平成13(行ウ)7 公文書非公開決定処分取消等請求事件

裁判年月日・裁判所
平成14年9月25日 奈良地方裁判所 情報公開
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判決文本文24,676 文字)

主文 1 被告奈良県知事が原告に対して平成13年1月4日付けでした公文書一部開示決定のうち,別紙開示請求文書目録記載の各文書中,別紙非開示部分目録記載の各部分のうちの別紙取消部分目録記載の各部分を非開示とした部分を取り消す。 2 原告の被告奈良県知事に対するその余の請求及び被告奈良県に対する請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用のうち,原告と被告奈良県知事との間に生じた訴訟費用は3分して,その1を原告の,その余を被告奈良県知事の負担とし,原告と被告奈良県との間に生じた訴訟費用は原告の負担とする。 理由 第1 請求 1 被告奈良県知事が原告に対して平成13年1月4日付けでした公文書一部開示決定のうち,別紙非開示部分目録記載の各部分を非開示とした部分を取り消す。 2 被告奈良県は,原告に対し,80万円及びこれに対する平成13年1月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 前項につき仮執行宣言第2 事案の概要 1 本件は,原告が,被告奈良県知事(以下「被告知事」という。)に対し,奈良県情報公開条例(平成13年3月奈良県条例第38号による改正前の奈良県情報公開条例,以下「本件条例」という。)に基づき,別紙開示請求文書目録記載の各公文書(以下「本件文書」という。)の開示を請求したところ(以下「本件開示請求」という。),被告知事が公開請求に係る文書の一部を非開示とする旨の一部開示決定(以下「本件処分」という。)をしたので,原告が被告知事に対し,本件処分のうち非開示とした部分の取消しを求めるとともに,被告奈良県(以下「被告県」という。)に対し,国家賠償法1条1項に基づき,本件処分により被った原告の精神的損害及び本件訴訟遂行に要する弁護士費用相当額の損害賠償を求めた事案である。 2 前提事実等(争いのない事実及び 告県」という。)に対し,国家賠償法1条1項に基づき,本件処分により被った原告の精神的損害及び本件訴訟遂行に要する弁護士費用相当額の損害賠償を求めた事案である。 2 前提事実等(争いのない事実及び証拠によって容易に認められる事実)(1) 本件開示請求原告は,奈良県の住民であるところ,平成12年12月20日,本件条例2条1項に基づく公文書開示の実施機関である被告知事に対し,別紙開示請求文書目録記載の各文書について,本件条例5条に基づき,本件開示請求をした(甲1)。 (2) 本件処分被告知事は,本件開示請求に対し,平成13年1月4日,別紙非開示部分目録記載1ないし3の各部分について開示しないこととし,その余の公文書を開示する旨の決定を行い,原告に通知した(甲2)。 (3) 本件条例定める公文書開示目的,解釈及び運用並びに非開示事由本件条例は,第1条において「この条例は,県民の公文書の開示を求める権利を明らかにするとともに,情報公開の総合的な推進に関し必要な事項を定めることにより,県政に対する県民の理解と信頼を深め,県民の県政への参加を促進し,もって公正で開かれた県民本位の県政を一層推進することを目的とする」と,第3条で「実施機関は,この条例の解釈及び運用にあたっては,県民の公文書の開示を求める権利を十分に尊重するものとする。この場合において,実施機関は,個人に関する情報がみだりに公にされることがないよう最大限の配慮をしなければならない。」と規定している。また,開示請求に係る公文書の非開示事由について,第10条において,「実施機関は,公文書の開示の請求に係る公文書に次の各号のいずれかに該当する情報が記録されているときは,当該公文書の開示をしないことができる。」とし,8個の事由(同条1号ないし8号)を定めているところ,本件に関係する部 開示の請求に係る公文書に次の各号のいずれかに該当する情報が記録されているときは,当該公文書の開示をしないことができる。」とし,8個の事由(同条1号ないし8号)を定めているところ,本件に関係する部分は次のとおりである。 10条2号個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって,特定の個人が識別され,又は識別され得るもの。ただし,次に掲げる情報を除く。 ア法令等の規定により何人でも閲覧することができる情報イ公表することを目的として実施機関が作成し,又は取得した情報ウ法令等の規定による許可,免許,届出等の際に実施機関が作成し,又は取得した情報であって,開示することが公益上必要であると認められるもの同条3号法人(国及び地方公共団体を除く。)その他の団体(以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって,開示することにより,当該法人等又は当該事業を営む個人の競争上又は事業運営上の地位,社会的信用その他正当な利益が損なわれると認められるもの。ただし,次に掲げる情報を除く。 ア事業活動によって生じ,又は生ずるおそれがある危害から人の生命,身体又は健康を保護するために,開示することが必要であると認められる情報イ違法又は不当な事業活動によって生じ,又は生ずるおそれがある支障から人の財産又は生活を保護するために,開示することが必要であると認められる情報ウア又はイに掲げる情報に準ずる情報であって,開示することが公益上必要であると認められるもの同条7号県又は国等の事務事業に係る意思形成過程において,県の機関内部若しくは機関相互間又は県と国等との間における審議,協議,検討,調査研究等に関し,実施機関が作成し,又は取得した情報であって,開示することにより当該事務事業又は る意思形成過程において,県の機関内部若しくは機関相互間又は県と国等との間における審議,協議,検討,調査研究等に関し,実施機関が作成し,又は取得した情報であって,開示することにより当該事務事業又は将来の同種の事務事業に係る意思形成に著しい支障が生ずるおそれがあるもの同条8号県又は国等が行う取締り,監査,検査,許可,認可,試験,入札,交渉,渉外,争訟,人事その他の事務事業に関する情報であって,開示することにより,当該事務事業の目的が損なわれるおそれがあるもの,特定のものに不当な利益若しくは不利益が生ずるおそれがあるもの,関係当事者間の信頼関係若しくは協力関係が損なわれると認められるもの又は当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の公正かつ円滑な執行に著しい支障が生ずるおそれがあるもの(4) 本件処分の非開示部分とその理由本件処分の非開示部分とその理由の詳細は,以下のとおりである(甲2)。 ア契約の対象地が個人の所有の場合における非開示情報(以下「非開示部分1」という。)本件条例10条2号及び8号に該当する。 理由は,これらは,個人若しくは資産等個人の財産に係る個人情報であって,特定の個人が識別されるとともに,開示することにより相手方との信頼関係が損なわれ,今後の情報収集や相手方の理解協力を得ることが困難になると認められ,将来の同種の事務事業の公正かつ円滑な執行に著しい支障が生ずるおそれがあるため。 イ契約の対象地が法人の所有の場合における非開示情報(以下「非開示部分2」という。)本件条例10条3号及び8号に該当する。 理由は,これらは,事業者の内部管理に関する情報であるとともに,開示することにより相手方との信頼関係が損なわれ,今後の情報収集や相手方の理解協力を得ることが困難になると認められ,将来の同種の事務事業の公正 ,これらは,事業者の内部管理に関する情報であるとともに,開示することにより相手方との信頼関係が損なわれ,今後の情報収集や相手方の理解協力を得ることが困難になると認められ,将来の同種の事務事業の公正かつ円滑な執行に著しい支障が生ずるおそれがあるため。 ウ不動産鑑定評価書(表題及び題目を除く),宅地価格評定表,宅地価格批准総括表,事例カード,土地調査表,建物等補償報告書等の非開示情報(以下「非開示部分3」という。)本件条例10条7号及び8号に該当する。 理由は,これらは,買収単価又は補償価格を決定するための意思形成過程に係る情報であり,開示することにより事務事業の意思形成に支障が生ずるおそれがあるとともに,将来の同種の事務事業の公正かつ円滑な執行に著しい支障が生ずるおそれがあるため。 3 争点(1) 非開示部分1の本件条例10条2号該当性(2) 非開示部分2の本件条例10条3号該当性(3) 非開示部分3の本件条例10条7号該当性(4) 各非開示部分の本件条例10条8号該当性(5) 損害賠償請求の成否第3 争点に関する当事者の主張 1 争点(1)について(被告らの主張)ア本件条例10条2号本文にいう「個人に関する情報」とは,収入,資産等個人に関する一切の情報をいい,「特定の個人が識別され,又は識別され得るもの」とは,当該情報から特定の個人が明らかに識別され,又は識別され得る可能性がある場合をいい,①住所,氏名等のように個人が直接識別される情報,②他の情報と結び付けることにより,間接的に特定の個人が識別され得る情報がこれに該当すると解される。 イ契約の対象地が個人の所有の場合における金融機関名,支店名,預金種別及び口座番号等,対象者の取引金融機関に関する情報,位置図,平面図,丈量図,買収単価,補償額積算単価,買収価格,補償価 される。 イ契約の対象地が個人の所有の場合における金融機関名,支店名,預金種別及び口座番号等,対象者の取引金融機関に関する情報,位置図,平面図,丈量図,買収単価,補償額積算単価,買収価格,補償価格,建物の構造並びに工作物の内容等及び個人が所有する補償対象物件に関する情報等は,個人の財産に関する情報であり,同号の「個人に関する情報」に該当することは明らかであり,その場合の対象者の住所(大字名以下)及び氏名,印影,住民票,印鑑登録証明書,登記簿謄本が特定の個人が直接識別される情報であり,土地の所在地(小字名以下),地番及び公簿地積,法務局受付番号が他の情報と結び付けることにより,間接的に特定の個人が識別され得る情報であるから,それらの情報は同号の「特定の個人が識別され,又は識別され得るもの」に該当する。 ウ行政機関が保有している情報を原則的に公開することを定めた情報公開法制の下においても,個人に関する情報は原則として非開示とされており,その非開示事由の定め方には個人識別情報型とプライバシー情報型の2類型があるところ,本件条例は,多くの先進都道府県の条例に倣って,意識的に個人識別情報型を選択,採用している。原告は,個人のプライバシー保護の要請と市民の知る権利ないし情報公開請求権との調和の観点から「個人に関する情報を限定的に解釈すべきである旨主張するが,知る権利はそれ自体抽象的な権利にすぎず,また,公的情報に対する住民の公開請求権については,具体的な情報公開請求権の内容,範囲等は,各条例の定めるところによるもので,条例の規定の文理を離れて情報公開請求権の範囲等を決するようなことは慎むべきであると一般的に解されており,知る権利ないし情報公開請求権との調和を理由に,条例の趣旨・文言を無視して,プライバシー情報型と同様に非開示事由を厳格に解釈す 求権の範囲等を決するようなことは慎むべきであると一般的に解されており,知る権利ないし情報公開請求権との調和を理由に,条例の趣旨・文言を無視して,プライバシー情報型と同様に非開示事由を厳格に解釈する余地はない。 (原告の主張)ア前記の本件条例の目的(1条)及び実施機関の責務(3条)の規定の仕方(態度)からすれば,非開示事由は市民の情報公開請求権を重視して,具体的場面において公開が不相当なケースを限定列挙しているのであり,その解釈にあたっては,県の保有する情報はあくまでも公開が原則であるとすべきである。非開示部分1の各情報は,何らプライバシー性がなく,プライバシー性があるとしても,当該情報の持つ公的性質がすこぶる強いものであって,本件条例10条2項が保護の対象とする典型的な個人情報と同列におくことはできないものである。 イ被告らが「個人(の財産の状況)に関する情報」として掲げるもののうち,買収単価,補償額積算単価,買収価格,補償価格は,土地所有権という財産権に関する情報であるが,土地所有権は登記簿により公開されており,その価格である相続税路線価,公示価格等も公表されていることからすれば,プライバシー性の極めて希薄な情報である。また,被告らが「個人の財産の状況に関する情報」とする各情報は,個別取引による資産の価格にすぎず,個人の全保有資産が公開されるわけではない。県に対する土地の譲渡ないし公社からの土地の買受けは,私人間の取引とは異なり,公有地の拡大に関する法律や租税特別措置法の規定にもあるとおり,極めて公的な性質を帯びた特殊な売買であるから,私人間の取引についての情報の場合と異なり,プライバシー保護の要請は一歩後退すべきである。上記各情報を非開示としてしまうと,公共事業における用地買収が適正になされたか否かを市民がチェックすることが 私人間の取引についての情報の場合と異なり,プライバシー保護の要請は一歩後退すべきである。上記各情報を非開示としてしまうと,公共事業における用地買収が適正になされたか否かを市民がチェックすることが不可能となることからも,公開の必要性が高い。 ウ契約の相手方を特定しうる情報,すなわち,対象者の住所及び氏名や当該土地の所在地等の情報については,当該事業が行われた場所さえ把握できれば,登記簿等の閲覧により容易に判明しうる。県に対する土地の譲渡ないし公社からの土地の買受けは公的側面が強いから,相手方に関する情報も公開の必要性が高い。 2 争点2について(被告らの主張)本件条例10条3号にいう「競争上又は事業運営上の地位,社会的信用その他正当な利益が損なわれると認められるもの」としては,経営方針,経理,財産,人事等の内部管理に関する情報が代表的なものと解されるところ,非開示部分2に係る情報は,いずれも法人の経理,財産等の内部管理に関する情報であり,本号に該当する。 (原告の主張)本件土地価格等の情報は,上記法人等の資産全部についてではなく,一取引についてのものである上,当該法人等の社会的評価や内部事項に係るものではない。補償額積算単価,買収価格,補償価格といった法人の経理,財産等の内部管理に関する情報については,公有地の拡大の推進に関する法律に規定された公示価格を基準として決められるものであり(同法7条),その余の補償金額等の決定についても,譲渡(取得)価格が基準とされるべきものであるから,これらの取引情報から当該法人等の財産の運用状況や経営状況等の特殊性が推測されるおそれは少ない。 そうすると,本件土地価格等の情報は,これが公開されれば,生産技術上のノウハウ,取引上,金融上,経営上の秘密等が明らかになって,公正な競争の原理を侵害するもの 等の特殊性が推測されるおそれは少ない。 そうすると,本件土地価格等の情報は,これが公開されれば,生産技術上のノウハウ,取引上,金融上,経営上の秘密等が明らかになって,公正な競争の原理を侵害するものではないし,事業を営む者に対する社会的信用の低下となるものでもない。 3 争点3について(被告らの主張)本件条例10条7号にいう「意思形成過程」とは,特定の事務事業における個々の決定手続が終了するまでの過程のほか,当該事務事業が複数の決定手続等を要するものである場合には,当該事案に係る全体としての最終的な意思決定が終了するまでの過程をいうものである。本件非開示部分3,すなわち,不動産鑑定評価書(表題及び題目を除く),宅地価格評定表,宅地価格比準総括表,事例カード,土地調査表,建物等補償報告書等中の非開示部分から本件非開示部分1及び2を除いた部分は,例えば他の買収事例や個別要因比準数値など買収単価や補償金額を決定するための意思形成過程における情報で,これを開示すると,誤った買収単価や補償金額の算定方法等が流布され,無用の混乱を招くおそれがあるので,同号に該当する。 (原告の主張)ア 「意思形成過程」といっても,法令等に基づいて裁量の余地が少ないものやその他一義的に定められるようなものの場合には,その意思形成の過程が開示されたとしても無用の混乱等が生ずるおそれは低いから,同号にいう「意思形成過程」における情報にはあたらないと解するべきである。また,「著しい支障が生ずるおそれ」についても,行政にとって単に抽象的・主観的な「おそれ」があるだけで非開示とするのは,条例の趣旨を没却しかねないので不当であり,そのような支障が生ずる具体的・客観的な蓋然性があることが必要であると解すべきである。 イ単に行政の過程についての情報であれば,その旨断った上で開 するのは,条例の趣旨を没却しかねないので不当であり,そのような支障が生ずる具体的・客観的な蓋然性があることが必要であると解すべきである。 イ単に行政の過程についての情報であれば,その旨断った上で開示し,誤った単価や算定方法に固執する者がいるとしても,その誤解を解くことができれば何ら問題ないはずであって,そのような者が出現するおそれを問題にするのは,行政の説明責任を放棄するに等しく,極めて不当である。被告らのいう「おそれ」は,およそ取るに足らないか,単なる主観的な危惧感にすぎないものであり,同号に規定する支障の生ずる具体的・客観的な蓋然性がないというべきである。 4 争点4について(被告らの主張)ア本件非開示部分は,すべて道路工事を実施又は実施しようとする事業区間に係る用地買収に関する情報であって,本件条例10条8号にいう「交渉」に関する情報である。 イ用地買収事務はあくまでも任意による買収が基本であり,事業を円滑に進めていくためには,土地所有者との交渉を通じて,信頼を得ることが最も重要であり,不可欠な要素である。本件各情報は,いずれも公表しないことを前提として用地交渉が進められており,公表することによって,当該土地所有者に不信不快の念を抱かせ,信頼関係を破壊し,円滑な事務の執行に支障を来すおそれが生じてくることは否定できない。特に道路事業にあっては,買収対象となる地権者も多く,事業期間も長くなることから,同一地権者から複数の土地を複数年にわたって買収するということも少なくなく,また,土地の買収のみならず,工事施工に際しても,同一の地権者が所有する隣接地の借用等の協力を願うことも少なからず生じてくるから,本件各情報の公開により,事務の公正・適正な執行に支障が生じるおそれがある。 ウ当該情報公開の対象となっている取引のような任意買 が所有する隣接地の借用等の協力を願うことも少なからず生じてくるから,本件各情報の公開により,事務の公正・適正な執行に支障が生じるおそれがある。 ウ当該情報公開の対象となっている取引のような任意買収においては,県の要請に基づき,自らの意思で用地買収に応じ,土地を手放すのであるから,土地所有者ができるだけ有利な条件で土地を売却しようとすることは容易に想定され,買受対象地の全部又は一部の土地価格等を公開すると,自己所有地と他の買受対象地との個別の差異を了解,納得せず,自己所有地の価格について自己に有利な主張をし,これに固執することによって,買収交渉の長期化等が予想され,用地買収事務の公正・適正な執行に支障が生じるおそれがある。そして,土地の収用は,土地所有者等の意思に反して強制的に土地の取得を行うものであり,租税特別措置法による税負担の軽減も,任意買収に比して減少するなど土地所有者に係る経済的,精神的負担も重いので,土地収用法の適用が可能であるからといって,将来の同種事務事業に「著しい支障が生じる」おそれがないと断定することはできない。 (原告の主張)ア同号にいう「開示することにより,当該事務事業の目的が損なわれるおそれがあるもの,特定のものに不当な利益若しくは不利益が生ずるおそれがあるもの,関係当事者間の信頼関係若しくは協力関係が損なわれると認められるもの又は当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の公正かつ円滑な執行に著しい支障が生ずるおそれがある」か否かについては,実施機関の主観にかかわらず,当該「著しい支障が生ずる」可能性は極めて高度の蓋然性が客観的に認められることが必要であるというべきである。 イ公共事業に協力して所有地を譲渡したこと自体は,買収が完了すれば事業の進捗等により外形上明らかとなる上,事後登記簿を閲覧すれば公共事 蓋然性が客観的に認められることが必要であるというべきである。 イ公共事業に協力して所有地を譲渡したこと自体は,買収が完了すれば事業の進捗等により外形上明らかとなる上,事後登記簿を閲覧すれば公共事業に協力したことは明確に記載されている。しかも,買収価格は客観的な時価額をもって算定されることから,事業に協力したことが外形上明らかとなれば,地権者が相当の対価を得たこともおのずと判明することになる。このような前提のもとでは,事業に協力したことを秘匿したいという地権者の期待は何ら合理的ではないことは明らかであるし,そのような期待に応えないことから事務事業に著しい支障が生ずるとはおよそいえない。 ウ土地の取得価格は,本来相手方の意図にかかわらず,当該土地の客観的価値によって決定されるものであるし,公共事業における買収は,民間の取引とは異なり公的な性質を有している上,租税特別措置による優遇制度も用意されていることから,買収の事実や買収価格等を秘匿したいという期待を仮に地権者が有しているとしても,そのような期待は保護に値するものではない。取得価格や譲渡価格の算定にあたって,当該土地の個別の要因によって価格の差異が生じることは当然であり,地権者がこのような個別要因の差異を無視して同一の価格条件に固執することがあったとしても,事業の遂行にあたっては土地収用法を適用するなど,別途の方策によって支障は解消しうる。鑑定書については,買収の前提となる文書であり,買収価格が上記のように非開示とする理由がない以上,鑑定書のみを個別に非開示とする理由はない。 エ従前から本件と同種の情報の開示を行っている地方公共団体において,公開により以後の用地買収に支障を来すなどの弊害は生じていないとの報告がなされている。 5 争点(5)(損害賠償請求の成否)(原告の主張) 本件と同種の情報の開示を行っている地方公共団体において,公開により以後の用地買収に支障を来すなどの弊害は生じていないとの報告がなされている。 5 争点(5)(損害賠償請求の成否)(原告の主張)本件で非開示とされた公共事業についての用地取得の金額については,他の自治体の事例で公開を命じる判決が相次いでおり,不動産鑑定書についても近時公開を命じる判決が出ているのであって,被告知事において本件をこれらとことさら別異に取り扱う理由はなく,被告知事の本件処分は違法であり,原告は,これにより,知る権利ないし情報公開請求権を侵害され,慰謝料相当額50万円を下らない精神的苦痛を受けるとともに,その取消しを求めるために本訴を提起せざるを得なくなり,30万円を下らない弁護士費用の出費を余儀なくされた。被告県の知事に上記権利侵害についての故意,少なくとも過失があることは明らかであり,したがって,原告は,被告県に対し,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償として,80万円を請求する。 (被告県の主張)原告の主張を争う。 第5 争点に対する判断 1 争点1(非開示部分1の本件条例10条2号該当性)(1) 前記のとおり,本件条例10条2号本文は,個人に関する情報であって,特定の個人が識別され,識別されうるものを非開示文書として規定している。これは,本件条例が,県民の公文書の開示を求める権利を明定するとともに,県民の県政への参加を促進し,公正で開かれた県民本位の県政を一層推進することを目的とし(1条),また,実施機関の責務として,本件条例の解釈・運用にあたっては,県民の公文書の開示を求める権利を十分に尊重するものとするとしつつ,実施機関においては,個人に関する情報がみだりに公にされることがないよう最大限の配慮をしなければならない(3条)と定めていることの具体的 の公文書の開示を求める権利を十分に尊重するものとするとしつつ,実施機関においては,個人に関する情報がみだりに公にされることがないよう最大限の配慮をしなければならない(3条)と定めていることの具体的な表れであり,公文書であっても,個人情報が記載されているときは,その情報を非開示とすることにより,当該個人が不利益を受けないようにする趣旨のものであると解される。しかしながら,およそ個人に関する情報といえるものを,すべて非開示とすることになれば,上記本件条例の目的を没却してしまうことになるから,本件条例の目的達成のためには,個人情報の非開示については一定の制約があるといわなければならない。上記のとおり,本件条例3条が,個人に関する情報が「みだりに」公にされることのないようとの表現を用いているのも,本件条例10条2号がただし書ウで,個人に関する情報であっても,「法令等の規定による許可,免許,届出等の際に実施機関が作成し,又は取得した情報であって,開示することが公益上必要であると認められるもの」については,非開示にできない旨定めているのも,個人に関する情報であると同時に,公的な性質を有する情報については,個人の権利利益の保護と上記行政情報の公開目的の達成とのバランスを考慮した結果であると考えるべきである。したがって,本件条例10条2号は,個人の権利や利益の観点から保護に値しない個人情報まで,すべて非開示にすべきことを定めているのではなく,法的保護に値する個人に関する情報を開示してはならないことを定めていると見るべきである。したがって,同号の「個人に関する情報」とは,法的保護に値する個人に関する情報をいうものと解するのが相当である。 被告らは,行政機関が保有している情報を原則的に公開することを定めた情報公開法制の下においても,個人に関する情報は原 情報」とは,法的保護に値する個人に関する情報をいうものと解するのが相当である。 被告らは,行政機関が保有している情報を原則的に公開することを定めた情報公開法制の下においても,個人に関する情報は原則として非開示とされていること,個人に関する情報の非開示事由の定め方について,本件条例は意識的に個人識別情報型を選択,採用したことが規定の体裁上明らかであり,その解釈にあたっては,当該情報が個人に関する情報であると認められる以上,プライバシーとして保護に値するか否かを斟酌することなく,これを非開示情報と扱うほかないとの主張は,上記の理由により採用できない。以下,上記の見地から,非開示部分1の本件条例10条2号該当性を検討する。 (2) 契約の対象地が個人の所有の場合における「対象者の住所(大字名以下),及び氏名,印影,住民票並びに印鑑登録証明書についてア対象者の住所及び氏名これらは,いずれも特定の個人が直接識別される情報であるといえ,極めてプライバシー性が高い情報である。しかしながら,本件で問題にされている情報は,既買収地に関するものであるところ,既買収地の対象者の住所及び氏名は,事業の完成により,また不動産登記簿の閲覧などによって容易に明らかとなるものであり,本件条例10条2号ただし書アに該当するものともいえ,現時点では法的保護の必要性があるとはいえない。よって,これらの情報は,同号本文の「個人に関する情報」に該当しないものというべきである。 イ印影及び印鑑登録証明書これらは,いずれも特定の個人が直接識別される情報であるといえるが,契約書等の書面の作成者名下の印影は,各文書が真正に作成された(個人であれば当該個人本人により当該文書が作成された)ことを示すものであること,一般に,印影や印鑑登録証明書は,財産権の得喪変更等の場面におい 等の書面の作成者名下の印影は,各文書が真正に作成された(個人であれば当該個人本人により当該文書が作成された)ことを示すものであること,一般に,印影や印鑑登録証明書は,財産権の得喪変更等の場面において,表意者の意思に基づき法律行為等がなされたことを担保するために用いられるなど,社会生活上重要な役割を果たしていて,印影の悪用による私文書偽造等の犯罪類型が想定されていること,一般に登録印鑑の所持者は,その保管に細心の注意を払うものであり,個人の印影が広く社会に公表される機会はほとんどないことは,いずれも公知の事実である。そうすると,一般に,個人はその使用する印影及び印鑑登録証明書をみだりに公開されないことという期待を持つものであり,その期待は,印影や印鑑登録証明書の社会生活上の役割の重要性からすれば,法的保護に値することは明らかである。契約の対象地の所有者の氏名及び住所が明らかにされていれば,当該土地取得の妥当性を検討することは可能であり,契約書に添付されているこれらの情報をあえて開示する必要性に乏しい上,これらの情報は,同号ただし書のいずれにも該当しない。したがって,印影及び印鑑登録証明書については,本条例10条2号本文の「個人に関する情報」に該当するというべきである。 ウ住民票住民票には,特定の個人が直接識別される情報が記載されており,しかも,当該個人の住所及び氏名のみならず,本籍や家族関係に関する事情等の極めてプライバシー性の高い情報が記載されていること,また,住民票の記載内容は高度の公証的機能を有し,社会生活上重要な役割を果たすものであるが,その閲覧,謄写は制限されていることは公知の事実であり,一般に,個人がこれをみだりに公開されないことという期待を持つものであることが明らかである。本件において,住民票に記載されている当該個人 るが,その閲覧,謄写は制限されていることは公知の事実であり,一般に,個人がこれをみだりに公開されないことという期待を持つものであることが明らかである。本件において,住民票に記載されている当該個人の氏名及び住所が公開されるべきとしても,その余の記載については,みだりに他人に知られたくないと望むことは当然であり,この情報が法的保護に値するものであることは明らかである。契約書に添付された住民票を開示しなくても当該個人からの土地取得の妥当性を検討することは可能であることは,印影や印鑑登録証明書の場合と同様であるから,住民票についても,本条例10条2号本文の「個人に関する情報」に該当するというべきである。 (3) 個人が所有する補償対象物件に関する情報及び対象者の取引金融機関に関する情報等についてア位置図,平面図,丈量図,買収単価,補償額積算単価,買収価格,補償価格,建物の構造並びに工作物の内容等及び登記簿謄本これらは,いずれも個人の財産や所得に関する情報であるが,あくまでもその一部に関するものであって,当該個人の財産や所得の全体を明らかにするものではない。このうち,登記簿謄本は,一般に閲覧が可能なものであるから,本条例10条2号ただし書アに該当するものであることが明らかである。また,位置図,平面図,丈量図(以下「位置図等」という。)は,当該土地取得のため,奈良県が調査等を行って作成したものであると認められるが,取引当事者の主観や個別事情に影響されない客観性の高いものであり,また,買収単価,補償額積算単価,買収価格,補償価格(以下「買収価格等」という。)は,対象となる土地の正常な取引価格又はそれに関連するものであり,位置図等と同様,取引当事者の主観や個別事情を排除した客観的な算定評価に基づくものであることなどからすれば,本件において,こ いう。)は,対象となる土地の正常な取引価格又はそれに関連するものであり,位置図等と同様,取引当事者の主観や個別事情を排除した客観的な算定評価に基づくものであることなどからすれば,本件において,これらはいずれも個人のプライバシーとして保護する必要性の高い情報であるとはいえない。加えて,公共用地の取得及び処分は,私人間の取引とは異なる公的性格を有するものであり,その適正を図る上で位置図等及び買収価格等の公開の必要性は高いことを総合考慮すると,買収価格等は,法的保護に値する個人の利害に関わる情報とはいえないから,これらの情報は,いずれも本件条例10条2号本文の「個人に関する情報」には該当しないというべきである。 イ金融機関名,支店名,預金種別及び口座番号等これらは個人の財産や所得に関する情報であって,一般に,個人についてはこのような情報が公開されることは予定されておらず,当該個人が他人に知られたくないと望むことが当然の情報であるから,法的保護に値するものである。これらの情報は,当該個人が土地を売却した際の売買代金の入金先に関する情報であると認められるところ,県の土地買収が公金支出として適正であったか否かを検討するために特に必要な情報とはいえないし,本件条例10条2号ただし書のいずれにも該当しない。したがって,これらの情報は,同号本文の「個人に関する情報」に該当する。 ウ土地の所在地(小字名以下),地番及び公簿地積及び法務局受付番号これらの情報は,他の情報と結び付けることにより,間接的に特定の個人が識別され得る情報である。これらの情報が記載されている登記簿謄本は,前記のとおり本件条例10条2号ただし書アに該当し,開示されるべきものである。これら土地の所在地(小字名以下)等の情報も不動産登記簿等他の情報と結び付けることにより,何人でも れている登記簿謄本は,前記のとおり本件条例10条2号ただし書アに該当し,開示されるべきものである。これら土地の所在地(小字名以下)等の情報も不動産登記簿等他の情報と結び付けることにより,何人でも知ることができる情報として,本号ただし書アに該当することが明らかである。したがって,これらの情報は,同号本文の「個人に関する情報」には該当しないというべきである。 2 争点2(非開示部分2の本件条例10条3号該当性)について(1) 本件条例10条3号は,法人等及び事業を営む個人(以下ここでは単に「法人」という。)の営業活動の自由を保障するため,法人に関する情報の公開により当該法人に著しい不利益を及ぼすことのないようにとの配慮から非開示事由を定めたものであり,主として法人の営業上の利益の保護を念頭においたもの(甲4の2)と解するのが相当である。したがって,同号にいう「競争上又は事業運営上の地位,社会的信用その他正当な利益が損なわれると認められる」情報(以下「法人の正当な利益が損なわれる情報」という。)とは,生産技術上のノウハウや,取引上,金融上及び経営上の秘密等,公開されることにより公正な競争の原理を侵害するなど,当該法人の営業上の地位に著しい不利益を及ぼすと認められるものを指すものと解すべきである。この見地から,非開示部分2の本件条例10条3号該当性を検討する。 (2) 法人の議事録,金融機関名等,印影及び法人が所有する補償対象物件に関する情報等についてア法人の議事録法人の議事録の記載内容は,法人の経営内容全般にわたる内部情報であって,取引上,金融上及び経営上の秘密等,公開されることにより公正な競争の原理を侵害するなど,当該法人の営業上の地位に著しい不利益を及ぼすと認められる情報が含まれていることが明らかである。当該法人もこれが公開され 金融上及び経営上の秘密等,公開されることにより公正な競争の原理を侵害するなど,当該法人の営業上の地位に著しい不利益を及ぼすと認められる情報が含まれていることが明らかである。当該法人もこれが公開されることを望まないものであって,実際に,例えば,株式会社における取締役会の議事録は,株主でさえ,その閲覧又は謄写を求めることができるのは,その権利行使に必要があるときに限られ,しかも裁判所の許可を要する旨規定されているのであって(商法260条の4第4項),このような法人の内部情報は,一般に公開することが予定されていないものというべきである。さらに,これは同号ただし書のいずれにも該当しないことが明らかである。したがって,法人の議事録は本件条例10条3号の「法人の正当な利益が損なわれる情報」に該当するものというべきである。 イ法人の金融機関名,支店名,預金種別及び口座番号等,対象者の取引金融機関に関する情報これらの情報は,当該事業に関する情報に該当するが,いずれも,事業者の事業活動を行う上での内部管理に属する事項に関する情報としての性質をも有していることが明らかである。したがって,原則として,個々の法人が秘密にしておくことが是認される情報であって,取引金融機関に関する情報はもとより,法人の金融機関名,支店名,預金種別及び口座番号等(以下これらを「口座番号等」という。)についても,本来,法人自らの意思によって,事業活動の過程で取引先など限定された相手方に対してのみ必要な限度で開示されることが予定されているにすぎないものである。特に,本件において非開示とされた口座番号等は,当該法人が土地を売却した際の売買代金の入金先に関する情報であるところ,法人の資産,経理の状況を直接かつ全体的に反映している口座についてのものであり,法人が代金等の決済の便宜のた れた口座番号等は,当該法人が土地を売却した際の売買代金の入金先に関する情報であるところ,法人の資産,経理の状況を直接かつ全体的に反映している口座についてのものであり,法人が代金等の決済の便宜のため,請求書等に記載している振込先口座などのような当該金融機関の口座が自ら多数の顧客に広く知られることを予定している場合とは異なるのが通例である。したがって,本件に限っていえば,法人の口座番号等を公開することにより,不正な目的を有する第三者が,当該金融機関に対し,当該口座の内容についての照会をしたり,個別的な債権回収の手段に使うなどの行為が行われた場合に,法人の社会的信用等に影響が生じる可能性がないとはいえない。これらの情報は,県の土地買収が公金支出として適正であったか否かを検討するために特に必要な情報とはいえないから,情報公開の重要性に鑑みても,当該法人の利益保護を後退させてでも公開しなければならないものではないというべきである。このような本件情報の性質,通常の利用方法,それについての個々の債権者らの通常の認識,それに本件情報の悪用の危険性等を総合すると,このような本件情報を公開すると,法人が地方公共団体と取引をする場合には内部管理情報が一般に公開されることも予想してこれを行わなければならなくなり,その事業活動に不利益を与えることが明らかである。さらに,これは本件条例10条3号ただし書のいずれにも該当しない。 以上のとおりであるから,これらの情報は同号の「法人の正当な利益が損なわれる情報」に該当するというべきである。 ウ印影印影は,契約書等の文書において,当該法人が,作成名義人の商号又は氏名とあいまって,契約を締結した者を特定し,契約の締結権限を証明するためなどに使用するものであって,一般的,抽象的には,法人の事業活動を行う上での内部管理に おいて,当該法人が,作成名義人の商号又は氏名とあいまって,契約を締結した者を特定し,契約の締結権限を証明するためなどに使用するものであって,一般的,抽象的には,法人の事業活動を行う上での内部管理に属する事項に関する情報としての性質を有するものであることが明らかである。本件において,非開示となった法人の印影は,それが押捺された文書が当該法人所有の土地売買契約書等であるから,実印又は金融機関への届出印である可能性は極めて高い。そうすると,これが不当な目的を有する者によって精巧に偽造されれば,金融機関からの預金等不正払戻しのような犯罪行為に結び付く可能性がないとはいえない。このようなことからすれば,上記イと同様に,当該法人の事業運営上の地位,社会的信用その他の正当な利益が損なわれる場合があるというべきである。また,これらの情報は,県の土地買収が公金支出として適正であったか否かを検討するために特に必要な情報とはいえないから,情報公開の重要性に鑑みて,当該法人の利益保護を後退させなければならない場合でもない。さらに,これは本件条例10条3号ただし書のいずれにも該当しない。したがって,本件で非開示とされた法人の印影については,同号の「法人の正当な利益が損なわれる情報」に該当するというべきである。 エ位置図,平面図,丈量図,買収単価,補償額積算単価,買収価格,補償価格,建物の構造及び工作物の内容等これらの情報は,いずれも法人の資産や所得に関する情報といえるが,特定の土地取引に関する情報であって,当該法人の資産や所得の全体を明らかにするものではないことが明らかである。買収等の相手方となっている法人が,例えば株式会社であった場合,資産や期間損益の状況を示す貸借対照表,損益計算書等の計算書類及び附属明細書の作成及び公示が義務づけられており(商法28 が明らかである。買収等の相手方となっている法人が,例えば株式会社であった場合,資産や期間損益の状況を示す貸借対照表,損益計算書等の計算書類及び附属明細書の作成及び公示が義務づけられており(商法281条,282条),附属明細書には固定資産の取得及び処分の明細を記載しなければならないとされている(株式会社の貸借対照表,損益計算書,営業報告書及び附属明細書に関する規則47条1項3号)など,事業用地や代替地に関する土地取引の結果としての資産の取得や損益は,計算書類等の公示によって株主や債権者に開示されるべき情報の一部を構成するものということができる。さらに,前記のとおり,買収価格等は,当該土地の客観的な価格を示すものであり,特に秘密にしなければ法人の営業上の利益が害されるとはいいがたいし,これを公開したからといって法人又は個人の競争上又は事業運営上の地位,社会的信用その他の正当な利益が損なわれるものともいえない。したがって,上記各情報は,本件条例10条3号本文の「法人の正当な利益が損なわれる情報」に該当しないというべきである。 オ土地の所在地(小字名以下),地番及び公簿地積法人については,これらの情報が記載されている土地登記簿謄本が開示されていること,これらの情報がいずれも生産技術上のノウハウや,取引上,金融上,経営上の秘密等,公開されることにより公正な競争の原理を侵害するなど当該法人の営業上の地位に著しい不利益を及ぼすものではないことが明らかである。したがって,これらの情報は,本件条例10条3号の「法人の正当な利益が損なわれる情報」に該当しないというべきである。 3 争点3(非開示部分3の本件条例10条7号該当性)本件条例10条7号は,行政内部の審議,協議,検討,調査研究等に関する情報の中には,行政としての最終的意思決定がなされていな というべきである。 3 争点3(非開示部分3の本件条例10条7号該当性)本件条例10条7号は,行政内部の審議,協議,検討,調査研究等に関する情報の中には,行政としての最終的意思決定がなされていないものもあり,これを開示することにより,県民に誤解や混乱を招いたり,行政機関内部の自由率直な意見交換が妨げられたりするおそれがあったりし,また,最終的な意思決定後も,その過程における情報を開示することにより,将来の同種の事務事業に係る意思形成に著しい支障が生ずるおそれがあるので,そのような県又は国等の事務事業に係る意思形成に著しい支障が生ずるおそれのある情報について,公開しないことができるとしたもの(甲4の3)と解するのが相当である。しかし,本件条例1条に規定する本件条例の目的とする「県政に対する県民の理解と信頼を深め,県民の県政への参加を促進し,もって公正で開かれた県民本位の県政を一層推進する」ことを実現させるためには,行政の意思形成過程についても情報が開示されることが必要である。それは,情報を開示することにより,行政が最終的意思決定のみならずその意思の形成過程においても適正であるか否かが検証しうるものといえるからである。 したがって,「当該事務事業又は将来の同種の事務事業に係る意思形成に著しい支障が生ずるおそれ」(以下「意思形成に著しい支障が生ずるおそれ」という。)に該当するかどうかについては,行政にとって単に抽象的・主観的な可能性があるだけでは足りず,そのような支障が生ずる具体的・客観的な蓋然性があることを要するものと解すべきところ,非開示部分3については,いずれも意思形成に著しい支障が生ずることについての具体的・客観的な蓋然性があると認めるに足りる証拠はないから,これに該当しないというべきである。 被告らは,非開示部分3の各情報は他の については,いずれも意思形成に著しい支障が生ずることについての具体的・客観的な蓋然性があると認めるに足りる証拠はないから,これに該当しないというべきである。 被告らは,非開示部分3の各情報は他の買収事例や個別要因比準数値など買収単価や補償価格を決定するための意思形成過程における情報であるから,これらを開示すると,誤った買収単価や補償価格の算定方法等が流布され,無用の混乱を招くおそれがある旨主張する。しかしながら,本件のような土地取得は,客観的な資料に基づき,所定の手続を践んで行われるものであるから,意思決定過程においても,裁量の余地が少ないものというべきであり,その意思形成の過程が開示されたとしても,行政の意思決定過程自体に混乱が生ずるものとはいいがたい。結局,被告らが主張する「おそれ」については,主観的な危惧感にすぎないものであるから,被告らの上記主張は理由がない。 4 争点4(各非開示部分の本件条例10条8号該当性)について(1) 本件処分のように,複数の非開示事由に該当することを理由に当該公文書の非開示決定がなされた場合,少なくとも非開示事由とされたもののうち1つに該当することが認められ,その事由に基づいて当該公文書の非開示決定をすることが是認される場合には,その余の非開示事由に該当するのか否かについて判断するまでもなく,当該非開示決定は適法というべきである。そうして,本件非開示部分1ないし3のうち,(ア)契約の対象地が個人の所有の場合における対象者の住所及び氏名,(イ)個人が所有する補償対象物件に関する情報のうち位置図等,土地の所在地,地番,公簿地積及び法務局受付番号,(ウ)法人の資産や所得に関する情報のうち,位置図,平面図,丈量図,買収単価,補償額積算単価,買収価格,補償価格,建物の構造及び工作物の内容等並びに土地の所在地 地,地番,公簿地積及び法務局受付番号,(ウ)法人の資産や所得に関する情報のうち,位置図,平面図,丈量図,買収単価,補償額積算単価,買収価格,補償価格,建物の構造及び工作物の内容等並びに土地の所在地,地番及び公簿地積,(エ)非開示部分3の各情報が,本件条例10条2号,3号及び7号のいずれにも該当しないことは,先に判断したとおりであるから,以下において,上記(ア)ないし(エ)の情報について,本件条例10条8号に該当するかどうかを検討することになる。 (2) ところで,本件条例10条8号が非開示事由として,「開示することにより,当該事務事業の目的が損なわれるおそれがあるもの,特定のものに不当な利益若しくは不利益が生ずるおそれがあるもの,関係当事者間の信頼関係若しくは協力関係が損なわれると認められるもの又は当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の公正かつ円滑な執行に著しい支障が生ずるおそれがあるもの」(以下これらの情報を「著しい支障が生ずるおそれのある情報」という。)を規定しているのは,県の機関等の担当する行政事務や事業が円滑に遂行,推進されることを期するためであると解されるところ,前記の本件条例の趣旨・目的に照らすと,上記「著しい支障を及ぼすおそれのある情報」の存否については,事務,事業の主体である行政機関が自らの立場で主観的に判断したところに従うべきではなく,これが客観的,具体的に存在していることが必要であると解するのが相当である。そこで,この見地から,上記(ア)ないし(エ)の各情報に関して,実施機関である被告知事が,これを公開したときに著しい支障が生ずるおそれがあるとした判断が,客観的かつ具体的な裏付けがあるものとして,是認できるかどうか検討すべきことになる。 (3) 実施機関である被告知事は,(a) 用地買収を継続している事業の既買 支障が生ずるおそれがあるとした判断が,客観的かつ具体的な裏付けがあるものとして,是認できるかどうか検討すべきことになる。 (3) 実施機関である被告知事は,(a) 用地買収を継続している事業の既買収地や隣接又は近隣の代替地についての上記(ア)ないし(エ)の各情報(特に買収価格等)が公開されると,未買収地の所有者が自己所有地について公開された買収価格等と同程度以上の評価が得られると期待し,固執して,買収交渉が難航すること,及び(b)用地買収事務担当者と対象地の所有者との間では,合意に至った買収価格等を秘密することを前提に交渉が行われており,この約束を一方的に破棄することにより,信頼関係が損なわれて,その後の事業に協力を得られず,事業に支障を来すおそれがあることから,上記各情報が著しい支障を及ぼすおそれのある情報に該当すると主張する。 アそこでまず,(a)の主張について検討する。 証拠(乙11,12,証人A,同B)及び弁論の全趣旨によれば,用地買収の交渉にあたっては,対象地の所有者が土地の買収,場合によっては交渉自体にも抵抗し,また,買収価格について近隣の取引事例などを引き合いに出してより有利な条件を要求することも多く,このような場合,買収事務担当者は,提示する買収価格が客観的な評価に基づく適正な取引価格であることをわかりやすく説明し,対象地の所有者が援用する取引事例と当該土地との個別的要因の違いを指摘するなどして,対象地の所有者の同意を取り付けるよう根気強く交渉しなければならず,用地買収に困難を伴うことが認められる。 しかしながら,翻って考えてみると,公共事業における土地の取得価格は,所定の手続を経て決定された適正なものでなければならず,未買収地の対象地の所有者との交渉においても,先に説示したとおり交渉によって変動する価格幅は極めて限 てみると,公共事業における土地の取得価格は,所定の手続を経て決定された適正なものでなければならず,未買収地の対象地の所有者との交渉においても,先に説示したとおり交渉によって変動する価格幅は極めて限定されているものであることからすると,土地買収交渉の困難さは買収価格等が公開されることによって初めて生じるものではなく,用地買収事務の性質上必然的に生じるものというべきである。本件全証拠によるも,これらの情報の公開によって,用地買収交渉が,より一層困難になると認めることはできない。むしろ,証拠(甲8の1ないし4)によれば,事業用地や代替地の買収金額などについて開示している他の地方公共団体において,公開以後の用地買収に支障を来すなどの弊害は生じていないことが認められる。また,用地買収事務の実態や買収価格などの情報が公開されていないために,用地買収が客観的な評価に基づく取引価格の範囲内で行われるもので,個人的事情や交渉態度等による買収価格の変動を許さない性質のものであることが一般に認識されず,そのためにかえって用地買収業務が困難になっているところも否定できないと考えられる。その意味では,買収価格等の情報が公開され,用地買収事務について一般の理解が深まることが,将来の用地買収事務の円滑化に資する面があるということができる。そもそも,事業用地の買収は,当該土地について客観的な取引価格を評価した上で,その価格の範囲内で行われるものであるから,当事者の主観的な希望は排除されているし,将来の未買収地の買収にあたっても,同様に,その時点での当該土地の客観的な取引価格の評価に基づいて行われるはずのものである。また,土地の価格は,交通,環境,画地等の諸条件を考慮して決定されるものであって,近隣の土地であっても,これらの諸条件の違いによって評価に差異が生じるし, の評価に基づいて行われるはずのものである。また,土地の価格は,交通,環境,画地等の諸条件を考慮して決定されるものであって,近隣の土地であっても,これらの諸条件の違いによって評価に差異が生じるし,同一の土地であっても,取引時点が異なれば,その間の地価水準の変動等により価格に差異を生じることになるは当然といえる。 これらの点に鑑みれば,本件のように,一定の時点(本件文書は,平成12年度の先行取得に関する文書である。)における買収価格等の情報が公開されたとしても,これらの土地の近隣の土地につき将来買収が行われる際には,その時点での前記のような客観的な取引価格の評価が行われるのであり,公開された情報が買収対象土地の評価の参考となるものでもなく,買収価格等を容易に推測させるものともいえない。また,買収対象土地の所有者が,土地の個別要因の違いや評価時点の違いを無視して,公開された近隣土地の買収価格等と同一条件の価格に固執することがあったとしても,そもそも既買収地の価格が適正である限り,それは必ずしも実効性のあるものとはいいがたく,実際の買収価格に影響を与えるものでもない。したがって,買収価格等の開示によって,将来の用地買収交渉の事務に著しい支障を及ぼすおそれがあると認めることはできない。 イ次に,(b)の主張について検討する。 用地買収は,通常の売買形式を取るにしても,客観的な価格をもって譲渡価格とすることが定められ,租税特別措置の優遇が受けられることなど,私人間の取引とは異なり,公的性格を有する上,地権者としても,その公的性格を当然認識していて,譲渡価格について将来にわたって全く公開されないことを期待しているものとは考えられない。仮に,地権者が買収価格等が公開されないことを期待しているとしても,すでに説示したとおり,買収価格等が個人識別情報や 価格について将来にわたって全く公開されないことを期待しているものとは考えられない。仮に,地権者が買収価格等が公開されないことを期待しているとしても,すでに説示したとおり,買収価格等が個人識別情報や法人に関する情報として本件条例10条2号,3号の非開示事由に該当するとはいえないのであるから,そのような期待は法的保護に値するものとはいえない。したがって,現在,対象地の地権者との間で,買収価格等に関する情報を秘することを前提として買収交渉が行われているとしても,そのことを理由として,買収価格等及び評価答申額等の公開が,買収交渉事務に著しい支障を及ぼすおそれがあると認めることはできない。 (4) 以上のとおりであるから,上記(ア)ないし(エ)の各情報が,著しい支障を及ぼすおそれのある情報であることについての,客観的,具体的な裏付けとなる事実が存在するものとは認められないから,これらの情報は,いずれも本件条例10条8号にも該当しないというべきである。 5 争点(5)(損害賠償請求の成否)(1) 以上によれば,被告知事による本件処分のうち,別紙取消部分目録記載の各部分については,いずれも本件条例10条各号に定める非開示事由に該当するものとは認められず,これらの部分を非開示とした被告知事の処分は違法であるから,上記各部分につき,取り消されるべきである。 (2) しかし,証拠(甲5ないし7,9,10,乙1,2,10)によれば,上記各部分の非開示事由該当性に関しては,解釈上の争いがあるところであり,同種の情報公開条例を有する地方公共団体における同種の情報開示請求についても,公開するという取扱いが一般に確立しているわけではなく,現に,実務の取扱いも,事案によって分かれていることが認められる。したがって,被告県の知事が本件条例の実施機関として,別紙取消部分 についても,公開するという取扱いが一般に確立しているわけではなく,現に,実務の取扱いも,事案によって分かれていることが認められる。したがって,被告県の知事が本件条例の実施機関として,別紙取消部分目録記載の各部分が,本件条例の定める非開示事由に該当すると判断して,本件処分を行ったことについて,故意又は過失があったと認めることはできない。 (3) よって,原告の被告県に対する損害賠償請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。 第6 結論以上によれば,原告の被告知事に対する請求は,本件処分のうち,別紙取消部分を非開示とした部分の取消しを求める限度で理由があるから認容し,その余の部分は理由がないから棄却し,原告の被告県に対する請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 奈良地方裁判所第2民事部裁判長裁判官宮城雅之裁判官島川勝裁判官谷口真紀(別紙)開示請求文書目録平成12年度の用地先行取得に係る 1 県土地開発公社との契約書 2 依頼文 3 土地鑑定書 4 対象地の地権者との土地売買契約書等関係書類非開示部分目録 1 契約の対象地が個人の所有の場合における対象者の住所(大字名以下)及び氏名,印影,住民票,印鑑登録証明書,土地の所在地(小字名以下),地番及び公簿地積,登記簿謄本,法務局受付番号,金融機関名,支店名,預金種別及び口座番号等,対象者の取引金融機関に関する情報,位置図,平面図,丈量図,買収単価,補償額積算単価,買収価格,補償価格,建物の構造並びに工作物の内容等,個人が所有する補償対象物件に関する情報等 2 契約の対象地が法人の所有の場合における土地の所在地(小字名以下),地番及び公簿地積,法人の議事録,金融機関名,支店名,預金種別及び口座番号等,対象者の取引金融機関に関する情報,位置図 る情報等 2 契約の対象地が法人の所有の場合における土地の所在地(小字名以下),地番及び公簿地積,法人の議事録,金融機関名,支店名,預金種別及び口座番号等,対象者の取引金融機関に関する情報,位置図,平面図,丈量図,買収単価,補償額積算単価,買収価格,補償価格,建物の構造並びに工作物の内容等,法人が所有する補償対象物件に関する情報等 3 不動産鑑定評価書(表題及び題目を除く),宅地価格評定表,宅地価格比準総括表,事例カード,土地調査表,建物等補償報告書等取消部分目録 1 契約の対象地が個人の所有の場合における対象者の住所(大字名以下)及び氏名土地の所在地(小字名以下),地番及び公簿地積,登記簿謄本,法務局受付番号位置図,平面図,丈量図,買収単価,補償額積算単価,買収価格,補償価格,建物の構造並びに工作物の内容等,個人が所有する補償対象物件に関する情報等 2 契約の対象地が法人の所有の場合における土地の所在地(小字名以下),地番及び公簿地積位置図,平面図,丈量図,買収単価,補償額積算単価,買収価格,補償価格,建物の構造並びに工作物の内容等,法人が所有する補償対象物件に関する情報等 3 不動産鑑定評価書(表題及び題目を除く),宅地価格評定表,宅地価格比準総括表,事例カード,土地調査表,建物等補償報告書等

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