主文 本件各公訴事実について、被告人は無罪。 理由 第1 公訴事実本件各公訴事実は、次のとおりである。 1 傷害被告事件「被告人は、令和5年5月4日午後0時30分頃から同日午後11時15分頃までの間に、奈良県橿原市(住所省略)A方において、B(当時4歳)に対し、その前額部及び左頰部に何らかの方法により強い外力を与える暴行を加え、よって、同人に加療約2週間を要する前額部打撲傷及び左頰部の打撲傷又は圧迫傷の傷害を負わせた」というものである。 2 傷害致死被告事件「被告人は、令和5年6月18日午前2時29分頃から同日午前6時30分頃までの間に、奈良県橿原市(住所省略)A方又はその周辺において、B(当時4歳)に対し、その腹部を強く圧迫するなどの暴行を加え、同人に十二指腸穿孔の傷害を負わせ、よって、同月19日午後4時12分頃、同県桜井市(住所省略)C病院において、同人を前記傷害に基づく汎発性腹膜炎により死亡させた」というものである。 第2 傷害被告事件について 1 争点Bに前額部打撲傷が生じたこと自体に争いはなく、同事件の争点は、①事件性(公訴事実記載の傷害が第三者の暴行により生じたか否か)、②犯人性(その暴行を行ったのが被告人か否か)、③左頰部の傷害結果の有無である。 2 関係各証拠によれば、前提となる事実関係として、以下の事実が認められる。 ⑴ 被告人は、令和5年2月頃(以下断りがない限り、令和5年の出来事である。)、Bの母であるAと会うようになり、4月22日、被告人とAは交際 するようになった。AとBは、令和2年7月以降、奈良県橿原市内のマンション居室で同居しており、被告人は、Aと交際後も大阪府内の自宅に居住していた。 ⑵ AとBの居宅(以下「A方」とい 交際 するようになった。AとBは、令和2年7月以降、奈良県橿原市内のマンション居室で同居しており、被告人は、Aと交際後も大阪府内の自宅に居住していた。 ⑵ AとBの居宅(以下「A方」という。)のダイニングキッチンの西側又はダイニングキッチンと寝室の境目には、5月4日時点で、赤色のチャイルドシートが置かれていた。 ⑶ 被告人は、同日A方を訪れていたところ、Aは、同日午後0時30分頃、被告人にBの世話を頼み仕事のため自宅を出て、同日午後11時8分以降に帰宅した。その間、被告人とBは外出することなく、2人でA方にいた。 ⑷ Aは、5月5日午前2時23分、Bの左頰と前額部が写る写真を撮影して、友人に送信し、同日午前6時23分には、Bの顔面を正面から撮影した写真ファイルを作成し、被告人に送信した。 両画像でのBの前額部及び左頰部は、赤色または赤紫色に変色している(以下これらの画像を「本件各画像」という。)。 ⑸ 5月9日頃、被告人がBの髪をドライヤーで乾かしていた際、被告人の指がBの左目に当たったことがあった。その際、Bは、Aに対し、「にいに(被告人)にやられた。」旨説明した。 3 前額部について⑴ Bの司法解剖を担当したD医師及び小児救急を専門とする臨床医であるE医師は、本件各画像から認められる所見として、前額部の赤紫色に変色した箇所は、内因性のものではなく、鈍的な外力が作用して生じた皮下出血であり、その部位も踏まえれば打撲傷であると考えられると説明する。こうした両医師の説明内容に不合理な点はないことから、前額部の打撲傷は、外力により生じたと認められる。 ⑵ そこで、原因となる外力について検討すると、Aは、この点、5月4日の外出前に、被害者の額には何もなく、頰もグレーのあざのようなものがあっ ただけだったが、帰宅す より生じたと認められる。 ⑵ そこで、原因となる外力について検討すると、Aは、この点、5月4日の外出前に、被害者の額には何もなく、頰もグレーのあざのようなものがあっ ただけだったが、帰宅すると額や両頰が赤く腫れていた、額のことをBに尋ねると、チャイルドシートを指さし、ここで打ったと答えた旨供述する。被告人も、Aが帰宅する以前の段階で、Bの前額部が赤く腫れていることに気付き、何があったかBに尋ねたところ、同人がチャイルドシートを指さして、ここで打ったという趣旨の説明をした旨供述する。 A及び被告人の供述を踏まえると、Bは、前額部の負傷について、チャイルドシートで打ったという趣旨の説明をしているとみるのが自然である。そして、上記前提事実のとおり、Bが本件と近接する時期において、被告人の指が自身の左目に当たったことについて被告人にやられたと説明していたにもかかわらず、本件においてBは誰かからやられたというような説明をしていない。そうすると、本件でのBの説明内容は、自身でチャイルドシートに前額部をぶつけたというものと解するのが自然である。検察官はこの点、Aの供述から、Bがチャイルドシートの柔らかい座面を指さした点を強調するが、Bがその部分を意図的に特定して指さしたことを認めるに足りる証拠はなく、チャイルドシート全体を指さしたとみるのが自然である。 その上で、チャイルドシートはその構造上、柔らかい部分と固い部分とで構成されているのであり、Bのような4歳の児童が一人で遊んでいるなどしているうちに、チャイルドシートの固い部分に前額部をぶつけ、打撲傷を負うということは十分に考えられる(D、E両医師も、前額部の負傷につき、そうした機序により生じる可能性を否定していない。)。 ⑶ 以上のとおり、受傷直後のBの説明内容や、チャイルドシートの 打撲傷を負うということは十分に考えられる(D、E両医師も、前額部の負傷につき、そうした機序により生じる可能性を否定していない。)。 ⑶ 以上のとおり、受傷直後のBの説明内容や、チャイルドシートの構造等に照らせば、公訴事実記載の前額部の打撲傷につき、B自身がチャイルドシートに衝突して生じた可能性が認められ、他者からの暴行以外の原因で生じた合理的な疑いがある。 4 左頰部について⑴ 左頰部のあざとみられる部分が外力により生じたか否か ア D医師は、本件各画像をもとに、①Bの左頰部の赤紫色に変色した箇所は、皮下出血と呼ばれる損傷で、内因性のものではなく、鈍的な外力が作用した、いわゆるあざと呼ばれるものであること、②左頰部は、周囲が赤紫色で、真ん中が少し白く抜けているため、つねった等の外力が考えられること、③左頰部の傷害は、圧迫傷又は打撲傷であり、伝染性紅斑(いわゆるりんご病)の可能性は考えにくい旨供述し、E医師もこれと同旨の供述をする。 イ D医師は法医学の専門医として、E医師は小児救急の専門医として、それぞれ豊富な経験を有し、それをもとに本件につき見解を述べているところ、両医師の見解は、上記のとおりおおむね一致しており、その内容にも不合理な点は認められない。そうすると、両医師の供述は信用でき、本件各画像におけるBの左頰部の発赤は外力によるものであると認められる。 この点、りんご病の可能性があるとする弁護人の指摘は、5月12日にBを診た医師が、伝染性紅斑症の疑いがあると診断したことを根拠とするものであるが、日時が経っており、遡って同月4日頃に伝染性紅斑症があったものとみることはできない上、D医師及びE医師の見解と異なる趣旨をいうものであり採用できない。 ⑵ 左頰部の傷害が生じた時期ア 5月4日の出来事につき、Aは、 同月4日頃に伝染性紅斑症があったものとみることはできない上、D医師及びE医師の見解と異なる趣旨をいうものであり採用できない。 ⑵ 左頰部の傷害が生じた時期ア 5月4日の出来事につき、Aは、上記のとおり、同日の外出前に、被害者の額には何もなく、頰もグレーのあざのようなものがあっただけだったが、帰宅すると額や両頰が赤く腫れていた旨供述する。こうしたA供述を前提にすると、左頰部の傷害は、同日にAが外出してから帰宅するまでに生じていたと認められるのであり、想定される外力の内容も踏まえれば、被告人の暴行により生じたものであることを強く推認させる。 イそこで、こうしたA供述の信用性について検討すると、同供述によれば、同人は、帰宅した際、前額部の変色についてはその原因をBに尋ねている 一方、その時点で左頰部の変色については原因も含めBに尋ねていない。 また、5月5日午前3時4分からのAと被告人との間のLINEメッセージにおいても、左頰のあざについて、Aが「普通のあざなら1週間で治るって」と送信するなど、もともとあったものを前提として会話をしているように読める記載があり、Bの左頰のものも含む「あざ」につき、5月4日のAの不在時に新たに変色が生じたことを前提とするやり取りとしては違和感があるものとなっている。以上の事情から、5月4日の外出前後で、Bの左頰部に大きな変色が生じた点に関するA供述には疑義が残る。これと異なる趣旨をいう検察官の指摘は採用できない。 ウそして、A及び被告人の供述内容を踏まえても、Bは、左頰部の変色について、5月4日又はその直後の時点において、その原因等をAや被告人に説明していなかったと認められる。上記のとおり、Bは、被告人から受けた行動についてAに説明することができたのに、本件ではその点につき特に説明はな 又はその直後の時点において、その原因等をAや被告人に説明していなかったと認められる。上記のとおり、Bは、被告人から受けた行動についてAに説明することができたのに、本件ではその点につき特に説明はなく、このことは被告人が5月4日の時点で暴行を加えていなかったとの疑いを差し挟ませる事情といえる。 エ検察官は、本件で被告人が暴行を加えたことを推認させる事情として、Aと被告人との5月5日におけるLINEのやり取りの中で、被告人がAに対し、Bを病院に連れていくことを待つように伝える旨のメッセージを送信しており、被害者の負傷の発覚を免れるための行動をとっている旨主張する。 確かに、被告人は、Aに対し、「もうちょいアザが収まってからにしときや」などと送信しているが、その直後には「だから収まらんかったらつれていきーや」とも送信しており、その前後のやり取りの内容やこうしたやり取りをしている時刻が午前3時台であることなども踏まえれば、被告人は、深夜の時点で直ちにBを病院に連れて行こうと考えているAに対し、変色が収まらなかったらその時点で病院に連れていけばいいのであり、今 から直ちに救急で病院に連れていくことは金銭面からも治療効果の面からも得策ではないと指摘しているのであり、被告人も病院に連れていくこと自体に反対しているものではなく、検察官の指摘するような評価は当たらない(検察官が指摘する被告人の上記送信内容につき、予測変換などの要因による誤入力が原因であるとの被告人の説明は、こうした観点から不合理なものとはいえない。)。 オ以上の事情を総合すると、Aの供述のうち、5月4日の外出前後で、Bの左頰部の変色について著しい変化があったとする点については、事実認定の根拠とするには十分に信用できるものとは認め難く、検察官が指摘する事情も、被告人 ると、Aの供述のうち、5月4日の外出前後で、Bの左頰部の変色について著しい変化があったとする点については、事実認定の根拠とするには十分に信用できるものとは認め難く、検察官が指摘する事情も、被告人が暴行を加えたことを推認させるものとはいえない。 その上で、D医師が、本件各画像における左頰部の皮下出血につき、外力が加わってから数時間から三、四日経過したものと考えられると述べていること(この点の供述が信用できることは上記と同様である。)も踏まえれば、左頰部に対する外力が加わった時期は、5月4日のAが外出していた期間とは異なる時期である具体的可能性が排斥できない。 ⑶ よって、左頰部の赤紫色の変色については、公訴事実記載の時間帯に、被告人の暴行によって生じたことには合理的疑いが残る。 5 よって、傷害被告事件については、前額部及び左頰部のいずれの傷害においても、被告人の暴行により生じたことに合理的疑いが残る。 第3 傷害致死被告事件について 1 争点等Bに十二指腸穿孔が生じたこと及び同人が汎発性腹膜炎により死亡したこと自体に争いはなく、本件の争点は、①事件性(本件傷害が第三者の暴行により生じたか否か)及び②犯人性(その暴行を行ったのが被告人か否か)である。 検察官は、Bが暴行を加えられ、十二指腸穿孔等を負ったと考えられる時間帯に、被告人がBと2人であったこと、6月18日よりも前に、被告人がBに 対して何らかの暴行を加えて傷害を負わせたことなどを指摘し、被告人の暴行によりBが傷害を負ったと主張する。 2 上記第2記載の前提事実に加え、関係各証拠によれば、さらに本件の前提として以下の事実が認められる。 ⑴ 6月18日午前1時4分頃から同日午前1時38分頃までの間、Bは、A、同人の友人ら2名の合計4名で、若草山に滞 提事実に加え、関係各証拠によれば、さらに本件の前提として以下の事実が認められる。 ⑴ 6月18日午前1時4分頃から同日午前1時38分頃までの間、Bは、A、同人の友人ら2名の合計4名で、若草山に滞在し、その後、4人は、奈良県大和郡山市内のコンビニエンスストアに向かい、同日午前2時4分頃から同日午前2時7分頃までの間、同店で買い物をした。同コンビニエンスストアの店内で、Bは、走りまわったり、アイスを選ぶために、Aに抱きかかえられたりした。 ⑵ 同日午前2時24分頃、被告人は、同コンビニエンスストアに自動車を運転して到着し、同日午前2時31分頃、B及びAとともに、3人でA方へ向かった。A方に到着してから6月19日にC病院に向かうまで、A方にいたのは、B、A、被告人の3人だけであった。 ⑶ 6月19日、Bの容態が悪化し、被告人とAは、同日午後3時35分頃、BをC病院に連れて行った。同日午後4時12分頃、同病院においてBは死亡した。 ⑷ 6月18日から19日までの間のA方の状況は、ダイニングキッチンの床の上にマットレスが敷かれ、その隣の洋室にはエアベッドが設置され、両室の間はスライド式の戸で隔てられているというものであった。 3 D医師及びE医師の供述について⑴ D医師の供述の概要Bの死因は、十二指腸穿孔を原因とする汎発性腹膜炎である。汎発性腹膜炎は、十二指腸内の細菌が、穿孔により腹腔内に漏れ出し、それにより腹膜が細菌に感染し、腹膜全体に炎症が生じたことによるもので、十二指腸穿孔から、数時間経過して生じる。十二指腸穿孔は、腹部に対し、正面から足や 手でぐりぐりと圧迫したり、自転車のハンドルにぶつける等の外力が加えられた場合に生じるものである。十二指腸穿孔が先天的な疾患で生じるということは聞いたことがなく、潰瘍やがん し、正面から足や 手でぐりぐりと圧迫したり、自転車のハンドルにぶつける等の外力が加えられた場合に生じるものである。十二指腸穿孔が先天的な疾患で生じるということは聞いたことがなく、潰瘍やがんなどの病気によって生じるのは、Bの年齢の児童では、通常想定できない。解剖の結果からも、潰瘍やがんの痕跡は見つけられなかった。転倒をしたことで、十二指腸穿孔が生じた可能性も否定はできないが、手足に怪我が生じていないことからその可能性は低い。 十二指腸穿孔が生じてからは、かなりの痛みを感じるはずであるから、走り回ったり、嫌がることなくお腹を抱えられたりすることは考えられない。 ⑵ E医師の供述の概要Bの死因は十二指腸穿孔による汎発性腹膜炎と考えられる。本件での十二指腸穿孔の原因は、腹部の正中の辺りから外力が加わり、十二指腸が背骨と挟まれたことで生じたものと考えられる。司法解剖の所見からも、先天性の異常や十二指腸潰瘍から穿孔が生じたとは考えられない。解剖時の所見から、肘や膝に、穿孔と同時期に起こったような擦り傷や打撲痕もないことから、Bが転倒したことにより穿孔が生じたとも考えられない。十二指腸穿孔が生じた場合は、痛いと思うので、そのような状態で走り回ることは考えられない。腹膜炎の症状の代表的な所見は、非常に強い腹痛、嘔吐、吐き気、発熱である。 ⑶ 上記のとおり、両医師は、それぞれの専門的分野において豊富な経験を有しており、その経験に基づく専門的知見から意見を述べている。その上で、両者のBの死因に関する供述は一致しており、内容にも不合理な点はないことから、両医師の上記証言の信用性は認められる。 4 十二指腸穿孔が外力によるものか否か上記のとおり信用できるD、E医師の供述によれば、十二指腸穿孔は腹部に対する外力によって生じたものと認 から、両医師の上記証言の信用性は認められる。 4 十二指腸穿孔が外力によるものか否か上記のとおり信用できるD、E医師の供述によれば、十二指腸穿孔は腹部に対する外力によって生じたものと認められる。弁護人は十二指腸潰瘍により穿孔が生じた可能性を指摘するが、両医師とも、十二指腸潰瘍の所見は認められ ないとともに、潰瘍による穿孔に見られるようなびらんが認められないことなどを理由に否定的である旨述べており、この点に関する弁護人の指摘は採用できない。 5 十二指腸穿孔が生じた時期上記前提事実のとおり、Bは、6月18日の午前2時過ぎの時点で、コンビニエンスストア内で走り回っていた様子が見受けられることから、同コンビニエンスストアを出発した時点で、十二指腸穿孔は生じていなかったと認められる(D医師も、同コンビニエンスストア内での防犯カメラ映像を見た上で、この時点で十二指腸穿孔が生じていたとは考えられないと供述する。)。また、同コンビニエンスストアからA方に向かうまでの間に、Bが痛みを訴えたことをうかがわせる事情は証拠上認められないことを踏まえると、コンビニエンスストアからA方への移動中にBに十二指腸穿孔が生じた可能性も考えにくい。 よって、少なくとも、BがA方に到着した時点において、Bに十二指腸穿孔が生じていなかったことが認められる。 そうすると、Bに十二指腸穿孔が生じた時期(外力が加えられた時期)は、少なくとも、6月18日にBらがA方に到着して以降であると認められる。 6 被告人がBに対し、暴行による外力を加えたか⑴ A供述についてア Aは当公判廷において、6月18日以降の事実関係につき、概要以下のとおり供述する。 6月18日の未明に帰宅後、ダイニングキッチンの部屋に敷いたマットレスに私、B、被告人の順 A供述についてア Aは当公判廷において、6月18日以降の事実関係につき、概要以下のとおり供述する。 6月18日の未明に帰宅後、ダイニングキッチンの部屋に敷いたマットレスに私、B、被告人の順に3人で横になって寝ようとした。しかし、Bが被告人を嫌がったので、Bを被告人の反対側に移動させたところ、被告人がBを連れて、エアベッドのある部屋に行った。私は、寝たつもりがなかったが、同日の午前6時34分、被告人の「Bが吐く」という声で目が覚め、エアベッドのある寝室に行くと、Bがうずくまって嘔吐していた。 イこうしたA供述は、仮にそのとおりの事実が認められるとした場合、Bの嘔吐の時期や、それまでの位置関係から、被告人がBに暴行を加える機会があったことを示唆するものであり、その信用性が問題となる。そこで、A供述の信用性について検討する。 ウ Aは、6月19日の警察官による取調べにおいて、6月18日の帰宅後、被告人は一人でエアベッドで寝て、AとBはマットレスの上で過ごし、Bは寝て起きてを繰り返し、自分は、一睡もできなかった、朝6時頃、AがBの体に触れると、いつもより体が熱かったため、異変に気付いた旨供述した。そして8月20日の警察官による取調べにおいては、当公判廷での供述と相当程度共通する内容の供述をしているが、被告人とBがエアベッドで寝るに至った経緯につき、当公判廷での供述と説明内容が異なっている。このように、Aの供述は、6月18日の帰宅後の3人の位置関係や、Bの体調不良に気付く過程など、被告人の犯行可能性を示す核心部分について、複数回にわたり大きな内容の変遷が認められる。 この点、Aは当公判廷において、6月19日の警察での取調べでは、Bが亡くなったことでパニックになり、6月18日の就寝時から同日の朝にかけての出来事と、同日の夜 わたり大きな内容の変遷が認められる。 この点、Aは当公判廷において、6月19日の警察での取調べでは、Bが亡くなったことでパニックになり、6月18日の就寝時から同日の朝にかけての出来事と、同日の夜から19日の朝にかけての出来事を勘違いして話してしまったと供述する。 確かに、娘の死亡直後にパニックになること自体は十分考えられるものの、上記の勘違いをしていたとしても、供述していく中で時系列の破綻に十分気付き得るものと考えられる。さらに、Aは、6月19日の取調べから8月20日に至るまでにも、複数回にわたって取調べを受け、これらの取調べに際しても、6月19日の供述内容の訂正を申し出ていないのであって、この間に記憶が喚起されず、8月20日になって記憶が喚起されて供述内容を訂正できたというのは不合理といわざるを得ない。よって、供述の変遷に合理的な理由があるとは認められない。 エまた、本件当時の状況から、A自身も疑われうる立場であることや、従前から、自身がBに対して虐待をしていたことを疑われるのを恐れていたとうかがわせる事情が認められることからも、自身の疑惑を回避しようと供述する動機がないとはいえない。 なお、検察官は、Aが、C病院に向かう最中にBに対して心臓マッサージをしたという事実を含め、有利不利を問わず供述していることなどを指摘するが、この点が、Aにとって特段不利益な事実とまでは評価できないことから、検察官の指摘は当たらない。 オ以上から、本件におけるA供述はその信用性に疑問が残り、その供述どおりの事実を認めることはできず、6月18日の帰宅後から朝にかけて、被告人がBと2人であったとの検察官の主張は、その前提を欠くこととなる。 ⑵ 被告人とBの従前の関係性被告人自身も、従前のAとのLINEのやり取りで、被告人 月18日の帰宅後から朝にかけて、被告人がBと2人であったとの検察官の主張は、その前提を欠くこととなる。 ⑵ 被告人とBの従前の関係性被告人自身も、従前のAとのLINEのやり取りで、被告人の存在がBのストレスになることを示唆していたことから、Aの供述どおり、Bは、被告人のことを怖がっていたこともあったことが認められる。しかし、このことが、本件において被告人がBに暴行を加えたことを直接推認させるものとはいえないし、証拠からうかがわれる被告人、B及びAの本件までの経過に照らせば、Bが被告人を怖がっていた原因が被告人による叱責等によるもので暴行以外にある可能性も十分に考えられる。また、Aの供述する被告人のBに対する暴行を見ても、十二指腸穿孔が生じるような腹部を足や手でぐりぐりと圧迫するような暴行や同程度の激しい暴行は加えられていない。結局のところ、この点が、本件において被告人がBに暴行を加えたことを推認させる程度は限定的である。 ⑶ 被告人のインターネット閲覧履歴関係各証拠によれば、被告人の携帯電話機には、6月16日付けで「4歳 児内蔵破裂」「内臓破裂初期症状」「子供内臓損傷症状」「内臓破裂気づかない子供」「内臓破裂どのくらいの衝撃」等の、6月20日付けで、「胃腸炎原因子供」「十二指腸潰瘍」「胃腸破裂子供」「胃破裂死亡」等の内容のグーグルでの検索結果のページの閲覧履歴が残されていることが認められる。 本件の証拠上、グーグルでの検索結果のページは、被告人自身が文字を打ち込み検索したことによるものか、一定の文字や単語を入力した段階で現れるサジェストに沿って検索したことによるものかは判別できず、被告人が上記の単語をどの程度意図的に検索していたかについては必ずしも判然としない。また、6月16日の検 定の文字や単語を入力した段階で現れるサジェストに沿って検索したことによるものかは判別できず、被告人が上記の単語をどの程度意図的に検索していたかについては必ずしも判然としない。また、6月16日の検索結果について、本件の時期までには、複数日間隔があることに加え、立て続けに検索しており、どの程度の時間被告人が閲覧していたかについても定かではないことから、このことをもって直ちに被告人が犯行の機会を探っていたり、日頃からBに暴行を加えていたとして、本件について被告人がBに暴行を加えたことを推認させるものとはいえない。 また、6月20日の検索について、被告人は、AからBの司法解剖の結果を聞き、原因を探るために検索したものであると供述しているところ、そうした被告人の供述に不合理な点は認め難く、この点も、被告人が本件においてBに暴行を加えたことを推認させるものとはいえない。 ⑷ 以上を踏まえれば、被告人が6月18日の未明から同日午前6時30分頃にかけて、Bと二人でおり暴行する機会があったとは認められず、Bと被告人の従前の関係性や、被告人のインターネット閲覧履歴などの事情もその推認力は限定的である。したがって、検察官が主張するその他各証拠を踏まえても、本件当時の状況等に照らせば、Aや被告人が犯罪行為といえない態様で外力を加えた可能性(誤って足や膝でBの腹部に外力を加えるなど)など、被告人の暴行以外の原因で外力が加えられた具体的可能性が排斥されたとはいえず、被告人が公訴事実記載の時間帯に、暴行による外力を加えたと認め るには立証が不十分である。 7 以上の次第であるから、本件について、Bの十二指腸穿孔が被告人の暴行以外の要因によって生じた合理的な疑いが残る。 第4 結論よって、本件各公訴事実については、結局、いずれも犯罪の証明がないこと 以上の次第であるから、本件について、Bの十二指腸穿孔が被告人の暴行以外の要因によって生じた合理的な疑いが残る。 第4 結論よって、本件各公訴事実については、結局、いずれも犯罪の証明がないことに帰する。そこで、刑事訴訟法336条により、被告人に対し無罪の言渡しをする。 (求刑:懲役8年)令和7年3月19日奈良地方裁判所刑事部 裁判長裁判官澤田正彦 裁判官木内悠介 裁判官林香穂
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