令和2(行ウ)126 不開示決定処分取消等請求事件

裁判年月日・裁判所
令和5年2月28日 大阪地方裁判所
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判決文本文46,601 文字)

- 1 -主文 1 厚生労働大臣が令和2年8月27日付けで原告に対してした行政文書開示決定(厚生労働省発医政0827第4号及び第5号)のうち、別紙2厚労省対象部分記載の各部分を不開示とした部分を取り消す。 2 文部科学大臣が令和2年7月13日付けで原告に対してした行政文書 開示決定(2受文科初第675号)のうち、別紙3文科省対象部分記載の各部分を不開示とした部分を取り消す。 3 厚生労働大臣は、別紙2厚労省対象部分記載の各部分を開示する旨の決定をせよ。 4 文部科学大臣は、別紙3文科省対象部分記載の各部分を開示する旨の 決定をせよ。 5 原告のその余の請求を棄却する。 6 訴訟費用はこれを5分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 主文1項ないし4項と同旨 2 被告は、原告に対し、60万円及びこれに対する令和2年6月30日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は、原告が、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「情報公開法」という。)に基づき、厚生労働大臣及び文部科学大臣に対し、新型コロナウイルス感染症対策の一環として配布された布製マスク(いわゆるアベノマスク)に関する行政文書の開示請求をしたところ、上記各大臣からそれぞれ一部不開示決定を受けたため、布製マスクの単価金額及び数量等(別紙2厚労省 対象部分及び別紙3文科省対象部分の各情報。以下「本件不開示情報」という。)- 2 -を不開示としたのは違法であるとして、被告を相手に、①厚生労働大臣による決定のうち別紙2厚労省対象部分を不開示とした部分の取消し及び開示決定の義務付け、②文部科学大臣に 情報」という。)- 2 -を不開示としたのは違法であるとして、被告を相手に、①厚生労働大臣による決定のうち別紙2厚労省対象部分を不開示とした部分の取消し及び開示決定の義務付け、②文部科学大臣による決定のうち別紙3文科省対象部分を不開示とした部分の取消し及び開示決定の義務付けを求めるとともに、厚生労働大臣が開示決定等の延長後の期限を約2か月にわたり徒過したこと(以下「本件遅延」 という。)は国家賠償法上違法であると主張して、被告に対し、③同法1条1項に基づき、慰謝料等60万円及びこれに対する令和2年6月30日(上記期限の翌日)から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 情報公開法の定め (1) 5条情報公開法5条柱書きは、行政機関の長は、開示請求があったときは、開示請求に係る行政文書に同条各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き、開示請求者に対し、当該行政文書を開示しなければならない旨定める。 同条2号本文は、「法人その他の団体(国、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人を除く。以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、次に掲げるもの」を、同号イは、「公にすることにより、当該法人等又は当該個人の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの」を掲げる。 同条6号柱書きは、「国の機関、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人が行う事務又は事業に関する情報であって、公にすることにより、次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」を、同号ロは、「契約、交渉又は争訟に 又は事業に関する情報であって、公にすることにより、次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」を、同号ロは、「契約、交渉又は争訟に係る事務に関し、国、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独 立行政法人の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ」- 3 -を掲げる。 (2) 10条ア情報公開法10条1項本文は、同法9条各項の決定(以下「開示決定等」という。)は、開示請求があった日から30日以内にしなければならない旨定める。 イ情報公開法10条2項前段は、同条1項の規定にかかわらず、行政機関の長は、事務処理上の困難その他正当な理由があるときは、同項に規定する期間を30日以内に限り延長することができる旨、同項後段は、この場合において、行政機関の長は、開示請求者に対し、遅滞なく、延長後の期間及び延長の理由を書面により通知しなければならない旨定める。 2 前提事実(当事者間に争いがないか、掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)(1) 新型コロナウイルス感染症の発生に伴うマスク等の需給のひっ迫とこれに対する措置等ア新型コロナウイルス感染症の発生等 新型コロナウイルス感染症は、令和元年12月以降、その感染が国際的な広がりを見せ、我が国においても令和2年1月に感染者が確認された。 その後、新型コロナウイルス感染症は全国的に拡大し、これに伴って、マスク等が品薄状態となった。(甲52・566頁、乙8)イ政府の対策等 政府は、令和2年2月以降、「新型コロナウイルス感染症に関する緊急対応策」(令和2年2月13日新型コロナウイルス感染症対策本部決定) ・566頁、乙8)イ政府の対策等 政府は、令和2年2月以降、「新型コロナウイルス感染症に関する緊急対応策」(令和2年2月13日新型コロナウイルス感染症対策本部決定)及び「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」(令和2年2月新型コロナウイルス感染症対策本部決定)等を順次定め、新型コロナウイルス感染症の感染者が多数に上っている地域に滞在歴のある外国人等の上陸拒否 等の水際対策の強化、感染症指定医療機関等の治療体制等の強化、マスク、- 4 -医薬品等の迅速かつ円滑な供給体制の確保等の対策を講じた(甲52・566頁、乙10、11)。 さらに、政府は、「新型コロナウイルス感染症に関する緊急対応策-第2弾-」(令和2年3月10日新型コロナウイルス感染症対策本部決定)として、①感染拡大防止策と医療提供体制の整備、②学校の臨時休業に伴 って生じる課題への対応、③事業活動の縮小や雇用への対応、④事態の変化に即応した緊急措置等を定め、上記に基づく措置として、マスクの転売行為を禁止するとともに、再利用可能な布製マスクを国が一括して購入し、介護施設等(介護施設や障害者施設、保育所等、放課後児童クラブ等をいう。以下同じ。)の利用者及び職員に配布するとともに、医療機関向けの マスクについて国内メーカーに増産を要請するなどした。また、政府は、「『新型コロナウイルス感染症対策緊急経済対策』について」(令和2年4月7日閣議決定)に基づく措置として、介護施設等の利用者及び職員に加えて、妊婦、学校の児童生徒及び教職員のほか、国内の全世帯を対象に布製マスクを配布することとした(以下、これらの布製マスクの配布に係 る事業を総称して「布製マスク配布事業」といい、介護施設等の利用者及び職員を対象とするものを「 のほか、国内の全世帯を対象に布製マスクを配布することとした(以下、これらの布製マスクの配布に係 る事業を総称して「布製マスク配布事業」といい、介護施設等の利用者及び職員を対象とするものを「介護施設等向け配布事業」と、妊婦を対象とするものを「妊婦向け配布事業」と、国内の全世帯を対象とするものを「全戸向け配布事業」といい、学校の児童生徒及び教職員を対象とするものを「学校向け配布事業」という。)。なお、布製マスク配布事業のうち、介護 施設等向け配布事業、妊婦向け配布事業及び全戸向け配布事業は厚生労働省の所管であり、学校向け配布事業は文部科学省の所管である。(甲52・566~567頁、乙11)ウ布製マスク配布事業布製マスク配布事業は、令和2年3月下旬以降、次の配布時期及び配布 枚数が予定され、国が納入業者から布製マスクを調達し、調達したマスク- 5 -を、配布等業務を請け負った業者において配布対象である世帯、施設等に配布するという流れにより実施された(甲52・567頁)。 (ア) 全戸向け配布事業令和2年4月中旬~同年5月末 1住所当たり2枚(イ) 介護施設等向け配布事業 令和2年3月末まで 1人につき1枚令和2年4月~同年9月 1人につき1月当たり1枚(6か月分6枚)(ウ) 妊婦向け配布事業令和2年4月~同年9月 1人につき1月当たり2枚(6か月分12枚) (エ) 学校向け配布事業令和2年4月及び5月以降 1人につき1回当たり1枚(2回分2枚)(2) 厚生労働大臣の一部不開示決定に至る経緯等ア開示請求(ア) 原告は、令和2年4月30日、厚生労働 令和2年4月及び5月以降 1人につき1回当たり1枚(2回分2枚)(2) 厚生労働大臣の一部不開示決定に至る経緯等ア開示請求(ア) 原告は、令和2年4月30日、厚生労働大臣に対し、同月28日付け 行政文書開示請求書(開第372号)により、情報公開法4条1項に基づき、別紙4開示請求文書目録記載1の文書の開示請求(以下「本件厚労開示請求」という。)をした(甲19、乙1)。 (イ) 原告は、令和2年4月30日、厚生労働大臣に対し、同月28日付け行政文書開示請求書(開第373号)により、情報公開法4条1項に基 づき、別紙4開示請求文書目録記載2の文書の開示請求(以下「別件厚労開示請求」という。)をした(甲20、乙2)。 イ期限の延長厚生労働大臣は、令和2年5月29日付けで、原告に対し、本件厚労開示請求について、情報公開法10条2項に基づき、開示決定等の期限を同 年6月29日まで延長する旨の通知(以下「本件延長通知」といい、延長- 6 -後の期限を「本件期限」という。)をし、同日付けで、別件厚労開示請求についても同様の通知をした(甲21、22)。 ウ一部不開示決定等(ア) 厚生労働大臣は、令和2年7月3日付けで、別件厚労開示請求について、対象文書の一部を不開示としその余を開示する旨の決定をした(以 下「別件厚労決定」という。甲23)。 (イ) 厚生労働大臣は、本件期限から約2か月を経過した令和2年8月27日付けで、原告に対し、本件厚労開示請求について、情報公開法9条1項に基づき、対象文書のうち、①法人及び法人の代表者の印影に係る部分、②単価、購入単位、(予定)数量及び配布箇所及び数量に係る部分、 ③見積書の銀行口座番号等、仕様 について、情報公開法9条1項に基づき、対象文書のうち、①法人及び法人の代表者の印影に係る部分、②単価、購入単位、(予定)数量及び配布箇所及び数量に係る部分、 ③見積書の銀行口座番号等、仕様の一部の記載等に係る部分、④厚生労働省が布マスクを購入するために行った入札結果を含む入札に関する文書及び布マスク購入に関し販売業者との間でやり取りした文書(電子メールとその添付文書を含む。)を不開示とし、その余を開示する旨の決定(以下「本件厚労決定」という。)をした(甲28、29)。 原告が取消し等を求める別紙2厚労省対象部分は、厚生労働省が、令和2年3月16日、同月17日、同月19日、同年4月7日及び同月15日に、民間企業6社(興和株式会社、伊藤忠商事株式会社、株式会社マツオカコーポレーション、株式会社ユースビオ、株式会社シマトレーディング及び横井定株式会社をいう。以下同じ。)との間で締結した布 製マスクの購入契約に係る契約書、見積書、変更契約書及び納品書中の、単価金額、数量(単位)並びに運送費が記載された部分である。なお、上記各契約に係る代金額の総額はいずれも開示されている。(甲31、32)(3) 文部科学大臣の一部不開示決定に至る経緯等 ア開示請求- 7 -原告は、令和2年5月12日、文部科学大臣に対し、同月11日付け行政文書開示請求書により、情報公開法4条1項に基づき、別紙4開示請求文書目録記載3の文書の開示請求(以下「本件文科開示請求」という。)をした(甲33、乙3)。 イ期限の延長 文部科学大臣は、令和2年6月10日付けで、原告に対し、本件文科開示請求について、情報公開法10条2項に基づき、開示決定等の期限を同年7月13日まで延長する旨 イ期限の延長 文部科学大臣は、令和2年6月10日付けで、原告に対し、本件文科開示請求について、情報公開法10条2項に基づき、開示決定等の期限を同年7月13日まで延長する旨の通知をした(甲35)。 ウ一部不開示決定等文部科学大臣は、令和2年7月13日付けで、原告に対し、本件文科開 示請求について、情報公開法9条1項に基づき、対象文書のうち、①契約の相手方の印影及び振込先口座情報に係る部分、②国の印影に係る部分、③非常勤職員の氏名及び契約の相手方の氏名(連絡先)に係る部分、④契約の単価及び単価を計算できる購入数量に係る部分を不開示とし、その余を開示する旨の決定(以下「本件文科決定」といい、本件厚労決定と併せ て「本件各決定」という。)をした(甲37)。 原告が取消し等を求める別紙3文科省対象部分は、文部科学省が、令和2年4月3日、民間企業3社(興和株式会社、伊藤忠商事株式会社及び株式会社マツオカコーポレーションをいう。以下同じ。なお、以下、民間企業6社及び民間企業3社を総称して「本件各企業」という。)との間で締 結した布製マスクの購入契約(以下、上記(2)ウ(イ)の厚生労働省の購入契約と併せて「本件各契約」という。)に係る原議書、契約書、見積書、予定価格調書、変更契約書中の、単価金額及び(予定)数量並びに1枚当たりの消費税相当額及び地方消費税相当額が記載された部分である。なお、上記各契約に係る代金額の総額はいずれも開示されている。(甲39) (4) 本件訴訟の提起- 8 -原告は、令和2年9月28日、本件訴えを提起した。 3 争点(1) 本件不開示情報の情報公開法5条2号イ該当性(争点1)(2) 本件不開示情報の情報公開 の提起- 8 -原告は、令和2年9月28日、本件訴えを提起した。 3 争点(1) 本件不開示情報の情報公開法5条2号イ該当性(争点1)(2) 本件不開示情報の情報公開法5条6号ロ該当性(争点2)(3) 本件遅延の国家賠償法上の違法性(争点3) (4) 損害の有無及びその額(争点4) 4 争点に関する当事者の主張(1) 争点1(本件不開示情報の情報公開法5条2号イ該当性)について本件不開示情報が、情報公開法5条2号本文の「法人その他の団体…に関する情報」に当たることは、当事者間に争いがない(なお、同号ただし書に 該当する旨の主張はされていない。)。したがって、争点は、本件不開示情報が、同号イの「公にすることにより、当該法人等…の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの」に該当するか否かである。 (被告の主張)ア本件不開示情報は、本件各契約に係る布製マスクの単価金額及び数量等 であるところ、政府は、新型コロナウイルス感染症対策のため、国外から大量にマスク等の日常的に用いられる衛生用品を短期間のうちに調達することができる能力を有していた本件各企業との間で、本件各契約を締結したものである。このような日常的な衛生用品は、感染症がまん延するなどして需給の均衡が崩れた状況において、これを適時のタイミングで大量に 入手することは必ずしも容易ではなく、現に、国内においてもマスクの流通が滞ったという事態が生じている。そして、本件各契約の単価金額及び数量等が公にされれば、本件各企業が需給の均衡が崩れた状況における日常的な衛生用品に関して、いかなる数量をいかなる費用で調達する(仕入れる)ことができるかといった本件各企業の調達能力、営業ノウハ び数量等が公にされれば、本件各企業が需給の均衡が崩れた状況における日常的な衛生用品に関して、いかなる数量をいかなる費用で調達する(仕入れる)ことができるかといった本件各企業の調達能力、営業ノウハウ、ア イデアに関する情報を生産者及び仲介者(以下「生産者等」という。)や同- 9 -業他社が入手できることになる。 また、同業他社であれば、合理的な利潤の率を想定することができるため、政府に対する売却代金額(単価金額)から、製造原価や仕入価格等を推知することが容易となり、本件各契約から判明する合理的な利潤等の情報を参考にして、このような需給の均衡が崩れた事態に際して本件各企業 が設定するであろう合理的な利潤等をも想定することが可能となり、類似の物品に関する本件各企業の調達能力、営業ノウハウ、アイデアをあらかじめ推知することができる。そうすると、本件各企業が、生産者等からの調達を巡る同業他社との競争において不当に不利な地位に置かれるおそれがある。 なお、本件各契約の契約金額(総額)は開示されているから、単価金額が明らかになる(総額÷数量=単価)ことを避けるためには、数量についても不開示にする必要がある。 イまた、生産者等は、本件不開示情報が公にされることによって、本来知り得ないはずの本件各企業の政府に対する売却代金額(単価金額)を知る ことができるところ、その金額を一つの根拠として、同様の事態が生じた際に、本件各企業との間でその売値(本件各企業の仕入価格)をつり上げることが可能となる。したがって、このような情報が生産者等に知られていない場合に比べて、本件各企業が仕入価格の交渉上不当に不利な地位に置かれるおそれがある。 ウそして、新型コロナウイルスの感染拡大は収束しておらず、今 ような情報が生産者等に知られていない場合に比べて、本件各企業が仕入価格の交渉上不当に不利な地位に置かれるおそれがある。 ウそして、新型コロナウイルスの感染拡大は収束しておらず、今後も何らかの感染症が流行することが考えられ、これらの感染症対策として一般的に有効性が認められる日常的な衛生用品の需給が一時的に崩れる可能性は現実のものとして存在するといえる。本件不開示情報が公にされれば、将来における本件各企業の権利、競争上の地位を害するおそれがある。 エしたがって、本件不開示情報を公にすることにより、布製マスクの購入- 10 -契約の相手方である本件各企業の権利や競争上の地位を害するおそれがあるから、本件不開示情報は、「公にすることにより、当該法人等…の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの」に該当し、情報公開法5条2号イに該当する。 (原告の主張) アマスクの小売価格自体は、秘匿を要するような営業秘密に当たらない。 マスクの小売価格が分かると、販売業者の調達能力、営業ノウハウ、アイデアに関する情報(秘匿を要するもの)が推測できてしまうということもない。新型コロナウイルス感染症の流行期の初期にマスクの供給が不足し、入手困難な状況が生じたが、そのような際にも、マスクの販売はされてお り、その小売価格も表示されていた。そして、マスクの小売価格自体から、販売業者の調達能力、営業ノウハウ、アイデアに関する情報のうち、秘匿を要するものが推測できてしまうということもなかった。したがって、平時においてはもちろん、入手困難な特別な事情が生じた時期においても、マスクの価格を明らかにすると販売業者の正当な利益が害されるといった ことはあり得ない。 また、マスク がって、平時においてはもちろん、入手困難な特別な事情が生じた時期においても、マスクの価格を明らかにすると販売業者の正当な利益が害されるといった ことはあり得ない。 また、マスクの単価、調達価格を明らかにしたからといって、マスク以外の日常的な衛生用品全般について、企業の調達能力など分かりようがない。また、本件各契約の単価金額及び数量等が公になれば、本件各企業が、その数量のマスクを調達することができるという意味での調達能力が明ら かになるということはできるが、営業ノウハウ、アイデアに関する情報は、同業他社といえども入手することができず、「調達能力」が明らかとなったとしても、本件各企業の正当な利益を害することにもならない。 被告は、「需給バランスが崩れている状態」を前提に議論をするが、「需給バランスが崩れている状態」において、政府への販売単価が分かったと ころで、製造原価や仕入価格自体が「通常の状態」より上がっているのか、- 11 -あるいは企業が「通常の利潤(合理的利潤率)」とは異なる利潤を得ているのか、不明といわざるを得ない。また、需給バランスが崩れた場合に、マスクの調達で企業がどれだけ儲けたかが分かるので、類似商品についても需給バランスが崩れたらどの程度儲けられるかが分かると主張するが、合理的利潤率から仕入価格等が分かるという上記被告の主張の理論とつな がらないし、企業の儲けは製品の種類によっても、また需給均衡の崩れ方によっても異なるはずで、マスクの単価金額が分かったところで将来同種の事態が起こった場合の調達企業の儲けを推測することなど全く不可能である。そして、それが推測されたとして、企業の保護すべき「営業ノウハウ、アイデア」といえるのか、理解不能である。 イまた、被 こった場合の調達企業の儲けを推測することなど全く不可能である。そして、それが推測されたとして、企業の保護すべき「営業ノウハウ、アイデア」といえるのか、理解不能である。 イまた、被告は、生産者等が、本件各企業に対する売値をつり上げる材料に使われると主張するが、マスクの小売価格自体は秘密でも何でもないし、マスクの売値をつり上げる材料として利用しようとする生産者等であれば、本件各企業を取引相手とする場合に限らず、マスクの小売価格が一般に公開されている以上、どのような相手方と取引する場合にも売値のつり 上げに利用しようとするはずであり、本件各企業の正当な利益を害することはあり得ない。 ウ厚生労働省分の開示文書において、布製マスク1枚当たり100円ないし200円程度で募集がされたことが判明しており、実際に、文部科学省分の開示文書には、厚生労働省合同マスクチーム(以下「マスクチーム」 という。)での契約単価「143円(税込み)」に伴い、文部科学省分についても業者との間で単価について変更契約がされたことが明らかとなっている。このように、マスクのおおむねの単価は明らかとなっていたのであって、業者ごとの単価に多少のばらつきがあったとしても、それが明らかになったところで、企業の競争上の利益を害するおそれなど存在しない。 加えて、厚生労働大臣は、本件厚労決定時には、不開示事由として情報- 12 -公開法5条2号イを挙げていなかったのであって、そもそも厚生労働大臣自体が、本件厚労決定時には、マスクの単価等が開示されたとしても企業の正当な利益を害するおそれがあるとは考えていなかったといえる。 エしたがって、本件不開示情報は、「公にすることにより、当該法人等…の権利、競争上の地位その他正当な利 開示されたとしても企業の正当な利益を害するおそれがあるとは考えていなかったといえる。 エしたがって、本件不開示情報は、「公にすることにより、当該法人等…の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの」に該 当せず、情報公開法5条2号イに該当するとはいえない。 (2) 争点2(本件不開示情報の情報公開法5条6号ロ該当性)について本件不開示情報が、情報公開法5条6号柱書きの「国の機関…が行う事務又は事業に関する情報」に当たることは、当事者間に争いがない。したがって、争点は、本件不開示情報が、同号ロの「(公にすることにより)契約、交 渉…に係る事務に関し、国…の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ」があるものに該当するか否かである。 (被告の主張)ア本件不開示情報は、政府が本件各企業と締結した本件各契約に係る布製マスクの単価金額及び数量等である。新型コロナウイルスに限らず、今後 も何らかの感染症が流行することが考えられるところ、それらの感染症対策として一般に有効性が認められる日常的な衛生用品等の物資の需給が崩れる可能性は現実のものとして存在し、本件不開示情報が公にされれば、政府が日常的な衛生用品等についての物資の需給の均衡が崩れた際にこれを緊急に調達する場合の一事例としての購入単価等をあらかじめ民間企業 が入手できることになる。そうすると、民間企業は、今後、同様の事態が生じた際に、本件不開示情報である購入単価等を一つの根拠にして、政府との契約の締結又は交渉において政府に対する売値をつり上げることが可能となり、契約単価が高止まりするなど、今後の契約における価格交渉に支障が生じる可能性がある。しかも、このような需給の均衡が崩れた状況 下において において政府に対する売値をつり上げることが可能となり、契約単価が高止まりするなど、今後の契約における価格交渉に支障が生じる可能性がある。しかも、このような需給の均衡が崩れた状況 下においては、物資を供給する民間企業間の競争が働きにくく、上記弊害- 13 -がより強く表れることとなるのであって、本件不開示情報が公開されることにより、「国…の財産上の利益や当事者としての地位を不当に害するおそれ」がある。 そして、本件各契約の契約金額(総額)は開示されているから、単価金額が明らかになる(総額÷数量=単価)ことを避けるためには、数量につ いても不開示にする必要がある。 イしたがって、本件不開示情報を公にすることにより、将来の契約の締結又は交渉に際し、国の財産上の利益や当事者としての地位を不当に害するおそれがあるから、本件不開示情報は、公にすることにより、「契約、交渉…に係る事務に関し、国…の財産上の利益又は当事者としての地位を不当 に害するおそれ」があるものに該当し、情報公開法5条6号ロに該当する。 (原告の主張)ア被告の主張は、結局のところ、「…民間企業は、今後、同様の事態が生じた際に、本件不開示情報である購入単価等を一つの根拠にして、政府との契約の締結又は交渉において政府に対する売値をつり上げることが可能 となり、契約単価が高止まりするなど、今後の契約における価格交渉に支障が生じる可能性がある」というに尽きる。このような主張は、「名目的な」支障をいうもので、おそれについても「確率的な可能性」をいうものにすぎない。 被告は、「今後、同様の事態が生じた際」のことを問題とするが、どの ような製品の供給がひっ迫するか、その製品をどの程度確保する必要があるか、対応で 可能性」をいうものにすぎない。 被告は、「今後、同様の事態が生じた際」のことを問題とするが、どの ような製品の供給がひっ迫するか、その製品をどの程度確保する必要があるか、対応できる民間企業がどこで、何社あるのか、それらの企業が、どこから当該製品を調達できるのかなど、今回の布製マスク調達と完全に同一の事態が生じることはない。本件不開示情報である単価金額等が開示されたとしても、それが「今後、同様の事態が生じた際」に民間事業者が政 府との契約交渉において売値をつり上げる根拠になるとは到底考えられな- 14 -い。実際、本件各契約を締結した企業の中には、令和2年3月ないし4月にかけて、いったん契約した布製マスクの単価金額について大幅な減額をした会社もあり、単価金額等が開示されることによって国が将来の同様の需要ひっ迫下でのマスク等の調達において交渉上不利となるなどということはない。 また、被告の主張は、要するに、民間事業者の中には、本件のような非常事態において、政府の足元を見て、製品を高値で買い取らせて暴利を貪ろうとする者がいることを前提とするものである。しかし、そのような事業者は、本件不開示情報を開示するか否かにかかわらず暴利を貪ろうとするので、不開示とする意味はない。また、調達企業同士が自由に競争せず、 単価について示し合わせて売値をつり上げ、単価を高止まりさせる、いわゆる談合を行う場合が考えられるものの、談合は別途取り締まられるべきであり、このような別途取り締まられるべき犯罪行為を前提とした「おそれ」をもって不開示情報該当性を判断することは許されない。 加えて、国は、本件各契約の相手方である本件各企業に対し、契約時に、 契約内容を開示しないことを契約条件としておらず、そ それ」をもって不開示情報該当性を判断することは許されない。 加えて、国は、本件各契約の相手方である本件各企業に対し、契約時に、 契約内容を開示しないことを契約条件としておらず、そのように求めたこともない上に、単価金額を公にした業者に対してクレームを入れるといったこともしていない。さらに、厚生労働省は、令和2年4月、布製マスクの調達予定価格を1枚当たり100円ないし200円として供給企業を募集するなどし、一部の企業については布製マスクの単価金額が明らかにな っている。そうすると、布製マスクの単価金額及び数量等が公にされることにより、売値のつり上げや契約単価の高止まりが生ずるとはいえない。 むしろ、本件で政府が調達したマスクの価格等が適正なものであったか、それとも民間事業者が、政府の足元を見て、著しく高額の利潤を上乗せしたものであったのか、本件不開示情報を開示することによって検証するこ とが可能となる。事後的に購入単価等が開示されることが分かっていれば、- 15 -契約相手の民間事業者としても、政府の足元を見て、著しく高額の利潤を上乗せするようなことは控えるであろうから、その意味で、購入単価等を開示した方が、「今後、同様の事態が生じた際」にも、不当な価格のつり上げを防ぐことに資する。 イしたがって、本件不開示情報は、公にすることにより、「契約、交渉… に係る事務に関し、国…の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ」があるものに該当せず、情報公開法5条6号ロに該当するとはいえない。 (3) 争点3(本件遅延の国家賠償法上の違法性)について(原告の主張) ア情報公開制度は、国民主権原理の理念に基盤を置き(情報公開法1条)、憲法上の表現の自 ない。 (3) 争点3(本件遅延の国家賠償法上の違法性)について(原告の主張) ア情報公開制度は、国民主権原理の理念に基盤を置き(情報公開法1条)、憲法上の表現の自由や知る権利(又は行政が保有する情報に接することの自由)に由来するものとして、権利性を有しており、情報公開法によって規定される開示請求権は十分な具体性を有する権利というべきである。そうすると、具体的な遅延の期間、遅延するに至った原因、開示を求められ ている文書の量や特定・開示手続の難易度、他に取り得る方法の有無、請求者に対する説明状況等からして、開示決定等について情報公開法所定の期限を遵守しなかったこと(できなかったこと)について正当な理由がある場合でなければ、国家賠償法上違法となるというべきである。 イ本件遅延における具体的な遅延期間は、延長した期限である令和2年6 月29日(本件期限)から本件厚労決定がされた同年8月27日までの約2か月間であって、極めて長期間の遅延であった。 そして、被告は、本件期限までに開示決定等ができなかった理由として、①新型コロナウイルス感染症のまん延により当該担当部署(医政局)が繁忙状況にあった、②開示請求に係る行政文書の量が合計7項目と多く、契 約書類の所在も大臣官房会計課が保管していたものだった、③医政局では- 16 -令和元年度に1件であった情報公開請求件数が令和2年度の当該期間(4月~8月)には59件と急増したことを挙げる。 しかし、上記①は、担当部署の繁忙状況を挙げるにすぎず開示決定等が遅れる理由としては失当である上、関係書類の保管を大臣官房会計課が行っていたのであるから、担当課を変えることで対応できたはずである。上 記②は、布製マスク配布事業に関 挙げるにすぎず開示決定等が遅れる理由としては失当である上、関係書類の保管を大臣官房会計課が行っていたのであるから、担当課を変えることで対応できたはずである。上 記②は、布製マスク配布事業に関する募集・契約関係文書をできる限り特定するために細分化したことから項目が7つとなったにすぎず、これらは、本来セットにして保存されるべき、各業者の見積書、納品書、契約書、変更契約書と当初の募集文書であって、探索や特定は容易であったというべきであるから、厚生労働大臣が漫然と本件厚労開示請求を放置したという べきである。上記③は、医政局が令和元年に担当した情報公開請求の件数が異常に少なかっただけで、令和2年の情報公開請求の59件が絶対的に多いか否か不明であるし、前年度に比して情報公開請求が急増したのは「アベノマスク」配布事業という国民から見て趣旨不明の政策が実施されたからとしか考えられず、請求対象文書も相当重複していることが容易に想像 できることを考慮すると、対応事務量が件数に比例して多くなるともいえない。 加えて、被告としては、医政局が繁忙期にあり、情報公開請求も激増していた状況にあり、7項目もある本件公開請求に対して対応が困難であったというのであれば、情報公開法11条により、相当な部分のみ期間内に 開示決定等をし、その余を相当期間内に開示等することができたはずであって、これができない事情があったとはいえない上に、これが検討された形跡もない。しかも、被告は、開示決定等が遅れることについて、原告に連絡をせず、丁寧・真摯な説明を行う態度すら見られなかった。 ウしたがって、厚生労働大臣が情報公開法に定める開示決定等の期限を遵 守しなかったことの正当な理由など全く存在しないし、一般人においてお- 17 - を行う態度すら見られなかった。 ウしたがって、厚生労働大臣が情報公開法に定める開示決定等の期限を遵 守しなかったことの正当な理由など全く存在しないし、一般人においてお- 17 -よそ受忍すべき限度を超えているから、本件遅延は、国家賠償法上違法である。 (被告の主張)ア国家賠償法1条1項にいう違法性は、行政処分の効力発生要件に関する違法性とはその性質を異にすべきものであり、当該公務員が職務上尽くす べき注意義務を尽くすことなく漫然と当該行為をしたと認め得るような事情がある場合に限り、同項の適用上違法の評価を受けることになる。 そして、公権力の行使又は不行使が職務上の法的義務に違反するとして違法とされるためには、単に当該個別の国民の何らかの権利ないし利益が侵害されたというだけでは足りず、国家賠償法上保護される具体的な権利 ないし法的利益が侵害されたことが必要となる。 イ情報公開法に基づく開示請求権は、開示請求の対象となった行政文書について法に基づき開示又は不開示の処分がされることを目的とするものであるから、開示請求に対する応答としての処分がされることにより、最終的にはその目的を達成されるといえる。開示請求に対する処分がされた場 合には、原則としてそれ以上に何らかの権利や法的利益が侵害されたことを観念し難いというべきである。しかも、情報公開法1条に定める情報公開法の目的に照らせば、情報公開法は、情報開示請求権を定めることを手段として、行政機関の保有する情報の一層の公開を図ることを第一次的な目的とし、公正で民主的な行政の推進等といった公益に資することを高次 の目的としているものであって、個人の権利利益を保護することを直接の目的とするものではない。 そう を第一次的な目的とし、公正で民主的な行政の推進等といった公益に資することを高次 の目的としているものであって、個人の権利利益を保護することを直接の目的とするものではない。 そうすると、仮に情報公開法の定める開示期限の後の応答処分がされた場合であっても、直ちに開示請求者の国家賠償法上保護される具体的な権利ないし法的利益の侵害があったと解することはできない。そして、本件 では、原告は、申請に対する応答としての処分を現に受けており、情報公- 18 -開法が定める開示又は不開示の応答を受ける利益については既に満足を得ているから、別途、国家賠償法上の違法の問題は生じない。 ウ他方、個別具体的な遅延状況を踏まえ、かかる遅延状況が、もはや、社会通念上一般人においておよそ受忍すべき限度を超えているという場合においては、これをもって国家賠償法上の違法性を観念する余地があるもの の、このような開示決定等の遅延についての国家賠償法上の違法性の有無は、開示請求に係る行政文書の量や所在、当該行政文書を審査して開示・不開示を決することの難易等のほか、行政機関の事務処理体制、担当する事務の繁閑、その他の事情を総合考慮して判断すべきものと解される。 厚生労働省に対する情報公開請求の窓口は、厚生労働省大臣官房総務課 公文書監理・情報公開室であり、本件厚労開示請求は、その内容に従い、その担当課である同省医政局経済課(以下「経済課」という。)に回付された。 そして、経済課は、令和2年4月から同年8月までの間、マスク等の調達・配布業務、国会対応等の業務が増加し、極めて繁忙な状況が続いてい た。本件厚労開示請求において、開示を請求する文書の記載そのものが、布製マスクの配布に関する項目及び業者との布製マ ク等の調達・配布業務、国会対応等の業務が増加し、極めて繁忙な状況が続いてい た。本件厚労開示請求において、開示を請求する文書の記載そのものが、布製マスクの配布に関する項目及び業者との布製マスク契約等に関する項目の合計7項目と多岐にわたり、文書の特定に相当程度の時間を要するものであった上、本件厚労開示請求の対象文書に当たる契約書類等の文書は、大臣官房会計課が保管しており、大臣官房会計課における文書の探索及び 経済課への提出等の調整を必要とするものであった。また、経済課が令和元年度において1年を通じて担当した開示請求の件数は1件にすぎなかったが、令和2年4月から同年8月までの間において担当した開示請求の件数は、本件厚労開示請求を含めて59件に上り、前年に比して急増、多量であった。 このように、経済課は、例年と比較しても業務が急増し、極めて多忙な- 19 -状況下において、その所掌事務を適切に遂行しつつ、原告の開示請求を含めた多数の開示請求についても適切に対応しなければならない状況であったといえ、本件厚労開示請求に対して、所掌事務の適切な遂行に必要な限度を超えて、漫然と本件厚労開示請求を放置したという事情は存在しない。 また、経済課は、その所掌事務や他の開示請求を処理しつつ、まずは別件 厚労開示請求(開第373号)について先行して作業を行い、別件厚労決定をしたのであって、原告の行った本件厚労開示請求に対して、所掌事務の遂行と開示請求の処理との間で調和を図るために可能な限りの行為を行った。 エしたがって、本件遅延は、社会通念上受忍限度を超えるものということ はできず、公務員が原告に対して負うべき職務上の義務違反があったとは評価できないから、国家賠償法1条1項の適用上違法であるとはいえない て、本件遅延は、社会通念上受忍限度を超えるものということ はできず、公務員が原告に対して負うべき職務上の義務違反があったとは評価できないから、国家賠償法1条1項の適用上違法であるとはいえない。 (4) 争点4(損害の有無及びその額)について(原告の主張)原告は、厚生労働大臣が本件厚労開示請求を漫然と放置したことから、適 時に開示文書を前提とした言論、発信をする機会を逸し、また、開示されない場合の不服申立てもできない状況に置かれた。原告に生じた慰謝料を含む有形無形の損害として、少なくとも50万円が相当である。また、原告は弁護士に委任しての訴訟を強いられたことから、弁護士費用相当額として10万円の損害を被った。 したがって、被告は、原告に対し、合計60万円の損害賠償義務を負い、本件期限の翌日である令和2年6月30日を起算点とする遅延損害金の支払義務を負う。 (被告の主張)原告は、本件厚労開示請求について判断を求めるのであれば、不作為の違 法確認の訴え(行政事件訴訟法3条5項、37条)及び開示の義務付けの訴- 20 -え(同法3条6項1号、37条の2)といった法的手段により争うことができたから、原告が不服申立てをすることができない状態に置かれたとはいえない。また、本件厚労開示請求は、本件厚労決定がされたことによりその目的を達しているから、原告に財産的損害及び金銭によって慰謝すべき精神的損害が生じたとはいえない。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前提事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 (1) 新型コロナウイルス感染症とその対策等 ア新型コロナウイルス感染症等我が国におい 提事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 (1) 新型コロナウイルス感染症とその対策等 ア新型コロナウイルス感染症等我が国においては、令和2年1月15日に最初の感染者が確認された後、同年5月23日までに、合計46都道府県において合計1万6375人の感染者、820人の死亡者が確認された。また、同月時点では、新型コロナウイルス感染症については対症療法が中心であり、レムデシビルが重症 患者に対する治療薬として特例承認され、これ以外のいくつかの既存の候補薬についても患者の観察研究等が進められていたほか、迅速診断用の抗原検査キットが承認されていたものの、ワクチンが存在せず、新型コロナウイルス感染症はいまだ不明な点が多い感染症であるとされていた。(乙12) イ新型コロナウイルス感染症対策等(令和2年3月下旬まで)新型コロナウイルス感染症対策本部は、令和2年2月以降、種々の対策を講じ、同年3月10日、「新型コロナウイルス感染症に関する緊急対応策-第2弾-」の感染拡大防止策と医療提供体制の整備(前提事実(1)イ①参照)に関する需給両面からの総合的なマスク対策として、①インターネ ット等での高額転売目的のマスク購入を防ぐため、マスクの転売行為を禁- 21 -止すること、②布製マスク2000万枚を国で一括購入し、介護施設等に緊急配布すること(介護施設等向け配布事業)、③医療機関向けマスク1500万枚を国で一括購入し、必要な医療機関に優先配布すること、④マスクメーカーに対する更なる増産支援を行うことを掲げた(乙11)。 この頃、経済課においてマスクチームが立ち上げられ、介護施設等向け 配布事業として、布製マスクについて、国が一括購 マスクメーカーに対する更なる増産支援を行うことを掲げた(乙11)。 この頃、経済課においてマスクチームが立ち上げられ、介護施設等向け 配布事業として、布製マスクについて、国が一括購入した上で、地方公共団体の協力を得つつ、介護施設等に少なくとも1人1枚は行き渡るよう、令和2年3月下旬から4月中旬にかけて約2000万枚の布製マスクが配布された(甲49・380頁、乙15の1、20)。 ウ新型コロナウイルス感染症対策(令和2年3月下旬以降) (ア) 内閣総理大臣は、令和2年4月1日、新型コロナウイルス感染症対策本部(第25回)における専門家による提言を踏まえ、医療機関に対するサージカルマスクの配布に加え、高齢者施設、全国の小学校等向けに順次布製マスクを配布し、布製マスクを買い上げて全国の世帯全てを対象に1住所当たり2枚ずつ配布する方針を明らかにし、同月7日、「『新 型コロナウイルス感染症緊急経済支援』について」(令和2年4月7日閣議決定)に基づく措置として、布製マスク配布事業を実施することとした。そして、この頃、全戸向け配布事業に合計466億円(令和2年度当初予算(予備費)から233億円、同年度補正予算から233億円)など布製マスク配布事業に総額1044億円の予算措置が講じられた。 (前提事実(1)イ、甲2、3、6、52・568頁、乙12)また、新型コロナウイルス感染症対策本部長は、令和2年4月7日、新型インフルエンザ等対策特別措置法32条1項に基づき、7都府県について緊急事態宣言を行った。なお、緊急事態措置を実施すべき区域はその後全国に拡大され、その期間が延長されるなどしたが、感染状況の 変化等について分析・評価が行われた結果、同年5月25日に緊急事態- 22 - を行った。なお、緊急事態措置を実施すべき区域はその後全国に拡大され、その期間が延長されるなどしたが、感染状況の 変化等について分析・評価が行われた結果、同年5月25日に緊急事態- 22 -宣言が解除された。(乙12)(イ) マスクチームは、令和2年4月上旬、布製マスク配布事業に要する布製マスクを調達するに当たり、当時の契約実績や交渉状況を参考に調達予定価格を1枚当たり100円ないし200円とした上で、「布製マスク供給企業の募集について」と題する文書を作成、配布し、供給企業の 募集をした。同文書には、次の内容の記載があった。(甲32、証人A30頁)a 必要枚数と時期 「4月~5月にかけて全体で1.4億枚」b 必要とするマスク 「再利用可能な布製マスク(ガーゼ等の素材でできたもの。顔との隙間をふさぐ構造でくしゃみや咳による飛沫の飛 散を防ぐ構造の物であって、残留ホルムアルデヒドが75ppm以下のもの。)ただし、既に卸売業者等への納入が予定されている物を国に納入するのでなく、新たに海外から確保したもの・輸入を再開したもの・新たに国内で製造を開始したものなど、従来の国内への供給量を増加さ せるものに限る。」c 調達予定価格 「1枚当たり100~200円程度(納入場所までの輸送代込み)」d 最小納入枚数 「10万枚以上(1枚1枚個装が必要)」(ウ) 厚生労働省は、令和2年3月16日、同月17日、同月19日、同年 4月7日及び同月15日に民間企業6社との間で、文部科学省は、同月3日に民間企業3社との間で、それぞれ布製マスクの購入契約(本件各契約)を締結した。なお、本件各契約の契約書には、本件各企業が厚生労働省又は文部科学省 5日に民間企業6社との間で、文部科学省は、同月3日に民間企業3社との間で、それぞれ布製マスクの購入契約(本件各契約)を締結した。なお、本件各契約の契約書には、本件各企業が厚生労働省又は文部科学省に対して秘密の保持を約する条項は設けられていない。(甲31、32、39) 本件各契約の中には、後日、履行期限や契約期間を変更するなどの変- 23 -更契約が締結されたものが存するところ(甲31、32、39)、厚生労働省が令和2年3月17日に興和株式会社との間で締結した、「緊急事態用ガーゼマスク」を総額49億5000万円(消費税込み)で購入する旨の契約(甲31・1~3頁)については、同年4月3日付けで、単価金額を143円(消費税込み)に変更し、購入代金の総額を21億45 00万円(消費税込み)に変更する旨の変更契約が締結されている(甲32・7~8頁、甲39・46頁)。 (エ) 経済課(マスク等物資対策班)は、妊婦向け配布事業として、令和2年4月14日から市町村へ布製マスクの発送を開始したが、一部の市町村から布製マスクの一部に汚れの付着等の不良品がある旨の報告が寄せ られたことを受けて、その旨の報道発表をした上で、布製マスクの配布作業を中断した。これを受けて、文部科学省も、布製マスクの配布作業を中断した。(甲52・570頁、乙16の1・2)厚生労働省及び文部科学省は、程なくして、中断していた布製マスクの配布作業を再開するとともに、令和2年4月23日及び同月24日、 民間企業との間で検品等業務に係る契約を締結し、布製マスクの配布作業を継続した(甲52・570、586頁)。 (オ) 報道機関も、当時、連日にわたり新型コロナウイルス感染症に関するニュースを報じていた(上記(エ)参 に係る契約を締結し、布製マスクの配布作業を継続した(甲52・570、586頁)。 (オ) 報道機関も、当時、連日にわたり新型コロナウイルス感染症に関するニュースを報じていた(上記(エ)参照。甲6、11~15)。 NHKニュースインターネット版は、令和2年4月27日、「福島の マスク受注業者『ベトナムから輸入1枚135円で納入』」と題する記事を掲載した。同記事は、妊婦向け配布事業に係る布製マスクの納入業者であるユースビオ社の社長が、ベトナムから布製マスクを輸入し、販売をしようとしていたところ、同年3月上旬、経済産業省から連絡を受けたことから、布製マスク1枚135円、350万枚分を国に納入する 随意契約を締結したと語ったなどと報じた。(甲13)- 24 -エ国会(参議院厚生労働委員会等)における質疑等国会では、各種委員会において、令和2年4月以降、連日のように新型コロナウイルス感染症に関する案件の質疑等が行われていた(上記ウ(エ)参照。乙17の1・2)。 福島みずほ参議院議員は、令和2年5月14日の参議院厚生労働委員会 において、妊婦向けに配布された布製マスクに関し、「製造はユースビオだとなっているんですが、売買契約書を見ると、…この原料が単価55円で枚数が350万枚、これがユースビオで、そしてもう一つの方が、売買契約書のもう一つ、シマトレーディングの方は、これは製造となっていて、350万枚、80円です。」などと述べ、原料と製造を分けた契約がされ たことに関して質問をした。これに対し、政府参考人(吉田学)は、「ユースビオ社が原料については単価を、また、シマトレーディング社が製造についての単価という形の契約書になっておりまして、最終的には、一枚当たりという意 をした。これに対し、政府参考人(吉田学)は、「ユースビオ社が原料については単価を、また、シマトレーディング社が製造についての単価という形の契約書になっておりまして、最終的には、一枚当たりという意味では合わせての価格を最終的にはお支払をした。」などと答弁した。(乙17の2・122頁)。 オ布製マスク配布事業の配布期間の終了(ア) 布製マスク配布事業は、次のaないしdの配布期間において実施された(甲52・590、592、594、595頁、乙15の2、16の4、20)。 a 介護施設等向け配布事業(いずれも令和2年) 3月対策に基づく配布期間 3月26日~5月31日4月対策に基づく配布期間 6月30日~9月30日(ただし、一律配布は令和2年7月末に取りやめとなり、同年8月5日以降は配布を希望する介護施設等にのみ配布することとされた。)b 妊婦向け配布事業(いずれも令和2年) 1回目の配布期間 4月14日~同月30日- 25 -2回目の配布期間 5月19日~同月31日3回目の配布期間 6月29日~7月8日4回目の配布期間 7月22日~8月21日c 全戸向け配布事業令和2年5月中旬~同年6月20日 d 学校向け配布事業(いずれも令和2年)1回目の配布期間 4月11日~6月15日2回目の配布期間 6月17日~9月9日(イ) 朝日新聞デジタル版は、令和2年7月27日、「布マスク、今後さらに8千万枚を配布不要論でも発注済」と題する記事を掲載した。同記 事は、マスクについて、「今 17日~9月9日(イ) 朝日新聞デジタル版は、令和2年7月27日、「布マスク、今後さらに8千万枚を配布不要論でも発注済」と題する記事を掲載した。同記 事は、マスクについて、「今は街で買える状況。改めて配る必要はない」とする45歳男性の意見を紹介し、また、連合北海道(日本労働組合総連合会北海道連合会)が北海道内約20か所に設置したマスクの回収ポストには、同年5月11日から約1か月半の間に、約12万1000枚のマスクが回収され、うち約9万1000枚が政府の布製マスクであっ たなどと報じた。(甲16)カ会計検査院による令和2年度決算検査報告等会計検査院は、令和3年11月、厚生労働省及び文部科学省による布製マスク配布事業の実施状況等の取りまとめ等に基づき、令和2年度決算検査報告を取りまとめ、その頃、これを公表した。この報告によれば、布製 マスクの1枚当たりの平均単価は、令和2年3月時点で141.24円、同年4月時点で142.10円、同年5月時点で137.62円、同年6月時点で136.81円であった。(甲51、52)(2) 経済課の所管業務と本件厚労開示請求等ア経済課の所管業務 経済課は、医薬品、医療機器及びその他衛生用品の生産、流通及び消費- 26 -の改善や調整に関する業務を所掌する。経済課における令和2年4月ないし8月当時の主要な業務は、大きく分けて、次の(ア)ないし(ウ)であった。 (乙20、証人A1頁)(ア) 一般家庭や介護施設向けの布製マスクの調達・配布に関する業務a メーカーへ一般家庭用マスクの増産要請や売渡指示 b 国民生活安定緊急措置法に基づくマスクの転売禁止に係る政令を公布(令和2年3月11日 スクの調達・配布に関する業務a メーカーへ一般家庭用マスクの増産要請や売渡指示 b 国民生活安定緊急措置法に基づくマスクの転売禁止に係る政令を公布(令和2年3月11日公布・同年8月29日禁止解除)c 全戸向け配布事業(イ) 医療機関向けの各種物資の調達・配布に関する業務医療機関向け個人防護具の増産要請、直接調達 (ウ) 上記(ア)、(イ)に関連する業務予算確保、国会対応(国会答弁、質問主意書及び野党ヒアリング・議員照会等を含む。)、マスコミ対応等イ布製マスク配布事業等(ア) 経済課は、令和2年3月5日以降、新型コロナウイルス感染症の拡大 により布製マスクを含む物資の調達・配送業務が新たに発生し、当時の経済課の職員だけでは対応しきれない状況となった。厚生労働省においては、厚生労働省・経済産業省等から人員を集め、経済課の中に新たにマスクチームを立ち上げることとなり、同月9日以後、マスクチームがこれらの業務に当たった。(甲49・380頁、乙20) また、マスクチームは、令和2年4月以降、介護施設等向け配布事業に加え、妊婦向け配布事業及び全世帯向け配布事業の3つの事業を同時並行で行った(甲49・380頁、乙20)。 なお、令和2年4月から同年8月までのマスクチームの具体的な人員構成は、別紙5記載のとおりであって、マスクチームにおいては、経済 課外から派遣された応援職員は、本来の所属部署の業務に支障が生じる- 27 -ことを回避するため、数週間から1か月程度の期間で本来の所属部署に戻され、人員が減るたびに、適宜、別の部署から派遣される応援職員を受け入れるという形で、組織の運営が 業務に支障が生じる- 27 -ことを回避するため、数週間から1か月程度の期間で本来の所属部署に戻され、人員が減るたびに、適宜、別の部署から派遣される応援職員を受け入れるという形で、組織の運営が行われた(乙20、証人A25頁)。 (イ) 経済課は、上記(1)ウ(エ)のとおり、妊婦向け配布事業に関し、布製マスクに不良品がある旨の報告を受けたことから、配布を一時中断し、配 布済みの妊婦向けマスクの全量回収と併せて、その後配布することとなる介護施設等向け及び全世帯向け配布用も含め、全ての布製マスクについて国が検品業者と契約して検品を実施することとした。経済課においては、上記回収・検品等に伴って布製マスクの配布スケジュールの見直しのほか、新たに検品業者及び配送業者との調整、マスク調達業者と検 品業者との調整等の業務が生じた。さらに、経済課においては、上記報告を契機として、国民の不安の声が大きくなり、電話対応や品質検証の業務も追加で発生した。(甲52・570頁、乙20)(ウ) 経済課においては、上記(ア)、(イ)の業務に加え、国会対応等の業務が生じ、これらに対応したが(上記ア(ウ)参照)、国会答弁については、1 つの質問への対応だけでも、回答方針の検討、回答方針の省内外での調整等に多大な時間を要した。また、質問主意書についても、1本の中に複数の問(おおむね3ないし7問程度)を含み、回答には内閣法制局の審査を受けた上で閣議決定を経る必要があるため、それらの調整に多大な時間と労力を要した。さらに、布製マスク配布事業等に対する野党ヒ アリング・議員照会(レク要請、資料要求等)も大量に発生しており、経済課では、対応方針の検討や議員らに対する説明にもかなりの時間と労力を要した。(乙20、証人A4、55頁) 対する野党ヒ アリング・議員照会(レク要請、資料要求等)も大量に発生しており、経済課では、対応方針の検討や議員らに対する説明にもかなりの時間と労力を要した。(乙20、証人A4、55頁)ウ厚生労働省における情報開示請求を受けた際の一般的な事務の流れ厚生労働大臣が情報開示請求を受けた際には、一般的に、①請求内容に 不明確な部分がないか吟味し、②請求内容に不明確な部分があった場合、- 28 -請求人に補正を求め、③請求内容に対応する行政文書の存在の有無を確認し、存在するときはこれを取り寄せ、④不開示とする部分の有無を吟味し、不開示部分をマスキングし、⑤上記の対応について課内で確認を取った上で、⑥省内決裁を経る必要がある(乙20)。 経済課において主として情報公開請求を担当する係は総務係であり、総 務係は、上記①②⑥の事務を担当していたほか、実際に文書を探索する作業(上記③)や不開示とする部分の有無の判断(上記④)について、経済課の窓口として、課外の担当者との調整を行っていた。一方で、上記③ないし⑤の事務については、基本的に、総務係ではなく、実際に当該文書に係る事務を行っている経済課の部署の担当者が行っていた。したがって、布 製マスクの調達・配布業務に関する文書については、マスクチームにおいて布製マスクに関する業務を行っていた者が上記③ないし⑤の事務を担当することになった。(乙20)(3) 本件厚労開示請求及び本件厚労決定等ア本件厚労開示請求及び本件厚労決定 (ア) 本件厚労開示請求に対する対応原告は、令和2年4月30日、厚生労働大臣に対し、同月28日付け行政文書開示請求書(開第372号)により、情報公開法4条1項に基づき、本件厚労 (ア) 本件厚労開示請求に対する対応原告は、令和2年4月30日、厚生労働大臣に対し、同月28日付け行政文書開示請求書(開第372号)により、情報公開法4条1項に基づき、本件厚労開示請求をした(前提事実(2)ア(ア))。 本件厚労開示請求は、その後、医政局書記室(医政局の厚生労働省内 での窓口的な部署)から経済課総務係に、総務係(開示請求担当職員1名)からマスクチームに、順次回付された。しかし、マスクチームは、当時、本件厚労開示請求を含め、情報公開請求に対応できる状況ではなかった。また、経済課においては、同月以降、多数の情報公開請求が行われ、同年5月末時点で、おおむね20件程度の情報公開請求が処理され ずに滞留する状況が生じていた。(乙20、証人A4~6頁)- 29 -経済課においては、令和2年5月29日、本件厚労開示請求について一部の文書を開示して情報公開法11条を適用するか否かの検討もできていなかったため、開示決定等の期限を同年6月29日に延長することとし、原告に対し、同法10条2項に基づき、本件延長通知を送付した(前提事実(2)イ、乙20、証人A7、10、46頁)。 経済課では、全戸向け配布事業の配布終了により、令和2年6月24日以降、本件厚労開示請求を含む情報公開請求全般について国会対応等に従事していた応援職員1名を直接担当させることが可能となったが、従来からの国会対応等に加え、布製マスクの調達・配布に係る対応の手伝いを行わなければならない場合があり、また、同年8月19日までの 間に、上記の担当者が2回交代した。経済課においては、令和元年度の開示請求は1件であったが、令和2年4月から同年8月までの5か月間で本件開示請求を含め59件もの開示請求があったため 日までの 間に、上記の担当者が2回交代した。経済課においては、令和元年度の開示請求は1件であったが、令和2年4月から同年8月までの5か月間で本件開示請求を含め59件もの開示請求があったため、情報公開請求全般を担当する応援職員にも相当の業務量があった。(乙20、証人A3、5、9、43頁) また、本件厚労開示請求は別紙4開示請求文書目録記載1のとおり合計7項目に及んでいたため、経済課においては、具体的にどの文書がどの項目に該当するか又はしないかを整理し、文書の検索を行うとともに、対象文書が他に存在しないかについての確認をする作業を行う必要があった。また、契約書等については、これらを保管していた大臣官房会計 課における文書の検索、検索された文書の経済課への提供等の調整を経る必要があった。(乙20、証人A7、9、44頁)(イ) 本件遅延に関する連絡等経済課(総務係)は、原告に対し、令和2年7月3日付け「開示決定通知書の遅延について」と題する文書を送付し、新型コロナウイルス感 染症の感染拡大に伴い、通常事務の遂行に支障が生じ、別件厚労決定が- 30 -遅延した旨、本件厚労請求についても、作業中であり時間の猶予を求める旨連絡した(甲25)。 原告は、厚生労働大臣に対し、令和2年7月28日付けの文書を送付し、本件厚労開示請求について、本件期限(同年6月29日)を大幅に徒過しており、著しく期限徒過していることについて文書で説明された い旨連絡した(甲26)。 経済課総務係は、原告に対し、令和2年8月4日付け「開示決定通知書の遅延について」と題する文書を送付し、職員が新型コロナウイルス感染症対策に当たっており多数の業務が生じているために時間を要してい 経済課総務係は、原告に対し、令和2年8月4日付け「開示決定通知書の遅延について」と題する文書を送付し、職員が新型コロナウイルス感染症対策に当たっており多数の業務が生じているために時間を要しているなどとして、本件遅延の理由を説明した(甲27)。 (ウ) 本件厚労決定等経済課(総務係)は、本件厚労開示請求について、令和2年8月19日、本件厚労開示請求についての省内決裁を起案し、同月27日に決裁が終了した(前提事実(2)ウ(イ)、乙20)。 厚生労働大臣は、本件期限から約2か月経過した令和2年8月27日 付けで、原告に対し、本件厚労決定をした。本件厚労決定においては、布製マスクの単価金額及び数量等(本件不開示情報)につき、情報公開法5条6号ロに該当することを理由に不開示とされた(なお、本件厚労決定においては、本件不開示情報が同条2号イに該当することは不開示の理由とされていない。)。(甲28、29) なお、本件厚労決定に当たっては、民間企業6社に対して、布製マスクの単価金額及び数量等を公にするか否かに関する意見照会等は行われていない(証人A57頁)。 イ本件厚労開示請求に対応していた経済課総務係の職員等の超過勤務状況等 令和2年5月から同年6月23日までの間、経済課総務係の情報公開請- 31 -求担当職員は、1日当たり5時間を超える超過勤務をしていた。また、当時の経済課は、平日はほぼ毎日職員が深夜か明け方まで残り、土日祝日もほぼ毎日職員が出勤する状況であった。(上記ア(ア)参照。乙20)また、令和2年6月24日から同年8月19日にかけて本件厚労開示請求を担当した応援職員延べ3名は、同時期に9回開催された野党ヒアリン グや国会議員からの照会等の対応に忙殺され、1日 。乙20)また、令和2年6月24日から同年8月19日にかけて本件厚労開示請求を担当した応援職員延べ3名は、同時期に9回開催された野党ヒアリン グや国会議員からの照会等の対応に忙殺され、1日当たり4時間を大きく超える超過勤務をしていた。また、同時期において、経済課総務係の情報公開請求担当職員は、1日当たり4時間を大きく超える超過勤務をしていた。(上記ア(ア)、(イ)参照。乙20)(4) 本件文科開示請求及び本件文科決定等 ア原告は、令和2年5月12日、文部科学大臣に対し、同月11日付け行政文書開示請求書により、情報公開法4条1項に基づき、本件文科開示請求をした(前提事実(3)ア)。 イ文部科学大臣は、令和2年7月13日付けで、原告に対し、本件文科決定をした。本件文科決定においては、布製マスクの単価金額及び数量等(本 件不開示情報)につき、情報公開法5条2号イ及び同条6号ロに該当することを理由に不開示とされた。(甲37)なお、本件文科決定に当たっては、民間企業3社に対して、布製マスクの単価金額及び数量等を公にするか否かに関する意見照会等は行われていない(前提事実(3)ウ、証人B31頁)。 ウ文部科学省においては、民間企業3社との間で布製マスクの購入契約(変更契約を含む。)を締結するに当たり、布製マスクの単価金額及び数量等が記載された各契約書案等について決裁を経ているところ、各決裁に係る文書(決裁文書)の「機密性格付け」はいずれも「1」とされた(甲39・1、15、29、43、51、59、67、75頁)。 なお、文部科学省においては、「公表公開が前提として作成されている- 32 -文書」「職員以外が知り得ても問題のない文書」は「機密性1」と位置付けられている(証人 59、67、75頁)。 なお、文部科学省においては、「公表公開が前提として作成されている- 32 -文書」「職員以外が知り得ても問題のない文書」は「機密性1」と位置付けられている(証人B25頁)。 2 争点1(本件不開示情報の情報公開法5条2号イ該当性)について(1) 判断枠組み情報公開法5条2号イは、法人等に関する情報又は事業を営む個人の当該 事業に関する情報のうち、「公にすることにより、当該法人等…の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの」を不開示情報とする旨定めるところ、これに該当すると認められるには、単に当該情報が通常他人に知られたくないものであるというだけでは足りず、当該情報が開示されることによって、当該法人等の権利、競争上の地位その他正当な利益を害 するおそれが客観的に認められることを要するというべきであり、上記のおそれは、単なる確率的な可能性では足りず、法的保護に値する蓋然性が必要であると解するのが相当である。 (2) 検討ア本件各企業の調達能力、営業ノウハウ、アイデアに関する情報が同業他 社や生産者等に流出するおそれについて(ア) 被告は、本件不開示情報を公にすると、本件各企業の同業他社や生産者等において、需給の均衡が崩れた状況における日常的な衛生用品に関して、いかなる数量をいかなる費用で調達する(仕入れる)ことができるかといった本件各企業の調達能力、営業ノウハウ、アイデアに関する 情報を入手できることになるなどとして、本件不開示情報は情報公開法5条2号イに該当する旨主張する。 (イ) しかし、本件不開示情報は、本件各契約に係る布製マスクの単価金額及び数量等であるところ、これらの情報を公にしたとしても、需給の均 示情報は情報公開法5条2号イに該当する旨主張する。 (イ) しかし、本件不開示情報は、本件各契約に係る布製マスクの単価金額及び数量等であるところ、これらの情報を公にしたとしても、需給の均衡が崩れた状況における本件各企業の布製マスクの調達能力は別とし て、本件各企業の布製マスクに関する営業ノウハウやアイデアに関する- 33 -情報が明らかとなるとはいえない(そもそも、被告の主張や証人らの証言によっても、どのような営業ノウハウやアイデアが具体的に想定されているのかは必ずしも明らかでない。)。ましてや、本件不開示情報を公にすることにより、マスク以外の日常的な衛生用品について、本件各企業の営業ノウハウやアイデアに関する情報が明らかになるとは考え難 い。 また、布製マスクとその他の素材によるマスク(不織布マスク、ウレタンマスク等)とは、生産者等やその供給能力等が必ずしも同一ではないと考えられるから、本件不開示情報が明らかになったからといって、布製マスク以外のマスクに関する本件各企業の調達能力が具体的に推知 し得るとはいえないし、ましてや、マスク以外の日常的な衛生用品に係る本件各企業の調達能力を具体的に推知し得るともいえない(なお、需給の均衡が崩れた状況においても日常的な衛生用品を短期間で大量に調達する能力が高いというような、漠然とした調達能力を推知することは可能かもしれないが、その程度の漠然とした情報が、本件各企業の競争 上の地位等を不当に害するものとは考え難い。)。 (ウ) 他方で、本件各契約に係る布製マスクの単価金額及び数量等(本件不開示情報)が公にされると、既に開示された他の情報(本件各企業が布製マスクを調達した国名等)と相まって、マスクの需給がひっ迫していた当時の状況下において、本件各企 マスクの単価金額及び数量等(本件不開示情報)が公にされると、既に開示された他の情報(本件各企業が布製マスクを調達した国名等)と相まって、マスクの需給がひっ迫していた当時の状況下において、本件各企業がどの方面(国)からどの程度の 数量の布製マスクを調達することができたのかといった、本件各企業の布製マスクの調達能力の一部が明らかとなる面があることは否定し難い。 しかし、本件各契約に係る布製マスクの単価金額及び数量等(本件不開示情報)を公にしたとしても、布製マスクの製造原価や輸送費等の詳 細など、需給の均衡が崩れた状況における布製マスクの調達能力に関す- 34 -る具体的な数値等はなお明らかではない。また、布製マスク配布事業は、マスクの需給がひっ迫していた当時の状況下において、政府が大量に調達した布製マスクを緊急に国民に広く配布するという事業であって、当時の特殊な社会情勢や政治的事情が大きく影響しており、同業他社等において想定し得る「合理的な利潤の率」がそのまま妥当するかは判然と しないから、本件各契約に係る布製マスクの単価金額や数量等を公にしたとしても、同業他社等において、本件各契約の布製マスクの仕入価格等を正確に推知することができるとはいい難い。したがって、本件不開示情報を公にしたとしても、需給の均衡が崩れた状況における本件各企業の布製マスクの調達能力を正確に推知することができるとは認め難 い。 そうすると、本件不開示情報を公にすることによって明らかになる情報は、マスクの需給がひっ迫していた当時の状況下において、どの方面(国)からどの程度の数量の布製マスクを調達することができたのかといったような、調達能力に係る断片的な情報にとどまる。しかるに、そ の程度の情報が、本件各企業にとって、営業ノウハウや どの方面(国)からどの程度の数量の布製マスクを調達することができたのかといったような、調達能力に係る断片的な情報にとどまる。しかるに、そ の程度の情報が、本件各企業にとって、営業ノウハウやアイデアと同視し得るような秘匿性の高い情報とは考え難いし(現に、本件各企業のうち一部の企業は、本件各契約における布製マスクの単価金額を自ら明らかにしている。)、これを公にすることにより、本件各企業の競争上の地位等を害する蓋然性があるということもできない。 また、このような本件各企業の調達能力の一部が明らかになっても、布製マスクの調達過程に関する特殊な手法等が明らかになるものではないから、同業他社等が、本件不開示情報から、秘密として保護されるべき何らかの具体的な営業ノウハウやアイデアを推知し得るとは考え難い。また、本件不開示情報が公にされても、本件各企業の実際の取引先 (生産者等)の名称や数等が明らかになるものではないから、同業他社- 35 -が、本件各企業の取引先(生産者等)に対し、本件各企業よりも有利な条件を提示して取引先を奪うなどといった蓋然性があるとも認め難い(なお、同業他社が調達能力に関する上記の情報を利用して本件各企業の布製マスクの取引先を奪うことが現実にあり得たとしても、限られた情報の下でのいわば自由競争の範囲内の行為であって、本件各企業の正 当な利益を害するものともいい難い。)。 (エ) また、マスクチームは、調達予定価格を「1枚当たり100~200円程度(納入場所までの輸送代込み)」として布製マスクの供給企業を募集していたこと(認定事実(1)ウ(イ))、同年4月下旬、本件各企業の中には、報道機関に対して、布製マスクの単価金額が135円、供給枚 数が350万枚であったことを公表する企業があ 給企業を募集していたこと(認定事実(1)ウ(イ))、同年4月下旬、本件各企業の中には、報道機関に対して、布製マスクの単価金額が135円、供給枚 数が350万枚であったことを公表する企業があったことが認められる(認定事実(1)ウ(オ))。また、同年5月14日に開会された参議院厚生労働委員会の質疑においても、布製マスクの具体的な単価金額について言及した質疑が行われている(認定事実(1)エ)。さらに、本件各企業の中には、その後、別件訴訟の文書送付嘱託に対し、布製マスク等の単価 金額や数量等を明らかにしている企業もあるし(甲53)、会計検査院は、令和3年11月、令和2年度決算検査報告において、令和2年4月ないし6月の各月に係る布製マスクの1枚当たりの平均単価を公表している(認定事実(1)カ)。 このように、本件各決定時において、本件各契約に係る布製マスクの 単価金額は、公表されていた情報からある程度具体的に想定することができたといえ、その後も、具体的な単価金額やその平均値が明らかになっており、本件各企業の中には自ら単価金額を明らかにしている企業もある。そうすると、本件不開示情報を公にすることにより、本件各契約に係る布製マスクの単価金額や数量等がより詳細に明らかになるとして も、本件各企業の競争上の地位等を害する蓋然性という観点からみて大- 36 -きな差があるとは考え難いし、本件各企業においても、本件不開示情報を、営業ノウハウやアイデアのような秘匿性の高い情報であるとは認識していないものと考えられる(なお、認定事実(3)ア(ウ)のとおり、本件厚労決定においては、本件不開示情報の不開示理由として情報公開法5条2号イが挙げられていない。)。また、これらの事情により、本件各企 業(特に、自ら単価金額を明らかにし )ア(ウ)のとおり、本件厚労決定においては、本件不開示情報の不開示理由として情報公開法5条2号イが挙げられていない。)。また、これらの事情により、本件各企 業(特に、自ら単価金額を明らかにした企業)の営業ノウハウやアイデアが推知されるなどして、具体的な競争上の不利益等が生じていることはうかがわれないし、そのような不利益等が生じることを危惧させるような事情も見当たらない。 (オ) 以上(イ)ないし(エ)の事情に加え、政府が随意契約により購入する各種 物品の単価金額や数量等は、税金の使途に係る行政の説明責任の観点から、その性質上、開示の要請が高いと解されること(換言すれば、政府と物品に係る随意契約を締結する企業側においても、基本的には、代金額の総額だけでなく、単価金額等も開示されることを想定し、これを受忍すべきであること)も併せ考慮すると、本件各企業の日常的な衛生用 品に係る調達能力、営業ノウハウ、アイデアに関する情報が推知されることを理由として情報公開法5条2号イに該当する旨(上記(ア))をいう被告の主張は、採用することができない。 イ今後同様の事態が生じた際に本件各企業に納入する生産者等が売値をつり上げるおそれについて (ア) 被告は、本件不開示情報を公にすると、本件各企業に納入する生産者等が、本件各企業の政府に対する売却代金額を一つの根拠として、今後同様の事態が生じた際に、日常的な衛生用品につき、本件各企業との間でその売値をつり上げることが可能となり、本件各企業が仕入価格の交渉上不当に不利な地位に置かれるおそれがあるとして、本件不開示情報 は情報公開法5条2号イに該当する旨主張する。 - 37 -(イ) しかし、本件不開示情報は、本件各契約に係る布製マスクの単価金 利な地位に置かれるおそれがあるとして、本件不開示情報 は情報公開法5条2号イに該当する旨主張する。 - 37 -(イ) しかし、本件不開示情報は、本件各契約に係る布製マスクの単価金額及び数量等であるところ、これらの情報を公にしたとしても、本件各契約時における「布製マスク」の単価金額等が明らかになるにすぎず、被告の主張や証人らの証言によっても、布製マスク以外のマスク(不織布マスク、ウレタンマスク等)やその他の日常的な衛生用品について、ど のような機序により生産者等による売値のつり上げというような事態が生じるのか判然としない。 なお、被告の主張は、本件不開示情報を公にすると、平時に比して相当高額な単価金額でも契約が締結されることが明らかになり、今後、日常的な衛生用品につき全戸向け配布事業に類する事業が行われた際に、 そのような傾向(政府の買取金額が高騰しやすいこと)を最大限有利に利用しようとする生産者等が現れる可能性があるという趣旨をいうものかもしれない。しかし、そのような生産者等の行為は、商品をより高く売って利益を最大化しようとする活動にすぎず、いわば自由競争の範囲内の事柄(価格交渉)であり、本件各企業の正当な利益を害するものと はいえない。 (ウ) 他方で、今後同様の事態が生じた際に、本件各企業に納入する生産者等が、政府による布製マスクの買取金額(単価)やその上限をより正確に推知することにより、これを一つの根拠として布製マスクの売値をつり上げようとする可能性については、検討の余地が全くないわけではな い。 しかし、上記のおそれは、「同様の事態が生じた際」に生ずるおそれであるところ、将来、感染症が急拡大するなどして、国内外のマスクの需給がひっ迫し、政府が布製マスクを国民 な い。 しかし、上記のおそれは、「同様の事態が生じた際」に生ずるおそれであるところ、将来、感染症が急拡大するなどして、国内外のマスクの需給がひっ迫し、政府が布製マスクを国民に広く配布することとし、本件各企業やその他の企業から海外製の布製マスクを大量に調達するなど というような特殊な事態が生じる蓋然性は、詳細に論じるまでもなく、- 38 -常識的に考えてかなり低いと考えられる(なお、本件各決定がされた令和2年7月ないし8月頃において、既にマスクの品薄状態が相当程度解消されてきていたことは公知の事実であり、当時全戸向け配布事業に対する批判的な意見や報道も多かったことを考慮すると、新型コロナウイルス感染症対策として政府による布製マスクの大量調達が再度行われる 可能性は、極めて低かったと認められる。)。 また、商品の単価は企業の内外の様々な要因により決せられるものであって、価格に影響を与える要因(価格形成要因)としては、原材料費や輸送費等、国内外の需給状況、生産者等の数やその供給能力、為替相場の変動、当該商品に係る独占・寡占状況、代替商品の有無やその需給 状況など様々なものが考えられ、過去の取引の際の単価金額はその要因の一つにすぎないし、数ある価格形成要因の中で特に影響が大きいものともいい難い。そして、仮に、今回とよく似た事態が生じたとしても、これらの様々な価格形成要因が一致することはほぼあり得ないのであり、本件各契約と同じ単価金額が採用される蓋然性が高いわけでもない から、本件各契約に係る布製マスクの単価金額及び数量等(本件不開示情報)を公にしたからといって、生産者等が政府による布製マスクの買取金額(単価)やその上限を正確に推知することはなお困難であり、これを引き合いに出して本件各企業へ クの単価金額及び数量等(本件不開示情報)を公にしたからといって、生産者等が政府による布製マスクの買取金額(単価)やその上限を正確に推知することはなお困難であり、これを引き合いに出して本件各企業への布製マスクの売値をつり上げるというような事態は、容易には想定し難い。また、仮に生産者等が本件各 契約時の単価金額を引き合いに出して売値をつり上げようとしたところで、他の価格形成要因(競合する生産者等の存在など)との関係上、実際に売値がつり上がるかどうかも定かでない。 (エ) さらに、上記ア(エ)のとおり、本件各決定時において、本件各契約に係る布製マスクの単価金額は、公表されている情報からある程度具体的に 想定することができたのであり、本件各企業の中には単価金額を明らか- 39 -にしている企業もあるから、本件不開示情報を公にすることにより、本件各契約に係る布製マスクの単価金額や数量等がより詳細に明らかになるとしても、本件各企業の競争上の地位等を害する蓋然性という観点からみて大きな差があるとは考え難い。 (オ) 以上(イ)ないし(エ)の事情に加え、国が随意契約により購入する各種物 品の代金額や単価金額は、税金の使途に係る行政の説明責任の観点から、その性質上、開示の要請が高いと解されること(上記ア(オ))も併せ考慮すれば、本件不開示情報を公にすると、今後同様の事態が生じた際に本件各企業に納入する生産者等が売値をつり上げるおそれがあることを理由として情報公開法5条2号イに該当する旨(上記(ア))をいう被告の主 張は、採用することができない。 (3) 小括以上によれば、本件各決定時において、本件不開示情報は、「公にすることにより、当該法人等…の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するお 張は、採用することができない。 (3) 小括以上によれば、本件各決定時において、本件不開示情報は、「公にすることにより、当該法人等…の権利、競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるもの」に該当しないから、情報公開法5条2号イに該当しない。 3 争点2(本件不開示情報の情報公開法5条6号ロ該当性)について(1) 判断枠組みア情報公開法5条6号ロは、国の機関等が行う事務又は事業に関する情報のうち、公にすることにより、「契約、交渉…に係る事務に関し、国…の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ」があるものを 不開示情報とする旨定めるところ、これに該当すると認められるには、当該情報が開示されることによって、国等の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれが客観的に認められることを要するというべきであり、上記のおそれは、単なる確率的な可能性では足りず、法的保護に値する蓋然性が必要であると解するのが相当である。また、「不当に害 するおそれ」があるかどうかは、公益的な開示の必要性等の種々の利益を- 40 -衡量した上で判断することを要するというべきである。 イなお、被告は、情報公開法5条6号に該当するか否かの判断においては、蓄積された行政運営上の経験を踏まえて「おそれ」があるとした行政機関の長の判断を前提として、その内容が合理的なものといえるかどうかについて審理判断すべきである旨主張する。この主張は、その趣旨が判然とし ないものの、上記「おそれ」の有無の判断について行政機関の長に一定の裁量(要件裁量)を認める趣旨のものと理解し得る。 しかし、情報公開法5条3号及び4号に「相当の理由がある情報」との文言があるのは、国の安全や公共の安全等に係る 無の判断について行政機関の長に一定の裁量(要件裁量)を認める趣旨のものと理解し得る。 しかし、情報公開法5条3号及び4号に「相当の理由がある情報」との文言があるのは、国の安全や公共の安全等に係る情報につき、行政機関の長に専門的・技術的な裁量を認める趣旨と解されることからすると、これ らの規定との対比において、そのような文言のない同条6号については、行政機関の長に裁量は認められていないと解するのが相当である。したがって、これに該当するか否かは、同号の定める要件に該当する事情の有無によって客観的に判断されるべきものであり、これに反する被告の上記主張は採用することができない(同号と同様に「相当の理由がある情報」と の文言のない同条2号イ該当性に係る、最高裁平成23年10月14日第二小法廷判決・判タ1376号116頁参照)。 (2) 検討ア今後同様の事態が生じた際に政府に対する売値がつり上げられ又は契約単価が高止まりするおそれについて (ア) 被告は、本件不開示情報を公にすると、今後同様の事態が生じた際に、本件不開示情報である布製マスクの単価金額及び数量等を一つの根拠にして、政府との契約の締結又は交渉において政府に対する日常的な衛生用品の売値をつり上げることが可能となり、契約単価が高止まりするなどとして、本件不開示情報は情報公開法5条6号ロに該当する旨主張す る。 - 41 -(イ) しかし、上記2(2)イ(イ)で説示したとおり、本件不開示情報を公にしたとしても、本件各契約時における「布製マスク」の単価金額等が明らかになるにすぎず、被告の主張や証人らの証言によっても、布製マスク以外のマスクやその他の日常的な衛生用品について、どのような機序により政府に対する売値のつり上げや契約単価の高止 」の単価金額等が明らかになるにすぎず、被告の主張や証人らの証言によっても、布製マスク以外のマスクやその他の日常的な衛生用品について、どのような機序により政府に対する売値のつり上げや契約単価の高止まりというような事 態が生じるのか判然としない。 なお、被告の主張は、本件不開示情報を公にすると、平時に比して相当高額な単価金額でも契約が締結されることが明らかになり、今後、日常的な衛生用品につき全戸向け配布事業に類する事業が行われた際に、そのような傾向(政府の買取価格が高騰しやすいこと)を最大限有利に 利用しようとする関係企業が現れる可能性があるという趣旨をいうものかもしれない。しかし、そのような関係企業の行為は、談合による違法な売値のつり上げでない限り、商品をより高く売って利益を最大化しようとする活動にすぎず、いわば自由競争の範囲内の行為(価格交渉)であり、国の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するものと はいえない。また、本件不開示情報によっても、布製マスク以外の日常的な衛生用品につき単価金額の上限等を正確に推知することは困難であるから、本件不開示情報を公にすることにより、将来、布製マスク以外の日常的な衛生用品につき、関係企業による談合が行われやすくなるとか、そのような蓋然性があるとは認められない。 (ウ) 他方で、今後同様の事態が生じた際に、関係企業が、政府による布製マスクの買取金額(単価)の上限等をより正確に推知することにより、これを一つの根拠として布製マスクの売値をつり上げようとする可能性(特に関係企業による談合のおそれ)については、検討の余地が全くないわけではない。 しかし、そもそも、単価金額等が事後的に公開されるという前提であ- 42 -る方が、信用の維持等の観点から関係 関係企業による談合のおそれ)については、検討の余地が全くないわけではない。 しかし、そもそも、単価金額等が事後的に公開されるという前提であ- 42 -る方が、信用の維持等の観点から関係企業に自制心が働きやすく、将来の需給のひっ迫した状況下における単価金額の異常な高騰や関係企業の談合を防ぐことができるようにも思われるのであり、売値のつり上げを避けるには、むしろ単価金額の積極的な開示の方が有益である可能性が十分にある。 また、上記のおそれは、「同様の事態が生じた際」に生ずるおそれであるところ、上記2(2)イ(ウ)のとおり、将来、感染症が急拡大するなどして、国内外のマスクの需給がひっ迫し、政府が布製マスクを国民に広く配布することとし、本件各企業やその他の企業から海外製の布製マスクを大量に調達するというような特殊な事態が生じる蓋然性は、常識的 に考えてかなり低いと考えられる。 また、上記2(2)イ(ウ)のとおり、商品の単価は企業の内外の様々な要因により決せられるものであって、仮に、今回とよく似た事態が生じたとしても、様々な価格形成要因が一致することはほぼあり得ないから、本件各契約に係る布製マスクの単価金額及び数量等(本件不開示情報) を公にしたからといって、布製マスクを取り扱う関係企業が政府による買取金額(単価)の上限を正確に推知することはなお困難であると考えられる。しかも、関係企業において、談合を行い得るような環境(関係企業が少数かつ有限で、秘密を保持しつつ相互に連絡調整できる環境)があるかどうかも明らかでない。そうすると、本件不開示情報を公にす ることにより、今後同様の事態が生じた際、関係企業が単価金額を示し合わせて政府に対する布製マスクの売値をつり上げるおそれ(談合が行われるおそれ)は、全くあ そうすると、本件不開示情報を公にす ることにより、今後同様の事態が生じた際、関係企業が単価金額を示し合わせて政府に対する布製マスクの売値をつり上げるおそれ(談合が行われるおそれ)は、全くあり得ないとまではいえないが、抽象的かつ確率的な可能性にとどまるというべきである。また、関係企業が、談合によることなく、商品をより高く売って利益を最大化しようとすることは、 自由競争の範囲内の行為(価格交渉)であって、国の財産上の利益又は- 43 -当事者としての地位を不当に害するものとはいえない。 (エ) さらに、上記2(2)イ(エ)と同様、本件各決定時において、本件各契約に係る布製マスクの単価金額は、公表されている情報からある程度具体的に想定することができたことなどからすると、本件不開示情報を公にすることにより、本件各契約に係る布製マスクの単価金額や数量等がよ り詳細に明らかになるとしても、国の財産上の利益等を不当に害する蓋然性という観点からみて大きな差があるとは考え難い。 また、政府は、本件各企業に対して、布製マスクの単価金額等を開示しないよう求めたり、その旨の契約条件を定めたりしていないと認められるし(証人A40頁、弁論の全趣旨)、文部科学省においては、情報セ キュリティに対する対策の基準として、「公表公開が前提として作成されている文書」「職員以外が知り得ても問題のない文書」を「機密性1」として位置付けているところ、文部科学省が民間企業3社との間で本件各契約を締結するに当たり作成された、布製マスクの単価金額や予定数量等が記載された契約書案等の決裁に係る文書(決裁文書)の機密性格 付けは、最も低い「1」とされている(認定事実(4)ウ)。これらによれば、政府においても、国の財産上の利益等を保護する観点から 量等が記載された契約書案等の決裁に係る文書(決裁文書)の機密性格 付けは、最も低い「1」とされている(認定事実(4)ウ)。これらによれば、政府においても、国の財産上の利益等を保護する観点から、本件不開示情報を秘匿性の高い情報であると認識していたとは考え難い。 (オ) 以上(イ)ないし(エ)の事情に加え、国が随意契約により購入する各種物品の代金額や単価金額は、税金の使途に係る行政の説明責任の観点から、 その性質上、開示の要請が高いと解されること(上記2(2)イ(オ))も併せ考慮すれば、本件不開示情報を公にすると、今後同様の事態が生じた際に日常的な衛生用品につき政府に対する売値がつり上げられ又は契約単価が高止まりするおそれがあることを理由として情報公開法5条6号ロに該当する旨(上記(ア))をいう被告の主張は、採用することができな い。 - 44 -イ政府と取引をする企業がなくなってしまうおそれについて証人Aは、本件不開示情報を公にすると、国において再びマスク等の調達が必要となった場合に、国と取引をする企業がなくなってしまうのではないかということを考慮した旨証言するが(証人A12~13頁)、このようなおそれは、情報公開法5条6号ロ該当性に関し、被告から準備書面 等で主張されているものではない。この点を措くとしても、契約の単価金額が事後的に公にされる前提であっても、十分な利益が得られるなら国(政府)と取引をする企業は現れると考えられ、本件不開示情報を公にしたからといって、今後、国において再びマスク等の調達が必要となった場合に、国と取引をする企業がなくなってしまう蓋然性があるとは認められない。 (3) 小括以上によれば、本件各決定時において、本件不開示情報は、 スク等の調達が必要となった場合に、国と取引をする企業がなくなってしまう蓋然性があるとは認められない。 (3) 小括以上によれば、本件各決定時において、本件不開示情報は、「(公にすることにより)契約、交渉…に係る事務に関し、国…の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ」があるものに該当しないから、情報公開法5条6号ロに該当しない。 4 争点3(本件遅延の国家賠償法上の違法性)について(1) 開示決定等の遅延に係る国家賠償法上の違法性の判断枠組み国家賠償法1条1項は、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに、国又は公共団体がこれを賠償する責任を負う旨を定めるものであ り、情報公開請求を受けた行政機関の長が情報公開法10条所定の期限内に開示決定等をしなかったからといって、そのことから直ちに国家賠償法1条1項にいう違法があったとの評価を受けるものではなく、行政機関の長ないしその補助職員が当該開示請求に係る開示決定等又はそのために必要な準備行為を行うに当たって、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく、 漫然と開示決定等を長期間遅延せしめ、その遅延が社会通念上一般人におい- 45 -て受忍すべき限度を超えることにより開示請求権者の人格的な利益を侵害する程度に至っていると認め得る事情がある場合に限り、国家賠償法上違法の評価を受けるものと解するのが相当である(最高裁平成3年4月26日第二小法廷判決・民集45巻4号653頁、最高裁平成5年3月11日第一小法廷判決・民集47巻4号2863頁参照)。 そして、上記のような事情があるか否かについては、情報公開法10条所定の期限から 小法廷判決・民集45巻4号653頁、最高裁平成5年3月11日第一小法廷判決・民集47巻4号2863頁参照)。 そして、上記のような事情があるか否かについては、情報公開法10条所定の期限から開示決定等までの期間の長短だけではなく、遅延に至る行政機関側の事務処理上の事情、すなわち、開示請求に係る行政文書の多寡、開示請求に係る行政文書の検索の難易、開示・不開示の審査の難易、当該時期における他に処理すべき開示請求事案の多寡のほか、当該行政機関の他の事務 の繁忙、勤務日等の状況、開示請求者への連絡の有無等を考慮して、個別的に判断すべきものと解される。 以下、上記観点から検討する。 (2) 検討ア前提事実(2)ア(ア)、イ、ウ(イ)によれば、令和2年4月30日にされた本 件厚労開示請求について、本件延長通知により開示決定等の期限が同年6月29日とされたにもかかわらず、その約2か月後である同年8月27日に本件厚労決定がされたこと、すなわち、本件期限から本件厚労決定まで、約2か月間にわたり開示決定等が遅延したこと(本件遅延)が認められる。 イところで、原告が本件厚労開示請求において開示を求める文書は、別紙 4開示請求文書目録記載1のとおりであるから、一般家庭や介護施設向けの布製マスクの調達・配布に関する業務等を所管する経済課が対応することになるところ(認定事実(2)ア)、経済課においては、本件厚労開示請求がされた当時、新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、マスク等の品薄状態に対処するため、国民生活安定緊急措置法に基づくマスクの転売禁 止に係る政令を公布したり(令和2年3月11日公布・同年8月29日に- 46 -禁止解除)、サージカルマスクの調達及び配布を行ったりしていたほか、介護 安定緊急措置法に基づくマスクの転売禁 止に係る政令を公布したり(令和2年3月11日公布・同年8月29日に- 46 -禁止解除)、サージカルマスクの調達及び配布を行ったりしていたほか、介護施設等向け配布事業、妊婦向け配布事業及び全戸向け配布事業を進めるなど(前提事実(1)イ、認定事実(1)イ、ウ、オ(ア)、(2)ア(ア))、新型コロナウイルス感染症が拡大する前にはなかった新たな業務が多数発生し、かつ集中していた。また、厚生労働省においては、それまで全国民(全戸) に対する配布を念頭に置いた物資の調達等の実績はなく(弁論の全趣旨)、これらの業務に関連し、国会質疑やマスコミ対応等が頻回に生じるなどしており(認定事実(1)ウ(エ)、(2)イ(イ)、(ウ))、このような世間の注目を反映して、経済課が担当する情報公開請求も、令和元年中はわずか1件であったが、令和2年4月から同年8月までの5か月間は59件もの多数に上 った(認定事実(3)ア(ア))。このような状況を受けて、経済課は他部署からの応援職員を得ていたものの、それでもなお、当時の経済課の職員は、1日当たり4時間ないし5時間を超える長時間の時間外労働や休日出勤が常態化していたことが認められる(認定事実(2)イ(ア)、(3)イ。なお、このような当時の経済課職員の時間外労働の状況は、1か月当たり80時間を 超える水準、すなわち、脳・心臓疾患の労災認定に係るいわゆる「過労死ライン」を超える水準にあったと認められる。)。 このように、経済課は、本件厚労開示請求がされた令和2年4月30日から本件厚労決定がされた同年8月27日までの期間、職員の健康への影響が危惧されるほどに極めて繁忙な状況であったと認められ、また、本件 厚労開示請求を含む情報公開請求よりも優先して対応せ 0日から本件厚労決定がされた同年8月27日までの期間、職員の健康への影響が危惧されるほどに極めて繁忙な状況であったと認められ、また、本件 厚労開示請求を含む情報公開請求よりも優先して対応せざるを得ない事務が多数存在したことが認められる。 ウまた、原告による本件厚労開示請求の内容は、別紙4開示請求文書目録記載1のとおりであって、その項目が多数に上るのみならず、対象となる文書をその表題や文書番号等によって特定するものではなく、これを特定 するためには、行政文書の内容や記載事項に着目して逐一検索せざるを得- 47 -ないものであった。また、検索の結果、対象となる文書に該当する文書の数も多く(前提事実(2)ウ(イ))、その検索・特定作業はもとより、不開示事由の審査や各文書のマスキング等の作業にも相当な手間や時間を要するものであったと推認される。 しかも、本件厚労開示請求と同時期に原告がした別件厚労開示請求につ いても、上記と同様に、その項目が多数に上るのみならず、対象となる文書をその表題や文書番号等によって特定するものではなかったことから(前提事実(2)ア(イ)、別紙4開示請求文書目録記載2)、対象となる文書の特定作業等に相当な手間や時間を要するものであったと推認される。 エまた、経済課は、上記のような繁忙状況等を踏まえ、令和2年7月3日 付けで別件厚労決定をした際に、原告に対し、その通知に併せて本件厚労開示請求についても作業中である旨を通知し(認定事実(3)ア(イ))、原告の求めに応じて本件厚労開示請求に対する開示決定等が本件期限を徒過していること(本件遅延)についての説明をするなど、都度他の業務との調整の上、原告に対して本件遅延に係る状況の説明をしていたことが認めら れる。 オ に対する開示決定等が本件期限を徒過していること(本件遅延)についての説明をするなど、都度他の業務との調整の上、原告に対して本件遅延に係る状況の説明をしていたことが認めら れる。 オ以上によれば、確かに、厚生労働大臣が本件期限内に本件厚労決定を行わなかったことは、情報公開法10条に違反するものであり、本件期限から本件厚労決定に至るまでの約2か月間という遅延期間(上記ア)も、必ずしも短いものとはいえない。しかし、本件厚労開示請求から本件厚労決 定までの期間(令和2年4月30日から同年8月27日まで)は、本件厚労開示請求を担当する経済課が極めて繁忙な状況にあり、本件厚労開示請求を含む情報公開請求よりも優先して対応せざるを得ない事務が多数存在したことが認められる上(上記イ)、本件厚労開示請求の内容等に照らし、その対象となる文書の特定作業等に相当な手間や時間を要するものであっ たと推認されること(上記ウ)、経済課から原告に対して本件遅延に係る- 48 -状況の説明等も行われていたこと(上記エ)なども考慮すると、厚生労働大臣やその補助職員が、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく、漫然と本件厚労決定を長期間遅延せしめたとは認められず、本件遅延が社会通念上一般人において受忍すべき限度を超えることにより原告の人格的な利益を侵害する程度に至っていると認めることもできない。 (3) 原告の主張についてこれに対し、原告は、前記第2の4(3)(原告の主張)のとおり、①担当部署が繁忙であれば別の部署に本件厚労開示請求を担当させることで足りる、②本件厚労開示請求の内容は7項目であるが、本来セットにして保存されるべき文書であるから探索・特定は容易である、③情報公開請求の急増は布製 マスク配布事業に 開示請求を担当させることで足りる、②本件厚労開示請求の内容は7項目であるが、本来セットにして保存されるべき文書であるから探索・特定は容易である、③情報公開請求の急増は布製 マスク配布事業によるものであり、令和2年度の情報公開請求が絶対的に多いとはいえず、また、内容的に重複するものである、④情報公開法11条の開示決定等の期限の特例を適用することが可能であったなどとして、本件遅延は国家賠償法上違法である旨主張する。 ア上記①の主張について 確かに、本件厚労開示請求を繁忙でない部署に担当させていれば、本件遅延が生じなかった可能性はあるが(ただし、当時の特殊な状況下において、厚生労働省内に繁忙でない部署があったかどうかは定かではない。)、他方で、情報公開請求に対して的確に回答するとともに他の情報公開請求事案に対する対応との統一性を確保するため、その対象文書に係る業務を 所管する部課室に対応を委ねることには合理性があるし、一般的にそのような対応がされているものと解される。したがって、厚生労働大臣が経済課ではない別の部署に本件厚労決定を担当させていれば、より早い時期に開示決定等がされた可能性があったとしても、本件遅延を避けるためそのような担当の変更を行うべき職務上の義務があったとはいえず、厚生労働 大臣やその補助職員が、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく、- 49 -漫然と本件厚労決定を長期間遅延せしめたと評価することはできない。原告の主張①は採用することができない。 イ上記②の主張について上記(2)ウのとおり、本件厚労開示請求の内容は、その項目が多数に上るのみならず、対象となる文書をその表題や文書番号等によって特定するも のではなく、行政文書の内容や記載事項 ついて上記(2)ウのとおり、本件厚労開示請求の内容は、その項目が多数に上るのみならず、対象となる文書をその表題や文書番号等によって特定するも のではなく、行政文書の内容や記載事項に着目して逐一検索せざるを得ないものであって、対象となる文書に該当する文書の数も多く、その特定作業等には相当な時間を要するものであったと推認されるから、対象文書の検索や特定が容易なものであったとする原告の主張②は採用することができない。 ウ上記③の主張について経済課が担当する令和2年4月ないし8月の情報公開請求の件数が、前年と比較して急激に増加していたことは前述のとおりであるし、その大半が内容的に重複するものであったとは認められず、また、それゆえに個別の検討をほとんど要しなかったとも認められない。原告の主張③は採用す ることができない。 エ上記④の主張について情報公開法11条は、「開示請求に係る行政文書が著しく大量であるため、開示請求があった日から60日以内にそのすべてについて開示決定等をすることにより事務の遂行に著しい支障が生ずるおそれがある場合」に つき、開示決定等の期限の特例を定める規定であるが、本件厚労開示請求が上記の要件(著しく大量)に該当するかどうかは必ずしも明らかでないし、繁忙であることにより便宜的に当該規定を活用することも避けるべきであるから、本件厚労開示請求につき、本件遅延を避けるため同条を適用すべき職務上の義務があったとはいえず、厚生労働大臣やその補助職員が、 職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく、漫然と本件厚労決定を- 50 -長期間遅延せしめたと評価することはできない。原告の主張④は採用することができない。 (4) 小括 職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく、漫然と本件厚労決定を- 50 -長期間遅延せしめたと評価することはできない。原告の主張④は採用することができない。 (4) 小括したがって、本件期限から本件厚労決定まで約2か月間を要したこと(本件遅延)につき、厚生労働大臣やその補助職員が、職務上通常尽くすべき注 意義務を尽くすことなく、漫然と開示決定等を長期間遅延せしめ、その遅延が社会通念上一般人において受忍すべき限度を超えることにより原告の人格的な利益を侵害する程度に至っていると認め得る事情があるとは認められないから、本件遅延が国家賠償法上違法であるとは認められない。 5 まとめ (1) 取消請求及び義務付け請求について上記2、3によれば、別紙2厚労省対象部分及び別紙3文科省対象部分(本件不開示情報)が、情報公開法5条2号イ及び同条5号ロに該当するとは認められず、その他の不開示情報に該当する旨の主張立証もないから、①本件厚労決定のうち別紙2厚労省対象部分を不開示とした部分の取消し及び開示 決定の義務付けを求める請求、並びに②本件文科決定のうち別紙3文科省対象部分を不開示とした部分の取消し及び開示決定の義務付けを求める請求は、いずれも理由がある。 (2) 国家賠償請求について上記4のとおり、本件遅延が国家賠償法上違法であるとは認められないか ら、その余の点(争点4)について判断するまでもなく、原告の国家賠償請求は理由がない。 第4 結語よって、原告の請求は主文第1項ないし第4項の限度でいずれも理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとし、主文の とおり判決する。 - 51 -大阪地方裁判所第7民事部 は主文第1項ないし第4項の限度でいずれも理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとし、主文の とおり判決する。 - 51 -大阪地方裁判所第7民事部 裁判長裁判官徳地 淳 裁判官新宮智之 裁判官太田章子- 52 -(別紙1は掲載省略)(別紙4)開示請求文書目録(厚生労働省関係) 1 新型コロナウイルス感染拡大への対策の一環として各世帯、妊婦、介護施設、 小・中学校等に配布される布マスクについて。 (1) 布マスクの配布に関して①布マスクの配布を決定および配布先の決定を行ったときの文書(又は布マスクの配布の指示および配布先の指示を受けたときの文書)。変更があれば、変更前と変更後の両方の文書。 ②布マスクの購入及び配布に要する費用を算定した文書または当該費用の内訳のわかる文書。変更があれば、変更前と変更後の両方の文書。 ③布マスクの配布先(各世帯、妊婦、介護施設、小・中学校等)の内訳を記載した文書。変更があれば、変更前と変更後の両方の文書(以上、電子メールとその添付文書を含む)。 (2) 業者との布マスク契約等に関して①厚生労働省が購入する布マスクについて業界又は業界団体に出した募集文書。 ②厚生労働省が布マスクを購入するために行った入札結果を含む入札に関する文書。 ③各布マスク業者の見積書、同業者との契約書、同業者の納品書など厚生労働省が布マスクを購入した際の文書。 ④ その他、厚生労働省が布マスク購入に関し販売業者との間でやり取りした文書(以 ③各布マスク業者の見積書、同業者との契約書、同業者の納品書など厚生労働省が布マスクを購入した際の文書。 ④ その他、厚生労働省が布マスク購入に関し販売業者との間でやり取りした文書(以上、電子メールとその添付文書を含む)。 2 新型コロナウイルス感染拡大への対策の一環として各世帯、妊婦、介護施設、 小・中学校等に配布される又は配布された布マスクの回収について。 - 53 -(1) 布マスクの配布の一時停止または回収に関して①布マスクの品質および品質検査に関し、厚生労働省が事前に各販売業者との間でやり取りした文書。 ②布マスクの不備・問題に関し、厚生労働省が各販売業者との間でやり取りした文書。 ③布マスクの配布の一時停止および布マスクの回収を決定したときの文書(または布マスクの配布の一時停止および回付の指示を受けたときの文書)。 ④布マスクの配布の一時停止、布マスクの回収及び回収費用に関して厚生労働省が各販売業者との間でやり取りした文書(以上、電子メールとその添付文書を含む)。 (2) 布マスクの配布先及び回収後の対応等に関して①不備・問題のあった布マスクの個数に関し、販売業者ごと、配布先ごとに、それぞれまとめた文書。日時の経過で、それぞれの時点でまとめたものがあれば、そのすべての文書。 ②不備・問題のあった布マスクの回収状況をまとめた文書。日時の経過で、そ れぞれの時点でまとめたものがあれば、そのすべての文書。 ③布マスク回収後の対応(契約内容の変更及び品質検査のやり直しを含む)に関し、厚生労働省が各販売業者との間でやり取りした文書(以上、電子メールとその添付文書を含む)。 (文部科学省関係) 3 新型コロナウイルス感染拡大への対策の一環とし のやり直しを含む)に関し、厚生労働省が各販売業者との間でやり取りした文書(以上、電子メールとその添付文書を含む)。 (文部科学省関係) 3 新型コロナウイルス感染拡大への対策の一環として小・中学校等に配布される布マスクについて(1) 布マスクの配布に関して①布マスクの配布を決定および配布先の決定を行ったときの文書(又は布マスクの配布の指示および配布先の指示を受けたときの文書)。変更があれば、 変更前と変更後の両方の文書。 - 54 -②布マスクの購入及び配布に要する費用を算定した文書または当該費用の内訳のわかる文書。変更があれば、変更前と変更後の両方の文書。 ③布マスクの配布先(小・中学校等)の内訳を記載した文書。変更があれば、変更前と変更後の両方の文書(以下、電子メールとその添付文書を含む)。 (2) 業者との布マスク契約等に関して ①文部科学省が購入する布マスクについて業界又は業界団体に出した募集文書。 ②文部科学省が布マスクを購入するために行った入札結果を含む入札に関する文書。 ③各布マスク業者の見積書、同業者との契約書、同業者との納品書など文部科 学省が布マスクを購入した際の文書。 ④その他、文部科学省が布マスク購入に関し販売業者との間でやり取りした文書(以上、電子メールとその添付文書を含む)。 - 55 -

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