主文 被告人を懲役2年に処する。 この裁判確定の日から4年間その刑の執行を猶予する。 札幌地方検察庁で保管中の判決正本の写し2通(報告書と題するファクシミリ文書に添付されたもの。)の各偽造部分を没収する。 理由 (犯罪事実)被告人は,札幌弁護士会所属の弁護士で,札幌地方裁判所から破産者有限会社Aの破産管財人に選任されたものであるが,同裁判所から破産者の売掛金債権を回収するため,有限会社B及び有限会社Cに対する各売掛金請求訴訟を提起する許可を受けながら,これを放置していたにもかかわらず,同裁判所に対しては,訴えを提起し,請求認容の判決を得た旨虚偽の報告をしていたところ,同裁判所から同売掛金請求訴訟の判決正本の写しの提出を求められたことから,同訴訟について虚偽の報告をしたこと及び破産管財人の業務が遅滞していることなどの発覚を妨げるため,同売掛金請求訴訟にかかる判決正本の写し2通を偽造,行使することを企て,平成13年9月20日ころ,札幌市中央区a条b丁目甲法律事務所において,行使の目的で,ほしいままに,パソコンのワープロソフト等を用いて,判決宣告日等を「平成13年6月27日判決言渡・同日原本交付裁判所書記官」,事件番号等を「平成13年(ハ)第1624号売掛金請求事件」,当事者の表示を「札幌市中央区a条b丁目原告破産者有限会社A 破産管財人甲」,「札幌市西区c町d丁目e番f号被告有限会社B 上記代表者代表取締役E」,主文を「1 被告は,原告に対し,金293,517円及びこれに対する平成13年4月24日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。」「2 訴訟費用は被告の負担とする。」「3 この判決は仮に執行することができる。」などとする札幌簡易裁判所裁判官F名義の,被告有限会社Bが口頭弁論期日に欠席した で年6分の割合による金員を支払え。」「2 訴訟費用は被告の負担とする。」「3 この判決は仮に執行することができる。」などとする札幌簡易裁判所裁判官F名義の,被告有限会社Bが口頭弁論期日に欠席したことにより,「事実及び理由」記載の請求原因事実を認めたとみなされるため,被告が原告・破産者有限会社Aの破産管財人甲に対し「主文」記載の金員及び遅延損害金を支払うこと等を認容した,原・被告間の売掛金請求事件の平成13年6月27日付け判決書1通,判決宣告日等を「平成13年6月27日判決言渡・同日原本交付裁判所書記官」,事件番号等を「平成13年(ハ)第1625号売掛金請求事件」,当事者の表示を「札幌市中央区a条b丁目原告破産者有限会社A 破産管財人甲」,「北海道江別市gh番地i号被告有限会社C 上記代表者代表取締役G」,主文を「1 被告は,原告に対し,金52,290円及びこれに対する平成13年4月18日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。」「2 訴訟費用は被告の負担とする。」「3 この判決は仮に執行することができる。」などとする前記裁判官F名義の,被告・有限会社Cが口頭弁論期日に欠席したことにより,「事実及び理由」記載の請求原因事実を認めたとみなされるため,被告が原告・破産者有限会社Aの破産管財人甲に対し「主文」記載の金員及び遅延損害金を支払うこと等を認容した,原・被告間の売掛金請求事件の平成13年6月27日付け判決書1通をそれぞれ作成し,別事件の和解調書正本から「これは正本である。」旨の認証文言,作成日付,「札幌簡易裁判所書記官H」の記名及び「札幌簡易裁判所裁判所書記官之印」の押印部分を複写し,その作成日付の数字を修正テープで抹消した上再度複写して,これを前記F名義の各判決書の末尾余白に貼付し,さらに,これらを複写するとと の記名及び「札幌簡易裁判所裁判所書記官之印」の押印部分を複写し,その作成日付の数字を修正テープで抹消した上再度複写して,これを前記F名義の各判決書の末尾余白に貼付し,さらに,これらを複写するとともに,各空欄となっていた正本認証の日付欄にボールペンで「13.6.27」とそれぞれ記載して,ファクシミリ送信原稿である判決正本の写し2通を作成した上,翌21日午前7時55分ころ,同区大通j丁目札幌地方裁判所民事第4部「商事部」あてに,前記甲法律事務所からファクシミリ通信により前記判決正本の写し2通を送信し,そのころ,同裁判所民事第4部「商事部」に備え付けのファクシミリで前記判決正本2通を印字・出力させ,もって,あたかも真正に作成された札幌簡易裁判所書記官H作成名義の判決正本を原形どおり正確に複写された外観を有する写し2通(ただし,報告書と題するファクシミリ文書に添付されたもの)を偽造するとともに,同日午前8時20分ころ,これを同裁判所書記官Iに閲覧了知させて行使したものである。 (法令の適用)被告人の判示所為のうち,各有印公文書偽造の点は刑法155条1項に,その各行使の点は同法158条1項,155条1項にそれぞれ該当するところ,各偽造有印公文書の一括行使は,1個の行為が2個の罪名に触れる場合で,各有印公文書偽造と各同行使との間にはそれぞれ手段結果の関係があるので,同法54条1項前段,後段,10条により,結局以上を1罪として犯情の最も重い平成13年(ハ)第1624号売掛金請求事件の判決正本写しにかかる偽造有印公文書行使罪の刑で処断することとし,その所定刑期の範囲内で被告人を懲役2年に処し,情状により同法25条1項を適用して,この裁判確定の日から4年間その刑の執行を猶予し,札幌地方検察庁で保管中の判決正本の写し2通(報告書と題するファクシミリ文 刑期の範囲内で被告人を懲役2年に処し,情状により同法25条1項を適用して,この裁判確定の日から4年間その刑の執行を猶予し,札幌地方検察庁で保管中の判決正本の写し2通(報告書と題するファクシミリ文書に添付されたもの。同庁平成13年領第1570号符号1)の各偽造部分は判示各偽造有印公文書行使の犯罪行為をそれぞれ組成した物で,いずれも何人の所有をも許さないものであるから,同法19条1項1号,2項本文を適用してこれらを没収することとする。 (量刑の事情)本件は,破産管財人に選任された弁護士である被告人が,管財業務を懈怠する一方で,破産裁判所に対しては,債権回収のために訴訟を提起して勝訴したなどと虚偽の報告をしていたことから,これが発覚するのを免れるため,判決正本の写し2通を偽造して,破産裁判所に提出したという事案である。 本件犯行は,基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士が,司法の根幹をなす判決正本を偽造,行使したという前代未聞の事件であって,厳しい非難に値することを指摘しなければならない。犯行に至る経緯をみても,被告人は,破産管財人に選任されたものの,業務を長期にわたり放置したため,平成13年1月下旬以降,破産裁判所から業務遂行を強く督促されるとともに,破産財団の売掛債権を回収するために,期限を指定された上,2件の売掛金請求訴訟を提起するよう求められ,これを了承したが,なおも業務を懈怠しその期限を徒過させる一方で,破産裁判所に対しては,訴えを提起し,勝訴したなどと,その場しのぎの虚偽の報告をするなどした挙げ句,担当書記官から判決正本の写しの提出を求められるや,自己のこれまでの業務の懈怠や虚偽の報告を糊塗するため,本件犯行に及んだというものであって,短絡的で無思慮な犯行というほかなく,その経緯及び動機に酌量すべき事情は全くない。 しの提出を求められるや,自己のこれまでの業務の懈怠や虚偽の報告を糊塗するため,本件犯行に及んだというものであって,短絡的で無思慮な犯行というほかなく,その経緯及び動機に酌量すべき事情は全くない。犯行態様も,職務上の知識,経験等を利用して判決書を作成し,これに別事件の和解調書正本の認証文言の写しを貼付するなどして精巧に判決正本を作成した上,これを送信原稿として破産裁判所宛にファクシミリで送信するなどして判決正本の写しを偽造,行使しているのであって,誠に大胆で巧妙というべきである。また,本件が,公文書の中でもとりわけ公共性,信用性の高い公文書である判決書について,その社会的信頼を著しく損わせたものである上,弁護士あるいは司法制度全般に対する国民の信頼をも大きく失墜させたものであって,結果も重大というほかない。加えて,被告人は,犯行後,本件犯行の発覚を阻止するため,自ら偽造した判決書の内容に従い,その管理する破産管財人名義の預金口座に,認容額相当の金員を振込送金するなどしており,犯行後の事情も芳しくない。 こうした事情を考慮すれば,被告人の刑事責任は軽視できない。 しかし,他方,本件犯行は,財産的な利得を目的としてなされたものではないこと,被告人は,本件犯行を認めるとともに自発的に所属弁護士会に退会届を提出するなど,本件犯行に対する真摯な反省の態度を示していること,これまで前科前歴がないこと,本件が広く報道されたほか,同弁護士会から退会命令の懲戒処分を受けるなど一応の社会的制裁を受けていることなど,被告人に有利に斟酌すべき事情も認められる。 そこで,以上の諸事情を総合勘案し,被告人に対しては,主文の刑に処して,その責任を明確にした上,その執行を猶予し,社会内における更生の機会を与えるのが相当であると判断した。 よって,主文のとおり判決する。 ,以上の諸事情を総合勘案し,被告人に対しては,主文の刑に処して,その責任を明確にした上,その執行を猶予し,社会内における更生の機会を与えるのが相当であると判断した。 よって,主文のとおり判決する。 (検察官加藤和宏及び私選弁護人砂子章彦(主任)各出席)(求刑懲役2年,没収)平成14年3月25日札幌地方裁判所刑事第1部裁判長裁判官小池勝雅裁判官中山大行裁判官河畑勇
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