20む111,11520.4.9大阪地裁一部開示命令316条の15第1項8号 主文 検察官に対し,Aに係る平成19年4月27日までの取調べについての取調べ状況等報告書を,平成20年4月14日までに開示することを命じる。 その余の本件証拠開示命令請求を棄却する。 理由 第1本件請求の趣旨及び理由 本件請求の趣旨及び理由は,被告人甲の弁護人ら作成の平成20年1月25日付け「証拠開示命令請求書(その1)」,「同(その2)」,同年2月22日付け「証拠開示命令請求補充書(その1)」,同月26日付け「同(その2)」,同年3月12日付け「同(その3)」及び同月27日付け「同(その4)」(同月28日付け訂正書を含む。)記載のとおりである。 その要旨は,被告人甲の弁護人らは,被告人甲の供述調書には「任意にされたものでない疑」があり,被告人甲の供述調書についてはその任意性を争う旨の主張をする予定であることを具体的に明示し,その予定主張明示に関連するものとして,被告人甲についての取調べ内容等に関する取調べメモ(手控え),備忘録及び取調小票等を,刑事訴訟法316条の20第1項に基づき開示するよう求め,また,共同被告人B,同C,同D,A,E及びFの各供述調書にも「任意にされたものでない疑」があって,上記被告人B外5名の各供述調書についてはその特信性及び信用性を争う旨の主張をする予定であることを具体的に明示し,その予定主張明示に関連するものとして,上記被告人B外5名についての取調べ内容等に関する取調べメモ(手控え),備忘録及び取調小票等(以下,被告人甲に関するものと併せて「本件取調べメモ等」という。)並びにE,F及びAについての取調べ内容等に関する捜査報告書(以下「本件捜査報告書」という。)並びにAについての取調べ状況等報告書その他 ,被告人甲に関するものと併せて「本件取調べメモ等」という。)並びにE,F及びAについての取調べ内容等に関する捜査報告書(以下「本件捜査報告書」という。)並びにAについての取調べ状況等報告書その他の刑事訴訟法316条の15第1項8号に係る書面(以下「本件取調べ状況等報告書」という。)を,刑事訴訟法316条の20第1項に基づき開示するよう求めたところ,検察官は,これらを開示しないと告知したが,これは上記規定の解釈を誤ったものであるから,これらの証拠の開示を命じるように請求するというものである。 これに対して,検察官の意見は,平成20年2月12日付け検察官ら作成の「意見書」及び同年3月7日付け「同(追加)」記載のとおりである。 その要旨は,取調べ内容等に関する取調べメモ(手控え),備忘録及び取調小票等(以下,本件取調べメモ等とは別個にこれらを総称して「取調べメモ等」という。)は,専ら検察官が自ら使用するために作成した個人的なものであって,証拠開示命令の対象にはなり得ない,本件捜査報告書及び本件取調べ状況等報告書については,刑事訴訟法316条の17第1項所定の主張明示義務を尽くしていないというものである。 なお,検察官は,平成20年3月26日の第13回公判前整理手続期日において,当裁判所の求釈明に対し,本件取調べメモ等,本件捜査報告書は,公判前整理手続期日に出頭している検察官のみならず捜査を担当した検察官の下にも存在しない旨を釈明した。 第2本件取調べメモ等及び本件捜査報告書について 当裁判所は,平成20年3月14日の第12回公判前整理手続期日において,検察官に対し,弁護人らの証拠開示命令請求において対象とされている本件取調べメモ等が存在するか否かについて釈明するよう求めるとともに,同月17日,検察官に対し,刑事訴訟法316条の27第2項に て,検察官に対し,弁護人らの証拠開示命令請求において対象とされている本件取調べメモ等が存在するか否かについて釈明するよう求めるとともに,同月17日,検察官に対し,刑事訴訟法316条の27第2項に基づき,本件取調べメモ等の証拠の標目を記載した一覧表の提示を命じた。これに対し,検察官は,同月19日付けで,上記提示命令に対して,同法309条1項に基づく異議の申立てをした。その中で,検察官は,上記規定により提示を命ずることのできる一覧表とは,検察官手持ち証拠について作成されるものであることが明らかであるところ,本件取調べメモ等は公判前整理手続期日に出頭している検察官の手持ち証拠には含まれていないなどとして,上記提示命令は上記規定の解釈を誤ったものである旨を主張した。そこで,当裁判所は,弁護人らの意見を聴いた上,同月24日付けで,上記検察官の異議申立てを棄却する決定をした。これを受けて,検察官は,上記のとおり,同月26日の第13回公判前整理手続期日において,「本件の捜査主任であったG検察官に確認したところ,本件取調べメモ等は現在,物理的に存在しないとのことであった。本件捜査報告書も,検察庁には存在しない。」旨を回答した。さらに,当裁判所は,同月27日付けで,検察官に対し,本件取調べメモ等を作成したことがあるか,作成したものの廃棄したのであれば,その時期はいつでその理由は何か等について釈明するよう求めたところ,検察官は,同年4月3日付けで,各取調べ担当検察官が,本件取調べメモ等を作成した事実はあるが,各取調べ担当検察官とも,本件起訴により捜査が終結し,供述調書作成等の要もなくなったため不要と判断し,起訴後1週間程度の間に廃棄したと釈明した。 以上を前提として,本件取調べメモ等及び本件捜査報告書の存否について検討する。 取調べメモ等は,一般的に,取 調書作成等の要もなくなったため不要と判断し,起訴後1週間程度の間に廃棄したと釈明した。 以上を前提として,本件取調べメモ等及び本件捜査報告書の存否について検討する。 取調べメモ等は,一般的に,取調べ対象者の供述内容や供述態度のほか,当該供述内容等に関する取調官の感想,当該供述等との関係において検討すべき別途収集された証拠の内容等概要,当該供述内容等を踏まえた上で今後必要と思われる捜査の内容等が記載されるものと推認される(検察官ら作成の平成20年2月12日付け意見書9頁)。このような取調べメモ等が,取調べの状況を推知させるものとして,被告人の供述調書の任意性や被告人以外の関係者の供述調書の特信性及び信用性を判断する上で重要な資料の一つとなることは明らかであり,刑事訴訟規則198条の4に照らしても,当該事件の公判が終了するまで保管しておくのが相当であると思われる。とりわけ,弁護人らは,平成19年4月25日の段階で,捜査担当検察官に対し,「本件について,被告人甲の取調べの全過程の可視化を履践しないままに作成された調書については,将来の公判で証拠請求されたとき,弁護人は,任意にされたものでない疑いがあると主張することになる。」旨を申し入れていたようにうかがわれるから,被告人甲の取調べ担当検察官はもとより,共犯関係にあるとされる被告人B,同C及び同Dの各取調べ担当検察官としても,将来の公判段階における任意性等の立証に備えて,本件取調べメモ等を保管しておく必要性があったといえる。そうすると,各取調べ担当検察官が,本件取調べメモ等を一様に廃棄してしまったというのは,その必要性があったのか,相当な行為といえるのかについて,少なからず疑問があるといわざるを得ない。しかし,検察官の上記釈明ないし回答は,本件取調べメモ等を廃棄した時期や理由をそれなりに具体 うのは,その必要性があったのか,相当な行為といえるのかについて,少なからず疑問があるといわざるを得ない。しかし,検察官の上記釈明ないし回答は,本件取調べメモ等を廃棄した時期や理由をそれなりに具体的に明らかにしたものといえるから,本件取調べメモ等を廃棄したという検察官の主張は一応理由があり,それが虚偽であることを疑わせる事情は見当たらない。 弁護人らは,被告人甲は取調べの際に検察官がメモを作成していたのを見た,取調べメモの重要性にかんがみれば,廃棄するはずがない旨を主張するが,これらの主張を踏まえても,上記の結論は変わらない。 また,本件捜査報告書が検察庁に存在しない旨の検察官の回答を疑うべき事情は見当たらない。 したがって,本件証拠開示命令請求のうち,本件取調べメモ等及び本件捜査報告書に関する部分については,これらの証拠が存在しないことに帰結するから,いずれも理由がない。 第3本件取調べ状況等報告書について 被告人甲の弁護人らが本件取調べ状況等報告書の開示を求める前提として,弁護人らが刑事訴訟法316条の17第1項の予定主張明示義務を果たしているかどうかを検討する。 (1)被告人甲の弁護人らは,2008年1月25日付けの予定主張記載書面(その7)において,Aの検察官調書のうち,「賄賂金の準備状況等」との立証趣旨で,公訴事実第1に関する証拠として請求された甲第29号証について,任意にされたものでない疑いがあり,(Aが公判廷で上記検察官調書と相反する証言をした場合に,その証言よりも)特に信用すべき状況などなく作成記載されたものであり(その意味で将来特信性を認めるべき余地が全くなく),かつ,その信用性を全く欠くものである旨の予定主張を明示し,その具体的事情として,次のとおり指摘した。①Aは,検察官の取調べに対し,「何年も前の出来事で 意味で将来特信性を認めるべき余地が全くなく),かつ,その信用性を全く欠くものである旨の予定主張を明示し,その具体的事情として,次のとおり指摘した。①Aは,検察官の取調べに対し,「何年も前の出来事であるから,記憶にない。」旨答えたり,覚えていないが故に,黙ったりしていた。すると,検察官は,語気を荒げて,「あんたいい加減にしなあかんわ。覚えていないわけない。どうして自分で思い出せないのか。」「ずっと拘置所にいるのか。」などと繰り返して怒鳴るなどした。②他方で,Aが一定の供述をすると,「それ違う。こうではないのか。」とか,「食事をしたことがあるはずだから,思い出しなさい。」などと一方的に決めつけるなどして,検察官のイメージどおりの供述記載を誘導・誤導するなどした。③Aは,過去に,身体拘束はもちろん,取調べを受けたこともなく,また,本件について記憶がなくなっているにもかかわらず,連日取調べを受け,その取調べ時間は深夜に及ぶこともあった。 そのため,Aは,精神的にも極めて不安定となり,検察官の取調べに対し,的確に応じることができない心理状態にあった。検察官にも,そのことは優に察知できたが,何らの配慮もされなかった。④Aに対する取調べは,全く録画・録音がなされていない。事後的な検証がおよそ不可能な密室において行われ続けたものである。 また,被告人甲の弁護人らは,同年2月14日付けの予定主張記載書面(その8)において,上記の具体的事情の補充として,被告人Cの弁護人らが作成した平成20年2月12日付け予定主張記載書面(6)の予定主張を基本的に援用する旨を明示した。援用した予定主張の内容は,次のとおりである。Aは,会社の経理についても社長である被告人Dに言われるまま極めて機械的,事務的に処理しただけで,その深い意味を判断できる能力もなく,してもいないもので 援用した予定主張の内容は,次のとおりである。Aは,会社の経理についても社長である被告人Dに言われるまま極めて機械的,事務的に処理しただけで,その深い意味を判断できる能力もなく,してもいないものである。Aが被告人Cと被告人Dの本件土地についての話の内容,ましてや分け前のことやH社長との関係性等全く知っていないのに,検察官は,被告人Dや被告人Cが言うとる,一般的に考えてこうなるやろう,という推測論からの意見を述べさせ,Aが「うん。」と言うと,それだけをとらえて断定的にAの供述であると決めつけ,同人が後で反対しても聞き入れなかった。被告人甲に手渡した1000万円の趣旨についてもAは知らない,記憶がないと言っているのに,検察官は,被告人Dや被告人Cも言うとると言ったり,仮にの話を持ち出して,あまり知的能力のないAを誤導した。 さらに,被告人甲の主任弁護人は,同月14日の第10回公判前整理手続期日において,被告人Cの主任弁護人が,「上記予定主張記載書面(6)の予定主張には,検察官は,Aに対し,被告人D,被告人Cが実際には供述していないにもかかわらず,供述しているものと虚偽を述べて誘導・誤導したという趣旨が含まれる。」と主張したのを受けて,その点も併せて援用した。 (2)上記の主張内容のほか,弁護人らが不同意の意見を述べたのが甲第29号証だけであること,その立証趣旨が「賄賂金の準備状況等」とされていること,弁護人らは,公判で予定している主張として,被告人Cから受領した1000万円は賄賂ではない旨を明らかにしていることを考慮すると,Aの検察官調書の特信性及び信用性に関する争点としては,賄賂金の準備をしたとされる場面に関する取調べの際に,取調べを担当したI検察官が,Aに対し,弁護人らが予定主張として指摘するように,繰り返し怒鳴ったり,供述記載を誘導・ 信用性に関する争点としては,賄賂金の準備をしたとされる場面に関する取調べの際に,取調べを担当したI検察官が,Aに対し,弁護人らが予定主張として指摘するように,繰り返し怒鳴ったり,供述記載を誘導・誤導などしたりした上,Aにおいて,連日の長時間の取調べもあって精神的に不安定な状態になった結果,Aの認識とは異なる内容の供述調書が作成されたのか,ということになるものと認められ,相当程度具体化されたといえる。 すなわち,弁護人らは,任意にされたものでない疑いがあるため特信性及び信用性を欠くと主張する供述調書を特定し,かつ,取調べの際の検察官の発言内容も含めた具体的な予定主張を明示しているのであり,主張関連証拠の開示を求める前提として,刑事訴訟法316条の17第1項の予定主張明示義務は履行したというべきである。 なお,検察官は,弁護人らの上記予定主張の明示は,弁護人らの主張関連証拠開示請求に対する検察官の回答がされるまでの間に行われていなかったことを問題としている。確かに,検察官による上記回答がされた平成20年1月15日の段階では,弁護人らの上記のような予定主張は具体的なものではなかったといわざるを得ない。しかし,少なくとも現段階においては,既に説示したとおり,主張関連証拠の開示を求める前提としての予定主張明示義務は履行されたと解されること,検察官は,予定主張が追完された段階で改めて主張関連証拠の開示請求の当否を検討し,法の要請する程度の予定主張明示義務が履行されたと判断した場合には,既にされている証拠開示請求に基づき自ら開示することも許されると解されることからすると,検察官の上記問題提起は,証拠開示命令をする上で妨げになるものではないというべきである。 次に,本件取調べ状況等報告書と弁護人らの上記主張との関連性について検討する。 上記のような弁護 からすると,検察官の上記問題提起は,証拠開示命令をする上で妨げになるものではないというべきである。 次に,本件取調べ状況等報告書と弁護人らの上記主張との関連性について検討する。 上記のような弁護人らの主張,とりわけ,Aが連日の長時間の取調べもあって精神的に不安定な状態になったという主張に照らすと,弁護人らが任意にされたものでない疑いがあるとして特信性及び信用性を争うAの平成19年4月27日付け検察官調書(本文10丁のもの。 甲29)が作成されるまでの取調べについての取調べ状況等報告書は,上記特信性及び信用性を争う弁護人らの主張に関連するというべきである。弁護人らは,Aが取調べ担当検察官から,弁護人らが主張するような発言をされた時期を特定していないが,一般的に,特定の調書の作成経緯として,それ以前の取調べが影響を与えることはあり得るといえるから,これをもって関連性がないということはできない。他方,平成19年4月28日以降についてのAの取調べに係る取調べ状況等報告書は,関連性が薄いと考えられる。 次に,被告人の防御の準備のために開示をする必要性の程度並びに開示によって生じるおそれのある弊害の内容及び程度を考慮して,開示を命ずることが相当といえるかどうかについて検討する。 本件は,J市議会議長であった被告人甲らによる背任,あっせん収賄被告事件であるところ,被告人甲は,前記のとおり,公訴事実第1の3のあっせん収賄被告事件について,賄賂の趣旨を争う旨の主張をする予定である。そして,Aの上記検察官調書には,被告人C及び被告人Dの贈賄側で被告人甲らに対する賄賂金を準備した状況等を目撃した旨の供述記載があるものと推測されるところ,Aが公判廷で上記検察官調書と相反する趣旨の証言をした場合,上記検察官調書の特信性や信用性が肯定されれば,上記検察官調書を基に 賂金を準備した状況等を目撃した旨の供述記載があるものと推測されるところ,Aが公判廷で上記検察官調書と相反する趣旨の証言をした場合,上記検察官調書の特信性や信用性が肯定されれば,上記検察官調書を基にして事実認定がされる蓋然性がある。そうすると,上記検察官調書が作成されるまでの取調べにおける取調べ時間,調書作成の有無等が記載された取調べ状況等報告書は,Aについての取調べ状況を認定する上で客観的事実を確定する際に,確かな裏付け証拠となり得るものといえ,開示の必要性は高いというべきである(ただし,上記検察官調書の作成日後のものについては,関連性が薄く,開示の必要性も低いというべきである。)。 他方,検察官は,取調べ状況等報告書を開示することによる弊害については,特段の主張をしていない。しかし,取調べ状況等報告書は,取調べ年月日,取調べ担当者,取調べ時間,被疑者供述調書作成の有無及びその数,被疑者がその存在及び内容の開示を希望しない旨の意思を表明した被疑者供述調書作成の有無及びその数等の客観的事実を記載するべきものであって,取調べ事項や被疑者の供述内容については記載されないことが明らかである。そうすると,これを開示したとしても,Aの供述内容やプライバシーが不当につまびらかにされるとは想定し難く,開示することによる弊害はほとんど存在しないというべきである。 したがって,本件取調べ状況等報告書のうち,平成19年4月27日までの取調べに関するものについては,開示を命ずるべきである。 第4結語よって,弁護人らの本件証拠開示命令請求は,本件取調べ状況等報告書のうち平成19年4月27日までの取調べに関するものの開示を求める限度で理由があるので,刑事訴訟法316条の26第1項により,主文のとおり決定する。 (裁判長裁判官・西田眞基,裁判官・千賀卓郎,裁判官 うち平成19年4月27日までの取調べに関するものの開示を求める限度で理由があるので,刑事訴訟法316条の26第1項により,主文のとおり決定する。 (裁判長裁判官・西田眞基,裁判官・千賀卓郎,裁判官・馬場崇)
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