主文 被告人Aを懲役3年に,被告人Bを懲役2年にそれぞれ処する。 被告人両名に対し,この裁判が確定した日から5年間,それぞれその刑の執行を猶予する。 被告人Bから大分地方検察庁で保管中の1万円札200枚(平成13年領第755号符号1266の1及び2)を没収し,金800万円を追徴する。 理由 (罪となるべき事実)被告人Aは,昭和38年4月の初当選以来,10期連続して大分県議会議員の地位にあったもの,被告人Bは,大分県別府市a町b番c号に主たる事務所を置く宗教法人「C教D分教会」の代表役員であったもので,大分県が施行する別府国際観光温泉文化都市計画道路山田関の江線道路改築事業の用地買収対象物件となった同宗教法人所有土地上の建物の移転等に関し,大分県別府土木事務所が「大分県が施行する公共事業に伴う損失補償基準」に従い適正に算定して提示をした建物等移転料等補償金3億8730万3800円につき,その増額を求めていたものであるが,第1 被告人Aは,平成10年1月13日ころ,同市大字de番地f所在のA事務所において,被告人Bから,同土木事務所の担当公務員らに同補償金を上記基準に基づく適正な金額以上に増額をさせるようにあっせんして欲しい旨の請託を受けて,これを承諾し,同年2月20日,大分県土木建築部用地対策室室長補佐らに対して,「基準に当てはめた事務的な処理ではなく,政治的な判断で決着を図らなければ解決は難しい。」旨申し向け,これを同室長補佐から同土木事務所の担当者へ取り次がせ,同土木事務所担当者をして,同補償金を4億1883万2400円に増額させた上,同宗教法人に提示させて,他の公務員に対して不正の行為をさせるようにあっせんしていたところ,さらに,同年11月5日ころ,上記A事務所において, て,同補償金を4億1883万2400円に増額させた上,同宗教法人に提示させて,他の公務員に対して不正の行為をさせるようにあっせんしていたところ,さらに,同年11月5日ころ,上記A事務所において,被告人Bから同土木 事務所の担当公務員らに上記4億1883万2400円の補償金を更に不正に増額させるようにあっせんして欲しい旨の請託を受けて,これを承諾し,その場で,その報酬として供与されるものであることを知りながら,現金1000万円(平成13年領第755号符号1266の1及び2はその一部)の供与を受け,もって,他の公務員に職務上不正の行為をさせるようにあっせんすること等の報酬として賄賂の供与を受け,第2 被告人Bは,第1記載の日時,場所において,被告人Aに対し,同記載のあっせん方を請託し,同被告人に対し,同趣旨の下に前記現金1000万円を供与し,もって,公務員に,他の公務員に職務上不正の行為をさせるようにあっせんすること等の報酬として賄賂を供与したものである。 (法令の適用)罰条判示第1の所為刑法197条の4判示第2の所為同法198条,197条の4刑種の選択判示第2の罪懲役刑刑の執行猶予刑法25条1項没収・追徴刑法197条の5前段,後段(量刑の理由) 1 本件は,大分県が施行した道路用地買収に関し,地権者の1人である宗教法人の代表役員であった被告人Bが,県から提示された移転補償金額を不正に増額させようと企て,大分県議会議員であった被告人Aに対し,不正な増額をするよう公務員に働きかけることの報酬として現金1000万円の賄賂を供与し,被告人Aがこれを収受したあっせん贈収賄の事案である。 2 別府観光温 ,大分県議会議員であった被告人Aに対し,不正な増額をするよう公務員に働きかけることの報酬として現金1000万円の賄賂を供与し,被告人Aがこれを収受したあっせん贈収賄の事案である。 2 別府観光温泉都市計画道路山田関の江線道路改築事業(以下「本件事業」という。)は,大分県土木建築部都市計画課(以下「都市計画課」という。)が主管する事業であり,建物等移転料等補償金の算定や地権者との交渉,契約の締結等 の事業執行には大分県別府土木事務所(以下「別府土木事務所」という。)があたり,大分県土木建築部用地対策室(平成10年4月1日以降は「用地対策課」に組織変更。以下「用地対策室」又は「用地対策課」という。)がその指導調整を行っていたところ,C教D分教会(以下「D分教会」という。)の敷地が用地買収の対象となり,更に計画道路の拡張によりD分教会の本堂及び教職舎の移動が必要になったため,別府土木事務所は,被告人Bに対し,平成9年1月,補償金として2億2000万円余りの金額を提示し,その後,同教会の教職舎について全面再築を行う必要がある旨判明したことから,同年10月,適正な補償金額である約3億8730万円を提示した。 被告人Bは,計画線の幅員が当初20メートルと予定されていたので,それを前提に昭和48年に本堂等を増新築していたのに,更にD分教会の敷地側のみに5メートル拡張されて幅員25メートルになり本堂等の移転を余儀なくされたことに不満を抱いており,補償金額の上乗せを求めていたところ,上記のとおり,教職舎の全面再築が必要であることが判明したことから,これを機に教職舎を拡張し,自らの家族用の広い居室やコンピュータールーム等を備えた立派な新教職舎を建設したい,その費用を賄うため補償金を5億ないし6億円に増額させようと考えるようになり,別府土木事 これを機に教職舎を拡張し,自らの家族用の広い居室やコンピュータールーム等を備えた立派な新教職舎を建設したい,その費用を賄うため補償金を5億ないし6億円に増額させようと考えるようになり,別府土木事務所に対し,提示された補償金額中に種々の補償費用が含まれていない旨不満を述べたが,テストボーリング費用の補償が追加されたのみで,交渉は難航していた。 そこで,被告人Bは,このままでは前記のような補償金額の大幅な増額は望めないと考え,被告人Aと面識のあるD分教会の信者の勧めに従い,当時9期連続で大分県議会議員を務め,平成4年以降は土木建築委員を務めるなど,大分県土木建築部職員に対して強い影響力を持っていた同被告人に対し,県議会議員としての権限や影響力を行使して,大分県側に補償金額を増額するよう働きかけることを依頼しようと考え,平成10年1月,同被告人の事務所を訪れ,同被告人に対し,補償金額としてD分教会側が5億円から6億円を希望しているので県に補 償金を増額するよう口を利いて欲しい旨頼み,その際現金10万円を手渡した。 被告人Aは,大分県が提示した補償金額が適正なものであり,これを増額するように県職員に対して働きかけるのは公務員に対する不正な行為のあっせんになることを知りながら,以前かかわった公共事業において計画線の変更により不利益を被った住民の要望を受けて行政側の担当部局に働きかけたところ,補償金が増額され,難航していた補償金交渉が解決されたことがあったため,本件においても同様に計画線の変更による迷惑料という理由をつけて県の担当部局に補償金の増額を働きかければD分教会の便を図ることができ,自身の選挙対策にもなると考え,被告人Bの依頼を承諾した。 被告人Aは,県の出先機関に過ぎない別府土木事務所では同被告人が考えているよう 償金の増額を働きかければD分教会の便を図ることができ,自身の選挙対策にもなると考え,被告人Bの依頼を承諾した。 被告人Aは,県の出先機関に過ぎない別府土木事務所では同被告人が考えているような補償基準に則らない増額を行うことはできないと考え,本件事業を主管する部署に直接働きかけるため,都市計画課課長補佐及び用地対策室室長補佐に対し,基準に従った事務的な処理ではなく政治的な判断で決着を図るように述べ,暗に損失補償基準に則らない不正な算定方法をしてでもD分教会の要望を取り入れて補償金を増額するように要請した。用地対策室長は,これを受け,別府土木事務所用地課の担当者を集め,被告人Aから補償金額の見直しをするように依頼されていることを伝え,同事務所所長に対し,被告人Aからの依頼であれば応じざるを得ないのでその方向で検討するようにと依頼し,これを了承した同所長は,従前から補償金額の積算を依頼していた補償コンサルタント会社に対し,補償金額を増額するため補償項目を増やすなどして積算をやり直すよう要請した。その後,同社は,約800万円の増額案を提示したが,用地対策課担当者は,その程度の増額では被告人Aを納得させることはできないと考え,同事務所と協議の上,同事務所用地課の担当者において,同社に対し,これまで補償の必要性を認めていなかったシロアリ処理費や計画線にかからない工作物の取壊・再築費用などについても補償項目として検討するように指示したため,同社は,これらの項目が基準上許されない過剰補償であることを認識しつつ,同事務所の担当者らと協議 の上,これらを補償項目として追加した4億1883万円という補償金額を算定した。 しかし,被告人Bは,この増額案では希望する補償金額に1億円不足するため,なおも補償金額に不満を抱き,更に増額させる方法 れらを補償項目として追加した4億1883万円という補償金額を算定した。 しかし,被告人Bは,この増額案では希望する補償金額に1億円不足するため,なおも補償金額に不満を抱き,更に増額させる方法がないかと考えていたところ,前記信徒から被告人Aに1000万円を謝礼として渡すことにより,更に補償金を不正に増額するよう県に対して働きかけてもらってはどうかと言われ,金額が高額であるために躊躇したものの,補償金を増額させるためにはその程度の出費はやむを得ないと考え,信徒の進言に従うことを決め,同年11月4日ころ,被告人Aに対し,せめてあと5000万円増額するように働きかけてほしい旨請託し,同被告人がこれを承諾したため,用意してきた現金1000万円を置いて帰った。被告人Aは,この1000万円がいわゆる口利き料であり,不正な増額を公務員に働きかけることに対する謝礼としての賄賂であることを知りながら,これを自宅に持ち帰り,被告人Bの要求を満たすべく,再度用地対策課に働きかけを行うことを決めた。 被告人Aは,同課長からこれ以上の増額は無理である旨何度も説明を受けたが,同課長に対し,無理を承知で補償額を4億4000万円まで上げるように強硬に要請し,D分教会側にもその額で了承するように話をつけておくなどと言って一方的に増額を求めた。そのため,同課長は,同被告人の要求を拒否すれば,県行政の円滑な運営が困難になると考え,別府土木事務所の担当者を集め,被告人Aの要望を伝えて善処を求めたところ,同所長も同課長と同様に,土木関係に絶大な影響力を持っている被告人Aの指示に抵抗すれば,人事面や議会対策面で様々な不利益が降りかかって来るであろうと考え,同事務所用地課長に対し,補償金額を4億4000万円まで上げるように命じた。同事務所用地課は,用地対策課から,補償 示に抵抗すれば,人事面や議会対策面で様々な不利益が降りかかって来るであろうと考え,同事務所用地課長に対し,補償金額を4億4000万円まで上げるように命じた。同事務所用地課は,用地対策課から,補償金増額のため,本堂を西側に曳いた後に南側に曳き,曳家の工程を増やすという案を示唆されたため,会計検査院の検査対策として庭園の機能回復という形式的な名目を付けた上で,前記補償コンサルタント会社に対し,本堂の曳 家工程を2回に増やした場合の工事費の見積もりを取らせ,補償金額が必ず4億4000万円以上になるような積算を行い,それに合わせて構外再築の場合の補償金額がその額を上回るように従前の見積もりに手を加えるように指示した。同社はこれらの指示に従い,4億4709万5100円という補償額を積算してきたため,別府土木事務所用地課はこれを最終的な補償金案としてD分教会に提示した。同教会は,被告人Aから予め4億4000万円台の補償金額で了承するように説得されていたため,上記補償金案を受け入れ,平成12年1月31日までにその全額が県から同教会に支払われた。 3 以上のとおり,被告人Aは,一宗教法人から多額の賄賂を収受し,その請託に応え,その利益を図るため,県議としての権限や影響力を濫用し,県執行部に不正の事務を行うように不当な圧力を加えたのであり,このような行為が県民の付託を受けた議員としてあるまじき違法なものであることは明らかであって,動機に酌量の余地はない。政治家による不正な口利き自体が政治不信の大きな原因として指弾され,金銭の授受が絡む口利き行為が犯罪として処罰されるようになって久しいにもかかわらず,被告人Aは,被告人Bから県への口利きの依頼を受け,迷惑料的な補償金の増額であれば県側が融通を利かせても良いはずであるなどと安易に考えて約3000万 して処罰されるようになって久しいにもかかわらず,被告人Aは,被告人Bから県への口利きの依頼を受け,迷惑料的な補償金の増額であれば県側が融通を利かせても良いはずであるなどと安易に考えて約3000万円も補償金を増額させた上,更に賄賂収受後は,高額な賄賂に報いるため何としてでも補償金を大幅に増額させなければならないと考え,県職員に対し,自己の経歴や県の土木行政に対する影響を慮る県職員らの心理を利用し,具体的な補償金額まで指示してその増額を強硬に求めたもので,犯行態様は悪質である。そして,収賄の前後にわたる被告人Aの働きかけにより,補償金額は,当初の適正額約3億8730万円から最終的に約4億4709万円に増額され,実に約6000万円もの公金が現実に不正に支出されているのであって,生じた結果も重大である。本件は,かって県議会議長の重責を担い,当時もE党大分県連合支部会長として県下に広くその名を知られていた大物県議の口利きにより不正に多額の公金が費消されたということで,連日マスコミ等におい て大きく報道され,県民は強い衝撃を受けるとともに,不公正な県政のあり方に対し激しい怒りを感じており,このように県政や他の議員の政治活動に対する県民の信頼を正面から著しく損なった被告人Aの刑事責任は極めて重いというべきである。 被告人Bにおいても,公平さの確保や適正な公務の実現という用地補償行政の目的を真っ向から無視し,自らの属する宗教法人の利益さえ図れればよいとの自己中心的な思考の下に,県議に高額な賄賂を贈り過大な要求を繰り返したもので,動機,犯行態様ともに極めて悪質であり,県政に対する県民の信頼を大きく揺らがせる事態を招いた張本人としてその責任は重い。 かかる犯行の悪質さや社会的影響の大きさからすれば,被告人両名に対しては厳罰で臨むべきと もに極めて悪質であり,県政に対する県民の信頼を大きく揺らがせる事態を招いた張本人としてその責任は重い。 かかる犯行の悪質さや社会的影響の大きさからすれば,被告人両名に対しては厳罰で臨むべきとも考えられる 4 しかし,本件犯行の発覚後とはいえ,D分教会において,必ずしも被告人Aの働きかけによるものとは言えない分も含め,同教会に支払われた補償金のうち,同被告人が県職員に不正の増額を働きかけた後に増額された分については,その全額及びこれに対する遅延利息の合計約6740万円を県に返納しており,県の財政上は本件犯行による損害の回復がなされている。また,そもそも本件においてこれだけの実害が生じたのは,被告人Aの増額要求に対し,公務員としての職責を忘れ,同被告人の要請する行為が不正な職務であることを知りながらこれを了承し,あまつさえ指定された増額を実行するために自ら過剰な補償項目を作出し,従前の適正な積算結果のかいざんまで指示して同被告人の要望に応えようとした県職員の許されざる対応があったことにも原因があり,用地補償行政に対する県民の信頼を大きく失墜させた原因を作ったのは一人被告人Aだけではない。 同被告人は,もらい受けた1000万円を,やましさから1年数か月の間一切手を付けずに金庫にしまっておいたが,本件犯行の発覚を恐れてのこととはいえ,後日その全額をそのまま被告人Bに返還し,本件発覚後は県議を辞職しただけではなく,一切の公務からも身を引くなどして県民の信頼を裏切ったことを深く反 省している。本件が大きく報道されたことにより既に一定の社会的制裁も受けている。被告人Bにおいても,自らの行為を反省するとともに,社会的制裁やC教会内における懲戒処分も受けている。 これらの酌むべき事情も考慮すると,被告人両名に対しては,主文の量刑とした上, も受けている。被告人Bにおいても,自らの行為を反省するとともに,社会的制裁やC教会内における懲戒処分も受けている。 これらの酌むべき事情も考慮すると,被告人両名に対しては,主文の量刑とした上,その刑の執行を猶予するのが相当と判断し,なお,賄賂については,前記のとおり既にその全額が被告人Bに返還されているため,同被告人からこれを没収及び追徴することとし,主文のとおり判決する。 (求刑被告人Aにつき懲役3年,被告人Bにつき懲役2年,被告人Bから1万円札200枚の没収及び追徴800万円)平成14年3月20日大分地方裁判所刑事部 裁判長裁判官久我泰博 裁判官金田洋一 裁判官餘多分 亜 紀
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