平成15(ワ)5652 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成17年6月10日 東京地方裁判所
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判決文本文57,587 文字)

平成17年6月10日判決言渡平成15年(ワ)第5652号損害賠償請求事件判決 主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求の趣旨被告は、原告Aに対し金4580万円、原告B、原告C、原告D及び原告Eに対し各金1170万円並びにこれらに対する平成14年6月17日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は、被告が開設するF病院(以下「被告病院」という。)において、死胎児の分娩のために入院していた亡Gが、分娩後に死亡したことにつき、被告病院の担当医師らにおいて、止血措置を怠った過失、輸血、輸液等の措置を誤った過失があるとして、亡Gの相続人である原告らが、被告に対し、不法行為(使用者責任)又は診療契約の債務不履行に基づき、損害賠償金の支払を求める事案である。 1 争いのない事実等(1) 当事者ア亡Gは、昭和35年生まれの女性であり、原告Aは亡Gの夫であり、原告B、原告C、原告D、原告Eは、それぞれ原告Aと亡Gの長女、次女、長男、三女である(争いのない事実)。 イ被告は、東京都品川区a b丁目c番d号において、被告病院を開設している(争いのない事実)。 ウ H医師、I医師及びJ医師は、いずれも亡Gの診察をした医師であり、本件当時、被告病院に勤務していた。 エ K医師はL大学病院産婦人科の、M医師は同病院救急医学科の医師であり、いずれも被告病院から転送された亡Gの診察をした医師である(甲A2、証人K(書面尋問)、同M(書面 勤務していた。 エ K医師はL大学病院産婦人科の、M医師は同病院救急医学科の医師であり、いずれも被告病院から転送された亡Gの診察をした医師である(甲A2、証人K(書面尋問)、同M(書面尋問))。 (2) 本件の診療経過は、別紙診療経過一覧表中の診療経過欄及び検査・処置欄(いずれも下線部分を除く。)記載のとおりであり、その要旨は以下のとおりである。 ア平成14年6月14日、亡GはNクリニックにおいて子宮内胎児死亡と診断され、被告病院を紹介受診した。 イ同月15日15時07分、亡Gは被告病院において男児を死産したが、胎盤娩出後から出血傾向が持続し続け、16時12分には総出血量が1742グラムとなり、16時16分には肉眼的血尿が生じた。 ウ同日16時16分、被告病院医師らはL大学病院への搬送を決定し、同日17時14分、亡Gは救急車でL大学病院に搬送され、同病院においてMAP、FFPの投与を受けるなどの治療を受けたが、同月16日2時4分、亡Gは出血性ショックのため死亡した。 2 争点(1) 被告病院における止血措置の適否(2) 亡Gの出血に対する輸血、輸液等の適否(3) 被告病院の不適切な治療行為と亡G死亡との因果関係(判断の必要がなかった)(4) 損害額(判断の必要がなかった) 3 争点についての主張争点に関する当事者の主張は、別紙「当事者の主張」記載のとおりである。 第3 当裁判所の判断 1 診療経過等前記第2、1に認定した事実、別紙診療経過一覧表における当事者間に争いのない事実に加えて、下記の証拠(〔〕内は証拠の頁数を示す)によれば、本件の診療経過等につき、以下の事実が認められる(なお、下記の証拠のうち、乙A1号 た事実、別紙診療経過一覧表における当事者間に争いのない事実に加えて、下記の証拠(〔〕内は証拠の頁数を示す)によれば、本件の診療経過等につき、以下の事実が認められる(なお、下記の証拠のうち、乙A1号証の22ないし23頁は、本件分娩に立ち会った助産師が記入した助産師記録(以下「助産師記録」とする。)であり、乙A1号証の10ないし12頁は、助産師記録を基にして後日I医師が作成した診療録(以下「医師記録」という。)である(証人I〔13ないし14〕)。)。 (1) Nクリニックの受診亡Gは、平成13年12月8日、Nクリニックの外来を受診し、妊娠9週と診断された。その後、亡GはNクリニックを定期的に受診していた。 平成14年6月5日(妊娠34週)、超音波検査が実施され、その際、胎児心拍は認められ、推定体重は2674グラムであった。 同月14日(妊娠35週6日)、亡Gは胎動の減少及び腹緊を訴えてNクリニック産婦人科を外来受診した。超音波検査が実施され、その際、胎児心拍が認められなかったことから、被告病院の紹介を受けた(甲A1〔2、4、8、10、11、13、14〕)。 (2) 被告病院外来受診ア同日14時00分、原告A及び亡Gは被告病院産婦人科外来を受診し、J医師によって亡Gに対し超音波断層検査が実施された。その結果、子宮内胎児死亡と診断された(乙A2〔19〕)。 J医師は、原告A及び亡Gに対し、子宮内胎児死亡と診断がついたこと、胎児が母体にとって異物と認識されると防御反応として体内で変化が起きてくるため、入院し、分娩誘発が必要となること、DIC検査を行った上で頸管熟化を行い、明朝から陣痛促進剤を用いて分娩誘発すべきであることを説明し、亡Gはそのまま被告病院に入院 として体内で変化が起きてくるため、入院し、分娩誘発が必要となること、DIC検査を行った上で頸管熟化を行い、明朝から陣痛促進剤を用いて分娩誘発すべきであることを説明し、亡Gはそのまま被告病院に入院した。入院時の亡Gの体重は、73キログラムで非妊時の59キログラムに比べて14キログラム増加していた(乙A1〔5〕、2〔5〕)。 イ同日の血液検査は次のとおりであった(乙A1〔9-1〕、B22〔3〕、32〔3〕、33、弁論の全趣旨)(以下、単位は省略する。)。 白血球数  9100/mm3赤血球数  396万/mm3ヘモグロビン値(Hb値)  10.4g/dlヘマトクリット値(Ht値)  32.5%血小板数  28.8万/μl(正常値は17.6~39.2)血液凝固系については、プロトロンピン時間(PT)  11.0秒(正常値は11~14)APTT  24.0秒(正常値は20~30)フィブリノーゲン  510mg/dl(正常値は200~400)フィブリン体分解産物(FDP) <10μg/ml(正常値は<10)アンチトロンビンⅢ(AT-Ⅲ)  94%(正常値は79~121)ウ同日21時45分、J医師により内診が行われ、ラミナリア桿太10本、ガーゼ1枚が挿入された(乙A1〔21-2〕)。 同日の夜間から翌日の朝方にかけて、亡Gは腹部の張りと痛みを訴えていた(助産師記録)。 エ被告病院は、6月15日土曜日(以下、特に断りのない限り、時 1〔21-2〕)。 同日の夜間から翌日の朝方にかけて、亡Gは腹部の張りと痛みを訴えていた(助産師記録)。 エ被告病院は、6月15日土曜日(以下、特に断りのない限り、時刻のみの表示は6月15日の時刻を指すものとする。)9時40分、ラミナリア桿太10本、ガーゼ1枚を抜去し、10時10分からPGF2α(子宮収縮剤)の点滴投与を行い、亡Gの陣痛誘発を開始した。同日10時から分娩まで亡Gに分娩監視装置が装着されていたが、過強陣痛は認められなかった(助産師記録、証人H〔5〕、乙A1〔29ないし62〕、弁論の全趣旨)。 15時00分、亡Gは分娩室に入室し、左前腕のルートから5%ブドウ糖500mlの点滴投与を開始した。分娩にはI医師が立ち会い、15時7分、男児を死産した(助産師記録)。 死胎児の所見は、体重2875グラム、外表に奇形はなく、表皮剥離があり、浸軟Ⅰ度であった(医師記録、助産師記録)。 分娩直後、臍下一横指に子宮底を触れたが、硬度はやや良であった(助産師記録)。 (3) 分娩後の経過ア 15時13分、胎盤が娩出され、I医師は子宮内腔を確認したところ、胎盤卵膜遺残、凝血塊、完全子宮破裂も認められなかった。胎盤娩出時に、50グラムの出血が認められた(医師記録、助産師記録)。 イ 15時15分、I医師は、子宮内腔を内診で確認し、完全子宮破裂、卵膜遺残は認められなかった。臍下一横指に子宮底を触れ、硬度は不良であった。5%ブドウ糖液100mlとメテナリン(子宮収縮剤)1Aを点滴投与するとともに、下腹部にアイスノンを載せて輪状マッサージを実施した。 バイタルサインは、血圧92/70、脈拍68であった(医師記録、助産師記録、 テナリン(子宮収縮剤)1Aを点滴投与するとともに、下腹部にアイスノンを載せて輪状マッサージを実施した。 バイタルサインは、血圧92/70、脈拍68であった(医師記録、助産師記録、乙B23〔2〕)。 ウ 15時35分、I医師が会陰裂傷の縫合を終了し、膣内に挿入していたタンポンを抜去して膣内の状態を再確認した。 出血量の測定の結果、会陰縫合時に420グラムのどす黒く、さらさらとした出血が認められた(出血の態様については当事者間に争いがあるところ、この点については後記2(3)で検討する。)。I医師は、その場で採血を行って自ら緊急検査室において血液検査を行うとともに、H医師とJ医師に連絡するよう指示した(医師記録、助産師記録、乙A2〔5〕、B23〔3〕、証人I〔3、4〕)。 血液検査の結果は、白血球数11700、赤血球数413万、Hb値11.1、Ht値33.3、血小板数17.6万であった(同日の被告病院においては15時で検査室の業務は終了していたため、血液凝固系の検査は行われていない。以下、被告病院における血液検査について同じ。)(医師記録、助産師記録、乙A1〔25〕、証人I〔5〕)。 エ 15時40分、検査室から戻ったI医師は亡Gの下腹部を触診し、子宮底が臍下二横指に触れ、子宮収縮は良好であった(医師記録、助産師記録)。 この時点までの総輸液量は、左前腕(22ゲージ)からの5%ブドウ糖液600ml(メテナリン1アンプルを含む。)である(助産師記録、乙B21〔16〕、弁論の全趣旨)。 オ 15時43分、I医師は、来室したJ医師と2人で超音波検査を実施したが、子宮内胎盤遺残、腹腔内出血は認められなかった(乙A1〔27-1〕)。 内診の結果、頸管裂傷 〕、弁論の全趣旨)。 オ 15時43分、I医師は、来室したJ医師と2人で超音波検査を実施したが、子宮内胎盤遺残、腹腔内出血は認められなかった(乙A1〔27-1〕)。 内診の結果、頸管裂傷もなく、触診の結果、子宮体部の収縮は良好であった(医師記録)。 出血量の測定の結果、650グラムの出血を認め、この時点までの総出血量が1120グラムとなった(医師記録、助産師記録)。 続いてH医師が来室し、H医師は、どす黒くさらさらとした出血が続き、総出血量が1000グラムを超えているという報告を受けて、ヘスパンダー500mlの点滴を開始するとともに、輸血の準備を指示した(被告病院においては、分娩の際に、1000グラムを超えて出血し、なおかつ止血傾向がない場合には濃厚赤血球液(MAP)を注文する体制となっていた)(医師記録、助産師記録、証人H〔6〕)。 カ 16時00分、I医師の指示によりクロスマッチ用の採血が行われた。 I医師は分娩室を出て、東京都赤十字血液センター(以下「血液センター」という。)への連絡窓口である当直のO看護師長(以下「O師長」という。)に連絡して、当番の検査技師に登院要請するよう指示し、あわせてMAP5単位の注文をするよう指示した(医師記録、助産師記録、乙A3、B23〔4〕証人I〔6〕)(MAP注文の有無に関する主張については後記4(2)で検討する。)。 16時00分のバイタルサインは、血圧112/90、脈拍72であり、SaO2は100%で、意識は清明で不快感はなかった(医師記録、助産師記録)。 16時07分には、血液検査のオーダーがされたが、後記のとおり、L大学病院への搬送がされたことにより、このオーダーは取り消され、このときの 医師記録、助産師記録)。 16時07分には、血液検査のオーダーがされたが、後記のとおり、L大学病院への搬送がされたことにより、このオーダーは取り消され、このときの検査結果は報告されていない(乙A1〔17〕、B32〔8〕)。 16時10分、子宮収縮不良となり、H医師及びJ医師は左手背の点滴ルートを確保し(18ゲージ)、5%ブドウ糖500mlとメテナリンの投与を開始した。H医師は内診の際に子宮双手圧迫術を試みたが、子宮が硬く圧迫効果が期待できなかったので中止した(医師記録、証人H〔11〕)。 キ 16時12分、H医師及びJ医師は、臨床的にDICが発症していると判断し、左前腕から、5%ブドウ糖液500mlとあわせてFOYの点滴投与(1500mg、20ml/h)を開始した。出血量の測定の結果、622グラムの出血(総出血量1742グラム)を認めた(医師記録、助産師記録)。 16時15分、I医師は、O師長に対し、MAP10単位に変更するよう指示した(医師記録、助産師記録、乙B23〔5〕、証人I〔7〕)(MAP注文の有無に関する主張については後記4(2)で検討する。)。 ク 16時16分、尿道にバルーンカテーテルを挿入留置したところ、肉眼的血尿が認められた。被告病院医師らは、高次医療機関への搬送を決定し、I医師は、L大学病院への搬送を交渉した。 バイタルサインは、血圧112/72、脈拍72であり、SaO2は100%であった。 これと前後して、O師長から、技師手配、到着まで1時間かかるという報告がなされた(医師記録、助産師記録、乙B23〔5〕、証人I〔5〕)ケ 16時30分、バイタルサインは血圧90/72、脈拍112、 して、O師長から、技師手配、到着まで1時間かかるという報告がなされた(医師記録、助産師記録、乙B23〔5〕、証人I〔5〕)ケ 16時30分、バイタルサインは血圧90/72、脈拍112、SaO2100%であり、意識は清明であった。子宮収縮は不良であり、PGF2α(1A)を経腹的に子宮体部へ局部注射した。出血量の測定の結果、170グラムの出血(総出血量1912グラム)を認めた(医師記録、助産師記録)。 コ 16時33分、L大学病院の救命救急センターが受入可能であるとの連絡を受け、搬送の準備を始めた。左手背からVeenF500mlとメテナリン3Aの投与を開始するとともに、新たに右手首のルート(18ゲージ)を確保し、VeenF500mlとアトニンO10Aを投与した。 原告Aが被告病院に来院し、I医師は、出血が2000mlを超えるため場合によっては輸血が必要となること、救命救急センターのあるL大学病院へ搬送すること、子宮内胎児死亡が原因で血が止まりにくくなることがあるので、これが関係しているかもしれないことなどを説明した。 出血量の測定の結果、270グラムの出血(総出血量2182グラム)を認め、加えて350mlの血尿が認められた。 バイタルサインは、血圧91/65、脈拍104であった。 血液検査の結果は、白血球数21500、赤血球275万、Hb値7. 5、Ht値22.7、血小板数21.6万であった(医師記録、助産師記録、甲B12、乙A1〔26〕、B23〔5〕、証人I〔10〕)。 サ 16時43分、被告病院は大井救急隊に連絡した。出血量の測定の結果、300グラムの出血(総出血量2482グラム)を認めた。SaO2は100%であり、意識は清明であった(医 10〕)。 サ 16時43分、被告病院は大井救急隊に連絡した。出血量の測定の結果、300グラムの出血(総出血量2482グラム)を認めた。SaO2は100%であり、意識は清明であった(医師記録、助産師記録、東京消防庁大井消防署大井救急隊に対する調査嘱託の結果)。 シ 16時48分、大井救急隊が被告病院に到着した。亡Gの意識は清明であった(助産師記録、東京消防庁大井消防署大井救急隊に対する調査嘱託の結果)。 ス 17時00分、亡Gを乗せた救急車が被告病院を出発した。亡Gの意識は清明であった。原告Aは自宅へ戻り、I医師は救急車に同乗した(甲B12、助産師記録、乙B23〔5〕、東京消防庁大井消防署大井救急隊に対する調査嘱託の結果)。 セ I医師は、搬送中に左手背から点滴していたVeenF500mlとメテナリン3Aが終了したので、救急車に備え付けのラクトリンゲル液500mlに交換した(甲A2〔18〕、乙B22〔17〕、23〔5〕、東京消防庁大井消防署大井救急隊に対する調査嘱託の結果。なお、原告らは、ラクトリンゲル液の使用の事実につき、疑問を提起していたが、この点は同調査嘱託の結果により優に認めることができる。)。 ソ以上の経過において、搬送中も含めて被告病院において行われた輸液の総量は、左前腕、左手背、右手首(FOY、メテナリンを除く)の3ルートから、5%ブドウ糖液1300ml、ヘスパンダー500ml、VeenF800ml、ラクトリンゲル300mlの合計2900mlであり、出血量の総量は2482グラムであった(医師記録、助産師記録、甲A2〔18〕、弁論の全趣旨)。 (4) L大学病院における治療経緯ア 17時15分、亡Gを乗せた救急車はL大学病院に到着した。到着時の グラムであった(医師記録、助産師記録、甲A2〔18〕、弁論の全趣旨)。 (4) L大学病院における治療経緯ア 17時15分、亡Gを乗せた救急車はL大学病院に到着した。到着時のバイタルサインは、血圧91/66、脈拍173、呼吸数28/分、SpO2測定不能であり、問いかけには開眼していた(甲A2〔7、15〕)。 L大学病院医師らは、DIC及び重症の出血性ショックと診断し、輸血は緊急を要すると判断し、MAP、新鮮凍結血漿(FFP)の準備を開始した(証人K(書面尋問)、証人M(書面尋問))。 K医師は、亡Gの子宮が臍下二横指に硬く触れたこと、にもかかわらず依然として強出血が続いていたことから、弛緩出血以外の要因であると考えた(証人K(書面尋問))。 イ 17時24分の血液ガス検査の結果は、PH7.433、PCO212.3、PO2171.4、HCO3-8.2、BE-14.9であった(甲A2〔7〕)。 ウ 17時25分、プラズマネートカッターの投与が開始された(甲A2〔18、51〕)。 エ 18時05分にFFP1単位、18時10分にMAP3単位の投与が開始された(甲A2〔18〕)。 オ 18時43分、超音波検査を実施した。子宮収縮は良好であり、腹腔内出血も認められなかった(甲A2〔12〕)。 出血が増加したので、子宮体部にヨードホルムガーゼにより圧迫止血を施行したが、止血はできなかった。子宮全摘術、子宮動脈塞栓術はDIC傾向が強く、外科的処置が危険な状態にあったため実施は見送られた(甲A2〔2、16〕、K証人(書面尋問))。 カ平成13年6月16日2時04分、亡GはDICを原因とする出血性ショックのため 強く、外科的処置が危険な状態にあったため実施は見送られた(甲A2〔2、16〕、K証人(書面尋問))。 カ平成13年6月16日2時04分、亡GはDICを原因とする出血性ショックのため、死亡した(甲A2〔22〕)。 (5) 血液センターに対する調査嘱託の結果の要旨は、以下のとおりである。 ア血液センターは電話で受けた発注内容を電話連絡用受注票に記すところ、平成14年6月15日に、被告病院からのFAX発注票の受信及び電話連絡用受注票の起票はない。 イ車輌日誌によれば、本件当日に稼働した血液センターの車輌が、同日午後に被告病院へMAPを配送した記録は存在しない。 ウ血液センターから被告病院に配送するに当たっては、受注から出発準備まで5分ないし10分、走行時間だけで15分ないし20分を要する。 エ平成13年7月1日から平成14年6月30日までの間に、被告病院から血液センターへMAPが返戻されたことはない。 オ平成14年6月15日のメモには、被告病院からの電話連絡に関する記載があり、同日18時30分を到着時刻指定し、MAP10単位とFFP10単位とする記載が変更されて、MAP6単位のみとなったとの内容が記載されているが、同メモには受注した場合に記載する発注者名、患者名の記載がない。 2 争点(1)(被告病院における止血措置の適否)について(1) 被告病院における亡Gの出血原因本件においては、被告病院における亡Gの出血原因が弛緩出血であるかDICによるものであるかが争われているところ、以下の証拠によれば、弛緩出血及びDIC等について、以下の医学的知見が認められる。 ア弛緩出血について(ア) 児の娩出後、子宮筋 によるものであるかが争われているところ、以下の証拠によれば、弛緩出血及びDIC等について、以下の医学的知見が認められる。 ア弛緩出血について(ア) 児の娩出後、子宮筋が良好な収縮を来さないものを子宮弛緩症という。子宮弛緩症が起こると、子宮筋の収縮は妨げられ、胎盤剥離部の断裂血管及び子宮静脈洞が閉鎖され得ないため、大出血を来す。これが弛緩出血である(甲B1)。 (イ) 弛緩出血では、子宮は柔軟であり、出血は暗赤色である。腫大上昇した柔軟な子宮体を触れ、これを圧して凝血が排出されれば診断は確定される(甲B1)。 (ウ) 一般的に胎盤が出た後は、子宮底を臍下二、三横指に触れる状態が良好な子宮収縮であるが(鑑定人Q〔7〕)、弛緩出血の場合は、子宮底が軟らかすぎて触れることが難しいか、あるいは子宮底が臍高上に触れる(甲B1、証人H〔49〕)。 (エ) 正常な子宮内腔は、超音波検査によって細い線状に描写されるか、内腔に少量の液体貯留を認める(乙B11、鑑定人P〔8〕)。 イ弛緩出血に対する治療法(ア) 双合子宮圧迫法子宮の弛緩が極めて高度で強出血が続くときの救急処置としては、双合子宮圧迫法がある。これは、内手をもって子宮頸を輪状につかみ、これを強く圧迫するとともに、外手をもって腹壁上から子宮体を把持し、強く引き上げるとともに前屈させて、内外両手相呼応して、内子宮口の部分で折れ曲がった子宮を、恥骨結合に向かって強く圧迫するものである。2~5分で子宮は収縮し、出血は止まることが多いが、不十分ならば15~20分間この圧迫を続ける。この方法は次に行う点滴静注の準備が整うまでの間の出血を少なくし、短時間に行え て強く圧迫するものである。2~5分で子宮は収縮し、出血は止まることが多いが、不十分ならば15~20分間この圧迫を続ける。この方法は次に行う点滴静注の準備が整うまでの間の出血を少なくし、短時間に行え、かつ大部分の患者に有効である(甲B1、乙B6)。 双合子宮圧迫法は子宮の内腔を確認する過程において一般的に行われている手技である(鑑定人Q〔25〕)。 (イ) 子宮腟強タンポン法(子宮内ガーゼ充填法)弛緩出血に対し子宮腟強タンポン法を行うこともある。これは、子宮腔及び腟内を、滅菌ガーゼをもって固く充填する方法であり、充填後に抗生物質の投与を行い、24時間後にタンポンを除去するというものである(甲B1)。 もっとも、この方法をとると、子宮内の血液、凝血塊の貯留のため、子宮収縮が抑制されたり、さらに子宮内に血液が貯留してしまい出血量が測定不能なこと、さらに子宮内圧の上昇による菌血症やエンドトキシン血症などの危険性があることなどから、最近ではこの方法はほとんど行われないとか、一時的に圧迫止血を図る目的で腟内にタンポンを充填するとの指摘がされている(乙B1、B6(1999年の文献)、鑑定人Q〔25〕、同P〔25〕)。 ウ DICについて(ア) DICとは、本来は凝血が起こらないはずの血管内において種々の原因により凝固機転の亢進が起こり、全身の微小血管内に多数の血栓が形成される症候群であり、腎、肺、脳などの主要臓器に障害をもたらすとともに、血小板、凝固線溶因子及び阻止因子の消費をきたして出血傾向(消費性凝固障害)を示すことが知られている(甲B1、乙B1、24)。 (イ) 血管内血液凝固では、フィブリノーゲン、プ もに、血小板、凝固線溶因子及び阻止因子の消費をきたして出血傾向(消費性凝固障害)を示すことが知られている(甲B1、乙B1、24)。 (イ) 血管内血液凝固では、フィブリノーゲン、プロトロンビン、第Ⅴ因子、第Ⅷ因子、血小板等が消費されて多因子性凝固障害を起こし、出血する。このとき、フィブリノーゲン量が100mg/dl以下になれば低フィブリノーゲン血症という。その後、微小血栓を溶かそうとする二次的な生体反応としてプラスミンが活性化され、著明な出血傾向となる。これが消費性凝固障害で、線溶現象も亢進する血管内凝固-線溶症候群を来す。すなわち、血管内の凝固と線溶が同時に起こっているが、症例によっては前者のみ、あるいは後者のみ強く起こるものもある(甲B1)。 (ウ) 産科DICの基礎疾患として、羊水塞栓症が挙げられる(乙B1、10、28、鑑定の結果〔各意見の要旨〕)。 羊水塞栓症の病態整理は十分に解明されていないが、羊水成分が何らかの原因による母体血中に入り、それによってDICが発症し、分娩後に子宮から非凝固性の出血が多量になるのが特徴であるとされる(乙B28)。 (エ) 以下の基準を充たす場合は、臨床的羊水塞栓症として対処するとの文献が存在する(乙B29)。 ①妊娠中又は分娩後12時間以内の発症②下記に示した症状・疾患(ひとつ、またはそれ以上でも可)に対して集中的な医学治療が行われた場合ア心停止イ分娩後2時間以内の大量出血ウ DICエ呼吸不全 ア心停止イ分娩後2時間以内の大量出血ウ DICエ呼吸不全③観察された所見や症状が他の疾患で説明できない場合(オ) DICによって出血した血液はサラサラしており、凝固しにくいのも特徴であり、このように子宮から出血が低凝固性のものであることは、産科におけるDICの診断基準の一つとすることが提唱されている(甲B14、乙B1、28、33)。 (カ) 尿は糸球体輸入小動脈を流れる血液が腎糸球体濾過膜で濾過された後、尿細管にて再吸収され、腎盂を経て尿管、膀胱へと流れていく。血尿は、DICに続発した赤血球破砕症候群により破壊された赤血球が腎糸球体濾過膜で濾過されず、尿管、膀胱に漏出したものと考えられる。また、DICによる出血傾向のため、腎臓、尿管、膀胱のいずれかあるいは複数で出血した可能性もある(乙B22〔10〕、27〔2〕、証人H〔12〕)。 (キ) DICスコア自覚症状として子宮の著明な圧痛出現を発症の目安とすると、発症後5時間以内に治療すれば腎不全、DICなどの合併症も少なく、胎児の予後も比較的良い。したがって、すべての検査結果が出てからDICと診断し治療するのでは手遅れであるので、DICの治療に踏み切るためのDICスコアが提唱されている(甲B14、乙B1、28、33)。 (2) 前記1の診療経過及び2(1)の医学的知見にしたがって、被告病院における亡Gの出血原因が弛緩出血であるか否かについて検討する。 ア子宮収縮の状態について前記(1)ア(イ)ないし(ウ)において認定したとおり、弛緩出血が生じた場 病院における亡Gの出血原因が弛緩出血であるか否かについて検討する。 ア子宮収縮の状態について前記(1)ア(イ)ないし(ウ)において認定したとおり、弛緩出血が生じた場合、腹部触診で腫大上昇した柔軟な子宮体を触れ、子宮底は軟らかすぎて触れることが難しいか、臍高上に触れられるにとどまるものと認められる。一方、正常な子宮は腹部触診で子宮底を臍下二、三横指に触れ、超音波検査によって、子宮内腔は細い線状に描写されることが認められる。 これを本件についてみるに、前記1(3)イないしオに認定したとおり、15時15分には、子宮硬度は不良であったことが認められるものの、臍下一横指に子宮底を触れることができ、15時40分には臍下二横指に子宮を触れることができ、収縮も良好になっていた。また、15時43分の超音波検査の結果、子宮の腟が線状に描出されている。 したがって、本件においては一時的な子宮収縮不全が生じていたことは認められるものの、弛緩出血の所見を子宮状態に見出すことはできない(鑑定人Q〔8〕)。 なお、16時10分には子宮収縮不良であったことが認められるものの、亡Gの出血が増加したことによる子宮収縮の抑制であり、二次的な現象であると認められるから(鑑定人Q〔24〕)、かかる事情は上記認定を覆すものではない。 イ L大学病院のカルテの記載原告らは、L大学病院のカルテには「弛緩出血」との記載がある(甲A2〔1、3、5、20〕)と主張するが、L大学病院搬送時には亡Gの子宮が臍下二横指に硬く触れられており(甲A2〔8〕、証人K(書面尋問))、上記記載は、救急医学の立場から、子宮からの出血が弛緩出血によると聞いていたために外来・入院と一貫してそのよ 送時には亡Gの子宮が臍下二横指に硬く触れられており(甲A2〔8〕、証人K(書面尋問))、上記記載は、救急医学の立場から、子宮からの出血が弛緩出血によると聞いていたために外来・入院と一貫してそのように記載したものにすぎないと認められるから(証人M(書面尋問)〔10〕)、上記記載をもって弛緩出血が生じていたとすることはできない。 ウ MAPの注文、止血のための措置を行っていたこと原告らは、前記1(3)イに認定したように、被告病院医師がMAPの注文を指示したこと及び子宮収縮剤の投与、輪状マッサージ及びアイスノン等の措置を行っていたことは、弛緩出血が確認されたからであると主張する。しかし、後述(3(1)エ(ウ))するように、DICが生じた場合であっても出血性ショックの予防ないし措置としてMAPを投与する場合があることは認められるのだから、MAPの注文を指示していたことからDICである事実を否定することはできないし、子宮収縮剤の投与、輪状マッサージ及びアイスノンは産科出血の際に行う一般的な処置であるのだから(鑑定人Q〔7、8〕)、被告病院が原告らの主張する措置を行っていたからといって弛緩出血が生じていたものと認めることはできない。むしろ、被告病院が子宮収縮剤の投与、輪状マッサージ及びアイスノン等の措置を行った後、子宮収縮が良好になったことは、本件の子宮収縮不良が一時的なものに過ぎないことを推認させるものというべきである(鑑定人Q〔8〕)。 エ以上のことからすると、被告病院における亡Gの出血は弛緩出血によるものとは認められない。 (3) 亡Gの出血原因ア前記1(3)ウに認定したとおり、亡Gの出血は終始どす黒くさらさらしていたこと、16時15分に肉眼的血尿が確認された事実が認められ のとは認められない。 (3) 亡Gの出血原因ア前記1(3)ウに認定したとおり、亡Gの出血は終始どす黒くさらさらしていたこと、16時15分に肉眼的血尿が確認された事実が認められるところ、前記(1)ウ(オ)(カ)に認定したところによれば、これらの事実は産科DICスコアにおいてそれぞれ基礎疾患、臨床症状として挙げられており、DICによる消費性凝固障害及び赤血球破砕症候群を強く疑わせるものであることが認められる。 そして、鑑定人らも一致して、本件において非凝固性の出血が生じていた事実を指摘して、分娩時から、羊水塞栓等の原因に基づくDICが発症していた可能性が高いと述べている(鑑定の結果〔各意見の要旨〕)。 以上の点を総合すれば、被告病院における亡Gの出血原因は、羊水塞栓等の原因に基づくDICであると認められる。 イこの点について原告らは、被告病院の助産師記録中には、「コアグラあり」との記載が存在することから、非凝固性の出血が生じるDICとは矛盾すると主張する。一方、分娩後から診療を行っていたI医師は、コアグラを排出した現象は見ていないと供述しており(証人I〔4〕)、助産師記録の記載との間に齟齬が生じている。 前記1に認定したとおり、助産師記録は被告病院の助産師が記載したものであることからすると、I医師が助産師記録の記載と異なる内容の供述をしたからといって、直ちに同人の供述を排斥し得るものではない。むしろ、I医師自らが作成したとする被告病院の診療録にはコアグラが認められた旨の記載はなく(医師記録)、FOYの投与が開始された事実等からI医師を含めた被告病院医師らがDICの発症を疑っていたことは明らかであることなどからすると、I医師がDICの発症を否定するようなコ た旨の記載はなく(医師記録)、FOYの投与が開始された事実等からI医師を含めた被告病院医師らがDICの発症を疑っていたことは明らかであることなどからすると、I医師がDICの発症を否定するようなコアグラを確認しながらその事実を秘しているものとは考えられず、I医師は自らの観察した所見を正確に述べているものと評価すべきである。そうすると、助産師記録の記載のとおり、コアグラが存在したとしても、それはDICの発症を否定するような態様のものではなかった可能性が高いものと認められる。 さらに鑑定人も、仮にコアグラが存在したのだとしても、15時45分の時点では血小板が17万残っていたところからすると、一部分が凝固してコアグラが生じることも不思議ではないと指摘して、DICが発症していたことは間違いないと述べている(鑑定人Q〔15、17〕)。 したがって、本件においてDICの発症を否定すべき程度のコアグラが確認されたと認めることはできず、仮にコアグラが存在したとしても、前記認定を覆すに足りるものではない。 ウなお、被告病院での血液検査においては、血小板値が基準値を下回っていないが、証拠(乙B33、証人I〔20〕)によると、産科DICにおいては一般のDICに比べて血小板数はあまり減少しないことが認められるから、この点は、DICの発症を否定するものではない。 (4) 原告らは、被告病院が採るべき止血措置を採らなかったと主張するが、その主張は、亡Gの出血が弛緩出血によって生じたものであることを前提とするところ、その前提を欠くことは前記(3)アで認定説示したとおりである。したがって、原告らの主張は、具体的止血措置について検討するまでもなく、理由がないといわざるを得ないが、なお念のため、被告病院における具体的 の前提を欠くことは前記(3)アで認定説示したとおりである。したがって、原告らの主張は、具体的止血措置について検討するまでもなく、理由がないといわざるを得ないが、なお念のため、被告病院における具体的止血措置について付言する。 ア双合子宮圧迫法原告らは、双合子宮圧迫法はカルテに記載がなく実施されていないと主張し、被告は、カルテに記載する必要性が乏しかったので記載しなかったと主張するところ、証拠(乙B22〔10〕、26〔13〕、証人H〔11〕)によれば、16時10分に子宮収縮不良となった段階で、H医師は子宮双手圧迫術を試みたが、子宮が硬く圧迫効果が期待できなかったので中止したことが認められ、カルテに記載がないという一事をもって、子宮双手圧迫法が実施されていないと認めることはできず、他にこれを覆すに足りる的確な証拠はない。 イ子宮腟強タンポン法前記(1)イ(イ)に認定したとおり、子宮腟強タンポン法については弛緩出血に対する措置としてもその有効性には疑問が呈されているところであるし、3名の鑑定人も本件において実施する必要性がないことを一致して認めている(鑑定の結果〔意見の要旨、25〕)。よって、子宮腟強タンポン法を実施する義務があるとは認められない。 (5) 以上のとおり、争点(1)にかかる原告らの主張はいずれも理由がない。 3 争点(2)(亡Gの出血に対する輸血、輸液等の適否)について争点(2)に関して原告らの主張するところは複雑であるものの、根本的な主張としては、被告病院においてL大学病院への搬送前に、亡Gに対するMAPの投与が必要であったというものである。前記2(3)アで認定説示したとおり、被告病院における亡Gの出血は、分娩直後からのDIC発症によるもので 告病院においてL大学病院への搬送前に、亡Gに対するMAPの投与が必要であったというものである。前記2(3)アで認定説示したとおり、被告病院における亡Gの出血は、分娩直後からのDIC発症によるものであることが認められるところ、争点(2)についても、この点を前提にした上で判断することとする。 (1) 証拠及び弁論の全趣旨によれば、DICを含めた急性大量出血に対する治療について、以下の医学的知見が認められる。 ア DICに対する治療(ア) DICに対する治療は、基礎疾患の早期排除、抗凝固療法・抗線溶療法、補充療法に分けられる(甲B14、乙B33)。 (イ) 抗凝固療法についてDICは凝固・線溶系及びキニン産生に関連する蛋白分解酵素の過剰活性化状態であることが多く、これを阻害するメシル酸ガベキサート(FOY)、メシル酸ナファモスタット(FUTHAN、フサン)などの蛋白分解酵素阻害剤が用いられるとともに、生体内に存在する凝固因子AT-Ⅲ濃度を水準以上に保つためにアンチトロンビン製剤を用いる。(甲B14、乙B1、25、28、33)。 このうち、アンチトロンビン製剤については、AT-Ⅲ値が70%以下の場合、補充のため1500~3000単位/日を静注する。ヘパリンはAT-Ⅲの活性を増強する作用を有するが、出血を助長する場合が多いので、出血傾向の副作用がないアンチトロンビン製剤を用いる(甲B14、乙B28、33、鑑定人P〔意見の要旨〕)。 (ウ) 補充療法についてDICは消費性凝固障害の状態であり、輸血(保存血、新鮮血、FFP、血小板輸血)を行って凝固因子を補充する(甲B14、乙B33)。 (ウ) 補充療法についてDICは消費性凝固障害の状態であり、輸血(保存血、新鮮血、FFP、血小板輸血)を行って凝固因子を補充する(甲B14、乙B33)。 出血量が2000ml以上の出血では、凝固因子を多く含む保存血と新鮮血を輸血する(乙B28)。 抗凝固療法の併用下に、血小板数は3~5万/μL以上、フィブリノゲンは75-100mg/dl以上になるように濃厚血小板あるいは新鮮凍結血漿を補充する(乙B25)。 新鮮凍結血漿(FFP)は、フィブリノゲンのみならずその他の凝固因子の補給に有効である。通常はフィブリノゲン値が150ml/dlを維持できるように輸血する。MAP輸血時は新鮮凍結血漿(FFP)を投与する(乙B28、33)。 DICではしばしば赤血球が凝集破壊して溶血が起こりやすく高カリウム血症となったり、高ヘマトクリットによる血液粘度上昇(DICをさらに悪化させる)が起こりやすく、赤血球濃厚液輸血の際には赤血球過剰にならないよう十分注意し、Htは30%程度を目安にする(乙B33)。 抗凝固療法を行わずに一方的に補充療法を行うことはかえって過凝固状態/消耗性凝固障害を助長するので、決して行ってはならない。抗凝固療法が不十分な状態に濃縮血小板、凝固因子の補給を行うと不足していた因子が次々と活性化されてDICは悪化する。このようなことが起こらないように、随時採血して、FDP、Dダイマー、ATⅢ等の凝固線溶分子マーカーを確認しながら、それらが適切な量になるようにコントロールしなければならない。そのため、十分な物的設備に加えて、医師や検査技師等の人的条件の整った施設で行う必要がある(乙B33、鑑定人P〔59〕、証 確認しながら、それらが適切な量になるようにコントロールしなければならない。そのため、十分な物的設備に加えて、医師や検査技師等の人的条件の整った施設で行う必要がある(乙B33、鑑定人P〔59〕、証人H〔60〕)。 イ輸血について(ア) 一般に手術後の輸血は、術前と同様に心肺機能が正常な若い成人ではHb値8g/dlあれば輸血による補正の必要は全くない。しかし、心肺機能が明らかに低下している症例では、輸血でHb値を10g/dlまで回復させることが必要であるとされている(甲B3)。 赤血球輸血の厚生省適正使用基準は、600ml以下の出血に対しては、原則として無輸血であるが、600~1200mlの出血については赤血球濃厚液(MAP)のみ、1200mlを超える場合に初めてMAPと全血を適宜併用すべきとする(甲B3)。 MAP(マンニトール・アデニン・リン酸塩加赤血球)は、献血された血液を分画して赤血球成分を抽出した血液製剤であり、MAP輸血は病的状態が生じるまでに赤血球が減少した場合に、血液の酸素運搬能の改善をはかり、急速に進行する低酸素症を防止するために行われる(甲B1、弁論の全趣旨)。 日本赤十字社が発行している血液製剤の使用指針(2000年1月刊)によれば、全身状態良好な患者で、循環血液量の15~20%の出血が生じた場合は、細胞外液系輸液薬を出血量の2、3倍投与し、循環血液量の20~50%の出血が生じた場合には、細胞外液経輸液薬と共にMAPを投与するとされている(乙B4)。 成人の循環血液量は、体重1kg当たり約70mlであり、循環血液量の40%(成人で1500~2000ml)以上が生理的代償域の限界である APを投与するとされている(乙B4)。 成人の循環血液量は、体重1kg当たり約70mlであり、循環血液量の40%(成人で1500~2000ml)以上が生理的代償域の限界である。 循環血液量の20%(800~1000ml)以上の急性出血が、余裕と安全を考慮しての輸血開始時期といえる(甲B3)。 (イ) 母体の血液量は妊娠の進行とともに増加し、特に妊娠末期には非妊娠時より約30%以上増加しているといわれている(乙B4、21)。 (ウ) 交差適合試験(クロスマッチ)とは、患者の全血とMAPとを遠心分離器にかけて、血球と血漿を交差させて検査をするものである(証人H〔51〕)。 クロスマッチは検査技師が行うのが通常であり、現場にいる医師は、クロスマッチに慣れておらず、何単位ものクロスマッチをするには、検査技師が行うのと比べて長時間を要するので、一般的にクロスマッチを行うことは避けるようにいわれている(証人H〔51〕)ウ出血性ショック(ア) 出血性ショックとは、出血により有効循環血液量が減少し、末梢組織への十分な血流が維持できなくなった結果発生する組織の機能障害であり、これが遷延すると臓器不全に陥る。すなわち、末梢組織還流は、主に(全身)動脈血圧、臓器の血管抵抗、臓器の微小循環系の保持の3要素によって規定される。ショックにおいては、これら3要素のいずれもが障害されて末梢組織還流の低下→組織低酸素症→嫌気性解糖の亢進→代謝性アシドーシス→末梢組織還流のさらなる低下という悪循環が成立し、組織構成細胞の障害が起こっており、この悪循環を阻止できなければ早い段階で不可逆性ショックに陥る(甲B15、乙B7)。 (イ) 産 ス→末梢組織還流のさらなる低下という悪循環が成立し、組織構成細胞の障害が起こっており、この悪循環を阻止できなければ早い段階で不可逆性ショックに陥る(甲B15、乙B7)。 (イ) 産科における出血性ショックの特徴は、①短時間のうちに大量の出血をみることが多い、②多くは外出血であり、出血量の測定又は推定が容易である、③多くは循環血液量が非妊娠時より30%程度増加しており、失血に対する耐容性が高い、④多くは重篤な全身合併症を持たない若い患者であり、全身管理が容易であるという点が挙げられる(乙B7)。 (ウ) ショックの症状としては、①顔面蒼白、②末梢の虚脱、③脈拍の欠如、④冷汗、⑤呼吸不全の5つである。このほか、不穏、不安感、更に症状が進めば意識障害、傾眠、昏睡に至る。また、循環血液量の低下に伴い口渇を訴え、尿量の減少が起こる(甲B15、乙B2、14)。 (エ) ショックの診断基準として、血圧低下並びに後記の小項目3項目以上に該当する場合をショックとするとの文献がある(乙B14)。 血圧低下とは、収縮期血圧90以下であるか、通常の収縮期血圧が150以上の場合は通常より60以上の血圧下降、通常の収縮期血圧が110以上の場合は通常より20以上の血圧下降のいずれかをいう。 小項目として、①心拍数100回以上、②微弱な脈拍、③爪床の毛細血管のrefilling遅延、④意識障害又は不穏・興奮状態、⑤乏尿・無尿(0.5ml/kg時以下)、⑥皮膚蒼白と冷汗が挙げられる。 (オ) 出血性ショックにおける問題の核心は、末梢組織の還流の障害であって、血液の酸素運搬能の障害ではない。特にショックにおいては、一刻も早くその悪循環を断ち切ることが 挙げられる。 (オ) 出血性ショックにおける問題の核心は、末梢組織の還流の障害であって、血液の酸素運搬能の障害ではない。特にショックにおいては、一刻も早くその悪循環を断ち切ることが重要であり、そのためには循環血液量の回復が焦眉の課題である。循環動態が十分に維持できれば、循環血液量の20%までの出血は補液のみで十分であり、循環血液量さえ確保されて末梢組織の還流が正常化すれば、Hb値が3~4g/dlもあれば生命の維持は十分可能であるとの指摘がある(甲B3、乙B7)。 むしろ、ショック状態では、末梢血管が収縮して血液が流れにくくなっていることから、過剰輸血が行われると、血液粘度が上昇してかえって末梢循環を悪化させる(乙B7)。 エ DICに対するMAP投与の必要性DICに対するMAP投与の必要性に関する鑑定の結果の要旨は、以下のとおりである。 (ア) 基礎疾患の除去、抗凝固療法、酵素阻害剤が治療の基本であるが、出血が多い場合は補液療法で循環動態を安定させる必要があり、さらに増加した場合はMAPを含めた血液製剤(新鮮凍結血漿、血小板製剤、蛋白製剤)の使用が考慮される(鑑定人Q〔意見の要旨、59〕、同P〔58〕)。 (イ) DICに対しては凝固成分を補充する必要があり、その点に関する限りMAPは有効ではない(鑑定人P〔意見の要旨〕、鑑定人R〔意見の要旨、36、45〕)。 (ウ) もっとも、出血が続いている段階では、循環血液量を維持して出血性ショックを予防するために、MAPを投与するほうがよく(鑑定人Q〔31〕、同P〔33、35〕、同R〔33〕)、出血性ショックに陥った段階では、原因はDICであるとしても、MAPの 量を維持して出血性ショックを予防するために、MAPを投与するほうがよく(鑑定人Q〔31〕、同P〔33、35〕、同R〔33〕)、出血性ショックに陥った段階では、原因はDICであるとしても、MAPの投与は必要である(鑑定人R〔37〕、同Q〔37〕、同P〔37〕)。 (エ) 他方、DICの場合のMAP投与によって、赤血球が凝集破壊して溶血が起こりやすく、高カリウム血症が生じたり、DICをさらに助長する可能性もある(鑑定人Q〔30〕)。 (2) 以上の医学的知見を前提に、MAP投与の必要性について検討する。 ア前記3(1)ア、エ(ア)に認定したところを総合すれば、DICによる大量出血は消費性凝固障害で、線溶現象も亢進する血管内凝固-線溶症候群により生じるものであり、DICに対する治療は基礎疾患の早期排除、抗凝固療法・抗線溶療法、補充療法であって、補充療法についても随時採血して、FDP、Dダイマー、ATⅢ等の凝固線溶分子マーカーを確認しながら、それらが適切な量になるようにコントロールしなければならないことが認められる。 そうすると、MAPは濃厚赤血球であって凝固因子を保有するものではないから、DICに対する治療として有効であると解することはできないし、前記エ(イ)に認定したとおり、鑑定人もDICに対するMAPの投与は無効であると指摘しているものである。したがって、DICに対する治療という観点からみるかぎり、MAPを投与すべき義務があると解することはできない。 なお、乙B10号証の文献はDICの治療には輸血は最も有効であると述べ、乙B33号証の文献はDICの治療としてMAPの投与を指摘する。しかしながら、いずれの文献も、MAPに先だって、凝 なお、乙B10号証の文献はDICの治療には輸血は最も有効であると述べ、乙B33号証の文献はDICの治療としてMAPの投与を指摘する。しかしながら、いずれの文献も、MAPに先だって、凝固因子を多く含む保存血と新鮮血を輸血すべきと述べて凝固因子の補充を優先していること、乙B33号証の文献は、輸血はショックの病態に合わせて行うと述べていることからすれば、いずれの文献も、出血性ショックに対する治療としてのMAP投与の必要性を述べたものであり、DICに対する治療としての有効性を述べたものではないと理解すべきである。 イ一方、前記エ(ウ)に認定したとおり、出血性ショックに陥った段階では、原因はDICであるとしても、MAPの投与は必要であるという点においては、鑑定人らの意見が一致しているところ、被告病院医師らも、本件において手元にMAPがあり、重篤な出血性ショックの状態に陥っていればMAPを投与したと供述している(証人H〔43ないし44、47〕、証人I〔29〕)。以上の事実からすれば、DICが生じていたとしても、DICによる出血が増大し、出血性ショックに陥った段階では、MAPの投与を行うべき義務があるというべきである。 なお被告は、DICに対するMAP投与はむしろ生体への侵襲が強く有害であり、投与することが禁忌であるかのごとく主張する。確かに、DICの直接の治療としては無効であること、溶血等のリスクがあるため慎重な投与が必要であることは認められるものの、それを超えて一般的にDICに対するMAP投与が有害であるとまでいうことはできず、本件においてはそのような指摘をする文献その他の証拠も認められない。かえって被告病院担当医師らも、本件において手元にMAPがあり、重篤な出血性ショックの状態に陥っていればMAPを でいうことはできず、本件においてはそのような指摘をする文献その他の証拠も認められない。かえって被告病院担当医師らも、本件において手元にMAPがあり、重篤な出血性ショックの状態に陥っていればMAPを投与したと供述しているのだから(証人H〔44、47〕、証人I〔29〕)、その必要性の程度についてはともかく、DICに対してMAP投与が禁忌とはいえない。 ウさらに、出血性ショックには至っていないが出血が持続している場合にMAP投与義務があるか否かについて検討するのに、確かに前記エ(ウ)において鑑定人らが指摘するとおり、出血が持続している場合には出血性ショックに陥るのを予防する目的で、投与可能なMAPが存在すれば投与するのが望ましいことは否めない。しかしながら、前記エ(イ)(エ)に認定したとおり、MAPはDICの根本的な治療には結びつくものではなく、MAP投与には重大な副作用も存在することからすれば、DICに対する治療行為が完了した後であればともかく、DICに対する根本的な治療がなされていない段階で、出血が持続している場合において、MAPの投与を行うべきか否かは、医師の裁量に委ねられるべき問題であって、MAP投与義務があるとは認められない。 なお、この点について、Q鑑定人は、出血性ショックの予防という観点からは、十分な補液療法で循環動態が安定していた搬送時に輸血を考慮してもよかったし、家族の理解も得られたものと考えるとの見解を述べているが(鑑定人Q〔意見の要旨、31〕)、一方ではMAPの投与を行った場合、多少の全身状態の安定化に寄与する可能性はあるものの、最終的に救命し得るかどうかという点でどれくらい寄与できるかは難しいとの指摘をしていること(鑑定人Q〔35〕)、亡Gが被告病院を出るときにはバイタル の全身状態の安定化に寄与する可能性はあるものの、最終的に救命し得るかどうかという点でどれくらい寄与できるかは難しいとの指摘をしていること(鑑定人Q〔35〕)、亡Gが被告病院を出るときにはバイタルは安定していたことが輸血をしなかったことの根拠の一つになると考えを述べていること(鑑定人Q〔52〕)などのQ鑑定人の他の意見の内容も加味して考えた場合、Q鑑定人の上記見解は、想定し得る最善の治療は何であったかという観点から、輸血を行うことが可能となった時点が存在することを指摘したものであって、現実に行われた上記治療が最善のものとはいえないことから、患者とその家族の不満を生じさせる余地があったことをうかがわせるものであるが、それを超えて、MAPを投与すべき義務について言及したものではないというべきである。 エ以上を総合すると、DICに対しては原則としてMAPを投与すべき義務は認められないが、DICに伴って出血性ショックが生じていた場合に限り、例外的にMAPの投与をすべき義務があるというべきであるところ、前記1(3)及び(4)で認定した事実及び証拠(医師記録、助産師記録)によれば、被告病院における治療の間、亡Gの意識はずっと保たれていたこと、酸素飽和度も終始100%を維持していたこと、収縮期血圧は概ね100前後、拡張期血圧は概ね70前後で推移しており、搬送直前の16時33分の時点においても血圧91/65、脈拍104と安定していたことが認められる。かかる診療経過について検討するのに、3(1)ウ(エ)で認定した出血性ショックの診断基準に照らした場合、いまだ出血性ショックと診断すべき状況にはないといわざるを得ず、鑑定人も同旨の見解を述べている(鑑定人P〔38、40〕、同Q〔52〕)。したがって、本件においては、亡Gは被告 診断基準に照らした場合、いまだ出血性ショックと診断すべき状況にはないといわざるを得ず、鑑定人も同旨の見解を述べている(鑑定人P〔38、40〕、同Q〔52〕)。したがって、本件においては、亡Gは被告病院においては出血性ショックに陥っておらず、L大学病院への搬送後に出血性ショックに陥ったものと認められる。 そうすると、被告病院においてはMAPを投与すべき義務がなかったのであるから、原告らの争点(2)に関する主張はすべて理由がないといわざるを得ないが、念のため項を改めて、原告らのその余の主張について検討する。 4 争点(2)についての原告らのその余の主張に対する判断(1) 輸血準備措置について原告らは、亡GにDICが発症した場合の輸血に備えて、最大輸血量を予測して準備し、検査技師を確保しておく必要があったと主張する。 ア下記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、被告病院における輸血準備態勢について、以下の事実が認められる。 (ア) 事前に大量出血が予想される手術の場合や、内科的な輸血療法を施行する場合には事前に輸血用血液を準備するが、そのほかは必要に応じて血液センターに輸血用血液を注文している(乙B15、弁論の全趣旨)。 (イ) 本件当日、被告病院内にあったMAPはA型(Rh+)4単位、O型(Rh+)2単位であり、A型はすでに使途決定済みであり、その他の血液製剤の在庫はない(乙B19、20、弁論の全趣旨)。 (ウ) 被告病院においては、検査技師の当直制をとっていない。当番制によるポケベル待機を実施しており、緊急事態が発生した場合、当直婦長はポケットベルで検査技師を呼び出す。検査技師は、登院要請から到着まで約1時間かかる(乙B1 検査技師の当直制をとっていない。当番制によるポケベル待機を実施しており、緊急事態が発生した場合、当直婦長はポケットベルで検査技師を呼び出す。検査技師は、登院要請から到着まで約1時間かかる(乙B16、17、22〔13〕、弁論の全趣旨)。 (エ) 被告病院は本件当日は土曜日ではあるが開院日で、H医師とI医師は午前中、外来に出ていた。外来が終わるのは13時半から14時であり、検査技師も土曜日の午後に帰宅しており、麻酔医も不在であった(乙B22〔10〕、証人H〔58〕)。 イ下記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の医学的知見が認められる。 (ア) 子宮内胎児死亡及び死胎児症候群妊娠期間には関係なく、胎児が母体内に排出又は娩出される前に死亡する場合を、子宮内胎児死亡(IUFD)という(甲B5、乙B3)。 一般に、妊娠中期以降にIUFDの診断が確定した場合には、産道の損傷を極力避けるよう注意を払いながら、胎児とその付属物を可及的速やかに娩出させる。子宮口が閉鎖しているような場合には、前日にラミナリア桿やダイラパンを用いて開大を図っておく。陣痛促進剤による子宮内圧上昇をやわらげる必要がある(甲B5、乙B3、証人H〔5〕)。 IUFDのほぼ80%までは死亡後2~3週間以内に自然流産又は死産に終わるが、死胎児が更に長期間子宮内に稽留すると、何らかの機転で胎児や胎児付属物由来のトロンボプラスチン様物質が母体血中に流入し、血液凝固能の亢進から消費性凝固障害(DIC)を起こし、あるものでは出血傾向からショックなどの症状を起こす。これを死胎児症候群(FDS)と呼んでいる。実際に出血傾向が明らかとなるのは、IUFD全体の1~2%とされ から消費性凝固障害(DIC)を起こし、あるものでは出血傾向からショックなどの症状を起こす。これを死胎児症候群(FDS)と呼んでいる。実際に出血傾向が明らかとなるのは、IUFD全体の1~2%とされている。その場合の胎児の稽留期間については、4週間から6週間とされているが、胎児死亡後1週間以内の急激な発症も報告されている(甲B2、甲B5、乙B3、弁論の全趣旨)。 このような死胎児症候群としてのDICは、内容物を排除しようとする人工的操作をしたときに発生しやすい(甲B2)。 (イ) MSBOSとは、手術の際に準備すべき適正な血液単位数を求めたものである。確実に輸血が行われる手術では、各病院ごとに過去に行った手術から術式別に輸血量(出血量)を調査し、実際の平均輸血量の1.5倍程度の血液を交差適合試験を行って準備する方法である(甲B11、乙B8)。 ウ前記1で認定した診療経過及び前記イの医学的知見に基づいて、被告病院においてDIC発症に備える義務があったか否かについて検討する。 前記イ(ア)に認定したとおり、確かに子宮内胎児死亡の場合、分娩後にDICを発症することがあることが知られているものの、多くの場合、死亡から4週間から6週間子宮内に稽留していた場合に発症するとされているところ、前記1(1)、(2)エに認定したとおり、本件においては6月5日の超音波検査によって胎児心拍が確認されており、亡Gが胎動の減少を自覚したのは6月13日であり、死胎児の浸軟度はⅠ度であったことからすると、本件において胎児が亡Gの母体内に稽留していた期間はせいぜい2日であると認められ、このような場合に死胎児症候群並びにDICの発症を具体的に予見するのは困難であったといわなければならない。そ すると、本件において胎児が亡Gの母体内に稽留していた期間はせいぜい2日であると認められ、このような場合に死胎児症候群並びにDICの発症を具体的に予見するのは困難であったといわなければならない。それに加えて、前記1(2)イに認定したとおり、被告病院は亡Gが入院する際に凝固系の検査を含めた血液検査を実施しており、その結果血液凝固系の異常は認められなかったこと(鑑定人Q〔3〕)を併せて検討すれば、亡Gが頻産婦かつ経産婦であり子宮の収縮が悪くなる可能性があること、Hb値は10.4と軽度の貧血傾向を示していたことなどを総合考慮しても、本件において3名の鑑定人が一致して認めるとおり(鑑定の結果〔各意見の要旨〕)、本件における子宮内胎児死亡によって分娩時の大量出血を具体的に予見すべきであるということはできない。 原告らは、被告病院産婦人科はMSBOS方式により、事前に輸血用血液を予測して準備する体制を取っていたと主張するが、前記イ(イ)に認定したとおり、その定義自体からも明らかなように、同方式は確実に輸血が行われる手術における輸血準備の方式を定めたものであって、前述したように本件においては大量出血の具体的予見は困難であり、確実に輸血が行われる手術には当たらないのであるから、被告病院が同方式を採用していた又は採用しうる体制を有していた(乙B15、弁論の全趣旨)としても、そのことをもって本件における輸血の準備義務が導かれるものではない。 原告らは、ラミナリア桿の利用は子宮内圧を上昇させDIC発症の原因になると主張し、甲B第2号証にはこれに沿う記載もあるが、そもそもラミナリア桿は子宮口の開大を図って子宮内圧の異常な上昇を防止するために利用するものであり、ラミナリア桿の利用と子宮内圧の上昇とは直接的な因果関係はない(鑑定 号証にはこれに沿う記載もあるが、そもそもラミナリア桿は子宮口の開大を図って子宮内圧の異常な上昇を防止するために利用するものであり、ラミナリア桿の利用と子宮内圧の上昇とは直接的な因果関係はない(鑑定人Q〔4〕)。また、本件において亡Gの子宮内圧が異常に上昇していた事実も認められない(乙A1〔29~62〕、証人H〔5、6〕)。 エしたがって、本件において亡Gの分娩前に大量出血を具体的に予見することは困難であり、これに備えてMAP等の輸血を準備する義務も認められないから、本件においてDICの発症を予見して輸血の準備をすべきとする原告らの主張は、理由がない。 (2) 血液緊急注文に対する準備及び自ら輸血すべき注意義務についてア原告らは、輸血準備以外の事前準備として、検査技師の特別の確保、交差適合試験用の血液の採取、血管確保、輸血開始までの所要時間の検討、輸液の確保、弛緩出血やDICが発症したときの対応等万全の準備を尽くすべき義務があったにもかかわらずこれを怠り、輸血が遅れたと主張する。 しかしながら、前記(1)で認定説示したとおり、大量出血の具体的な予見は困難である以上、大量出血に備えた特別な措置が必要であるとは認められない。 また、前記(1)アに認定した被告病院の体制が、被告病院と同程度の医療機関の水準を下回っていると認めるに足りる証拠もなく、鑑定人らも被告病院の輸血準備態勢について問題があるとするものではない(鑑定の結果〔1ないし3、43〕)。 したがって、この点に関する原告らの主張は理由がない。 イなお、前記1(3)オに認定したとおり、被告病院においては、分娩の際に、1000グラムを超えて出血し、止血傾向がない場合にはMAPを注文することとされており、そのこと は理由がない。 イなお、前記1(3)オに認定したとおり、被告病院においては、分娩の際に、1000グラムを超えて出血し、止血傾向がない場合にはMAPを注文することとされており、そのことを前提とすると、1120グラムの出血が確認された15時45分頃にMAPの緊急注文を検討する必要があり、現にH医師は輸血準備を指示したのであるが、実際に看護師に対しMAPの注文指示がなされたのはそれから20分以上も経過した16時10分であり、前記1(5)の事実に加え、H医師の証言〔40〕によると、その後被告病院の医師は看護師に対し注文の取消しの指示をしていないことが認められるにもかかわらず、同病院にMAPが到着した形跡もないことからすると、被告病院から血液センターへのMAPの注文が確実にされたか否かも疑わしいといわざるを得ない(なお、前記1(5)オのとおり、血液センターには被告病院からの電話連絡に関するメモが残されているが、このメモの内容が正規の電話連絡受注票に記載されていないことに加え、この内容が被告病院のMAPの注文内容とは大きく異なっていることからすると、このメモの存在により被告病院から血液センターに対し、MAPの注文をする前提として、在庫確認や配達時刻確認等の何らかの打診があったのではないかとうかがうことはできても、被告主張の血液センターにMAPを注文した事実までは認めることはできない。)。 このような経過については、第三者からしてみればいささか釈然としないところではあり、鑑定人も、血液のオーダーに時間がかかっていると指摘している(鑑定人P〔42〕)ところではあるものの、前記3(2)エで認定説示したとおり、亡Gは被告病院においてはいまだ出血性ショックの状態には至っていなかったのであって、16時15分の時点でDICに対し る(鑑定人P〔42〕)ところではあるものの、前記3(2)エで認定説示したとおり、亡Gは被告病院においてはいまだ出血性ショックの状態には至っていなかったのであって、16時15分の時点でDICに対してMAPを投与すべき義務は認められないのであるから、上記の経過から被告病院の過失を認めることはできない。 (3) 転院のための搬送を行った過失について原告らは、本件分娩後において血液センターにMAPを注文していれば、遅くとも16時45分には被告病院においてMAP投与が可能であったにもかかわらず、被告病院はMAPの注文を取消し又は注文しないままL大学病院へ搬送した点に過失があると主張し、さらに、被告病院は亡Gを安易な見込みで合理的理由なく搬送したものであって、搬送せずに被告病院内で治療してMAPを投与すべきであったと主張する。 確かに、被告病院がMAPを注文したか否かには疑わしい点があるが、前記3(2)で認定説示したとおり、DICに対する治療は基礎疾患の早期排除、抗凝固療法・抗線溶療法、補充療法であって、MAP投与は直接的には必要ではなく、未だ出血性ショックに陥っていない状態でMAPを投与すべき義務があったとはいえないことも前述のとおりである。そして、DICに対する補充療法については、随時採血して、FDP、Dダイマー、ATⅢ等の凝固線溶分子マーカーを確認しながら、それらが適切な量になるようにコントロールしなければならないことが認められるところ、鑑定人らは、かかる検査を行うためには、十分な物的設備に加えて可能な限りの人手をかける必要があると指摘する(鑑定人P〔59〕、同R〔60〕)。 そして、前記1(3)ウ、4(1)アに認定したとおり、被告病院においては同日15時に検査室の業務が終了し、検査技師も帰 をかける必要があると指摘する(鑑定人P〔59〕、同R〔60〕)。 そして、前記1(3)ウ、4(1)アに認定したとおり、被告病院においては同日15時に検査室の業務が終了し、検査技師も帰宅していたから、被告病院において凝固系・線溶系の検査を行うこと自体がそもそも困難であるし、FFP等の血液製剤も保有しておらず、これらを迅速に投与することもできない。 したがって、DICが生じていた本件において、被告病院が、DICに対する治療が可能な設備とマンパワーを備えた高次医療機関として、L大学病院に搬送した措置は妥当であり、むしろ適切な時期に搬送したものと認められる(鑑定人P〔28〕、同Q〔28〕、同R〔29〕)。 したがって、この点に関する原告らの主張は理由がない。 (4) 輸液についてア下記の証拠によれば、輸液に関する医学的知見として以下の事実が認められる。 (ア) 出血性ショックの治療には、循環血液量の維持とともに、血管外に漏出した非機能的外液の補充が必要である。したがって、細胞外液を出血の初期の輸液に用いることは理にかなっている。しかし細胞外液だけでは膠質浸透圧が保たれない。すなわち、補液量の3分の1は血管内にとどまるが、残りの3分の2は血管外に漏出し、間質・細胞内浮腫となる。細胞外液だけで出血量分を補うには、出血量の3倍を輸液する必要がある(甲B15、乙B1、鑑定の結果〔54〕)。 (イ) 5%ブドウ糖液には、電解質が一切入っておらず、細胞外に逃れやすい(鑑定人R〔55〕)。 (ウ) アルブミン製剤の輸注効果は、膠質浸透圧の維持である。5%アルブミン溶液は正常血漿に相当する浸透圧を有しているため、循環血漿量の維持を目 外に逃れやすい(鑑定人R〔55〕)。 (ウ) アルブミン製剤の輸注効果は、膠質浸透圧の維持である。5%アルブミン溶液は正常血漿に相当する浸透圧を有しているため、循環血漿量の維持を目的として使用される(甲B3)。 (エ) ヘスパンダー等の血漿代用剤は膠質浸透圧維持作用があり、すぐには尿には排出されない。ただ、大量投与すると、血管内に貯留しすぎうっ血性心不全や血小板凝集の抑制などから出血傾向や腎障害が現れるので、最大1000ml程度にとどめるべきである(乙B10、鑑定人P〔意見の要旨〕)。 (オ) 輸血ができない場合の緊急措置としては、プラズマネートカッター等のアルブミン製剤及びヘスパンダー等の代用血漿を適宜使用することが望ましい(鑑定人R〔47、55〕、同Q〔57〕)。 イ以上に基づいて被告病院の輸液措置について検討するのに、鑑定人らが指摘するように(鑑定人R〔意見の要旨、55〕、同Q〔意見の要旨〕、同P〔意見の要旨〕)、総輸液量は総出血量からすると不足気味であること、細胞外液系の輸液量1800mlは少ないこと及び5%ブドウ糖液の代わりにアルブミン製剤を使用するのが望ましかったことは否定できない。 しかし、前記(ウ)に認定したとおり、アルブミン製剤を含めた輸液は循環血漿量の維持を目的として使用されるものであるから、出血性ショックの治療には役立つものの、DICの治療に直接的に有効であるとは認められないし、鑑定人も、輸液措置はあくまでも対症療法的なものであって根本的な出血を止めることは難しいと指摘している(鑑定人R〔56〕)。また、輸液量についても、出血の速度が速かったという事情もあったことに加え、鑑定人らも指摘するように、被告病院は最終的には あって根本的な出血を止めることは難しいと指摘している(鑑定人R〔56〕)。また、輸液量についても、出血の速度が速かったという事情もあったことに加え、鑑定人らも指摘するように、被告病院は最終的には末梢から3本の点滴ルートを確保しており、心臓の負荷などを考えれば末梢からの補液は限界であると思われること(鑑定人Q〔64〕)、頸静脈や鎖骨下静脈を使えばさらに輸液を増やすことが可能であるが、そのような手技は麻酔科、ICUの研修を経た産科医でなければ困難であり、増やせる限度も500ml程度であると考えられる(鑑定人P〔63〕)。 以上の事情を総合考慮すれば、被告病院における輸液の量及び内容は十分であったとはいい難いものの、そもそも輸液措置はDICに対する直接的な治療としては有効とはいえないことに加え、量及び内容も著しく不足であったとはいえない上、出血速度が速いことから、これ以上輸液量を増やそうとしても時間的な制約があり、被告病院としてはできる限りの輸液をしているものと認められるのであるから、この点をとらえて被告病院に過失があったと認めることはできない。 したがって、この点に関する原告らの主張は理由がない。 5 以上によれば、急激かつ予期しえない転帰が起こったことに対する亡G及び原告らの無念さは理解し得るし、MAPの注文のあり方とこれを投与しなかった点については、原告らに不満を生じさせる面があったといわざるを得ないものの、被告病院の治療は概ね適切なものであったと認められ、過失があるとは認定できないから、その余の争点について判断するまでもなく、原告らの請求は、理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第34部裁判長裁判官 いて判断するまでもなく、原告らの請求は、理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第34部裁判長裁判官藤山雅行 裁判官金光秀明 裁判官筈井卓矢 (別紙)当事者の主張(1) 争点(1)(被告病院における止血措置の適否)について(原告らの主張)ア弛緩出血の判断基準弛緩出血は、①胎児娩出後あるいは胎盤娩出後に多量の出血があり、かつ、②子宮破裂、頸管裂傷あるいは子宮内反等が否定され、③腹部触診で柔軟かつ収縮不良の子宮あるいは間歇的に収縮と弛緩を反復する子宮が触れられ、④子宮筋の収縮不良により胎児、胎盤娩出後の生物学的血管結紮が不十分となり、⑤胎盤剥離面からの出血が子宮腔内に貯留し、⑥多量の持続的暗紅色の出血が続くときに弛緩出血であると判断される。 胎盤剥離面からの出血は、子宮腔内に貯留して凝血塊となるが、凝血塊は子宮底を圧すると排出し、その色は暗赤色で、頸管裂傷出血の鮮紅色とは対照的である。 イ亡Gは弛緩出血を発症していたこと(ア) 亡Gの症状亡Gは、平成14年6月15日15時13分に胎盤娩出をしたが、その後の子宮収縮状況は、15時15分に不良、15時40分と45分に良好、16 を発症していたこと(ア) 亡Gの症状亡Gは、平成14年6月15日15時13分に胎盤娩出をしたが、その後の子宮収縮状況は、15時15分に不良、15時40分と45分に良好、16時10分と30分に不良となった。この変化は、「間歇的に収縮と弛緩を反復する子宮」が原因であった。 また、15時40分と45分には収縮良好であったにもかかわらず、15時45分に650グラムのやや暗赤色ないし少しどす黒い出血コアグラがあったが、その原因は、15時13分の胎盤娩出時の出血がその後も続き、15時15分の収縮不良により、「胎盤剥離面からの出血が子宮腔内に貯留し、多量の持続的暗紅色の出血」が続いたためであった。 そして、16時10分には収縮不良となり、16時12分の650グラムの出血があったときには、DIC(播種性血管内凝固症候群)に移行していた。 (イ) 診療録の記載乙A1の10頁、22-2頁には、「N/1F不良」との記載があり、これは15時15分の段階で、子宮底臍下一横指が収縮不良であったことを意味する。 次に、上記と同じ頁に、「だらだらと出血あり」、「やや暗赤色」、「N/2F良好」との記載があり、これは15時40分の段階で、子宮底臍下二横指が収縮良好で、だらだらとやや暗赤色の出血が持続していたことを意味する。 さらに、やはり上記と同じ頁に、「依然として暗赤色な子宮出血持続あり」、「だらだらと少しどす黒い出血コアグラあり」との記載があり、これは15時45分の段階で、子宮収縮良好で、暗赤色な650グラムの出血があったことをうかがわせる。 そして、乙A1の11頁に、「MAP5単位依頼、子宮収縮ゆるんでいるため」との記載があり。これは、16時 階で、子宮収縮良好で、暗赤色な650グラムの出血があったことをうかがわせる。 そして、乙A1の11頁に、「MAP5単位依頼、子宮収縮ゆるんでいるため」との記載があり。これは、16時10分の段階で子宮収縮が不良になったことを意味する。 (ウ) L大学病院のカルテの記載L大学病院のカルテ(甲A2)の各所に弛緩出血の記載があるが、これは、亡Gが被告病院において弛緩出血を発症した事実が情報として伝達されたものであって、決して同大学病院側の速断や聞き違いによるものではない。 (エ) 以上により、亡Gが弛緩出血を発症していたことは明らかである。 ウ弛緩出血に対してとるべき止血措置弛緩出血の治療は、輸血、輸液、子宮収縮薬の投与、子宮内容物の排除等は別として、用手的止血方法として、輪状マッサージ、双手子宮圧迫法、子宮腟強タンポン法があるが、これらは順次、段階的に実施することが予定され、輪状マッサージで止血しなければ子宮圧迫、子宮圧迫で止血しなければ腟強タンポンと、より強力な術式が順次施行されるべきである。 エ被告病院が亡Gに対して行った止血措置に過失があること(ア) 双手子宮圧迫法の不実施輪状マッサージは15時15分から実施され、15時40分と15時45分には子宮収縮良好であったが、16時10分には子宮収縮不良となり、輪状マッサージの効果がないことが確認されたから、16時10分の段階で双手子宮圧迫法が実施されるべきであったが、これが行われることはなかった。これは、診療録に実施の記載がないことから明らかである。 双手子宮圧迫法が実施されていれば、亡Gの出血は、完全止血に至らなくとも、少なくともかなりの程度が減少し、その後における出血性ショックの発症時 実施の記載がないことから明らかである。 双手子宮圧迫法が実施されていれば、亡Gの出血は、完全止血に至らなくとも、少なくともかなりの程度が減少し、その後における出血性ショックの発症時期を遅らせ、その重篤化の速度を遷延させて、以後の被告病院及びL大学病院における治療行為に有効に貢献し、亡Gが救命される高度の可能性があった。 (イ) 子宮腟強タンポン法の不実施上記の経過後、16時10分にメテナリン(子宮収縮剤)投与があり、16時12分にDICの発症が確認され、16時16分に搬送決定がされ、その後も子宮収縮不良と出血が続き、16時30分には血圧90/72、脈拍112となって、出血性ショックが発症したが、出血性ショックにおける止血方法としては、輸血ができない状況下では、子宮腟強タンポン術だけが残された唯一の方法であった。 被告病院医師らは、16時30分の出血性ショック発症と同時に、子宮腟強タンポン法を実施すべき注意義務があったが、これを行わなかった。 子宮腟強タンポン法が実施されていれば、それ以後の被告病院における出血及び搬送中の出血を抑制できたはずであり、L大学病院における治療行為に大きく貢献し、救命された可能性が極めて高いものであった。 (被告の主張)ア弛緩出血の判断基準分娩直後の大量出血を鑑別するに当たっては、まず子宮収縮の良否を見て、子宮収縮良好であれば、さらに、子宮底触知の有無、産道裂傷の有無、頚管裂傷の有無を確認することにより、それぞれ、子宮内反症、凝固障害、不全子宮破裂、頚管裂傷と診断されることになる。これに対し、子宮収縮不良であり、胎盤剥離(+)、胎盤の欠損、遺残(-)であれば、弛緩出血と診断される。 なお、子宮収縮不良の有無は、 障害、不全子宮破裂、頚管裂傷と診断されることになる。これに対し、子宮収縮不良であり、胎盤剥離(+)、胎盤の欠損、遺残(-)であれば、弛緩出血と診断される。 なお、子宮収縮不良の有無は、視診、内診、超音波検査により行うが、収縮良好の子宮では、超音波検査で内腔が線状となって描出される。 イ亡Gの大量出血は、弛緩出血ではなく、急性のDICであったこと(ア) 亡Gの症状亡Gの場合、15時40分の段階で「子宮収縮良好」、「子宮底の触知あり」の触診所見であるほか、15時43分の段階で経腹エコー写真で子宮内腔が線状に描出されており、子宮収縮が良好で、子宮内腔に遺残凝血塊のないことが明らかである。また、15時45分の段階の内診では産道損傷のないことも確認されている。 なお、15時15分の助産師記録は弛緩出血の所見ではない。 (イ) 診療録の記載まず、乙A1の22頁に「N/1F不良」と記載されているのは、15時15分の段階において、臍下一横指に子宮底を触れるが子宮収縮過程における(一般的な意味での)子宮硬度不良の意味である。 次に、乙A1の10頁に「N/2F良好」と記載されているのは、15時40分の段階において、子宮収縮良好、子宮底の触知ありの意味である。 さらに、乙A1の27-1頁においては、超音波写真で子宮内腔が線状に描出されているが、これは15時43分の時点で子宮収縮良好であったことを意味する。 そして、乙A1の10頁に「右腟壁裂傷縫合1針追加」、「頸管裂傷無きこと確認する」と記載されているのは、産道裂傷がなかったことを意味する。 加えて、子宮収縮の経過に関する原告の主張(収縮不良(15時15分)→収縮良好(15 1針追加」、「頸管裂傷無きこと確認する」と記載されているのは、産道裂傷がなかったことを意味する。 加えて、子宮収縮の経過に関する原告の主張(収縮不良(15時15分)→収縮良好(15時40分と15時45分)→再び収縮不良(16時10分)というもの)は誤りであって、実際には、15時45分まで収縮良好であった子宮が、DICに続発して徐々に収縮不良を来したものであり、子宮が収縮良好と不良を繰り返した事実はない。 なお、原告らは、出血の中にコアグラが見られたと主張するが、甲B1の362頁の記載にあるとおり、弛緩出血の場合「腫大上昇した柔軟な子宮体を触れ、これを圧して凝血が排出されれば(弛緩出血の)診断は確定される」が、本件では分娩直後から子宮底を臍下に触知しており、子宮体の「腫大上昇」も「柔軟な子宮体」といった事象もない。なお、乙A1の22-2頁の「だらだらと少しどす黒い出血コアグラあり」との記載は、だらだらと非凝固性の出血が持続し、膿盆にたまった血液の中にコアグラ(様のもの)を観察したという意味であり、上記文献の述べるところとは全く相違している。なお、DICを発症した際であっても、特に凝固機転が働いているときは、凝血様の固まりが認められたとしても格別不自然なことではない。当該助産師記録がDICを否定するものでないことはいうまでもない。 ウ弛緩出血に対してとるべき措置原告らは、弛緩出血発症例においては、子宮収縮剤、輸液、抗生剤を投与すること、子宮内容物を除去すること、輪状マッサージ、双手子宮圧迫法、子宮腟強タンポン法といった止血措置をとるべき義務があるというが、そもそも亡Gが弛緩出血を発症した事実はないから、亡Gに対し弛緩出血に対する処置としての子宮収縮剤、輸液、抗生剤投与、子宮内容物除去を行う 強タンポン法といった止血措置をとるべき義務があるというが、そもそも亡Gが弛緩出血を発症した事実はないから、亡Gに対し弛緩出血に対する処置としての子宮収縮剤、輸液、抗生剤投与、子宮内容物除去を行うべき義務はない。同様に、弛緩出血への止血法として輪状マッサージ、双手子宮圧迫法を実施すべき義務もなかった。 なお、被告病院は、亡Gに対し、子宮収縮剤投与、輪状マッサージ、アイスノン、輸液、子宮双手圧迫法を実施しているが、これらは分娩直後の全例に実施している一般的な処置(子宮収縮剤投与、輪状マッサージ、アイスノン)ないし産科出血に対する一般的な治療として実施したもの(輸液、PGF2α子宮筋局注、子宮双手圧迫法)であり、これらは弛緩出血を認めたから実施したというものではない。 エ被告病院が病態に応じた止血措置を実施していること被告病院は、分娩直後の全例に実施する一般的な処置として、15時07分の分娩以降、15時15分には子宮収縮剤(メテナリン)投与、輪状マッサージ、アイスノンを各実施しているほか、縫合終了後に異常な持続性の暗黒色の出血を見てからは、膠質浸透液(ヘスパンダー)の投与(15時45分)、子宮双手圧迫、子宮収縮剤の追加投与(16時10分までに実施)を行ったほか、産科出血に対する一般的な処置として、16時10分には子宮双手圧迫法も実施している。また、16時12分までには異常出血の原因であることが強く疑われたDICに対する処方としてFOYの投与を開始し、抗凝固線溶療法を開始している。また、16時30分にはPGF2αの子宮体部局注を実施した。 以上の措置のうち、子宮双手圧迫法以外は診療録上に記載がある。 (ア) 子宮双手圧迫法について子宮双手圧迫法については、診療録に記載はないが、 体部局注を実施した。 以上の措置のうち、子宮双手圧迫法以外は診療録上に記載がある。 (ア) 子宮双手圧迫法について子宮双手圧迫法については、診療録に記載はないが、それはこうした一般的な止血措置の実施まで記録に留める意味が相対的に低かったことによるものである。 (イ) 子宮腟強タンポン法について子宮腟強タンポン法は、その技術的困難性と治療に対する悪影響が指摘されており、むしろ実施することが不適当であったから、被告病院に当該止血術を実施すべき義務はなかった。 別の角度から見ても、本症例は、弛緩出血ではなく、子宮収縮が良好であったから、ガーゼを充填する空間もなく、当該止血法の実施は物理的に不可能であった。L大学病院が後にこの止血法を試みるも実施不能であった事実がそのことを示している。 (2) 争点(2) 亡Gの出血に対する輸血、輸液等の適否(原告らの主張)ア被告病院において、亡Gに対する輸血が遅れたこと(ア) 本件においては、輸血が必要となる事態が予見できたから、輸血体制をあらかじめ整えておくべきこと子宮内胎児死亡は、死胎児稽留期間や妊娠期間の長短に関わりなく、また、事前の検査結果の如何にかかわらず、DIC発症の危険性があった。また、遂娩操作を行うことが誘因となって急性DIC症状が突然顕性することもあるので注意が肝要とされ、さらに、ラミナリア桿の使用も子宮内圧を上昇させ、凝固亢進物質を母体血中に流入させてDIC発症の原因になることがあるとされていたから、被告病院医師らは、亡GにDICが発症した場合の輸血に備える準備をして治療に臨む注意義務があった。 a 最大輸血量を予測してあらかじめ準備しておくべきであったこと いたから、被告病院医師らは、亡GにDICが発症した場合の輸血に備える準備をして治療に臨む注意義務があった。 a 最大輸血量を予測してあらかじめ準備しておくべきであったこと被告病院産婦人科は、MSBOS方式により、事前に輸血用血液を予測して準備する体制の下で産婦人科手術を行い、産科の重症患者も積極的に受け入れて治療する方針を採用していたが、亡Gの場合には、産科手術の予定はなくても、DICによる大量出血の危険性があったから、被告病院医師らは、手術の場合の出血予測と同様に、最大輸血量を予測して事前に準備し、DIC発症に備える注意義務があった。 特に、出産が土曜日午後に予定の場合には、検査技師や看護師の勤務が手薄になるから、血液の注文と検査の実施を確実にするため、前日に注文して血液を確保し、あらかじめ検査の担当者を決めて必要な準備をおくなどの措置が必要であり、血液を注文したが来なかったとして血液センターの責任を問うとか、検査技師が不在のため緊急輸血ができなかったという事態を避けなければならなかった。 そして、準備すべき最大輸血量は、赤血球輸血の基本的使用ルールを定めた厚生労働省適正使用基準や日本赤十字社が定めた血液製剤の使用指針等に照らし、MAP10単位があれば十分である。 b 血液緊急注文に対する準備を整えておくべきであったことまた、被告は、事前に輸血用血液を準備するほかは、必要に応じて日赤血液センターに輸血用血液を注文するのであり、被告病院の場合、輸血用血液発注後、輸血開始までに要する時間は、30分から1時間であると主張している。 仮に本件において、事前に輸血用血液を準備せず、血液緊急注文で足りると解したとしても、被告病 輸血用血液発注後、輸血開始までに要する時間は、30分から1時間であると主張している。 仮に本件において、事前に輸血用血液を準備せず、血液緊急注文で足りると解したとしても、被告病院医師らは、亡GにDIC発症の危険性があったのであるから、速やかに輸血ができるよう事前の準備をしておくべきであった。 具体的には、当日が土曜日であることによる輸血検査技師の特別の確保、交差適合試験用の血液採取、血管確保、血液の発注から輸血開始までの所要時間の検討、その所要時間内に行うべき輸液の確保、弛緩出血やDICが発症したときの対応等、万全の準備を尽くすべき義務である。 (イ) 亡Gに対し輸血が必要となった時期及び亡Gの大量出血に対する輸血の開始が遅れたことa 輸血用血液をあらかじめ準備しておかなかったために輸血の開始が遅れたこと亡Gの子宮内胎児死亡の合併症は、弛緩出血からDIC、出血性ショックへと移行した。 亡Gは、非妊娠時の体重が59キログラム、循環血液量は約4000ミリリットルで(体重1キログラム当たり67.8ミリリットル)、15時45分までの累計出血1120グラムは、循環血液量の28パーセントに相当した。被告は、母体の血量は妊娠末期には非妊娠時より約40パーセントも増加していると主張しているところ、これによれば、亡Gの入院時における循環血液量は、約5600ミリリットルとなる。これと上記累計出血1120グラムとの数値をみると、この出血は、「600ないし1200ミリリットルの出血に対しては赤血球濃厚液のみ」とする厚生労働省基準によっても、「循環血液量の20ないし50パーセントの出血;細胞外液とともにMAPを投与」とする日赤指針によっても、輸液とMAP投与を必 ットルの出血に対しては赤血球濃厚液のみ」とする厚生労働省基準によっても、「循環血液量の20ないし50パーセントの出血;細胞外液とともにMAPを投与」とする日赤指針によっても、輸液とMAP投与を必要とする場合に該当し、さらに、前記の輸血実務の立場からの見解に従っても、輸液とMAP投与を必要とする事態であった。 しかるに、被告病院医師らは、MAPの事前準備を怠ったため、累計出血が1120グラムになった15時45分の時点で投与ができず、その後累計出血が1742グラム、1942グラム、2182グラム、2482グラムと増加し、また、16時30分には血圧90/72、脈拍112となって出血性ショックに陥り、ますますMAP投与の必要性が緊迫しても投与できず、その結果、搬送先のL大学病院では、治療開始後に血液センターにMAPを注文して取り寄せ、18時10分からMAPの投与を開始した。 もしも、MAP10単位の事前準備があれば、累計出血1120グラムになった15時45分の時点で投与が開始され、L大学病院でMAPの投与が開始された18時10分よりも2時間25分早く輸血が可能となったが、輸血を2時間25分早くしていれば、後記(2)の十分な輸液の投与と相まって、亡Gの出血傾向は急速に改善し、救命された可能性が極めて高いものであった。 b 血液緊急注文に対する準備が不十分であったため輸血が遅れたこと亡Gは、15時45分に累計出血1120グラムになった時点でMAP適応の状態になっていたが、この時点でMAP10単位の緊急注文が東京都赤十字血液センターにされていれば、遅くとも30分後の16時15分にはMAPの投与開始が可能であった。 しかるに、被告病院医師らは、土曜日における輸血 P10単位の緊急注文が東京都赤十字血液センターにされていれば、遅くとも30分後の16時15分にはMAPの投与開始が可能であった。 しかるに、被告病院医師らは、土曜日における輸血検査技師の特別の確保を怠ったまま、16時10分MAP5単位を当直婦長に注文し、16時12分MAP注文を10単位に変更した段階で、技師の手配と輸血準備までに1時間を要するとの返事に接したため、急遽16時16分輸血救急処理可能な医療機関への搬送を決定したが、その結果、被告病院内でMAP投与ができず、搬送先のL大学病院で治療が開始されるまでMAPの投与が遅れた。 もしも、被告病院の輸血検査技師が確保されていれば、15時45分における緊急注文によるMAPは16時15分の時点で投与が開始され、L大学病院でMAPの投与が開始された18時10分よりも1時間55分早く輸血が可能となったが、輸血が1時間55分早くしていれば、後記イの十分な輸液がされることと相まって、亡GのDICによる出血傾向は急速に改善に、救命された可能性が極めて高いものであった。 c 血液緊急注文に対する準備が不十分であっても自ら輸血すべき注意義務があったこと被告病院では、検査技師の「時間外の緊急呼出」体制を採ったことに伴い、各医師に対し、緊急対応の血液ガス、生化学、血算、輸血検査等について、技術の習得と機器の習熟をするよう督励していたところ(乙B17の2枚目)、本件で亡Gの治療に当たった被告病院医師らは、検査技師が不在であっても、15時45分において血液センターにMAPを注文した上、自ら輸血をすべき注意義務があったもので、その輸血は遅くとも16時15分には開始が可能であり、そうすれば上記bと同様の高度の改善可能性があった。 (ウ) いて血液センターにMAPを注文した上、自ら輸血をすべき注意義務があったもので、その輸血は遅くとも16時15分には開始が可能であり、そうすれば上記bと同様の高度の改善可能性があった。 (ウ) 被告はDICの治療にMAPは無効であると主張していること被告は、MAPにはDIC改善に有効な成分が含まれていないから、早期にMAPが投与されていてもDICが改善された可能性はないし、たとえMAPを投与しても、出血性ショックの予防・改善・離脱を得ることはきわめて困難であったと主張するが、これは以下の2点において不当である。 a 被告の主張は、DICの基礎疾患の治療を放棄するものであること乙B25号証488頁は、DICの「治療の基本は、血管内凝固亢進の引き金となっている基礎疾患及び病態(末梢循環不全、アシドーシス、低酸素症、低体温等)の治療」であるとしたうえ、DICの「治療方針」として、「抗凝固療法」と「補充療法」を挙げているが、「抗凝固療法」のうちの一つである「合成プロアテーゼ・インヒビター」は、「比較的初期のDICあるいは軽-中等症のDICでは、合成蛋白分解酵素であるメシル酸ガベキサート(エフオーワイ)や、メシル酸ナファモスタット(フサン)が有効である。」とし、他方、「補充療法」は、「重篤な出血を回避するため、抗凝固療法の併用下に血小板は3-5万/μL以上、フィプリノゲンは75-100mg/dl以上になるように濃厚血小板あるいは新鮮凍結血漿を補充する。 」としている。これは、「比較的初期のDIC」や「軽-中等症のDIC」では、FOYを投与する抗凝固療法のみで奏功し、「重篤な出血を回避する」必要があるDICでは、抗凝固療法と補充療法の併用が必要であることを述べたものである。 ここ 中等症のDIC」では、FOYを投与する抗凝固療法のみで奏功し、「重篤な出血を回避する」必要があるDICでは、抗凝固療法と補充療法の併用が必要であることを述べたものである。 ここにいう「補充療法」に、MAPの補充が挙げられていないのは、MAPの補充の必要性があるときには、その補充がされることを当然の前提としているからである。 本件DICの基礎疾患についてみると、最初の基礎疾患である「死胎児症候群」は、15時13分に胎盤娩出があったことにより、除去又は治療の必要はなくなったが、15時45分に累計出血1120グラムをみたことにより、MAPを投与しなければ、出血性ショックを発症することが予見され、新たに除去又は治療すべき基礎疾患は、「死胎児症候群」と密接に関係し、一部に重複がある「出血性ショック」となった。 出血性ショックの予防又は回復には、まずMAPの投与が第一であり、出血量又は循環血液量に対する出血割合が多くなった場合には、新鮮凍結血漿や濃厚血小板の投与が考慮されるが、基礎疾患が出血性ショックである場合の産科DICの予防又は回復も、抗凝固療法が施されている限り、輸血に関する出血性ショックの治療方法に従えば足りるのである。 したがって、基礎疾患である出血性ショックがその予防又は回復のためにMAPを必要としているときは、産科DICもその予防又は回復のためにMAPを必要としているものであり、基礎疾患である出血性ショックがその回復のために新鮮凍結血漿や濃厚血小板を必要としているときは、産科DICもその回復のために新鮮凍結血漿や濃厚血小板を必要としているものである。 もしもMAPが補充されなければ、抗凝固療法のみで奏功する筈の「比較的初期のDIC」や「軽 きは、産科DICもその回復のために新鮮凍結血漿や濃厚血小板を必要としているものである。 もしもMAPが補充されなければ、抗凝固療法のみで奏功する筈の「比較的初期のDIC」や「軽-中等症DIC」も、抗凝固療法と補充療法の併用で奏功する筈の「重篤な出血を回避する」必要があるDICも、循環血液量の不足によって、出血性ショックに陥ることになる。現に、亡Gは、被告病院で、FOYの投与を受けたが、MAPの輸血を受けなかったため、出血性ショックに陥り、L大学病院では、濃厚血小板や新鮮凍結血漿の補充を受けたが、不可逆的出血性ショックのため、死に至ったものであった。 凝固因子を全く含まないMAPはDICの治療に無効であるとの被告の主張は、基礎疾患である出血性ショックの治療を放棄し、医学理論を正解しないものであって、妥当でない。MAPの投与によって出血性ショックの予防・改善がなされれば、FOYの投与によってDICが改善されるのであり、その意味では、MAPはDICの治療に有効であり、結局、出血性ショックの改善はDICの改善に繋がるものである。 b 被告の主張は、DICが重篤であるとの誤った前提に立って補充療法の必要性を説くものであって、MAPを投与しない理由にはならないこと被告の主張は、亡Gは重篤なDICであって、重篤なDICは凝固因子を補う補充療法が必要のところ、MAPには凝固因子が含まれていないから、投与しても無効であるというものである。 しかし、DIC治療に踏み切るための基準である「産科DICスコア」によれば、亡Gの症状は、16時16分段階では5点にすぎず、「その時点ではDICとはいえない」程度であり、「DICとしてよい」とする「13点」はもちろん、「DICに進 基準である「産科DICスコア」によれば、亡Gの症状は、16時16分段階では5点にすぎず、「その時点ではDICとはいえない」程度であり、「DICとしてよい」とする「13点」はもちろん、「DICに進展する可能性が高い」とする「8から12点」にも遠く及ばぬものであって、「重篤なDIC」であるとの主張は、亡Gの臨床所見及び検査所見を正しく理解しないものである。 被告は、重篤なDICであるとの前提に基づいてMAPの投与をしなかったことを正当化するが、DICが軽症であっても重篤であっても基礎疾患が出血性ショックである限りはMAPの投与が必要なのである。そして、凝固因子の補充がさらに必要かどうかは、基礎疾患たる出血性ショックの治療に凝固因子の補充が必要かどうかの判断と基本的に一致するのである。 イ輸液が不足していた過失亡Gは、15時13分胎盤娩出し、16時43分までの間に累計出血2482グラムあったものであるが、輸液は15時15分から16時33分までの間に総計2600ミリリットルの投与開始があったものの、L大学病院へ搬送された17時15分の時点で、被告病院において投与された輸液の残量が700ミリリットルあったから、搬送完了までの総輸液量は1900ミリリットルにすぎなかった。 搬送中の出血は別として、搬送完了までの総輸液量1900ミリリットルは、被告病院で測定された累計出血2482グラムと比較して極端に少量であって、循環血液量の維持回復はおろか、出血量を大きく下回ったが、その原因は、輸液開始の時期が遅れたこと、輸液の速度が遅かったこと、血管確保の数が足りなかったことにあった。 15時45分までの累計出血1120グラム、循環血液量の28パーセントの出血は、前記の厚生労働省基準でも、日赤の指針で 輸液の速度が遅かったこと、血管確保の数が足りなかったことにあった。 15時45分までの累計出血1120グラム、循環血液量の28パーセントの出血は、前記の厚生労働省基準でも、日赤の指針でも、輸液とMAP投与をする場合に該当したが、この時点において、循環血液量の維持と回復のために、出血量の2倍から3倍に相当する急速輸液を開始すべきであり、そして、その後は、MAP10単位の輸血と相まって、輸血の進行を見ながら、適宜細胞外液や人工膠質液の投与を継続すべき注意義務があったものである。 しかるに、被告病院医師らは、上記のとおり1900ミリリットルしか輸液を行わず、これらの義務に違反した。 そして、亡Gに対する輸液が不足していたことは、MAP10単位の輸血がされなかったことと相まって、DICや出血性ショックの発症と重篤化に拍車をかけたものであった。 ウ L大学病院救命救急センターへの搬送を行わなければ、亡Gが救命された可能性が高いこと(ア) 搬送を行った過失亡Gは、15時45分に累計出血1120グラムになった時点でMAP適応状態になったが、被告医師らは、16時00分クロスマッチ用採血をし、16時10分MAP5単位を当直婦長に注文し、16時15分MAP注文を10単位に変更したところ、当直婦長から技師の手配と輸血準備まで1時間要するとの返事があったため、急遽16時16分輸血救急処理可能な医療機関への搬送を決定し、17時00分L大学病院に向けてGを搬送したが、この搬送には、次の過失があった。 a 血液センターへのMAP注文を取り止めたこと当直婦長は、東京都赤十字血液センターに電話でMAP等の注文をしている際、技術者の手配と輸血準備に1時間を要することが被告病院医師ら a 血液センターへのMAP注文を取り止めたこと当直婦長は、東京都赤十字血液センターに電話でMAP等の注文をしている際、技術者の手配と輸血準備に1時間を要することが被告病院医師らに判明して搬送決定されたため、注文を取り止めたもので、同センターは「電話での応答中に何らかの事態で中止された」と判断した(調査嘱託回答)。 この点について、被告は、車で15分足らずの至近距離にあり、輸血用血液を常備し、救急救命センターを併設するL大学病院へ重篤のDIC患者を搬送したもので、血液の到着を待つ意味は乏しいと主張しながら、「搬送決定後も輸血用血液が到着すれば直ちに輸血を実施する予定であった」とか、「輸血しながら搬送する予定であった」と主張するが、これは搬送目的と血液到着を待つことが矛盾し、辻褄が合わないものである。 I医師は、累計出血1120グラムになって輸血の必要が生じた15時45分の時点で、「輸血手配や家族への連絡等」必要な措置をとったが、被告病院医師らは、「被告病院では呼び出しを受けてから1時間以内の登院という時間外輸血体制」の下でも、15時45分に検査技師を呼び出しておけば、16時45分には登院可能となり、そして、当直婦長に命じて血液センターに対し、16時10分にMAP5単位の注文を、16時15分にMAP5単位の追加注文をさせておけば、最初の注文から「30分」経った16時40分から相次いでMAPが届くから、16時45分には被告病院でMAP10単位の投与ができることになり、被告病院医師らはこれを行うべき注意義務があった。 b 安易な見込みで搬送したこと被告病院医師らは、16時16分、亡Gの搬送を決定したが、その後の経過を見ると、救急隊到着(16時48分)までに32 き注意義務があった。 b 安易な見込みで搬送したこと被告病院医師らは、16時16分、亡Gの搬送を決定したが、その後の経過を見ると、救急隊到着(16時48分)までに32分、被告病院出発(17時00分)までに44分、L大学病院到着(17時14分)までに58分、同病院の診療開始(17時25分)までに1時間09分を要しており、これは東京都赤十字血液センターからの血液取り寄せに要する時間「受注から出発準備までに5分~10分、走行時間だけで15分~20分」と比べて著しく長いものであり、被告病院医師らは搬送せずに同センターからMAPを取り寄せておけば、人命にかかわる貴重な時間の空費を避けることができたはずであった。 さらに、折角搬送したL大学病院では、輸血用血液を常備していたわけではなく、Gに輸血するために、同じ東京都赤十字血液センターからMAP30単位、その他FFP、IRPC、PC等の血液製剤を取り寄せたが、この取り寄せにはさらなる時間を要した。 結局、被告病院医師らの安易な見込みによる搬送は、輸血待望の貴重な時間を二重に浪費したものであった。 c 合理的理由なく搬送したこと搬送決定直前に現れた亡Gの血尿は、そのことの故に直ちに子宮動脈塞栓術や子宮摘出術等の外科的手術を必要とする病態ではなかった。血尿は、出血による循環血液量の減少が組織に酸素欠乏状態を招き、腎臓の毛細血管からの出血が尿に混入した病態であるが、輸血によって循環血液量を回復し、酸素供給量が増加すれば治癒に向かうから、まずMAPの投与が必要となり、直ちに外科的手術の適応になるものではない。 亡Gの搬送は「輸血抜き」のものであったが、輸血をしないで搬送すれば、搬送先の医療 れば治癒に向かうから、まずMAPの投与が必要となり、直ちに外科的手術の適応になるものではない。 亡Gの搬送は「輸血抜き」のものであったが、輸血をしないで搬送すれば、搬送先の医療機関はまず輸血から治療開始せねばならず、その間の時間のロスは亡Gの生命の危険に重大な影響をもたらした。 (イ) 救命された可能性上記(ア)の各過失は、すべてMAPの投与の遅れに結び付くが、もしも搬送がなかったならば、亡Gは、搬送によって生じた遅れの分だけ早くMAPの投与を受けられたはずで、そうなれば救命された可能性は極めて高いものであった。 また、搬送せずに被告病院内で治療することになれば、搬送の場合に比べて重い責任感が作用し、MAP10単位の到着を待つ間にも、あらゆる止血措置が懸命に動員されたはずで、双手子宮圧迫術や子宮腟強タンポン術はもちろん、輸液にも細心の注意が払われ、前記のような輸液が足りない事態は起こりようがなかった。 さらに、亡GがMAP10単位投与の後にL大学病院に搬送することがあったとしても、同病院の完備した緊急救命治療は、必ずや成功する可能性が高いものであった。 すなわち、被告病院医師らが亡GをL大学病院に搬送した過失が、亡Gの死をもたらしたものである。 (ウ) 被告主張の搬送理由被告は、16時16分にGの血尿を見た段階で、外出血を止めるためには子宮摘出などの外科的手術が高度の蓋然性をもって必要と考えられたが、被告病院は外出血に対する外科的手術を行いうる人的及び物的施設を有せず、当日麻酔医師が在院しておらず、ICUもないことから搬送をしたもので、搬送しなければかえって転送義務違反を追及されかねない、と主張する。 しかし、被告病院 うる人的及び物的施設を有せず、当日麻酔医師が在院しておらず、ICUもないことから搬送をしたもので、搬送しなければかえって転送義務違反を追及されかねない、と主張する。 しかし、被告病院医師らは、大量出血を確認しながら、MAP投与をせずに搬送すれば、出血性ショックに陥る危険性が極めて高いことを熟知していたもので、出血と生命保持に関する医学上の最も基本的な問題に直面して、前記回答が指摘するような出血性ショックの発症を強く恐れたに違いないのである。 もしも被告病院医師らが、本訴で主張するような理由によって搬送を決定したのであれば、それは出血性ショック発症の予見義務に著しく反することになるが、まさか被告病院医師らが、本気でそのようなことを考えたとは、到底思われない。患者が出血性ショックに陥れば、改善されない限り、外科的手術は行えないから、まずは出血性ショックに陥るのを防ぐのが急務であるが、出血がDICによるのであっても、循環血液量を確保し、末梢組織への酸素供給を維持して、出血性ショックに陥るのを防ぐためには、まず輸血(MAPの投与)が必要であり、もとより被告病院医師らもそのことは十分承知の筈であった。 いずれにせよ、被告が本訴で主張するような搬送理由は、MAP投与をすべき注意義務を免れて、投与しなかったことを正当化する理由にはなり得ないものである。 エ被告病院の不適切な治療行為とG死亡の因果関係被告病院の被告病院医師らは、15時45分累計出血1120グラムを確認、16時10分MAP5単位の注文依頼、16時12分累計出血1742グラムを確認、16時15分MAP注文を10単位に変更依頼し、なお出血の持続を確認したが、当日が土曜日で、検査技師の事前の手配を怠って、緊急輸血の血液検査ができない状況 16時12分累計出血1742グラムを確認、16時15分MAP注文を10単位に変更依頼し、なお出血の持続を確認したが、当日が土曜日で、検査技師の事前の手配を怠って、緊急輸血の血液検査ができない状況が判明したため、16時16分急遽搬送決定した。 しかし、MAP投与をせずに搬送すれば、GのDICを悪化させるとともに、出血性ショックに陥らせて重症化する危険性が極めて高いことは、被告病院医師らも認識し予見していた。 したがって、16時16分の段階に至って、被告病院医師らに残されたG救命のための唯一の方法は、MAPの緊急注文を維持し、検査技師が不在であっても、自ら血液検査をして、緊急輸血を実施することであった。 (ア) L大学病院到着時のGの出血性ショックの状態L大学病院では救急医学科と産婦人科による併診が行われたが、両科の診療経過は次のようであった。 a 重症ないし危篤であったこと同大学病院到着時の17時15分の症状について、救急医学科は、(a)「意識レベルE1Ⅴ2M3 血圧91/66 脈拍173 呼吸数28/分 SpO2測定不能瞳孔4mm/4mm 対抗反射+/+」で、その後に「尿量10ml」があったことにより、出血性ショックの兆候や症状を示していた可能性が高いとし、(b)意識状態「E1Ⅴ2M3」は、昏睡状態で、循環血液量が低下したため脳循環(脳血流)も低下した結果であり、到着後僅かな時間に意識障害が進行し、(c)血圧・脈拍・呼吸数はそれぞれ血圧低下・頻脈・過呼吸を生じて出血性ショックに相応する兆候を示し、(d)「SpO2測定不能」は出血性ショックにより末梢の循環不全が生じたためであり、(e)出血性ショックの重篤度は、「ショック指数=脈拍数/収縮期血圧=173/91=1 ョックに相応する兆候を示し、(d)「SpO2測定不能」は出血性ショックにより末梢の循環不全が生じたためであり、(e)出血性ショックの重篤度は、「ショック指数=脈拍数/収縮期血圧=173/91=1.9」で、ショック指数が1以上の場合は緊急の治療(輸血・輸液・酸素投与など)が必要であり、また、(f)ショック・スコアは、11点で、非ショック:0~4、軽度及び中等ショック:5~10、重症ショック11~15の分類によれば、重症ショックであるが、意識状態の悪化を考慮すると、危篤であるといっても過言ではない、としている。 また、産婦人科は、出血量約50%(約3000ml)、ショック指数1.9、意識障害は中程度、出血性ショックの度合いは重症、としている。 b 緊急輸血を要したこと意識障害を伴う重症の出血性ショックと子宮出血が持続して、循環血漿量の確保が必要となり、意識状態悪化の傾向と出血性ショックの進行があって、輸血の緊急性があったし(救急医学科)、循環血液量の約50%を失い、放置すればさらに状態が悪くなるため、輸血は緊急を要した(産婦人科)。 c 血液ガス分析結果でも重症であったこと17時24分血液ガス分析検査がなされたが(検体提出から30~45分ほどで結果が得られる)、代謝性アシドーシスの進行があり、それを代償する呼吸性アルカローシスもあり(救急医学科)、ショックによる末梢循環不全をきたし、組織に酸素が十分供給できない状態で(産婦人科)、重症の出血性ショックであった。 (イ) L大学病院の治療目標救急医学科はショック状態の改善を、産婦人科は止血を目指したが、輸液と輸血は、両科にとって共通の課題であった。 救急医学科は、気道確 (イ) L大学病院の治療目標救急医学科はショック状態の改善を、産婦人科は止血を目指したが、輸液と輸血は、両科にとって共通の課題であった。 救急医学科は、気道確保・呼吸管理・循環管理(輸液・輸血・昇圧・DOAの増量)を早急に開始し、大量輸液・輸血のための点滴ルート確保を行ったが、徐脈(心拍数30代に低下:18時07分)が発生して、心肺蘇生術(心臓マッサージ、エピネフリン、ボスミン投与)を開始し、大量輸液は加圧し保温機材を使用して行った。 また、赤血球輸血開始までの間、アルブミン点滴がされたが、循環不全は進行し、呼吸停止の危険があって、挿管による酸素供給がなされた。しかし、出血が続き、フィプリノゲン、血小板の低下があり、プラスマネート・カッター1750ml、MAP25単位、FFP31単位、血小板15単位の輸血が行われた。 しかし、子宮摘出術や子宮動脈塞栓術等の外科的手術については、DICが深刻で、出血傾向が強く、心肺停止をきたした極度のショック状態にあり(救急医学科)、全身状態が改善されない状態では、より危険性が増え、良好な結果は得られないとの判断により(産婦人科)、実施されなかった。 (ウ) 不可逆的出血性ショックとL大学病院の輸血治療の不奏功亡Gを救命し得なかった原因について、産婦人科は、同大学病院搬送時の出血性ショックは重症で、末梢毛細血管は破綻し、出血が持続していたが、赤血球輸血、血小板輸血、新鮮凍結血漿輸血、アルブミン投与を行っても改善できなかったから、輸血開始時には不可逆的出血性ショックに陥っていた、と説明している。 また、救急医学科は、来院後30分で血圧触知不能状態に陥り、引き続き心肺停止に陥ったことからすれば、不可逆的出血性ショ 輸血開始時には不可逆的出血性ショックに陥っていた、と説明している。 また、救急医学科は、来院後30分で血圧触知不能状態に陥り、引き続き心肺停止に陥ったことからすれば、不可逆的出血性ショックに近い状態で来院し、血液・血漿成分の補充にもかかわらず、不可逆的出血性ショックに陥っていた、と説明している。 両科の説明は不可逆的出血性ショックのため輸血治療が奏功しなかったとする点で共通しており、この両説明によっても、被告病院の不適切な治療行為がひいては不可逆的出血性ショックを引き起こし、同大学病院の輸血治療の奏功を不可能にしたことが明らかである。 (被告の主張)ア MAP輸血の有無と患者死亡との因果関係の不存在原告らは、被告病院が亡Gに対してMAPを投与しておけば、本件における患者死亡という転帰は回避できた可能性が高い旨主張する。すなわち、L大学病院到着直後における亡Gのショックの度合い、累計出血量、血液ガス分析データ等を引き合いに出しつつ、被告病院が亡GにMAP輸血を施していれば、亡Gをよりよい状態で搬送できたはずであり、そうれあればL大学病院で救命された蓋然性が高いという。しかしながら、以下に述べるとおり、その見解は誤りである。 (ア) 亡Gの発症したショックは出血性ショックのみならずDICによる多臓器不全によるものでもあったこと出血性ショックを含めたショック全般における問題の核心は、末梢組織レベルでの還流障害であって、その手前、すなわち血液の酸素運搬網の障害ではない。つまり、末梢レベルでの循環機能障害がどこまで進んでいるか、さらには、末梢レベルでの代謝機能障害がどの程度進んでいるかに集約される問題である。この点、循環血液量が確保され、末梢組織の還流が正常化すれば、仮にHb値( ルでの循環機能障害がどこまで進んでいるか、さらには、末梢レベルでの代謝機能障害がどの程度進んでいるかに集約される問題である。この点、循環血液量が確保され、末梢組織の還流が正常化すれば、仮にHb値(血中ヘモグロビンの値)が3~4g/dlであっても生命の維持は十分可能であると説かれている(乙B第7号証209頁右段中央)。すなわち、病態が外傷性の大出血ということであれば、上記Hb値程度までは、酸欠(組織低酸素症、代謝性アシドーシスなど)による致命的な末梢組織レベルの障害は生じないと考えてよい。 これに対し、本例の場合、被告病院における経過では、16時33分の時点でHb7.5g/dlを保ち、L大学病院搬送後の17時24分においても、Hb値は4.8g/dlと、上記の数値を十分に上回る値が保たれていた。それにもかかわらず、ショックは重篤化していった。 このように、Hb値が一定程度に保たれていながらショックが進行するという病態から見れば、亡Gの呈したショック(末梢組織障害)は、出血により酸素担体(赤血球)を失ったことによる酸素の欠乏を原因とするものというよりは、DICにより直接組織障害を受けたか、あるいは、末梢循環に発生した微小血栓による還流障害により酸素の受け渡しに支障を生じ、ショックの過程に入ったと考えるのが妥当である。 さらに、亡Gは、17時35分の時点で、収縮期血圧102と、血圧が保たれているにもかかわらず、呼吸が浅くなり、気管内挿管している。血圧がいわゆる危険域にないにもかかわらずショック症状が進行するという病態は、いわゆる出血性ショックの病態よりも、DICによる多臓器不全(MOF)による呼吸障害の進行をより強く示唆するものである。 これらの臨床所見からすれば、亡Gは、出血性ショックとDICによ 、いわゆる出血性ショックの病態よりも、DICによる多臓器不全(MOF)による呼吸障害の進行をより強く示唆するものである。 これらの臨床所見からすれば、亡Gは、出血性ショックとDICによる多臓器不全(MOF)によるショックを併発していたと考えられる。 (イ) MAP投与はDIC改善には役立たず、本例では出血性ショック改善効果も期待し得ないこと上記のとおり、亡Gのショックは、出血性ショックもさることながら、DICによるMOFを併発した病態であった。 ところで、MAP(マンニトール・アデニン・リン酸塩加赤血球)は、献血された血液を分画して赤血球成分を抽出した血液製剤であり、出血等によって失われた赤血球を補充し、もって、貧血の改善、出血性ショックの予防・低減効果を得るためのものである。このように赤血球成分のみに調整されているため、MAPには血小板などの凝固因子は含まれておらず、DICによって過剰に消費された凝固因子を補充することにはならない。まして、MAPに血栓溶解作用や抗凝固作用はなく、すでに形成された血栓がMAP投与により溶解されたり血栓形成が抑制されるということにもならない。したがって、MAPを投与することでDICが改善されることはない。 出血性ショックとDICを併発した環境では、DICの改善なければ外出血の抑制もなく、また、外出血の抑制なければいくらMAPを投与しても出血性ショックの改善は期待できないのである。したがって、本例では、MAP投与により出血性ショックが改善されたとは考えられず、MAPを投与していれば死亡という転帰を回避できたというい議論が成り立つ余地はない。 (ウ) 重篤なDIC環境下でのMAP投与はむしろ生体への侵襲が強いと考えられることむし MAPを投与していれば死亡という転帰を回避できたというい議論が成り立つ余地はない。 (ウ) 重篤なDIC環境下でのMAP投与はむしろ生体への侵襲が強いと考えられることむしろ、本例のごとき重篤なDICを呈した状況では、輸血されたMAPは特段の役割を果たすことなく血中において破壊され、破壊された残滓が肝臓の細網内皮系や腎臓に捕捉され、肝障害や腎障害の原因となることが十分に考えられる。結果論であるが、現に亡Gは、L大学病院救命救急センターにおいて短時間に大量のMAPを投与されたところ、肝機能は、6月15日18:06 GOT23、GPT9であったものが、1時間後の19時にはGOT1686、GPT1603と急速に増悪している(乙A2・23頁)。 さらに言えば、非常に重度のDIC状態、すなわち凝固・線溶系が亢進した状態で、凝固因子を含まないMAPを投与することは、生体にとってきわめて致死的な反応である高度の溶血現象を起こす危険性を考慮しなければならない(L大学病院のカルテにも「溶血2+」とある…甲A第2号証56頁)。すなわち、重度のDIC環境では、MAPを入れるほどに血球が破壊され溶血が起こり、生体への侵襲となって現れることになる。そして、結果から見れば、L大学病院における本件患者の経過は、まさに輸血後の溶血反応そのものである。 (エ) 以上のように、被告病院にてMAPを投与していれば病態が改善できたとか、救命可能性が高まったとの主張には、医学的論拠がまったくない。 イ被告病院において、亡Gに対する輸血手配が遅れた事実はないこと(ア) 輸血が必要となる事態は予見できなかったこと原告らは、子宮内胎児死亡は、妊娠期間や死胎児稽留期間の長短にかかわりなく、DIC発症の危険があり、亡Gの 遅れた事実はないこと(ア) 輸血が必要となる事態は予見できなかったこと原告らは、子宮内胎児死亡は、妊娠期間や死胎児稽留期間の長短にかかわりなく、DIC発症の危険があり、亡Gの場合にもその危険性があったと主張するが、MAPはDICの治療に有効なものではなく、あくまでも出血性ショックに対する補充療法という位置付けにあることを指摘するほか、子宮内胎児死亡がDIC発症の危険因子となるのは、胎児死亡後4週間以上のケースであり、なおかつ、実際にDIC発症を見るのは、それらのうち1パーセント程度であるというのが一般的な知見である。また、下記のとおり、平成14年6月14日に実施した検査データにおいて、亡Gには血液凝固系の異常は何ら認められていない(なお、[]内は正常値を表す。)。 Plt 28.8[15.0-35.0]PT11.0[9.7-12.5]APTT24.0[20-30]Fib 510[360-520]FDP <10[<10]AT-Ⅲ 94 [79-121]なお、事前の検査結果の如何にかかわらずDICが発症するとの見解は、例えば妊娠中毒症等、DICの基礎疾患を有する症例で、本例とは病態が全く異なる症例と混同させるなど、引用文献を正解しない原告独自のものであって、実際にかかる見解を唱える学説は存在しない。学説は、あくまで、死胎児を長期間稽留した場合のみに起こる病態と定義している。 また、遂娩操作が誘引となって急性DIC症状が顕性化する場合とは、子宮内圧を病的に亢進させるような処置を行った場合を指すものであるが、本件においてラミナリア桿を使用したのは、陣痛促進剤によって子宮内圧が 、遂娩操作が誘引となって急性DIC症状が顕性化する場合とは、子宮内圧を病的に亢進させるような処置を行った場合を指すものであるが、本件においてラミナリア桿を使用したのは、陣痛促進剤によって子宮内圧が異常に高まることのないようにという子宮口開大目的によるものであって、ラミナリアの使用によって子宮内圧が亢進した事実はない。また、原告らは、同月15日3時10分の下腹部痛の訴え等を取り上げて子宮内圧が上昇したかのようにいうが、これは、子宮口開大に伴う子宮収縮による痛みである。なお、ラミナリア桿抜去後、陣痛促進剤点滴投与開始後は、分娩監視装置を装着し、陣痛モニターしているが、子宮内圧が異常に亢進した事実はない。原告らの指摘は何ら当たらない。 なお、止血処置の妥当性を論じる前提として、亡Gは弛緩出血を発症したと主張しておきながら、止血準備の点を論じる場面では、亡Gが死胎児稽留によるDICを発症したのだからこれを予見すべきであったと主張するが、両者の主張は矛盾している。また、弛緩出血が子宮内胎児死亡の合併症であるとの理解は、原告独自の見解である。 a 原告らは、被告病院がMSBOS(maximumsurgicalbloodorderschedule)に対応可能な輸血体制を確立しているとして、被告病院産婦人科は、手術の場合の出血予測と同様に、最大輸血量を予測して事前に準備するなどDIC発症に備えるべき注意義務があったと主張する。しかし、MSBOSとは、甲B11の1023頁の記述にもあるように、大量の血液が手術前後数日にわたり保留される場合、その準備には多くの献血者を必要とするにもかかわらず、準備した血液が使用されずに廃棄されると善意の献血が有効に利用されない等の弊害を生じることから、輸血用血液を有効に使用するための「輸 される場合、その準備には多くの献血者を必要とするにもかかわらず、準備した血液が使用されずに廃棄されると善意の献血が有効に利用されない等の弊害を生じることから、輸血用血液を有効に使用するための「輸血準備量の適正な基準」の一つとして用いられる手法であって、あらかじめ輸血の必要が想定される場合について、準備すべき血液量を計算するための手法なのである。 とくに、MSBOSの適応となる産科疾患は、甲B11の1023頁の表1に記載があるように、前置胎盤などリスクのある帝王切開術のみであって、通常、産科では普通の分娩にMSBOSを使用することはない。したがって、被告病院が一般的な意味で当該手法に対応し得るからといって、あらかじめ輸血の必要を想定し得なかった本例について、輸血用血液を事前に準備すべき義務が導かれることにはならない。 b 血液緊急注文に対する準備は行われていたこと上記(ア)のとおり、胎児死亡後間もない本件で、DIC発症を予見することは不可能であり、被告病院医師らにDIC発症に続発する出血性ショックを予期して血液の取り寄せや通常の時間外輸血体制(ポケベルコールから1時間以内に登院可能とするもの)以上に対応を強化して、検査技師を待機させておく義務があったということはできない。 なお、原告らが挙げる、交差適合試験用の血液採取、血管確保は当日迅速に実施しており何ら注意義務違反はない。その他の項目に関しても、あらかじめ一般的な体制は組んであり、この面でも注意義務違反はない。なお、検査技師が登院したことは、当直日報(乙A3)に記載がある。 (イ) 亡Gに対する輸血手配に遅れはないことa 原告らはMAP10単位があれば15時45分の時点で投与開始が可能であっ 技師が登院したことは、当直日報(乙A3)に記載がある。 (イ) 亡Gに対する輸血手配に遅れはないことa 原告らはMAP10単位があれば15時45分の時点で投与開始が可能であったというが、事前に準備しておくべき義務がなかったことは前記(ア)のとおりである。 原告らは、被告病院が16時12分にMAP10単位の手配を依頼したことをもって、その時点で当該量の輸血を行うべき義務があったと主張しているが、乙B4(日本赤十字社作成にかかる血液製剤の使用指針)675頁にあるとおり、MAP10単位を輸血した場合、Hbが約5.2g/dl上昇することになるが、他方、MAP輸血量の目標値はHb8g/dl程度を目安とする見解もあるところ(乙B4の676頁)、16時33分の時点でHb7.5g/dlの水準にあった本例において、即座にMAP10単位を投与する必要はなかった。 なお、MAP注文は、出血性ショックの予防を主目的とするものであるが、亡Gは搬送時においてもショックの状態にはなかった。 b また、原告らは、15時45分の時点でMAP10単位を緊急注文すべき義務があったというが、妊娠末期には、非妊娠時より約40パーセントも循環血液量が増加しているので(乙B16の149頁)、患者の非妊時における体重(59キログラム)を基に循環血液量を4130ミリリットルとする原告の計算は正しくなく、上記計算に従い40パーセントを加算すれば、5782ミリリットルとなる。したがって、15時45分までの累計出血量1120グラムは循環血液量の19.4パーセントに相当し、16時12分までの出血量は30.1パーセントに相当するのであって、事案の状況を勘案すれば、緊急注文実施について注意義務違反がないことは明白である。 は循環血液量の19.4パーセントに相当し、16時12分までの出血量は30.1パーセントに相当するのであって、事案の状況を勘案すれば、緊急注文実施について注意義務違反がないことは明白である。 なお、被告病院は、15時35分ころ、亡Gの産後出血が弛緩出血とは異なる病態であることを認識し、以後チーム医療体制を組んで病態の評価に当たり、速やかに輸血の準備を指示している。その結果、16時00分までには原告Aへの連絡並びにクロスマッチ用採血を完了し、16時10分までにはMAP5単位を依頼し、16時15分にはこれを10単位に変更するとともに、検査技師への登院要請を完了しており、これらの経過からして、被告病院は、認められた病態に応じて適時に輸血手配を行っており、病態の観察評価に遅れを生じた事実及び輸血手配に遅れを生じた事実はない。 ウ亡Gに対する輸液に不足はなかったこと(ア) 輸液量についてのガイドライン原告らは、厚生労働省や日本赤十字社所定の基準を引き合いに出して、大量出血例においては、循環血液量の維持回復のために、出血量の2倍から3倍に相当する急速輸液を実施するべき注意義務が存在したというが、輸液量については、病態によりさまざまであり、確固たる基準が存在するわけではない。 (イ) 輸液量について被告病院が亡Gに対して行った輸液は、以下のとおりであった。 まず、左前腕について、15時00分から5パーセントブドウ糖液500ミリリットル、15時15分から5パーセントブドウ糖液100ミリリットル(メテナリン1アンプルを含む。)、15時45分からヘスパンダー500ミリリットル、16時10分から5パーセントブドウ糖液500ミリリットルとFOY1500ミリグラムをそれぞれ 液100ミリリットル(メテナリン1アンプルを含む。)、15時45分からヘスパンダー500ミリリットル、16時10分から5パーセントブドウ糖液500ミリリットルとFOY1500ミリグラムをそれぞれ点滴投与した。L大学病院到着時に300ミリリットルが残っていたから、左前腕のルートからは1300ミリリットルの輸液を実施したことになる。 次に、左手背について、16時10分に5パーセントブドウ糖液500ミリリットル(メテナリン3アンプルを含む。)、16時33分にヴイーンF500ミリリットル(メテナリン3アンプルを含む。)、17時00分にラクトリンゲル500ミリリットルをそれぞれ点滴投与した。L大学病院到着時にはラクトリンゲルが200ミリリットルが残っていたから、左手背のルートからは1300ミリリットルの輸液を実施したことになる。 さらに、右手首について、16時33分にヴイーンF500ミリリットル(アトニンO10アンプルを含む。)を点滴投与し、L大学病院到着時に200ミリリットルが残っていたから、右手首のルートからは300ミリリットルの輸液を実施したことになる。 このように、被告病院においては輸液の遅れはないし、輸液の速度、点滴ルートのいずれについても限界を追求して輸液を増強している。結果として、亡GをL大学病院に搬送するまでに、合計2900ミリリットルの輸液を実施しているが、これは累計出血量とほぼ同量である。さらに、搬送時点で亡Gが出血性ショックの状態になかったことを併せ考えても、被告病院が十分な輸液を行っていたことは明らかである。なお、上記3本以上にさらに点滴ルートを確保する等、これ以上の輸液の実施は現実的に不可能である。 エその他搬送決定が妥当であったことなど(ア) 下記のとおり ていたことは明らかである。なお、上記3本以上にさらに点滴ルートを確保する等、これ以上の輸液の実施は現実的に不可能である。 エその他搬送決定が妥当であったことなど(ア) 下記のとおり、救急救命施設を併設したL大学病院への搬送は、本件において当然の措置であり、これが過失に結びつくとの理解は誤りである。 a 原告らは、被告病院医師らが16時15分MAP注文を10単位に変更したところ、当直婦長から技師の手配と輸血準備まで1時間要するとの返事があったため、急遽16時16分輸血救急処理可能な医療機関への搬送を決定したというが、搬送の決定は、亡Gに血尿を認めるなど、亡Gの全身状態を評価した結果によるものである。血液入手に要する時間の点は、その際の考慮要素とはなっていない。 被告病院としては、あくまでも、血液が到着次第、必要に応じて輸血を開始し、搬送中も継続する予定であった。輸血しながら搬送することは一般的なことであって、搬送目的と血液到着を待つ目的の間に何ら矛盾はない。なお、原告らは、東京都赤十字血液センターからの嘱託回答をもとに、被告からの血液オーダーが「電話での応対中に何らかの事態で中止された」と主張するが、そのような事実はない。血液センターの回答には事実との相違がある。 原告らは、亡Gに対し、16時40分までにMAP10単位の輸血が開始されていれば、十分な輸液が行われることと相まってDICと出血性ショックは急速に改善し、救命された可能性が極めて高いなどと述べているが、外出血への対処を考慮しておらず失当である。なお、肉眼的に血尿を見るということは、赤血球が血管内の微小血栓に衝突して壊れるという重篤な状態であり、このような状態でMAP(ヒト赤血球濃厚液)を入れても、病状の改善に寄与し しておらず失当である。なお、肉眼的に血尿を見るということは、赤血球が血管内の微小血栓に衝突して壊れるという重篤な状態であり、このような状態でMAP(ヒト赤血球濃厚液)を入れても、病状の改善に寄与したとは考えにくい。 なお、L大学病院の18時00分における血液検査データでも「溶血2+」とあり、亡Gの血管内で溶血が起きていたことが確認されている。 輸血及び輸液療法も、外出血の有無によりその有効性は大きく左右されるところ、極めて急激で、抗DIC療法も著明な改善効果がなく、コントロールの難しいDICをみた本例について、外出血に対する外科的処置を行い得る人的及び物的設備を有していない被告病院が、集中的治療を早期に実施するためL大学病院に搬送決定した判断の妥当性は明らかである。 なお、搬送手続は可及的速やかに行われ、搬送直前の16時30分時点のバイタルサインでも、亡Gはショックの状態になかった。 なお、16時48分の救急隊到着時に、亡Gは16時33分に来院した原告Aと面会し、対話もしていた。 b 安易な見込みで搬送したという事実はないこと原告らは、被告病院医師らが亡Gの搬送を決定してから、被告病院出発(17時00分)までに44分、L大学病院到着(17時14分)までに58分、同病院の診療開始(17時25分)までに1時間09分を要したとし、東京都赤十字血液センターからの血液取り寄せに要する時間と比べて著しく長いというが、すべて結果論であり、妥当でない。また、MAP輸血の有無が本件の転帰を左右する関係にないことを指摘するほか、L大学病院がどの時点で輸血療法を開始できるかも予想がつくものではない。 また、原告らは、もしも搬送がなかったならば、亡Gは搬 が本件の転帰を左右する関係にないことを指摘するほか、L大学病院がどの時点で輸血療法を開始できるかも予想がつくものではない。 また、原告らは、もしも搬送がなかったならば、亡Gは搬送によって生じた遅れの分だけ早くMAPの投与を受けられた筈で、そうなれば救命された可能性は極めて高いと主張するが、DICによるMOFが進行していることを全く考慮に入れていないことを指摘するほか、L大学病院で合計8900ミリリットルに及ぶ輸血を実施したにもかかわらず、まったくDICが改善されなかった本症例で、早期にMAP投与ができていればそれだけ救命可能性が高くなったと考えるのは、論拠に欠ける。 被告病院が外出血に対する外科的処置を行い得る人的及び物的設備を有していない以上、搬送は不可欠であり、安易な見込みで搬送したとの非難は当たらない。 c 搬送決定は合理的判断に基づいていること原告らは、亡Gの血尿につき、そのことのゆえに直ちに子宮動脈塞栓術や子宮摘出術を必要とする病態ではなかったというが、要は、きわめてコントロールが難しく、抗DIC療法や一般的な止血処置を試みるも、それらがまったく通用しないDICが重篤化しつつあったということであり、高次の救命救急施設に搬送することは、当然の判断である。 なお、原告らは搬送前に輸血に着手できなかったことを取り上げて、搬送について非難するが、前記のとおり、被告病院は輸血についても注意義務を尽くしている。 かえって、仮に救急救命施設に搬送しなかったとすれば、そのこと自体を捉えて注意義務違反を指摘されかねないのであり、搬送決定に合理的理由があったことは明らかである。 (イ) 原告らは、被告病院がL大学病院への搬送を決 設に搬送しなかったとすれば、そのこと自体を捉えて注意義務違反を指摘されかねないのであり、搬送決定に合理的理由があったことは明らかである。 (イ) 原告らは、被告病院がL大学病院への搬送を決定したために、輸液に細心の注意が払われなかったかのようにいうが、実際に被告病院は、起用しうる人的及び物的資源のすべてを投入して亡Gの病態管理に当たり、その改善を目指していたのであり、原告の非難は当たらない。搬送時の全身状態からみても、輸液が足りないといった事態は起きていない。 さらに、原告らは、亡Gが被告病院でMAP10単位の投与を受けた後にL大学病院に搬送されていたとしても、同病院の完備した緊急救命治療は、必ずや成功する可能性が高いものであったと主張するが、本症例について、そのように言える確たる論拠はない。 被告病院は、予期し得なかった出産後の異常出血に対し、出血部位の検索・特定、DICの治療薬であるFOYの投与のほか、その間に行い得る応急的止血、さらに循環血液量の保持に向けた輸液の実施、緊急輸血の手配、さらには適切な医療機関への搬送手配等、行うべきすべての措置を、短時間のうちに適切に実施したが、余りに急激なDICのために、搬送先にて母体死亡という不幸な転機をたどったものである。 本症例が、突発的で病態のコントロールが非常に難しい重篤な疾患であったことからすれば、母体死亡という結果は、不可抗力によるものという以外になく、被告がその結果について責任を問われるべきいわれはない。 (3) 争点(3)(損害額)について(原告らの主張)ア亡Gの損害(ア) 逸失利益 3480万円(イ) 慰謝料  2000万円(ウ) 以上合計5480万円を法定相続分により、原告Aが2分の1、 ついて(原告らの主張)ア亡Gの損害(ア) 逸失利益 3480万円(イ) 慰謝料  2000万円(ウ) 以上合計5480万円を法定相続分により、原告Aが2分の1、その他の原告ら4名がそれぞれ8分の1ずつを相続した。 イ原告ら固有の損害(ア) 原告Aの慰謝料 1500万円(イ) その他の原告ら4名の慰謝料各400万円ウ弁護士費用 680万円(被告の主張)いずれも争う。

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