令和7(ネ)351 損害賠償等請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
令和7年6月18日 大阪高等裁判所 破棄自判 神戸地方裁判所 尼崎支部 令和5(ワ)200
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判決文本文14,685 文字)

令和7年(ネ)第351号損害賠償等請求控訴事件令和7年6月18日大阪高等裁判所第1民事部判決 主文 1 原判決を次のとおり変更する。 2 被控訴人は、控訴人に対し、1600万4726円及びこれに対する令和3年2月6日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 3 控訴人のその余の請求を棄却する。 4 訴訟費用は、第1、2審を通じてこれを2分し、その1を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。 5 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は、控訴人に対し、3527万9753円及びこれに対する令和3年 2月6日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 第2 事案の概要(以下、特記しない限り、略称は、原判決の例により、証拠に枝番のあるものは、全ての枝番を含む。) 1 本件は、控訴人が、被控訴人に対し、ドッグランにおいて被控訴人の占有する犬が控訴人に衝突し(本件事故)、これによって控訴人が傷害を負ったと主張し て、動物占有者責任(民法718条1項本文)に基づき、損害賠償金3527万9753円及びこれに対する令和3年2月6日(本件事故日)から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める事案である(なお、前記第1の2と原判決「事実及び理由」第1は、表現を異にするが、同内容である。)。 原審が控訴人の請求を棄却したところ、控訴人が控訴した。 2 前提事実次のとおり補正するほかは、原判決「事実及び理由」第2の2(以下、補正後のものを「前提事実」という。)に記載のとおりであるから、これを引用する。 ころ、控訴人が控訴した。 2 前提事実次のとおり補正するほかは、原判決「事実及び理由」第2の2(以下、補正後のものを「前提事実」という。)に記載のとおりであるから、これを引用する。 (原判決の補正)原判決2頁5行目の「において、」を「のうち、大型犬が利用するエリア(以下 「本件大ドッグラン」という。)において、控訴人に対し、」に改める。 3 争点及び争点に関する当事者の主張次のとおり補正するほかは、原判決「事実及び理由」第2の3(原判決別紙1を含む。)に記載のとおりであるから、これを引用する。 (原判決の補正) (1) 原判決2頁13行目の末尾を改行の上、「(4) 過失相殺(争点4)」を加える。 (2) 原判決7頁5行目、10行目、22行目及び8頁13行目の各「本件ドッグラン」をいずれも「本件大ドッグラン」に改める。 (3) 原判決7頁17行目の「過失1及び過失2」を「事情1及び事情2」に、19行目の「過失3」を「事情3」にそれぞれ改める。 (4) 原判決7頁21行目を次のとおり改める。 「(1) 次の事情に照らし、被控訴人は相当の注意を払ったとはいえない。」(5) 原判決7頁22行目から23行目にかけての「入場させた過失がある(過失1)。」を「入場させた(事情1)。」に改める。 (6) 原判決7頁25行目から26行目の「措置をとる義務を負っていた。被告に はかかる措置をとらなかった過失がある。(過失2)」を「措置をとるべきところ、被控訴人はかかる措置をとらなかった。(事情2)」に改める。 (7) 原判決8頁1行目の「本件事故の発生地点」の次に「(同地点は本件大ドッグランの中央付近とはいえない。)」を加え、5行目から6行目にかけて かかる措置をとらなかった。(事情2)」に改める。 (7) 原判決8頁1行目の「本件事故の発生地点」の次に「(同地点は本件大ドッグランの中央付近とはいえない。)」を加え、5行目から6行目にかけての「静止しなかった過失がある。(過失3)」を「静止しなかった。(事情3)」に改め る。 (8) 原判決10頁20行目の末尾を改行の上、次のとおり加える。 「4 争点4(過失相殺)について(被控訴人の主張)被控訴人に責任が認められるとしても、控訴人にも過失があるので、過失相殺すべきである。控訴人の過失を基礎付ける具体的事実は、争点1に おいて主張した控訴人に係る事実のとおりである。 (控訴人の主張)否認ないし争う。」第3 当裁判所の判断 1 当裁判所は、原審と異なり、控訴人の請求は、被控訴人に対し、損害賠償金1 600万4726円及びこれに対する令和3年2月6日から支払済みまで年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余を棄却すべきであると判断する。その理由は、以下のとおりである。 2 認定事実次のとおり補正するほかは、原判決「事実及び理由」第3の1(以下、補正後 のものを「認定事実」という。)に記載のとおりであるから、これを引用する。 (原判決の補正)(1) 原判決2頁19行目の「大型犬が利用するエリア」を「本件大ドッグラン(大型犬が利用するエリア)」に改め、21行目の末尾の次に行を改めて次のとおり加える。 「 犬の飼主等は、本件ドッグランのいずれのエリアにも立ち入ることができる。本件大ドッグランのうち、周辺部(フェンスのごく近傍やテーブル、椅子等の造作が設置されている部分) 加える。 「 犬の飼主等は、本件ドッグランのいずれのエリアにも立ち入ることができる。本件大ドッグランのうち、周辺部(フェンスのごく近傍やテーブル、椅子等の造作が設置されている部分)以外の場所では、犬が走り回ることがよくあるが、控訴人及び被控訴人は、いずれもそこに立ち入ることが特に危険であるとの認識を有していない(甲38、原審控訴人本人〔5、6頁〕、原審 被控訴人本人〔14頁〕)。」 (2) 原判決2頁23行目の「本件ドッグランを訪れた。」を「本件ドッグランを訪れ、控訴人犬を連れて本件大ドッグランに立ち入った。」に改める。 (3) 原判決2頁24行目の「本件ドッグランを訪れた。」を「本件ドッグランを訪れ、被控訴人犬を連れて本件大ドッグランに立ち入った。」に改める。 (4) 原判決3頁2行目の末尾の次に行を改めて次のとおり加える。 「 その際、控訴人は、控訴人犬及びこれを追う被控訴人犬が控訴人に向かって走り、控訴人の左下肢に衝突しそうになったため、右によけたことがあった(甲38〔6秒目〕)。この時点の4秒前、被控訴人は、南側のフェンス付近の白い椅子に座り、リードをテーブルに置き、腕を組み、被控訴人犬を注視しており(甲38〔2秒目〕)、被控訴人犬が控訴人の左下肢に衝突しそう になった際、被控訴人犬から少なくとも3m圏内にはいなかった(甲38〔6秒目〕)。 控訴人犬及び被控訴人犬が控訴人の左側を通過した後、別の中型犬が追い掛けっこに合流し(甲38〔8秒目〕)、控訴人犬は再び控訴人の下へ戻ってきた。この際、控訴人は、前傾姿勢で控訴人犬の鼻及び口周辺を撫で(甲3 8〔12秒目〕)、1秒間程度、被控訴人犬及び上記中型犬に背を向けていた。 また、被控訴人犬が、控訴人犬を 人の下へ戻ってきた。この際、控訴人は、前傾姿勢で控訴人犬の鼻及び口周辺を撫で(甲3 8〔12秒目〕)、1秒間程度、被控訴人犬及び上記中型犬に背を向けていた。 また、被控訴人犬が、控訴人犬を時速11km は下らない速度で追い掛けていたこともあった(甲17の2)。 【事実認定の補足】動画(甲17の2、38)によれば、被控訴人犬は、一般人のジョギング よりも速い速度で走り回っていたことが認められる。そして、本件大ドッグランを計測した航空写真(甲14)によれば、本件大ドッグランの外周に沿って引かれた計測線(白線)の1目盛は2mであるところ、被控訴人犬は、動画(甲17の2)の3秒時点において、被控訴人が座っていた白いテーブル及び椅子付近におり、7秒時点においては、南側のフェンスの西側から6 本目の柱(航空写真(甲15の1)にAと記載された地点の柱を0本目とし た場合の、東側に向かって6本目の柱)付近まで走ったことが認められる。 そして、2枚の航空写真(甲14、15の1)を比較すれば、被控訴人犬は、幅13m程度(実際には斜めに走っているため、13m以上の距離と考えられる。)を4秒程度で移動したこととなり、これを時速に換算すると、時速約11.7km となり、現に一般人のジョギングより速かったことが認められ る。」(5) 原判決3頁3行目の「本件ドッグランの中央付近」を「本件大ドッグラン内の原判決別紙2の「原告」という文字が付記された黒丸付近」に改める。 (6) 原判決3頁8行目から9行目にかけての「本件ドッグランを利用していた(」を「本件大ドッグランを利用していた(甲17、38、」に改める。 (7) 原判決3頁9行目の末尾の次に行を改めて次のとおり加える。 「(3) 被控訴人及び被控 ンを利用していた(」を「本件大ドッグランを利用していた(甲17、38、」に改める。 (7) 原判決3頁9行目の末尾の次に行を改めて次のとおり加える。 「(3) 被控訴人及び被控訴人犬についてア被控訴人犬は、ゴールデンレトリバーの雄の室内犬で、本件事故時、生後約11か月で、体高は50cm 前後、体重は約28kgであった。被控訴人犬は、比較的温厚な性格であり、本件事故以前に他の犬とけんか をしたことはなかった。被控訴人犬は、1日2回、1回当たり約1時間、被控訴人と散歩をしていた。(原審被控訴人本人〔1、6~8頁〕)イ被控訴人は、令和2年6月頃(被控訴人犬の生後約3か月頃)から数か月間、週1回の頻度で、犬のしつけ訓練学校に被控訴人犬を連れて行き、基本的なしつけを行った(原審被控訴人本人〔1頁〕)。 被控訴人犬は、落ち着いた状態の際は、被控訴人の「座れ」「伏せ」といった命令に従うことができた(原審被控訴人本人〔9~10頁〕)。 ウ被控訴人は、令和2年秋頃から、被控訴人犬を本件ドックランに連れて行き、本件大ドッグランを利用するようになった。本件事故時の利用は、3、4回目であった。(乙18、原審被控訴人本人〔2頁〕) 被控訴人の認識では、飼主がドッグランにおいて行うべき管理の態様 は、飼い犬の数mから10数mの距離にいて、何かあったらすぐに駆け付けてリードをつないで制御することができるように、いつもリードを手に持ち、犬の挙動を注視するというものであった(原審被控訴人本人〔3頁〕)。 被控訴人は、裸眼視力が0.6程度、矯正視力が1.0で、常に眼鏡 をかけていた(原審被控訴人本人〔8頁〕)。 エ被控 いうものであった(原審被控訴人本人〔3頁〕)。 被控訴人は、裸眼視力が0.6程度、矯正視力が1.0で、常に眼鏡 をかけていた(原審被控訴人本人〔8頁〕)。 エ被控訴人の認識では、犬がドッグランにおいて追い掛けっこをすることは通常の行動であり、本件事故日における被控訴人犬の追い掛けっこについても特に危険性を感じたことはなかった(原審被控訴人本人〔13頁〕)。 (4) 控訴人の受傷及び通院等(甲2〜5、8〜11、乙2~4)控訴人は、本件事故後、左足関節捻挫、左肩関節捻挫、左下腿打撲傷、左肩関節拘縮の診断名で、以下のとおり、通院した(ただし、控訴人は、これに加え、棘上筋損傷と診断されたと主張している。)。 ア a1医院 通院期間令和3年2月8日から同年6月28日まで(実通院日数:6日)医療記録には、「ドッグランで犬の散歩中、右側から大きい犬が当たり、足をすくわれる感じで転倒」と説明した旨、記載されている。 イ b整骨院 通院期間令和3年2月12日から同年4月30日まで(実通院日数:40日)(甲3、乙3。なお、同年4月分については、乙3の通院日数によった。)ウ c病院通院期間令和3年6月9日 左肩関節のMRI検査につき、明らかな断裂は指摘できず、棘上筋腱 損傷疑いという所見であった(乙4〔32枚目〕)。 (5) 控訴人の後遺障害診断及び後遺障害等級認定等ア後遺障害診断(甲8)控訴人は、以下のとおり、a1医院で後遺障害診断を受けた(診断日:令和3年10月18日) (ア) 診断及び後遺障害等級認定等ア後遺障害診断(甲8)控訴人は、以下のとおり、a1医院で後遺障害診断を受けた(診断日:令和3年10月18日) (ア) 症状固定日令和3年10月18日(イ) 傷病名左足関節捻挫、左肩関節捻挫、左肩関節拘縮(ウ) 自覚症状左足関節の痛み。左肩の痛み。左肩を挙上する際に恐怖感があり。左足関節近位部まで布団を敷いて膝を伸ばして就寝するため左膝の疼痛も出現。 (エ) 他覚症状及び検査結果MRIにて棘上筋損傷を認めるイ主治医の意見主治医は、控訴人の棘上筋損傷(部分損傷)は、中程度のものであり、それほど激しいものではないため、損傷直後に肩の違和感程度しか感じ ないことは臨床上起こり得るという意見を述べている(甲2の3、10、23)。 ウ後遺障害等級認定(甲9)控訴人は、d保険株式会社から、後遺障害には該当しないと判断された。 (6) 医学的知見ア腱板断裂は、身体所見及び画像所見(単純X線、超音波、MRI)に基づいて行われるが、軟部組織の病変なので、初期の段階では単純X線でみえる骨格には明らかな異常所見を認めないことが多い(甲20〔5枚目〕) イ腱板断裂が起きると、激しく痛むものは30%、軽い痛みのあるもの は64%程度で、疼痛は患者の主症状とはなり得ておらず、腱板の変性が強いと考えられる高齢者では、疼痛の自覚がない症例もある。(乙12〔28枚目〕)。 住民健診では腱板断裂があっても痛みのない人が3分の2、痛みのある人が3分の1であったとする報告もある(甲 考えられる高齢者では、疼痛の自覚がない症例もある。(乙12〔28枚目〕)。 住民健診では腱板断裂があっても痛みのない人が3分の2、痛みのある人が3分の1であったとする報告もある(甲20〔2枚目〕)。 痛みの原因は、断裂そのものではなく、炎症であるという指摘もある(甲21)。 ウ肩の腱板断裂には、①加齢性変化により腱板が脆く傷んで、いつのまにか腱板が切れ、日常生活で症状が強くない場合(加齢性、高齢者に多い)、②転倒や急激に力を入れ、肩に負担がかかり、一気に腱板が断裂 し、強い痛みが生じる場合(外傷性、50歳以上の中高年に好発する)、③オーバーヘッドスポーツ等による肩の使いすぎにより断裂する場合(オーバーユース、若年者でも生じ得る)等がある(乙6〔2枚目〕、7〔2枚目〕)。 エ腱板断裂が起きると、脂肪変性が生じることがある。脂肪変性が生じ る確率は、Goutallierの報告では棘上筋で56.7%であった(乙9〔3枚目〕)。 オ堀克弘らの研究によれば、脂肪変性が生じる期間は、stage0(lowdensityareaをまったく認めない場合)が平均2. 6か月、stage1(わずかにlowdensityareaを 認める場合)が平均3.3か月、stage2(lowdensityareaが筋線維の占める面積よりも少ない場合)が平均3.7か月であった(乙9〔2、3枚目〕)。 また、交通事故案件において医学的知見を提供する医師は、腱板損傷後の脂肪変性併発率は30~70%とばらつきがあり、脂肪変性は受傷 後3か月ほど経過してから画像上で認められるようになると指摘して いる(乙8〔2枚目〕)。」 3 争点1(被控 傷後の脂肪変性併発率は30~70%とばらつきがあり、脂肪変性は受傷 後3か月ほど経過してから画像上で認められるようになると指摘して いる(乙8〔2枚目〕)。」 3 争点1(被控訴人が相当の注意を払ったか)及び争点4(過失相殺)について(1) 動物占有者責任について動物占有者責任は、占有者が動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたことを主張・立証すれば、その責任を免れるところ(民法71 8条1項ただし書)、相当の注意とは、通常払うべき程度の注意義務を意味し、異常事態に対処し得べき程度の注意義務まで課したものではないと解される(最高裁昭和37年2月1日第一小法廷判決・民集16巻2号143頁参照)。 そして、ドッグランは、リードを外して自由に走らせることができる施設ではあるものの、あくまで飼主の適切な管理下にある犬の利用が想定されている のであるから、施設の性格から上記の通常払うべき程度の注意義務が軽減されることはないというべきである。 (2) 被控訴人が、本件事故時、通常払うべき程度の注意義務を尽くしていたか否かについてそこで、被控訴人が、本件事故時、通常払うべき程度の注意義務を尽くして いたか否かを検討すると、認定事実(3)ウによれば、被控訴人の認識では、飼主がドッグランにおいて行うべき管理の態様は、飼い犬の数mから10数mの距離にいて、何かあったらすぐに駆け付けてリードをつないで制御することができるように、いつもリードを手に持ち、犬の挙動を注視するというものであった。 もっとも、認定事実(2)ウによれば、被控訴人犬は、本件事故前に、控訴人犬を追い掛けることに夢中になり、控訴人に衝突しそうになり、幸い、被控訴人犬に正対していた控訴人がこれを自 。 もっとも、認定事実(2)ウによれば、被控訴人犬は、本件事故前に、控訴人犬を追い掛けることに夢中になり、控訴人に衝突しそうになり、幸い、被控訴人犬に正対していた控訴人がこれを自然によけたため大事には至らなかったことが認められる。そして、この直前、被控訴人は、南側のフェンス付近の白い椅子に座り、リードをテーブルに置き、腕を組んで被控訴人犬を注視し、一連 の様子を観察していた。 したがって、被控訴人は、被控訴人犬が比較的温厚な性格で、基本的なしつけも行っており、本件事故以前に他の犬とけんかをしたことがなかったとしても(認定事実(3)ア及びイ)、ドッグランという広い空間で自由に走り回ることができる非日常的体験下においては、被控訴人犬が遊びに夢中になり、人に衝突する危険があることや、被控訴人犬に追い掛けられた控訴人犬がいわば安全 基地である控訴人に向かって逃げることで、控訴人犬及び被控訴人犬が控訴人の方向に突進していくおそれがあることを具体的に予見し又は予見することができたというべきである。 そして、被控訴人犬と被控訴人の走る速度の違いを考慮すれば、このような危険を防止するためには、被控訴人犬にリードをつけたり、被控訴人犬を一時 的に退場させたりするなどの措置をとり、被控訴人犬を遊びに夢中な状態から落ち着かせるか(事情2参照)、被控訴人犬のところに駆け付けるか、せめて「おいで」「止まれ」といった口頭の命令を試みるなどして制止する(事情3参照)ほかないところ、被控訴人は、このような行動をしたことはうかがわれない(なお、控訴人は、仮に控訴人犬が人間に突進した場合、まず大声で制止す ると述べており(原審控訴人本人〔15頁〕)、通常の飼育経験のある飼主であれば、口頭の命令を試みることは はうかがわれない(なお、控訴人は、仮に控訴人犬が人間に突進した場合、まず大声で制止す ると述べており(原審控訴人本人〔15頁〕)、通常の飼育経験のある飼主であれば、口頭の命令を試みることは自然かつ容易であると考えられる。)。 したがって、被控訴人は、被控訴人犬が合理的行動を取るであろうと過信し、体高50cm 前後、体重約28kgの大型犬が人間の死角から高速で衝突した場合の衝撃の程度に思い至らず、遊びで興奮状態の被控訴人犬にリードをつける 等の適切な措置を取らなかったり、被控訴人犬を制止する措置をしたりはしなかったのであるから、通常払うべき程度の注意義務を尽くしていたとは認められない。 (3) 本件事故時の状況について本件事故時の状況について、被控訴人は、控訴人犬が、控訴人に背後から走 って近づき、急に左に方向転換し、控訴人の左側を通り抜け、控訴人犬を追い 掛けていた被控訴人犬も、それに合わせて左に方向転換し、控訴人犬を追い掛けようとしたが、その際、控訴人の脚に背後から接触した旨主張する。これに対し、控訴人は、原判決別紙2の「原告」という文字が付記された黒丸付近に立って、控訴人の家族と控訴人犬の様子を見ていた旨主張し、原審本人尋問においても、控訴人犬が柵の方や控訴人の配偶者の方をうろうろしていた旨供述 している(原審控訴人本人〔16頁〕)。 そこで、本件事故時の状況を検討すると、控訴人は、意味もなくなくドッグランの中央部付近に行くことは少ないと述べているところ(原審控訴人本人〔6頁〕)、控訴人が本件事故に遭った原判決別紙2の「原告」という文字が付記された黒丸の位置から南側の柵の位置までは、航空写真(甲8)と対照する と、8m弱は離れていることが認められ、配偶者及び 6頁〕)、控訴人が本件事故に遭った原判決別紙2の「原告」という文字が付記された黒丸の位置から南側の柵の位置までは、航空写真(甲8)と対照する と、8m弱は離れていることが認められ、配偶者及び控訴人犬と別行動した合理性が見出し難い。むしろ、被控訴人犬は、本件事故前にも控訴人犬を追い掛けて控訴人と衝突しそうになったことがあるのであり(認定事実(2)ウ)、本件事故時も控訴人犬を追い掛けていたと考えるのが自然である。とするならば、控訴人は、自身の背後から走ってくる可能性のある犬に対する警戒をしておら ず、そのため、被控訴人犬の接近に気付くことができなかった過失が認められる(なお、仮に、控訴人が主張するとおり、控訴人犬が柵の方や控訴人の配偶者の方をうろうろしていたのだとしても、控訴人は、控訴人犬が控訴人の配偶者の近くにおり、同人による管理が可能であり、控訴人が注視する必要があったとまではいえなかったにもかかわらず、合理的理由なく本件大ドッグランの 周辺部でない部分に立ち、自身の背後から走ってくる可能性のある犬に対する警戒をしなかったのであるから、いずれにせよ過失が認められる。)。 以上の控訴人及び被控訴人の各過失の内容等を考慮すれば、本件事故における控訴人の過失割合は、20%とするのが相当である。 4 争点2(本件事故と控訴人の損害の因果関係の存否)について (1) 前記認定事実(2)ウ及び(3)アによれば、被控訴人犬は、体重が約28㎏であ り、時速11.7km 以上の速度で控訴人に衝突したことが認められる。そして、体重約28kg は小学校低学年の児童の体重程度であると考えられるところ、本件事故は、小学校低学年の児童が、一般人のジョギングよりも速い速度で、頭から突進したに等しい衝撃が発生してお れる。そして、体重約28kg は小学校低学年の児童の体重程度であると考えられるところ、本件事故は、小学校低学年の児童が、一般人のジョギングよりも速い速度で、頭から突進したに等しい衝撃が発生しており、さほど広くはない接触部位(控訴人の下肢の一部)にその衝撃が集中したことや、控訴人が防御の体勢ではなか ったことも考慮すれば、軽微な接触であったとは認められない。 もっとも、控訴人は、本件事故後の令和3年2月8日、a1医院において「ドッグランで犬の散歩中、右側から大きい犬が当たり、足をすくわれる感じで転倒」と説明したことを踏まえれば(乙2〔3枚目〕)、前方に突き飛ばされ、宙に浮いた状態で前方に数メートル飛ばされたとは認められないが、控訴人が、 初診時から左肩の違和感を訴え、レントゲンを撮影したことを踏まえれば、単に尻もちをついただけとも認められない。したがって、控訴人は、足をすくわれる形で転倒し、その際に左肩及び左腕を地面にぶつけ、左足関節捻挫、左肩関節捻挫及び左下腿打撲傷の傷害を負ったと認められる。 (2)ア棘上筋損傷については、令和3年6月9日に撮影したMRIにおいて指 摘されたものであるところ(乙4)、本件事故日(同年2月6日)から4か月以上が経っていることから、本件事故との因果関係が問題となる。 この点について、控訴人は、控訴人の左肩には棘上筋損傷が生じており、その原因は本件事故である旨主張し、控訴人の主治医であるa2医師も、控訴人の左肩の棘上筋損傷の原因は本件事故の可能性が高いという意見書を 提出している(甲10)。 これに対し、被控訴人は、控訴人の肩症状は、本件事故当日は何もなく、2日後の初診時も違和感を訴えたのみで、9日後に強い痛みへと増悪しており、不自然な推移であり 提出している(甲10)。 これに対し、被控訴人は、控訴人の肩症状は、本件事故当日は何もなく、2日後の初診時も違和感を訴えたのみで、9日後に強い痛みへと増悪しており、不自然な推移であり、左肩関節の画像も明らかな断裂がなく、腱板断裂の特徴的な症状もみられない。そして、MRI検査が行われたのは本件事故 の約4か月後で、輝度変化は脂肪変性の併存率が低い棘上筋で認められてい ることからすると、脂肪変性がないことは輝度変化が外傷によることを裏付けるものではない。仮に、控訴人の左肩に腱板断裂が生じたとしても、外傷性変化によるものではなく加齢による変性断裂の可能性があり、本件事故との因果関係はない旨主張する。 イそこで検討すると、認定事実(5)イによれば、控訴人の腱板損傷は中程度 の部分損傷にすぎず、それほど激しいものではなく、このことは、c病院の所見が、明らかな断裂は指摘できないものの、棘上筋腱損傷を疑ったというものであったこと(認定事実(4)ウ)とも整合的である。したがって、本件事故当日は何もなく、2日後の初診時も違和感を訴えたのみであったとしても、臨床上は起こり得るという主治医の意見が誤りであるとは認められない。ま た、外傷に起因する肩腱板損傷に伴う疼痛や可動域制限の症状は事故直後の急性期が最も重篤であるとするd保険株式会社の顧問医の意見(甲9)は、一般論としては理解できるものの、損傷の程度による違いが生じる可能性を考慮したことがうかがわれないし、肩腱板の炎症が継続すれば、組織の硬化や筋の拘縮が生じ、時間の経過や動作の種類によって可動域制限の症状が悪 化し得る可能性を考慮したこともうかがわれないため、直ちには信用できない。 また、e医師の意見書(乙12)については、被控訴人に提 間の経過や動作の種類によって可動域制限の症状が悪 化し得る可能性を考慮したこともうかがわれないため、直ちには信用できない。 また、e医師の意見書(乙12)については、被控訴人に提供された資料(乙12〔8頁〕)のみに基づいて作成されたものであるため、意見の形成に当たり、控訴人に加わった外力の程度(約28㎏の物体が、一般人のジョギ ングよりも速い速度で、死角である背後から、さほど広くない接触部位に集中して衝突しており、控訴人は防御の体勢ではなかったこと)という、傷害の発生の可能性及びその程度を検討する上で最も重要となる基礎事実が考慮されていない。そして、控訴人が痛みを訴えている部位が左足関節、左肩関節、左下腿であり、左肘関節、左膝関節、左背部が含まれていないこと(甲 2、3、乙2)を踏まえれば、転倒時の衝撃が伝わった部位が左肩及び左足 周辺という局地的なものであったことや、転倒するに当たり地面からの高さがより高い左肩のほうが衝撃が大きかった可能性があることが推認されるが、被控訴人犬の衝突によって加わった力の一部及び成人男性である控訴人の体重に由来する力が一度に局所的に伝わった場合であっても、意見書のように「新たな外傷(打撲・捻挫)は生じ得なかった、または生じたとしても 外傷としてはきわめて軽症のものであり、「左肩に違和感」が出現していたことから治療を要しない程度の「左肩関節捻挫」と推測される」(乙12〔2頁〕)といい得るものかは疑問が残り、直ちに信用できない。 したがって、控訴人の肩症状の推移は、臨床上は起こり得るものであることが認められる。 ウ控訴人に脂肪変性が認められないことについては、認定事実(6)エ及びオによれば、棘上筋の断裂に係る脂肪変性の発生率は56.7 移は、臨床上は起こり得るものであることが認められる。 ウ控訴人に脂肪変性が認められないことについては、認定事実(6)エ及びオによれば、棘上筋の断裂に係る脂肪変性の発生率は56.7%程度であり、患者によってばらつきがあることが認められる。そして、脂肪変性が認められる場合は断裂から相当程度の期間が経過したことが推認されるものの、逆の場合、すなわち脂肪変性が認められない場合は、上記発生率を前提とすれ ば、そもそも脂肪変性が発生しない患者であった可能性も43.3%程度はあるといえるのであるから、脂肪変性の有無が本件事故と控訴人の損傷の因果関係の有無を左右する事実であるとは認められない。 もっとも、控訴人(本件事故当時38歳、甲2の1〔2枚目〕)が本件事故前に肩関節痛を訴えて通院したことはうかがわれず、控訴人の業務内容も理 髪業店舗の運営、経理及び事務であり、デスクワークが半分程度、理髪店のサインポール及び天井の照明の電球の手配及び交換が半分程度であるから(原審控訴人本人〔29頁〕)、肩関節を酷使する業務であるとは認められず、加齢やオーバーユースによる腱板断裂の可能性は低いというべきである(認定事実(6)ウ)。 (3) したがって、本件事故と因果関係のある傷害は、左足関節捻挫、左肩関節捻 挫及び左下腿打撲傷、中程度の棘上筋損傷(部分損傷)であると認められる。 5 争点3(控訴人の損害の有無及び額)について前記4を踏まえれば、控訴人の損害額は、次のとおりである。 (1) 治療費(甲2~4)38万6654円 (2) 文書料(甲5の1~3)ア後遺障害診断書 1万1000円イ診療録開示代金 5860円ウ医療鑑定 費(甲2~4)38万6654円 (2) 文書料(甲5の1~3)ア後遺障害診断書 1万1000円イ診療録開示代金 5860円ウ医療鑑定料 32万0100円(3) 通院交通費 2万0520円【事実認定の補足】控訴人がa1医院、b整骨院及びc病院に通院したことが認められ、何らかの通院交通費が発生したことが認められるが、控訴人が計算の基礎とする片道の距離について、a1医院及びc病院については、立証がされていない。 また、b整骨院については、片道19.7㎞程度であることが認められ(乙17)、控訴人が主張する片道19㎞は合理的であるといえるものの、同整骨院に通院した日のうち令和3年4月5日、7日、16日及び19日の4日間(乙3〔5枚目〕)については、通院日の一覧(甲3〔2枚目〕)上は通院しておらず、通院したとしても、控訴人は勤務先にも出勤しており(甲6)、 自宅から通院したとまでは認められないから、通院交通費は、2万0520円と認める。【計算式】19㎞×36回×2×15円=2万0520円(4) 休業損害(甲6、7)126万円【事実認定の補足】 控訴人の本件事故当時の日給は3万円であると認められる(甲7)。そし て、控訴人の業務内容は理髪業店舗の運営、経理及び事務であり、デスクワークが半分程度、理髪店のサインポール及び天井の照明の電球の手配及び交換が半分程度であるところ(原審控訴人本人〔29頁〕)、肩関節を酷使する業務であるとは認められない。また、控訴人は、自宅から片道19㎞の距離のb整骨院まで通院していた旨主張していることを踏まえれば、理髪業店舗 に電球を届 審控訴人本人〔29頁〕)、肩関節を酷使する業務であるとは認められない。また、控訴人は、自宅から片道19㎞の距離のb整骨院まで通院していた旨主張していることを踏まえれば、理髪業店舗 に電球を届けることも困難とまではいえない。さらに、医師に休業を命じられたこともうかがえず、前記(3)のとおり、令和3年4月5日、7日、16日及び19日の4日間については、出勤日に通院も行ったことが認められるから、通院のために欠勤する必要性があったとも直ちには言い難い。加えて、本件事故と相当因果関係がある通院日数は、重複している同年2月15日を 1日とすると、46日にとどまる。 したがって、控訴人の症状及び通院状況を踏まえれば、75日間の休業の必要があったとまでは認められず、控え目に算定し、勤務を行っていない通院日分として3万円×42日分=126万円を損害として認める。 (5) 後遺障害逸失利益 1465万9092円【事実認定の補足】控訴人は、MRI検査の結果、中程度の腱板損傷(部分損傷)と診断され、他動運動による左肩関節の外転運動の可動域(75度)が、右肩関節の可動域(135度)の4分の3以下に制限されたことが認められる(甲8)。 したがって、控訴人の左肩に残存した機能障害は、「1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの」(12級6号)と評価すべきである。 控訴人は基礎収入として1071万6407円を主張するところ、控訴人は、親族が経営する会社に勤務しており、業務内容は理髪業店舗の運営、経理及び事務であり、デスクワークが半分程度、理髪店のサインポール及び天 井の照明の電球の手配及び交換が半分程度であるから(原審控訴人本人〔2 9頁〕)、上記基礎収入が 店舗の運営、経理及び事務であり、デスクワークが半分程度、理髪店のサインポール及び天 井の照明の電球の手配及び交換が半分程度であるから(原審控訴人本人〔2 9頁〕)、上記基礎収入が労働実態に見合った金額であるとは直ちには認め難い事情があるといえ、控訴人も業務日誌、業務内容の説明資料、勤務先関係者の証言等、何らの立証もしておらず、後遺障害の症状固定後に減収したこともうかがわれない。 もっとも、控訴人は左肩に後遺障害が残存しており、理髪店の天井の照明 の電球の手配等の雑務に一定程度の支障が出ることが認められるから(原審控訴人本人〔14、29頁〕)、賃金センサス令和3年第1巻第1表の「男」「学歴計」「35~39」の年収である545万6800円を基礎収入とすべきである。 【計算式】 基礎収入545万6800円×労働能力喪失率0.14×労働能力喪失期間29年間に対応するライプニッツ係数19.1885=1465万9092円(6) 通院慰謝料102万6000円 【計算式】令和3年2月8日から同年6月28日まで(4か月と21日)90万円+(108万円-90万円)×21/30=102万6000円(7) 後遺障害慰謝料280万円 (8) 既払金 38万6654円(9) 具体的金額ア (1)~(7)の合計額 2048万9226円イ過失相殺(20%) 2048万9226円×(1-0.2)=1639万1380円 ウイ-(8) 1600万4726円 6 結論よって、控訴人の請求は1600万4726円及びこれに対する遅延損 =1639万1380円 ウイ-(8) 1600万4726円 結論 よって、控訴人の請求は1600万4726円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、原判決を上記のとおり変更することとし、主文のとおり判決する。 大阪高等裁判所第1民事部 裁判長裁判官 嶋末和秀 裁判官 横路朋生 裁判官 石本恵

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