平成13(わ)1092 詐欺被告事件

裁判年月日・裁判所
平成15年9月10日 名古屋地方裁判所
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判決文本文13,259 文字)

主文 被告人Aを懲役6年に,同Bを懲役3年6箇月に各処する。 被告人両名について,いずれも未決勾留日数中570日を上記のそれぞれの刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人Aは,旅館業を営む有限会社Cに運転資金を融資するなどと欺いて,同社取締役であるDから,約束手形の借受けの名目で,同社名義の約束手形を交付させようと企て,被告人Bと共謀の上,平成12年4月27日午後4時30分ころ,愛知県知多郡a町bc番地のd所在の同社駐車場において,被告人Bが上記Dに対し,実際には被告人Aにおいて同社に対し資金融資をする意思がないのにこれがあるように装い,かつ,交付を受けた約束手形は直ちに第三者に譲渡して自己の債務の支払に充てる意図であるのにこれを秘し,「Aが手形を6通貸してほしいと言っている。注射器の事業の話で契約の相手に見せるのに使う。契約の時に見せるだけだ。絶対よそには回さない。契約が済んだら絶対返す。手形を貸せば,Aから5000万でも1億でも貸して貰える。」などと嘘を言い,さらに,同日午後8時ころ,東京都千代田区ef丁目g番h号所在のホテルEi階j号室において,被告人両名が共謀の上,こもごも上記Dに対し,「注射器の事業の契約で突然手形が必要になりました。見せるだけで使ったら返しますから。約束の金も貸します。」,「回さないで耳を揃えて返します。ただ見せるだけです。必ず,約束は守ります。」,「5000万貸しましょう。契約ができてもできなくても約束は守りますよ。」などと嘘を言って,上記Dをしてその旨誤って信用させ,よって,そのころ,同所において,同人から,上記Cが振り出した別紙一覧表記載の額面金額合計1億4000万円の約束手形6通の交付を受け,もって,人を欺いて財物の交付を受けた。 (証拠の標目)(省略)(争点に対する判断)第1 被告人 人から,上記Cが振り出した別紙一覧表記載の額面金額合計1億4000万円の約束手形6通の交付を受け,もって,人を欺いて財物の交付を受けた。 (証拠の標目)(省略)(争点に対する判断)第1 被告人両名の弁解と本件の主要な争点 1 判示事実は,前掲の各証拠を総合して合理的な疑いを入れる余地なくこれを認定しうるところであり,殊に,当時有限会社Cの代表者であったDの第5回,  第6回,第7回及び第8回公判調書中の証人としての各供述部分(以下「公判供述」という。)は,被欺罔者本人の被害状況に関する供述であって,判示事実を裏付けるに足るものである。しかし,被告人両名は,Cの倒産に対する代表者としての自らの責任を逃れ,民事再生手続を有利にするために,自ら了解の上で行った本件手形の振出交付を,騙し取られたものの様に装うために,被告人両名を犯人に仕立て上げて虚偽の供述に及んでいるとして,その信用性を争った。 しかしながら,Dの供述内容は,本件に至るまでDとは面識がなく,利害関係もない関係者らの供述に裏づけられている。また,Dの公判供述の時点では,  既にCについての民事再生手続は再生計画案に対する債権者の同意が得られず再生手続廃止決定により終了し,平成13年4月20日には,破産宣告がされていたものであるから,民事再生手続のために,偽証罪の制裁の危険を冒してまで,Dが本件手形を振り出した責任を偽らなければならない状況にはなかったと認められる。 さらに,被害状況についてのDの供述内容をみても,被告人両名の言動,D自身の気持ちの動き等を含めて,具体的で臨場感に富んでいて,格別不自然さもみられない。 以上の次第で,Dの被害状況についての公判供述に対する被告人両名の主張は理由がなく, 言動,D自身の気持ちの動き等を含めて,具体的で臨場感に富んでいて,格別不自然さもみられない。 以上の次第で,Dの被害状況についての公判供述に対する被告人両名の主張は理由がなく,その公判供述は大筋において信用しうるものである。 2 本件公訴事実に対する被告人両名の各弁解の要旨は次のとおりである。 (1) 被告人Aについて被告人Aは,同被告人がC名義の額面金額合計1億4000万円の約束手形6通(以下「本件手形」ともいう。)を融通手形の借受けの名目で受け取った事実は認める一方,同手形は,Dが同被告人から,行詰まっていたCの営業資金の融資を受けたいがために,同被告人が当時計画していた特許権付きの注射器の製造,販売事業の開業資金の工面に用いられることを承諾の上で,同被告人が支払期日に決済するか同期日までに請け戻して返還する約定の下に振出交付したものであって,同被告人は借受けた手形を決済し又は請け戻し返還する意思を有するとともに,公訴事実記載のような方法でDを欺罔した事実はなく,被告人Bと借受けを名目にDから本件手形を騙し取ることを共謀し実行した事実もないと弁解した。弁護人はこれを受けて,被告人 Aには本件手形を騙し取る意思も,これに基づく欺罔行為もなく,被告人B との間で上記の名目でDを欺いて本件手形の交付を受けることの共謀も存在しないから,被告人Aに本件詐欺罪は成立せず無罪であると主張する。 (2) 被告人Bについて被告人Bは,Dが被告人Aに対して本件手形を振出交付した現場に被告人Bが居合わせ,Dの依頼を受けて,被告人Aの指示する手形要件をチェックライターで記入して,同被告人に交付した事実についてはこれを認める一方 に対して本件手形を振出交付した現場に被告人Bが居合わせ,Dの依頼を受けて,被告人Aの指示する手形要件をチェックライターで記入して,同被告人に交付した事実についてはこれを認める一方で,本件手形の振出交付は被告人AとDとがこれを合意して行ったものであって,被告人Bはこれには全く関与しておらず,被告人Aと借受けの名目でDを欺いて本件手形を交付させることを共謀した事実もなく,これを共同実行した事実もないと弁解する。弁護人はこれを受けて,被告人BがD及び被告人Aから依頼されて,本件手形の作成に協力した事実はあるものの,被告人Aと共謀して本件手形を騙し取る意思も,これに基づいて共同して欺罔行為も行った事実もないので,被告人Bに本件詐欺罪は成立せず無罪であると主張する。 3 本件の主たる争点本件において,判示のとおり平成12年4月27日午後8時ころ,被告人Bによって手形要件が記入され,Dによって完成された本件手形が振り出され,被告人Aに交付された事実,本件手形が同被告人によっては支払期日に決済されず,それまでに請け戻しもされなかった事実は関係証拠により明らかである。 そこで,上記各弁解等からすると,本件の事実認定における主要な争点は,(1) 本件手形が詐取されたものであるか否か① 被告人Aの本件手形金額支払及び返還意思の存否② 本件手形振出交付における欺罔行為の存否及びDにおける錯誤に基づく本件手形交付の有無(2) 被告人両名の本件手形詐取についての共謀の存否及び共同実行の有無であると解されるので,以下に順次検討する。 第2 本件手形が詐取されたものであることについて 1 被告人Aの本件手形金額支払及び返還意思の存否(1) についての共謀の存否及び共同実行の有無であると解されるので,以下に順次検討する。 第2 本件手形が詐取されたものであることについて 1 被告人Aの本件手形金額支払及び返還意思の存否(1) 被告人Aは,Fらに対する借入金等の支払が切迫した状態にはなく,同被告人には手形を騙し取らなければならない動機がなかったと弁解する。 ① 上記Fら関係者の公判供述及び被告人両名の公判供述等の関係証拠によると,被告人Aは平成11年末ころから翌12年3月ころにかけて,台湾国籍を有するGが特許権を有する「永立安全注射器」(発明の名称は,「外部から取付け可能で内部に引込んで自己傾斜する針を備えた注射器」)を日本で製造販売する権利を取得したとして,その事業(以下「注射器事業」という。)資金の名目で融資を募るようになったものの,出資は得られず,同年4月22日には注射器事業資金の名目で,友人のHを保証人として,同月25日に謝礼金1500万円を加えて返済する約束で金6000万円を借り受けたFら債権者に対する合計約1億円の返済の約束が守れなくなったことについての責任を追及され,詐欺行為として警察に出頭することまで要求され,Cの手形を差し入れることを申し出て,Cの代表者Dと称する人物をFらに引き合わせ,同人物がFらに対してこれを約束する旨述べた結果ようやくそれ以上の追及は収まった事実及び同月2 7日被告人Bを介して本件手形を受け取った被告人Aは,直ちに,ホテル Eのレストランで待機していたFに,上記額面金額2500万円の手形4 通を交付し,翌28日には,残る額面金額2000万円の手形2通を上記 Hに交付した事実が認められる。 ホテル Eのレストランで待機していたFに,上記額面金額2500万円の手形4 通を交付し,翌28日には,残る額面金額2000万円の手形2通を上記 Hに交付した事実が認められる。 ② 被告人Aは,Fらの公判供述の信用性を争うが,同被告人自身も,当てにしていた注射器事業に対する出資契約が成立せず,Fらに約束していた4月26日の借入金の返済ができなくなったことについての責任を同人らから追及されていた事実,Cの手形を差し入れる旨を申し入れた上,Cの代表者を引き合わせて同人から手形の差し入れを承諾する意思表示がされて,Fら債権者の請求が収まった事実はこれを認めているところであって, Fらのこの点についての公判供述と符合している。また,Fら債権者及び Hの各供述は相互に大筋で符合しているとともに,同人らがこの点について殊更虚偽の供述をする理由は窺えず,各供述内容に格別不自然な点もないことに照らし,信用性に欠けるところはない。 ③ 被告人Aの公判供述によっても,同被告人がFら債権者にCの手形を差し入れる旨の申し入れをした段階では,同被告人とDとは直接の面識はなく,Dが同被告人の債務の支払のために手形を振り出す旨の合意等は成立していなかったことが認められる。 ④ 更に,被告人Aは,本件の犯行当時,他に注射器事業についての出資が得られる見込みがあり,これによって,本件手形債務の支払及び請け戻しは可能であった旨の供述をする。 (2) しかしながら,関係証拠によると,本件犯行当時の被告人Aの注射器事業の状況は,かつて共同して不動産売買の仕事をしたり,相互に金銭の貸借をするなど親しい関係にあった被告人B 。 (2) しかしながら,関係証拠によると,本件犯行当時の被告人Aの注射器事業の状況は,かつて共同して不動産売買の仕事をしたり,相互に金銭の貸借をするなど親しい関係にあった被告人Bも被告人Aから出資者の紹介を依頼され,見返り等を期待して知り合いを紹介するなど協力したが,その知り合いも資金提供を断るなど,事業資金の捻出は思うに任せなかったこと,そこで, 平成12年4月7日,被告人Aは,神戸市内の金融業者に対し,上記注射器の製造販売権を買い戻し特約付きで譲渡して融資を得ようとしたものの,融資は得られず,上記のとおり,同月22日には多額の謝礼を支払うことを条件に,友人のHの保証の下にFから6000万円を借り受けたこと,被告人 Aは,前項のFからの借入金等の返済原資として,同月25日に締結を見込んでいた宇都宮市在住の医師Iからの上記注射器事業への出資契約に基づく出資金1億円を当てにしていたものの,同医師の側では被告人Aが上記注射器製造販売権を有する証拠として提示した,同注射器の「特許権譲渡並びに専任使用権契約書」が偽造されたものであると判明したこと等から当初から契約締結の意思はなく,同月25日の予定を1日延期した同月26日の契約日には同医師側は出席しなかったこと等の事実が認められる。また,被告人 Aが出資を受ける見込みであったと述べる相手方はこれを否定しており,同被告人の述べる見込みの根拠は曖昧で,到底確実にその履行が見込まれる状況にあったとはいえないところである。 (3) これらの事実によると,本件の犯行当時,被告人Aは合計約1億円にのぼる債務支払に窮し,そのためDの同意もないまま同額相当のCの手形を入手する必要に迫 いえないところである。 (3) これらの事実によると,本件の犯行当時,被告人Aは合計約1億円にのぼる債務支払に窮し,そのためDの同意もないまま同額相当のCの手形を入手する必要に迫られていたこと,このような多額の手形債務を支払い,請け戻すための資金を工面できる確実な見込みがなかったことは明らかである。被告人Aの上記弁解は信用できない。 2 本件手形振出交付における欺罔行為の存否及びDにおける錯誤に基づく本件手形交付の有無(1) 被告人Aは,Dに対して,本件手形を借り受けるに際して,注射器事業の契約のため契約相手に示すだけで他に譲渡しないと申し向けたことはなくDは同被告人から5000万円の融資を受ける目的で,注射器事業の資金繰りのため,本件手形が他に譲渡されることを承諾の上,支払期日までに決済資金を払い込むか,本件手形を請け戻して返還するとの約束の下に,同被告人に本件手形を振出交付したものであって,同被告人には手形金額支払及び返還の意思があったと弁解する。 ① Jの検察官調書及びDの公判供述によると,被告人両名がこもごも判示のとおり,本件手形は注射器事業の契約のため相手方に示すだけで他に譲渡せず,契約締結後には直ちに返還すると申し向けた事実が認められる。 ② 被告人Aは,上記Jの検察官調書及びDの公判供述の信用性を争っているが,Jは本件当時同被告人の下で働いていた人物で,存在しない事実をねつ造してまで同被告人に不利な供述をする理由はなかったと認められること,犯行当時Jが同被告人,被告人B及びDと行動を共にしていた点は全員が一致していること,その内容も具体的で臨場感に富んでいることからみて信用しうるも なかったと認められること,犯行当時Jが同被告人,被告人B及びDと行動を共にしていた点は全員が一致していること,その内容も具体的で臨場感に富んでいることからみて信用しうるものである。そうするとDの公判供述は,概ね上記Jの検察官調書によって裏付けられ,Dが資金が乏しい中で,更に多額の手形債務を負担するに至る行為に及んだ理由の説明としても了解可能であることに照らし信用しうるところである。 ③ これに比して,上記の被告人Aの弁解は,上記信用性のある各証拠と相反している上,当時の注射器事業計画の進捗状況に照らして不自然であること,後日Dらから本件手形の返還を求められた際に,被告人Aが事実に反して,これを他に譲渡してはいない旨述べていることからも不合理で信用できない。 (2) 被告人Aは,Fら及びDには別人ではなく,それぞれ本人同士を引き合わせたものであって,これに反するFら及びDの公判供述は虚偽であると供述する。 ① 関係証拠によると,Fらは平成12年4月26日午後7時ころ,Dと称する人物を,Dは同月27日昼前ころに,注射器事業の契約の相手方としてF及びNと称する人物を,それぞれ被告人Aから引き合わされ名刺交換もしたが,実際の同人らとは別人であることが後日判明したことが認められる。 ② 被告人Aは,上記のとおり,FらとDを引き合わせた事実は間違いなく, その際交換された名刺を見ても明らかなとおり,本人同士を引き合わせたと供述している。 ③ しかしながら,Fらは被告人Aに対して債権こそ有しているものの,犯行当日D自身を引き合わされたか否かについて,故意に事実に反する供述 を引き合わせたと供述している。 ③ しかしながら,Fらは被告人Aに対して債権こそ有しているものの,犯行当日D自身を引き合わされたか否かについて,故意に事実に反する供述をしなければならない必要が見出しがたいこと,引き合わされた人物の人相特徴についての供述に具体性があること等に照らして信用でき,また,Dのこの点の供述についても,同様にこの点で故意に虚偽の供述をする必要がないこと及びD自身には引き合わされていない旨のFらの供述が裏付けているところからして信用しうるものである。そうすると,Fらが被告人AにDと称する人物を引き合わされていた時間には,Dはまだ東京には到着していなかったことが明らかであるから,同被告人の弁解には理由がない。 ④ 被告人両名は,Dが名刺交換の際に渡した名刺の特徴から,D本人がFらに会って手形を振り出すことを承諾したことが明白であると主張する。 しかしながら,Dと被告人両名との交際状況から見れば,上記の名刺の存在をもって,引き合わされた人物はD自身でしかありえないとすることはできない。 (3) 被告人Aは,本件犯行当時,本件手形債務を支払い,請け戻して返還する意思があったとしながら,現実にはこれを実行していない理由については合理的な説明をしておらず,犯行後の同年5月2日,D及びCの従業員であるKが,上記契約に基づく1500万円の融資の履行又は手形6通の返還を求めて上京して,同被告人と話し合った際には,既に手形6通をFらに対する債務の支払のために譲渡していたのにこれを隠して,未だ同被告人の手元にありいつでも返還可能である風を装っていた。 3 以上の認定事実及び 人と話し合った際には,既に手形6通をFらに対する債務の支払のために譲渡していたのにこれを隠して,未だ同被告人の手元にありいつでも返還可能である風を装っていた。 3 以上の認定事実及び関係証拠から争いなく認定しうる事実を総合すると,被告人Aは,同被告人のFらに対する借入金の返済資金として当てにした平成12年4月26日に見込んでいた注射器事業に対する出資金が入らなくなり,同人らからその責任を追及され,詐欺事件として警察沙汰にする意思をも示されて,この窮地を免れるために,被告人Bを通じて手形割引による営業資金の捻出依頼を受けていたCの手形を手に入れ,これを支払のために差し入れることを企て,被告人Bを通じて,注射器事業に関する契約を締結するために,契約相手を信用させるために示す手形が急遽必要になった風に装って,Dに対して本件手形の借受けを依頼し,不安を示すDを,被告人両名が協力して,上記注射器事業についての契約相手を信用させるために見せる手形であり,他に譲渡はせず,契約締結後には直ちに返還する旨の虚偽の事実を告げるとともに,手形を貸して貰えれば多額の融資ができる旨の甘言を弄して,Dをしてこれを誤って信用させ手形の借受けの名目で本件手形6通を交付させたものと認めるのが相当である。 第3 被告人両名の本件手形詐取についての共謀の存否及び共同実行の有無 1 被告人両名は,いずれも判示認定の共謀事実を否認し,殊に被告人Bは,本件手形の振出交付は,Dと被告人Aが平成12年4月26日深夜飲食に出かけた際に,被告人Bの関与しないところで合意したもので,同被告人は被告人Aから命じられて,手形用紙を取りに愛知県知多郡に戻るDに同行したものにすぎないと弁解した。しかしながら,本件手 かけた際に,被告人Bの関与しないところで合意したもので,同被告人は被告人Aから命じられて,手形用紙を取りに愛知県知多郡に戻るDに同行したものにすぎないと弁解した。しかしながら,本件手形の貸し付けについて,Dと被告人Aの二人の間で同日の深夜飲食に出かけた際に,被告人Bの関与しないところで合意がなされたという点については,利害関係が相反しているD,被告人Aのいずれもが一致して否定しているところ,その根拠についてのそれぞれの供述はいずれも当時の状況に符合していること及び被告人Aは,上記のとおり被告人Bとの共謀を否認しているにもかかわらず,その理由についての同被告人の弁解とは敢えて異なる供述をしているものであることからして,同被告人の上記弁解を否定するD及び被告人Aの供述は信用できる。また,関係証拠から認められる,同日以降の,被告人Bの本件手形に関連する言動に照らすと,  上記弁解は不合理かつ不自然といわざるを得ない。したがって,同被告人の上記の弁解は信用できない。 2 一方,被告人Aは,本件手形の貸し渡しは,平成12年4月27日の午前中に,同被告人とDとの間で合意され,これに基づいて実行された同被告人の計画中の事業に伴う手形の貸借であって,同被告人が被告人Bとの間で,これについて共謀して実行した事実はないと弁解する。しかしながら,上記の弁解については,相互に利害が反するD及び被告人Bがいずれもこれと食い違う供述をしている上,同日夜のホテルEにおける本件手形振出交付状況についての上記Jの供述及びこれに裏付けられたDの供述とも矛盾していることに照らすと信用できない。 3 以上のとおり,被告人両名が共謀についての根幹となる点について,事実と異なる弁解をしている 上記Jの供述及びこれに裏付けられたDの供述とも矛盾していることに照らすと信用できない。 3 以上のとおり,被告人両名が共謀についての根幹となる点について,事実と異なる弁解をしていることからみると,被告人両名は本件手形の詐取についての共謀の点について,いずれも自己の刑責を免れる目的で真実を語っていないと認められ,その成立の経過は必ずしも明らかにされてはいないので,本件手形交付に関わる被告人両名の言動を総合して,その時期及びその内容を推認することとする。 4 関係証拠によると,被告人両名の共謀の存在を推認させる次のような事実が認められる。 (1) 被告人両名は,不動産業を共同して営んだり,相互に金銭を融通し合う親しい間柄にあった。その上,被告人Aが注射器事業を企てるに当たっては,同被告人から相談を受けて,被告人Bは出資が得られた場合の見返りを期待して,スポンサーとなる金融業者を紹介するなどしたものの,紹介した業者が出資を断ったこと等から,被告人Aの計画していた注射器事業の実情は認識していた。 (2) また,被告人Bは,知人のLの紹介によりDと知り合った後,Dから聞いたCの資金繰りの実情を,Cのために手形の割引先の紹介を依頼した際等に被告人Aに話していた。 (3) 被告人Bは,平成12年4月26日ころ,これ以前に1000万円ほどの手形の割引先の紹介を依頼していた被告人Aから,額面500万円の手形2通を持参するよう指示を受け,Dに対し1000万円程度の手形割引の方法による融資が受けられるかも知れないと説明して,額面金額500万円の手形3通を振り出して被告人Bに預けるようにもちかけた。被告人Bは,これを信用して,振り出したC名 手形割引の方法による融資が受けられるかも知れないと説明して,額面金額500万円の手形3通を振り出して被告人Bに預けるようにもちかけた。被告人Bは,これを信用して,振り出したC名義の額面金額500万円の手形3通を持ったDを伴って上京するにあたって,被告人Aと連絡をとって到着時刻を打ち合わせ,指示された同日午後11時過ぎに到着するように時間を調整した。被告人Aは,これに先立つ,同日午後7時ころ,Mホテルにおいて,上記のとおりFらからの責任追及を免れるため同人らに対する負債等合計1億円を上記 C振出しの手形で支払う旨の申し出をし,Dと称する人物を,F及びNに引き合わせ,その人物が間違いなく上記の手形を振出交付する旨を言明したことによってF及びNにこれを信用させ,一旦その場の追及を収めさせた。その際,Hは,被告人Aに対し,上記手形とは別に額面金額2000万円の手形2通合計4000万円分を交付するように要求し,同被告人はこれを承諾した。 (4) 翌4月27日午前9時過ぎ,同ホテルk号室を訪ねた被告人Aは,Dに対して,被告人Aが上記のとおり,注射器の製造,販売権をもっていて,これを事業化するための契約もほぼ決まっており,間もなく数十億円が手に入るなどの虚偽の事実を申し向けるとともに,偽造された契約書を真実のものとして示した。これによって,同被告人が大口の事業を計画している事業家と信じたDは,被告人Aに対し5000万円の事業資金の融資を申し込むと,同被告人は融資に応じることは承諾した上,Dに対し,注射器事業への出資者としてF及びNと称する人物を引き合わせた。 (5) 上記の融資が翌28日にならないと実行できないことを被告人A 同被告人は融資に応じることは承諾した上,Dに対し,注射器事業への出資者としてF及びNと称する人物を引き合わせた。 (5) 上記の融資が翌28日にならないと実行できないことを被告人Aから告げられたDは一旦愛知県知多郡に戻ることになったが,被告人Bは被告人Aから指示を受けてDに同行し,同日午後3時ころ名古屋市内で一旦Dと別れた被告人Bは,同日午後4時30分ころ,愛知県知多郡のCにDを訪ね,同駐車場において,同人に対し,「AがCの手形が6枚ほしいと言っている。」旨を申し向けた。Dがこれを断ると,被告人Bは,更に,Dに対し,「注射器の事業で契約の相手方に見せるのに使うので,絶対によそには回さない。 手形を貸せばAから5000万でも1億でも貸してもらえる。」などと言って,被告人Aに手形を貸すように勧め,結局これを信用したDに同被告人にCの手形を見せ手形として貸すことを決意させ,直ちに,Cの手形帳と銀行印を持参したDを同行させて再度上京し,同日午後8時ころJR東京駅近くのホテルEj号室で,被告人Aらと落ち合った。 (6) 被告人Aは,同室内で,Dに対し,改めて「注射器の契約で,突然手形が必要になりました。見せるだけで返します。約束の金も貸します。」などと嘘を言って,Dにこれを信用させてCの手形の振り出しを決意させ,被告人Bが,Dから同人の持参した手形用紙6枚を受け取って,被告人Aが上記Jに指示して予め用意させたチェックライターを使用して,同被告人の指示に従って,額面金額2500万円の手形4通及び額面金額2000万円の手形2通(額面金額合計1億4000万円)を完成させた。 (7) これを見ていたDは,上記のとおり巨額の手形を振 指示に従って,額面金額2500万円の手形4通及び額面金額2000万円の手形2通(額面金額合計1億4000万円)を完成させた。 (7) これを見ていたDは,上記のとおり巨額の手形を振り出すことに不安を抱いて,被告人両名に上記手形6通の返還を求めたが,これに対し,被告人Bは,「手形は回さない。ただ見せるだけで耳を揃えて返す。契約が取れたら大金が入る。」などと言って,Dの不安を打ち消すことに努め,一方,被告人Aは,Dに対し,「5000万貸しましょう。契約ができてもできなくても約束は守ります。」などと甘言を弄して,Dがこれを応じるように仕向け, Dは被告人両名の上記説明が真実であると誤って信用し,本件手形6通を被告人Aに貸し渡すことを承諾した。 (8) さらに,翌28日朝になって,改めて本件手形の返還を求めてきたDを納得させるため,被告人Bは,支払期日までには決済資金を払い込むか,請け戻して返還することを約束する内容の書面及び被告人AがDに対し,同年5月2日に1500万円,同月17日に3500万円を融資することを約束する内容の文書を作成し,被告人Aがこれに押印してDに交付した。 (9) 同年5月2日,D及びCの従業員であるKが,上記契約に基づく1500万円の融資の履行又は手形6通の返還を求めて上京して,被告人Aと同人らが話し合った際には,被告人Bは,被告人Aが既に手形6通をFらに譲渡していることを認識しながら,これを隠して,未だ被告人Aの手元にありいつでも返還可能である風を装い,さらに,同月5日Cを訪れた被告人Bは,同様に本件手形がまだ被告人Aの手元にあり,いつでも返還できるように見せかけた。 5 上記の認定事実を総合し つでも返還可能である風を装い,さらに,同月5日Cを訪れた被告人Bは,同様に本件手形がまだ被告人Aの手元にあり,いつでも返還できるように見せかけた。 5 上記の認定事実を総合して検討すると,被告人両名には,遅くとも,4月27日午後8時すぎころ,ホテルEj号室で本件手形を作成の上,ためらっていたDを被告人両名がこもごも説得してこれを納得させて,被告人Bを通じて被告人Aがその交付を受けた時点では,被告人両名の間に,判示の態様によるDからの本件手形6通を詐取する共謀が成立していたと認めることができる。 第4 以上の次第であって,被告人両名の共謀による,公訴事実記載の犯行は,合理的疑いを入れる余地なく認定しうるところである。 (法令の適用) 1 罰条それぞれ刑法60条,246条1項 2 未決勾留日数の算入それぞれ同法21条 3 訴訟費用(不負担) それぞれ刑訴法181条1項ただし書(量刑上特に考慮した事情)第1 被告人両名に共通の事情 1 不利に働く事情(1) 被害にあった6通の手形金額は合計1億4000万円にも及んでいて誠に多額である。この手形の不渡りが直接のきっかけとなってCが倒産に追い込まれており,その被害は重篤である。 (2) 犯行は計画的で犯情が悪質である。 (3) 動機に酌量の余地はない。 (4) それぞれ不合理な弁解に終始しており,反省の情が認め難い。 2 酌むべき事情Dにもつけ込まれる無思慮な行動が見られた。 第2 各被告人の個別の情状 1 被告人Aについて不利に働く事情(1) 自己の窮状を免れる目的で,本件犯行を企て,実行したもので,主犯としての役割を果たした。 (2) た。 第2 各被告人の個別の情状 1 被告人Aについて不利に働く事情(1) 自己の窮状を免れる目的で,本件犯行を企て,実行したもので,主犯としての役割を果たした。 (2) 被告人Bを巻き込んだ面もある。 (3) 罪種こそ異なるものの,犯行当時は刑の執行猶予中であった。 2 被告人Bについて(1) 不利に働く事情① Dからの信用を悪用して,自らの利も図り,親しい被告人Aの利益のために犯行に加わったもので,その面でも犯情は良くない。 ② 被告人BがDの本件手形の交付意思の形成に果たした役割は大きい。 (2) 酌むべき事情① 被告人Aに巻き込まれた一面も否定できない。 ② 直接の利益は享受していない。 ③ 前科がない。 第3 そこで,以上の各事情を総合考慮して,被告人両名を実刑に処して,その償いをさせることとする一方,求刑を下回る量刑をすることとしたものである。 (求刑被告人Aにつき懲役8年,同Bにつき懲役6年)平成15年11月5日名古屋地方裁判所刑事第5部裁判官伊藤新一郎(別紙)一覧表 1 振出日平成12年4月27日手形番号 AA102518金額 2500万円振出人有限会社C 代表取締役 D支払期日平成12年5月25日支払場所 O信用組合l支店 2 振出日平成12年4月27日手形番号 AA102519金額 2500万円振出人有限会社C 代表取締役 D支払期日平成12年6月25日支払場所 O信用組合l支店 3 振出日平成12年4月27日手形番号 AA102520金額 2500万円振出人有 D支払期日平成12年6月25日支払場所 O信用組合l支店 3 振出日平成12年4月27日手形番号 AA102520金額 2500万円振出人有限会社C 代表取締役 D支払期日平成12年6月25日支払場所 O信用組合l支店 4 振出日平成12年4月27日手形番号 AA102521金額 2500万円振出人有限会社C 代表取締役 D支払期日平成12年7月25日支払場所 O信用組合l支店 5 振出日平成12年4月27日手形番号 AA102522金額 2000万円振出人有限会社C 代表取締役 D支払期日平成12年5月30日支払場所 O信用組合l支店 6 振出日平成12年4月27日手形番号 AA102523金額 2000万円振出人有限会社C 代表取締役 D支払期日平成12年6月30日支払場所 O信用組合l支店以上

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