平成17(行ウ)68等 個人タクシー値下げ請求却下処分取消請求事件(甲事件),一般乗用旅客自動車運送事業運賃及び料金認可申請却下処分取消等請求事件(乙事件)

裁判年月日・裁判所
平成21年9月25日 大阪地方裁判所 公物・公企業など
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判決文本文45,116 文字)

主文 近畿運輸局長が平成20年2月27日付けで原告に対してした一般乗用旅客自動車運送事業に係る旅客の運賃及び料金の変更認可申請を却下する旨の処分(平成20年近運自二第1068号)を取り消す。 近畿運輸局長は,原告に対し,別紙第1記載のとおり一般乗用旅客自動車運送事業に係る旅客の運賃及び料金を変更することを認可する旨の処分をせよ。 被告は,原告に対し,20万円及びこれに対する平成20年4月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 原告のその余の請求を棄却する。 訴訟費用はこれを3分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。 事実 及び理由第1請求 主文1項及び2項同旨 被告は,原告に対し,500万円及びこれに対する平成20年4月17日(乙事件に係る訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,大阪市及びその周辺で個人タクシー事業を営む原告が,近畿運輸局長に対し,初乗運賃を480円に値下げすることなどを内容とするタクシー事業に係る旅客の運賃及び料金の変更認可申請をしたが,同局長から他の事業者との間の不当な競争を引き起こすおそれについて規定した道路運送法9条の3第2項3号の基準に適合しないとして同申請を却下する旨の処分を受けたため, 同却下処分の取消しとともに,上記申請に応じた運賃等の変更認可処分の義務付けを求めた事案(甲事件)につき,当裁判所が,平成19年3月14日,行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)37条の3第6項前段に基づき,上記却下処分の取消しを求める訴えについてのみ認容する終局判決をしたところ,同局長が,平成20年2月27日,原告に対し,再度,同申請を却下する旨の処分を行ったことから,原告が,同却下処分 に基づき,上記却下処分の取消しを求める訴えについてのみ認容する終局判決をしたところ,同局長が,平成20年2月27日,原告に対し,再度,同申請を却下する旨の処分を行ったことから,原告が,同却下処分の取消しを求めるとともに,国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項に基づき,被告に対し慰謝料として500万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めて,行訴法19条に基づき,甲事件の義務付けの訴えに追加的に併合提起した事案(乙事件)である。 道路運送法の定め(1) 道路運送法2条3項は,「旅客自動車運送事業」とは,他人の需要に応じ,有償で,自動車を使用して旅客を運送する事業をいう,と規定し,同法3条は,旅客自動車運送事業の種類は,①一般旅客自動車運送事業(特定旅客自動車運送事業以外の旅客自動車運送事業),②特定旅客自動車運送事業(特定の者の需要に応じ,一定の範囲の旅客を運送する旅客自動車運送事業)とし,一般旅客自動車運送事業(上記①)の種類は,イ一般乗合旅客自動車運送事業(乗合旅客を運送する一般旅客自動車運送事業),ロ一般貸切旅客自動車運送事業(一個の契約により国土交通省令で定める乗車定員以上の自動車を貸し切つて旅客を運送する一般旅客自動車運送事業),ハ一般乗用旅客自動車運送事業(一個の契約によりロの国土交通省令で定める乗車定員未満の自動車を貸し切つて旅客を運送する一般旅客自動車運送事業)とする,と規定している。 なお,タクシー業務適正化特別措置法2条は,上記ハの一般乗用旅客自動車運送事業を経営する者がその事業の用に供する自動車のうち,当該自動車による運送の引受けが営業所のみにおいて行われるものを「ハイヤー」,それ以外の自動車を「タクシー」とそれぞれ定義し,タクシーを使用して行う 一般乗用旅客自動車運送事業を「タクシー事業」,タクシ 車による運送の引受けが営業所のみにおいて行われるものを「ハイヤー」,それ以外の自動車を「タクシー」とそれぞれ定義し,タクシーを使用して行う 一般乗用旅客自動車運送事業を「タクシー事業」,タクシー事業を経営する者を「タクシー事業者」とそれぞれ定義している。また,タクシー業務適正化特別措置法施行規則29条1項2号は,当該許可を受ける個人のみが自動車を運転することにより当該事業を行うべき旨の条件の附された一般乗用旅客自動車運送事業の許可を受けた者を「個人タクシー事業者」としている(以下,用語については上記の各定義に従う。)。 (2) 道路運送法9条の3第1項は,一般乗用旅客自動車運送事業者(一般旅客自動車運送事業を経営する者をいう。同法8条4項)は,旅客の運賃及び料金(旅客の利益に及ぼす影響が比較的小さいものとして国土交通省令で定める料金を除く。以下,単に「運賃等」ということがある。)を定め,国土交通大臣の認可を受けなければならない,これを変更しようとするときも同様とする,と規定している。同法9条の3第2項は,国土交通大臣は,上記の認可をしようとするときは,①能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないものであること(1号),②特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをするものでないこと(2号),③他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること(3号),④運賃及び料金が対距離制による場合であって,国土交通大臣がその算定の基礎となる距離を定めたときは,これによるものであること(4号),という基準によって,これをしなければならない,と規定している。 なお,第171回国会において可決成立した,特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適性化及び活性化に関する特別措置法の附則 号),という基準によって,これをしなければならない,と規定している。 なお,第171回国会において可決成立した,特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適性化及び活性化に関する特別措置法の附則において,道路運送法9条の3第2項1号の規定の適用については,当分の間,「加えたものを超えないもの」とあるのは,「加えたもの」とすることとされた(ただし,上記特別措置法はまだ施行されていない。)。 前提となる事実等(当事者間に争いのない事実及び証拠等により容易に認め られる事実等。以下,書証番号は特に断らない限り枝番を含むものとする。)(1) 当事者等(甲1から3まで,弁論の全趣旨)ア原告は,国土交通大臣からその権限の委任を受けた近畿運輸局長から,平成13年3月28日付けで,事業区域を大阪市,豊中市,吹田市,守口市,門真市,東大阪市,八尾市,堺市及び大阪国際空港(池田市のうち空港地域に限る。),使用する事業用自動車を1両などとして,一般乗用旅客自動車運送事業の許可を受け,同年4月20日から,同許可に係るタクシー事業(以下「本件タクシー事業」という。)を営んでいる個人タクシー事業者である。 原告が本件タクシー事業において使用する事業用車両は,運賃等の適用上,小型車(道路運送車両法施行規則2条に定める小型自動車のうち自動車の長さが4.6m未満で乗車定員5名以下のもの)に区分され,燃料の種類はガソリン(ハイブリッド車)である。 イ近畿運輸局長は,道路運送法88条2項,同法施行令1条2項に基づき国土交通大臣から近畿地区におけるタクシー事業の運賃及び料金を認可する権限の委任を受けた,被告に所属する行政庁である。 (2) 運賃等の下限規制の緩和(甲15から17まで,顕著な事実)道路運送法及びタクシー業務適正化臨時措置法の一部を改正する法律(平 料金を認可する権限の委任を受けた,被告に所属する行政庁である。 (2) 運賃等の下限規制の緩和(甲15から17まで,顕著な事実)道路運送法及びタクシー業務適正化臨時措置法の一部を改正する法律(平成12年法律第86号)は,第147回国会衆議院運輸委員会及び同参議院交通・情報通信委員会における審議を経て,平成12年5月26日,同国会で可決成立し,平成12年政令第532号により平成14年2月1日に施行された(以下,この道路運送法の改正を「平成12年改正」という。)。 平成12年改正前の道路運送法(以下「旧道路運送法」という。)9条2項は,一般乗用旅客自動車運送事業を含む一般乗合旅客自動車運送事業等の運賃変更の認可基準として,「能率的な経営の下における適正な原価を償い,かつ,適正な利潤を含むものであること」(1号)を掲げることにより,運 賃等の下限を規制していたが,平成12年改正によりこの下限規制は撤廃され(平成12年改正後の道路運送法9条の3第2項1号の「能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないものであること」という基準は,運賃等の上限規制である。),一般乗用旅客自動車運送事業の運賃等の下限規制としては,道路運送法9条の3第2項3号の「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること」を残すのみとなった。 (3) 本件事案の経緯(甲3から7まで,22,顕著な事実)ア原告は,平成14年11月26日,近畿運輸局長に対し,本件タクシー事業に係る旅客の運賃及び料金の変更認可申請をした。そして,原告は,平成15年10月1日,上記申請の内容を別紙第1記載のとおりに変更した(以下,これにより変更された後の本件タクシー事業に係る旅客の運賃及び料金の変更認可申請を「本件申請」とい した。そして,原告は,平成15年10月1日,上記申請の内容を別紙第1記載のとおりに変更した(以下,これにより変更された後の本件タクシー事業に係る旅客の運賃及び料金の変更認可申請を「本件申請」という。)。 イ近畿運輸局長は,平成16年2月13日付けで,原告に対し,書面で,本件申請を却下する旨の処分(平成16年近運自二第1077号。以下「本件却下処分」という。)をした。 ウ原告は,本件却下処分を不服として,平成16年4月12日,国土交通大臣に対し,本件却下処分の取消しを求めて審査請求をした。国土交通大臣は,平成17年1月24日付けで,原告に対し,道路運送法9条の3第2項3号の基準に適合しないとして本件申請を却下した近畿運輸局長の判断に誤りはないとして,上記審査請求を棄却する旨の裁決をした。 エ原告は,平成17年4月22日,当裁判所に対し,本件却下処分の取消し及び近畿運輸局長に対し本件申請に応じた運賃及び料金の変更認可処分をすべき旨を命ずることを求めて,本件訴え(甲事件)を提起した。 オ当裁判所は,平成19年3月14日,行訴法37条の3第6項前段に基づき,本件却下処分の取消しを求める請求についてのみ認容する終局判決 (以下「前判決」という。)をした。被告は,前判決について控訴せず,前判決は控訴期間の経過により確定した。 カ近畿運輸局長は,平成20年2月27日,再度,本件申請に係る運賃等の変更は道路運送法9条の3第2項3号にいう「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること」の基準に適合しないとして,本件申請を却下する旨の処分(平成20年近運自二第1068号。以下「本件再却下処分」という。)をした。 本件再却下処分の理由は,別紙第2記載のとおりである。 キ原告は,平成20年4月9日, いとして,本件申請を却下する旨の処分(平成20年近運自二第1068号。以下「本件再却下処分」という。)をした。 本件再却下処分の理由は,別紙第2記載のとおりである。 キ原告は,平成20年4月9日,当裁判所に対し,本件再却下処分の取消し及び国賠法に基づく損害賠償を求める訴え(乙事件)を,甲事件の義務付けの訴えに追加的に併合提起した。 (4) 近畿運輸局長における道路運送法9条の3第2項の審査基準(甲10,乙4,5,弁論の全趣旨)ア近畿運輸局長は,平成14年1月18日付けで,道路運送法9条の3第2項に基づく審査基準として,「一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金の認可申請の審査基準について」(平成14年近運旅二公示第11号。 以下「審査基準公示」という。)を公示した。本件再却下処分当時の審査基準公示の内容は,別紙第3記載のとおりである。審査基準公示では,道路運送法施行規則10条の3第3項により運賃等の認可申請に当たって原価計算書等の添付の必要がないと認める場合として設定された自動認可運賃に該当する運賃等の認可申請については速やかに処理を行うものとし,これに該当しない申請の認可に当たっては個別に審査することとしている。 なお,本件却下処分後の平成16年10月1日改正により,審査基準公示別紙4の第4の4として,「個人タクシー事業者に係る運賃認可の取扱いについて」の項目が追加された。その内容は,「個人タクシー事業者が,自動認可運賃を下回る運賃を設定しようとする場合であって,既存の法人 タクシー事業者において認可されていない運賃を設定しようとするときは,当該個人タクシー事業者の申請に係る原価の算定に当たっては,当該申請に係る運賃適用地域における原価計算対象事業者の標準人件費の9割に相当する額を所要の人件費として計上するものとする。」というも は,当該個人タクシー事業者の申請に係る原価の算定に当たっては,当該申請に係る運賃適用地域における原価計算対象事業者の標準人件費の9割に相当する額を所要の人件費として計上するものとする。」というものである。 イ近畿運輸局長は,平成14年1月18日付けで,審査基準公示に基づき,「一般乗用旅客自動車運送事業の自動認可運賃について」(平成14年近運旅二公示第12号。以下「自動認可運賃公示」という。)を公示した。 自動認可運賃公示の大阪地区の運賃・料金の定めによれば,大型車・中型車・小型車別の初乗運賃(2.0㎞),加算運賃及び時間距離併用制運賃は,それぞれ次のとおりである。 ①大型車上限運賃680円235m80円1分25秒80円下限運賃610円264m80円1分35秒80円②中型車上限運賃660円273m80円1分40秒80円下限運賃590円306m80円1分50秒80円②小型車上限運賃640円305m80円1分50秒80円下限運賃570円345m80円2分5秒80円(5) 前判決の示した判断基準等ア道路運送法9条の3第2項3号にいう「不当な競争を引き起こすこととなるおそれ」の意義(前判決57頁19行目から58頁7行目までを抜粋)「(現行)道路運送法9条の3第2項3号にいう「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれ」とは,他の一般旅客自動車運送事業者との間において過労運転の常態化等により輸送 の安全の確保を損なうことになるような旅客の運賃及び料金の不当な値下げ競争を引き起こす具体的なおそれをいうものと解するのが相当であり,そのようなおそれのある運賃等に該当するか否かについては,当該運賃等が能率的な経営の下における適正な原価,すなわち,個々の一般乗用旅 げ競争を引き起こす具体的なおそれをいうものと解するのが相当であり,そのようなおそれのある運賃等に該当するか否かについては,当該運賃等が能率的な経営の下における適正な原価,すなわち,個々の一般乗用旅客自動車運送事業者がその事業を運営するのに十分な能率を発揮して合理的な経営をしている場合において必要とされる原価を下回るものであるか否かという観点のほか,当該事業者の市場の中での位置付け,当該運賃等を設定した意図等を総合的に勘案して判断すべきであるところ,このような判断は,専門的,技術的な知識経験及び公益上の判断を必要とするものであるから,同号の基準に適合するか否かの判断については,国土交通大臣及びその権限の委任を受けた地方運輸局長にある程度の裁量権が認められるものと解される。」イ審査基準公示の定める運賃査定によっては平年度における収支率が100%に満たない運賃等の設定等が道路運送法9条の3第2項3号の基準に適合するか否かの判断基準(前判決69頁10行目から70頁11行目まで,80頁5行目から同頁19行目までを抜粋)「以上説示したところからすれば,このような運賃等(注:審査基準公示の定める運賃査定によっては収支率が100%に満たない運賃等)の申請が同項3号にいう「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること」の基準に適合するか否かについては,当該申請に係る運賃等の額の運賃査定額からのかい離の程度,当該申請に係る運賃等が当該申請者がその事業を運営するのに十分な能率を発揮して合理的な経営をしている場合において必要とされる原価(能率的な経営の下における適正な原価)を下回るものであるか否か,下回るものであるとすればその程度(上記の意味における適正な原価を著しく下回るものである場合には,当該申 場合において必要とされる原価(能率的な経営の下における適正な原価)を下回るものであるか否か,下回るものであるとすればその程度(上記の意味における適正な原価を著しく下回るものである場合には,当該申請者について不当な競争により他の 一般旅客自動車運送事業者を排除する意図,すなわち,いわゆるダンピングの意図の存在が推認される場合もあろう。),当該申請に係る当該申請者の運転者1人当たり平均給与月額(添付書類に基づくもの)と標準人件費(原価計算対象事業者の運転者1人当たりの平均給与月額の平均の額)とのかい離の程度に加えて,当該運賃適用地域の立地条件,規模(都市部か地方部か,人口密集地域か否か,当該地域における他の公共交通機関の事業展開の内容,態様等),当該運賃適用地域における市場の構造,特性等(タクシー事業者の構成(大規模法人による寡占状態か中小規模の事業者を中心とする構造か等),タクシー事業の営業形態(流し営業が中心か車庫待ち営業が中心か等),利用者の利用の実態(近距離利用か遠距離利用か,配車利用か否か等),当該地域において設定されている運賃及び料金の内容,態様等),当該申請者の種別(いわゆる法人タクシーか個人タクシーか等),企業規模,営業形態,運転者の賃金構造等,当該地域における需給事情(供給過剰地域か否か,供給過剰の程度等),運転者の賃金水準,さらには一般的な経済情勢等を総合勘案した上,当該申請を認可することにより他の一般旅客自動車運送事業者との間において過労運転の常態化等により輸送の安全の確保を損なうことになるような旅客の運賃及び料金の不当な値下げ競争を引き起こす具体的なおそれがあるか否かを社会通念に従って判断すべきである。」「本件認可申請に係る運賃の設定が上記の具体的なおそれがあると認められるか否かについては,以上説示した諸 不当な値下げ競争を引き起こす具体的なおそれがあるか否かを社会通念に従って判断すべきである。」「本件認可申請に係る運賃の設定が上記の具体的なおそれがあると認められるか否かについては,以上説示した諸事情のほか,原告の営業区域である大阪府域におけるタクシー事業者の構成(個人タクシー事業者の車両数に占める割合及び売上高に占める割合等),法人タクシー事業者及び個人タクシー事業者の各営業形態,利用者の利用の実態,運賃及び料金の内容,態様等に加えて,距離制運賃の初乗運賃を500円とする運賃ないし5000円を超える金額について5割引の遠距離割引運賃とする運賃といった低額運賃の認可を受けた事業者のそ の後の営業実績の推移,売上高に占める割合,利用者の利用状況,当該運賃の設定に対する他の事業者の対応,追随状況など当該認可が当該区域の市場に及ぼした影響の内容,態様,程度等をも総合勘案した上,本件認可申請を認可することにより他の一般旅客自動車運送事業者との間において過労運転の常態化等により輸送の安全の確保を損なうことになるような旅客の運賃及び料金の不当な値下げ競争を引き起こす具体的なおそれがあるか否かを社会通念に従って判断すべきである。」第3主たる争点本件の主たる争点は,①本件再却下処分の違法性,②本件申請の認可を義務付けることの可否,③国家賠償請求の可否,であり,争点に関する当事者の主張の概要は,次のとおりである。 本件再却下処分の違法性(争点①)について(被告の主張)(1) 総論本件再却下処分は,前判決の示した判断基準にのっとって,(A)当該運賃等が能率的な経営の下における適正な原価を下回るものであるか否かという観点のほか,(B)当該事業者の市場の中での位置付け,(C)当該運賃等を設定した意図等を総合的に勘案し,本件申請に係る運賃等は 賃等が能率的な経営の下における適正な原価を下回るものであるか否かという観点のほか,(B)当該事業者の市場の中での位置付け,(C)当該運賃等を設定した意図等を総合的に勘案し,本件申請に係る運賃等は他の一般旅客自動車運送事業者との間において過労運転の常態化等により輸送の安全を損なうことになるような旅客の運賃及び料金の不当な値下げ競争を引き起こす具体的なおそれがあると判断して行ったものである。 (2) 本件申請に係る運賃等が能率的な経営の下における適正な原価を下回るものであるか否かについて(A)ア①本件申請に係る運賃等の額は,平年度の収支率が82.37%で,運賃査定額を18%弱も下回る低額のものであり,本件再却下処分時ころのガソリンの実勢価格は本件申請時の査定数値と比べて64.0%も高くな っており,これをもとに査定すると収支率は78.95%となること(なお,他のタクシー事業者が一般に使用する自動車用LPガスの価格についてみても,平成14年度の平均価格と比べて44.4%も高くなっている。),②本件申請に係る運賃等に値下げした場合,値下げ前の収入を維持するには走行距離及び労働時間を増やす必要が生じ,これを安定的に継続するには相当な無理が強いられることとなり,実際上かなり困難であること,③審査基準公示において,個人タクシー事業者の人件費と標準人件費とのかい離の程度は10%を限度としているところ,本件申請における原告の人件費月額(16万円)と標準人件費を10%下回る額(27万0899円)とのかい離の程度は約40%もある上,平成16年度の大阪府内のタクシー運転者の月額平均賃金(25万6650円)と比較しても相当低額であること,④大阪府内のタクシー運転者の月額平均賃金は,全産業男性平均の3分の2程度である上,低下率も高い(10年間で28. 内のタクシー運転者の月額平均賃金(25万6650円)と比較しても相当低額であること,④大阪府内のタクシー運転者の月額平均賃金は,全産業男性平均の3分の2程度である上,低下率も高い(10年間で28.4%)こと,⑤初乗運賃を500円とする運賃(以下「ワンコイン運賃」といい,これに遠距離割引5000円超5割引を併用する運賃を「最低額運賃」という。)や自動認可運賃より低額の運賃(以下「下限割れ運賃」という。)の設定でさえ,まだまだ事業として継続的に成立し得る状況にないことからすれば,本件申請に係る運賃等が能率的な経営の下における適正な原価を下回るものであることは明らかである。 イ原告は,標準人件費の90%という人件費の基準は絶対的なものとはいえず,法人タクシー事業者では労使間の同意により排除できるものであるから,個人タクシー事業者の場合は労使一体といえるので,同基準を当然とすべきではないし,実際,法人タクシー事業者では大型や中型でも初乗り500円などの運賃認可が行われており,近畿運輸局長の審査は不公平であると主張する。 しかし,個人タクシー事業者においては,事業主たる運転手がその事業 内容を自在に決定でき,人件費を規定する制度的枠組みがないことから,法人タクシーが実施することのできない極端に低額の運賃を設定することも可能である。そのため,個人タクシー事業者と法人タクシー事業者の競争条件が必ずしも公正なものとならないことから,個人タクシー事業者の人件費について法人タクシー事業者との競争条件の均衡を保つため,標準人件費を10%下回る額としている。法人タクシー事業者が労使間の同意により排除できるのはまさに労使関係があるからであって,労使関係のない個人タクシー事業者が自由にこれを排除できることとなるものではない。 (3) 原告の市場の中での位 法人タクシー事業者が労使間の同意により排除できるのはまさに労使関係があるからであって,労使関係のない個人タクシー事業者が自由にこれを排除できることとなるものではない。 (3) 原告の市場の中での位置付けについて(B)ア低額運賃への追随傾向原告の営業地域が,いわゆる「流し営業」が成り立つ都市部の人口密集地域であること,利用者の利用形態が,仕事や急用時にタクシー乗り場や流しのタクシーを利用するというものであること,平成19年3月末における個人タクシー事業者数は4406者で全車両に占める割合は19%にすぎないこと,原告が個人タクシー事業者であることからすれば,本件申請に係る運賃設定による市場への影響は一見少なく思えそうである。 しかしながら,①利用者のタクシーの選択基準として,運賃の安さがかなりの割合を占めていること,②原告の営業区域でもある大阪市域においては,タクシー事業の供給過剰状況にあり,需給ギャップが拡大した地域であること,③ワンコイン運賃を設定する個人タクシー事業者は,平成16年2月末当時は261者にすぎなかったのが,平成20年1月末には446者に至っており,事業者全体をみても,その割合が全体の1.9%にすぎなかったのが,平成20年1月末には全体の7.7%に達し,それに自動認可運賃を下回る運賃の設定をする事業者の車両数を併せると10. 9%に達していること,④新規参入事業者がワンコイン運賃を「売り」にして参入しており,新規参入事業者及びワンコイン運賃事業者の間では値 下げ圧力が相当程度存在し,これは全国的には運賃の値上げ改定の情勢にあるにもかかわらず,大阪府域では運賃改定が実現しないことからも明らかであること,⑤前判決後,自動認可運賃を下回る運賃を設定している法人タクシー事業者から,初乗り480円に変更することが可能かとい あるにもかかわらず,大阪府域では運賃改定が実現しないことからも明らかであること,⑤前判決後,自動認可運賃を下回る運賃を設定している法人タクシー事業者から,初乗り480円に変更することが可能かという問い合わせがあり,現実に,大型車初乗り450円という申請がされていること(なお,結局は初乗り500円に変更するという追加申請がされた。),⑥原告の営業地域においては,個人タクシー事業者が約2割を占めており,本件申請が認可されれば,これに追随する個人タクシー事業者が生じることが予想され,その結果,法人タクシー事業者も追随せざるを得ない状況に追い込まれかねないことからすれば,さらなる低額運賃の設定が認可された場合には,その影響を強く受け,これに追随する動きが生ずる市場であることは明らかである。 イ低額運賃による問題の発生本件申請に係る地域は,既に,最低額運賃ないし下限割れ運賃を設定する事業者の存在によって,問題の生じている市場である。すなわち,①下限割れ運賃設定事業者の中には,コスト削減のために安全確保を怠るなどの不適切な事業運営を行っている者がおり,行政処分等の対処がされていること,②大阪市域交通圏は,下限割れ運賃をはじめとする多種多様な運賃・料金が設定され,事業者間の競争が激化し,規制緩和後の車両数の増加数が著しく,交通事故件数が全国平均より高いため,道路運送法8条に規定するタクシー事業に係る緊急調整措置の発動を抑止するための予防措置として,著しい供給過剰を未然に防止するための各種施策を講じる準特定特別監視地域として近畿運輸局長により個別指定されるに至っていること,③乗客獲得競争の激化により,タクシー運転者の長時間労働や労働環境が悪化しており,運転者の過重労働等により利用者の輸送の安全が脅かされるおそれがあるとして,近畿管区行政評価 されるに至っていること,③乗客獲得競争の激化により,タクシー運転者の長時間労働や労働環境が悪化しており,運転者の過重労働等により利用者の輸送の安全が脅かされるおそれがあるとして,近畿管区行政評価局による調査が行われてい ること,④現時点においても,運賃の低額競争が激化しており,タクシー運転者の違法行為が公然と行われる状況となっていることがうかがえることから,本件申請に係る運賃等の設定を認可した場合,当然これに追随する事業者が生じることとなり,それら事業者が他の事業者のタクシー運転手に一層の心理的影響を与え,その結果,過労運転の常態化や交通事故の多発という問題を生じさせてしまうおそれは極めて高いといえる。 (4) 本件申請の意図について(C)原告の本件申請の意図は,前判決でも認定されているとおり,「安売り競争に参加するなら,法人の追随を許さない設定が必要であると考えた,個人を本気で怒らせたら法人はついて来れないよというところまでやって,願わくば不毛の争いに終止符を打ちたい」というものであり,法人の追随を許さない運賃設定をして,値下げ競争に歯止めをかけるという逆説的なもので,利潤を度外視したものであった。 しかし,上記のような行政処分や準特定特別監視地域の指定等,公正な競争環境を確保するための施策は順次行われていることから,原告が意図するような逆説的な運賃設定をあえて認める必要はないばかりか,本件申請に係る運賃の設定を認めることは,結局,他のタクシー事業者の追随によって,市場に大きな問題を生じさせることは明らかである。 (5) 小括以上のとおり,本件申請に係る運賃等が能率的な経営の下における適正な原価を下回るものであり,原告自身,利潤を度外視して本件申請を行っているところ,低額運賃の影響を受けやすく,既に過労運転等の問題が生じてい とおり,本件申請に係る運賃等が能率的な経営の下における適正な原価を下回るものであり,原告自身,利潤を度外視して本件申請を行っているところ,低額運賃の影響を受けやすく,既に過労運転等の問題が生じているという原告の市場の状況にかんがみると,本件申請に係る運賃等の設定が認可された場合には,これを受けて,他のタクシー事業者も追随して原価を償わないまま値下げ競争に参入することとなり,その結果,他の事業者に先んじて旅客を獲得し,また,運賃を下げた部分を補うため,総走行距離を増 やす等,タクシー運転手の過労運転の常態化をもたらし,さらにはそれによって交通事故の発生等,輸送の安全確保を損なう事態を生じさせることは明らかである。 よって,本件申請に係る運賃等の設定には,他の一般旅客自動車運送事業者との間において過労運転の常態化等により輸送の安全の確保を損なうことになるような旅客の運賃及び料金の不当な値下げ競争を引き起こす具体的なおそれがあるといえ,本件再却下処分にはなんら裁量権の逸脱又は濫用の違法はなく,適法である。 (原告の主張)(1) 具体的なおそれについて前判決は,被告に対して,「当該申請を認可することにより他の一般旅客自動車運送事業者との間において過労運転の常態化等により輸送の安全の確保を損なうことになるような旅客の運賃及び料金の不当な値下げ競争を引き起こす具体的なおそれ」の主張立証を求めている。ここで必要とされているのは,「具体的なおそれ」であって「抽象的なおそれ」ではない。しかし,被告は,当該運賃申請が道路運送法9条の3第2項3号の基準に適合しないという結論を導くに当たり,輸送の安全の確保を損なうかもしれない「抽象的なおそれ」を列挙するのみで,「具体的なおそれ」を立証できていない。 (2) 収支率のかい離について被告は,本件申請に 合しないという結論を導くに当たり,輸送の安全の確保を損なうかもしれない「抽象的なおそれ」を列挙するのみで,「具体的なおそれ」を立証できていない。 (2) 収支率のかい離について被告は,本件申請に係る運賃等の額は,平年度の収支率が82.37%で,運賃査定額を18%弱も下回る低額のものであるし,ガソリン価格につき最近の実勢価格で査定すると収支率は78.95%となると主張する。 しかし,収支率については,人件費について被告が主張する標準人件費を10%下回る額によらず,原告の申請による実際の数字で計算すれば収支率は100%を超えるのであり,直ちに原価を下回っているとはいえない。しかも,標準人件費の90%という基準は絶対的なものではない。審査基準公 示によれば,法人タクシー事業者では労使間の同意により当該基準を排除できるとされているのである。個人タクシー事業者の場合は労使一体ともいえるのであるから,このような基準を当然の前提として計算すべきではない。 実際,法人タクシー事業者については,中型初乗り500円,大型初乗り500円などの運賃認可が行われており,標準人件費を前提とすればこれらの運賃設定は原価をかなり下回っていると思われることからすると,近畿運輸局の審査は不公平である。 また,被告の主張を前提としても,収支率82.37%はダンピング運賃であることを推定させる程度のかい離とはいえない。すなわち,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の2条9項に基づき公正取引委員会が指定した不公正な取引方法一般指定6項前段は,「その供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給し(中略)他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあること」をダンピング行為として違法と定めているが,ここで「著しく下回る対価」とは,多くの審決例によると,基準となる原価 下回る対価で継続して供給し(中略)他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあること」をダンピング行為として違法と定めているが,ここで「著しく下回る対価」とは,多くの審決例によると,基準となる原価から30数%から40%程度下回った価格であるとされている。本件で被告が主張する収支率のかい離はせいぜい20%程度であり,到底,上記の基準には達していない。 (3) 本件申請が他の事業者に与える影響について被告は,本件申請に係る運賃等の設定が認可された場合には,これを受けて,他のタクシー事業者も追随して原価を償わないまま値下げ競争に参入することとなり,その結果,他の事業者に先んじて旅客を獲得し,また,運賃を下げた部分を補うため,総走行距離を増やす等,タクシー運転手の過労運転の常態化をもたらし,さらにはそれによって交通事故の発生等,輸送の安全確保を損なう事態を生じさせることは明らかであると主張する。 しかし,かかる主張は論理の飛躍であり,実証的な根拠を欠くものである。 大阪市域において,過去にワンコイン運賃の設定に追随する個人タクシー事 業者が現れなかったことは既に立証されている。前判決以後の運賃値下げ申請もわずかに法人1社であり,それも修正申請に終わっている。 また,被告は,本件申請に係る運賃等の設定の認可と,運送安全の確保が損なわれる事態の因果関係の説明として,タクシー運転手の心理的な影響を主張している。しかし,規制緩和による安全性低下のおそれという主張はしばしばされるが,運賃値下げ競争が輸送の安全確保の毀損に関連しているという社会心理学的な実証データは存在しないのであり,被告の主張は科学的根拠を欠いている。 しかも,被告の主張は,その前提としている事実認識を誤っている。すなわち,①被告は,大阪府内の法人タクシーの運送収入は,この10年間で ータは存在しないのであり,被告の主張は科学的根拠を欠いている。 しかも,被告の主張は,その前提としている事実認識を誤っている。すなわち,①被告は,大阪府内の法人タクシーの運送収入は,この10年間で約3割減少したと主張するが,10年前と比較した運送収入の減少は,明らかに不況の影響によるものであり,運賃値下げによるものではない。規制緩和後の最低額運賃の輸送実績等をみると,平成15年以降,最近数年間は逆に運送収入が増加している。また,②被告は,実車率が10年前に比べると10ポイント低下したと主張するが,これも近年の不況によるタクシー利用の減少が主な要因である。大阪府の法人タクシーの輸送実績をみると,平成16年以降の実車率は逆に増加する傾向にある。また,③被告は,運賃を下げた部分を補うため,走行距離を増やす等,タクシー運転手の過労運転の常態化をもたらすと主張するが,平成16年以降,大阪市域のタクシー全体の総走行キロは減少している。また,最低額運賃のタクシーの総走行距離が大阪市域の法人タクシーに比較して長いとはいえ,その差はわずかであり(1日1車あたり約30㎞),最低額運賃のタクシーは実車率が比較的高いことも考えると,収入を維持するために無理に走行距離を長くしているとは言い切れない。また,平成19年に実施された監査結果からは,必ずしも最低額運賃を設定した事業者に過労運転が多いとはいえない。さらに,④大阪市域における走行100万㎞当たりの事故件数は,平成17年には12.540件 であったものが,平成18年には11.980件と減少しているなど,大阪市域のタクシーの事故件数が著しく増加したという事実は存在しない。 (4) 原告の意図について被告は,原告の申請意図が,法人の追随を許さない運賃設定をして,値下げ競争に歯止めをかけるという逆説的なも 市域のタクシーの事故件数が著しく増加したという事実は存在しない。 (4) 原告の意図について被告は,原告の申請意図が,法人の追随を許さない運賃設定をして,値下げ競争に歯止めをかけるという逆説的なもので,利潤を度外視したものであったと主張する。しかし,原告は利潤を度外視したことはない。原告は,法人タクシー事業者が違法な抜け駆け的営業を公然と行うことができる状況の下にあっては,5000円超5割引ではなく,最初から5割引でさえも成り立つのであり,このような異常な状況が放置されるのであれば,個人タクシー事業者としても抜け駆け的営業を行えば,低料金を設定しても利潤を確保することができるという趣旨で行ったものであり,近畿運輸局長に対してはこれを直ちに実施する意図はないことも伝えていたはずである。 もとより,原告に抜け駆け的な営業やダンピングをする意図がないことは,原告のこれまでの経歴,考え方,申請の動機などから明らかである。また,大型と中型と小型では初乗運賃で約20円の差があることは周知の事実であり,法人タクシーでは中型車500円+5000円超5割引が大勢を占め,大型車500円+5000円超5割引までが認可されている状況からみて,原告の小型車480円+5000円超5割引の運賃が「利潤を度外視した」ものでないことは明らかである。 本件申請の認可を義務付けることの適否(争点②)について(原告の主張)被告は,前判決により,本件申請が道路運送法9条の3第2項3号の基準に適合するか否かを判断するために必要な諸事情が十分考慮されていないことを理由に本件却下処分が取り消されたことを受けて,ほぼ一年の間,専門的な見地から,あらゆる具体的要素について検討する機会を与えられていた。 それにもかかわらず,被告は「不当な競争を引き起こすこととなる具体的お それ が取り消されたことを受けて,ほぼ一年の間,専門的な見地から,あらゆる具体的要素について検討する機会を与えられていた。 それにもかかわらず,被告は「不当な競争を引き起こすこととなる具体的お それ」を立証できないのであるから,もはや行政裁量の余地は残されておらず,近畿運輸局長が本件申請を認可すべきことは,道路運送法9条の3第2項の規定から明らかであり,一義的に定まるというべきである。よって,原告の本件申請は認可されるべきである。 (被告の主張)申請型義務付け訴訟のうち,「申請又は審査請求を却下し又は棄却する旨の処分又は裁決がされた場合」の類型については,当該処分又は裁決が「取り消されるべきもの」であるときに限り,提起することができるとされており(行訴法37条の3第1項2号),併合提起した処分又は裁決の取消請求が認容されることが訴訟要件となるものと解されることから,当該処分又は裁決の取消請求が認容されない場合,当該処分又は裁決が「取り消されるべきもの」に該当せず,申請型義務付け訴訟は,訴訟要件を欠くものとして却下されるべきである。 しかるところ,近畿運輸局長がした本件再却下処分は前記1(被告の主張)記載のとおり適法であるから,取り消されるべきものに該当しない。したがって,本件申請の認可の義務付けを求める訴えは,却下されるべきである。 国家賠償請求の成否(争点③)について(原告の主張)(1) 近畿運輸局長は,道路運送法の解釈を誤って本件申請を却下し,これが前判決で取り消されるや,その違法性を十分に認識しながら,再度その裁量権を逸脱,濫用し,本件再却下処分をしたものであり,本件再却下処分は原告に対する不法行為となる。 (2) 原告は,本件申請を平成14年11月26日に行ってから平成19年3月14日の前判決まで約5年間,さらに前判決か ,本件再却下処分をしたものであり,本件再却下処分は原告に対する不法行為となる。 (2) 原告は,本件申請を平成14年11月26日に行ってから平成19年3月14日の前判決まで約5年間,さらに前判決から本件再却下処分まで約1年間,近畿運輸局及び国土交通省により待たされ続けた。近畿運輸局長が,原 告及び裁判所の期待に反して前判決が出てから本件再却下処分に至るまで長期間にわたり処分をしない怠慢は,原告に対する不法行為となる。 (3) 原告は,近畿運輸局長による上記各不法行為(本件再却下処分における裁量権の逸脱濫用,前判決から本件再却下処分までの長期間にわたる怠慢)により精神的苦痛を受けた。これを慰謝するには500万円が相当である。 (被告の主張)(1) 本件再却下処分についてア前述のとおり,本件再却下処分は適法であるから,そのような適法な処分を行った近畿運輸局長が職務上の法的義務に違反していないことは明らかである。 イさらに,国賠法1条1項の違法性判断に当たっては,当該公務員の職務上の法的義務違反が問題となるところ(最判昭和60年11月21日・民集39巻7号1512頁),当該処分を行う公務員が,資料の収集,これに基づく認定,判断の過程において,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と処分を行ったと認め得るような事情がある場合に初めて,その職務上の注意義務に違反したとの評価を受ける(最判平成5年3月11日・民集47巻4号2863頁)。したがって,仮に本件再却下処分が違法という評価を受けることがあったとしても,そのことから直ちに近畿運輸局長に国賠法上の違法行為があったということにはならない。 そして,本件では,近畿運輸局長は,当該運賃等が能率的な経営の下における適正な原価を下回るものであるか否かという観点のほか,当該事業者の市 輸局長に国賠法上の違法行為があったということにはならない。 そして,本件では,近畿運輸局長は,当該運賃等が能率的な経営の下における適正な原価を下回るものであるか否かという観点のほか,当該事業者の市場の中での位置付け,当該運賃等を設定した意図等を総合的に勘案すべきという前判決の示した判断基準にのっとって,具体的な事情を総合的に勘案して,本件再却下処分を行ったのであり,上記のような意味での職務上の法的義務違反があったとはいえない。 (2) 本件再却下処分に至る経緯について ア近畿運輸局長は,平成19年3月14日以降,本件申請について,当該運賃等が能率的な経営の下における適正な原価を下回るものであるか否かという観点のほか,当該事業者の市場の中での位置付け,当該運賃等を設定した意図等を総合的に勘案すべきという前判決の示した判断基準にのっとって,再度,調査,検討を行った。 イまた,近畿運輸局長としては,併せて,タクシーの運賃及び料金の認可基準である審査基準公示の見直しも必要となるところ,その基準については,道路運送法9条の3第2項を合理的に判断し,運賃認可申請を一律公平に処理するため,「一般乗用旅客自動車運送事業の運賃料金の認可の処理方針について」(平成13年10月25日国自旅第101号,国土交通省自動車交通局長通達)に基づいて制定されていることから,同通達の改正も視野に入れ検討を行う必要があった。 この点,平成18年6月ころから全国的にタクシー運賃の値上げ改定の申請が出ており,全国的には運賃改定の状況にあり,前判決直後の平成19年4月19日及び同年5月31日には,東京地区のタクシー運賃改定に係る内閣府の「物価安定政策会議」が開催され,運賃改定について議論がされ,これを受けて,同年10月18日には,東京地区のタクシー運賃改定に係る「物 び同年5月31日には,東京地区のタクシー運賃改定に係る内閣府の「物価安定政策会議」が開催され,運賃改定について議論がされ,これを受けて,同年10月18日には,東京地区のタクシー運賃改定に係る「物価問題に関する関係閣僚会議」が開催され,東京地区の運賃改定を認める決定がされ,さらに,「物価安定政策会議」における,タクシー事業を巡る問題についての様々な指摘,これを踏まえた「物価問題に関する関係閣僚会議」での決定を受けて,同年12月21日,「運賃改定を契機として提起されたタクシー事業を巡る諸問題」について検討するワーキンググループを設置することとされた。そして,平成20年2月にはワーキンググループが設置されたものの,ワーキンググループの答申結果は,同年12月ころの予定とされた。 そこで,近畿運輸局長としては,これらを待って本件申請に対する処分 を保留することは相当でないと判断し,本件申請については,現行の審査基準公示を改訂することなく,前判決の示した判断基準を勘案して判断することとし,同年2月27日,本件再却下処分を行うに至った。 ウ以上の経緯にかんがみれば,近畿運輸局長としては,前判決を受け,前判決の示した判断基準にのっとって,必要な調査を行うとともに,審査基準公示や通達の改正も視野に入れた検討を行い,そのためには,タクシー事業を巡る諸問題の提起,指摘に対する対処の動向を見極めることを要したが,最終的には,本件の経緯にかんがみ,審査基準公示の改訂に先行して本件申請に対する判断を行ったものであって,この間の経緯について,近畿運輸局長にはなんら職務上の法的義務違反はない。 (3) 近畿運輸局長の故意又は過失の有無,原告の被った精神的損害の有無及びその金銭的評価については否認ないし争う。 第4当裁判所の判断 道路運送法9条の3第2項3 職務上の法的義務違反はない。 (3) 近畿運輸局長の故意又は過失の有無,原告の被った精神的損害の有無及びその金銭的評価については否認ないし争う。 第4当裁判所の判断 道路運送法9条の3第2項3号にいう「不当な競争を引き起こすこととなるおそれ」の意義,及び,審査基準公示の定める運賃査定額に満たない運賃等の設定等が道路運送法9条の3第2項3号の基準に適合するか否かの判断基準については,前判決(前提となる事実等(5))に記載のとおりである。 すなわち,道路運送法9条の3第2項3号にいう「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれ」とは,他の一般旅客自動車運送事業者との間において過労運転の常態化等により輸送の安全の確保を損なうことになるような旅客の運賃及び料金の不当な値下げ競争を引き起こす具体的なおそれをいうものと解するのが相当であり,そのようなおそれのある運賃等に該当するか否かについては,当該運賃等が能率的な経営の下における適正な原価,すなわち,個々の一般乗用旅客自動車運送事業者がその事業を運営するのに十分な能率を発揮して合理的な経営をしている場合において必要とされる原価を下回るものであるか否かという観点のほか,当該事業者の市 場の中での位置付け,当該運賃等を設定した意図等を総合的に勘案して判断すべきであるところ,このような判断は,専門的,技術的な知識経験及び公益上の判断を必要とするものであるから,同号の基準に適合するか否かの判断については,国土交通大臣及びその権限の委任を受けた地方運輸局長にある程度の裁量権が認められるものと解される。 そして,審査基準公示の定める運賃査定額に満たない運賃等の申請が道路運送法9条の3第2項3号にいう「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなる が認められるものと解される。 そして,審査基準公示の定める運賃査定額に満たない運賃等の申請が道路運送法9条の3第2項3号にいう「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること」の基準に適合するか否かについては,当該申請に係る運賃等の額の運賃査定額からのかい離の程度,当該申請に係る運賃等が当該申請者がその事業を運営するのに十分な能率を発揮して合理的な経営をしている場合において必要とされる原価(能率的な経営の下における適正な原価)を下回るものであるか否か,下回るものであるとすればその程度,当該申請に係る当該申請者の運転者1人当たり平均給与月額(添付書類に基づくもの)と標準人件費(原価計算対象事業者の運転者1人当たりの平均給与月額の平均の額)とのかい離の程度に加えて,当該運賃適用地域の立地条件,規模(都市部か地方部か,人口密集地域か否か,当該地域における他の公共交通機関の事業展開の内容,態様等),当該運賃適用地域における市場の構造,特性等(タクシー事業者の構成(大規模法人による寡占状態か中小規模の事業者を中心とする構造か等),タクシー事業の営業形態(流し営業が中心か車庫待ち営業が中心か等),利用者の利用の実態(近距離利用か遠距離利用か,配車利用か否か等),当該地域において設定されている運賃及び料金の内容,態様等),当該申請者の種別(いわゆる法人タクシーか個人タクシーか等),企業規模,営業形態,運転者の賃金構造等,当該地域における需給事情(供給過剰地域か否か,供給過剰の程度等),運転者の賃金水準,一般的な経済情勢,距離制運賃の初乗運賃を500円とする運賃ないし5000円を超える金額について5割引の遠距離割引運賃とする運賃といった低額運 賃の認可を受けた事業者のその後の営業実績の推移,売上高 的な経済情勢,距離制運賃の初乗運賃を500円とする運賃ないし5000円を超える金額について5割引の遠距離割引運賃とする運賃といった低額運 賃の認可を受けた事業者のその後の営業実績の推移,売上高に占める割合,利用者の利用状況,当該運賃の設定に対する他の事業者の対応,追随状況など当該認可が当該区域の市場に及ぼした影響の内容,態様,程度等を総合勘案した上,当該申請を認可することにより他の一般旅客自動車運送事業者との間において過労運転の常態化等により輸送の安全の確保を損なうことになるような旅客の運賃及び料金の不当な値下げ競争を引き起こす具体的なおそれがあるか否かを社会通念に従って判断すべきである。 本件再却下処分についての裁量権の範囲の逸脱又はその濫用の有無(1) 検討内容について上記1記載のとおり,道路運送法9条の3第2項3号にいう「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれ」のある運賃に該当するか否かについては,(A)当該運賃等が能率的な経営の下における適正な原価を下回るものであるか否かという観点のほか,(B)当該事業者の市場の中での位置付け(本件申請を認可することによる市場への影響),(C)当該運賃等を設定した意図等を総合的に勘案して判断すべきものであることから,以下,上記(A)ないし(C)につき個別に検討を加えた上,総合的に判断することとする。 (2) 当該運賃等が能率的な経営の下における適正な原価を下回るものであるか否かについて(A)ア前記前提となる事実等に加えて,証拠(甲3,4,10,51,乙4,8,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 (ア) 本件申請に係る申請書(平成14年11月26日付け変更認可申請に係る申請書)に添付された「収支見積書」には,原告の実績年度( ,8,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 (ア) 本件申請に係る申請書(平成14年11月26日付け変更認可申請に係る申請書)に添付された「収支見積書」には,原告の実績年度(平成13年度),翌年度(平成14年度)及び平年度(平成15年度)における収支が下記のとおり記載されていた。 記 ①実績年度(平成13年度)運送収入311万2000円運送原価303万0000円(内訳)人件費144万0000円燃料油脂費22万8000円車両修繕費13万8000円車両償却費29万4000円その他運送費93万0000円収支率102.7%②翌年度(平成14年度)運送収入384万5000円運送原価375万2000円(内訳)人件費168万0000円燃料油脂費28万2000円車両修繕費16万1000円車両償却費29万4000円その他運送費133万5000円収支率102.5%③平年度(平成15年度)運送収入410万7000円運送原価399万1000円(内訳)人件費192万0000円燃料油脂費38万2000円 車両修繕費17万0000円車両償却費29万4000円その他運送費122万5000円収支率102.9%(イ) 近畿運輸局長は,本件申請に係る前記申請書の添付書類に基づき,審査基準公示に従って,原告の平年度における収支について下記のとおり査定し,原告の平年度における収支率につき,本件却下処分時においては82.49%,本件再却下処分時においては本件却下処分時の査定上の誤りを訂正し,82.37%であるとした。 記①本件却下処分時(平成16年2月13日)の査定結果運送収入416万9000円運送原価505万4000円(内訳)人件費 分時の査定上の誤りを訂正し,82.37%であるとした。 記①本件却下処分時(平成16年2月13日)の査定結果運送収入416万9000円運送原価505万4000円(内訳)人件費325万1000円燃料油脂費36万2000円車両修繕費22万7000円車両償却費29万4000円その他運送費92万0000円収支率82.49%②本件再却下処分時(平成20年2月27日)の査定結果運送収入417万8000円運送原価507万2000円(内訳)人件費325万1000円燃料油脂費36万2000円 車両修繕費22万7000円車両償却費29万4000円その他運送費93万8000円収支率82.37%(ウ) 近畿運輸局長は,本件再却下処分時の査定において,審査基準公示にのっとって,次のとおり収支率を査定した。 実車距離(旅客を輸送する距離)の数値については,申請者の申請した数値(申請数値)と,実績値に個人低額実施事業者の実績伸び率を乗じた数値(以下「実績伸び率数値」という。)とを比較し,低い方を採用する運用をしていたところ,申請数値は60.1㎞/日,実績伸び率数値は76.8㎞/日であったことから,申請数値の方を採用した。実働車両数(1年間の稼働のべ車両数)については,申請数値(289)をそのまま採用し,年間の実車距離は1万7369㎞(60.1×289)と査定された。また,総走行距離については,実車距離において申請数値を採用したことに伴い,申請数値(147.0㎞/日)を採用し,年間の総走行距離は4万2483㎞(147.0×289)と査定された。 収入の算定においては,本件申請時の運賃から本件申請に係る運賃に変更した場合の平均値下げ率(遠距離割引を考慮しないもの)が15. 161%,平成13年度の実車 ㎞(147.0×289)と査定された。 収入の算定においては,本件申請時の運賃から本件申請に係る運賃に変更した場合の平均値下げ率(遠距離割引を考慮しないもの)が15. 161%,平成13年度の実車1㎞当たりの実績値が299.74円と算定されたことから,平年度における実車1㎞当たりの運送収入は254.30円となり,これに実車距離1万7369㎞を乗ずると,平年度における運送収入は441万7000円と査定された。これに,遠距離割引の導入による減収率5.42%を考慮すると,平年度における原告の収入は417万8000円と査定された。 運送原価のうち,人件費については,原告の申請数値(192万円) によることなく,原価計算対象事業者29社の運転者1人当たり平均給与月額の平均の額(標準人件費)30万0999円を10%下回る額である27万0899円の12か月分である325万1000円と査定した(なお,原告の申請数値は,標準人件費の約53%,標準人件費を10%下回る額の約59%に相当する。)燃料油脂費については,審査基準公示別紙2第6項の2(2)に基づき,36万2000円と査定された。なお,審査基準公示においては,燃料費の算定基礎である単位当たり価格については,燃料税の増徴が確定している場合を除き,「最近の平均購入価格」によることとされており,本件申請の査定においては,平成13年の実績値から,単位当たり価格は1リットル当たり95.0円とされた。 車両修繕費,車両償却費及びその他諸経費(その他運送費)については,審査基準公示別紙2第6項の2(3)から(5)までに基づき,それぞれ上記(イ)②のとおり算定された。 イ上記ア(イ)②のとおり,本件再却下処分に当たり近畿運輸局長が行った査定によれば,原告の本件申請に係る運賃における平年度の運送収入は41 までに基づき,それぞれ上記(イ)②のとおり算定された。 イ上記ア(イ)②のとおり,本件再却下処分に当たり近畿運輸局長が行った査定によれば,原告の本件申請に係る運賃における平年度の運送収入は417万8000円,運送原価は507万2000円,収支率は82.37%となるのであって,平年度の運送収入は運送原価を約18%下回ることが認められる。しかしながら,前判決も指摘するとおり,このように収支率が100%を下回る結果となったのは,原価の主要部分を構成する人件費について,原告の申請数値を用いず,法人タクシー事業者から抽出された原価計算対象事業者の標準人件費を10%下回る額で査定したことによるものであり,原告の申請数値である192万円(1か月当たり16万円)で査定すれば,その収支率は111.68%となり優に100%を超える。 しかも,大型車,中型車,小型車の各自動認可運賃は初乗運賃で各20円の差があるところ(乙5),本件再却下処分当時,大型車・中型車につい て初乗運賃500円・遠距離割引5000円超5割引の認可を受けている法人タクシー事業者も複数存在していること(乙57)も考慮すれば,本件申請における人件費は標準人件費を10%下回る額をさらに約40%下回る額であることを考慮してもなお,小型車初乗運賃480円・遠距離割引5000円超5割引を内容とする本件申請に係る運賃が,原告において能率的な経営の下における適正な原価を償わないものであると即断することはできない。 ウこの点につき,被告は,個人タクシー事業者においては,事業主たる運転手がその事業内容を自在に決定でき,人件費を規定する制度的枠組みがないことから,法人タクシー事業者が実施することのできない極端に低額の運賃を設定することも可能であるため,個人タクシー事業者と法人タクシー事業者の競 を自在に決定でき,人件費を規定する制度的枠組みがないことから,法人タクシー事業者が実施することのできない極端に低額の運賃を設定することも可能であるため,個人タクシー事業者と法人タクシー事業者の競争条件が必ずしも公正なものとならないことから,個人タクシー事業者の人件費について法人タクシー事業者との競争条件の均衡を保つため,標準人件費を10%下回る額としていると主張する。 しかし,道路運送法上,個人タクシー事業者と法人タクシー事業者との間に区別はなく,個人タクシー事業者も法人タクシー事業者と同じ事業者であることに変わりはない。そして,事業者の競争を促進し利用者の利便の確保,向上を図るという平成12年改正法の趣旨をも考慮すれば,被告が指摘する個人タクシー事業制度の創設経緯や制度趣旨等(乙80,81)を考慮してもなお,個人タクシー事業者の査定上の人件費の下限を標準人件費の9割に固定し,法人タクシー事業者のような例外を認めない取扱いに合理性は認め難いというべきである。もとより,個人タクシー事業者の運賃設定が,法人タクシー事業者において認可された運賃の範囲内でなければならないとする合理的な理由もない(そもそも,個人タクシー事業者の人件費は事業利益と重なりあうものであり,他方,法人タクシー事業者の人件費には,運転者自身の必要経費に相当する交際費等が含まれ得 るのであって,人件費として計上される内容には少なからず違いがある。 それにもかかわらず上記のような違いを捨象して,個人タクシー事業者の人件費の下限を法人タクシー事業者の標準人件費の9割をもって一律に査定すること自体,当該運賃等が能率的な経営の下における適正な原価を下回るものであるか否かを検討,判断する上で,合理的な基準といえるのか疑問であるというほかはない。)。また,被告は,個人タクシー事 査定すること自体,当該運賃等が能率的な経営の下における適正な原価を下回るものであるか否かを検討,判断する上で,合理的な基準といえるのか疑問であるというほかはない。)。また,被告は,個人タクシー事業者の方が実際上柔軟な価格設定が可能であり,法人タクシーが実施できない極端に低額の運賃を設定することも可能であり,競争条件が必ずしも公正なものとならないというが,不当な競争を引き起こすような極端に低額の運賃かどうかは,各種事情を考慮して総合的に判断されるべきものであって,人件費の査定基準において調整されるべきものではない。しかも,他方で,零細事業者である個人タクシー事業者は,事業協同組合等によりある程度組織化が図られていること(乙71から74まで)を考慮しても,法人タクシー事業者と比較すると,スケールメリットを生かした経費節減や企業との大口取引,資金力を背景とした広告宣伝等の面において,その競争力には歴然とした差があるといわざるを得ないのであり,人件費の査定基準という行政上の運用をもって,個人タクシー事業者の有効な競争手段である「運賃値下げ」の選択の余地を事実上大きく制約することは,事業者間の実質的な公平という観点から見ても,重大な疑問があるといわざるを得ない。 被告は,本件再却下処分時ころのガソリン価格の高騰に伴い,燃料費が増加すれば収支率のかい離率はさらに大きくなる旨主張する。しかし,前述のとおり,審査基準公示においては,燃料費の算定基礎である単位当たり価格については,燃料税の増徴が確定している場合を除き,「最近の平均購入価格」によることとされているのであり,本件申請についてのみ最近の市場(実勢)価格に基づいて査定する理由はない。また,競合事業者 が多く用いるLPガス価格の高騰に至っては,本件申請の査定になんら影響するものではな れているのであり,本件申請についてのみ最近の市場(実勢)価格に基づいて査定する理由はない。また,競合事業者 が多く用いるLPガス価格の高騰に至っては,本件申請の査定になんら影響するものではない。さらに,被告は,平成16年度の大阪地区原価計算対象事業者28社の平均値をもって「平均的タクシー事業者」とし,その数値をもとに走行距離と労働時間の増加を算出した上で,相当な無理を強いられる状況にあるとしているが,最も条件が近い事業者(最低額運賃を設定している事業者)の数値を用いることなく,法人タクシー事業者の平均値を前提としていることや,値下げによる実車率の向上を加味していない点でその算出結果の信ぴょう性には疑問があり,採用することができない。 エところで,上記ア(ウ)によれば,近畿運輸局長は,平年度の運送収入を算定する基礎となる実車距離(旅客を輸送する距離)の数値については,申請数値と実績伸び率数値のいずれか低い方を用いる運用であったとして,原告の申請数値である60.1㎞/日を採用している。しかし,仮に,原告が本件申請の際に運賃値下げによる実車率の上昇を見込み,申請数値が実績伸び率数値を上回っていたとすれば,運送収入の算定に当たっては実績伸び率数値76.8㎞/日で算定されていたことになる。そして,この数値によれば実車距離は2万2195㎞(76.8×289)となり,これに実車1㎞当たり254.30円を乗じた上,遠距離割引の導入による減収率5.42%を考慮すると,平年度の運送収入は533万8000円となる。そうすると,その運送収入は,標準人件費を10%下回る額で人件費を算定した場合の運送原価(507万2000円)を上回っており,実績伸び率数値を使用することに伴って総走行距離の査定数値も増加し燃料油脂費等の増加が想定されることを考慮しても 10%下回る額で人件費を算定した場合の運送原価(507万2000円)を上回っており,実績伸び率数値を使用することに伴って総走行距離の査定数値も増加し燃料油脂費等の増加が想定されることを考慮しても,その収支をほぼ償うことになると考えられる(なお,実車距離につき実績伸び率数値を用いた場合の運送原価の増加額について検討するに,乙8の6の6枚目によれば,実車距離算定で実績伸び率数値を用いた場合には,「実車距離は実車率を 実績値据え置きとし,算定する」旨記載されている。その意味は必ずしも明らかではないが,総走行距離に実車率を乗じた数値が実車距離であることから,1日当たり総走行距離は,1日当たり実車距離の実績伸び率数値76.8㎞/日を実車率の実績値41.0%で割り戻して算定すればよいものと解され,そうすると1日当たり総走行距離は187.3㎞/日となり,年間の総走行距離はこれに実働車両数289を乗じた5万4130㎞となると考えられる。そして,これは本件再却下処分における査定上の年間総走行距離4万2483㎞の127.4%に相当することから,査定走行キロを乗じて算出する燃料油脂費及び車両修繕費の査定額はいずれも27.4%増加することになると想定される。しかし,査定上の平年度の燃料油脂費は36万2000円,車両修繕費は22万7000円にすぎず,したがって,その増加額は約16万円強であるから,これを上記507万2000円に加算しても約523万円であり,実車距離につき実績伸び率数値を用いて算定した運送収入533万8000円を超えるものではない。)。 オ以上要するに,本件申請に係る運賃による平年度の収支率が約82%にとどまった最大の理由は,近畿運輸局長が人件費の査定において原告の申請数値を用いることなく,法人タクシー事業者から抽出された原価計算対 上要するに,本件申請に係る運賃による平年度の収支率が約82%にとどまった最大の理由は,近畿運輸局長が人件費の査定において原告の申請数値を用いることなく,法人タクシー事業者から抽出された原価計算対象事業者の標準人件費を10%下回る額を用いた点にあるところ,このような査定上の基準ないし運用に合理性は認め難く,しかも,本件申請において,実車走行キロの査定上,申請数値ではなく実績伸び率数値を用いていれば,ほぼ収支が償っていたと考えられることも考慮すると,本件申請に係る運賃が能率的な経営の下における適正な原価を償わないものであると即断することはできない。 (3) 当該事業者の市場の中での位置付け(本件申請を認可することによる市場への影響)(B) ア前記前提となる事実等に加えて,証拠(甲1から3まで,14,30,31,35から39まで,41,44,45,49,乙16,18,21,25から62まで,65から67まで,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 (ア) 原告の本件タクシー事業に関する事情原告は,平成13年3月28日付けで,国土交通大臣からその権限の委任を受けた近畿運輸局長から,事業区域を大阪市,豊中市,吹田市,守口市,門真市,東大阪市,八尾市,堺市及び大阪国際空港(池田市のうち空港地域に限る。),使用する事業用自動車を1両などとして,一般乗用旅客自動車運送事業の許可を受け,同年4月20日から,本件タクシー事業を営んでいる個人タクシー事業者である。 原告が本件タクシー事業において使用する事業用車両は,トヨタのプリウスであり,運賃の適用上は小型車に区分される。燃料の種類はガソリン(ハイブリッド車)である。 原告の営業形態は,タクシー乗り場に並んで客待ちをすることが多く,流し営業はほとんど行っていない。原告の営業場 あり,運賃の適用上は小型車に区分される。燃料の種類はガソリン(ハイブリッド車)である。 原告の営業形態は,タクシー乗り場に並んで客待ちをすることが多く,流し営業はほとんど行っていない。原告の営業場所や営業時間については,午後9時ころに新大阪駅のタクシー乗り場に並び,その後,深夜になると難波周辺(ミナミ)のタクシー乗り場に並ぶことが多く,原告は,本件申請が認可された場合も,同様の営業形態を続けるつもりである。 原告の平成19年度の損益計算書によれば,収益は306万9000円,費用が163万8000円,当期利益は143万1000円とされている。また,原告の輸送実績報告書(平成19年4月1日から平成20年3月31日まで)によれば,実働日数は184日,走行キロは2万7605㎞,うち実車キロは9543㎞(実車率35%)とされている。 原告は,営業努力として,ハイブリッド車による燃料費の節約,ETCの設置のほか,顧客サービス向上のため,文字放送装置や後部座席用 液晶テレビを導入したり,全日空マイレージサービスとの提携を行ったりしている。その他にも,原告は,大型二種免許の取得,手話の習得などを行っているほか,ホームヘルパー等の介護資格の取得等も行っている。また,原告は,個人タクシー組合に加入し,無線配車サービスも利用しているが,固定客による時間指定は営業の足かせになることなどから,固定客獲得のために名刺を渡す営業はあまりしていない。 (イ) 当該運賃適用地域の市場の特性等当該運賃適用地域である大阪市域は,「流し営業」が成り立つ都市部の人口密集地域であり(個人タクシーが許可されるのは「流し営業」が成り立つ地域に限られる。),タクシー乗り場からの乗車等を中心とした営業形態がとられている地域である。 大阪府下のタクシー車両数(平成19年3月末現在,セ (個人タクシーが許可されるのは「流し営業」が成り立つ地域に限られる。),タクシー乗り場からの乗車等を中心とした営業形態がとられている地域である。 大阪府下のタクシー車両数(平成19年3月末現在,セダン型車両のみ)は,全体で2万3089両であり,そのうち,法人タクシー事業者が1万8683両(218社),個人タクシー事業者が4406両(者)である。個人タクシーが全車両数に占める割合は,約19%である。 平成18年9月に財団法人大阪タクシーセンターが実施したアンケート調査によれば,タクシーの利用方法は,タクシー乗り場53.6%,流しのタクシー36.1%,無線配車10.3%であり,タクシー利用目的は仕事29.0%,急用時14.7%,他に交通機関がないとき14.7%であった。また,平成16年2月に国土交通省関東・中部・近畿の各運輸局が実施した調査によれば,大阪地区においては,タクシーの選択基準は,「運賃が安い」58.0%,「運転者のマナーが良い」47.9%であり,東京や名古屋に比べ,「運賃の安さ」を選択基準とする比率が高いという結果が示されている。 (ウ) 当該運賃適用地域の賃金水準等 大阪府内のタクシー運転者の月間平均賃金(賞与等を含む。)は,平成16年度が25万6650円,平成18年度が27万3175円であり,大阪府内の全産業の男性平均の約3分の2であった(大阪府内の全産業の男性平均は,平成16年度が48万4658円,平成18年度が49万4333円である。)。また,大阪府内の全産業男子労働者の月額平均賃金は平成6年からの10年間で約4%下落したのに対し,大阪府内のタクシー運転者の月額平均賃金は約28.4%下落した(ただし,平成12年からはほぼ横ばいである。)。 (エ)当該運賃適用地域の需給事情等大阪府内の法人タクシーの実働1日1 したのに対し,大阪府内のタクシー運転者の月額平均賃金は約28.4%下落した(ただし,平成12年からはほぼ横ばいである。)。 (エ)当該運賃適用地域の需給事情等大阪府内の法人タクシーの実働1日1車あたりの運送収入は,平成6年度が4万1766円,平成16年度が2万8927円(平成17年度が2万9280円)であり,10年間で約3割減少している。また,大阪府内の法人タクシーの実車率は,平成6年度が49.5%,平成16年度が39.5%(平成17年度が42.3%)である。ただし,運賃規制が緩和される前の平成13年度の時点において,既に1日1車当たり運送収入が3万2395円,実車率が43.1%まで低下している。 なお,東京都内の平成16年度実働1日1車当たりの運送収入は4万8115円(平成17年度4万9338円),実車率は43.8%(平成17年度44.8%)である。 大阪市域の地域需給動向は,需給調整規制を実施していた平成12年において既に3546両の供給過剰であり,平成14年3月末から平成19年10月末までの間に2162両増加している(平成14年3月1万3935両,平成19年10月1万6097両)。 平成20年1月末時点において,全国90ブロック中,52ブロックにおいて運賃改定の申請がされ,うち45ブロックにおいて認可されているが,大阪市域は運賃改定のために必要な申請率(法人車両数にして 70%)が55.1%にとどまり,運賃改定は実現していない。 大阪市域交通圏は,下限割れ運賃をはじめとする多種多様な運賃等が設定され,需給ギャップが拡大していること,車両数の増加数が著しいこと,事故件数が全国平均より高いことという状況があったことから,近畿運輸局長は,「特定特別監視地域等において試行的に実施する増車抑制対策等の措置について(平成19年11月 ,車両数の増加数が著しいこと,事故件数が全国平均より高いことという状況があったことから,近畿運輸局長は,「特定特別監視地域等において試行的に実施する増車抑制対策等の措置について(平成19年11月20日付け国自旅第208号)」という通達に基づき,平成19年12月14日付けで大阪市域を準特定特別監視地域として個別指定した。 近畿管区行政評価局は,平成19年10月から11月にかけて,タクシーの安全運送の確保に関する行政評価・監視を実施し,平成20年1月7日,近畿運輸局長に対し,その結果を通知した。その通知には,「タクシー事業については,平成14年2月から需給調整規制の廃止等の規制緩和が行われ,これに伴い,新規参入や増車により車両数が増加し,乗客獲得戦争が激化している。大阪府内のタクシー事業者数,車両数等の平成14年度から18年度の推移をみると,法人タクシーの事業者数は155事業者から213事業者(1.37倍),車両数は16,470台から18,683台(1.13倍)に増加している一方,キロ当たり運送収入は147.69円から141.64円(0.96倍),実働1日1車当たり運送収入は30,780円から29,720円(0. 97倍)にそれぞれ減少している。タクシー運転者の賃金は歩合制が主流であるため,運送収入の減少は賃金の減少に直結しやすく,労働時間を増やすことにより賃金の減少を防ごうとする心理が働き,労働条件が悪化するおそれがある。今回当局が,大阪市内のタクシー待機場所等において,運転者111名から労働条件,賃金等の実情を聴取したところ,16名(14%)の者が最近5年間で拘束時間(使用者の拘束を受ける時間で労働時間と休憩時間の合計時間)が増えたとし,54名(49 %)の者が賃金が減ったとしている。また,3名(3%)の者が過労運転に因る事 %)の者が最近5年間で拘束時間(使用者の拘束を受ける時間で労働時間と休憩時間の合計時間)が増えたとし,54名(49 %)の者が賃金が減ったとしている。また,3名(3%)の者が過労運転に因る事故を起こしたことがあるとし,22名(20%)の者が事故を起こしそうになることがあると回答している。これらのことから,規制緩和による状況の変化がタクシー運転者の業務と生活に大きな影響を与えていることが窺われる実態にある。」と記載されている。 (オ) 低額運賃の認可を受けた事業者の営業実績の推移等①実働1日1車当たりの運送収入(大阪市域)(最低額運賃事業者)平成16年度2万9693円平成17年度2万8031円平成18年度2万8871円(全事業者・法人タクシー事業者)平成16年度2万8927円・2万8356円平成17年度2万9280円・2万8835円平成18年度2万9620円・2万9098円②実働1日1車当たりの総走行距離(大阪市域)(最低額運賃事業者)平成16年度259.8㎞平成17年度242.0㎞平成18年度241.2㎞(全事業者・法人タクシー事業者)平成16年度220.0㎞・222.7㎞平成17年度208.0㎞・208.3㎞平成18年度209.0㎞・208.8㎞③実車率(大阪市域)(最低額運賃事業者) 平成16年度44.68%平成17年度45.23%平成18年度46.42%(全事業者・法人タクシー事業者)平成16年度39.46%・38.35%平成17年度42.29%・41.59%平成18年度42.95%・42.33%④最低額運賃事業者の運送収入が大阪市域全体の運送収入に占める割合平成16年度約1.5%平成17年度約2.9%平成18年度約4.6%⑤ワンコ 平成18年度42.95%・42.33%④最低額運賃事業者の運送収入が大阪市域全体の運送収入に占める割合平成16年度約1.5%平成17年度約2.9%平成18年度約4.6%⑤ワンコイン運賃設定事業者・車両数の推移(大阪市域)平成16年2月13日434両(全体の約1.9%)法人3社173両,個人261者・両平成17年9月末876両(全体の約3.9%)法人11社518両,個人358者・両平成19年3月末1472両(全体の約6.4%)法人21社1030両,個人442者・両平成20年1月末1756両(全体の約7.7%)法人26社1310両,個人446者・両なお,ワンコイン運賃や最低額運賃を設定した法人タクシー事業者は,ほとんどが平成14年度以降に新規参入した事業者であり,一部の事業者を除き,1年間の期限付き認可を受けている。また,下限割れ運賃を設定していたタクシー事業者のなかには,収支が償わなくなったこと等を理由として自動認可運賃に変更した例もある。 また,平成20年1月31日現在の大阪府下の個人タクシー事業者のうち,ワンコイン運賃を設定している事業者は約11.4%(4290者のうち446者)である。 (カ)当該運賃適用地域の事故件数等①大阪市域のタクシーの事故件数平成16年度1万1022件平成17年度1万1269件平成18年度1万0801件②大阪市域の走行100万㎞当たり事故件数(全国平均)平成16年度11.362件(7.946件)平成17年度12.540件(7.390件)平成18年度11.980件(6.990件)平成19年度10.038件③大阪府域における走行100万㎞当たりのタクシーが第一当事者である事故件数平成16年度2.36件平成17年度2.60件平成18 1.980件(6.990件)平成19年度10.038件③大阪府域における走行100万㎞当たりのタクシーが第一当事者である事故件数平成16年度2.36件平成17年度2.60件平成18年度2.45件平成19年度2.36件④大阪府域のタクシーが第一当事者の人身事故件数(大阪府全体の事故件数に占める割合)平成16年度2627件(3.89%)平成17年度2719件(4.11%)平成18年度2582件(4.11%)平成19年度2433件(4.12%)なお,全事故件数に占めるタクシーの事故件数の割合(全国)は, 平成16年度2.85%,平成17年度2.98%,平成18年度3. 01%である。 イ以上によれば,確かに,上記ア(ウ)(エ)の各数値等が示すとおり,原告の営業区域である大阪市域においては,平成12年ころから既にタクシーが供給過剰の状況にあったにもかかわらず,その後もタクシー車両数は増加し続けていること,このようなタクシー車両の供給過剰に伴い,実車率や実働1日1車当たりの運送収入の低下がみられるとともに,歩合制賃金を基本とするタクシー運転者の月額平均賃金も下落し,その水準は全産業男子労働者の月額平均賃金の約3分の2程度まで低下していることが認められ,大阪市域はタクシー運転者の競争が非常に激しい地域であるということができる。また,平成16年度以降,ワンコイン運賃や最低額運賃を設定する事業者が増加し,運賃の値下げ競争も激しくなりつつあるということができる上,大阪においてはタクシーの選択基準として運賃の安さの占める割合が大きいこと(上記ア(イ))も踏まえれば,本件申請が認可されれば,これに追随しようとする事業者がある程度現れるであろうことは,十分に推認することができる。 しかしながら,ワンコイン運賃や最低 る割合が大きいこと(上記ア(イ))も踏まえれば,本件申請が認可されれば,これに追随しようとする事業者がある程度現れるであろうことは,十分に推認することができる。 しかしながら,ワンコイン運賃や最低額運賃の割合が増え,運賃値下げ競争が激化していても,上記ア(カ)のとおり,事故件数の増減との関連性は希薄であり(タクシー台数の増加割合以上に,事故件数が増加していることを裏付けるに足りる数値は見当たらない。),近畿管区行政評価局による調査結果をみても,最近5年間で拘束時間が増えたと回答した運転者は14%にとどまるなど,本件申請に係る運賃設定に追随する事業者が相当数あるとしても,それによって直ちに過労運転の常態化等により輸送の安全の確保を損なうことになるような不当な値下げ競争を引き起こす具体的なおそれがあるということは困難である。また,平成16年度以降,ワンコイン運賃や最低額運賃を設定する事業者が増えているにもかかわらず, 平均賃金の低下や運送収入の減少は以前よりも緩やかであり,かえって,実車率や運送収入は平成16年度から平成18年度にかけて改善していることからすれば,大阪のタクシー市場がこれ以上の価格競争を許容できないほどに危機的な状況にあるとはいい難い。また,最低額運賃を設定する事業者の営業実績も他の事業者と比較して遜色のないものであるし,実車率は全事業者の平均を相当程度上回っており(上記ア(オ)),最低額運賃を下回る運賃を実施することが直ちに利潤を度外視したものということもできない。さらに,ワンコイン運賃や最低額運賃は,平成16年度以降急速に拡大しつつあるとはいえ,それでも車両数全体の約1割にも満たない程度であり,個人タクシー事業者に限ってもせいぜい1割を少し超える程度(しかも,個人タクシーは全体車両数の約2割を占めるにすぎない。 に拡大しつつあるとはいえ,それでも車両数全体の約1割にも満たない程度であり,個人タクシー事業者に限ってもせいぜい1割を少し超える程度(しかも,個人タクシーは全体車両数の約2割を占めるにすぎない。)であって,本件申請が認可されたとしても,過労運転の常態化等による運送の安全の確保を損なうことになるような不当な値下げ競争を引き起こすほどに,多くの事業者がこれに追随するとも考え難い。 しかも,大阪府下のタクシー車両数は全体で2万3000両を超え,都市部の大規模な市場であるところ(上記ア(イ)),原告の事業規模はいわゆる1人1車制の個人タクシー事業であるから,その市場支配力はほぼゼロに近いのであり,上記ア(ア)で認定した原告の営業形態や営業の実態等に照らしてみても,現在認可されている最低額運賃から初乗運賃をわずかに20円値下げする本件申請が認可されたところで,そのことにより当該運賃適用地域の市場全体に大きな影響を及ぼし,過労運転の常態化等により輸送の安全の確保を損なうことになるような不当な値下げ競争を引き起こす具体的なおそれがあるとは到底いうことができない。 (4) 当該運賃等を設定した意図等(C)ア前記前提となる事実等に加えて,証拠(甲3,41,乙6,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 (ア) 原告は,本件申請に当たり,近畿運輸局長宛の理由書(平成14年11月26日受付分)において,「今年2月の道路運送法改正による規制緩和から運賃の自由化が進み低料金のタクシーが出現するにつれ,私のタクシーに乗車されるお客様も少なくなり営業収入も著しく減少しております。一向に景気が回復しない昨今では,私の営業もこのままではままならなくなると考えますし,このタクシー業界の運賃競争を勝ち抜く為にも思いきった策を講じることとしたく り営業収入も著しく減少しております。一向に景気が回復しない昨今では,私の営業もこのままではままならなくなると考えますし,このタクシー業界の運賃競争を勝ち抜く為にも思いきった策を講じることとしたく…運賃変更の申請を致します。」と記載している。 (イ) 原告は,平成15年2月3日,近畿運輸局に対し,本件申請の趣旨等について記載した陳述書を提出した。そこには,「申請人は,規制にあぐらをかいていた体質を反省しつつ同一地域同一運賃に立ち戻り,その中で適正運賃を模索するとともに,運賃以外の部分で競争することが最善であると考えますが,時代の要請として運賃の低額化をするなら,まず全てのお客様にその恩恵が行き届く初乗り・爾後の低額運賃を採用したいと考えました。…こうなると,もはや筋や理想を通す環境になく,現実の環境に即し経営維持を考えなければならず,そのためには,野放し状態の違法営業に参加するか,理屈抜きの運賃競争に参加するしか道は無いというのもまた事実であります。…申請人とすれば,あくまで5,000円超5割引を批判し反対しますので,運賃競争が収束し正常化するまでの過渡的手段として,両方を採用することと致しました。…幸い,私たち個人タクシーは,社屋や非乗務員など余分なお荷物を抱えておりませんので,ここで底力を見せ,MKが1.8㎞500円にこだわったように法人が付いて来れないところまですることによって,必ずや勝利とともに,その向こうに正常化があると確信します。」「初乗り運賃の480円設定は,同業者が参考にしている大阪MKの中型運賃を元に,小型車として初乗りと爾後のそれぞれを設定致しました。MK運賃や他 事業者の運賃を見ますと,小型も基本は同額の500円で爾後のみを安く設定しているようですが,これはお客様にも分かり難く,営業的にもアピールしませ と爾後のそれぞれを設定致しました。MK運賃や他 事業者の運賃を見ますと,小型も基本は同額の500円で爾後のみを安く設定しているようですが,これはお客様にも分かり難く,営業的にもアピールしませんので,現行の中型と小型の差に準じ20円低額化しました。」「安売り競争に参加するなら,法人の追随を許さない設定が必要であると考えました。「個人を本気で怒らせたら,法人は着いて来れないよ」と言うところ迄やって,願わくば不毛の争いに終止符を打ちたいものです。」「本件申請に当たり,認可が容易でないであろうことは想像に難くありませんが,仮に不認可となり,場合によっては司法の場で敗訴の確定判決を得ることになっても,それはそれで一定の最低線が示されることとなり,意味のあることだと考えます。」「認可をいただけることになっても,こう言った運賃を長く続けることは利口な選択とは思えず,収束に向かう動きが感じられたら,早い段階で中止したいと考えております。」などと記載されていた。 (ウ) 原告は,上記のとおり,却下された場合でも一定の最低線を示すこととなり意味があると考えていたが,他の法人タクシー事業者による申請により中型車初乗り料金500円に5000円超5割引を付加する運賃が認可されたことを知って,本件申請が認可されないことに意味はなく,認可されなければおかしいと思うに至った。 イ以上のとおり,原告は,運賃の値下げ競争に対する批判的な考えを有しているものであるが,一方では,そのような激しい競争に自分も参加せざるを得ない状況にあり,これに勝ち抜くために,初乗運賃480円という思い切った運賃を設定したいという気持ちと,他方で,願わくば,安易な値下げ競争が不毛であることを他の事業者に悟らせたいという気持ちや,仮に却下されても一定の最低線が示され,値下げ競争に歯止め という思い切った運賃を設定したいという気持ちと,他方で,願わくば,安易な値下げ競争が不毛であることを他の事業者に悟らせたいという気持ちや,仮に却下されても一定の最低線が示され,値下げ競争に歯止めがかかるという気持ちが半ばしていたものということができる。 このように,原告の本件申請の意図は複雑なものであるが,その運賃設 定は,中型車初乗運賃500円のB等の運賃体系を参考に,自動認可運賃における中型車と小型車の初乗運賃に20円の差があることや,客に与えるインパクト等を考慮して,初乗運賃480円と設定した合理的なものであって,そこには原価や利潤を度外視した運賃設定を行って,他の事業者の事業活動を阻害しようというような意図を見出すことはできない。しかも,原告は,本件申請を契機として,値下げ競争がこれ以上エスカレートしなくなることを期待し,できれば早期に元の運賃に戻したいと希望しているのであるから,本件申請が認可されることによりかえって原告の希望に反する結果となる可能性があるとしても,これをもって不当な競争を引き起こす意図であるということはできない。 ウ他方,近畿運輸局長の意図について考察すると,前判決でも指摘されているように,本件却下処分においては,初乗運賃500円を下回る運賃は法人タクシー事業者の運賃では存在していないことが重視されていたものというべきところ(乙8の6),審査基準公示の改正内容(甲10)や,乙事件が提起された後の個人タクシー事業者の人件費の査定基準に係る被告の主張内容等に照らせば,本件再却下処分においてもなお,上記の点(初乗運賃500円を下回る運賃は法人タクシー事業者の運賃では存在していないこと)が重視されていたものということができる。しかし,前述したとおり,個人タクシー事業者の運賃設定を法人タクシー事業者の運賃 乗運賃500円を下回る運賃は法人タクシー事業者の運賃では存在していないこと)が重視されていたものということができる。しかし,前述したとおり,個人タクシー事業者の運賃設定を法人タクシー事業者の運賃の範囲内にとどめることについては,事業者間の公平を害し,平成12年改正法の趣旨にも反するといわざるを得ないのであり,近畿運輸局長が上記の点を重視したことは,本来重視すべきでない事情をことさら重視するものというほかはない。 しかも,前記認定事実に証拠(乙8の6,57)及び弁論の全趣旨を総合すれば,本件却下処分の際の処分理由において,「現在検証中である運賃水準(最低は初乗り500円)をさらに下回るものを現時点で認可する ことは適切ではない。」とされていること,自動認可運賃の差にもかかわらず,初乗運賃として認可されている最低額は大型車・中型車・小型車ともにすべて500円であること,ワンコイン運賃(初乗運賃500円)を設定する事業者は平成20年で大阪府下全体の約7.7%,個人タクシー事業者の約11.4%にのぼるにもかかわらず,初乗運賃500円を下回る運賃は存在しないこと,前判決後,初乗運賃500円を割り込む運賃申請が行われたものの,その後修正申請されていることなどの事実が認められ,これらからすれば,近畿運輸局長は,その運賃認可の運用として,500円を初乗運賃の最低額ラインとして強く意識していることがうかがわれる。しかし,道路運送法9条の3第2項3号の要件に適合するか否かを判断する上において,不当な値下げ競争を引き起こす具体的なおそれの有無を個別に判断することなく,初乗運賃500円という最低額ラインを設定することは,道路運送法の解釈を離れたものといわざるを得ず,これもまた重視すべきでない事情をことさら重視する誤った運用というほかはない。 (5) ることなく,初乗運賃500円という最低額ラインを設定することは,道路運送法の解釈を離れたものといわざるを得ず,これもまた重視すべきでない事情をことさら重視する誤った運用というほかはない。 (5) 小括以上(A)から(C)の各事情の検討結果からすれば,本件申請に係る運賃が能率的な経営の下における適正な原価を償わないものであると即断することはできない上(A),原告は1人1車制の個人タクシー事業者であって市場支配力はほぼゼロであり,現存する最低額運賃から初乗運賃をわずかに20円値下げする本件申請が認可されたとしても,過労運転の常態化等による運送の安全の確保を損なうことになるような不当な値下げ競争を引き起こす具体的おそれを裏付けるに足りるような事情は見当たらず(B),さらに,原告が当該運賃等を設定した意図は,運賃値下げ競争に批判的なものではあるが,原価や利潤を度外視した運賃設定を行って,他の事業者の事業活動を阻害しようというような意図によるものではなく,かえって,近畿運輸局長 において,本件申請に係る運賃が,法人タクシー事業者において認可されていない運賃であることや,初乗運賃500円という従前の最低額ラインを割り込む運賃であることといった重視すべきでない事情をことさら重視しているとみられること(C)も考え併せれば,近畿運輸局長の本件再却下処分は,道路運送法9条の3第2項3号の基準適合性に係る判断の専門性,技術性及び公益性にかんがみてもなお,社会通念に照らし著しく妥当性を欠いたものといわざるを得ないのであって,その裁量権の範囲を超え又はその濫用があったというべきである。 以上によれば,本件申請が道路運送法9条の3第2項3号の「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること」に該当しないと があったというべきである。 以上によれば,本件申請が道路運送法9条の3第2項3号の「他の一般旅客自動車運送事業者との間に不当な競争を引き起こすこととなるおそれがないものであること」に該当しないとの判断に基づいてされた本件再却下処分は,その裁量権の範囲を超え又はその濫用があったものとして違法であり,取消しを免れない。 本件申請の認可を義務付けることの適否について前記2のとおり,本件再却下処分の取消しを求める原告の請求には理由があるから,本件再却下処分は「取り消されるべきもの」であり(行訴法37条の3第1項2号),本件申請の認可の義務付けを求める訴えは適法である。 そして,前記2で説示したところによれば,本件再却下処分において,道路運送法9条の3第2項3号の要件に適合しないとした近畿運輸局長の判断には裁量権の逸脱又は濫用があったというべきところ,本件再却下処分後の事情に関しては原被告ともに特段の主張立証はなく,現時点において,同法9条の3第2項3号の要件に適合しないとして本件申請を認可しないことは,その裁量権の逸脱又は濫用になると認められる。 したがって,行訴法37条の3第5項に基づき,近畿運輸局長に対し,本件申請の認可をすべき旨を命じるのが相当である(ただし,本件申請の認可に付すべき条件の有無及び内容については,なお近畿運輸局長の裁量判断にゆだね られるというべきである。)。 国家賠償請求について(1) 判断の基礎となる事実関係前記前提となる事実等に加えて,当裁判所に顕著な事実,証拠(甲22から28まで,乙68,69,75から79まで,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 ア当裁判所は,平成19年3月14日,甲事件につき,行訴法37条の3第6項前段に基づき,本件却下処分の取消しを求める請求についての まで,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 ア当裁判所は,平成19年3月14日,甲事件につき,行訴法37条の3第6項前段に基づき,本件却下処分の取消しを求める請求についてのみ認容する前判決をした。被告は,前判決について控訴せず,前判決は確定した。 イその後,原告及び原告訴訟代理人らと,近畿運輸局自動車交通部の担当者数名との間で,数回にわたり交渉が行われた。その際,近畿運輸局の担当者からは,本省(国土交通省自動車交通局旅客課)に本件申請を認可する方向で打診しているが,東京の運賃値上げ問題で本省が多忙であるためか,指示が返ってこない旨の発言がされた。 そこで,原告は,当裁判所に対し期日指定の申立てを行い,平成19年8月1日から平成20年2月15日までの間,4回にわたり,甲事件の義務付けの訴えについて進行協議手続が行われたが,被告は,本省と協議中である旨の対応を繰り返した。 その後,平成20年2月22日,裁判所外において,近畿運輸局の担当者から,原告に対し,同月末までに結論を出すこと,本件申請に対しては却下せざるを得ないこと,処分理由は別途文書で通知することが告げられた。 ウ近畿運輸局長は,平成20年2月27日付けで,本件申請に係る運賃等の変更は道路運送法9条の3第2項3号の基準に適合しないとして,本件再却下処分をした。 エ近畿運輸局長は,前判決から本件再却下処分までの間に,前判決の示した判断基準にのっとって,考慮すべきとされた各種事情につき調査,検討を行った。 また,近畿運輸局長は,審査基準公示の見直しも必要となるという考えのもとに,そのための検討も行った。その際には,審査基準公示は「一般乗用旅客自動車運送事業の運賃料金の認可の処理方針について」(平成13年10月25日国自旅第101号国土交通省自動車 なるという考えのもとに,そのための検討も行った。その際には,審査基準公示は「一般乗用旅客自動車運送事業の運賃料金の認可の処理方針について」(平成13年10月25日国自旅第101号国土交通省自動車交通局長通達,以下「基本通達」という。)に基づいて制定されていることから,基本通達の改正も視野に入れて検討を行った。 具体的には,平成19年4月19日及び同年5月31日,東京地区のタクシー運賃改定に係る内閣府の「物価安定政策会議」が開催され,運賃改定について議論された。これを受けて,同年10月18日,東京地区のタクシー運賃改定に係る「物価問題に関する関係閣僚会議」が開催され,東京地区の運賃改定を認める決定がされた。さらに,「物価安定政策会議」におけるタクシー事業を巡る問題についての指摘や,これを踏まえた上記閣僚会議での決定を受けて,同年12月21日,運賃改定を契機として提起されたタクシー事業を巡る諸問題について検討するワーキンググループが設置されることとなり,そこでは下限割れ運賃の審査基準についても検討される予定であった。そして,同ワーキンググループは平成20年2月に設置されたが,その答申結果は,同年12月ころの予定とされたため,近畿運輸局長は,そのときまで本件申請に対する処分を保留することは相当でないと判断し,現行の審査基準公示の下で,本件再却下処分を行った。 (2) 本件再却下処分の国賠法上の違法性について国賠法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものであ り,ある行政処分がその根拠法規の定める要件を欠くなどして違法であるとしても,そのことから直ちに国賠法1条1項にいう違法があったと 国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものであ り,ある行政処分がその根拠法規の定める要件を欠くなどして違法であるとしても,そのことから直ちに国賠法1条1項にいう違法があったとの評価を受けるものではなく,行政庁が資料を収集し,これに基づき事実を認定し,処分要件に該当するか否かを判断する上において,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と処分をしたと認め得るような事情がある場合にはじめて,国賠法1条1項にいう違法があったとの評価を受けるものと解される(最判平成5年3月11日・民集47巻4号2863頁参照)。 ところで,前判決は,考慮すべき事情を考慮していないことなど近畿運輸局長の判断には裁量権の逸脱又は濫用があるとして,本件却下処分を取り消すこととしたものであるが,前判決の段階で主張立証されていた事情のみでは,当該申請を認可することにより他の一般旅客自動車運送事業者との間において過労運転の常態化等により輸送の安全の確保を損なうことになるような旅客の運賃及び料金の不当な値下げ競争を引き起こす具体的なおそれが認められないということも,その説示内容から明らかである。そうすると,近畿運輸局長は,取消判決の拘束力(行訴法33条1項,2項)に照らし,前判決の趣旨に従って,本件却下処分において考慮されていなかった事情等につきすみやかに必要な調査,検討を行った上で,新たに考慮した事情を中心として,上記具体的なおそれの有無を社会通念に従って判断することが求められていたのであり,これは近畿運輸局長において通常尽くすべき注意義務の内容をなすものというべきである。 以上の観点から本件についてみると,前述のとおり,前判決が本件却下処分において考慮されていないとして指摘した事情や,本件却下処分後の事実関係の変動等をみても,上記具体的 をなすものというべきである。 以上の観点から本件についてみると,前述のとおり,前判決が本件却下処分において考慮されていないとして指摘した事情や,本件却下処分後の事実関係の変動等をみても,上記具体的なおそれを裏付けるに足りるような事情は見当たらないのであり,にもかかわらず,近畿運輸局長は,個人タクシー事業者の人件費を標準人件費の9割をもって査定するという不合理な基準によった上,それに基づく収支率が100パーセントを下回るという点になお 相当の重きを置いて(前判決においても,上記基準に基づいて査定された収支率にかかわらず,本件申請に係る運賃が能率的な経営の下における適正な原価を償わないものであると即断することはできないとされていたのであるから,この点を上記具体的なおそれを裏付ける中心的な根拠となし得ないことは明らかである。),再度,その裁量権の範囲を逸脱し又は濫用して違法に本件再却下処分をしたものである。しかも,前述のとおり,近畿運輸局長において,本件申請に係る運賃が,法人タクシー事業者において認可されていない運賃であり,初乗運賃500円という従前の最低額ラインを割り込む運賃であることといった重視すべきでない事情をことさら重視しているとみられることも考え併せれば,近畿運輸局長が再度裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用してした本件再却下処分は,前判決の趣旨に沿わないものであることはもとより,原告に対し職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然とされたものと評価せざるを得ず,国賠法上も違法であるというほかはない。 (3) 本件再却下処分の遅延と国賠法上の違法性についてこの点,確かに,前判決から本件再却下処分まで約1年が経過しており,その間の近畿運輸局長に対する申請件数や処理態勢等については詳細が明らかでないものの,上記認定のとおり 延と国賠法上の違法性についてこの点,確かに,前判決から本件再却下処分まで約1年が経過しており,その間の近畿運輸局長に対する申請件数や処理態勢等については詳細が明らかでないものの,上記認定のとおり,近畿運輸局長は審査基準公示の見直しや基本通達の改正を視野に入れて検討していたというのであるから,単に本件再却下処分をするために手続上必要と考えられる期間は超えていたものと推認される。しかしながら,前判決が指摘した事情や本件却下処分後の事情を改めて調査,検討し,市場への影響等を総合考慮の上,上記具体的なおそれの有無につき判断するには数か月程度の期間を要することもやむを得ないといえることに加えて,本件申請を認可するとすれば,他の同種申請に対する対応の在り方についても見直しが必要となり,ひいては,審査基準公示の見直しが必要となるから,その基礎となっている基本通達の見直しの動向を 見守っていたという近畿運輸局長の検討方針も社会通念上全く首肯し得ないとまではいえないことを考慮すれば,各種事情の調査,検討や,審査基準公示の見直しの検討のために前判決後本件再却下処分に至るまで約1年間を要したことが,直ちに不合理であるということはできない。 したがって,本件の事実関係の下では,近畿運輸局長において,漫然と長期間にわたり本件申請に対する処分を放置したということはできず,職務上通常尽くすべき注意義務を怠ったものということはできないから,近畿運輸局長が前判決から本件再却下処分をするまでに約1年間を要した点については,国賠法1条1項の適用上,違法とまではいえない。 (4) 精神的損害(慰謝料)について上記(2)記載のとおり,裁量権を逸脱又は濫用してされた本件再却下処分は国賠法上違法というべきである。そして,上記(2)の説示内容に照らせば,近畿運輸局長には上記 4) 精神的損害(慰謝料)について上記(2)記載のとおり,裁量権を逸脱又は濫用してされた本件再却下処分は国賠法上違法というべきである。そして,上記(2)の説示内容に照らせば,近畿運輸局長には上記違法行為につき過失があると認められる。 そこで,原告が違法な本件再却下処分により被った精神的損害について検討するに,原告は同処分により現実に本件申請に係る運賃による営業活動が妨げられていることに加え,原告は,平成14年11月に申請を行ったものの,平成16年2月に本件却下処分を受けたため,国土交通大臣に対する審査請求及び裁決を経て本件訴訟(甲事件)を提起し,本件却下処分から約3年後にようやく本件却下処分を取り消す旨の前判決を勝ち取ったにもかかわらず,再度原告の期待に反する本件再却下処分がされ,その取消訴訟(乙事件)の提起を余儀なくされたという一連の経緯など,本件の事実関係を総合考慮すれば,その精神的損害に相当する慰謝料は20万円が相当であると認められる。 結論 以上によれば,原告の請求は主文1項から3項の限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから棄却することとし,仮執行宣言は相当でな いから付さないこととして,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第2民事部裁判長裁判官山田明裁判官徳地淳裁判官直江泰輝 (別紙第1)1.適用する営業区域大阪府(ただし,現に許可を受けている区域に限る。)2.距離制運賃(1) 初乗運賃小型車2.0㎞まで480円(2) 加算運賃小型車406mまでごとに80円(3) 時間距離併用運賃小型車時速10㎞以下の運行時間について2分05秒間までごとに80円(4) 運賃の割増及び割引深夜及び早朝割増2割増身体障害者割引1割引知的障害者割引1割引 (3) 時間距離併用運賃小型車時速10㎞以下の運行時間について2分05秒間までごとに80円(4) 運賃の割増及び割引深夜及び早朝割増2割増身体障害者割引1割引知的障害者割引1割引遠距離割引(5,000円を超える金額について)5割引3.迎車回送料金迎車のための回送距離について2㎞を限度として実車扱いとし,初乗運賃額を限度とする。 4.時間制運賃(1) 運賃小型車30分間までごとに1,860円(2) 運賃の割引身体障害者割引1割引知的障害者割引1割引

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