平成28(ワ)285 建物明渡等請求事件

裁判年月日・裁判所
平成31年2月7日 神戸地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-88551.txt

判決文本文41,284 文字)

平成31年2月7日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成28年(ワ)第285号建物明渡等請求事件口頭弁論終結日平成30年10月15日判決 主文 1 被告は,原告に対し,別紙物件目録記載の建物部分を明け渡せ。 2 被告は,原告に対し,266万2839円及び平成30年4月1日から前項の明渡済みまで,1か月10万1700円の割合による金員を支払え。 3 訴訟費用は,被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求主文第1,2項同旨第2 事案の概要 1 本件は,地方公共団体であり,公営住宅の事業主体である原告が,訴外住宅・都市整備公団(後に,同公団の権利義務は都市基盤整備公団に承継され,現在は 独立行政法人都市再生機構に承継されている。)からの借上げに係る市営住宅である別紙物件目録記載の建物部分(以下「本件居室」という。)の入居者である被告に対し,⑴ⅰ 主位的には,借上期間が満了したと主張して,公営住宅法(以下,単に「法」と表現することがある。)32条1項6号及び神戸市営住宅条例(平成9年条例第12号。以下「本件条例」ともいう。)50条1項7号による建 物明渡請求権に基づき,ⅱ 予備的には,賃貸借契約の期間満了による終了によって転貸借契約も当然に終了し,若しくは解約申入れによって原被告間の転貸借契約が終了したと主張して,転貸借契約の終了による建物明渡請求権に基づき,本件居室の明渡しを求めるとともに,⑵ 借上期間満了日の翌日である平成28年1月31日から平成30年3月31日までは1か月10万2290円の割合, 同年4月1日から本件居室の明渡済みまでは1か月10万1700円の割合に よる賃料及び共益費(以下「賃料等」という。)相当損害金の支払を 3月31日までは1か月10万2290円の割合, 同年4月1日から本件居室の明渡済みまでは1か月10万1700円の割合に よる賃料及び共益費(以下「賃料等」という。)相当損害金の支払を求める事案である。 2 法令の定め等⑴ 法の規定等ア定義 公営住宅とは,地方公共団体が,建設,買取り又は借上げを行い,低額所得者に賃貸し,又は転貸するための住宅及びその附帯施設で,法の規定による国の補助に係るものをいう(法2条2号)。 公営住宅の借上げとは,公営住宅として低額所得者に転貸するために必要な住宅及びその附帯施設を賃借することをいう(法2条6号)。 事業主体とは,公営住宅の建設,買取り又は借上げ及び管理を行う地方公共団体をいう(法2条5号ないし8号,16号)。 イ入居者の選考等の手続事業主体の長は,借上げに係る公営住宅の入居者を決定したときは,当該入居者に対し,当該公営住宅の借上げの期間の満了時に当該公営住宅を明け 渡さなければならない旨を通知しなければならない(法25条2項)。 ウ借上げの期間の満了による明渡請求事業主体は,公営住宅の借上げの期間が満了するときにおいては,入居者に対して,公営住宅の明渡しを請求することができる(法32条1項6号)。 当該入居者は,この請求を受けたときは,速やかに当該公営住宅を明け渡 さなければならない(同条2項)。 事業主体が上記明渡しの請求を行う場合には,当該請求を行う日の6月前までに,当該入居者にその旨の通知をしなければならない(同条5項)。また,事業主体は,公営住宅の借上げに係る契約が終了する場合には,当該公営住宅の賃貸人に代わって,入居者に借地借家法34条1項の通知をするこ とができる(法32条6項)。 い(同条5項)。また,事業主体は,公営住宅の借上げに係る契約が終了する場合には,当該公営住宅の賃貸人に代わって,入居者に借地借家法34条1項の通知をするこ とができる(法32条6項)。 なお,公営住宅の借上げに係る契約の終了に伴って特定の者を公営住宅に入居させる場合は,公募の方法による必要はないものとされており(法22条1項反対解釈),公営住宅の借上げに係る契約の終了により当該公営住宅の明渡しをしようとする入居者が,当該明渡しに伴い他の公営住宅に入居の申込みをした場合においては,その者は,法23条各号に掲げる条件(入居 者資格)を具備する者とみなされる(法24条1項)。 エ条例への委任事業主体は,法で定めるもののほか,公営住宅の管理について必要な事項を条例で定めなければならない(法48条)。 オ借上住宅に係る公営住宅制度の導入等 借上住宅に係る公営住宅制度は,平成8年法律第55号による改正(以下「平成8年改正」という。)において導入された。 平成8年改正に係る附則(以下,単に「附則」という。)の定め(施行期日) 1 この法律は,公布の日から起算して三月を超えない範囲内で政令で定 める日(平成8年8月政令247号により,平成8年8月30日)から施行する。ただし,附則5項の規定は,平成10年4月1日から施行する。 (経過措置) 2 この法律による改正後の公営住宅法(以下「新法」という。)7条から 10条までの規定は,平成8年度以降の年度の予算に係る国の補助(平成7年度以前の年度の国庫債務負担行為に基づき平成8年度以降の年度に支出すべきものとされたものを除く。)について適用し,平成7年度以前の年度の国庫債務負担行為に基づき平成8年度以降の年度に支出すべきものとされた国 度の国庫債務負担行為に基づき平成8年度以降の年度に支出すべきものとされたものを除く。)について適用し,平成7年度以前の年度の国庫債務負担行為に基づき平成8年度以降の年度に支出すべきものとされた国の補助及び平成7年度以前の年度の歳出予算 に係る国の補助で平成8年度以降の年度に繰り越されたものについて は,なお従前の例による。 3 この法律による改正前の公営住宅法(以下「旧法」という。)の規定に基づいて供給された公営住宅又は共同施設については,平成10年3月31日までの間は,新法16条,18条から20条まで,23条,24条,26条から32条まで,34条から43条まで,44条4項及び5 項並びに52条2号及び3号の規定は適用せず,旧法12条,12条の3から14条まで,17条,20条から22条まで,23条の2から23条の10まで及び30条(1号,5号及び6号を除く。)の規定は,なおその効力を有する。 4 前項の公営住宅については,新法17条の規定は適用せず,旧法12 条の2の規定は,なおその効力を有する。 5 附則1項の政令で定める日において現に地方公共団体が低額所得者に賃貸又は転貸をするために買い取り,借り上げ,又は管理している住宅又はその入居者の共同の福祉のために必要な施設で国の補助に係るもののうち,当該住宅の入居者が旧法17条に定める条件を具備しなけ ればならない住宅又はその入居者の共同の福祉のために必要な施設については,新法の規定に基づいて供給された公営住宅又は共同施設とみなして新法の規定(7条から10条まで及び17条の規定を除く。)を適用する。 (6項ないし9項省略) 平成10年4月1日前に旧法の規定によってした請求,手続その他の行為は,新法の相当規定によってしたものとみなす。 まで及び17条の規定を除く。)を適用する。 (6項ないし9項省略) 平成10年4月1日前に旧法の規定によってした請求,手続その他の行為は,新法の相当規定によってしたものとみなす。 ⑵ 本件条例の規定(甲19)ア定義市営住宅とは,神戸市が建設し,買い取り,又は借り上げ,その住民等に 賃貸し,又は転貸するための住宅であって条例の規定により設置するもの及 びその附帯施設をいう(本件条例2条1号)。 イ借上げの期間の満了による明渡請求市長は,当該市営住宅の借上げの期間が満了する場合においては,当該市営住宅の入居者に対して,その入居許可を取り消し,当該市営住宅の明渡しを請求することができる(本件条例50条1項7号)。当該入居者は,この請 求を受けたときは,速やかに当該市営住宅を明け渡さなければならない(同条2項)。 ウ家賃の納付市長は,市営住宅の入居者から,市長が指定する入居の日から当該入居者が市営住宅の明渡しを行う日(当該入居者に係る入居許可を取り消したとき は,当該入居許可を取り消した日)までの期間について,家賃を徴収する(本件条例30条1項)。 市営住宅の入居者は,毎月5日(4月にあっては,10日)までに,その月の家賃を納付しなければならない(同条2項)。 市営住宅の入居者に係る市長が指定する入居の日,当該市営住宅の明渡し を行った日又は入居許可を取り消した日が月の初日及び末日以外のときのその月の家賃は,日割により計算する(同条3項)。 3 前提事実(証拠の引用がない事実は,当事者間に争いがない。)⑴ 当事者等原告は,普通地方公共団体であり,法所定の事業主体(法2条16号)であ る(弁論の全趣旨)。 被告は,昭和▲年▲月▲日生まれの女性 がない事実は,当事者間に争いがない。)⑴ 当事者等原告は,普通地方公共団体であり,法所定の事業主体(法2条16号)であ る(弁論の全趣旨)。 被告は,昭和▲年▲月▲日生まれの女性であり,原告の住民である(乙57)。 住宅・都市整備公団は,平成8年1月30日当時,本件居室を所有していたが,その後に解散し,同公団の権利義務は,都市基盤整備公団を経て,独立行政法人都市再生機構に承継された(以下,これらを区別せず「UR都市機構」 という。)。 ⑵ 原告とUR都市機構との間の借上住宅賃貸契約ア UR都市機構は,平成8年1月30日,原告に対し,原告が神戸市a区b通c丁目d番所在Ae号棟及びf号棟(以下,Af号棟を「本件借上住宅」という。)を市営住宅として供給するため,以下の条件で上記各建物を賃貸し(以下「本件賃貸借契約」という。),これを引き渡した(甲2,弁論の全 趣旨)。 使用開始可能日平成8年1月31日借上期間日まで(なお,借上住宅賃貸借契約書〔甲2〕のうち,3条1項の「平成28年(西暦2016年)1月31 日」の記載は,「平成28年(西暦2016年)1 月30日」の誤記と認める。)。ただし,借上期間満了の日の概ね3年前までに,UR都市機構又は原告の申出により,協議の上,借上期間を1回に限り延長することができる。 借上期間満了後の取扱い 原告は,借上期間が満了した場合は,借上期間の満了の日までに,借上住宅を空け,これをUR都市機構に返還しなければならない。 もっとも,借上住宅入居者(借上住宅の貸付けを受けた者)が借上期間満了日以降も借上住宅に継続して居住することを希望し,かつ,UR都市機構が定める入居資格を有するときは,UR都市機構は当 らない。 もっとも,借上住宅入居者(借上住宅の貸付けを受けた者)が借上期間満了日以降も借上住宅に継続して居住することを希望し,かつ,UR都市機構が定める入居資格を有するときは,UR都市機構は当該者との間でU R都市機構の定める賃貸借契約を締結する。 借上住宅の賃料月額1250万0900円このうち,本件居室(f号棟g号室)の月額賃料は,11万7600円である。 借上住宅の使用上の条件 原告は,借上住宅を公営住宅法等の規定に基づき,原告が入居を許可し た者に原告の定める条件で貸し付けなければならない。 イなお,法は,上記アの契約締結当時,民間から住宅を借り上げて公営住宅とすることを想定していなかったため,本件賃貸借契約は,当時の建設省の特定借上・買取賃貸住宅制度要綱(平成7年4月1日建設省住備発第13号〔甲14〕。以下「本件要綱」という。)に基づいて,公営住宅法上の公営住 宅には該当しない市営住宅として家賃助成ができるように条例を改正して,契約締結に至ったものであった(なお,以下では,本件要綱に基づき供給された市営住宅を含め,原告が借上げにより供給する住宅を「借上公営住宅」という。)。 ⑶ 被告に対する入居許可等 ア原告は,平成7年10月,阪神・淡路大震災(以下「本件震災」という。)の被災者向けに,本件借上住宅を含む市営住宅816戸の入居者募集を行い,これに応募(本件条例12条)した被告を本件居室の入居者に決定した(本件条例18条1項。以下「本件入居者決定」という。)。 イ被告は,平成8年2月23日までに,神戸市長に対し,神戸市営住宅使用 証書と題する書面(甲3の②)及び誓約書(甲3の③)を提出し(本件条例18条2項),神戸市長は,同日,被告に対 。)。 イ被告は,平成8年2月23日までに,神戸市長に対し,神戸市営住宅使用 証書と題する書面(甲3の②)及び誓約書(甲3の③)を提出し(本件条例18条2項),神戸市長は,同日,被告に対し,神戸市営住宅入居許可書と題する書面(甲3の①)を交付して,入居指定日を平成8年3月1日,賃料月額4万7000円等と定めて本件居室への入居を許可した(本件条例19条。 以下「本件入居許可」という。)。 ウなお,本件入居者決定及び本件入居許可当時,平成8年法律第55号は,公布・施行前であって,被告に対し,借上期間満了時に本件居室を明け渡さなければならない旨の通知(法25条2項)はされなかった(以下,平成8年改正に係る附則3項の表現と同様に,同改正前の法を「旧法」,同改正後の法を「新法」と表現することもある。)。 ⑷ 被告に対する借上期間満了の通知及び明渡しの通知等 ア原告とUR都市機構は,平成25年1月31日頃までに,本件賃貸借契約の借上期間を延長する旨の合意をしなかった(弁論の全趣旨)。 イ原告は,平成27年6月5日,被告に対し,平成28年1月30日をもって本件借上住宅の借上期間が満了し,法32条5項及び本件条例50条13項に基づき,本件居室の入居許可を取り消し,その明渡しを請求することに なる旨通知するとともに,法32条6項及び本件条例50条14項に基づき,UR都市機構に代わって借地借家法34条1項の通知を行い,同日までに本件居室を明け渡すよう請求した(甲8の①・②〔ただし,本件条例50条12項と記載されているのは,同条13項,本件条例50条13項と記載されているのは,同条14項の誤記と認める。〕)。 ウ原告は,平成27年7月27日付けで,UR都市機構に対し,本件賃貸借契約について借地借家 るのは,同条13項,本件条例50条13項と記載されているのは,同条14項の誤記と認める。〕)。 ウ原告は,平成27年7月27日付けで,UR都市機構に対し,本件賃貸借契約について借地借家法26条に基づく更新をしない旨を通知した(甲16)。 エ原告は,同年12月28日,被告代理人に対し,法32条1項6号及び本件条例50条1項7号に基づき,借上期間満了日までに本件居室を明け渡す よう請求した(甲10の①・②)。 ⑸ UR都市機構の原告に対する本件賃貸借契約終了の通知等UR都市機構は,平成28年1月30日付けで,原告に対し,本件賃貸借契約終了と同時に返還できない住戸があることを承知した旨及び当該住戸について原告の占有権原が消滅した旨を通知した(甲11)。 本件借上期間満了時における本件居室の賃料は9万8400円,共益費は3890円であったが(同),平成30年4月1日以降の共益費は,3300円である(甲35)。 4 争点⑴ 原告と被告との間の使用関係に新法が適用されるか。(争点1) ⑵ 法25条2項所定の通知は,法32条1項6号に基づく明渡請求の要件とい えるか。(争点2)⑶ 原告が法32条1項6号等に基づいて明渡しを請求できるか(法32条1項6号を限定解釈すべきか。)。(争点3)⑷ 法32条1項6号等に基づく明渡請求が認められない場合に,原告が本件賃貸借契約の終了を理由とする原被告間の転貸借契約終了に基づく明渡しを請 求できるか。(争点4)⑸ 法32条1項6号等に基づく明渡請求が認められない場合に,原告が解約申入れを理由とする原被告間の転貸借契約終了に基づく明渡しを請求できるか。 (争点5)⑹ 原告の本件各請求が禁反言の法理に反し,又は権利濫用に当たり許されない められない場合に,原告が解約申入れを理由とする原被告間の転貸借契約終了に基づく明渡しを請求できるか。 (争点5)⑹ 原告の本件各請求が禁反言の法理に反し,又は権利濫用に当たり許されない か。(争点6)⑺ 原告の本件各請求が社会権規約11条及び12条に反するか。(争点7)⑻ 原告の本件各請求が憲法13条及び25条に反するか。(争点8) 5 争点に関する当事者の主張⑴ 争点1(原告と被告との間の使用関係に新法が適用されるか。) (原告の主張)ア本件借上住宅は,本件要綱に基づき借り上げられた特定借上賃貸住宅(以下「特定借上住宅」という。)であるところ,平成10年4月1日,附則5項及び1項により,新法に基づき供給された公営住宅であるとみなされた。 したがって,本件居室に入居する被告についても,平成10年4月1日以 降は,法7条ないし10条及び17条の規定を除き,新法が適用される。 イこれに対し,被告は,附則5項が借上期間満了による明渡請求(法32条1項6号)等の不利益な規定を遡及適用する旨を定めたものではないと主張するが,賃貸借契約の終了によって転貸借契約が終了するのは当然であって,附則5条の適用によって不利益を課される訳ではない。 ウまた,被告は,本件要綱が借上公営住宅を恒久的なものと想定していたな どと主張するが,本件要綱は,借上期間を20年以上とすると規定しているのであって,むしろ,20年が経過すれば明渡しを認める趣旨と解すべきである。 エさらに,被告は,附則10項の反対解釈から同法施行前の入居者に同法32条1項6号の適用はないと主張するが,附則10項は,新法に基づく対応 をしようとした場合,旧法との差異から,これが阻害されることを避けるために,予備的・補完的に設け 同法施行前の入居者に同法32条1項6号の適用はないと主張するが,附則10項は,新法に基づく対応 をしようとした場合,旧法との差異から,これが阻害されることを避けるために,予備的・補完的に設けられた包括的な経過措置を規定したものであって,被告の解釈が同附則の意図に沿うものではないことは明らかである。 (被告の主張)アそもそも附則5項には,遡及適用に関する特別の規定がないところ,仮に 特定借上住宅の入居者に新法が適用されるとして,法25条2項所定の通知が法32条1項6号に基づく明渡請求の要件でないとすれば,20年以上の借上期間を保証され,借上期間満了後の明渡義務を負わない法律上の地位を有していた特定借上住宅の入居者が,通知なくして明渡義務を負うこととなる。 このように,入居者の地位が著しく損なわれるにもかかわらず,何らの規定なくして遡及適用を認めることは許されない(民法施行法1条参照)。 イ附則5項は,新法の施行で導入された応納応益家賃制度及び高額所得者明渡制度等の家賃制度を特定借上住宅にも適用する目的で規定されたものであり,このことは,附則5項だけ施行時期が異なることからも明らかであっ て,平成10年4月1日より前の入居者に新法の借上期間満了による明渡請求(法32条1項6号)等の不利益な規定を遡及的に適用する旨を規定したものではない。 ウまた,附則10項は,「平成10年4月1日前に旧法の規定によってした請求,手続その他の行為は,新法の相当規定によってしたものとみなす」と 定めるところ,これを反対解釈すれば,新法施行前の入居者については,旧 法に規定のなかった法25条2項所定の通知がなされていないことを確認し,同通知を要件とする同法32条1項6号の明渡請求ができないことを確認したも すれば,新法施行前の入居者については,旧 法に規定のなかった法25条2項所定の通知がなされていないことを確認し,同通知を要件とする同法32条1項6号の明渡請求ができないことを確認したものといえる。 ⑵ 争点2(法25条2項所定の通知は,法32条1項6号に基づく明渡請求の要件といえるか。) (原告の主張)以下で主張するとおり,法25条2項所定の通知は,法32条1項6号の明渡請求の要件ではない。 ア法25条2項所定の通知が,法32条1項6号に基づく明渡請求の要件であるとの明文の規定は存在しない。 イ公営住宅の管理について必要な事項は条例で定められるところ(法48条),当該公営住宅が借上げに係るものかについては,地方自治法16条の条例公布手続により,一般に知り得る状態に置かれることになる。そうすると,法25条2項所定の通知は,上記条例に加え,更に念のため,事前に借上住宅の入居者に入居可能期間と借上期間満了後の明渡義務を認識させる ものであり,借上住宅の入居者に配慮した規定にすぎず,被告の主張するような必要性の高いものではない。 ウ公営住宅の借上げに係る契約の終了により当該公営住宅の明渡しをしようとする入居者については,最低6か月の明渡猶予期間が確保されており(法32条5項),公募の方法によらずに従前の契約と概ね同条件で他の市 営住宅に入居できる(法22条1項,24条1項)ほか,移転料の支払の提供が受けられる(第2次市営住宅マネジメント計画の推進に関する要綱10条)など入居者保護が図られている。 エ被告は,定期借家制度と整合的な解釈をすべきであると主張するが,以下のとおり,定期借家制度と借上公営住宅とを同列に論ずることはできない。 借地借家法が当事者間の自由意思に基づく賃貸借 エ被告は,定期借家制度と整合的な解釈をすべきであると主張するが,以下のとおり,定期借家制度と借上公営住宅とを同列に論ずることはできない。 借地借家法が当事者間の自由意思に基づく賃貸借契約の関係を規律す るものであるのに対し,法は,住宅に困窮する低額所得者保護の観点から,市場価格よりも低廉な家賃で賃貸若しくは転貸することを目的としており,一定の政策的な意図に服さざるを得ない。 借上げに係る公営住宅の入居可能期間(本件では20年)は,通常の定期建物賃貸借の期間よりも相当に長く,その更新の有無についての情報が 契約締結の判断の際の重要な要素になるとは考えにくい。 借上公営住宅については,前記ウのとおり,借上期間満了後に明渡しをする入居者に対し,様々な保護を与えており,定期建物賃貸借の賃借人とは異なる地位が保障されている。 (被告の主張) 以下で主張するとおり,法25条2項所定の通知は,法32条1項6号の明渡請求の要件である。 ア借地借家法26条ないし28条は,賃貸人による更新拒絶に正当事由のない限り,期間満了後も賃貸借が存続するものと定めており,その適用が排除されるのは,その旨の特約が賃借人に不利とならない場合(借地借家法30 条)や定期建物賃貸借契約が締結される場合(同法38条)など,特別の定めのある場合に限られていることに鑑みれば,我が国の建物賃貸借法制においては,期間満了後に賃貸借の存続が認められないのは,例外的な場合である。しかるに,公営住宅入居者は,本来的に住宅困窮者であり,一般の建物賃借人と比べて入居継続に関する地位の保護の必要性は高いにもかかわら ず,借地借家法28条の適用を受けないこととなる。 法25条2項所定の通知は,借地借家法の適用を受けない借上公営住宅の 物賃借人と比べて入居継続に関する地位の保護の必要性は高いにもかかわら ず,借地借家法28条の適用を受けないこととなる。 法25条2項所定の通知は,借地借家法の適用を受けない借上公営住宅の入居者に対して,予め入居可能期間及び借上期間満了後の明渡義務という不利益を認識させた上で入居をするかどうか判断できるよう入居者の保護を図るために必要不可欠なものであり,事業主体が法32条1項6号に基づい て正当事由なく明渡しを請求することの合理性を担保するものであるから, 法32条1項6号に基づく明渡請求の要件と解すべきである。 イ上記アのとおり,法定更新制度の適用が排除される借地借家法38条においては,予め建物の賃借人に対し,契約の更新がなく期間の満了により当該建物の賃貸借が終了することについてその旨を書面で交付して説明しなければならないと定められ(同条2項),これを欠いたときには,更新がないこ ととする定めは無効とされている(同条3項)。そして,借上公営住宅の入居者が定期借家契約を締結した建物賃借人と同様の法的地位にある以上,定期借家制度の制定過程と立法趣旨並びに最高裁判例が例外なく借家人の保護を図っている点に鑑みれば,法25条2項所定の通知についても,これらと整合的な解釈をしなければならず,法32条1項6号に基づく明渡請求の要 件と解すべきである。 ウ原告は,法に借地借家法38条2項及び3項と同様の明文規定が設けられていないことを指摘するが,法令の趣旨に照らし,明文の規定がなくても要件と解されることはあり得るし(例えば,法24条1項),明文の規定が設けられなかったのは,事業主体たる地方公共団体が入居者保護のために決定的 に重要な法25条2項所定の通知を怠ったにもかかわらず,当該入居者に対して当該公 例えば,法24条1項),明文の規定が設けられなかったのは,事業主体たる地方公共団体が入居者保護のために決定的 に重要な法25条2項所定の通知を怠ったにもかかわらず,当該入居者に対して当該公営住宅の明渡しを求める事態が生じるとは想定されていなかった(地方自治法2条16項参照)からにすぎない。 エ借上公営住宅以外の公営住宅については,期間の定めのない賃貸借であり,入居者は,家賃不払や収入基準オーバー等の事由がない限りは終身居住する ことが保障されている。他方で,借上期間満了後に明渡しが求められ,終身居住することを保障されていない借上公営住宅の入居者の地位の保障として,法25条2項所定の通知は,必要不可欠である。 ⑶ 争点3(原告が法32条1項6号等に基づいて明渡しを請求できるか〔法32条1項6号を限定解釈すべきか。〕。) (被告の主張) ア平成8年改正時においては,建物所有者が原賃貸借契約における期間満了時に更新拒絶をし,又は解約を申し入れて,転貸人である事業主体及び転借人である入居者に対し明渡請求をする場面において,事業主体である地方公共団体が建物所有者に代わって法32条1項6号を行使することが想定されていた(以下,このような適用場面を「本来型」という。)。この場合には, 原賃貸借契約の更新拒絶又は解約申入れには,正当事由が必要とされ,その判断において転借人の建物使用の必要性も考慮されるから,入居者の保護が図られている。 ところが,本件では,事業主体である地方公共団体が,自らの事情で原賃貸借契約の更新を拒絶し,又は解約を申し入れた上で,明渡しを請求してお り(以下,このような適用場面を「転用型」という。),以下の事情に照らし,本来型とは利益状況が全く異なっており,法32条1項6号をそ 更新を拒絶し,又は解約を申し入れた上で,明渡しを請求してお り(以下,このような適用場面を「転用型」という。),以下の事情に照らし,本来型とは利益状況が全く異なっており,法32条1項6号をそのまま適用することはできない。 法の適用において,借地借家法28条の適用が排除されるというためには,法に,借地借家法28条の正当事由制度が具現化されている(換言す れば,入居者保護が図られている)限りにおいて,借地借家法の適用が排除される(最高裁判所昭和61年(オ)第996号同62年2月13日第二小法廷判決・集民150号157頁参照)が,入居者保護が図られない転用型について,法32条1項6号をそのまま適用すべきでない。 事業主体(地方公共団体)は,低額所得者のために公営住宅を提供する 義務を負っており(法3条),法が定めた選考基準によって入居を許可した以上は,違反行為がある場合を除き,公営住宅の提供のために地方公共団体が財産的負担をすべき立場にある。こうした入居者と地方公共団体との関係が修正されるのは,公営住宅法の目的に照らし,建物所有者に建物返還を受ける利便を図る必要がある場合に限られ,その必要性が乏しい場 合は法32条1項6号を適用してはならない。 平成29年に一部改正された公営住宅法の建替制度では,非現地建替えの場合についても明渡請求が認められるに至ったが,その場合であっても,公営住宅法によって明渡しの必要性が厳格に法定され,入居者の生活環境の維持を保障することが求められていることからして,法32条1項6号を適用するためには,明渡しの必要性と入居者保護の観点からの合理性が 厳格に求められるというべきである。 イそうすると,地方公共団体の財政状況等による明渡請求である転用型においては,本来 号を適用するためには,明渡しの必要性と入居者保護の観点からの合理性が 厳格に求められるというべきである。 イそうすると,地方公共団体の財政状況等による明渡請求である転用型においては,本来型のように,原賃貸借契約の正当事由の判断において入居者(転借人)の),低額所得者である入居者に公営住宅を提供する義務を緩和する必要もない(同。 これらのことからすれば,地方公共団体による財政状況等を理由とする法32条1項6号に基づく明渡請求は,借地借家法28条に基づき転貸借契約を更新拒絶又は解約申入れできる場合に限り許容されると限定解釈すべきである。 (原告の主張) ア法32条1項6号に基づく明渡請求は,事業主体が建物所有者に代わって行使するものではなく,事業主体が入居者に対して公営住宅の明渡しを求めるものであって,被告の主張は,その前提を欠く。 イ借上期間満了による原賃貸借契約の終了は,サブリースに類するような原賃貸借契約の更新を当然の前提とする事情が賃貸人・転貸人・転借人間で共 通の認識となっているような場合は格別,そうでない本件において,建物所有者と地方公共団体のいずれが原賃貸借契約の終了を望んだかどうかによって法的結論が変わるものではないから,建物所有者の意思によって法32条1項6号の適用を区別することはできない。 ウ法32条1項6号は,「公営住宅の借上げの期間が満了するとき」を要件 として明記しており,期間満了による原賃貸借契約の終了を当然に予定して いるのであって,被告が転用型と主張する類型を公営住宅法が予定していなかったものと位置付けることはできない。また,法律に規定されていない「転貸借契約を更新拒絶又は解約申入れできる場合」に限るとの要件を課すこともできない。 エ公営住 類型を公営住宅法が予定していなかったものと位置付けることはできない。また,法律に規定されていない「転貸借契約を更新拒絶又は解約申入れできる場合」に限るとの要件を課すこともできない。 エ公営住宅法は,借上公営住宅の所有者と地方公共団体とが合意しない限り, 借上期間満了後に使用関係が更新されないことを予定していると解するほかなく,借上公営住宅の使用関係については,借地借家法26条1項,28条を排除する趣旨であると解すべきであって,法32条1項6号に基づく明渡請求において,建物所有者が正当事由を具備していることを前提とする被告の主張は,その前提を欠く。 ⑷ 争点4(法32条1項6号等に基づく明渡請求が認められない場合に,原告が本件賃貸借契約の終了を理由とする原被告間の転貸借契約終了に基づく明渡しを請求できるか。)(原告の主張)ア平成12年3月1日以前に締結された本件賃貸借契約には,借地借家法2 9条2項の規定は適用されない(改正借地借家法附則2条)ので,賃貸期間が20年を超えることができない(民法604条)。また,本件賃貸借契約は更新しないことを前提としており,原告とUR都市機構との間で,更新する旨の合意もなされなかった。さらに,原告は,UR都市機構に対し,借地借家法26条に基づき,本件賃貸借契約を更新しない旨の通知をした。 そうすると,本件賃貸借契約は,いずれにしても20年の経過により終了している。そして,賃貸借契約が終了した場合,転貸人の債務は履行不能となり,転貸借契約も当然に終了する(大審院昭和15年(オ)第138号同年6月1日第三民事部判決・民集19巻12号958頁)から,本件転貸借契約も終了している。 したがって,原告は,被告に対し,本件居室の明渡しを請求できる。 (オ)第138号同年6月1日第三民事部判決・民集19巻12号958頁)から,本件転貸借契約も終了している。 したがって,原告は,被告に対し,本件居室の明渡しを請求できる。 イこれに対し,被告は,本件賃貸借契約に原告とUR都市機構の共同事業性が認められるなどと主張する。確かに,本件借上住宅については特定借上住宅として使用することを予定して上記契約を締結しているが,原告ではない居住者が居住する根拠は,民法及び借地借家法上の転貸借契約ではなく,地方公共団体である原告の使用許可に基づくものであって,UR都市機構が原 告と共同して占有を作り出したなどということはない。加えて,上記見解は,本件賃貸借契約において,UR都市機構の判断で延長を拒絶できること,借上期間満了後には,入居者とUR都市機構との間で別途賃貸借契約が成立した場合を除いては,住居が返還されることが原則であることなどから明らかなように,UR都市機構は,入居者に対する責務を負うものではない。 したがって,被告の上記主張は,失当である。 ウまた,原賃貸借契約の終了に伴う転貸借契約の終了に基づく明渡請求において,借地借家法28条所定の正当事由が必要という被告の主張は,独自の見解といわざるを得ない。 (被告の主張) ア原告とUR都市機構との間の本件賃貸借契約は,その契約時,既に原告がUR都市機構から承諾を受けて本件借上住宅の各居室を被告ほか被災者に転貸して入居させることを予定していたものであるから,UR都市機構は,原告と共同して被告の本件居室の占有の原因を作り出したものであって(共同事業性),信義則上,本件賃貸借契約の期間満了による終了をもって被告 に対抗することができない(最高裁判所平成11年(受)第1220号同14年3月2 の占有の原因を作り出したものであって(共同事業性),信義則上,本件賃貸借契約の期間満了による終了をもって被告 に対抗することができない(最高裁判所平成11年(受)第1220号同14年3月28日第一小法廷判決・民集56巻3号662頁参照)。 イ原賃貸借契約が終了したとしても,賃貸人が転借人に対して,これを対抗できるのはともかく,転貸人が転借人に対し,当然に対抗できるということはなく,転貸人である原告は,借地借家法28条所定の正当事由がない限り, 転借人である被告に対し,原賃貸借契約の終了をもって,転貸借契約の終了 を主張することはできない。 ⑸ 争点5(法32条1項6号等に基づく明渡請求が認められない場合に,原告が解約申入れを理由とする原被告間の転貸借契約終了に基づく明渡しを請求できるか。)(原告の主張) ア原告は,平成27年6月5日,被告に対し,平成28年1月30日までに本件居室を明け渡すよう求めたところ,原告と被告との間の使用関係が期限の定めのない転貸借契約であるとすれば,上記求めは,転貸借関係の解約を申し入れたものといえる。したがって,上記転貸借契約は,借地借家法27条1項により,同日の経過をもって終了した。 イ借地借家法28条は,上記解約申入れにつき,正当事由を要すると規定するところ,原告がUR都市機構に対し,本件賃貸借契約の期間延長を申し入れなかった理由は,以下のとおりであって,原告の解約申入れには,正当事由がある。 借上公営住宅の目的と現状の乖離 借上公営住宅は,緊急的な住宅供給措置として導入されたが,本件震災から20年が経過し,被災者世帯の入居率が約36%と低下している現状に鑑みれば,その役割を終えており,当初の意図に沿って順次廃止する必要がある。 急的な住宅供給措置として導入されたが,本件震災から20年が経過し,被災者世帯の入居率が約36%と低下している現状に鑑みれば,その役割を終えており,当初の意図に沿って順次廃止する必要がある。 原告の財政状況等 借上公営住宅の場合は,一般の公営住宅(国からの補助金もあって,一定期間後は,建設費が償還でき,以降収益も黒字化する。)と異なり,借上料と入居者からの使用料との差額を市民全体の負担で補い続けなければならず,原告の財政負担となっている。 代償措置 原告は,法32条1項6号に基づき明渡しを求められる入居者に対し, 以下の点を約束しており,その利益の保護を図っている。 a 要介護3以上,重度障害者,85歳以上の者がいる世帯は,入居継続を認める。 b 希望する市営住宅等への住み替えを予約できることとし,予約した市営住宅等が確保できるまで,最長5年移転を猶予する(以下,同制度を 「完全予約制」という。)。 c 住み替えた75歳以上の高齢者のみの世帯を対象に見回りサービスを実施する。 d 移転に当たっては,移転料を支払う。 ウ被告の建物利用の必要性について,個別事情を考慮して判断することは, 不公平な結論となのような客観的基準によらざるを得ない。被告は,様々な事情を主張するが,本件借上住宅の約200m南に移転先の候補住宅があり,通院や買い物が困難になることはないし,コミュニティーが損なわれることもない。 エ原告は,借上公営住宅の入居者に対し,当該住宅が恒久的なものであると の説明はしていないし,当初からそのように考えていたということもない。 (被告の主張)ア原告には,本件居室の使用を必要とする事情が存在しない。原告の主張する財政上の理由等は,借地借家法28条所定の正当事由 いないし,当初からそのように考えていたということもない。 (被告の主張)ア原告には,本件居室の使用を必要とする事情が存在しない。原告の主張する財政上の理由等は,借地借家法28条所定の正当事由とはいえない。 イ被告は,他の直接建設方式の公営住宅と同様,恒久的に利用することがで きる公営住宅であると信じて本件居室に入居したのであり,当時の原告の「市営住宅入居のしおり」等にも20年間で明け渡す必要があるとの記載はなく,原告の職員もそのような説明をしなかった。 ところが,原告は,平成22年6月に「第2次市営住宅マネジメント計画」を策定して,借上期間満了後に建物所有者に建物を返還し,突如として明渡 しを求める方針に転換したのであって,このような経緯に照らせば,原告に は,転貸借契約を解約申入れする正当事由がない。 ウ被告は,平成21年に乳がんに罹患し,現在でも通院が必要であり,また,平成23年10月には,難病指定されている頚椎後縦靭帯骨化症に罹患し,左上腕部の痺れや歩行障害もある。 エ被告は,前記ウの持病のため,通院が必要なほか,かかりつけ医も本件借 上住宅から徒歩圏内に存在している。また,被告は,近くに居住する妹から家事の手伝いなどの介助を受けている。その他にも,本件居室に知人が訪ねてくることもある。 このように,被告は,本件借上住宅の周辺で20年にわたり生活基盤やコミュニティーを形成してきたのであり,住み慣れた本件居室からの転居は, これらを破壊するばかりでなく,持病による歩行障害に伴う転倒などの健康被害を生じさせるおそれもある。 オ原告が代償措置として掲げる完全予約制は,同制度に申込みをしなければ,公営住宅への入居資格を喪失すると説明して,「期間の定めのない賃借権」を有する入居者か 健康被害を生じさせるおそれもある。 オ原告が代償措置として掲げる完全予約制は,同制度に申込みをしなければ,公営住宅への入居資格を喪失すると説明して,「期間の定めのない賃借権」を有する入居者からこれをはく奪する「転居あっせん」制度である。また, 原告が本件借上住宅近くの公営住宅に入居できるかのように主張するが,完全予約制の下においては,複数の転居先の選択を求められ,単一の転居先のみを選択することはできない。 また,見回りサービスについては,高齢者福祉政策の一環にすぎず,代償措置との評価を受けるものではない。 ⑹ 争点6(原告の本件各請求が禁反言の法理に反し,又は権利濫用に当たり許されないか。)(被告の主張)ア本件各請求が禁反言の法理に反すること原告は,前記⑸(被告の主張)イのとおり,被告の入居時には,恒久的な 利用を前提とする入居事業政策をとっていた。また,被告は,原告が本件借 上住宅の募集を一般市営住宅と同一の案内書で行い,原告職員から借上公営住宅が一般市営住宅と異なることや退去時期の説明もなかったことから,本件借上住宅が終身居住可能な恒久住宅であると認識して入居した。ところが,原告は,財政状況等を理由に上記政策を転換し,市営住宅の戸数削減と所有者への返還を実施したのである。 このように,原告は,本件借上住宅について恒久的な利用を前提とする政策をとっており,同政策の下で本件借上住宅の募集をしたため,当然ながら退去時期の説明等もなく,被告に終身入居可能なものと認識させて本件居室に入居させたにもかかわらず,上記のような政策転換をして,被告に対して本件各請求をすることは,禁反言の法理(民法1条2項)に反して許されな い。 イ本件各請求が権利濫用に当たること前記⑸( させたにもかかわらず,上記のような政策転換をして,被告に対して本件各請求をすることは,禁反言の法理(民法1条2項)に反して許されな い。 イ本件各請求が権利濫用に当たること前記⑸(被告の主張)で主張したとおり,原告には,建物利用の必要性が全く存在しない一方で,歩行障害等を有し,また長年にわたり本件借上住宅においてコミュニティーを形成してきた被告が,本件居室に継続入居する必 要性は極めて高いのであって,原告の本件各請求は,権利濫用(民法1条3項)に当たり,許されない。 (原告の主張)ア本件各請求が禁反言の法理に反しないこと原告は,前記⑸(原告の主張)エのとおり,当初から本件居室を被告の恒 久住居とは扱っていないし,そのような説明もしていない。また,原告が政策転換をしたというのも被告の邪推というほかない。原告とUR都市機構との間の本件賃貸借契約の契約内容は,借上期間が20年で,更新の合意がされない限り契約を更新しないとの約定であった以上,原告は,当初から借上期間満了後に借上公営住宅の明渡しを求める意思を有していたことは明ら かであり,本件各請求が禁反言の法理に反することはない。 イ本件各請求が権利濫用に当たらないこと前記⑸(原告の主張)アないしエの事情に照らせば,原告の本件各請求は,権利濫用に当たらない。 ⑺ 争点7(原告の本件各請求が社会権規約11条及び12条に反するか。)(被告の主張) ア条約締約国は,これを誠実に履行する義務があり(条約法に関するウィーン条約26条),原告は地方公共団体として,締約国政府が負う上記義務を分有しており,社会権規約11条1項及び社会権規約委員会の一般的意見4に基づき,適切な居住の権利の重要な構成要素である「占有継続の法的保障」 条),原告は地方公共団体として,締約国政府が負う上記義務を分有しており,社会権規約11条1項及び社会権規約委員会の一般的意見4に基づき,適切な居住の権利の重要な構成要素である「占有継続の法的保障」を尊重する義務がある。 しかるところ,原告の本件各請求は,上記義務に違反するものであり,裁判所は,社会権規約2条1項に基づき,即時に実現可能な司法措置(請求棄却判決)をとらなければならない。 イまた,原告の本件各請求は,被告の健康状態の確認すら行わず,画一的な基準で被告から現在の生活を奪い,意に反する転居を強いるものであり,被 告の健康悪化をもたらすリスクが非常に高く,社会権規約12条1項が規定する「到達可能な最高水準の身体及び精神の健康を享受する権利」を侵害するものである。 (原告の主張)社会権規約11条1項は,条約締約国において,社会保障についての権利が 国の社会保障政策により保護されるに値するものであることを確認し,この権利の実現に向けて積極的に社会保障政策を推進すべき政治的責任を負うことを宣明したものにすぎず,個人に対し即時に具体的権利を付与すべきことを定めたものではない(最高裁判所昭和60年(行ツ)第92号平成元年3月2日第一小法廷判決・集民156号271頁参照)。 また,以上のような社会権規約11条の性質に照らせば,被告が援用する一 般的意見が法的拘束力を有しないことはいうまでもない。 したがって,社会権規約及び一般的意見が直接国内において規範的効力を有することを前提とした被告の主張は,失当である。 ⑻ 争点8(原告の本件各請求が憲法13条及び25条に反するか。)(被告の主張) 前記⑺(被告の主張)イのとおり,本件各請求は,被告の健康状態の確認も行わずに,強制 主張は,失当である。 ⑻ 争点8(原告の本件各請求が憲法13条及び25条に反するか。)(被告の主張) 前記⑺(被告の主張)イのとおり,本件各請求は,被告の健康状態の確認も行わずに,強制退去を求めるものであり,社会権規約12条1項の健康権を侵害するものであるが,このような権利は,憲法上,人格権(憲法13条)若しくは生存権(同法25条1項)として保障されるものであるから,原告の本件各請求は,憲法13条及び25条に反し,許されない。 (原告の主張)被告の上記主張は争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点2(法25条2項所定の通知は,法32条1項6号に基づく明渡請求の要件といえるか。)について 以下では,借上公営住宅の明渡しの場面における法律関係等を整理し(後記⑴ないし⑶),これを踏まえて,法25条2項所定の通知が法32条1項6号に基づく明渡請求の要件であるかどうかを検討する(同⑷)。 ⑴ 公営住宅の使用関係についての規律法は,国及び地方公共団体が協力して,健康で文化的な生活を営むに足 りる住宅を整備し,これを住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸することにより,国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与することを目的とするものであって(法1条),この法律によって整備された公営住宅の使用関係については,管理に関する規定を設け,家賃の決定,家賃の徴収猶予,修繕の義務,入居者の募集方法,入居者資格,入居者の選考, 入居者の保管義務,収入超過者に対する措置,明渡し等について規定し(法 第三章),また,法による委任(法48条)に基づいて制定された条例も,入居者資格,申込手続,入居者選考,入居者の手続,入居許可及び取消し,家賃の変更,明渡し等について具体的な定めをしているところである 三章),また,法による委任(法48条)に基づいて制定された条例も,入居者資格,申込手続,入居者選考,入居者の手続,入居許可及び取消し,家賃の変更,明渡し等について具体的な定めをしているところである(本件条例5条ないし52条の2)。このような法及び条例の規定によれば,公営住宅の使用関係には,公の営造物の利用関係として公法的な一面がある ことは否定し得ないところであって,入居者の募集は公募の方法によるべきこと(法22条),入居者は一定の条件を具備した者でなければならないこと(法23条),事業主体の長は入居者を一定の基準に従い公正な方法で選考すべきこと(法25条)などが定められており,また,特定の者が公営住宅に入居するためには,事業主体の長から使用許可を受けなければな らない旨定められているのであるが(本件条例19条等),他方,入居者が上記使用許可を受けて事業主体と入居者との間に公営住宅の使用関係が設定された後においては,上記のような法及び本件条例による規制はあっても,事業主体と入居者との間の法律関係は,基本的には私人間の家屋賃貸借関係と異なるところはなく,このことは,法が賃貸(法1条,2条),家 賃(法1条,16条ないし19条等)等私法上の賃貸借関係に通常用いられる用語を使用して公営住宅の使用関係を律していることからも明らかである。 したがって,公営住宅の使用関係については,法及びこれに基づく条例が特別法として民法及び借地借家法に優先して適用されるが,法及び条例 に特別の定めがない限り,原則として一般法である民法及び借地借家法の適用があるものと解すべきである(最高裁判所昭和57年(オ)第1011号同59年12月13日第一小法廷判決・民集38巻12号1411頁参照)。 ⑵ 借上公営住宅についての法の定め 地借家法の適用があるものと解すべきである(最高裁判所昭和57年(オ)第1011号同59年12月13日第一小法廷判決・民集38巻12号1411頁参照)。 ⑵ 借上公営住宅についての法の定め ア法は,国及び地方公共団体が協力して,健康で文化的な生活を営むに 足りる住宅を整備し,これを住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸し,又は転貸することにより,国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与することを目的とするものである(法1条)。 イ上記アの目的を達成するため,地方公共団体は,常にその区域内の住宅事情に留意し,低額所得者の住宅不足を緩和するため必要があると認 めるときは,公営住宅の供給を行わなければならない(法3条)のであるが,事業主体(地方公共団体)は,自ら建設し又は買取りをする(法2条3号ないし5号)ほか,公営住宅の借上げ,すなわち,他の者から住宅及びその附帯施設を賃借し,これを公営住宅として低額所得者に転貸するという形態で公営住宅の供給を行うことができる(同条6号ない し8号)。 国は,事業主体(地方公共団体)が災害により滅失した住宅に居住していた低額所得者に転貸するため借上げをした場合において,当該公営住宅の管理の開始の日から5年以上20年以内で政令で定める期間,地方公共団体に対し,当該公営住宅の近傍同種の住宅の家賃の額から入居 者負担基準額を控除した額に3分の2を乗じて得た額を補助する(法17条2項)。 ウ事業主体の長は,借上公営住宅の入居者を決定したときは,当該入居者に対し,当該公営住宅の借上期間の満了時に当該公営住宅を明け渡さなければならない旨を通知しなければならない(法25条2項)。 エ事業主体は,公営住宅の借上期間が満了する場合においては,入居者に対し, 公営住宅の借上期間の満了時に当該公営住宅を明け渡さなければならない旨を通知しなければならない(法25条2項)。 エ事業主体は,公営住宅の借上期間が満了する場合においては,入居者に対し,公営住宅の明渡しを請求することができる(法32条1項6号)が,この請求を行う場合には,当該請求を行う日の6月前までに,当該入居者にその旨の通知をしなければならず(同条5項),また,当該公営住宅の賃貸人に代わって,入居者に借地借家法34条1項の通知をする ことができる(法32条6項)。当該入居者は,上記請求を受けたときは, 速やかに当該公営住宅を明け渡さなければならない(同条2項)。 オ事業主体は,公営住宅の借上げに係る契約が終了する場合においては,公募の方法によることなく,当該公営住宅の入居者を他の公営住宅に入居させることができる(法22条1項)。さらに,当該公営住宅の明渡しをしようとする入居者が,当該明渡しに伴い他の公営住宅に入居の申込 みをした場合においては,その者は,法23条所定の条件(入居者資格)を具備する者とみなされる(法24条1項)。 ⑶ 借上公営住宅の明渡しをめぐる法律関係ア前記⑴で説示のとおり,公営住宅の使用関係については,原則として民法及び借地借家法が適用されるところ,借上公営住宅の使用関係は, 所有者と事業主体との間の原賃貸借契約及び事業主体と入居者との間の転貸借契約から構成されるということができ,事業者と入居者との間の使用関係には,法及び条例に特別の定めがない限り,民法及び借地借家法が適用され,転貸借契約の一般法理が妥当することとなる。 そこで,原賃貸借契約の終了と転貸借契約の明渡しに関する一般法理 についてみると,期間の定めのある賃貸借契約については更新拒絶又は解約申入れのな ,転貸借契約の一般法理が妥当することとなる。 そこで,原賃貸借契約の終了と転貸借契約の明渡しに関する一般法理 についてみると,期間の定めのある賃貸借契約については更新拒絶又は解約申入れのない限り,従前の契約と同一の条件で更新される(借地借家法26条)ところ,原賃貸借契約が賃貸人による更新拒絶又は解約申入れによって終了する場合には,賃貸人は,借地借家法28条所定の正当事由を具備した上で,転借人に対し,同法34条1項所定の通知をし なければ,原賃貸借契約の終了を対抗することができない(なお,賃借人からの原賃貸借契約の更新拒絶又は解約申入れについては,上記各条項の規定文言及び借地借家法の趣旨・目的に照らし,これらの規定の適用はない。)。そして,原賃貸借契約が終了した場合の転貸借契約の帰すうについては,賃貸人が転借人に対して原賃貸借契約の終了を対抗でき ない場合を除き,原則として,賃貸人が転借人に対して目的物の建物の 返還を請求した時に,転貸人の転借人に対する債務の履行不能により終了するものと解される(最高裁判所平成6年(オ)第456号同9年2月25日第三小法廷判決・民集第51巻2号398頁参照)。 イこれに対し,法は,借上公営住宅の明渡しについて,借上期間満了を事業主体(地方公共団体)の入居者に対する明渡請求事由とし,事業主 体が,入居者に対し,使用関係(転貸借契約)が終了する旨の通知(借地借家法34条1項に基づき賃貸人が行う通知及び法32条5項所定の6か月前の通知)及び当該住宅の明渡しの請求を行うことを定める(前記⑵エ)とともに,借上期間満了によって借上公営住宅の入居者が公営住宅を明け渡そうとする際には,入居条件を具備するものとみなし,更 に公募の方法によらずに他の公営住宅に入居できることを定 (前記⑵エ)とともに,借上期間満了によって借上公営住宅の入居者が公営住宅を明け渡そうとする際には,入居条件を具備するものとみなし,更 に公募の方法によらずに他の公営住宅に入居できることを定めている(同オ)。これらの規定は,建物所有者が,借上期間満了後に,確実かつ円滑に建物の返還を受けられるようにし,ひいては他の建物の所有者が公営住宅の借上げに参画することに躊躇しないよう配慮し,もって円滑な公営住宅の供給を図る趣旨と解される。 すなわち,前記アの民法及び借地借家法の適用における一般法理によれば,ⅰ 賃貸人は,借地借家法28条所定の正当事由がある更新拒絶又は解約申入れをしなければ,原賃貸借契約を終了させることができず,また,ⅱ 転貸人が転借人に対して明渡しを請求するなどの法的手段を講ずることができるのは,転貸借契約が履行不能により終了した後とな るため,それまでの間は,転貸人が賃貸人への建物返還のための積極的な手続を行う法的手段を有しないこととなるところ,同法理をそのまま借上公営住宅の使用関係に適用することにした場合は,転借人(入居者)の中には,他の適切な移転先がないことなどを理由として,賃貸人(建物所有者)からの返還の求めに応じない者が相当数生じ,賃貸人(建物 所有者)が確実かつ円滑に建物の返還を受けることができなくなる可能 性があるとの懸念が生じる結果,借上公営住宅としての活用を希望する建物所有者が減り,借上げによる公営住宅の供給に支障を来すおそれがある。そこで,法は,① 事業主体が,借上期間満了の6か月前に,当該期間満了後に当該公営住宅の明渡しをしなければならない旨を通知する義務を負うとともに,借地借家法上賃貸人が行わなければならない通知 を代わりに行うことができることとし(前記⑵エ) か月前に,当該期間満了後に当該公営住宅の明渡しをしなければならない旨を通知する義務を負うとともに,借地借家法上賃貸人が行わなければならない通知 を代わりに行うことができることとし(前記⑵エ),② 事業主体から借上期間満了を理由に当該公営住宅の明渡しを請求されたときは,入居者は,速やかにこれを明け渡さなければならず(同),③ 事業主体は,当該入居者のうち,他の公営住宅への入居を希望する者については,入居条件を具備するものとみなし,公募の方法によらずに,他の公営住宅に 入居させなければならないこと(同オ)を定め,公営住宅の事業主体の責務において,建物所有者が借上期間満了時に確実かつ円滑な建物の返還を受けられるような仕組みを構築したものと解される。このように,法は,建物所有者が公営住宅の借上げに参画することに躊躇しないよう配慮することで,事業主体が用地を新たに取得し,直接建築して公営住 宅を供給する方式と異なり,本件震災のような未曽有の事態が生じた際などに,機動的に住宅を確保することを可能とする借上げ方式による公営住宅の供給制度の積極的な運用を促進し,もって多様な方式による公営住宅の円滑な供給の実現を図っているものと解される。 以上のような法の借上公営住宅の明渡請求制度の趣旨に照らせば,法 の借上期間満了による明渡請求及びこれに関連する規定については,前記アの民法及び借地借家法並びにこれに関する一般法理に優先して適用されると解すべきである。 ウ他方で,法は,借上公営住宅の入居者に対し,借上期間が満了する前に明渡しを余儀なくされることを予め通知しておく旨の規定を設けてい る(前記⑵ウ)。この規定の趣旨は,前記イのとおり,借上公営住宅につ いては,事業主体が保有する他の公営住宅とは異なり,入居 を余儀なくされることを予め通知しておく旨の規定を設けてい る(前記⑵ウ)。この規定の趣旨は,前記イのとおり,借上公営住宅につ いては,事業主体が保有する他の公営住宅とは異なり,入居者は,借上期間満了時に公営住宅を退去しなければならないことから,その退去時期を予測できるよう入居者に配慮するものであると解される。 なお,法25条2項が「入居者を決定したとき」と規定しているところ,法令の用語法として「とき」とは,時又は時点ではなく,場合を意味 すると解されることに照らせば,法25条2項所定の通知が,本件入居許可決定時にされる必要はなく,法は,同通知によって入居者に入居するかどうかの選択の機会を付与することまでは想定していないものと解すべきである。 ⑷ 法25条2項所定の通知が法32条1項6号に基づく明渡請求の要件で あるかについてア以上を踏まえて,法25条2項所定の通知が法32条1項6号に基づく明渡請求の要件であるかについて検討する。 まず,法32条は,借上期間の満了による明渡請求に関し,文言上,同条2項において,入居者が借上期間の満了による明渡請求を受けた ときは,速やかに明渡しをする必要があることを定めるほか,同条5項において借上期間満了の6か月前までに明渡しの請求をする旨の通知をしなければならないことを定めているにすぎず,法25条2項所定の通知がなされていることが必要である旨の定めは置かれていない。 また,附則において,法25条2項に関する経過措置の規定を設け ておらず(なお,同居の承認に関する規定については,新法の規定によって承認を受けたものとみなす旨の経過措置規定が定められている〔附則9項〕。),このことからすれば,立法者は,法25条2項所定の通知が法32条1項6号に基づく明渡 する規定については,新法の規定によって承認を受けたものとみなす旨の経過措置規定が定められている〔附則9項〕。),このことからすれば,立法者は,法25条2項所定の通知が法32条1項6号に基づく明渡請求のために必要な要件になるということを想定していなかったことがうかがわれる。 他方で,法32条1項6号の趣旨をみても,同号の趣旨は前記⑶イ で説示のとおり,借上期間満了時における入居者からの建物返還の確保という建物所有者の保護にあるところ,法25条2項所定の通知の趣旨は,前記⑶ウで説示のとおり,入居者が,借上公営住宅への入居段階において,その退去時期を予測できるよう配慮するというものであり,法32条1項6号とは別個の趣旨から設けられた規定であって, その前提要件とは解釈し難い。また,法25条2項所定の通知は,事業主体において実施すべきであるところ,同条項所定の通知を法32条1項6号に基づく明渡請求の要件と捉え,同義務の懈怠があった場合に,事業主体による明渡請求を一切認めないとの解釈をとることは,上記のとおりの法32条1項6号及びこれに関連する規定の趣旨に反 することにもなりかねない。 これらのことに加え,法の目的は,「健康で文化的な生活を営むに足りる住宅を整備し,これを住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸し,又は転貸することにより,国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与すること」にある(法1条)ところ,借上期間満了におけ る明渡しの場面においては,転居のための準備期間を確保し,転居先の確保が容易となるよう配慮すれば,上記目的の下における入居者への保護は十分に図られていると評価することができる。そして,法は,事業主体に対し,借上期間満了の6か月前までに入居者に対する通知をすることを義務付け なるよう配慮すれば,上記目的の下における入居者への保護は十分に図られていると評価することができる。そして,法は,事業主体に対し,借上期間満了の6か月前までに入居者に対する通知をすることを義務付けて明渡しまでの準備期間を確保するとともに (法32条5項),借上公営住宅を明け渡した入居者に対しては,公募の方法によることなく他の公営住宅へ入居することができるようにし(法22条,24条),転居先の確保を容易にしているところである。 そうすると,上記目的の達成という観点からは,法25条2項所定の通知にこれを借上期間満了による明渡請求の要件と解釈しなければな らないような独自の役割を担わせる必要があるとまでは評価し難い。 以上のとおり,法25条2項の規定の文理及び趣旨を斟酌しても,法32条1項6号に基づく明渡請求の要件と解することはできない。 イこれに対し,被告は,ⅰ 定期建物賃貸借契約における説明書面の交付(借地借家法38条2項)との比較や,ⅱ 法25条2項所定の通知は,法32条1項6号の規定が借地借家法28条の規定を排除すること の合理性を担保するものであるとの立法担当者の説明などから,法25条2項所定の通知が法32条1項6号に基づく明渡請求の要件であると主張する。 そこで,被告の上記ⅰの主張について検討すると,① 借地借家法上,定期建物賃貸借契約において契約の更新がないことを記載した説 明書面(借地借家法38条2項)を交付して説明をしなかった場合には,契約の更新がない旨の定めが無効であることが明記されている(同条3項)のに対し,法は,そのような明文の規定を設けておらず,立法者としては,法25条2項所定の通知を懈怠した場合の効果として,法32条1項6号に基づく明渡請求をすることができないものとする る(同条3項)のに対し,法は,そのような明文の規定を設けておらず,立法者としては,法25条2項所定の通知を懈怠した場合の効果として,法32条1項6号に基づく明渡請求をすることができないものとする ことまでは想定していなかったことがうかがわれる。また,② 契約の更新がないこととする旨の定めが可能な定期建物賃貸借契約は,正当事由制度によって借家権の存続が保障されていることによって借家の供給が阻害されている側面があることに着目し,その供給を促進する見地から立法化されたことから,その契約期間については,a 通 常でも数年程度と短いことが予定されているだけでなく,b 1年未満のものも是認され,その場合は,期間満了前に期間満了によって賃貸借が終了する旨の通知をしなくても期間満了による建物の明渡しを請求し得ることから(借地借家法38条4項参照),契約の更新がない旨を説明しなかった場合に,一律に,契約の更新がされることとして, 直ちに明渡しを求めることができないという効果を生じさせることに よって借家人の保護を図ったものと解される。これに対し,借上公営住宅では,比較的長期間の契約期間(本件では,当時の民法の賃貸借契約の上限期間である20年である。)が予定されており,借上期間満了による明渡請求についての説明がなかった場合に一律に明渡請求を否定しなくても,居住者の利益が著しく損なわれるわけではない。 以上によれば,被告の上記ⅰの主張は,採用することができない。 次に,被告の上記ⅱの主張について検討する。確かに,平成8年改正の立法担当者執筆の文献(乙1,74)によれば,法32条1項6号の明渡請求において,借地借家法28条の適用がないことの合理性は,入居者への保護規定(法22条,24条,25条2項及び32条 年改正の立法担当者執筆の文献(乙1,74)によれば,法32条1項6号の明渡請求において,借地借家法28条の適用がないことの合理性は,入居者への保護規定(法22条,24条,25条2項及び32条 5項)で担保されている旨の記載がある。 しかしながら,入居者保護のための上記各規定が,法32条1項6号に基づく明渡請求について借地借家法28条の適用を排除することの合理性を担保する意味合いを持つことと,上記各規定が法32条1項6号に基づく明渡しの前提要件となること(換言すれば,上記各規 定に違反した場合に,同号に基づく明渡請求を認めないとの効果を生じさせること)とは,直ちに結びつくとはいえない。例えば,法が,地方自治法上,その事務処理において法令遵守義務を課されている(地方自治法2条16項)地方公共団体(事業主体)に対し,法的義務を課すことそれ自体をもって,その合理性を担保していると理解するこ とも十分可能である。 ところで,上記文献において,法25条2項と並んで入居者保護規定と整理されている法32条5項所定の通知は,明文上,同条1項6号に基づく明渡請求の要件とされている。もっとも,同条5項は,借上期間満了時に公営住宅を退去する入居者に対し,転居のための準備 期間を確保し,転居先の確保を容易にすることを通じて入居者を保護 する趣旨の規定と解されるところ,前説示のとおりの法の目的を実現するためには,こうした通知を要求することが必要不可欠なものと評価でき,法は,このような観点から,同条5項所定の通知を同条1項6号に基づく明渡請求の明文の要件と定めたものと解される。他方で,法25条2項所定の通知は,前説示のとおり,入居者に退去時期を予 測させて,心積もりをさせる趣旨で要請されるものであり,転居先の確 号に基づく明渡請求の明文の要件と定めたものと解される。他方で,法25条2項所定の通知は,前説示のとおり,入居者に退去時期を予 測させて,心積もりをさせる趣旨で要請されるものであり,転居先の確保に直接資するものではないから,法32条5項所定の通知が要件となっていることと平仄を併せる必要性があるとまではいえない。 以上によれば,被告の上記ⅱの主張についても採用することができない。 その他,被告が主張する点についても,前説示のとおりの法32条1項6号及び法25条2項の解釈とは異なるものであって,いずれも採用することができない。 ⑸ 小括したがって,借上公営住宅の事業主体は,使用許可に当たって法25条 2項所定の通知をしていなかったとしても,法32条1項6号に基づく明渡請求を行うことができる。 2 争点3(原告が法32条1項6号等に基づいて明渡しを請求できるか〔法32条1項6号を限定解釈すべきか。〕。)について被告は,借上公営住宅において,建物所有者が建物利用の必要性に基づく明渡 しを請求する場面(本来型)と事業主体が自らの事情で原賃貸借契約の更新を拒絶し又は解約を申し入れる場面(転用型)とを区別し,後者については,事業主体が借地借家法28条に基づき転貸借契約を更新拒絶又は解約申入れできる場合に限り許容される旨主張する。 しかしながら,法は,被告の主張するような本来型と転用型との区別をしてい ない。また,被告の主張する転用型とは,事業主体が自らの事情で原賃貸借契約 の更新拒絶又は解約申入れをする場合で,建物所有者がこれを望まない場合を想定しているものと解される(建物所有者もこれを望む場合においては,本来型との間で利益状況に異なるところはない。)ところ,前記前提事実のとおり,本件賃貸 る場合で,建物所有者がこれを望まない場合を想定しているものと解される(建物所有者もこれを望む場合においては,本来型との間で利益状況に異なるところはない。)ところ,前記前提事実のとおり,本件賃貸借契約においては,UR都市機構又は原告の申出により,協議の上,借上期間を1回に限り延長することができる旨定められており,UR都市機 構から延長の申出はなく,上記期間までに延長合意がされなかったことからすれば,UR都市機構においても,借上期間満了による原賃貸借契約の終了(自ら建物利用すること)を希望していたことが推認される。その他,本件全証拠をもってしても,本件借上住宅の所有者であるUR都市機構において,借上期間満了後における建物利用の必要性がなく,借上期間満了による原賃貸借契約の終了や同 期間満了後に本件借上住宅の返還を受けることを希望していなかったと認めるに足りない。 そうすると,被告の上記主張は,建物所有者であるUR都市機構に建物利用の必要性がないとの前提を欠いており,採用することができない。 3 争点1(原告と被告との間の使用関係に新法が適用されるか。)について ⑴ 附則の経過措置の定めア新法は平成8年8月30日(附則1項に基づく平成8年8月政令247号)から施行する。ただし,附則5項の規定は,平成10年4月1日から施行する。 イ旧法に基づき供給された公営住宅については,平成10年4月1日から新 法の規定が適用される(ただし,旧法から実質的な改正がない新法の規定については,経過措置を設ける必要がなく,附則1項により平成8年8月30日から適用される。)が,家賃の補助については,新法を適用しない(附則3項,4項)。 ウ平成8年8月30日の時点において,地方公共団体が低額所得者に賃貸又 は転貸をす より平成8年8月30日から適用される。)が,家賃の補助については,新法を適用しない(附則3項,4項)。 ウ平成8年8月30日の時点において,地方公共団体が低額所得者に賃貸又 は転貸をするために買取り,借上げ又は管理している住宅で,国の補助を受 けており,入居者が旧法17条に定める要件(公営住宅の入居者資格要件)を満たさなければならない住宅については,新法の規定に基づいて供給された公営住宅とみなして,平成10年4月1日から新法の規定(7条から10条まで及び17条の規定を除く。)を適用する(附則1項,5項)。 エ新法7条から10条の規定(公営住宅の建設等及び借上げに係る公営住宅 の建設等に対する国の補助に関する規定)は,平成8年度以降の年度の予算に係る国の補助(平成7年度以前の年度の国庫債務負担行為に基づき平成8年度以降の年度に支出すべきものとされた国の補助を除く。)について適用し,平成7年度以前の年度の国庫債務負担行為に基づき平成8年度以降の年度に支出すべきものとされた国の補助及び平成7年度以前の年度の歳出予 算に係る国の補助で平成8年度以降の年度に繰り越されたものについては,なお従前の例による(附則2項)。 オ旧法に基づき供給された公営住宅及び附則5項の規定により新法に基づき供給された公営住宅とみなされる住宅について,新法16条1項本文又は4項に基づく家賃額が,旧法における家賃額(若しくは最終の家賃額)を超 える場合について,年度ごとに負担調整率を設けて,段階的に家賃を増額し,緩和措置を定める(附則7項,8項)。 カ平成10年4月1日において,旧法に基づき供給された公営住宅及び附則5項の規定により新法に基づき供給された公営住宅とみなされる住宅に地方公共団体の承認を得て同居し又は居住してい 7項,8項)。 カ平成10年4月1日において,旧法に基づき供給された公営住宅及び附則5項の規定により新法に基づき供給された公営住宅とみなされる住宅に地方公共団体の承認を得て同居し又は居住している者は,新法27条5項又は 6項の事業主体の同居又は居住の承認を受けたものとみなす(附則9項)。 キ平成10年4月1日以前に旧法の規定によってした請求,手続その他の行為は,新法の相当規定によってしたものとみなす(附則10項)。 ⑵ 附則5項の解釈についてア以上のとおり,附則は,新法の施行に係る経過措置として,① 公営住宅 の建設等及び借上げに係る公営住宅の建設等に対する国の補助に関する規 定については,平成8年度の予算成立日以降に補助金交付申請をする事業から新法が適用され,他方で,買取り・借上公営住宅については,新法の施行日である平成8年8月30日から補助金交付申請をする事業から新法が適用され,それ以前の事業に関しては,本件要綱に基づく特定借上・買取賃貸住宅制度等の他の制度として補助を行うことになる(前記⑴ア,イ,エ)が, ② その他の規定の適用に関しては,旧法に基づき供給された公営住宅については,附則3項によって(ただし,旧法から実質的な改正のない規定を除く。),平成8年8月30日時点で,本件要綱に基づく特定借上・買取賃貸住宅制度等に基づき既に供給されていた一定の要件を満たす住宅については,附則5項によってこれらの住宅が新法に基づき供給された住宅とみなされ て,それぞれ,平成10年4月1日以降,新法を適用することとしている(同イ,ウ)。 ところで,旧法における公営住宅は,「国の補助を受けて建設」する住宅と定義されており(旧法2条2号),買取りや借上げによる住宅供給の制度については,特定借上・ ることとしている(同イ,ウ)。 ところで,旧法における公営住宅は,「国の補助を受けて建設」する住宅と定義されており(旧法2条2号),買取りや借上げによる住宅供給の制度については,特定借上・買取賃貸住宅制度等の他の制度に基づき運用されてき たところであるが(甲13,14),新法においては,低額所得者に対し賃貸又は転貸をするために買取り又は借上げを行う住宅についても公営住宅と定義される(新法2条2号,4号,6号)こととなったものである。附則5項の規定は,上記のように,従前特定借上・買取賃貸住宅制度等の予算措置のみに基づき供給された住宅についても新法を適用することによって,低額 所得者に対する住宅供給の制度を公営住宅法の下に統一化し,もって事業主体の管理事務の効率化・簡素化を図っているものと解される。 以上のような新法及び附則の趣旨に照らせば,附則5項は,地方公共団体が低額所得者に賃貸又は転貸をするために買取り,借上げ又は管理している住宅で,国の補助を受けており,入居者が旧法17条の入居者資格要件を満 たさなければならない住宅については,平成10年4月1日以降,国の補助 に関する規定を除き,新法の各規定の適用があることを定めたものと解するのが相当である。 イこれに対し,被告は,附則5項は,新法の施行で導入された応納応益家賃制度及び高額所得者明渡制度等の家賃制度を特定借上住宅にも適用する目的で規定されたものであり,明渡しに係る規定を適用することを定め たものではないと主張する。 しかしながら,附則5項の文言上,その適用範囲について,法7条ないし10条及び17条のみを除外する旨が明確に規定されており,被告主張の解釈は規定文言と大きく乖離している上,本件借上住宅を含む特定借上住宅について新 則5項の文言上,その適用範囲について,法7条ないし10条及び17条のみを除外する旨が明確に規定されており,被告主張の解釈は規定文言と大きく乖離している上,本件借上住宅を含む特定借上住宅について新法の家賃制度のみを適用するとなると,家賃制度のみ公営 住宅法上の制度に統一化される一方,入居者の選定や賃貸管理等については,公営住宅法に基づく制度と特定借上・買取賃貸住宅制度とが併存することとなり,借上公営住宅の入居者間でも適用される法ないし要綱が異なる状況を生じさせ,入居者間の不公平(例えば,特定借上・買取賃貸住宅制度に基づき供給された住宅の入居者には,借上期間満了による退去に際 して,公募の方法によらずに他の公営住宅に入居できる権利の保障が受けられないこととなる。)や事業主体の管理事務の複雑化を招くこととなって妥当ではなく,前記アで説示の新法や附則の趣旨に反する。 また,被告は,附則5項のみ施行日が異なることを指摘し,被告の主張の解釈が正当であるとも主張するが,旧法の規定に基づき供給された公営 住宅についても,旧法から実質的な改正のない規定及び国からの補助金に係る規定を除き,平成10年4月1日から,家賃制度以外の規定も含めた新法が適用されるものとしていること(前記⑴イ)からすれば,附則5項のみ施行日が異なるとはいえないし,家賃制度についてのみ附則5項の施行日から新法が適用されることを想定しているものと解することもでき ない。 したがって,被告の上記主張は,採用することができない。 また,被告は,新法の適用によって,特定借上・買取賃貸住宅制度の下で保障されていた法律上の地位を著しく害されるから,何らの規定なくして,遡及適用を認めるべきでないとも主張する。 しかしながら,附則5項において,特定借上 用によって,特定借上・買取賃貸住宅制度の下で保障されていた法律上の地位を著しく害されるから,何らの規定なくして,遡及適用を認めるべきでないとも主張する。 しかしながら,附則5項において,特定借上・買取賃貸住宅制度の下で 供給された住宅について,新法の各規定の適用があることを定めていることは,前記アで説示のとおりであるところ,附則は法令であって,施行日,経過措置及び法令の改廃等,法令の主要事項に付随する必要事項を定めるものであることからすれば,附則5項の内容を本則で定める必要はないものと解される。このことを措くとしても,前説示のとおり,新法は,借上 期間満了の6か月前までに入居者に対して通知をすることを義務付けて明渡しまでの準備期間を確保するとともに(法32条5項),借上公営住宅の明渡しをしようとする入居者に対しては,公募の方法によることなく他の公営住宅へ入居することができるようにし(法22条,24条),転居先の確保を容易にするなどの措置を講じている上,新法によって導入され た応納応益家賃制度によって,従来の一律家賃よりも入居者負担が軽減される(少なくとも被告の場合,賃料負担額は,新法の適用によって,4万7000円〔甲3の①〕から1万0700円〔弁論の全趣旨〕に軽減されている。)。これらのことからすれば,新法の適用によって,特定借上・買取賃貸住宅制度の下で保障されていた被告の法律上の地位が著しく害さ れるということもできない。 したがって,被告の上記主張は,採用することができない。 ⑶ 原告と被告の間の使用関係に新法が適用されるかについて前記⑵で説示した解釈を前提に原告と被告の間の使用関係に新法が適用されるかについてみてみると,本件要綱(甲14)によれば,特定借上・買取賃 貸住宅制度は,住宅に困 法が適用されるかについて前記⑵で説示した解釈を前提に原告と被告の間の使用関係に新法が適用されるかについてみてみると,本件要綱(甲14)によれば,特定借上・買取賃 貸住宅制度は,住宅に困窮する低額所得者に対する賃貸住宅を供給するため, 地方公共団体が建物の借上げをして旧法17条に規定する入居者資格に該当する者を入居させ,国が地方公共団体に対して費用助成と家賃の減額に対する助成を行う制度であることが認められるところ(本件要綱の「第1 目的」,「第8 入居者資格」,「第15 建設費等補助」及び「第20 家賃対策補助」の定め),本件借上住宅は,新法施行前の平成8年1月30日に原告がUR都 市機構から借り上げて,本件要綱及び同要綱の下で改正された条例に基づき,市営住宅として供給されたものであり(前記前提事実⑵),原告は,同年3月1日,被告に対し,入居を許可したものである(同⑶)。そうすると,本件借上住宅は,地方公共団体が低額所得者に転貸をするために借り上げた住宅で,国の補助を受けており,入居者が旧法17条に定める要件(公営住宅の入居者資格 要件)を満たさなければならない住宅といえるから,附則5項によって,新法の規定に基づいて供給された公営住宅とみなされ,原告と被告の間の使用関係については,平成10年4月1日から,7条から10条まで及び17条の規定を除き,新法の規定が適用される。 4 争点6(原告の本件各請求が禁反言の法理に反し,又は権利濫用に当たり許さ れないか。)について⑴ 禁反言の法理についてア被告は,原告が当初,借上公営住宅について恒久的な利用を前提とする入居事業政策を想定しており,入居者にもそのように認識させていたのに,平成22年以降に突如として明渡しを求める方針に転換した旨主張し,神戸 は,原告が当初,借上公営住宅について恒久的な利用を前提とする入居事業政策を想定しており,入居者にもそのように認識させていたのに,平成22年以降に突如として明渡しを求める方針に転換した旨主張し,神戸市 すまい審議会平成21年度第2回安心な住生活部会議事録(乙30〔30,31頁のB住宅部長の発言部分〕)や原告元職員であるCの陳述書(乙55)によれば,原告が従前借上公営住宅への入居募集及び入居手続の際に,借上期間満了後に明渡義務が発生することについて,少なくとも強調して説明することはしていなかったようにもうかがわれるところである。 イしかしながら,前記前提事実⑵アによれば,本件賃貸借契約の契約内容 は,借上期間が20年であり,UR都市機構及び原告が合意すれば,借上期間を1回に限り延長することができるが,そうでない限りは,契約の更新がないことを前提としていたものであって,このような契約内容からすれば,原告が,本件賃貸借契約締結当時,本件借上住宅を借上期間満了後も更新し,借上公営住宅として供給することを想定していたとまでは認め 難く,むしろ,復興の進展による住宅状況の改善に応じて,20年後に契約を更新するのか,建物を返還するのかを再度検討することを想定していたとも評価できるのであって,ましてや,上記内容からすれば,契約期間は最長で40年であるから,終身居住させることを想定していたとは認められない。 確かに,原告は,平成22年6月に策定した「第2次市営住宅マネジメント計画」において,借上公営住宅を建物所有者に返還する方針を明らかにしたのであるが(甲17),これは,本件賃貸借契約締結当時に想定していた上記の選択肢のうち,借上公営住宅の返還を選択することを明示したものにすぎないのであって,原告が,平成22 還する方針を明らかにしたのであるが(甲17),これは,本件賃貸借契約締結当時に想定していた上記の選択肢のうち,借上公営住宅の返還を選択することを明示したものにすぎないのであって,原告が,平成22年に明渡しを求める方針に 転換したということはできない。 また,災害復興(賃貸)住宅入居申込案内書(甲30,乙66)によれば,原告は,本件借上住宅の入居者を募集する際の案内書において,契約期間について特段の説明が記載されていない「Ⅰ 一般市営住宅」として募集する市営住宅の一覧とは別に,「Ⅴ 公団借上市営住宅」の項目を設 け,「公団借上市営住宅とは,住宅・都市整備公団が建設した賃貸住宅を,20年間神戸市が借上げて入居者を募集するものです。借上期間中は,公団家賃と借上住宅家賃との差額を補助しますので,毎年,家賃補助を受けるための手続きが必要になります。」との説明を記載した上,その説明の下に本件借上住宅の募集情報を記載していたことが認められる。このよう な案内書の記載からすれば,原告は,20年間で本件賃貸借契約が終了す る場合もあることを想定していたことがうかがわれるし,借上期間満了後における家賃補助の継続をも約束するような説明をしていなかったことは明らかである(なお,本件賃貸借契約において,借上期間満了後にUR都市機構と入居者との間で賃貸借契約が締結されることは想定されてい。加えて,原告が被告に対し,終身居住可能だ という説明もしていなかったことは,被告本人が認めるところである(被告本人〔速記録【以下同じ。】12頁3行目から13頁4行目まで〕)。これらのことからすれば,原告が,借上期間満了時に明渡義務を負うことについて強調して説明していなかったとしても,このことによって,被告に法的に保護される期待や信頼を生 行目から13頁4行目まで〕)。これらのことからすれば,原告が,借上期間満了時に明渡義務を負うことについて強調して説明していなかったとしても,このことによって,被告に法的に保護される期待や信頼を生じさせたとまでは認められない。 以上のことに加えて,甚大な被害をもたらした本件震災が発生し,家を失い,仮設住宅等で暮らす市民に供給するための住宅の確保が急務とされ,かつ,将来の予測が著しく困難な状況の下で,原告が本件借上住宅の入居募集や入居手続を行わざるを得なかったことをも考慮すれば,原告が被告に対し借上期間満了時に明渡義務を負うことについて強調して説明しな かったことを,禁反言の原則に反するものであると評価することは困難である。 ウしたがって,原告が,被告の入居時において,本件借上住宅につき,恒久的な利用を前提とする入居事業政策をとっていたとは認められないし,入居者に対し,借上期間満了後も同一の賃料条件での継続入居が可能であるとか, 終身居住可能であるとの法的な期待や信頼を生じさせたとも認められない。 ⑵ 権利濫用についてア前記前提事実,証拠(後掲各証拠のほか,乙57,63,72,73,被告本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下のとおりの事実が認められる。 被告の生活状況について a 被告は,本件震災発生当時,51歳であり,神戸市a区の分譲マンシ ョンに居住していた。本件震災により同マンションは全壊となったが,被告は,継続して同マンションに居住していたところ,管理組合で同マンション建替の協議がされるようになり,元々のローン支払に加えて,建替費用の支払をすることは困難と考えて,自宅を売却し,本件借上住宅の入居者募集に応募して当選し,平成8年3月から本件居室に入居し た。 b 被告は,昭 ようになり,元々のローン支払に加えて,建替費用の支払をすることは困難と考えて,自宅を売却し,本件借上住宅の入居者募集に応募して当選し,平成8年3月から本件居室に入居し た。 b 被告は,昭和▲年生まれで現在75歳であり,本件居室に一人で居住している。 c 被告は,平成21年に乳がんに罹患し,更に平成23年には頚椎後縦靭帯骨化症に罹患して,それぞれ半年に1回,定期検査等のためにD病 院へ通院している(乙58,59)。また,被告は,頚椎後縦靭帯骨化症によって,上下肢に軽度の痺れの症状があるほか,下肢の運動機能については,平地でも支持が必要であり(乙58),普段から屋外では杖や買い物カートを使用して歩行している。もっとも,これらの症状によって要介護認定や重度障害認定は受けていない。 d 被告は,借上期間満了後の平成30年4月,E駅の上りエスカレーターに乗ろうとした際,転倒によって右手首を骨折し,その後は,本件借上住宅と同じ公団の住宅に住む妹から毎日朝晩に家事の援助を受けていたが,骨折以前は家事全般を自ら行っていた。 e 被告は,室内では杖等を使わずに歩行しているが,歩きやすいように 本件居室内の家具の配置を工夫している。 f 被告の皮膚科などの複数のかかりつけ医は,本件借上住宅の近隣に所在している。また,本件居室には,大阪府,神戸市h区,神戸市a 区iやj通からの知人が訪問してくることもある。 借上公営住宅の入居者に対する原告の対応について a 被告は,遅くとも平成25年12月頃には,借上住宅の協議会の会員 を通じて,原告が20年で本件居室からの退去を求める考えであることを認識した。また,原告の職員は,遅くとも平成26年の初め頃には,被告の自宅を訪問するなどして,本件居室を明け渡す必要 員 を通じて,原告が20年で本件居室からの退去を求める考えであることを認識した。また,原告の職員は,遅くとも平成26年の初め頃には,被告の自宅を訪問するなどして,本件居室を明け渡す必要があることを説明し,完全予約制への申込みを促した(乙57,被告本人〔13頁5行目から14頁7行目まで〕)。 b 原告は,借上期間満了によって借上公営住宅を明け渡した入居者に対して,市営住宅マネジメント計画に基づく実施計画の推進に関する要綱及び第2次市営住宅マネジメント計画の推進に関する要綱に基づき,移転料(基本額を30万円とし,移転先に応じて20万円から40万円とする。)を支払うこととしている(甲26,27)。 c 原告は,平成25年3月,有識者で構成される神戸市借上市営住宅懇談会の意見を踏まえ,借上期間満了後の借上公営住宅の入居者への対応に関し,以下のとおりの考え方を公表した(甲18,25)。 借上期間満了時において,要介護3以上の認定を受けた者,重度障害を持つ者及び85歳以上の者がいる世帯については,継続入居を認 める。 借上期間満了前に住替えを希望する住宅を予約できることとし,予約した住宅が確保できるまでの間,最長5年間移転を猶予する。 他の市営住宅への住替えをした75歳以上の高齢者のみの世帯を対象に見回りサービスを実施する。 d 原告は,本件借上住宅の半径1㎞圏内に,23の市営住宅(総管理数1406戸)を有しており,本件借上住宅から約200mの距離にもF住宅(管理数166戸)が存在する(甲28)。 e 原告の市営住宅は,床の段差解消,家具の転倒防止対策,住戸内廊下の幅員の確保,手すりや跨ぎの低い浴槽の設置等のバリアフリー対策が 講じられており,その水準は,本件借上住宅とほぼ同等のもので e 原告の市営住宅は,床の段差解消,家具の転倒防止対策,住戸内廊下の幅員の確保,手すりや跨ぎの低い浴槽の設置等のバリアフリー対策が 講じられており,その水準は,本件借上住宅とほぼ同等のものである(甲 22,弁論の全趣旨)。 f 完全予約制では,要介護認定や中度若しくは重度障害者に該当しない場合には,住替え先住宅として2団地(小規模団地等〔住宅戸数の少ない団地及び希望の重なることが見込まれる団地〕を含む場合には3団地)を申し込まなければならず,同予約制に申込み,原告があっせんした住 居については,特段の事情がない限り居住しなければならない(乙22,23)。 イまず,被告は,原告の本件各請求には,借地借家法28条所定の正当事由がなく,権利濫用であると主張するが,法32条1項6号に基づく明渡請求につき正当事由を要しないことは,前説示のとおりであるから,被告 の上記主張は,採用できない。 もっとも,被告は,現在75歳と高齢であり,主に頚椎後縦靭帯骨化症の症状として下肢の運動機能に障害が生じ,屋外を歩行する際には杖等の補助具を要することや,被告が20年にわたって本件居室に居住し,同所を中心として生活の基盤を形成してきたことは, である。これらのことからすれば,被告が,本件居室からの転居によって,一定の身体的及び精神的な負担を被ること自体は否定し難いところである。 1㎞圏内に多くの市営住宅を有しており,借上期間満了により退去する入 居者には,公募の方法によらずに他の公営住宅の入居を認めた上,住替えを希望する住宅に空きがない場合には,希望した住居に空きが出るまで明渡猶予期間を設けるなど,借上公営住宅の入居者における環境の変化を極力少なくし,その身体的及び精神的負担を軽減するための政策をとってい 望する住宅に空きがない場合には,希望した住居に空きが出るまで明渡猶予期間を設けるなど,借上公営住宅の入居者における環境の変化を極力少なくし,その身体的及び精神的負担を軽減するための政策をとっている(なお,規定文言及び法の趣旨・目的に照らしても,法22条,24条 が入居者に対し,その希望する特定の公営住宅への入居を保障するものと 解することはできず,完全予約制は,法22条,24条の内容を履践するものと評価できる。)。このような政策の下で転居をする場合,被告が本件借上住宅の近隣の公営住宅に入居できる可能性は高く,現在のかかりつけ医に継続して通院したり,知人と会ったりすることに大きな支障はないものといえ,現在の生活基盤やコミュニティーを維持することが可能である。 また,他の公営住宅の住戸内のバリアフリー対策も本件借上住宅とほぼ同等の仕様となっており,高齢者の居住にも十分な配慮がなされているということもできる。そして,原告が被告に対して本件居室を明け渡すことの説明をしかるべき時期に実施したことをも併せ考えれば,その他被告が提出する意見書等(乙26,28,42,43,47,48, 76,77)を考慮しても,本件居室からの転居による身体的及び精神的負担によって,被告が健康を害するおそれが高いとは認められない。 ウ以上のとおり,原告は,転居に伴う被告の身体的及び精神的負担に配慮しており,これによって,被告の上記負担は一定程度解消しているということができる。このことに加えて,前記⑴で認定,説示のとおり,被告に本件居 室への継続入居が保障されていたわけではなく,地方公共団体である原告において,復興の進展や他の市営住宅の状況を勘案し,他の市民との公平性や財政的観点(借上公営住宅の継続においては,建物所有者に支払う賃 への継続入居が保障されていたわけではなく,地方公共団体である原告において,復興の進展や他の市営住宅の状況を勘案し,他の市民との公平性や財政的観点(借上公営住宅の継続においては,建物所有者に支払う賃料と入居者から得る賃料との差額の負担が原告に伴い続けること等)をも考慮して,前認定,説示のような入居者への配慮の下,本件借上住宅の返還を実施する 政策を選択することには一定の合理性が認められることを踏まえれば,原告の本件各請求が権利濫用に当たると評価することはできない。 5 争点7(原告の本件各請求が社会権規約11条及び12条に反するか。)及び争点8(原告の本件各請求が憲法13条及び25条に反するか。)について⑴ 社会権規約違反について 被告は,社会権規約11条及び12条違反を理由に,原告の本件各請求は許 されない旨主張する。 しかしながら,社会権規約11条1項及び12条は,同2条1項において「この規約の各締約国は,立法措置その他のすべての適当な方法によりこの規約において認められる権利の完全な実現を漸進的に達成するため,自国における利用可能な手段を最大限に用いることにより,個々に又は国際的な援助及び協力, 特に,経済上及び技術上の援助及び協力を通じて,行動をとることを約束する。」旨規定しているところからも明らかなとおり,締約国において,すべての者が適切な居住の権利並びに身体的及び精神的権衡を享受する権利が国の社会政策によって保護されるに値するものであることを確認し,その権利の実現を達成するために積極的に社会政策を推進すべき政治的責任を負うことを宣明し たものにすぎず,締約国に属する国民に対し,即時に締約国に対する具体的権利を付与する効力を生じさせるような自力執行力(自動執行力)のある規定とは解し難 推進すべき政治的責任を負うことを宣明し たものにすぎず,締約国に属する国民に対し,即時に締約国に対する具体的権利を付与する効力を生じさせるような自力執行力(自動執行力)のある規定とは解し難い。また,このことからすれば,社会権規約11条1項を受けた社会権規約委員会の一般的意見4についても,法的拘束力を有するものとは解されない。 したがって,被告の上記主張は,その前提を欠くものとして,採用することができない。 ⑵ 憲法違反についてまた,被告は,社会権規約12条に具体的権利性が認められないとしても,同条で定められる健康権は,憲法13条及び25条を介して被告に保障されて おり,原告の本件各請求は,憲法13条及び25条に反し,違憲であるとも主張する。 しかしながら,本件居室からの転居により,被告の健康が害されるおそれが高いということはできないことは,前記4⑵で認定,説示のとおりであって,これに照らせば,本件各請求が憲法13条及び25条に反し,違憲である ということはできない。 したがって,被告の上記主張は,採用することができない。 6 まとめ以上によれば,原告は,法32条5項及び本件条例50条13項に基づき,被告に対し,借上期間満了日の6か月以上前に通知をすれば,法32条1項6号及び本件条例50条1項7号に基づき,借上期間満了をもって,被告に対し,本件 居室の明渡しを請求することができる。しかるところ,原告は,借上期間満了日である平成28年1月30日の6か月以上前である平成27年6月5日,被告に対し,法32条5項所定の通知をした(前記前提事実⑷イ)のであるから,本件賃貸借契約の借上期間満了日である平成28年1月30日の経過をもって,被告に対し,本件居室の明渡しを請求すること 5日,被告に対し,法32条5項所定の通知をした(前記前提事実⑷イ)のであるから,本件賃貸借契約の借上期間満了日である平成28年1月30日の経過をもって,被告に対し,本件居室の明渡しを請求することができるとともに,同月31日以降明 渡済みまでの賃料等相当損害金を請求することができる。 なお,本件条例30条2項を踏まえて平成28年1月31日から平成30年3月31日までの1か月10万2290円の割合による金員を計算(円未満切捨て)すると,266万2839円(計算式は,10万2290円×26か月+10万2290円×1/31)となる。 第4 結論以上の次第で,原告の本件各請求は,その余の争点(争点4及び5)につき判断するまでもなく,理由があるからいずれもこれを認容することとし,訴訟費用の負担につき,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 神戸地方裁判所第4民事部 裁判長裁判官和久田斉 裁判官奥野寿則 裁判官堀 優夏 別紙物件目録(省略)

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る