令和1(ネ)4926 損害賠償請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
令和3年3月22日 東京高等裁判所 その他 東京地方裁判所 平成30(ワ)2986
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判決文本文13,282 文字)

主文 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は,控訴人に対し,1320万円及びこれに対する平成28年1月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用は,原審及び当審を通じてこれを5分し,その2を控訴人の負担とし,その余を被控訴人の負担とする。 5 この判決は,第2項及び第4項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は,控訴人に対し,2150万円及びこれに対する平成28年1月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要(略称は原判決のものを用いる。) 1 本件は,Aが共犯者らとともに行ったいわゆる振り込め詐欺(本件詐欺)によって1150万円をだまし取られた控訴人が,当時Aの所属する指定暴力団稲川会(稲川会)の会長であった被控訴人に対し,暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(暴対法)31条の2本文又は民法715条1項に基づき,詐欺により控訴人が被った損害賠償金合計2150万円(財産的損害1150万円,慰謝料500万円及び弁護士費用500万円)及びこれに対する平成28年1月27日(最後の不法行為時)から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 2 原審は,Aが暴対法31条の2本文に規定する「威力利用資金獲得行為」を行うについて本件詐欺をしたものとも,稲川会の事業として本件詐欺をしたものとも認められないとして,暴対法31条の2本文及び民法715条1項に基 づくいずれの請求も棄却する判決(原判決)をした。これに対し,控訴人が控訴をした。 3 前提事実,争 件詐欺をしたものとも認められないとして,暴対法31条の2本文及び民法715条1項に基 づくいずれの請求も棄却する判決(原判決)をした。これに対し,控訴人が控訴をした。 3 前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,以下のとおり補正するほかは,原判決「事実及び理由」中「第2 事案の概要」1から3までに記載のとおりであるのでこれを引用する。 ⑴ 原判決5頁13行目の「本件詐欺」を「本件」に改める。 ⑵ 原判決5頁15行目の「該当する」の次に「(以下このスキーム全体を指して「本件資金獲得行為」という。)」を加える。 ⑶ 原判決5頁25行目の「属する」から同26行目末尾までを「行った本件資金獲得行為は,威力利用資金獲得行為に該当し,本件詐欺は,Aが威力利用資金獲得行為を行うについてされたものといえる。」に改める。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所は,本件詐欺は,Aが威力利用資金獲得行為を行うについてされたものと認め,被控訴人に暴対法31条の2ただし書1号に該当する事由は認められず,控訴人に生じた損害額は,財産的損害1150万円,慰謝料50万円及び弁護士費用120万円の合計1320万円と認め,控訴人の請求は,1320万円及びこれに対する平成28年1月27日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余はいずれも理由がないと判断する。その理由は,以下のとおりである。 2 認定事実は,以下のとおり補正するほかは,原判決「事実及び理由」中「第 3 争点に対する判断」1に記載のとおりであるのでこれを引用する。 ⑴ 原判決10頁16行目の「あったが,」を「あったところ,平成26年12月頃から平成27年3月頃までの間,横浜市内の飲食店等に対して,1店舗毎月3万円から毎月10万円の のでこれを引用する。 ⑴ 原判決10頁16行目の「あったが,」を「あったところ,平成26年12月頃から平成27年3月頃までの間,横浜市内の飲食店等に対して,1店舗毎月3万円から毎月10万円の金額の範囲で,稲川会の威力を示して暴対法9条2号,4号,5号の暴力的要求行為をしたことから,平成27年5月27日付けで,神奈川県警察伊勢佐木警察署長から暴対法11条1項の規定に 基づく中止命令を受け,更に,同年9月7日付けで,神奈川県公安委員会から暴対法11条2項の規定に基づく平成28年9月6日までを期間とする再発防止命令を受けた。これにより,Aは,平成27年9月7日から平成28年9月6日までの間,営業を営む者に対し,稲川会の威力を示して,みかじめ料・用心棒料等の要求といった暴力的要求行為をすることが禁止されることとなり,再発防止命令に違反した場合は,暴対法違反として検挙されることとされていた。Aは,遅くとも平成27年4月頃から本件資金獲得行為を始めたが,平成28年2月に逮捕され,」に改め,同行目の「本件詐欺」の次に「及び他の被害者に対する詐欺未遂の罪」を,同17行目の「された(」の次に「甲13,151の1及び2,」をそれぞれ加える。 ⑵ 原判決10頁25行目の「10.3%と」の次に「概ね」を加える。 ⑶ 原判決11頁3行目の「▲」を「▲」に改める。 ⑷ 原判決11頁10行目の「同月12日」の次に「,平成31年7月19日」を加え,同11行目の「14」を「15」に改め,同行目の「42」の次に「,96の1,2」を加える。 ⑸ 原判決12頁1行目の「厳禁して」を「厳禁する旨伝えて」に改める。 ⑹ 原判決12頁13行目の「顔見知りの」を「地元の暴走族時代の仲間と飲んでいるときに,Aと会い,それ以降,個人的に会うようにな 原判決12頁1行目の「厳禁して」を「厳禁する旨伝えて」に改める。 ⑹ 原判決12頁13行目の「顔見知りの」を「地元の暴走族時代の仲間と飲んでいるときに,Aと会い,それ以降,個人的に会うようになり,その中で,」に改める。 ⑺ 原判決13頁9行目末尾の次に改行の上,次のとおり加える。 「 本件共犯者らの供述等は,次のとおりである。 Bは,司法警察員の取調べに対し,当初「暴力団関係の知り合いは,地元の先輩で何人か稲川会系にいますが,名前は言えません。私と暴力団関係者との接点や関係については,今はお話できません。」と答えていたが,その後,「逮捕された当初,自分は関わっていないとか今は言えない等と本当の話をできていませんでしたが,自分が事件のことを話したことによっ て家族に影響が出たりするかもしれないと不安で,今後どうしていけば良いか自分の中で整理が付かず,正直にお話しすることができませんでした。」と述べ,Aとの関係等を供述した(甲33,93)。」⑻ 原判決13頁10行目の「Cは,」の次に「司法警察員に対し,「Dから,Aについて,詳しい団体等は分からないがヤクザであると聞いていた。Eからは,過去にヤクザに追いかけられて拉致された等と聞いていた。Aからは「万が一警察に捕まっても絶対に何も話すな,すぐに弁護士も金も寄越すから」と警察に捕まった場合の対応方法等について指示されていた。」旨話をしていた。また,Cは,」を,同行目の「Dが,」の次に「警察の捜索を受けた」を,同12行目末尾の次に「ので,Aに出勤しない日のことを聞くことがタブーであると考え,それ以上,深く聞いたことはなかった。(甲31,156の1,2)」をそれぞれ加え,同13行目冒頭から14行目末尾までを削る。 ⑼ 原判決13頁17行目の「質問において,」の次に ブーであると考え,それ以上,深く聞いたことはなかった。(甲31,156の1,2)」をそれぞれ加え,同13行目冒頭から14行目末尾までを削る。 ⑼ 原判決13頁17行目の「質問において,」の次に「警察署では一切話すことができなかった,家族の身の危険などを考えた時,怖くて何も言えなかった,年齢は他の本件共犯者らよりも上であるものの,本件詐欺グループの中では下っぱであり,掃除片付け,そういう雑務から始めて,仕事の指示に関しては大体Bに確認していた,Aから報酬はだまし取った金銭の5%と決められた,」を加える。 ⑽ 原判決13頁24行目末尾の次に改行の上,「本件共犯者らのうちの1人は,警察官に対し,「Aは地元の暴走族に所属しており,その時顔見知りになった。Aが稲川会系の暴力団と関わりがあるのではないかと思っていた。Aから今回の振り込め詐欺の仕事を紹介された。」旨供述した。また,本件共犯者らのうち別の1人は,警察官に対し,「もし事件のことを警察に話したらAに殺されてしまうという恐怖観念があり,すぐには正直に話すことができなかった」と供述した。(甲156の1,2)」を加える。 原判決13頁26行目の「13」の次に「,133」を加える。 3 争点⑴(本件詐欺は,Aが威力利用資金獲得行為を行うについてされたものか。)について⑴ 暴対法31条の2は,指定暴力団員によるその所属する指定暴力団の威力を利用しての資金の獲得の行為により発生する被害につき被害者が民事手続によりその回復を図る場合において,直接の加害者であるいわゆる末端の指定暴力団員においては十分な資力がなく,被害の回復がされないおそれがあるものの,民法715条の規定によって当該指定暴力団の代表者等に対して損害賠償責任を追及するときには,同条の定める要件の主張立証に 定暴力団員においては十分な資力がなく,被害の回復がされないおそれがあるものの,民法715条の規定によって当該指定暴力団の代表者等に対して損害賠償責任を追及するときには,同条の定める要件の主張立証に一般に困難を伴うことを考慮して,その負担の軽減を図ることを趣旨とする規定であると解される。また,暴対法31条の2本文所定の「威力利用資金獲得行為」については,同条において「当該指定暴力団の威力を利用して生計の維持,財産の形成若しくは事業の遂行のための資金を得,又は当該資金を得るために必要な地位を得る行為をいう」と定義され,暴力的要求行為の禁止に関して定める同法9条の「威力を示して」とは異なり,「威力を利用して」との文言が用いられている。このような同法31条の2の規定の立法趣旨やその文理に照らすと,同条本文の「威力を利用」する行為については,資金獲得のために威力を利用するものであればこれに含まれ,被害者又は共犯者に対して威力が示されることは必要ではないと解するのが相当である。また,「威力を利用して」とは,当該指定暴力団に所属していることにより資金獲得行為を効果的に行うための影響力又は便益を利用することをいい,当該指定暴力団員としての地位と資金獲得行為とが結び付いている一切の場合をいうと解するのが相当である。 ⑵ そこで,まず,本件における「資金獲得行為」につき検討するに,2の認定事実を前提とすれば,稲川会の傘下組織である稲川会山瀬一家二代目F組に所属する暴力団の組員であるAは,遅くとも平成27年4月頃から平成28年2月までの間,本件共犯者らとともに組織的に一体となって詐欺行為を 行っており,本件詐欺もその一連の詐欺行為の一環として行われているのであるから,組織の構築や準備行為を含む詐欺行為のスキーム全体(本件資金獲得行為)が, もに組織的に一体となって詐欺行為を 行っており,本件詐欺もその一連の詐欺行為の一環として行われているのであるから,組織の構築や準備行為を含む詐欺行為のスキーム全体(本件資金獲得行為)が,暴対法31条の2本文で規定する「指定暴力団員が(中略)生計の維持(中略)のための資金を得(中略)る行為」に該当すると認めるのが相当である。 ⑶ 次に,本件資金獲得行為が指定暴力団の威力を利用して行われたかにつき検討する。2の認定事実を前提とすれば,以下の点を指摘することができる。 ア Aは,本件詐欺を含む一連の詐欺行為(本件資金獲得行為)の準備として,電話を架ける相手の名簿,電話の架け方等に関するマニュアル及び詐欺に使用する携帯電話機等を全て手配し,拠点となる事務所の移転先を用意したものと推認される。上記の便益を用意した何らかの組織が稲川会であることを認めるに足りる的確な証拠はないことから,本件資金獲得行為が稲川会の用意した便益を利用した便益利用型の威力利用行為に該当すると直ちに認めることはできないものの,稲川会である可能性は十分にあり,反社会的な組織力を背景とした行為であることは,本件共犯者らにも容易に認識しうるものであった。 イ Aは,平成27年3月頃まで,稲川会の威力を示して,飲食店等に対して,1店舗毎月3万円から毎月10万円の金額の範囲で,暴対法9条2号,4号,5号の暴力的要求行為を行って資金獲得行為をしていたが,これが発覚したため,これに代わる資金獲得行為を行う必要が生じた。また,Aは,暴対法11条1項の規定に基づく中止命令を受けたことに加えて,同年9月7日付けで,暴対法11条2項の規定に基づく再発防止命令も受けていたことから,暴力的要求行為に当たらない形で,資金獲得行為を行う必要があった。 ウ Aは,本件資金獲 を受けたことに加えて,同年9月7日付けで,暴対法11条2項の規定に基づく再発防止命令も受けていたことから,暴力的要求行為に当たらない形で,資金獲得行為を行う必要があった。 ウ Aは,本件資金獲得行為を行うに際し,暴走族関係の知り合いであるB に声を掛けた。Bは,稲川会系の暴力団に何人か知り合いがいると司法警察員に供述し,後にAとの関係を述べているのであるから,少なくともBは,Aが稲川会系の暴力団員であることは認識していたと推認される。また,本件共犯者らには,Bの他,D,C,Eがいるが,CはDからAがヤクザと聞いていたというのであるし,Eはヤクザに拉致されたことがあると述べていたというのであるから,本件共犯者らの間では,Aがヤクザであることについて話が交わされ,Bなどを通じて,Aが暴力団員であるとの認識は共有されていたと推認される。そして,本件資金獲得行為の背景に反社会的な組織が関与していることは容易に認識できる以上,本件資金獲得行為の背景にある組織がAの所属する暴力団である可能性が高いことは認識されていたと推認される。また,BはAが稲川会系の暴力団員であることを知っているのであるから,Aは本件共犯者らにもその事実が伝わることを当然予見できたといえる。 エ Aは,自己が所属する稲川会を含む何等かの組織の関与が認められる状況下で,本件共犯者らを内部統制し,段取りや役割,報酬を決め,特に,逮捕された場合の口止めを指示していた。また,Eはヤクザに拉致されたことがあり,本件詐欺グループ加入の際から,暴力団を怖れていた。本件共犯者らは,逮捕後,「家族の身の危険などを考えた時,怖くて何も言えなかった」などと,A所属の暴力団からの報復を恐れて本件資金獲得行為に関する供述,特に,Aに関する供述を拒んでいることが認められるのであるから, 捕後,「家族の身の危険などを考えた時,怖くて何も言えなかった」などと,A所属の暴力団からの報復を恐れて本件資金獲得行為に関する供述,特に,Aに関する供述を拒んでいることが認められるのであるから,本件詐欺グループ内では,指揮命令系統を維持確保し,規律の実効性を高めるために,Aの所属する暴力団の影響力が利用されていたと認められ,Aの内部統制及び口止めは,本件資金獲得行為について,暴力団である稲川会の威力を利用する行為に該当するものと認められる。 ⑷ ⑶を前提にすれば,Aは内部統制及び口止め指示をする際,これが暴力団の威力を利用する行為に該当する可能性が高いことを認識しながら,認容し たものと認められるので,威力利用についての意思(故意)も認められる。 ⑸ 以上によれば,Aの行った本件資金獲得行為は,暴対法31条の2本文規定の威力利用資金獲得行為に該当し,本件詐欺は,Aが威力利用資金獲得行為を行うについてされたものと認められる。 ⑹ 以上に対し,被控訴人は,①Aは,本件共犯者らに対して自らが暴力団員であると明らかにしていないことから,危害を加える可能性のある者であることを認識させていたとはいえないこと,②本件共犯者らにおいて,Aが暴力団員であると認識するに至った根拠も,その確度も明らかではないこと,③本件共犯者らは,Aの指示に従っているものの,その理由はAがリーダーであると考えていたことにあり,本件共犯者らは金銭目当てで積極的に本件詐欺グループに加わったものであり,強制的に本件詐欺グループに加入させられていたような事情も窺えないことなどを指摘する。 しかしながら,①については,Aが暴力団員であることを明らかにすること,すなわち「示す」ことは要件ではなく,「利用する」ことで足りるところ,前記認定のとおりであり ないことなどを指摘する。 しかしながら,①については,Aが暴力団員であることを明らかにすること,すなわち「示す」ことは要件ではなく,「利用する」ことで足りるところ,前記認定のとおりであり,Aは,本件共犯者らが自己が暴力団員であると知るであろうことを当然に予見しうる状況下で,現に本件共犯者らがこれを知って,Aを畏怖する中で,威力利用に該当する可能性が高いことを認識しながら,これを認容して統制を行っていたことからすれば,前記認定を左右しない。②については,前記のとおり,本件共犯者らはAが暴力団員であることをBなどを通じて認識していたものと推認されるから,前記認定を左右しない。③については,本件共犯者らが,Aをリーダーと考えており,主として,金銭のためにこれに従っていた面があったとしても,本件共犯者らの捜査機関等に対する供述によれば,Aやその背景にある暴力団に対する恐怖心もその統制に大きく影響していたと認められるから,Aの威力利用は否定されない。また,Eに関しては,ヤクザに拉致されたことがあったと述べたり,本件詐欺グループに加入した経緯について,身の危険を感じるから言えない と供述していることからすると,強制的に本件詐欺グループに加入させられた可能性も否定できず,被控訴人の指摘は前記認定を左右しない。 したがって,被控訴人の指摘によっても,威力利用資金獲得行為に当たるとの前記認定は覆らない。 4 争点⑵(被控訴人は,本件詐欺に関し,暴対法31条の2ただし書1号に該当するか。)について被控訴人は,Aはその直属の上位者であるGに対して何らかの経済的利得を分配納付したことはなかった,仮に,分配納付していたとしても,本件詐欺により得られた利益は含まれていないと主張する。 しかしながら,2で認定したとお 上位者であるGに対して何らかの経済的利得を分配納付したことはなかった,仮に,分配納付していたとしても,本件詐欺により得られた利益は含まれていないと主張する。 しかしながら,2で認定したとおり,稲川会では,上位者が構成員に対して絶対的な拘束力と強制力を持っていることや,構成員は金員の上納義務を負っていることが認められることに加え,Aが平成26年12月頃から平成27年3月頃までの間,稲川会の威力を示して暴力的要求行為をしたことから,平成27年5月27日付けで,暴対法11条1項の規定に基づく中止命令を受けていたことに留まらず,更に同年9月7日付けで,暴対法11条2項の規定に基づく再発防止命令を受けていたことなどが認められるので,Aが上納義務を負っていなかったとは考え難い。被控訴人主張に沿う証拠(乙1ないし6,証人G,同H)があるものの,いずれも採用するに足りず,被控訴人主張の事実は認められない。 5 争点⑶⑷(民法715条1項の責任)について控訴人が主張する民法715条1項の責任については,暴対法31条の2本文に基づく請求を超える損害賠償の額が認められるとはいえないので判断を要しない。 6 争点⑸(損害の発生及びその額)について控訴人は,本件詐欺による財産的損害として1150万円を負ったことが認められる。さらに,証拠(甲89)によれば,控訴人は,本件詐欺の被害を受 けた当時73歳で一人暮らしの年金受給者であったところ,「名義を違法に偽った」「逮捕される」「犯罪行為に手を貸した」などと言われ,大変なことになったとの誤解から金銭を送付し,肺がんで早世した妹の遺産であった預金のほとんどを失って将来に不安を感じて眠れない日々を過ごすという精神的苦痛を受けたことが認められる。以上によれば,同苦痛を慰謝する ったとの誤解から金銭を送付し,肺がんで早世した妹の遺産であった預金のほとんどを失って将来に不安を感じて眠れない日々を過ごすという精神的苦痛を受けたことが認められる。以上によれば,同苦痛を慰謝するについて必要な慰謝料としては50万円と認めるのが相当である。さらに,弁護士費用としては,上記合計1200万円の1割に相当する120万円と認めるのが相当である。 以上のとおりであり,損害金は合計1320万円となり,被控訴人は,1320万円及びこれに対する最終不法行為日である平成28年1月27日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負う。 上記に反する当事者の主張は採用できない。 7 被控訴人の主張について⑴ 被控訴人は,本件共犯者らは,Aが暴力団に所属しているとか稲川会の構成員であったとの事実について明白な認識がなかったので,「威力を利用した」に該当しないと主張する。しかしながら,前記認定のとおり,本件共犯者らは,Bなどを通じて,Aが暴力団員であると認識し,Aやその背後の組織の報復を恐れて,捜査機関等に対しても,事実を話そうとしなかったものと推認されるのであるから,稲川会の構成員であるとの明白な認識がなかったとしても,指定暴力団の威力を利用したとの前記認定を左右するものとはいえない。そして,Aは,現に稲川会系の暴力団員であり,本件共犯者らが自己が暴力団員であることを知っているであろうことが当然に予見できる状況下で,これを利用して統制や口止めを行っていることからすれば,威力を利用したと認められる。被控訴人の主張は採用できない。 ⑵ 被控訴人は,特殊詐欺は暴力団員と関係なく行われている事例もあり,専ら詐欺による利得金の分配という金銭的欲求のみで犯人グループが結ばれていることも多々あるところ,本件共犯者ら 用できない。 ⑵ 被控訴人は,特殊詐欺は暴力団員と関係なく行われている事例もあり,専ら詐欺による利得金の分配という金銭的欲求のみで犯人グループが結ばれていることも多々あるところ,本件共犯者らはAが暴力団に属することの認識 がなかったのであるから,暴力団の威力の利用の存在は全く問題にならないと主張する。確かに特殊詐欺の中には暴力団員と関係なく行われている事例があることが窺われ,専ら詐欺による利得金の分配という金銭的欲求のみで犯人グループが結ばれていることがある可能性は否定できないが,本件共犯者らにAが暴力団員であることの認識がなかったとの主張は採用できないし,本件共犯者らが逮捕された後においても供述を拒んでいる理由は,利得金の分配では説明がつかず,稲川会に対する恐れを感じているからであるので,暴力団の威力の存在が全く問題にならないとの主張は採用できない。稲川会が配下構成員に対し,特殊詐欺事案に関わることを禁止する旨の伝達書を出としても,稲川会の構成員が特殊詐欺により度々せば,前記認定を左右するものではない。なお,Cが司法警察員に対する説明を本件訴訟手続後に否認している証拠(甲135)があるものの,合理的な理由なく変遷させるものであって信用することができない。 ⑶ 被控訴人は,本件共犯者らが,Aから出される様々な指示に従い,Aが常日頃何をしていたのかを質問することもなく,利得の分配に関するAの決定に異議を挟まず,警察に逮捕された当初Aの関与を明かさなかった理由は,Aが暴力団員であったからではなく,Aが所属していた特殊詐欺グループ上部組織に対する配慮のためであり,Aが完全黙秘を貫徹したのは,このような上部組織に対する配慮ないしは怖れのためであり,Aは,そのように対応することにより何らかの見返りを期待し又は約束してい ループ上部組織に対する配慮のためであり,Aが完全黙秘を貫徹したのは,このような上部組織に対する配慮ないしは怖れのためであり,Aは,そのように対応することにより何らかの見返りを期待し又は約束していた可能性があり,本件共犯者らにおいても同様の可能性があると主張して,稲川会ではない別の組織の可能性が否定できないと主張する。しかしながら,Aが所属していた特殊詐欺グループの上部組織が稲川会ではなく別の組織であることを窺わせる具体的な事情は指摘できない。この点,被控訴人は,別の組織として「半グレ」と称される犯罪グループによるものであることが多いとも主張する。 しかしながら,Aは稲川会系の暴力団員であって,稲川会系の上部組織の統制を受け,上納金を納めていることが窺われることからすれば,特殊詐欺グループの上部組織も稲川会と考えるのが最も自然であって,「半グレ」の関与を窺わせる具体的な事情も指摘できない。本件共犯者らが,Aが所属している別の組織を認識している具体的な事情も窺えず,また,Aが,稲川会から絶対的な拘束力と強制力を受けているにもかかわらず,稲川会の指示書に反して他の組織で特殊詐欺を行うとは考えにくく,それが発覚したのであれば,本件共犯者らが怖れているのと同程度に,稲川会を怖れて,自分の立場を弁明しようとしてしかるべきところ,同人の公判供述内容(甲133)には,そのような態度が窺えないことからすると,別の組織の可能性は高くないものと考えられる。 ⑷ 被控訴人は,稲川会の影響力又は便益を利用したとの証拠,すなわち,Aがこれを利用したとの意思と行為を認めるだけの証拠はないと主張し,具体的には,Aは,自らが暴力団員であることを本件共犯者らに明らかにせず,犯行組織の背景を知らせないようにしていたのであり,本件共犯者らは,Aの背後に の意思と行為を認めるだけの証拠はないと主張し,具体的には,Aは,自らが暴力団員であることを本件共犯者らに明らかにせず,犯行組織の背景を知らせないようにしていたのであり,本件共犯者らは,Aの背後に暴力団が存在するから,その指示に従わざるを得なかったとは供述していないし,Aも稲川会構成員であることを利用していたとか,稲川会の威力や影響力を利用しようとしたとは供述していないので,本件共犯者らが畏怖している状態を利用したとの事実は認められないと主張する。しかしながら,前記認定のとおり,Aは,かねてから稲川会の威力を示して暴力的要求行為をしていたことに加え,Bを通じるなどしてその他の本件共犯者らに自己が暴力団員であることが伝わり,本件共犯者らがAの背後の暴力団を畏怖することも,Aにおいては十分認識可能であった。以上の状況が認められる下で,Aは,本件共犯者らに対して内部統制及び口止め指示をしている以上,Aには威力利用の意思があったと推認され,現に本件共犯者らに対し,その威力に基づいた統制と口止めが行われたと認められる。本件共犯者ら及 びAの供述中に直接的な供述がないからといって上記推認が否定されるものではない。また,Aが自ら暴力団員であることを本件共犯者らに明示しないのは,本件共犯者らに互いに偽名や通称名で呼び合うよう指示するのと同様に,本件共犯者らが逮捕された後,自らや組織にとって不利益な供述をすることを防ぐ方策に過ぎないと考えられるのであり,Aの威力利用の意思や存在を否定する事情とはならない。さらに,本件共犯者らの認識が,Aが暴力団関係者との認識にとどまり,稲川会の構成員であることの確実な認識がなかったとしても,Aが,本件共犯者らのそのような認識を利用して統制を行っている以上,Aの威力利用の意思と行為を否定するものではない。被控 者との認識にとどまり,稲川会の構成員であることの確実な認識がなかったとしても,Aが,本件共犯者らのそのような認識を利用して統制を行っている以上,Aの威力利用の意思と行為を否定するものではない。被控訴人は,威力利用の故意としては,Aにおいて「本件共犯者らがAを暴力団構成員であること及びそのことによる威力の影響を受けて自己の要求等に従おうとしている又は従っていること」の認識が必要であると主張する。しかしながら,故意の要件としては確定的な故意に限定されるものではなく,可能性の認識とその認容で足りるというべきであるから,Aの威力利用行為については,いずれも威力利用の故意を肯定することができる。 ⑸ 被控訴人は,本件共犯者らに対して逮捕後の供述を拒絶させることは,資金獲得行為を行うこととの間で因果関係がないこと,本件共犯者らが供述を拒絶していることと,Aが逮捕された場合の口止め指示をしていることとの間には因果関係がないこと,口止め指示は他の同種事案でも認められる事象であるから威力を利用したとは認められないなどの反論をする。しかしながら,本件において,資金獲得行為がスキーム全体を指すと解されることは前記のとおりであるから,Aが威力を利用して本件資金獲得行為を行ったと認められれば足り,本件共犯者らに対して逮捕後の供述を拒絶させることと本件資金獲得行為との間で因果関係が認められる必要はない。被控訴人は,Aが口止め指示を利用して本件資金獲得行為を行ったとは認められないと反論し,その理由として,本件共犯者らが取締機関へ通報することは自首と同義 でありそのような可能性はないことを挙げる。しかしながら,Aの口止め指示は逮捕後における供述拒絶を指示しているのであり,自首とは関係がないほか,Aは,自己が暴力団員であるとの本件共犯者らの認識を利用 でありそのような可能性はないことを挙げる。しかしながら,Aの口止め指示は逮捕後における供述拒絶を指示しているのであり,自首とは関係がないほか,Aは,自己が暴力団員であるとの本件共犯者らの認識を利用して,組織の構築や準備行為を含む詐欺行為のスキーム全体の統制を行っているのであって,口止めだけが威力利用行為というわけではない。また,刑事責任を免れる体制や組織防衛体制も資金獲得行為と結びついたスキームの一環に該当すると解されるところ,本件共犯者らの一部が逮捕されても,Aやその他の者の関与に関して供述されなければ,Aは刑事責任を免れることが可能となる上,Aやその他の者は刑事責任を負うことなく,背後の組織を維持し,その関与の下,一連の詐欺行為を継続することが可能となるのであるから,口止め指示もまた,本件資金獲得行為の一環と認めることができる。更に,本件共犯者らが供述を拒絶している結果とAの口止め指示との間には,本件共犯者らが,Aの関与について供述を拒んでいることからすると,因果関係も肯定できる。口止め指示が他の同種事案で認められる事象であるとしても,そのことはAの口止め指示が威力を利用していることを否定する理由には当たらない。本件共犯者らが逮捕後の供述を拒絶しているのは,金銭目的というよりも,Aの背後にある組織に対する恐怖心であると認められ,その組織として稲川会が含まれることは否定し難いところ,このような結果が発生する可能性の認識及び認容について,Aが,口止め指示当時に有していなかったとは考えられないことからすると,Aの口止め指示は威力利用に当たると認められる。 第4 結論以上によれば,控訴人の請求は,被控訴人に対し1320万円及びこれに対する平成28年1月27日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があ 認められる。 第4 結論以上によれば,控訴人の請求は,被控訴人に対し1320万円及びこれに対する平成28年1月27日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるのでその限度で認容し,その余の請求についてはいずれも理由がないのでこれを棄却すべきところ,これと異なる原判決は相 当ではないので,原判決を取り消した上,上記のとおり判決する。 東京高等裁判所第5民事部 裁判長裁判官秋吉仁美 裁判官田村政巳 裁判官小西洋

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