令和6年8月5日宣告令和5年(わ)第1364号殺人未遂被告事件(裁判員裁判)判決 主文 被告人を懲役7年に処する。 未決勾留日数中120日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)分離前の相被告人Aは、指定暴力団B会(以下「B会」という。)副理事長及びB会C組(以下「C組」という。)三代目組長であった者、同Dは、C組E興業(以下「E興業」という。)組長であった者、被告人は、E興業組員であった者である。 Aは、B会と対立抗争中であった指定暴力団F会(以下「F会」という。)副会長(以下「対象者」という。)を殺害しようと考え、C組傘下の組員らに対象者の自宅等を調査するよう指示したところ、Dを含む同組員らは、調査の過程で、無関係な一般人であるGを対象者と誤認してその自宅を特定するに至った。Dは、平成22年2月中旬の2日間、被告人を含むC組傘下の組員らを指揮してG方まで尾行する練習をしたが、その際、被告人は、Dから対象者が標的となっていることを聞いた。 その上で、Dは、同月20日昼過ぎ頃、被告人に対し、今から自分が対象者を銃撃しに行くので、一緒に来て逃走の際にバイクを運転するよう指示し、被告人は、これを了承した。そして、被告人は、Dの運転する自動車でG方に近づき、途中同車に積んでいたバイクに乗り換え、Dの運転でG方付近まで移動し、Dから銃声が聞こえたら迎えに来るよう指示を受け、Dは、徒歩でG方まで向かい、被告人は、G方付近で待機した。 このようにして、被告人は、A、Dと順次意思を通じ合って対象者殺害の共謀を遂げた上、同日午後5時頃、福岡県三潴郡a町大字bのG方車庫付近において、Dが、対象者と誤認したG(当時▲▲歳)に対し、殺意をもって、自動装てん式けん と順次意思を通じ合って対象者殺害の共謀を遂げた上、同日午後5時頃、福岡県三潴郡a町大字bのG方車庫付近において、Dが、対象者と誤認したG(当時▲▲歳)に対し、殺意をもって、自動装てん式けん 銃で弾丸7発を発射し、そのうち3発を同人の右足に命中させたが、同人に加療約12週間を要する右脛腓骨遠位部開放性粉砕骨折、右下腿遠位部貫通創、右脛骨粗面部裂創及び右大腿遠位部貫通創の傷害を負わせたにとどまり、殺害の目的を遂げなかった。 (争点に対する判断)本件の争点は、被告人に殺人未遂の共謀共同正犯が成立するか、幇助犯にとどまるかである。 平成18年頃からB会とF会との間で抗争が勃発し、多数のけん銃や刃物等による殺人、殺人未遂事件等が発生しており、本件は、その抗争の一環として、B会の二次団体であるC組組長のAによる指示の下、F会副会長である対象者の銃撃を計画し、犯行の約3か月前から、C組傘下の暴力団組員らが対象者の身辺調査をした末に、結果的には本件被害者の自宅を対象者のそれと誤認して特定し、犯行の数日前には2日間、複数の組員らが無線等で連絡を取りながら自宅まで尾行する練習をし、けん銃や移動用の自動車、逃走用のバイク等を用意した上、犯行後にはそれらを処分するなど、組員らが各自の役割を分担し、組を挙げて組織的かつ計画的に行われたものである。 このような本件の犯行計画全体の中にあって、被告人は、Dから指示されて、判示のとおり、実行犯であるDが犯行直後に犯行現場から立ち去るためのバイクの運転手役を引き受け、実際に犯行直後には、指示どおり、銃撃を終えたDをバイクに乗せて逃走している。抗争相手の暴力団幹部を銃撃して殺害するという計画を確実に実行するためには、銃撃の際、相手側組織からの反撃を避ける必要があり、実行犯の発覚を防ぐためにも、犯行現 えたDをバイクに乗せて逃走している。抗争相手の暴力団幹部を銃撃して殺害するという計画を確実に実行するためには、銃撃の際、相手側組織からの反撃を避ける必要があり、実行犯の発覚を防ぐためにも、犯行現場から迅速に立ち去り、逃げ切る必要がある。Dが、周辺で待機し、銃撃後、直ちにバイクで迎えに来てくれる人物を求めた理由も、そこにあるといえる。そして、当時、E興業の配下組員2名のうちバイクを運転できるのは被告人だけであり、この役割を任せられるのは被告人以外にいなかった。しかも、Dとしては、組織内の親子の杯はもちろん、養子縁組までして 自分を慕い、命令通りに手足として動いてくれる被告人だからこそ、そうした役割を確実に果たしてくれ、後から警察等に口外することもないと考え、安心してその役割を任せられ、銃撃に及ぶことができたと考えられる。このように見ると、被告人が果たした役割は、代替性に乏しく、Dが犯行を実行する上で重要なものであったと評価できる。 他方で、上記計画を発案したのは上位組織の組長であるAであり、計画を具体化していったのはDら組織の上位者等であって、被告人の関わり方は、従属的なものであった。とはいえ、被告人は、B会傘下のE興業の一員として、対立抗争が激化している状況を十分に認識した上、犯行の数日前には複数の組員らと共に無線等で連絡を取りながら対象者を自宅まで尾行する練習に参加し、その際、Dから対象者が標的となっていることを聞くなどして、上記計画の内容も大まかには把握していた。このような前提があるからこそ、被告人は、犯行当日Dから指示を受けた際、上記計画の中で自己が果たす役割の意味を即座に理解し、断るという選択肢を思い浮かべることなく了承し、指示どおりの役割をスムーズに果たすことができたといえる。被告人は、自ら実行犯になって矢面に立 際、上記計画の中で自己が果たす役割の意味を即座に理解し、断るという選択肢を思い浮かべることなく了承し、指示どおりの役割をスムーズに果たすことができたといえる。被告人は、自ら実行犯になって矢面に立つことには消極的であったことがうかがわれるが、当時の激化する抗争状況の下、B会等の上位組織や自己の所属するE興業、親と慕うD組長のため、ひいてはそうした組織に所属する自己の面目を保ち、立場を維持するために、本件犯行に関与したものと認められる。 以上によれば、暴力団組織の一員として上記のような認識で本件犯行に関与し、重要な役割を果たした被告人について、他人の犯罪を手伝ったにすぎないという評価は不当であり、組織と一体となって自分たちの犯罪として行ったと評価するのが相当であって、幇助犯ではなく共謀共同正犯が成立する。 (量刑の理由) 1 本件は、抗争中の暴力団組織の組長による指示の下、抗争相手の暴力団幹部を標的にして、前記のとおり各自が役割を分担して、組織的かつ計画的に行われた銃撃殺人未遂の事案である。その犯行は、反社会的な動機に基づく、人の生命を奪 う危険性が高い悪質なものである。しかも、本件においては、あろうことか標的を誤認した結果、全く無関係の一般人が自宅で銃撃されて生命の危険にさらされた上、重傷を負うという重大な結果が生じた。被害者は、幸いにも一命を取り留めたとはいえ、肉体的にも精神的にも多大な苦痛を受けており、被告人に対する厳罰を望んでいるのも当然といえる。地域社会に対し強い恐怖を与えた社会的影響も大きい。 被告人は、暴力団組織の一員として、組のためはもとより、自己の面目を保ち、立場を維持するためにも本件犯行に関与し、逃走の際の運転手役という重要な役割を果たしているから、相応の責任を負うべきである。もっとも、首謀者のAや実行 として、組のためはもとより、自己の面目を保ち、立場を維持するためにも本件犯行に関与し、逃走の際の運転手役という重要な役割を果たしているから、相応の責任を負うべきである。もっとも、首謀者のAや実行犯のDに比べると、立場も下で従属的な関与にとどまり、その刑事責任は軽いといえる。 このような犯情からすれば、同種事案(殺人、組織的な動機、処断罪と同一又は同種の罪の件数1件)の量刑傾向の中では、中程度である懲役12年よりやや軽い部類に位置付けられる。 2 その上で、本件は、事件発生から10年以上を経て再捜査が行われ、起訴に至ったところ、被告人が、捜査の途中から、抗争と無関係な被害者を巻き込んで重傷を負わせたことを悔いて自白し、公判に至るまで、組関係者から報復を受ける恐怖を乗り越えて、上位者であるDらの関与も含めて具体的に供述し、暴力団による組織的な犯罪の事案解明に大きく貢献したことは、刑を決めるに当たって十分に考慮されるべきである。また、被告人は、平成27年に既に自らの意思で組を脱退した上、本件においても、被害者に謝罪文を送付するなど、反省の態度を示しており、情状証人として出廷した内妻も幼子と共に被告人の社会復帰を待ち望んでいる。 3 以上の検討に加え、本件が確定裁判前の余罪であることも一定程度考慮した上で、主文の刑を導いた。 (検察官の求刑・懲役9年、弁護人の科刑意見・幇助犯の認定を前提に懲役3年程度)令和6年8月5日 福岡地方裁判所第1刑事部 裁判長裁判官今泉裕登 裁判官志田健太郎 裁判官星野徹 田健太郎 裁判官 星野徹
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