平成25年(わ)第1780号,第1989号,平成26年(わ)第305号強盗殺人,傷害,窃盗,覚せい剤取締法違反被告事件平成27年7月9日千葉地方裁判所刑事第5部判決 主文 被告人を懲役6年に処する。 未決勾留日数中380日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)第1 被告人は,Aと共謀の上,平成25年2月20日午前3時40分頃から同日午前4時57分頃までの間,千葉県松戸市(以下省略)所在のB駐車場において,同所に駐車していたC所有の普通乗用自動車1台(時価約27万2000円相当)を窃取した。 第2 被告人は,前記Aと共謀の上,同日午前3時40分頃から同日午前4時57分頃までの間,同市(以下省略)所在のD駐車場において,同所に駐車していたE所有の普通乗用自動車1台(時価約53万1000円相当)を窃取した。 第3 被告人は,前記A及びFと共謀の上,同月22日午前6時54分頃,同県柏市GH番地I所在の月極駐車場において,同所に駐車していたJ所有の普通乗用自動車1台(時価約65万6000円相当)を窃取した。 第4 被告人は,法定の除外事由がないのに,同年11月20日頃,同市(以下省略)所在のK被告人方において,覚せい剤であるフェニルメチルアミノプロパンの塩類若干量を加熱し気化させて吸引し,もって覚せい剤を使用した。 第5 被告人に対する傷害被告事件についての平成26年12月1日宣告の部分判決(以下「部分判決」という。)の(罪となるべき事実)に記載のとおり。(省略)(証拠の標目)(省略)(争点に対する判断)第1 争点強盗殺人被告事件(当裁判所は,判示第3のとおり窃盗の限度で認定。 以下「本件」という。)の公訴事実は,「被告人は,普通乗用自動車を窃取しようと考 (省略)(争点に対する判断)第1 争点強盗殺人被告事件(当裁判所は,判示第3のとおり窃盗の限度で認定。 以下「本件」という。)の公訴事実は,「被告人は,普通乗用自動車を窃取しようと考え,A及びFと共謀の上,平成25年2月22日午前6時54分頃,千葉県柏市GH番地I所在の月極駐車場において,同所に駐車していたJ(当時31歳)所有の普通乗用自動車(時価約65万6000円相当)を窃取し,同所から同市GH番地所在のL前路上まで運転走行した際,これを発見して同車の前方に立ち塞がった同人に対し,同車を取り返されることを防ぐとともに,逮捕を免れるため,殺意をもって,同車を前進させて同人に衝突させて同人をボンネット上に乗り上げさせ,さらに,同車にしがみついていた同人を転落させるため,その頃,同所から同市MN番地O所在のP方付近路上に至るまでの約55メートルの間に,時速約11キロメートルから時速約40キロメートルまで急加速した後,急制動して急減速し,前記Jをボンネット上から同車前方の路上に放出する暴行を加えてその後頭部等を路面に衝突させ,よって,同月28日午前1時頃,同市(以下省略)所在のQ病院において,同人を頸髄損傷により死亡させて殺害したが,その際,前記A及び前記Fは,窃盗の犯意を有するにとどまっていた。」というものである。 本件の主たる争点は,⑴被害者に衝突させた車両(以下「本件車両」という。)を運転していたのが被告人であるか否か,及び,⑵⑴が認め られる場合,被告人に殺意が認められるか否かであるところ,当裁判所は被告人が本件車両を運転していたと認めるには合理的な疑いが残ると判断したので,以下補足して説明する。 第2 証拠構造本件では,被告人が本件車両を運転していたことを裏付ける客観的証拠は存在しない。 したがって,本 転していたと認めるには合理的な疑いが残ると判断したので,以下補足して説明する。 第2 証拠構造本件では,被告人が本件車両を運転していたことを裏付ける客観的証拠は存在しない。 したがって,本件現場にいたA及びF並びに本件の数日後に本件の状況について話を聞いたというRの各公判供述から,被告人が本件車両を運転していたことが認定できるか,すなわち,前記各人の供述を信用することができるかが問題となる。 第3 前提となる事実関係関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。 1 本件の経緯判示第3の日時場所において,被告人,A及びFの三人が共謀してJ所有の本件車両(スバルインプレッサSTi)を窃取した。 被害者は,千葉県柏市GH番地所在のL前路上で何者かが運転する本件車両に衝突し,同車のボンネット上に乗り上げ,約55メートル先にある同市MN番地O付近路上において本件車両が急制動したことによってボンネット上から路上に放出され,その頭部が路面に衝突し,平成25年2月28日午前1時頃に頸髄損傷により死亡した。 本件当日の夕方,A,F,R及びSなる人物が,本件車両を含む盗難車両3台を千葉県袖ケ浦市に所在するヤードに売却目的で運搬した。 2 本件後の経緯平成25年10月17日,Fが別件窃盗の被疑事実で勾留され,その後さらに別件窃盗の被疑事実等で勾留された。Fは,同年11月1 9日,検察官に対し,本件車両を運転していたのは被告人である旨を供述した。 被告人は,同月20日,判示第5の傷害の被疑事実で逮捕され,翌21日に勾留された。 同年12月8日,本件について,被告人が被害者に対する強盗殺人の被疑事実で,A及びFが本件車両に対する窃盗の被疑事実でそれぞれ勾留された。 同月9日,本件の盗品である自動車の運搬について, 同年12月8日,本件について,被告人が被害者に対する強盗殺人の被疑事実で,A及びFが本件車両に対する窃盗の被疑事実でそれぞれ勾留された。 同月9日,本件の盗品である自動車の運搬について,Rが盗品等運搬の被疑事実で勾留された。 同月27日,本件について,被告人は被害者に対する強盗殺人の公訴事実で,A及びFは本件車両に対する窃盗の公訴事実で,Rは盗品等運搬の公訴事実でそれぞれ起訴された。 Rは,この日までに,検察官に対し,Aと被告人の発言から,本件車両を運転していたのは被告人であると思った旨の供述をした。 平成26年2月13日,本件車両の窃盗について,Aを被告人とする第1回公判期日が開かれ,Aはそれまで黙秘を続けていた本件車両に対する窃盗について公訴事実を認めた。 同月下旬,Aから,接見禁止中の被告人に対し,Aの弁護人であるT弁護士及び被告人の判示第5の傷害事件の私選弁護人として選任されていたU弁護士(なお,同弁護士はAが金を出して被告人のために選任した。)を介して,以下の内容等が記載された手紙2通(弁5,6)がまとめて渡された。 弁5 「柏の件,再逮捕の件は,全て被告人主導で行なった事件であり,私,Aが『実は被告人の言いなりである。』という旨の供述をすること。※ 被告人はどうしても長期刑を避けられないので,せめて私が少しでも早く出て,サポートに回れるように,という合理的な判 断をしてほしい。」「F,Rといった人間を使ったのは私の痛切な人選ミスなので,結果,被告人の人生が大きく変わってしまった。私の社会復帰後には,Fらの親,兄弟,女房,子供は安穏な生活など,間違ってもさせない。([注]なお,他の文字の抹消部分は完全に読み取れないように抹消されているにもかかわらず,「Fらの親~させない。」との部分には,文字 Fらの親,兄弟,女房,子供は安穏な生活など,間違ってもさせない。([注]なお,他の文字の抹消部分は完全に読み取れないように抹消されているにもかかわらず,「Fらの親~させない。」との部分には,文字の上に二重線が引かれているものの,文章を読み取ることは可能な状態となっている。)私は絶対に許さないので,そこは信頼してまかせてほしい。」弁6 「本当に悪いけど,今回,こうなった以上は,もう被告人を悪者にして,俺だけでも早く出れる方向にした方が賢こい選択だろ… ? 俺が変な男気出して,無駄に長く務めたって,誰も得しないよ。そんなら,俺が早く出て,被告人に早いとこエロ本でも送った方がいいだろ?切り替えるしかねえよ。」「V([注]なお,同人はAの妻である。)が,最近Fの女を追い込んだらしいぞ(笑)女はサツに泣きついて,俺にデコから中止命令が来たよ。」同年3月18日,被告人は本件について本件車両を運転していたのは自分である旨を検察官に供述し,被告人の自白調書が作成された。 同年5月29日,Aに対し,本件に関する窃盗を含む窃盗3件,覚せい剤取締法違反2件について,懲役5年に処する旨の第一審判決が言い渡された。 Aは前記判決に対し控訴したが,同年9月に前記判決は確定した。 同年11月25日,被告人及び弁護人は強盗殺人の犯人性を認めていたそれまでの主張を撤回し,犯人性を争う旨の予定主張書面を当裁判所に提出した。 第4 F,R及びAの各供述の要旨 1 F供述の要旨本件当日朝にAから本件車両までの道案内を頼まれたため,被告人及びAと共に青色ハッチバック型のスバルインプレッサ(以下「帯同車両」という。)に乗車して本件現場に向かった。 本件現場に到着後,被告人とAが帯同車両から降りて外に出た。本件車両のエンジンをかけて運転したのは被 色ハッチバック型のスバルインプレッサ(以下「帯同車両」という。)に乗車して本件現場に向かった。 本件現場に到着後,被告人とAが帯同車両から降りて外に出た。本件車両のエンジンをかけて運転したのは被告人であり,そのときFは帯同車両の運転席に,Aは帯同車両の助手席に座っていた。 本件車両のエンジンがかかる音がしたところで,助手席のAから「発進していいよ。」と言われたので,帯同車両を駐車場から出した。本件車両も帯同車両に少し遅れて駐車場を出た。 帯同車両で走行中,Aが後ろを振り返って「人が出てきた。」と言ったのでサイドミラーで確認をしたが,人も本件車両も見えなかった。Aが「頭から落ちてた。」と言っていた。 その後,松戸市内の立体駐車場に本件車両を置き,帯同車両に3人で乗って帰った。その際,被告人は「人が出てきて車の上に乗ってきた。 走って追いかけてきた。」と言い,Aは「頭から落ちてたよね。」と言っていた。 2 R供述の要旨本件の二,三日後,Aの車の中で,A,被告人及びRの3人で本件について話をした。 本件車両の持ち主が轢かれた話の中で,Rが「運転したのはAか」と尋ねたところ,Aが「被告人だ。」と答え,被告人はその会話を聞いていたが何も言わなかった。被告人は「落ちて,後ろを振り返ったら,起き上がったので,そのまま逃げてきた。」と言っていたので,本件車両を運転していたのは被告人だと思った。 3 A供述の要旨本件当日,被告人と本件車両を盗みに行くことになり,道案内のためにFを呼び出して合流し,3人で帯同車両に乗車して本件現場に向かった。 被告人が本件車両のエンジンをかけて運転し,Aは帯同車両の助手席に,Fは帯同車両の運転席にいた。 帯同車両が先に駐車場から出て,すぐ後ろに本件車両が来ていた。後ろを振り向いて見ていたところ, 。 被告人が本件車両のエンジンをかけて運転し,Aは帯同車両の助手席に,Fは帯同車両の運転席にいた。 帯同車両が先に駐車場から出て,すぐ後ろに本件車両が来ていた。後ろを振り向いて見ていたところ,アパートから人が出てきたので,Fに「人が出てきたよ。」と言った。ガシャンという音がしたので,助手席のドアミラーを見ると,ドアミラー越しに,本件車両のボンネット上に人が大の字になってフロントガラスの左右の枠を掴んでへばりついているところが見えた。本件車両は歩くようにゆっくりと走り,左右に蛇行したりブレーキを踏んだりしていた。道が右カーブになっているところで,人が遠心力でごろんと横か斜めに頭から落ちた。落ちた後,一回転して立ち上がり,追いかけていたように見えた。 ボンネットに乗っていた人が落ちたので,「前,走っちゃっていいよ。」とFに指示を出し,最終的には保管場所である松戸の立体駐車場に行き,本件車両を置いた。3人で帯同車両に乗っている際,被告人が「持ち主が飛び出してきた。飛び込んで,ボンネットに乗っかってきた。」と話していた。 第5 F,R及びAの各供述の信用性の検討 1 F,R及びAの各供述は,本件車両を運転していたのが被告人であるという点で合致しており,一見すると相互に信用性を高め合っているようにもみえる。しかし一方で,被告人は本件車両を運転していたのはAであると供述している上,AとF・Rとの間には一定の関係もうかがわれることから,F,R及びAの供述の信用性については慎重に検討する 必要がある。 2 F及びR供述の信用性Fは犯行状況について,Rは犯行後の被告人らの言動についてそれぞれ供述しており,両者の供述は前記のとおり,被告人が本件車両を運転していたという点で内容が整合している。両名の本件への関わりからすると,それぞれの について,Rは犯行後の被告人らの言動についてそれぞれ供述しており,両者の供述は前記のとおり,被告人が本件車両を運転していたという点で内容が整合している。両名の本件への関わりからすると,それぞれの思惑で独立して内容の整合した虚偽供述をするとは考えにくく,また,F・R両名の間のみで虚偽供述について通謀することも考え難い。両名の供述が虚偽であるとすれば,Aから両名に働きかけがあった場合しか考えられない。 アそこで,FとAの関係性についてみると,Fからみれば,Aは特定危険指定暴力団であるW会に入っている年上の先輩であり,出所祝いとして現金10万円をもらったりするなど世話になっているほか,本件の際もAに呼び出されて道案内をしていることから,Aに対して従属的な立場にあったことがうかがわれる。また,Aが被告人に宛てた手紙にはAの関係者がFの妻に何らかの嫌がらせや危害等を加えたことをうかがわせる文章が記載されており,Aがその気になれば,F又はその妻子を「追い込む」ことでFに圧力をかけることができる立場にあったことがうかがわれる。 他方,Fと被告人との関係をみると,本件までに一,二回会った程度の関係でしかない上に,FはAと被告人を天秤にかけた場合,世話になっているAの方が重くなる旨の発言をしたことを認めている。 これらの事情からすれば,Fは,Aから本件車両を運転していたのは被告人である旨の虚偽供述をするよう働きかけがあれば,これに応じて虚偽の供述をする可能性がありうるという関係にあるといってよい。 イ Rについても,AがW会に入っていることを認識し,盗品の運搬 を依頼されてAから報酬をもらう関係にあったこと,他方で,被告人との付合いはほとんどなかったことからすれば,Fの場合と同様,Aから,同様の働きかけがあれば,これに応じて虚偽の供述を ,盗品の運搬 を依頼されてAから報酬をもらう関係にあったこと,他方で,被告人との付合いはほとんどなかったことからすれば,Fの場合と同様,Aから,同様の働きかけがあれば,これに応じて虚偽の供述をする可能性がありうる関係にあったといってよい。 次に,AがF及びRに実際に働きかけをする機会がありえたかについて検討する。 本件からFが別件窃盗の被疑事実で逮捕されるまでには約8か月間もの期間があることからすると,その間にAがFらと通謀することも客観的にみると可能であった。 また,Aは,被告人との間で,自己の費用で付けた弁護人らを通じ,被告人に接見禁止が付されていたにもかかわらず,前記のとおり,自己の刑責を軽減するため,被告人に何らかの刑責を負ってもらいたい旨を依頼する内容の手紙をやりとりしている。さらに,Aと被告人は,弁5,6の手紙以外にも手紙のやりとりがあったことを一致して認めている上,FもAの弁護人と接見したことがある旨を認めている。このように,Aは,自己の刑責を軽減するため,弁護人らを利用して,共犯者に対する連絡を実際に行っているのであり,Fらの逮捕後にAが働きかけをすることも可能であったといってよい。 これに対し,検察官は,F及びRの両名が本件車両を運転していたのは被告人である旨供述し始めた時期は,Aが本件車両の窃盗についていまだ逮捕されていない又は逮捕後黙秘・否認していた時期であり,そのような時期にAがA自身の窃盗の犯人性を裏付けるような働きかけをするのは不自然であると主張する。 しかし,本件では人が死亡するという重大な結果が生じていることや,Aらが本件車両を売却したヤードに警察の捜索が入っていること,後にFが別件で逮捕されている状況などからすれば,Aはいずれ自分 にも捜査の手が及ぶことを想定していてもおかしくな が生じていることや,Aらが本件車両を売却したヤードに警察の捜索が入っていること,後にFが別件で逮捕されている状況などからすれば,Aはいずれ自分 にも捜査の手が及ぶことを想定していてもおかしくないのであり,自らの刑責が重くならないように予めFやRに働きかけることは不自然とまでいえない。特に,窃盗と強盗殺人では刑の重さが全く異なるのであるから,本件車両を運転していたのがAであった場合,Aとしては,窃盗について刑責を負うことは避けられないにしても,重い強盗殺人の刑責を負うことだけは避けるべく,Aが逮捕される前あるいはAが黙秘・否認していた段階において,F及びRに,本件車両を運転していたのは被告人である旨供述するよう働きかけることも考えられなくはないのであり,F及びRの供述時期から,Aによる虚偽供述の働きかけがなかったと断定することはできない。 また,検察官は,自らの裁判を終えて服役中のF及びRが偽証罪という新たな罪を犯してまで虚偽供述をすることは考え難いこと,Aをかばうのであれば,被告人ではなく架空の人物に押しつけることも可能である旨指摘するが,前者については,偽証罪による制裁よりもAからの報復を恐れて虚偽供述をする可能性もあり,後者については,架空の人物に罪を押しつけることを成功させる現実的可能性が低いことを考えれば,Aが架空の人物ではなく,一緒に本件現場にいた被告人に罪を押しつけることを指示したとしても不自然ではない。 Fの供述内容についてみると,弁護人が主張するとおり,FはA及び被告人と一緒に本件現場にいてその際の状況を共有しているのであるから,Aと被告人を入れ替えて話をしたとしても特段の矛盾は生じない。さらに,Fは,Aではなく被告人が本件車両の窃盗の実行行為を行うことになった理由について,Aに本件車両を盗む技術がなかっ るのであるから,Aと被告人を入れ替えて話をしたとしても特段の矛盾は生じない。さらに,Fは,Aではなく被告人が本件車両の窃盗の実行行為を行うことになった理由について,Aに本件車両を盗む技術がなかったからだと思うと述べるが,Aは,本件当時,年間500台もの自動車を盗んでいた,自動車のエンジンをかけるのはA,F及び被告人のいずれもができたと供述しているのであり,FにはAをかばっている 様子もうかがえる。 Rは,A及び被告人とのやりとりを具体的に述べているものの,Aの意に沿ってあたかも被告人が犯人であるかのように話すこともできることからすると,被告人が犯人であるとするFやAの供述を強く裏付ける性質のものとは言い難い。 以上のとおり,F及びRの各供述は,相互に整合しているものの,Aからの働きかけを受けて,本件車両を運転していたのは被告人である旨の虚偽の供述をしている可能性が否定しきれないのであって,F及びRの各供述をそのとおり信用することは躊躇せざるを得ない。 3 A供述の信用性本件車両を運転していたのがAである場合,Aには自己の犯罪を被告人に押しつけるために虚偽の供述をする十分な動機がある。当公判廷の時点で,本件車両の窃盗に関するAの裁判はすでに確定しており,改めてAが強盗殺人の刑責を問われることは法律上考えられないにしても,一度被告人を犯人として供述した以上,今更この供述を覆すことができず,当公判廷でも同じ虚偽供述を維持することは十分に考えられる。 また,Aは,自己の刑責が重くならないよう,被告人に働きかけをしたり,自らが被告人となっていた公判廷では本件時の状況について詳細な供述を避け,当公判廷で初めて詳細な供述を始めているところ,これらの事実はAが自己の置かれた状況に応じて供述内容を変えていることをうかがわせるもの 人となっていた公判廷では本件時の状況について詳細な供述を避け,当公判廷で初めて詳細な供述を始めているところ,これらの事実はAが自己の置かれた状況に応じて供述内容を変えていることをうかがわせるものであって,その供述態度は真摯なものとは認め難い。検察官が主張するように本件車両の売却代金の分配について自己の公判廷での供述を当公判廷で被告人に有利な方向に変えたからといって,A供述の信用性が高まるというものではない。 また,本件の犯行状況に関するAの目撃供述は,助手席側のドアミ ラー越しに見ていたにもかかわらず,本件車両の動きを細かく観察することができている点や,本件車両の速度やボンネットの上から落ちた後の被害者の動きについて,本件車両のカーナビゲーションシステムの速度に関するデータといった客観的証拠やY医師の意見といった専門的知見と異なる供述をしている点でやや不自然な面が認められる。一方で,被告人が本件車両を運転していたのでなければ説明できないような内容は含まれておらず,A自身が本件車両の運転席から見た光景をあたかも帯同車両の助手席から見ていたように供述したものだとしても不自然な点はない。 これについて,検察官は,当公判廷における帯同車両の助手席から見た犯行状況に関するAの供述内容(第5回公判期日)と被告人の供述内容(第6回公判期日)はほぼ同じであり,Aが犯人であるならば,Aの後に供述をする被告人の当公判廷における供述内容を予期して同じ内容を証言したことになるが,それは不可能である旨主張する。 しかし,被告人が当公判廷で供述した犯行目撃状況は,後述のとおり,A供述に比べてかなり曖昧な内容である上,本件車両の動きをドアミラー越しではなく振り返って見ていたという点でもA供述とは異なるのであり,両者の供述内容がほぼ同じであるとする検 状況は,後述のとおり,A供述に比べてかなり曖昧な内容である上,本件車両の動きをドアミラー越しではなく振り返って見ていたという点でもA供述とは異なるのであり,両者の供述内容がほぼ同じであるとする検察官の主張はその前提に誤りがあるといえる。 よって,Aの供述もその内容どおり信用するまでには至らない。 4 結局,F,R及びAの供述から,被告人が本件車両を運転していたことが間違いないとまで判断することはできない。 第6 被告人の供述について 1 被告人の当公判廷における供述の要旨本件当日,Aに誘われて,途中で合流したFと3人で帯同車両に乗って本件現場に向かった。 本件現場に到着後,被告人とAが帯同車両から降りて外に出た。被告人は,Aが本件車両のドアを開ける作業を手伝い,ドアが開いた後は帯同車両の助手席に戻って,Fが同車の運転席に移動した。 Aが本件車両を盗みだす作業をしていたところ,本件車両のエンジンがかかった音がしたので,Fに「出していいですよ。」と指示を出し,帯同車両が駐車場から出た。 本件車両が来るのが遅いと思って振り返ると,人が手を広げて本件車両の真正面に立っているのが見えたが,一瞬しか見ていないので,どこから人が出てきたかはわからない。「人が出てきた。」とFに聞こえるくらいの声でつぶやき,後ろを振り返って見ていると,被害者が本件車両のボンネット上から転がって頭から落ちたのが見えた。一瞬のことなので,本件車両の動きはわからない。 その後,松戸の立体駐車場に行った際,Aに「大丈夫ですか。」と聞いたところ,Aは「おう。人が出てきたよ。」と言っていた。 本件で逮捕後,検察庁でAに会った際に,黙秘することを暗示するようなAの発言があったため,黙秘をしていた。 そして,平成26年2月下旬に弁護士を通じてAからの手紙2 出てきたよ。」と言っていた。 本件で逮捕後,検察庁でAに会った際に,黙秘することを暗示するようなAの発言があったため,黙秘をしていた。 そして,平成26年2月下旬に弁護士を通じてAからの手紙2通(弁5,6)をまとめて渡された。弁5の手紙に記載されていた「柏の件」は「全て被告人主導で行なった事件」であり,「Aが『実は被告人の言いなりである。』という旨の供述をすること」という文面から,同手紙の趣旨は,本件車両を運転していたのは被告人であることを確定させろという趣旨のAからの指示であると受け取った。また,「Fらの親,兄弟,女房,子供は安穏な生活など,間違ってもさせない。」(弁5)という部分が読めるように二重線で消されているのは,Aの言うことをきかなければ,自分の妻子にも同じことをするという趣旨だと受け取った。 2 被告人の供述の検討Aが本件車両を運転していたという被告人の当公判廷における供述の内容は,格別不自然な点は見当たらない上,Fの供述との整合性についてみても,犯行時におけるAと被告人の立場を入れ替えると,Fの供述と合致する。 供述の変遷について検察官は,被告人の供述が変遷していることを理由に,被告人の当公判廷における供述は信用できないと主張するので,以下この点について検討する。 被告人は本件について当初黙秘をしていたが,平成26年3月18日に検察官に対して自分が本件車両を運転していたと述べ,自白調書を作成したものの,その後,公判前整理手続の途中で本件車両を運転していたのはAであるとして犯人性を争う主張を始めて公判に至っており,検察官が主張するとおり供述の変遷が認められる。 ア被告人は,前記自白調書を作成するに至った理由について,要旨,以下のように説明している。 自白調書を作成した理由の一つ目は,前記2 至っており,検察官が主張するとおり供述の変遷が認められる。 ア被告人は,前記自白調書を作成するに至った理由について,要旨,以下のように説明している。 自白調書を作成した理由の一つ目は,前記2通の手紙によるAからの圧力である。Aが意図する趣旨は,強盗殺人の犯人だと自白しろというものだと解釈した。過去にもAからの電話に出なかったことで,家にいたずらをされたり車を壊されたりした経験があり,また,手紙にはFの妻を追い込んだ旨も記載されていたことから,自分もAの言うことを聞かなければ妻子が追い込まれると思った。 理由の二つ目は,Aからの経済的支援への期待である。Aは,被告人の傷害事件について約60万円の費用をかけて私選弁護人を付けてくれたほか,被告人が強盗殺人で逮捕された際にはAの妻が被告人の妻に150万円を渡そうとするなど,やることをやってくれる姿勢を 示しており,Aが出所後に被告人の家族を経済的に支えてくれることを期待した。 理由の三つ目は,あきらめである。日本の有罪率の高さは知っていたので,起訴されたら終わりだと思った。また,起訴直前にX刑事に「私が犯人じゃないと自分が供述したらどうなりますか。」と聞いたところ,同刑事から「今更そんなことを言ったって,事前共謀があったとか何とか言って,二人とも強盗殺人になるのがオチだろうね。」「全員が実体験者なので,要するに,言ったもん勝ちであって,早く供述したもん勝ちという状況である以上,お前が何を言ったって変わることはない。」等と言われたことから,Aと被告人が二人とも強盗殺人になるよりは,助かれる者が助かればいいと思った。自白をすれば接見禁止がとれるかもしれないという期待もあり,X刑事から「窃盗とひき逃げだから自白すれば10年から15年だ。」と言われたことや,取調べの際にAが同人の公 れる者が助かればいいと思った。自白をすれば接見禁止がとれるかもしれないという期待もあり,X刑事から「窃盗とひき逃げだから自白すれば10年から15年だ。」と言われたことや,取調べの際にAが同人の公判廷で本件車両を運転していたのは被告人である旨供述したと聞かされたことも理由の一つである。 以上が被告人の説明の要旨である。 イ Aからの弁5の手紙の内容は,文言どおりに読むと,Aが当公判廷で述べるように,一連の自動車窃盗の首謀者を被告人とするよう指示する内容と読むのが素直であろう。これに対して,被告人は,「柏の件」でかばうといったら,車を運転していた犯人が誰かということになるし,同時に渡された弁6の手紙に書いてあったAが無駄に長く務めても誰も得しないという文面から考えても,本件車両を運転していたのが自分であると自白しろという趣旨と解釈したと説明する。この被告人の説明は,やや不可解な点はあるものの,既に強盗殺人で起訴されていた被告人の立場等に鑑みると,明らかにおかしいと言い切れるものでもない。 また,被告人が述べるX刑事とのやりとりには,「録音録画の場で真実を語り出したら,警察としては再捜査せざるを得ない。」「録音録画をやるときは違う人を迎えに行かせる。そしたら断ってくれ。」と言われたなど,実際に体験しなければ話しえないような具体的な供述が含まれており,前記やりとりが被告人の全くの作り話とは断定できないのであり,前記の一連のX刑事の発言を受けて,被告人が真実を話すことをあきらめ,Aからの経済的支援を期待してその指示に従ったというのも,ありえないとまで言い切れるものではない。 ウこの点,検察官は,被告人はAからの手紙を受け取る前からX刑事に対して自分が本件車両を運転していた旨の自白をしていた(このことは平成26年3月18日の取調 えないとまで言い切れるものではない。 ウこの点,検察官は,被告人はAからの手紙を受け取る前からX刑事に対して自分が本件車両を運転していた旨の自白をしていた(このことは平成26年3月18日の取調べの際の検察官と被告人とのやりとりから明らかであると主張する。)のであり,Aからの手紙を受けて自白するに至ったとする被告人の供述は信用できないと主張する。 3月18日の取調べの際の検察官と被告人とのやりとりからは,被告人がX刑事に対してどのような供述をしていたか定かではないが,仮に検察官が主張するように被告人がAからの手紙を受け取る前からX刑事に対して自白をしていたとしても,被告人が自白するに至った理由はAからの手紙だけではないのであるから,そのことのみをもって被告人の供述が信用できないと断定することはできない。 エ次に,被告人は,犯人性を争うに至った理由について,要旨,以下のように説明している。 Aの第一審判決後,Aの行動が変わり始め,被告人の弟宛てに「被告人なんていう男とはもう付き合う価値がない」と書かれた手紙が送られたり,Aの紹介で車を売却した相手からの支払いが止まるなどしたことから,Aに裏切られた,はめられたと気付いた。また,Aに対して控訴などせずに早く出所してほしい旨の手紙を送ったところ,子 供が自転車に乗る練習をさせるために保釈申請をしているところであると伝えられ,冗談じゃないと思った。 しかし,Aの刑が確定するまでは嘘を貫かなければならないと思い,Aの判決確定後に弁護人に相談をし,主張を変更することになった。 以上が被告人の説明の要旨である。 オ被告人が犯人性を争うに至ったのはAの判決確定後であり,この時点でAが強盗殺人の刑責を問われる可能性はないことからすると,Aの指示に反した場合に予想されるAからの報復の程度 説明の要旨である。 オ被告人が犯人性を争うに至ったのはAの判決確定後であり,この時点でAが強盗殺人の刑責を問われる可能性はないことからすると,Aの指示に反した場合に予想されるAからの報復の程度は,それ以前に比べて低くなったと考えることもできる。 また,強盗殺人の法定刑は死刑又は無期懲役であることを被告人は知っていたというのであるから,公判期日が近付く中で,自分がかぶることになる刑責の重さを感じ,前記のように被告人が説明する理由で自白を撤回して犯人性を争うに至ったというのも全く信用できないというものではない。 カ供述に変遷があることは,一般的には,その供述の信用性に疑いを持たせるものであるが,以上のとおり,被告人は,その変遷について,不合理であると言い切れないそれなりの理由を説明しているのであって,被告人の供述の変遷があるからといって,これが,被告人の当公判廷における供述を全面的に信用できないものとするようなものではない。 キなお,被告人の自白の内容は,被告人が帯同車両の助手席から見た光景をあたかも本件車両の運転席から見たように話せば足りる内容であり,被告人が犯人でなければ話しえないような内容を含むものではなく,これを直接本件の認定に用いることはできない。 第7 結論仮に,F,R及びAが供述するところによれば,被告人が本件車両を運 転していたということとなり,これを反駁する事情は見当たらないのであるから,それが事実であるのかもしれないが,以上検討したとおり,F,R及びAの各供述の信用性には疑問が残り,これらを鵜呑みにすることはできない。結局,被告人が本件車両を運転していたということが常識的にみて間違いないと認められるほどの証明はなされていないというほかないのである。 よって,被告人には強盗殺人罪は成立せず,窃盗 とはできない。結局,被告人が本件車両を運転していたということが常識的にみて間違いないと認められるほどの証明はなされていないというほかないのである。 よって,被告人には強盗殺人罪は成立せず,窃盗罪の共同正犯が成立するに止まる。 (累犯前科) 1 事実(省略)(省略) 2 証拠(省略)(法令の適用)罰条判示第1ないし第3の行為いずれも刑法60条,235条判示第4の行為覚せい剤取締法41条の3第1項1号,19条判示第5の行為刑法204条(部分判決の(罰条の適用)に記載のとおり)(省略)刑種の選択判示第1ないし第3及び第5の罪についていずれも懲役刑を選択累犯加重判示第1ないし第3の罪についていずれも刑法59条,56条1項, 57条(いずれも前記⑴⑵の各前科との関係で3犯)判示第4及び第5の罪についていずれも刑法56条1項,57条(いずれも前記⑵の前科との関係で再犯)併合罪の処理刑法45条前段,47条本文,10条(最も重い判示第5の罪の刑に刑法14条2項の制限内で法定の加重)未決勾留日数の算入刑法21条訴訟費用の処理刑事訴訟法181条1項ただし書(不負担)(量刑の理由) 1 3件の窃盗についてみると,被害総額は合計約145万9000円と大きく,いずれも被害弁償はされていない。これらの犯行は,自動車窃盗を繰り返す中で行われた職業的犯行といえるものであって,強い非難に値する。 2 次に,傷害についてみると,その動機は身勝手であり酌量の余地はなく,顔面を蹴るなどの暴行態様は悪質であり,傷害の結果も全治約1か月と重い。 3 そのほか,覚せい って,強い非難に値する。 2 次に,傷害についてみると,その動機は身勝手であり酌量の余地はなく,顔面を蹴るなどの暴行態様は悪質であり,傷害の結果も全治約1か月と重い。 3 そのほか,覚せい剤の自己使用にも及んでおり,被告人は,傷害等の前科で服役して出所した後,2年も経たないうちにこれらの本件各犯行に及んでいるのであって,犯情は悪い。 そこで,窃盗及び覚せい剤の自己使用については当公判廷において反省の弁を述べていること,傷害については被害者側に対して謝罪及び被害弁償の申入れを行っていることなど,被告人にとって酌むべき事情も 考慮した上,主文のとおりの刑を量定した。 (検察官の求刑・無期懲役,弁護人の科刑意見・懲役6年)(裁判長裁判官髙橋康明裁判官鈴木敦士裁判官岡井麻奈美)
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