- 1 -令和4年3月18日判決言渡令和2年(行ウ)第58号障害年金不支給決定取消等請求事件 主文 1 厚生労働大臣が平成30年5月22日付けで原告に対してした障害 基礎年金を支給しない旨の処分を取り消す。 2 厚生労働大臣は,原告に対し,原告が平成30年2月1日付けでした障害基礎年金の支給の裁定請求について,平成▲年▲月▲日を受給権の発生の日とする障害等級2級の障害基礎年金を支給する旨の裁定をせよ。 3 訴訟費用は被告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求主文同旨第2 事案の概要 本件は,原告が,厚生労働大臣に対し,広汎性発達障害(以下「本件傷病」ということがある。)による障害の状態が障害等級に該当する程度にあるとして,主位的に20歳に達した日(平成▲年▲月▲日。以下「20歳到達日」という。)を受給権の発生日とする国民年金法(以下「国年法」という。)30条の4第1項による障害基礎年金の支給の裁定請求をし,予備的に裁定請求日 (平成30年2月1日。以下,単に「裁定請求日」という。)を受給権の発生日とする同条2項による障害基礎年金の支給の裁定請求をした(以下,これらの請求を「本件裁定請求」という。)ところ,厚生労働大臣から,20歳到達日及び裁定請求日における原告の障害の状態は障害等級1級又は2級に該当する程度にあるとはいえないとして,障害基礎年金を支給しない旨の処分(以下「本 件処分」という。)を受けたため,原告の障害の状態は障害等級2級に該当する - 2 -程度のものであり,本件処分は障害の程度の評価を誤った違法なものであるなどとして,本件処分の取消しを求めるとともに,20歳到達日を受給権の発生日とする障害等級2級の障害基礎年金を支給する旨の裁定をすること ものであり,本件処分は障害の程度の評価を誤った違法なものであるなどとして,本件処分の取消しを求めるとともに,20歳到達日を受給権の発生日とする障害等級2級の障害基礎年金を支給する旨の裁定をすることの義務付けを求める(以下,本件訴えのうち上記の義務付けの訴えに係る部分を「本件義務付けの訴え」という。)事案である。 1 関係法令等の定め本件に関係する法令等の定めは,別紙2「関係法令等の定め」に記載のとおりである(なお,同別紙において定める略称等は,以下においても用いることとする。)。 2 前提事実(証拠等を掲記した事実を除き,いずれも当事者の間に争いがない か,又は当事者が争うことを明らかにしない事実である。)原告は,平成▲年▲月▲日生まれの男性であり,平成▲年▲月▲日を初診日とする本件傷病の診断を受けている者である(甲1の1,2)。原告が20歳に達した日は平成▲年▲月▲日である。 原告は,平成30年2月1日,厚生労働大臣に対し,本件傷病による障害 の状態が障害等級に該当する程度にあるとして,AセンターのB医師が作成した原告の平成▲年▲月▲日現症についての平成30年1月5日付け診断書(甲1の1。以下「平成β年現症診断書」という。)及び原告の同日現症についての同日付け診断書(甲1の2。以下「平成30年現症診断書」といい,平成β年現症診断書と併せて「本件各診断書」という。)を添付して(弁論 の全趣旨),年金請求書(国民年金障害基礎年金)(甲2)を提出し,主位的に20歳到達日を受給権の発生日とする国年法30条の4第1項による障害基礎年金の支給の裁定請求をし,予備的に裁定請求日を受給権の発生日とする同条2項による障害基礎年金の支給の裁定請求をした(本件裁定請求)。 厚生労働大臣は,平成30年5月22日付け 1項による障害基礎年金の支給の裁定請求をし,予備的に裁定請求日を受給権の発生日とする同条2項による障害基礎年金の支給の裁定請求をした(本件裁定請求)。 厚生労働大臣は,平成30年5月22日付けで,原告に対し,障害基礎年 金を支給しない旨の処分(本件処分)をした。 - 3 -「国民年金・厚生年金保険の支給しない理由のお知らせ(不支給決定通知書)」と題する本件処分の通知書には,障害基礎年金を支給しない理由として,「請求のあった傷病(広汎性発達障害)について,20歳に達した日である平成▲年▲月▲日現在の障害の状態は,障害年金1級又は2級の対象となる障害(国民年金法施行令別表に規定)に該当しません。また,請求日である 平成30年2月1日現在の障害の状態も,障害年金1級又は2級の対象となる障害に該当しません。」との記載がされていた(甲3)。 原告は,平成30年8月21日,本件処分を不服として,関東信越厚生局社会保険審査官に対し,審査請求をしたが,関東信越厚生局社会保険審査官は,同年11月20日,上記の審査請求を棄却する旨の決定をした。 原告は,平成31年1月22日,前記の決定を不服として,社会保険審査会に対し,再審査請求をしたが,社会保険審査会は,令和元年9月30日,上記の再審査請求を棄却する旨の裁決をした。 原告は,令和2年2月12日,本件訴訟を提起した(当裁判所に顕著な事実)。 3 争点本件処分に行政手続法8条1項本文所定の理由の提示不備の違法があるか(争点1)原告が,20歳到達日及び裁定請求日において,本件傷病により障害等級2級に該当する程度の障害の状態にあったか(争点2) 本件義務付けの訴えの適法性及び義務付けの可否(争点3) 4 争点に関する当事者の主張の要旨 請求日において,本件傷病により障害等級2級に該当する程度の障害の状態にあったか(争点2) 本件義務付けの訴えの適法性及び義務付けの可否(争点3) 4 争点に関する当事者の主張の要旨争点1(本件処分に行政手続法8条1項本文所定の理由の提示不備の違法があるか)について(原告の主張の要旨) ア行政手続法8条1項本文は,行政庁は,申請により求められた許認可等 - 4 -を拒否する処分をする場合は,申請者に対し,同時に,当該処分の理由を示さなければならないと定めているところ,これは,申請拒否処分の性質に鑑み,行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,処分の理由を名宛人に知らせて不服申立ての便宜を与える趣旨に出たものと解される。 イ障害基礎年金の支給の裁定処分には行政庁に裁量が認められているところ,その恣意的判断を抑制するために法令に処分の要件が定められ,これを具体化する障害認定基準が公表され,これに基づいて行政実務が行われていることに鑑みれば,障害認定基準との関係で事実が具体的に摘示されなければ,行政庁の恣意的判断を抑制することや処分の名宛人において不 服申立ての便宜に資する効果は生じ得ないというべきである。 しかるに,本件処分の通知書(甲3)においては,障害等級1級又は2級該当性を否定した理由について,認定の根拠となった事実関係や障害認定基準の適用関係は全く記載されておらず,原告において,障害の状態,日常生活状況等について,どのような具体的事実が認定され,障害認定基 準との関係で障害等級1級又は2級に該当しないと評価されたのかを知ることはおよそ不可能である。 したがって,本件処分に係る理由の提示は,行政手続法8条1項本文所定の理由の提示とはいえず,手続上違法で との関係で障害等級1級又は2級に該当しないと評価されたのかを知ることはおよそ不可能である。 したがって,本件処分に係る理由の提示は,行政手続法8条1項本文所定の理由の提示とはいえず,手続上違法であることが明らかである。 (被告の主張の要旨) ア行政手続法8条1項本文に基づいてどの程度の理由を提示すべきかは,申請者に許認可等の法令上の利益を付与しないという申請拒否処分の性質に鑑み,行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,処分の理由を申請者に知らせて不服の申立てに便宜を与えるという同項の趣旨に照らし,当該申請及び処分の根拠法令の規定内容,当該申請 に係る審査基準の存否及び内容並びに公表の有無,当該申請及び処分の性 - 5 -質及び内容,当該申請及び処分の原因となる事実関係の内容等を総合考慮して決定すべきである。 イ本件処分の根拠法令である国年法及び国年令は,国年令別表に定める障害等級に該当する程度の障害の状態にあることを障害基礎年金の支給要件としており,また,国年令別表に定める障害の程度に関する審査基準とし て障害認定基準が定められており,公表されている。 さらに,本件処分は,本件傷病について,原告が20歳到達日及び裁定請求日において,障害等級2級に該当する程度の障害の状態にないことを理由として示した上で,障害基礎年金を支給しないことを決定したものであるから,本件裁定請求に対して適用されるべき審査基準が障害認定基準 の「精神の障害」のうち「知的障害」及び「発達障害」に係るものであることは,本件処分において提示された理由から容易に判断することができるのであり,このことは,原告が,本件訴訟において,障害認定基準及び等級判定ガイドラインを引用して,本件処分において提示された理由につ とは,本件処分において提示された理由から容易に判断することができるのであり,このことは,原告が,本件訴訟において,障害認定基準及び等級判定ガイドラインを引用して,本件処分において提示された理由についての的確な理解に基づくとみられる主張に及んでいることからも裏付 けられる。 したがって,本件処分が,障害認定基準及び等級判定ガイドラインに基づき,原告の本件傷病に係る症状,検査成績及び具体的な日常生活状況等によれば,原告の本件傷病による障害の状態は,障害等級2級には該当しないという判断を示したものであることは明らかである。 以上によれば,本件処分における理由の提示は,行政庁の恣意抑制や不服申立ての便宜という行政手続法8条1項本文の趣旨にかなうものであり,適法である。 争点2(原告が,20歳到達日及び裁定請求日において,本件傷病により障害等級2級に該当する程度の障害の状態にあったか)について (原告の主張の要旨) - 6 -ア障害認定基準及び等級判定ガイドラインについて障害認定基準は,「第2 障害認定に当たっての基本的事項」の「1障害の程度」において,障害等級2級に該当する障害の状態の基本として,「労働により収入を得ることができない程度」のものであるとし,「例えば,」以下で活動範囲の例示として「おおむね家屋内に限られる」 旨規定しており,実際に就労している場合や屋外での活動を行っている場合の2級の可能性を否定しているようにみえるのに対し,「第3 障害認定に当たっての基準」の第1章「第8節精神の障害」の「D 知的障害」及び「E 発達障害」においては,就労している場合や屋外で活動している場合であっても,就労の実質に着目して判断するよう定め ており,上記「第2 障害認定に当たっての基本的事 の「D 知的障害」及び「E 発達障害」においては,就労している場合や屋外で活動している場合であっても,就労の実質に着目して判断するよう定め ており,上記「第2 障害認定に当たっての基本的事項」の記載は,「第 3 障害認定に当たっての基準」における障害の種類ごとの個別の認定基準と比較して2級該当性を過剰に狭く判断しているかのようにみえる記載ぶりとなっている。 障害認定基準の「障害の程度」の記載の本質は「日常生活が著しい制 限を受けるか,又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度」か否か,という部分であり,それ以外の部分は内容を構成するものではない。また,国年令別表において障害等級2級に該当する障害の状態とされている1号ないし14号の各障害の状態については,就労の有無は問題とされていないところ,就労状況を考慮するかという点につい て,これらの障害の状態と同15号の障害の状態とで区別して扱うべき合理的な理由はない。さらに,「障害の程度」の「例えば,」以下の記載は,本来,結核患者を前提としたものであり,その内容自体が明らかに時代錯誤で合理性を欠くものである。 等級判定ガイドラインは,障害認定基準に基づく障害の程度の認定に ついては,「日常生活能力の程度」の評価及び「日常生活能力の判定」 - 7 -の評価の平均の組合せによって示される「障害等級の目安」を参考としつつ,「総合評価の際に考慮すべき要素の例」で例示する様々な要素を考慮した上で,総合的に判定するものとしている。 等級判定ガイドラインにおける「障害等級の目安」によれば,原告の障害等級は2級に該当するところ,以下のとおり,原告が置かれている 状況や受けている援助,日常的な不適応行動やそれによるトラブル,労働の実態や制限等を細やかに検討し 等級の目安」によれば,原告の障害等級は2級に該当するところ,以下のとおり,原告が置かれている 状況や受けている援助,日常的な不適応行動やそれによるトラブル,労働の実態や制限等を細やかに検討して,総合評価を行えば,原告が,20歳到達日及び裁定請求日において,障害等級2級に該当する程度の障害の状態にあったことは明らかである。 イ日常生活状況について 原告は,現在,父,母(以下「原告母」という。)及び弟と同居しており,以下のとおり,日常生活の全般において家族の援助を受けている状態である。 食事について原告は,お湯を沸かしてインスタントラーメンを作る程度の調理作業 はできるものの,決まった時間に栄養バランスの取れた食事をするという食生活の管理は全くできないため,原告母が,原告の食事を準備している。また,原告は,強い偏食傾向があり,極端な低体重の状態にあり,コレステロール値も高すぎるなどの健康不安が表出している。 清掃,入浴,身だしなみ等について 原告は,掃除機をかけること,風呂に入って体を洗うことはできるが,片付け,整理整頓を自分で判断して行うことはできないし,浴槽の掃除,浴槽にお湯を貯めること,入浴のためのタオルや着替えを準備することはできない。また,原告は,歯磨きや整髪についても,家族の声掛けがなければすることができない。 原告は,皮膚の感覚が過敏である反面,寒暖の感覚は鈍いため,自宅 - 8 -では常に上半身は裸で,下半身は下着一枚のみを着用して生活している。 また,外出の際に適切な衣服を選択することはできないため,原告母がその日に着用する衣服を用意している。 外出について原告は,一人で初めての場所に行くことはできず,決まった場所に行 けるようになるためには,家族と何度 選択することはできないため,原告母がその日に着用する衣服を用意している。 外出について原告は,一人で初めての場所に行くことはできず,決まった場所に行 けるようになるためには,家族と何度も練習することを要する。また,原告は,練習を経た上でも,乗るべき電車の行先を覚えることができないため,乗るべき電車を間違ってしまうことがあり,その場合に逆方向の電車に乗るなどして正しい通勤経路に戻るという判断も自分ではできないため,家族に電話して指示を受けている。原告は,外出先でトラブ ルが発生した際に自ら適切な対応や危機を回避する行動をとることはできない。 金銭管理について原告は,自ら金銭管理ができないため,原告母が,原告の預金通帳を管理し,スマートフォン等の料金を支払っている。原告は,月々,原告 母から決まった小遣いと昼食代をもらっているが,決まった金額でやりくりができないこともある。 日用品の購入等について原告は,お菓子等をコンビニエンスストアやスーパーマーケットで購入することはできるが,衣服や必要品等で不足しているものや必要なも のを自ら判断して購入することはできない。また,家族が原告に対して必要な物の購入を指示する場合,品名だけでなく色,サイズ等の細かい情報を指定したり,写真を送付して指示したりしないと,購入すべき物の対象を正しく理解することができない。 起床について 原告は,適切な時間にアラームをかけることができないため,平日は, - 9 -午前4時50分から30分毎にアラームをかけている上,このように断続的にアラームをかけても起床することができず,仕事を休むこともある。 服薬管理について原告は,自分が服用すべき薬を所定の時間に服用することができない ため,原告母がい 上,このように断続的にアラームをかけても起床することができず,仕事を休むこともある。 服薬管理について原告は,自分が服用すべき薬を所定の時間に服用することができない ため,原告母がいつどの薬を服用するかを管理している。 日常的なコミュニケーションについて原告は,診察やカウンセリングの際,一人では症状を医師に伝えることができないため,通院には原告母が同行している。 また,原告は,自分の思っていることを相手に伝えることや相手の言 っていることを正確に理解することができず,コミュニケーションの困難性がある。具体的には,「やかんを見ていて」と言われても表面的にしか理解できず,沸騰するやかんをただ見守っている。また,会話の際に相手の反応を読み取れず,自分の話したいことを一方的に話し続けてしまうことがある。 ウ就労状況について原告は,高等学校を卒業後,会計事務所(以下「本件事務所」という。)に障害者雇用枠で採用され,埼玉県α市が運営する障害者就労支援センター(以下「就労支援センター」という。)の支援も受けながら就労を続けている。 原告の業務内容は,花への水やり,お茶出し,印刷,印鑑の押捺,アンケートの郵送,コピー用紙の補充等の雑用及びパソコンでのデータ入力作業等の定型的で誰にでもできるものであり,判断を要する業務については行わない。また,原告に可能な業務の量が少ないため,入社以来一貫して業務量も増えていない。 原告は,他の従業員との意思疎通が困難である上,人間関係に対する不 - 10 -安の増強と眠気による業務への支障が生じている。 具体的な業務に当たっては,本件事務所の担当者が都度,必要な指示を出しているが,原告はメモを取ることができないため,毎回,具体的な説明を要する。原告と の増強と眠気による業務への支障が生じている。 具体的な業務に当たっては,本件事務所の担当者が都度,必要な指示を出しているが,原告はメモを取ることができないため,毎回,具体的な説明を要する。原告とのコミュニケーションには多くのノウハウが必要であり,原告に対して指示をするに当たっては,担当者は,本人に通じる言葉 を選ぶ,ファイルの名前で分からない場合には色で指示する,本人の数えやすい形で切手を整理するなどの様々な工夫をしており,また,担当者は,原告が他の従業員と会話をする際には通訳のように会話を補助している。 原告は,本件事務所への就職後,現在に至るまで,5年以上という長期間にわたって,就労支援センターによる職場訪問等の支援を受けている。 エ小括以上によれば,原告は,日常生活状況と就労状況のいずれの側面からみても,常時周囲の手厚い支援を要しており,仮に,支援を得られなければ健康な日常生活を送ること及び就労の継続は不可能であり,等級判定ガイドラインにおける「障害等級の目安」(2級)と異なる判断をする合理的 かつ明確な理由は何も存しない。 したがって,原告が,20歳到達日及び裁定請求日において,本件傷病により障害等級2級に該当する程度の障害の状態にあったことは明らかである。 (被告の主張の要旨) ア障害基礎年金は,被保険者である国民が,障害により日常生活に支障を来し,あるいは,日常生活に著しい制限を受けている場合に,その生活を保障することを目的とした制度であるから,同制度により保障すべき障害の程度は,日常生活に受ける制限の程度を基準として判断されることとなる。そして,精神の障害のうち知的障害や発達障害における障害等級2級 に相当する障害の状態の認定に当たっては,身体的機能及び精神的機能を - に受ける制限の程度を基準として判断されることとなる。そして,精神の障害のうち知的障害や発達障害における障害等級2級 に相当する障害の状態の認定に当たっては,身体的機能及び精神的機能を - 11 -考慮の上,社会的な適応性の程度によって,日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものに該当するか否かが判断されている。 イ原告の障害の状態は,障害等級2級に該当する障害の状態にあるとは認められないこと 原告の知的障害は軽度と判定されていること本件各診断書によれば,原告の知的障害は軽度と判定されており,原告の知能指数については,「田中ビネー IQ57」と軽度知的障害に該当する数値であり,有用な職業的技術を習得できる状態であって,適切な環境の下では社会的,職業的自立は可能であるとされている。 原告は日常生活に必要な活動が相当程度できることa 平成30年1月31日付け病歴・就労状況等申立書(甲8。以下「病歴等申立書」という。)によれば,20歳到達日頃及び裁定請求日頃の原告の日常生活状況は,トイレについては「1(自発的にできた)」,着替え,入浴,散歩及び買い物については「2(自発的にできたが援 助が必要であった)」,洗面,食事,炊事,洗濯及び掃除については,「3(自発的にできないが援助があればできた)」とされており,原告母もこれに沿う陳述ないし証言をしている。 b しかし,そもそも原告母は,本件訴訟の帰すうに関して極めて強い利害関係を有する準当事者的な立場にあることから,原告の日常生活 能力の認定に当たり,その陳述等のみを過度に重視すべきではない。 また,この点をおくとしても,以下のとおり,原告が自発的にできる日常生活動作は少なくない。 ⒜ 「適切な から,原告の日常生活 能力の認定に当たり,その陳述等のみを過度に重視すべきではない。 また,この点をおくとしても,以下のとおり,原告が自発的にできる日常生活動作は少なくない。 ⒜ 「適切な食事」に関し,原告母の陳述等によれば,原告は,栄養バランスの取れた食事をするには家族等の助言や配慮を要するとし ても,食事自体については,自らが食べたいときに食べることがで - 12 -き,インスタント食品にお湯を入れることや電子レンジを使用することなどの簡単な料理であればある程度自発的に行うことができる状態にあると認められる。 ⒝ 「身体の清潔保持」に関し,原告母の陳述等によれば,原告は,家族等による注意を経た上であったり,生活習慣として時にいい加 減ないし不十分であったりする改善点はあるものの,少なくとも,着替え,洗顔,入浴,歯磨きといった基本的な日常生活における清潔保持を自分で行うことができているものと認められる。 ⒞ 「金銭管理と買い物」に関し,原告母の陳述等によれば,原告は,買い物を行うこと自体はできており,また,家族等の具体的な指示 や準備等があれば必要な買い物や切符の購入もすることができ,小遣いについても大きな散財や浪費をすることなく,おおむね計画的に使うことができているものと認められる。 ⒟ 「通院と服薬」に関し,原告母の証言によれば,原告は,一人で公共交通機関を利用して通院することができており,カウンセリン グにおいては医師とのコミュニケーションにも問題がないものと認められる。 ⒠ 「他人との意思伝達および対人関係」に関し,原告が利用している就労支援センターの担当者が作成した支援記録等によれば,原告は,主に仕事に関係する事項や関心がある事柄については,意思疎 通がある程度可能であると 達および対人関係」に関し,原告が利用している就労支援センターの担当者が作成した支援記録等によれば,原告は,主に仕事に関係する事項や関心がある事柄については,意思疎 通がある程度可能であると考えられる。 ⒡ 「身辺の安全保持及び危機対応」に関し,原告母の陳述等によれば,原告は,必ずしも十分とはいえないまでも,日常的な意思疎通が可能であり,自身の安全保持や危機対応をある程度行うことができているものと認められる。 c 以上からすると,原告は,基本的な日常生活動作について制限を受 - 13 -け,家族等の援助を要するとされる点も少なくないものの,自発的にできることも多くあり,また,その活動範囲は家庭内にとどまるものではないことが認められる。 原告は一定の就労を継続していることa 原告は,就労支援センターを利用し,障害者雇用枠ではあるものの, 高等学校卒業と同時の平成▲年▲月に本件事務所に就職し,以後現在まで本件事務所で就労し,月々の給与収入を得ている。 b 原告は,月に20日程度,約45分かけて,一人で電車を乗り継いで通勤することができている。 原告は,最初に練習をして乗車すべき電車を覚えた後は,電車の乗 り間違いにより家族に連絡するなどの出来事はあったものの,おおむね職場まで一人で通勤できており,就労支援センターの担当者も,本件事務所から原告の遅刻,早退及び無断欠勤に関する報告は受けていない。 平成▲年▲月下旬には本件事務所の移転により職場が変わったが, 原告は特に問題なく移転先の職場への通勤を継続できている。 c 原告は,本件事務所において,就業時間は9時から16時まで(休憩を除き6時間)とされ,書類や原始資料からの簿記等のデータをパソコンで入力する作業のほか,顧客の決算書類のファイリン できている。 c 原告は,本件事務所において,就業時間は9時から16時まで(休憩を除き6時間)とされ,書類や原始資料からの簿記等のデータをパソコンで入力する作業のほか,顧客の決算書類のファイリング,毎月のグループ会議への参加と同会議での業務日報を基にした業務の振り 返り,花への水やり,来客へのお茶出し,印刷,印鑑の押捺,アンケートの郵送,コピー用紙への補充等といった事務作業ないし事務労働中心の業務に従事している。 d 原告の日常業務の具体的な処理状況をみても,原告は,業務指示を口頭又は指示書で受け,指示を受けても仕事内容が分からない場合は 上司に確認し,又は時間がかかるが自分で考えて指示を理解するなど - 14 -の対処ができている上に,入力ミスの指摘を受けることはあるものの回数や頻度は多くなく,郵送作業や押印等のミスの指摘も受けたことがない。 e 以上によれば,原告は,障害者雇用枠での雇用であり,また,上司や先輩,同僚等のフォローといった周囲の理解や協力があることが前 提であるとしても,一定の労働を行う能力を有しているものと認められ,このことは,原告が日常生活能力という点においても相応の能力を有していることを示すものである。 小括以上のような原告の日常生活及び就労の状況からすれば,原告の本件 傷病の状態は,20歳到達日及び裁定請求日のいずれの時点においても,障害認定基準の認定要領が示す障害等級2級の程度には及ばず,障害等級2級には該当しない。 争点3(本件義務付けの訴えの適法性及び義務付けの可否)について(原告の主張の要旨) 前記及びの各(原告の主張の要旨)のとおり,本件処分は違法であるから,取り消されるべきである。 その他,原告は,20歳到達日を受給権の発生日とする国 について(原告の主張の要旨) 前記及びの各(原告の主張の要旨)のとおり,本件処分は違法であるから,取り消されるべきである。 その他,原告は,20歳到達日を受給権の発生日とする国年法30条の4第1項による障害基礎年金の受給要件をいずれも満たしていることが明らかであるから,厚生労働大臣は,原告に対し,20歳到達日を受給権の発生 日とする障害等級2級相当の障害基礎年金を支給する旨の裁定をしなければならない。 (被告の主張の要旨)前記及びの各(被告の主張の要旨)のとおり,本件処分は適法であり,その取消しを求める原告の主張には理由がないから,本件義務付けの訴えは, 行政事件訴訟法37条の3第1項2号の要件を欠き,不適法である。 - 15 -第3 当裁判所の判断 1 争点1(本件処分に行政手続法8条1項本文所定の理由の提示不備の違法があるか)について行政手続法8条1項本文が,申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合には,申請者に対し,同時に,当該処分の理由を示さなければ ならないとしているのは,申請者に許認可等の法令上の利益を付与しないという申請拒否処分の性質に鑑み,行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,処分の理由を申請者に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものと解される。そして,同項本文に基づいてどの程度の理由を提示すべきかは,上記のような同項本文の趣旨に照らし,当該 申請及び処分の根拠法令の規定内容,当該申請に係る審査基準の存否及び内容並びに公表の有無,当該申請及び処分の性質及び内容,当該申請及び処分の原因となる事実関係の内容等を総合考慮してこれを決定すべきである(最高裁判所平成23年6月7日第三小法廷判決・民集65巻4号2081 びに公表の有無,当該申請及び処分の性質及び内容,当該申請及び処分の原因となる事実関係の内容等を総合考慮してこれを決定すべきである(最高裁判所平成23年6月7日第三小法廷判決・民集65巻4号2081頁参照)。 この見地に立って,本件処分についてみると,障害等級については,国年法30条2項が,これを障害の程度に応じて重度のものから1級及び2級とし,各級の障害の状態は政令で定めるものとし,これを受けた国年令は,障害等級の各級の障害の状態につき,別表において具体的に定めているところ,障害等級に該当する程度の障害の状態にあることの認定に関する審査基準と して,障害認定基準が厚生労働省において定められ,公表されている。 障害認定基準においては,精神の障害の程度は,「その原因,諸症状,治療及びその病状の経過,具体的な日常生活状況等により,総合的に認定する」ものとされており,その判断の過程を定量的・定性的に逐一説明することが困難な場合もあり得るというべきであるが,障害認定基準においては,上記 のような困難性を補うために,精神の障害を「統合失調症,統合失調症型障 - 16 -害及び妄想性障害」,「気分(感情)障害」,「症状性を含む器質性精神障害」,「てんかん」,「知的障害」,及び「発達障害」の6つに区分した上で,当該区分ごとに障害等級に該当する程度の障害の状態が一部例示されている。 前提事実のとおり,本件処分の通知書には,障害基礎年金を支給しない理由として,「請求のあった傷病(広汎性発達障害)について,20歳に達し た日である平成▲年▲月▲日現在の障害の状態は,障害年金1級又は2級の対象となる障害(国民年金法施行令別表に規定)に該当しません。また,請求日である平成30年2月1日現在の障害の状態も,障害年金1級又は2級 る平成▲年▲月▲日現在の障害の状態は,障害年金1級又は2級の対象となる障害(国民年金法施行令別表に規定)に該当しません。また,請求日である平成30年2月1日現在の障害の状態も,障害年金1級又は2級の対象となる障害に該当しません。」との記載があり,本件処分が,20歳到達日及び裁定請求日における原告の障害の状態が国年令別表に定める障害等 級1級又は2級の障害の程度に該当しないという判断をしたものであることは明示されている。また,原告が本件裁定請求に当たって厚生労働大臣に提出した本件各診断書には,障害の原因となった傷病名の記載として「広汎性発達障害」との記載があり(甲1の1,2),本件処分の通知書においても,本件処分が広汎性発達障害による障害の程度を判断したものであることが明 示されているのであるから,上記の記載を見れば,原告において,本件処分が,障害認定基準のうちの「精神の障害」に係る認定基準及びそのうちの少なくとも「発達障害」に係る認定要領を当てはめて判断されたものであることを知り得るものというべきである。 そして,上記のとおり,障害認定基準においては,障害等級に該当する程 度の発達障害等の状態を一部例示するなどの工夫がされており,これらと照らし合わせることによって,原告において,ある程度当てはめの過程をつかむことができるものと解されることからすれば,上記の程度の本件処分の通知書の記載によっても,前記のような理由提示の要請にはひとまず応えているものと解するのが相当である。 したがって,本件処分の通知書における理由の提示が,行政手続法8条1 - 17 -項本文に違反したものであるとは認められない。 2 争点2(原告が,20歳到達日及び裁定請求日において,本件傷病により障害等級2級に該当する程度の障害の の提示が,行政手続法8条1 - 17 -項本文に違反したものであるとは認められない。 2 争点2(原告が,20歳到達日及び裁定請求日において,本件傷病により障害等級2級に該当する程度の障害の状態にあったか)について本件傷病による障害の程度の認定方法についてア前記1のとおり,国年法は,障害等級については,障害の程度に応じ て重度のものから1級及び2級とし,各級の障害の状態は,政令で定めるものとし(30条2項),これを受けた国年令は,障害等級の各級の障害の状態につき,別表において具体的に定め,国年令別表に規定する障害の程度の認定の基準として,障害認定基準が定められている。 障害認定基準は,障害認定に当たっての基本的事項を定めるほか,各種 の障害ごとに,障害認定に当たっての基準を定めているところ,精神の障害については,「その原因,諸症状,治療及びその病状の経過,具体的な日常生活状況等により,総合的に認定する」ものとした上で,「日常生活が著しい制限を受けるか又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの」を2級に該当するものとしている。また,障害認定基準 は,精神の障害を特性の異なる6つの障害に区分しているところ,そのうち「知的障害」については,「知的障害があり,食事や身のまわりのことなどの基本的な行為を行うのに援助が必要であって,かつ,会話による意思の疎通が簡単なものに限られるため,日常生活にあたって援助が必要なもの」を,「発達障害」については,「社会性やコミュニケーション能力 が乏しく,かつ,不適応な行動がみられるため,日常生活への適応にあたって援助が必要なもの」をそれぞれ2級に相当すると認められる障害の状態の例示として掲げている。 イ上記のような障害認定基準は,行政規則であり, ,不適応な行動がみられるため,日常生活への適応にあたって援助が必要なもの」をそれぞれ2級に相当すると認められる障害の状態の例示として掲げている。 イ上記のような障害認定基準は,行政規則であり,法的拘束力はないものの,医学的知見を総合して定められたものであり,最新の知見を踏まえた 改訂もされていること(公知の事実)からすると,その内容は合理的なも - 18 -のであると認めることができ,また,障害基礎年金の支給の公平を確保するためには,障害の程度の認定が,医学的知見を踏まえた一定の合理的基準に従って運用される必要があることを考慮すると,障害基礎年金の支給要件である障害の程度の具体的な認定は,特段の事情がない限り,障害認定基準に従って行うのが相当である。 そして,その際には,障害認定基準が定めるとおり,就労をしている者であっても,援助や配慮のもとで労働に従事していることを踏まえ,労働に従事していることをもって,直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず,その療養状況を考慮するとともに,仕事の種類,内容,就労状況,仕事場で受けている援助の内容,他の従業員との意思疎通の状況等を十分確 認したうえで日常生活能力を判断すべきである。また,障害認定基準に基づく精神の障害の程度の認定については,等級判定ガイドラインが,精神障害及び知的障害の認定に地域差による不公平が生じないようにするため,障害等級の判定時に用いる目安や考慮すべき事項の例等を示し,これにより,当該認定が障害認定基準に基づき適正に行われるよう改善を図る ことを目的として,厚生労働省により策定されたものであること(甲9,乙5)からすると,本件においても,障害認定基準に基づく前記の障害の程度の認定をするに当たっては,等級判定ガイドラインの記載を参照するが相 的として,厚生労働省により策定されたものであること(甲9,乙5)からすると,本件においても,障害認定基準に基づく前記の障害の程度の認定をするに当たっては,等級判定ガイドラインの記載を参照するが相当であるというべきである。 ウなお,原告は,障害認定基準は,「第2 障害認定に当たっての基本的 事項」の「1 障害の程度」において,障害等級2級に該当する障害の状態の基本として,「労働により収入を得ることができない程度」のものであるとし,「例えば,」以下で活動範囲の例示として「おおむね家屋内に限られる」旨規定しており,実際に就労している場合や屋外での活動を行っている場合の2級の可能性を否定しているようにみえるとして,その内 容自体が合理性を欠くものである旨主張する。 - 19 -しかし,上記各記載は,文字どおり,2級に該当する障害の状態の「程度」を表し,あるいは障害の状態の一部を例示したものにすぎず,当該記載があることにより,実際に就労している場合や屋外での活動を行っている場合の2級の可能性が必ずしも否定されるわけではないと解されるから,障害認定基準の上記記載部分が合理性を欠く旨の原告の主張には理由 がない。 認定事実前提事実,後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。 ア本件各診断書の記載内容 平成β年現症診断書には,原告の平成▲年▲月▲日の現症について,次のとおり記載されている(甲1の1)。 a 「障害の原因となった傷病名」として,「広汎性発達障害」,既存障害として,「知的障害(軽度)」,「不安障害」と記載されている。 b 「障害の状態」として,「Ⅶ 知能障害等」の「1 知的障害」の うちの「ア軽度」に,「Ⅷ 発達障害関連症状」のうちの「1 相互的な社 知的障害(軽度)」,「不安障害」と記載されている。 b 「障害の状態」として,「Ⅶ 知能障害等」の「1 知的障害」の うちの「ア軽度」に,「Ⅷ 発達障害関連症状」のうちの「1 相互的な社会関係の質的障害」,「2 言語コミュニケーションの障害」及び「3 限定した常同的で反復的な関心と行動」にそれぞれ○が付されている。また,「Ⅺ その他」として,「不安」と記載されている。 c 前記bの状態についての「程度・症状・処方薬等」として,「療育手帳C判定」,「他者の気もちを想像することが容易でなく,不安への対処方法のレパートリーも少なく,ある考え方に固執する」,「戦争などのニュースの内容が現実におきると考えて不安,不眠,食欲減退がみられる。レクサプロ内服中」と記載されている。 d 「日常生活状況」の「全般的状況」として,「家族とは会話はしや - 20 -すいが,伝えたいことを適切に伝えられず,相手が具体的に質問し,それに答える形でやりとりする」と記載されている。 e 「日常生活能力の判定」として,「適切な食事」及び「身辺の清潔保持」は,いずれも「自発的かつ適正に行うことはできないが助言や指導があればできる」に,「金銭管理と買い物」,「通院と服薬」, 「他人との意思伝達及び対人関係」,「身辺の安全保持及び危機対応」及び「社会性」は,いずれも「助言や指導があればできる」に✓が付されている。 f 「日常生活能力の程度」として,「精神障害を認め,日常生活における身のまわりのことも,多くの援助が必要である。」に○が付 されている。 g 「現症時の就労状況」の「仕事場での援助の状況や意思疎通の状況」として,「援助:勤務時間の短縮。具体的な指示をもらう。会議内容により欠席を認める。新聞(本人が不安に感じる) されている。 g 「現症時の就労状況」の「仕事場での援助の状況や意思疎通の状況」として,「援助:勤務時間の短縮。具体的な指示をもらう。会議内容により欠席を認める。新聞(本人が不安に感じる)を目にしない環境。 定期的な就労支援センターの訪問」,「意思疎通:会話は少ないが必 要最小限のやりとりをする」と記載されている。 h 「臨床検査」として,「田中ビネー(H▲.▲.▲実施)IQ57」と記載されている。 ⅰ 「現症時の日常生活活動能力及び労働能力」として,「慣れた活動であれば日常生活活動は送ることができるが,自力での食事の準備, 入浴の準備を行うことは難しく,家族の支援が頻繁に必要。変化が苦手で,不注意症状もあるため労働の内容を制限しなければ仕事は難しい。体調の変化を周囲が配慮しながら,仕事をしている。仕事が十分にできないため,通院を優先している。」と記載されている。 j 「予後」として,「心理的ストレスから,頭痛,呕気,不眠などの 身体症状があらわれやすく薬物療法を要しており,一般の就職は対人 - 21 -社会スキルの未熟さのため困難。今後も配慮が得られる環境で仕事をする必要があり,病院の通院継続も必要。仕事に集中できない状態は続いており,就労時間の短縮が必要」と記載されている。 平成30年現症診断書には,原告の平成30年1月5日の現症について,おおむね,前記の平成β年現症診断書の記載と同旨の記載がある (甲1の2)。 本件各診断書に記載された原告の症状に基づき,「日常生活能力の判定」の平均点数を算出すると3点となる。そして,等級判定ガイドラインによれば,「日常生活能力の判定」の平均点数が3点で,かつ,「日常生活能力の程度」が「精神障害を認め,日常生活における身 のまわりのことも 出すると3点となる。そして,等級判定ガイドラインによれば,「日常生活能力の判定」の平均点数が3点で,かつ,「日常生活能力の程度」が「精神障害を認め,日常生活における身 のまわりのことも,多くの援助が必要である。」に該当する場合,障害等級の目安は2級であるとされる。(乙5)イ病歴等申立書の記載内容原告が本件裁定請求に当たり提出した病歴等申立書には,原告の20歳到達日頃及び裁定請求日頃の就労・日常生活状況について,次のとお り記載されている(甲8)。 20歳到達日頃の状況a 就労状況のうち職種(仕事内容)は「簡単なパソコン入力。ファイル整理。コピー取り。」,通勤方法は「電車」,通勤時間(片道)は「45分」,仕事中や仕事が終わった時の調子は「人の話を聞くこと が苦手で,疲労感と眠気で,仕事中も少しでも時間が空くと伏せてしまう。家に帰るとまず仮眠する。」と記載されている。 b 日常生活状況のうち日常生活の制限として,トイレは「1」(自発的にできた)に,着替え,入浴,散歩及び買い物はいずれも「2」(自発的にできたが援助が必要だった)に,洗面,食事,炊事,洗濯 及び掃除はいずれも「3」(自発的にできないが援助があればでき - 22 -た)に□が付されている。 裁定請求日頃の状況就労状況及び日常生活状況として,おおむね,前記の記載と同旨の記載がある。 ウ原告の経歴,治療歴等(甲8,24,原告母) 原告は,平成▲年頃に3歳児健診を受けた際,言葉の遅れの指摘を受け,小学校入学後は,友達とのコミュニケーションがうまくできないことでからかわれるようになり,いじめを受けるようになった。 原告は,小学校4年生頃から,音声チック症状がみられるようになり,「あ」と言い続けたり,「死ね」と のコミュニケーションがうまくできないことでからかわれるようになり,いじめを受けるようになった。 原告は,小学校4年生頃から,音声チック症状がみられるようになり,「あ」と言い続けたり,「死ね」と無意識に発言して,頭や壁を叩いた りするようになったことから,平成▲年▲月▲日,Aセンターを受診し,アスペルガー症候群である旨の診断を受けた。 原告は,小学校は普通学級に所属していたが,中学校では特別支援学級に所属した。ただし,中学校では,数学及び理科については,特別支援学級の先生に付き添われて普通学級の授業を受けていた。その後,原 告は,埼玉県内の特別支援学校に進学し,平成▲年に同特別支援学校を卒業後,同年4月に本件事務所に障害者雇用枠で就職した。 原告は,診察のために2,3か月に1回,カウンセリングのために月に1,2回の頻度でAセンターに通院しているほか,現在は,不安症状,不眠等の改善のための薬の処方を受けている。 エ原告の日常生活状況証拠(甲1の1,2,甲8,24,原告母)によれば,原告の日常生活状況について,以下の事実が認められる。 食事について原告は,お湯を沸かしてインスタントラーメンを作る,電子レンジで 出来合いの物を温めるといった程度のことはできるが,ご飯を炊く,み - 23 -そ汁を作るといった一般的な調理はできず,自宅での食事は基本的に家族が準備したものを食べている。他方,原告は,仕事がある日には,コンビニエンスストアで購入したものを職場で食べたり,ラーメン屋に行って食事をとったりしている。 原告は,量や栄養バランスなどを考えて適切に食事をとることができ ず,自宅で食事をする際には家族が栄養を考えてバランスよく食べるよう指導しているが,それでも偏食があり,また,食べるタ ている。 原告は,量や栄養バランスなどを考えて適切に食事をとることができ ず,自宅で食事をする際には家族が栄養を考えてバランスよく食べるよう指導しているが,それでも偏食があり,また,食べるタイミングについても,家族が食事を準備して原告に声を掛けてもなかなか食事の席に着かないことがある。 身支度,身体の清潔保持について 原告は,平日は仕事に行くため,毎朝7時半頃までに起床する必要があるが,適切な時間にアラームをかけることができず,毎朝4時50分から30分ごとにアラームを鳴らしているが,それでも起床できずに仕事を休むことがある。 原告は,家族が用意したり,家族から指示を受けたりした衣服に着替 えることはできるが,季節や気温,目的に合った衣服を自発的に選んで着替えることはできない。また,自宅では,一年を通して上半身は裸,下半身は下着一枚のみを着用して過ごすなど,冷暖に関する感覚が鈍い。 原告は,自室の床に掃除機をかけることはできるが,自らの判断で身の周りを整理整頓したり,不用品を処分したりすることはできず,部屋 に物が積み上がっていく状態である。 原告は,入浴すること自体は自分ですることができる。もっとも,体に水滴が付いていないことに対するこだわりが強く,風呂上がりにタオルで体を拭くだけで5分くらいの時間がかかる。 原告は,歯磨きや整髪等の身だしなみを整えることは,家族の指示が あれば自分ですることができる。 - 24 -外出について原告は,初めての場所に行くときには家族の付き添いを要する一方,行き慣れた場所であれば一人で行くことができる。 原告は,自宅から本件事務所までは,家族と10回くらい練習した結果,現在は一人で電車を乗り継いで通勤しており,通勤時に乗車すべき 電車を間違っ 行き慣れた場所であれば一人で行くことができる。 原告は,自宅から本件事務所までは,家族と10回くらい練習した結果,現在は一人で電車を乗り継いで通勤しており,通勤時に乗車すべき 電車を間違って乗車してしまうことがあるものの,その場合には,家族に電話して,乗車すべき電車についての指示を受けている。 金銭管理と買い物について原告は,コンビニエンスストアやスーパーマーケットでお菓子やジュース等その時に欲しいものを購入することはできる。衣服や日用品等で 生活に必要なものを自ら判断して購入することはできず,家族が指示した物を購入する場合であっても,品名だけでなく,色やサイズ等の詳細な情報を伝えたり,購入すべき物の写真を撮影して見せたりしなければ,購入すべき物の対象を正しく理解して買い物をすることはできない。 原告名義の預金等の管理は,原告母が行っており,原告は,原告母か ら月々,決まった額のお小遣いと昼食代をもらっている。 通院と服薬について原告は,カウンセリングについては,一人で通院しているものの,診察については,以前,医師に自分の症状をうまく伝えることができず,薬の処方を受けることができなかったことがあったことから,それ以降 は原告母が同行して,原告の症状を説明している。 原告は,不安症状,不眠等の改善のための薬の処方を受けているところ,自分が服用すべき薬を所定の時間に服用することができないため,原告母がいつどの薬を服用するかを管理している。 他人との意思伝達及び対人関係について 原告は,家族との間であれば,具体的な質問に対して答えることは可 - 25 -能であるが,抽象的な質問に対して返答することは困難であり,また,例えば,「火にかけているやかんを見ておいて。」と言う場合のように言外 であれば,具体的な質問に対して答えることは可 - 25 -能であるが,抽象的な質問に対して返答することは困難であり,また,例えば,「火にかけているやかんを見ておいて。」と言う場合のように言外の内容(上記の例の場合には,やかんの中のお湯が沸騰したら火を消してほしいという内容)が含まれている場合には,その言外の内容は原告には伝わらず,原告は,言葉どおり,やかんをずっと見続けている。 また,メールで質問をしただけでは返事は返ってこず,返事を必要としていることをその都度伝えないと,返事は返ってこない。 原告は,幼少期から友人関係を構築することが全くできておらず,現在まで友人はいない。 オ原告の就労状況 証拠(甲1の1,2,甲10,25,27,証人C)によれば,原告の就労状況について,以下の事実が認められる。 原告は,特別支援学校を卒業後,平成▲年▲月に本件事務所に障害者雇用枠で就職し,その後,現在に至るまで本件事務所での就労を継続している。原告は,週5日,午前9時から午後4時まで,休憩時間を挟ん で1日6時間勤務し,20歳到達日及び裁定請求日当時は,1か月に8万円ないし9万円の収入を得ていた。 原告の業務内容は,主にパソコンでのデータ入力のほか,決算書類のファイリング,花への水やり,来客へのお茶出し,印刷,印鑑の押捺,書類の発送,コピー用紙の補充等の事務作業である。パソコンでのデー タ入力は,誰にでもできるような定型的な作業であり,判断を要する作業については行っていない。本件事務所では,原告に任せる業務の切り出しに苦労しており,業務量を増やすことができず,原告の賃金は最低賃金のまま推移している。 原告は,業務に関する指示事項や注意事項をメモに取って記録するこ とができず,一度受けた指示や注 出しに苦労しており,業務量を増やすことができず,原告の賃金は最低賃金のまま推移している。 原告は,業務に関する指示事項や注意事項をメモに取って記録するこ とができず,一度受けた指示や注意を覚えておくことも苦手であるため, - 26 -具体的な業務に当たっては,その都度,指示をする必要がある。原告に対して指示を出す者が複数人になると原告が混乱するため,本件事務所では,原告に指示をする担当者を一人に固定し,その担当者が障害特性を理解するための研修に参加するなどして,原告に対応している。 原告に指示をするに当たっては,あいまいなことが分からず,空気を 読むことや臨機応変な対応もできないため,本人が理解できる言葉や表現を使うなどの工夫をしなければ伝わらないことが多い。例えば,本件事務所の担当者から「これやっておいて。」と仕事の指示をしたところ,「できました。」と言ってきたのが,1年後だったということがあり,いつまでにやるかを明確に指示しないと,適切な期限を自分で判断する ことができない。 原告は,本件事務所の同僚との会話において,自分の興味のある話題の話を一方的にしてしまうことがあるほか,会話の内容を勘違いしたり話題とずれた発言をすることなどがあり,それらの発言により周囲の人間を困惑させたり,誤解を与えることがある。 原告は,本件事務所に入所して間もなく,会議で戦争の話が出たことをきっかけとして,以後,戦争のことを見たり聞いたりすると「自分も戦争に行かなければいけないんだ」と考えて不安,不眠,食欲減退が生じるようになり,本件事務所では,原告が会議等に参加する機会を減らすなどの対応をとっている。 原告は,本件事務所への就職当初から,就労支援センターの就労支援を受けており,就労支援センターの るようになり,本件事務所では,原告が会議等に参加する機会を減らすなどの対応をとっている。 原告は,本件事務所への就職当初から,就労支援センターの就労支援を受けており,就労支援センターの担当者は,平成▲年は月に1回の頻度,平成▲年▲月以降は2,3か月に1回の頻度で,本件事務所を訪問して,本件事務所の担当者等と面談するなどの支援を継続して実施している。このように支援が長期間にわたり継続しているのは,コミュニケ ーションがとれない,指示が通らない,眠気をもよおすなどの問題点が - 27 -なかなか解消されず,本件事務所からの支援要請が依然強いためである。 本件事務所から就労支援センターに対して,原告の遅刻,早退及び無断欠勤に関する指摘がされたことはない。 事実認定についての補足説明前記エに関し,被告は,原告母は,本件訴訟の帰すうに関して極めて強 い利害関係を有する準当事者的な立場にあることから,原告の日常生活能力の認定に当たり,その陳述等のみを過度に重視すべきではない旨主張するため,原告母の供述等の信用性について検討すると,証拠(甲24,原告母)及び弁論の全趣旨によれば,原告母は,原告の母親として日常生活全般の支援をしていた者であり,20歳到達日及び裁定請求日前後の原告の様子につ いて詳細に供述等をしているところ,その内容は,本件各診断書(本件各診断書の記載の信用性については,被告においても特に争っていない。)の記載内容及び前記オの原告の就労状況からうかがわれる原告の日常生活状況等との間で矛盾があるとは解されず,時期に関する記憶の混乱等も見受けられない。これらの事情を総合すると,原告母の供述等の内容は,原告母が原 告の母親であるという準当事者的な立場にあることを斟酌してもなお,おおむね信 解されず,時期に関する記憶の混乱等も見受けられない。これらの事情を総合すると,原告母の供述等の内容は,原告母が原 告の母親であるという準当事者的な立場にあることを斟酌してもなお,おおむね信用することができるというべきである。 検討前記アのとおり,本件各診断書に記載された「日常生活能力の程度」の評価及び「日常生活能力の判定」の評価の平均の組合せによって示される 原告の障害等級の目安は,2級となる。 この点に関し,原告は,原告が置かれている状況や受けている援助,日常的な不適応行動やそれによるトラブル,労働の実態や制限等を細やかに検討して,総合評価を行えば,原告が,20歳到達日及び裁定請求日において,障害等級2級に該当する程度の障害の状態にあったことは明らかである旨 主張するのに対し,被告は,原告が自発的にできる日常生活動作は少なくな - 28 -く,その活動範囲は家庭内にとどまるものではない上,一定の労働を行う能力を有しているものと認められることからすれば,原告の本件傷病の状態は,20歳到達日及び裁定請求日のいずれの時点においても,障害等級2級の程度には及ばない旨主張する。 そこで,以下,前記の認定事実等を踏まえて,原告の日常生活能力等を 検討する。 ア知的障害本件各診断書において,原告は,既存障害として「知的障害(軽度)」があるとされ,20歳到達日及び裁定請求日現在の病状又は状態像として,知的障害の程度は「軽度」と判定されており,また,原告の知能指数は「5 7」とされている(前記ア,)。これらによれば,原告の知的障害の程度は軽度であると認められる。 イ日常生活の状況食事摂取については,原告は,簡単な食事の準備をすることや食事を外食等で済ますことはでき,また,用意 ,)。これらによれば,原告の知的障害の程度は軽度であると認められる。 イ日常生活の状況食事摂取については,原告は,簡単な食事の準備をすることや食事を外食等で済ますことはでき,また,用意された食事をとること自体はで きるものの,一般的な調理はできず,自宅での食事は基本的に家族が準備したものを食べている(前記エ)。また,原告は,量や栄養バランスなどを考えて適切に食事をとることができず,家族の指導によっても偏食があり,食べるタイミングについても,家族が原告に声を掛けてもなかなか食事の席に着かないことがあるというのであるから(前記 エ),食事を自発的かつ適切に行うことができるとはいえないのであって,援助が必要な状態であったと認められる。 身支度については,原告は,起床に当たって適切な時間にアラームをかけることができず,入浴,衣服の着替え,歯磨き,整髪の行為自体は自らすることができるものの,冷暖に関する感覚が鈍く,季節や気温, 目的に合った衣服を自発的に選んで着替えることはできない上,歯磨き, - 29 -整髪についても家族の指示が必要であったというのであるから(前記エ),助言や指導があればおおむねできる状態であったといえるが,それ以上に自発的かつ適正に行うことはできない状態であったと認められる。 また,身辺の清潔保持については,原告は,自室の床に掃除機をかけ ることはできるものの,自らの判断で整理整頓したり,不用品を処分したりすることはできず,部屋に物が積み上がっていく状態であったというのであるから(前記エ),自発的かつ適正に行うことができる状態であったとまでは認められず,助言や指導が必要な状態であったと認められる。 金銭管理及び買い物については,原告は,自身が食べたいもの ら(前記エ),自発的かつ適正に行うことができる状態であったとまでは認められず,助言や指導が必要な状態であったと認められる。 金銭管理及び買い物については,原告は,自身が食べたいものや欲しいものを購入することはできるが,衣服や日用品等で生活に必要なものを自ら判断して購入することはできず,家族が指示した物を購入する場合であっても,品名だけでなく,色やサイズ等の詳細な情報を伝えたり,購入すべき物の写真を撮影して見せたりしなければ,正しい商品を購入 することはできなかったものである。また,原告は,自身の名義の預金等を管理しておらず,原告母から月々,決まった額の小遣いと昼食代をもらっているのであるから,家賃等の居住費,水道光熱費,食費その他の生活費といった生活に必須となる費用を管理しているわけではない。 (前記エ) 以上によれば,原告は,原告母の具体的かつ詳細な助言や指導の下であれば,一人で買い物が可能であるといえるものの,生活に必須な費用を適切に管理し,生活に必要なものを自ら判断してやりくりを行うことは困難であり,援助が不可欠であったと認められる。 通院については,原告は,診察のための通院時は,医師に自分の症状 をうまく伝えることができないため,原告母が同行して,原告に代わっ - 30 -て症状を説明している(前記エ)。 他方,原告は,カウンセリングのための通院時は,一人で通院しているものの,上記のとおり,原告は,医師に自己の症状をうまく伝えることができないことからすれば,原告がカウンセリングに一人で通院していることをもって,原告がカウンセリングを受けに病院の場所まで行く ことができるという評価を超えて,医師からの質問内容や説明内容を正確に理解しつつカウンセリングを受けることができて 人で通院していることをもって,原告がカウンセリングを受けに病院の場所まで行く ことができるという評価を超えて,医師からの質問内容や説明内容を正確に理解しつつカウンセリングを受けることができていると評価することは相当ではない。 また,服薬については,原告は,薬を服用する行為自体はできるものの,所定の時間に自発的に適切な薬を服用することはできないため,原 告母がいつどの薬を服用するかを管理している(前記エ)。 以上によれば,通院及び服薬に関しては,上記通院の実態を考慮しても,助言や指導があればできる状態にすぎないというべきである。 他人との意思伝達及び対人関係について,原告は,家族や職場の同僚等慣れた者との間であれば,具体的な質問に対して答えたり,自分の話 したいことを話したりすることはできるものの,その場合であっても相手の発言の真意を捉えて行動に反映することや,話題に合わせた会話をすることが困難であり,これまで友人関係を構築することもできていない(前記エ,オ)。本件各診断書において,原告は,他者の気持ちを想像することが容易でなく,不安への対処方法のレパートリーも少 なく,ある考え方に固執する旨の記載があることなども勘案すれば(前記ア,),原告が,広く第三者との間で自律的に適切な意思疎通や対人関係の構築ができるとは認め難い。 身辺の安全保持及び危機管理について,原告は,初めての場所に行くときには家族の付き添いが必要であるものの,勤務先のほか,行き慣れ た場所であれば,電車等の公共交通機関を利用して一人で行くことがで - 31 -き,また,原告は,通勤時に乗車すべき電車を誤ってしまうことはあるものの,その場合には,家族に電話して乗車すべき電車についての指示を受けた上で,その指示に 用して一人で行くことがで - 31 -き,また,原告は,通勤時に乗車すべき電車を誤ってしまうことはあるものの,その場合には,家族に電話して乗車すべき電車についての指示を受けた上で,その指示に従って行動することができることからすれば(前記エ,),助言や指導があればできる状態であったといえる。 社会性について,原告は,前記のとおり,一人で電車等の公共交通 機関を利用することはできるものの,初めての場所に一人で行くことはできず,診察のための通院時にも原告母が付き添っていることや,原告名義の預金等の管理は原告母が行っていることなども考慮すると,社会生活に必要な諸手続を自発的かつ適正に行うことはできず,助言や指導が不可欠な状態であったと認められる。 ウ就労状況前記イ,オのとおり,原告は,本件事務所に障害者雇用枠で就職し,20歳到達日及び裁定請求日当時は,1か月に8万円ないし9万円の収入を得ており,同僚との間で具体的なトラブルを起こすこともなく,おおむね安定的に就労を継続できており,また,その際の通勤についても,最初 に練習をして乗車すべき電車を覚えた後は,電車の乗り間違いにより家族に連絡することもあるものの,片道45分をかけて一人で通勤できている。 しかしながら,前記イのとおり,障害認定基準によれば,就労をしている者であっても,援助や配慮のもとで労働に従事していることを踏まえ,労働に従事していることをもって,直ちに日常生活能力が向上したものと 捉えず,その療養状況を考慮するとともに,仕事の種類,内容,就労状況,仕事場で受けている援助の内容,他の従業員との意思疎通の状況等を十分確認したうえで日常生活能力を判断すべきであるところ,前記オによれば,原告の担当業務は,特段の判断を必要としない定型的な 労状況,仕事場で受けている援助の内容,他の従業員との意思疎通の状況等を十分確認したうえで日常生活能力を判断すべきであるところ,前記オによれば,原告の担当業務は,特段の判断を必要としない定型的な作業又は単純な事務作業に限定されており,業務量も増えていない。また,原告は,業 務に関する指示事項や注意事項をメモに取って記録することができず,一 - 32 -度受けた指示や注意を覚えておくことも苦手であるため,具体的な業務に当たっては,その都度,指示をする必要があり,その上,あいまいなことが分からず,空気を読むことや臨機応変な対応もできないため,本人が理解できる言葉や表現を使うなどの工夫をしなければ伝わらないことが多いとされている。そして,原告は,本件事務所において,原告に指示をす る担当者を一人に固定し,その担当者に障害特性を理解するための研修に参加してもらう,原告が不安に感じる話題が出される可能性がある会議等に参加する機会を減らすなどの支援を受けているほか,就労支援センターからも長期間にわたり継続的な支援を受けている。 これらの事情に鑑みれば,原告は,家族のほか,本件事務所の従業員や 就労支援センターからの手厚い援助や配慮があったために就労を継続できていると評価するのが相当であり,原告の就労に当たっては上記のような援助や配慮が不可欠であったと認められる。 エ原告の日常生活能力等前記アないしウのような原告の生活状況等を総合すると,原告は知的障 害は軽度であり,用意された食事をとること,入浴,衣服の着替え,歯磨き及び整髪の各行為をすること,自室の床に掃除機をかけること,自身が食べたいものや欲しいもの及び具体的かつ詳細な指示を受けた商品を買うことといった判断を要しないような単純かつ定型的な行為であればす き及び整髪の各行為をすること,自室の床に掃除機をかけること,自身が食べたいものや欲しいもの及び具体的かつ詳細な指示を受けた商品を買うことといった判断を要しないような単純かつ定型的な行為であればすることができるものの,例えば,起床に当たって適切な時間にアラームを かけること,季節や気温,目的に合った衣服を自発的に選んで着替えること,量や栄養バランスなどを考えて適切に食事をとること,自らの判断で身の周りを整理整頓したり,不用品を処分したりすること,衣服や日用品等で生活に必要なものを自ら判断して購入することなど判断を要するような行為については,身の回りのことであっても,自発的かつ適正に行う ことができず,これらについては家族の援助や指導等が必要な状況にあっ - 33 -たものといえる。また,原告は,対人交流の困難性等の広汎性発達障害(本件傷病)による障害のため,広く第三者との間で自律的に適切な意思疎通や対人関係の構築をすることのみならず,家族や職場の同僚等慣れた者との間でやりとりをする場合であっても,相手の発言の真意を捉えて行動に反映することや,話題に合わせた会話をすることは困難であったものであ る。 そして,原告は,本件事務所での就労を相当期間継続してきたが,その実態は,本来であれば継続が困難であるところを,周囲の理解や援助,指導等によって継続が可能となったものと評価することができるのであって,原告が本件事務所に就労していたことをもって,日常生活能力が向上 したものと評価することは相当でない。 まとめ以上によれば,20歳到達日及び裁定請求日における原告の障害の状態は,「発達障害があり,社会性やコミュニケーション能力が乏しく,かつ,不適応な行動がみられるため,日常生活への適応にあたって援助が必要なもの よれば,20歳到達日及び裁定請求日における原告の障害の状態は,「発達障害があり,社会性やコミュニケーション能力が乏しく,かつ,不適応な行動がみられるため,日常生活への適応にあたって援助が必要なもの」 に該当するか,又はこれと同等程度のものであり,障害等級2級に該当する程度のものであるというべきである。 したがって,20歳到達日及び裁定請求日における原告の障害の状態が障害等級2級に該当する程度のものではないと判断した本件処分は違法である。 3 争点3(本件義務付けの訴えの適法性及び義務付けの可否)について 本件義務付けの訴えは,厚生労働大臣に対し,本件裁定請求のうち,20歳到達日を受給権の発生日とする障害基礎年金の支給の裁定請求に沿った内容の処分をすることの義務付けを求めるものであり,行政事件訴訟法3条6項2号に定める義務付けの訴えであるところ,前記2において説示したとおり,本件処分は取り消されるべきものであるから,本件義務付けの訴えは,同法37条 の3第1項2号の訴訟要件を満たし,適法であると認められる。 - 34 -そして,既に判示したところに照らせば,原告は,本件傷病により20歳到達日において障害等級2級に該当する程度の障害の状態にあり,国年法30条の4第1項の規定により,20歳到達日を受給権発生日とする障害等級2級の障害基礎年金を支給されるべきといえるから,行政事件訴訟法37条の3第5項に基づき,厚生労働大臣に対し,その旨の裁定をするよう命じることが相当 である。 4 結論以上の次第で,原告の請求は,いずれも理由があるから認容することとし,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第38部 裁判長裁判官 主文 いずれも理由があるから認容することとし,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第38部 裁判長裁判官 鎌野真敬 裁判官 栗原志保 裁判官 佐藤秀海(別紙1,2省略)
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