平成11(ネ)141 不正競争差止等,名称使用妨害排除等請求控訴

裁判年月日・裁判所
平成15年3月5日 名古屋高等裁判所 金沢支部
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判決文本文35,447 文字)

主文 1 原判決を取り消す。 2 第1審被告は,第1審原告に対して,第1審被告が製造販売する大樋焼の商品につき,「前大樋長左衛門(長)」なる名称を表示し,又は同名称を印刷物・書面・看板・店舗・焼物に表示する等して使用してはならない。 3 第1審原告のその余の請求をいずれも棄却する。 4 第1審原告は,第1審被告に対して,第1審被告が「九代大樋勘兵衛」及び「九代目大樋勘兵衛」の名称を使用して営業することを妨害してはならない。 5 第1審被告のその余の請求をいずれも棄却する。 6 訴訟費用は第1,2審ともこれを2分し,その1を第1審原告の負担とし,その余は第1審被告の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 第1審原告(控訴の趣旨)(1) 原判決中,第1審原告敗訴部分を取り消す。 (2) 第1審被告は,第1審被告が製造販売する大樋焼の商品につき,「大樋焼本家窯元」,「九代目大樋勘兵衛」,「九代大樋勘兵衛」,「前大樋長左衛門(長)」なる名称を表示し,又は同名称を印刷物・書面・看板・店舗・焼物に表示する等して使用してはならない。 (3) 第1審被告は,「大樋焼本家窯元」,「九代目大樋勘兵衛」,「九代大樋勘兵衛」あるいは「前大樋長左衛門(長)」と称したり,第1審被告の父(亡)丁を「八代目大樋長楽」と称した上,自己を「九代目大樋勘兵衛」又は「九代大樋勘兵衛」と称し,下記のとおり大樋焼本家窯元初代大樋長左衛門から数えて九代目に当たり,業務を承継している旨を印刷物・書面・看板・暖簾・店舗・新聞広告に表示する等してはならない。 記初代大樋長左衛門,二代大樋長左衛門,三代大樋 門から数えて九代目に当たり,業務を承継している旨を印刷物・書面・看板・暖簾・店舗・新聞広告に表示する等してはならない。 記初代大樋長左衛門,二代大樋長左衛門,三代大樋勘兵衛,四代大樋勘兵衛,五代大樋勘兵衛,六代大樋朔太郎,七代大樋道忠,八代目大樋長楽,九代目大樋勘兵衛(4) 第1審被告は,金沢市a町b番c号及び金沢市de丁目f番g号の各店舗における看板,暖簾,ショーウィンドウの「大樋焼本家窯元・九代目大樋勘兵衛・前大樋長左衛門(長)」なる表示をすべて抹消せよ。 (5) 第1審被告は,上記(2),(3)項記載の印刷物,書面(包装紙・パンフレットを含む。)を廃棄せよ。 (6) 第1審被告は,金沢地方法務局昭和62年2月2日付けでした「大樋焼本家窯元」なる商号及び同法務局平成5年2月24日付けでした「九代大樋勘兵衛」なる商号の各抹消登記手続をせよ。 (7) 第1審被告は,原判決別紙一謝罪広告目録(一)記載の新聞に同目録記載の方法で,同謝罪広告目録(二)記載の謝罪広告を各2回にわたり掲載せよ。 (8) 第1審被告は,第1審原告に対し,金5000万円及びこれに対する平成5年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (9) 訴訟費用は第1,2審とも第1審被告の負担とする。 (10) (8)項につき仮執行宣言(第1審被告の控訴の趣旨に対する答弁)(1) 第1審被告の控訴を棄却する。 (2) 同控訴費用は第1審被告の負担とする。 2 第1審被告(第1審原告の控訴の趣旨に対する答弁)(1) 第1審原告の控訴を棄却する。 (2) 同控訴費用は第1審原告の負担とする。 (控訴の趣旨)(1) 原判決中,第1審被告敗訴部分を取り消す。 (2) 第1審原告は る答弁)(1) 第1審原告の控訴を棄却する。 (2) 同控訴費用は第1審原告の負担とする。 (控訴の趣旨)(1) 原判決中,第1審被告敗訴部分を取り消す。 (2) 第1審原告は,第1審被告に対し,第1審被告が「九代大樋勘兵衛」及び「九代目大樋勘兵衛」の名称を使用して営業することを妨害してはならない。 (3) 第1審原告は,「十代目大樋長左衛門」の名称を使用してはならない。 (4) 第1審原告は,原判決別紙二謝罪広告目録(一)記載の新聞に同目録記載の方法で,同謝罪広告目録(二)記載の謝罪広告を各2回にわたり掲載せよ。 (5) 第1審原告は,第1審被告に対し,金5000万円及びこれに対する平成7年6月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (6) 訴訟費用は第1,2審とも第1審原告の負担とする。 (7) (5)項につき仮執行宣言第2 当事者の主張(甲事件) 1 請求原因(1) 前提となる事実① 大樋焼について大樋焼は,茶碗,茶器,茶具等のいわゆる楽焼系の工法を用いて制作される金沢産の焼物であり,寛文6年(1666年),加賀前田藩主五代前田綱紀により,陶工として楽家四代一入の門人であった土師長左衛門(後の初代大樋長左衛門)が京都から招かれ,現在の金沢市大樋町に移り住んで,千宗室仙叟の指導のもとに茶器を制作したのが始まりとされる。土師長左衛門は,金沢に移住後,姓を「大樋」と改め,以後明治27年に没した七代大樋道忠まで,初代大樋長左衛門の直系の子孫とその門人により大樋焼の制作が続けられた。初代大樋長左衛門の直系の子孫による大樋焼の制作は七代大樋道忠を最後に途絶え,当時の茶道の衰退とも重なって,大樋焼の制作活動も苦難の時期を迎えたとされているが,その後門人達(及びその子 続けられた。初代大樋長左衛門の直系の子孫による大樋焼の制作は七代大樋道忠を最後に途絶え,当時の茶道の衰退とも重なって,大樋焼の制作活動も苦難の時期を迎えたとされているが,その後門人達(及びその子孫)の制作活動の結果,現代において大樋焼は,飴色の釉の特色ある焼物として全国的に知られるようになっている。 ② 当事者第1審原告は,肩書地に居住して,大樋焼の製造販売を行っている。第1審原告のA家においては,第1審原告の祖父甲が明治期に大樋焼の制作を始め,第1審原告の父乙,第1審原告と大樋焼の制作が続けられた。 第1審被告は,金沢市a町b番c号及び金沢市de丁目f番g号の各店舗において大樋焼の製造販売を行っている。 (2) 和解条項違反に基づく名称使用の差止請求等① 前回訴訟の経緯ア第1審原告の父乙は,生前「九代大樋長左衛門」と称して大樋焼の制作活動をしていたが,昭和61年1月18日に死亡した。同人の遺言には第1審原告に「十代目大樋長左衛門」を襲名させる旨の記載があり,第1審原告は,そのころから「十代大樋長左衛門」を自己の陶芸活動上の氏名として使用を始めた。そして,第1審原告は,昭和62年1月に裏千家今日庵主癸から「十代大樋長左衛門を継承したことを認定する」旨の認定証を送られたことから,同年2月,「十代大樋長左衛門」を襲名した旨の挨拶状を各界に送付した。 イ他方,第1審被告は,従前から「大樋長(ひさし)」の名称で大樋焼の制作活動をしていたが,昭和61年11月,七代大樋道忠の子孫である訴外丙(以下「丙」という。)との連名で「直系大樋宗家の推挙により大樋長左衛門の名跡を称えることになった」旨の挨拶状を各界に配布し,これ以降「大樋長左衛門」の名称を使用するようになった。 ウ上記ア, 「丙」という。)との連名で「直系大樋宗家の推挙により大樋長左衛門の名跡を称えることになった」旨の挨拶状を各界に配布し,これ以降「大樋長左衛門」の名称を使用するようになった。 ウ上記ア,イのとおり,第1審原告と第1審被告とが同時に「大樋長左衛門」を称する事態になったことから,昭和62年3月,第1審原告は第1審被告に対し,第1審被告が「大樋長左衛門」と称して大樋焼の業務に従事するのは第1審原告の氏名を冒用するものであり,第1審被告の同行為によって第1審原告の大樋焼業務の営業上の信用等が著しく害されたとして,名称の使用禁止等を求め,また,丙に対しては,平成2年,第1審被告に「大樋長左衛門」の名称の使用を許可し,同人をして第1審原告と同一氏名を名乗らせたことにより損害を被ったとして,「大樋焼本家窯元大樋長左衛門」の名称の使用及び同名称についての襲名指定権・襲名同意権・使用許可権がないことの確認等を求める訴えを金沢地方裁判所に提起した(同裁判所昭和62年(ワ)第73号,平成2年(ワ)第120号事件)。 一方,丙は,昭和62年3月,第1審原告に対し,「十代大樋長左衛門」の名称の使用禁止等を求める訴えを同裁判所に提起した(同裁判所昭和62年(ワ)第139号事件。以下これら3件の訴訟を「前回訴訟」という。))。 エ前回訴訟において,平成4年3月24日,次の内容の裁判上の和解(以下「前回和解」という。)が成立した。 (ア) 第1審原告は,丙に対し,下記(前回訴訟の和解調書別紙)の大樋焼初代長左衛門から七代道忠までが丁の祖先であること,並びにその氏名,没年月日及び享年が下記のとおりであることを認めてこれを争わないこととし,かつ,第1審原告並びに第1審原告の祖父甲及び父乙が丙及び下記の丙の祖先と血縁関係 までが丁の祖先であること,並びにその氏名,没年月日及び享年が下記のとおりであることを認めてこれを争わないこととし,かつ,第1審原告並びに第1審原告の祖父甲及び父乙が丙及び下記の丙の祖先と血縁関係があるかのような記述,出版,宣伝等一切の対外的言動をしないことを約し,かつ,金沢市内の月心寺にある丙家固有の位牌等につき,丙が管理ないし処分することに異議を述べない。 記(前回訴訟の和解調書別紙)初代大樋長左衛門正徳2年正月21日没享年82歳二代大樋長左衛門延享4年8月23日没享年62歳三代大樋勘兵衛享和2年3月26日没享年75歳四代大樋勘兵衛天保10年10月27日没享年82歳五代大樋勘兵衛安政3年2月11日没享年58歳六代大樋朔太郎安政3年6月25日没享年28歳七代大樋道忠明治27年10月6日没享年61歳(イ) 丙は,第1審原告に対し,第1審原告及びその子孫が「大樋長左衛門」の名称で陶芸活動をし,その作品を製造販売することにつき,異議を述べない。 (ウ) 第1審被告は,第1審原告に対し,平成7年2月11日までの間に,「大樋長左衛門」の名称による陶芸活動及びその作品の製造販売を中止することを約し,中止以後「大樋長左衛門」の名称による陶芸活動及びその作品の製造販売をしない。 (エ) 第1審原告は,第1審被告に対し,前項による名称使用中止後,第1審被告及びその子孫において,「大樋長左衛門」以外の名称を自由に選択して,これにより陶芸活動をし,その作品を製造販売することにつき異議を述べないものとし,これと同じ名称 使用中止後,第1審被告及びその子孫において,「大樋長左衛門」以外の名称を自由に選択して,これにより陶芸活動をし,その作品を製造販売することにつき異議を述べないものとし,これと同じ名称による陶芸活動及びその作品の製造販売をしない。ただし,上記によって第1審被告が「大樋長左衛門」の名称に代えて自由に選択する名称は1つに限るものとし,かつ,第1審被告は第1審原告に対し,この名称変更を平成6年2月11日までの間に書面で第1審原告の訴訟代理人に対し通知するものとし,第1審原告は,この通知受領後,遅くとも1年内には,第1審被告が自由に選択したこの名称と同じ名称による陶芸活動及びその作品の製造販売を中止するものとする。また,第1審被告が上記期限内に上記通知をしないときは,本項は効力を生じないものとする。 (オ) 第1審原告及び丙は,本件におけるその余の請求一切を放棄する。 (カ) 全当事者は,上記をもって本件紛争が円満に解決したことを確認し,上記に定めたほかには相互に損害賠償請求権その他一切の債権債務関係のないことを相互に確認し,かつ,陶芸「大樋焼」の健全な発展に誠意をもって努力し,相互に相手方を非難中傷するがごとき言動をしないことを確認する。 (キ) 訴訟費用は各自の負担とする。 ② 前回和解以後の経緯及び第1審被告が使用している名称等ア第1審被告は,第1審原告代理人に対し,上記前回和解(エ)項に基づき,平成5年7月7日付けで「大樋勘兵衛」を選択し,以後「大樋勘兵衛」の名称を使用する旨を通知した。 イ第1審被告は,同月,関係者に対し,「このたび,大樋焼本家窯元として長左衛門改め,大樋勘兵衛を襲名致し,大樋本家直系九代丙氏より認証を受けました。(中略)お陰様で大樋本家の主張通り名称 イ第1審被告は,同月,関係者に対し,「このたび,大樋焼本家窯元として長左衛門改め,大樋勘兵衛を襲名致し,大樋本家直系九代丙氏より認証を受けました。(中略)お陰様で大樋本家の主張通り名称問題が解決し,大樋焼本家の真正な史実が公に立証され,また,これまでの私,即ち長左衛門としての陶芸活動が,正に当然なものとして認められましたことは,御承知のとおりです。(中略)このうえは,先代の志を継ぎ,(中略)初代より数え大樋焼本家窯元九代目として,(中略)努力を致す所存です。(中略)大樋焼本家窯元(九代目)大樋勘兵衛」と記載した挨拶状を送付した。 ウ第1審被告は,これ以降,自己を新聞広告,電話帳広告,包装用紙袋等に「大樋焼本家窯元,九代目大樋勘兵衛」と表示するほか,平成6年1月ころからは,「大樋焼本家窯歴代譜」として前回和解の(ア)項(別紙)記載のとおりの初代大樋長左衛門から七代大樋道忠までを順に掲げ,七代の次に八代目として第1審被告の父(亡)丁を「大樋長楽」と記載し,九代目を「大樋勘兵衛」と記載したパンフレットを制作し,配布している。 エ第1審被告は,平成8年12月ころから,上記自己の各店舗のショーウィンドウ,電話帳広告及びしおりに「大樋焼本家窯元,九代目大樋勘兵衛,前大樋長左衛門(長)」と表示している。 オまた,第1審被告は,昭和62年2月2日付けで商号を「大樋焼本家窯元」,営業の種類を「日用雑貨品及び茶道具用品の製造,販売」とする商号登記を,平成5年2月24日付けで商号を「九代大樋勘兵衛」,営業の種類を「大樋焼製造販売」とする商号登記をそれぞれ経由している。 ③ 前回和解の条項の解釈についてア裁判上の和解は,裁判所が関与し,しかも,本件の場合当事者双方に専門家たる訴訟代理人が関与し,現に起こ 販売」とする商号登記をそれぞれ経由している。 ③ 前回和解の条項の解釈についてア裁判上の和解は,裁判所が関与し,しかも,本件の場合当事者双方に専門家たる訴訟代理人が関与し,現に起こっている紛争を終結し,かつ将来において同一紛争が起きることを防止するという重大な使命を帯びているものと言わねばならないから,文言について遂一慎重に吟味し作成されたものである。故に,和解調書記載の文言は特別の事情がない限り,その記載された文意に沿って文理解釈すべきである(同旨最高裁判所第1小法廷昭和44年7月10日判決,民集23巻8号1450頁)。 ところで,第1審被告は,前回和解の条項に基づき,「大樋勘兵衛」の名称を名乗る旨を第1審原告の代理人に通知してきたにすぎないから,第1審被告が前回和解の条項により適法に名乗ることのできるのは単に「大樋勘兵衛」である。したがって,「九代目(九代)大樋勘兵衛」或いは「大樋焼本家窯元,九代目(九代)大樋勘兵衛」「前大樋長左衛門(長)」等と名乗ることは,上記和解条項に明らかに違反している。特に「前大樋長左衛門(長)」と名乗ることは,上記和解条項(ウ)項にも反している。けだし,「大樋長左衛門」の名称による陶芸活動等を中止する等と約定していながら,「前大樋長左衛門(長)」と自己の店舗に表示することは,実質的に「大樋長左衛門」として陶芸活動等に従事しているものにほかならないからである。 イこれを単に形式面だけでなく実質的に見ても,「大樋勘兵衛」なる名称の意義等よりして,「大樋勘兵衛」と「大樋焼本家窯元,九代目(九代)大樋勘兵衛,前大樋長左衛門(長)」とは,以下述べる「大樋焼本家窯元」「九代目(九代)」の各語義,沿革,その作用,効果等に照らし,両者に同一性が認められないことは明らかである。 九代目(九代)大樋勘兵衛,前大樋長左衛門(長)」とは,以下述べる「大樋焼本家窯元」「九代目(九代)」の各語義,沿革,その作用,効果等に照らし,両者に同一性が認められないことは明らかである。 「大樋勘兵衛」とは大樋三代ないし五代が,今から100年以上も前の明治以前の古い時代に使用した名称であるが,その作品の箱書は「大樋長左衛門」が多く,晩年は「長左衛門」と称していたものといわれている。このように今回第1審被告が使用を宣言するまで,単なる「大樋勘兵衛」の名称は100年以上も前より使用されておらず,人口に全く膾炙されていなかった既に忘れられていた古い名称である。 「大樋勘兵衛」なる名称は,以上のごとき意義しか有しないものであるが,第1審被告が自己の店舗において,この名称の頭書に「大樋焼本家窯元,九代目」という修飾語をつけ,かつ「前大樋長左衛門(長)」という名称を付加,併用して表示し,しかも,その商品の製造販売に使用するパンフレットに,七代大樋道忠と自己の間に,父である大樋長楽死亡後に,八代大樋長楽なる表示を創作して挿入し,自己を当代又は九代目と表示して使用することは,以下に述べる「大樋焼本家窯元」,「九代目(九代)」の各語義,沿革,その作用,効果よりして,「大樋勘兵衛」との同一性を著しく損ない,到底そこに同一性は認められないというべきである。 「大樋焼本家窯元」の「本家」とは,本家たる家元,すなわち,当該陶磁器を焼き始めた始祖となるべき窯元を代々承継する所や人である。「窯元」とは,陶磁器を焼いて製造する所又は人の意味を表す語であるが,「本窯元」あるいは「元祖(窯)」とは,脇窯に対する用語で,当該陶磁器を焼き始めた始祖である窯元を代々承継する所又は人を意味する用語である。脇窯は,それ以外の窯元である。した 意味を表す語であるが,「本窯元」あるいは「元祖(窯)」とは,脇窯に対する用語で,当該陶磁器を焼き始めた始祖である窯元を代々承継する所又は人を意味する用語である。脇窯は,それ以外の窯元である。したがって「本家窯元」は「本窯」や「本窯元」あるいは「元祖(窯)」と同じ意味である。 なお,「本家」という語は本宗たる家筋,一門,一族の主たる家筋,家元,宗家という意味ともいわれている。因みに,第1審原告方の暖簾には「元祖大樋窯」と表示してあるが,「元祖大樋窯」は,「大樋焼本家窯元」と同義である。 なお,近年第1審原告側のことを「大樋焼宗家」と紹介する例もあるので,第1審原告側で「宗家」なる名称を使用したこともあるが,「宗家」とは「本家」と同義である。 「大樋焼本家窯元」の語義は上記のとおりであるから,第1審被告がこの表示を「大樋勘兵衛」と併せて営業等に使用することは,これに接する需要者が該商品を「本家」の取扱いに係る確かな品質の大樋焼の茶碗である旨誤解し,認識する作用を営み,しかも「大樋焼本家窯元」なる趣旨の名称は第1審原告側において,今から70年も前の昭和5年の古き時代より使用され現在に至り,広く世間に周知されてきたものであるから,第1審被告が営業活動に「大樋焼本家窯元」と称することは,第1審被告の商品が第1審原告側の大樋焼本家扱いにかかる確かな品質の大樋焼の茶碗であるとの効果をもたらし,ひいては第1審原告の商品との認識混同をもたらすものである。 たとえ「本家窯元」なる名称に誇称的側面を払拭できないとしても,そのことは永年の間に培われた優れた技法,高い信用,質の高い顧客吸引力等の実績に基づき築きあげられた不正競争防止法上保護に値すべき誇称であり,第1審被告も本家窯元が以上のような効力を有するからこそ,敢えて「 永年の間に培われた優れた技法,高い信用,質の高い顧客吸引力等の実績に基づき築きあげられた不正競争防止法上保護に値すべき誇称であり,第1審被告も本家窯元が以上のような効力を有するからこそ,敢えて「本家窯元」と僭称しているものであり,元来「本家」という意味からして,「本家」が複数存在するということは誤認混同が生ずる最たるものであり,適切でないことはいうまでもない。 これに加え,「九代目」又は「九代」との頭書を付すことは,第1審被告が大樋焼本家窯元を承継する者であることを表示するものであって,単なる「大樋勘兵衛」の名称とは異なる意義を付加し,大樋焼本家窯元の正当な承継者である第1審原告の業名「大樋焼本家窯元十代大樋長左衛門」と実質的に同一又は類似の名称を表示することになるのである。 以上のとおり「大樋焼本家窯元」,「九代(目)」の各語義,沿革,その営業上の作用,効果より考察した場合,「大樋勘兵衛」と併せて「大樋焼本家窯元九代(目)」を併用することは,前回和解の解釈上,到底両者に同一性ありと認めることはできない。 ④ よって,第1審原告は,第1審被告に対し,前回和解の条項に基づいて,控訴の趣旨(2)ないし(7)のとおり差止め等の裁判を求める。 (3) 不正競争防止法等に基づく名称使用の差止請求等① 第1審原告の「大樋焼本家窯元」「十代大樋長左衛門」の表示について「大樋焼本家窯元」の語義,沿革,その表示の作用,効果については上記(2)③イ記載のとおりであり,「大樋焼本家窯元」は,「大樋焼本窯」,「元祖大樋焼」,「大樋焼宗家」と同義である。「大樋焼本家窯元」が第1審原告に先使用権があり第1審原告の営業,商品表示として識別力を有することは,上記(2)③イ,(2)①ア記載のとおりであって,「大樋焼 大樋焼」,「大樋焼宗家」と同義である。「大樋焼本家窯元」が第1審原告に先使用権があり第1審原告の営業,商品表示として識別力を有することは,上記(2)③イ,(2)①ア記載のとおりであって,「大樋焼本家窯元」は商品の品質内容を表すものである。第1審原告による「大樋焼本家窯元」「十代大樋長左衛門」の表示が著名性,周知性を有していることは,原判決別紙三「甲号証一覧表」(ただし1枚目表4行目に「明治三七年」とあるのを「明治27年」と改める。)記載のとおりであるし,さらに,第1審原告は,平成11年11月16日,日本芸術院会員に内定し,同年12月15日,辞令が伝達された。この事実は,新聞等マスコミにとり上げられ,「十代大樋長左衛門」として,益々有名になった。また,第1審原告は,平成11年12月金沢学院大学美術文化学部の学部長兼主任教授に就任することが決定し,その際新聞は,第1審原告を「十代大樋長左衛門」として紹介しており,その著名性は明らかであり,仮にそうでないとしてもその周知性は明らかである。 ② 第1審被告の「大樋焼本家窯元」「九代目」「九代」「前大樋長左衛門(長)」等の表示について第1審被告が前回和解後「大樋焼本家窯元」「九代目」「九代」「前大樋長左衛門(長)」等の表示を使用していることは上記(2)②記載のとおりであり,第1審被告は,「前大樋長左衛門(長)」の表示を現行不正競争防止法が施行された平成6年5月1日以降の平成8年12月ころより使用しているのであるから,新設規定である不正競争防止法2条1項2号の適用も受けることとなる。 ③ 第1審被告が商品や営業に「大樋焼本家窯元」「九代目(九代)大樋勘兵衛」「前大樋長左衛門(長)」と表示し,又は,控訴の趣旨(3)項のように表示することは,需要者に広く周知性を有する第1審原告 ③ 第1審被告が商品や営業に「大樋焼本家窯元」「九代目(九代)大樋勘兵衛」「前大樋長左衛門(長)」と表示し,又は,控訴の趣旨(3)項のように表示することは,需要者に広く周知性を有する第1審原告の「大樋焼本家窯元」「十代大樋長左衛門」と同一又は類似の表示を商品,営業に表示し,両者の商品並びに営業主体の混同を惹起させるものであるし,第1審被告が上記の表示をして大樋焼の製造販売をすることは,第1審被告が「大樋焼本家窯元」でなく,その業統を承継していないのに,商品が「大樋焼本家窯元」の業統を承継した確かな良質の商品で,その窯元で製造されたものであると誤認させる行為であるから,第1審原告の営業を侵害し又は侵害するおそれがあり,かつ商品の品質内容を誤認させるものである。 ④ よって,第1審原告は,第1審被告に対し,不正競争防止法2条1項1号,2号,12号,3条,7条,民法709条,710条,723条に基づき,控訴の趣旨(2)ないし(7)のとおり差止め等の裁判を求める。 (4) 損害賠償① 前回和解(カ)項によれば「相互に相手方に非難中傷するがごとき言動をしない」ことを確認しているにもかかわらず,第1審被告は,平成5年7月末ころ,「大樋焼本家窯元(九代目)大樋勘兵衛」と称し,「大樋本家の主張のとおり,名称問題が解決し,大樋本家の真正な史実が公に公証され,これまでの私の長左衛門としての活動が,正に当然なものとして認められたことは御承知のとおりです」との文面で,石川県や全国に,広く挨拶状を配布したが,これは,第1審原告の名誉を傷つけ,同人を中傷する行為である。また,平成11年11月16日ころ第1審原告が日本芸術院会員に内定したことが報道されるや,第1審原告が芸術院会員を詐称した等と虚偽の事実を記載した書面を日本芸術院に送付する等し 中傷する行為である。また,平成11年11月16日ころ第1審原告が日本芸術院会員に内定したことが報道されるや,第1審原告が芸術院会員を詐称した等と虚偽の事実を記載した書面を日本芸術院に送付する等して第1審原告の名誉を著しく毀損し,同人に対し甚大な精神的打撃を与えた。 ② 第1審被告は,上記(2)②エ記載のとおり,前回和解(ウ)項に反し,自己の各店舗のショーウィンドウ,電話帳広告及びしおりに「大樋焼本家窯元,九代目大樋勘兵衛,前大樋長左衛門(長)」と表示しており,第1審原告に精神的苦痛を与えている。 ③ 第1審被告が行った①及び②の各行為により第1審原告が被った営業上の損失及び精神的苦痛による損害は5000万円をくだらない。 ④ よって,第1審原告は,第1審被告に対し,民法709条,710条,不正競争防止法4条に基づき,損害賠償として5000万円及びこれに対する不法行為の後である平成5年8月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 2 請求原因に対する認否と第1審被告の主張(1) 請求原因(1)(前提となる事実)について請求原因(1)の事実のうち,大樋焼が,茶碗,茶器,茶具等のいわゆる楽焼系の工法を用いて制作される焼物であること,第1審原告が肩書地に居住する陶芸作家であること,第1審被告が金沢市a町b番c号及び金沢市de丁目f番g号の各店舗において大樋焼の製造販売を行っていること,の各事実は認める。 (2) 請求原因(2)(和解条項違反に基づく名称使用差止請求等)について① 同①のアの事実は否認し,イないしエの各事実は認める。 ② 同②の各事実は認める。 ③ 同③は争う。第1審被告は,前回和解により「大樋勘兵衛」を選択したが,これはもちろん,これに付加して 同①のアの事実は否認し,イないしエの各事実は認める。 ② 同②の各事実は認める。 ③ 同③は争う。第1審被告は,前回和解により「大樋勘兵衛」を選択したが,これはもちろん,これに付加して「九代」「九代目」などを付けること及び「前大樋長左衛門(長)」を付けることなどは,その主要部分の意味に変更を加えているわけではない以上,上記和解により何ら拘束を受けるものではなく,和解条項に対する違反はない。第1審原告は,前回和解で既に解決したことを蒸し返して主張しているに過ぎず,その主張は失当である。 (3) 請求原因(3)(不正競争防止法等に基づく名称使用の差止請求等)について① 同①の事実のうち,原判決別紙三「甲号証一覧表」記載の事実中一2,二4を除く各事実は認め,その余は否認する。第1審原告は,商品等表示として「大樋焼本家窯元,大樋長左衛門」に周知性があると主張するが,第1審原告の「大樋長左衛門」や「十代大樋長左衛門」に一定の周知性は認められるものの,「大樋焼本家窯元」や「大樋焼本家窯元十代大樋長左衛門」などの表示が第1審原告の氏名,商品,営業を表示するものとして一般需要者間に周知であることは争う。「大樋焼本家窯元」なる表示はむしろ第1審被告を表示するものとして周知性がある。 ② 同②の事実は認め,主張は争う。第1審被告は,以前に大樋本家主宰者の丙より「大樋長左衛門」の名称の使用を許され,7年間ほど同名称を使用したことがある。その後前回和解により第1審原告が「大樋長左衛門」を称し,第1審被告は「大樋勘兵衛」の名称を使用しているものであるが,前に「大樋長左衛門」として作陶したことは事実であるから「九代目大樋勘兵衛」などの名称に付加して「前大樋長左衛門(長)」と表示したのである。括弧内に「長」と付加したのは,第1審被告が以 のであるが,前に「大樋長左衛門」として作陶したことは事実であるから「九代目大樋勘兵衛」などの名称に付加して「前大樋長左衛門(長)」と表示したのである。括弧内に「長」と付加したのは,第1審被告が以前「大樋長」と名乗っていたからである。しかし,これによって,第1審原告がいうような「第1審被告が名乗っている九代又は九代目大樋勘兵衛と第1審原告の業名である十代大樋長左衛門との間に何らかの承継関係がある」と誤認されるおそれはないし,いかなる意味においても第1審原告の商品表示や営業と第1審被告の商品表示や営業と混同を生じるものではない。特に括弧内に「長」と表示していることから,第1審原告の名称である「大樋長左衛門」とは全く別人格であることが世間一般には明らかである。 したがって,「前大樋長左衛門(長)」の第1審被告の表示と第1審原告の表示との間に類似性又は同一性は存在しない。 ③ 同③は争う。第1審原告が称している「大樋長左衛門」「十代大樋長左衛門」「大樋焼本家窯元十代大樋長左衛門」と,第1審被告の「大樋勘兵衛」「九代(目)大樋勘兵衛」「大樋焼本家窯元 (九代目)大樋勘兵衛」のそれぞれを比較対照し,それぞれの主要部分を抽出してみるに,第1審原告はいずれも「大樋長左衛門」を骨子とし,第1審被告はいずれも「大樋勘兵衛」を骨子としており,この両者に外観,称呼又は観念に基づく印象,記憶,連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取られるおそれは全くない。 (4) 請求原因(4)(損害賠償)について① 同①の事実は否認する。 ② 同②のうち,第1審被告が自己の各店舗のショーウィンドウ,電話帳広告及びしおりに「大樋焼本家窯元,九代目大樋勘兵衛,前大樋長左衛門(長)」と表示していた事実は認め,主張は争う。ただし,第1審被告の 同②のうち,第1審被告が自己の各店舗のショーウィンドウ,電話帳広告及びしおりに「大樋焼本家窯元,九代目大樋勘兵衛,前大樋長左衛門(長)」と表示していた事実は認め,主張は争う。ただし,第1審被告のa町の店舗における表示は前面道路拡張工事に伴い店舗を改装した平成9年7月ころに,dの店舗における表示は「大樋勘兵衛」の名称が広く一般に浸透した平成13年にそれぞれ抹消しており,その他パンフレット等についても同様に既に抹消済みである。 ③ 同③の事実は否認する。 (乙事件) 1 請求原因(1) 名称使用妨害禁止及び名称使用差止め① 前回和解の存在甲事件請求原因(2)①ウ及びエ,②のアと同じ② 商号登記の存在第1審被告は,平成5年2月24日付けで,商号を「九代大樋勘兵衛」,営業の種類を「大樋焼製造販売」とする商号登記を得ている。 ③ 第1審原告による妨害行為第1審原告は,前回和解成立後も,パンフレット等に「初代長左衛門から十代当主長左衛門(イ)に至るまで,300余年の間,代々大樋長左衛門,大樋勘兵衛等を襲名してきているのは当家だけであります」などと記載して,第1審被告が「大樋勘兵衛」の名称を使用することを妨害した。 また,第1審原告は,平成5年8月17日ころ,大阪市内の阪神百貨店において「大樋勘兵衛襲名展」を開催しようとした第1審被告に対し,上記阪神百貨店宛てに通知書を出して上記展示会開催を阻止しようと妨害行為をした。 さらに,第1審原告は,第1審被告に対し,平成7年4月25日,甲事件を提起し,第1審被告による「九代大樋勘兵衛」及び「九代目大樋勘兵衛」の名称の使用を妨害した。 ④ 第1審原告の違反行為第1審原告は,前回和解成立後も,第1審原告経営の 5日,甲事件を提起し,第1審被告による「九代大樋勘兵衛」及び「九代目大樋勘兵衛」の名称の使用を妨害した。 ④ 第1審原告の違反行為第1審原告は,前回和解成立後も,第1審原告経営の大樋美術館等において,パンフレット等に,初代から七代までの氏名をすべて「大樋長左衛門」と記載し,七代道忠の没年を誤るなどしているのみならず,初代長左衛門から七代道忠までを第1審原告と血縁関係があるかのような記述,出版,宣伝を続けている。 ⑤ よって,第1審被告は,第1審原告に対し,前回和解の条項又は上記商号登記に基づいて,控訴の趣旨(2)の妨害排除及び同(3)の使用差止めの裁判を求める。 (2) 謝罪広告及び損害賠償① 第1審原告による不法行為第1審原告は,前回和解成立後,その和解条項に違反し,「十代大樋長左衛門」の名称を使用し,大樋本家直系と血縁関係があるかのような記述,出版,宣伝等の対外的言動をしている。また,前回訴訟で和解したにもかかわらず不当不法な甲事件を提起して紛争を蒸し返し,新聞等を通じこれらを世間に知らしめることにより,第1審被告の名誉を著しく毀損した。 これらの行為は,大樋焼抹茶茶碗における作家物市場において「不公正な取引方法」すなわち「自己と国内において競争関係にある他の事業者とその取引の相手方との取引について契約の成立の阻止,契約の不履行の誘因その他いかなる方法をもってするかを問わず,その取引を不当に妨害する」行為にあたるのみならず,「私的独占」すなわち「事業者が単独に又は他の事業者と結合し,若しくは通謀し,その他いかなる方法を以てするを問わず,他の事業者の事業活動を排除し又は支配することにより,公共の利益に反し,一定の取引分野における競争を実質的に制限する」行為に該当するから独占禁止 若しくは通謀し,その他いかなる方法を以てするを問わず,他の事業者の事業活動を排除し又は支配することにより,公共の利益に反し,一定の取引分野における競争を実質的に制限する」行為に該当するから独占禁止法に違反するものである。 ② また,第1審原告は,上記(1)③記載のとおり,パンフレット等に「初代長左衛門から十代当主長左衛門(イ)に至るまで,300余年の間,代々大樋長左衛門,大樋勘兵衛等を襲名してきているのは当家だけであります」などと記載して,第1審被告が「大樋勘兵衛」の名称を使用することを妨害し,第1審被告に精神的苦痛を与えている。 ③ 第1審原告が行った①及び②の各行為により第1審被告が被った精神的苦痛による損害と営業上の損失は5000万円をくだらない。 ④ よって,第1審被告は,第1審原告に対し,控訴の趣旨(4)の謝罪広告を求めるとともに,不法行為による損害賠償として5000万円及びこれに対する不法行為の後である平成7年6月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める(控訴の趣旨(5))。 2 請求原因に対する認否と第1審原告の主張(1) 請求原因(1)(名称使用妨害禁止及び名称使用差止め)について① 同①及び②の各事実は認める。 ② 同③及び④の各事実は否認する。第1審被告が違反していると指摘する和解条項は第1審原告と丙との間でのものであり,第1審原告と第1審被告との間の権利義務に関係はない。 (2) 請求原因(2)(謝罪広告及び損害賠償)について① 同①の事実は否認する。 ② 同②の事実は否認する。第1審被告が主張する記載はすべて抹消済みであり,現在は存在しない。 ③ 同③の事実は否認する。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実(1) 証拠及 する。 ② 同②の事実は否認する。第1審被告が主張する記載はすべて抹消済みであり,現在は存在しない。 ③ 同③の事実は否認する。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実(1) 証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる(争いのある事実について認定に供した証拠等を括弧内に摘示した。)。 ① 大樋焼は,茶碗,茶器,茶具等のいわゆる楽焼系の工法を用いて制作される金沢産の焼物であり,寛文6年(1666年),加賀前田藩主五代前田綱紀により,陶工として楽家四代一入の門人であった土師長左衛門(後の初代大樋長左衛門)が京都から招かれ,現在の金沢市大樋町に移り住んで,加賀藩の茶頭であった千宗室仙叟(裏千家四代)の指導のもとに茶器を制作したのが始まりとされる。楽焼は,成形は手捏ねとヘラ削り,焼成は戸外に設けられた高火度焼成のいわゆる本窯ではなく,屋敷内に据えられた内窯と称される低火度焼成の小さな窯で焼かれる焼物である。土師長左衛門は,金沢に移住後,姓を「大樋」と改め,以後二代長左衛門(初代の長男),三代勘兵衛(二代の次男),四代勘兵衛(三代の三男),五代勘兵衛(四代の長男),六代朔太郎(五代の長男),七代道忠(五代の四男)と,明治27年10月6日に没した七代大樋道忠まで,初代大樋長左衛門の直系の子孫とその門人により,藩主の御用窯として大樋焼の制作が続けられた。初代大樋長左衛門の直系の子孫による大樋焼の制作は七代大樋道忠を最後に途絶え,大樋焼の制作活動は,明治維新後藩の御庭焼から民間の窯元として生業を立てざるを得なくなったことや,当時の茶道の衰退とも重なって,苦難の時期を迎えたが,その後門人達(及びその子孫)の制作活動の結果,現代において大樋焼は,飴色の釉の特色ある焼物として全国的に知られるようになっている。また,上記の由来 の茶道の衰退とも重なって,苦難の時期を迎えたが,その後門人達(及びその子孫)の制作活動の結果,現代において大樋焼は,飴色の釉の特色ある焼物として全国的に知られるようになっている。また,上記の由来のとおり,大樋焼は,京都茶道家元である裏千家,表千家,武者小路千家のいわゆる三千家との深いつながりによって発展してきたものである。(甲1号証,59号証ないし61号証)② 大樋道忠の長男は戊,二男は己(明治18年11月5日生)であり,己の長男は庚(大正元年11月3日生),二男は丙(大正7年6月5日生),三男は辛(大正9年4月10日生)である。戊は明治19年5月17日B家の養子となり,己も明治40年11月14日に壬と養子縁組したため,大樋家は廃家となったが,己は,明治43年2月9日協議離縁し,大樋家を再興した。(甲23号証ないし28号証,72号証ないし76号証)③ 第1審原告の祖父甲は明治期に大樋焼の制作を始め,その後A家では,第1審原告の父乙,第1審原告と代々大樋焼の制作が続けられた。第1審原告は,現在,肩書地に居住して,大樋焼の製造販売を行っている。(弁論の全趣旨)茶道裏千家十三代の円能斎家元は,甲に対し,明治27年3月24日ころ,業務熟達と認めて「宗春」の号を送っている。(甲1号証,106号証の2)甲(昭和2年4月14日死亡)の三男であり,第1審原告の父である乙(明治34年3月20日生)は,大正14年ころから,「長左衛門」という名で大樋焼の制作を行っており,昭和3年7月26日,「大樋長左衛門」の商号の登記を経由した。そして,昭和24年8月20日,戸籍上の名を「長左衛門」と変更した。第1審原告は,昭和2年10月28日,乙の長男として出生し,昭和36年6月28日,戸籍上の名をロからハに変更した。(甲1号証,5 た。そして,昭和24年8月20日,戸籍上の名を「長左衛門」と変更した。第1審原告は,昭和2年10月28日,乙の長男として出生し,昭和36年6月28日,戸籍上の名をロからハに変更した。(甲1号証,5号証ないし7号証,26号証の1,2)④ 昭和期に入り,明治維新後衰退していた茶道に再び恢復の兆しが見え,大樋焼の茶陶の需要も高まり始めたが,昭和5年7月11日ころ,七代大樋道忠の二男己は,乙に対し,同人が大樋窯につき「九世大樋長左衛門」の名称を使用することの禁止を求める訴訟(以下「昭和5年の訴訟」という。)を金沢地方裁判所に提起した。(甲1,27号証)乙は,道忠からその徒弟であった甲が大樋焼の業統を承継したなどとして己の主張を争ったが,訴訟外で和解が成立し,昭和5年10月16日ころ己は訴えを取り下げ,昭和5年の訴訟は終了した。(甲28号証,29号証)己は,訴えの取下げに際し,乙に対して,大樋道忠が門弟であった甲に大樋焼の業統を譲り,甲が「長左衛門」の名称を襲名して八代目となった旨,及び家督相続により業統と共に九代目長左衛門を乙が承継したことを確認する旨を記載した誓書を交付した。これに対し,乙は,己に2000円を支払った。(甲30号証ないし32号証。なお,第1審被告は,上記誓書は偽造である旨主張するが,己の印鑑証明書である甲32号証に照らせば,甲30,31号証が偽造されたものとは認められない。)⑤ 乙は,昭和59年5月28日,第1審原告に「十代目大樋長左衛門」を襲名させる旨の公正証書遺言を遺し,昭和61年1月18日死亡した。(甲6号証,8号証)第1審原告は,父乙が死亡したころから,「十代大樋長左衛門」を自己の制作活動上の氏名として使用し始めた。(甲87号証)⑥ 己の次男丙は,第1審原告に対 亡した。(甲6号証,8号証)第1審原告は,父乙が死亡したころから,「十代大樋長左衛門」を自己の制作活動上の氏名として使用し始めた。(甲87号証)⑥ 己の次男丙は,第1審原告に対し,昭和61年2月26日ころ,大樋家とA家とは何らの血縁関係もない他人である旨,大樋家代々の菩提寺である月心寺の墓地に乙の墓石を建立することの中止を求める旨及びA氏が大樋長左衛門と名乗るのは,一代限りにて,今後の襲名は大樋家一族の了承が必要である旨などを記載した申入書を送付した。(甲90号証,乙1号証,14号証の1,18号証)しかし,第1審原告は,昭和61年12月11日,同年1月18日付けで父乙が有していた「大樋長左衛門」の商号登記を廃止し,自ら「大樋長左衛門」の商号登記を経由した。(甲38号証,39号証,乙70号証,71号証)千利休居士十五世茶道裏千家今日庵主癸鵬雲斉家元は,昭和62年1月28日ころ,第1審原告から依頼を受け,同人に対し「十代大樋長左衛門を継承したことを認定」する旨の認定証を交付した。そこで,第1審原告は,昭和62年2月,大樋焼本家窯元十代大樋長左衛門の印可を裏千家家元から拝受し,十代目大樋長左衛門を襲名した旨の挨拶状を各界に送付した。(甲15号証の1,87号証,17号証の1,2)⑦ 第1審被告の父丁は昭和5年ころから「大樋長楽」の名で大樋焼の制作活動をしており,第1審被告は,従前から「大樋長(ひさし)」の名称で大樋焼の制作活動をしていたが,昭和61年9月7日,丙から「長左衛門」の名称の使用を許す仮証を得,同年11月13日,正式に「大樋長左衛門」の認証を得た。(甲20号証,87号証,250号証の1,2,乙2号証,5号証,6号証,14号証の1,16号証)そして,第1審被告は,昭和61年 得,同年11月13日,正式に「大樋長左衛門」の認証を得た。(甲20号証,87号証,250号証の1,2,乙2号証,5号証,6号証,14号証の1,16号証)そして,第1審被告は,昭和61年11月20日ころ,初代大樋長左衛門から七代大樋道忠までの直系の子孫である丙と連名で,「直系大樋宗家の推挙により大樋長左衛門の名跡を称えることになった」旨の挨拶状を新聞社等各界に配布し,そのころから,第1審被告は「大樋長左衛門」の名で大樋焼の製造・販売をするようになった。(甲20号証,87号証,乙27号証)第1審被告は,現在,金沢市a町b番c号及び金沢市de丁目f番g号の各店舗において,大樋焼の製造販売を行っている。(争いがない。)⑧ 第1審原告は,昭和61年12月5日,丙に対し,祖父乙は七代大樋道忠より業統を承継し,このことは昭和5年の訴訟の裁判外の和解で丙の父己も確認しているとして,丙には長左衛門の名称を他人に使用させる権限はないと抗議する旨の内容証明郵便を送付した。(甲43号証の1,2)これに対し,丙は,第1審原告に対し,昭和61年12月30日,父己は乙に対して1代に限り長左衛門の名称の使用を許したにすぎないなどと反論する内容証明郵便を送った。(甲44号証)そこで,第1審原告は,昭和62年1月29日付けの内容証明郵便で,丙に対してさらに反論を行った。(甲45号証の1,2)⑨ 以上のような経緯を経て第1審原告と第1審被告とが同時に「大樋長左衛門」を称する事態になったことから,昭和62年3月,第1審原告は,第1審被告に対し,第1審被告が「大樋長左衛門」と称して大樋焼の業務に従事するのは第1審原告の名称「大樋焼本家窯元十代大樋長左衛門」を冒用するものであり,これにより第1審原告の大樋焼業務の営業上の 第1審被告に対し,第1審被告が「大樋長左衛門」と称して大樋焼の業務に従事するのは第1審原告の名称「大樋焼本家窯元十代大樋長左衛門」を冒用するものであり,これにより第1審原告の大樋焼業務の営業上の信用等が著しく害されたとして,金沢地方裁判所に名称の使用禁止等を求める訴え(同裁判所昭和62年(ワ)第73号)を提起した。また,平成2年,丙に対しては,第1審被告に「大樋長左衛門」の名称使用を許可し,同人をして第1審原告と同一名称を名乗らせたことにより損害を被ったとして,同裁判所に「大樋焼本家窯元大樋長左衛門」の名称についての襲名指定権・襲名同意権・使用許可権がないことの確認等を求める訴え(同裁判所平成2年(ワ)第120号事件)を提起した。(甲102号証の2,乙14号証の2,15号証)他方,丙は,昭和62年3月31日ころ,第1審原告に対し,第1審原告が丙の承継する大樋焼本家の血統ないしは家系を冒用したものであり,第1審原告の行為によって著しく人格権及び名誉を侵害されたとして,同裁判所に「十代大樋長左衛門」の名称の使用差止め等を求める訴え(同裁判所昭和62年(ワ)第139号事件)を提起した。(甲102号証の2,乙7号証,14号証の2,15号証)⑩ 第1審被告は,昭和40年ころから店先に「本窯元大樋焼」との暖簾を掲げていたが,昭和62年2月2日付けで商号を「大樋焼本家窯元」,営業の種類を「日用雑貨品及び茶道具用品の製造,販売」とする商号登記を経由し,遅くともそのころからは,上記自己の各店舗のショーウィンドウ,電話帳広告及びしおりに「大樋焼本家窯元」と表示している。(乙17号証,28号証,29号証の1ないし4,30号証,60号証,61号証,112号証)⑪ 上記⑨の訴訟(前回訴訟)において,平成4年3月24日,次の内容の裁判 樋焼本家窯元」と表示している。(乙17号証,28号証,29号証の1ないし4,30号証,60号証,61号証,112号証)⑪ 上記⑨の訴訟(前回訴訟)において,平成4年3月24日,次の内容の裁判上の和解(前回和解)が成立した。(争いがない。甲102号証の2,乙14号証の2,15号証)ア第1審原告は,丙に対し,下記(前回訴訟の和解調書別紙)の大樋焼初代長左衛門から七代道忠までが丙の祖先であること,並びにその氏名,没年月日及び享年が下記のとおりであることを認めてこれを争わないこととし,かつ,第1審原告並びに第1審原告の祖父甲及び父乙が丙及び下記の丙の祖先と血縁関係があるかのような記述,出版,宣伝等一切の対外的言動をしないことを約し,かつ,金沢市内の月心寺にある丙家固有の位牌等につき,丙が管理ないし処分することに異議を述べない。 記(前回訴訟の和解調書別紙)初代大樋長左衛門正徳2年正月21日没享年82歳二代大樋長左衛門延享4年8月23日没享年62歳三代大樋勘兵衛享和2年3月26日没享年75歳四代大樋勘兵衛天保10年10月27日没享年82歳五代大樋勘兵衛安政3年2月11日没享年58歳六代大樋朔太郎安政3年6月25日没享年28歳七代大樋道忠明治27年10月6日没享年61歳イ丙は,第1審原告に対し,第1審原告及びその子孫が「大樋長左衛門」の名称で陶芸活動をし,その作品を製造販売することにつき,異議を述べない。 ウ第1審被告は,第1審原告に対し,平成7年2月11日までの間に,「大樋長左衛門」の名称による陶芸活動及びその作 」の名称で陶芸活動をし,その作品を製造販売することにつき,異議を述べない。 ウ第1審被告は,第1審原告に対し,平成7年2月11日までの間に,「大樋長左衛門」の名称による陶芸活動及びその作品の製造販売を中止することを約し,中止以後「大樋長左衛門」の名称による陶芸活動及びその作品の製造販売をしない。 エ第1審原告は,第1審被告に対し,前項による名称使用中止後,第1審被告及びその子孫において,「大樋長左衛門」以外の名称を自由に選択して,これにより陶芸活動をし,その作品を製造販売することにつき異議を述べないものとし,これと同じ名称による陶芸活動及びその作品の製造販売をしない。ただし,上記によって第1審被告が「大樋長左衛門」の名称に代えて自由に選択する名称は1つに限るものとし,かつ,第1審被告は第1審原告に対し,この名称変更を平成6年2月11日までの間に書面で第1審原告の訴訟代理人に対し通知するものとし,第1審原告は,この通知受領後,遅くとも1年内には,第1審被告が自由に選択したこの名称と同じ名称による陶芸活動及びその作品の製造販売を中止するものとする。また,第1審被告が上記期限内に上記通知をしないときは,本項は効力を生じないものとする。 オ第1審原告及び丙は,本件におけるその余の請求一切を放棄する。 カ全当事者は,上記をもって本件紛争が円満に解決したことを確認し,上記に定めたほかには相互に損害賠償請求権その他一切の債権債務関係のないことを相互に確認し,かつ,陶芸「大樋焼」の健全な発展に誠意をもって努力し,相互に相手方を非難中傷するがごとき言動をしないことを確認する。 キ訴訟費用は各自の負担とする。 ⑫ 第1審被告は,平成5年6月20日ころ,丙から「九代目大樋勘兵衛たることを認める」旨の「 相手方を非難中傷するがごとき言動をしないことを確認する。 キ訴訟費用は各自の負担とする。 ⑫ 第1審被告は,平成5年6月20日ころ,丙から「九代目大樋勘兵衛たることを認める」旨の「認証」を送られた。そこで,第1審被告は,第1審原告代理人に対し,上記前回和解エ項に基づき,平成5年7月7日付けで「大樋勘兵衛」を選択し,以後「大樋勘兵衛」の名称を使用する旨を通知した。(争いがない。甲102号証の3,乙69号証,113号証の1ないし3)そして,第1審被告は,同月,「このたび,大樋焼本家窯元として長左衛門改め,大樋勘兵衛を襲名致し,大樋本家直系九代丙氏より認証を受けました。(中略)お陰様で大樋本家の主張通り名称問題が解決し,大樋焼本家の真正な史実が公に立証され,また,これまでの私,即ち長左衛門としての陶芸活動が,正に当然なものとして認められましたことは,御承知のとおりです。(中略)このうえは,先代の志を継ぎ,(中略)初代より数え大樋焼本家窯元九代目として,(中略)努力を致す所存です。(中略)大樋焼本家窯元(九代目)大樋勘兵衛」と記載した挨拶状を各界の関係者に送付した。(争いがない。甲96号証)第1審被告は,これ以降,自己の各店舗のショーウィンドウ,新聞広告,電話帳広告,包装用紙袋等に「大樋焼本家窯元九代目大樋勘兵衛」と表示するほか,平成6年1月ころからは,「大樋焼本家窯歴代譜」として前回和解のア項記載のとおりの初代大樋長左衛門から七代大樋道忠までを順に掲げ,七代の次に八代目として第1審被告の亡父丁を「大樋長楽」と記載し,九代目を「大樋勘兵衛」と記載したパンフレットを制作し,配布している。また,第1審被告は,平成8年12月ころから,自己の店舗のショーウィンドウ,電話帳広告及びしおりに「大樋焼本家窯元,九代 記載し,九代目を「大樋勘兵衛」と記載したパンフレットを制作し,配布している。また,第1審被告は,平成8年12月ころから,自己の店舗のショーウィンドウ,電話帳広告及びしおりに「大樋焼本家窯元,九代目大樋勘兵衛,前大樋長左衛門(長)」との表示をしている。(争いがない。甲104号証の1ないし4,105号証,206号証,221号証,234号証の1,235号証,257号証,267号証,268号証,乙25号証,29号証の1ないし4,30号証,31号証,40号証ないし47号証,97号証ないし99号証,101号証ないし106号証,125号証,143号証,149号証,154号証の1ないし12,176号証ないし178号証,190号証ないし192号証,200号証,214号証の1ないし3,218号証ないし220号証)さらに,第1審被告は,平成5年2月24日付けで商号を「九代大樋勘兵衛」,営業の種類を「大樋焼製造販売」とする商号登記を経由している。(争いがない。甲207号証,乙110号証)⑬ これに対し,第1審原告は,自分の経営する大樋美術館のパネル,パンフレット,電話帳広告等に「初代長左衛門から十代当主長左衛門・年朗に至るまで,300余年の間,代々大樋長左衛門,大樋勘兵衛等を襲名してきているのは当家だけであります」などと記載している。(甲231号証,233号証の1,2,234号証の1,乙80号証,127号証,133号証,159号証の1ないし12,160号証,194号証,218号証)(2) 以上の事実が認められるところ,「大樋焼本家窯元」の「本家」とは,本家たる家元,すなわち,当該陶磁器を焼き始めた始祖となるべき窯元を代々承継する所や人である。「窯元」とは,陶磁器を焼いて製造する所又は人の意味を表す語であるから,「大樋焼本家窯元」とは 家」とは,本家たる家元,すなわち,当該陶磁器を焼き始めた始祖となるべき窯元を代々承継する所や人である。「窯元」とは,陶磁器を焼いて製造する所又は人の意味を表す語であるから,「大樋焼本家窯元」とは,大樋焼を焼き始めた始祖となる初代大樋長左衛門の窯を代々承継する所や人を意味するものである。初代大樋長左衛門からその直系である七代大樋道忠までが「大樋焼本家窯元」に当たることは,当事者間に争いがない。 第1審原告は,自らが大樋焼本家窯元であると称し,その業統・業名を承継したことをその主張の基礎としているので,その事実の有無について,まず判断する。 ① 第1審原告の主張の中心となるのは,七代大樋道忠から祖父甲が業統・業名を継承したというものである。業統・業名の承継は,その家の一族,門弟及び業界関係者の多くが納得する方法によって決定されるべきものであるが,その具体的な決定権者や方式などは一般的には慣習に委ねられていると解されるところ,大樋焼については,二代大樋長左衛門から七代大樋道忠までいずれも先代の直系卑属(子供)が大樋焼本家窯元の業統・業名を承継してきたことは当事者間に争いがないから,先代の直系卑属だけが業統・業名を承継しうる慣習が成立していると見る余地がないわけではない。しかし,先代が存命中に直系卑属でない親族あるいは弟子の中から技能の秀でた者を指名して次代を継がせることも,先代の意思である限り,一族,門弟及び業界の関係者も納得せざるを得ないものがあり,かかる方法による承継の可能性も一概に否定することはできない。 ② しかしながら,七代大樋道忠が甲に業統・業名を継承させたことを証する書面その他客観的な証拠は何ら存在しない。 そして,七代大樋道忠と甲との間の関係については,文献上は,「従弟」とするもの(甲1号証,6 ,七代大樋道忠が甲に業統・業名を継承させたことを証する書面その他客観的な証拠は何ら存在しない。 そして,七代大樋道忠と甲との間の関係については,文献上は,「従弟」とするもの(甲1号証,61号証),「弟子であり従弟でもあった」とするもの(甲58号証),「従弟にして且つ門人」であるとするもの(甲107号証)など様々であるが,証拠上,甲が七代大樋道忠と血縁関係にあったとは認められず,また,前回和解で第1審原告自身が丙の祖先と甲らとの間に血縁関係があるかのような記述,出版,宣伝等一切の対外的言動をしないことを約し,大樋家とA家との間に血縁関係のないことを事実上認めているのであるから,甲が七代大樋道忠の従弟(いとこ)であるとの上記文献の記述は誤りと認められる。弁論の全趣旨によれば,各種文献に上記のような記述があるのは,A家側からの意図的な情報操作によるものと推認される。けだし,それ以外に考えられないからである。 ところで,昭和5年の訴訟において,乙の訴訟代理人は,答弁書で甲は七代大樋道忠の「徒弟」であると主張しているが(甲28号証),その可能性は否定できないものの,それを認めるに足りる確たる証拠はない。しかし,たとえ甲が徒弟(弟子)であったとしても,昭和5年の訴訟の前に乙の妻が新聞記者に語った発言は,A家が大樋姓を名乗るようになった経緯を知る上で,有力な手掛かりとなりうるものである。すなわち,昭和5年4月,己が大樋家の真の血統を受ける者として名乗りをあげ,当時,大樋長左衛門の名称で大樋焼の製造,販売を営む乙に対し,大樋家とは縁故なきA家が大樋長左衛門を承継したと世に偽り伝えるのは不都合と談判に及んだことが同月13日の北陸毎日新聞に大きく報道されたが,その際,A宅に取材に訪れた新聞記者に対し,不在の乙に代わってその妻が語った A家が大樋長左衛門を承継したと世に偽り伝えるのは不都合と談判に及んだことが同月13日の北陸毎日新聞に大きく報道されたが,その際,A宅に取材に訪れた新聞記者に対し,不在の乙に代わってその妻が語ったこととして,「明治三十四、五年頃乙の先代甲氏が當時大樋家の真の系統で七代道忠の遺子己が猶幼少で家業を続けることが出来ず貧困の極に陥ったのを後見人の某が甲氏に家系図を売却したもので、これ以後A家では大樋姓を名乗るに至ったもので、同家として別に他から抗議を受ける必要はないものである」と新聞に掲載されていることが認められる(乙66号証,185号証)。この新聞に掲載された発言内容は,A家の身内によるものであることに加え,七代大樋道忠が明治27年10月6日に没した後その直後はもとより,甲が生存中も「八代大樋長左衛門」を名乗っていたことを認めるに足りる証拠がないことからも,信用するに足るものである。そうすると,甲が七代大樋道忠の生存中に同人から大樋焼本家窯元の業統・業名を譲り受けたとする第1審原告の主張は,到底認めることができない。 なお,各種文献(甲60号証,108号証,197号証など)には,甲が「八代大樋長左衛門」を襲名したとの記述のあることが認められるが,上記のように甲が存命中に「八代大樋長左衛門」を名乗っていたことを認めるに足りる証拠はなく,上記各種文献がいずれも昭和期に入ってのものであることからすると,これらの文献に甲が「八代大樋長左衛門」と紹介されているのは,あたかも第1審被告が「九代大樋勘兵衛」を名乗るについて,父大樋長楽(丁)を「七代大樋道忠」に続いて「八代」と称しているように,乙が「九代大樋長左衛門」を自称するため父甲が「八代大樋長左衛門」を襲名したように装ったものと推認される。 もっとも,己は,乙に「九代大樋長左衛門」の名称 樋道忠」に続いて「八代」と称しているように,乙が「九代大樋長左衛門」を自称するため父甲が「八代大樋長左衛門」を襲名したように装ったものと推認される。 もっとも,己は,乙に「九代大樋長左衛門」の名称の使用禁止を求める昭和5年の訴訟を提起しながら,その訴えを取り下げるとともに,誓書をもって,七代大樋道忠が甲に大樋焼の業統を譲り,甲が「長左衛門」を襲名したことを確認しているが,それには,2000円という当時として相当な大金が乙から己に支払われているのであるから,己は,金銭を得る代償として上記のような誓書を作成したと推認される。したがって,上記誓書の存在も何ら上記認定を左右するに足るものではない。 以上のとおりであるから,甲は,七代大樋道忠死亡後,貧困にあえぐ遺子己の後見人から大樋家の家系図など(この中には,大樋家に伝わる歴代の作品,陶印なども含まれると推認される。)を購入した者に過ぎず,道忠から大樋焼本家窯元の業統・業名を譲られたと認めることはできない。したがって,A家(甲,乙,第1審原告)が大樋焼本家窯元の業統・業名を承継する正当な家筋であると主張することは,法律上の根拠を欠くものというべきである。 ③ 一方,第1審被告は,大樋焼本家窯元の業統・業名を承継する者として大樋家本家直系の子孫である丙から認証を受けたと主張する。しかし,大樋家直系の子孫であっても,本家窯元の業統・業名を承継しなかった者が,その業統・業名にどれだけ関わりを持つことができるかは,すこぶる困難な問題である。直系の子孫であれば,先祖の由緒ある名称をみだりに使用する者に対しその名称使用の禁止を求めることは,その請求権の成立を認める余地がないわけではなく,いわんや,血縁関係にない者が先祖の血族(一族)であるかのように偽って由緒ある先祖の名称を使用している場合においては,その 称使用の禁止を求めることは,その請求権の成立を認める余地がないわけではなく,いわんや,血縁関係にない者が先祖の血族(一族)であるかのように偽って由緒ある先祖の名称を使用している場合においては,その使用禁止の請求権は,自己の人格権の発露として,成立を認める余地が十分にあると解される。しかし,本家直系の子孫であっても,業統・業名を承継しなかった以上,他人に先祖の業統・業名の承継を許諾する権限を当然に有すると解する合理的根拠は見い出し難く,また,これを許す慣習が存在するとも認められない。 そうすると,丙は,大樋家本家直系の子孫であっても,大樋焼の業統・業名を承継したことはないのであるから,第1審被告は,その丙から認証を受けたとしても,そのことを根拠に大樋焼本家窯元の業統・業名を承継したと主張することは許されない。 ④ 以上のとおりであるから,初代大樋長左衛門を始祖とする大樋焼本家窯元は,七代大樋道忠をもって廃絶となり,その後,その業統・業名を法律上正当に承継した者が存在するとは認められない。要するに,第1審原告,第1審被告の双方とも,大樋焼本家窯元の業統・業名の承継者であることを自称しているけれども,いずれもその主張に正当な根拠は認められない。 第1審原告は,たとえA家が大樋家と血縁関係がないとしても,七代大樋道忠亡き後,大樋焼の陶芸としての真髄を承継,発展させたのは,祖父甲以来第1審原告までのA家三代であるとの思いを強く抱いていることが窺われるが,そのような自負心を持つことは本人の自由であるけれども,その認識を他人に強要することは許されない。 2 甲事件について(1) 和解条項違反に基づく名称使用の差止めについて甲102号証の2によれば,前回和解は,いずれの当事者にも訴訟代理人たる弁護士が関与して成立したことが認められ 2 甲事件について(1) 和解条項違反に基づく名称使用の差止めについて甲102号証の2によれば,前回和解は,いずれの当事者にも訴訟代理人たる弁護士が関与して成立したことが認められるが,訴訟の係属中に訴訟代理人たる弁護士も関与して成立した訴訟上の和解においては,その条項の文言自体が相互に矛盾し,又は文言自体によってその意味を了解し難いなど,和解条項それ自体に瑕疵を含むような特別の事情のある場合を除き,和解条項は,その調書に記載された文言と異なる意味に和解の趣旨を解すべきではない。 第1審原告は,第1審被告が「大樋焼本家窯元」,「九代目大樋勘兵衛」,「九代大樋勘兵衛」,「前大樋長左衛門(長)」と称することが前回和解の条項に違反する旨主張するので,以下,順次これについて判断する。 ① 「大樋焼本家窯元」について「大樋焼本家窯元」の使用の可否について,前回和解では何ら触れられていない。したがって,第1審被告が「大樋焼本家窯元」と称することが前回和解の条項に直ちに違反するとは認められない。むしろ,前回訴訟においては,第1審原告は,第1審被告に対し,「大樋長左衛門」の名称の使用が第1審原告の「大樋焼本家窯元十代大樋長左衛門」の名称を冒用するものとしてその使用禁止を求め,丙に対しては,「大樋焼本家窯元大樋長左衛門」の名称についての襲名指定権等のないことの確認を求め,第1審原告は,「大樋焼本家窯元」の表示使用を問題としていたのである。その訴訟の和解(前回和解)において,「大樋焼本家窯元」の表示使用の可否について何ら定めることなく,第1審原告及び丙がその余の請求を放棄し,かつ,第1審被告を含む全当事者が,和解条項に記載されたもの以外には相互に損害賠償請求権その他一切の債権債務関係のないことを相互に確認したものである。そうす 第1審原告及び丙がその余の請求を放棄し,かつ,第1審被告を含む全当事者が,和解条項に記載されたもの以外には相互に損害賠償請求権その他一切の債権債務関係のないことを相互に確認したものである。そうすると,第1審原告と第1審被告は,相互に相手が「大樋焼本家窯元」を称することを許容したと認めるのが相当である。 ② 「九代目大樋勘兵衛」,「九代大樋勘兵衛」について前回和解に基づき第1審被告は「大樋勘兵衛」の名を称することを選択したのであるが,前回和解の条項には,第1審被告が選択する名称の上に何代又は何代目という頭書を付すことの可否についての格別の合意はない。そうだとすれば,特段の事情のない限り,第1審被告において「九代目大樋勘兵衛」又は「九代大樋勘兵衛」を称することが前回和解の条項に違反するということはできない。もし,これが前回和解の条項に違反するというのであれば,第1審原告も,前回和解で丙が異議を述べないとしたのは,「大樋長左衛門」の名称の使用に過ぎないのに,その頭に「十代」を付して「十代大樋長左衛門」と称しているのであり,その主張は,我が身を顧みないものである。 第1審原告は,「大樋勘兵衛」,「大樋焼本家窯元」,「九代(目)」の各語義,沿革,その営業上の作用,効果より考察した場合,単なる「大樋勘兵衛」と「大樋焼本家窯元九代(目)大樋勘兵衛」との間には同一性がなく,後者の名称は,大樋焼本家窯元を承継する者であることを表示するものであって,大樋焼本家窯元の正当な承継者である第1審原告の業名「大樋焼本家窯元十代大樋長左衛門」と実質的に同一又は類似の名称を表示することになると主張する。 しかし,第1審原告の上記主張は,自らが大樋焼本家窯元の正当な承継者であることを前提にするものであるが,前回和解は,第1審原告を大樋焼本家窯元の承継者であ 似の名称を表示することになると主張する。 しかし,第1審原告の上記主張は,自らが大樋焼本家窯元の正当な承継者であることを前提にするものであるが,前回和解は,第1審原告を大樋焼本家窯元の承継者であることを認めたものではない。また,実体的にも,第1審原告が法律上大樋焼本家窯元の正当な承継者であると認められないことは,既述のとおりであるから,第1審原告の主張は,その前提において失当である。 ③ 「前大樋長左衛門(長)」について前回和解において,第1審被告は,第1審原告に対し,平成7年2月11日までの間に「大樋長左衛門」の名称による陶芸活動及びその作品の製造販売を中止することを約し,中止以後「大樋長左衛門」の名称による陶芸活動及びその作品の製造販売をしないことに合意している。このように,第1審被告が「大樋長左衛門」の名称による作品の製造販売をしない旨を第1審原告に対して約束している以上,作品の製造販売に第1審被告が「大樋長左衛門」の名称を使用することは,前回和解の条項に違反するものである。 もっとも,第1審被告の使用している名称は,「大樋長左衛門」の頭に「前」を,後尾に(長)を付加したものであり,必ずしも「大樋長左衛門」そのものではない。これについて,第1審被告は,「大樋勘兵衛」を襲名する前に「大樋長左衛門」,さらにその前には「大樋長」の名称で作陶したことは事実であるから,「九代目大樋勘兵衛」などの名称に付加して「前大樋長左衛門(長)」と表示することがあったに過ぎず,これを表示したからといって,第1審被告が「大樋長左衛門」の名称を使用したことにはならないと主張する。 しかしながら,「前大樋長左衛門(長)」を見ただけでは,これを第1審被告の主張の趣旨に理解することはできない。第1審被告の陶歴を示すというのであれば,それを明示す 用したことにはならないと主張する。 しかしながら,「前大樋長左衛門(長)」を見ただけでは,これを第1審被告の主張の趣旨に理解することはできない。第1審被告の陶歴を示すというのであれば,それを明示するのが不自然でない,しおりやパンフレットなどに,その趣旨を明らかにしてこれまで作品に使用したすべての名称を正しく表示すべきであり,「前大樋長左衛門(長)」という一見しただけでは何を意味しているか分からない表示を用いるべきでない。したがって,その前後に「前」,「(長)」が付加されているとはいえ,「前大樋長左衛門(長)」との表示の中核をなすのは「大樋長左衛門」であるから,第1審被告がこれを使用することは,前回和解の趣旨に反するものというべきである。 よって,「前大樋長左衛門(長)」の使用が前回和解の条項に違反するという第1審原告の主張は,理由がある。 (2) 不正競争防止法に基づく名称使用の差止めについて① 「大樋焼本家窯元」について上記(1)①のとおり,前回和解において,第1審原告と第1審被告は,相互に相手が「大樋焼本家窯元」を称することを許容したと認められるところ,第1審被告が主張する,本件における第1審原告の主張は前回和解で解決済みのことを蒸し返しているに過ぎないという点は,上記のことを抗弁として援用する趣旨も含まれると解される。 そうすると,前回和解で相互に相手が「大樋焼本家窯元」を称することを許容した以上,第1審被告が「大樋焼本家窯元」を称しても,それが第1審原告との関係で不正競争防止法に違反するということはできない。 ② 「九代目大樋勘兵衛」,「九代大樋勘兵衛」について「大樋勘兵衛」なる名称は,第1審被告が前回和解に基づいて選択した名称であるから,第1審原告は,その使用に異議を唱えることは許されない。そして,「九代目大樋勘兵衛」, 」,「九代大樋勘兵衛」について「大樋勘兵衛」なる名称は,第1審被告が前回和解に基づいて選択した名称であるから,第1審原告は,その使用に異議を唱えることは許されない。そして,「九代目大樋勘兵衛」,「九代大樋勘兵衛」と第1審原告が称する「十代大樋長左衛門」との間に同一性又は類似性は認められず,したがって,第1審被告が「九代目大樋勘兵衛」又は「九代大樋勘兵衛」と称したからといって,第1審被告と第1審原告の商品及び営業主体に混同を生じるとは認められない。このことは,第1審被告が名称の前に「大樋焼本家窯元」を付加したとしても,何ら変わるものではない。したがって,「九代目大樋勘兵衛」,「九代大樋勘兵衛」の使用が不正競争防止法に違反するとは認められない。 (3) 第1審原告の控訴の趣旨(2)ないし(7)の当否について以上の認定判断に基づき,第1審原告の控訴の趣旨(2)ないし(7)の当否について判断する。 ① 控訴の趣旨(2)について控訴の趣旨(2)は,「第1審被告は,第1審被告が製造販売する大樋焼の商品につき,「大樋焼本家窯元」,「九代目大樋勘兵衛」,「九代大樋勘兵衛」,「前大樋長左衛門(長)」なる名称を表示し,又は同名称を印刷物・書面・看板・店舗・焼物に表示する等して使用してはならない。」というものであるが,同請求は,「前大樋長左衛門(長)」の名称の使用の差止めを求める部分に限り理由があり,その余の請求は理由がない。 ② 控訴の趣旨(3)について控訴の趣旨(3)は,「第1審被告は,「大樋焼本家窯元」,「九代目大樋勘兵衛」,「九代大樋勘兵衛」あるいは「前大樋長左衛門(長)」と称したり,第1審被告の父(亡)丁を「八代目大樋長楽」と称した上,自己を「九代目大樋勘兵衛」又は「九代大樋勘兵衛」と称し,下記のとおり大樋焼本家窯元初代大樋長左衛 あるいは「前大樋長左衛門(長)」と称したり,第1審被告の父(亡)丁を「八代目大樋長楽」と称した上,自己を「九代目大樋勘兵衛」又は「九代大樋勘兵衛」と称し,下記のとおり大樋焼本家窯元初代大樋長左衛門から数えて九代目に当たり,業務を承継している旨を印刷物・書面・看板・暖簾・店舗・新聞広告に表示する等してはならない。」(下記部分省略)というものであるが,同請求についても,「前大樋長左衛門(長)」と称することの差止めを求める部分に限り理由があり,その余の請求は理由がない。なお,第1審被告が父(亡)丁を「八代目大樋長楽」と称した上,自己を大樋焼本家窯元初代大樋長左衛門から数えて九代目に当たり,業務を承継している旨を称することは,第1審原告の場合と同様に正当なものとは認められないが,前回和解の条項に違反するとは認められず,また,不正競争防止法に照らしても,これにより大樋焼本家窯元の承継者を自認しているに過ぎない第1審原告が同法3条1項の「営業上の利益を侵害され,又は侵害されるおそれがある者」に該当するとは認められない。そして,「前大樋長左衛門(長)」と称することの差止めを求める部分は,控訴の趣旨(2)の認容部分と重複するから,控訴の趣旨(3)は,すべてこれを棄却すべきである。 ③ 控訴の趣旨(4)について控訴の趣旨(4)は,「第1審被告は,金沢市a町b番c号及び金沢市de丁目f番g号の各店舗における看板,暖簾,ショーウィンドウの大樋焼本家窯元・九代目大樋勘兵衛・前大樋長左衛門(長)なる表示をすべて抹消せよ。」というものであり,同請求も「前大樋長左衛門(長)」に関する部分に限って理由があるが,証拠(乙214号証の1ないし3)及び弁論の全趣旨によれば,第1審被告の店舗のショーウィンドウにおける「前大樋長左衛門(長)」の表示は既に抹消されている 門(長)」に関する部分に限って理由があるが,証拠(乙214号証の1ないし3)及び弁論の全趣旨によれば,第1審被告の店舗のショーウィンドウにおける「前大樋長左衛門(長)」の表示は既に抹消されていることが認められる。そして,第1審被告の店舗の看板,暖簾に「前大樋長左衛門(長)」の表示がなされていることを認めるに足りる証拠はない。 したがって,控訴の趣旨(4)の請求は,すべて理由がない。 ④ 控訴の趣旨(5)について控訴の趣旨(5)は,「第1審被告は,上記控訴の趣旨(2),(3)項記載の印刷物,書面(包装紙・パンフレットを含む。)を廃棄せよ。」というものである。しかし,控訴の趣旨(2),(3)の請求のうち理由があるのは,「前大樋長左衛門(長)」に関する部分に限られ,また,控訴の趣旨(2)において,「前大樋長左衛門(長)」の使用の差止め請求が認容されることを考慮すれば,印刷物,書面の廃棄を求める控訴の趣旨(5)の請求は過ぎたるもので,認容するのは相当でない。よって,控訴の趣旨(5)の請求は,これを棄却すべきである。 ⑤ 控訴の趣旨(6)について控訴の趣旨(6)は,「第1審被告は,金沢地方法務局昭和62年2月2日付けでした「大樋焼本家窯元」なる商号及び同地方法務局平成5年2月24日付けでした「九代大樋勘兵衛」なる商号の各抹消登記手続をせよ。」というものであるが,第1審原告が第1審被告に対して,「大樋焼本家窯元」及び「九代大樋勘兵衛」の使用の禁止を求めることができないことは既述のとおりであるから,控訴の趣旨(6)の請求は理由がない。 ⑥ 控訴の趣旨(7)について控訴の趣旨(7)は,「第1審被告は,原判決別紙一謝罪広告目録(一)記載の新聞に同目録記載の方法で,同謝罪広告目録(二)記載の謝罪広告を各2回にわたり掲載せよ。」というものである (7)について控訴の趣旨(7)は,「第1審被告は,原判決別紙一謝罪広告目録(一)記載の新聞に同目録記載の方法で,同謝罪広告目録(二)記載の謝罪広告を各2回にわたり掲載せよ。」というものである。しかし,第1審被告が前回和解の条項に違反したのは,「前大樋長左衛門(長)」の使用だけであり,そして,たとえそれが不正競争防止法にも違反するものであったとしても,その違反の程度は謝罪広告を認めなければならない程に重大であるとは認められず,また,その必要性も認められない。よって,控訴の趣旨(7)の請求は理由がない。 (4) 損害賠償について① 第1審原告は,第1審被告が平成5年7月末ころ「大樋勘兵衛」襲名の際に各界の関係者に送付した挨拶状(甲96号証)並びに第1審原告が芸術院会員に内定した際に第1審被告代理人が日本芸術院に送付した質問書(乙171号証)について,その内容は第1審原告の名誉を毀損するものであると主張する。 しかし,前者の挨拶状(甲96号証)は,前回和解の条項を自己に有利に解釈して,名称問題についての自己の主張が認められたかのような記述のあることが認められるが,それが第1審原告の名誉を特に毀損するものとまでは認められない。そして,同挨拶状において,第1審被告が「大樋焼本家窯元(九代目)大樋勘兵衛」と称したことが,第1審原告の名誉を毀損するものでないことは明らかである。 また,後者の質問書(乙171号証)は,第1審被告の訴訟代理人が本件訴訟の存在及び同訴訟における第1審被告の立場と主張を明らかにした上で,第1審原告の芸術院会員としての資格要件を問うているものであって,その内容にはいささか適切を欠くきらいもないではないが,第1審原告の名誉を毀損したものとまではいうことができない。 ② 次に,第1審原告は,前回和解に反し,第1審 の資格要件を問うているものであって,その内容にはいささか適切を欠くきらいもないではないが,第1審原告の名誉を毀損したものとまではいうことができない。 ② 次に,第1審原告は,前回和解に反し,第1審被告が自分の各店舗のショーウィンドウ,電話帳広告及びしおりに「大樋焼本家窯元,九代目大樋勘兵衛,前大樋長左衛門(長)」と表示して,第1審原告に精神的苦痛を与えていると主張する。 しかし,前述のとおり,上記表示のうち前回和解の条項に違反するのは,「前大樋長左衛門(長)」だけであり,この表示によって第1審原告が精神的苦痛を受けるとしても,その度合いは小さく,賠償を認めるべき程のものとは認められない。また,第1審被告が「前大樋長左衛門(長)」を使用したことによって,第1審原告が営業上の損害を受けたことを認めるに足りる証拠はない。 ③ よって,第1審原告の損害賠償の請求は,すべて理由がない。 3 乙事件について(1) 名称使用妨害禁止について前回和解の条項において,第1審原告は,第1審被告に対し,「第1審被告及びその子孫において,「大樋長左衛門」以外の名称を自由に選択して,これにより陶芸活動をし,その作品を製造販売することにつき異議を述べないものとし,これと同じ名称による陶芸活動及びその作品の製造販売をしない」ことを約し,第1審被告は,使用する名称として「大樋勘兵衛」を選択したのであるから,第1審原告は,第1審被告の「大樋勘兵衛」の名称の使用を妨害することは許されない。 然るに,証拠(乙65号証,133号証,159号証の1ないし12,160号証,194号証)及び弁論の全趣旨によれば,第1審原告は,前回和解成立後も,パンフレット,電話帳広告等に「初代長左衛門から十代当主長左衛門(イ)に至るまで,300余年の間,代々大樋長左衛門,大 0号証,194号証)及び弁論の全趣旨によれば,第1審原告は,前回和解成立後も,パンフレット,電話帳広告等に「初代長左衛門から十代当主長左衛門(イ)に至るまで,300余年の間,代々大樋長左衛門,大樋勘兵衛等を襲名してきているのは当家だけであります」などと記載していることが認められる。これは,明らかに,第1審被告による「大樋勘兵衛」の名称の使用を妨害するものである。第1審原告は,既に上記のような記載は中止しているとして証拠(甲265号証の1,2,266号証の1ないし4)を提出するが,これまでの紛争の経過に照らすと,将来再び第1審原告が第1審被告による「大樋勘兵衛」の名称の使用を妨害する可能性を否定することはできない。 したがって,第1審被告の第1審原告に対する「大樋勘兵衛」の名称使用妨害禁止の請求は理由がある。そして,第1審原告が本訴において「九代大樋勘兵衛」,「九代目大樋勘兵衛」の名称の使用の差止めを求め,その請求に理由がないことからすると,第1審被告が妨害禁止を求める名称を「大樋勘兵衛」ではなく,「九代大樋勘兵衛」,「九代目大樋勘兵衛」とすることも理由がある。 (2) 名称使用差止めについて第1審被告は,第1審原告が「十代大樋長左衛門」の名称を使用することの差止めを求めているが,その請求の原因として主張するところは,専ら前回和解において第1審原告と丙との間で成立した合意に反する事実であり,第1審被告と第1審原告との合意に係わるものではない。したがって,前回和解の条項違反に基づく第1審被告の第1審原告に対する「十代大樋長左衛門」の名称使用の差止め請求は理由がない。 (3) 謝罪広告及び損害賠償について第1審被告は,第1審原告に対して謝罪広告及び損害賠償を請求するにつき,その請求の原因として,前回和解違反 門」の名称使用の差止め請求は理由がない。 (3) 謝罪広告及び損害賠償について第1審被告は,第1審原告に対して謝罪広告及び損害賠償を請求するにつき,その請求の原因として,前回和解違反,名称使用妨害,独占禁止法違反などを主張しているが,前述のとおり,第1審原告が前回和解の条項に違反して第1審被告の「大樋勘兵衛」の名称使用を妨害している事実は,これを認めることができる。しかし,第1審原告が本訴を提起することが第1審被告の「九代大樋勘兵衛」又は「九代目大樋勘兵衛」の名称使用の妨害であると認めることはできない。けだし,特段の事情のない限り,紛争解決のための訴え提起は不法行為を構成しないからである。また,前回和解で第1審原告と丙との間に成立した合意に反すると主張する点は,第1審被告の権利,利益を侵害するものということはできない。さらに,第1審原告の各種行為が,大樋焼抹茶茶碗の作家物市場の取引分野の競争を実質的に制限していると主張するが,その主張事実が独占禁止法に違反する行為であるとは認められない。なお,乙158号証によれば,第1審被告が平成5年8月大阪市内の阪神百貨店において「大樋勘兵衛襲名展」を開催しようとした際,第1審原告の代理人弁護士が同百貨店宛に「通知書」と題する書面を送付していることが認められるところ,確かにその内容は穏当を欠くきらいを免れないものの,その趣旨は,第1審被告が「大樋勘兵衛」襲名の際に各界の関係者に配布した挨拶状の内容が事実に反する虚偽のものであることを指摘して,事実関係の調査を求めるものであり,上記挨拶状(甲96号証)の内容が前回和解を第1審被告が自己にかなり有利に解釈した部分もあることを斟酌すると,上記通知書も,第1審被告の名誉及び営業上の利益を侵害したものとまでは認めることができない。 以上 号証)の内容が前回和解を第1審被告が自己にかなり有利に解釈した部分もあることを斟酌すると,上記通知書も,第1審被告の名誉及び営業上の利益を侵害したものとまでは認めることができない。 以上要するに,第1審被告が求める謝罪広告及び損害賠償の請求の原因事実のうち認められるのは,第1審原告が第1審被告の「大樋勘兵衛」の名称使用を妨害していることだけである。そして,その妨害の程度,態様からすれば,上記妨害行為によって謝罪広告はもとより賠償を認めるべき程の損害が生じているとは認められない。よって,謝罪広告及び損害賠償を求める第1審被告の請求は理由がない。 4 結論以上の次第であって,第1審原告の本訴請求(甲事件)は,第1審被告に対し,前回和解の条項に基づいて,第1審被告が製造販売する大樋焼の商品並びに印刷物,書面,看板等につき,「前大樋長左衛門(長)」の名称使用の差止めを求める限度で理由があるが,その余は理由がない。また,第1審被告の本訴請求(乙事件)は,第1審原告に対し,前回和解の条項に基づいて,第1審被告が「九代大樋勘兵衛」及び「九代目大樋勘兵衛」の名称を使用して営業することの妨害の禁止を求める限度で理由があるが,その余は理由がない。 よって,これと結論を異にする原判決を取り消すこととして,主文のとおり判決する。 名古屋高等裁判所金沢支部第1部裁判長裁判官川崎和夫裁判官榊原信次裁判官渡邉和義 和義

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