令和4年6月22日判決言渡令和3年(行ケ)第10069号審決取消請求事件口頭弁論終結日令和4年5月11日判決 原告日医工株式会社 同訴訟代理人弁護士吉澤敬夫同訴訟代理人弁理士紺野昭男同井波実 同木下智文同鮎沢輝万 被告旭化成ファーマ株式会社 同訴訟代理人弁理士細田芳徳同亀ヶ谷薫子 主文 1 特許庁が無効2019-800075号事件について令和3年4月16日にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求主文同旨第2 事案の概要 本件は、特許無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。 1 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがない。)⑴ 被告は、平成29年11月17日、その名称を「1回当たり100~200単位のPTHが週1回投与されることを特徴とする、PTH含有骨粗鬆症治療/予防剤」とする発明について特許出願(特願2017-221570号。平成22年9月 7日、その名称を「1回当たり100~200単位のPTHが週1回投与されることを特徴とする、PTH含有骨粗鬆症治療/予防剤」とする発明について特許出願(特願2017-221570号。平成22年9月8日〔優先権主張平成21年9月9日・特願2009 -208039号〕を国際出願日とする特願2011-530844号の一部を、平成27年5月25日に特願2015-105265号として新たに特許出願とし、更にその一部を平成28年4月18日に特願2016-082589号として新たな出願とし、更にその一部を平成28年11月10日に特願2016-219323号〔拒絶査定確定〕として新たな出願とし、 更にその一部を平成29年11月17日に新たな出願としたもの。以下「本件出願」という。)をし、令和元年5月10日、その設定登録(特許第6522715号、請求項の数2)を受けた(以下、この登録に係る特許を「本件特許」という。)。 ⑵ 原告は、令和元年9月30日付けで本件特許の請求項1及び2に係る発明 について特許無効審判請求(無効2019-800075号)をした。 特許庁が令和2年9月28日に本件特許の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効にするとの審決の予告をしたところ、被告は、同年11月30日付けで本件特許の請求項2に係る特許請求の範囲を訂正する訂正請求を行った(以下、この訂正を「本件訂正」という。)。 特許庁は、令和3年4月16日、「特許第6522715号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1、2]について訂正することを認める。本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同月27日、原告に送達された。 囲のとおり、訂正後の請求項[1、2]について訂正することを認める。本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同月27日、原告に送達された。 ⑶ 原告は、令和3年5月25日、本件審決の取消しを求めて本件訴えを提起 した。 2 特許請求の範囲の記載本件訂正後の本件特許の請求項1及び2の発明(以下、項番号順に「本件発明1」のようにいい、本件発明1及び2を併せて「本件発明」ということがある。)に係る特許請求の範囲の記載は、次のとおりである。また、本件発明に係 る明細書を図面を含めて「本件明細書」という。 ⑴ 本件発明11回当たり200単位のPTH(1-34)又はその塩が週1回投与され、PTH(1-34)又はその塩を有効成分として含有する、骨粗鬆症治療剤ないし予防剤であって、下記(1)~(3)の全ての条件を満たす骨粗鬆症 患者を対象とし、皮下注射投与であることを特徴とする、骨折抑制のための骨粗鬆症治療剤ないし予防剤;(1)年齢が65歳以上である(2)既存の骨折がある(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である、および/または、骨萎 縮度が萎縮度I度以上である。 ⑵ 本件発明21回当たり200単位のヒトPTH(1-34)酢酸塩が週1回投与され、ヒトPTH(1-34)酢酸塩を有効成分として含有する、骨粗鬆症治療剤ないし予防剤であって、下記(1)~(4)の全ての条件を満たす骨粗鬆症 患者を対象とし、皮下注射投与であることを特徴とする、骨折抑制のための骨粗鬆症治療剤ないし予防剤;(1)年齢が65歳以上である(2)既存の骨折がある(3)骨密度が若年成人 患者を対象とし、皮下注射投与であることを特徴とする、骨折抑制のための骨粗鬆症治療剤ないし予防剤;(1)年齢が65歳以上である(2)既存の骨折がある(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である、および/または、骨萎 縮度が萎縮度I度以上である (4)クレアチニンクリアランスが30以上80未満ml/minである腎機能障害を有する。 3 本件審決の理由の要旨本件審決は、本件訂正は訂正の要件を全て満たすとした上で、①本件発明1及び2は、甲第7号証「ヒト副甲状腺ホルモン(1-34)の骨粗鬆症に対す る間欠毎週投与の効果:3種類の投与量を用いた無作為化二重盲検前向き試験」(OsteoporosisInternational、vol.9、no.4、p.296-306、1999)(以下「甲7文献」という。)に記載された発明(以下「甲7発明」という。)及び本件特許の優先日(2009年9月9日)当時の技術常識を踏まえても当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない、②本件発明1及び2について優先 権主張の効果が認められるところ、甲第6号証「テリパラチド酢酸塩[PTH(1-34)]の週1回間欠皮下投与における新規椎体骨折制効果」(OsteoporosisJapan、第17巻、増刊第1号、189頁、2009年9月11日)(以下「甲6文献」という。)は、本件特許の優先日後に頒布されたものであるから、本件発明1及び2を甲6文献に記載された発明(以下「甲6発明」という。)に 基づいて当業者が容易に発明をすることができたということはできない、③本件発明1及び2は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該 基づいて当業者が容易に発明をすることができたということはできない、③本件発明1及び2は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、サポート要件(特許法36条6項1号)に違反しない、④当業者は本件明細書の記載及び出願時の技術常識に基づ いて本件発明を実施することができるから、本件発明の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件(特許法36条4項1号)に違反しない、⑤本件出願は分割要件を満たすところ、甲第2号証「国際公開第2011/030774号」(以下「甲2文献」という。)は、原出願の出願日である平成22年9月8日より後の平成23年3月17日に公開されたものであるから、本件発明1及び2を甲 2文献に記載された発明(以下「甲2発明」という。)であるということはでき ない旨判断した。 それぞれの論点に関する本件審決の理由の要旨は、以下のとおりである。 ⑴ 甲7発明に基づく進歩性欠如(無効理由1)の有無についてア甲7発明の認定hPTH(1-34)の200単位を毎週皮下注射する、hPTH(1 -34)を有効成分として含有する骨粗鬆症治療剤であって、厚生省による委員会が提唱した診断基準で骨粗鬆症と定義された、年齢範囲が45歳から95歳の被験者のうち、複数の因子をスコア化することによって評価して骨粗鬆症を定義し、スコアの合計が4より高い患者に投与する、骨粗鬆症治療剤。 イ本件発明1と甲7発明との一致点1回当たり200単位のPTH(1-34)が週1回投与され、PTH(1-34)を有効成分として含有する、骨粗鬆症治療剤ないし予防剤であっ イ本件発明1と甲7発明との一致点1回当たり200単位のPTH(1-34)が週1回投与され、PTH(1-34)を有効成分として含有する、骨粗鬆症治療剤ないし予防剤であって、骨粗鬆症患者を対象とし、皮下注射投与であることを特徴とする、骨粗鬆症治療剤ないし予防剤。 ウ本件発明1と甲7発明との相違点(相違点B)本件発明1は、骨粗鬆症治療剤ないし予防剤が「下記(1)~(3)の全ての条件を満たす骨粗鬆症患者を対象」「(1)年齢が65歳以上である(2)既存の骨折がある (3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である、および/または、骨萎縮度が萎縮度I度以上である」とする「骨折抑制のための」ものであることが特定されているのに対し、甲7発明では、骨粗鬆症治療剤が「厚生省による委員会が提唱した診断基準で骨粗鬆症と定義された、年齢 範囲が45歳から95歳の被験者のうち、複数の因子をスコア化するこ とによって評価して骨粗鬆症を定義し、スコアの合計が4より高い場合の患者に対し投与された際に腰椎骨密度(BMD)の増加が確認されている」ことが記載されているものの、(1)~(3)の全ての条件を満たす対象者における骨折抑制のためのものであることは特定されていない点。 (以下、「(1)年齢が65歳以上である」を「本件条件(1)」と、「(2)既存の骨折がある」を「本件条件(2)」と、「(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である、および/または、骨萎縮度が萎縮度I度以上である」を「本件条件(3)」と、本件条件(1)ないし本件条件(3)を併せて「本件3条件」と、本件3条件の全てを満たす 度が若年成人平均値の80%未満である、および/または、骨萎縮度が萎縮度I度以上である」を「本件条件(3)」と、本件条件(1)ないし本件条件(3)を併せて「本件3条件」と、本件3条件の全てを満たす骨粗鬆症患者を 「3条件充足患者」又は「高リスク患者」若しくは「高リスク者」と、本件3条件の全部又はいずれか一部を満たさない骨粗鬆症患者を「非3条件充足患者」又は「低リスク患者」若しくは「低リスク者」という。)エ相違点Bの容易想到性 甲7発明の骨粗鬆症治療剤が、骨折抑制効果の期待されていた薬剤で あったことや、本件3条件の個々の条件が骨折の危険因子であることが認められるとしても、先行技術文献のいずれにも、本件3条件を全て選択し、3条件充足患者に対して、骨折抑制のためにPTHを200単位週1回投与する動機付けに関する記載や示唆もされておらず、また、下記のとおり、3条件充足患者に投与することにより、非3条件充足患 者に投与するのに比して、当業者が予測し得ない優れた効果を奏するものであると認められるから、本件発明1は、甲7発明及び本件特許の優先日当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 本件明細書の実施例2に係る【表34】のデータから、3条件充足患 者のプラセボ投与群に対する骨折相対リスク減少率(以下「RRR」と いう。)を算出すると、投与72週後で約79%となるから、「1回当たり200単位のPTH又はその塩が週1回投与される3条件充足患者に対し、本件発明の骨粗鬆症治療剤は、プラセボを投与された患者に比して骨折抑制に関して優れた効果を奏する。 別紙3の平成30年10月25日付け実験成績証明書(甲4。以下「甲 者に対し、本件発明の骨粗鬆症治療剤は、プラセボを投与された患者に比して骨折抑制に関して優れた効果を奏する。 別紙3の平成30年10月25日付け実験成績証明書(甲4。以下「甲 4証明書」という。)の解析に用いたデータセットを再解析した、別紙4の令和2年11月24日付け実験成績証明書H(甲59。以下「甲59証明書」という。)の表5のデータからRRRを算出すると、3条件充足患者については約60%と算出され、約44%と算出される非3条件充足患者よりも高く、この効果については甲7文献等の先行技術文献には 記載も示唆もされていないから、200単位週1回投与される骨粗鬆症治療剤ないし予防剤において、本件発明の骨粗鬆症治療剤は、3条件充足患者に対して、非3条件充足患者に対するよりも、当業者が予測し得ない優れた効果を奏すると認められる。 オ本件発明2について 本件発明2は、本件発明1の「PTH(1-34)又はその塩」を「ヒトPTH(1-34)酢酸塩」に限定し、本件3条件に、「(4)クレアチニンクリアランスが30以上80未満ml/minである腎機能障害を有する。」(以下「本件条件(4)」という。)を加える限定をした発明であるところ、先行技術文献には、このように限定した3条件充足患者に骨折抑制 のためにPTHを200単位週1回投与する動機付けに関する記載や示唆もされておらず、また、そのような3条件充足患者に投与することによって優れた骨折抑制効果を奏することを当業者が予測し得る記載や示唆も認められないことは何ら変わらないから、本件発明2は、甲7発明及び本件特許の優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をする ことができたものではない。 ⑵ 甲6発明に基づく は何ら変わらないから、本件発明2は、甲7発明及び本件特許の優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をする ことができたものではない。 ⑵ 甲6発明に基づく進歩性欠如(無効理由2)の有無について本件特許の優先権主張の基礎となる先の出願(以下「基礎出願」という。)に係る明細書等(甲1。以下「基礎出願明細書」という。)の【0014】の〔5〕、【0023】、【0025】、【0032】ないし【0034】、【0038】、【0047】、【0049】、【0050】等の記載からみて、本件発明1 及び2は基礎出願明細書との関係において新規事項を追加するものとはいえないから、本件発明1及び2について優先権主張の効果が認められる。 そうすると、本件発明1及び2についての特許要件判断の基準日は2009年9月9日であるところ、甲6文献はこれ以降の2009年9月11日に頒布されたものであるから、本件発明1及び2を甲6発明に基づいて進歩性 がないということはできない。 ⑶ サポート要件違反(無効理由3)の有無について骨粗鬆症薬の有効性の評価をする臨床試験では、標準薬又はプラセボと比較して治験薬の臨床的有効性と安全性の評価を行うこと、及び、対照薬であるプラセボ投与群患者に対して十分な量のカルシウム剤の投与や、必要に応 じたビタミンD製剤投与等の基礎治療が施されるべきであることは、本件特許の優先日当時の技術常識である。 このような臨床試験における技術常識を踏まえた上で、本件明細書の記載について検討すると、本件明細書の実施例2では、カルシウム剤とビタミン剤を、PTH200単位投与群及びプラセボ投与群のいずれの群でも併用し ており、RRRをPTH200単位投与群の骨折 の記載について検討すると、本件明細書の実施例2では、カルシウム剤とビタミン剤を、PTH200単位投与群及びプラセボ投与群のいずれの群でも併用し ており、RRRをPTH200単位投与群の骨折発生率とプラセボ投与群の骨折発生率の比から算出していることから、仮に、カルシウム剤による何らかの影響があったとしても、それを除いた上での骨折抑制効果が評価できているといえ、本件明細書にカルシウム剤を用いずPTH200単位を単独で用いる例やそのデータが記載されていないことをもって、本件明細書の発明 の詳細な説明が本件発明1及び2について課題が解決できるように開示され ていないとはいえない。 以上のとおりであるから、本件発明1及び2は、発明の詳細な説明に課題を解決できることを当業者が認識できるように記載されたものである。 ⑷ 実施可能要件違反(無効理由4)の有無について本件明細書には、実施例2として、PTHを週1回200単位投与された 3条件充足患者は骨折抑制効果を示したことが記載され(【表34】、【表35】、【0132】、【0133】)、本件条件(4)について、腎機能正常患者、軽度腎機能障害患者、中等度腎機能障害患者の区別なく同等の安全性を示すことが記載されているところ(【表28】ないし【表33】)、本件発明1及び2は、特許請求の範囲の記載からみて、カルシウムの併用を除外するもので はないから、カルシウム剤を用いずPTH200単位を単独で用いる例やそのデータが記載されていないからといって、発明の詳細な説明が当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていなかったということはできない。 ⑸ 甲2発明に基づく新規性欠如(無効理由5)について本件出願に係る原出願である特願2 の詳細な説明が当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていなかったということはできない。 ⑸ 甲2発明に基づく新規性欠如(無効理由5)について本件出願に係る原出願である特願2016-219323号(甲2。以下 「原出願」という。)の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「原出願当初明細書等」という。)の【請求項1】、【0025】の記載、原出願の分割直前の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「原出願分割直前明細書等」という。)の【請求項1】、【0025】の記載からみて、本件発明1及び2を原出願当初明細書等及び原出願分割直前明細書等との関係において新規 事項を追加するものとはいえないから、本件出願は分割要件に違反しない。 そうすると、本件出願は最初の出願日である平成22年9月8日にしたものとみなされるところ、甲2文献はこの後の平成23年3月17日に公開されたものであるから、本件発明1及び2を甲2発明に基づいて新規性がないということはできない。 4 取消事由 ⑴ 甲7発明に基づく進歩性判断の誤り(取消事由1)⑵ 甲6発明に基づく進歩性判断の誤り(取消事由2)⑶ サポート要件に関する判断の誤り(取消事由3)⑷ 実施可能要件に関する判断の誤り(取消事由4)⑸ 甲2発明に基づく新規性判断の誤り(取消事由5) 第3 当事者の主張 1 取消事由1(甲7発明に基づく進歩性判断の誤り)の有無について⑴ 原告本件審決における甲7発明と本件発明1の一致点及び相違点の認定については認めるが、本件審決が相違点Bを容易想到でないと判断したことは誤り である。 ア相違点Bの容易想到性 技術常識につい 7発明と本件発明1の一致点及び相違点の認定については認めるが、本件審決が相違点Bを容易想到でないと判断したことは誤り である。 ア相違点Bの容易想到性 技術常識についてPTHは、本件特許の優先日当時、周知の骨粗鬆症治療剤であり、このことは、本件審決も認定している。ここで、本件特許の優先日当時の 骨粗鬆症に関する技術常識をみると、次のとおりとなっている。 a 骨粗鬆症は、低骨量と骨組織の微細構造の異常を特徴とし、骨の脆弱性が増大し、骨折の危険性が増加する疾患であると定義されていた。 (甲10)b 骨粗鬆症の診断基準として、その変遷がある中で、X線により椎体 骨折を認める場合、すなわち既存の骨折を認める場合、骨密度値が若年成人平均値(YAMの80%以下)又は骨萎縮度I度以上であるときに骨粗鬆症と診断する基準が知られていた(甲5、8、9)。 c 1990年当時、骨粗鬆症の診断基準として、厚生省の研究班がまとめたものであって、骨量の減少、骨折あり、年齢等の因子を点数化 して、その点数が4点である患者は「ほぼ確実」に、「5点以上」の患 者は「確実」に骨粗鬆症患者であるとするものが知られていた(甲8)。 d 骨粗鬆症と骨折のリスクに関して、高齢は骨粗鬆症による骨折の重要な危険因子であること、既存骨折があると将来の骨折リスクは高まること、低骨密度は骨折を強く予測するものであることとの理解がされていた(甲9、10)。骨密度が骨折の全てを説明しないにしても、 骨密度の増加が骨強度を高めて骨折の防止をすることに全く結びつかないとの理解はされていない。 e 医療対象者として、高齢とは65歳以上であるとの理解がされて てを説明しないにしても、 骨密度の増加が骨強度を高めて骨折の防止をすることに全く結びつかないとの理解はされていない。 e 医療対象者として、高齢とは65歳以上であるとの理解がされていた(高齢者の医療の確保に関する法律32条)。 fPTHを投与する治療において、骨粗鬆症の診断基準で考慮因子と されている骨量、既存骨折の有無、年齢を考慮要素とすることも知られていた(甲29) 容易想到性について相違点Bは、要するに、①対象とされる骨粗鬆症患者の特定が同一ではない、②骨折抑制のためとの事項が甲7発明にはないというものであ るが、相違点Bに係る本件発明1の構成は、公知の甲7発明の骨粗鬆症治療剤につき、もともとそれを必要としていた患者をそのまま特定したものにすぎず、あるいは、そのような用途限定は本件特許の優先日当時の技術水準に従って必然的に特定される用途又は容易に想到し得る用途にすぎない。 a 「骨折抑制のため」について 本件特許の優先日当時の技術常識から、骨粗鬆症の治療が「骨折の抑制のため」にされることは当業者に自明の事項である。 ⒝ 既に臨床で用いられていた周知の骨粗鬆症治療剤であったPTH連日投与では強力な骨量増加作用と骨折抑制効果が証明されてい たのであるから(甲11)、PTHの後期第Ⅱ相試験で骨密度増加作 用が確認されたことをもって骨折抑制効果が認められるとするのが当業者の当然の理解である。骨粗鬆症治療薬として当局の承認を求めるため、骨粗鬆症治療薬の効果と安全性を評価する最終段階の第Ⅲ相試験において骨折抑制の効果を直接見ることが求められるとしても、その前の段階の臨床試験や、骨粗鬆症治療剤の 治療薬として当局の承認を求めるため、骨粗鬆症治療薬の効果と安全性を評価する最終段階の第Ⅲ相試験において骨折抑制の効果を直接見ることが求められるとしても、その前の段階の臨床試験や、骨粗鬆症治療剤の開発・研 究において、骨密度の増加があれば骨粗鬆症治療剤として有用であると当業者が理解するであろうことは何ら否定されない。 ⒞ 甲7文献の表6は、副作用を「軽度」と「中等度」に分類するのみで、これ以上の重い副作用については報告していないし、200単位投与のH群で最も大きな症例数とされた副作用は「悪心」であ るが、これは、いわゆる制吐剤によりコントロール可能な副作用にすぎない。また、安全性に優れるとする本件発明1の骨粗鬆症治療剤(【0135】)における腎機能正常の骨粗鬆症患者群における副作用発現率が44.9%であることからみて、甲7発明における200単位週1回投与による副作用の発現率42%が異常に高いと はいえない。また、甲7文献によれば、甲7発明の200単位週1回の投与における脱落者の全てが副作用を原因としているものではなく、中途での心変わりにより試験を拒否したり、合併症の悪化があったものの試験薬剤が原因とは考えにくいものものも含まれており、かつ、いずれにしても、重篤な有害事象は認められなかっ たものであるから(299頁左欄10行ないし300頁左欄3行目、301頁左欄1行ないし右欄4行目)、脱落率の記載をもって、200単位週1回投与が治療には使えないものとはいえない。しかも、本件発明の実施品であり、被告が現に販売している骨粗鬆症治療薬テリボンは、本件3条件の全てを満たす骨粗鬆患者にだけ使用され るものとして承認されてはいない(甲40)。以上からすると、被告 が主張するように 売している骨粗鬆症治療薬テリボンは、本件3条件の全てを満たす骨粗鬆患者にだけ使用され るものとして承認されてはいない(甲40)。以上からすると、被告 が主張するように、本件特許の優先日当時、PTH200単位を骨粗鬆症患者に投与することについて、リスクに見合うベネフィットが得られないと理解されていたとする根拠はないといえる。 b 本件3条件について 甲7発明においてはその臨床試験の対象患者を厚生省シルバーサ イエンスプロジェクトのため結成された研究班が提唱した診断基準(「週刊医学のあゆみ1990年2月3日号」の289頁及び290頁に掲載(甲8)。以下「甲8診断基準」という。)に基づいて選んだものとうかがわれるが、同診断基準では、スコア化の因子として、「1)骨量の減少」、「2)骨折あり」、「3)年齢」を挙げるとこ ろ、甲7発明が対象患者としたスコアの合計が4より高い患者の中には、本件3条件の全てを満たす患者が当然に含まれていたといい得る。 ⒝ 甲8診断基準を、当時知られていた日本骨代謝学会の委員会が作成した診断基準1996年版(甲5。以下「甲5診断基準」という。) に置き換えることは、当業者には特殊な創意、技巧を要することなくできるものであり、甲7発明の骨粗鬆症治療剤をこの診断基準のもとに診断される骨粗鬆症患者に投与することには何ら困難性はない。新しい診断基準が策定された途端に旧診断基準が技術的に無意味になってしまうわけではないから、甲5診断基準より更に新し い診断基準が策定されたとしても、甲5診断基準を用いて患者を特定することは当業者の通常の創作能力の範囲内である。 ⒞ 本件特許の優先日当時、高齢は骨粗鬆症による骨折の重要な危険 い診断基準が策定されたとしても、甲5診断基準を用いて患者を特定することは当業者の通常の創作能力の範囲内である。 ⒞ 本件特許の優先日当時、高齢は骨粗鬆症による骨折の重要な危険因子であったこと、PTHの治療が、65歳以上であって、既存脊椎骨折を有し、低骨密度の女性に対する第一選択療法として推奨さ れていたこと(甲29)、医療対象者として、高齢とは65歳以上で あることを勘案すれば、65歳以上の患者を治療対象と設定することは、当業者にとって、当然なことである。 ⒟ 本件条件(2)及び本件条件(3)は、甲5診断基準の「I.X線上椎体骨折を認める場合」に一体的に規定される条件であり、これに、骨折の危険因子である高齢の条件である本件条件(1)を加 えた患者を治療の対象とすることを思いとどまらせるような事情は何ら存在しないから、本件3条件の組合せは何ら困難ではない。 イ発明の効果について 本件発明の効果について後記⑵イの本件発明の効果に関する被告の主張は争う。 予測できない顕著な効果について発明の効果及び程度が、予測できない顕著なものであるかについて、優先日当時当該発明の構成が奏するものとして当業者が予測することができなかったものか否か、当該構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであるか否かという観点から検討しなけ ればならないから(最高裁令和元年8月27日判決)、本件発明1に予測できない顕著な効果があるとするためには、本件発明1の実際の効果が、本件発明1の構成が奏するものとして当業者が予測できた範囲の効果と比較して、これを超えるものでなければならない。 本件 できない顕著な効果があるとするためには、本件発明1の実際の効果が、本件発明1の構成が奏するものとして当業者が予測できた範囲の効果と比較して、これを超えるものでなければならない。 本件明細書の記載について 本件明細書において、PTH200単位週1回投与の試験結果が記載されているのは【0098】以下の実施例2である。しかし、実施例2では、高リスク者(3条件充足患者)のみを対象としており、3条件充足患者と本件3条件の全部又は一部を欠く者(非3条件充足患者)との対比はない。【表34】(【0130】)は、PTH投与群とプラセボ投与 群とを比較したものにすぎず、ここから明らかにされるのは、PTHを 投与された場合には、PTHを投与されない場合に比較して骨折発生率が下がるという事実にすぎず、【表34】からは、3条件充足患者に投与することで優れた効果をもたらすかどうかは明らかにはならない。 したがって、本件審決は、本件明細書の実施例2の【表34】が示す効果の評価を誤ったものである。 効果の非予測性・顕著性についてa 3条件充足患者は、骨折リスクの高い患者であり、他方、非3条件充足患者は、3条件充足患者と比較して骨折のリスクが低い患者であることは、当業者が容易に理解するところといえる。さらに、甲7文献には、PTHの200単位投与により被験者の腰椎骨密度(BMD) を8.1%増加させたことが開示され、また、PTHは、「既存薬にはない強力な骨形成促進作用を有するため、骨密度が著しく低下している患者や多発骨折を起こしている患者、ステロイド性骨粗鬆症など、特に骨折リスクの高い患者に対する期待が大きい」(甲11の57頁左欄15ないし19行目)との 用を有するため、骨密度が著しく低下している患者や多発骨折を起こしている患者、ステロイド性骨粗鬆症など、特に骨折リスクの高い患者に対する期待が大きい」(甲11の57頁左欄15ないし19行目)との理解があったことからすると、PTHが 骨折リスクを低下させることは、本件特許の優先日当時、当業者には明らかな事項であった。 このような骨密度増加、骨折リスクの低下の作用を有するPTHを3条件充足患者に投与すれば、骨折リスクが更に低下することは当業者の予測の範囲内にある。他方、非3条件充足患者にPTHを投与し ても骨折リスクは低下するが、もともと骨折リスクは3条件充足患者に比較して高くないから、PTHによる骨折リスク低下は、3条件充足患者よりも小さいことが当然に予想される。すなわち、3条件充足患者に対するPTH投与による骨折リスクの低下は、非3条件充足患者に対するPTH投与による骨折リスクの低下よりも大となることは、 当然に予想される範囲にある。甲4証明書及び甲59証明書とも、こ の当然に予想されることを示しているものにすぎない。 b 本件審決は、骨折リスクの低下をRRRで測り、3条件充足患者において約60%、非3条件充足患者が約44%であり、その差をもって、優れた効果とするが、前記aのとおり、3条件充足患者の骨折リスクの低下と、非3条件充足患者の骨折リスクの低下とを対比したと きにその差が生じることは当業者の予想の範囲内の事項であり、その数値の差異も、RRRにおいて約60%と約44%であり、この程度の差をもって予想外の差が生じたとはいえない。 c 甲4証明書及び甲59証明書における非3条件充足患者は、全て、本件条件(1)を満たす「年齢が65歳以上」の患者である 4%であり、この程度の差をもって予想外の差が生じたとはいえない。 c 甲4証明書及び甲59証明書における非3条件充足患者は、全て、本件条件(1)を満たす「年齢が65歳以上」の患者である。また、 本件条件(2)又は(3)のいずれかを満たさないとするから、①「既存の骨折はないが、骨密度が若年成人平均値の80%未満である」群又は②「既存の骨折があるが、骨密度が若年成人平均値の80%以上である」群を含むところ、骨密度が若年成人平均値の80%以上であれば、通常、骨萎縮はないから、上記②の患者は骨粗鬆症と診断され 得ない。そうすると、甲4証明書及び甲59証明書が骨粗鬆症患者群を解析対象としたものとはいえないことになる。 仮に上記②は含まれていないとすると、甲4証明書及び甲59証明書にいう非3条件充足患者は、「65歳以上で、既存の骨折はないが、骨密度が若年成人平均値の80%未満である」群のみとなるから、上 記各証明書は、3条件充足患者として、「65歳以上で、既存の骨折があり、骨密度が若年成人平均値の80%未満である」患者群と、非3条件充足患者として、「65歳以上で、既存の骨折がなく、骨密度が若年成人平均値の80%未満である」患者群を対比したものにすぎず、既存骨折の有無のみにおいて相違する患者に対するPTHの効果を比 較しただけの試験となる。 複数の要件を組み合わせる発明の進歩性の判断に当たっては、当該複数の要件について、それぞれ非充足の場合との対比がされ、それぞれに要件の充足、非充足において奏する効果に対し、当該発明の効果が優れたものでなければならない。 そうすると、甲4証明書及び甲59証明書は、3条件充足患者につ いて、非3条件充足患 に要件の充足、非充足において奏する効果に対し、当該発明の効果が優れたものでなければならない。 そうすると、甲4証明書及び甲59証明書は、3条件充足患者につ いて、非3条件充足患者との対比において本件発明1が優れた効果をを奏することを示すものとはいえない。 d 甲4証明書及び甲59証明書において、PTH投与群と対比されたコントロール群(プラセボ投与群)は、PTHの臨床試験が行われた20年以上も前に実施された、別の骨粗鬆症治療剤であるエルシトニンの臨 床試験時にプラセボを投与された患者群を含み、患者背景が群間で同等であるとはいい難く、また、PTHの臨床試験とエルシトニンの臨床試験では、他の骨粗鬆症治療剤の併用の制限の有無においても異なっている。このような外部対照群を用いる試験は、信頼性が低く、例外的な状況下で使用されるものであることが当該分野における技術常識であると ころ(甲14)、甲4証明書及び甲59証明書において、外部対照試験を用いることが正当化されるような特殊事情の存在はなく、むしろ解析の結果の信頼性をより一層損なわせる事情が存在している。なお、本件発明の実施品として被告が販売するテリボンは、対象患者を3条件充足患者に限定していないのであるから、非3条件充足患者にPTHを投与す る臨床試験が臨床倫理上許されないとする被告の主張は説得力を欠く。 e 甲4証明書及び甲59証明書は、3条件充足患者におけるPTH投与群とコントロール群との間の有意差の有無と、非3条件充足患者におけるPTH投与群とコントロール群との間の有意差の有無とをそれぞれ検討するだけであり、3条件充足患者と非3条件充足患者とを比較してい ないため、ここから3条件充足患者と非3条件充足患者との間での骨折 群とコントロール群との間の有意差の有無とをそれぞれ検討するだけであり、3条件充足患者と非3条件充足患者とを比較してい ないため、ここから3条件充足患者と非3条件充足患者との間での骨折 抑制効果の違いを確認することは不可能である。 そこで、3条件充足患者と非3条件充足患者とのそれぞれについて、PTH投与群のプラセボ群に対するRRRの95%信頼区間を算出してみると、いずれの結果においても、3条件充足患者におけるRRRの95%信頼区間は、非3条件充足患者におけるRRRの95%信頼区間に 完全に包含されている。真のRRR値は95%信頼区間上のどれかの値である可能性が高いのであるから、上記各証明書で3条件充足患者と非3条件充足患者のどちらがRRRが高いのかを結論付けることは不可能ということになり、3条件充足患者と非3条件充足患者との間で骨折抑制効果に関して差があるとはいえない。 ウ本件発明1について小括以上のとおり、相違点Bは容易に想到することができ、本件発明1の効果を優れたものと認めることはできないから、本件発明1は容易に発明することができる。 ⑵ 被告 ア相違点Bの容易想到性の主張について 技術常識について原告が指摘する周知の骨粗鬆症治療剤とは、欧米で用いられていたPTH連日投与の骨粗鬆症治療剤であり、本件発明のPTH200単位週1回投与の骨粗鬆症治療剤にそのままあてはまるものではない。 年齢、骨折既往、骨密度(骨萎縮度)は骨折の危険因子と呼ばれるものであるが(甲10の1の34頁)、骨折の危険因子は、骨折リスクの高低を判別するために用いられるにすぎず、治療効果や骨折抑制効果を予測するためのもの 、骨密度(骨萎縮度)は骨折の危険因子と呼ばれるものであるが(甲10の1の34頁)、骨折の危険因子は、骨折リスクの高低を判別するために用いられるにすぎず、治療効果や骨折抑制効果を予測するためのものではないのであって、骨折リスクが高い患者において骨折抑制効果がより認められるという技術常識はなく、むしろ、高齢者 の場合には一般に代謝が悪く薬が効きにくいなど治療薬を投与しても骨 折を抑制し難いと考えるのが自然である。 また、骨密度を増加させる作用が示されたとしても、必ずしもそれらが骨の強度を高め、骨折の防止に結びつくわけではなく、骨粗鬆症治療剤の臨床評価に当たっては、骨強度及び骨折に対する影響が評価されなければならず、骨密度増加作用が確認されても骨折抑制効果の確認は必 要あり、そして、その骨折抑制効果は標準薬やプラセボとの比較試験によらないと分からない。したがって、骨密度の増加から骨折抑制効果が期待できるとはいえないというのが技術常識である。 容易想到性についてa 「骨折抑制のため」について 下記のとおり、PTH200単位週1回投与を骨折抑制のために行うことが、当業者に自明の事項であるとはいえない。 医薬の治療効果を検討する上では、ある患者群で得られた数値(例えば骨折発生数)自体の大小あるいは増減を単純に論じても客観的な評価をすることができないため、プラセボ投与群との対比をした 上で行うべきであるとされているから(甲39)、標準薬やプラセボと対比していない骨折発生率の大小や単なる骨折発生率の低減ではそもそも骨折抑制効果は評価できない(乙50)。骨密度を増加させる作用が示されたとしても、必ずしもそれらが骨の強度を高め、骨折の ラセボと対比していない骨折発生率の大小や単なる骨折発生率の低減ではそもそも骨折抑制効果は評価できない(乙50)。骨密度を増加させる作用が示されたとしても、必ずしもそれらが骨の強度を高め、骨折の防止に結びつくわけではなく、骨折抑制効果の確認が必要で あること、また骨折抑制効果は標準薬やプラセボとの比較試験によらないと分からないということが本件基準日当時の技術常識であった。 甲7文献には、治療効果としてBMD増加効果しか開示されておらず、かつ、プラセボ投与群との対比もないため、甲7発明の骨粗 鬆症治療剤の骨折抑制効果は不明である。すなわち、甲7文献の臨 床試験は後期第Ⅱ相試験であるところ、後期第Ⅱ相試験は、あくまでも用法・用量を決定し、第Ⅲ相試験に進むか否かを評価するための位置付けであり、第Ⅲ相試験で骨折抑制効果を確認することが求められている。しかも、骨粗鬆症治療剤の臨床評価は、骨強度及び骨折に対する影響が評価されなければならず、いくら後期第Ⅱ相試 験で骨密度増加作用が確認されたところで、骨折抑制効果が期待できるとはいえない。「代替エンドポイントの評価」(乙14)において骨密度が代替エンドポイントになるのは、第Ⅱ相試験の目的である用量反応性の検討のためであって、骨折抑制効果の確認には真のエンドポイントである骨折を評価項目とした臨床試験が必要であ る。また、「骨粗鬆症用薬の臨床評価方法に関するガイドラインについて」(甲39)に骨量の変化で代用すると記載されているのは、第Ⅲ相比較試験のための用法・用量を決定することを達成する範囲において骨密度が代用されているだけであり、骨密度が骨折抑制効果の代用とされているのではない(乙50)。 ⒝ 甲7文献には、BM 験のための用法・用量を決定することを達成する範囲において骨密度が代用されているだけであり、骨密度が骨折抑制効果の代用とされているのではない(乙50)。 ⒝ 甲7文献には、BMD増加率8.1%であるH群は、BMD増加率0.6%であるL群との間で、骨折発生率について「各群間の差は有意でなかった」と記載されており、このことは、甲7発明の骨粗鬆症治療剤に関する限り、骨折発生数はBMD増加率に依存しないことが示されていると理解されるものといえる。 ⒞ 甲7文献には、PTH200単位投与について副作用発現率・脱落率が高かった試験結果が記載されており、そうすると、PTHが長期間にわたる投与を要する骨粗鬆症治療剤である以上、副作用が重篤でなければ問題ないとはいえず、臨床医薬としての適格性は否定されるのである(甲46、48の1及び2、乙50)。なお、甲7 文献の臨床試験でPTH200単位投与の副作用発現率が42% であるのは48週時点であるところ、本件発明の骨粗鬆症治療剤の副作用発現率は72週時点で36.8%ないし45%であり(本件明細書【表31】ないし【表33】)、両者の投与期間は異なるのであるから、単純に両者の副作用発現率のみを対比することは適切ではない。なお、試験薬剤が原因とは考えにくい副作用も、明確にはい えないケースであり、疑わしさが残る例であるから、これを副作用による脱落に含める算定方法には何ら問題がない(甲51、43の82頁)。 そして、本件3条件は、PTH100単位投与での骨折試験を層別解析した結果、本件3条件を選択することで大きな骨折抑制効果 が得られるという着想から得られたものであり、この着想がなけれれば、骨折抑制のために200単 PTH100単位投与での骨折試験を層別解析した結果、本件3条件を選択することで大きな骨折抑制効果 が得られるという着想から得られたものであり、この着想がなけれれば、骨折抑制のために200単位のPTHを骨粗鬆症患者に投与することがリスクに見合うベネフィットが得られる治療方法とは考えられないのである。 なお、テリボンの効能・効果は「骨折の危険性の高い骨粗鬆症」 となっていて本件3条件の記載はないが、特許請求の範囲の記載と医薬の承認事項での文言とが同一でなくてはならないというルールはなく、テリボンの添付文書の記載が、層別解析により得られた本件3条件の着想により初めてリスクに見合うベネフィットが期待できるようになったとの事実を否定することはない。 b 本件3条件について 甲8診断基準には、本件3条件以外の複数の因子が考慮因子として挙げられており、本件3条件を満たさなくとも骨粗鬆症患者と診断され得るから、甲8診断基準により臨床試験の対象患者を選んだとする甲7発明の臨床試験の対象患者の中に、本件3条件の全てを 満たす患者が当然に含まれていたとはいえない。 本件3条件が骨折発生の危険因子だとしても、骨折の危険因子は、骨折リスクの高低を判別するために用いられるものであり、骨折をしやすい患者が治療による骨折の抑制をしやすい患者とはいえないから、骨折の危険因子が多いからといって骨折抑制の治療効果を享受できるとは当然にはいえない。したがって、当業者は、本件3 条件がPTH週1回投与により高い骨折抑制の治療効果を享受できる属性であることを容易に想到できない。 ⒝ 本件特許の優先日当時には、診断基準2000年版(甲9。以下「甲 、本件3 条件がPTH週1回投与により高い骨折抑制の治療効果を享受できる属性であることを容易に想到できない。 ⒝ 本件特許の優先日当時には、診断基準2000年版(甲9。以下「甲9診断基準」という。)が既に作成されているから、甲5診断基準を適用する理由はない。それを措くとしても、甲5診断基準によ れば、既存椎体骨折(本件条件(2))を認めない場合であっても、骨粗鬆症と診断されるのであるから、甲5診断基準によって骨粗鬆症と診断された患者全員が、「骨萎縮度I度以上、あるいは骨密度値が若年成人平均値の80%未満」(本件条件(3))で、かつ、「既存骨折」(本件条件(2))のある骨粗鬆症患者ではないのであって、 本件条件(2)及び本件条件(3)を満たす骨粗鬆症患者を選択する動機付けはない。 ⒞ カナダの臨床ガイドライン(甲29)で第一選択療法として推奨されているのは、PTH連日投与による治療法であって、本件発明の週1回投与による治療法ではないところ、PTH連日投与では、 副作用頻度はそれほど高いものではない。一方、PTH200単位投与は副作用リスクの点から臨床用量として相応しくないというのが、甲7発明に対する専門医の共通した見解であり(甲46、甲48の1及び2)、そのような薬剤を一般に体力の劣る65歳以上の高齢者に使用するとなると、リスク・ベネフィットに見合う特段 の事情が必要となる。 したがって、65歳以上の骨粗鬆症患者が連日投与での治療対象とされているからといって、65歳以上の骨粗鬆症患者をPTH200単位週1回投与の治療対象とする動機付けが直ちにあるとはいえない。 ⒟ 甲7文献には、年齢の違い、閉経後年数、椎体骨折の有無、骨折 るからといって、65歳以上の骨粗鬆症患者をPTH200単位週1回投与の治療対象とする動機付けが直ちにあるとはいえない。 ⒟ 甲7文献には、年齢の違い、閉経後年数、椎体骨折の有無、骨折 数がどうであれ、薬物のBMD応答は同程度であることが記載されており(300頁左欄11行ないし右欄6行目)、これは、サブ群を組み合わせる意味がないということでもあるから、「年齢」、「既存骨折」の観点を含めた条件の組み合わせは積極的に否定されたものであり、当業者は、甲7文献に接しても本件3条件の着想を持ち得な い。 イ発明の効果について 本件発明の効果について本件発明の効果は、1回当たり200単位のPTHを3条件充足患者に投与することで、高い骨折抑制効果が達成されることである。 すなわち、①投与開始24週時点といった早期に効果が発現し、投与継続に応じてその効果が増強され、最終的に48週以降は完全な骨折抑制効果を達成するものであり、プラセボ群に対するRRRが79%という効果を奏する。一方、甲7文献からは、PTH200単位週1回投与の骨折抑制効果を読み取ることはできず、いわんや3条件充足患者に骨 折抑制効果があることさえ予測できないし、仮に骨折抑制効果が期待されるとしても、その程度は全く不明であり、本件発明の構成が奏する高いRRRが示されることを予測できるものではないから、本件発明に優れた効果を認めることができる。 また、②甲7発明のPTH200単位週1回投与の48週時における BMD増加率は8.1%であるので、PTH67単位相当の連日投与及び PTH133単位相当の連日投与の結果(甲51)を参照すると、PTH200単位週1回投与 時における BMD増加率は8.1%であるので、PTH67単位相当の連日投与及び PTH133単位相当の連日投与の結果(甲51)を参照すると、PTH200単位週1回投与の48週時における椎体骨折のRRRは64%程度に、72週投与した場合の椎体骨折のRRRは67%程度になると予測されるところ、本件発明の構成が奏する実際のRRRは48週時点で70%、72週時点で79%であり(本件明細書【表34】)、当業者 が予測することができた範囲の効果を遥かに超える顕著なものである。 予測できない顕著な効果について明細書には発明の効果が記載されていればよく、当該効果の顕著性の記載をすることは不要である。被告が主張している本件発明の効果は、本件明細書の実施例2の【表34】に記載されているような3条件充足 患者に対する骨折抑制効果である。したがって、3条件充足患者に対して骨折を抑制したことが分かる記載があればよく、「3条件充足患者に対するPTHの骨折抑制効果が非3条件充足患者に対する骨折抑制効果よりも高いこと」との比較部分は、本件発明の効果それ自体を説明したものではなく、非3条件充足患者に対する効果と対比することによって本 件発明の効果が予測できないことを説明したものである。そして、発明の効果の顕著性は、当該発明の構成が奏するものとして当業者が予測することができなかったものか否か、当該構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超えるか否かによって検討されるものであるから、当業者が従来技術から本件発明の構成が奏すると予想するBMD増加率 のようなものも、本件明細書に記載されている必要はない。 本件明細書の記載について本件明細書には「表―6、7に 技術から本件発明の構成が奏すると予想するBMD増加率 のようなものも、本件明細書に記載されている必要はない。 本件明細書の記載について本件明細書には「表―6、7に高リスク者、低リスク者の別での、投与群別の新規椎体骨折発生の結果を示した。高リスク者においては、100単位投与群は5単位投与群に比べ骨折発生は有意に低かった(p<0. 05)。一方低リスク者においては、群間で有意差は認められなかった(p >0.05)。」(【0086】)との記載があり、【表6】、【表7】には、3条件充足患者群と非3条件充足患者群とを比較して、骨折抑制効果を比較した試験結果が示され、3条件充足患者に対する顕著な骨折抑制効果が開示されている。また、本件明細書の記載によると、RRRは、高リスク患者が71.6%であり、9.1%にすぎない低リスク患者(非3条件 充足患者)よりも圧倒的に高いから、3条件充足患者に対して優れた骨折抑制効果が生じるといえる。 効果の非予測性・顕著性についてa 高リスク患者であれば、治療薬により高い骨折抑制効果が期待できるといった技術常識はなく、むしろ骨折しやすい重症患者であるから 治療薬を投与しても骨折を抑えにくく、逆に、低リスク患者の方が骨折をより強く抑制できると考えるのが自然である。そもそも、PTH200単位週1回投与が高リスク患者に対して低リスク患者よりも高い骨折抑制効果を示すことは、本件発明が初めて明らかにしたことであって、本件基準日当時、当業者に知られていたわけではない。 甲7文献からは、甲7発明の骨粗鬆症治療剤の骨折抑制効果は不明であるし、原告が引用する文献(甲11)の指摘箇所は、PTH連日投与に関する記載で 者に知られていたわけではない。 甲7文献からは、甲7発明の骨粗鬆症治療剤の骨折抑制効果は不明であるし、原告が引用する文献(甲11)の指摘箇所は、PTH連日投与に関する記載であり、しかも、他の既存薬に比べてPTHが期待できるという程度の趣旨の記載であって、PTHが骨折リスクの低い患者よりも骨折リスクの高い患者に対してより効果を生じやすいとい う趣旨の記載ではない。 b 3条件充足患者の方が非3条件充足患者よりも骨折抑制効果が高いという技術常識はないのであるから、少なくとも、3条件充足患者と非3条件充足患者との間において骨折抑制効果に差は無いと当業者は認識するはずであり、そうであるならば、両者の間にRRRにおいて 差があること自体が予測できないことである。 c 非3条件充足患者は、本件3条件のうち、少なくとも1つを満たさない患者と定義されるところ、甲4証明書及び甲59証明書における非3条件充足患者については、コントロール群(テリボン、エルシトニンの臨床試験におけるプラセボ投与群)の患者全員が年齢が65歳以上の患者であったので、PTH投与群とコントロール群との間の条 件を揃えるためにPTH投与群(テリボン市販後データ)についても65歳以上の患者を解析対象としたため、上記各実験成績証明書の患者の全員を本件条件(1)を満たす患者とした。患者全員が本件条件(1)を満たすので、「本件条件(1)は満たすが、本件条件(2)又は(3)のうち、少なくとも1つを満たさない患者」と表現したにす ぎない。PTH投与群の患者は、実際に医療機関において骨粗鬆症と診断された患者であるし、コントロール群の患者についても臨床試験において医師によって骨粗鬆症として診断され登録され 表現したにす ぎない。PTH投与群の患者は、実際に医療機関において骨粗鬆症と診断された患者であるし、コントロール群の患者についても臨床試験において医師によって骨粗鬆症として診断され登録された患者であり、上記各証明書は骨粗鬆症患者を対象としている。原告の主張は、単に上記各証明書の表現ぶりについて揚げ足をとろうとするだけのもので ある。 本件発明の効果は、3条件充足患者に高い骨折抑制効果が奏されるというものであり、非3条件充足患者を対象するものではないから、比較対象となる非3条件充足患者の例が一つでもあればよく、あらゆる類型の非3条件充足患者との比較までは必要とされるものではない。 しかも、上記各証明書に示された非3条件充足患者である「65歳以上(本件条件(1)充足)」、「既存の骨折がなく」(本件条件(2)非充足)、「骨萎縮度Ⅰ度以上、又は、骨密度が若年成人平均値の80%未満である」(本件条件(3)充足)患者群は、本件3条件のうち一つの条件のみが外れた患者であり、「65歳以上(本件条件(1)充足) で、既存の骨折がなく(本件条件(2)非充足)、「骨萎縮がなく、か つ、骨密度が若年成人平均値の80%以上である(本件条件(3)非充足)患者群よりも、より本件発明に構成が近く、比較対象としてはより効果の差が出にくい厳しい条件を採用しているといえるし、本件条件(1)については、本件明細書の実施例1において比較例を示しているから、内容的にも十分網羅されている。したがって、比較対象 が一部であるからといって、本件発明の効果が明らかではないということはない。 d 甲4証明書及び甲59証明書で用いたコントロール群は、エルシトニン臨床試験のプラセボデータについては2006年な であるからといって、本件発明の効果が明らかではないということはない。 d 甲4証明書及び甲59証明書で用いたコントロール群は、エルシトニン臨床試験のプラセボデータについては2006年ないし2013年に実施された臨床試験のデータであり、テリボン臨床試験のプラセ ボデータについては2007年ないし2010年に実施された臨床試験のデータであるので、PTH投与群のデータ(2011年ないし2015年)とほぼ同時期である。原告が裏付けとして提出する証拠は、全く関係のない試験に関するものである。 エルシトニン臨床試験及びテリボン臨床試験のいずれについても、 そのプラセボ投与群は、実際の治験と同時期に実施したランダム化二重盲検比較試験におけるプラセボ投与群であり、試験薬剤を含まないプラセボ製剤を使用する点で同じであるから、それらの臨床試験結果に基づく解析結果を使用しても、外部対照群の短所を補っており、結果の信憑性に問題はない。仮に、エルシトニン臨床試験とプラセボ臨 床試験との間に他の骨粗鬆治療剤の併用が制限されているか否かの相違があったとしても、そのような併用患者は3条件充足患者と非3条件充足患者のいずれにも含まれるため、PTH投与による3条件充足患者に対する骨折抑制効果を比較する上では特に問題はない。 さらに、PTH100単位投与の実施例1においては、非3条件充 足患者への投与について、リスク(副作用)に対するベネフィット(治 療価値)が十分でないことが示されており、そうすると、PTH200単位投与に係る臨床試験に当たり、リスクを上回るベネフィットを期待できない非3条件充足患者に200単位のPTHを投与することは臨床倫理上許されないことといえ、外部対照群を用 そうすると、PTH200単位投与に係る臨床試験に当たり、リスクを上回るベネフィットを期待できない非3条件充足患者に200単位のPTHを投与することは臨床倫理上許されないことといえ、外部対照群を用いることが正当化されるような特殊事情も存在する。なお、非3条件充足患者にPT H200単位を投与する臨床試験が臨床倫理上許されないという事情は、実施例2を実施した当時のことであり、その後の承認内容とは全く関係のないことである。 e 原告は、信頼区間の算出結果によれば、3条件充足患者と非3条件充足患者との間で骨折抑制効果に差があるとはいえない旨主張するが、 信頼区間が重なるという条件下では、2群間に有意差がある場合とない場合があるということが示されるにすぎない。被告は、3条件充足患者における骨折抑制効果が非3条件充足患者における骨折抑制効果に対して有意差があるから顕著な効果があるとは主張しておらず、3条件充足患者のRRRが非3条件充足患者のRRRより高いのであれ ば、3条件充足患者対してより効果が奏されやすいことは十分に認識可能であると主張しているものである。いずれにせよ、3条件充足患者における骨折抑制効果がプラセボに対する関係で有意差があり、非3条件充足患者における骨折抑制効果がプラセボに対する関係で有意差が無いことが分かれば、本件発明の骨粗鬆症治療剤が3条件充足患 者に対してより効果が奏されやすいことは十分に認識可能である。 ウ本件発明1について小括以上のとおり、相違点Bは容易に想到することができず、また、本件発明1の効果は優れたものであるから、本件発明1は容易に発明することができない。 2 取消事由2(甲6発明に基づく進歩性判断の誤り)の有無について ができず、また、本件発明1の効果は優れたものであるから、本件発明1は容易に発明することができない。 2 取消事由2(甲6発明に基づく進歩性判断の誤り)の有無について ⑴ 原告ア優先権主張の効果について優先権主張の基礎とされた基礎出願(甲1)の特許請求の範囲及び明細書には、PTH200単位投与についての実施例の記載はなく、基礎出願明細書に記載された唯一の実施例である実施例1には、5単位、100単 位の投与結果しか示されていないし、本件審決が本件発明1の発明の効果が優れている根拠とした【表34】も基礎出願明細書には記載がない。 優先権主張の効果が認められるためには、後の出願に係る発明が先の出願の請求項についての補正として提出されたと仮定した場合に、先の出願の当初明細書等に記載した事項の範囲内の補正と認められるか否かを判 断して決すべきであり(東京高裁平成14年(行ケ)第539号同15年10月8日判決)、当業者によって、明細書又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項を参酌することができるとしても(知財高裁平成18年(行ケ)第10563号同20年5月30日特別部判決)、PTH200単位投与の効果を基礎出願明細書のわずかな記載から読み 取ることはできない。 したがって、上記優先権主張の効果は認められない。 イ小括以上から、本件特許の特許要件判断の基準日は、本件特許に係る国際出願(PCT/JP2010/065379)がされた平成22年(2009年)9月8 日であり、甲6文献(2009年9月11日公開)がこれ以降に頒布されたとして甲6発明に基づく進歩性欠如の主張を排斥した本件審決の判断には、誤りがある。 された平成22年(2009年)9月8 日であり、甲6文献(2009年9月11日公開)がこれ以降に頒布されたとして甲6発明に基づく進歩性欠如の主張を排斥した本件審決の判断には、誤りがある。 ⑵ 被告ア優先権主張の効果の主張について 基礎出願明細書(甲1)には、「最も好ましく1回当たり200単位が例 示される」(【0032】)との記載があり、1回当たり200単位のPTHを週1回投与して骨折を抑制するという思想が開示されている。【表34】が示すのは、PTH200単位週1回投与によって骨折の抑制効果が優れていることを示したものであり、基礎出願明細書に開示された技術思想をそのまま具現化したものであるから、基礎出願明細書の全ての記載を総合 することにより導かれる技術的事項であり、何ら新たな技術的事項を導入するものではない。 イ小括以上から、優先権主張の効果は認められるので、甲6文献は優先日後に公開されたものであるから、甲6発明に基づく進歩性欠如の主張を排斥し た本件審決の判断には、誤りはない。 3 取消事由3(サポート要件に関する判断の誤り)の有無について⑴ 原告アカルシウム剤の併用について本件発明1及び2においては、PTHとカルシウム剤を併用するとの限 定はされていない。 しかしながら、本件明細書においては、PTHは常にカルシウム剤と共に投与されるものとして説明され(【0004】、【0024】ないし【0029】、【0032】)、実施例2にあっても、PTHはカルシウム剤と併用される例のみが記載されており(【0098】、【0099】)、カルシウム剤 を用いずPTHを単独で用いたとする例やそのデータは記載 【0032】)、実施例2にあっても、PTHはカルシウム剤と併用される例のみが記載されており(【0098】、【0099】)、カルシウム剤 を用いずPTHを単独で用いたとする例やそのデータは記載されていない。これら本件明細書の記載に接した当業者は、カルシウム剤を併用することが、効能・効果の面で優れたPTHによる骨粗鬆症治療剤を提供するための前提であると理解するはずであり、カルシウム剤を併用しない場合の発明の効果まで理解できたとはいえない。また、カルシウム剤を併用せ ずPTHの200単位を単独で用いたとしても、当業者においてその治療 の効果を理解することができるとする技術常識もない。 したがって、カルシウム剤を併用するとの限定のない本件発明は、本件発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるから、サポート要件を充たさない。 イ小括 以上から、本件発明1及び2がサポート要件を充足すると判断した本件審決の判断には、誤りがある。 ⑵ 被告アカルシウム剤の併用について本件発明は、カルシウム剤の併用の有無は要件とされないことから、カ ルシウム剤を併用しない態様も含むものである。そして、本件明細書の【0014】の〔14〕及び〔15〕、【0032】、【0034】、【0131】、【表34】、【表35】、【0132】及び【0133】には、カルシウム剤の併用を要件としない態様の発明が記載されている。 また、実施例2では、PTH200単位投与群及びプラセボ投与群のい ずれの群でもカルシウム剤が併用されているから、本件発明の効果は、PTH単独の効果として認識できる。すなわち、骨折抑制効果は一般にRRRで評 は、PTH200単位投与群及びプラセボ投与群のい ずれの群でもカルシウム剤が併用されているから、本件発明の効果は、PTH単独の効果として認識できる。すなわち、骨折抑制効果は一般にRRRで評価されるところ、RRRはPTH200単位投与群の骨折発生率とプラセボ投与群の骨折発生率の比から算出するが、このようにPTH200単位群とプラセボ投与群との比較で算出される以上、仮に、カルシウム 剤による何らかの影響があったとしても、その効果は両者に等しく及ぶので、両群の比較によって骨粗鬆症治療剤の有効性が評価できるからである。 このことは、骨粗鬆症治療剤の有効性を評価する際には、臨床試験時に薬剤投与群とプラセボ投与群の両方にカルシウム剤を施して比較し、得られた効果はカルシウム剤の効果を除いた被験薬単独の効果とすること(甲3 9ないし43)からみて、技術常識であることが明らかである。 したがって、当業者は、本件明細書からカルシウム剤を併用しない場合のPTH200単位を単独で用いる治療の効果を理解することができるので、本件発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。 イ小括以上から、本件発明1及び2がサポート要件を充足すると判断した本件審決の判断には、誤りはない。 4 取消事由4(実施可能要件に関する判断の誤り)の有無について⑴ 原告 アカルシウム剤の併用について本件発明1及び2は、PTHとカルシウム剤を併用するとの限定はされていない。 しかしながら、前記3⑴アのとおり、本件明細書には、PTHは常にカルシウム剤と共に の併用について本件発明1及び2は、PTHとカルシウム剤を併用するとの限定はされていない。 しかしながら、前記3⑴アのとおり、本件明細書には、PTHは常にカルシウム剤と共に投与されるものとして説明され、実施例2にあっても、 PTHはカルシウム剤と併用される例のみが記載されており、カルシウム剤を併用せずにPTHを単独で投与する発明は、本件明細書には記載されておらず、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。 イ小括 以上から、本件明細書が実施可能要件を充足すると判断した本件審決の判断には、誤りがある。 ⑵ 被告アカルシウム剤の併用について前記3⑵アのとおり、当業者は、本件明細書の記載及び出願時の技術常 識を参酌することで、PTH単独の骨粗鬆症治療効果を認識することがで きる。したがって、本件明細書明の記載は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。 イ小括以上から、本件明細書が実施可能要件を充足すると判断した本件審決の 判断には、誤りはない。 5 取消事由5(甲2発明に基づく新規性判断の誤り)の有無について⑴ 原告ア分割出願について本件発明1及び2は、PTHとカルシウム剤を併用するとの限定はされ ていない。 しかしながら、前記3⑴アのとおり、本件明細書には、PTHは常にカルシウム剤と共に投与されるものとして説明され、実施例2にあっても、PTHはカルシウム剤と併用される例のみが記載されており、カルシウム剤を併用せずにPTHを単独で投与する発明は には、PTHは常にカルシウム剤と共に投与されるものとして説明され、実施例2にあっても、PTHはカルシウム剤と併用される例のみが記載されており、カルシウム剤を併用せずにPTHを単独で投与する発明は、本件明細書には記載され ていない。 原出願当初明細書等の記載も本件明細書の記載と同一である。 したがって、本件発明1及び2は、原出願当初明細書等に記載のない発明である。 イ小括 以上から、本件出願は分割出願の要件を充足せず、本件特許の出願日は現実の出願日である平成29年11月17日であり、甲2文献をこの後に公開されたものとして甲2発明に基づく新規性欠如の主張を排斥した本件審決の判断には、誤りがある。 ⑵ 被告 ア分割出願について 本件発明は、カルシウム剤の併用の有無は要件とされないことから、カルシウム剤を併用しない態様も含むものである。そして、原出願当初明細書等及び分割直前明細書等の各【0014】の〔14〕及び〔15〕、【0032】、【0034】、【0131】、【表34】、【表35】、【0132】及び【0133】には、カルシウム剤の併用を要件としない態様の発明が記 載されている。 また、実施例2では、PTH200単位投与群及びプラセボ投与群のいずれの群でもカルシウム剤が併用されているが、前記3⑵アのとおり、両群の対比からPTH単独の効果が評価できることは技術常識である。 したがって、本件発明は、原出願当初明細書等及び分割直前明細書等に 記載されたものの範囲内であり、分割出願の要件を充足する。 イ小括以上のとおり、分割出願の要件が認められるので、甲2文献は原出願後に公開された 等及び分割直前明細書等に 記載されたものの範囲内であり、分割出願の要件を充足する。 イ小括以上のとおり、分割出願の要件が認められるので、甲2文献は原出願後に公開されたものであるから、甲2発明に基づく新規性欠如の主張を排斥した本件審決の判断には、誤りはない。 6 本件発明2について 原告本件発明1が進歩性を欠如する以上、本件発明1と同様の理由により本件発明2が進歩性を欠如しないとした本件審決の判断は、誤りである。 被告 本件発明1に進歩性が認められるので、これを更に限定した本件発明2について進歩性が否定されないことは、明らかである。 第4 当裁判所の判断 1 本件発明について⑴ 本件明細書の記載事項 本件明細書(甲65)には、別紙1「本件明細書の記載事項(抜粋)」のと おりの記載があり、この記載によると、本件発明について、次のような開示があると認められる。 ア技術分野本件発明は、PTH(ParathyroidHormone: パラサイロイドホルモン〔副甲状腺ホルモン〕)を有効成分として含有する骨粗鬆症の治療剤ないし予防 剤に関するものであり、また、PTHを有効成分として含有する骨折抑制ないし予防剤に関するものである(【0001】、【0018】)。 イ背景技術骨粗鬆症は、骨強度の低下を特徴とし、骨折のリスクが増大している疾患であり、治療剤の1つとしてPTH製剤が知られている(【0002】)。 従来技術として、1週間に1回の頻度で26週間の投与期間にわたり、1回の投与当たり100又は200単位のPTHを皮下投与する骨粗鬆症の治療方法があるが、この方法が、骨 02】)。 従来技術として、1週間に1回の頻度で26週間の投与期間にわたり、1回の投与当たり100又は200単位のPTHを皮下投与する骨粗鬆症の治療方法があるが、この方法が、骨強度を増大させること又は骨折のリスクを軽減させることが可能な治療方法であるか否かについては明示されていない(【0004】、【0005】)。 また、従来技術として、PTHを連日投与するものがあるが、高カルシウム血症の副作用事例等があり、安全性の面から十分ではないことから、安全性が高くかつ効能・効果の面で優れたPTHによる骨粗鬆症治療方法が求められていた(【0006】ないし【0009】)。 ウ発明が解決しようとする課題 本件発明の課題は、安全性が高くかつ効能・効果の面で優れたPTHによる骨粗鬆症治療ないし予防方法を提供すること、さらに、安全性の高いPTHによる骨折抑制ないし予防方法を提供することである(【0012】)。 エ課題を解決するための手段等 前記課題を解決するため、PTHの投与量・投与間隔を限定すること、 具体的には1回当たり100ないし200単位のPTHを週1回投与することにより、効能・効果及び安全性の両面で優れた骨粗鬆治療ないし予防方法となること並びに安全性の高い骨折抑制又は予防方法となることが見出され、それらの方法において、骨折の高リスク者に対して特に効果を奏することが見出された(【0013】、【0015】、【0018】、【00 34】、【0035】)。 骨粗鬆症における骨折の危険因子としては、年齢、性、低骨密度、骨折既往、喫煙、アルコール飲酒、ステロイド使用、骨折家族歴、運動、転倒に関連する因子、骨代謝マーカー、体重、 0035】)。 骨粗鬆症における骨折の危険因子としては、年齢、性、低骨密度、骨折既往、喫煙、アルコール飲酒、ステロイド使用、骨折家族歴、運動、転倒に関連する因子、骨代謝マーカー、体重、カルシウム摂取などが挙げられるところ、本件発明においては、(1)年齢が65歳以上である、(2)既 存骨折がある、(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である、及び/又は、骨萎縮度が萎縮度I度以上であるとの3条件を満たす骨粗鬆症患者を「高リスク患者」として定義する(【0068】)。 オ実施例1退行期骨粗鬆症(閉経後骨粗鬆症及び老人性骨粗鬆症)、特発性骨粗鬆症 (妊娠後骨粗鬆症、若年性骨粗鬆症など)が例示される原発性骨粗鬆症の男女の患者を、高リスク患者及び低リスク患者(高リスク患者ではない患者)に区分して、それぞれ、5あるいは100単位のPTH製剤であるテリパラチド酢酸塩をそれぞれ週に1回間欠的に皮下投与した(【0037】、【0077】、【0079】)。 高リスク患者においては、100単位投与群は、5単位投与群に比べ、有意に高い骨密度の増加、有意に低い新規椎体骨折発生、及び、有意に低い椎体以外の骨折発生が認められ、テリパラチド酢酸塩の週1回100単位投与は、高リスク患者に対し、有用な骨粗鬆症治療剤及び骨折抑制ないし予防剤となり得ることが確認されたが、低リスク患者においては、骨密 度、新規椎体骨折発生及び椎体以外の骨折発生のいずれについても、10 0単位投与群と5単位投与群との間で有意差は認められなかった(【0083】ないし【0094】、【表4】ないし【表11】)。 投与期間中、いずれの投与量においても高カルシウム血症の発症はなかった(【0095】、【図 との間で有意差は認められなかった(【0083】ないし【0094】、【表4】ないし【表11】)。 投与期間中、いずれの投与量においても高カルシウム血症の発症はなかった(【0095】、【図1】)。 カ実施例2 原発性骨粗鬆症と診断された男女の高リスク患者に対して、テリパラチド酢酸塩「200単位」(披験薬)又はプラセボ(対照薬)を、72週間、週1回、皮下投与した(【0098】)。 投与72週後における被験薬投与群と対照薬投与群それぞれにおける椎体多発骨折(新規の2箇所以上の椎体骨折)の発生比率(例数)を比較し たところ、対照薬投与群は2.1%(6例)、被験薬投与群は0.8%(2例)であり、被験薬は椎体多発骨折に対して抑制ないし予防効果を有することが示された(【0109】、【表12】)。また、増悪骨折に対しても被験薬は有効である(【0118】、【表20】)。 半年ごとの新規椎体骨折発生率は、プラセボ群では、いずれの区間も約 5%でほぼ一定であるのに対し、PTH200単位投与群では、投与期間が長くなるにつれて区間毎の発生率が低下しており、48週を超えてからは新規椎体骨折は発生しておらず、また、PTH200単位投与群の新規椎体骨折発生率は、24週以内、24週ないし48週、48週ないし72週のいずれの区間でもプラセボ群より低く、プラセボに対する相対リスク 減少率(RRR)は投与を継続するにつれて増加しており、PTH200単位週1回投与は、新規椎体骨折の発生を早期から抑制し、24週後には既に骨折発生リスクをプラセボに対して53.9%低下させ、さらに、その骨折抑制効果は、投与とともに増強する傾向が認められた(【0131】、【0132】、【表34】、【表35】)。 週後には既に骨折発生リスクをプラセボに対して53.9%低下させ、さらに、その骨折抑制効果は、投与とともに増強する傾向が認められた(【0131】、【0132】、【表34】、【表35】)。 骨折試験のFAS(判決注 FullAnalysisSet:最大の解析対象集団) において、Kaplan-Meier推定法による72週後の椎体骨折(新規+増悪)発生率は、PTH200単位投与群3.5%、プラセボ群16.3%であり、PTH200単位投与群の発生率はプラセボ群より低く(logrank検定、p<0.0001)、200単位の投与は、72週後には、椎体骨折(新規+増悪)の発生リスクをプラセボに比べて78.6%低下させており、さらに、半年 毎の椎体骨折(新規増悪)発生率を群間で比較すると、24週以内、24週~48週、48週~72週のいずれの区間でも、PTH200群の発生率はプラセボ群より低かった(【0133】)。 ⑵ 本件明細書の記載について本件特許の特許権者たる原告が本件審判時において審判合議体に対してし た回答内容(争いのない事実、甲71、72)から、本件明細書の開示内容について、次の点が認められる。 ア実施例1は、甲5診断基準に基づき骨粗鬆症と診断された患者に関するものであるが(【0011】の【非特許文献12】、【0077】)、全員が椎体骨折を1個以上有しており、同診断基準上の「Ⅰ X線上椎体骨折を認 める場合」に該当することから骨粗鬆症であると診断された患者である。 同診断基準上の「Ⅱ X線上椎体骨折を認めない場合」であって、「脊椎X線像で骨萎縮度Ⅱ度以上又は骨密度値がYAMの70%未満」に該当することから骨粗鬆症であると診断された患者は含まれない。 同診断基準上の「Ⅱ X線上椎体骨折を認めない場合」であって、「脊椎X線像で骨萎縮度Ⅱ度以上又は骨密度値がYAMの70%未満」に該当することから骨粗鬆症であると診断された患者は含まれない。 イ本件発明に係る試験では骨密度測定を必須としなかったことから、腰椎 骨密度データがない患者が含まれており、腰椎骨密度の若年成人平均値(YAM値)は、データが得られた患者の平均値が示されている。 腰椎骨密度の若年成人平均値(YAM値)データが得られた患者の人数は、【表2】(【0081】)では5単位投与群が全患者数64例のうち、35例、100単位投与群が全患者数52例のうち35例、【表3】(【008 1】)では5単位投与群が全患者数10例のうち8例、100単位投与群が 全患者数11例のうち2例である。 上記全患者数のうち、高リスク者における腰椎骨密度の推移状況(【0084】、【表4】)について、骨密度の測定がされたのは、5単位投与群が33例、100単位投与群が30例である。低リスク者における腰椎骨密度の推移状況(【0085】、【表5】)について、骨密度の測定がされたのは、 5単位投与群が7例、100単位投与群が1例であり、腰椎骨密度の若年成人平均値(YAM値)データが得られた患者より更に少ないのは、患者の都合等により投与開始後の各時点の腰椎骨密度が測定できず、腰椎骨密度の変化率を評価できなかった等の理由による。 ウ高リスク者における新規椎体骨折の状況(【0087】、【表6】)につい て、評価例数は、5単位投与群が64例、100単位投与群が52例で、低リスク者における新規椎体骨折の状況(【0088】、【表7】)において、評価の対象とした患者数は、5単位投与群が10例、1 て、評価例数は、5単位投与群が64例、100単位投与群が52例で、低リスク者における新規椎体骨折の状況(【0088】、【表7】)において、評価の対象とした患者数は、5単位投与群が10例、100単位投与群が11例であり、【表2】、【表3】の全患者数と同数である。 エ 【表2】(【0081】)の高リスク者の例数は、5単位投与群で64例、 100単位投与群で52例となっているのに対し、【表8】(【0091】)の高リスク者における26週ごとの新規椎体骨折の状況において、5単位投与群は63例、100単位投与群が51例となっているのは、【表8】の評価例数を誤記したことによるものであり、その原因は不明である。【表8】を改めて再解析して有意差検討をしても、100単位投与群は5単位投与 群に比べ骨折発生は有意に低い。 また、【表6】(【0087】)で高リスク者における新規椎体骨折の状況において5単位投与群の骨折例数が13人となっているのに対し、【表8】で、高リスク者における26週毎の新規椎体骨折の状況について、5単位投与群が18人となっているのは、【表8】の5単位投与群では評価区間ご との骨折発生数を集計している一方、【表6】では、全期間を通じて骨折が 発生した症例数を集計している(複数の期間で骨折が発生した患者でも1例としてカウントされる。)ことによる。 オ 【表3】(【0081】)の低リスク者の例数は、5単位投与群で10例、100単位投与群で11例となっているのに対して、【表9】(【0091】)の低リスク者における26週毎の新規椎体骨折の状況において、5単位投 与群が21例、100単位投与群が12例となっているのは、【表9】の評価例数を誤記したことによるものであり、その原 091】)の低リスク者における26週毎の新規椎体骨折の状況において、5単位投 与群が21例、100単位投与群が12例となっているのは、【表9】の評価例数を誤記したことによるものであり、その原因は不明である。【表9】を改めて再解析(下記)して有意差検定をしても、群間に差は認められない。 カ高リスク者における椎体以外の部位の骨折の状況(【0093】、【表10】)について、評価例数は、5単位投与群が64例、100単位投与群が52例であり、【表2】の全患者と同数である。 2 取消事由1(甲7発明に基づく進歩性判断の誤り)の有無について ⑴ 甲7発明甲7文献には、別紙2「甲7文献の記載事項(抜粋)」のとおりの記載がある(訳は乙2による。)。この記載によると、本件審決が認定するとおりの甲 7発明を認定することができ、この点は、当事者間にも争いがない。 なお、甲7発明の「厚生省による委員会が提唱した診断基準」とは、甲8診断基準と認められる。 前記1⑴のとおり、本件明細書には、本件発明が、従来の骨粗鬆症薬であるPTHについて、安全性が高くかつ効能・効果の面で優れた骨粗鬆症治療 ないし予防方法を提供すること及び安全性の高い骨折抑制ないし予防方法を提供することを課題とすること(【0012】)、骨粗鬆症における骨折の危険因子を多く持つ骨粗鬆症患者に対して本件発明の骨粗鬆症治療剤ないし予防剤を投与することが望ましいこと及び骨粗鬆症における骨折の危険因子としては、年齢、性、低骨密度、骨折既往、喫煙、アルコール飲酒、ステロイド 使用、骨折家族歴、運動、転倒に関連する因子、骨代謝マーカー、体重、カルシウム摂取等が挙げられることが記載され、その上で、本件3条 齢、性、低骨密度、骨折既往、喫煙、アルコール飲酒、ステロイド 使用、骨折家族歴、運動、転倒に関連する因子、骨代謝マーカー、体重、カルシウム摂取等が挙げられることが記載され、その上で、本件3条件を全て満たす骨粗鬆症患者を「高リスク患者」として定義することが記載されている(【0068】)。そして、実施例1においては、本件3条件の全てを満たす高リスク患者について、PTHの週1回100単位投与群は、同5単位投与 群に比べ、有意に高い骨密度の増加、有意に低い新規椎体骨折発生及び有意に低い椎体以外の骨折発生が認められたこと、実施例2においては、本件3条件の全てを満たす高リスク患者について、PTHの週1回200単位投与群は、対照薬(プラセボ)投与群に比べ、新規椎体多発骨折及び増悪骨折の抑制効果が認められたことが記載されている。 そうすると、本件3条件は、骨折の危険性の高まった骨粗鬆症において、骨折の危険因子を多く持つ骨粗鬆症患者に対して治療剤ないし予防剤を投与することが望ましいとの認識の下、当該危険因子を多く持つ骨粗鬆症患者を特定する条件として設定されたものというべきである。本件審決は、甲7発明と本件発明1の相違点として、本件発明が投与対象患者を3条件充足患者 とし、用途を骨折抑制のためとしている相違点Bを認定するが、骨折発生の 危険性が高い患者群に着目することと、骨折の抑制をすることとは独立に論ずることができ、かつ、両者が相反するものではない。したがって、相違点Bの本件3条件と骨折抑制用途とはそれぞれに個別にその容易想到性を論ずることのできるものというべきである。 以下、この観点に従って、それぞれの容易想到性を論ずることとする。 ⑵ 相違点Bの構成の容易想到性について ぞれに個別にその容易想到性を論ずることのできるものというべきである。 以下、この観点に従って、それぞれの容易想到性を論ずることとする。 ⑵ 相違点Bの構成の容易想到性について本件においては、本件特許の特許要件判断基準時について当事者間に争いがあるが(取消事由2及び取消事由5においては明示的な主張がある。)、この点をいったん措いて、まずは、より早い被告主張の2009年9月9日を基準にして、検討することにする。 ア 2009年9月9日における骨粗鬆症に関する技術常識について 下記文献には、以下に引用する記載がある。 a 「退行期骨粗鬆症の診断」(1990年。甲8)① 「本症の発生頻度は加齢とともに増加するので、本症は骨の生理的加齢現象にすぎないと考える人もあるが、そうではない。加齢に 伴い、生理的にも骨のなかの蛋白およびCa、Pが減少するが、このような骨の生理的加齢を基盤に、さまざまな要因が加わって発症し、腰背痛や、病的骨折を伴うものを骨粗鬆症とよぶべきである。」(288頁左欄13ないし18行目)② 「骨粗鬆症の骨病変は通常胸椎および腰椎に認められるので、退 行期骨粗鬆症の診断にさいしてまず必要なことは、胸椎および腰椎の側面X線写真撮影を行うことである。ついでこの胸椎および腰椎の側面X線写真を用いて骨密度の減少あるいは圧迫骨折の有無をチェックする。・・・胸椎・腰椎の骨密度の減少を判定する方法としては慈恵大の方式が一般に用いられている。 骨粗鬆症ではまず椎体の密度が減少するために椎体のX線透過度 が増大し、ついで縦の骨梁がめだつようになり、さらに進行すると上下面が陥没し・・・ついには椎体が 骨粗鬆症ではまず椎体の密度が減少するために椎体のX線透過度 が増大し、ついで縦の骨梁がめだつようになり、さらに進行すると上下面が陥没し・・・ついには椎体がくずれて圧迫骨折の像を呈するに至る。慈恵大方式では、このような骨X線像をもとにして骨粗鬆症の程度をI~Ⅲ度に分類している。・・・最近、厚生省骨粗鬆症研究班では、これをより簡略化したものとして表2に示すような骨 萎縮度の基準を提唱しており、今後はこの方法が広く用いられることが期待される。」(288頁右欄7行ないし289頁左欄17行目)③ 「表2 骨萎縮度の基準Ⅰ度縦の骨梁がめだち、また椎体終板もめだつ。 Ⅱ度縦の骨梁が粗となり、また椎体終板も淡くなる。 Ⅲ度縦の骨梁が不明瞭となり、全体としてぼやけた感じを示す。 」(289頁)④ 「1988年度から、厚生省シルバーサイエンスプロジェクトと して「老人性骨粗鬆症の予防および治療法に関する総合的研究班」(班長:【A】)が結成されたが、この研究班ではこのような立場から本症において認められる自・他覚所見をスコア化し、そのスコアに応じて、①確実、②ほぼ確実、③疑いあり、④否定的、の4つに分類する診断基準を提唱している(表3)」(290頁左欄20ない し26行目)⑤ 「表3 退行期骨粗鬆症の診断基準点数1) 骨量の減少(+) 3確実合計5点以上 2) 骨折あり脊椎1個 1≧2個 2ほぼ確実合計4点 大腿骨頸部部 3橈骨 1疑い あり脊椎1個 1≧2個 2ほぼ確実合計4点 大腿骨頸部部 3橈骨 1疑いあり合計3点 3) 年齢女性55歳未満 -1男性75歳未満 -1 4) 腰背痛あり 1 否定的合計2点以下 除外疾患…5) 血清カルシウム、リン、AL-P値正常 11項目の異常 02項目以上の異常 -1 ・・・」(289頁。この「表3 退行期骨粗鬆症の診断基準」が甲8診断基準である。)b 「原発性骨粗鬆症の診断基準(1996年度改訂版)」(1997年。甲5)「表4 原発性骨粗鬆症の診断基準(1996年度改訂版) Ⅰ X線上椎体骨折を認める場合低骨量(骨萎縮度Ⅰ度以上、あるいは骨密度値が若年成人平均値(YAM)の80%以下)で非外傷性椎体骨折のある症例を骨粗鬆症とする。 Ⅱ X線上椎体骨折を認めない場合 脊椎X線像骨密度値正常骨萎縮なし 骨量減少骨萎縮度Ⅰ度YAMの80~70% 骨粗鬆症骨萎縮度Ⅱ度以上YAMの70%未満YAM:若年成人平均値(20~44歳)(注)骨密度値は原則として腰椎の骨密度値とし、腰椎骨密度値の評価が困難である場合にのみ橈骨、第二中手骨、大腿骨頸部、踵骨の骨密度値を用いる。 骨萎縮とはradiographicosteopenia に相当する。 ・・・」(223頁。この「表4 原発性骨粗鬆症の診断基準(1996年度改訂 部、踵骨の骨密度値を用いる。 骨萎縮とはradiographicosteopenia に相当する。 ・・・」(223頁。この「表4 原発性骨粗鬆症の診断基準(1996年度改訂版)」が甲5診断基準である。)c 「原発性骨粗鬆症の診断基準(2000年度改訂版)」(2001年。甲9)「表3 原発性骨粗鬆症の診断基準(2000年改訂案) 低骨量をきたす骨粗鬆症以外の疾患または続発性骨粗鬆症を認めず、骨評価の結果が下記の条件を満たす場合、原発性骨粗鬆症と診断する。 Ⅰ 脆弱性骨折(注1)ありⅡ 脆弱性骨折なし 骨密度値(注2)脊椎X線像での骨粗鬆症化(注3)正常YAMの80%以上なし骨量減少YAMの70%以上 ~80%未満疑いあり骨粗鬆症YAMの70%未満ありYAM:若年成人平均値(20~44 歳)注1 脆弱性骨折:低骨量(骨密度がYAMの80%未満、あるいは脊椎X線像で骨粗鬆化がある場合)が原因で、軽微な外力によって発生した非外傷性骨折、骨折部位は脊椎、大腿骨頸部、橈骨遠位端、その他。 注2 骨密度は原則として腰椎骨密度とする。…注3 脊椎X線像での骨粗鬆化の評価は、従来の骨萎縮度判定基準を参考にして行う。 脊椎エックス線像での骨粗鬆化従来の骨萎縮度判定基準なし疑いありあり骨萎縮なし骨萎縮度Ⅰ度骨萎縮度Ⅱ度以上」(78頁。表題に「改訂案」とあるが「改訂版」の誤記と認める。 この「表3 原発性骨粗鬆症の診断基準(2000年改訂案)」が甲9診断基準である。)d 「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン 2006年版」(2006年。 甲 「改訂版」の誤記と認める。 この「表3 原発性骨粗鬆症の診断基準(2000年改訂案)」が甲9診断基準である。)d 「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン 2006年版」(2006年。 甲10、10の1、10の2) ① 「NIHコンセンサス会議では、骨粗鬆症の定義を「骨強度の低下を特徴とし、骨折のリスクが増大しやすくなる骨格疾患・・・」に修正した。さらに、「骨強度」は骨密度と骨質の二つの要因からなり、BMDは骨強度のほぼ70%を説明するとした。残りの30%の説明要因を“骨質”という用語に集約し、その内容には、構造、 骨代謝回転、微細損傷の集積、骨組織のミネラル化などをあげた」(甲10の1の2頁右欄27ないし36行目)② 「骨粗鬆症は年齢とともに有病者が増加する疾患であるが、総人口に占める65歳以上の高齢者の割合である高齢化率をみてみると、平成17年の報告では19.5%であり、年々増加し続けてい る。」(甲10の4頁右欄11ないし14行目)③ 「骨量測定方法の進歩と普及を背景に、1991年の国際骨粗鬆症会議において、骨粗鬆症は低骨量と骨組織の微細構造の破綻によ って特徴づけられる疾患であり、骨の脆弱性亢進と骨折危険率の増大に結びつく疾患と定義された。この定義に従った診断基準がわが国でも整備され、1996年の日本骨代謝学会診断基準をもとに、2000年に改訂版が作成されて今日に至っている(表21)。」(甲10の1の31頁左欄3ないし10行目) ④ 「Ⅲ 骨粗鬆症による骨折の危険因子・・・骨折の危険因子は、「骨密度低下」「骨質低下」「外力(転倒など)」に影響を与える因子である。骨折高リスク患者を ④ 「Ⅲ 骨粗鬆症による骨折の危険因子・・・骨折の危険因子は、「骨密度低下」「骨質低下」「外力(転倒など)」に影響を与える因子である。骨折高リスク患者を判定するには、骨密度測定に加えて、「骨質」「外力」に関連する危険因子を評価する 必要があり、骨密度とは独立した骨折危険因子が何であるかを知っておくことがポイントとなる。 年齢、性・・・女性、高齢は骨粗鬆症による骨折の重要な危険因子である。年齢は骨密度とは独立した骨折危険因子で、同じ骨密度 を示していても年齢が高いほど骨折リスクは高い・・・低骨密度低骨密度は骨折を強く予測する。・・・骨折既往男女とも部位にかかわらず既存骨折があると将来の骨折リス クは約2倍になる・・・喫煙・・・アルコール飲酒・・・ ・・・」(甲10の1の34頁)。 ⑤ 「表22 骨折の危険因子(メタアナリシス、システマティック・レビューによる結果〔エビデンスレベルⅠ〕のみ表示)危険因子文献成績低骨密度……骨密度とは独立した危険因子既存骨折*……喫煙*……飲酒*………………………・・・」(甲10の1の35頁)⑥ 「まとめ現在、骨粗鬆症治療開始は骨密度を基準に行われているが、同じ 骨密度を示していても年齢が高いほど、表22の危険因子*をもつほ (甲10の1の35頁)⑥ 「まとめ現在、骨粗鬆症治療開始は骨密度を基準に行われているが、同じ 骨密度を示していても年齢が高いほど、表22の危険因子*をもつほど、骨折リスクは高くなる。骨密度、年齢、危険因子を総合的に考慮に入れることで、骨折リスクの高い人をより効果的に判別できる。」(甲10の1の35頁右欄1ないし7行目)⑦ 「骨粗鬆症治療の目的は骨折危険性を抑制し、生活の質(QOL) の維持と改善をはかることである。」(甲10の1の50頁左欄1ないし2行目)⑧ 「骨強度は骨密度と骨質により規定され、骨強度の約70%は骨密度に依存する。したがって、骨密度低下は、骨粗鬆症における骨折危険性増加の中心的要因である。さらに、近年、骨密度低下以外 に骨折の危険性を高める要因が多数存在することが明らかになってきた。アメリカ骨粗鬆症財団(NOF)、WHOグループ、カナダガイドラインなどで取り上げられている危険因子の項目は、それぞ れ、少しずつ異なる。共通して取り上げられている要因としては、女性、エストロゲン欠乏(閉経)、年齢(65歳以上)、低体重(57.8kg未満)、骨折の既往、母親の大腿骨骨折の既往、喫煙習慣、過剰なアルコール摂取、運動性低下である。」(甲10の1の50頁左欄9ないし20行目) ⑨ 「WHOでは、低骨密度以外に、既存骨折、喫煙、アルコール多飲(1日2単位以上:日本酒2合にほぼ相当)、両親の大腿骨頸部骨折の既往、高齢、関節リウマチ、ステロイド剤の使用など七つを臨床的骨折危険因子としてメタアナリシスにより確認した。・・・年齢については、他の七つの骨折危険因子による骨折危険性を増加させ る要因であるとしてい 関節リウマチ、ステロイド剤の使用など七つを臨床的骨折危険因子としてメタアナリシスにより確認した。・・・年齢については、他の七つの骨折危険因子による骨折危険性を増加させ る要因であるとしている。 さらに、WHOでは地域や国ごとの一般人口における骨折発生率を相対危険度1の状態の骨折危険率とし、その危険率に低骨密度とそのほかの七つの臨床的骨折危険因子の相対危険度の総和を乗じて得られる絶対骨折危険率を、薬物治療の開始基準として利用する ことを提唱している。・・・確かに、今後は、わが国でも「絶対骨折危険率」を治療開始の判断に取り入れていく必要があるとは思われる。しかし、現状では低骨密度、既存骨折、年齢に関してのエビデンスはあるが、その他の臨床的な骨折危険因子については、相対危険度と、それらの年齢との関連性などのデータは、まだ十分ではな い」(甲10の1の51頁右欄6ないし31行目) 前記の各記載によると、本件基準日当時の骨粗鬆症に関する技術常識は、次のとおりである。 すなわち、①骨粗鬆症は、骨強度の低下を特徴とし、骨折の危険性が増大した骨疾患であり、その治療の目的は、骨折を予防し、QOL(qu alityoflife)の維持改善を図ることである、②骨粗鬆症は、加齢とと もに発生が増加する、③骨粗鬆症による骨折の複数の危険因子の中で、わが国では、低骨密度、既存骨折、年齢に関するエビデンスがある、④骨粗鬆症の診断基準に関して、1990年当時、厚生省シルバーサイエンスプロジェクト「老人性骨粗鬆症の予防および治療に関する総合的研究班」により提唱された診断基準(甲8診断基準)があったが、199 6年に診断基準が改訂され(甲5診断基準)、その後、2000 エンスプロジェクト「老人性骨粗鬆症の予防および治療に関する総合的研究班」により提唱された診断基準(甲8診断基準)があったが、199 6年に診断基準が改訂され(甲5診断基準)、その後、2000年に更に改訂された(甲9診断基準)、⑤骨強度は骨密度と骨質の2つの要因からなり、骨密度が骨強度のほぼ70%を、骨質が残りの30%を説明することが知られていたといえる。 イ本件3条件について 甲7発明と本件発明1とは、「1回当たり200単位のPTH(1-34)又はその塩が週1回投与されることを特徴とする」との用量の点において一致するが、その投与の対象となる骨粗鬆症患者の範囲を一応異にする。 甲7発明で投与対象とされた患者は、前記⑴のとおり、甲8診断基準 で骨粗鬆症と診断された患者であるところ、より新しい基準を参酌しながらその患者を選別することは、当業者がごく普通に行うことであるから、甲7発明に接した当業者が、甲7発明のPTH200単位週1回投与の骨粗鬆症治療剤を投与する対象患者を選択するのであれば、甲8診断基準とともに、より新しい、甲5診断基準又は甲9診断基準を参酌す るといえる。 そして、前記アb及びcのとおり、甲5診断基準で骨粗鬆症と診断される者は、①骨萎縮度I度以上又は骨密度値がYAMの80%以下の低骨量で非外傷性椎体骨折を有する者か、②X線上椎体骨折を認めないが、骨萎縮度Ⅱ度以上、又は、骨密度値がYAMの70%未満である者 であり、甲9診断基準で骨粗鬆症と診断される者は、③骨萎縮度Ⅱ度以 上又は骨密度がYAMの80%未満の低骨量が原因で、軽微な外力による非外傷性骨折等(脆弱性骨折)を有する者か、④脆弱性骨折がないものの、骨萎縮度Ⅱ度以 者は、③骨萎縮度Ⅱ度以 上又は骨密度がYAMの80%未満の低骨量が原因で、軽微な外力による非外傷性骨折等(脆弱性骨折)を有する者か、④脆弱性骨折がないものの、骨萎縮度Ⅱ度以上、又は、骨密度値がYAMの70%未満の者である。 本件条件(2)及び本件条件(3)は、上記①と同じであるから(「既 存の骨折」は「非外傷性椎体骨折」を含む。)、当業者が甲7発明の200単位週1回投与の骨粗鬆症治療剤を投与する骨粗鬆症患者を本件条件(2)及び本件条件(3)で選別するのには何ら困難を要しない。 また、前記アのとおり、骨粗鬆症は、加齢とともに発生が増加するとの技術常識があり、高齢者は加齢を重ねた者であるのは明らかである ところ、高齢者として65歳以上の者を選択するのは常識的なことであり、前記アc⑨のとおり、アメリカ骨粗鬆症財団、WHOグループ、カナダガイドライン等で取り上げられている骨折の危険因子の項目のうち、共通して取り上げられている要因として、65歳以上という年齢があり、高齢者の医療の確保に関する法律32条でも65歳以上が高齢者 とされている。したがって、これらを参酌し、骨粗鬆症による骨折の複数の危険因子として、低骨密度及び既存骨折に並んで年齢が掲げられていることに着目して投与する骨粗鬆症患者を65歳以上として、本件条件(2)及び本件条件(3)に加えて本件条件(1)のように設定することはごく自然な選択であって、何ら困難を要しない。 そうすると、甲7発明に接した当業者が、投与対象患者を本件3条件を全て満たす患者と特定することは、当業者に格別の困難を要することではない。 ウ 「骨折の抑制のための」ものとすることについて前記アのとおり、骨粗鬆 、投与対象患者を本件3条件を全て満たす患者と特定することは、当業者に格別の困難を要することではない。 ウ 「骨折の抑制のための」ものとすることについて前記アのとおり、骨粗鬆症は、骨強度の低下を特徴とし、骨折の危険 性が増大した骨疾患であり、骨粗鬆症の治療の目的は骨折を予防すること であり、「骨強度」は骨密度と骨質の2つの要因からなり、骨密度は骨強度のほぼ70%を説明するとの技術常識があったのであるから、当業者は、骨密度の増加は骨折の予防に寄与すると理解するというべきである。 そうすると、甲7文献には、「ここに挙げた薬剤を投与することによって骨密度(BMD)が増加するため、骨折予防は飛躍的に進歩した」(2 96頁右欄10行ないし297頁左欄25行目)と骨密度の増加が骨折予防に寄与することが記載され、その上で、48週で骨密度を8.1%増大させたことが開示されているのであるから(300頁左欄11行ないし右欄6行目)、甲7発明の骨粗鬆症治療剤を骨折抑制のためのものとすることは、当業者が容易に想到できたものである。 エ相違点Bについて前記イ及びウのとおり、甲7発明の骨粗鬆症治療剤を投与対象患者を本件3条件を全て満たす骨粗鬆症患者とすること、及び甲7発明の骨粗鬆症治療剤を骨折抑制のためのものとすることはいずれも容易であるところ、骨折の危険因子を多く持つ骨粗鬆症患者に骨折抑制のために骨粗鬆症治 療剤を投与しようとすることは当然のことであるから、上記各改変は同時に行うことができ、結局、相違点Bに係る本件発明1の構成は、被告主張の基準日においても容易に想到できるというべきである。 オ被告の主張について 「骨折抑制のため」について 同時に行うことができ、結局、相違点Bに係る本件発明1の構成は、被告主張の基準日においても容易に想到できるというべきである。 オ被告の主張について 「骨折抑制のため」について a 被告は、前記第3の1⑵アaのとおり、骨折抑制効果を骨密度の数値だけで完全に代用することはできないから、甲7発明の骨粗鬆症治療剤によって腰椎BMDの増加が生じたからといって、プラセボ等との対比試験を行っていない甲7発明から骨折抑制効果を予測することはできない旨主張する。 この点、平成11年4月15日医薬審第742号厚生省医薬安全局 審査管理課長通知「骨粗鬆症用薬の臨床評価方法に関するガイドラインについて」(甲39)には、①臨床試験は、非臨床試験で得られた情報をもとに、比較的限定された数の健康人志願者を対象とし、治験薬のヒトにおける安全性の確認に重点が置かれる第Ⅰ相試験、骨粗鬆症患者を対象として、治験薬の有効性、相対的な安全性、用法・用量反 応性、骨粗鬆症のタイプや病気による効果の違い等を探索的に検討することを目的とする前期第Ⅱ相試験、骨粗鬆症患者を対象として用量反応関係を明らかにし、第Ⅲ相比較試験のための用法・用量決定することを目的とする後期第Ⅱ相試験、有効性と安全性の確認、適応疾患における用法・用量の確認、副作用の確認と回復の状況等を調べて、 当該治験薬が実際に臨床使用されたときの効果を検討することを目的とする第Ⅲ相試験に分かれること、②第Ⅲ相の比較対象試験では、治験方法として、無作為化二重盲検比較法で標準薬又はプラセボと比較して、治験薬の臨床的有効性と安全性の評価を行うこと(2260頁)、③骨粗鬆症薬の薬効評価には、評価指標(エンドポイント)としては 験方法として、無作為化二重盲検比較法で標準薬又はプラセボと比較して、治験薬の臨床的有効性と安全性の評価を行うこと(2260頁)、③骨粗鬆症薬の薬効評価には、評価指標(エンドポイント)としては 骨強度の変化を追跡するのが望ましいが、ヒトで骨強度を測定するのは現時点では困難なので、それに代わる指標として、骨粗鬆症に伴う骨折に対する効果を示すのが必要であること、薬効を評価するのに、現在の評価手段では1年間の観察では不十分であり、通常、少なくとも3年間を要するものと思われること(2259ないし2260頁) が記載されている。そして、甲7発明は、後期第Ⅱ相試験の結果を報告するものである。 しかしながら、「代替エンドポイントの評価」(平成21年6月。乙14)には、「FDAは骨密度を代替エンドポイントとした試験結果をもって薬剤を承認する方針を変更し、第Ⅲ相試験においては、真のエ ンドポイントである骨折を評価項目とした臨床試験を求めるようにな った(・・・)。ただし、骨密度は代替エンドポイントとして日米欧の規制当局からは認められており、新薬の承認申請の際には、骨密度を代替エンドポイントとして第Ⅱ相試験を行い用量反応性を検討し、第Ⅲ相試験においては真のエンドポイントである骨折を評価項目としてプラセボまたは実薬対照試験を行うのが一般的となっている。」(16 頁)との記載があり、上記「骨粗鬆症用薬の臨床評価方法に関するガイドラインについて」にも、後記第Ⅱ相試験の評価指標(エンドポイント)について、「本来、有効性の証明には骨強度の変化や骨折率を見ることが望ましいが、長期間を要するので、骨量の変化を見ることで代用される。」と記載されている(2258頁)。 これらの点に鑑み 本来、有効性の証明には骨強度の変化や骨折率を見ることが望ましいが、長期間を要するので、骨量の変化を見ることで代用される。」と記載されている(2258頁)。 これらの点に鑑みれば、骨密度の増加が骨折抑制に寄与することを当然の前提として、医薬品として承認を得るためにはプラセボとの対比試験で骨折抑制効果を確認することが必要とされていたにとどまるものと認められ、プラセボとの対比試験で骨折抑制効果を確認しなければ骨密度の増加から骨折抑制効果が予測できないとはいえない。 したがって、被告の上記主張は、採用することができない。 b また、被告は、前記第3の1⑵アa⒝のとおり、甲7文献には、骨密度の増加が異なる各群間において、椎体骨折数について「各群間の差は有意でなかった」との記載がある旨主張する。 しかしながら、骨密度の増加と骨折抑制の効果が連動しない例がな いわけではないとしても、前記ウのとおり、当業者は骨密度の増加は骨折の予防に寄与すると理解する以上、当業者は、骨密度が増加すれば骨折抑制の効果が生じると理解するものといえる。また、甲7文献には、椎体骨折数について、L群(50単位投与群)、M群(100単位投与群)及びH群(200単位投与群)との間で有意な差は生じな かったとの記載があるが、それは各群間相互との関係において有意差 がなかったというだけで、200単位投与に骨折抑制効果の見込みがないことを示唆するものではない。 したがって、被告の上記主張は、採用することができない。 c 次に、被告は、前記第3の1⑵アa⒞のとおり、甲7発明における200単位投与群には、副作用が多発しており、200単位は副作 用脱落 、被告の上記主張は、採用することができない。 c 次に、被告は、前記第3の1⑵アa⒞のとおり、甲7発明における200単位投与群には、副作用が多発しており、200単位は副作 用脱落率が高い用量と認識されているところ、本件3条件は、層別解析により初めて、本件条件(1)ないし本件条件(3)を組み合わせるとPTHの骨折抑制効果が高いという新規な知見を得たことに基づくものであり、これにより初めてリスクに見合うベネフィットが得られるようになった旨主張する。 確かに、別紙2のとおり、甲7文献には、PTH200単位週1回投与のH群の副作用発生率は42%であり、72人のうち16人(約22%)が副作用により脱落していて、副作用発生率及び副作用による脱落率は、50単位を投与したL群(副作用発生率19%)及び100単位を投与したM群(副作用発生率19%)のいずれと比べても 高いことが記載されており(表6)、骨粗鬆症の治療は長期間にわたるため、臨床使用において患者の症状や治療継続意思に直接に影響する副作用が起こることは望ましくはないから(甲46、48-1及び2、乙50)、甲7文献の上記記載に接した当業者は、この点に限っていえば、200単位の投与よりも100単位の投与の方がより適当である と認識することが考えられる。 しかしながら、他方、甲7文献には、重篤な有害事象は認められないと記載されており(301頁左欄1行ないし右欄4行目)、さらに、200単位の投与が腰椎骨密度を48週間後に8.1%増加させたこと、及び、その増加の程度は、100単位投与の3.6%、及び、50 単位投与の0.6%のいずれよりも高いことが記載され、PTHは腰椎 骨密度を48週という比較的短期間で と、及び、その増加の程度は、100単位投与の3.6%、及び、50 単位投与の0.6%のいずれよりも高いことが記載され、PTHは腰椎 骨密度を48週という比較的短期間で用量に依存して増加させる極めて有望なものと評価されている(300頁左欄11行ないし右欄6行目、301頁右欄5行ないし303頁右欄23行目。有望とされた対象から200単位の投与のみが排除されているとは理解し難い。)。そして、前記アのとおり、骨粗鬆症の治療の目的は骨折を予防するこ とであるところ、骨密度が低いことは、既存骨折、年齢とともに、わが国でエビデンスがある骨折危険因子であり、骨密度は骨強度のほぼ70%を説明するとの技術常識がある。 以上によれば、甲7文献に接した当業者は、200単位週1回投与と100単位週1回投与とを対比した場合に、副作用の面と効果の面 を総合考慮して、いずれを選択するか判断するものと考えられ、200単位週1回投与がその選択が排除されるほど劣位したものと見られるとはいえず、これを選択することもまた十分に動機付けられているというべきである。 そして、前記アにおいて判示したように、被告主張の基準日当時 における技術常識に照らせば、甲7発明に接した当業者が投与対象患者を本件3条件を全て満たす患者とすることに格別の困難はない。また、本件3条件の組合せについても、客観的観点からその選択において格別なものである、あるいは、他の骨折リスク因子等も含めた様々な組合せが想定される中で本件3条件を組み合わせること自体に特別 の意味合いがあると認めるに足りる証拠はない(被告が主張する層別解析は、後述するように、あくまで本件3条件の全てを満たす患者(高リスク患者)のグループと、本件3条 組み合わせること自体に特別 の意味合いがあると認めるに足りる証拠はない(被告が主張する層別解析は、後述するように、あくまで本件3条件の全てを満たす患者(高リスク患者)のグループと、本件3条件の全部又は一部を満たさない患者(低リスク患者)のグループのうちごく一部のグループとを比較するものにすぎず、また、その結果自体も被告主張の顕著な効果が認 められると即断できるものではない。)。 そうすると、被告が主張する甲7発明の骨粗鬆症治療剤の副作用や本件3条件を選択することによる骨折抑制効果という観点から改めて検討しても、前記イないしエの認定判断が左右されるものではない。 したがって、被告の上記主張は、採用することができない。 d そのほか被告がるる主張するところも、前記イないしエの判断を左 右するものではない。 本件3条件について被告は、前記第3の1⑵b⒝ないし⒟のとおり、①その主張する基準日当時に甲5診断基準を適用する理由はないし、甲5診断基準で骨粗鬆症と診断される者であっても本件条件(2)及び本件条件(3)を選 択する動機付けはない、②副作用リスクのあるPTH200単位を一般に体力の劣る65歳以上の高齢者に使用するには特段の事情が必要となり、本件条件(1)を選択する動機付けがない、③甲7文献には、「年齢」、「既存の骨折」の観点を含めたサブグループ化をしても効果に差が出ないことが記載され、本件3条件の組合せは動機付けられない旨主張する。 前記イのとおり、甲5診断基準は、椎体骨折の有無に分けて、骨萎縮度と骨密度の数値を変えているところ、前記アのとおり骨粗鬆症が骨折の危険性が増大した骨疾患であることに鑑み る。 前記イのとおり、甲5診断基準は、椎体骨折の有無に分けて、骨萎縮度と骨密度の数値を変えているところ、前記アのとおり骨粗鬆症が骨折の危険性が増大した骨疾患であることに鑑みると、このうち、既存骨折がある場合の診断基準を選択することは当業者において適宜選択し得ることであるし、いずれの診断基準を用いても診断基準を満たす者は骨 粗鬆症と診断されるのであるから、どれを診断基準として選ぶかは当業者が任意に選択することにすぎない。また、単に高齢者が一般に若年者と比較すれば体力が劣る者であるからといって、前記アのとおり、加齢とともに発生が増加することから、高齢者こそ必要とする骨粗鬆症の治療剤をその高齢者に対して適用することを断念するとは考え難い。 そして、確かに甲7文献には、別紙2のとおり、「年齢が64歳以下と 65歳以上、体重が49㎏以下と50㎏以上、閉経後10年未満、10から20年、20年以上、および脊椎骨折が0、1および2箇所以上を有するサブグループに被験者を分類して比較したところ、サブグループ間で薬物に対する応答は同程度であった。」との記載があることは認められるものの(300頁左欄11行ないし右欄6行目)、当該記載は、上 記記載中の条件によってサブグループ化されたサブグループ間の薬物効果の比較について述べているにすぎず、当該記載により、甲7発明の投与対象患者をサブグループ化すること全般が阻害されるとはいえない。 したがって、被告の上記主張は、いずれも採用することができず、そ のほか被告がるる主張するところも、前記イないしエの判断を左右するものではない。 ⑶ 発明の効果についてア予測できない顕著な効果について発明の効 ることができず、そ のほか被告がるる主張するところも、前記イないしエの判断を左右するものではない。 ⑶ 発明の効果についてア予測できない顕著な効果について発明の効果が予測できない顕著なものであるかについては、当該発明の 特許要件判断の基準日当時、当該発明の構成が奏するものとして当業者が予測することのできなかったものか否か、当該構成から当業者が予測することのできた範囲の効果を超える顕著なものであるか否かという観点から検討する必要がある(最高裁判所平成30年(行ヒ)第69号令和元年8月27日第三小法廷判決・集民262号51頁参照)。もっとも、当該発 明の構成のみから、予測できない顕著な効果が認められるか否かを判断することは困難であるから、当該発明の構成に近い構成を有するものとして選択された引用発明の奏する効果や技術水準において達成されていた同種の効果を参酌することは許されると解される。なお、予測できない顕著な効果の立証責任は特許権者にあるから、当該発明の構成から奏する効果 が不明であるからといって、直ちに予測できない顕著な効果があるとする ことはできない。 イ本件発明の効果について 被告の主張する予測できない顕著な効果について前示のとおり、相違点Bの構成は容易想到であるが、これに対し、被告は、前記第3の1⑵イのとおり、本件発明1は、1回当たり200 単位のPTHを3条件充足患者に投与することで、高い骨折抑制効果が達成されること(以下「効果A」という。)を、当業者が予測をすることができなかった顕著な効果である旨主張するから、以下、この効果について検討する。 本件発明における予測できない顕著な効果について 下「効果A」という。)を、当業者が予測をすることができなかった顕著な効果である旨主張するから、以下、この効果について検討する。 本件発明における予測できない顕著な効果について まず、被告は、発明の効果が予測できない顕著なものであるか否かを当該発明の構成に基づいて判断すべきであるとすると、本件においては、本件発明1の構成である3条件充足患者に対して奏される骨折抑制効果について検討すればよく、3条件充足患者に対する骨折抑制効果と非3条件充足患者に対する骨折抑制効果とを対比する必要はなく、本件明細 書に記載されている必要もない旨主張する。 しかしながら、本件発明1は、被告主張の基準日当時においてはPTHが骨粗鬆症治療剤として周知であるとの前提の下に、PTH投与群の中で特に優れた効果を奏する患者群に投与することに進歩性を見出したとするものであるから、本件3条件の全てを満たす患者について骨折抑 制効果を確認するためには、高リスク患者に対する骨折抑制効果と低リスク患者(高リスク患者以外の患者)に対する骨折抑制効果とを対比する必要がある。単に本件発明の骨粗鬆症治療剤を投与された高リスク患者とプラセボ投与患者を対比して上記高リスク患者に対する骨折抑制効果があることを示しただけでは、それはPTH投与群に含まれる一群が プラセボ投与群に対して骨折抑制効果が優れることを示しただけであり、 高リスク患者群がそれ以外の患者群に比較して、PTH投与群の中で特に効果を奏する患者群であることを明らかにしたことにはならず、PTH投与群の骨折抑制効果を確認したことになるにすぎない。 したがって、被告の上記主張を採用することはできない。 ウ効果Aについて ることを明らかにしたことにはならず、PTH投与群の骨折抑制効果を確認したことになるにすぎない。 したがって、被告の上記主張を採用することはできない。 ウ効果Aについて 前記⑵アのとおり、骨粗鬆症は、骨強度の低下を特徴とし、骨折の危険性が増大した骨疾患であり、骨粗鬆症の治療の目的は骨折を予防することであり、「骨強度」は骨密度と骨質の2つの要因からなり、骨密度は骨強度のほぼ70%を説明するとの技術常識があったから、当業者は、骨密度の増加は、骨折の予防に寄与すると理解するところ、 甲7文献には、「ここに挙げた薬剤を投与することによって骨密度(BMD)が増加するため、骨折予防は飛躍的に進歩した」(296頁右欄10行ないし297頁左欄25行目)と骨密度の増加が骨折予防に寄与することが記載され、その上で、48週で骨密度を8.1%増大させたことが開示されている(300頁左欄11行ないし右欄6行目)。そ うすると、甲7発明の骨粗鬆症治療剤が骨折を抑制する効果を奏していることは、当業者において容易に理解できる。 効果Aの骨折抑制効果の指標は、単なる骨折発生率の低減ではなく、プラセボ投与群の骨折発生率と対比した場合の骨折発生率の低下割合を指すものとされているが、効果Aを確認するためには、前記イの とおり、高リスク患者に対する骨折抑制効果と低リスク患者に対する骨折抑制効果とを対比する必要があり、単に高リスク患者とプラセボを対比して高リスク患者に対する骨折抑制効果を示しただけでは、高リスク患者がPTH投与群の中で特に効果を奏する患者群であることを明らかにしたことにはならないところ、 本件明細書の記載からでは、 本件3条件の全てを満たす患者と定義付けられる高リスク患者に リスク患者がPTH投与群の中で特に効果を奏する患者群であることを明らかにしたことにはならないところ、 本件明細書の記載からでは、 本件3条件の全てを満たす患者と定義付けられる高リスク患者に対す る骨折抑制効果が、本件3条件の全部又は一部を欠く者と定義付けられる低リスク患者に対する骨折抑制効果よりも高いということを理解することはできない。 すなわち、本件明細書を見ると、実施例1において、高リスク患者では、100単位週1回投与群における新規椎体骨折の発生率は、い ずれも実質的なプラセボである5単位週1回投与群における発生率に対して有意差が認められるが、低リスク患者では、100単位週1回投与群における新規椎体骨折の発生率は、いずれも、5単位週1回投与群における発生率に対して有意差が認められなかったと記載されているのにとどまる(【0086】ないし【0096】、【表6】ないし【表 11】)ところ、誤記等を修正して再解析したとする数値(前記1⑵オ)に基づいても、低リスク患者の新規椎体骨折についていえば、100単位週1回投与群11人と5単位週1回投与群10人について、それぞれ、ただ1人の骨折例数があったというものであり、このような少ない症例数のもとでは、上記プラセボ投与群の骨折発生率と対比した 場合の骨折発生率の低下割合(RRR)は、骨折例数が1件増減しただけでその値が大きく変動することは明らかであるし、そもそも、低リスク患者を対象とした場合は、5単位週1回投与群であっても骨折例数が少なく、5単位週1回投与群の骨折発生率に対する、100単位週1回投与群の骨折発生率の低下割合であるRRRの値が、高リス ク患者に対するそれに対して小さいのは当然のことといえる。 この 5単位週1回投与群の骨折発生率に対する、100単位週1回投与群の骨折発生率の低下割合であるRRRの値が、高リス ク患者に対するそれに対して小さいのは当然のことといえる。 この点、被告は、3条件充足患者における骨折抑制効果がプラセボに対する関係で有意差があり、非3条件充足患者における骨折抑制効果がプラセボに対する関係で有意差が無ければ、直ちに、本件発明1の骨粗鬆症治療剤が3条件充足患者に対して優れた効果を有するとい える旨主張する。しかしながら、有意差が無いということは効果が優 れているかどうか不明であるということにすぎず、効果が優れていないということを直ちに意味するものではないし、有意差が無かったことが症例数が不足していることによることも否定できない(甲30、35)から、上記のような結論の導出は適当でない。 したがって、実施例1をみても、高リスク患者に対するPTHの骨 折抑制効果が、低リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果よりも高いということを理解することはできない。 次に、本件明細書には、実施例2について、3条件充足患者におけるPTH200単位週1回投与に関し、対照薬(プラセボ)投与群では投与開始後、「≦24週」、「24週<≦48週」、「48週<≦72週」 のいずれの期間でも骨折発生率は約5%でほぼ一定であったのに対して、PTH200単位週1回投与群では、2.3%、0.9%、0%と減少し、プラセボ投与群に対するRRRは投与を継続するにつれて増加したこと、PTH200単位週1回投与群では、24週後に骨折発生リスクをプラセボ投与群に対して53.9%低下させたこと、投与7 2週後に、椎体骨折(新規+増悪)の発生リスクをプラセボに比べて したこと、PTH200単位週1回投与群では、24週後に骨折発生リスクをプラセボ投与群に対して53.9%低下させたこと、投与7 2週後に、椎体骨折(新規+増悪)の発生リスクをプラセボに比べて78.6%低下させたことが記載されている(【0131】ないし【0133】、【表34】【表35】)。 しかしながら、これらの記載は、3条件充足患者について、本件発明の骨粗鬆症治療剤を投与した患者とプラセボを投与した患者とを比 較しているだけであって、本件発明の骨粗鬆症治療剤を投与された場合において、3条件充足患者に対して非3条件充足患者よりも優れた骨折抑制効果があることを示したことにはならない。 加えて、前記1⑵アのとおり、実施例1の患者は全員が椎体骨折を1個以上有していたので、全員が本件条件(2)を充足する患者であ り、また、甲5診断基準の「Ⅰ X線上椎体骨折を認める場合」の患 者であるので、「骨萎縮度Ⅰ度以上、あるいは骨密度値が若年成人平均値(YAM)の80%以下」の低骨量の患者であるから、全員が本件条件(3)を充足する患者といえる(骨密度値が若年成人平均値(YAM)の80%ぴったりの患者は本件条件(3)を満たさないが、現実には想定し難い。)。すなわち、本件明細書において高リスク者(3 条件充足患者)とされるのは定義上、本件条件(1)ないし(3)を充足する患者であり、本件明細書において低リスク者(非3条件充足患者)とされる患者といえども、上記のとおりに本件条件(2)及び(3)を充足しているから、実施例1は65歳以上という本件条件(1)の充足の有無による骨折抑制効果しか対比していないものである。そ して、前記のとおり、実施例2は、本件発明の骨粗鬆症治療剤を投与され 足しているから、実施例1は65歳以上という本件条件(1)の充足の有無による骨折抑制効果しか対比していないものである。そ して、前記のとおり、実施例2は、本件発明の骨粗鬆症治療剤を投与された場合において、3条件充足患者に対する骨折抑制効果が非3条件充足患者に対する骨折抑制効果を対比したものではない。そうすると、本件明細書から、高リスク患者における新規椎体骨折発生の抑制の程度を低リスク患者における新規椎体骨折発生の抑制の程度と比 較して、前者が後者よりも優れていると結論付けることは、ますます困難となる。 さらに、本件明細書のその他の部分をみても、単に、「高リスク患者に対しては低リスク患者よりも高い骨折抑制効果を奏する」旨の結論のみを提示する記載はあるが、これらは薬理試験のデータに基づくものでは なく、このような記載から、高リスク患者(3条件充足患者)に対するPTHの骨折抑制効果が、低リスク患者(非3条件充足患者)に対するPTHの骨折抑制効果よりも高いということを合理的に理解することはできないから、結局、効果Aは、本件明細書の記載に基づかないものというべきである。 被告は、甲4証明書及び甲59証明書により効果Aは明らかである旨 主張する。 しかしながら、本件明細書の記載から、高リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果が、低リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果よりも高いということを理解することができず、また、これを推認することもできない以上、効果Aは対外的に開示されていないものであるから、上 記各実験成績証明書を採用して、効果Aを認めることは相当ではない。 仮に、上記各実験成績証明書を参酌するにしても、これら証明書は、被告の主張に従 開示されていないものであるから、上 記各実験成績証明書を採用して、効果Aを認めることは相当ではない。 仮に、上記各実験成績証明書を参酌するにしても、これら証明書は、被告の主張に従っても、「65歳以上で、既存の骨折がなく、骨密度が若年成人平均値の80%未満である」患者群と「65歳以上で、既存の骨折があり、骨密度が若年成人平均値の80%未満である」患者群という、 既存の骨折の有無のみが相違する群間を対比したものということに帰するものであり、本件3条件の全てを満たす患者(高リスク患者)のグループと、本件3条件の全部又は一部を満たさない患者(低リスク患者)のグループのうちごく一部のグループとを比較しているものにすぎないから、およそ、本件3条件の全てを満たす患者の骨折発生の抑制の程度 が本件3条件を満たさない患者に対する骨折発生の抑制の程度より優れていると結論付けることに適するものではない。そうすると、上記各実験成績証明書をみても、本件3条件を全て満たす患者に対するPTHの骨折抑制効果が、本件3条件を満たさない患者に対するPTHの骨折抑制効果よりも高いということを理解することはできない。 以上によれば、いずれにしても効果Aを認めることはできないから、効果Aが存することを前提とするその他の点について判断するまでもなく、本件発明1に予測することのできない顕著な効果があると認める余地はない。 エ予備的主張について 被告は、前記第3の1イ②のとおり、本件発明の骨粗鬆症治療剤は、 PTHの連日投与から想定されるBMD増加率に対するRRRと対比して、BMD増加率が低くてもより低い骨折相対リスクが得られることを効果の顕著性として予備的に主張するが、非3 PTHの連日投与から想定されるBMD増加率に対するRRRと対比して、BMD増加率が低くてもより低い骨折相対リスクが得られることを効果の顕著性として予備的に主張するが、非3条件充足患者との対比なくして、単に本件発明の骨粗鬆症治療剤の骨折抑制効果と従来の連日投与の骨粗鬆治療剤の骨折抑制効果とを対比しても、3条件充足患者に対して特に 優れた骨折抑制効果を奏することは明らかにならないから、被告の上記主張はいずれにせよ失当である。 なお、被告が効果Aとは異質な効果として上記効果の顕著性の主張をしているものと善解したとしても、被告の上記主張は、本件訴訟における原告の主張に対抗して、本件明細書とは異なる文献に記載された試験の結果 と本件明細書の記載を被告が独自に組み合わせて予測したものであり、当然ながら、本件明細書には、PTHの連日投与から想定されるBMD増加率と骨折相対リスクとの関係を記載した部分は見当たらない。したがって、上記主張は、明細書に記載されていない効果を主張するものであって、やはり失当というほかない。 オまとめそのほか被告がるる主張するところも、前記アないしウの判断を左右するものではなく、効果の程度等につき更に検討を加えるまでもなく、本件発明が、当業者が予測をすることができなかった顕著な効果を奏するものであると認めることはできない。 ⑷ 本件発明1について小括以上のとおりであるから被告主張の基準日を前提にしても、相違点Bに係る本件発明1の構成を想到することは容易と認められ、本件発明1の効果も当業者において予測できない顕著なものとは認められないから、結局、その他の点について判断するまでもなく、相違点Bは当業者が容易に想到し得た 成を想到することは容易と認められ、本件発明1の効果も当業者において予測できない顕著なものとは認められないから、結局、その他の点について判断するまでもなく、相違点Bは当業者が容易に想到し得た ものというべきであり、相違点Bが容易に想到できないと認定した本件審決 の判断には誤りがある。そうすると、本件発明1の進歩性を認めた本件審決の判断には誤りがある。 ⑸ 本件発明2について前記⑷のとおり、本件発明1における相違点Bが容易に想到できないと認定した本件審決の判断には誤りがある。そうすると、本件発明2が本件発明 1を限定した発明であることを理由に、本件発明1と同様の理由により直ちに本件発明2の進歩性を認めた本件審決の判断にも誤りがある。 3 結論以上のとおり、取消事由1には理由があるから、その他の点について判断するまでもなく、本件審決を取り消すこととして、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第4部 裁判長裁判官 菅野雅之 裁判官 本吉弘行 裁判官 中村恭
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