主文 1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。 2 被控訴人の本訴請求を棄却する。 3 控訴人の反訴主位的請求を棄却する。 4 控訴人の反訴予備的請求に基づき,被控訴人は,控訴人に対し,金85万4294円及びこれに対する平成10年7月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 5 控訴人のその余の反訴予備的請求を棄却する。 6 訴訟費用は,第1,2審とも,本訴・反訴を通じこれを2分し,その1を控訴人の,その余を被控訴人の負担とする。 7 この判決は,第4項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 控訴の趣旨(1) 原判決を次のとおり変更する。 (2)ア反訴主位的請求被控訴人は,控訴人に対し,882万4700円及びこれに対する平成10年7月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 イ反訴予備的請求被控訴人は,控訴人に対し,314万8395円及びこれに対する平成10年7月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (3) 被控訴人の請求を棄却する。 (4) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 (5) 仮執行宣言 2 控訴の趣旨に対する答弁(1) 本件控訴を棄却する。 (2) 控訴費用は,控訴人の負担とする。 第2 事案の概要 1 本件は,控訴人・被控訴人間の店舗建築請負契約について,被控訴人が控訴人に対し,同契約は合意解除されたとして,出来高から既払分を控除した残額の支払を請求した本訴事件と,控訴人が被控訴人に対し,主位的に債務不履行を主張して損害賠償 建築請負契約について,被控訴人が控訴人に対し,同契約は合意解除されたとして,出来高から既払分を控除した残額の支払を請求した本訴事件と,控訴人が被控訴人に対し,主位的に債務不履行を主張して損害賠償を,予備的に過払分の不当利得返還を請求した反訴事件である。 2 争いのない事実(1) 被控訴人は,平成9年12月7日,控訴人との間で,次の約定のもとに3階建店舗兼居宅(以下「本件建物」という。)の建築請負契約を締結した(以下「本件請負契約」と,契約に係る工事を「本件工事」という。)。 工事名 D新築工事場所京都府宇治市hi番地j,同番地k,同所l番地m代金 2166万1500円(消費税103万1500円を含む)工期着手平成9年11月7日完成平成10年3月30日支払方法着工時 722万0500円中間金 722万0500円引渡時 722万0500円(2) 控訴人は,E建築設計事務所ことF(以下「F」という。)に対し,本件工事について設計工事管理を委託していた。 (3) 控訴人は,被控訴人に対し,本件請負契約に基づき,次のとおり代金を支払った。 ア平成9年11月4日 200万円イ平成9年12月11日 522万0500円ウ平成10年1月16日 722万0500円(4) 被控訴人は,控訴人の妻Gに対し,平成10年1月10日の上棟時,本件工事完了時には100万円の赤字になる旨告げて,工事代金の増額を要求した。 (5) 被控訴人,G及びFは 0円(4) 被控訴人は,控訴人の妻Gに対し,平成10年1月10日の上棟時,本件工事完了時には100万円の赤字になる旨告げて,工事代金の増額を要求した。 (5) 被控訴人,G及びFは,平成10年2月13日,本件工事の工事現場において,本件工事について協議したが,被控訴人とFの間で口論となり,その後被控訴人がFを引き倒し,Fが負傷した。 (6) 被控訴人は,同日以後,本件工事を中止した。 (7) 控訴人は,平成10年3月11日到達の内容証明郵便により,被控訴人の債務不履行を理由に本件請負契約を解除する旨の意思表示をした。 3 争点(1) 本件工事の見積り経過と仕様変更の合意の有無ア被控訴人の主張(ア) 被控訴人は,Fと何度も本件工事について打ち合わせをし,Fに対し,本件建物について3階総鉄筋コンクリートの打放しとし,代金3350万円という第1見積り(甲14)から,1階のみ鉄筋コンクリート,2階は木造とし,代金2729万4000円という第2見積り(甲13)及び代金2690万1820円とする第3見積り(甲15)を経て,代金2267万4560円とする第4見積り(甲16)を出した。 (イ) 被控訴人は,このように代金額を減額する見積りをする中で,Fから,設計図を無視して,建物のレベル,仕上材など仕様変更をしてもよいから,控訴人の予算2000万円に合わせてほしいといわれて,最終的に本件請負契約の代金が合意されたものである。 (ウ) 見積書は,あくまで見積りであるから,相互に齟齬があるからといって,後から作られたものといえるものではない。また,被控訴人は,減額していく過程で何をどのように減額するかについて,控訴人と直接交渉したことはなく,控訴人の意を あるから,相互に齟齬があるからといって,後から作られたものといえるものではない。また,被控訴人は,減額していく過程で何をどのように減額するかについて,控訴人と直接交渉したことはなく,控訴人の意を受けたFは,契約金額内に納めてくれればそれでよいとの態度であり,変更項目や金額について細かく合意したことはない。 イ控訴人の主張(ア) 第1ないし第4見積りの見積書は,当時に作成されたものではない。控訴人もFもその存在は知らない。 Fは,3階総鉄筋コンクリートの打放しについて2700万円の見積りを見せられたことはあるが,これでは控訴人の予算をはるかに超えるので,1階のみ鉄筋コンクリート造・2階を木造の混構造に変更して2300万円の見積りを得た。 (イ) 第1ないし第4見積りの見積書は,不自然で,矛盾するものである。控訴人自身も最初の見積書は2700万円であったと証言している上,3000万円以上では注文しないと聞いていたはずであるのに3350万円の見積りをするはずがない。また,第1見積りと第2見積りでは,構造が変更しても変動するはずのないシート養生,防水コーキング工事が変動しており,基礎仮枠工事が増えたりしている。第2見積りと第3見積りでは,合計額が誤っており杜撰なものである上,地盤改良工事が別途工事とされたり,諸経費が極端に増額となっており,不自然である。さらに第3見積りと第4見積りとでは,被控訴人が主張するホールダウン金物や筋交いプレートの削除がされているはずであるのに,構造金物の金額は変更されていない。 (ウ) 第4見積りから本件請負契約への減額は,「石工事」「内装工事及」及び「雑工事」の各減額と値引額については24万円が増額となった結果である。 (2) 額は変更されていない。 (ウ) 第4見積りから本件請負契約への減額は,「石工事」「内装工事及」及び「雑工事」の各減額と値引額については24万円が増額となった結果である。 (2) 本件請負契約の終了原因ア被控訴人の主張(ア) 本件工事については,仕様変更の合意があったにもかかわらず,Fは,平成10年2月13日,被控訴人に対し,コンクリート打放しの仕上がり具合,ホールダウン金物や筋交いプレートがないことについて難詰し,これが原因となって被控訴人がFを負傷させた。 (イ) そのやり取りの中で,Fが被控訴人に対し,「工事がいやだったらやめてもええで」と言ったので,被控訴人は,現場で作業中の大工に話が聞こえないようにするため,Gを屋外に連れだし,控訴人の意向を確かめた。Gは,「もう結構です。」と述べたため,被控訴人は,Gに対し,工事を中止する及び後日精算書を送る旨伝えた。 (ウ) したがって,本件請負契約は,合意解除ないし注文者が損害を賠償すべき民法641条による解除に該当し,その後の工事中止は債務不履行ではない。 イ控訴人の主張(ア) 本件工事については,代金の増額はできないことを確認したにもかかわらず,被控訴人は,一方的に仕様を変更したり,増額請求するなどした。そして,増額請求に応じないと工事をしないとの態度を示し,Fを介さずGと折衝しようとしたりした。しかも,コンクリート打放しには瑕疵があり,ホールダウン金物は設計図面で設置が定められていたのに設置されなかったりしたため,平成10年2月13日の協議となった。 (イ) 被控訴人が同日の協議で,Fを負傷させた上,Gを屋外へ連れだして工事代金の増額を要求し,工事を中断させると1か月は職人が来な ったりしたため,平成10年2月13日の協議となった。 (イ) 被控訴人が同日の協議で,Fを負傷させた上,Gを屋外へ連れだして工事代金の増額を要求し,工事を中断させると1か月は職人が来ないと強迫したため,Gは,恐怖感からその場で被控訴人に対し,工事を止めてもらっていいと返事した。 Fの工事をやめてもよいとの発言は,被控訴人に対し,本件請負契約を契約どおり履行するよう要求するものであり,また,被控訴人の要求は,注文者にとって進退窮まるものであり,背信性が高い行為である。 (ウ) 結局,Gが工事を止めてもらってよいといったことは,被控訴人の不履行を原因として本件請負契約を解除したものであり,そうでなくても,被控訴人は,一方的に本件工事を途中で放棄したものである。 したがって,本件請負契約は,被控訴人の債務不履行が原因で,控訴人が解除して終了したものである。 (3) 本件工事の出来高ア被控訴人の主張(ア) 本件工事の出来高は,1846万2580円である。 (イ) 被控訴人の主張は,原判決添付別表「出来高に関する争点整理表」の「原告査定額」及び「原告根拠」欄各記載のとおりである。 イ控訴人の主張(ア) 本件工事の出来高は,1129万2605円である。 (イ) 控訴人の主張は,以下の点を特に付加するほかは,原判決添付別表「出来高に関する争点整理表」の「F査定額」及び「F根拠」欄各記載のとおりである。 ① 仮設工事は日数で算定すべきである。 ② 造作材の搬入は未完了で,出来高は,21万5140円である。 ③ 大工手間は,H建設の続行工事との差額からみて,28万9710円以上では は日数で算定すべきである。 ② 造作材の搬入は未完了で,出来高は,21万5140円である。 ③ 大工手間は,H建設の続行工事との差額からみて,28万9710円以上ではない。 ④ 金属性建具搬入取付費は,設置が完了したのは18か所のうち7か所にすぎないから,合計で6万3000円である。 ⑤ 木コン穴ウメ補修は,必要面積77.4平方メートルのうち34. 9平方メートルのみ完了したから,出来高は8万6000円である。 ⑥ 電気・換気設備の出来高は,引込み幹線工事が一部されたにとどまり,配線は完了していない上,H建設の続行工事費と比較しても10万円を超えるものではない。 ⑦ 給排水衛生工事・ガス設備工事の出来高は,第1次配線しか行われておらず,各機器までの配管・接続工事がされていないから5万円を超えるものではない。 (ウ) 被控訴人の工事の後を引き継いで,本件建物を完成させたH建設の工事部長による査定も1139万2122円というもので,ほぼ同額の査定をしている。 (4) 損害及び不当利得の額ア控訴人の主張(ア) H建設との請負契約代金1253万7000円(乙19),材料不足や被控訴人の瑕疵工事の補修等追加で発生した費用33万4700円(乙14),足場等を設置していた下請業者に別途支払った費用37万3500円(乙15,16),被控訴人に対する既払金1444万1000円の合計2768万6200円と本件請負契約の契約金2166万1500円との差額602万4700円が,被控訴人の債務不履行により増加した工事費用として損害となる。 (イ) 控訴人は,被控訴人の背信的な要求を受けた上,本来平成10年3月 2166万1500円との差額602万4700円が,被控訴人の債務不履行により増加した工事費用として損害となる。 (イ) 控訴人は,被控訴人の背信的な要求を受けた上,本来平成10年3月30日に本件建物の引渡しを受けるはずであったのに,H建設による完成をみたのは同年5月であり,新茶の販売時期に間に合わず,相当額の利益を逸した。このような事情を考慮すれば,被控訴人の債務不履行による慰謝料は200万円が相当である。 (ウ) 弁護士費用は80万円が相当である。 イ被控訴人の主張すべて争う。 第3 証拠証拠は,原審及び当審の証拠関係目録記載のとおりであるから,これを引用する。 第4 当裁判所の判断 1 争いのない事実,証拠(甲1ないし4,10,11,12,13ないし16,乙4,6,7,8の1及び2,10,11,12〔採用しない部分を除く。〕,13,17,26,31,原審における証人F〔採用しない部分を除く。〕及び被控訴人本人〔採用しない部分を除く。〕)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。 (1) 控訴人は,平成9年6月ころ,Dの新築を計画し,知人を介してFの紹介を受け,同年7月ころ,Fに設計・監理を任せることを決めた。 被控訴人は,「B建築事務所」「B住宅建設」という名称で建築設計業務と建設工事業を行っているが,平成8年ころ,大津市内での建築工事においてFと知り合い,Fが設計した建物を予算内に納めて建築したことがあった。 (2) 控訴人は,手持ち資金の限度が2000万円であることから,Fに対し,予算が2000万円であり,工事代金の増額には応じられないことを告げていた。 Fは,当初,本件建物を3階総鉄筋コンクリートの打放しとして設計し,平成9年 の限度が2000万円であることから,Fに対し,予算が2000万円であり,工事代金の増額には応じられないことを告げていた。 Fは,当初,本件建物を3階総鉄筋コンクリートの打放しとして設計し,平成9年7月,I建設工業株式会社に見積りを依頼したところ,約3000万円との見積り結果を得た。そこで,Fは,同年8月,被控訴人に対し,予算が2000万円であること,他社の見積りは約3000万円であったが,到底受け入れられないものであったことを告げた上,3階総鉄筋コンクリート造として見積りを依頼した。 なお,建築確認申請は,2階建ての建物としてされたが,実際には,屋根裏部分(ロフト)がつく3階となる建物となっている。 (3) 被控訴人は,3階総鉄筋コンクリート造りとして代金3350万円の第1見積り(甲14)をしたが,F及び控訴人には提示しなかった。被控訴人は,その後,Fから,1階のみ鉄筋コンクリート造・2階及び3階は木造に構造変更するとの連絡を受け,代金2729万4000円とする第2見積り,代金2690万1820円とする第3見積りをし,見積書(甲13,15)をFに提示した。 しかし,Fは,被控訴人に対し,控訴人の予算に合わせてほしいと申し入れたため,被控訴人は,Fとさらに打合せをして,平成9年11月末ころ,代金2368万5000円とする第4見積り(乙31)を出したが,これでもまだ予算に合わず,石工事から大理石面積を減少させ,内装工事から電動式ブラインドを取りやめ,雑工事についても1階の陳列台を変更し,小庇を取りやめて,代金2267万4560円とする第5見積り(甲16)を出した。これについても,さらに,被控訴人とFとの間で交渉をし,Fが代金を希望に合わせてくれるなら,建物のレベル,仕上げ材等工事内容を変更してよいと言ったので 万4560円とする第5見積り(甲16)を出した。これについても,さらに,被控訴人とFとの間で交渉をし,Fが代金を希望に合わせてくれるなら,建物のレベル,仕上げ材等工事内容を変更してよいと言ったので,被控訴人は,平成9年12月初め,最終的に本件請負契約の契約金2166万1500円に減額した。 本件請負契約の契約金が決定される際には,Fは,被控訴人に対し,建築実施図面は提示していたものの,電気設備,給排水衛生ガス設備,空調換気設備についての設計図面は渡していなかった上,第5見積りからさらに減額する項目や内容について,被控訴人との間においても控訴人との間においても具体的な合意はされなかったし,仕様書も取り交わされず,工事の基準も決められていなかった。 (4) 被控訴人は,平成9年11月初めころ,控訴人との間で,工事請負仮契約を締結し,本件建物の敷地にあった旧建物の取壊しを始め,同年12月7日,本件請負契約を締結した。この際も,控訴人は,被控訴人に対し,契約金額の増額はできないことを強く念押したが,被控訴人も工事には細かい変更がつきものなので,多少の金額の増減がある旨は述べた。 (5) Fは,本件工事現場に,ほぼ毎日数時間程度来て,監理業務をしていたところ,コンクリートの打放しには,ジャンカや不陸といった不具合が生じた。Fは,控訴人から,コンクリートの打放しのできあがりについて不満を聞かされたが,被控訴人に対しては,補修すべきところは補修すればよいとの意向を示し,できあがりが特別ひどいものであるなどとは言っていなかった。被控訴人は,補修はやむを得ないと思っていたが,補修か所に塗装をするのであれば,別途工事代金が加算されるべきであると考えていた。 また,Fは,被控訴人がコンクリートと柱の結合部にアンカーボルトを は,補修はやむを得ないと思っていたが,補修か所に塗装をするのであれば,別途工事代金が加算されるべきであると考えていた。 また,Fは,被控訴人がコンクリートと柱の結合部にアンカーボルトを設置するのを見ていたが,これをホールダウン金物に取り替えるよう指示をしたことはなかった。なお,設計図面にもホールダウン金物の設置位置は示されていない。 (6) 被控訴人は,契約前にFから予算に合うように工事をすればよいと言われていたことから,何とか予算内に納めようとし,2階正面の窓枠,トップライト,階段の仕上げ,2階のミニキッチンは,設計図と異なる仕様のものとし,また,物干場の手すりを設置しなかったが,Fも平成10年2月13日までは特に異を唱えなかった。 また,サイディングについては,設計図にその幅などの指示はなく,Fは,単に好みとして90センチメートル幅を考えていたが,被控訴人は,単価の安い幅45センチメートルのものを設置した。 電気の配電盤についても,店舗スペースに設置する図面となっており,これについてFから異議が出された形跡はない。 (7) 控訴人及びGは,上記(6)の点以外にも,タラップや2階和室のビニールクロス貼り,ロフト奥の天井部分,出窓天板,光庭上部のガラスなどについて不満を抱いていた。 被控訴人は,Gに対し,平成10年1月17日の上棟式前後から,本件工事をこのまま続ければ,100万円くらいの赤字となるので,この増額を要求するようになり,また,Fを通さないで,各種施工につき,仕様の変更に直接応じてほしいと要求するようになった。 (8) そこで,控訴人及びGは,Fに対し,工事の内容や被控訴人の態度について不満を述べるようになり,同年2月13日,被控訴人,F及びGが本件工事現場 応じてほしいと要求するようになった。 (8) そこで,控訴人及びGは,Fに対し,工事の内容や被控訴人の態度について不満を述べるようになり,同年2月13日,被控訴人,F及びGが本件工事現場において協議をすることになった。FとGとの間では,とりあえず,工事を止めてもらうように考えていた。 Fは,同日午後,被控訴人に対し,これまで被控訴人との間では補修ということで了承していたコンクリートの打放しの不出来について,かなり激しい口調で責め立てたり,アンカーボルトの施工中には特に変更を求めなかったにもかかわらず,ホールダウン金物が設置されていないことなどを厳しく指摘したため,被控訴人は,かっとなってFを引き倒し,同人を負傷させた。その後,Gは,被控訴人に対し,現場の仕事を止めたいのかと問いかけ,Fも,被控訴人に対し,「やめたかったらやめてもええぞ」と言ったので,被控訴人は,作業中の大工に聞かれないようにするためGを屋外に連れ出し,工事代金額の不満を述べつつ,その場で工事の断続について意思を確かめたところ,Gもこれ以上被控訴人に工事を続けてもらいたくないとの思いから工事中止を表明した。 (9) 被控訴人は,平成10年2月16日,Fに契約解除の精算をするため,一時中断した工事を再開しないように申し出た後,出来高を見積り,控訴人及びFに対し,出来高書(乙6)を送付した。一方,控訴人は,同年3月10日到達の内容証明郵便により,被控訴人の債務不履行を理由として本件請負契約を解除する旨の意思表示をした。 以上の事実を認めることができ,これに反する乙12の一部,原審における証人Fの供述及び被控訴人本人の供述の各一部は,前掲各証拠に照らして採用できず,また,Fは,本件訴訟に至っては被控訴人と利害対立関係にあり,同人作成の乙2 き,これに反する乙12の一部,原審における証人Fの供述及び被控訴人本人の供述の各一部は,前掲各証拠に照らして採用できず,また,Fは,本件訴訟に至っては被控訴人と利害対立関係にあり,同人作成の乙28,29は,自己の不都合を被控訴人に押しつけるものであり,直ちに採用することはできず,他に上記認定を左右するに足りる的確な証拠はない。 2 争点1について(1) 上記1認定の事実によれば,Fは,当初,本件建物を3階総コンクリート造とする設計をしていたが,見積り額が控訴人の希望をはるかに超えるものとなったため,1階のみコンクリート造りとし,2,3階は木造とする混構造として設計し直し,被控訴人に見積りを依頼したこと,被控訴人が混構造を前提に見積もったところ,2700万円前後となったため,さらにFと被控訴人との間で打合せをし,平成9年11月末ころ,2368万5000円とする見積りを作成したこと,この見積り額から石工事,内装工事,雑工事分を減額したが,それでも控訴人の予算に合わず,Fは,被控訴人に対し,建物のレベル,仕上げ材等を変更してもよいとして値引きを求め,被控訴人も工事を予算に合わせてもよいということで,値引きに応じ,本件請負契約の契約金2166万1500円が合意されたこと,値引き分については,具体的にどのような項目をどのように減額するかをFと被控訴人との間で決めないまま,工事着工となったことが認められ,したがって,被控訴人において,ある程度予算に合うように各種仕様を変更できると考えたことも無理からぬところであり,これを被控訴人の債務の不履行であると評価することはできないというべきである。 (2) 控訴人は,被控訴人の数次にわたる見積りが事後に作成されたものであると主張する。 なるほど,見積書(甲3,13ないし16,乙 ると評価することはできないというべきである。 (2) 控訴人は,被控訴人の数次にわたる見積りが事後に作成されたものであると主張する。 なるほど,見積書(甲3,13ないし16,乙31)相互間には,細かく見れば矛盾と思える点も存在する。しかし,上記1認定の事実によれば,最終的な見積りが確定するまでには,Fの設計図面もすべてが完成していたわけではなかったこと,各見積りは短期間に何度も作成されていること,見積りは,試算という面も否定できないことを併せ考えれば,数次の見積りがされなかったということはできず,控訴人側も大理石を敷設する面積を減少させるなど予算内に納める努力をしたし,被控訴人側も控訴人側が希望する予算内に納めるため,最終的に減額に応じたものというべきであり,控訴人の上記主張は理由がない。 3 争点2について(1) 上記1認定の事実及び上記2の判断によれば,コンクリートの打放しにジャンカや不陸が生じたこと,Fは,被控訴人に対し,これらについては補修で対応すればよいと言っていたこと,被控訴人は,補修は認めるものの,その上から塗装する場合は別途工事代金が必要になると考えていたこと,Fは,被控訴人がホールダウン金物を設置せずに,アンカーボルトを設置していたのを知りながら,これについては特に指示を出していないこと,したがって,被控訴人としては,Fもアンカーボルトで了解したものと考えたこと,被控訴人は,Fから,予算に合うように工事内容を変更してよいと聞かされ,特に具体的に変更についての合意がなかったことから,2階正面の窓枠,トップライト,階段の仕上げ,2階のミニキッチンについて,控訴人の希望や設計図と異なる仕様のものを設置し,また,物干場の手すりを設置しなかったこと,また,サイディングについては,図面上90センチメー ップライト,階段の仕上げ,2階のミニキッチンについて,控訴人の希望や設計図と異なる仕様のものを設置し,また,物干場の手すりを設置しなかったこと,また,サイディングについては,図面上90センチメートル幅との指示もなかったことから,被控訴人は,単価の安い45センチメートル幅のものを設置したこと,電気の配電盤の設置位置は,図面上店舗スペースになっていること,控訴人及びGは,これら仕様の変更を被控訴人が一方的に進めていると感じて不満を募らせていったこと,そこで,控訴人及びGは,Fと相談し,平成10年2月13日,F,G及び被控訴人が協議することとなったこと,しかし,協議の冒頭からFが一方的に被控訴人を難詰したので,被控訴人がFを引き倒して負傷させたこと,その後,Fは,被控訴人に対し,工事を止めたければ止めてもよいと言ったため,被控訴人は,Gに対して意思確認をしたところ,Gは,被控訴人が工事を止めることに同意したこと,そこで,被控訴人は,大工を引き上げ,以後の工事を中止したことが認められ,結局,本件請負契約は,控訴人と被控訴人の合意に基づき,解約されたものというべきである。 (2) 控訴人は,Fがホールダウン金物の不設置を了承したことがないと主張するが,Fは,毎日本件工事現場に来て,本件工事の監理業務を行っていたのであり,アンカーボルトの設置を平成10年2月まで知らなかったということはできないというべきであるし,仮にこれを知らないとすれば,上記監理業務を怠っていたといわざるを得ない。 (3) 控訴人は,G及びFは,被控訴人が契約どおりの工事をするよう求めたもので,被控訴人が本件請負契約の履行をしない場合に,債務不履行を理由とする解除をしたものであると主張する。 しかし,上記認定のとおり,被控訴人に債務不履行と評価すべき行為は認 るよう求めたもので,被控訴人が本件請負契約の履行をしない場合に,債務不履行を理由とする解除をしたものであると主張する。 しかし,上記認定のとおり,被控訴人に債務不履行と評価すべき行為は認められず,また,F及びGの合意も,被控訴人が突貫で進める工事をとりあえず止める方向へもっていこうということを申し合わせたにすぎず,債務不履行解除を明確に確認したものでないこと,F及びGが被控訴人に対し,平成10年2月14日以降,作業を再開するよう要求したことはうかがえないことを併せ考えると,控訴人の上記主張は理由がない。 (4) 原審における被控訴人本人の供述によれば,Fが,控訴人に対し,コンクリート打放しについて良い材料を使用したから良いものができあがるというような説明をし,水や,固さ,時間あるいは季節やその日の状態により一様に仕上がらないこともあるなどの不利等を十分に説明していないため,控訴人に不満が生じたことがうかがえる上,被控訴人には,工事を変更してでも予算内に納めるようにといいながら,控訴人にはそのような説明をしたことはうかがえないことなどから,控訴人と被控訴人の間には溝が深まったと考えられる。そして,結局,Fがその溝を埋めることができず,控訴人と被控訴人は本件請負契約を合意解約したものであり,被控訴人が一方的に本件工事を放棄したものとはいえない。 4 争点3について(1) 検甲号各証及び検乙号各証並びに当審における鑑定の結果によれば,出来高については以下のとおりであると認められる(いずれも消費税を含まず)。 ア仮設工事費 41万6714円被控訴人は,整理清掃費用,発生素材処分費用は,実費とすべきであると主張するが,工事中断以後も工事完了まで発生するものであるから,工 41万6714円被控訴人は,整理清掃費用,発生素材処分費用は,実費とすべきであると主張するが,工事中断以後も工事完了まで発生するものであるから,工事中断日までの工事進捗状況の割合によって算出すべきである。 イ土工事費 95万3500円ウ地盤完了工事費 65万7900円エコンクリート・型枠工事費 376万7000円オ鉄筋工事 108万5000円カ防水・コーキング工事費 7万3079円キ石工事 0円ク木工事 280万7549円① 構造材のうち,構造用金物は,設計図(乙17)にホールダウン金物との指定がされているが,実際には,アンカーボルトしか敷設されなかったこと,筋交い金物は,設置されているところもあり,50%の出来高とみるのが相当である。 被控訴人は,筋交い金物を増やしたというが,これを認めるに足りる的確な証拠はない。 その他の構造材の出来高は,100%とみるのが相当である。 ② 造作材については,工事の進捗状況から見て,2階及びロフト階は60%,1階については10%と見るのが相当である。 控訴人は,本件請負契約の見積金額からH建設の未納分を差し引いた21万5140円が相当であると主張するが,H建設の算出した未納分は,続行工事であることから割高になる可能性も否定できないこと,既に施工された分や搬入された分もあることから,差引で算出するのが相当であるとはいえない。 また,被控訴人 設の算出した未納分は,続行工事であることから割高になる可能性も否定できないこと,既に施工された分や搬入された分もあることから,差引で算出するのが相当であるとはいえない。 また,被控訴人は,工事中断日に,F立ち会いのもと,すべての造作材を搬入したとするが,これを認めるに足りる的確な証拠はない。 ③ 床については,フローリング材が搬入されていること,しな合板が貼られていることから出来高は64%と認められる。また,外壁については,貼上げ面積130.46平方メートルのうち,8.36平方メートルが未完であり,すかし目地のコーキングが未完であるから出来高は85%と認められる。 被控訴人は,いずれも完了しているとするが,上記のとおりである。 ④ 大工手間については,各階の出来高を面積比で割り出すと,全体として30%と認められる。 控訴人は,本件請負契約の見積金額からH建設の請求金額を差し引いた差額が大工手間の出来高であると主張するが,上記のとおり,H建設の請求額は,続行工事であることから割高になっている可能性を否定できず,また,本来予定していた工事以外の分が含まれている可能性も否定できず,差引算出が相当であるとはいえない。 被控訴人は,出来高が60%であるとするが,被控訴人の主張するサッシュ取り付けは,金属建具の項目で計上されており,また,加工場での木材加工は,構造材の項目で計上されていると考えられる。 ⑤ 外部面格子の出来高は,50%と認められる。 ケ屋根工事費 52万4109円コ金属製建具工事費 116万3430円控訴人は,搬入取付費として,設置すべき箇所が18か 52万4109円コ金属製建具工事費 116万3430円控訴人は,搬入取付費として,設置すべき箇所が18か所あるのに,完了しているのは7か所であるとし,1台9000円として6万3000円であると主張する。しかし,搬入取付費の根拠が明らかでなく,上記主張は採用できない。 被控訴人は,網戸が見積り落ちとなっているとするが,乙17のうちの建具表からみて網戸の必要箇所は13か所であり,網戸の納入があった物の取付けがされていないから,取付費用は減額となる。 サ左官工事費 15万1132円控訴人は,木コン穴埋め補修の出来高が8万6000円であると主張するが,気泡跡までは補修しないのが一般的であり,ジャンカ部分の補修をすればよく,出来高は50%であると認められる。 シ吹付塗装工事費 0円ス木製建具工事費 0円セガラス工事費 19万2624円被控訴人は,出来高は29万8735円であるとするが,ガラス施工搬入は,ガラスの未施工部分との按分割合によれば52.2%となるから,被控訴人主張の出来高には達しない。なお,チオコールは未施工である。 ソ内装工事費 0円タ雑工事費 14万9000円チ電気・換気設備工事費 35万0171円控 0円タ雑工事費 14万9000円チ電気・換気設備工事費 35万0171円控訴人は,電話用の本線も建物の中に入っていないことやH建設の実際の工事費用からみて,出来高は10万円であると主張し,被控訴人は,85万4000円であるという。H建設の工事費用をそのまま被控訴人の出来高算出に用いることができないのは,上記のとおりであるし,テレビ用受口配線工事及びエアコン4台については内訳明細書にも記載がない上,値引きによりどのような変更がされたのかも不明であり,被控訴人主張の出来高を認めるに足りる的確な証拠もない。 ツ給排水衛生ガス設備工事費 26万8917円控訴人は,H建設の見積りや配線,配管が初期の第1次的なものしか行われていないから5万円を超えるものではないと主張し,被控訴人は,出来高は82万6800円であるという。しかし,H建設の見積りをそのまま被控訴人の出来高算出に用いることができないのは,上記のとおりであるし,値引き分によりどのような変更がされたかは不明であるが,値引き分を按分して考慮すれば,上記のとおりとなる。 テボーリング工事費 15万0000円ト解体費 68万7000円ナ諸経費 82万5000円控訴人は,工事の進捗度合いに応じて算出すべきであると主張するが,工事期間に対する日割り計算として算出したものである。 ニ値引き分 82万5000円控訴人は,工事の進捗度合いに応じて算出すべきであると主張するが,工事期間に対する日割り計算として算出したものである。 ニ値引き分 128万2405円アないしナの出来高を当初の見積り額との按分で算出した。 (2) 上記アないしナを加算し,値引き分を控除して合計すると,被控訴人の出来高は,消費税別で1293万9720円(税込みで1358万6706円)となる。 5 争点4について(1) 被控訴人が控訴人から1444万1000円を受け取ったことは当事者間に争いがないところ,上記4のとおり,被控訴人の工事の出来高は消費税込みで1358万6706円となるから,85万4294円が過払分であり,被控訴人は,同額について返還義務を負う。 (2) 本件請負契約は,上記3のとおり,合意解約されたものであるから,足場等を設置していた下請業者に別途追加で支払った費用やH建設に続行工事を依頼したことで結果的に増加した工事代金等や慰謝料,弁護士費用を被控訴人に請求することはできない。 (3) なお,被控訴人の施工したコンクリート打放し工事には,ジャンカ,不陸等の瑕疵が認められるから,注文主は,瑕疵の修補に代えて直ちに修補に変わる損害賠償を請求することもできるが,これらが本件請負契約の債務不履行であるとはいえない。そして,ジャンカ,不陸等の瑕疵修補に要した費用は,乙19及び原審における証人Fの供述によれば,27万5185円であることが認められるけれども,控訴人は,予備的請求について,不当利得返還請求権を主張するのみで,瑕疵修補に代わる損害賠償を求めていない(控訴人の2000年12月6日付け準備書面,原審における2000年 とが認められるけれども,控訴人は,予備的請求について,不当利得返還請求権を主張するのみで,瑕疵修補に代わる損害賠償を求めていない(控訴人の2000年12月6日付け準備書面,原審における2000年2月8日付け準備書面)。 (4) 被控訴人が,ホールダウン金物を使用しなかったことは,上記1認定のとおりであるが,上記3のとおり,これは,被控訴人の債務不履行と評価することはできず,むしろ,Fの控訴人に対する関係における債務不履行と評価すべきものである。したがって,控訴人は,被控訴人に対し,L型プレートによる補強に要した費用を請求することはできない。 (5) また,サイディングについて,45センチメートル幅では90センチメートル幅のものに比べて,機能的に劣るという証拠はなく,むしろ,Fの好みというにすぎないものであるから,瑕疵であるとか債務不履行であるとはいえない。 6 結論以上のとおりであって,被控訴人の本訴請求は理由がなく,これを棄却すべきであり,債務不履行を理由とする控訴人の反訴主位的請求は理由がないが,工事代金の過払金85万4294円の支払を求める限度で,反訴予備的請求は理由があるから,これを認容し,その余は理由がないから棄却すべきである。 よって,これと結論を異にする原判決を上記のとおり変更することとし,主文のとおり判決する。 大阪高等裁判所第11民事部裁判長裁判官見満正治 裁判官 裁判官 辻本利雄 裁判官 下村眞美
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