平成25年9月25日判決平成21年(ネ)第342号損害賠償請求控訴事件(原審岐阜地方裁判所平成16年(ワ)第448号,平成17年(ワ)第371号)主文 1 本件各控訴をいずれも棄却する。 2 控訴費用は控訴人らの負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は,控訴人らに対し,それぞれ,別紙損害目録の「損害額合計」欄記載の金員及びこれに対する平成14年7月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。 第2 事案の概要本件は,平成14年7月10日及び11日の集中豪雨により揖斐川支川の大谷川が増水して,通称「荒崎地区」(大谷川と相川に挟まれた岐阜県大垣市長松町,島町,十六町等の大谷川右岸地域)において浸水被害が発生したこと(以下「本件水害」という。)について,荒崎地区の住民,事業者(又はその相続人)である合計183名の1審原告らが,被控訴人に対し,通称「大谷川洗堰」の機能的瑕疵又は大谷川の河川管理者である岐阜県知事の河川管理の瑕疵(河川改修と並行して行うべき荒崎地区への浸水対策を怠ったこと)により本件水害が生じ,多大な精神的苦痛を受けたと主張して,国家賠償法2条1項に基づき,住宅等の床上浸水被害を受けた142名がそれぞれ慰謝料50万円及び弁護士費用5万円の支払を,床下浸水被害を受けた41名がそれぞれ慰謝料10万円及び弁護士費用1万円(合計8261万円)の支払を求めた事案である(付帯請求は,いずれも損害が発生した日である平成14年7月11日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金である び弁護士費用1万円(合計8261万円)の支払を求めた事案である(付帯請求は,いずれも損害が発生した日である平成14年7月11日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金である。)。原審は,1審原告らの請求をいずれも棄却した。1審原告らのうち控訴人ら132名が,これを不服として控訴した。 1 前提事実等(当事者間に争いがないか,証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実並びに関係法令)(1)当事者等ア荒崎地区とは,一般に大谷川と相川に挟まれた岐阜県大垣市(以下「大垣市」という。)長松町,島町,十六町等の大谷川右岸地域を指す通称であり,大垣市の中心部から約4キロメートル西方に位置する。なお,河川の「右岸」とは,河川を上流から下流に向かって眺めたときの右側をいい,「左岸」とは,同左側をいう。(弁論の全趣旨)イ控訴人ら(本件訴訟係属後に相続承継が生じた者については被相続人。 以下,相続承継の有無及びその前後を区別せずに「控訴人ら」,「1審原告ら」と総称する。)は,平成14年7月11日当時,荒崎地区に居住していた者ないし同地区で事業を営んでいた者であり,本件水害により建物や家財等の浸水被害を受けた。(弁論の全趣旨)(2)河川法等(河川法は平成14年3月30日法律第4号による改正前のもの,河川法施行令は平成15年1月31日政令第28号による改正前のもの。 いずれも以下同じ。)ア河川法は,河川について,洪水,高潮等による災害の発生が防止され,河川が適正に利用され,流水の正常な機能が維持され,及び河川環境の整備と保全がされるようにこれを総合的に管理することにより,国土の保全と開発に寄与し,もって公共の安全を保持し,かつ,公共の福祉を増進することを目的として定められた法律である( され,及び河川環境の整備と保全がされるようにこれを総合的に管理することにより,国土の保全と開発に寄与し,もって公共の安全を保持し,かつ,公共の福祉を増進することを目的として定められた法律である(河川法1条)。そして,「洪水,高潮等による災害の発生の防止」とは,洪水,高潮その他の異常な天然現象による災害のほか,通常の河川の状態において発生する河床の上昇若しくは低下,河岸の侵食又は地下水のくみ上げに起因する地盤沈下による溢水等自然的原因又は人為的原因のいずれによるかを問わず,河川の流水によって生ずる災害の発生の防止を意味すると解され,河川管理とは,河川について,洪水,高潮等による災害発生の防止,適正な利用及び流水の正常な機能の維持を図るため,総合的な管理を行うことをいうと解されている。このため,河川管理者は,ダム,堤防,護岸等の河川管理施設を設置し,放水路,しょう水路を開さくし,河床を掘削する等河川工事又は河川の維持修繕を行うことによって災害の発生を防止し,かつ,河川区域又は河川保全区域における工作物の設置,土地の掘削,盛土又は切土等災害を誘発するおそれのある行為の規制を行う権限と責務を有すると解されている。 (乙A1,乙A4・23頁)イ後述の「大谷川洗堰」は,河川法3条1項の「河川管理施設」に該当し,河川管理者(同法7条)の管理に服する。ウ一級河川である大谷川の河川管理者は国土交通大臣(平成13年の中央省庁再編前は建設大臣。以下同じ。)であり(河川法9条1項),岐阜県知事は,河川法9条2項,同法施行令2条1項,3項に基づき,地方自治法2条9項1号に規定する第1号法定受託事務として,国土交通大臣が指定する区間(以下「指定区間」という。)の大谷川の管理の一部を行う。上記指定に基づき岐阜県知事が行 条1項,3項に基づき,地方自治法2条9項1号に規定する第1号法定受託事務として,国土交通大臣が指定する区間(以下「指定区間」という。)の大谷川の管理の一部を行う。上記指定に基づき岐阜県知事が行っている管理には,指定区間内の河川及び河川管理施設の管理が含まれ,「大谷川洗堰」は,上記指定区間内に存する。以下,河川管理やこれに基づく事業,工事の主体について,便宜上,国土交通大臣(建設大臣)については「国」,岐阜県知事については「被控訴人」ということもある。エ工事実施基本計画及び河川改良工事全体計画(ア) 平成9年6月4日法律第69号による改正(同年12月1日施行)前の河川法(以下,「改正前河川法」といい,同改正を「平成9年の河川法等改正」という。)は,「河川管理者は,その管理する河川について,計画高水流量その他当該河川の河川工事の実施についての基本となるべき事項(以下「工事実施基本計画」という。)を定めておかなければならない。」(16条1項),「工事実施基本計画は,水害発生の状況並びに水資源の利用の現況及び開発を考慮し,かつ,国土総合開発計画との整合を図って,政令で定める準則に従い,水系ごとに,その水系に係る河川の総合的管理ができるように定められなければならない。」(同条2項),「河川管理者は,工事実施基本計画を定めるに当たっては,降雨量,地形,地質その他の事情によりしばしば洪水による災害が発生している区域につき,災害の発生を防止し,又は災害を軽減するために必要な措置を講ずるように特に配慮しなければならない。」(同条3項)と規定していた。なお,同条における「河川管理者」は建設大臣であり,建設大臣が工事実施基本計画を策定する。(乙A22,乙A35)(イ)平成9年11月28日政令第342号 (同条3項)と規定していた。なお,同条における「河川管理者」は建設大臣であり,建設大臣が工事実施基本計画を策定する。(乙A22,乙A35)(イ)平成9年11月28日政令第342号による改正(平成9年12月1日施行)前の河川法施行令(以下「改正前施行令」という。)10条1項1号は,工事実施基本計画作成の準則として,「洪水,高潮等による災害の発生の防止又は軽減に関する事項については,過去の主要な洪水,高潮等及びこれらによる災害の発生の状況並びに災害の発生を防止すべき地域の気象,地形,地質,開発の状況等を総合的に考慮」して作成しなければならない旨規定し,同施行令10条2項は,工事実施基本計画には,①当該水系に係る河川の総合的な保全と利用に関する基本方針,②基本高水並びにその河道及び洪水調節ダムへの配分に関する事項,主要な地点における計画高水流量に関する事項,主要な地点における流水の正常な機能を維持するため必要な流量に関する事項といった河川工事の実施の基本となるべき計画に関する事項,③主要な地点における計画高水位,計画横断形その他河道計画に関する重要な事項,主要な河川工事の目的,種類及び施行の場所並びに当該河川工事の施行により設置される主要な河川管理施設の機能の概要といった河川工事の実施に関する事項を定めなければならない旨規定していた。(ウ) 改正前河川法79条1項及び改正前施行令45条1号の規定により,都道府県知事が一級河川の指定区間の管理で「工事実施基本計画において定められた河川の総合的な保全と利用に関する基本方針に沿って計画的に実施すべき改良工事」を行おうとするときは,建設大臣の認可を受けなければならないとされており,昭和51年4月12日建設省河総発第138号の各都道府県知事あての建設省河川局長通達によ に沿って計画的に実施すべき改良工事」を行おうとするときは,建設大臣の認可を受けなければならないとされており,昭和51年4月12日建設省河総発第138号の各都道府県知事あての建設省河川局長通達によれば,建設大臣の認可を要する全体計画は,河川の一連区間又は一定区域について改良工事の基本となる事項を定めた「河川改良工事全体計画」とすることとされていた。(乙A22,乙A26,乙A34の2,乙A35,乙A38)オ河川整備基本方針及び河川整備計画平成9年の河川法等改正により,河川の整備計画制度についての規定が次のように改正された。 (ア) 河川管理者は,その管理する河川について,河川の整備(計画高水流量その他当該河川の河川工事及び河川の維持)についての基本となるべき方針に関する事項である「河川整備基本方針」を定めておかなければならない(河川法16条1項)。河川整備基本方針は,水害発生の状況,水資源の利用の現況及び開発並びに河川環境の状況を考慮し,かつ,国土総合開発計画及び環境基本計画との調整を図って,政令で定めるところにより,水系ごとに,その水系に係る河川の総合管理が確保できるように定められなければならない(同条2項)。一級河川の河川整備基本方針は,水系ごとに国土交通大臣が策定する。 (乙A1,乙A22,乙A35,弁論の全趣旨)(イ) 河川管理者は,河川整備基本方針に沿って計画的に河川の整備を実施すべき区間について,当該河川の整備に関する計画である「河川整備計画」を定めておかなければならない(河川法16条の2第1項)。河川整備計画は,河川整備基本方針に即し,かつ,公害防止計画が定められている地域に存する河川にあっては当該公害防止計画との調整を図って,政令で定める らない(河川法16条の2第1項)。河川整備計画は,河川整備基本方針に即し,かつ,公害防止計画が定められている地域に存する河川にあっては当該公害防止計画との調整を図って,政令で定めるところにより,当該河川の総合的な管理が確保できるように定められなければならない。この場合において,河川管理者は,降雨量,地形,地質その他の事情によりしばしば洪水による災害が発生している区域につき,災害の発生を防止し,又は災害を軽減するために必要な措置を講ずるように特に配慮しなければならない(同条2項)。 (乙A1,乙A35)(ウ)指定区間に係る河川整備計画の策定,変更は,岐阜県知事が行うが,国土交通大臣の認可を受けることが必要である。また,平成9年の河川法等改正当初は,河川整備基本方針において定められた河川の総合的な保全と利用に関する基本方針に沿って計画的に実施すべき改良工事についても建設大臣(当時)の認可を受けることが必要であったが,平成12年政令第457条による河川法施行令の改正(平成12年10月20日施行)により,その範囲がダム及び地下河川に係る改良工事に限定された(河川法79条1項,河川法施行令45条)。 (乙A22,乙A34の2,乙A35,乙A36)カ平成9年の河川法等改正に係る経過措置(ア) 河川法16条1項の規定に基づき当該河川について河川整備基本方針が定められるまでの間においては,改正前河川法16条1項の規定に基づき当該河川について定められている工事実施基本計画の一部を,政令で定めるところにより,河川法16条1項の規定に基づき当該河川について定められた河川整備基本方針とみなす(平成9年法律第69号の附則2条1項)。(イ) 河川法16条の2第1項の規定に基づき当該河川の区間について河川整備計画 条1項の規定に基づき当該河川について定められた河川整備基本方針とみなす(平成9年法律第69号の附則2条1項)。(イ) 河川法16条の2第1項の規定に基づき当該河川の区間について河川整備計画が定められるまでの間においては,改正前河川法16条1項の規定に基づき当該河川について定められている工事実施基本計画の一部を,政令で定めるところにより,河川法16条の2第1項に基づき当該河川の区間について定められた河川整備計画とみなす(同附則2条2項)。 (以上につき乙A35)(3)用語ア(ア) 洪水洪水とは,台風や前線によって河川の流域に大雨が降った場合,水が河道に集まり,川を流れる水の量が急激に増大する現象のことである。 一般には川から水が溢れ,氾濫することを洪水と呼ぶが,河川管理上は氾濫を伴わなくても洪水と呼ぶ。洪水という言葉は,上記現象により増大した水や川から溢れた水の意味でも使用される。(乙A8,弁論の全趣旨)(イ) 背水背水とは,支川と本川との関係で,洪水時,下流に位置する本川の水位が高いと支川の水が流れにくい状態となり,支川の水位が上昇する現象のことである。(弁論の全趣旨)イ(ア) 堤内地,堤外地堤内地とは,堤防(本堤)を基準にみて,堤防によって洪水氾濫から守られている住居や農地などのある側をいい,堤防よりも河川,湖沼,海洋などの側の土地を堤外地という。(乙A8,弁論の全趣旨) (イ) 内水,外水内水とは堤内地の水をいい,外水とは堤外地の水をいう。(弁論の全趣旨) (ウ) 越流堤越流堤とは,洪水調節の目的で,堤防の一部を低くして,水位が一定の高さを超えると,川の水の一部が遊水地へ越流するようにした川の堤防の一種である。(乙A8,乙 旨) (ウ) 越流堤越流堤とは,洪水調節の目的で,堤防の一部を低くして,水位が一定の高さを超えると,川の水の一部が遊水地へ越流するようにした川の堤防の一種である。(乙A8,乙A12)なお,「洗堰」という言葉が越流堤の意味で使用されることもあるが,本件において,「洗堰」という言葉は,後述の「大谷川洗堰」の通称に使用されているため,河川工学上の越流堤を指しては使用しない。(エ) 遊水地遊水地とは,河道に沿った地域で,洪水時に湛水して洪水流量の一部を貯留し,下流のピーク流量を低減させ洪水調節を行うために利用される地域の総称である。通常時も水がある状態の地域は「遊水池」と記すこともある。洪水が河道に連なる広領域に滞留した状態を遊水といい,これにより洪水調節が行われる効果を遊水効果という。(乙A13)(オ) 二線堤二線堤とは,本堤が破堤するなどした場合に,洪水の氾濫域の拡大を防ぐために,堤内地に築造された堤防をいう。(弁論の全趣旨) (カ) 輪中輪中とは,木曽川及び揖斐川水系の下流に多く形成された村落の周囲を堤防で囲んだ水防共同体のこと又はその堤防のことをいう。(乙A8・1頁,乙A19・3頁・4頁,弁論の全趣旨) ウ(ア) 河積(流下断面)河積とは,流れに直行する水路断面内のうち水が流れている部分の面積である。(乙A8) (イ)TPTPとは,「TokyoPeil」の略で,地表や海面の高さを表す基準水準面である東京湾中等潮位のことである。(弁論の全趣旨)(ウ)基本高水基本高水は,洪水を防ぐための計画で基準とする洪水のハイドログラフ(流量が時間的に変化する様子を表したグラフ)のことであり,人工的な施設による洪水調 (弁論の全趣旨)(ウ)基本高水基本高水は,洪水を防ぐための計画で基準とする洪水のハイドログラフ(流量が時間的に変化する様子を表したグラフ)のことであり,人工的な施設による洪水調節が行われていない状態(流域に降った計画規模の降雨がそのまま河川に流れ出た場合)の河川流量を表現している。(乙A8)(エ) 基本高水流量基本高水流量とは,基本高水のグラフに示される最大流量から決定された流量の値である。(乙A8)(オ) 計画高水流量計画高水流量とは,河道を計画する場合に基本となる流量で,基本高水を河道と各種洪水調節施設に合理的に配分した結果として求められる河道を流れる流量(基本高水流量から各種洪水調節施設での洪水調節量を差し引いた流量)である。河川管理者は,河川整備基本方針に従って,過去の主要な洪水及びこれらによる災害の発生の状況並びに流域及び災害の発生を防止すべき地域の気象,地形,地質,開発の状況等を総合的に考慮して,計画高水流量を定める。(乙A3,乙A8)(カ) 計画高水位計画高水位とは,堤防や護岸の整備等が完成した河道において,所定の洪水流量を安全に流しうる水位で,河川整備基本方針に従って,計画高水流量及び計画横断形に基づいて,又は流水の貯留を考慮して,河川管理者が定めた高水位をいう。(甲A2,乙A3)エ(ア) 連続降雨量連続降雨量とは,雨の降り始め(一般的に,雨量が0.5ミリメートルになった時点)から降り終わりまでの雨量を指す。短時間の無降雨があっても,連続と考慮する場合がある。(イ) 総雨量総雨量とは,一定期間に降った雨の量を指し,累計雨量と同義である。 短時間の無降雨があっても,連続と考慮す 短時間の無降雨があっても,連続と考慮する場合がある。(イ) 総雨量総雨量とは,一定期間に降った雨の量を指し,累計雨量と同義である。 短時間の無降雨があっても,連続と考慮する場合がある。(ウ) 日雨量日雨量とは,一般的に,午前0時から翌午前0時までの雨量をいう。 ただし,相川改良工事全体計画書(乙A20)では,過去の統計と整合させるため,午前9時から翌午前9時までの雨量となっている。(以上につき,弁論の全趣旨(原審の被控訴人準備書面(8))(4)大谷川の概要大谷川は,大垣市赤坂町大字青墓字東谷の山中を水源とし,薬師川及び矢道川の各支川を集め,同市綾野町地内において相川に合流する流路延長約8. 4キロメートル,流域面積約26平方キロメートルを有する河川法4条所定の一級河川である。大谷川は,下流に位置する相川,杭瀬川,牧田川,揖斐川の背水の影響を受け,古くから水害を引き起こしてきた(河川の位置関係等は,原判決添付の別紙「大谷川流域図」のとおりである。)。(乙A8,弁論の全趣旨)(5)大谷川洗堰ア大谷川の右岸はもともと無堤であったが,被控訴人が,昭和29年から昭和33年にかけて「県営大垣地区かんがい排水事業」(以下「昭和29年土地改良事業」という。)を実施し,大谷川右岸に堤防が築造された(昭和33年完工)。この堤防には,相川と大谷川の合流点から上流1.6キロメートルの地点に,築堤天端より1.38メートル低くした天端高(堤防の最上面の高さ)TP7.2メートル,延長110メートルの洗堰が整備された(以下,この洗堰を「大谷川洗堰」といい,後述の昭和56年嵩上げ工事の前後で区別するときは,同工事完工前のものを「原洗堰」,同工事完工後のものを「本件洗堰」という。)。(甲A3,甲 洗堰が整備された(以下,この洗堰を「大谷川洗堰」といい,後述の昭和56年嵩上げ工事の前後で区別するときは,同工事完工前のものを「原洗堰」,同工事完工後のものを「本件洗堰」という。)。(甲A3,甲A18,乙A18,弁論の全趣旨)イ昭和29年土地改良事業の事業計画において,原洗堰は,一定の規模を上回る降雨による洪水時には,原洗堰から洪水の一部を堤内地である耕作地に溢流させて耕作地を一時的に湛水させる「越流堤」としての役割を有していた。(乙A18・498頁)越流堤は,通常,越流した洪水を貯留する囲堤をもち,囲堤と本堤の間の土地(遊水地)で洪水調節をするため,堤内地である住宅地や耕作地に氾濫しない仕組みとなっている。しかし,原洗堰は,越流機能だけを持ち,越流した洪水を貯留する囲堤及び遊水地区域の設置(河川法6条1項3号,同法施行令1条2項参照)のない全国的にもまれな変則的施設であり,大垣市が編集・発行した「大垣市史輪中編」において,「俗な表現をすれば垂れ流しである」とも表現されているものである。(甲A18・449頁・450頁,証人C)ウ岐阜県知事は,遅くとも昭和40年4月1日に河川法が施行された時点までに,原洗堰を引き継ぎ管理している。エ昭和54年から同56年3月にかけて,原洗堰の高さを0.6メートル嵩上げする工事(以下「昭和56年嵩上げ工事」という。)が実施された。(6)大谷川洗堰からの越流及び浸水荒崎地区における昭和34年から平成20年3月までの間(原洗堰が設置されてから,後述の平成20年嵩上げ工事が完工するまでの間)の大谷川洗堰からの越流,浸水の状況は,別紙「被災状況」に記載のとおりである(上記別紙は,原判決添付の別紙「被害状況」のもとになった甲A3号証中の表の誤記が訂正された表 完工するまでの間)の大谷川洗堰からの越流,浸水の状況は,別紙「被災状況」に記載のとおりである(上記別紙は,原判決添付の別紙「被害状況」のもとになった甲A3号証中の表の誤記が訂正された表である「大谷川洗堰から越流した洪水」(甲A43・7頁)に基づく。)。(7)相川改良工事全体計画岐阜県知事は,大谷川下流部左右両岸の高さを大谷川洗堰部分も含めてTP10.88メートルの連続堤により整備するなどして相川流域全体を改良する工事の計画(以下「相川改良工事全体計画」という。)を策定し,平成9年11月,同計画につき建設大臣の認可を受けた。 (乙A20,弁論の全趣旨)(8)平成14年7月の台風6号による水害ア降雨状況平成14年6月29日にマーシャル諸島トラック島の西の海上で発生した台風6号は,同年7月8日午後9時には中心気圧930ヘクトパスカル,中心付近の最大風速毎秒50メートルの大型で非常に強い台風に発達し,その後,四国の南海上から東海地方沿岸に沿って北上し,同月10日午後3時に潮岬の南南東約180キロメートルの海上まで北上し,中心気圧965ヘクトパスカル,中心付近の最大風速毎秒30メートル,時速45キロメートルで三重県南部に最接近した。台風6号及びこれによって刺激された梅雨前線の影響で(以下,梅雨前線の影響も含めて,単に「台風6号による」,「台風6号の影響」等ともいう。),平成14年7月10日未明から翌11日にかけて,岐阜県西濃地方山間部を中心に非常に強い雨が降り,木曽川水系揖斐川流域の根尾地点(国土交通省中部地方整備局根尾雨量観測所)では同月10日午前1時に最大時間降雨量111ミリメートル,総降雨量562ミリメートルを記録し,また,黒津で397ミリメートル,上大須で506ミリメートル,下山で 通省中部地方整備局根尾雨量観測所)では同月10日午前1時に最大時間降雨量111ミリメートル,総降雨量562ミリメートルを記録し,また,黒津で397ミリメートル,上大須で506ミリメートル,下山で405ミリメートルの総降雨量を記録した(降雨状況及び観測地点については,原判決添付の別紙「降雨状況及び観測地点」のとおりである。以下,降り始めの同月9日午後10時ころから同月11日にかけての降雨を,「台風6号による降雨」ともいう。)。(甲A1・1頁,甲A2,乙A6,弁論の全趣旨)イ出水状況台風6号による降雨により,揖斐川の基準地点である「万石地点」では,平成14年7月10日12時20分に河川水位がTP12.36メートルを記録した。これは,計画高水位12.09メートルを上回るものである。また,揖斐川支川杭瀬川流域の高渕水位観測所では,最大時間降雨量56ミリメートル,日降雨量301ミリメートルの記録的な降雨となり,杭瀬川における河川水位は観測史上2番目のTP8.57メートルを記録した。台風6号による降雨で生じた洪水により,揖斐川支川杭瀬川流域の大垣市,養老町及び垂井町では3252世帯,1万0901人に避難勧告が出された。(甲A2)ウ本件水害台風6号による降雨により大谷川が増水し,平成14年7月10日午前6時10分から同月11日午前7時までの25時間にわたり本件洗堰において越流した。荒崎地区を中心として浸水面積234ヘクタール,住宅浸水482戸(床上浸水309戸,床下浸水173戸),非住宅浸水121戸(床上浸水85戸,床下浸水36戸)の被害が生じた。(甲A3・6頁)(9)被控訴人は,本件水害後,「相川・大谷川・泥川浸水対策特別緊急事業」により,本件洗堰を1.05メートル嵩上げす 浸水121戸(床上浸水85戸,床下浸水36戸)の被害が生じた。(甲A3・6頁)(9)被控訴人は,本件水害後,「相川・大谷川・泥川浸水対策特別緊急事業」により,本件洗堰を1.05メートル嵩上げする工事(以下「平成20年嵩上げ工事」ともいう。)を実施し,平成20年3月,上記嵩上げ工事が完了した。(甲A43,乙A6) 2 争点(1)大谷川洗堰の管理において,機能的瑕疵の法理の適用又は類推適用による瑕疵が認められるか。(2)大谷川洗堰と同洗堰を有する大谷川について,流域対策に関する河川管理の瑕疵が認められるか。(3)控訴人らに生じた損害 3 争点に関する当事者の主張(1)争点(1)(大谷川洗堰の管理において,機能的瑕疵の法理の適用又は類推適用による瑕疵が認められるか)について(控訴人らの主張)ア大谷川洗堰の機能と控訴人らの特別の犠牲大谷川は,大垣の城下町を保護するため,右岸は無堤のままで荒崎地区は遊水地状態にされていた。昭和29年土地改良事業により大谷川右岸に築堤されたが,従来の遊水地状態の土地を締め切ることになると,相川,泥川及び大谷川の三川合流点(養老橋地点)より下流の河積が狭小なため,大谷川の水位の上昇や左岸堤の破綻が懸念された。また,左岸の静里輪中及び綾里輪中から強い反対運動があったため,上記土地改良事業では,養老橋下流の根本的改修が実施されなければ完全に水害の除去は不可能であるとして,それまでの過渡的手段として,上記狭小部の負担を軽減させる目的で原洗堰が設置された。原洗堰の役割は,一定の規模を上回る降雨による出水時には,一時的に荒崎地区内の耕地に洪水の一部を溢流湛水させ,大谷川の減水を待って機械排水を行うことにあった。しかし,その後,大垣市が 原洗堰の役割は,一定の規模を上回る降雨による出水時には,一時的に荒崎地区内の耕地に洪水の一部を溢流湛水させ,大谷川の減水を待って機械排水を行うことにあった。しかし,その後,大垣市が昭和43年から島町に120戸の分譲住宅(島団地)の建設を行い,被控訴人が昭和48年に島町に県営住宅の建設を開始し,昭和50年12月27日に荒崎地区が市街化区域に指定されたことなどにより,荒崎地区の市街化が急速に進み,昭和29年当時1338人であった荒崎地区の人口は,昭和55年には4698人(1272世帯),平成12年には6493人(1995世帯)と顕著に増加したにもかかわらず,大谷川洗堰は,昭和56年嵩上げ工事の前後を通じて,遊水地を設けることなく,越流した水が住宅地である荒崎地区に流れ込むようになっていた。本件洗堰につき,昭和55年3月に作成された「昭和54年度大谷川越流堤嵩上げ工事調査報告書」(乙A19)には,昭和56年嵩上げ工事後も,連続雨量250ミリメートル程度以上の時に越流が起こるなどと記載されており,上記工事後も本件洗堰が越流堤の機能を有することに変わりはなく,被控訴人もその旨認識していた。そして,原判決添付の別紙「被害状況」のとおり,大谷川洗堰からの越流による荒崎地区の浸水被害は,同洗堰の設置から平成14年7月までの約45年間に15回にも及び,荒崎地区は,市街化区域に指定された後も,遊水地状態が継続し繰り返し浸水被害に遭ってきた。このように,大谷川洗堰は,遊水地が設けられていないため,河川法が規定する「越流堤」そのものには該当しないとしても,昭和56年嵩上げ工事後も事実上の越流堤としての機能を有し続け,ほかの地域を洪水被害から守るため,住宅地である荒崎地区が事実上の遊水地としての役割を押しつけ 越流堤」そのものには該当しないとしても,昭和56年嵩上げ工事後も事実上の越流堤としての機能を有し続け,ほかの地域を洪水被害から守るため,住宅地である荒崎地区が事実上の遊水地としての役割を押しつけられている状態が長年にわたって続き,荒崎地区の住民に特別の犠牲が強いられてきた。大谷川洗堰が洪水調節の目的をもつ越流堤でなければ直ちに嵩上げ又は解消ができるはずであるのに,上下流のバランスや地域住民の意見に留意しながら「段階的に」嵩上げしようとしているのは,河川管理者が大谷川洗堰が洪水を河道から遊水地としての荒崎地区に溢れさせることを「前提」としていることになる。控訴人らは,河川管理者の主観にかかわらず,上記の状態を指して,大谷川洗堰が越流堤であると表現するものである。イ(ア) 国家賠償法2条1項の「営造物の設置又は管理の瑕疵」とは,「営造物が通常有すべき安全性を欠いていること」をいう。 (イ) 河川管理者である岐阜県知事は,本来,破堤,越流箇所については最優先で改修する必要があるにもかかわらず,また,大谷川洗堰の解消自体は容易であるにもかかわらず,河川管理の必要上,大谷川洗堰を残置し続け,本件水害が発生するまで,大谷川洗堰及び荒崎地区について何らの浸水対策もしなかった。被控訴人は,大谷川洗堰が越流機能を持った工作物であることを認めているところ,一貫して,雨量が一定量を超えた場合に,上下流のバランスを図るために大谷川洗堰から越流させることによってほかの部分の破堤,越流を防ぎ,大谷川左岸,下流域及び上流域の住民の生活や財産を守ることを計画,実施してきたものであり,大谷川洗堰から計画的に,住宅地である荒崎地区に越流させてきたともいえ,控訴人ら荒崎地区の住民に長年にわたって浸水被害を与え続け,特別の犠牲を強いてきたもので ることを計画,実施してきたものであり,大谷川洗堰から計画的に,住宅地である荒崎地区に越流させてきたともいえ,控訴人ら荒崎地区の住民に長年にわたって浸水被害を与え続け,特別の犠牲を強いてきたものである。そして,本件水害は,岐阜県知事が想定していたとおりに発生したものである。したがって,本件水害は人災というべきであるから,自然災害について治水事業上の諸制約や諸事情を考慮した後述の大東水害訴訟判決の基準の適用場面ではない。(ウ) また,原洗堰は,設置当初から,越流堤として,洪水時に越流しても破壊されないようにコンクリートで被覆された工作物として設置され,昭和56年嵩上げ工事後の本件洗堰も,その構造機能に基本的な変化はなく,越流を整然と実施するためのスポイラーが設置されるなど,越流に一層配慮された構造になったものであり,本件洗堰は,その設置の目的である越流機能を十分に果たす完成した工作物である。したがって,改修途上の部分と,完成された管理施設である本件洗堰とは区別されるべきであり,本件はダムの管理の瑕疵に類似するから,治水事業上の諸制約や諸事情を考慮した後述の大東水害訴訟判決の基準の適用場面ではない。 ウ「営造物が通常有すべき安全性を欠いていること」には,営造物を構成する物的施設自体に存する物理的欠陥ないし不備によって他人に危害を及ぼす危険性のある「物的性状瑕疵」のみならず,営造物がその本来の供用目的に沿って利用される際の供用態様いかんによって生じる「機能的瑕疵」も含まれる(いわゆる「機能的瑕疵の法理」)。そして,公共性を有する営造物を供用目的に従って積極的に供用した場合の機能的瑕疵の有無は,「侵害行為の態様と侵害の程度,被侵害利益の性質と内容,侵害行為のもつ公共性ないし公益上の必要性 そして,公共性を有する営造物を供用目的に従って積極的に供用した場合の機能的瑕疵の有無は,「侵害行為の態様と侵害の程度,被侵害利益の性質と内容,侵害行為のもつ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等を比較検討するほか,侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況,その間に取られた被害の防止に関する措置の有無及びその内容,効果等の事情をも考慮し,これらを総合的に考察して決すべきものである」(最高裁昭和56年12月16日大法廷判決・民集35巻10号1369頁(以下「大阪国際空港訴訟判決」という。)参照)とされている(以下,上記判断基準を,便宜上,「機能的瑕疵判断基準」という。)。エ前述のとおり,大谷川洗堰は越流堤であり,その構造どおりの越流機能を発揮することによって,住宅地である荒崎地区に本件水害を含む浸水被害が何度も生じ,荒崎地区の住民に多大な危害を生ぜしめている。その一方で,対岸及び上下流の住民は深刻な浸水被害にはほとんど遭ってこなかった。機能的瑕疵の法理の適用又は類推適用にあたっては,「特別の犠牲」及び「不平等」からの救済という要素が重視されているところ,大谷川洗堰は,杭瀬川及び相川流域において対岸及び下流での破提,溢水等を回避する機能を果たす目的で設置管理されてきた公共性を有する営造物であり,昭和50年に荒崎地区が市街化区域に指定され,その前後に多数の住民が荒崎地区に居住するようになった後も,荒崎地区への浸水対策も取られないまま大谷川洗堰の上記機能は維持され続け,その供用目的である越流機能の発揮により,控訴人ら荒崎地区の住民は,約45年間に15回の浸水被害を受け,長期間にわたって継続する深刻,重大な精神的,経済的犠牲を強いられるという,「不平等」な治水対策による「特別の犠牲」を強いられ続けてきた。 人ら荒崎地区の住民は,約45年間に15回の浸水被害を受け,長期間にわたって継続する深刻,重大な精神的,経済的犠牲を強いられるという,「不平等」な治水対策による「特別の犠牲」を強いられ続けてきた。よって,本件洗堰からの越流による本件水害の被害については,機能的瑕疵の法理を適用又は類推適用すべきである。なお,機能的瑕疵の法理にとって,管理者が営造物の利用につき適切な制限を加えるなどして影響力を行使することが可能かどうかは重要ではないし,河川管理者は,大谷川洗堰からの越流の態様及び程度については影響力を行使でき,実際,嵩上げ工事等により影響力を行使してきたから,大谷川洗堰からの越流は自然現象ではなく,人為的なものである。オもっとも,機能的瑕疵の法理は,公共性を有する営造物を供用目的に従って積極的に供用した結果生じた周辺の住民の継続的な被害(主に問題となってきたのは健康被害)を救済する法理であるのに対し,本件は,河川管理の問題であり,かつ洪水によって浸水被害がもたらされるという自然的要因が無視できず,また,被害も継続的ではあるが数年に1回程度であり,住民らの被害は財産的な被害が中心であることや,被控訴人が,大谷川洗堰の越流機能を供用目的として認めていないといった特徴があるため,本件における機能的瑕疵の有無の判断においては,前記機能的瑕疵判断基準に河川管理的側面を考慮した判断枠組みを設定すべきである。カ機能的瑕疵判断基準に河川管理的側面を考慮した判断枠組みは,①大谷川洗堰の設置により住民らが浸水被害を受けることの予見可能性,②侵害行為の態様と侵害の程度,③被侵害利益の性質と内容,④侵害行為のもつ公共性ないし公共上の必要性の内容と程度,⑤侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況,⑥その間に取られた被害の防 見可能性,②侵害行為の態様と侵害の程度,③被侵害利益の性質と内容,④侵害行為のもつ公共性ないし公共上の必要性の内容と程度,⑤侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況,⑥その間に取られた被害の防止に関する措置の有無及びその内容,効果,⑦被害の発生防止措置を講ずることができなかった諸制約並びに⑧その他の事情とするのが相当である。キ上記判断枠組みの個々の要素については,以下のとおりである。(ア) 予見可能性前述のとおり,河川管理者である岐阜県知事は,荒崎地区を事実上の遊水地とし,原洗堰については2年に1回,昭和56年嵩上げ工事後の本件洗堰については5年に1回(少なくとも10年に1回)の越流による荒崎地区の浸水被害発生を予見していた。(イ) 侵害行為の態様及び程度侵害行為の態様としては,大谷川洗堰からの越流による荒崎地区の浸水被害は,ほかの地域の洪水被害を防ぐために,河川管理の一環として計画された人災ともいうべきものであり,荒崎地区という特定の地域に集中していること及び上記(ア)のとおり継続して発生していることに特徴がある。侵害の程度は,後述の争点(3)(控訴人らに生じた損害)のとおり,甚大な被害が生じたものである。(ウ) 被侵害利益の性質及び内容被侵害利益は,水害による財産的損害及び精神的損害であり,後述のとおり,控訴人らには深刻かつ甚大な被害が生じた。(エ) 侵害行為のもつ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度前述のとおり,大谷川洗堰は,流域住民のための公共的な役割を果たしているといえる。(オ) 侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況前述のとおり,大谷川洗堰が設置された以降,同洗堰からの越流による荒崎地区への浸水被害が繰り返され,侵害行為が継続し いるといえる。(オ) 侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況前述のとおり,大谷川洗堰が設置された以降,同洗堰からの越流による荒崎地区への浸水被害が繰り返され,侵害行為が継続している。特に,昭和50年に荒崎地区が市街化区域に指定されてから,多くの住民が荒崎地区に居住するようになり,越流水による浸水被害が深刻化した。岐阜県内のほかの河川と比較しても,ここまで浸水被害が繰り返し発生しているのは荒崎地区のみであり,極めて特殊な被害状況が継続してきた。(カ) その間に取られた被害の防止に関する措置の有無及びその内容,効果本件水害までの間,荒崎地区に越流水が及ばないようにするための浸水被害防止措置は,昭和56年嵩上げ工事以外には全く実施されていないし,実施することを前提とした検討もなされていない。なお,昭和56年嵩上げ工事による0.6メートルの嵩上げも,大谷川洗堰の越流堤としての性格・機能が変化したものではなく,その後も5年に1回程度の割合で越流被害が発生しているから,浸水被害防止措置は全く実施されていないと評価すべきである。(キ) 被害防止措置を講ずることができなかった諸事情があるか。河川管理者は,これまで,二線堤の設置等の効果的な浸水対策の実施を検討すらしてこなかったのであるから,上記諸事情はない。(ク) その他の事情大谷川洗堰が,杭瀬川,相川流域の破堤等を防止するため越流させることを目的として設置された営造物であり,河川管理者は,これにより,前述のように頻繁な荒崎地区への越流が起こることを想定した上で大谷川洗堰を設置管理していた。このように,荒崎地区の住民を犠牲にしてほかの流域一帯の住民の財産や生活を守ろうとす 管理者は,これにより,前述のように頻繁な荒崎地区への越流が起こることを想定した上で大谷川洗堰を設置管理していた。このように,荒崎地区の住民を犠牲にしてほかの流域一帯の住民の財産や生活を守ろうとする河川管理方法を選択した場合には,河川管理者は,犠牲となる荒崎地区の住民らに対して,特に,市街化区域に指定した以降は,必要かつ十分な浸水対策を講ずる必要があったにもかかわらず,浸水対策の検討すらしなかった。ク以上によれば,控訴人らは,本件水害が発生した時点において,受忍限度をはるかに上回る危害を被っていたといえ,大谷川洗堰には機能的瑕疵が存するといえる。(被控訴人の主張)ア大谷川洗堰の機能大谷川洗堰は,洪水を分流することを目的とした施設である「越流堤」ではなく,大谷川の段階的な河川改修の過程で嵩上げを行っていく改修途上の「堤防」(河川法3条2項の河川管理施設の一つ)であり,氾濫を防ぐことを役割とするものである。また,荒崎地区は,河川法施行令1条2項所定の河川整備計画において計画高水流量を低減するものとして定められた遊水地ではなく,氾濫によって被害が生じた場所である。江戸時代から明治時代にかけて,大谷川左岸に綾里輪中及び静里輪中が,右岸に十六輪中がそれぞれ成立し,昭和29年土地改良事業が行われる前は,大谷川右岸は無堤で,大垣の市街地を洪水から防御するため,荒崎地区が遊水地状態とされていた時代があった。昭和29年土地改良事業の事業計画により,無堤であった大谷川右岸一帯の農地の浸水被害を軽減させる目的で右岸に築堤されたが,養老橋下流の根本的改修が実施されなければ完全な水害の除去は不可能であるため,それまでの過渡的手段として,当時としては,できる限り荒崎地区の農地の浸水被害を軽減する目的のもと, 右岸に築堤されたが,養老橋下流の根本的改修が実施されなければ完全な水害の除去は不可能であるため,それまでの過渡的手段として,当時としては,できる限り荒崎地区の農地の浸水被害を軽減する目的のもと,原洗堰が整備されたものである。同事業計画において,原洗堰が「越流堤」の役割を有していたことは認められるものの,原洗堰部分も整備前に比べて約1.6メートル築堤され,築堤前は1年に数回氾濫していたものが,上記築堤後は2年に1回程度の越流となり,治水安全度は向上した。岐阜県知事は,遅くとも河川法が施行された昭和40年4月1日以降は,大谷川洗堰を河川管理施設である堤防として管理している。このことは,相川改良工事全体計画において,大谷川洗堰は連続堤により整備され解消されることとされていることや,同洗堰につき,昭和56年に0.6メートルの嵩上げが,平成20年3月に1.05メートルの嵩上げがそれぞれ実施されたことからも明らかである。なお,荒崎地区における人口増加は,荒崎地区の一部が市街化区域に指定される前の昭和40年から昭和50年までの間が顕著であり,市街化区域に指定されたことと浸水被害の深刻化との間に因果関係があるとは認められない。イ河川は本来自然発生的な公共用物であって,管理者による公用開始のための特別の行為を要することなく自然の状態において公共の用に供される物であり,通常当初から人工的に安全性を備えた物として設置され管理者の公用開始行為によって公共の用に供される道路,空港その他の営造物とは性質を異にし,もともと洪水等の自然的原因による災害をもたらす危険性を内包しているものである。そして,大谷川洗堰は,越流させることを目的とした構造物ではなく,洪水による氾濫を防ぐことを目的とした改修途上の「堤防」であり,また,荒崎地区の浸 災害をもたらす危険性を内包しているものである。そして,大谷川洗堰は,越流させることを目的とした構造物ではなく,洪水による氾濫を防ぐことを目的とした改修途上の「堤防」であり,また,荒崎地区の浸水被害は,大谷川洗堰からの溢水のみならず,内水により生じているものである。大阪国際空港訴訟判決は,通常,空港施設自体は何ら危害を加えるものではないところ,これを施設本来の用法に従って供用すること,すなわち,飛行機の航行及び離着陸によって騒音が発生することから,飛行機の航行に空港施設を供用していることとの関連において瑕疵があるとしたものであって,営造物が供用目的に沿って利用されることの関連において危害を生ぜしめる危険性がある場合についてのものであるのに対し,大谷川洗堰は越流させることを目的とした構造物ではなく,洪水による氾濫を防ぐことを目的とした改修途上の「堤防」であるから,本件を上記判決と同様に論ずることはできない。控訴人らの主張は,これらの点について事実を誤認し又は根拠を欠くものであり,上記判決に係る瑕疵の判断基準を本件に当てはめることはできない。(2)争点(2)(大谷川洗堰と同洗堰を有する大谷川について,流域対策に関する河川管理の瑕疵が認められるか。)について(控訴人らの主張)ア大谷川洗堰の機能前記(控訴人らの主張)アのとおり,原洗堰は,主として河積狭小部の負担を軽減し,洪水時の水位上昇を抑えるために洪水を越流させる目的で築造され,荒崎地区を越流が生じた場合の遊水地とする越流堤で,洪水が河道から溢れることを前提にした河川管理施設である。そして,昭和56年嵩上げ工事後の本件洗堰も事実上の越流堤としての機能を有し続け,ほかの地域を洪水被害から守るため,住宅地である荒崎地区が事実上の遊水地としての役割を 前提にした河川管理施設である。そして,昭和56年嵩上げ工事後の本件洗堰も事実上の越流堤としての機能を有し続け,ほかの地域を洪水被害から守るため,住宅地である荒崎地区が事実上の遊水地としての役割を長年にわたって押しつけられている状態が続き,荒崎地区の住民に特別の犠牲が強いられてきた。イ河川管理の瑕疵の内容(ア) 河川法1条は,「河川の流水によって生ずる災害の発生の防止」,すなわち,洪水防御を目的とした河川管理(広義の河川管理)について規定したものといえ,昭和52年の「総合治水対策特定河川事業の実施について」(通達),河川審議会の「総合的な治水対策の推進方策についての中間答申」,昭和62年の「超過洪水対策及びその推進方策について」(答申),平成11年に建設省河川局で流域対策の実施が提唱されていたこと及び平成12年の河川審議会中間答申「流域での対応を含む効果的な治水のあり方」(甲A4)のとおり,流域対策はこの広義の河川管理に当たるから,河川管理者は,上記目的のために,流域対策も含めてあらゆる方法を取るべきことになる。なお,河川法は,第2章「河川の管理」第2節「河川工事等」を規定しているが,これは,河道の流下機能の整備としての河川管理(狭義の河川管理)の一部にすぎない。また,被控訴人は,河川管理者が規制等の権限を行使できるのは河川区域等に限られる旨主張するが,河川管理者としてなすべきことと,河川管理者の規制等の権限の及ぶ範囲とは異なる。(イ) 岐阜県知事は,昭和40年4月に河川法が施行される以前から,河川管理者として大谷川を管理しており,越流堤の機能を有する原洗堰の設置を許可した。河川法が施行された後も,岐阜県知事は,建設大臣から大谷川の管理者として指定され,大谷川右岸堤防とともに 以前から,河川管理者として大谷川を管理しており,越流堤の機能を有する原洗堰の設置を許可した。河川法が施行された後も,岐阜県知事は,建設大臣から大谷川の管理者として指定され,大谷川右岸堤防とともに大谷川洗堰の管理を引き継いだ。被控訴人は,本件洗堰が越流堤の機能を有していること及び本件洗堰からの越流による荒崎地区における継続的な浸水被害を認識しており,荒崎地区に5年に1回の割合で浸水被害が生じることや,本件水害の発生を予測できたにもかかわらず,これを放置してきた。なお,「昭和50年度台風6号調査報告書」(乙A21)において,建設省も,「荒崎地区は従来からの遊水地で,本来ならば家屋の建て得ないところである」との認識及び洪水対策のためには遊水地域が必要であるとの認識を示している。(ウ) 原判決添付の別紙「被害状況」のとおり,昭和34年から昭和56年嵩上げ工事が完成するまでの間,原洗堰からの越流は10回(約2年に1回)であり,同工事による0.6メートル嵩上げから本件水害が発生する前までの約20年間も,本件洗堰からの越流は4回(約5年に1回)と,それ以前に比べると減ったものの,市街化区域に対する安全性としては不十分であり,特に,平成2年には数百世帯が床上浸水する被害が生じた。(エ) これらの各事情からすると,大谷川洗堰につき,昭和56年嵩上げ工事後も,引き続き越流を少なくする改修等がなされるべきであったにもかかわらず,本件水害が発生するまでの間,何らの改修工事もなされなかった。大谷川洗堰の早期の改修が困難であるとしても,都市計画法7条2項が,市街化区域は,既に市街地を形成している区域及び概ね10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域とする旨規定し,「都市計画法による市街化区域及び市街化調整 るとしても,都市計画法7条2項が,市街化区域は,既に市街地を形成している区域及び概ね10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域とする旨規定し,「都市計画法による市街化区域及び市街化調整区域の区域区分と治水事業との調整措置等に関する方針について」(昭和45年1月8日発各都道府県知事宛ての建設省都市局長・河川局長連名の通達)2条は,既に市街地を形成し市街化区域に含まれることになった区域は,治水担当部局は当該区域において将来溢水,湛水等による災害が発生することがないよう必要な措置を講ずることに務める旨,同通達3条は,概ね10年以内に優先かつ計画的に市街化を図るべき区域の設定に当たっては,都市計画担当部局と治水担当部局とはあらかじめ十分協議して都市計画の案を作成するものとし,その際,溢水,湛水等により災害発生の危機が大きいと想定される区域等は原則として市街化区域に含めないと定めていたことからすると,河川管理者は,市街化区域に指定されてから10年が経過する昭和60年ころまでには(遅くとも,平成2年の浸水被害後直ちに),荒崎地区の住民を本件洗堰からの越流による浸水被害から守るため,10年に1回程度発生する雨量によっても荒崎地区の浸水被害が生じないように,後述の二線堤設置等の浸水対策を取るべきであったにもかかわらず,このような対策も取られなかった。(オ) したがって,上記アのような大谷川洗堰の機能からすると,荒崎地区について,本件洗堰からの越流があり得ることを前提として,流域対策としての浸水対策が行われていないことは,大谷川の河川管理の瑕疵に当たる(河道の流下機能の整備,河川改修としての本件洗堰の閉鎖や嵩上げの遅れが瑕疵に当たると主張しているものではなく,本件洗堰の閉鎖や嵩上げが達成されるまでの間,それ以外の 川管理の瑕疵に当たる(河道の流下機能の整備,河川改修としての本件洗堰の閉鎖や嵩上げの遅れが瑕疵に当たると主張しているものではなく,本件洗堰の閉鎖や嵩上げが達成されるまでの間,それ以外の方法による流域対策としての浸水対策が行われていないことが河川管理の瑕疵に当たると主張するものである。)。(カ) なお,被控訴人は,昭和56年嵩上げ工事を実施し,平成9年に相川改良工事全体計画を策定した旨主張するが,昭和56年嵩上げ工事では浸水対策として不十分であることは前述のとおりであるし,相川改良工事全体計画は,本件洗堰への言及を欠き,本件洗堰からの越流がいつ,どのように解消されるのか不明であり,本件洗堰から5年に1回の割合で荒崎地区に越流する状態は放置されたままであるから,必要な対策が取られていたとはいえない。ウ河川管理の瑕疵の判断基準(ア)a 国家賠償法2条1項の営造物の設置又は管理の瑕疵とは,「営造物が通常有すべき安全性を欠いていること」をいう。そして,河川管理の瑕疵を判断する基準として,最高裁昭和53年(オ)第492号,第493号,第494号昭和59年1月26日第一小法廷判決・民集38巻2号53頁(以下「大東水害訴訟判決」という。)は,すべての河川に適用される判断基準として,「過去に発生した水害の規模,発生の頻度,発生原因,被害の性質,降雨状況,流域の地形その他の自然的条件,土地の利用状況その他の社会的条件,改修を要する緊急性の有無及びその程度等諸般の事情を総合的に考慮し,前記諸制約のもとでの同種・同規模の河川の管理の一般水準及び社会通念に照らして是認しうる安全性を備えていると認められるかどうかを基準として判断すべきである」としている(以下,便宜上,上記基準を「一般的瑕疵判断基準」ともいう。)。 河川の管理の一般水準及び社会通念に照らして是認しうる安全性を備えていると認められるかどうかを基準として判断すべきである」としている(以下,便宜上,上記基準を「一般的瑕疵判断基準」ともいう。)。b 被控訴人は,本件における河川管理の瑕疵の有無は,大東水害訴訟判決において,改修計画に基づいて改修中の河川に適用される判断基準として述べられた「右計画が全体として右の見地からみて格別不合理なものと認められないときは,その後の事情の変動により当該河川の未改修部分につき水害発生の危険性が特に顕著となり,当初の計画の時期を繰り上げ,又は工事の順序を変更するなどして早期の改修工事を施行しなければならないと認めるべき特段の事由が生じない限り,右部分につき改修がいまだ行われていないとの一事をもって河川管理に瑕疵があるとすることはできないと解すべきである」との基準(以下,便宜上,「具体的瑕疵判断基準」ともいう。)に基づき判断すべきである旨主張する。c しかし, 相川改良工事全体計画が,完全バック堤の完成時期や工事の順序も記載されていないものであることに照らせば,大谷川が「改修計画に基づいて改修中の河川」とはいえない。具体的瑕疵判断基準の適用の前提となる「改修計画」は,工事実施基本計画や河川整備基本方針のように将来の目標を定めた計画ではなく,具体的な工事の時期や順序が定められている河川整備計画のような改修計画のことである。なお,「相川・大谷川・泥川床上浸水対策特別緊急事業」により,平成20年3月,本件洗堰が1.05メートル嵩上げされた(平成20年嵩上げ工事)が,これは,本件水害後に計画,実施されたものであるから,「改修計画」として考慮すべきものではない。また,長松橋の嵩上げは,その嵩上げ高からす が1.05メートル嵩上げされた(平成20年嵩上げ工事)が,これは,本件水害後に計画,実施されたものであるから,「改修計画」として考慮すべきものではない。また,長松橋の嵩上げは,その嵩上げ高からするとTP10.88メートルの最終的な改修計画に向けられたもので,平成20年嵩上げ工事とは無関係である。大谷川においては,平成7年ころから本件水害までの間は,護岸工事など河道の流下能力を高める効果がさほど見込まれない工事が多く,平成20年嵩上げ工事の前提となる工事や,河道の流下能力を高める工事は実際にはほとんど何も行われていない。他方,本件水害後は,本件洗堰の嵩上げに役立つ改修工事が多く行われている。河川管理者は,本件水害後に,真剣に嵩上げに向けた工事をするようになったのである。d また,大東水害訴訟判決が具体的瑕疵判断基準の前提とした「河川管理」は,河川の流下機能の整備,改修であるから,上記基準は,改修計画の遅れという観点から瑕疵があるかどうかを判断する場合の基準にすぎないところ,前述のように,控訴人らが主張している河川管理の瑕疵は,相川改良工事全体計画に基づく改修中の間においても,河川の流下機能の整備である本件洗堰の閉鎖・嵩上げ以外の方法により,流域対策として,荒崎地区に浸水被害が生じないような対策を検討し,実施すべきであったにもかかわらず,これを検討,実施してこなかったことであるから,本件においては,具体的瑕疵判断基準ではなく,一般的瑕疵判断基準を適用すべきである。e さらに,前述のとおり,大谷川洗堰は,人工的に越流構造をもって設置された工作物であり,荒崎地区の市街化が進展する中で,このような工作物からの越流が繰り返し生じているにもかかわらず,長年にわたって抜本的解決がなされずに放置されてきたものであり, 流構造をもって設置された工作物であり,荒崎地区の市街化が進展する中で,このような工作物からの越流が繰り返し生じているにもかかわらず,長年にわたって抜本的解決がなされずに放置されてきたものであり,河川に設置されたダムや水門等の人工の営造物による河川管理のあり方が問題となる側面が強く,大東水害訴訟判決において具体的瑕疵判断基準が適用された未改修河川や改修途上の堤防の破堤,溢水が問題となっているわけではないことからも,一般的瑕疵判断基準を適用すべきである。f そして,一般的瑕疵判断基準の適用においても,次のような本件の特性を十分に踏まえた上で,判断すべきである。まず,大東水害訴訟判決のいう「河川管理の特殊性」は,河川改修,とりわけ河道改修についてのものであるところ,流域対策としての浸水対策には上記特殊性は当てはまらないから,これを考慮する必要はない。また,大東水害訴訟判決のいう財政的・技術的・社会的な諸制約(以下,単に「諸制約」ともいう。)も,許可工作物が存在することによって生じる危険を除去し,減殺するために,当該許可工作物又はこれと接続する河川管理施設のみを改修し,整備する場合の諸制約は,広範囲にわたる河川流域に及ぶ河川管理施設を改修し,整備する場合の諸制約よりも通常は相当に小さいというべきである(最高裁昭和63年(オ)第791号平成2年12月13日第一小法廷判決・民集44巻9号1186頁(以下「多摩川水害訴訟判決」という。)参照)から,荒崎地区という限られた地域への浸水対策として諸制約を考慮すれば足りる。(イ) 本件の特性を十分に踏まえた上での一般的瑕疵判断基準への具体的な当てはめa 過去に発生した水害の規模,発生頻度前述のとおり,大谷川洗堰から荒崎地区への越流は,本件水害までの過 イ) 本件の特性を十分に踏まえた上での一般的瑕疵判断基準への具体的な当てはめa 過去に発生した水害の規模,発生頻度前述のとおり,大谷川洗堰から荒崎地区への越流は,本件水害までの過去45年間に15回(原洗堰から約2年に1回の頻度で,本件洗堰から約5年に1回の頻度)にも及び,特に平成2年の越流においては数百世帯が床上浸水する被害が生じた。b 過去に発生した水害の発生原因上記aの水害及び本件水害の発生原因は,すべて大谷川洗堰からの越流水である。被控訴人が主張する本件水害における内水の量(168万立方メートル)は,その計算根拠が薄弱で,土壌に浸透した量や,水位上昇までの間に大谷川に排水された量などを考えると,それほどの内水量があったか疑問である上,上記内水のみでは浸水被害,特に床上浸水は起こらず,本件洗堰からの越流によって初めて浸水被害が発生した。c 被害の性質控訴人らは,本件水害により,後述(争点(3)(控訴人らに生じた損害))のとおり,経済的被害,健康被害,精神的被害などの多様な損害を受けた。控訴人らに生じた被害は,市街化区域である荒崎地区という同一の地域の住民が,大谷川洗堰からの越流という,同一箇所からの同一の原因により,頻繁に浸水被害を受けたものであり,本件水害による浸水面積は統計資料がある中では過去最大の238ヘクタールに及ぶ広範かつ甚大なもので,河川管理の不平等性により「特別の犠牲」として生じたものである。d 本件水害の降雨状況本件水害をもたらしたのは台風6号による降雨であるが,大谷川に近い大垣や赤坂での降雨量は,大垣の観測地点で累計降雨量が178. 5ミリメートル,赤坂の観測点で263ミリメートルであり,過 本件水害をもたらしたのは台風6号による降雨であるが,大谷川に近い大垣や赤坂での降雨量は,大垣の観測地点で累計降雨量が178. 5ミリメートル,赤坂の観測点で263ミリメートルであり,過去の水害時の降雨状況(原判決添付の別紙「被害状況」参照)と比較しても異例の降雨とはいい難く,むしろ,過去の水害時よりも降雨量は少ない上に,相川改良工事全体計画における計画日雨量265ミリメートルを下回る。また,大谷川は,杭瀬川を介して牧田川や揖斐川本川の洪水の影響を受けるとされているものの,本件水害時には,揖斐川より更に上流にあり大谷川に近い杭瀬川の高渕の水位が本件洗堰の天端高より相当低い時点から本件洗堰からの越流が始まっており,揖斐川本川の水位の影響が本件水害にどの程度の影響を与えたのかは疑問であることから,揖斐川上流域での豪雨による本件水害への影響はそれほどないと考えるのが自然である。相川上流域の関ヶ原観測所での降雨状況についても,日降雨量222ミリメートルで異常な降雨とまではいいがたい。よって,本件水害に関係する降雨状況は,異常な豪雨ではない。e 流域の地形その他の自然的条件大谷川の地形的特徴は,前提事実(4)「大谷川の概要」のとおりである。f 土地の利用状況その他の社会的条件前記(1)(控訴人らの主張)アのとおりである。g 改修を要する緊急性の有無及びその程度後述(争点(3)(控訴人らに生じた損害))のとおり,控訴人らは,本件水害により,経済的被害のみならず,健康被害,精神的被害,長期間に及ぶ生活の不便など,多種多様で甚大な被害を受けた。控訴人らは,本件水害以前にも,度重なる浸水被害により,上記のような被害を 本件水害により,経済的被害のみならず,健康被害,精神的被害,長期間に及ぶ生活の不便など,多種多様で甚大な被害を受けた。控訴人らは,本件水害以前にも,度重なる浸水被害により,上記のような被害を継続的に受けてきた。このような状況は,控訴人らを含む荒崎地区の住民に特別の犠牲を強いるものであり,緊急に改修を要するといえる。h その他諸般の事情前記アで述べた,荒崎地区を事実上の遊水地とする越流堤であるという大谷川洗堰の機能を特に重視すべきである。i 同種・同規模の河川の管理の一般水準及び社会通念に照らして是認しうる安全性を備えていると認められるか。荒崎地区のように,同一の地域・住民に,同一の原因で,概ね10年に1度の割合により,数百戸という規模で床上浸水被害が生じているところは,岐阜県内においてはほかに例がなく,大谷川及び荒崎地区は,岐阜県知事が管理する河川では最大の被災地域である。したがって,本件水害当時,同種・同規模の河川の管理の一般水準及び社会通念に照らして是認しうる安全性を備えていたとはいえない。被控訴人は,板取川や水門川と比較して,氾濫の頻度としては著しく高いという状況ではないと主張する。しかしながら,市街化区域に指定された住宅地である荒崎地区と異なり,板取村及び洞戸村は,山あいの集落が点々と続く地域である上,原判決添付の別紙「県内他河川の水害発生状況」のとおり,板取村における板取川からの水害被害は,昭和56年から平成15年までの23年間で3回であるが,昭和56年の被害を除いて,水害規模は極めて小さく,洞戸村における板取川からの水害被害は,平成14年の2件の床上浸水を除いてすべて床下浸水で,その発生件数もわずかである。板取川の水害被害はそれぞれ浸水地域・規模が異なっており同一の原因 く,洞戸村における板取川からの水害被害は,平成14年の2件の床上浸水を除いてすべて床下浸水で,その発生件数もわずかである。板取川の水害被害はそれぞれ浸水地域・規模が異なっており同一の原因による水害被害とは考えられない。また,本件洗堰からの越流によって最初に浸水被害を受ける地域である島町と,水門川における代表的な水害被害地域とされる八島町との比較(原判決添付の別紙「県内他河川の水害発生状況」の表3)及び島町を含む荒崎支所と八島町を含む中川支所における浸水被害の比較(同表4)によれば,水門川における浸水被害は,流域の多地域に,内水や道路冠水によって,数十戸程度の浸水被害が生じているものであり,浸水の原因,態様及び被害の程度は本件水害とは異なる。そもそも,「浸水被害」の比較ではなく,「越流(氾濫)頻度」が問題であるところ,ほかの河川の浸水被害は,越流(氾濫)によるものか,内水によるものか不明である。また,原判決が指摘している杭瀬川の浸水被害についても,浸水の原因は越流によるものか内水によるものか不明である上,浸水被害が発生した場所は同一でなく,被害戸数も少ないものである。(ウ) なお,具体的瑕疵判断基準によっても,河川の改修,整備の段階に対応する安全性は確保されていなければならないところ,前記(イ)で述べたことや,前述のとおり,大東水害訴訟判決がなされた当時とは,流域対策についての河川管理の考え方が大きく変化してきているのであるから,この点を十分に取り込んで判断すべきであることからすると,以下のとおり,上記基準によっても,荒崎地区について,河川の改修,整備の段階に対応する安全性が確保されていないことは明らかである。a 大谷川に係る河川計画の合理性相川改良工事全体計画は,各改修工事についても 基準によっても,荒崎地区について,河川の改修,整備の段階に対応する安全性が確保されていないことは明らかである。a 大谷川に係る河川計画の合理性相川改良工事全体計画は,各改修工事についても,工事全体の完成においても期限やおおまかな目安さえ定められていない。相川改良工事全体計画において,計画高水流量は,相川と大谷川の各地点の最大値をもって決定することとされ,相川と杭瀬川の合流点は毎秒600立方メートル,大谷川と相川の合流点は毎秒110立方メートルとされ,全量を河道処理することとされたが,このような定め方では計画が遠大すぎて有効な対策がかえって遅れるため,総合治水,浸水受容型の治水が提唱されるに至っている(甲A4)ことからすると,上記計画の内容が合理的か疑問である。本件水害当時,単に検討中,準備中であった計画は具体的瑕疵判断基準における河川計画には該当しないし,本件水害後に計画,実施された「相川・大谷川・泥川床上浸水対策特別緊急事業」を考慮するのは不当である。仮に,株式会社A(現在の商号は「株式会社B」。以下,商号変更の前後を通じて「A」という。)の平成8年度の報告書において,相川改良工事全体計画と同時期に本件洗堰を1.05メートル嵩上げすることが提案されていたことを考慮するとしても,同提案では,①大谷川左右岸2.8K~4.2Kの区間の堤防を計画堤防高TP10.88メートルまで嵩上げし,②大谷川右岸0.9K~2.8Kの区間の堤防を暫定的にTP9.6メートルまで嵩上げし,③本件洗堰をTP8. 85メートルまで嵩上げするという順序で行うこととされているところ,上記③の完工までに相当長期間を要するものであり,その間,本件洗堰からの越流による浸水被害発生の危険が放置されることになるから,不合理な案である。 上げするという順序で行うこととされているところ,上記③の完工までに相当長期間を要するものであり,その間,本件洗堰からの越流による浸水被害発生の危険が放置されることになるから,不合理な案である。b 事情の変動による計画の変更等の特段の事由の有無昭和51年の岐阜県下一円に発生した集中豪雨による浸水被害以降,平成の初めにかけて,岐阜県内のほかの河川の改修整備が急速に進められたため,平成元年ころ以降は,同一箇所からの浸水被害により数百世帯単位で床上浸水が繰り返される地区は荒崎地区以外にはなくなった。さらに,大谷川流域で市街化が進み,山林が減少したことにより,平成2年の水害,本件水害と,その浸水被害は,ますます甚大かつ深刻なものになった。これらの各事情からすると,「その後の事情の変動により当該河川の未改修部分につき水害発生の危険性が特に顕著となり,当初の計画の時期を繰り上げ,又は工事の順序を変更するなどして早期の改修工事を施行しなければならないと認めるべき特段の事由」があったといえる。そうであるにもかかわらず,河川管理者は,何らの浸水対策も取らなかった。c 具体的瑕疵判断基準の適用においては,「同種・同規模の河川の管理の一般水準及び社会通念に照らして是認しうる安全性を備えている」か否かの比較検討をしなければならないところ,前述のとおり,荒崎地区のように,同一の地域・住民に,同一の原因で,概ね10年に1度の割合により,数百戸という規模で床上浸水被害が生じているところは,岐阜県内においてはほかに例がなく,大谷川及び荒崎地区は,岐阜県知事が管理する河川では最大の被災地域であるから,本件水害当時,通常有する安全性を備えていたとはいえない。d 段階的安全性の判断においても 内においてはほかに例がなく,大谷川及び荒崎地区は,岐阜県知事が管理する河川では最大の被災地域であるから,本件水害当時,通常有する安全性を備えていたとはいえない。d 段階的安全性の判断においても,河川管理者において,甚大な被害の発生を具体的に予見し,浸水対策を取るための諸制約は大きくなく,他地域の安全性は高まっていたのに荒崎地区の被害は深刻になっていたという本件水害の特殊性を十分に考慮すべきであり,改修計画に基づく改修が行われていても,当該改修により,合理的期間内に,予見される被害に対する安全性を備えることができる現実的な改修予定がない場合には,当該改修とは別途,予見される被害への対策がなされていなければ,瑕疵があるというべきである。エ岐阜県知事が取るべきであった浸水対策の内容岐阜県知事は,河川改修工事が完成するまでの間,10年に1回程度発生する雨量によっても荒崎地区に浸水被害が生じないように,遅くとも,平成2年の浸水被害後直ちに次のような対策を取るべきであったにもかかわらず,これを怠ったものであり,5年経過後の平成7年ころには,河川管理に瑕疵がある状態となっていた。(ア) 二線堤の設置河川管理者は,本件洗堰と住宅地の間を南北に走っている県道養老赤坂線を標高9メートルに嵩上げし(約1メートルの土盛りと約1メートルの鉄筋コンクリート擁壁の設置),道路と共用の二線堤を設置する措置を取るべきであった。この場合,本件洗堰からの越流水は,二線堤,十六輪中堤,L工場,相川堤防及び大谷川堤防によって囲まれた部分に貯留することとなり,貯留量は合計330万立方メートルとなる。上記貯留量は,本件水害による本件洗堰からの越流量(334万立方メートル)とほぼ等しく,二線堤が設置されていれば,本件水害は防止できた。 ととなり,貯留量は合計330万立方メートルとなる。上記貯留量は,本件水害による本件洗堰からの越流量(334万立方メートル)とほぼ等しく,二線堤が設置されていれば,本件水害は防止できた。これは,河川管理者から業務を委託されたAが平成14年1月に作成した「公共広域基幹河川改修事業相川・大谷川・泥川改修方法検討業務報告書」(甲A37。以下,「平成13年度報告書」という。)に記載されている「新輪中堤計画」に類似するものであるところ,その事業費は約3億4000万円とされ,同社は,予算的にも水理的にも問題はないという意見を述べている。同社は,平成13年に至って,自らの策定してきた河川管理に重大な欠陥があることに気付き,近い将来,本件洗堰から荒崎地区への浸水被害が生じることを予見し,これを防止する対策として輪中堤(二線堤)設置を積極的に提案したものである。そして,諸制約について,道路と共用の二線堤であれば,本堤が完成した後も無用とはならず,建築費用を道路管理者と按分できる上,宮城県鹿島台町で計画されている二線堤と同様,本堤と二線堤の間の土地について用地補償をしないのであれば,その部分の用地補償費用も不要であり,財政的制約の程度は低い。農作物に被害が出た場合には,被控訴人又は大垣市において補償をすればよい。また,県道養老赤坂線の東側にある家屋については,大垣市等が補助金を出して移転を勧告し,移転できない家屋は標高9メートルの県道に接続する防水壁で囲めばよい。被控訴人は,技術的制約として内水排除の問題を挙げるが,被控訴人の主張する内水量は,浸透を無視するなど非現実的な計算方法であり,上記「新輪中堤計画」においても内水問題は検討されていないから,内水排除の問題は技術的制約とはならない。また,新たに3基の 控訴人の主張する内水量は,浸透を無視するなど非現実的な計算方法であり,上記「新輪中堤計画」においても内水問題は検討されていないから,内水排除の問題は技術的制約とはならない。また,新たに3基の水門を設置して内水を自然排水すれば,1時間に約28万トンの排水ができるから,岐阜県知事は,大垣市に対し,岐阜県知事の許可を受けて上記水門を設置管理するよう手配すればよい。なお,現在設置されている荒崎排水機は湛水するので設置し直すことになる。これらの設置費用等を考慮したとしても,10億円ないし20億円程度で二線堤は設置可能である。被控訴人は,社会的制約として,下流部や対岸の反発を挙げるが,本件洗堰からの越流はそのままとなるのであるから,これも問題とならない。(イ)改良輪中堤の設置河川管理者は,十六輪中堤から県道養老赤坂線に沿い,大谷川右岸2. 8K(岐阜垂井線)までの区間約1150メートルに,天端高9.2メートルの輪中堤を設置すべきであった。これは,平成13年度報告書に記載されている天端高9.8メートルの輪中堤設置案の問題点である輪中堤間の安全度のバランスや工事費用(約3億4000万円),工事期間の問題を解消するため,設置する輪中堤の天端高を十六輪中堤のそれより0.5メートル低い9.2メートルとしたものである。平成2年の水害時のような50年確率規模の洪水でも,輪中堤外の氾濫域の水位は9.1メートルより高くはならないとされているので,天端高を9.2メートルとしても,防災機能は十分である。天端高を9.2メートルとすることにより,地元の同意を得られやすくなり,築堤量や底辺の長さが減少し工事費や用地費が減少する上,輪中堤の設置には,「流域水防災害対策事業」として,国庫補助が受けられる。内水はポンプ メートルとすることにより,地元の同意を得られやすくなり,築堤量や底辺の長さが減少し工事費や用地費が減少する上,輪中堤の設置には,「流域水防災害対策事業」として,国庫補助が受けられる。内水はポンプ排水を行う。輪中堤設置による大谷川の水位上昇は,わずか0.006メートルから0.007メートルであり,ほとんど影響はない。なお,改良輪中堤の設置は,控訴人らが原審から一貫して主張してきた二線堤案のバリエーションにすぎないから,時機に後れた攻撃防御方法には該当しないし,仮に時機に後れたものであるとしても,河川改修事業は高度の専門的知識を要するため,意見書を作成してくれる専門家を探すのが難航したため,早期の立証ができなかったものであるから,控訴人らには故意,重過失はない。(ウ) 改良水防土のう積み河川管理者は,本件洗堰の改修工事が完工するまでの間,天端高9. 2メートルの土のう積みを設置するべきであった。 本件水害発生後の平成14年秋,大垣市は,水防土のう積み案を地域住民や地権者に示し,平成15年7月には水防土のう積み事業が完工したが,その内容は,平成20年嵩上げ工事が完工する平成19年度までの5年間,1090メートルの区間に当時の本件洗堰の天端高と同じ天端高7.8メートルの土のう積みを設置する(高さ約1メートルの土のうを1段又は2段積みにして,地表約1メートルから2メートルとする)ことにより,本件水害と同規模の越流水の住宅地への到達時間を4時間程度遅らせるもので,その総事業費は約2億0300万円であった。 上記大垣市の土のう積みでは防災機能が不十分であるが,土のうを平均三段積み(安定性を確保するため,最下段に3列,下から2段目に2列,最上段に1列の土のうを積む。)にして天端高を9.2メートルにすれば,地元の理解を う積みでは防災機能が不十分であるが,土のうを平均三段積み(安定性を確保するため,最下段に3列,下から2段目に2列,最上段に1列の土のうを積む。)にして天端高を9.2メートルにすれば,地元の理解を得ることが容易である上に,258万立方メートルの氾濫水の貯水量が確保でき,併せて毎秒5立方メートルのポンプ排水を実施すれば,本件水害と同様の規模でも床下浸水にとどめることができ,毎秒10立方メートルのポンプ排水を実施すれば,浸水被害は発生しない。 上記の改良水防土のう積みの設置費用は約5億円と見積もられ,改良輪中堤と同様,大谷川への影響はほとんどない。 また,本件洗堰を0.3メートル嵩上げし(嵩上げする高さは1.05メートルである必要はなく,0.3メートルであっても荒崎地区への浸水被害は軽減できる。),本件洗堰と同じ高さの標高7.8メートルの土のう積みを設置すれば,本件水害時の越流水をすべて湛水させることができる。 なお,改良水防土のう積みに係る主張も,改良輪中堤の設置と同様の理由により,時機に後れた攻撃防御方法には該当しない。 (エ)危険告知前記河川審議会中間答申(甲A4)等にもあるように,河川管理者は,本件洗堰からの越流によって浸水の危険が生じることについて,「浸水区域」という看板を設置したり,建築確認等の際に浸水地域の告知文書を配布するなどして,荒崎地区の住民に周知を行うべきであった。その法令上の根拠は,①河川法1条(危険告知は「総合的に管理すること」に含まれる。),②同法48条類推適用,③水防法(平成17年5月2日法律第37号による改正前のもの。以下「改正前水防法」という。)10条の2(同改正後の11条),10条の4第1項,3項(同改正後の14条1項,3項)である。大谷川は,背 防法(平成17年5月2日法律第37号による改正前のもの。以下「改正前水防法」という。)10条の2(同改正後の11条),10条の4第1項,3項(同改正後の14条1項,3項)である。大谷川は,背水に影響を及ぼす牧田川,相川及び杭瀬川の流域面積を合わせると広大な流域面積となり,洪水により相当な損害を生ずるおそれがあるから,改正前水防法10条の2の「洪水予報河川」に指定されるべき河川であった。また,荒崎地区が市街化区域に指定される際,河川管理者は,都市計画担当者との事前協議において,危険告知の条件を付して同意したものと推察される上,河川管理者は,昭和56年嵩上げ工事後も概ね10年に1回は荒崎地区に重大な浸水被害が生じることや平成2年に甚大な浸水被害が生じたことを知っていたのであるから,これらの事情に基づき,高度の危険告知義務を負っていた。危険告知は,財政的には極めて低廉な予算で実行可能であり,技術的,社会的制約も存在しない。このような措置が取られていれば,控訴人らは,荒崎地区以外の場所に住んだり,盛土や,1階をピロティ式にするなどの方法を講ずることにより,浸水被害を回避することが可能であったにもかかわらず,河川管理者が危険告知を怠ったため,本件水害により重大な損害を被った。(オ) 建物自体の浸水対策前記河川審議会中間答申(甲A4)等にもあるように,河川管理者は,宅地嵩上げ等の耐水性建築物を強力に推進すべきであり,建築確認を行う被控訴人の機関に働きかけるべきであった。本件水害後,建築確認の際に,浸水地域についての告知文書が配布されるようになったが,本件水害発生よりも前から,このような措置が取られていれば,控訴人らは,上記の危険告知と同様,浸水被害を防ぐこ 本件水害後,建築確認の際に,浸水地域についての告知文書が配布されるようになったが,本件水害発生よりも前から,このような措置が取られていれば,控訴人らは,上記の危険告知と同様,浸水被害を防ぐことができた。これは,住民が個別に行うものであるから,技術的,社会的制約は問題とならず,財政的にも,住宅の新築の際に補助金を交付すれば足りるし,水防対策特定河川事業の活用によって国庫補助を受けることが可能である。(被控訴人の主張)ア大谷川洗堰の機能大谷川洗堰は,前記(被控訴人の主張)アのとおり,大谷川の段階的な河川改修の過程で嵩上げを行っていく改修途上の「堤防」である。イ河川管理の瑕疵の内容(ア) 河川管理者の責務の内容は,「河川について,洪水,高潮等による災害の発生が防止され,河川が適正に利用され,流水の正常な機能が維持され,及び河川環境の整備と保全がされるようにこれを総合的に管理すること」(河川法1条),すなわち,河川からの洪水氾濫による災害を防止軽減するため,一定の計画の下で対策を行う責務である。ただし,その責務を遂行する上では,自然的制約,財政的制約,技術的制約,社会的制約等の諸制約が十分に考慮されなければならない。また,河川管理の範囲については,「河川管理者は,ダム,堤防,護岸等の河川管理施設(河川法3条2項)を設置する等して災害の発生を防止するとともに,災害を誘発するおそれのある行為の規制を行う権限と責務を有する」こととされており,河川法の趣旨からすると,河川管理者が規制等の権限を行使できる範囲は,公共用物である河川管理施設を含む「河川」並びに河川区域,河川保全区域,河川予定地,河川立体区域,河川保全立体区域及び河川予定立体区域である「河川区域等」に限 理者が規制等の権限を行使できる範囲は,公共用物である河川管理施設を含む「河川」並びに河川区域,河川保全区域,河川予定地,河川立体区域,河川保全立体区域及び河川予定立体区域である「河川区域等」に限られる。(イ) 一方,水防法22条は,河川区域等に限らず河川管理者の活動が許される場合を規定しているが,これは,あくまで「洪水,高潮等による危険が切迫した場合」(同条1項)の緊急措置である。(ウ) 浸水被害を防止,軽減するには,ダムの建設や河川改修などの通常の治水対策を実施する河川管理のほかに,都市排水路や雨水を貯留する池の整備,降雨が河川に流入しにくくしたり,洪水が氾濫しても被害が生じにくいようにする土地利用や開発の規制・誘導,ハザードマップなどによる住民への情報提供など,様々な主体による様々な対応があり,これらを総称して「流域対策」ということがある。控訴人らは,河川審議会(社会資本整備審議会河川分科会)の提言等や総合治水対策を根拠として,流域対策も河川管理者が行うべき河川管理に当たる旨主張するが,河川審議会は,諮問機関としての権能及び建議機関としての性格を併せ有する機関であって,河川管理者の責務とともに,それ以外の者の責務により実施すべき諸施策について,近年の自然条件や公共事業に関する財政的な制約等を踏まえて,連携し実施すべき方向性等を示すものであり,また,当該提言等がなされた時点の法令で対応することが困難な提言等の一部においては,新たな制度形成を示唆する意味合いを持つこともあるから,河川管理者が上記提言等における流域対策のすべてを実施すべき義務を負うものではない。河川管理者のみでは実施困難な流域対策について,本件水害後の平成16年5月15日に施行された特定都市河川浸水被害対策法は,都市部を流れる河 おける流域対策のすべてを実施すべき義務を負うものではない。河川管理者のみでは実施困難な流域対策について,本件水害後の平成16年5月15日に施行された特定都市河川浸水被害対策法は,都市部を流れる河川の流域において,著しい浸水被害が発生し,又はそのおそれがあり,かつ,河道等の整備による浸水被害の防止が市街化の進行により困難な地域に対しては,河川管理者,下水道管理者,都道府県知事及び市町村長が各々の責務により,共同して対応することとされている。したがって,河川管理者に,控訴人らが主張するような流域対策としてあらゆる方法を取るべき義務があるものではない。(エ) 岐阜県知事が,河川管理者として,本件洗堰からの溢水を想定して取るべきであった措置は,河川改修を行うことに他ならないところ,河川管理者による大谷川等の河川改修は,後述のとおり,諸制約のもとで継続して行われているのであるから,控訴人らの主張には理由がない。ウ河川管理の瑕疵の判断基準(ア) 大谷川における河川改良工事全体計画に該当するものとして,相川改良工事全体計画が定められており,大谷川は,上記全体計画及びこれを段階的に実現するための本件洗堰を1.05メートル嵩上げする準備段階の計画に基づいて現に改修中の河川であったから,本件水害につき,岐阜県知事に河川管理についての瑕疵があったか否かは,大東水害訴訟判決における具体的瑕疵判断基準により判断すべきである。(イ) 仮に,一般的瑕疵判断基準を適用するとしても,以下のとおり,本件水害時の大谷川の河川管理に瑕疵があるとはいえない。a 過去に発生した水害の規模及び発生の頻度 大谷川洗堰が設置された昭和33年以降,本件水害までの約45年間に,大谷川洗堰からの越流は とはいえない。a 過去に発生した水害の規模及び発生の頻度 大谷川洗堰が設置された昭和33年以降,本件水害までの約45年間に,大谷川洗堰からの越流は15回(昭和56年3月に大谷川洗堰が嵩上げされる前の23年間に10回,上記嵩上げ後の22年間に5回)の越流が記録されている。近年における住宅地への大きな浸水被害としては,本件水害のほかに昭和51年9月及び平成2年9月に発生しており,およそ十数年に1回の頻度となっている。b 水害の発生原因,被害の性質上記水害の原因は,すべて大谷川洗堰からの越流水によるものではなく,外水と内水により発生したものである。 本件水害の発生原因も,台風6号による異常な豪雨による外水及び内水であり,内水による湛水は,大谷川,相川,泥川等の水位上昇と同時に生じている。本件水害時の大谷川洗堰からの氾濫域における湛水量は,全体で502万立方メートルと見積もられるが,このうち,本件洗堰及び相川大谷川合流堤からの湛水量が334万立方メートル,内水による湛水量は,流域の降雨(赤坂観測所263ミリメートル,谷観測所382ミリメートル)から積算して168万立方メートルと推測される。c 降雨状況台風6号の影響により,根尾川流域の樽見観測所では,平成14年7月10日0時から1時までの1時間に最大時間降水量93ミリメートルの猛烈な雨を記録し,日降雨量495ミリメートルを記録するなど,岐阜・西濃山間部を中心に猛烈な雨となり,揖斐川の万石地点及び牧田川の烏江地点においては,計画高水位(9.8メートル)を上回る大出水となった。気象台の観測によると,日降雨量495ミリメートルは,昭 山間部を中心に猛烈な雨となり,揖斐川の万石地点及び牧田川の烏江地点においては,計画高水位(9.8メートル)を上回る大出水となった。気象台の観測によると,日降雨量495ミリメートルは,昭和54年からの記録では第1位で,7月の平均降水量436.5ミリメートルを大きく越え,年平均降水量3620ミリメートルの約7分の1を記録した。 大垣観測所では,日降雨量155ミリメートル(昭和54年からの記録では第3位),相川上流の関ヶ原観測所では日降雨量222ミリメートル(同第3位),最大時間降雨量91ミリメートル(同第1位)の猛烈な雨を記録した。さらに,杭瀬川を介して牧田川や揖斐川本川の洪水の影響を受けるため,大谷川の水位が大きく上昇し,本件洗堰においては,平成14年7月10日午前6時10分から同月11日午前7時までの約25時間にわたり,水位が天端高より高い状態が続き,その結果,荒崎地区及びその周辺で大きな被害が発生した。大谷川周辺の荒川町,中曽根町,綾野町等において,内水を主たる要因として浸水した区域があったことからも,本件水害を引き起こした局地的な降雨の異常性がわかる。台風6号による降雨は,大谷川において当時の河道断面により発生する洪水を流しうる量を上回る降雨であった。d 流域の地形その他の自然的条件(自然的制約)大谷川の下流域は,沖積平野である濃尾平野の西北端に位置し,伊勢湾河口(海)から約40キロメートル上流にありながら,標高はわずか海抜4メートルから5メートル程度と極めて低い上に,大谷川は,下流端で相川に合流し,相川は約1キロメートル下流で杭瀬川に,杭瀬川はその後牧田川,揖斐川に合流している。このように大谷川は多くの河川が合流する上流に位 ら5メートル程度と極めて低い上に,大谷川は,下流端で相川に合流し,相川は約1キロメートル下流で杭瀬川に,杭瀬川はその後牧田川,揖斐川に合流している。このように大谷川は多くの河川が合流する上流に位置しており,下流河川の水位の影響を強く受けるという特質を有している。そのため,大谷川周辺の浸水被害は,自流域の降雨により生じた洪水,内水だけではなく,揖斐川,牧田川,杭瀬川及び相川流域での降雨やこれらの河川の背水の影響を強く受けて発生する。e 土地の利用状況その他の社会的条件(社会的制約)河川改修を実施するにあたっては,用地取得等が必要となることが多いが,この用地取得については,地域住民の意識,生活問題等が絡んでおり,改修の進捗の障害となることが多い。歴史的にみても,大谷川沿川の地域は,河川改修が沿川地域の一大関心事項で,地域間の利害関係を抱えた治水上難しい地域で,本件洗堰の締切りを進める際には,地元の意見集約という難しい制約が存在する。f 改修を要する緊急性の有無及びその程度(技術的制約,経済的制約)河川改修工事にあたっては,その河川の水系全体の安全状況等を検討した上で,整備が急がれる箇所から順次着手する必要があるところ,洪水処理は,洪水を安全に下流へと流下させるものであるから,洪水を貯留する施設の整備を除いては,河川の下流から整備を進めることが原則とされている。さらに,背水の影響を受ける河川において氾濫を抑制する堤防整備等を行うと,その影響は下流のみならず上流の水位を上昇させる方向に働くから,そのような措置を取る場合には,上下流の堤防の整備などが適切なバランスで実施されていることが必要とされる。多くの うと,その影響は下流のみならず上流の水位を上昇させる方向に働くから,そのような措置を取る場合には,上下流の堤防の整備などが適切なバランスで実施されていることが必要とされる。多くの河川に合流する大谷川は,洪水時には下流の相川,杭瀬川,牧田川及び本川である揖斐川の背水の影響を受けて水位が上昇し,下流河川の水位が低下するまで,長時間高い水位が続くことを余儀なくされるという特質を有し,それゆえ,特に下流部の改修を進めるべき必然性が高く,揖斐川水系全体を見渡した治水対策の中での位置付けを考えながら河川改修を進めなければならない。そのため,本件洗堰の締切りなど,大谷川の河川改修の進展は,下流部をはじめとしてその締切りにより影響を受ける可能性のある区間の河川改修の進捗にあわせて行っていかなければならないという技術的な制約が存する。また,河川の改修は,議会が県民生活上の他の諸要求との調整を図りながらその配分を決定する予算の下で,過去に発生した水害の規模等諸事情を総合勘案し,改修の必要性・緊急性を比較しながら,それらの程度の高いものから逐次実施するほかはなく,治水事業に投下しうる資金は自ずから限界が存するが,そのような制約が存する中,相川・大谷川への投資額は,県執行河川改修費に対して比較的大きな割合を占めている。また,主要な河川改修には,国庫補助事業を活用して行っているが,その中でも相川・大谷川の事業費は大きな額を占めている(乙A25)。g 同種・同規模の河川の管理の一般水準及び社会通念に照らして是認しうる安全性を備えていると認められるか。 被控訴人は,上記のような諸制約の中で,昭和29年土地改良事業により,大谷川右岸に堤防設備を新設し,農地の浸水被害軽減を図り, して是認しうる安全性を備えていると認められるか。 被控訴人は,上記のような諸制約の中で,昭和29年土地改良事業により,大谷川右岸に堤防設備を新設し,農地の浸水被害軽減を図り,昭和35年から昭和40年までは,大谷川局部改良工事として,昭和29年土地改良事業による整備区間よりも上流で河川改修を行い,昭和42年度からは,相川中小河川改修事業として,大谷川の再改修に本格的に着手し,同事業は,平成9年度に広域河川改修事業と名称が変更されて現在も継続されているところ,同事業において,将来的に堤防高を左右岸ともTP10.88メートルの連続堤により整備して本件洗堰を解消することとしており,同年策定された相川改良工事全体計画に基づき,堤防の嵩上げ及び拡幅,護岸工及び橋梁等構造物の改築等が進められ,現在も改修途上にある。なお,昭和40年からは,相川下流の杭瀬川,牧田川の改修は国の直轄事業として進められているところ,昭和51年の水害を受けて激甚災害対策特別緊急事業により,杭瀬川の大規模な拡幅が行われたことや,その間,大谷川右岸の堤防整備が進んだこともあり,大谷川洗堰の0.6メートル嵩上げが可能になったことから,被控訴人は,昭和56年嵩上げ工事を実施した。平成2年の水害においては,牧田川と杭瀬川が並行して流れる区間の中堤が破堤して牧田川の洪水が杭瀬川や大谷川に逆流したことから,下流の流下能力を更に向上させるため,同年に着手された近鉄線の橋梁等の架け替え工事等が重点的に実施され,平成13年に完工した。そして,本件洗堰の嵩上げには,これにより影響を受ける区間の堤防整備を先行させる必要があったところ,本件水害を受けて牧田川・杭瀬川の河川災害復旧等関連事業等が実施され,更に改修が進 そして,本件洗堰の嵩上げには,これにより影響を受ける区間の堤防整備を先行させる必要があったところ,本件水害を受けて牧田川・杭瀬川の河川災害復旧等関連事業等が実施され,更に改修が進められたことから,平成20年3月に本件洗堰につき1.05メートルの嵩上げ(平成20年嵩上げ工事)を行ったが,上記嵩上げ計画自体は本件水害発生前から存在した(乙A8)。なお,平成20年度からは,本件洗堰をTP10.88メートルの連続堤による整備を行うことで解消する大谷川改修第2期工事に着手している。本件水害当時の大谷川における氾濫頻度は,約5年に1回(家屋にまで浸水被害が生じるのは更に少ない頻度である。)であり,県内におけるほかの同種・同規模の河川である板取川や水門川に比して,安全対策が著しく遅れているとはいえない。岐阜県知事は,河川管理者として,前述のとおり諸事情・諸制約が存在する中で,下流部分の進捗状況など水系全体のバランスを考慮しながら,本件洗堰の嵩上げを含めた河川改修を進めてきたものであり,大谷川は,同種・同規模の河川の管理の一般水準及び社会通念に照らして是認しうる安全性を備えていたということができる。(ウ) 具体的瑕疵判断基準への当てはめ前述のとおり,大谷川は,相川改良工事全体計画に基づいて現に改修中の河川であったから,岐阜県知事に河川管理についての瑕疵があったか否かは,「右計画が全体として右の見地からみて格別不合理なものと認められないときは,その後の事情の変動により当該河川の未改修部分につき水害発生の危険性が特に顕著となり,当初の計画の時期を繰り上げ,又は工事の順序を変更するなどして早期の改修工事を施行しなければならないと認めるべき特段の事由が生じない限り, 該河川の未改修部分につき水害発生の危険性が特に顕著となり,当初の計画の時期を繰り上げ,又は工事の順序を変更するなどして早期の改修工事を施行しなければならないと認めるべき特段の事由が生じない限り,右部分につき改修がいまだ行われていないとの一事をもつて河川管理に瑕疵があるとすることはできないと解すべき」という判断基準(具体的瑕疵判断基準)により判断すべきであり,同判断基準によると,以下のとおり,本件水害時の大谷川の河川管理には瑕疵があるとはいえない。a 大谷川に係る河川計画の合理性本件水害当時の長期的な河川整備の方針として,河川整備基本方針とみなされる「木曽川水系工事実施基本計画」(乙A39)が定められており,杭瀬川等については,築堤・護岸等を施工するという方針であった。そして,これに沿った大谷川における河川改良工事全体計画に該当するものとして,相川改良工事全体計画が定められていた。相川改良工事全体計画の策定には,まず,何年に一度生じる降雨を安全に流下するかという計画規模を設定し,流域の大きさや地域の降雨の特性などを勘案して計画降雨を推算し,基本高水流量及び計画高水流量が決定され,次に,計画高水流量を安全に流下させるための具体的な河道計画が検討された。大谷川が相川からの背水の影響を受ける河川であるため,具体的な河道計画検討の際には,背水をどのような方法で処理するかが問題となり,相川改良工事全体計画では,背水の処理方式として通常用いられる完全バック堤方式,自己流堤方式及びセミバック堤方式の3つの方式が比較検討され,洪水時等に水門等の人為的操作が不要で,事業費が最も安価で事業期間も最も短く,最も合理的である完全バック堤方式が選択されたものであり,今後20年から30年間で完全バック堤で整備 方式が比較検討され,洪水時等に水門等の人為的操作が不要で,事業費が最も安価で事業期間も最も短く,最も合理的である完全バック堤方式が選択されたものであり,今後20年から30年間で完全バック堤で整備することにより大谷川洗堰を解消することとされた。なお,完全バック堤とは,本川の堤防並みの高さと安全な構造を備えた支川の堤防で,上記検討における完全バック堤方式とは,相川の背水影響区間については相川の堤防と同規模の堤防を築堤する案であり,自己流堤とは,支川の堤防高を支川の流量だけで定める場合の堤防で,上記検討における自己流堤方式とは,相川からの逆流を防止するため,合流地点の上流に樋門を設ける案であり,上記検討におけるセミバック堤方式とは,相川からの逆流防止施設を設け,大谷川の計画高水位についてはバック堤と同様とし,堤防の高さの余裕や幅を支川(大谷川)の堤防並みに低下させる案である。以上のとおり,相川改良工事全体計画は,一般的な河川計画の策定手順に従った合理的な方法で策定されており,また,過去の水害の発生状況その他諸般の事情を総合的に考慮し,河川管理の一般水準及び社会通念に照らして,格別不合理なものとはいえない。したがって,被控訴人は,本件水害時において,必要かつ合理的な大谷川に関する河川計画を有していたということができる。b 事情の変動による計画の変更等の特段の事由の有無相川改良工事全体計画は,平成9年11月28日に建設大臣の認可を受けているところ,その後の事情の変動により河川の未改修部分につき水害発生の危険性が特に顕著となり,当初の計画の時期を繰り上げ,又は工事の順序を変更するなどして早期の改修工事を施行しなければならないと認めるべき特段の事由は見当たらない。 修部分につき水害発生の危険性が特に顕著となり,当初の計画の時期を繰り上げ,又は工事の順序を変更するなどして早期の改修工事を施行しなければならないと認めるべき特段の事由は見当たらない。c 仮に上記bの特段の事由があったとしても,大谷川洗堰の締切りには,下流部をはじめとして,その締切りにより影響を受ける可能性のある区間の改修工事の進展が前提となるところ,大谷川では,前述のような諸事情,諸制約がある中で河川改修が行われてきており,その結果,大谷川における氾濫頻度は,約5年に1回となっているのであるから,県内にあるほかの同種・同規模の河川に比して,安全対策が著しく遅れているとはいえない。なお,被控訴人(岐阜県知事)は,昭和56年以降も本件洗堰からの越流被害が10年に1回程度発生することを予測していたものではない。調査報告書(乙A19)記載の大垣市の連続降雨量を予測した部分と,過去7回の水害時の流域平均雨量(大垣,赤坂,牧田,関ヶ原,春照,春日及び揖斐の7か所の観測地点のうち,観測時に有効な資料となりうるものをもとに流域内の平均雨量を算出したもの)について原洗堰を0.6メートル嵩上げした場合と締め切った場合の内水位等のシミュレーションをした部分はそれぞれ別個の内容であり,大垣市の降雨確率は,大谷川洗堰からの越流被害発生確率とは異なる。エ岐阜県知事が取るべきであった浸水対策の内容について(ア) 前述のとおり,岐阜県知事が取るべきであった浸水対策は,河川改修を行うことであり,諸制約のもと,継続して実施してきた。(イ) 二線堤の設置について控訴人らの主張する二線堤の整備は,下流の洪水を引き込むような手法となるため,一般に採用されるものではない上,完全バック堤を整備する方法により洪水処理ができる ) 二線堤の設置について控訴人らの主張する二線堤の整備は,下流の洪水を引き込むような手法となるため,一般に採用されるものではない上,完全バック堤を整備する方法により洪水処理ができるにもかかわらず,単に整備する堤防の延長が長くなる方法であるという問題があり,堤内地に降った雨の排水が困難となるため,内水被害を助長することにもなりかねない。控訴人らが主張する水門による内水の自然排水は,流量の計算に誤りがある上,洪水時には外水位が内水位よりも高くなるから,自然排水はできない。仮に,すべての内水を二線堤外に排水可能であるとしても,この場合,二線堤と本堤の間で増加していく洪水の処理が問題となる。また,控訴人らが主張する二線堤建築費用には,二線堤により遮断される道路等の補償工事,用地に関する経費,住宅等の補償経費,内水排除に要する経費等が含まれていない。控訴人らが主張する二線堤案は,大谷川から越流した洪水を二線堤と本堤の間に貯留させるものであり,遊水地の整備そのものであるから,用地の取得ないし補償が必要となり,二線堤又は輪中堤築堤に要する経費は173億円と見込まれ,完全バック堤の経費を大きく上回るし,事業期間も長期となる。その上,二線堤の設置は,地域を分断することにもなり,地域住民の理解を得られないことも明白である。なお,二線堤設置は,国の補助事業である「土地利用一体型水防災事業」の要件を満たさない。(ウ) 改良輪中堤の設置について改良輪中堤の設置に係る主張は,控訴審における平成24年11月6日付け準備書面において新たに主張されたものであり,控訴人らの故意又は重大な過失により時機に後れて提出された攻撃防御方法で,本件訴訟の完結を遅延させるものであるから, 訴審における平成24年11月6日付け準備書面において新たに主張されたものであり,控訴人らの故意又は重大な過失により時機に後れて提出された攻撃防御方法で,本件訴訟の完結を遅延させるものであるから,却下されるべきである。(エ)改良水防土のう積みについてa 改良水防土のう積みに係る主張も,改良輪中堤の設置と同様,時機に後れて提出されたものであるから,却下されるべきである。b 河川管理者が設置する河川管理施設(河川法3条2項)は,水位,流量,地形,地質その他河川の状況及び自重,水圧その他予想される荷重を考慮した安全な構造のものでなければならず(河川法13条1項),築堤には,河川管理施設等構造令に規定された堤防の構造を準用するのが一般的である。控訴人らが主張する水防土のうを積み上げたような施設は,防災施設であり,河川管理者が河川管理行為として設置すべきものではない。また,二線堤設置と同様,内水対策の問題が生じる。(オ)危険告知について河川管理者の義務は河川法に明確に規定されており,河川法1条により危険告知義務が生じるものではなく,堤防である本件洗堰について,これとは本質的に異なるダムに関する規定である河川法48条が類推適用されるものでもない。また,改正前水防法10条の2に基づく洪水予報河川の要件を満たさず,その指定がされていない大谷川については,同法10条の4の規定の適用もない。したがって,控訴人らの主張する河川管理者の危険告知義務の根拠には理由がなく,控訴人らの主張は失当である。なお,岐阜県知事は,改正前水防法3条の6に規定する知事の責務として,①平成14年6月1日に開始したインターネットでのリアルタイムでの水位情報提供,②岐阜県水防計画の策定及び大垣輪中水防事務組合への伝達 岐阜県知事は,改正前水防法3条の6に規定する知事の責務として,①平成14年6月1日に開始したインターネットでのリアルタイムでの水位情報提供,②岐阜県水防計画の策定及び大垣輪中水防事務組合への伝達,③重要水防箇所の指定及び大垣輪中水防事務組合への伝達,④大垣輪中水防事務組合が策定する水防計画の審査,⑤大谷川洗堰等からの溢水時に必要に応じて国への移動式排水機等の派遣要請といった対応を取っていた。(カ) 建物自体の浸水対策について控訴人らが主張する建物自体の浸水対策は,山間部の河川において連続堤の整備のための用地等として宅地や農地等の大半が失われるような場合を想定したものであり,大谷川の流域にそのまま当てはまるものではない。また,建築確認を行う被控訴人の機関に働きかけることを河川管理者に求める法令上の規定もない。(3)争点(3)(控訴人らに生じた損害)について(控訴人らの主張)ア本件水害による被害(ア) 本件水害により,控訴人ら132名のうち,105名が家屋等の床上浸水,27名が床下浸水の被害を受け,経済的被害,健康被害,精神的被害,生活の不便さといった多様かつ深刻な損害を受けた。具体的には,次のとおりである。(イ) 経済的被害控訴人らには,本件水害により,家屋について,壁の剥落,壁紙の剥離,家屋や床のゆがみ,傾き,シロアリの被害,悪臭が染みついて取れない等の被害が生じたほか,控訴人らを含む1審原告らの約8割は,家財道具を避難させることができず,多くの家財道具を買い換える必要が生じた。家屋や家財道具についての被害は,控訴人らに生じた経済的被害の一端にすぎず,1審原告らが本件水害により受けた経済的被害の総額は,少なくとも約3億7865円に及ぶ。(ウ) 健康 た。家屋や家財道具についての被害は,控訴人らに生じた経済的被害の一端にすぎず,1審原告らが本件水害により受けた経済的被害の総額は,少なくとも約3億7865円に及ぶ。(ウ) 健康被害本件水害により,1審原告らの約6割に,浸水時や水が引いた後に無理をして重たい家財道具を動かした際に腰を痛めた,水に浸かった床下を乾かすため,畳を上げ,床板を外した状態での生活を強いられている間に,足を滑らせるなどして骨折した,被災した住宅や避難所での生活における緊張状態,不安,心配や疲労などから睡眠不足に陥ったり,体調を崩したりした,不衛生な泥水に浸かって避難や作業を余儀なくされたため,虫に刺されるなどして,通院治療を要するほどの皮膚のかゆみが生じたなどの健康被害が生じた。(エ) 精神的被害a 控訴人らのうち,自宅等から避難した者の多くは,家の周りに濁った泥水が迫り,水深の深い場所の識別が困難な状況下での避難により,生命,身体への危険に対する恐怖や不安を感じた。中には,自宅が泥水に浸かっていくのを見ている以外になす術がなく絶望感を味わった者や,避難した先が危険な状態なって更に避難した者もいる。一方,1審原告らの約6割は,家を守る,社会的弱者がいる等の理由により避難できなかったが,これらの者は,自宅が倒壊するのではないかとの恐怖,停電により闇の中で一晩を過ごす恐怖,感電の恐怖等を感じた。また,家族の中に臨月を迎えた女性や幼い子供がいて,不衛生な環境の中でこれらの者の健康が維持できるか等の不安を感じた者も存在する。控訴人らの中には,浸水により重い物が転倒したり,泥水の中を大きなドラム缶,畳,洗濯機,プロパンガスボンベ等の様々な物が漂流してくる様子を見て強い恐怖を味わった者もいる。 た者も存在する。控訴人らの中には,浸水により重い物が転倒したり,泥水の中を大きなドラム缶,畳,洗濯機,プロパンガスボンベ等の様々な物が漂流してくる様子を見て強い恐怖を味わった者もいる。また,控訴人らは,本件水害時に,停電などの影響により,重要な情報源であるテレビ・パソコン等も利用不能となる等,正確な情報を入手できず,不安を味わった。控訴人らの多くは,本件水害後も,水に対する恐怖心のため,大雨が降ると眠れない,台風が来るというニュースを聞いただけで不安になるなどの状態を訴え,うつ病,うつ病状態となり治療中の者も多い。b 控訴人らのうち,浸水から水が引くまでの間,帰宅できなかった者は,避難所で不便な生活を強いられ,中には家族離れての生活を余儀なくされた者や,老人・子供などの社会的弱者を伴っていたために更に不便な生活を強いられた者などもいる。一方,自宅にいた者も,トイレ,風呂,電化製品が利用できない,食事や寝るための場所を十分に確保できない等の不便を被った。水が引いた後も,控訴人らが通常の生活に戻るまでには長期間を要した。控訴人らは,水が引いた後,異臭やシロアリ発生防止のため,床下が乾くまで畳,床板を上げなければならなかったが,床板を戻すまでの間,板の間に布団を敷いて寝るなどの生活を強いられ,浸水被害により疲れた体をゆっくり休めることもできず,床板を戻した後,ようやく,使用不能になった物を廃棄したり,使用可能な物については繰り返し洗い直すなどの復旧作業に取りかかることができたが,水を含んで重たくなった畳,絨毯などの廃棄は簡単にはいかず,思い出の品の廃棄は辛く,復旧作業には,多大な肉体的,精神的労力を必要とした。有職者の多くは,夜間に復旧作業を行うことを余儀なくされる等,とりわけ重い たくなった畳,絨毯などの廃棄は簡単にはいかず,思い出の品の廃棄は辛く,復旧作業には,多大な肉体的,精神的労力を必要とした。有職者の多くは,夜間に復旧作業を行うことを余儀なくされる等,とりわけ重い負担がかかった。そして,控訴人らの中には,このような復旧作業に精神的に耐えられないと感じた者や気力を喪失してしまった者,家族の思い出の品や写真を失ったことによる喪失感を感じた者,家族の絆が壊れてしまった者,家屋の修繕ができず,本件水害の痕跡が残されたままの生活で惨めさを味わっている者などもいる。加えて,控訴人らの中には,本件洗堰のために水害から守られたほかかの地域の住民から,「あんなところに住んでいるから悪い」,「よっぽど安かったから買った」などと言われる被害を受けた者もいる。イ被害の継続性,被害回数・被害金額の甚大性・深刻性等大谷川洗堰は,本件水害まで過去45年間に15回も越流し,控訴人らは,継続的な浸水被害を被ってきた。1審原告らの約4分の3の者は,複数回の浸水被害を経験しており,中には,8回もの床上浸水の被害を被った者もいる上,多くの者は,実際には浸水被害に至らない場合でも,本件洗堰からの越流又は越流のおそれがあれば,浸水への対策を取るため,浸水時への対策を取った回数は,実際の越流回数を大きく上回る。本件洗堰の閉鎖は計画こそされているものの,その時期は不明で,浸水被害の原因が除去されず,浸水対策も取られないという荒崎地区の特殊性に起因する浸水被害の恐怖は,破堤などによる一回的な浸水被害とは比較にならないほど現実的で切実な恐怖で,大雨や台風のたびに,このような切実な恐怖・不安を味わわざるを得ない。控訴人らの中には,家を新築してから1年以内に最初の浸水被害に遭った者も多数存在し, 比較にならないほど現実的で切実な恐怖で,大雨や台風のたびに,このような切実な恐怖・不安を味わわざるを得ない。控訴人らの中には,家を新築してから1年以内に最初の浸水被害に遭った者も多数存在し,これら入居から短期間のうちに浸水被害を受けた者の精神的苦痛は,より甚大・深刻なものである。1審原告らの9割以上は,荒崎地区から転居することを希望しているが,度重なる浸水被害が生じる地区であるために家を転売することができず,多数の者は,住宅ローンが残っており,経済的な負担も大きいため,荒崎地区を離れて暮らすことすらできない状況に追い込まれている。また,家の基礎の土盛りをしても浸水被害に遭ったり,経済的な理由や近隣住民との関係から土盛りができないなど,荒崎地区の浸水被害は,個人の力では防ぐことはできない。そして,本件洗堰の嵩上げよりも,上流,下流の整備が優先して進められ,それらの地区の安全性が確保されるようになって初めて本件洗堰の嵩上げを行うという被控訴人の河川管理,改修方法のため,荒崎地区に浸水被害が集中することになっているところ,このような状況は,周辺地域の住民の安全のために荒崎地区の住民を意図的に犠牲にしてきている状況であるといえ,上下流のバランスのため,本件洗堰により利益を受けている上下流域住民と,荒崎地区の住民との間に看過できない不平等が存在しており,控訴人らは「特別の犠牲」を強いられているということができる。本件水害による被害は,個々の控訴人らに甚大な被害をもたらしたのみならず,それが100人単位の広範な範囲に及んだ点においても甚大,深刻な被害である。ウ控訴人らの損害額(ア) 慰謝料控訴人らは,本件水害によって,それぞれ,別紙「損害目録」の「被害内容」欄記載のとおり,床上又は床下の浸水被害を 大,深刻な被害である。ウ控訴人らの損害額(ア) 慰謝料控訴人らは,本件水害によって,それぞれ,別紙「損害目録」の「被害内容」欄記載のとおり,床上又は床下の浸水被害を受け,著しい精神的苦痛を被った。これを慰謝するには,同目録の「慰謝料額」欄記載の金員が相当である。(イ) 弁護士費用控訴人らは,本件訴訟の追行を本件訴訟代理人弁護士らに委任した。本件事案の内容にかんがみ,弁護士費用のうち,各控訴人の上記慰謝料額の1割の金額につき,本件水害と相当因果関係ある損害として被控訴人に負担させることが相当である。(被控訴人の主張)いずれも争う。第3 当裁判所の判断当裁判所も,控訴人らの請求はいずれも理由がないものと判断する。 その理由は,以下のとおりである。 1 認定事実前提事実,証拠(甲A1ないし甲A8,甲A10ないし甲A21,甲A23,甲A25ないし甲A31,甲A33ないし甲A40,甲A42ないし甲A47,甲B1ないし甲B183,乙A6ないし乙A8,乙A14ないし乙A16,乙A18ないし乙A22,乙A24ないし乙A32,乙A34の2,乙A39,乙A40,乙A42ないし乙A47,乙A49,乙A51ないし乙A53,証人C,証人Dの供述書,証人Eの供述書,控訴人F本人,控訴人G本人,控訴人H(旧姓I)本人,控訴人J本人,Aに対する調査嘱託の結果(平成23年9月15日付け及び平成24年1月10日付けの各回答書によるもの),(書証は枝番の全部を含むときは枝番の記載を省略する。以下同じ。))及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる(特に関連の深い証拠を末尾に掲記する。)。(1)大谷川及び大谷川流域の地域的特性等ア大 含むときは枝番の記載を省略する。以下同じ。))及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる(特に関連の深い証拠を末尾に掲記する。)。(1)大谷川及び大谷川流域の地域的特性等ア大谷川は,木曽川水系に属する流路延長約8.4キロメートル,流域面積約26平方キロメートルの一級河川である。驒木曽川水系は,木曽川と揖斐川とからなり,それぞれ飛川,長良川等の支川を合わせて濃尾平野を南流し,伊勢湾に注ぐ。その流域は,岐阜,長野,愛知,三重,滋賀の5県にまたがる。(乙A39・79頁)イ大谷川は,大垣市綾野町地内で相川に合流し,その下流において相川は杭瀬川に,杭瀬川は牧田川に,牧田川は本川である揖斐川にそれぞれ合流する。また,大谷川が相川に合流する養老橋地点で,泥川も相川に合流する。牧田川の支川(二次支川,三次支川を含む。)には,杭瀬川,相川,泥川,大谷川,水門川など,一級河川27河川があり,牧田川流域は岐阜県,三重県及び滋賀県の3県にまたがる。(甲A43・1頁)ウ大谷川,泥川を含む相川流域は,標高60メートルから800メートルの山地部と濃尾平野に連なる平地部からなり,それらの河川は,山地部は急峻であるが,山間が浅く,流下してすぐに平地部に達すること,大谷川の下流には相川,杭瀬川,牧田川,揖斐川があるが,その下流域(JR東海道本線より下流の平地部)の標高がわずか海抜4メートルから5メートル程度と極めて低いこと,大谷川は,流域勾配が上流で800分の1,下流で4500分の1と極めて緩いこと等の特徴がある。そのため,大谷川は,洪水時には下流の相川,杭瀬川,牧田川及び揖斐川の背水の影響を受けて水位が上昇し,下流河川の水位が低下するまで長時間高い水位が続くという特性を有し,大谷川流域は,下流河川の水位が のため,大谷川は,洪水時には下流の相川,杭瀬川,牧田川及び揖斐川の背水の影響を受けて水位が上昇し,下流河川の水位が低下するまで長時間高い水位が続くという特性を有し,大谷川流域は,下流河川の水位が上昇するたびに地域全体で水の逃げ場がなくなり,浸水災害を繰り返していた。(甲A3・1頁,甲A37・39頁,乙A18・497頁,乙A19・8頁)(2) 昭和29年土地改良事業より前の大谷川流域の状況大谷川は,江戸時代に左岸に綾里輪中が築堤されたが,左岸に位置する大垣城下町を保護するため,右岸は無堤のままとされていた。大谷川右岸の荒崎地区一帯は,比較的標高の高い西部の「本村地区」に集落があったほかは,昭和22年ころまで草地として放置され,地盤高の低い後背湿地と称される低湿地であった。 そのため,大谷川は,日降雨量50ミリメートル(流出量毎秒15立方メートル)を超えると,1年に数回の頻度で荒崎地区に溢流氾濫し,また,相川,泥川及び大谷川の三川合流点(養老橋地点)より下流は河積が狭く,上流部からの洪水量を完全に流下し得ないため,豪雨になれば背水が生じ,上流から流下する洪水と合わせて大谷川右岸耕地250町歩に湛水する状態であり,右岸地域は遊水地状態とされていた。大谷川右岸より西方約1キロメートルに立地する十六村は,江戸中期以降に洪水が増加し,明和8年(1771年)に新規水除囲堤築立を願い出たが,周辺輪中の障り申立てにより吟味差止となった。十六村は,その後,周辺輪中との対立抗争を経て,明治2年に,現在の荒崎地区島町の南側に隣接する十六輪中を成立させた。また,明治時代には,大谷川の左岸側に静里輪中が成立した。また,大谷川沿い東西一帯の村々は,牧田川及び相川の逆水(背水)を受け,絶えず水害を被ってきたため,江戸時代から何十回 中を成立させた。また,明治時代には,大谷川の左岸側に静里輪中が成立した。また,大谷川沿い東西一帯の村々は,牧田川及び相川の逆水(背水)を受け,絶えず水害を被ってきたため,江戸時代から何十回となく大谷川沿い逆水留め新堤工事を願い出たが,他村からの故障申出のため,聞き届けられなかった。昭和11年に大谷川右岸上流部の954メートルに築堤されたが,下流部は無堤地のまま,荒崎地区は,大垣市の市街地を洪水から防御するための遊水地状態とされていた。(甲A15の1・5頁,甲A18,甲A19,乙A18・497頁,乙A27)(3) 原洗堰の設置の経緯昭和22年,緊急開拓事業法を受け,荒崎地区に満州からの引揚者10戸が入植した。そして,昭和24年ころには右岸築堤運動が始まり,昭和26年には請願書が提出されるなどした。被控訴人は,これらの運動や,戦後の食糧増産の要請を受け,昭和27年4月に着手した県営大垣地区かんがい排水事業の一環として,大谷川右岸の築堤等により大谷川右岸一帯の農地の浸水被害を軽減させる目的で,昭和29年から昭和33年にかけて,昭和29年土地改良事業を実施した。昭和29年土地改良事業では,大谷川の河積を拡張し,大谷橋を起点として相川左岸に至る大谷川右岸の延長2159メートルに,堤高は左岸の綾里,静里の各輪中堤より約1メートル低い4.5メートル(TPは不明)の堤防を築くことが計画された。しかし,養老橋合流点下流部の河積が狭小なため,従来の遊水地状態の土地を締め切ることになると,大谷川の洪水位の上昇や,左岸堤の破綻が懸念された。また,大谷川流域にある輪中は,洪水常襲地帯にあるため,他の輪中の嵩上げを監視するなど,氾濫区域の水位が上昇することに敏感である上,輪中内の住人と輪中外の住人とでは地 や,左岸堤の破綻が懸念された。また,大谷川流域にある輪中は,洪水常襲地帯にあるため,他の輪中の嵩上げを監視するなど,氾濫区域の水位が上昇することに敏感である上,輪中内の住人と輪中外の住人とでは地先性に差があり,後からきた人のために既存輪中の危険度が上がることには,既存輪中の住民からの抵抗が生じやすく,対岸の静里輪中及び綾里輪中から強い反対運動があった(なお,証人Dは,大谷川の下流右岸側は,当地域の輪中堤を守るための氾濫域とされており,必ずここが輪中堤より先に氾濫することが地域の約束となってきた経緯がある,洗堰の高さを最後に上げない限り,地域住民の了解が得られず,築堤は難航する旨供述している。)。そこで,昭和29年土地改良事業では,養老橋下流の根本的改修が実施されなければ完全に水害を除去することは不可能であるとして,それまでの過渡的手段として,一定の規模を上回る降雨(相川流域日降雨量255ミリメートル,大谷川,泥川流域は日降雨量210ミリメートル以上)時に,一時的に耕地に越流湛水させ,大谷川の減水を待って機械排水を行うことにより河川狭小部の負担を軽減させる目的で,大谷川右岸の相川と大谷川の合流点から上流1.6キロメートルの位置に,延長110メートル,越流部の天端は築堤天端より1.38メートル低いTP7.20メートル(築堤された高さ約1.6メートル),越流水深(計画)0.68メートル,計画越流量最大毎秒110.3立方メートルの原洗堰が設置されることとなった。原洗堰から越流する洪水は,大谷川と相川に挟まれた,荒崎,十六町,島町,長松町,新田,綾戸などの約2.5平方キロメートルの地区に湛水し,同地区は遊水地状態となることが予定されていた。昭和29年土地改良事業は,昭和33年に完工した。(甲A3・1頁,甲A18, 長松町,新田,綾戸などの約2.5平方キロメートルの地区に湛水し,同地区は遊水地状態となることが予定されていた。昭和29年土地改良事業は,昭和33年に完工した。(甲A3・1頁,甲A18,甲A19,甲A37・39頁,乙A18,乙A19・1頁・13頁から16頁まで,乙A45・6頁・7頁,証人C20頁,証人Dの供述書)(4) 荒崎地区の土地利用状況の変化ア事業所の進出昭和40年代,荒崎地区が地価安価のため注目され,同年,荒崎地区に,コンクリートメーカー企業が進出した。同企業は,当初,出水時にはトラックに資材を積み,相川の堤防上に避難する方法を取っていたが,平成20年頃までには,事務棟などはピロティ形式の建物(建物の1階部分を,壁で囲まず柱だけを残した建物)に改築されている。昭和42年に荒崎地区に進出してきた広域糞尿処理場の衛生センターは,当初より浸水被害の防止策として囲堤を築いて対処してきたが,出水時に流木により囲堤が破損したため,現在はコンクリートブロックで外壁を防御している。昭和45年に荒崎地区に進出してきた染色工場は,昭和34年の伊勢湾台風の溢水水位1.60メートルを基準に盛土の基礎工事が終了した段階で,更にそれを超える浸水をみたため,急遽1.20メートルの囲堤を築き対応したが,囲堤内の内水処理のために独自の排水機を設置している。 (甲A18・451頁,甲A19・14頁)イ宅地開発及び市街化区域指定(ア) 大垣市住宅供給公社は,昭和43年から同45年にかけて島団地(127戸)を造成した。不動産を購入して新たに荒崎地区に居住を開始した控訴人らのうち,最も早い者たちは,この時期に不動産を購入した。(イ)荒崎地区の人口(いずれも10月1日時点。以下同 (127戸)を造成した。不動産を購入して新たに荒崎地区に居住を開始した控訴人らのうち,最も早い者たちは,この時期に不動産を購入した。(イ)荒崎地区の人口(いずれも10月1日時点。以下同じ。)は,大垣市に編入された昭和29年(1954年)には1338人で,昭和40年(1665年)には359世帯1685人であったが,昭和45年(1670年)には641世帯2621人となった。被控訴人は,昭和46年,荒崎地区の一部を市街化調整区域に指定した。被控訴人は,昭和48年から昭和51年にかけて島団地に隣接して岐阜県営荒崎団地を建築したが,その直前の浸水被害に対応できる高さまで土盛りをした。そして,被控訴人は,昭和50年12月27日,荒崎地区のうち,岐阜県営荒崎団地や島団地を中心とした約55ヘクタールを市街化区域に指定した。なお,上記市街化区域指定に先立ち,同月11日に開催された第38回岐阜県都市計画地方審議会において,予定区域の大部分が同年7月の集中豪雨の際に浸水を受けたことが指摘されたが,地域計画係長は,河川課とも協議した上で,原則として市街化しているか市街化が予想されるところを市街化区域に取り組んだものである,建築確認の段階で,市の窓口に湛水の図面をはるなどの行政指導をしていきたいなどの回答をした。上記市街化区域指定直前の昭和50年の荒崎地区の人口は,997世帯3882人であった。(ウ)上記市街化区域指定後,荒崎地区の人口は,昭和56年嵩上げ工事完工前の昭和55年には1272世帯4698人であったが,台風19号による大きな浸水被害が生じた年である平成2年には1622世帯5811人と,その間に350世帯1113人増加し,本件水害直前の国勢調査実施年の平成12年には1995世帯6493人となり,平成2年 による大きな浸水被害が生じた年である平成2年には1622世帯5811人と,その間に350世帯1113人増加し,本件水害直前の国勢調査実施年の平成12年には1995世帯6493人となり,平成2年からの10年間で373世帯682人増加した。(エ)このように,低湿地である荒崎地区に,昭和40年代以降,企業や住宅が進出して宅地化が進み,昭和50年12月27日,荒崎地区のうち宅地化が進行した地域が市街化区域に指定された。荒崎地区の人口は,市街化区域指定の前後を通じて増加が続いた。なお,建設省中部地方建設局木曽川上流工事事務所が昭和51年に作成した「昭和50年度台風6号調査報告書」(乙A21)中には,荒崎地区について「従来からの遊水池であり本来ならば家屋の建て得ない所である」や洪水対策のためには遊水地域が必要であるとの記載があり,控訴人らは,上記記載は建設省の見解である旨主張するが,これは,上記報告書の筆者である調査課調査係長の見解にすぎないものと認められる。 (以上につき甲A15の1・3,甲A16の2,甲A18・451頁,甲A19・14頁,甲A30の20,乙A21・67頁・68頁・164頁,弁論の全趣旨(原審の控訴人ら第3準備書面))ウ市街化区域と治水事業に関する通達「都市計画法による市街化区域及び市街化調整区域の区域区分と治水事業との調整措置等に関する方針について」(昭和45年1月8日発各都道府県知事宛ての建設省都市局長・河川局長連名の通達)2条には,既に市街地を形成し市街化区域に含まれることになった区域は,治水担当部局は当該区域において将来溢水,湛水等による災害が発生することがないよう必要な措置を講ずることに努める旨,同通達3条では概ね10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域の設定に当たっては 当部局は当該区域において将来溢水,湛水等による災害が発生することがないよう必要な措置を講ずることに努める旨,同通達3条では概ね10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域の設定に当たっては,都市計画担当部局と治水担当部局とはあらかじめ十分協議して都市計画の案を作成するものとし,その際,溢水,湛水等により災害発生の危険が大きいと想定される区域等は原則として市街化区域に含めない旨定められていた。(甲A29)(5) 原洗堰設置後の河川改修等ア国は,明治11年から大正元年にかけて実施した木曽川下流改修計画等により,木曽川,揖斐川,長良川の三川分流等の治水事業を行ってきたところ,初期の改修事業は木曽川が中心であったが,揖斐川についても,昭和34年9月の洪水を受けて,横山ダムの建設を含めた計画を決定し,同ダムは昭和39年に竣功した。そして,昭和40年,「木曽川水系工事実施基本計画」が策定され,同基本計画は,その後の出水状況や流域の開発状況にかんがみ,昭和44年,揖斐川の基本高水のピーク流量を万石地点において毎秒6300立方メートルと定め,揖斐川上流のダム群建設を含めた計画に改定され,その後,昭和63年及び平成6年にも一部改定がなされた。上記基本計画における計画高水位は,揖斐川の万石地点がTP12.09メートル,杭瀬川の高渕地点(牧田川合流点から2キロメートル上流)でTP8.88メートルである。上記基本計画において,揖斐川上流部(万石から上流)は,徳山ダム等のダム群の建設による洪水調節などを行うこととされ,中流部(万石から今尾まで)は,①川幅はほぼ現状のまま,しゅんせつ及び腹付け,嵩上げによる堤防の拡策を行って河積の増大を図るとともに,護岸,水制を施工して,洪水の安全な通過を図り,②大垣市周辺の低地地域 今尾まで)は,①川幅はほぼ現状のまま,しゅんせつ及び腹付け,嵩上げによる堤防の拡策を行って河積の増大を図るとともに,護岸,水制を施工して,洪水の安全な通過を図り,②大垣市周辺の低地地域については,治水対策を総合的に実施するため,本川の改修と合わせて水門川について内水排除施設の工事等を行って内水被害の軽減を図り,③牧田川の広瀬橋地点から下流の河道については,堤防の拡策及び掘削を行って河積の増大を図るとともに,護岸,水制を施工(家屋密集地域については特殊堤を施工)し,洪水の安全な流過を図る,④杭瀬川等の支流については,築堤,護岸等を施工することなどとされ,下流部(今尾から河口まで)は,川幅はほぼ現状のまま,しゅんせつ,腹付け・嵩上げによる堤防の拡策を行い河積の増大と河道の整正を図るとともに,護岸,水制を施工し,洪水の安全な流過を図り,揖斐川と長良川を分流させる背割堤については,両河川の河積を勘案して,必要な箇所については,堤防法線を整正する,河口堰の建設を調査,検討するなどとされた。上記基本計画は,平成9年の河川法等改正により河川整備基本方針(河川法16条1項)ないし河川整備計画(同法16条の2第1項)とみなされ,本件水害当時も継続していた。(乙A39)イ(ア)岐阜県知事は,主に自流域からの洪水を安全に下流に流下させるための河道整備のため,相川,杭瀬川及び牧田川について,昭和30年に改修計画を策定し,昭和31年度に公共中小河川事業として河川改修に着手した。その後,昭和34年に牧田川が,昭和40年に杭瀬川の一部が国の直轄事業に編入された。(イ)被控訴人は,昭和35年大谷川局部改良事業として,昭和35年から昭和40年までの間,大谷川の昭和29年土地改良事業で整備された区間より上流(現主要地方道岐阜垂井線から矢道川合 編入された。(イ)被控訴人は,昭和35年大谷川局部改良事業として,昭和35年から昭和40年までの間,大谷川の昭和29年土地改良事業で整備された区間より上流(現主要地方道岐阜垂井線から矢道川合流点まで)で河川改修を実施した。(ウ)被控訴人は,昭和42年度から,「相川(大谷川)中小河川改修事業」として改修区域に大谷川も取り込み,相川及び大谷川の再改修に本格的に着手した。同事業は,将来的に大谷川の左右岸の堤防高を同じ高さとし,大谷川洗堰を解消する(締め切る)こととしており,平成9年度に「広域河川改修事業」と名称が変更され,現在も継続している。なお,被控訴人は,泥川については,昭和51年に公共小規模河川改修事業として改修に着手した。(エ)これらの事業により,相川,大谷川,泥川において,相川は杭瀬川合流点から垂井町垂井地内までの9150メートルの区間,大谷川は相川合流点から大垣市青墓町地内までの6550メートルの区間,泥川は相川合流点から垂井町表佐地内までの5200メートルの区間について,河道の狭窄部及び堤防高不足箇所を重点に,河道掘削,築堤護岸,排水樋管,橋梁改修等の工事が実施されてきた。(以上につき甲A3・7頁,甲A33・75頁から84頁まで,乙A22・11頁,乙A24,乙A25,乙A45・7頁)(6) 昭和56年嵩上げ工事前の浸水被害ア原洗堰が設置された昭和34年から昭和55年までの約22年間の原洗堰からの越流は,別紙「被災状況」のとおり10回(約2年に1回の頻度)に及んだ。そのうち,昭和46年から昭和55年までの10年間に生じた荒崎地区の床上浸水被害は,少なくとも,昭和46年の台風23号の際,昭和47年の台風20号の際,昭和50年の台風6号の際及び昭和51年の9・12豪雨の際の合計4 から昭和55年までの10年間に生じた荒崎地区の床上浸水被害は,少なくとも,昭和46年の台風23号の際,昭和47年の台風20号の際,昭和50年の台風6号の際及び昭和51年の9・12豪雨の際の合計4回であった。 (甲A12の1,甲A15の1,甲A43・6頁・7頁,弁論の全趣旨)イ他方,大垣市役所の調査等によれば,昭和34年から昭和50年8月までの間,大垣市内で次のような浸水被害が生じた。(ア) 昭和34年9月26日の伊勢湾台風の際,大垣市内で床上浸水61戸,床下浸水1115戸の被害が生じた。このとき,原洗堰からの越流は記録されていないが,荒崎地区においても床上浸水被害が生じた。(乙A31)(イ) 昭和36年6月の梅雨前線豪雨の際には,横曽根町水門川右岸が50メートルにわたって破堤し,大垣市内の浸水被害は,床上浸水2514戸,床下浸水7495戸に及んだ。このときは,原洗堰も越流した。(ウ) 昭和42年7月2日の集中豪雨により,水門川の八島町,宿地町等で法崩れが生じて169戸が床下浸水した。このときは,原洗堰は越流しなかった。(エ) 昭和44年7月の梅雨前線豪雨の際には,原洗堰から越流したほか,大谷川が上流の青野町地内で決壊した。(オ) 昭和46年8月の台風23号の際には,大谷川が右岸20メートル,左岸15メートルにわたって決壊し,堤防からの越流は10か所で生じ,大垣市内の浸水被害は,床上浸水142戸,床下浸水3373戸に及んだ。このときは,原洗堰からも越流し,荒崎地区でも床上浸水被害が生じた。(カ) 昭和46年9月の台風29号の際には,水門川が今福町地内で20メートル決壊し,大谷川も右岸7メートルが破堤し,床上浸水46戸,床下浸水3059戸の被害が生じた。このときは,原洗堰 生じた。(カ) 昭和46年9月の台風29号の際には,水門川が今福町地内で20メートル決壊し,大谷川も右岸7メートルが破堤し,床上浸水46戸,床下浸水3059戸の被害が生じた。このときは,原洗堰は越流しなかった。(キ) 昭和47年9月9日の集中豪雨の際には,大垣市内で床上浸水6戸,床下浸水1469戸の被害が生じた。このときは,原洗堰は越流しなかった。(ク) 昭和47年9月17日の台風20号の際には,牧田川中堤が決壊するとともに,大谷川右岸が50メートルにわたって決壊し,野口町等で溢流が生じ,床上浸水54戸,床下浸水1880戸の被害が生じた。 このときは,原洗堰からも越流し,荒崎地区にも床上浸水被害が生じた。(ケ) 昭和49年7月の集中豪雨の際,大谷川,薬師川,古宮排水路で破堤し,浸水被害は,床上浸水1065戸,床下浸水7904戸に及んだ。このときは,原洗堰からも越流した。(コ) 昭和50年8月の台風6号の際には,大谷川の水位は原洗堰の高さを0.85メートル超えて越流し,荒崎地区及び静里地区に床上浸水17戸,床下浸水63戸の被害が生じた。なお,M新聞の報道(乙A28)によれば,そのうち,荒崎地区の被害は,床上浸水11戸,床下浸水36戸である。荒崎地区の住民は,この浸水被害の後,増水時に自力で原洗堰に土のうを積み,原洗堰を閉鎖する旨を申し合わせたが,対岸の静里地区の住民らが,原洗堰を閉鎖すれば左岸に水が溢れる旨主張して土のう積みに反対したため,実行はされなかった。(サ) 上記のほかに,昭和46年から昭和50年までの5年間に5回(昭和46年7月26日,昭和47年6月8日,昭和49年8月23日,昭和50年7月4日及び同月24日),集中豪雨等により,大垣市内で200戸以上の床下浸水被害が生じたことがあるが,いず 5年間に5回(昭和46年7月26日,昭和47年6月8日,昭和49年8月23日,昭和50年7月4日及び同月24日),集中豪雨等により,大垣市内で200戸以上の床下浸水被害が生じたことがあるが,いずれも原洗堰からは越流しなかった。(以上につき甲A12の1,甲A15の1,甲A18・448頁・449頁,甲A20,甲A21,甲A43・7頁,乙A8・4頁,乙A19・18頁,乙A28ないし乙A31)ウ昭和51年の9・12豪雨の際,大谷川の水位は原洗堰の高さを1.65メートル超えて越流し,荒崎地区に床上浸水被害が生じた。同年9月8日から同月14日までの大垣市内の累計降雨量は768ミリメートルを記録し,岐阜県内の浸水戸数は1万4663戸に及んだ。大垣市内では,住宅の床上浸水4541世帯(うち,荒崎支所管内は291世帯。大垣市内全体の約6.4%),床下浸水9725世帯(同169世帯,約1.7%)の被害が生じた。なお,大垣市内で最も床上浸水被害が多かったのは,東支所管内の1030世帯であった。(甲A14の18の1,乙A8・4頁・5頁)エこのように,荒崎地区の宅地化が進行した昭和43年ころから昭和55年までの間,原洗堰からの越流は7回に及び,うち少なくとも4回は荒崎地区において床上浸水被害が生じたが,同期間,大垣市内においては,荒崎地区以外の地区でも浸水被害が多発していた。なお,大谷川右岸地域のうち,輪中堤によって囲まれた十六輪中は,浸水被害を受けることなく,水防共同体としての機能を果たしてきた。(甲A19・14頁)(7) 昭和56年嵩上げ工事の経緯ア国の緊急事業国は,昭和51年の9・12豪雨による大規模な浸水被害を受け,同年,激甚災害対策特別緊急事業(総事業費約69億円)に着手し,同事業により, 昭和56年嵩上げ工事の経緯ア国の緊急事業国は,昭和51年の9・12豪雨による大規模な浸水被害を受け,同年,激甚災害対策特別緊急事業(総事業費約69億円)に着手し,同事業により,杭瀬川の大規模な拡幅を行った。(乙A22・11頁,乙A24,乙A26・5頁,乙A45・7頁)イ昭和56年嵩上げ工事に向けた検討岐阜県大垣土木事務所は,下流の整備が進んだことや大谷川右岸の堤防整備等が進んだことなどを背景として,昭和54年度,株式会社Kに大谷川洗堰の嵩上げ工事についての検討,調査を委託し,同社及び岐阜県大垣土木事務所は,昭和55年3月,その結果を「昭和54年度大谷川越流堤嵩上げ工事調査報告書」(乙A19)にまとめた。その内容は,大垣市は輪中地帯であるため排水が問題であり,大谷川については最大の問題が大谷川洗堰であるとの認識の下,①大谷川洗堰について何ら改造をせずほかの方策(河川改修,貯水池ポンプ排水の強化)等により被害を小さくする,②大谷川洗堰を嵩上げする,③大谷川洗堰を完全に締め切る等の方法について,荒崎地区の排水を行う荒崎ポンプ場のポンプや洗堰樋門の機能,大谷川洗堰を嵩上げ又は完全締切りの場合の下流の水位上昇の程度などの観点から比較検討したものである。上記検討においては,特に②大谷川洗堰を嵩上げする方法と③大谷川洗堰を完全に締め切る方法が中心的に検討されたが,③の方法では,下流の水位の上昇値も大きくなり,下流堤防の越流の心配が出てくる,しかし,②の嵩上げの場合,0.6メートルの嵩上げを行うと,連続雨量250ミリメートル以上で越流が生じ,連続雨量400ミリメートル以上の場合に遊水池の水位が大谷川の最高水位と同一になるが,降雨量300ミリメートル以下の場合は越流入量が減少するため,遊水池の水位 量250ミリメートル以上で越流が生じ,連続雨量400ミリメートル以上の場合に遊水池の水位が大谷川の最高水位と同一になるが,降雨量300ミリメートル以下の場合は越流入量が減少するため,遊水池の水位の上昇も少なくなる,そのため,将来大谷川が完全改修を行った場合は越流堤を完全に締め切っても支障はないが,昭和55年3月の段階では,大谷川洗堰を暫定的に0.6メートル嵩上げするのが適当である,総雨量350ミリメートル以下の洪水に対しては,嵩上げ高0.6メートルとすれば相当に効果的であると考察している。また,上記報告書には,昭和34年から昭和51年までの大垣市の連続降雨量を元に確率を計算すると,大垣市において,2年に1回は193ミリメートル,5年に1回は300ミリメートル,10年に1回は360ミリメートル程度の連続降雨があると考えられる旨の記載がある。なお,昭和51年の9・12豪雨の後,荒崎地区の住民は,岐阜県知事に対し,原洗堰を完全に締め切ることを求めたが,静里地区,綾里地区の住民の同意が得られなかった。(乙A19,乙A26・5頁,乙A31)ウ昭和56年嵩上げ工事岐阜県知事は,昭和42年度から継続している「相川(大谷川)中小河川改修事業」(前記(5)イ)の一環として,原洗堰の越流部を0.6メートル嵩上げし,TP7.8メートルとする大谷川洗堰の嵩上げ(昭和56年嵩上げ工事)に着工し,昭和56年3月,完工した。大谷川洗堰付近の県道岐阜垂井線から下流は,左岸堤防(TP10.0メートル)より右岸堤防(TP約9.0メートル)が1メートル低い状況となっており,大谷川洗堰部分は,上記嵩上げ後もこれより更に1.2メートル低くなっており,連続降雨量250ミリメートル以上の洪水が発生した場合,越流する仕組みとなって メートル)が1メートル低い状況となっており,大谷川洗堰部分は,上記嵩上げ後もこれより更に1.2メートル低くなっており,連続降雨量250ミリメートル以上の洪水が発生した場合,越流する仕組みとなっていた。(乙A6,乙A19・135頁,乙A24,乙A45・7頁,証人C)(8)昭和56年嵩上げ工事から本件水害までア昭和56年嵩上げ工事後,平成2年ころまで(ア) 国は,前述の「木曽川水系工事実施基本計画」に基づき,直轄河川事業として,下流の牧田川,杭瀬川において,高水護岸,築堤等の一般改修工事を進めていた。 (イ) 岐阜県知事は,昭和56年嵩上げ工事後も,昭和42年度から継続している「相川(大谷川)中小河川改修事業」(前記⑸イ)の一環として,また,昭和63年度に「木曽川水系相川・大谷川中小河川改修全体計画」を策定して,相川及び大谷川の掘削,築堤,護岸工事を継続した。その結果,相川については,平成3年度時点で,昭和30年代から実施した大垣市荒崎地先の狭窄部引き堤工事や東海道本線橋梁の架換工事等の大半が完了し,下流有堤部の堤防補強を重点に改修事業を実施している状態で,大谷川については,東海道本線より上流はほぼ完了し,旧国道21号線より下流を相川の築堤と整合を図りつつ引堤工事を実施している状態であった。また,昭和60年,大型排水機が増設された。上記改修工事の事業費(大谷川工区分)は,昭和57年度が4100万円,昭和58年度が6100万円,昭和59年度が6300万円,昭和60年度が1億2000万円,昭和61年度が1億2500万円,昭和62年度が1億5500万円,昭和63年度が1億8200万円,平成元年度が2億6000万円及び平成2年度が6900万円であった。 (甲A33・75頁,乙A25,乙A32 億2500万円,昭和62年度が1億5500万円,昭和63年度が1億8200万円,平成元年度が2億6000万円及び平成2年度が6900万円であった。 (甲A33・75頁,乙A25,乙A32,乙A46,乙A47)(ウ) 昭和58年6月の集中豪雨の際,大垣市内で住宅の床上浸水4世帯,床下浸水145世帯の被害が生じた。このとき,本件洗堰から越流したが,荒崎支所管内での被害は,住宅の床上浸水1世帯,非住宅の床下浸水11棟(住宅の床下浸水なし)にとどまった。(甲A14の18の1,乙A8・5頁)(エ) 平成元年9月の集中豪雨の際,大垣市内で床上浸水3世帯,床下浸水20世帯の被害が生じた。このとき,本件洗堰から越流したが,荒崎地区内の住宅浸水被害は生じなかった。(甲14の18の1,乙A8・5頁)イ平成2年9月の水害平成2年9月の台風19号の際,養老町江月付近の牧田川と杭瀬川の中堤が長さ150メートルにわたって破堤し,牧田川の水が杭瀬川や大谷川に逆流し,養老町や大垣市で広く浸水被害が発生した(以下「平成2年9月の水害」という。)。本件洗堰からも越流し,大垣市内で住宅の床上浸水212戸,床下浸水874戸の被害が生じた。このうち,荒崎支所管内の住宅の床上浸水が160戸(大垣市内全体の約75%),床下浸水が382戸(同約44%)であった。なお,上記水害時の雨量は,50年に1回発生すると想定される雨量であった。(甲A3・4頁・7頁,甲A14の18の1,乙A8・5頁)ウ国は,平成2年9月の水害を受けて,同年,牧田川及び杭瀬川の高水護岸,築堤等の一般改修工事に加え,下流の流下能力を向上させるため,近鉄養老線橋梁及び県道橋2橋(烏江橋,高渕橋)の架け替えを行う近鉄橋梁特定構造物改築事業(総事業費約220億円)に着手し,平成 水護岸,築堤等の一般改修工事に加え,下流の流下能力を向上させるため,近鉄養老線橋梁及び県道橋2橋(烏江橋,高渕橋)の架け替えを行う近鉄橋梁特定構造物改築事業(総事業費約220億円)に着手し,平成13年度に完工した。(乙A22・11頁,乙A24,乙A25,乙A45・7頁)エ被控訴人は,昭和63年に策定した「木曽川水系相川・大谷川中小河川改修全体計画」等に基づき,大谷川の掘削,築堤,護岸工事を継続した。その事業費(大谷川工区分)は,従前よりも大幅に増加し,平成3年度は2億4700万円,平成4年度は3億7500万円,平成5年度は2億7100万円,平成6年度は1億2700万円,平成7年度は5200万円,平成8年度は4億1000万円及び平成9年度は6700万円であった。なお,平成2年9月の水害を機に,本件洗堰の嵩上げが検討されたが,周辺地区のコンセンサスを得るのが困難な状況であった。(乙A22・11頁,乙A24,乙A25,乙A32)オ(ア)被控訴人は,昭和63年に策定した「木曽川水系相川・大谷川中小河川改修全体計画」が下流の国の直轄河川事業の計画と必ずしも整合していなかったこともあって,当時実施中の河川改修事業との整合を図りつつ,新たに相川,大谷川その他河川の総合的な治水計画を策定するための調査,検討をAに委託した。なお,平成3年当時の改修計画(平成2年度から平成30年度まで)では,相川について平成8年までに延長1.1キロメートルの築堤(腹付け)(事業費20億円)を,平成30年までに延長2.3キロメートルの低水護岸(事業費8億円)を,大谷川については平成5年から平成15年までに延長0.7キロメートルの掘削護岸築堤(暫定)(事業費15億円)を,平成7年ころから平成20年までに延長12.8キロメートル 低水護岸(事業費8億円)を,大谷川については平成5年から平成15年までに延長0.7キロメートルの掘削護岸築堤(暫定)(事業費15億円)を,平成7年ころから平成20年までに延長12.8キロメートルの掘削護岸築堤(腹付け)(事業費6億円)を,平成15年から平成22年ころにかけて,延長合計4.1キロメートルの区間内における堤嵩上げ(事業費合計6億円)を実施し,平成22年ころに大谷川洗堰の嵩上げ(事業費1億円)を実施することとされていた。(甲A33・78頁(表3.3相川流域改修計画),証人Dの供述書)(イ) Aは,平成3年度から平成5年度にかけて流域調査,現況河道の解析,降雨解析,流出モデルの作成,治水安全度の検討,計画高水量の算定,基本高水流量の設定等を行い,各洪水処理施設の可能性についても検討を行った。Aは,「平成4年度公共住宅宅地基盤特定治水施設等整備事業相川流域河川計画業務報告書」(甲A34)において,大谷川における相川等の背水に関し,①完全バック堤方式,②自己流堤方式及び③セミバック堤方式を検討し,洪水処理は完全バック堤が基本であるが,その方式では堤防嵩上げのための用地買収やJR東海道本線の嵩上げ等が必要になり,改修期間の長期化が予想される一方で,平成2年に大きな浸水被害が生じていることから河道改修を急ぐ必要があるとして,JR鉄道橋部に遊水地を設置するとともに,水門を設置してその上流をセミバック堤として処理する方式を提案した(①の完全バック堤方式とは,逆流防止施設を本川と支川の合流点に設けず,本川の背水影響を受ける区間の支川堤防を本川堤防並み(余裕高,天端幅)に堅固な構造を備えた支川堤防のことをいう。②の自己流堤方式とは,本川との合流点に逆流防止施設を設けて本川の影響が支川に及ぶのを遮断し,支川の堤防高を本川 の支川堤防を本川堤防並み(余裕高,天端幅)に堅固な構造を備えた支川堤防のことをいう。②の自己流堤方式とは,本川との合流点に逆流防止施設を設けて本川の影響が支川に及ぶのを遮断し,支川の堤防高を本川の背水位とは無関係に支川の流量だけで定める場合の支川の堤防のことをいう。 この場合は,逆流防止施設の閉鎖後には支川に洪水が貯まり,支川流出量が支川の河道貯留容量を満たした後に支川堤を越流して堤内地に浸水するおそれがある。③のセミバック堤方式とは,合流点に逆流防止施設を設けて本川の影響を遮断するが,支川の計画高水位については完全バック堤と同様とし,堤防の高さの余裕や幅を支川の堤防並みに低下させる方式のことをいう。この方式では,支川の堤防が自己流堤に比べて高いので,支川に洪水が貯まるまでに一定の余裕があること,完全バック堤に比べて堤防敷用地が軽減できることという利点があるが,水門等の設備が必要となり経済性に懸念がある。)。しかし,その後,建設省から完全バック堤を基本とするよう再考を求められたことから,Aは,平成8年3月,被控訴人に,大谷川は計画高水流量が毎秒110立方メートルで比較的規模が大きいこと及び下流部は背後地盤が低いことから,完全バック堤方式を採用した「平成7年度公共中小河川改修委託業務報告書相川全体計画書作成」(以下「平成7年度報告書」という。甲A39)を提出した。(甲A33,甲A34(特に80頁・127頁),甲A35・5頁,甲A39(特に62頁以下),証人Dの供述書)(ウ) Aは,平成8年11月,「平成8年度公共住宅宅地基盤特定治水施設等整備事業報告書相川全体計画事業実施順位の検討(洪水氾濫解析)」(以下「平成8年度報告書」という。甲A35)を作成し,被控訴人に提出した。Aは,上記報告書において,完全バック堤 基盤特定治水施設等整備事業報告書相川全体計画事業実施順位の検討(洪水氾濫解析)」(以下「平成8年度報告書」という。甲A35)を作成し,被控訴人に提出した。Aは,上記報告書において,完全バック堤による整備の完了までには相当長期間を要するところ,改修工事の施工順序は,施工段階において安全度の順序を変えないようにするには,最も安全度の低い本件洗堰が最後となるが,現状の本件洗堰の高さでは,高渕地点の水位から考えて10年に1回程度の確率の降雨により溢水することが予測され,早急な対応を取ることが必要であるとして,大谷川洗堰の段階的嵩上げ(1.05メートル)を行うことを提案した。なお,上記報告書においては,上記の嵩上げ高1.05メートルは,背水位に関しては1/20年確率水位程度を保障し,大谷川及び相川の自流流量については1/50計画降雨に対する流出量を与え,越流流量は荒崎,島団地に影響しない湛水位7.0メートル程度を限度として算出した数値であるとされている。(甲A35(特に77頁・78頁・88頁ないし93頁),証人Eの供述書)(エ) 岐阜県知事は,相川改良工事全体計画を策定し,平成9年11月,建設大臣の認可を受けた。相川改良工事全体計画の概要は,計画規模を1/50年確率規模(50年に1回程度の確率で降る大雨に対して安全である),計画降雨量(1/50年確率日雨量)を相川流域の日雨量259ミリメートル,大谷川流域の日雨量265ミリメートルとし,大谷川については完全バック堤方式により洪水処理を行うというものであった。(乙A20)カ相川改良工事全体計画策定後の河川整備計画の検討(ア) 岐阜県知事は,遅くとも,平成14年1月までに,広域河川改修事業の中で,次の内容の相川,大谷川,泥川の河川整備計画を検討し準備してい カ相川改良工事全体計画策定後の河川整備計画の検討(ア) 岐阜県知事は,遅くとも,平成14年1月までに,広域河川改修事業の中で,次の内容の相川,大谷川,泥川の河川整備計画を検討し準備していた(なお,Aが,被控訴人と協議しながら河川改修計画に係る調査,検討を進めていたこと,上記平成8年度報告書の内容並びに下記キの工事実施状況からすると,被控訴人は,相川改良工事全体計画策定時には,既に,大谷川洗堰の段階的嵩上げを行うという方針を有していたものと認められる。)。(甲A3・8頁,甲A35,甲A37・54頁から63頁まで,証人Dの供述書)a 第1期計画杭瀬川下流で国土交通省により実施されている改修事業の進捗により,大垣市高渕地内の狭窄部が解消され,杭瀬川の洪水の流下能力が大きく向上しつつあり,また,平成19年度に徳山ダムが完成見込みであり,過去と同じ雨が降った場合でもダムの洪水調節により揖斐川本川の水位低下が見込まれた。このため,徳山ダムの完成見込みである平成19年度を目途に,第1期計画として,相川については,養老橋から上流左右岸の堤防の厚みが不足しているため補強工事を実施し,特に養老橋直上流右岸では河川断面が不足しているため,現在の堤防を引堤して築造する,大谷川については,JR東海道線下流の左右岸の堤防の高さが低く,厚みも不足しているため補強工事,橋の架け替え工事を実施する,泥川については,室原新橋下流の堤防の高さが低く,厚みも不足しているため補強工事を実施し,これらの工事終了後,大谷川洗堰をTP8.85メートルまで嵩上げする(1.05メートルの嵩上げ)。b 第2期(完成)計画第1期計画実施後,引き続いて泥川の樋門処理を実施するとともに,相川・大谷川の堤防について下流部より順次堤防の高さ 5メートルまで嵩上げする(1.05メートルの嵩上げ)。b 第2期(完成)計画第1期計画実施後,引き続いて泥川の樋門処理を実施するとともに,相川・大谷川の堤防について下流部より順次堤防の高さを完成形まで上げ,併せて桁下高さが低くなっている橋梁の改築を行う。最後に,大谷川洗堰部分も上下流と同じ構造の完成堤防として大谷川洗堰を解消し,河川改修事業を完成させる。(イ) これに先立ち,岐阜県西濃建設事務所では,相川,大谷川,泥川の河川整備計画の検討を行うため,平成13年7月,公募及び推薦による有識者や地域内の住民68名で組織する「河川整備計画西濃地域検討会」を設置した。同検討会は,牧田川圏域全体を検討する全体会議と,圏域を杭瀬川,相川(大谷川,泥川を含む),水門川の流域に分割して具体的な整備計画を検討する3ブロック会議から成り立っている。平成13年度には,1回の全体会議と3回のブロック会議が開催され,それぞれのブロックごとに,河川整備の現状と課題を整理し,整備目標及び施策の方向性を検討し,整備方針についてコンセンサスを得た。なお,相川ブロックは,荒崎のほか静里,綾里から公募,推薦された委員23名で構成され,平成14年7月21日までに3回開催されたが,大谷川洗堰を撤廃し,住民の不安を解消してほしい旨の意見が出る一方,大きな遊水地がなくなるのは不安である旨の意見が出るなど,大谷川左右岸ないし上下流での利害が対立していた。また,平成13年9月21日に実施された第2回ブロック会議においては,被控訴人から委員に対し,大谷川洗堰のTP8.85メートルへの段階的整備の記載を含む図面が配付され,上記段階的嵩上げについての説明もなされた。(甲A3・8頁,乙A32,乙A51ないし乙A53)キ本件水害時ま 員に対し,大谷川洗堰のTP8.85メートルへの段階的整備の記載を含む図面が配付され,上記段階的嵩上げについての説明もなされた。(甲A3・8頁,乙A32,乙A51ないし乙A53)キ本件水害時までの河川改修の状況等大谷川洗堰を1.05メートル嵩上げすることにより,上下流で水位が0.1メートルないし0.54メートル上昇し,上昇水位が現況堤防高を超えるおそれがあるため,被控訴人は,平成8年度以降,大谷川洗堰の嵩上げにより影響を受ける区間にある堤防(合流点から1.0キロメートルないし1.7キロメートルの区間の左岸堤防)の整備(腹付け)を行い,平成11年度には国道21号線の嵩上げ工事を,平成12年度から同13年度にかけて,長松橋(相川合流点から3.5キロメートルの位置にある)の嵩上げ工事等を行った。大谷川改修の事業費(大谷川工区)は,平成10年度は2億7900万円,平成11年度は2億1300万円,平成12年度は3億0300万円,平成13年度は1億9300万円,本件水害が発生した平成14年度は5億2000万円であった。(甲A37・60頁,乙A6,乙A25,乙A46,乙A47) ク昭和56年嵩上げ工事の効果平成12年9月の集中豪雨の際,大垣市内で住宅の床下浸水30戸の被害が生じたが,荒崎支所管内では浸水被害は生じなかった。(甲A14の18の1)昭和56年嵩上げ工事により,本件洗堰からの越流は,昭和56年から平成14年までの22年間に5回となり,ほぼ5年に1度の割合となった。 このうち,荒崎地区に住宅の床上浸水被害が生じたのは,平成2年9月の水害の際と本件水害の際の2回であり,およそ11年に1回であった。(9) 本件水害の状況(この項において,平成14年7月については年及び月の記載を省略する。) 平成2年9月の水害の際と本件水害の際の2回であり,およそ11年に1回であった。(9) 本件水害の状況(この項において,平成14年7月については年及び月の記載を省略する。)ア降雨状況台風6号による降雨は9日午後10時ころから始まり,翌10日未明に激しさを増し,岐阜県根尾川流域の樽見観測所では,同日の日降雨量495ミリメートル(昭和54年からの記録では第1位)を,最大時間降雨量93ミリメートル(同第3位)を記録した。岐阜県根尾川流域の根尾村根尾地点では,総降雨量562ミリメートルを,10日午前1時に最大時間降雨量111ミリメートルを記録した。なお,根尾川は揖斐川の支川の一つである。大垣観測所では日降雨量155ミリメートル(昭和54年からの記録では第3位),相川上流の関ヶ原観測所では日降雨量222ミリメートル(同第3位),最大時間降雨量91ミリメートル(同第1位)の猛烈な雨を記録した。本件水害時の総雨量(累計雨量)は,大谷川に近い大垣市赤坂地点が263.0ミリメートル,大垣市の雨量観測地点(大垣市中消防署)が178.5ミリメートル,相川上流部の関ヶ原観測所で351.0ミリメートルであった。台風6号による降雨は,流域全体で30年に1回程度の豪雨に相当するものであった。(甲A2,乙A6)イ河川の水位及び出水状況(ア) 上記豪雨により,揖斐川の水位は急激に上昇し,万石地点(河口から約41キロメートル,大垣市)において,10日12時に最高水位TP12.36メートルを記録した。これは,計画高水位TP12.09メートルを0.27メートル上回るものであり,計画高水位を上回る状態は約3時間続いた。(イ) 牧田川の烏江地点(揖斐川との合流部から約 メートルを記録した。これは,計画高水位TP12.09メートルを0.27メートル上回るものであり,計画高水位を上回る状態は約3時間続いた。(イ) 牧田川の烏江地点(揖斐川との合流部から約7キロメートル上流, 養老町)において,最高水位TP9.75メートルを記録した。これは,計画高水位TP9.25メートルを0.5メートル上回るものであり,計画高水位を上回る状態は約4時間続いた。(ウ) 杭瀬川の高渕地点(牧田川との合流部から約2キロメートル上流,大垣市)において,計画高水位はTP8.88メートルであるところ,最高水位TP8.57メートルを記録した。(エ) 本件水害時,大谷川の水位はTP8.77メートルとなり,本件洗堰の高さを0.97メートル越えて,10日午前6時10分から11日午前7時までの約25時間にわたり越流した。本件洗堰での越流が始まったとき,杭瀬川の高渕地点の水位は,洗堰天端高のTP7.80メートルより低いTP約6.0メートルであった。(オ) 本件水害により,大谷川右岸区域(荒崎地区のほか,養老町の一部及び垂井町の一部を含む。)に浸水面積234ヘクタール,住宅浸水482戸(床上浸水309戸,床下浸水173戸),非住宅浸水121戸(床上浸水85戸,床下浸水36戸)の被害が生じた。また,泥川流域において浸水面積265ヘクタール,床上浸水5戸,床下浸水36戸の被害が生じ,大谷川左岸区域において浸水面積64ヘクタール,床下浸水5戸の被害が生じた。なお,上記のうち,大垣市内の住宅の床上浸水は333戸,床下浸水は233戸で,そのうち,荒崎支所管内の浸水面積は約175ヘクタール,住宅の床上浸水290戸(大垣市内全体の約87%),床下浸水166戸(同約71%)であった。(カ) 台風6号に 3戸,床下浸水は233戸で,そのうち,荒崎支所管内の浸水面積は約175ヘクタール,住宅の床上浸水290戸(大垣市内全体の約87%),床下浸水166戸(同約71%)であった。(カ) 台風6号による浸水被害(内水,外水)は,浸水面積約817ヘクタール,浸水戸数649戸(床上浸水340戸,床下浸水309戸)に及んだ。(以上につき甲A1ないし甲A3,甲A14の18の1,甲A18・451頁・452頁,乙A14)ウ浸水被害の順番本件水害における浸水被害は,原判決添付の別紙「氾濫発生順序」記載のとおり,まず,無堤部を有する泥川において,背水による水位上昇の影響を受けて溢水した後(浸水順序①),本件洗堰からも溢水し(浸水順序②),その後,矢道川からも溢水し(浸水順序③),大谷川,相川,泥川等の水位の上昇に伴い,河川への排水が困難となった結果,上記①ないし③と並行して,内水や水路などによる湛水(浸水順序④等)も発生した。(乙A15)エ内水の影響本件水害時における本件洗堰からの氾濫域における湛水量は,全体で502万立方メートルと見積もられ,このうち,本件洗堰及び相川大谷川合流堤から越流した湛水量が334万立方メートル,内水による湛水量が168万立方メートルと推測されている。内水の湛水量は,大谷川へ流入すると想定される流域面積(約5.2平方キロメートル)への降雨を各観測所における降雨量実績(赤坂観測所263ミリメートル,谷観測所382ミリメートル)をもとに算出された。 また,外水の湛水量は,本件洗堰及び相川大谷川合流堤から溢水したとして,実際の本件洗堰付近の水位,相川大谷川合流堤の水位及び堤内の水位をもとに算出された。(甲A3・15頁)オ控訴人らの被害状況等控訴人らは,本件水害により,別紙 大谷川合流堤から溢水したとして,実際の本件洗堰付近の水位,相川大谷川合流堤の水位及び堤内の水位をもとに算出された。(甲A3・15頁)オ控訴人らの被害状況等控訴人らは,本件水害により,別紙「損害目録」記載のとおり,控訴人ら132名のうち105名が床上浸水,27名が床下浸水の被害を受けた。控訴人らのうち,自宅から避難した者は,避難の際,危険な状態での避難による恐怖を感じた。ようやく避難場所に避難しても,避難先が危険な状態になり,更に避難を余儀なくされた者もいた。控訴人らのうち,自宅から避難しなかった(避難できなかった)者も多いが,これらの者は,自宅が水没するのではないかという恐怖や不安を感じた。水が引いても,控訴人らの多くは,トイレや風呂が利用できない,電化製品が使用できない,寝る場所が確保できない等の不便な状況,非衛生的な状態に置かれた。また,建物は,浸水のために壁が落ちる,壁紙が剥がれ,床板がゆがむ,悪臭が漂うといった状態となり,異臭やシロアリ被害を防ぐため,畳を上げ,床板を外すなどして床下を乾かす必要があり,修理や改修費用の経済的負担も生じた。控訴人らの多くは,家財道具を避難させることができなかったため,買換え等の経済的な被害を受けたのみならず,家族の思い出の品や子供たちの成長の過程を記録した写真など,二度と戻らない物が水に浸かって破損し,精神的な苦痛を被った。(甲A12の1,甲A13の1,甲A14の2・24,甲A15の1,甲B1ないし甲B183の各1及び2,控訴人F本人,控訴人G本人,控訴人H本人,控訴人J本人)(10) 本件水害後の改修事業等ア(ア) 本件水害の発生を受けて,平成14年10月31日,杭瀬川支川相川,泥川,大谷川の岐阜県知事管理区間においては河川災害復旧関連事業 訴人J本人)(10) 本件水害後の改修事業等ア(ア) 本件水害の発生を受けて,平成14年10月31日,杭瀬川支川相川,泥川,大谷川の岐阜県知事管理区間においては河川災害復旧関連事業及び河川等災害復旧事業が,下流部の揖斐川支川杭瀬川の国土交通大臣管理区間においては河川災害等関連緊急事業(直轄復緊事業)が採択された。 (イ) 国(国土交通省)は,上記河川災害復旧等関連事業として,杭瀬川と揖斐川の合流点から上流へ5800メートルの区間を対象に,牧田川や杭瀬川の築堤工事や河道掘削,護岸工事,近鉄養老線付近の県道の道路橋の架け替えを行った。(ウ) 被控訴人は,上記(ア)の事業として,平成15年から平成19年度にかけて,相川・大谷川・泥川床上浸水対策特別緊急事業(以下「平成14年緊急事業」という。)を実施した。大谷川の事業対象区間は,相川合流点からJR東海道本線上流100メートルまでの4100メートルであった。平成14年緊急事業は,大谷川洗堰からの越流を軽減するために,①大谷川洗堰を1.05メートル(TP8.85メートルまで)嵩上げすることとし,そのため,②嵩上げによる影響を受ける区間の計画高水位までの堤防整備及び③洪水の疎通を阻害している橋梁の架け替えを行うことを目的とし,②,③,①の順序で随時改修をしていくという計画であったが,これは,概ね,前述の第1期計画の内容を上記事業として実施するものであった。平成14年緊急事業の実施により,平成20年3月,堤防補強工事及び大谷川洗堰を1.05メートル嵩上げして天端高TP8.85メートルにする工事(平成20年嵩上げ工事)が完工した。(エ) また,大垣市は,上記平成20年嵩上げ工事が完工するまでの間の暫定的な措置として,大谷 5メートル嵩上げして天端高TP8.85メートルにする工事(平成20年嵩上げ工事)が完工した。(エ) また,大垣市は,上記平成20年嵩上げ工事が完工するまでの間の暫定的な措置として,大谷川右岸に,延長1130メートル,面積70ヘクタールに高さ1.3メートルから2.6メートルの水防土のうによる囲堤を設置することとし,平成15年8月にほぼ完工した。同囲堤の貯留量は,160万立方メートル(本件水害時の越流量の約半分)であり,本件水害程度の洪水の際には,荒崎地区への洪水の到達時間を4時間程度遅らせる効果を有するものであった。 (以上につき甲A2,甲A3,甲A14の14,甲A18・453頁,乙A6,乙A8・8頁・15頁以下,乙A45・10頁・11頁,証人C33頁・34頁)イ平成16年10月の台風23号の際,大谷川洗堰から越流し,荒崎地区において床上浸水被害が生じた。大垣市では,住宅の床上浸水46戸,床下浸水703戸の被害が生じ,そのうち,荒崎支所管内は床上浸水20戸(大垣市全体の約43%),床下浸水124戸(同約18%)であった。(甲A14の18の1,甲A43・6頁)(11) 県内他河川の浸水被害状況原洗堰が嵩上げされた昭和56年から本件水害が発生した平成14年までの22年間に,杭瀬川では,昭和61年,同63年,平成元年,同2年(2回),同4年,同6年(2回),同11年(2回),同12年,同14年の12回(およそ2年に1回),板取川では,昭和56年,平成5年,同6年,同9年,同11年(3回),同14年(2回)の9回(およそ2年半に1回),水門川では,昭和61年,同63年,平成2年,同12年,同14年の5回(およそ4年半に1回),境川では,平成9年,同11年(2回),同12年の4回(およそ5年半に1回),津 (およそ2年半に1回),水門川では,昭和61年,同63年,平成2年,同12年,同14年の5回(およそ4年半に1回),境川では,平成9年,同11年(2回),同12年の4回(およそ5年半に1回),津保川では,平成2年,同4年,同10年,同12年の4回(およそ5年半に1回),中之江川では,昭和63年,平成元年,同2年,同11年,同12年の5回(およそ4年半に1回)の浸水被害があった。水門川及び板取川における浸水被害の概要は原判決添付の別紙「県内他河川の水害発生状況」のとおりである。なお,大谷川の浸水被害は,昭和61年,平成元年,同2年,同6年,同11年,同12年,同14年の7回(およそ3年に1回)であった。(甲A14の16の1,乙A40,乙A44)(12)建設省の取組等ア建設省は,昭和61年8月に宮城県鹿島台町等で発生した水害を受けて,昭和63年,宮城県鹿島台町,大郷町及び松島町を全国初のモデル地区に指定し,「水害に強いまちづくりモデル事業」を開始した。上記事業の一環として,河川管理者である建設大臣と道路管理者である宮城県(知事)が共同で,国道346号鹿島台バイパスとの兼用施設として,約7.4キロメートルの二線堤を設置することとされ,平成2年度に着手された(以下,上記二線堤を「鹿島台の二線堤」ともいう。)。鹿島台の二線堤は,全体事業費が約220億円とされ,平成20年度においても現道区間の嵩上げ等の工事が継続中であった。(甲A24,乙A49)イ建設大臣は,平成12年2月,「流域での対応を含む効果的な治水対策のあり方」を河川審議会に諮問した。河川審議会は,平成12年12月19日,従前の治水対策は,築堤や河川改修を進めることにより,流域に降った雨水を川に集めて,海まで早 含む効果的な治水対策のあり方」を河川審議会に諮問した。河川審議会は,平成12年12月19日,従前の治水対策は,築堤や河川改修を進めることにより,流域に降った雨水を川に集めて,海まで早く安全に流すことを基本として行われてきたが,都市化による土地利用の激変や異常降雨の頻発により,通常の河川改修のみによる対応では限界が生じている地域があることから,ダムや堤防などの通常の河川改修を引き続き着実に実施することに加え,輪中堤,宅地嵩上げ及び土地利用方策,河川と下水道の連携強化,貯留施設等による流出抑制対策,ハザードマップの作成・公表等の流域対策を導入することを提案する旨の中間答申を行った。上記中間答申においては,拡散型氾濫域では連続堤方式等の河川整備を行うことが基本である,二線堤等は有効な手法であるため,整備手法等について検討を進めるべきであるとされ,非拡散型氾濫域では,連続堤方式では宅地や農地の大半が堤防敷地として失われてしまう場合,安全度を高くする必要がある地域について輪中堤や宅地嵩上げによることがそれぞれ提案された。なお,従来,輪中堤や宅地嵩上げ等の対策は,河川管理者ではなく地方公共団体により実施されてきたが,これらの対策を河川管理者が河川事業として実施することが提案された。また,洪水の氾濫域における土地利用方策として,緩やかな規制を設置する新たな概念の河川区域を設けることや,建築基準法に基づく災害危険区域における建築物の建築制限を設けること,建築物を新築する場合の制限について検討を行うこと,情報提供として,浸水実績図やハザードマップの作成・公表等を行うことなどが提案された。(甲A4) 2 争点(1)(大谷川洗堰の管理において,機能的瑕疵の法理の適用又は類推適用による瑕疵が認められるか。)に 水実績図やハザードマップの作成・公表等を行うことなどが提案された。(甲A4) 2 争点(1)(大谷川洗堰の管理において,機能的瑕疵の法理の適用又は類推適用による瑕疵が認められるか。)について(1) 国家賠償法2条1項にいう営造物の設置又は管理の瑕疵とは,営造物が通常有すべき安全性を欠いて他人に危害を及ぼす危険性のある状態をいうところ,これは,営造物を構成する物的施設自体に存する物理的,外形的な欠陥ないし不備によって一般的に上記のような危害を生じさせる危険性がある場合のみならず,その営造物が供用目的に沿って利用されることとの関連において危害を生じさせる危険性がある場合も含み,また,その危害は,営造物の利用者に対するもののみならず,利用者以外の第三者に対するものも含まれると解される。そして,当該営造物の利用の態様及び程度が一定の限度にとどまる限りにおいてはその施設に危害を生じさせる危険性がなくても,これを超える利用によって危害を生じさせる危険性が存する状況にある場合には,そのような利用に供される限りにおいて上記営造物の設置,管理には瑕疵があるということは妨げられず,したがって,上記営造物の設置・管理者において,かかる危険性があるにもかかわらず,これにつき特段の措置を講ずることなく,また,適切な制限を加えないままこれを利用に供し,その結果利用者又は第三者に対して現実に危害を生じさせたときは,それが上記設置・管理者の予測し得ない事由によるものでない限り,国家賠償法2条1項の規定による責任を免れることができないと解される。(大阪国際空港訴訟判決参照)。 (2) 控訴人らは,機能的瑕疵の法理は,受忍限度論に立脚しつつ,営造物が公共的な機能を果たす過程で周辺住民に被害を被らせている場合にも管理の瑕疵,違法性を肯定する法 国際空港訴訟判決参照)。 (2) 控訴人らは,機能的瑕疵の法理は,受忍限度論に立脚しつつ,営造物が公共的な機能を果たす過程で周辺住民に被害を被らせている場合にも管理の瑕疵,違法性を肯定する法理であるところ,岐阜県知事は,本来,越流箇所については最優先で改修する必要があるにもかかわらず,大谷川洗堰から越流させることによってほかの部分の破堤,越流を防ぎ,ほかの地域を守るという河川管理の必要上,本件水害が発生するまで,大谷川洗堰及び荒崎地区について何の浸水対策もしなかったため,長年にわたって,住宅地である荒崎地区が事実上の遊水地としての役割を押しつけられている状態が続き,荒崎地区の住民は,不平等な治水対策により特別の犠牲が強いられてきたものであり,本件水害は人災というべきものであること,本件洗堰からの浸水被害は岐阜県知事が想定したとおりに起こったこと,本件洗堰は改修途上ではなく設置計画どおりに完成された河川管理施設であり,ダムや水門に類似する構造,機能を有することを基礎として,大阪国際空港訴訟判決が示したいわゆる機能的瑕疵の法理を適用又は類推適用すべきであると主張する。(3)アしかしながら,前記1で認定したとおり,大谷川流域は,その自然的条件のため,昔から浸水被害が繰り返されてきた地域であり,従前,大谷川右岸は無堤で荒崎地区は年に数回の頻度で浸水していたところ,大谷川右岸地域の洪水被害を軽減させる目的で昭和29年土地改良事業により右岸に築堤されたこと,その際,養老橋下流の根本的改修が実施されなければ抜本的に水害を軽減することは不可能なため,それまでの過渡的手段として,荒崎地区を遊水地状態とする原洗堰が設置されたこと,その後,昭和43年ころ以降,荒崎地区の一部において宅地化が急速に進み,昭和50年に宅地化した地域及 とは不可能なため,それまでの過渡的手段として,荒崎地区を遊水地状態とする原洗堰が設置されたこと,その後,昭和43年ころ以降,荒崎地区の一部において宅地化が急速に進み,昭和50年に宅地化した地域及び宅地化が見込まれる地域が市街化区域に指定されたこと,国は,昭和40年に河川法が施行される前から本川である揖斐川等の改修事業を順次実施し,被控訴人は,昭和42年度以降,将来的に大谷川の左右岸の堤防高を同じ高さとして大谷川洗堰を解消することを内容とする改修事業を継続的に実施し,その中で,昭和56年に大谷川洗堰が0.6メートル嵩上げされ,それまでは約2年に1回の割合で生じていた大谷川洗堰からの越流が上記嵩上げ後は約5年に1回と減少したこと,その後も,被控訴人は平成2年9月の水害の前後を通じて継続的に大谷川及びその下流河川の改修を進め,大谷川洗堰の完全な締切りまでにはなお長 期間を要することから,遅くとも,平成14年1月までには,まず,平成19年度を目途に堤防補強や橋の架け替えを行った上で,次いで大谷川洗堰の1.05メートル嵩上げを行う方針を定め,平成8年度以降,上記嵩上げ工事に先行させるべき,大谷川洗堰の嵩上げにより影響を受ける区間にある堤防の整備(腹付け),国道21号線の嵩上げ工事,長松橋の嵩上げ工事等を順次計画,実施してきたことが認められる(なお,昭和50年8月の台風6号による浸水被害を受けて,同年10月の岐阜県県議会において,議員から,大谷川洗堰の問題を緊急に処理すべきとの要望がなされた際,岐阜県土木部長は,大谷川洗堰はできる限り早く解消することが望ましいが,根本的には国の直轄事業に属する部分が多い杭瀬川,大谷川の抜本的な改修を待たざるを得ないので,国と十分連絡を取って,改修促進に努力する,また,現在も大谷川のしゅんせつ等を行っ することが望ましいが,根本的には国の直轄事業に属する部分が多い杭瀬川,大谷川の抜本的な改修を待たざるを得ないので,国と十分連絡を取って,改修促進に努力する,また,現在も大谷川のしゅんせつ等を行っている旨回答していることからも,被控訴人が早い時期から大谷川洗堰の解消を目指していたことが裏付けられる。 (甲A15の9の②・233頁・242頁・243頁))。控訴人らは,長松橋の嵩上げ工事は,その嵩上げ高からするとTP10. 88メートルの最終的な計画に向けられたものであり,大谷川洗堰の1. 05メートルの嵩上げとは無関係であり,平成7年ころから本件水害までの間は,護岸工事など河道の流下能力を高める効果がさほど見込まれない工事が多く,上記1.05メートルの嵩上げの前提となる工事や,河道の流下能力を高める工事は実際にはほとんど何も行われていない旨主張する。しかしながら,甲A35号証(特に84頁から92頁まで)によれば,安全度の順序を変えずに大谷川洗堰の段階的嵩上げを実施するには,大谷川につき,まず,相川との合流点から2.8キロメートルないし4.2キロメートルの区間の両岸について計画施工TP10.88メートルまで堤防等の嵩上げを施工し(長松橋は3.5キロメートル地点にある。),次に合流点から1.0キロメートルないし2.8キロメートルの区間の右岸等 についてTP9.6メートルまで段階的嵩上げを行い,その後,大谷川洗堰につきTP8.85メートルまで段階的嵩上げを行うべきことが認められ,また,護岸工事により堤防の強度を上げることも河道の流下能力の向上になるから,控訴人らの上記主張は採用できない。イそうすると,大谷川洗堰(原洗堰及び本件洗堰)は,大谷川流域の洪水被害を軽減することを目的として設置された改修途上の堤防であり,流域の洪水被害 上になるから,控訴人らの上記主張は採用できない。イそうすると,大谷川洗堰(原洗堰及び本件洗堰)は,大谷川流域の洪水被害を軽減することを目的として設置された改修途上の堤防であり,流域の洪水被害の軽減を供用目的とする施設であるというべきであり,大谷川洗堰からの越流の態様及び程度は,専ら河川の洪水という自然的原因による災害によるものであるから,岐阜県知事(被控訴人)が大谷川洗堰からの越流を前提として河川管理をしているとか,ほかの地域を守るために計画的に住宅地である荒崎地区に浸水被害を被らせてきたとか,河川管理者が越流機能を積極的に利用してきたなどとはいえず,大谷川洗堰は,自然的原因による洪水時に越流機能が表面化するにすぎないというべきである(ダムや水門の操作と異なり,大谷川洗堰からの越流に対する河川管理者の影響力の行使は,河川改修を実施するよりほかにない。)。したがって,そもそも,営造物がその供用目的に沿って「利用」されている場合を前提とする機能的瑕疵の法理とは場面が異なるというべきである。控訴人らは,①0.6メートルの嵩上げ高は越流機能を維持するために決定されたものである,②河川の改修は下流から行うのが原則であるのに,大谷川においては上流から改修しているのは,大谷川洗堰に越流機能があるからであるとして,被控訴人は大谷川洗堰の越流機能を利用している旨主張する。しかしながら,原洗堰の嵩上げ高は,嵩上げによる水位の上昇によって,その下流の堤防から越流することを避けるために0.6メートルとされたものであるし,上流の改修が先行したのは,大谷川洗堰の越流による浸水被害の主因は下流からの背水であり,上流が背水に対する「下 流」となり,また,上流部で比較的都市化が進んでいたためであると認められる(弁論の全趣旨)から,上記①,②をも 洗堰の越流による浸水被害の主因は下流からの背水であり,上流が背水に対する「下 流」となり,また,上流部で比較的都市化が進んでいたためであると認められる(弁論の全趣旨)から,上記①,②をもって被控訴人が大谷川洗堰の越流機能を利用しているとはいえない。また,控訴人らは,大谷川洗堰の越流機能を利用していないというのであれば,越流による他地域の負担軽減は大谷川洗堰の嵩上げをしない理由にならないはずであり,少なくとも大谷川洗堰からの越流による浸水被害に関する対策を他地域の改修等より遅らせる理由はないはずである旨主張する。しかしながら,河川の改修は,その流域(上流,下流,右岸,左岸)の安全度のバランスを取りながら進めていくものであるから,控訴人らの上記主張は理由がない。ウまた,控訴人らの主張が,大谷川洗堰が事実上越流堤としての機能を有し,他の地域を水害から守る反面,荒崎地区が浸水被害を被る状態が生じていることから機能的瑕疵の法理を類推適用すべきであるというものであるとしても,本件水害は,自然的原因による災害をもたらす可能性を内包している河川の管理の瑕疵が問題となるものであって,河川管理の特殊性を考慮せざるを得ないものであること,機能的瑕疵の法理の対象となる営造物は,その利用の態様及び程度について,管理者が利用につき適切な制限を加えるなどして影響力を行使することが可能であることを大前提としているものと解されるところ,大谷川洗堰からの越流の態様及び程度は,専ら河川の洪水という自然現象によるものであって,これに対する河川管理者の影響力の行使は考えられないことからすると,本件水害に機能的瑕疵の法理を類推適用することはできない。エさらに,住宅地に近接して新たに越流堤が設置されたのではなく,荒崎地区が無堤の遊水地状態であった 使は考えられないことからすると,本件水害に機能的瑕疵の法理を類推適用することはできない。エさらに,住宅地に近接して新たに越流堤が設置されたのではなく,荒崎地区が無堤の遊水地状態であったところに大谷川右岸の築堤及びこれに伴う大谷川洗堰の設置がなされ,その後,荒崎地区に企業や住宅が進出したことに応じて,大谷川洗堰の嵩上げを含む流域全体の改修計画が順次,計 画,実施されてきたという経緯並びに大谷川洗堰の嵩上げ,解消には大谷川左岸に存する輪中の住民らによる強い反対があるところ,同地区の住民らは水害常襲地帯において自らの努力によって輪中を形成,維持して財産等を保全してきたという歴史的経緯があることに照らすと,大谷川洗堰が荒崎地区の住民を差別して設置されたものであるとか,被控訴人の治水対策が不公平,不平等なものであるとはいえず,結果として,荒崎地区に浸水被害が生じていることをもって特別の損害であるということはできない。なお,前記1で認定した各事実によれば,昭和五十年代ころまでは,荒崎地区のみならず大垣市内の他地区(水門川流域等)においても浸水被害が繰り返されてきたが,水門川の改修が進んだことなどから,他地区の浸水被害の頻度や規模は平成2年ころまでには相当軽減したのに対し,荒崎地区については,大谷川洗堰の昭和56年嵩上げ工事後も約5年に1回の頻度で大谷川洗堰からの越流が生じていることや,地区内の人口増加もあり,大垣市内の浸水被害に占める荒崎地区の被害(特に住宅の床上浸水)の割合が相当大きくなってきていることが認められ,度重なる住宅等の浸水被害や,実際に浸水に至らない場合でも浸水被害発生の不安等により,荒崎地区の住民が,多量の降雨のたびに多大な精神的苦痛,肉体的苦痛,経済的損失を受け続け,荒崎地区のみが放置されているとの怒 等の浸水被害や,実際に浸水に至らない場合でも浸水被害発生の不安等により,荒崎地区の住民が,多量の降雨のたびに多大な精神的苦痛,肉体的苦痛,経済的損失を受け続け,荒崎地区のみが放置されているとの怒りや絶望感を抱くことは理解できないことはないが,後述のとおり,大谷川洗堰の解消には下流河川の改修や背水の影響区内の改修を先行させる必要があるなど,解消に長期間を要するやむを得ない特殊事情があり,その間の有効な浸水対策としても,大谷川洗堰の段階的嵩上げ以外には相当な手段が見当たらず,被控訴人が本件水害の前から大谷川洗堰の1.05メートル嵩上げを検討,準備していたことからすると,荒崎地区の上記の被害状況をもって,不平等な治水対策により荒崎地区の住民が特別の損害を被っているともいえない。 オしたがって,控訴人らの機能的瑕疵の法理の適用又は類推適用に基づく瑕疵の主張は,その余の点につき検討するまでもなく採用できない。 3 争点(2)(大谷川洗堰と同洗堰を有する大谷川について,流域対策に関する河川管理の瑕疵が認められるか。)について(1)ア国家賠償法2条1項にいう営造物の設置又は管理の瑕疵とは,営造物が通常有すべき安全性を欠いて他人に危害を及ぼす危険性のある状態をいい,このような瑕疵の存在については,当該営造物の構造,用法,場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的,個別的に判断すべきものである。 しかるに,河川は,本来自然発生的な公共用物であって,管理者による公用開始のための特別の行為を要することなく自然の状態において公共の用に供される物であるから,通常は当初から人工的に安全性を備えた物として設置され管理者の公用開始行為によって公共の用に供される道路その他の営造物とは性質を異にし,もともと洪水等の自然的 おいて公共の用に供される物であるから,通常は当初から人工的に安全性を備えた物として設置され管理者の公用開始行為によって公共の用に供される道路その他の営造物とは性質を異にし,もともと洪水等の自然的原因による災害をもたらす危険性を内包しているものである。したがって,河川の管理は,道路の管理等とは異なり,本来的にかかる災害発生の危険性をはらむ河川を対象として開始されるのが通常であって,河川の通常備えるべき安全性の確保は,管理開始後において,予想される洪水等による災害に対処すべく,堤防の安全性を高め,河道を拡幅・掘削し,流路を整え,又は放水路,ダム,遊水地を設置するなどの治水事業を行うことによって達成されていくことが当初から予定されており,この治水事業は,一朝一夕にして成るものではなく,また,莫大な費用を要するものであるから,原則として,議会が国民生活上の他の諸要求との調整を図りつつその配分を決定する予算のもとで,各河川につき過去に発生した水害の規模,頻度,発生原因,被害の性質等のほか,降雨状況,流域の自然的条件及び開発その他土地利用の状況,各河川の安全度の均衡等の諸事 情を総合勘案し,それぞれの河川についての改修等の必要性・緊急性を比較しつつ,その程度の高いものから逐次これを実施していくほかはなく,その実施にあたっては,当該河川の河道及び流域全体について改修等のための調査・検討を経て計画を立て,緊急に改修を要する箇所から段階的に,また,原則として下流から上流に向けて行うことを要するなど技術的な制約もあり,さらに,流域の開発等による雨水の流出機構の変化,地盤沈下,低湿地域の宅地化及び地価の高騰等による治水用地の取得難その他の社会的制約が内在するものであるから,未改修河川又は改修が不十分な河川の安全性としては,上記のような諸制 水の流出機構の変化,地盤沈下,低湿地域の宅地化及び地価の高騰等による治水用地の取得難その他の社会的制約が内在するものであるから,未改修河川又は改修が不十分な河川の安全性としては,上記のような諸制約の下で一般に施行されてきた治水事業による河川の改修,整備の段階に対応する段階的な安全性をもって足りるものとせざるを得ない。イそのため,河川の管理についての瑕疵の有無は,過去に発生した水害の規模,発生の頻度,発生原因,被害の性質,降雨状況,流域の地形その他の自然的条件,土地の利用状況その他の社会的条件,改修を要する緊急性の有無及びその程度等の諸般の事情を総合的に考慮し,河川管理における財政的,技術的及び社会的諸制約の下での同種・同規模の河川の管理の一般水準及び社会通念に照らして是認し得る安全性を備えていると認められるかどうかを基準として判断すべきである(一般的瑕疵判断基準)。ウそして,既に改修計画が定められ,これに基づいて現に改修中である河川については,同計画が全体として,過去の水害の発生状況その他諸般の事情を総合的に考慮し,河川管理の一般水準及び社会通念に照らして,格別不合理なものと認められないときは,その後の事情の変動により未改修部分につき水害発生の危険性が特に顕著となり,当初の計画の時期を繰り上げ,又は工事の順序を変更するなどして早期の改修工事を施行しなければならないと認めるべき特段の事由がない限り,上記部分につき改修がいまだ行われていないとの一事をもって河川管理に瑕疵があるとすることは できない(具体的瑕疵判断基準)。(以上につき大東水害訴訟判決参照)(2)しかして,「改修計画に基づいて改修中の河川」とは,工事実施基本計画に定める規模の洪水における流水の通常の作用から予測される災害の発生を防止するに足 。(以上につき大東水害訴訟判決参照)(2)しかして,「改修計画に基づいて改修中の河川」とは,工事実施基本計画に定める規模の洪水における流水の通常の作用から予測される災害の発生を防止するに足りる安全性を備えるべきものと解される工事実施基本計画に準拠して改修,整備がされ,あるいは同計画に準拠して新規の改修,整備の必要がないものとされた河川と対比される概念である(大東水害訴訟判決及び多摩川水害訴訟判決参照)ところ,前記前提事実等,前記1(5)及び(8)で認定したとおり,国は,昭和40年,大谷川を含む木曽川水系の河川につき,「木曽川水系工事実施基本計画」を策定し,平成9年の河川法等改正により,上記計画は河川整備基本方針(河川法16条1項)ないし河川整備計画(同法16条の2第1項)とみなされ,本件水害当時も,上記基本計画に基づき,国が下流河川である杭瀬川等の直轄区間を現に改修し,岐阜県知事が策定し平成9年に認可を受けた相川改良工事全体計画に基づき,被控訴人が大谷川及び相川等の指定区間を現に改修中であったのであるから,大谷川は,具体的瑕疵基準が適用されるべき「改修計画が定められ,これに基づいて現に改修中の河川」に該当することは明らかである。したがって,本件における河川管理の瑕疵の有無は,具体的瑕疵判断基準に基づき検討するのが相当である。(3)ア(ア)控訴人らは,①相川改良工事全体計画が,完全バック堤の完成時期や工事の順序も記載されていないものであることに照らせば,上記全体計画は具体的瑕疵判断基準の「改修計画」には当たらないから,大谷川が「改修計画に基づいて改修中の河川」であるとはいえない,②具体的瑕疵判断基準の前提となる「河川管理」は,河川の流下機能の整備,改修であるから,上記基準は,改修計画の遅れという観点から瑕疵があるかどう 改修計画に基づいて改修中の河川」であるとはいえない,②具体的瑕疵判断基準の前提となる「河川管理」は,河川の流下機能の整備,改修であるから,上記基準は,改修計画の遅れという観点から瑕疵があるかどうかを判断する場合の基準にすぎないが,本件で問題となる河川管理の瑕疵は,長期間を要する相川改良工事全体計画に基づく改修中の 間においても,河川の流下機能の整備のほかに,流域対策として,荒崎地区に浸水被害が生じないような対策を検討し,実施すべきであったにもかかわらず,これを検討,実施してこなかったことである,また,③大谷川洗堰は,人工的に越流構造をもって設置された工作物であり,荒崎地区の市街化が進展する中で,このような工作物からの越流が繰り返し生じているにもかかわらず,長年にわたって抜本的解決がなされずに放置されてきたものであり,河川に設置されたダムや水門等の人工の営造物による河川管理のあり方が問題となる側面が強いから,具体的瑕疵判断基準ではなく,一般的瑕疵判断基準を適用すべきである旨主張する。(イ)しかしながら,河川の改良工事全体計画は,改修工事の完成時期や工事の順序の記載まで要求しているものではないから,控訴人らの上記①の主張は採用できない。(ウ)また,上記②についても,具体的瑕疵判断基準は,控訴人らが主張するような,改修計画の遅れという観点から瑕疵があるかどうかを判断する場合の基準にすぎないものではなく,流域対策の不実施についても,改修計画の合理性の判断の中で検討するものであるから理由がない。なお,控訴人らが主張する流域対策とは,(a)二線堤の設置,(b)改良輪中堤の設置,(c)改良水防土のう積み,(d)危険告知及び(e)建物自体の浸水対策であるところ,被控訴人がこれらの対策を実施しないことに国家賠償法2 る流域対策とは,(a)二線堤の設置,(b)改良輪中堤の設置,(c)改良水防土のう積み,(d)危険告知及び(e)建物自体の浸水対策であるところ,被控訴人がこれらの対策を実施しないことに国家賠償法2条1項の営造物の設置又は管理の瑕疵があるといえるかは,具体的瑕疵判断基準における改修計画の合理性の中で検討する。(エ)上記③についても,前記1で認定したとおり,大谷川洗堰は,荒崎地区の宅地化が進行する以前に,大谷川流域の洪水被害を軽減することを目的として設置された改修途上の堤防であり,その後,荒崎地区の宅地化が進行したことから,大谷川洗堰の解消(締切り)を目指して,国及 び被控訴人により,順次,大谷川及び下流河川の改修工事が進められるとともに,大谷川洗堰の完全な解消までには長期間を要することから,昭和56年に大谷川洗堰を0.6メートル嵩上げし,遅くとも平成14年1月までには,更に1.05メートルの嵩上げを行う方針を定め,その前に行うべき工事を順次計画,実施してきたことが認められるから,大谷川洗堰をダムや水門等の完成した人工の営造物と同視することはできず,控訴人らの上記③の主張は採用できない。イ控訴人らは,大谷川洗堰を1.05メートル嵩上げする計画は,本件水害後に計画,実施されたものであるから,「改修計画」として考慮すべきでない旨主張するが,前述のとおり,平成8年度報告書において本件洗堰の1.05メートルの嵩上げが既に提案され(甲A35・78頁・88頁),平成8年度から平成13年度までの間,上記嵩上げに先行して実施されるべき改修工事(大谷川洗堰より上流の堤防嵩上げや長松橋の嵩上げ等)が順次進められ,岐阜県西濃建設事務所が相川,大谷川,泥川の河川整備計画の検討を行うため,平成13年に実施したブロック会議において, べき改修工事(大谷川洗堰より上流の堤防嵩上げや長松橋の嵩上げ等)が順次進められ,岐阜県西濃建設事務所が相川,大谷川,泥川の河川整備計画の検討を行うため,平成13年に実施したブロック会議において,大谷川洗堰のTP8.85メートルへの段階的整備の記載を含む図面が配付され,上記段階的嵩上げについての説明もなされている(乙A51)ことからすると,岐阜県知事において,遅くとも平成14年1月までには,本件洗堰を暫定的に更に1.05メートル嵩上げする方針を定め,これに先だって行うべき工事を順次計画,実施してきたと認めるのが相当である。そして,このように本件洗堰を嵩上げする方針が定まり,このことを公的な場で公表するとともに,先立って行うべき工事を実施しているような場合は,計画の公的な決定が未了であっても,当該嵩上げ工事の存在を改修計画の合理性を判断するに際して考慮してもよいと解するのが相当であるから,控訴人らの上記主張は採用できない。 (4)具体的瑕疵判断基準に基づく検討のうち,改修計画の不合理性について ア本件水害当時の改修計画等について前提事実,前記1認定事実,証拠(甲A33ないし甲A47,乙A6ないし乙A8,乙A20,乙A22ないし乙A32,乙A34の2,乙A38,乙A39,乙A45ないし乙A47,乙A51ないし乙A53,証人Dの供述書,証人Eの供述書,証人C,Aに対する調査嘱託の結果(平成23年9月15日付け回答書のもの))及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実及び法令等の定めが認められる。(ア) 法令等a 改正前河川法では,建設大臣が水系ごとに河川整備の目標となる工事実施基本計画を定め,河川改修,ダム建設などの対策を実施していくこととされていた。工事実施基本計画には,工事実施上の基本的事項 a 改正前河川法では,建設大臣が水系ごとに河川整備の目標となる工事実施基本計画を定め,河川改修,ダム建設などの対策を実施していくこととされていた。工事実施基本計画には,工事実施上の基本的事項の骨子のみが記載されるので,通常,河川改修工事に関する具体的内容は,国直轄管理区間では直轄河川改修計画,県が管理する指定区間では河川改良全体計画に記載されていた。平成9年の河川法の改正により,河川計画としての工事実施基本計画が,河川整備基本方針と河川整備計画に分けられた。(乙A45・4頁)b 河川整備基本方針とは,長期的な河川整備の方針として,水系ごとに,従来工事実施基本計画で定められていた事項のうち,全体的な整備バランスを確保しつつ,水系全体を見渡して定める必要のある事項を定める計画のことをいう。(乙A26・2頁)c 河川整備計画は,これまで工事実施基本計画において,主要な河川工事の目的,種類及び施行の場所等についてのみ記載されていたものが,ダム,堰,堤防などの河川工事,しゅんせつ等の河川の維持について,当面の河川整備の具体的内容が明らかになるように定められる計画である。(乙A26・2頁) d 河川整備計画等の実施河川管理者は,予算の下で過去に発生した水害の状況等の諸事情を総合勘案し,改修の必要性・緊急性の高い箇所から段階的に河川整備を実施していく。(乙A45・4頁)(イ)一般的な河川計画の策定手順一般的な河川計画の策定手順は,①河川周辺の土地利用などからみた河川の重要度,これまでの洪水被害の実態,経済効果等を勘案して,洪水を防ぐための計画を作成するとき,対象となる地域の洪水に対する安全の度合い(治水安全度,何年に1回程度生じる降雨を安全に流下するか)を表す計画 ,これまでの洪水被害の実態,経済効果等を勘案して,洪水を防ぐための計画を作成するとき,対象となる地域の洪水に対する安全の度合い(治水安全度,何年に1回程度生じる降雨を安全に流下するか)を表す計画規模を決定し,②流域の大きさ,地域の降雨の特性,洪水流水の形態,計画対象施設の種類などを勘案し,その計画規模に対応する降雨を主要な資料から推算して計画降雨を決定し,③計画降雨が対象とする河川流域に降った際,どれだけの水が河川に流れるのかを推算することにより基本高水流量を決定し,④基本高水流量と各種洪水調節施設での洪水調節量から,計画高水流量及び計画高水位を決定し,⑥計画高水位をもとに,改修すべき河川の幅や断面形状を検討し,⑦河川の拡幅,河床の掘削や堤防整備など,地形,土質等の自然条件,河道の歴史的な変遷や周辺の土地利用等を十分考慮し,河川の特性に合わせて,計画高水流量を安全に流下させるための河川改修の内容である河道計画を決定するというものである。(乙A8(河川整備計画用語集),乙A22・1頁,乙A45・4頁・5頁,証人C)(ウ)木曽川水系工事実施基本計画平成14年7月当時,大谷川を含む木曽川水系において,河川整備基本方針とみなされ,相川改良工事全体計画に関して工事実施基本計画に当たる「木曽川水系工事実施基本計画」が存在した。同計画は,揖斐川上流部(万石から上流)は,徳山ダム等のダム群の 建設による洪水調節などを行い,中流部(万石から今尾まで)は,①川幅はほぼ現状のままとして,しゅんせつ及び腹付け,嵩上げによる堤防の拡策を行って河積の増大を図るとともに,護岸,水制を施工して,洪水の安全な通過を図り,②大垣市周辺の低地地域については,治水対策を総合的に実施するため,本川の改修と合わせて水門川について内水排除 の拡策を行って河積の増大を図るとともに,護岸,水制を施工して,洪水の安全な通過を図り,②大垣市周辺の低地地域については,治水対策を総合的に実施するため,本川の改修と合わせて水門川について内水排除施設の工事等を行い,内水被害の軽減を図り,③牧田川の広瀬橋地点から下流の河道については,堤防の拡策及び掘削を行って河積の増大を図るとともに,護岸,水制を施工(家屋密集地域は特殊堤を施工)し,洪水の安全な流過を図り,④杭瀬川等の支流については,築堤,護岸等を施工し,下流部(今尾から河口まで)は,川幅はほぼ現状のままとして,しゅんせつ,腹付け・嵩上げによる堤防の拡策を行い河積の増大と河道の整正を図るとともに,護岸,水制を施工し,洪水の安全な流過を図り,揖斐川と長良川を分流させる背割堤については,両河川の河積を勘案して,必要な箇所については,堤防法線を整正することなどを内容とするものであった。(乙A39)(エ)相川改良工事全体計画大谷川の河川改良工事全体計画に相当するものは,相川改良工事全体計画である。相川改良工事全体計画は,改正後の河川法の施行(平成9年12月1日)前に建設大臣の認可を受けたところ,昭和51年4月12日建設省河総発第138号が廃止されたのは建設大臣による認可の後であるから,本件水害時も有効なものとして存在していた。(乙A26)(オ)相川改良工事全体計画策定の概要a 計画規模,計画降雨の決定相川改良工事全体計画においては,計画規模,計画降雨の決定について,県内他河川や杭瀬川の治水安全度等を考慮して,これらの河川における計画規模と同様,50年に1回の確率と評価される降雨量に対応する計画規模とし,過去の降雨実績等から,相川流域で259ミリメートル,大谷川流域で日降雨量265ミリ て,これらの河川における計画規模と同様,50年に1回の確率と評価される降雨量に対応する計画規模とし,過去の降雨実績等から,相川流域で259ミリメートル,大谷川流域で日降雨量265ミリメートルを計画降雨とした。(甲A33,乙A20・7頁,乙A22・3頁,乙A45・5頁,証人C16頁)b 基本高水流量の決定続いて,計画降雨による流出計算(降雨によってどれだけの水が河川に流れるのかの推算)及び過去の降雨実績から選定した降雨を用いた貯留関数法による流出計算を行い,河川の各地点を流れる洪水流量である基本高水流量を算出し,大谷川最下流の基本高水流量を毎秒110立方メートルとした。(甲A33,甲A34・22頁・44頁・45頁,乙A20・11頁・23頁から33頁まで,乙A22・4頁・5頁,乙A45・5頁,証人Dの供述書)c 計画高水流量の決定相川改良工事全体計画では,大谷川が緩勾配河川で,約4キロメートルにわたって相川の水位の影響を受ける河川であるため,遊水地などの洪水調節施設を設置する方法は,下流からの洪水を引き込むことになるので一般には用いられないことや,遊水地等を設置しても有効性が少ないこと等の考察に基づき,洪水調節施設を設けず,全量を河道により処理する方法を選択した。その結果,計画高水流量を基本高水流量と同様の毎秒110立方メートルと決定した。(乙A20・34頁・35頁,乙A22・6頁,乙A45・5頁・6頁,証人C16頁)d 河道計画の決定相川改良工事全体計画では,東海道本線付近までが扇状地で拡散型の氾濫形態を示す地形状況となっていることを考慮して,相川合流点を起点(0.0キロメートル)とし,東海道本線横断地点(6.6キロメートル)までの区間を大谷川の河道計画の計画区間とした。 の氾濫形態を示す地形状況となっていることを考慮して,相川合流点を起点(0.0キロメートル)とし,東海道本線横断地点(6.6キロメートル)までの区間を大谷川の河道計画の計画区間とした。そして,大谷川が,下流の約4キロメートルにわたる区間において,相川からの背水の影響を受けることから,その背水の処理を問題点として掲げ,処理方法として①完全バック堤方式,②自己流堤方式及び③セミバック堤方式につき検討した。被控訴人は,上記各方法を比較検討し,②の自己流堤方式では,大規模な排水機場が必要となることや,完全バック堤方式よりも費用がかかること(事業費の見積りは,完全バック堤方式では99億円であるが,自己流堤方式では231億円から250億円,セミバック堤方式では116億円とされた。),③のセミバック堤方式では,新たな水門の設置及びその操作,維持,管理が必要となることなどから,①の完全バック堤方式(大谷川洗堰部分もほかの部分と同じ高さのTP10.88メートルの連続堤として締め切る。)が合理的であると判断し,同方式を選択した。なお,被控訴人の見積りによると,完全バック堤方式を採用し,遊水地の囲堤を設けるとすると,用地取得費などを含めた事業費は273億円となる。(乙A20・36頁以下,乙A22・7頁から10頁まで,乙A23,乙A45・6頁,証人C17頁ないし19頁)(カ)河川整備計画等の実施a 前述のとおり,河川管理者は,過去に発生した水害の状況等の諸事情を総合勘案し,改修の必要性・緊急性の高い箇所から段階的に河川整備を実施していくべきところ,岐阜県知事は,遅くとも,平成14年1月までには,徳山ダムの完成見込みである平成19年度を目途に,相川,泥川,大谷川の堤防補強や洪水の疎通の障害 い箇所から段階的に河川整備を実施していくべきところ,岐阜県知事は,遅くとも,平成14年1月までには,徳山ダムの完成見込みである平成19年度を目途に,相川,泥川,大谷川の堤防補強や洪水の疎通の障害となる橋の架け替え(嵩上げ)等を実施し,その後,大谷川洗堰を1.05メートル(TP8.85メートルまで)嵩上げすること等を内容とする第1期計画を実施する予定としていた。b そして,被控訴人は,大谷川洗堰の嵩上げにより影響を受ける区間について,本件水害発生前の平成8年度から,合流点から1.0キロメートルないし1.7キロメートルまでの区間の左岸堤防の整備(腹付け)を行い,平成11年度には国道21号線の嵩上げ工事を,平成12年度から同13年度にかけて,相川合流点から3.5キロメートルの位置にある長松橋の嵩上げ工事等を行った。イ改修の必要性,緊急性について前記1で認定した事実によれば,昭和43年ころ以降,荒崎地区の宅地化が急速に進行し,昭和50年12月,同地区のうち約55ヘクタールが市街化区域に指定されたこと,昭和34年から昭和55年までの22年間に,原洗堰からの越流は10回生じ(約2年に1回の頻度),荒崎地区において,昭和46年から昭和55年までの10年間に少なくとも4回の床上浸水被害が生じたこと,昭和51年に国の激甚災害対策特別緊急事業により杭瀬川が大幅拡幅されたこと等から,昭和56年に原洗堰が0.6メートル嵩上げされたこと,しかし,その後も約5年に1回の頻度で本件洗堰からの越流が生じていること,昭和56年嵩上げ工事後も荒崎地区の宅地化は進行し,浸水被害の規模は増大し,平成2年9月の水害の際には,荒崎支所管内で住宅の床上浸水が160戸,床下浸水が382戸と多数の住宅浸水被害が生じたことが認められる。 工事後も荒崎地区の宅地化は進行し,浸水被害の規模は増大し,平成2年9月の水害の際には,荒崎支所管内で住宅の床上浸水が160戸,床下浸水が382戸と多数の住宅浸水被害が生じたことが認められる。そうすると,平成2年9月の水害後は,荒崎地区の浸水被害を軽減する対策を取るべき緊急性は相当に高まっていたと認められる。なお,河川の管理の一般水準との比較は難しいものがあり,この点について的確な証拠が存在するとはいえないが,前記認定のとおり,原洗堰が嵩上げされた昭和56年から本件水害が発生した平成14年までの22年間に,大谷川はおよそ3年に1回,杭瀬川はおよそ2年に1回,板取川はおよそ2年半に1回,水門川と中之江川はおよそ4年半に1回,境川と津保川はおよそ5年半に1回の浸水被害を受けていることからすると,河川の管理の一般水準からみて,大谷川の安全度は,平均よりも下回るが著しく低いとまではいえないものと推認される。ウ諸制約(並びに流域の地形その他の自然的条件並びに土地の利用状況その他の社会的条件)について他方,前記1で認定した事実及び後掲各証拠によれば,大谷川(特に大谷川洗堰)の河川改修には,次のような諸制約がある。(ア)技術的制約大谷川は,その下流河川である相川,杭瀬川,牧田川,揖斐川下流域の標高が極めて低く,大谷川自体も,流域勾配が上流で800分の1,下流で4500分の1と極めて緩く,洪水時には下流の相川,杭瀬川,牧田川及び本川揖斐川の背水の影響を受けて水位が上昇し,下流河川の水位が低下するまで長時間高い水位が続くという特性を有し,大谷川流域は,下流河川の水位が上昇するたびに地域全体で水の逃げ場がなくなり,浸水災害を繰り返しているという自然的条件がある上,相川との合流部より下流に狭窄部が存在するという 続くという特性を有し,大谷川流域は,下流河川の水位が上昇するたびに地域全体で水の逃げ場がなくなり,浸水災害を繰り返しているという自然的条件がある上,相川との合流部より下流に狭窄部が存在するという特殊性も有していた。そのため,大谷川の洪水対策は,これらの下流河川の改修抜きには考えられないところ,下流の本川揖斐川,杭瀬川及び牧田川の改修事業は国(国土交通大臣)の直轄事業として行われ,大谷川,相川及び泥川の改修事業は,指定区間として被控訴人(岐阜県知事)の事業として行われているから,被控訴人としては,国と調整しながら河川の改修をしていく必要がある。 そして,河川改修は,上流部の改修工事を行った場合,そのために下流部における流量が増加し,現状での安全性が損なわれることもあり得るため,洪水を貯留する施設の整備を除いては,河川の下流から整備を進めることが原則とされ,局部的な部分を改修するための条件が整ったとしても,その改修で影響を受ける下流部の改修が完了していない限り,一般的には当該部分のみの改修を先行させることは適当ではない。特に,背水の影響を受ける河川において氾濫を抑制する堤防整備等を行うと,その影響は下流のみならず上流の水位を上昇させる方向に働く。 したがって,背水の影響を受ける河川で氾濫を抑制する堤防整備等を行う場合には,上下流の堤防の整備などが適切なバランスで実施されていることが必要とされる。そのため,大谷川洗堰の嵩上げや解消を実施するには,これにより影響を受ける上下流の改修事業を先行させざるを得ないという技術的制約が存する。また,上記のとおり,下流河川については国の直轄事業として改修事業が実施されているため,大谷川の改修事業は,直轄事業の進捗状況 改修事業を先行させざるを得ないという技術的制約が存する。また,上記のとおり,下流河川については国の直轄事業として改修事業が実施されているため,大谷川の改修事業は,直轄事業の進捗状況の影響を受けざるを得ない。(甲A34,甲A35,乙A45,証人C)(イ)財政的制約河川の改修は,県の事業であれば,県の予算に基づいて行われるため,議会が県民生活の他の要求との調整を図りながらその配分を決定する。 そこで,過去に発生した水害の規模等諸事情を総合的に勘案し,改修の必要性・緊急性を比較しながら,程度の高いものから実施される。そのような中,被控訴人は,大谷川及び相川の主要な河川改修は国庫補助事業を活用して実施しているが,昭和41年度から平成13年度までの事業費は,大谷川工区分だけで合計51億3000万円であった。なお,本件水害後に行われた平成14年緊急事業の事業費は約49億円(大谷川工区以外のものも含む。1年当たり約10億円で,平成19年度における被控訴人全体の補助河川整備経費(約40億円)の約4分の1を占める。)であった。(乙A25,乙A45・10頁,証人C33頁)(ウ)社会的制約大谷川流域は,上記のような自然的条件のため,昔から浸水被害が繰り返され,江戸時代から,水防に関する輪中間及び輪中内外の対立が激しい地域であり,このような住民感情は,平成の時代に至っても受け継がれており,大谷川洗堰を締め切ることについては,締め切ることにより水害の危険が増加するとして,大谷川左岸堤内にある静里地区,綾里地区等の住民や,大谷川洗堰の上下流の住民からの根強い反対がある。なお,前述のとおり,江戸時代から,荒崎地区は遊水地状態であったところ,昭和29年土地改良事業による大谷川右岸築堤に際し,養老橋 里地区等の住民や,大谷川洗堰の上下流の住民からの根強い反対がある。なお,前述のとおり,江戸時代から,荒崎地区は遊水地状態であったところ,昭和29年土地改良事業による大谷川右岸築堤に際し,養老橋下流の根本的改修が実施されなければ抜本的に水害を軽減することは不可能なため,それまでの過渡的手段として,荒崎地区を遊水地状態とする原洗堰が設置された後に,荒崎地区の一部の宅地化が進み,宅地化が進んだ区域について,昭和50年に荒崎地区の一部が市街化区域に指定されたという歴史的経緯があるため,自らの努力によって輪中を形成,維持して財産等の保全を図ってきた地区の住民らとの安全度の順序を変える洪水対策を取ることは極めて困難である。(甲A30,乙A27ないし乙A32)エ検討(ア)まず,本件全証拠によっても,国が策定した木曽川水系工事実施基本計画が不合理なものであると解すべき事情は認められない。 そして,前記アで認定したとおり,相川改良工事全体計画は,前述の一般的な河川計画の策定基準に従って定められたものであり,降雨状況,流域の地形その他の自然的条件,土地の利用状況その他の社会的条件等を検討の上,50年に1回程度の確率の降雨を安全に流下できるようにするため(計画規模1/50年),完全バック堤方式を採用して,将来的には,大谷川洗堰部分も含めて大谷川の左右両岸を同じ高さの連続堤により整備するというものである。また,被控訴人は,上記の大谷川洗堰の解消までには長期間を要することから,平成8年ころから本件洗堰の暫定的な嵩上げについて検討を始め,遅くとも平成14年1月までに,相川改良工事全体計画に沿ったより具体的な計画である広域河川改修事業の計画において,第1期計画として,大谷川洗堰の嵩上げによって影響を受ける区間 げについて検討を始め,遅くとも平成14年1月までに,相川改良工事全体計画に沿ったより具体的な計画である広域河川改修事業の計画において,第1期計画として,大谷川洗堰の嵩上げによって影響を受ける区間の整備を実施した上で,平成19年度を目途として,大谷川洗堰を1.05メートル嵩上げする工事計画を予定していた。(イ)そこで,相川改良工事全体計画の合理性について検討するに,①荒崎地区は,昭和56年の原洗堰の0.6メートル嵩上げ後においても,上記計画策定までに3回越流し,平成2年9月の水害の際は,荒崎支所管内の床上浸水160戸,床下浸水382戸という甚大な浸水被害が生じたことから,荒崎地区の浸水被害を軽減する対策を取るべき緊急性は相当に高まっていたこと,②しかし,上記の浸水被害は,主として財産的損害であったこと,③大谷川の治水安全度は,岐阜県の河川管理の一般水準に照らして,平均を下回っているが著しく低いとまではいえないこと,④本件洗堰を解消するには,これによって影響を受ける上下流の改修事業を先行せざるを得ないが,下流河川については国の直轄事業の進捗状況の影響を受けざるを得ないこと,⑤本件洗堰の解消には多額の事業費を必要とするが,被控訴人には予算の制約があること,⑥そこで,被控訴人は,本件洗堰が解消されるまでの間,浸水被害を軽減する方策として,本件洗堰の段階的な嵩上げを行う方針であったこと,⑦歴史的な経緯もあり,大谷川の両岸に存在する輪中の住民らと荒崎地区の住民らの治水安全度の順位を変えることは極めて困難であったこと,これらの事情を総合考慮すると,相川改良工事全体計画が全体として,岐阜県の河川管理の一般水準及び社会通念に照らして,格別不合理なものであるとは認められないというべきである。なお,平成9年の河川法等改正に 慮すると,相川改良工事全体計画が全体として,岐阜県の河川管理の一般水準及び社会通念に照らして,格別不合理なものであるとは認められないというべきである。なお,平成9年の河川法等改正により相川改良工事全体計画の認可後ほどなく施行された河川法16条の2第2項(河川整備計画は,河川整備基本方針に即し,(中略)政令で定めるところにより,当該河川の総合的な管理が確保できるように定められなければならない。この場合において,河川管理者は,降雨量,地形,地質その他の事情によりしばしば洪水による災害が発生している区域につき,災害の発生を防止し,又は災害を軽減するために必要な措置を講ずるように特に配慮しなければならない。)を考慮しても,その内容が格別不合理なものであるということもできない。 また,過去の雨量統計等から10年に1回程度の確率とされる降雨量で大谷川洗堰からの越流が生じることが予測され,被控訴人(岐阜県知事)がこのことを認識していたとしても,前述の諸制約からすると,平成2年9月の水害から10年以内に大谷川洗堰からの越流に直接有効な対策を完成することができなかったことをもって,直ちに上記の改修計画が不合理であるということもできない。(ウ)控訴人らは,①相川改良工事全体計画は,各改修工事や工事全体の期限やおおまかな目安も定められておらず,②計画高水流量の定め方等において計画が遠大すぎて有効な対策がかえって遅れるため,不合理である,③単に検討中,準備中であった計画を考慮すべきではない,④大谷川洗堰の段階的嵩上げ案は,完工までに相当長期間を要するにもかかわらず,その間,本件洗堰からの越流による浸水被害発生の危険が放置されることになるから,不合理な案である旨主張する。しかしながら,上記①については,全体計画に各改修工事 当長期間を要するにもかかわらず,その間,本件洗堰からの越流による浸水被害発生の危険が放置されることになるから,不合理な案である旨主張する。しかしながら,上記①については,全体計画に各改修工事や工事全体の期限やおおまかな目安を定めることは必要とされておらず(乙A38),長期的な河川改修工事の実施には,毎年の予算状況や流域状況の変化が影響することは避けられないから,全体計画において上記の期限やおおまかな目安を定めるべきであるともいい難いことに照らすと,控訴人らの上記①の主張は採用できない。上記②については,相川改良工事全体計画の計画規模や計画高水流量等の定め方は前記アで認定したとおりであるところ,本件全証拠によっても,その定め方が不合理であるとは認められないから,控訴人らの上記②の主張は採用できない。上記③については,上記のとおり,全体計画に各改修工事や工事全体の期限等を定めることは必要とされておらず,全体計画策定後,順次,全体計画の内容を実施していくための具体的な工事計画が策定されることが予定されているところ,本件洗堰の段階的嵩上げ計画については,相川改良工事全体計画の合理性を判断するに際して考慮するのが相当であることは前述のとおりであるから,控訴人らの上記③の主張は採用できない。上記④については,上記ウのとおり,大谷川洗堰の嵩上げを実施するには,これにより影響を受ける上下流の改修事業を先行させざるを得ないという技術的制約,限られた予算の中で事業を行わなければならないという財政的制約,歴史的な経緯もあって地域間の安全度の順序を変える洪水対策を取ることは極めて困難であるという社会的制約といった諸制約があることからすると,大谷川洗堰の1.05メートル嵩上げまでにもそれなりの長期間を要することはやむを得 域間の安全度の順序を変える洪水対策を取ることは極めて困難であるという社会的制約といった諸制約があることからすると,大谷川洗堰の1.05メートル嵩上げまでにもそれなりの長期間を要することはやむを得ないから,控訴人らの上記④の主張は採用できない。(エ)また,控訴人らは,本件洗堰の嵩上げについて,安全度の順位を変えないように上記嵩上げを最後にすることは,安全性が低く水害が繰り返されるところから緊急に対策を講じていくとの河川法16条の2第2項に違反する旨主張する。しかし,本件洗堰の嵩上げについては,上述の技術的制約及び社会的制約があって,これを最後に実施せざるを得ないものであるところ,これをもって河川法16条の2第2項に違反するとはいえない。さらに,控訴人らは,本件洗堰の嵩上げは,1.05メートルでなくても,0.3メートルや0.5メートルであっても荒崎地区の浸水被害を軽減することができるから,早急に実施すべきである旨主張する。しかし,本件洗堰の嵩上げは,財政的制約の下で行うものであるから,度々行えるものではなく,実施する以上は浸水被害の軽減について一定の効果をもたらす規模で行う必要があるところ,前述のとおり,そのためには嵩上げ高を1.05メートルとするのが適切であったのであるから,控訴人らの上記主張は採用できない。(オ)控訴人らは,大谷川洗堰は事実上の越流堤としての機能を有し続け,ほかの地域を洪水被害から守るため,住宅地である荒崎地区が長年にわたって事実上の遊水地としての役割を押しつけられている状態が続き,控訴人ら荒崎地区の住民に特別の犠牲が強いられてきたものであり,岐阜県知事が,長期間を要する大谷川洗堰の解消までの間,(比較的)容易に実施できる二線堤設置等の流域対策を取らなかったことは,河川管理の瑕疵に 荒崎地区の住民に特別の犠牲が強いられてきたものであり,岐阜県知事が,長期間を要する大谷川洗堰の解消までの間,(比較的)容易に実施できる二線堤設置等の流域対策を取らなかったことは,河川管理の瑕疵に該当する旨主張する。しかしながら,岐阜県知事(被控訴人)が大谷川洗堰からの越流を前提として河川管理をしているとか,ほかの地域を守るために計画的に住宅地である荒崎地区に越流させてきたとか,河川管理者が越流機能を積極的に利用してきたとか,控訴人らが特別の犠牲を強いられてきたとはいえないことは前述のとおりであるところ,控訴人らの後段部分の主張を具体的瑕疵判断基準に則して検討すると,岐阜県知事が策定した相川改良工事全体計画や大谷川洗堰の1.05メートル嵩上げ計画は,大谷川両岸の完全バック堤による整備や上記嵩上げに先立ち又はこれらと並行して,流域対策である(a)二線堤の設置,(b)改良輪中堤の設置,(c)改良水防土のう積み,(d)危険告知及び(e)建物自体の浸水対策を行うことを内容としないために不合理なものであるということになるものと解される。また,控訴人らは,10年に1回程度発生する雨量によっても荒崎地区に浸水被害が生じないように,岐阜県知事は,①市街化区域の指定から10年経過した昭和60年までに,又は,②平成2年9月の水害から5年経過した平成7年までに,上記の流域対策を取るべきであったのに,これを怠ったから,遅くとも平成7年ころまでには大谷川洗堰又は同洗堰を有する大谷川の河川管理に瑕疵がある状態になっていた旨主張する。そこで,以下,上記の流域対策について検討する。a (a)二線堤の設置について控訴人らは,河川管理者は,本件洗堰と住宅地の間を南北に走っている県道養老赤坂線を標高9メートルに嵩上げし,道 こで,以下,上記の流域対策について検討する。a (a)二線堤の設置について控訴人らは,河川管理者は,本件洗堰と住宅地の間を南北に走っている県道養老赤坂線を標高9メートルに嵩上げし,道路と共用の二線堤を設置する措置を取るべきであった,この二線堤は平成13年度報告書の新輪中堤計画に類似するものであり,内水は新たに3基の水門を設置して排水する,事業費は10億円ないし20億円で可能であるし,本件洗堰もそのままなので下流部や対岸の住民の反発もない旨主張する。二線堤は河川管理の一方法であるところ,控訴人ら主張の二線堤は,本堤と二線堤の間の土地を堤防によって仕切られた遊水地とするものである。ⅰ ところで,河川改修を実施していくに当たり,本件洗堰をそのままにして遊水地を囲う二線堤を整備していく方策を講ずるか,本件洗堰を段階的に嵩上げし将来的には大谷川洗堰を解消する方策を取るか,あるいは後述の改良輪中堤を設置する方策を取るか等の判断は,財政的,技術的,社会的諸制約のもと,治水事業の主体たる河川管理者の高度で専門的な行政的判断を伴う裁量に委ねられていると解される。そして,鹿島台の二線堤は,新たに河川区域を設定するものでも遊水地を整備するものでもないから補償費は不要であったが,控訴人らの主張する二線堤は遊水地を整備するものであるから,二線堤外の土地について,盛土,家屋建築等の湛水容量を損なう行為をできなくするために地役権を設定する必要があり,補償費が必要となる上,3基の水門の設置費用,水没する荒崎排水機の再設置費用,県道養老赤坂線の東側に位置する住居等の移転補償費用等や十六輪中堤の補強費用も必要となるところ,これらの事業費が,控訴人らが主張する10億円から20億円程度に収まるか極めて疑問である の再設置費用,県道養老赤坂線の東側に位置する住居等の移転補償費用等や十六輪中堤の補強費用も必要となるところ,これらの事業費が,控訴人らが主張する10億円から20億円程度に収まるか極めて疑問である。 また,前述のような被控訴人の治水事業関係の予算規模や,供用されている道路の改修は交通量の少ない時間帯に交通規制を行いながら進めなければならないことからすると,二線堤の完成までにも相当長期間を要することが推測されるし,上記の地役権の設定交渉等にも長期間を要することが推測される。さらに,控訴人らは,大谷川洗堰からの越流はそのままになるから社会的制約は問題とならないなどと主張するが,高い水位の継続時間が長くなると破堤の可能性が高まる(証人Eの供述書・6頁)から,二線堤の天端高が十六輪中堤の天端高より低い場合でも,二線堤の設置により,荒崎地区に隣接する十六輪中の安全度に影響を与えないとはいえないから,十六輪中の住民らの同意を得る必要があり,社会的制約の問題は残る。そうすると,二線堤を設置することが,荒崎地区の浸水被害軽減措置として河川管理上合理的であるといえるか疑問であるから,岐阜県知事が二線堤設置の方策を取らなかったとしても,その裁量を逸脱したものとは認められない。ⅱ 河川審議会は,平成12年12月19日,従前の治水対策は,築堤や河川改修を進めることにより,流域に降った雨水を川に集めて海まで早く安全に流すことを基本として行われてきたが,都市化による土地利用の激変や異常降雨の頻発により,通常の河川改修のみによる対応では限界が生じている地域があることから,ダムや堤防などの通常の河川改修を引き続き着実に実施することに加え,輪中堤,宅地嵩上げ及び土地利用方策,河川と下水道の連携強化,貯留施設等による流出抑制対策,ハ 限界が生じている地域があることから,ダムや堤防などの通常の河川改修を引き続き着実に実施することに加え,輪中堤,宅地嵩上げ及び土地利用方策,河川と下水道の連携強化,貯留施設等による流出抑制対策,ハザードマップの作成・公表等の流域対策を導入することを提案する旨の中間答申を行い,その中で,二線堤等は有効な手法であるため整備手法等について検討を進めるべきであるとした。上記中間答申が平成12年12月19日になされていること,鹿島台の二線堤は昭和63年から整備が開始されているが,これはリーディングケースであることからすると,被控訴人が上記中間答申が出される前に二線堤の設置について検討しなかったとしてもやむを得ないものであり,この点について被控訴人に河川管理上の義務違反はないというべきである。そして,被控訴人が,上記中間答申が出された直後から二線堤設置の検討を開始したとしても,上記ⅰの諸制約から,本件水害が発生した平成14年7月10日までに二線堤が完成していたとは認められない。b (b)改良輪中堤の設置についてⅰ 被控訴人は,控訴人らの改良輪中堤の主張が時機に後れた攻撃防御方法に該当するから却下すべきである旨主張するが,上記の改良輪中堤案の主張は,上記aの二線堤設置案のバリエーションにすぎず,訴訟の完結を遅滞させるものではないから,被控訴人の上記主張は採用できない。ⅱ 控訴人らは,河川管理者は,十六輪中堤から県道養老赤坂線に沿い,大谷川右岸2.8K(岐阜垂井線)までの区間約1150メートルに,天端高9.2メートルの輪中堤を設置すべきであった,これは,平成13年度報告書に記載されている天端高9.8メートルの輪中堤について,その天端高を十六輪中堤の天端 線)までの区間約1150メートルに,天端高9.2メートルの輪中堤を設置すべきであった,これは,平成13年度報告書に記載されている天端高9.8メートルの輪中堤について,その天端高を十六輪中堤の天端高よりも0.5メートル低い9.2メートルとしたものであり,内水はポンプ排水により処理する旨主張する。しかしながら,平成13年度報告書(甲A37)における新輪中堤計画の事業費(約3億4000万円)には,内水排除に関する経費や氾濫地域(災害危険区域)の補償費用,新輪中堤外の公共施設の移転・水害防除に関する費用が含まれておらず,実際の事業費は3億4000万円にとどまらないと容易に推測される(この点は,上記報告書の47頁において指摘されている。)。そして,設置される輪中堤の建設費用,湛水地の地役権等の設定費用,排水機の設置費用,県道養老赤坂線の東側に位置する住居等の移転補償費用,十六輪中の補強費用等を考慮すると,被控訴人の試算によれば173億円になるとされている。また,氾濫区域を設けることについて地元住民の理解,同意が得られるか,十六輪中の安全度の低下に対して十六輪中の住民らの同意が得られるかという問題がある。さらに,改良輪中堤用地の取得や湛水地の地役権設定交渉,改良輪中堤の建設に長期間を要することが推測される。そうすると,改良輪中堤を設置することが荒崎地区の浸水被害軽減措置として河川管理上合理的であるといえるか疑問であるから,岐阜県知事が改良輪中堤設置の方策を取らなかったとしても,その裁量を逸脱したものとは認められない。ⅲ 前記の中間答申が出されたのが平成12年12月19日であること,上記中間答申を受けて輪中堤について検討した平成13年度報告書が被控訴人に提出されたのが平成14年1月であることか 。ⅲ 前記の中間答申が出されたのが平成12年12月19日であること,上記中間答申を受けて輪中堤について検討した平成13年度報告書が被控訴人に提出されたのが平成14年1月であることからすると,被控訴人が上記中間答申が出される前に改良輪中堤の設置について検討しなかったとしてもやむを得ないものであり,この点について被控訴人に河川管理上の義務違反はないというべきである。そして,被控訴人が平成13年度報告書の提出を受けて,改良輪中堤の建設に着手したとしても,本件水害が発生した平成14年7月10日までに改良輪中堤が完成していなかったことは明らかである。c (c)改良水防土のう積みの設置についてⅰ 被控訴人は,控訴人らの改良水防土のう積み設置についての主張が時機に後れた攻撃防御方法に該当するから却下すべきである旨主張するが,上記の改良水防土のう積み設置案の主張は,前記aの二線堤設置案のバリエーションにすぎず,訴訟の完結を遅滞させるものではないから,被控訴人の上記主張は採用できない。 ⅱ 控訴人らは,河川管理者は,本件洗堰の改修工事が完工するまでの間,天端高9.2メートルの水防土のう積みを設置するべきであった,上記土のう積みは短期間で設置でき,その設置費用は約5億円で済み,地元住民の理解を得ることも容易であり,内水はポンプ排水で処理する,また,本件洗堰を0.3メートル嵩上げすることと併用することも考えられる旨主張する。 しかしながら,水防土のう積みは河川管理施設ではなく防災施設であり,設置するとすれば大垣市がすべきものであること,前記河川審議会の中間答申の内容に照らして,相川改良工事全体計画の策定時においても,本件水害当時においても,河川管理者が,流域対策として,水防土のう積 設置するとすれば大垣市がすべきものであること,前記河川審議会の中間答申の内容に照らして,相川改良工事全体計画の策定時においても,本件水害当時においても,河川管理者が,流域対策として,水防土のう積みのような河川管理施設等構造令の一般的技術的基準を満たさない設備を設置する義務があったといえるか疑問であること,本件水害後に大垣市が設置した水防土のう積みの設置予定期間は約5年間であったのに対し,控訴人らが水防土のう積みを設置すべきであったと主張する時期(市街化区域指定から10年以内,遅くとも,平成2年9月の水害から5年以内)から大谷川洗堰の段階的嵩上げ又は締切りまでの期間は少なくとも12年以上の長期になり,耐久性や維持管理の点から,水防土のう積みのような暫定的な設備を設置することが相当か疑問であることからすると,水防土のう積みを設置することが,荒崎地区の浸水被害軽減措置として河川管理上合理的であるといえるか疑問であるから,岐阜県知事が改良水防土のう積みを設置しなかったとしても,その裁量を逸脱したものとは認められない。 d (d)危険告知及び(e)建物自体の浸水対策について控訴人らは,(d)危険告知について,河川管理者は,「浸水区域」という看板を設置したり,建築確認等の際に浸水区域の告知文書を配布するなどして,荒川地区の住民に浸水の危険があることを周知すべきであったと主張し,その法的根拠として,河川法1条,48条又は改正前水防法10条の4及び被控訴人が荒崎地区を市街化区域に指定したことを挙げ,また,(e)建物自体の浸水対策について,河川管理者は,宅地嵩上げ等の耐水性建築物を強力に推進するよう,建築確認を行う被控訴人の機関に働きかけるべきであった旨主張する。しかしながら,河川法1条は,同法の目的を定めた規定であり,そ 理者は,宅地嵩上げ等の耐水性建築物を強力に推進するよう,建築確認を行う被控訴人の機関に働きかけるべきであった旨主張する。しかしながら,河川法1条は,同法の目的を定めた規定であり,その文言からも,同条が河川管理者に対し,浸水区域の告知義務を負わせたものと解することはできない。河川法48条についても,人為的な操作により流水の状況に著しい変化を及ぼすダムと,下流河川の流下能力を超える洪水が生じた際に越流が生じる大谷川洗堰とを同一視することはできない上,同条における危険告知は,ダムを操作することによって流水の状況に著しい変化を生ずると認められる場合において,これによって生じる危害を防止するため必要があると認められるときに,ダムを操作する日時や放流される流水の量等を告知したり,サイレン等によって警告すべきというものであり,放流に近接した時期に具体的な危険を告知すべきというものであるのに対し,控訴人らが主張する危険告知は,新たに住民となろうとする者に対し,その者が建物建築や入居する前に,浸水区域という抽象的な危険を告知すべきというものであり,告知すべき時期や告知すべき危険の内容が大きく異なるから,同条の類推により,河川管理者が上記のような危険告知義務を負うとはいえない。改正前水防法10条の4についても,大谷川は,流路延長約8.4キロメートル,流域面積約26平方キロメートルの河川であり,流域面積が大きい河川とはいえず,改正前水防法10条の2に基づく洪水予報河川の要件を満たすとはいえないから,岐阜県知事が同法10条の4に基づき,上記義務を負っていたとも認められない。また,被控訴人が荒崎地区の一部を市街化区域に指定したことについても,上記市街化区域指定の事実から直ちに,河川管理者に危険告知義務が生じるとはいえないし,河川管理 を負っていたとも認められない。また,被控訴人が荒崎地区の一部を市街化区域に指定したことについても,上記市街化区域指定の事実から直ちに,河川管理者に危険告知義務が生じるとはいえないし,河川管理者が危険告知の条件を付して同指定に同意したことを認めるに足りる証拠はない(なお,岐阜県都市計画地方審議会において,岐阜県の担当者が,建築確認の段階で市の窓口に湛水の図面をはるなどの行政指導をしていきたいと考えている旨発言したとしても,このことから河川管理者に危険告知の義務が発生したということはできない。)。 さらに,控訴人らは,上記(d)及び(e)につき,河川審議会の中間答申(甲A4)を根拠に,河川管理者が流域対策として危険告知及び建物自体の浸水対策をすべき義務があった旨主張する。しかしながら,前記1(12)で認定したとおり,上記の答申は,建設大臣が平成12年2月,河川審議会に「流域での対応を含む効果的な治水対策のあり方」を諮問し,これを受けて,河川審議会が,同年12月19日,従来,輪中堤や宅地嵩上げ等の対策は,河川管理者ではなく地方公共団体により実施されてきたが,これらの対策を河川管理者が河川事業として実施すること,洪水の氾濫域における土地利用方策として,緩やかな規制を設置する新たな概念の河川区域を設けること,建築基準法に基づく災害危険区域における建築物の建築制限を設けること,建築物を新築する場合の制限について検討を行うこと,情報提供として,浸水実績図やハザードマップの作成・公表等を行うことなどを提案する中間答申を行ったものであり,これらは,従来の治水対策における河川改修のみの対応に限界があるとして,これからの治水対策の指針として示されたものである。上記中間答申の内容に照らすと,相川改良工事全体計画 申を行ったものであり,これらは,従来の治水対策における河川改修のみの対応に限界があるとして,これからの治水対策の指針として示されたものである。上記中間答申の内容に照らすと,相川改良工事全体計画策定当時,河川管理者が治水対策としてこれらの「流域対策」をすべき義務を負っていたとは認められず,また,上記中間答申により,治水対策として河川管理者にこれらの流域対策が義務づけられるものでもなかったことは明らかである。そして,本件全証拠によっても,その後,本件水害が発生するまでの間,岐阜県知事に「流域対策」として上記(d)(危険告知)及び(e)(建物自体の浸水対策)が義務づけられたことを認めるに足りる証拠はない(なお,昭和56年嵩上げ工事後も,1/10年確率で荒崎地区に浸水被害が生ずる可能性があることや,平成2年9月に荒崎地区に甚大な浸水被害が生じたことを被控訴人(岐阜県知事)が知っていたことも,上記認定を左右するものではない。)。したがって,上記(d)及び(e)のいずれについても,本件水害発生時までに,河川管理者たる岐阜県知事がこれらの対策を取るべき義務を負っていたとは認められないから,岐阜県知事がこれらの対策を取ろうとしなかったことをもって相川改良工事全体計画が不合理であるとも,また,本件水害時までに岐阜県知事がこれらの対策を取っていなかったことにつき,河川管理の瑕疵があるともいえない。e 控訴人らは,河川管理者において,甚大な被害の発生を具体的に予見しており,浸水対策を取るための諸制約は大きくなく,他地域の安全性は高まっていたのに荒崎地区の被害は深刻になっていたというような本件水害の特殊性を十分に考慮すべきであり,改修計画に基づく改修が行われていても,当該改修により,合理的期間内に,予見さ 他地域の安全性は高まっていたのに荒崎地区の被害は深刻になっていたというような本件水害の特殊性を十分に考慮すべきであり,改修計画に基づく改修が行われていても,当該改修により,合理的期間内に,予見される被害に対する安全性を備える現実的予定がない場合には,当該改修とは別途,予見される被害への対策がなされていなければ,瑕疵があるというべきである旨主張する。しかしながら,前述のとおり,大谷川の改修は下流河川の背水の影響を強く受けるため,上下流の河川改修を先行させざるを得ないという大きな技術的制約及び財政的制約並びに歴史的な経緯から,地域間の安全度の順序を変える洪水対策を取ることは極めて困難であるという社会的制約のもとで進めざるを得ず,また,被控訴人は,昭和56年嵩上げ工事後の下流河川等の更なる改修の進行を受けて,相川改良工事全体計画策定時,完全バック堤による連続堤の整備が成るまでの間に,大谷川洗堰の段階的な嵩上げ(1.05メートル嵩上げ)を行う計画を有しており,本件水害発生までの間に,広域河川改修事業の計画の中で,上記嵩上げに先行して実施すべき堤防の整備(腹付け)や長松橋の嵩上げ工事等を順次実施していたものであり,他方,控訴人らが当該改修とは別途なすべき対策であると主張する「流域対策」は,いずれも合理性について疑問があるか,本件水害当時においても,河川管理者がなすべき事項とはいえないものであるから,控訴人らの上記主張は採用できない。f 上記によれば,岐阜県知事が,大谷川洗堰の段階的嵩上げや締切りに先立ち又はこれらと並行して,(a)二線堤の設置,(b)改良輪中堤の設置,(c)改良水防土のう積み,(d)危険告知及び(e)建物自体の浸水対策といった「流域対策」を取らなかったことをもって,相川改良工事全体計画が不 並行して,(a)二線堤の設置,(b)改良輪中堤の設置,(c)改良水防土のう積み,(d)危険告知及び(e)建物自体の浸水対策といった「流域対策」を取らなかったことをもって,相川改良工事全体計画が不合理であったということはできず,また,本件洗堰及び同洗堰を有する大谷川の管理に瑕疵があったということもできないから,控訴人らの主張はいずれも採用できない。オその後の事情の変動による早期の改修工事施行の必要性に関する特段の事由があるかについて相川改良工事全体計画は,平成9年11月28日に建設大臣の認可を受けているところ,本件全証拠によっても,その後の事情の変動により大谷川の未改修部分につき水害発生の危険性が特に顕著となり,当初の計画の時期を繰り上げ,又は工事の順序を変更するなどして早期の改修工事を施行しなければならないと認めるべき特段の事由は見当たらない。控訴人らは,①県内のほかの河川の改修整備が急速に進められ,平成元年ころ以降は,同一箇所からの浸水被害により数百世帯単位で床上浸水が繰り返される地区は荒崎地区以外にはなくなった,②大谷川流域の市街化が進んだことにより,平成2年9月の水害,本件水害と浸水被害が増大していると主張するが,上記①は相川改良工事全体計画策定前の事情であるし,上記②は,平成2年9月の水害の際は,荒崎支所管内で住宅の床上浸水160戸,床下浸水382戸の被害だったのに対し,本件水害の際は,床上浸水290戸,床下浸水166戸の被害が生じ,本件水害の際の方が,平成2年9月の水害の際よりも相当多数の住宅に床上浸水被害が生じたことが認められるものの,水害は降雨等の状況によって被害の程度が異なるものであるから,上記の数字の比較から市街化の進行により浸水被害が増大したとは断言できない上,前記1(4)で認 上浸水被害が生じたことが認められるものの,水害は降雨等の状況によって被害の程度が異なるものであるから,上記の数字の比較から市街化の進行により浸水被害が増大したとは断言できない上,前記1(4)で認定した荒崎地区の土地利用状況の変化や人口の変化によれば,大谷川流域の市街化が主に進行したのは平成9年以前であると認められ,やはり相川改良工事全体計画策定前の事情であると認められる。仮に,上記②の事情があったとしても,これは,当初の予定を繰り上げて改修工事を施行しないことが管理の瑕疵に当たるとするには足りないものである。したがって,控訴人らの上記主張は採用できない。カ河川の改修,整備の段階に対応する安全性について本件全証拠によっても,大谷川洗堰及び同洗堰を有する大谷川に上記の安全性について瑕疵があるとは認められない。この点についての控訴人らの主張がいずれも理由がないことは,既に説示したとおりである。(5)以上によれば,大谷川洗堰を含む大谷川は,改修計画に基づいて現に改修中の河川であり,その改修計画が格別不合理なものであるとは認められず,また,その後の事情の変動により未改修部分につき水害発生の危険が特に顕著となり,早期の改修工事を施行しなければならないと認めるべき特段の事由はないから,本件洗堰の改修がいまだ行われていなかったことをもって,同洗堰及びこれを有する大谷川の河川管理に瑕疵があるとはいえず,また,岐阜県知事が,本件水害発生までの間に控訴人らが主張する「流域対策」としての浸水対策を講じなかったことが河川管理の瑕疵に該当するともいえず,その他,本件全証拠によっても,岐阜県知事に大谷川及び大谷川洗堰について河川管理の瑕疵があったと認めることはできない。 4 結論 以上の次第で, の瑕疵に該当するともいえず,その他,本件全証拠によっても,岐阜県知事に大谷川及び大谷川洗堰について河川管理の瑕疵があったと認めることはできない。 4 結論 以上の次第で,控訴人らが主張する営造物の設置又は管理の瑕疵は認められないから,その余の点について判断するまでもなく,控訴人らの請求はいずれも理由がない。よって,上記と結論を同じくする原判決は相当であり,控訴人らの本件各控訴はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして,主文のとおり判決する。 名古屋高等裁判所民事第2部 裁判長裁判官林道春 裁判官内堀宏達 裁判官濵優子
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