【DRY-RUN】主 文 本件上告を棄却する。 理 由 弁護人鈴木小平上告趣意について。 没収を言渡す裁判には刑訴第四九条によりその理由を附すべきものではあるが没 収の理由で
主文 本件上告を棄却する。 理由 弁護人鈴木小平上告趣意について。 没収を言渡す裁判には刑訴第四九条によりその理由を附すべきものではあるが没収の理由である事実は刑訴第三六〇条第一項にいわゆる罪となるべき事実にあたらないから、判決中に証拠によつてこれを認めた理由を説明するの必要がない。そして原審判決においては論旨も認めているように没収の理由を示しているから、この点に対する違法は存在しない。又原審は、所論のように「賍物を処分した行為」(公定価格違反)についてではなく、窃盗教唆、賍物故買の行為について被告人に没収刑を言渡したものであるから、前者について没収を言渡した原因事実を示さなかつたのは、当然である。 又故買した賍物を売却処分する行為が犯罪を構成しないこと及び刑法第一九条第一項第三号第四号の規定を賍物罪の場合に当てはめて見ると「犯罪行為により得たる物の対価として得たる物」が没収の目的物となることは、所論のとおりである。 そして、原判決は、犯罪行為である賍物故買により得た物(すなわち賍物)の売買対価として得た物(すなわち押収金)に対して没収を言渡したのであるから、毛頭も違法はない。所論のごとく物の対価を得た行為(本件では賍物の売買行為)が犯罪を構成する場合でなければ、その対価の没収の言渡ができぬと論ずるのは全くの独断である。犯罪行為によつて得た対価を没収するのであれば同項第三号によるのであつて、第四号によるのではない。そして第四号の対価を取得する行為については、それが犯罪を構成することを要件とするものでないことは、規定上も明らかである。 次に原審判決においては、賍物の対価として得た物を被害者から交付の請求があ- 1 -つたこと及びその適用法条は刑訴第三七三条第二項であることを明示しているので ないことは、規定上も明らかである。 次に原審判決においては、賍物の対価として得た物を被害者から交付の請求があ- 1 -つたこと及びその適用法条は刑訴第三七三条第二項であることを明示しているのであるから、所論のように被害者に還付すべき理由が明白である旨を特に説示しなくとも、その趣旨を判示していることは自明であると言わなければならぬ。 次に、刑法第一九条第一項第四号に定める「前号に記載したる物の対価として得たる物」例えば本件における「賍物の対価として得た物」(煙草の売却代金)を没収するには、同条第二項に定める「其物犯人以外の者に属せざるとき」という条件を具備すべきは明らかであるが、なおこの外に「同項第三号に記載した物」が前記第二項の条件を具備し現実に没収可能の状態にあつたことを前提要件とすると説く考え方がある(昭和二一年(れ)第一七四号、同年九月一二日大審院第一刑事部判決)。この説によれば、第一項第四号は、昭和一六年法律第六一号刑法一部改正法の没収規定修正の趣旨に照らし追徴処分たる性質を有するから、第三号に記載した物すなわち原物の没収が可能なりしことを前提とすると解するのである。しかし、この説には同意することができない。(一)第一項第四号は、第一号ないし第三号と全く同様に「没収することを得」るものとして列挙されており、従つて没収に関する規定であつて追徴に関するそれでないことは一見明白である。(二)賍物のごときは第一項第三号の「犯罪行為により得たる物」に該当するから、没収可能物ではあるが、これには被害者があつて「犯人以外の者に属ぜざるとき」という条件を具備しないから、現実には殆んど没収することができない。しかし、犯人がこれを処分して得た対価物は犯人の所有に帰することとなるから、この対価物を没収し得る規定を設けて現実に没収することは、意 う条件を具備しないから、現実には殆んど没収することができない。しかし、犯人がこれを処分して得た対価物は犯人の所有に帰することとなるから、この対価物を没収し得る規定を設けて現実に没収することは、意義あることとなる。けだし、若し、旧法のごとく犯人が賍物を処分して得た対価物を没収し得ないままに放置するとすれば、犯人は犯罪を犯しながら不正不法の利得をいつまでも享有し得る不合理な結果を生ずるから、かかる対価物を没収して不法の利益を犯人から奪う必要が存するからである。また現実の問題として、統制経済の下において法令の許容する価格と現実の- 2 -取引価格との間に著しい隔たりが生じて来ると、物の没収に代る価額(公定価格)追徴だけでは不十分であつて、直接物の対価物を没収することが、必要且つ適切となるのである。没収規定が修正せられ前記第四号が追加せられた趣旨は、かかる理由に基くものと解すべきである。(三)しかるに、若し大審院判例のごとく前記第四号は、第三号に記載した物が「犯人以外の者に属せざるとき」といふ条件を具備し現実に没収し得ることを前提条件としてのみ、「第三号に記載したる物の対価として得たる物」を没収し得るものと解すれば、実際上最も適用例の多き賍物の対価物のごときは遂に没収するを得ざることとなり犯人は不法の利得を享有する不合理な結果を容認せざるを得ないこととなるであろう。(四)前記判例は、「第四号に所謂対価の没収は仮令法文撰修の際に於ける過誤に因り第十九条中に挿入せらるるも、為に其追徴処分たる事物本来の性質を変換喪失すべき理由なく、而して既に追徴処分たる以上、当に原物の没収が可能なりしことを前提とし、一定の条件の下にこれを替るものと解すべきは必然の事理なりと謂はざる可からず」と説いているが、第四号が第一九条中に追加されたことは、前述のごとくそれ る以上、当に原物の没収が可能なりしことを前提とし、一定の条件の下にこれを替るものと解すべきは必然の事理なりと謂はざる可からず」と説いているが、第四号が第一九条中に追加されたことは、前述のごとくそれ相応の実質的理由と合理性に基くものであつて、これをしも「法文撰修の際における過誤」によると論じ去ることは、全く前記判例の独断であると解するの外はない。否むしろ、前記判例は、前記法律改正の際における改正理由の不完全な説明中の片言隻句に捉われて立法の全趣旨を曲解し、第四号をもつて追徴処分の性質を有するものと速断し、却つて自ら匁を逆まにして立法の過誤を叫ぶものと言ふべきであつて、到底これを是認することはできない。(五)なお前記判例は、自説の実質的理由として、「若し対価没収の規定を原物の没収し得ると否とに論なく適用し得べしとする見解に従うときは、犯人は一方に於て対価全額の没収或は追徴を受けるに拘らず、なお他方に於て被害者の損害賠償請求を拒むに由なき結果として、其資力ある者は犯罪行為に因る不正利得の範囲を超えて重大なる損失を蒙ると同時に、其資力乏しき者に就ては- 3 -被害者が追徴処分の為に却て其求償を事実上阻塞せらるるに至るべく、此の如きは国家正義の護持を生命とする司法権自体に依りて犯人又は被害者に不当の侵害を加ふるものにして其許すべからざるや固より論莫し」と説いているが、これも甚だ価値なき議論である。第四号の原物の対価物は犯人以外の者に属せざる限り総て没収し得るのであるが、贓物の対価物は被害者から交付の請求があつたとき、これを被害者に還付する言渡をすべきものであるから(刑訴第三七三条第二項)、被害者がその交付の請求をせず没収せられた後に至つて犯人に対し損害賠償の請求をするがごとき事態は、極めて稀にしか起らないであらう。そして、稀に資力ある犯人が没 ものであるから(刑訴第三七三条第二項)、被害者がその交付の請求をせず没収せられた後に至つて犯人に対し損害賠償の請求をするがごとき事態は、極めて稀にしか起らないであらう。そして、稀に資力ある犯人が没収と損害賠償支払の二重苦に陥るとしても、それは犯罪によつて一面において国家の秩序を乱し、他面において他人の財産権を侵した当然の責任として甘受しなければならぬところである。なお、資力なき犯人については没収のために被害者が損害賠償の実をあげることができない場合が生ずるとしても、それは被害者が対価物の交付の請求を怠ることに起因する場合が多いであろうし、又仮りに被害者の損害賠償の担保として温存するために対価物を没収し得ないものとしても、犯人は勝手にこれを費消又は処分することができるから、被害者はかかる場合にも損害賠償の実をあげ得ないであらう。されば、犯人に対して犯罪行為による不正利得の範囲を超えて財産上の損失を被らしめないこと又は対価物を犯人の自由処分に放置しながら被害者に対する損害賠償の資源とするため対価物の没収を可能ならしめることが、判例の言うように国家正義にかなうものであるとは、到底考えることができない。 さて、原判決は第一審の相被告人等がA地方専売局B出張所C煙草配給所の倉庫から窃取した「みのり」七百五十個入二箱、「きんし」六百本入五十二箱を昭和二二年二月八日午前一時過頃被告人が故買した犯罪事実を認定し、押収の現金二万七千八百三十五円につき、(イ)内二万四干五百九十五円は被告人が右贓物故買によつて得た物の対価として取得した物であり被告人以外の者に属しないから刑法第一- 4 -九条第一項第四号第二項によつてこれを没収し、(ロ)内三千二百四十円は被告人が贓物の対価として得た物で被害者から交付の請求があつたので刑訴第三七三条第二項を適用してこれ ないから刑法第一- 4 -九条第一項第四号第二項によつてこれを没収し、(ロ)内三千二百四十円は被告人が贓物の対価として得た物で被害者から交付の請求があつたので刑訴第三七三条第二項を適用してこれを被害者に還付する旨判示したのである。そして原判決挙示の証拠によれば押収の現金中没収した二万四干五百九十五円と還付した三千二百四十円との合算額合計二万七千八百三十五円の現金は被告人が同日朝a駅附近において贓物たる「みのり」千五百個、「きんし」三万一千二百本中「みのり」千百個位及び「きんし」六千本を闇売りした売得金の残りで被告人の所有に属すること明白であり、また、還付した三千二百四十円は「みのり」千百個「きんし」六千本の処分当時の公定価格に相当する金額であることも顕著な事実である。 そして、上述のごとく刑法第一九条第一項第四号の規定は、独立した没収事由として追加規定せられたものであるから、同号を適用するのに前号所定の物が同条第二項の規定により没収し得るものであることを前提とすべき理由は毫も存しない。 それ故、前記贓品の対価物たる押収金全額は、犯人以外の者に属せざる限り没収し得る訳である。ところが、本件では刑訴第三七三条第二項の規定に基き贓物の対価物につき被害者から交付の請求があつた。普通の場合であつたならば、対価物の全部を被害者に還付すべきであろうが既に贓物は処分せられた後のことであるから、被害者が犯人に対して損害賠償として交付を請求し得るのは、法令の許容する価額を標準とすべきであり、従つて本件においては「みのり」千百個、「きんし」六千本に対する処分当時の公定価額三千二百四十円に相当する押収現金の還付であると言わねばならぬ。されば、原判決がこれを被害者に還付する言渡をなし、これを差引きたる押収金の残額二万四干五百九十五円を没収したのは正当であつて の公定価額三千二百四十円に相当する押収現金の還付であると言わねばならぬ。されば、原判決がこれを被害者に還付する言渡をなし、これを差引きたる押収金の残額二万四干五百九十五円を没収したのは正当であつて、原判決には所論の違法はない。よつて刑訴第四四六条に従い主文のとおり判決する。 この判決は裁判官全員の一致した意見である。 検察官十蔵寺宗雄関与- 5 -昭和二三年一一月一八日最高裁判所第一小法廷裁判長裁判官沢田竹治郎裁判官真野毅裁判官斎藤悠輔裁判官岩松三郎- 6 -
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