平成13(ワ)1202 損害賠償請求

裁判年月日・裁判所
平成14年6月21日 神戸地方裁判所
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判決文本文12,813 文字)

判決平成14年6月21日神戸地方裁判所平成13年(ワ)第1202号損害賠償請求事件 主文 1 被告は、原告に対し,607万0549円及びこれに対する平成11年2月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は,2分し,その1を原告の,その余を被告の各負担とする。 4 この判決は,1項に限り仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求被告は、原告に対し,1260万6481円及びこれに対する平成11年2月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要など 1 事案の概要本件は,原告が被告の経営する本件病院において,胃の内視鏡検査(以下「胃カメラ検査」という。)を受診した際,同病院の担当者から胃カメラ検査に当たって睡眠導入剤を使用する旨の説明を受けなかったこと,また,同薬による影響で同検査後,数時間自動車運転が危険であるとの説明を受けなかったことから,自動車を運転して帰宅した際,睡眠導入剤による影響で交通事故を起こし,傷害などの損害を被ったとして,被告に対し,民法715条に基づき,1260万6481円及びこれに対する不法行為の日である平成11年2月8日から支払済みまで年5分の割合による金員に支払いを求める事案である。 2 前提事実(文章の末尾の証拠などを掲げた部分は,証拠などによって認定した事実,その余は,当事者間に争いのない事実)(1) 原告は,昭和12年10月18日生まれで,後記本件事故当時,61歳であった(甲1)。 (2) 本件病院での受診ア平成10年12月29日原告が胸焼けの主訴で受診。 原告を担当したA医 で,後記本件事故当時,61歳であった(甲1)。 (2) 本件病院での受診ア平成10年12月29日原告が胸焼けの主訴で受診。 原告を担当したA医師は,原告の症状を逆流性食道炎と診断。 イ平成11年1月24日原告は,同年2月8日の内視鏡検査を予約した(乙1,証人B)。 ウ同年2月8日原告は,胃カメラ検査を受検した。それに先だって原告に対し,睡眠導入剤(ドルミカム)10㎎が使用(静脈注射)された。 同検査後,拮抗剤としてアネキセート(フルマゼニル)0.5㎎が使用(静脈注射)された。 胃カメラ検査の結果,原告に中等度の食道裂孔ヘルニアが認められた。 (3) 本件事故(甲1)ア日時平成11年2月8日午前11時40分ころイ場所神戸市北区a町b13ウ態様原告運転車両が対向車線側にある道路側の電柱に正面衝突した。 エ原因原告が運転中,意識を失ったこと。 (4) 本件事故による原告の受傷内容,程度腰椎圧迫骨折,左肋軟骨骨折,左手関節部骨折,右腸骨骨折,両膝打撲,右肩腱板損傷,右肩関節周囲炎など(甲2ないし7)(5) 原告に使用されたドルミカムは,睡眠導入剤で,速効性があり,その作用持続時間は,約2時間と他の鎮静剤に比べて短く,血中濃度半減期も0.2㎎/㎏静注時,約2時間となっている(甲8の1・2,乙8)。 アネキセート(フルマゼニル)は,ドルミカムの作用を減殺させる拮抗薬で,その血中濃度半減期は,約50分とドルミカムより短い(甲9の1・2,乙8)。 3 主要な争点(1) 睡眠導入剤であるドルミカムの使用について,説明義務違反があったかど 用を減殺させる拮抗薬で,その血中濃度半減期は,約50分とドルミカムより短い(甲9の1・2,乙8)。 3 主要な争点(1) 睡眠導入剤であるドルミカムの使用について,説明義務違反があったかどうか。 (原告の主張)ア医師は,胃カメラ検査に当たって,睡眠導入剤を使用する場合,その使用とともに同検査後,自動車運転をすると,睡眠導入剤による影響で事故を起こす危険性があるため,自動車運転をしないようその危険性について説明すべき義務を負っている。 イしかし,本件病院の医師,看護婦は,原告に対し,本件の胃カメラ検査に当たって,睡眠導入剤を使用することについて説明をしたことがなく,また,同検査後もその使用の事実及び事後の自動車運転の危険性について医師らから説明をしたこともない。 ウしたがって,本件病院の医師,看護婦らには,説明義務違反がある。 (被告の主張)ア本件病院では,原告に対する,胃カメラ検査に先立って,睡眠導入剤(ドルミカム)を使用しているが,その使用について,以下のとおり説明を尽くしている。 (ア) B看護婦は,平成11年1月6日の胃カメラ検査予約時に,原告に対し,以下のような説明をしている。 a 検査前日は,軽い夕食を取り夜10時以降は,検査まで水も食事も取らない。 b 検査時,薬を使うことがあります。その場合眠くなるので2~3時間は車の運転をしないで下さい。 c ご都合の悪い時には,早めにご連絡ください。 (イ) C看護士は,平成11年2月8日の胃カメラ検査前,「内視鏡挿入の刺激などで,吐き気などを起こしやすくつらいため,眠たくなる薬を注射し,検査をおこないます。検査後は,目を覚ます薬を注射し,目が覚めますが,また後で眠たくな 2月8日の胃カメラ検査前,「内視鏡挿入の刺激などで,吐き気などを起こしやすくつらいため,眠たくなる薬を注射し,検査をおこないます。検査後は,目を覚ます薬を注射し,目が覚めますが,また後で眠たくなることがありますので,しばらく休んで帰ってください。」と説明をしている。 (ウ) 胃カメラ検査の施術者であるD医師は,原告に対し,「内視鏡検査は,吐き気が起こると苦しいので,眠くなる注射をしていますが,甲さんにもしてよろしいですか。検査中は眠ってしまいますが,終わったら目が覚める注射をします。ただし,目が覚めても,しばらく眠くなったり,ふらつくことがあるので注意してください。」と説明した。それに対し,原告は,「お願いします。」と同意していた。また,検査後も「しばらくをボーとしたり,ふらつくことがあるので気をつけてください。」と説明をしている。 (エ) E看護婦は,胃カメラ検査後,原告に対し,「今は目が覚めていても,又眠くなってくると思いますので,内科診察までの間,注射室のベッドで少し休みましょうかね。」と勧めている。また,その後,2階廊下の鏡の前で髪を整えている原告に対し,「大丈夫ですか。下で休みますか。」と声をかけている。 イしたがって,被告のスタッフであるD医師やB看護婦らには,原告に対し,本件の睡眠導入剤の使用に関して,説明義務違反はない。 (2) 損害の有無(原告の主張)被告の被用者である上記医師や看護婦らに説明義務違反があった結果,原告が本件事故を起こし,以下のような損害を被った。その損害の合計額は,1260万6481円となる。 ア治療関係費 235万9895円(ア) 治療費 38万4039円(別紙「治療関係費目録」記載のとおり)(イ) 通院交通費  29万02 0万6481円となる。 ア治療関係費 235万9895円(ア) 治療費 38万4039円(別紙「治療関係費目録」記載のとおり)(イ) 通院交通費  29万0220円(ウ) 将来治療費 168万5636円本件事故による原告の症状としては,肩関節の可動域制限,腰痛及び腸骨付近の筋力低下が激しく,したがって,今後も継続してそれらに対する治療が必要である。将来の治療関係費として以下の費用を要する。 記F医大治療費 1500円交通費 1920円G病院治療費  340円交通費 1140円H病院(リハビリ通院月8回)  治療費 2400円交通費 2880円以上の月額合計1万180円を基礎に平均余命23,63年のライプニッツ係数を乗じて算出した金額。 イ物的損害 28万3000円本件事故により以下の物が損壊した。 記(ア) 眼鏡 20万円(イ) 時計 1万5000円(ウ) 洋服 3万円(エ) ブラウス  2万5000円(オ 記(ア) 眼鏡 20万円(イ) 時計 1万5000円(ウ) 洋服 3万円(エ) ブラウス  2万5000円(オ) ズボン 1万3000円ウ休業損害 533万7542円原告は,本件事故の日である平成11年2月8日より平成12年8月31日まで1年205日間,家事労働がまったくできなかった。その損害は,以下のとおりである。 記341万7900円/年(賃金センサスによる全年齢平均賃金)×1年205日=533万7542円エ慰謝料 348万円原告が被った以下のような事情による精神的苦痛を金銭的に評価すると348万円が相当である。 記これまでの通院は23か月にわたっており,今後も定期的に通院する必要がある上,事故前に開いていた茶,花,着付けの教室は本件事故により継続が不可能になり,現在も家事労働が困難な状況が続いている。また,原告の夫は,原告の介護等のため心身にわたる無理がかかり,平成11年夏ころに脳梗塞により入院することになった。 オ弁護士費用 114万6044円上記損害合計額の10パーセントが相当である。 (被告の主張)否認又は争う。 (3) 過失相殺の適否(被告の主張)ア仮に,被告において,何らかの説明不足があったとしても,被告のスタッフ(延べ5名)は,上記のとおり予約時点,検査前,検査後にしかるべき注意している。原告がそのような注意を受けていたにもかかわらず自動車の運転をしたもので,その過失の程度は大きい。 イしたがって,大幅な過失相殺がなされてしか 約時点,検査前,検査後にしかるべき注意している。原告がそのような注意を受けていたにもかかわらず自動車の運転をしたもので,その過失の程度は大きい。 イしたがって,大幅な過失相殺がなされてしかるべきである。 (原告の主張)ア被告の医師その他のスタッフからは当日の自動車運転に関する注意のみならず,睡眠導入剤を使用することも,また,その使用による注意(眠くなる等)もなかった。 イしたがって,本件においては,過失相殺がなされるべきでない。 (4) 損益相殺の適否(被告の主張)本件事故を原因として支払われた搭乗者傷害保険金は,原告運転にかかる事故で,それによって原告が被った損害を填補するものであるから,同保険金をもって,損害額から差し引くべきである。 (原告の主張)ア原告の夫は,本件事故を原因として同人が契約していた自動車保険(大東京火災)から,車両保険金とともに搭乗者傷害保険金33万円を受領した。 イ上記搭乗者傷害保険金は,損害を填補する性質のものでなく,したがって,損益相殺の対象とはなりえない。 第3 当裁判所の判断 1 証拠(甲8,9の各1・2,10,乙1ないし6,8,証人B,同C,同D,  同E,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 原告は,A医師の指示を受けて被告の外来で胃カメラ検査の予約をした。 その際,それを担当したB看護婦は,同検査を受ける際の注意事項として検査前日の食事や水分の取り方について説明をした。しかし,その際,交付した予約用紙には,検査前日の食事の注意と予約取消しの際の注意については,記載があったものの検査の際使用する薬について「眠くなる。自動車の運転は何時間避けてください。」等の注意を喚起した記載は 交付した予約用紙には,検査前日の食事の注意と予約取消しの際の注意については,記載があったものの検査の際使用する薬について「眠くなる。自動車の運転は何時間避けてください。」等の注意を喚起した記載はなく,その他,その受診に当たっての注意事項を記載したメモやパンフレットなどを交付したことはなかった。 なお,上記検査予約時には,その検査に当たって,睡眠導入剤を使用するか否かの確認をすることもなかった。 (2) 原告は,平成11年2月8日午前10時ころ,胃カメラ検査を受けるため,本件病院の内視鏡室に案内された。そこで,C看護士は,原告に対し,「内視鏡挿入の刺激で,吐き気などを起こしやすく,辛いことからそれを回避するため,眠たくなる薬を注射したうえ検査をします。そして,検査終了後は,目を覚ます薬を注射します。」旨説明をしたところ,原告は,睡眠導入剤の使用に関しては,初めて聞くような様子であった。 そこで,C看護士は,原告に対する胃カメラ検査を実施するD医師に対し,睡眠導入剤の使用に関して聞いていない旨伝えたところ,D医師は,原告に対し,「内視鏡検査は,吐き気が起こると苦しいので,眠くなる薬をしますが,どうですか。検査中は,眠ってしまいますが,終わったら目が覚める注射をします。」旨の話を原告にしたところ,原告がそれを了承したので,C看護士にドルミカム(睡眠導入剤)10㎎の注射を指示した。 C看護士は,同日午前10時10分ころ,その指示を受けて原告に対し,胃カメラ検査に先立ってドルミカム(睡眠導入剤)10㎎の注射をした。 D医師は,原告に対する胃カメラ検査を同日午前10時25分ころ終え,C看護士に拮抗剤であるアネキセートの注射の指示をし,同看護士から引継を受けたE看護婦が原告に対し,同注射をした。しばらくして原告が覚醒 師は,原告に対する胃カメラ検査を同日午前10時25分ころ終え,C看護士に拮抗剤であるアネキセートの注射の指示をし,同看護士から引継を受けたE看護婦が原告に対し,同注射をした。しばらくして原告が覚醒したため,D医師は,同内視鏡室内で検査結果について説明をした。 その後,E看護婦は,検査後,原告が内視鏡室で着替えをしていた際,原告に軽度のふらつきと眠そうな様子が認められたため,「目が覚めても,また,また,眠くなるので,後の内科外来の診察までの間,しばらく休んでは。」との話をしたが,原告から大丈夫との話があった。その直後,2階の廊下にいた原告を見たことから,原告とともにエレベーターで1階の内科外来の前までいった。 (3) 原告は,その後,主治医であったA医師から胃カメラ検査の結果について,説明等を受け,自動車に乗って帰宅した際,本件事故にあった。 (4) 本件病院は,その所在位置が不便であったため,本件の原告を含めて同病院を来院する患者は,自分で自動車を運転してくるか,あるいは,第三者に自動車に乗せてもらって来院することが多かった。 (5) D医師は,胃の内視鏡検査をするに当たってドルミカム10㎎使用し,その検査後,拮抗剤であるアネキセートを使用した場合でも,それぞれの薬の効用喪失時間からしてドルミカム使用後2~3時間は休む必要があると考えていた。 (6)ア本件病院では,原告の本件事故もあり,その後,内視鏡検査の予約を受け付ける際の手続を以下のとおり改めた。 記外来予約の時点で睡眠導入剤を希望するか否か確認をする。 その説明を患者にしたことの確認を患者に署名をしてもらう。 睡眠導入剤を希望した患者には,自動車で退院することをやめてもらう。 イまた を希望するか否か確認をする。 その説明を患者にしたことの確認を患者に署名をしてもらう。 睡眠導入剤を希望した患者には,自動車で退院することをやめてもらう。 イまた,予約表には,従前の検査前日の食事に対する注意書きの他,睡眠導入剤を希望した患者には,自動車で来院することをやめてもらう旨の記載が付加された。 (7) ドルミカムの拮抗薬としては,アネキセートが通常予定されていたところ,それぞれの薬の効用喪失時間から,仮に,ドルミカム使用後その覚醒のためアネキセートが使用された場合でも,一過性に拮抗効果がみられた後に再び鎮静効果や呼吸抑制が出現することがあるため,アネキセート投与後,患者が覚醒した後も患者の意識レベルや呼吸状態を経時的に監視する必要がある(甲9の1・2,証人D)。 2 ところで,B看護婦は,その証言の中で「『検査時,薬を使うことがあり,薬を使った場合には,眠くなるので2~3時間は,車の運転をしないで下さい。』との趣旨の説明をした。」旨証言している。しかし,原告が平成11年2月8日,C看護士から内視鏡室で睡眠導入剤の説明を受けた際,はじめて聞いたようなそぶりを示したこと,仮に,B看護婦が上記証言するとおりの説明がなされていたとすると,少なくとも帰路において自動車の運転ができなくなる可能性があるため,原告が自ら自動車を運転して本件病院に行く可能性は少ないと思われるところ,以上の事情からすると,B看護婦の上記証言部分は,直ちに採用し難い。 3 そこで,前提事実及び上記1で認定した事実を踏まえて,被告のスタッフである医師や看護婦らに説明義務違反があったか否か検討する。 (1)ア胃カメラ検査に当たって睡眠導入剤ドルミカムを使用する場合,その覚醒のため拮抗剤アネキセートを使用し,それによって患者 タッフである医師や看護婦らに説明義務違反があったか否か検討する。 (1)ア胃カメラ検査に当たって睡眠導入剤ドルミカムを使用する場合,その覚醒のため拮抗剤アネキセートを使用し,それによって患者が覚醒した後においてもアネキセートの効用が喪失し,ドルミカムの効用によりドルミカム使用後2~3時間は睡眠効果が発現する可能性がある。仮に,アネキセートの効用が喪失し,先に静脈注射したドルミカムの効用により睡眠効果が発現した場合,自動車の運転は,事故発生の危険性が高く,極めて危険であった。 ところで,胃カメラ検査を含め,患者が本件病院を訪れる場合,同病院の所在位置が不便なところであったこともあり,そのほとんどが自ら自動車を運転して,または,第三者に自動車に乗せてもらっていたが,そのことを同病院の看護婦や医師らは認識していた。 イ被告ないしそのスタッフである医師や看護婦らは,胃カメラ検査に当たって,睡眠導入剤であるドルミカム及びその拮抗剤であるアネキセートを使用する場合,上記アの事実,具体的には,その各薬の効用時間の関係,そして,患者が自動車で本件病院を来院している可能性が高かったことからすると,睡眠導入剤の説明(その使用の是非など)のみならず,それによる作用から自動車での来院を意識した注意喚起,具体的には,睡眠導入剤による自動車運転への影響,自動車運転による事故の危険性,自動車での来院をやめるよう,仮に,自動車で来院した場合には,2~3時間は,自動車の運転をしないようなどとの説明をすべき義務を負っていたと解するのが相当である。 (2) そこで,本件であるが,確かに,原告に対する胃カメラ検査を施行したD医師やC看護士らは,その施行に当たって,睡眠導入剤について説明をし,それによって眠くなる旨の説明をしたことは認められるが,原告 ) そこで,本件であるが,確かに,原告に対する胃カメラ検査を施行したD医師やC看護士らは,その施行に当たって,睡眠導入剤について説明をし,それによって眠くなる旨の説明をしたことは認められるが,原告がその後,本件病院の院内で休むこともなく,A医師から胃カメラ検査の結果を聞いたりした後,間もなく自動車で帰宅していることからすると,C看護士やD医師が「しばらく休んでいってください。」とまでの説明をしたか疑問が残るうえ,仮に,そのような説明がなされたとしても,具体的に,自動車運転に意識した説明がなされていないことからすると,その説明によっても自動車運転の危険性を認識しない可能性があり,したがって,同人らの説明には,注意義務違反があるといわなければならない。また,E看護婦の説明であるが,同人の説明についても,D医師やC看護士と同様具体的に,自動車運転に注意した説明がなされていないことからすると,同人の説明にも注意義務違反があるといわなければならない。 そうすると,被告のスタッフであるB看護婦,D医師,C看護士,E看護婦の各説明内容を総合しても,被告のスタッフが原告に対してその説明を尽くしたことにはならず,その結果,同スタッフの使用者である被告は,その説明義務違反と因果関係のある原告に生じた損害を賠償すべき責任がある。 4 そこで,本件事故であるが,原告に対するドルミカムの使用時間,ドルミカムとアネキセートとの効用時間の関係,本件事故の時間・態様からすると,本件事故は,胃カメラ検査の際投与されたドルミカムの影響によって起こったものと推認され,それを覆すに足りる反証はない。 そうすると,仮に,被告のD医師らスタッフが胃カメラ検査に際して使用したドルミカムなどの薬剤の効用について,自動車運転に意識した説明をしていたとしたら,少なくとも, を覆すに足りる反証はない。 そうすると,仮に,被告のD医師らスタッフが胃カメラ検査に際して使用したドルミカムなどの薬剤の効用について,自動車運転に意識した説明をしていたとしたら,少なくとも,原告は,胃カメラ検査当日,自ら自動車を運転して本件病院を訪れた可能性は少なく,また,仮に,それで訪れたとしても本件病院内でもうしばらく休んでいたことが窺え,本件事故にあわなかったものと判断される。 5 そこで,原告に生じた損害について検討する。 (1) 治療費ア証拠(甲2,3,5ないし7,16ないし38〔枝番を含む。〕,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下のとおり認められる。 (ア) 治療費 37万9089円a 原告は,右肩腱板損傷,右肩関節周囲炎の治療のため,F医科大学附属病院で平成11年12月17日以降平成12年11月15日まで通院治療を受けている。 b 原告は,腰椎圧迫骨折の治療のため,G病院で平成11年2月9日以降平成12年12月6日まで通院治療を受けている。 c 原告は,上記(ア),(イ)を含めて別紙治療関係費目録の月日欄記載の月日にそれに対応する病院/薬局欄記載の病院で本件事故による傷害の治療やそのリハビリ,投薬を受けている(但し,同目録のうち,平成11年8月26日,同年10月5日,同年11月30日のI薬局の各930円に対応する部分,平成12年3月30日のI薬局,同年4月8日のH病院に各対応する部分は,以下のとおり認められない。)。 d 原告は,上記治療などによる治療費などとして同目録の費用欄記載のとおりの金員合計37万9089円を支払っている(但し,同目録のうち,平成11年8月12日のG病院(内科)の1200円は,240円に訂正し,同年8月26日,同年10月5日 として同目録の費用欄記載のとおりの金員合計37万9089円を支払っている(但し,同目録のうち,平成11年8月12日のG病院(内科)の1200円は,240円に訂正し,同年8月26日,同年10月5日,同年11月30日のI薬局の各930円,平成12年3月30日のI薬局の900円,同年4月8日のH病院の300円は,以下のとおり認められない。なお,減額及び認められなかった金額の合計額は,4950円)。 したがって,原告は,同支払った金員に相当する損害を被った。 (イ) 通院交通費  28万9860円原告は,上記のとおりの治療やリハビリのためF医科大学附属病院やG病院及びH病院などに通院しているところ(但し,平成11年4月1日以降は,電車やバスなどの公共交通機関を利用している〔弁論の全趣旨〕),その交通費として別紙治療関係費目録の交通費欄記載のとおりの金員合計28万9860円を支払っている(但し,同目録のうち,平成12年4月8日のH病院の360円は,以下のとおり認められない。)。したがって,原告は,同支払った金員に相当する損害を被った。 イ上記治療費,通院交通費のうち,(ア)c,d及び(イ)で除外した部分は,それを認めるに足りる証拠はない。 ウところで,原告は,本件事故による原告の症状としては,肩関節の可動域制限,腰痛及び腸骨付近の筋力低下が激しく,したがって,今後も継続してそれらに対する治療が必要であるとして将来要する治療関係費を損害として主張する。 確かに,証拠上,本件事故による原告の症状は,必ずしも確定したとまで認めることができず,今後もなお治療の継続が予想されなくはない。しかし,上記平成13年1月以降どのような治療を継続したのか必ずしも明らかでないうえ,今後,原告の症状がどのようになるの 確定したとまで認めることができず,今後もなお治療の継続が予想されなくはない。しかし,上記平成13年1月以降どのような治療を継続したのか必ずしも明らかでないうえ,今後,原告の症状がどのようになるのか不明である。しかも,今後,どのような治療を受けるのか必ずしも明らかでない以上,原告の上記主張を直ちに認めることはできず,その他,同主張を認めるに足りる証拠はない。 そうすると,原告主張の将来の治療関係費に係る損害の賠償の主張は,理由がない。 (2) 物的損害ア原告は,本件事故により眼鏡(20万円相当),時計(1万5000円相当),洋服(3万円相当),ブラウス(2万5000円相当),ズボン(1万3000円相当)が損壊し,合計で28万3000円相当の損害を被った旨主張する。 イ証拠(原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,原告が本件事故当時身につけていた眼鏡や時計などが同事故により損壊したことが認められる。しかし,原告主張に係る眼鏡や時計などが原告主張に係る価格相当のものであったか,証拠上必ずしも明らかでなく,その他,原告主張のような同価格相当であったと認めるに足りる証拠はない。 ウそうすると,原告の物的損害に係る主張は,理由がない。 (3) 休業損害 290万1600円ア原告は,本件事故の日である平成11年2月8日より平成12年8月31日まで1年205日間,家事労働がまったくできなかったため,休業損害として533万7542円の損害を被った旨主張し,原告本人尋問の中で1年半ぐらい家事を全くすることができなかった旨供述する。 イ本件事故の態様及び原告の同事故による傷害の内容,そして,原告の上記通院状況(通院の内容,回数,通院のための方法など)に平成11年3月18日付け診断書(甲 ることができなかった旨供述する。 イ本件事故の態様及び原告の同事故による傷害の内容,そして,原告の上記通院状況(通院の内容,回数,通院のための方法など)に平成11年3月18日付け診断書(甲7)の記載(腰椎圧迫骨折,左肋軟骨骨折,左手関節部骨折,右腸骨打撲,両膝打撲により初診(同年2月9日)後,2カ月の局所安静加療を要する見込み。但し,余病併発・経過によってはこの限りではない。)との記載を総合すると,少なくとも初診後数カ月間はほとんど家事を行うことができず,その後も,1年半ぐらいは家事を行うことに支障があったことが推認されるところ,同損害を評価すると,1年間の休業損害をもって相当とする。その余の主張は,それを認めるに足りる証拠はない。 ウそこで,原告が被った休業損害を計算すると,以下のとおりとなる。 記290万1600円/年(賃金センサス平成11年度第1巻第1表の産業計,企業規模計,学歴計,女子労働者の年齢階級別平均給与表による平均賃金)×1年=290万1600円(4) 慰謝料 200万円ア原告のこれまでの通院期間(平成13年12月までで23か月にわたっていること),今後も定期的に通院する必要があること,そして,事故前に開いていた茶,花,着付けの教室が本件事故により継続が不可能になり,現在も家事労働が困難な状況が続いていること,そして,原告の夫が原告の介護等のため心身にわたる無理がかかり,平成11年夏ころに脳梗塞により入院することになったとして,348万円相当の精神的苦痛を被ったと主張する。 イ原告の上記認定した通院状況,事故前に開いていた茶,花,着付けの教室が本件事故により継続が不可能になったこと,そして,家事労働が上記の期間できなかったことな 精神的苦痛を被ったと主張する。 イ原告の上記認定した通院状況,事故前に開いていた茶,花,着付けの教室が本件事故により継続が不可能になったこと,そして,家事労働が上記の期間できなかったことなどの事情があるところ,原告は,それらの事情により精神的苦痛を被ったことが認められる。そこで,原告が被った同精神的苦痛を金銭的に評価すると200万円とするのが相当と判断する。 ところで,原告の夫が平成11年夏ころに脳梗塞により入院している(弁論の全趣旨)が,夫の入院が本件事故に起因する原告の傷害に起因するのか,それを認めるに足りる証拠はない。 (5) 弁護士費用 50万円原告は,本件の賠償請求をするため,弁護士を依頼さざるを得ず,その費用として114万6044円相当の損害を被った旨主張する。 被告が原告に賠償すべき弁護士費用としては,本件訴訟の経緯,その認容額等を総合すると,50万円とするのが相当である。 6 次に過失相殺について検討する。 (1) 被告は,何らかの説明不足があったとしても,被告のスタッフ(延べ5名)は,上記のとおり予約時点,検査前,検査後にしかるべき注意しているにもかかわらず,原告がそのような注意に反して自動車を運転して本件事故を起こした以上,大幅な過失相殺がなされてしかるべきである旨主張する。 (2) しかし,上記3で説示した事情からすると,原告に過失相殺をすべき事情はなく,したがって,被告の上記主張は,理由がない。 7 次に,損益相殺について検討する。 (1) 被告は,本件事故を原因として支払われた搭乗者傷害保険金は,原告運転にかかる事故で,それによって原告が被った損害を填補するものであるから,同保険金をもって,原告が被った損害から差し引くべきである旨主張する。 (2) 証拠( 支払われた搭乗者傷害保険金は,原告運転にかかる事故で,それによって原告が被った損害を填補するものであるから,同保険金をもって,原告が被った損害から差し引くべきである旨主張する。 (2) 証拠(甲13,14)及び弁論の全趣旨によれば,原告の夫は,本件事故を原因として同人が契約していた自動車保険(大東京火災)から,車両保険金とともに定額の保険金の支払いを内容とする搭乗者傷害保険金33万円を受領したことが認められる。 ところで,定額の保険金の支払いを内容とする搭乗者保険は,各種の保険とパッケージされた自家用自動車保険で,その趣旨は,保険契約者及びその家族,知人などが被保険自動車に搭乗する機会が多いことから,同搭乗者又はその相続人に定額の保険金を給付することによって,これらの者を保護しようとするものと解するのが相当である。そうすると,原告の夫が受領した上記搭乗者傷害保険金33万円は,原告の損害を填補するものでないため,原告が被った損害から差し引くべきではない。 (3) したがって,被告の上記損益相殺に関する主張は,理由がない。 7 以上の次第で,原告の請求は,607万0549円及びこれに対する不法行為の日である平成11年2月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから,その限度で認容することとし,その余は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 神戸地方裁判所第2民事部裁判官中村哲

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