令和4年(わ)第2号 主文 被告人を懲役7年に処する。 未決勾留日数中830日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、令和3年12月19日午後11時頃から同日午後11時54分頃までの間に、茨城県かすみがうら市(住所省略)にある居酒屋Aの店内において、B(当時57歳)に対し、その顔面を拳で複数回殴り、その胸部付近を足で複数回蹴り、その胸ぐら付近を両手でつかんでBを立たせ、その手を離すなどしてBを転倒させるなどの暴行を加え、よって、Bに外傷性急性硬膜下血腫等の傷害を負わせ、同年12月20日午前7時37分頃、茨城県つくば市(住所省略)にあるK病院において、Bを外傷性急性硬膜下血腫による脳ヘルニアにより死亡させた。 (事実認定の補足説明)第1 争点と当事者の主張この事件の争点は、被告人が、Bに罪となるべき事実のとおりの暴行を加えたか(争点①)、Bは、被告人の暴行によって死亡したか(争点②)である。 被告人は、Bの顔を1回殴ったことは覚えているが、それ以外に暴行をした記憶はない(争点①)、1回殴っただけでBが死亡したとは思えない(争点②)と供述し、弁護人も、被告人の供述に沿って、被告人がBに罪となるべき事実のとおりの暴行を加えたかどうかは慎重に判断するべきである(争点①)、被告人の暴行によってBが死亡した のではなく、Bは自ら転倒して怪我をしたり第三者から暴行を加えられたことが原因で死亡した可能性がある(争点②)と主張する。 裁判員と裁判官は、評議の結果、①被告人は、Bに罪となるべき事実のとおりの暴行を加え、②Bは、被告人の暴行によって死亡したと判断したので、以下その理由を説明する。 第2 検討の前提となる事実以下の事実は、証拠によっ の結果、①被告人は、Bに罪となるべき事実のとおりの暴行を加え、②Bは、被告人の暴行によって死亡したと判断したので、以下その理由を説明する。 第2 検討の前提となる事実以下の事実は、証拠によって明らかに認められる。 1 この事件の関係者について被告人とBは、約30年前に職場の同僚として知り合って以降、令和3年12月19日の当時まで、一緒に仕事をしたり飲食をともにしたりする関わりを続けていた。被告人とBは、居酒屋Aの常連客であった。 Cも居酒屋Aの常連客で、被告人とBと3人で飲食することがあった。 Dは、居酒屋Aを経営する者で、母であるEと2人で店を切り盛りしていた。 Fは、居酒屋Aの常連客で、被告人とBとは、顔を合わせた際にあいさつを交わす程度の関係であった。 2 令和3年12月19日とその翌日の出来事について被告人、B、Cは、令和3年12月19日午後6時30分頃から、居酒屋Aで飲食を開始した。Cは、午後11時頃に帰宅した。 Cが帰宅した後、店内には、被告人とBのほか、DとEに加え、客であるFとその連れがいた。午後11時54分頃に、運転代行業者であるGが居酒屋Aに到着し、翌日午前0時15分頃、被告人とBは、Gが運転するBの車で居酒屋Aを出発した。 Gは、午前0時36分頃に被告人方で被告人を下車させ、午前0時43分頃、Bのアパートに到着すると、Bから代金を受け取り、運転代行業者の車両で帰宅した。 Bは、午前6時42分頃、このアパートの駐車場内で倒れているところを通行人に発見され、救急搬送されたが、午前7時37分頃、K病院で死亡が確認された。 (以下、午後の時刻を記載する場合は令和3年12月19日の時刻を、午前の時刻を記載する場合は同月20日の時刻を示す。)第3 争点①に対する判断 7時37分頃、K病院で死亡が確認された。 (以下、午後の時刻を記載する場合は令和3年12月19日の時刻を、午前の時刻を記載する場合は同月20日の時刻を示す。)第3 争点①に対する判断 1 証拠の構造検察官の主張は、上記のうち、午後11時頃にCが居酒屋Aを出てから午後11時54分頃にGが居酒屋Aに着くまでの間に、被告人がBに罪となるべき事実のとおりの暴行を加えたというものである。そして、これに関する主な証拠は、暴行を目撃したとするDの供述であるため、その信用性について検討する。なお、以下、特に断りがない限り、単に「供述」という場合は全て法廷における供述である。 2 Dの供述について⑴ 供述の概要午後11時頃、帰宅するCを見送った後、被告人が、Bに対して大きな声で「お前が悪いんだ。」と言ってBの顔を殴った。さらに、2人で小上がりの席に座った後、被告人がBの顔面を拳で複数回殴った。5回以上は殴っていた。被告人は立った状態で、座っているBの胸の辺りを蹴ったことも2回以上あった。さらに、被告人は、小上がりの縁辺りで、Bの胸ぐらを両手でつかんで持ち上げて立たせたこともあったが、その時Bはふらふらとしていて力が入ってい ない様子で、被告人の手がBの胸ぐらから離れてBは体勢を崩し、小上がりの下の床に落ちた。床に落ちた際、ゴンという音がして、Bは仰向けになり、その後短くいびきをかいた。 この一連の暴行の間、Dは被告人とBに近づいて「やめなよ」と声をかけて2人を引き離したり、Bの顔の前に座布団を差し出したりして、被告人の暴行を止めようとした。Dが暴行を止めようとすると、被告人は一時的には暴行を止めるが、Dが離れるとまたBに暴行するということを繰り返していた。 Bの鼻や口からは血が出ており、被告人から殴られた際に入れ歯が ようとした。Dが暴行を止めようとすると、被告人は一時的には暴行を止めるが、Dが離れるとまたBに暴行するということを繰り返していた。 Bの鼻や口からは血が出ており、被告人から殴られた際に入れ歯が取れて店内の通路の床に落ちたこともあった。被告人に暴力をやめてほしくて、被告人の息子と連絡を取ろうとしたが、連絡が付かず、そのうち、運転代行業者が来て、被告人の暴力は終わった。被告人とBは、普段は仲の良い常連客同士であったため、警察沙汰にすることにはためらいがあり、警察を呼ぶことはしなかった。 ⑵ Dの供述の信用性Dは、被告人がBに暴行を加えたときの様子を、当時感じたことなども交えながら、具体的に供述している。また、Bの遺体には、鼻骨・鼻軟骨骨折、顔面を中心とする多発皮膚変色、皮下出血、表皮剥脱、右鎖骨付近の皮下出血などがあったところ、被告人がBの顔面を複数回殴ったり、Bの上半身を複数回蹴ったりしていたというDの供述は、このようなBの怪我の数や位置と合っている。そして、被告人らの来店前には居酒屋Aの壁に穴や破損はなく、店内に血痕もなかったところ、被告人らの退店後、居酒屋Aの店内の壁に複数の穴や破損があり、その穴の付近を含む複数の場所に血痕が付いていたこと、被告人の着衣に血が付着していたこと、Bの自動車 に血痕があったこと、各血痕から採取された付着物から顕出されたDNA型が、Bから採取された細胞のDNA型と一致又は類似していたことといった事実も、Dの供述のうち、Bが鼻や口から出血していたという点や、被告人による殴る蹴るの暴行が複数回あったという点と合っている。さらに、令和3年12月19日の当時、居酒屋AにいたEやFも、被告人がBに複数回暴行を加えていた、Dが被告人の暴行を何度も止めようとしていたと供述し、Dが供述した内容と合 たという点と合っている。さらに、令和3年12月19日の当時、居酒屋AにいたEやFも、被告人がBに複数回暴行を加えていた、Dが被告人の暴行を何度も止めようとしていたと供述し、Dが供述した内容と合っている。 なお、弁護人は、当時店内にいた人で、法廷で供述をした人のうち、被告人が小上がりでBの胸の辺りを蹴った場面を見たと話したのはDだけであるが、実際にそのような暴行があったのであれば、EやFが気付くと考えられるため、Dの供述は信用できないと指摘する。しかし、Fは当時カウンター席におり、被告人とBがいた小上がりの席に対して背を向けていたのであるから、被告人の暴行の中で見ていないものがあったとしても理解できる。また、Eの供述からは、Eが当時カウンター内にいるなどしていて全ての暴行を見たわけではないことや、当時の記憶があいまいであることがうかがわれるから、蹴る暴行を見ていなかったり覚えていなかったりしても不自然ではない。そうすると、弁護人の指摘は当たらない。 したがって、Dの供述は信用できる。 3 被告人の供述について被告人は、令和3年12月19日の居酒屋Aでの出来事については、断片的な記憶しかない、小上がりの席でBの顔面を拳で殴ったこと、その後、Bの血がテーブルに垂れていたことを覚えている他は、Bさんに暴行を加えた記憶はない、などと供述する。 被告人の供述は、単に記憶が断片的だというもので、Dの供述と内容が矛盾するわけではなく、Bの遺体の状況、店内の血痕や壁の穴、被告人の着衣の血などの客観的な事実を全く説明できていない。したがって、被告人の供述は、Dの供述の信用性に影響しない。 4 Dの供述から認定できる事実以上の検討から、弁護人の指摘や被告人の供述内容を踏まえても、Dの供述は信用できるから、その供述内容のとおりの って、被告人の供述は、Dの供述の信用性に影響しない。 4 Dの供述から認定できる事実以上の検討から、弁護人の指摘や被告人の供述内容を踏まえても、Dの供述は信用できるから、その供述内容のとおりの事実が認められる。つまり、まず、被告人が、居酒屋A店内において、Bの顔面を拳で複数回殴り、その胸部付近を足で複数回蹴ったことが認められる。また、被告人が、Bの胸ぐら付近を両手でつかんでBを立たせたところ、被告人の手がBから離れ、Bが転倒したことが認められる。何度も暴行を受けてふらふらとしているBの胸ぐらを掴み、小上がりの縁辺りで立ち上がらせれば、重さで手が離れるなどしてBが小上がりの下の床に倒れてしまうことは通常想定できるといえるから、被告人は少なくともそのような危険がある行為であることを分かってBを立たせたものと認められる。よって、被告人がBの胸ぐら付近を両手でつかんでBを立たせ、その手を離すなどしてBを転倒させたと認定できる。 したがって、被告人が、Bに罪となるべき事実のとおりの暴行を加えたと認められる。 第4 争点②に対する判断 1 Bの死因についてBの遺体の解剖を担当した解剖医である証人H及び解剖時の写真やH医師の鑑定書を確認した法医学医である証人Iの供述によれば、Bの死因は、外傷性急性硬膜下血腫による脳ヘルニアであると認められる。 すなわち、Bは、頭部に複数の外力を受ける中で、硬膜と脳の間にある架橋静脈が破裂して硬膜の下に血腫が形成され(外傷性急性硬膜下血腫)、その血腫により脳が圧迫されて本来ある位置から押し出される脳ヘルニアが生じ、生命維持機能をコントロールする脳幹が圧迫されたことで呼吸が停止し、さらに心臓が停止して死亡した。 このようなBの死亡に至る機序については、当事者間に争いがなく、H医師及びI れる脳ヘルニアが生じ、生命維持機能をコントロールする脳幹が圧迫されたことで呼吸が停止し、さらに心臓が停止して死亡した。 このようなBの死亡に至る機序については、当事者間に争いがなく、H医師及びI医師の専門家としての十分な知識・経験に基づく供述によって認定できる。 2 前提事実と問題の所在Bの解剖時に認められた頭部外傷は、左右急性硬膜下血腫、脳挫傷、外傷性クモ膜下出血、脳浮腫・脳腫脹、左頭頂後部の挫創(以下「後頭部挫創」という。)などである。 このうち後頭部挫創は、多量の出血を伴うことがあり得るものであり、また、Bが自分のアパートの駐車場で発見された際、頭の付近に多量の血だまりがあったことからすると、少なくともBが駐車場に到着後、車外に出た後にできたものと認められる。そして、Bがその際に第三者から暴行を受けたことをうかがわせる事情は全くないこと、H医師が路面に打ち付けても生じ得る傷であると述べていることから、Bが自ら転倒したことによってできたものと認められる。 H医師とI医師の各供述は、要するに、外傷性急性硬膜下血腫ができてから死亡までのアルコールの代謝にかかる時間や直腸温の低下にかかる時間から推定される受傷の時刻、居酒屋AにGが到着する頃以降のBの状況などから、Bが被告人の暴行により外傷性急性硬膜下血腫を生じたことを示唆するものであり、後頭部挫創を死因と結び付けないものである。他方で、H医師の鑑定書を確認した法医学医の証人 Jの供述は、後頭部挫創ができたのと同じ衝撃によって、脳挫傷と外傷性急性硬膜下血腫ができたとして、駐車場における転倒により外傷性急性硬膜下血腫を生じたことを示唆するものである。 3 被告人の暴行とBの死亡の間の因果関係について⑴ H医師とI医師は次のとおり供述する。 ア外傷 駐車場における転倒により外傷性急性硬膜下血腫を生じたことを示唆するものである。 3 被告人の暴行とBの死亡の間の因果関係について⑴ H医師とI医師は次のとおり供述する。 ア外傷性急性硬膜下血腫の発生原因についてBの外傷性急性硬膜下血腫は、頭部に複数の外力を受けたことによって生じたものと認められ、その外力は人の拳や足等によるものと考えて矛盾がない。Bの顔面に鼻骨骨折や多数の皮膚変色があることを踏まえれば、複数回の外力が顔面に加わったことが考えられ、Bの外傷性急性硬膜下血腫はこれらの外力によって生じたと考えて矛盾しない。 イ外傷性急性硬膜下血腫の発生時期についてBの頭蓋内には左右に血腫があり、その大きさは右側の血腫が122グラム、左側の血腫が32グラムであった。さらに、血中アルコール濃度を見ると、右側の血腫が0.64mg/mL、左側の血腫が0.55mg/mL、大腿静脈は0.41mg/mLであった。 血中アルコール濃度は、血腫についてはそれが発生した時点で固定し、大腿静脈については死亡時の数値を反映する。体内のアルコールが代謝される平均的なスピードは0.16mg/mLであるとされているので、Bは、右の血腫が発生してから約1時間20分から30分くらい後に死亡したと考えることができる。 また、Bの直腸温は、死亡後の午前9時10分に測定した時に25度であった。生きている人の平均的な直腸温は37度であり、死亡すると直腸温は通常の環境であれば1時間に1度ずつ、冬の寒い ところであればより速いスピードで下がる。速い場合には1時間に2度ずつ低下したという例もあるが、一方で病院に搬送されたり救命活動が行われたりすると直腸温の低下速度は遅くなる。Bは、午前7時頃に救急搬送されているため、仮にそれ以降直腸温が大きく低 は1時間に2度ずつ低下したという例もあるが、一方で病院に搬送されたり救命活動が行われたりすると直腸温の低下速度は遅くなる。Bは、午前7時頃に救急搬送されているため、仮にそれ以降直腸温が大きく低下しなかったとすれば、死亡時刻は午前7時頃から約6時間(計算式:(37度-25度)÷2度/時間))遡った午前1時頃と推定できる。 Bの死亡時刻が午前1時頃であるとすると、右の血腫が生じた時点はそのさらに1時間20分ないし30分前であったと考えられるため、Bに外力が加わった時点は午後11時30分頃であったと考えられる(なお、以上の直腸温による推定はI医師によるものであり、H医師の説明はこれとはやや異なる。)。 ⑵ 検討上記第3で認定したとおり、被告人は、午後11時頃から午後11時54分頃までの間に、居酒屋Aの店内でBに対して罪となるべき事実のとおりの暴行を加えたところ、H医師とI医師が供述する外傷性急性硬膜下血腫の発生原因及び時期は、このような被告人の暴行及び時間帯であるとして矛盾しない。 さらに、証拠によれば、Bが居酒屋A店内で、被告人の暴行により転倒して小上がりの下の床に落ち、仰向けに倒れた際、いびきのような音を出したこと(ただし、これがいびきだったかどうかまでは証拠上断定できない)、Gが居酒屋Aに到着して一度店内に入った際、Bは小上がりの床で横になっていたこと、Bは、退店する際、一人で歩くことができなくなり、DとFの連れの客に肩を支えてもらっていたこと、退店後、Bは、Gが運転する車の中で、「ゼーゼ ー」と言っており、問いかけに返事をする際は「うう。」としか言っていなかったこと、被告人方に到着し、助手席に乗っていた被告人が降車し、後部座席に乗っていたBが助手席に移動したが、その際、Bの動きがいつもより遅かったこと かけに返事をする際は「うう。」としか言っていなかったこと、被告人方に到着し、助手席に乗っていた被告人が降車し、後部座席に乗っていたBが助手席に移動したが、その際、Bの動きがいつもより遅かったこと、運転代行の代金を精算する際、Bは、横向きにお札を入れる財布の中に、縦向きにお札を入れようとしたことが認められる。 H医師とI医師は、外傷性急性硬膜下血腫が生じると徐々に意識障害及び運動障害を発症する場合があるとも供述しているところ、これらの事情は被告人の暴行によってBに外傷性急性硬膜下血腫が生じていたことと矛盾しない。 ⑶ Bが他の原因によって死亡した可能性についてア Bが自宅駐車場で自ら転倒した可能性について弁護人は、Bが、被告人の暴行の有無とは無関係に、自宅駐車場で自ら転倒して後頭部を打撲して亡くなった可能性があると主張し、J医師も、Bの後頭部に脳挫傷があること、Bが発見された時に自宅駐車場で仰向けに倒れており後頭部から出血していたこと等を踏まえれば、駐車場での転倒によって外傷性急性硬膜下血腫を生じて死亡したと考えるのが自然であると供述する。 しかし、Bが倒れていた場所は、通り慣れた自宅の駐車場であり、車止めなどの転倒の原因となり得るものもなかった。また、Bの遺体の状況等を踏まえれば、Bは手をついたりかがんだり受け身を取ったりすることもなく、後ろ向きに倒れて後頭部を地面に打ち付けているとうかがわれるが、Bの血中アルコール濃度等を見てもこのような転倒の仕方をする原因になり得る事情は見当たらない。そうすると、Bの転倒の原因は、外傷性急性硬膜下血腫が生じていて意 識障害を生じたというのでなければ合理的に説明することができない。 よって、弁護人とJ医師の指摘を踏まえても、Bが自宅駐車場で自ら転倒し、その時に 、外傷性急性硬膜下血腫が生じていて意 識障害を生じたというのでなければ合理的に説明することができない。 よって、弁護人とJ医師の指摘を踏まえても、Bが自宅駐車場で自ら転倒し、その時に外傷性急性硬膜下血腫が生じた可能性はない。 イ Bが居酒屋Aの店内で自ら転倒した際に外傷性急性硬膜下血腫が生じた可能性についてEは、Bが午後11時前に、居酒屋Aの店内で後ろ向きに転倒したのを見た、転倒した後Bが仰向けになって頭は床についていたと供述する。そこで、この転倒によってBに外傷性急性硬膜下血腫が生じた可能性がないか検討する。 信用できるFの供述によれば、Bは午後11時前に転倒したことがあったが、その時Bは尻餅をつくように倒れていて、後頭部を打つ様子はなかったものと認められる。Eの供述を前提としても、Bが午後11時前に転倒した時に後頭部を地面にぶつける様子を見たというものではない。もし、それほどの転倒があったとすると、当時店内にいたDやCが注目してもおかしくないところ、DもCもBが転倒するのは見ていないと述べている。 また、Bが午後11時前に転倒した際に外傷性急性硬膜下血腫を生じていたとすると、その血腫と大腿静脈内の血中アルコール濃度の差から計算される死亡時刻は午前0時30分頃より前となるはずであるが、この時間帯はBはGが運転する自動車内にいて生存していたことが証拠上明らかであるから、このような客観的な事実関係とも整合しない。 よって、Bが居酒屋Aの店内で自ら転倒して外傷性急性硬膜下血腫を生じた可能性も否定できる。 4 結論以上によれば、Bの死因は、外傷性急性硬膜下血腫による脳ヘルニアであり、Bの居酒屋A店内、退店時、退店後の様子や、Bが転倒した時の状況、血液中 を生じた可能性も否定できる。 4 結論以上によれば、Bの死因は、外傷性急性硬膜下血腫による脳ヘルニアであり、Bの居酒屋A店内、退店時、退店後の様子や、Bが転倒した時の状況、血液中のアルコール濃度や直腸温の変化などから推測される死亡時刻や血腫ができた時期などからすると、Bは居酒屋A店内にいる間に外傷性急性硬膜下血腫を生じたといえ、その原因は被告人の暴行と認定できる。 したがって、Bは、被告人の暴行によって生じた外傷性急性硬膜下血腫による脳ヘルニアが悪化して死亡した、つまり、Bは被告人の暴行によって死亡したと認められる。 (量刑の理由) 1 この事件は、被告人が、約50分間にわたり、被害者に対し、被害者の顔面を拳で殴り、胸部付近を足で複数回蹴り、胸ぐら付近を両手でつかんで被害者を立たせ、その手を離すなどして被害者を転倒させるなどの暴行を加え、被害者に外傷性急性硬膜下血腫等の傷害を負わせ、よって、被害者を外傷性急性硬膜下血腫による脳ヘルニアにより死亡させたというものである。 2 そこで、傷害致死罪のうち、前科のない者が、単独で、けんかや怨恨、集団リンチなどの明らかにこの事件とは異なる動機で行われたものを除くその他の動機で、又は、背景がなく、あるいは不明な背景のもとで、凶器を用いずに、知人・友人等の被害者を死亡させた傷害致死事件1件の事案の量刑傾向を踏まえて、まず、犯情を検討してこの事件の重みを考え、次に一般情状を検討して刑を決める。 3 まず、犯情のうち、犯行までのいきさつや理由について見る。 被告人が記憶がないと述べるため犯行動機は判然としないが、少なく とも被害者に暴行の被害を受けなくてはならないような落ち度があったとうかがわせる事情は一切なく、いきさつに酌むべき点は全くない。 次に、犯行のやり方 ため犯行動機は判然としないが、少なく とも被害者に暴行の被害を受けなくてはならないような落ち度があったとうかがわせる事情は一切なく、いきさつに酌むべき点は全くない。 次に、犯行のやり方について見る。被告人は、身体障害の影響もあって無抵抗だった被害者に対し、顔面や胸部などの人体の急所に当たる部位に強い暴行を加えており、その暴行は、他人から制止されながらも、約50分間にわたって断続的に行われた執拗なものであった。傷害致死の事案における暴行には、比較的軽いものや、回数が少ないものなどもある中で、被告人の犯行のやり方はかなり悪いものといえる。 そして、苛烈な暴行により意識障害などを生じながら、自宅に着く目前で転倒して動けない状態となり、死亡するに至った被害者の痛みや恐怖、無念さは計り知れない。遺族が強い処罰感情を持つのも当然といえる。 以上の犯情を総合すると、この事件の犯情は、同種の事件の中で、中程度よりやや重い部類に属する。 4 一般情状について見ると、被告人は、この事件のことを断片的にしか覚えていない、被害者を1回殴ったことしか覚えていないなどと供述し、自分が犯した罪に十分に向き合えているとはいえない。 5 以上を踏まえて、被告人に対する具体的な刑を検討する。同種の事件の量刑傾向は、およそ懲役2年から11年までに分布し、中間値は懲役6年というものである。上記のとおり、この事件の犯情は同種の事件の中でも中程度よりやや重いものである。上記の一般情状を見ても、被告人に有利な事情はない。そうすると、主文の程度の懲役刑はやむを得ない。 (求刑-懲役8年)令和7年3月7日 水戸地方裁判所刑事第2部 裁判長裁判官山﨑 威 裁判官薦田 (求刑-懲役8年) 令和7年3月7日 水戸地方裁判所刑事第2部 裁判長裁判官山﨑威 裁判官薦田淳平 裁判官植木佑記
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