令和7(ネ)10055 損害賠償等請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
令和8年1月26日 知的財産高等裁判所 4部 判決 控訴棄却 東京地方裁判所 令和6(ワ)70264
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令和8年1月26日判決言渡 令和7年(ネ)第10055号損害賠償等請求控訴事件(原審・東京地方裁判所令和6年(ワ)第70264号) 口頭弁論終結日令和7年11月25日判決 控訴人 株式会社ザ・リラクス 同訴訟代理人弁護士 高瀬亜富 旧商号 株式会社アダストリア 被控訴人 株式会社アンドエスティHD 被控訴人訴訟引受参加人 株式会社アダストリア (被控訴人と合わせて、以下「被控訴人ら」という。) 上記両名訴訟代理人弁護士 岩瀬ひとみ 松永徳宏 湯村暁 秋田慧一郎 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴人の被控訴人訴訟引受参加人に対する請求を棄却する。 3 訴訟費用(当審における参加によって生じた費用を含む。)は、第1、2審を通じて控訴人の負担とする。 事実及び理由 (略語は、本判決で別途定めるもののほか、原判決の例による。) 第1 控訴の趣旨(後記第2の3記載の訴えの変更後のもの) 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して、483万5800円及びこれに対する令和5年1月16日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 本件は、原告各商品(原判決別紙原告商品目録記載1から3までのコート)を販売する控訴人が、被控訴人の販売する被告商品(原判決別紙被告商品目録記載のコート)は原告各商品の形態を模倣した商品であり、その販売は不正競争に該当するとして、損害賠償を求めた事案である。 商品(原判決別紙原告商品目録記載1から3までのコート)を販売する控訴人が、被控訴人の販売する被告商品(原判決別紙被告商品目録記載のコート)は原告各商品の形態を模倣した商品であり、その販売は不正競争防止法(法)2条1項3号に該当すると主張して、被控訴人に対し、法4条、5条1項に基づき、損害賠償金483万5800円及びこれに対す る被告商品の販売後である令和5年1月16日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 2 原判決は、被告商品は原告各商品の形態を模倣したとは認められないとして、控訴人の被控訴人に対する請求を全部棄却したところ、控訴人がこれを不服として控訴をした。 3 被控訴人は、原審の口頭弁論終結後の令和7年9月1日を効力発生日として、被控訴人訴訟引受参加人を吸収分割承継会社とする吸収分割をし、被控訴人訴訟引受参加人は債務を重畳的に引き受けた。当裁判所は、同年11月18日、被控訴人訴訟引受参加人に本件訴訟を引き受けさせることを命じ、控訴人は、前記第1の2記載のとおり訴えを変更した。 第3 前提事実 前提事実は、原判決「事実及び理由」第2の1(1頁~)に記載するとおりであるから、これを引用する。 第4 争点及び争点に関する当事者の主張本件の争点及び当事者の主張は、当審における控訴人の補充的主張並びに被控訴人の補充的主張及び被控訴人訴訟引受参加人の主張を以下に補足する ほか、原判決「事実及び理由」第2の2及び3(2頁~)に記載のとおりであるから、これを引用する。 【控訴人の補充的主張】(1) 原告各商品と被告商品の各形態の実質的同一性の有無(争点1)について ア需要者を基準に判断すれば、原告各商品と被告商品の形態が実質的に同一で 用する。 【控訴人の補充的主張】(1) 原告各商品と被告商品の各形態の実質的同一性の有無(争点1)について ア需要者を基準に判断すれば、原告各商品と被告商品の形態が実質的に同一であることは明らかである。 (ア) 原判決は、原告各商品と被告商品の共通点とされる形態のうち、以下の①から③まで(番号ごとに、以下「特徴①」などといい、まとめて「本件共通点」という。)が、需要者の商品全体に対する印象に大き な影響を与える事実を見落としている。 ① ベースとなる生地の面積について通常のコートよりもかなり大きなサイジングを行うことで、バストから裾にかけて全体的に膨らみの生じる略Aラインのシルエット② 裾から脇下までの非常に長いスリット(切れ目)を有するサイドベ ンツスリット③ 前身頃に5つの丸いスナップボタンが等間隔で取り付けられ、最上部のボタンは襟元、最下部のボタンを腰部に配置されることそして、両商品の形態が実質的に同一であることは、実際の需要者を調査対象としたアンケート(以下「本件アンケート」という。)の調査 結果からも裏付けられる。控訴人は、一般消費者800人を対象として 本件アンケートを実施したところ、原告商品1及び原告商品2と被告商品の形態について、回答者の8割以上がその類似性を肯定しており(Q1)、その理由を記載する自由記述欄(Q2)でシルエット(特徴①)等の類似性に言及している。 (イ) また、原判決は、相違点(後見頃の中心線の有無、前見頃のポケッ トの有無、素材の違い、袖の形状、スタンドカラー状態で装着されたチンフラップの有無など。以下「本件相違点」という。)が需要者に与える印象を過大評価しているが、本件アンケートの調査結果(Q3)などを踏まえても、チンフラップの装着 、スタンドカラー状態で装着されたチンフラップの有無など。以下「本件相違点」という。)が需要者に与える印象を過大評価しているが、本件アンケートの調査結果(Q3)などを踏まえても、チンフラップの装着は通常の用法に従った使用とはいえない。本件相違点は、需要者が通常の用法に従った使用に際し て直ちに認識することができず、商品全体の印象を異なったものにするに至らないことは明らかである。 (ウ) さらに、控訴人が調査したところ、原告商品3が販売された時点で、本件共通点の全てを兼ね備える同種商品は存在しなかった(甲30、31。枝番を含む。以下同じ。)。同時点で販売されている同種商品に 存在しないこれらの形態は、需要者の商品全体に与える印象に大きな影響を与えることは明らかである。 イ仮に、原告各商品と被告商品の形態について需要者基準で判断した場合に実質的に同一の形態でないとしても、創作者基準で判断した場合には実質的に同一の形態である。 (ア) 形態の実質的同一性については、法2条1項3号の趣旨から創作者(デザイナー)の基準で判断すべきである。創作者基準による場合の実質的同一性の判断においては、まず、商品間における商品の形態を比較し、商品の形態全体から見て重要な意味を有する部分(独自的要素の部分)が共通するかどうかで判断することになり、本件では、本 件共通点が原告各商品の形態全体からみて重要な意味を有する部分で あるから、これらを共通する原告各商品と被告商品の実質的同一性は肯定されるべきである。 (イ) そして、本件相違点については、創作者である被控訴人による原告各商品の形態の容易な改変であり、又は、コストダウンのために手間若しくは費用をかけない方向で容易に設計変更できる部分であるから 考慮すべきでは 件相違点については、創作者である被控訴人による原告各商品の形態の容易な改変であり、又は、コストダウンのために手間若しくは費用をかけない方向で容易に設計変更できる部分であるから 考慮すべきではない。 (ウ) なお、上記の創作者基準説に基づく主張について、被控訴人らによう時機に後れた攻撃防御方法の却下の申立てに係る主張については、争う。 (2) 被告商品の依拠性の有無(争点2)について 被控訴人らは、被告商品のデザインが被控訴人のVS-2021という商品に依拠しており、VS-2021のデザインは被控訴人のVS-2020に依拠していると主張する。しかし、VS-2020及びVS-2021は、原告商品3のデザイン公開後にデザインされており、原告商品3を特徴付ける基本的形態及び具体的形態の細部に至るまで全ての点で同一であるか ら、いずれも原告商品3の形態を模倣したものであるとみるのが自然である。 (3) 被控訴人訴訟引受参加人に対する請求について被控訴人訴訟引受参加人は、吸収分割により、被控訴人より本件訴訟の対象である損害賠償債務及び遅延損害金支払債務を重畳的に承継した。 したがって、控訴人は、被控訴人訴訟引受参加人に対しても、被控訴人に 対するのと同額の請求をする。 【被控訴人の補充的主張及び被控訴人訴訟引受参加人の主張】(1) 原告各商品と被告商品の各形態の実質的同一性の有無(争点1)についてア実質的同一性に関する主張について 控訴人の実施した本件アンケートの調査結果は、敢えて訴訟となって いるコートに関するものという予断を与えた上で、コートの近接写真は採用せずコート全体のみを小さく写した、解像度の低い画像をもって、携帯電話やパソコンの画面上で比較させるという恣意的なものであ いるコートに関するものという予断を与えた上で、コートの近接写真は採用せずコート全体のみを小さく写した、解像度の低い画像をもって、携帯電話やパソコンの画面上で比較させるという恣意的なものであり、実施方法が不適切であるから、その結果は実質的同一性の判断に影響を与えるものとはなり得ない。そもそも控訴人が需要者の商品全体に与え る印象に大きな影響を与えると主張する本件共通点は、原審で主張したとおり、いずれも原告各商品と被告商品で共通していない。 イ創作者基準に関する主張について(ア) 「創作者基準」による主張及びこれに関連して提出された証拠は時機に後れて提出された攻撃防御方法であるから、却下されるべきであ る。 (イ) 仮に、創作者基準を前提にしたとしても、原告各商品と被告商品の実質的同一性は否定されるべきである。被告商品は、控訴人の主張する特徴①及び特徴③を備えていないのみならず、特徴②については、男性向けのコートにおける深いサイドスリットは、原告各商品が販売 される以前から流行の兆しがみられていたものであるから、原告各商品の独自的要素とはいえない。 (2) 被告商品の依拠性の有無(争点2)について被告商品は、被控訴人の過去の商品であるVS-2020及びVS-2021をベースとして企画・デザインされたものであって、原告各商品のい ずれにも依拠していない。原告商品3に依拠してVS-2020をデザインするということは、時系列的に不可能である。 (3) 被控訴人訴訟引受参加人に対する請求について本件訴訟において控訴人が主張する被控訴人の損害賠償等の債務は存在しないから、被控訴人訴訟引受参加人の債務も存在しない。 第5 当裁判所の判断 1 当裁判所も、被告商品は原告各商品の形態 において控訴人が主張する被控訴人の損害賠償等の債務は存在しないから、被控訴人訴訟引受参加人の債務も存在しない。 第5 当裁判所の判断 1 当裁判所も、被告商品は原告各商品の形態を模倣したものとは認められないから、その余の点を論ずるまでもなく、控訴人の被控訴人らに対する請求はいずれも理由がないと判断する。その理由は、以下のとおりである。 2 争点1(原告各商品と被告商品の各形態の実質的同一性の有無)について(1) 原告各商品と被告商品の各形態に係る認定事実等は、原判決「事実及び 理由」第3の1(1)(15頁~)に記載のとおりであるから、これを引用する。 (2) 原告各商品及び被告商品の各形態が実質的同一であるとはいえないことについては、後記(3)及び(4)において当審における控訴人の補充的主張に対する判断を加えるほかは、原判決「事実及び理由」第3の1(2)(16頁 ~)に記載のとおりであるから、これを引用する。 (3) 本件アンケートの調査結果に基づく実質的同一性の主張についてア控訴人は、原告商品1及び2と被告商品の形態について、本件アンケートの回答者の8割以上が類似性を肯定し(Q1)、両商品の形態を「似ている」と選択した者の半数以上が、類似性を肯定する理由として「シ ルエット」等の本件共通点に言及しているから(Q2)、需要者の印象を基準にした場合、両形態の実質的同一性が肯定されると主張する。 しかし、本件アンケートでは、コートの近接写真は採用されず、コート全体のみを写した解像度不明な画像をもって、携帯電話やパソコンの画面上で比較させるという方法をとっており(甲27)、実際に手に 取って観察するのとはおのずから得られる印象が異なるといえるから、「需要者が通常の用法に従った使用に際して 携帯電話やパソコンの画面上で比較させるという方法をとっており(甲27)、実際に手に 取って観察するのとはおのずから得られる印象が異なるといえるから、「需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様、色彩、光沢及び質感」という「商品の形態」(法2条4項)に関する需要者の認識を正確に把握するものであるとまでいうことはできない。 そして、本件アンケートの調査結果においても、「よく似ている」と して80点以上の点数を付けた回答者は全体の41.0%(甲27の1)ないし44.0%(甲27の3)にすぎず、かえって、「あまり似ていない」、「ほとんど似ていない」、「全く似ていない」として40点未満の点数を付けた回答者が全体の8.5%(甲27の1)ないし7. 5%(甲27の3)存在する。 以上によれば、本件アンケートの調査結果をもって、原告各商品と被告商品の形態が実質的に同一であるとすることはできない。 イまた、本件アンケートの調査結果(Q3)では、全回答者のうちの約7割の者が、原告商品1及び2と被告商品を着用する場合に「襟を寝かせた状態」の方が多いと回答しているところ、控訴人は、これをもって被 告商品についてチンフラップを付けて襟を立てた状態の着用が通常の用法に従った使用ではないと主張する。 しかし、上記調査結果においても、その余の回答者は「襟を立てた状態と襟を寝かせた状態を同じくらいすると思う。」、「襟を立てた状態をすることが多いと思う。」などと回答しており、上記商品の襟を立て た状態での着用も「通常の用法に従った」用法であると認めるのが相当である。 さらに、控訴人は、SNSサイト「Instagram」の投稿画像において などと回答しており、上記商品の襟を立て た状態での着用も「通常の用法に従った」用法であると認めるのが相当である。 さらに、控訴人は、SNSサイト「Instagram」の投稿画像において被告商品と同種のバルカラーコートを着用する需要者のうち、襟を立ててチンフラップを装着した状態で撮影している画像(上位300件)を調 査したところ、その割合は1%程度であったとする調査報告書(甲29)を提出する。しかし、上記調査の方法(「#バルカラーコート」のハッシュタグをつけた投稿の検索)において、どのようなアルゴリズムにより上記画像(上位300件)が選出されたかは不明であり、さらに、たとえ1%であるとしても、実際に襟を立ててチンフラップを装着した状 態で撮影している画像が存在する以上、当該状態による使用を「通常の 用法に従った」用法ではないとすることはできない。 ウさらに、控訴人は、原告商品3が販売された時点で、本件共通点の全てを兼ね備える同種商品は存在しなかったと主張し、調査報告書等の証拠(甲30、31)を提出する。 しかし、上記調査報告書(甲30)では、その調査方法を「各ウェブ サイトに画像が掲載された同種商品(バルカラーコート)のうち、少なくとも正面視又は側面視のいずれかが被写体とされ、かつ、商品の形態や商品説明等から、いずれも原告商品3の同種のバルカラーコートであり、かつ、原告商品3のデザインが一般公開された2020年2月10日より以前に販売されていると合理的に判断できるものを調査対象とし た」とするだけで、調査対象とされた商品画像の母数やその検出方法は不明である。そうすると、上記調査報告書における調査の網羅性や調査の適切さも不明なままに、原告商品3が販売された時点で本件共通点の全てを兼ね備え けで、調査対象とされた商品画像の母数やその検出方法は不明である。そうすると、上記調査報告書における調査の網羅性や調査の適切さも不明なままに、原告商品3が販売された時点で本件共通点の全てを兼ね備える同種商品は存在しなかったなどと断言できるものではない。 エ以上によると、控訴人の主張する本件アンケートの調査結果をもってしても、前記判断は左右されない。 (4) 創作者基準に基づく実質的同一性の主張についてア控訴人は、仮に、原告各商品と被告商品の形態について需要者基準で判断した場合に実質的に同一の形態でないとしても、創作者基準で判断し た場合に実質的に同一の形態であると主張する。 そこで判断すると、法2条1項3号は、他人の「商品の形態」を模倣した商品を譲渡するなどの行為を「不正競争」と定め、当該「商品の形態」については、同条4項において、「需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形 状並びにその形状に結合した模様、色彩、光沢及び質感」をいうと定め ており、需要者による認識を基準に判別できる形状等としている。そうすると、商品の形態が実質的に同一であるかを判別するに当たっても、商品の需要者の認識を基準として判断するのが相当であり、控訴人の上記主張は採用することができない。 仮に、控訴人が主張する創作者基準で判断するとしても、前記引用に 係る原判決認定の本件相違点(原判決「事実及び理由」第3の1(2)ア(イ)及びイ(イ))、特にチンフラップを付けて襟を立てた(スタンドカラー)状態にした場合の具体的デザインや袖の形状(肩の形状)などに鑑みれば、これを直ちに原告各商品の形態の容易な改変であるとみることは困難であり、原告各商品と被告商品が実質的に同一である スタンドカラー)状態にした場合の具体的デザインや袖の形状(肩の形状)などに鑑みれば、これを直ちに原告各商品の形態の容易な改変であるとみることは困難であり、原告各商品と被告商品が実質的に同一であるというこ とはできない。控訴人は、本件相違点がコストダウンのために手間若しくは費用をかけない方向で容易に設計変更できるものであると主張し、これに沿う内容の控訴人の取締役兼デザイナーである A の陳述書(甲26)を提出するが、客観的な裏付け証拠を伴うものではなく、生地費用等からコストダウンが可能であることを指摘するものの、本件相 違点について改変容易さを具体的に説明するものでもない。したがって、控訴人の主張は採用し得ない。 イなお、被控訴人らは、控訴人の創作者基準に基づく主張について、時機に後れて提出された攻撃防御方法であるとしてこれを却下する申立てをする。しかし、同主張ないしこれに関する証拠の提出が本件訴訟の完結 を遅延させることになるものとは認められないから、上記申立てはこれを却下する。 第6 結論以上によれば、その余の点について検討するまでもなく、控訴人の請求はいずれも理由がないから、被控訴人に対する本件控訴を棄却し、被控訴人訴訟引 受参加人に対する請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第4部 裁判長裁判官 長谷川浩二 裁判官 岩井直幸 裁判官 岩井直幸 裁判官 安岡美香子

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