平成31(ワ)37 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和3年3月16日 名古屋地方裁判所
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判決文本文24,652 文字)

令和3年3月16日判決言渡同日原本領収裁判所書記官 口頭弁論終結日令和3年1月21日判決主文 1 被告は,原告に対し,653万9743円及びこれに対する平成28年12月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用はこれを100分し,その11を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求被告は,原告に対し,6000万円及びこれに対する平成28年12月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は,名古屋市営地下鉄D線の列車に乗車していた原告が,終点であるE駅において降車しようとした際,歩行を補助するために所持していたストックを列車の外に出したところでドアが閉まり,原告が列車内に取り残されたまま同列車が側線に向けて進行したことにより,不安定な態勢のまま列車の揺れ等に耐えることを余儀なくされ,第11胸椎圧迫骨折の傷害を負ったとして,被告に対し,運転士の過失による民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)715条に基づく請求若しくは被告自身の過失による民法709条に基づく請求又は旅客運送契約上の債務不履行(民法415条)に基づく請求として,損害額合計1億4078万0829円の一部である6000万円及びこれに対する不法行為の日である平成28年12月2 6日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠(特に明記しない限り,枝番があるものは枝番を含む。以下同じ。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)⑴ 当事者ア原告は,昭和31年生まれの女性で 者間に争いのない事実並びに掲記の証拠(特に明記しない限り,枝番があるものは枝番を含む。以下同じ。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)⑴ 当事者ア原告は,昭和31年生まれの女性である。 イ被告は,地方公営企業法2条5号に基づき,名古屋市交通事業の設置等に関する条例を定めた上,名古屋市営地下鉄D線に係る高速度鉄道事業を運営している地方公共団体である。 ⑵ 事故の発生ア原告は,平成28年12月26日,D線F駅から,福祉特別乗車券を利用し,同日午後2時20分発のE駅行きの列車(以下「本件列車」という。)に乗車し,本件列車の前方から4両目の進行方向右側前方に設置されたドア(以下「本件ドア」という。)の横に設置された3連シートのうち,本件ドアに最も近い座席(以下「本件座席」という。)に座った。 本件列車は,名古屋市交通局に勤務するA運転士(以下「本件運転士」という。)が運転していた。 イ原告は,本件列車が終点のE駅に到着した同日午後2時40分頃,本件列車から降車しようとした。しかし,原告は,本件列車から降車することができず,本件列車は,原告が歩行補助のために所持していたストック2本(以下「本件ストック」という。)が本件列車のドアに挟まったままの状態で,側線(折返しのための線路をいう。)に向けて発進した(以下「本件事故」という。)。 ウ原告は,同月27日,G大学病院(現H大学病院)整形外科を受 診し,受傷日(同月26日)から1か月の加療を必要とする第11胸椎圧迫骨折との診断を受けた(甲1,4の1)。 3 争点⑴ 使用者責任の成否⑵ 被告自身の義務違反による不法行為責任又は債務不履行責任の成否⑶ 因果関係⑷ 損害額 4 争点に関する当事者の主張⑴ 使用者責任の成否(原告の主張) 点⑴ 使用者責任の成否⑵ 被告自身の義務違反による不法行為責任又は債務不履行責任の成否⑶ 因果関係⑷ 損害額 4 争点に関する当事者の主張⑴ 使用者責任の成否(原告の主張)本件運転士は,公共交通機関として多数の旅客を運送する列車の運転士として,本件列車のドアの開閉について,原告を含む旅客が列車ドアに挟まれることがないように,降車する旅客の動静を注視し,降車しようとする旅客がいる場合には,当該旅客の降車が終了し,列車ドアを閉めても安全な状況にあることを確認した上で列車ドアを閉める注意義務を負っていた。 本件列車前方に設置されたホームモニタ(以下「本件ホームモニタ」という。)には,①本件列車内に取り残されている原告に気づいた4名の乗客が本件ドア付近に集まり(14時48分41秒頃),②14時48分51秒頃までの間,周囲に異常を訴え,③本件列車がホームから去った14時49分11秒頃まで,可動式ホーム柵(以下「ホームゲート」という。)に手をかけて身を乗り出すなどして心配そうに状況を注視する様子が映されていた。本件運転士は,こうした映像を確認し,本件ドア付近で本件列車内に人が閉じ込められている等,何らかの異常が起きていることを容易に想定できたのであるから,本 件ドア付近まで急行して状況を確認する義務があったが,これを怠った。 本件運転士が,仮に,本件ホームモニタの映像から,上記4名の旅客が何のために集まっているのか判断できなかったとしても,本件運転士は,乗客が集まっている理由を確認し,安全に発車できることを確認してから,発車する義務があったところ,これを怠った。 そして,本件運転士の上記注意義務違反は,被告の事業の執行についてされたものであるから,同義務違反による損害について,被告は使用者責任を負う。 してから,発車する義務があったところ,これを怠った。 そして,本件運転士の上記注意義務違反は,被告の事業の執行についてされたものであるから,同義務違反による損害について,被告は使用者責任を負う。 (被告の主張)本件運転士は,本件ホームモニタ及び後方目視により,本件列車から降車する旅客が完全に途切れたことを確認し,降車が終了したと判断して,車扉及びホームゲートを閉扉した。 また,本件ホームモニタに原告主張の上記②③の映像が映ったのは,本件列車が動き出して,本件運転士が本件ホームモニタを確認できる地点を過ぎた時点であり,注意義務違反の根拠となり得ない。他方,本件運転士は,原告主張の上記①の映像を確認することができる状態にあったが,本件ドア付近に複数の旅客が集まっていることをもって本件事故を予見することはできなかったから,本件運転士に,原告主張の注意義務違反はない。 したがって,被告は使用者責任を負わない。 ⑵ 被告自身の義務違反による不法行為責任又は債務不履行責任の成否(原告の主張)ア被告が負担する注意義務の内容被告は,鉄道列車を運行するにあたり,旅客等の人身の安全確保 に最大の配慮をすべき義務を有し,かかる義務を履行するため,被告従業員に対し,少なくとも終点駅においては,(到着した列車がその後側線に入る場合であっても,)列車が車庫に入る前に列車内の乗客が全て降車したことを確認するよう規則・マニュアルを策定の上,周知徹底し,又は列車内を確認する人員を拡充する等,原告を含む乗客が安全に降車できるよう可能な限りの安全対策を実施する法的義務を負っていた。 イ適切な安全確認方法の整備に関する注意義務違反多様な旅客を大量に輸送する公共交通機関を運営する被告においては,高齢や障害を有する等の事情により車内放送 対策を実施する法的義務を負っていた。 イ適切な安全確認方法の整備に関する注意義務違反多様な旅客を大量に輸送する公共交通機関を運営する被告においては,高齢や障害を有する等の事情により車内放送に応じて停車後に機敏に降車に向けての動作を取ることができない者が乗車することは容易に想定されるのであるから,そのような者の安全も確保されるような安全確認の方法を整備する義務を負う。 しかし,本件ホームモニタに映る映像の範囲は限定されていること(そもそも本件ホームモニタは運転台から離れた位置に設置されており,降車の状況を詳細に確認することはできない。),運転士による後方目視により確認できる範囲も限定されていること,駅職員によるホーム監視も行っていないことからすると,2両目以降の座席付近や車扉付近の安全確認がされているとはいえない。 なお,東京メトロ及びJR東海在来線では,運転士及び車掌の2名以上が安全確認に当たり,運転士又は車掌がホームに降りて又は窓から身を乗り出して目視等により降車確認をしていること(甲21,22)に照らすと,E駅における安全確認の手順は,他の鉄道会社の安全確認方法と比べても著しく不十分である。 また,終点駅において人がドアに挟まれる等の異常が発生した場合,救助に当たる乗客が列車内に存在しないことなどを踏まえると, 被告は,少なくとも終点駅においては,列車内の乗客が全て降車したことを確認するよう規則・マニュアルを作成する義務を負うところ,このような義務も履行されていない。 ウ設備の整備に関する注意義務違反「運転士知らせ灯」は,車扉の隙間が10mm以下で点灯し,列車の起動が可能となるとのことであるが,14~15mmの幅のある本件ストックが挟まった状態で本件列車が発車したということは,「運転士知らせ灯」が点 知らせ灯」は,車扉の隙間が10mm以下で点灯し,列車の起動が可能となるとのことであるが,14~15mmの幅のある本件ストックが挟まった状態で本件列車が発車したということは,「運転士知らせ灯」が点灯していたことになり,故障の可能性が高い。 エまとめ以上のとおり,被告は地下鉄事業を運営する上で果たすべき注意義務を履行していないから,同義務違反による損害について,被告は不法行為責任ないし債務不履行責任を負う。 (被告の主張)アはじめに被告は,E駅においては,駅職員によるホーム監視業務を原則として行わない代わりに,ホームモニタにより,可能な限り,降車する旅客がいないかどうかの安全確認をする方策を採っており,かかる方策の実施を周知・徹底していた。したがって,安全対策を実施する義務の違反はない。 イ適切な安全確認方法の整備に関する注意義務違反列車が側線に移動する場合には,車庫に入る場合と異なり,円滑な列車運行の都合上,ドアを開けたまま車内巡回することはできない。そこで,車内放送やLED案内表示器にて,終点のアナウンスをして速やかな降車を促し,ホームモニタや後方目視で降車を確認している。したがって,被告による安全確認の方法は合理的であり, 原告主張の義務違反はない。 原告が主張する他の鉄道会社の確認方法は,ワンマン運転を予定していない路線・区間に関するもので比較対象として不適当である。 ウ設備の整備に関する注意義務違反ドアの戸先にはゴムがついているところ,ドアの上から100mm,下から300mmを除く部分は,ゴムの中が空洞になっている。 そこに障害物が挟まった場合には,ゴムがつぶれ,障害物の幅が10mmを超える場合であっても,ドアの隙間が10mm以下となり,「運転士知らせ灯」が点灯することがある。したがっ の中が空洞になっている。 そこに障害物が挟まった場合には,ゴムがつぶれ,障害物の幅が10mmを超える場合であっても,ドアの隙間が10mm以下となり,「運転士知らせ灯」が点灯することがある。したがって,本件ストックが挟まった状態で本件列車が発車したことをもって,本件ドアに故障があったということにはならない。 ⑶ 因果関係(原告の主張)ホームゲートの広範囲にストックの痕が残っていることからすると,ストックを握っていた原告の身体には,激しい衝撃が加わったと思われるから,本件は,原告が第11胸椎を圧迫骨折したことの機序として不自然な点はない。 また,原告は,本件事故直後から背部・腰部の痛みを訴えており,事故翌日に撮影したレントゲン写真と同月16日に撮影したレントゲン写真との比較や,第10・11胸椎の高さに強い叩打痛を認めたこと,16日から本件事故までの間に他の外傷事故がないことから,「第11胸椎圧迫骨折」「26日受傷」との診断を受けた。したがって,本件傷害と本件事故の因果関係は認められる。 なお,被告は,過去の骨折等を指摘するが,同骨折確認直後には歩行・日常生活が可能だったのに対し,本件事故後はストックを用いても一切自立歩行ができなくなったから,因果関係は否定されない。 (被告の主張)原告には,本件事故以前から,ステロイド内服による骨粗鬆症の持病があり,複数の圧迫骨折があった。これらの圧迫骨折は,日常生活上の動作により発生したもので,原告においても,いつどのような動作が発生原因であるか正確に認識できていないと思われる。 そうすると,本件の骨折についても,特別に大きな圧力がかかる事象が生じることなく,日常生活上の動作で生じる可能性が十分にあったのであり,本件事故と原告の骨折との間の因果関係は認められない。 ⑷ そうすると,本件の骨折についても,特別に大きな圧力がかかる事象が生じることなく,日常生活上の動作で生じる可能性が十分にあったのであり,本件事故と原告の骨折との間の因果関係は認められない。 ⑷ 損害額(原告の主張)ア人的損害治療費 86万3558円 (甲4,5)H大学病院(入通院)I病院(入院)症状固定前の介護費 214万5913円 (甲6~8)入院・通院付添費 62万2025円入院:6500円×109日×85%通院:3300円×6日将来の通院付添費 58万9965円3300円×12か月×14.8981(ライプニッツ係数)将来の介護費用 4155万7654円23万2455円(症状固定前直近3ヶ月の介護費用の平均値)×12か月×14.8981(ライプニッツ係数)症状固定前の雑費 62万4000円1日あたり1500円×416日 将来の雑費 815万6710円1500円×365日×14.8981(ライプニッツ係数)交通費(タクシー代等) 9万1643円 (甲10)将来の通院交通費 159万1117円8900円(施設⇔病院)×12か月×14.8981(ライプニッツ係数)付添人交通費 3万8019円 (甲11)将来の付添人交通費 12万3893円装具・器具等購入費 2万3814円 (甲9)休業損害 428万8128円家事労働に従事できなかったことによる損害1万308円×416日後遺症逸失利益 3724万1503円376万2300円×100%×9.8986(ライプニッツ係数)傷害慰謝料 301万5333円後遺症慰謝料 2700万円イ物的損害(ストック購入費) 9297円(甲12)ウ弁護士費用(損害合計額 ×100%×9.8986(ライプニッツ係数)傷害慰謝料 301万5333円後遺症慰謝料 2700万円イ物的損害(ストック購入費) 9297円(甲12)ウ弁護士費用(損害合計額の1割) 1279万8257円エ合計1億4078万0829円(ただし,請求は6000万円のみ)(被告の主張)いずれも争う。 第3 当裁判所の判断 1 使用者責任の成否(争点1)及び被告自身の義務違反による不法行為責任又は債務不履行責任の成否(争点2)について ⑴ 認定事実前記前提事実に加え,証拠(証人A,同B及び原告本人のほか掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる。 ア原告について原告は,本件事故の前から,脊髄炎を患っており,背中や腰にしびれがあったことから,歩行を補助するために2本の本件ストックを利用していた。 本件ストックは,先端から25cm付近の直径が14~15mm程度であり,先端にゴム製のキャップが付されている(甲18)。 イ本件事故の発生状況原告は,本件列車がE駅に到着すると,本件座席の左横にある手すりを左手で掴み,本件ストックを2本束ねて右手で持ち,本件ストックで床を突いて本件座席から立ち上がった。そして,左手を手すりから離し,本件ストックを両手で1本ずつ持って床に突きながら本件ドアに近づいた(原告本人4頁)。 原告は,降車の際に他の旅客とぶつかって転倒しないように,本件ドアの左(本件列車の内側から見て左)にある手すりに寄り掛かるようにして同手すりを左手で掴み,本件ストック2本を右手でまとめて持った状態で,他の旅客が降車するのを待った(原告本人5,7,27頁)。 原告は,他の旅客の降車が終わった後,本件列車から降車するために,手すりを左手で掴んだまま, ストック2本を右手でまとめて持った状態で,他の旅客が降車するのを待った(原告本人5,7,27頁)。 原告は,他の旅客の降車が終わった後,本件列車から降車するために,手すりを左手で掴んだまま,右手に持った本件ストック2本を本件列車の外に出した(原告本人5頁)。 その直後,本件ドアが閉まり,本件列車は側線に向けて進行を開始した。 本件列車が進行を開始した際,本件ストックは2本とも本件ド アに挟まれており,原告は,依然,手すりに寄り掛かるようにして同手すりを左手で掴み,右手で本件ストック2本を握っていた(原告本人9頁)。 本件ストックは,本件列車の進行に伴い,E駅降車ホームの第12ないし第1開口(乗降口)の脇に設置された支障物センサボックスの軌道側に順次衝突して湾曲し,また,第8開口のあたりで本件ストックのうち1本の先端のゴムキャップが外れた(乙8,原告本人11頁)。 本件列車は,側線で折り返し運転のため一旦停止したが,その際,原告は,本件ストックから手を離し,本件座席に戻って着席した(原告本人10頁)。 ウ E駅における安全確認等の方法E駅はD線下り方面の終点であり,E駅に到着した列車は,E車庫に行く場合を除き,側線を利用して折り返し運転を行う。名古屋市交通局が定めるD線E駅での折り返し運転の手順は次のとおりである(乙1,2)。 なお,名古屋市交通局は,ホームゲート設置に伴い駅務関係職員の配置基準を見直し,ホームゲートが設置された駅については,駅職員によるホーム監視業務を原則廃止した。本件当時,E駅においては,上記配置基準に従って,駅職員によるホーム監視は行われていなかった(弁論の全趣旨)。また,D線はワンマン運転を行っており,運転士1名以外に乗務員はいない(証人A1頁)。 E駅に到着する前に,列 ,上記配置基準に従って,駅職員によるホーム監視は行われていなかった(弁論の全趣旨)。また,D線はワンマン運転を行っており,運転士1名以外に乗務員はいない(証人A1頁)。 E駅に到着する前に,列車内の自動放送及びLED案内表示器を使用して,乗客に対して終点案内を行う(LED案内表示板による終点案内は,列車がE駅に到着した後も引き続き行われる。 証人A3頁)。 運転士は,E駅下り線ホームに列車を完全停止させた後,列車とホームゲートの結合状態を確認称呼し,運転台の車扉開扉ボタンを押し,車扉及びホームゲートを開扉する。 開扉後,運転士は,本件ホームモニタにより一定の停車時間,旅客の降車監視を行う。 本件ホームモニタには,ホーム上に設置された3つのカメラによって撮影された映像が同時に映されており,上段には車両前方に最も近いカメラの映像が,下段左には車両後方に最も近いカメラの映像が,下段右には車両中央付近のカメラの映像が映され,これら3つの映像により,ホームに停車した列車の全車両(5両)の様子を確認することができる(乙5,9)。なお,本件ホームモニタの上段は26インチ程度,下段は左右合わせて26インチ程度の大きさである(証人A15頁)。 運転士は,旅客の降車が途切れたところで,本件ホームモニタの目視や後方目視により,乗客が車内に残っていないかを確認したうえで,降車が終了したと判断できた場合には,運転台の車扉閉扉ボタンを押し,車扉及びホームゲートを閉扉する。 閉扉後,運転士は,本件ホームモニタを確認して,車側灯(15mm以上の隙間を伴う戸挟みが発生した場合に点滅する。)及びホームゲート状態表示灯(閉扉時に人を検知した場合に点滅する。)の消灯を確認し,車扉及びホームゲートの閉扉状態を指差確認称呼する。 さらに,運転 の隙間を伴う戸挟みが発生した場合に点滅する。)及びホームゲート状態表示灯(閉扉時に人を検知した場合に点滅する。)の消灯を確認し,車扉及びホームゲートの閉扉状態を指差確認称呼する。 さらに,運転士は,運転台にある運転士知らせ灯の点灯を指差確認称呼する。運転士知らせ灯は,車扉の隙間が10mm以下の場合に点灯し,これが点灯しない場合には,力行ハンドルを操作しても列車を起動させることができない。 その後,運転士は,側線への進路が構成されたことを示す入換信号機の進行現示を指差確認称呼し,手動運転により,時速25kmを越えない速度で側線を進行させる。 折り返し地点までの進路は,若干の進路変更があるものの,急カーブ等はない(乙3,4,証人A6頁)。 運転士は,折り返し地点で列車を停止させた後,車内を確認しながら先頭車両から後尾車両の運転台へ移動し,手動運転により,時速25kmを越えない速度で乗車ホームに向けて進行させる。 折り返し地点から乗車ホームまでの進路は,乗車ホームのゆるやかなカーブの延長線となっており,急カーブ等はない(乙3,4)。 エ本件運転士の確認状況本件運転士は,上記ウの手順に従い,本件列車から旅客が降車する状況を確認した上,本件列車の扉を閉める操作を行った。具体的には次のとおりである。 本件列車は,14時48分08秒頃,E駅降車ホームに停止した(乙9)。 びホームゲートを開扉した後,14時48分20秒から32秒頃,運転台のドアを開けて,本件列車の客室に向かい,マイクを用いて「ご乗車ありがとうございました。終点Eに到着です。お忘れ物等ないようご注意ください。この電車は車庫に入ります。引き続きご乗車できませんのでご注意ください。間もなく扉を閉めます。」などとアナウンスしながら旅客の降車状況を ました。終点Eに到着です。お忘れ物等ないようご注意ください。この電車は車庫に入ります。引き続きご乗車できませんのでご注意ください。間もなく扉を閉めます。」などとアナウンスしながら旅客の降車状況を確認し,14時38分33秒から35秒頃,マイクを置いて,客室の進行方向左側に少し歩み寄り,そこから本件列車後方を見ながら更に旅客 の降車状況を確認した(乙9,証人A3~4頁。E駅降車ホームは,進行方向に向かって右にゆるやかにカーブしており(乙3),運転台の客室側出入り口の中央付近に立って列車後方を見るだけでは,車両の最後尾まで見通すことができない。)。 本件運転士は,14時48分38秒頃には運転台に戻り,本件ホームモニタを目視して本件列車からの乗降客がないことを確認し,運転台にある車扉閉扉ボタンを押した。これにより,本件列車の車扉及びホームゲートは,14時48分40秒頃に閉まり始め,14時48分43秒頃に閉扉した。本件運転士は,その頃,運転台の右に位置する本件列車の車扉及びホームドアの閉扉状況を確認した(乙9,証人A5頁。)。 本件運転士は,14時48分44秒頃から,本件列車の横にある車側灯とホームゲート状態表示灯の消灯を確認した上で,進行方向に設置してある入換信号,車両の構内運転ランプ及びポイントの確認をし,14時48分50秒頃,側線への運転を開始した(乙1,2,9,証人A5頁)。 本件運転士は,側線を時速22~23キロメートルの速度で本件列車を運転し,折り返し地点で停止させた。そして,進行方向を入れ替えるために本件車両の先頭から後尾まで移動する際,原告が本件座席に座っているのを発見した(証人A8~9頁)。 オ本件当時の本件ホームモニタの状況14時48分41秒頃以降,本件列車がホームを通過するまでの間,本件ホ 頭から後尾まで移動する際,原告が本件座席に座っているのを発見した(証人A8~9頁)。 オ本件当時の本件ホームモニタの状況14時48分41秒頃以降,本件列車がホームを通過するまでの間,本件ホームモニタ下段右側の画面には,本件ドアの前付近のホーム上に4名の女性が立ち止まり,本件ドアの方を見たり,周囲を見渡したりする様子が映し出されていた(乙9)。 なお,運転台から本件ホームモニタまでの距離は4メートル程度 であり,列車が発車してから約1秒後には,運転台から本件ホームモニタを目視することは不可能となる(証人A14頁,弁論の全趣旨)。 ⑵ 使用者責任の成否(本件運転士の注意義務違反の有無)について本件運転士は,D線を利用する旅客の安全を確保するため,当該駅の構造,乗降客の状況等を踏まえ,事故の発生を未然に防止するよう最大限の配慮をすべき義務を負う。 本件ホームモニタには,14時48分41秒頃以降,ホーム上に4名の女性が立ち止まり,本件ドアの方を見たり,周囲を見渡したりする様子が映されていたところ,本件運転士は,14時48分38秒には運転台におり,本件ホームモニタを目視可能な状態であったことが認められる。また,本件運転士が,ホームに女の人がいるのを見た旨の供述をしていること(証人A18,28頁)からすると,本件運転士は,14時48分41秒頃以降,目視可能であったと思われる14時48分50秒頃までの本件ホームモニタの映像のうちいずれかのタイミングの映像を目視したものと認められる。 上記映像は,本件列車の車扉を閉扉した後に,降車ホームに複数名の者が集まり,本件ドアの方を見るなどしているというものであり,一瞥しただけでは,旅客が集まっている原因が直ちに明らかであるとはいえず,居眠りしている旅客がいるとか,手荷物が置いた 車ホームに複数名の者が集まり,本件ドアの方を見るなどしているというものであり,一瞥しただけでは,旅客が集まっている原因が直ちに明らかであるとはいえず,居眠りしている旅客がいるとか,手荷物が置いたままになっているなどの人身の安全にかかわらない事態が生じたにすぎない場合との区別は困難であるとも思われる。もっとも,本件運転士が,上記のとおり旅客の安全を確保すべき高度の注意義務を負うことに照らせば,本件列車の運転台からは車内の後部までを見通すことが困難であることや(乙5,証人A5頁),戸挟み等が生じた場合には 車側灯又はホームゲート状態表示灯が点滅し,又は運転士知らせ灯が点灯しないこととなっているとはいえ,旅客又はその荷物等が種々の理由でドアに挟まる事態が生じ,それが設備上感知されない事態もあり得ること,複数名の者が集まっていたのは降車ホームであり,次に到着する列車を待っている乗客であるとの想定しにくいことなどからすると,本件運転士は,本件ドア付近で人身の安全にかかわる異常が生じている可能性を予見し,本件列車の運転開始作業を一時停止し,あるいは本件列車の進行を一時停止させ,本件ドア付近の異常の有無を確認するなどの事故防止に向けた対応を取る注意義務を負っていたというべきである。 しかるところ,本件運転士は,本件ドア付近に女性が集まっている映像を本件ホームモニタ上で確認したものの,それが異常を知らせる様子ではないと捉え,通常通り折り返し運転のための作業を行ったものであるから,本件ドア付近の異常の有無を確認するなどの事故防止に向けた対応を取るべき注意義務に違反した過失がある。 そして,本件運転士の上記注意義務違反は,被告の事業を執行するについて生じたものであるから,被告は,同注意義務違反による損害について民法715条に基づく損 を取るべき注意義務に違反した過失がある。 そして,本件運転士の上記注意義務違反は,被告の事業を執行するについて生じたものであるから,被告は,同注意義務違反による損害について民法715条に基づく損害賠償責任を負う。 ⑶ 被告自身の義務違反による不法行為責任又は債務不履行責任の成否について鉄道事業は,人の生命,身体等を侵害する多大な危険を伴うものであるから,鉄道運行事業者である被告は,旅客の安全を確保するために,当該駅の構造や混雑状況等を踏まえ,事故の発生を未然に防止するよう万全の措置を講ずべき高度の注意義務を負う。 以上の点を踏まえ,原告の指摘する点について検討する。 ア適切な安全確認方法の整備に関する注意義務違反について 列車の発車時に生じる主な事故の類型としては,車扉に旅客又はその所持品が挟まることによる事故,旅客が列車外部に接触したりホームに転落したりすることによる事故等が想定されるところ,被告は,ホームにホームゲートを設置することにより,旅客の列車との接触やホーム下への転落を防止している(上記⑴認定事実ウ)。また,被告は,列車後方の様子を運転士に目視確認させるとともに,車側灯(車扉に15mm以上の隙間を伴う戸挟みが発生した場合に点滅し,車扉が閉扉すると消灯する。)及びホームゲート状態表示灯(ホームゲートと車体の間に設置した支障物センサーが人を検知した場合に点滅し,ホームゲートが閉扉すると消灯する。)を設置し,運転士において本件ホームモニタ上でこれらの消灯を確認するように定め,さらに,列車起動の条件として,車扉に10mmを超える隙間が生じた場合に不点灯となる運転士知らせ灯の点灯を設定することにより,車扉に旅客・所持品が挟まることによる事故を防止している(上記⑴認定事実。なお,本件ホームモニタは,26 扉に10mmを超える隙間が生じた場合に不点灯となる運転士知らせ灯の点灯を設定することにより,車扉に旅客・所持品が挟まることによる事故を防止している(上記⑴認定事実。なお,本件ホームモニタは,26インチ大のモニタが2つ並んだ程度の大きさであり,運転台から列車に乗降する旅客の様子を詳細に確認できるものではないが,ホームに停車した全列車の車側灯及びホームゲート状態表示灯の状況を確認することは十分に可能である(被告は,定期的に各運転士の視力検査を行い,運転士の視力要件の充足を確認している(証人A33頁)。)。 そうすると,E駅降車ホームについては,車側灯やホームゲート状態表示灯等の設備に故障がない限り,想定される人身事故を予防するための適切な対策が講じられているといえるから,被告に,適切な安全確認方法に関する注意義務の違反があるとは認められない。 これに対し,原告は,高齢や障害を有するなどの理由により機敏に降車に向けた動作を取ることができない乗客がいることを想定すべきである旨を主張する。 しかし,そのような旅客自身も,交通機関を安全に利用するための注意義務を負うというべきであるから,被告としては,当該旅客からの申し出があった場合に乗降の補助等の対応を行う(甲23には,名古屋市交通局がホームページ上に掲載しているQ&Aでは,車いすを利用する場合の補助についてのみ言及があるものの,車いす利用以外の場合における補助についても当然対応することになると解される。)等の方法で旅客の安全を確保すれば足り,本件事故を予見し,当該旅客を想定した安全対策を一般的に講じる義務を負うとまではいえない。 なお,原告は,本件当日,本件ストックを利用してF駅から本件列車に乗車したところ,乗車時までに乗降補助の申入れはしていないし,動作が遅くて た安全対策を一般的に講じる義務を負うとまではいえない。 なお,原告は,本件当日,本件ストックを利用してF駅から本件列車に乗車したところ,乗車時までに乗降補助の申入れはしていないし,動作が遅くて乗車に支障を生じるような状況は窺われなかった(原告本人24頁,証人A2頁)。 原告は,東京メトロ及びJR東海在来線では,運転士及び車掌の2名以上が安全確認に当たり,運転士又は車掌がホームに降りて又は窓から身を乗り出して目視等により降車確認をしていること(甲21,22)からして,上記1⑴認定事実ウで記載した被告の安全確認方法では不十分であるとも主張する。 しかし,被告は,ホームゲートを設置する代わりにワンマン運転を導入しているという点で東京メトロ及びJR東海在来線と異なり,被告と,東京メトロ及びJR東海在来線とを同列に論じることはできず,この点の主張は理由がない。 また,原告は,終点駅特有の事情に配慮した安全確認方法を構 築する義務の存在を主張する。 しかし,,設備上の故障がない限り車扉に旅客や荷物が挟まれた状態で側線に向けて終点駅から発車する事態は生じ得ない上,終点駅で列車に取り残される旅客の多くは寝過ごし客であることが想定される(証人A16頁参照)。そして,側線は急カーブがあるなどの特に危険な線路ではなく,折り返し地点までの距離も長くないため,列車に取り残された旅客がいたとしても,折り返し地点で列車内を確認することにより対処可能であり,取り残された旅客の生命,身体に危険が生ずる事態は想定しがたいといえる一方,終点駅において列車の車扉を閉める前に旅客の降車確認を行うこととすれば,一つのホーム上に乗車口と降車口のある島式ホームであるなどのE駅の構造に照らすと,列車の運行に多大な支障を生じるおそれがある。 そうすると 列車の車扉を閉める前に旅客の降車確認を行うこととすれば,一つのホーム上に乗車口と降車口のある島式ホームであるなどのE駅の構造に照らすと,列車の運行に多大な支障を生じるおそれがある。 そうすると,そもそも被告において本件事故を予見することは困難であるし,被告が原告の主張する注意義務を負うと認めることはできない。 イ設備の整備に関する注意義務違反について原告は,本件ストックが挟まったにもかかわらず運転士知らせ灯が点灯したことから,運転士知らせ灯が故障していた可能性が高いと主張する。 しかし,本件全証拠によっても運転士知らせ灯が故障していたことを認めるに足りる証拠はなく,原告の主張は理由がない。 なお,車扉先端部に取り付けられたゴムが一部中空となっており,中空部分に10mmを超える物が挟まった場合にゴムが潰れ,結果的に車扉先端部の隙間が10mm以下となって運転士知らせ灯が点灯することがあるとしても,挟まった物の大部分が列車内部に残 されている場合には重大な事故は生じにくいといえ,他方,挟まった物の大部分が列車外部にあるという事態は,ホームゲートや本件ホームモニタ等の設備があることからすればその状態のまま列車が発進することは想定しがたいといえるから,それ自体が適切な設備を設置する注意義務等の違反を構成するとは認められない。 ウまとめ以上によれば,被告が自身の義務違反による不法行為責任ないし債務不履行責任を負うとの原告の主張は理由がない。 2 因果関係(争点3)について⑴ 認定事実前記前提事実に加え,証拠(証人B及び原告本人のほか掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる。 ア本件当日の原告の言動原告は,本件ストックが本件ドアに挟まった状態で,本件列車が降車ホーム及び側線を進行す 及び原告本人のほか掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる。 ア本件当日の原告の言動原告は,本件ストックが本件ドアに挟まった状態で,本件列車が降車ホーム及び側線を進行する際,原告の所持している本件ストックがホームゲート内側の支障物センサボックス等に衝突したことによる衝撃や,本件列車が進行することに伴う揺れにより,腰や背中に衝撃を受けた(原告本人9頁)。 また,原告は,本件事故後,ホームのベンチに移動してE駅助役らから事情を聴取されるなどした際,ホームの硬い椅子に座らされて腰が痛いなどと訴えた(証人B4頁)。 イ本件事故後の診断内容原告は,本件事故後である同月27日,H大学病院の整形外科を受診し,問診票に地下鉄にポールがはさまり体をひねったことや,背中に痛みと痺れがある旨を記入し,医師に対してストックがドアに挟まって,かなりの揺れに耐えていたので,腰や背中に痛みがあ る旨を訴えた(甲24,原告本人15頁)。 原告は,同日付のレントゲン撮影の結果,同月16日に撮影したレントゲン画像との比較も考慮の上,第11胸椎の圧迫骨折と診断された(甲1,26,乙11の727頁)。 ウ本件事故前後の生活状況原告は,本件当日までは,夫,長男及び義母と同居し,原告,夫及び義母で家事を分担して生活することができていたが,本件事故の翌日以降,本件ストックを利用しても独歩することができなくなり,車椅子を利用するようになった(原告本人2頁)。 ⑵ 検討ア上記⑴の各認定事実によれば,原告は,本件事故の翌日に撮影したレントゲン写真及びその10日前に撮影したレントゲン写真を基に,第11胸椎圧迫骨折との診断を受けたところ,原告が,本件ドアに挟まれた本件ストックを右手で掴み,本件列車内の手すりを左手で掴んだ状態 たレントゲン写真及びその10日前に撮影したレントゲン写真を基に,第11胸椎圧迫骨折との診断を受けたところ,原告が,本件ドアに挟まれた本件ストックを右手で掴み,本件列車内の手すりを左手で掴んだ状態で,E駅降車ホームから側線の折り返し地点までの間,本件列車に立って乗車していたという状況からして,原告が,本件ストックがホームドアに衝突する衝撃を受け,または不安定な態勢のまま本件列車の揺れを受けることにより,第11胸椎圧迫骨折の受傷をしたとして何ら不自然ではない。 また,原告が,本件事故直後から腰背部の痛みを訴えていたことや,レントゲン撮影をした平成28年12月16日以降,本件事故までの間に,胸椎圧迫骨折に至るような出来事が原告に生じたことをうかがわせる証拠がないことも併せ考えると,原告の第11胸椎圧迫骨折の傷害について,本件事故との間の因果関係を認めることができる。 イこれに対し,被告は,原告が本件事故以前から骨粗鬆症の持病を 有しており,日常生活上の動作により圧迫骨折を生じるおそれがあったから,第11胸椎圧迫骨折と本件事故との間の因果関係はない旨を主張し,後記3⑴の各認定事実のとおり,原告が,平成26年以降,第8,9胸椎及び第1,3,4腰椎圧迫骨折をしたこと,平成27年4月頃以降,骨粗鬆症との病名登録をされて治療を受けていたことなどが認められる。 しかし,原告が,本件事故前は本件ストックを用いて問題なく本件列車に乗車することができていたのに対し,本件事故の翌日以降は独歩不能となったこと(上記⑴認定事実ウ)ことや,本件事故以前の圧迫骨折等の既往歴の状況(後記3⑴認定事実ア)を踏まえると,原告が本件事故以外の要因により第11胸椎圧迫骨折の傷害を負ったと認めることは困難であり,被告の主張は理由がない。 3 損害額(争点 前の圧迫骨折等の既往歴の状況(後記3⑴認定事実ア)を踏まえると,原告が本件事故以外の要因により第11胸椎圧迫骨折の傷害を負ったと認めることは困難であり,被告の主張は理由がない。 3 損害額(争点4)について⑴ 認定事実前記前提事実に加え,証拠(原告本人のほか掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる。 ア原告の既往歴等診断内容等原告は,平成26年7月から8月頃に行った脊椎MRI画像により,第7頸椎から第1腰椎高位の脊髄輝度変化を指摘され,神経内科においてステロイドパルス治療を施行され,後にシェーグレン症候群に伴う脊髄炎と診断されたことや,平成27年4月頃,第8,9胸椎及び第1,3,4腰椎を圧迫骨折してコルセット等による保存治療を受けるとともに,遅くとも同月頃以降,ステロイド性骨粗鬆症との病名登録をされ,断続的に骨粗鬆症の治療薬(テリボン等)の投与を受けていた(甲15,25,乙11の9 頁)。 傷害の内容原告は,本件事故以前,上記のシェーグレン症候群による感覚神経障害が存在したことにより自賠法施行令別表第二第12級13号「局部に頑固な神経症状を残すもの」に該当し,また,第8,9胸椎及び第1,3,4腰椎の損失椎体高が後方椎体高の平均以上であることから同表第二第6級5号「脊柱に著しい変形を残すもの」に該当し,これらを併合して同表第二第5級に相当する障害の状態にあった(甲15)。 骨密度の状況原告の骨密度(BMD値。被験者の骨密度を若年者の平均値を100%として数値化したもの)は,平成26年7月1日時点で腰椎101%,右大腿78%,同年9月30日時点で腰椎78%,右大腿63%(乙11の432頁),平成28年3月17日時点で腰椎80%(Tスコア -2.0。Tスコアとは,若年者 成26年7月1日時点で腰椎101%,右大腿78%,同年9月30日時点で腰椎78%,右大腿63%(乙11の432頁),平成28年3月17日時点で腰椎80%(Tスコア -2.0。Tスコアとは,若年者の平均BMD値を0として,標準偏差を1SDとして指標を規定したもの),大腿骨65%(Tスコア -2.5)(乙11の586,622頁),同年8月12日時点で,腰椎77%(Tスコア -2.4),右大腿50%(Tスコア -2.6)(甲15)とされていた。また,原告の骨密度について,H大学病院の医師は,同月16日時点で年代のSD(注:骨密度の標準偏差を指す。)を超えない旨を診療経過記録に記載している(乙11の663頁)。 イ本件事故後の治療経過等原告は,平成28年12月27日,H大学病院整形外科を受診して第11胸椎圧迫骨折との診断を受け(上記前提事実⑵ウ),平成29年1月4日,その旨の診断書の発付を受け,3240円 を支払った(甲1,4の2,25)。 原告は,同年1月14日から24日までの間,同大学病院に入院して治療を受け,入院診療費(食事療養費及び室料差額等)として36万7200円を支払った(甲4の3,4の7)。 原告は,同月24日から同年4月18日までの間,リハビリテーション目的でI病院に入院して,回復訓練等を受け,入院診療費及びリハビリテーション費用等として合計27万4320円を支払った(甲5の1~5の7)。 また,原告は,同病院に対し,入所診断書料,診療情報開示手数料,診療報酬明細書及び診断書等の取得費用として,合計5万9799円を支払った(甲5の8~11)。 原告は,同年8月18日から同月30日までの間,H大学病院に入院して治療を受け,入院診療費(食事療養費及び室料差額等)として11万1600円を支払った 9799円を支払った(甲5の8~11)。 原告は,同年8月18日から同月30日までの間,H大学病院に入院して治療を受け,入院診療費(食事療養費及び室料差額等)として11万1600円を支払った(甲4の4,4の8)。 原告は,同年12月19日及び平成30年2月21日,同大学病院に対し,文書料として合計8640円を支払った(甲4の5,4の6)。 また,原告は,同大学病院に対し,カルテコピー代等及び通院証明書の費用として,合計3万8759円を支払った(甲4の9,4の10)。 原告の夫であるCについて,原告に付き添った(原告本人16頁)。 ウ後遺障害原告は,平成30年2月14日,H大学病院において,同日をもって第11胸椎圧迫骨折の傷病により,症状が固定した旨の診断を受けた(甲2)。 原告は,第11胸椎圧迫骨折による後壁突出により脊髄症状をきたし,下肢筋力が低下して自立歩行が困難となり,常時介助を要する状態となった(甲27,乙11)。これは,自賠法施行令別表第一第2級1号「神経系統の機能に著しい障害を残し,随時介護を要するもの」に相当する状態である。そして,原告は,既往症状として第8,9胸椎及び第1,3,4腰椎の骨折による障害(同表第二第6級5号「脊柱に著しい変形を残すもの」)を有するから,本件事故後の後遺障害は,これらを併合して同表第一第2級に相当する状態であったといえる。 エ本件事故後,症状固定日までの介護状況等原告は,平成29年4月18日から同年8月5日までの間,Jに入所し,施設利用料等として,合計46万6123円を支払った(甲6の1~5)。 また,Jの文書開示手数料等として9776円を要した(甲6の6)。 原告は,同年8月3日から平成30年1月31日までの間,Kに入居し,家賃,生 計46万6123円を支払った(甲6の1~5)。 また,Jの文書開示手数料等として9776円を要した(甲6の6)。 原告は,同年8月3日から平成30年1月31日までの間,Kに入居し,家賃,生活支援費,食費及び日用品費等として,合計128万1057円を支払った(甲7の1~11。なお,Kの平成29年11月3日付け請求書(甲7の6)及び同年12月6日付け請求書(甲7の8)は,平成30年1月10日発行の請求書(甲7の10)及び同年2月10日発行の請求書(甲7の11)と重複するため,原告は,Kに対し,後者の請求書(甲7の10及び7の11)記載の金員を支払ったものと認める。)。 原告は平成29年8月10日から平成30年1月31日までの間,Lによる訪問看護サービスを利用し,その費用として,合計4万5051円を支払った(甲8の1~6)。 オ交通費等原告は,平成29年8月5日から平成30年2月21日までの間,11回にわたり,JとKの間,KとH大学病院との間,自宅と同大学病院との間及び同大学病院とI病院との間の移動のため,タクシー代として合計9万1643円を要した(甲10の1~13)。 なお,自宅と同大学病院との間の距離は3kmであり,1往復当たりの交通費は,90円とするのが相当である。 カ器具費等原告は,本件事故後,介護のために必要な福祉用具等費として,合計2万3814円を支払った(甲9の2~6)。 キ要支援・要介護認定の状況原告は,本件事故前に要支援2の認定を受けていたが,平成29年2月に要介護3,平成30年3月に要介護4の認定を受けた(原告本人17頁)。 ⑵ 原告に生じた損害についてア H大学病院における治療費等平成29年1月14日から同月24日の入院に係る診療費原告は,標記期間の入院診療費 要介護4の認定を受けた(原告本人17頁)。 ⑵ 原告に生じた損害についてア H大学病院における治療費等平成29年1月14日から同月24日の入院に係る診療費原告は,標記期間の入院診療費等として36万7200円を支払っているところ,そのうち室料差額及びその消費税分に相当する35万6400円については,原告の傷害の程度に照らし,本件事故による受傷のための治療として相当因果関係のある損害であると認めることはできない。 したがって,標記期間の入院診療費としては,1万0800円の限度で認めるのが相当である。 平成29年8月18日から同月30日の入院に係る診療費原告は,標記期間の入院診療費 等として11万1600円を支払っているところ,そのうち室料差額及びその消費税分に相当する9万8280円については,上められない。 したがって,標記期間の入院診療費としては,1万3320円の限度で認めるのが相当である。 平成29年12月19日及び平成30年2月21日の文書料円を支払っているが,事故から1年以上経過していることや,原告が本件事故による後遺障害以外の原因でも通院していたことに照らすと,これが本件事故による障害に関する費用であると認めるに足る証拠はなく,本件事故と相当因果関係のある損害であると認めることはできない。 診断書,カルテ開示費用等平成29年1月4日の診断書の取得費用(3240円),カルテ開示費用等(3万8759円)として4万1999円を支払っているところ,これらは,本件事故と相当因果関係のある損害であると認められる。 小計6万6119円イ I病院における入院費等平成29年1月24日から同年4月18日の入院に係る入院診療費費として27万4320円を支払っているところ,そのう ると認められる。 小計6万6119円イ I病院における入院費等平成29年1月24日から同年4月18日の入院に係る入院診療費費として27万4320円を支払っているところ,そのうち室料差額に相当する18万3600円については, 由により相当因果関係のある損害であるとは認められない。 したがって,標記期間の入院診療費としては,9万0720円の限度で認めるのが相当である。 診断書,カルテ開示費用等して5万9799円を支払っているところ,これらは,本件事故と相当因果関係のある損害であると認められる。 小計15万0519円ウ症状固定前の介護費平成29年4月18日から同年8月5日までのJの施設利用料等Jの利用料等として46万6123円を支払っているところ,原告の既往症に照らし,当該利用料等のなかには,本件事故により生じた後遺障害がないとしても必要となる費用が含まれていると認められることから,本件事故と相当因果関係のある費用としては,上記金額から3割を減じた32万6286円とするのが相当である。 平成29年8月3日から平成30年1月31日のKの施設利用料等上記⑴認定事実Kの利用料等として128万1057円を支払っているところ,原告の既往症に照らし,当該利用料等のなかには,本件事故により生じた後遺障害がないとしても必要となる費用が含まれていると認められることから,本件事故と相当因果関係のある損害としては,上記金額から3割を減じた89万6740円とするのが相当である。 平成29年8月から平成30年1月までのLの訪問看護料Lの利用料として,4万5051円を支払っているところ,原告は,本件事故以前は既往症を有していたものの,訪問看護を利用することなく生活できてい 成29年8月から平成30年1月までのLの訪問看護料Lの利用料として,4万5051円を支払っているところ,原告は,本件事故以前は既往症を有していたものの,訪問看護を利用することなく生活できていたことから,上記金額全額が本件事故と相当因果関係のある損害であると認められる。 文書開示手数料等Jの文書開示手数料等として9776円を支払っているところ,これは,本件事故と相当因果関係のある損害である。 小計127万7853円エ入通院付添費入院付添費原告の総入院期間109日のうち92日程度につき,原告に付き添ったことが認められるが,原告の後遺障害の程度等や,入院中に看護師による看護が期待できることに照らし,本件事故と相当因果関係のある損害であるとは認められない。 通院付添費原告は,原告の夫が,原告の通院期間中,6日にわたり,原告に付き添ったと主張するが,本件全証拠によっても,原告が本件事故による後遺障害のために通院し,原告の夫が,それに付き添ったことを認めるに足る証拠はなく,通院付添費は認められない。 小計0円 オ将来の通院付添費原告は,将来の通院付添費として月額3300円を請求し,症状固定日以降も自宅からH大学病院へ通院する必要があることが認められるが,後記ケのとおり介護タクシーを利用する場合には,運転手等による介助が期待できる。したがって,将来の通院付添費について,本件事故と相当因果関係のある損害であると認めることはできない。 カ将来の看護費原告は,将来の介護費として,月額23万2455円(症状固定前直近3カ月の介護費用の平均金額)を請求するところ,同金額には本件事故による後遺障害がなくても必要となる費用が含まれることから,将来看護費の月額としては,上記金額から3 23万2455円(症状固定前直近3カ月の介護費用の平均金額)を請求するところ,同金額には本件事故による後遺障害がなくても必要となる費用が含まれることから,将来看護費の月額としては,上記金額から3割を減じた16万2719円が相当である。 また,原告の既往症や年齢を踏まえると,本件事故がなくとも将来介護が必要となる蓋然性があることから,本件事故と相当因果関係のある将来看護費用として,次の金額を認めるのが相当である。 16万2719円×12か月×(平均余命までの28年に係るライプニッツ係数14.8981×0.5)=1454万5224円キ症状固定前の雑費及び将来の雑費原告は,症状固定前の雑費及び将来の雑費を請求するところ,原告に生じた後遺障害の程度等に照らすと,本件においては,症状固定前の看護費及び将来の看護費に加えて更に症状固定前の雑費及び将来の雑費を認める必要があるとは認められない。 ク交通費上記⑴認定事実オによれば,原告は,KとH大学病院との間の交通費として9万1643円を要したと認められ,同費用は,本件事 故と相当因果関係のある損害であると認められる。 ケ将来の通院交通費原告は,将来の通院交通費として月額8900円を請求するところ,症状固定後も自宅からH大学病院へ通院する必要があることが認められる。もっとも,原告の既往症や年齢に照らし,上記カと同様の理由から,次の金額を認めるのが相当である。 8900円×12か月×(平均余命までの28年に係るライプニッツ係数14.8981×0.5)=79万5559円コ付添人交通費原告は,原告がH大学病院へ通院したことについての夫の付添費として4158円,原告がH大学病院及びI病院へ入院したことについての夫の付添費として3万3861円を請求するところ,上記 付添人交通費原告は,原告がH大学病院へ通院したことについての夫の付添費として4158円,原告がH大学病院及びI病院へ入院したことについての夫の付添費として3万3861円を請求するところ,上記H大学病院へ通院したことを認めるに足る証拠はないため,通院付添費に関する主張は理由がない。入院付添費については,原告の夫の勤務先とH大学病院との距離が23.1km,同勤務先とI病院との距離が9.1kmであること,原告の夫が原告の入院期間の85%程度について付添をしたこと(上記⑴認定事実 (23.1km×2×15円×24日×85%)+(9.1km×2×15円×85日×85%)=3万3861円サ装具・器具等購入費上記⑴認定事実カによれば,原告は,福祉用具等の費用として2万3814円を支払ったと認められ,同費用は,本件事故と相当因果関係のある損害であると認められる。 シ休業損害原告は,本件事故後,症状固定日までの416日間について,家 事労働をすることができなくなったとして,日額1万0308円(平成28年賃金センサス女子産業計・学歴計・全年齢376万2300円÷365日)を請求するところ,原告に既往症があったことや,原告が夫及び義母と家事を分担していたことに照らすと,原告の基礎収入については,年額120万円とするのが相当である。 そこで,次の金額の限度で,本件事故と相当因果関係のある損害であると認める。 120万円÷365日×416日=136万7671円ス後遺症逸失利益上記⑴認定事実賠法施行令別表第二第5級(労働能力喪失率79%)に相当する後遺障害を有しており,本件事故により同表第一第2級(労働能力喪失率100%)に相当する後遺障害を負ったことが認められる。そして,原告の基礎収入は,上記シのとおり,年額 能力喪失率79%)に相当する後遺障害を有しており,本件事故により同表第一第2級(労働能力喪失率100%)に相当する後遺障害を負ったことが認められる。そして,原告の基礎収入は,上記シのとおり,年額120万円とするのが相当である。 したがって,原告に生じた後遺障害による逸失利益は,次の金額とするのが相当である。 120万円×(1-0.79)×平均余命の半分である14年に係るライプニッツ係数9.8986=249万4447円セ傷害慰謝料の後遺障害の症状が平成30年2月14日に固定したこと,入院実日数が109日であることに照らし,原告の傷害慰謝料は,247万3000円とするのが相当である。 ソ後遺症慰謝料 令別表第一第2級に相当する後遺障害を負い,現在も自立歩行な状態であることなどに照らし,原告の後遺症慰謝料は,970万円とするのが相当である。 タストック購入費キャップが外れた状態となったため,ストック購入費9297円は,本件事故と相当因果関係のある損害である。 チ合計3302万9007円⑶ 素因減額についてによれば,原告は,本件事故以前にステロイドパルス治療を受けてシェーグレン症候群に伴う脊髄炎と診断されるとともに,継続的に骨粗鬆症の治療を受けていたところ,原告の骨密度の値が同年代の標準偏差の範囲内ではなく,低い数値を示しており,これらの症状を呈しない者と比べ,骨折しやすい状況にあったし,第8,9胸椎及び第1,3,4腰椎の圧迫骨折という既往症があって,同脊椎部分を安定化させるためコルセット等を装着していた。 そして,側線における進路が急カーブを伴うなど通常の線路と大きく異なる性状のものでなく,原告が本件事故により受けた衝撃は通常列車に乗車している際に受ける衝撃と大差ないと思われるこ 着していた。 そして,側線における進路が急カーブを伴うなど通常の線路と大きく異なる性状のものでなく,原告が本件事故により受けた衝撃は通常列車に乗車している際に受ける衝撃と大差ないと思われることに照らすと,骨粗鬆症の症状を有しない者であれば,本件当時の原告の態勢と同じ状態で本件列車に乗車していたとしても,胸椎を圧迫骨折することは想定しがたい。したがって,本件事故により原告が第11胸椎を圧迫骨折したことには,原告の身体的要因が大きく影響していたというべきであり,民法722条の類推適用により, 素因減額をすることが相当である。 原告の骨粗鬆症の症状が上記のとおり疾患に相当するものであることやその症状の程度を踏まえると,骨粗鬆症が加齢によっても生じ得ることを考慮しても,その減額の割合は,4割とすることが相当であると認められる。 ⑷ 過失相殺について列車から降車しようとする旅客は,自己の身体を守るため列車ドアが閉扉し始めてからの乗降車を差し控えるよう注意すべきであり,本件ドアについては,閉まる前に閉扉する旨のアナウンスがあったところ,原告は,本件ドアが閉扉する直前に本件ストックを本件ドアの外に差し出したものであり,このような原告の降車態度には重大な過失があると認められる。 そして,本件運転士が本件ホームモニタにより4名の女性が本件ドア付近に集まっている映像を目視できた時間が短時間にとどまることや,同映像は,4名の女性がホーム上に集まっている理由について様々な要因を想定し得る内容であったことなどの本件運転士の過失の態様等,諸般の事情を考慮すると,過失相殺として,原告の損害の7割を減ずるのが相当であると認められる。 ⑸ まとめ以上によれば,原告の損害額は次のとおりとなる。 3302万9007円×(1-0.4)×(1 の事情を考慮すると,過失相殺として,原告の損害の7割を減ずるのが相当であると認められる。 ⑸ まとめ以上によれば,原告の損害額は次のとおりとなる。 3302万9007円×(1-0.4)×(1-0.7)=594万5221円また,本件における弁護士費用は,59万4522円が相当であり,上記損害額との合計は,653万9743円となる。 第4 結論以上によれば,原告の請求は,被告に対し,使用者責任に基づく損害 賠償として653万9743円及びこれに対する不法行為の日である平成28年12月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があると認められるから認容し,その余は理由がないから棄却すべきである。なお,仮執行の宣言については相当でないからこれを付さないこととする。 よって,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第7部 裁判長裁判官前田郁勝 裁判官今城智徳 裁判官白鳥 葵

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