとローテーションにより行い,障害者に係る継続的な就労支援や勤務先の援助及び配慮の下とはいえ,勤務を継続して一定の実績をあげている。このような状況からすれば,原告の本件基準日における本件傷病の状態は,障害認定基準の認定要領が示す「知的 障害があり,食事や身のまわりのことなど基本的な行為を行うのに援助が必 要であって,かつ,会話による意思の疎通が簡単なものに限られるため,日常生活にあたって援助が必要なもの」や,令別表上,2級の障害の状態とされる「日常生活が著しい制限を受けるか,又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの」には及ばないというべきである。 また,原告の生活行動範囲に鑑みても,障害等級2級の例示として挙げら れている「家庭内の生活でいえば,活動の範囲がおおむね家屋内に限られるもの」に当てはまらないことは明らかである。 したがって,原告の本件基準日における障害の状態は,障害等級2級に該当する程度のものではないというべき 生活でいえば,活動の範囲がおおむね家屋内に限られるもの」に当てはまらないことは明らかである。 したがって,原告の本件基準日における障害の状態は,障害等級2級に該当する程度のものではないというべきである。 第3 当裁判所の判断 1 障害等級の認定について法30条の4第1項は,初診日において20歳未満であった者が障害認定日以後の20歳に達した日(又は20歳に達した日後の障害認定日)において障害等級に該当する程度の障害の状態にあることを障害基礎年金の支給要件とし,法30条2項は,障害等級を障害の程度に応じて重度のものから1級及び2級 とした上で各級の障害の状態は政令で定めるものとし,これを受けた令は,障害等級の各級の障害の状態につき,令別表において具体的に定めている。そして,厚生労働省作成の障害認定基準は,障害基礎年金等の裁定権者である厚生労働大臣による障害等級の認定の基準として定められているものと解されるところ,その内容及び策定や改正の経緯(甲4の1~3,甲5,乙6,乙13~ 16)等に照らせば,障害認定基準は,法的拘束力を有するものではないものの,近時の医学的知見を踏まえたものであって合理的なものということができる。 したがって,障害の状態が障害等級2級に該当する程度のものであるか否かの認定は,特段の事情がない限り,障害認定基準を参酌して判断するのが相当 であり,知的障害でいえば,障害認定基準において障害の程度が2級に相当す ると認められる障害の状態として例示されている「知的障害があり,食事や身のまわりのことなどの基本的な行為を行うのに援助が必要であって,かつ,会話による意思の疎通が簡単なものに限られるため,日常生活にあたって援助が必要なもの」に該当し,又はこれと同等程度の障害の状態にあると認めら ことなどの基本的な行為を行うのに援助が必要であって,かつ,会話による意思の疎通が簡単なものに限られるため,日常生活にあたって援助が必要なもの」に該当し,又はこれと同等程度の障害の状態にあると認められるか否かで判断するのが相当である。 そして,その際には,障害認定基準が定めるとおり,知能指数のみに着眼することなく,日常生活の様々な場面における援助の必要度を勘案して総合的に判断すべきであり,また,就労をしている者も援助や配慮の下で労働に従事していることが通常であることを踏まえ,労働に従事していることをもって,直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず,現に労働に従事している者につい ては,その療養状況を考慮するとともに,仕事の種類,内容,就労状況,仕事場で受けている援助の内容,他の従業員との意思疎通の状況等を十分確認した上で日常生活能力を判断すべきである。 また,上記の判断の資料となる精神障害に係る所定の診断書(甲1参照)においては,日常生活能力の判定に係る各項目の判断に当たっては,単身で生活 するとしたら可能かどうかで判断すべきこととされているところ,これは生活環境の実体による不均衡を防ぎつつ,上記した援助が必要な程度を適正に判断するための方法と解され,合理性が認められるから,日常生活能力の判定に当たっては,対象者が単身で生活することを仮定して判断することが相当である。 (なお,原告は,「国民年金・厚生年金保険精神の障害に係る等級判定ガイ ドライン」(乙19)の表1「障害等級の目安」に,本件裁定請求の際の資料として提出された診断書(甲1)における日常生活能力の程度及び日常生活能力の判定平均を当てはめると,前者が4,後者が約3.57で,障害等級1級又は2級に該当することになる旨を主張し,これと同旨のD医師の意見書 された診断書(甲1)における日常生活能力の程度及び日常生活能力の判定平均を当てはめると,前者が4,後者が約3.57で,障害等級1級又は2級に該当することになる旨を主張し,これと同旨のD医師の意見書(甲22)を提出する。しかしながら,同ガイドラインは,各都道府県における障 害基礎年金の認定事務の実態調査の結果,精神障害及び知的障害の認定におい て,地域によりその傾向に違いがあることが確認されたことに伴い,専門家検討会による検討を経て,本件処分後の平成28年9月1日から施行されたもので,同ガイドラインの策定と施行に当たっては,資料となる障害年金の診断書(精神の障害用)の記載要領等も見直しがされたものであること(乙19)からすれば,同ガイドラインと上記の見直し後の診断書の記載要領を踏まえた上 で,改めて原告を直接診察した医師から本件基準日における障害の状態についての診断書又は追加の意見書が提出されない限り,同ガイドラインの上記表を目安として検討する前提を欠くというべきである。) 2 認定事実(1) 本件裁定請求の際の資料として提出された診断書(甲1。以下「本件診 断書」という。)本件診断書(E医師作成)によれば,本件傷病の病状,原告の生活状況,日常生活能力の判定・程度等は,要旨,以下のとおりとされている。 ア 「① 障害の原因となった傷病名」 知的障害イ 「② 傷病の発生年月日」 平成5年▲月▲日 ウ 「③ ①のため初めて医師の診断を受けた日」 平成12年9月4日エ 「⑦ 発病から現在までの病歴及び治療の経過,内容,就学・就労状況等,期間,その他参考となる事項」(陳述者の氏名 F(原告の母。以下「原告母」という。),聴取年月日平成21年2月28 エ 「⑦ 発病から現在までの病歴及び治療の経過,内容,就学・就労状況等,期間,その他参考となる事項」(陳述者の氏名 F(原告の母。以下「原告母」という。),聴取年月日平成21年2月28日)言葉のおくれ,その他様々におくれがあり,集団にとけこめず,トラブ ルが多かった。就学後も学校生活のルールがまもれず,学習面は遅れが目立った。能力評価において各種の遅れが認められ,対人関係も不良であった。中学より障害者スポーツ大会に参加しているが,母のサポートなしでは成り立たない。高卒後特例子会社に就職するも多くのトラブルをおこし,母のサポートによりどうにか行けている状態である。 オ 「⑧ 診断書作成医療機関における初診時所見」 初診年月日(平成21年2月28日)会話は成立せず母からの聞きとりであった。生活全般は母のサポートなしでは成立せず,対人関係は単独では出来ず,ストレスにより容易に混乱・興奮することを認めた。 カ 「⑩ 障害の状態(平成25年▲月▲日現症)」 (ア) 「ア現在の病状又は状態像」 知的障害軽度(イ) 「イ左記の状態について,その程度・症状・処方薬等を具体的に記載してください。」生活全般にわたり母・家族の援助なしでは成立していない。何を行うにも家人のサポートが必要であり,日常の最低限のことも出来ないこと が多い。ストレスがあるときには,混乱・興奮・拒絶・暴言などが出やすく,自分の衝動,欲求などをコントロールすることが出来ない。対人コミュニケーションも困難である。 (ウ) 「ウ日常生活状況」a 「1 家庭及び社会生活についての具体的な状 衝動,欲求などをコントロールすることが出来ない。対人コミュニケーションも困難である。 (ウ) 「ウ日常生活状況」a 「1 家庭及び社会生活についての具体的な状況」 (a) 「(ア) 現在の生活環境」 在宅,同居者有⒝ 「(イ) 全体的状況」母や家族のサポートなしでは日常生活がおくれない。 b 「2 日常生活能力の判定(該当するものにチェックしてください。)」 (a) 「(1) 適切な食事-配膳などの準備も含めて適当量をバランスよく摂ることがほぼできるなど。」自発的かつ適正に行うことはできないが助言や指導があればできる⒝ 「(2) 身辺の清潔保持-洗面,洗髪,入浴等の身体の衛生保持 や着替え等ができる。また,自室の清掃や片付けができるなど。」 自発的かつ適正に行うことはできないが助言や指導があればできる⒞ 「(3) 金銭管理と買い物-金銭を独力で適切に管理し,やりくりがほぼできる。また,一人で買い物が可能であり,計画的な買い物がほぼできるなど。」 助言や指導をしてもできない若しくは行わない⒟ 「(4) 通院と服薬-規則的に通院や服薬を行い,病状等を主治医に伝えることができるなど。」不要助言や指導があればできる⒠ 「(5) 他人との意思伝達及び対人関係-他人の話を聞く,自分 の意思を相手に伝える,集団的行動が行えるなど。」助言や指導をしてもできない若しくは行わない⒡ 「(6) 身辺の安全保持及び危機対応-事故等の危険 を聞く,自分 の意思を相手に伝える,集団的行動が行えるなど。」助言や指導をしてもできない若しくは行わない⒡ 「(6) 身辺の安全保持及び危機対応-事故等の危険から身を守る能力がある,通常と異なる事態となった時に他人に援助を求めるなどを含めて,適正に対応することができるなど。」 助言や指導をしてもできない若しくは行わない⒢ 「(7) 社会性-銀行での金銭の出し入れや公共施設等の利用が一人で可能。また,社会生活に必要な手続きが行えるなど。」助言や指導をしてもできない若しくは行わないc 「3 日常生活能力の程度(該当するもの一つを○で囲んでくださ い。)」知的障害を認め,日常生活における身のまわりのことも,多くの援助が必要である。 (たとえば,簡単な文字や数字は理解でき,保護的環境であれば単純作業は可能である。習慣化していることであれば言葉での指示を理 解し,身辺生活についても部分的にできる程度) (エ) 「エ現症時の就労状況」特例子会社,障害者雇用,勤続年数1年8か月,仕事の頻度は月に20日,給与月額17万円程度。 仕事の内容は,制服管理作業の単純労働,サポート下での業務。 仕事場での援助の状況や意思疎通の状況は,病状のため意思疎通に苦 慮している状況,仕事はサポートなしでは行えない。 (オ) 「オ身体所見(神経学的な所見を含む。)」脳波異常を認める(全般的な徐波傾向)。 (カ) 「カ臨床検査(心理テスト・認知検査,知能障害の場合は,知能指数,精神年齢を含む。)」 知能検査:W 脳波異常を認める(全般的な徐波傾向)。 (カ) 「カ臨床検査(心理テスト・認知検査,知能障害の場合は,知能指数,精神年齢を含む。)」 知能検査:WISC-Ⅲ(ウェクスラー児童用知能検査)にてtotalIQ65(VIQ〔言語性IQ〕68,PIQ〔動作性IQ〕69)であるが,それ以前に田中ビネーにてIQ51と評価されたこともあり,平均知能をWISC-Ⅲだけで判断は出来ない。 療養手帳4度 (キ) 「キ福祉サービスの利用状況」 就労支援センター利用キ 「⑪ 現症時の日常生活活動能力及び労働能力」日常生活は家族のサポートなしでは成立しない。日常生活活動能力は非常に低い。労働能力はサポート無しでは働くことが出来ず,一般の労働は出来ない。 ク 「⑫ 予後」 不良と考える。 (2) 原告の経歴,生活状況等ア原告の知能指数の判定原告は,平成21年3月3日付けで東京都児童相談センターから,鈴木ビネー式(改訂版)の検査により,IQ51,CA(生活年齢)15歳2 か月,MA(精神年齢)7歳4か月,障害の程度を愛の手帳4度(軽度) と判定されている(乙8)。 イ原告の就学歴等(ア) 原告は,小学校は普通学級に通い,中学校及び高校では特別支援学級に通った。ただし,中学校において,英語については普通学級の授業を受けていた。 中学校のクラスは,2年時は約8人,3年時は約15人の生徒を3名の教師が担当し,高校のクラスは,10人の生徒につき1名の教師が担当した上,2クラスに1人の割合で副担任がいた。 (以上につき,甲1,8,証人原告母,証人G)(イ) 原告の中学校の通知表(甲 の教師が担当し,高校のクラスは,10人の生徒につき1名の教師が担当した上,2クラスに1人の割合で副担任がいた。 (以上につき,甲1,8,証人原告母,証人G)(イ) 原告の中学校の通知表(甲21の1~3)には,要旨,以下のよう な記載がある。 a 「生活」欄の「自立活動(洗濯・干し物・掃除・歯磨き等)」欄(中学1年前期においては「自立活動(着脱・花結び・歯磨き・机拭き等)」欄)では,中学1年から中学3年までの3年間,いずれもA(十分満足できる)と記載されている。 b 中学1年時の前期評価の「総合所見」欄では,「生活面では,人との接し方に注意しましょう。親しくすることと乱暴な言葉使いとは違います。親しみを込めることと意地悪とは違います。…学級のリーダー的存在へと成長してほしいと期待しています。」と記載されているのに対し,中学2年時の後期評価の「総合所見」欄では,「人に親切 にする場面も見られ,弱い子へのいたわりが感じられました。」と,中学3年時の前期評価の「総合所見」欄では,「校外学習や移動教室では度々班長を務めて仲間をまとめていました。自ら力を貸し下級生を助ける姿が見られ,心の成長も感じられました。」と,同後期評価の「総合所見」欄では,「友だちが困っている時,進んで力を貸して くれたり,何も言わなくても仕事を手伝ってくれたりと,優しい気持 ちで人に接することが自然にできるところは原告Hさんの最大の長所だと思います。」と記載されている。 c 特別支援学級での各教科の評価は,A(十分満足できる)又はB(概ね満足できる)と記載されている。 また,普通学級での英語の評価(5段階)は,1,2年時は総合評 価3,3年時は総合評価2とされ,2年時の後期評価の所見欄には,「いつ る)又はB(概ね満足できる)と記載されている。 また,普通学級での英語の評価(5段階)は,1,2年時は総合評 価3,3年時は総合評価2とされ,2年時の後期評価の所見欄には,「いつも真面目に授業に取り組んでいました。特に,夏休みの思い出のスピーチでは,陸上大会出場で時間がなかったのにもかかわらず,下書きをしっかり仕上げ,暗記してクラスの人の前で発表することができました。スペリングコンテストの再テストに挑戦し高得点で合格 しました。」と,3年時の前期評価の所見欄には,「大変真面目に授業に取り組んでいました。…スピーチコンテストでは長い原稿を書き,きちんと発表できました。途中までは暗記して言うことができました。」と記載されている。 ウ就労状況等(甲1,7~11,乙11,12,証人原告母) (ア) 原告は,就労支援センターを利用し,高校卒業後,特例子会社(障害者の雇用の促進等に関する法律44条1項に基づき,厚生労働大臣の認定を受け,法律上求められる障害者雇用率の算定において親会社の一事業所とみなされる子会社)であるJ株式会社(以下「本件特例子会社」という。)に,障害者雇用枠にて,1年単位の有期雇用の契約社員とし て採用された。 (イ) その後,現在に至るまで,本件特例子会社の客室乗務員の制服等管理の部署にて,月に20日程度勤務し,①着用後の制服,スカーフ等をたたむ係,②上記制服等に縫い付けられている個人バーコードを読み取る係,③上記を番号順に並び替える係,④クリーニング店より仕上がっ てきた制服のバーコードを読み取る係,⑤上記を種類ごとに分ける係, ⑥上記を番号順に並び替える係,⑦上記番号を個人別に集めてカゴに入れていく係,⑧出来上がった制服等をカウンターで渡す係といっ てきた制服のバーコードを読み取る係,⑤上記を種類ごとに分ける係, ⑥上記を番号順に並び替える係,⑦上記番号を個人別に集めてカゴに入れていく係,⑧出来上がった制服等をカウンターで渡す係といった細分化された業務を,管理職員の指示のもとローテーションにより行い,毎月18万円から20万円の収入を得,その他賞与を受けてきた。 (ウ) 本件特例子会社は,現場の従業員は,その全員が知的障害者のほか, 身体障害者も含む障害者手帳所持者であり,管理職員の全員が障害者の雇用の促進等に関する法律79条所定の障害者職業生活相談員である。 (エ) 原告は,自宅から本件特例子会社まで,約1時間の時間をかけて通勤している。往路は,基本的に父親に車で(住所省略)の自宅からβ駅まで送ってもらい,同駅から電車に乗ってγ駅に行き,同駅に直結して いる本件特例子会社に出勤するが,父親の都合がつかない場合は,α駅からβ駅,β駅からδ駅まで一人で電車を乗り継いで本件特例子会社に出勤する。また,復路は,一人で又は職場の同僚と電車を乗り継ぎ,自宅までは一人で帰宅しており,職場から陸上競技の練習場へ立ち寄ってそこから自宅まで一人で帰宅することもあった。 エ休日等の活動状況(甲8,証人原告母)原告は,休日等に,妹と一緒にゲームセンターに行ってゲームをしたり,プリクラを撮ったりし,チームに所属して陸上競技も行い,海外の大会に参加したことがある。 3 検討 (1) 前記2(1)のとおり,本件診断書によれば,原告の平成25年▲月▲日(本件基準日前日)現在の障害の状態については,軽度の知的障害があり,「日常生活能力の判定」のうち,「適切な食事」及び「身辺の清潔保持」については,自発的かつ適正に行うことはできないが助言や指導 日(本件基準日前日)現在の障害の状態については,軽度の知的障害があり,「日常生活能力の判定」のうち,「適切な食事」及び「身辺の清潔保持」については,自発的かつ適正に行うことはできないが助言や指導があればできるとされ,「通院と服薬」については助言や指導があればできるとされ(な お,本件診断書では通院と服薬が「不要」とされているが,これは原告の知 的障害について,経常的な通院と服薬を要しないとする趣旨と解される。),「金銭管理と買い物」,「他人との意思伝達及び対人関係」,「身辺の安全保持及び危機対応」及び「社会性」については,助言や指導をしてもできない若しくは行わないとされており,また,「日常生活能力の程度」については,知的障害を認め,日常生活における身の回りのことも,多くの援助が必要で あるとされている。 これに対し,被告は,原告の障害の状態については,本件診断書のみで判断すべきではなく,本件裁定請求の際に提出された病歴状況申立書(乙11。 以下「本件病歴状況申立書」という。)に記載されている具体的事情等を前提にすれば,原告が自発的にできる日常生活動作は少なくなく,また,原告 は障害者雇用枠ではあるものの,勤務を継続し,一定の実績を上げていることからすれば,本件診断書における日常生活能力に係る記載は,日常生活における家族の援助の必要性を過大に記載した傾向が見られるものである旨を主張する。 そこで,以下,本件診断書における日常生活能力の判定の各項目及びその 程度の記載の相当性について,本件病歴状況申立書や,原告母及び原告の中学校時代の担任教師であったGの供述等も踏まえて検討する。 (2) 日常生活能力の判定ア適切な食事本件病歴状況申立書(乙11)によれば,平成25年▲月▲日(本件基 ,原告母及び原告の中学校時代の担任教師であったGの供述等も踏まえて検討する。 (2) 日常生活能力の判定ア適切な食事本件病歴状況申立書(乙11)によれば,平成25年▲月▲日(本件基 準日)現在の原告の状態について,炊事はできず,食事は自発的にはできないが援助があればできるとされ,また,その他日常生活で不便に感じたこととして,家族が用意した食事を食べることはできるが,用意がない場合は,買い置きしてある菓子やパン,カップ麺などを大量に食べている,昼食は調理をしないで食べられる上記のようなものや調理済み総菜などを 見つければ食べるが,自分で用意をして食べることはない,自分が好きな 食べ物は買うことができるが,値段や栄養バランスを考えて食材を購入することはおろか,調理が必要な食品(肉や野菜など)を選んで購入することはできないなどとされている。 また,原告母の供述(甲8,証人原告母)によれば,食事はおなかがすいたら目の前にある出来上がったものを食べるという状況であり,栄養バ ランスという概念がなく,食べたくないものは拒絶してしまう,食事の用意がないときは,原告自らカップ麺にお湯を入れて食べることはするが,お湯がぬるくなっていても入れてしまい,冷えた総菜を温めるために電子レンジを使用しようとするが,適切な時間調整ができない,食事の配膳について,指示をすれば皿を運ぶことがあるが,自発的にはやってくれない などとされている。 さらに,Gの供述(証人G)によれば,給食の際には,原告は,一人で食べることはでき,おおむね流れに乗って片付けや配膳をすることはできるが,やや乱暴なので,たまに皿がトレーからずれるなどとされている。 以上からすれば,原告は,空腹を感じた上で,助言や指導の下,調理ま べることはでき,おおむね流れに乗って片付けや配膳をすることはできるが,やや乱暴なので,たまに皿がトレーからずれるなどとされている。 以上からすれば,原告は,空腹を感じた上で,助言や指導の下,調理ま ではともかく,その準備が全くできないものではなく,また,用意できた食事を摂ること自体はできるものの,食事を自発的かつ適正に行うことができるとまではいえず,本件診断書において,適切な食事,すなわち,配膳などの準備も含めて適当量をバランスよく摂ることがほぼできるなどの能力について,自発的かつ適正に行うことはできないが助言や指導があれ ばできるとされているのは相当というべきである。 イ身辺の清潔保持(ア) 本件病歴状況申立書(乙11)によれば,平成25年▲月▲日(本件基準日)現在の原告の状態について,トイレは自発的にできたが援助が必要であり,着替え,洗面,入浴,洗濯及び掃除は自発的にはできな いが援助があればできるとされている。 また,本件病歴状況申立書にその他日常生活で不便に感じたこととして記載されている内容及び原告母の供述(甲8,証人原告母)によれば,自発的に入浴することはなく,毎日,家族に何度も指示されて入浴し,洗髪がうまくできないため,妹に手伝ってもらっている,用便のあとの始末がきちんとできていないため,下着が汚れている,自室の掃除をす るよう促すが,何度も声をかけられ,ようやくゴミを出す程度である,何日も同じ服を着て,臭くなっても気にすることなく着続けてしまい,何度か注意をしてやっと着替える,教え込んだ習慣として,洗顔・入浴・歯磨きをするが,表面的な動作を行うだけで終わってしまうなどとされている。 (イ) 他方,Gの供述(証人G)によれば,原告がトイ っと着替える,教え込んだ習慣として,洗顔・入浴・歯磨きをするが,表面的な動作を行うだけで終わってしまうなどとされている。 (イ) 他方,Gの供述(証人G)によれば,原告がトイレ休憩などのときに,自分より障害の重い子をトイレに一緒に行くよと連れて行くなどし,修学旅行の際の着替えについてもおおむねできたとされ,また,前記2(2)イ(イ)aのとおり,原告の中学時代の通知表の「生活」欄の「自立活動(洗濯・干し物・掃除・歯磨き等)」欄では,いずれもA(十分満 足できる)と記載されているところ,被告は,これらのことからすれば,上記の本件病歴状況申立書の記載や原告母の供述は,原告ができないことをやや過大に表現している傾向にある旨を主張する。 しかしながら,Gの上記供述は,あくまで教師からトイレ休憩をするよう助言・指導があり,着替えについても教師からの監督がある下での 原告の行動を述べたものと解されるのであり,原告が自発的ないし適正にトイレや着替えができたとまで直ちに評価できるものではない。また,上記の通知表の記載については,前記2(2)イ(ア)のとおり,原告は中学校以降,特別支援学級に通っていたものであり,Gは,通知表の記載について,C(努力を要する)を付けることはまずなく,よほど不真面 目であったり何度教えてもどうしても頭に入らないというときにB(概 ね満足できる)が付き,そうでなければAを付けるというものであったと説明しており(甲20,証人G),これは,将来の自立のため,生徒に自信を持たせるという教育的配慮による措置として首肯できるものである。 したがって,これらをもって,上記の本件病歴状況申立書の記載や原 告母の供述が過大であるとすることはできない。 (ウ) 以上からすれば,原 配慮による措置として首肯できるものである。 したがって,これらをもって,上記の本件病歴状況申立書の記載や原 告母の供述が過大であるとすることはできない。 (ウ) 以上からすれば,原告は,着替え,洗顔,入浴,歯磨き,用便といった基本的な動作を自分で全く行えないものではないが,これらについて自発的かつ適正に行うことができるとまではいえず,本件診断書において,身辺の清潔保持,すなわち,洗面,洗髪,入浴等の身体の衛生保 持や着替え等ができ,また,自室の清掃や片付けができるなどの能力について,自発的かつ適正に行うことはできないが助言や指導があればできるとされているのは相当というべきである。 ウ金銭管理と買物本件病歴状況申立書(乙11)によれば,平成25年▲月▲日(本件基 準日)現在の原告の状態について,買物は自発的にはできないが援助があればできるとされているが,その他日常生活で不便に感じたこととして,小遣いはもらったらすぐに使ってしまう,食べたい物や自分の物をいくつか買うことはできるが,食品や日用品等の買物は困難であるなどとされていることからすれば,同申立書の上記記載の援助があればできるというの は,事前の助言や指導ではなく,現に買物に付き添っての援助があればできるという趣旨であると解される。 また,原告母(甲8,証人原告母)の供述によれば,適切な買物はできず,計画性を持つことができないので,持っているお金は全て使おうとしてしまう,例えば,にきびがひどくて皮膚科に行くように言ってお金を渡 すが,お菓子等を買いたいために皮膚科には行かずににきびを爪で潰した りしてしまったりする,商品が割引になると言われただけで,具体的な契約書の内容理解ができないままクレジットカード契約をしてきてしまっ 菓子等を買いたいために皮膚科には行かずににきびを爪で潰した りしてしまったりする,商品が割引になると言われただけで,具体的な契約書の内容理解ができないままクレジットカード契約をしてきてしまったことがあるなどとされている。 以上からすれば,本件診断書における金銭管理と買物,すなわち,金銭を独力で適切に管理し,やりくりがほぼでき,また,一人で買物が可能で あり,計画的な買物がほぼできるなどの能力については,これが一定の期間,一定の金銭を保持した状況で,対象者自身が自身の判断により上記の対応ができるかを検討するものと解されるところ,原告は,自身で欲しいものを買うことや,少なくとも割引があれば得であると考えるなどの損得が理解できていないものではなく,また,原告の母等が常に付き添って助 言や指導をして買物等をするならば,適切な金銭管理や買物ができないものではないが,原告の母等からあらかじめ助言や指導をしておき,それを念頭に,一定の期間,一定の金銭を保持した状況で,原告の判断によってある程度適切に金銭管理や買物をすることができるまでのものではないと解されるのであって,本件診断書において,金銭管理と買物について,助 言や指導をしてもできない若しくは行わないとされているのも,この趣旨をいうものであるとすれば,相当でないとまではいえない。 エ通院と服薬本件病歴状況申立書(乙11)によれば,日常生活で不便を感じたこととして,原告は,何度も通院し,通い慣れた病院であれば自力で行くこと は可能であるが,自分の症状を医師に伝え,医師の説明を聞き理解することができないため,原告母がメモを作成し,医師に見せることで対応しているとされている。 また,原告の母の供述(甲8)によっても,原告は,自分からの症状の説明をすることがで 師の説明を聞き理解することができないため,原告母がメモを作成し,医師に見せることで対応しているとされている。 また,原告の母の供述(甲8)によっても,原告は,自分からの症状の説明をすることができず,医師の回答・薬の情報なども理解できないため, 原告母と医師との間で連絡帳を使ってやりとりをし,予約も本来原告本人 がすべきところ,医師に調整をしてもらっているとされている。 以上からすれば,本件診断書において,通院と服薬,すなわち,規則的に通院や服薬を行い,病状等を主治医に伝えることができるなどの能力について,助言や指導があればできるとされているのは相当というべきである。 オ他人との意思伝達及び対人関係(ア) 本件病歴状況申立書(乙11)によれば,日常生活で不便を感じたこととして,原告は,順序立てて話すことはできない,会話の前後関係がなく,脈絡なく話を始めるため,何を言っているのか家族であってもわからない,質問に対する答えが的確ではなく,的が外れるとされてい る。 (イ) しかしながら,他方で,前記アからウまでのとおり,適切な食事,身辺の清潔保持及び金銭管理と買物につき,原告は,原告母等の助言や指導に従って,ある程度これらの行動をすることができるものである。 また,原告は,あくまで特別支援学級のより重度の障害を持った生徒が 存在する状況の下ではあるが(甲20,証人G),前記2(2)イ(イ)bのとおり,中学校の通知表上,校外学習や移動教室では度々班長を務めて仲間をまとめ,自ら力を貸し下級生を助ける姿が見られるなどとの評価を受けていたことがあり,また,後記(3)ウのとおり,あくまで本件特例子会社において,障害者雇用枠として,周囲の指導や監督を受けてい る状況の下ではあるが,客室乗務員の制服等管理 などとの評価を受けていたことがあり,また,後記(3)ウのとおり,あくまで本件特例子会社において,障害者雇用枠として,周囲の指導や監督を受けてい る状況の下ではあるが,客室乗務員の制服等管理をする仕事を継続して行い,収入を得ていたものである。その他にも,本件病歴状況申立書(乙11)によれば,日常生活で不便を感じたこととして,会社のルールがなかなか理解できず,シフトの管理も困難で,毎日必ず家族と一緒に確認しているとされているが,これは,原告が家族と意思疎通ができ ないわけではないことを前提とするものであるし,原告母の供述(甲8, 証人原告母)によれば,原告は本件特例子会社への通勤時において,決められた時間のε行きの電車に乗ることしかできず,1本電車が遅れるだけで混乱して,原告母にスマートフォンを操作して電話又はメールで助けを求めてくるとされているが,これは,原告自身では上記の状況に対応できないものの,所定の電車に乗れなかったことを理解した上,原 告母に連絡して助けを求めることができることを示すものであるといえる。 以上からすれば,本件診断書における他人との意思伝達及び対人関係,すなわち,他人の話を聞く,自分の意思を相手に伝える,集団的行動が行えるなどの能力につき,助言や指導をしてもできない若しくは行わな いとされていることは,にわかに首肯し難いといわざるを得ない。 (ウ) もっとも,上記(イ)で原告母等が助言や指導をすることにより原告が一定の活動ができるというのは,原告母等が繰り返し又は常に付き添って助言や指導を行うことを前提とするものであるし,本件病歴状況申立書(乙11)によれば,日常生活で不便を感じたこととして,原告は, 敬語等,適切な言葉遣いができず,誰に対しても友達言葉で話してしまうとさ を行うことを前提とするものであるし,本件病歴状況申立書(乙11)によれば,日常生活で不便を感じたこととして,原告は, 敬語等,適切な言葉遣いができず,誰に対しても友達言葉で話してしまうとされ,また,原告母の供述(甲8)によれば,原告は,初対面であっても対人距離が異常に近く,馴れ馴れしい,男女関係にも悪影響があり,「付き合う」ということの意味がわからず簡単に付き合ってしまい,実質的には付き合っているという行動を複数人に対してしてしまい,二 股のような状況になって男性を怒らせることもあったなどとされ,さらに,Gの供述(甲20,証人G)によれば,原告は,他人とのトラブルの際に「バカ」,「死ね」といった乱暴な言葉を聞こえよがしに言ってしまうことや,手をあげて脅すような仕草をしてしまったことも何度もあり,指導したけれども改善しなかった面もあるとされている。 以上からすれば,原告は,原告の母等の親族や,本件特例子会社の職 員等,原告の特性を理解している限られた人々との間ではある程度の意思疎通や対人関係の構築ができるとしても,広く第三者との間で自立的におおむね適切な意思疎通や対人関係の構築ができるとまでは言い難い。 (エ) したがって,本件診断書において,他人との意思伝達及び対人関係について,助言や指導をしてもできない若しくは行わないとされている のを,文字どおりにとれば相当とはいい難いが,上記のような問題点を指摘したものと解し得る限度においては,なお相当性を失うものではないというべきである。 カ身辺の安全保持及び危機対応前記オ(イ)のとおり,原告は,本件特例子会社への通勤時において,決 められた電車1本が遅れるだけで混乱して,原告母に助けを求めてくるとされ,また,原告の母の供述(甲8)によれば,原告 対応前記オ(イ)のとおり,原告は,本件特例子会社への通勤時において,決 められた電車1本が遅れるだけで混乱して,原告母に助けを求めてくるとされ,また,原告の母の供述(甲8)によれば,原告は,女性として,性的な接触について理解しておらず,高校生の時に,よく分からないが触られてしまったと報告し,教員が対応することになったことがあるなどとされており,自ら,身辺の安全保持及び危機対応を十分にすることができな い面があることがうかがわれる。 もっとも,他方で,前記オ(イ)のとおり,通勤時の電車の乗り遅れについては原告母に連絡して指示をあおぐことはでき,その他,前記オの他人との意思伝達及び対人関係について説示したところにも照らせば,本件診断書において,身辺の安全保持及び危機対応,すなわち,事故等の危険か ら身を守る,通常と異なる事態となった時に他人に援助を求めるなどを含めて,適正に対応することができるなどの能力について,助言や指導をしてもできない若しくは行わないとされているのは,これを文字どおりにとれば相当とはいい難く,上記のような問題点を指摘したものと理解するのが相当である。 キ社会性 本件病歴状況申立書(乙11)によれば,日常生活で不便を感じたこととして,原告は役所や銀行などで書類を書く意味を理解しておらず,銀行などの利用は独力では不可能とされており,前記ウの金銭管理と買物にいて説示したところにも照らせば,本件診断書において,社会性,すなわち,銀行での金銭の出し入れや公共施設等の利用が一人で可能,また,社会生 活に必要な手続が行えるなどの能力について,助言や指導をしてもできない若しくは行わないとされているのは相当というべきである。 (3) その他の事情ア原告は,ひらがなや一部漢字を用い 会生 活に必要な手続が行えるなどの能力について,助言や指導をしてもできない若しくは行わないとされているのは相当というべきである。 (3) その他の事情ア原告は,ひらがなや一部漢字を用いた文章を書くこと(甲12,16~18),足し算や引き算等,機械的な計算をすることができるが(証人 G),適切な状況で適切な文章を必ずしも書けるまでのものではなく(甲12,16~18),計算も文章題等,抽象的な概念を理解して応用的な対応をすることはできず,時間の概念の適切な理解もできていないとされている(証人G)。 イまた,前記2(2)イ(イ)cのとおり,中学校の特別支援学級での各教科 の評価は,A(十分満足できる)又はB(概ね満足できる)とされ,普通学級での英語の評価(5段階)は,1,2年時は総合評価3,3年時は総合評価2とされ,2,3年時のスピーチやスペリングコンテストの再テスト等について一定の評価を受けている。 しかしながら,前記(2)イ(イ)のとおり,原告が通っていた中学校の特 別支援学級では,教育的配慮から通知表の記載にCを付けることはまずなく,よほど不真面目であったり何度教えてもどうしても頭に入らないというときにBが付き,そうでなければAを付けるというものであったものである。また,普通学級の授業を受けていたという英語については,3年時の総合評価は2であり,1,2年時の3と比べて評価が下がっており,次 第に対応することに苦痛を感じている様子であったとされ(証人G),ス ピーチやスペリングコンテスト等の評価についても,事前に準備して暗記すればできるものなので,何とか対応できたのではないかとされている(証人G)。 ウまた,前記2(2)ウのとおり,原告は,高校卒業後,本件特例子会社に就職し,客室 価についても,事前に準備して暗記すればできるものなので,何とか対応できたのではないかとされている(証人G)。 ウまた,前記2(2)ウのとおり,原告は,高校卒業後,本件特例子会社に就職し,客室乗務員の制服等管理をする仕事を継続して行い,毎月18 万円から20万円の収入を得,賞与も受けていたものであり,その際の通勤についても,父親や同僚の援助もあるが,一人で自宅と本件特例子会社を行き来することができ,帰りに陸上競技の練習場に立ち寄ることもあったものである。 しかしながら,前記1のとおり,障害認定基準によれば,知的障害に係 る障害等級の認定については,労働に従事していることをもって,直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず,現に労働に従事している者については,その療養状況を考慮するとともに,仕事の種類,内容,就労状況,仕事場で受けている援助の内容,他の従業員との意思疎通の状況等を十分確認した上で日常生活能力を判断すべきであるところ,前記2(2)ウによ れば,原告は,あくまで本件特例子会社に,障害者雇用枠にて,1年単位の有期雇用の契約社員として採用されたものであり,その作業は,障害者職業生活相談員である管理職員の指導や監督を受けて,おおむね反復継続して行われる,類型的な単純作業である。そして,本件特例子会社の管理職員の説明(甲7)によれば,障害者である従業員の作業の便宜のため, 仕事場に説明や商品名のポスターを大きく貼り,仕事内容をわかりやすく区分けし,1対1で付き添って教えるなどの工夫をしている,原告の制服の仕分け作業には,番号間違いなどのミスが多く,2度3度確認してもミスに気がつかない,原告の接客にはクレームがつくことが多く,イレギュラーな客の態度・要望については停止してしまうこともあるため,極力カ 業には,番号間違いなどのミスが多く,2度3度確認してもミスに気がつかない,原告の接客にはクレームがつくことが多く,イレギュラーな客の態度・要望については停止してしまうこともあるため,極力カ ウンターでの接客量を減らすように援助しているとされている。 また,通勤の状況についても,通勤のルートは比較的単純で,原告母の供述(甲8,証人原告母)によれば,周囲の援助の下,繰り返し練習したことにより,通勤ができるようになったもので,そのような練習を経ずに原告のみの判断で新たな場所に電車等に乗って移動することができるというものではなく,また,原告は,本件特例子会社のシフト表を自分だけで は把握できず,時間の計算も適切にはできないことから,通勤のうち往路については,基本的に原告母が指定する電車に乗るように指導しており,通常と異なる事態になった場合には,原告から連絡を受け,原告母が対応を指示するものであるとされている。 そして,以上のような説明や供述の信用性を疑わせるような具体的な事 情は本件全証拠を検討しても特に認められない。 エさらに,前記2(2)エのとおり,原告は,休日等に,妹と一緒にゲームセンターに行ってゲームをしたり,プリクラを撮ったりし,チームに所属して陸上競技も行い,海外の大会に参加したことがあるが,休日に一人だけで出かけるものではなく,陸上競技についても母や特別支援学校の教師 の援助や監督の下で行っているものとされ(甲8,証人原告母),本件病歴状況申立書(乙11)においても,平成25年▲月▲日(本件基準日)現在の原告の状態について,散歩は自発的にはできないが援助があればできるとされている。 (4) 日常生活能力の程度 前記(2)のとおり,本件診断書における原告の日常生活能力の判定のうち, 現在の原告の状態について,散歩は自発的にはできないが援助があればできるとされている。 (4) 日常生活能力の程度 前記(2)のとおり,本件診断書における原告の日常生活能力の判定のうち,いくつかの項目においては日常生活能力をやや過小に評価しているきらいがないではないが,全体的な記載内容としてはおおむね相当であり,その内実についての前記(2)及び(3)の検討結果に照らせば,原告の日常生活能力の程度について,診断書上の所定の選択項目(甲1参照)のうち,「(2)知的障害 を認め,家庭内での日常生活は普通にできるが,社会生活には,援助が必要 である。(たとえば,簡単な漢字は読み書きができ,会話も意思の疎通が可能であるが,抽象的なことは難しい。身辺生活も一人でできる程度)」や,「(3)知的障害を認め,家庭内での単純な日常生活はできるが,時に応じて援助が必要である。(たとえば,ごく簡単な読み書きや計算はでき,助言などがあれば作業は可能である。具体的指示であれば理解ができ,身辺生活に ついてもおおむね一人でできる程度)」ではなく,「(4)知的障害を認め,日常生活における身のまわりのことも,多くの援助が必要である。(たとえば,簡単な文字や数字は理解でき,保護的環境であれば単純作業は可能である。 習慣化していることであれば言葉での指示を理解し,身辺生活についても部分的にできる程度)」を選択した本件診断書の判断は相当というべきである。 (5) 以上に対し,被告は,原告の知的障害は軽度と判定されており,その知能指数に着目すれば,有用な職業的技術を習得できる状態であって,適切な環境の下では社会的,職業的自立は可能である旨を主張し,これに沿った文献(乙9,10,20,21)やK医師の意見書(乙17)を提出する。 しかしな 用な職業的技術を習得できる状態であって,適切な環境の下では社会的,職業的自立は可能である旨を主張し,これに沿った文献(乙9,10,20,21)やK医師の意見書(乙17)を提出する。 しかしながら,前記1のとおり,障害認定基準によれば,知的障害に係る 障害等級の認定については,知能指数のみに着眼することなく,日常生活の様々な場面における援助の必要度を勘案して総合的に判断すべきであり,知的障害が軽度であるからといって,直ちに障害等級2級に該当しないとすべきものではなく,原告の日常生活能力の判定ないし程度について,前述してきた各点に照らせば,上記主張や関連する上記証拠(これらはいずれも一般 論ないし本件についての推測の域を出ないものである。)は前述の判断を左右するものではないといわざるを得ない。 そして,その他の被告の主張や,本件全証拠を踏まえて検討しても,前述してきた原告の日常生活能力の判定及び程度に係る判断を左右するに足りるものはないというべきである。 (6) 以上からすると,原告の本件基準日における障害の状態は,障害認定基 準にいう「知的障害があり,食事や身のまわりのことなどの基本的な行為を行うのに援助が必要であって,かつ,会話による意思の疎通が簡単なものに限られるため,日常生活にあたって援助が必要なもの」に該当するか,又はこれと同等程度のものであり,障害等級2級に該当する程度のものであるというべきである。 なお,被告は,障害認定基準が,障害等級2級の障害の程度につき,「家庭内の生活でいえば,活動の範囲がおおむね家屋内に限られるものである。」とするところ,原告の活動範囲は,家庭内にとどまるものではないことは明らかで,原告は障害等級2級に該当しない旨を主張するが,そもそも障害認定基準は, 動の範囲がおおむね家屋内に限られるものである。」とするところ,原告の活動範囲は,家庭内にとどまるものではないことは明らかで,原告は障害等級2級に該当しない旨を主張するが,そもそも障害認定基準は,前記1のとおり,労働に従事していることをもって,直ちに日常 生活能力が向上したものと捉えず,現に労働に従事している者については,その療養状況を考慮するとともに,仕事の種類,内容,就労状況,仕事場で受けている援助の内容,他の従業員との意思疎通の状況等を十分確認した上で日常生活能力を判断すべきとしており,親族や職場の関係者等の支援を受けた結果,対象者の活動の範囲が家庭内にとどまらない場合に直ちに2級に 該当しないとするものではないというべきであって,上記主張は採用することができない。 したがって,原告の本件基準日における障害の状態が障害等級に該当する程度のものではないと判断した本件処分は違法であり,取消しを免れない。 4 以上の次第で,原告の請求は理由があるから認容することとし,主文のとお り判決する。 東京地方裁判所民事第3部 裁判長裁判官古田孝夫 裁判官大畠崇史 裁判官古屋勇児

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