【DRY-RUN】主 文 本件上告を棄却する。 上告費用は上告人の負担とする。 理 由 上告代理人佐藤真理、同坪田康男、同吉田恒俊、同相良博美の上告理由第一につ いて
主 文 本件上告を棄却する。 上告費用は上告人の負担とする。 理 由 上告代理人佐藤真理、同坪田康男、同吉田恒俊、同相良博美の上告理由第一につ いて 労働者災害補償保険法(以下「法」という。)に基づく保険給付の原因となつた 事故が第三者の行為により惹起され、第三者が右行為によつて生じた損害につき賠 償責任を負う場合において、右事故により被害を受けた労働者に過失があるため損 害賠償額を定めるにつきこれを一定の割合で斟酌すべきときは、保険給付の原因と なつた事由と同一の事由による損害の賠償額を算定するには、右損害の額から過失 割合による減額をし、その残額から右保険給付の価額を控除する方法によるのが相 当である(最高裁昭和五一年(オ)第一〇八九号同五五年一二月一八日第一小法廷 判決・民集三四巻七号八八八頁参照)。けだし、法一二条の四は、事故が第三者の 行為によつて生じた場合において、受給権者に対し、政府が先に保険給付をしたと きは、受給権者の第三者に対する損害賠償請求権は右給付の価額の限度で当然国に 移転し(一項)、第三者が先に損害賠償をしたときは、政府はその価額の限度で保 険給付をしないことができると定め(二項)、受給権者に対する第三者の損害賠償 義務と政府の保険給付義務とが相互補完の関係にあり、同一の事由による損害の二 重填補を認めるものではない趣旨を明らかにしているのであつて、政府が保険給付 をしたときは、右保険給付の原因となつた事由と同一の事由については、受給権者 が第三者に対して取得した損害賠償請求権は、右給付の価額の限度において国に移 転する結果減縮すると解されるところ(最高裁昭和五〇年(オ)第四三一号同五二 年五月二七日第三小法廷判決・民集三一巻三号四二七頁、同五〇年(オ)第六二一 - 1 - 号同五二年一〇月二 度において国に移 転する結果減縮すると解されるところ(最高裁昭和五〇年(オ)第四三一号同五二 年五月二七日第三小法廷判決・民集三一巻三号四二七頁、同五〇年(オ)第六二一 - 1 - 号同五二年一〇月二五日第三小法廷判決・民集三一巻六号八三六頁参照)、損害賠 償額を定めるにつき労働者の過失を斟酌すべき場合には、受給権者は第三者に対し 右過失を斟酌して定められた額の損害賠償請求権を有するにすぎないので、同条一 項により国に移転するとされる損害賠償請求権も過失を斟酌した後のそれを意味す ると解するのが、文理上自然であり、右規定の趣旨にそうものといえるからである。 右と同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法 はなく、論旨は採用することができない。 同第二について 原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて、所論の点に関する原審の判断は、 正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、 原審の裁量に属する過失相殺の割合の不当をいうものにすぎず、採用することがで きない。 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官伊藤正己の反対意見が あるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 裁判官伊藤正己の反対意見は次のとおりである。 私は、上告理由第一についての多数意見に同調することができず、原判決は破棄 を免れないと考える。その理由は次のとおりである。 労働者災害補償保険(以下「労災保険」という。)は、業務上の事由又は通勤に よる労働者の負傷、疾病、障害又は死亡に対して迅速かつ公正な保護をするため、 必要な保険給付を行い、併せて業務上の事由又は通勤により負傷し、又は疾病にか かつた労働者の社会復帰の促進、当該労働者及びその遺族の援護、適正な労働条件 の確保等を図り、もつて労働者の福祉の増進に寄与す 必要な保険給付を行い、併せて業務上の事由又は通勤により負傷し、又は疾病にか かつた労働者の社会復帰の促進、当該労働者及びその遺族の援護、適正な労働条件 の確保等を図り、もつて労働者の福祉の増進に寄与することを目的とするものであ り(法一条)、労災保険事業に要する費用に充てるための保険料は事業主から徴収 されるが(法二四条、労働保険の保険料の徴収等に関する法律一五条等)、国庫は - 2 - 右費用の一部を補助することができることとされている(法二六条)。そして、法 一二条の二の二第一項は、労働者が、故意に負傷、疾病、障害若しくは死亡又はそ の直接の原因となつた事故を生じさせたときは、保険給付を行わないこととし、同 条二項は、労働者が故意の犯罪行為若しくは重大な過失等により、右のような負傷 等又は事故を生じさせるなどしたときは、保険給付の全部又は一部を行わないこと ができるとし、もつて、保険給付を制限する場合を限定している。すなわち、法に おいては、使用者の故意・過失の有無にかかわらず、同項の定める事由のない限り、 事故が専ら労働者の過失によるときであつても、保険給付が行われることとし、で きるだけ労働者の損害を補償しようとしているということができる。以上の点に徴 すれば、労災保険制度は社会保障的性格をも有しているということができるのであ る。政府が労災保険給付をした場合に、右保険給付の原因となつた事由と同一の事 由について、受給権者の第三者に対して取得した損害賠償請求権が右保険給付の価 額の限度において国に移転するものとされるのも、同一の事由による損害の二重填 補を認めるものではない趣旨を明らかにしたにとどまり、第三者の損害賠償義務と 実質的に相互補完の関係に立たない場合についてまで、常に受給権者の有する損害 賠償請求権が国に移転するものとした趣旨ではないと解することも十分可 ない趣旨を明らかにしたにとどまり、第三者の損害賠償義務と 実質的に相互補完の関係に立たない場合についてまで、常に受給権者の有する損害 賠償請求権が国に移転するものとした趣旨ではないと解することも十分可能である から、当然に法一二条の四第一項の規定を多数意見のように解さなければならない ものではないというべきである。 もとより、労災保険制度が社会保障的性格を有することなどから、直ちに、事故 により被害を受けた労働者に過失がある場合に国が受給権者の第三者に対して有す る損害賠償請求権のうちのいかなる部分を取得するかという問題を解決することは できない。しかし、労災保険制度が社会保障的性格を有し、できるだけ労働者の損 害を補償しようとしていることは、法一二条の四第一項の解釈にも反映させてしか るべきである。右の観点からすると、政府が保険給付をした場合においても、第三 - 3 - 者に対する損害賠償請求権の額と右保険給付の額とが相まつて、右保険給付の原因 となつた事由と同一の事由による労働者の損害が全部填補される結果にならない限 り、受給権者の第三者に対する損害賠償請求権は国に移転しないと解することも考 えられないではないが、そこまで徹底することには躊躇を感ずる。私は、労働者に 過失がある場合には、政府のした保険給付の中には労働者自らの過失によつて生じ た損害に対する填補部分と、第三者の過失によつて生じた損害に対する填補部分と が混在しているものと理解し、第三者の損害賠償義務と実質的に相互補完の関係に 立つのは、右のうち第三者の過失によつて生じた損害に対する填補部分であり、し たがつて、国が取得する受給権者の第三者に対する損害賠償請求権も、第三者の過 失によつて生じた損害に相当する部分であると解するのが相当であると考える。こ のように解すべきものとすれば、法に基づいてされた保険給 て、国が取得する受給権者の第三者に対する損害賠償請求権も、第三者の過 失によつて生じた損害に相当する部分であると解するのが相当であると考える。こ のように解すべきものとすれば、法に基づいてされた保険給付の原因となつた事由 と同一の事由による損害の賠償額を算定するに当たつては、右損害の額から右保険 給付の価額を控除し、その残額につき労働者の過失割合による減額をする方法によ るべきことになる。法一二条の四第一項が事故の発生につき労働者に過失があるた め第三者に対する損害賠償請求権が損害額よりも少ない場合をも念頭において規定 されたものであるとは思われない。以上のような見解に対しては、損害賠償の理論 からすれば、たまたま労災保険給付があつたからといつて賠償の総額が増えるのは おかしいとの批判がある。しかし、労災保険が純然たる責任保険と異なることは前 記のとおりであるから、労災保険が給付される場合とこれが給付されない場合とで、 受給権者の受領することのできる金額に差が生ずるのは当然のことであり、右の非 難は当たらないというべきである。 以上のとおりであるので、私は、多数意見に同調することができない。本件にお いて、国は、休業給付のうち、上告人の過失によつて生じた損害に相当する部分に ついては損害賠償請求権を取得する余地がなく、第三者である被上告人Bの過失に - 4 - よつて生じた損害に相当する部分について損害賠償請求権を取得するにすぎないか ら、上告人の休業損害の額から減縮すべき額は後者に相当する部分にとどまるとい うべきである。 なお、不法行為による被害者に過失がある場合において、被害者の加害者に対す る損害賠償額を定めるにつき、被害者の過失を斟酌するか否か、斟酌するとしても どの損害につきどの程度斟酌するかということは、裁判所が具体的事案において諸 般の事情を考慮し公平の て、被害者の加害者に対す る損害賠償額を定めるにつき、被害者の過失を斟酌するか否か、斟酌するとしても どの損害につきどの程度斟酌するかということは、裁判所が具体的事案において諸 般の事情を考慮し公平の観念に基づいて決定すべきものであり、裁判所の裁量に委 ねられているというべきであるが(最高裁昭和二七年(オ)第七二二号同三〇年一 月一八日第三小法廷判決・裁判集民事一七号一頁、同昭和三二年(オ)第八七七号 同三四年一一月二六日第一小法廷判決・民集一三巻一二号一五六二頁、同昭和三九 年(オ)第三二八号同年九月二五日第二小法廷判決・民集一八巻七号一五二八頁参 照)裁判所が被害者の過失を一定の割合で斟酌すべきであると判断した以上、過失 相殺と労災保険給付の価額の控除の順序の誤りは法令の解釈適用の誤りに当たると いうべきである。したがつて、原判決には法令の解釈適用を誤つた違法があり、右 の違法が判決に影響を及ぼすことは明らかであるので、論旨は理由があり、原判決 は破棄を免れないところ、原審は上告人の未填補損害額が皆無であるとして、弁護 士費用相当の損害額につき判断しておらず、右の点について更に審理を尽くさせる 必要があるので、本件を原審に差し戻すのが相当であると考える。 最高裁判所第三小法廷 裁判長裁判官 伊 藤 正 己 裁判官 安 岡 滿 彦 裁判官 坂 上 壽 夫 裁判官 貞 家 克 己 - 5 -
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