- 1 -平成18年10月2日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成16年(ワ)第25429号損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成18年9月4日判決主文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1請求被告は,原告に対し,1500万円及びこれに対する平成13年12月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,A(昭和24年1月22日生まれ,女性。)が,被告の開設する財団法人B病院(以下「被告病院」という。)に入院中の平成13年11月21日,同病院4階のベランダから地上に転落し,同年12月3日,頸椎損傷によって死亡したことについて,Aの夫である原告が,被告に対し,被告病院の従事者らには,Aに自殺念慮のあったことを知りつつ,一般病棟に入院させ続けた過失等があったと主張して,診療契約の債務不履行又は不法行為に基づき,損害賠償金の一部の支払を求める事案である(以下,特に年を示さない限り,すべて平成13年のことである。)。 前提事実(証拠を掲記しない事実は,当事者間に争いがない。)(1)当事者ア原告原告は,Aの夫である。 イ被告- 2 -被告は,被告病院を開設している財団法人である。 (2)Aが被告病院に入院するに至った経緯アAは,以前より不眠等の症状に悩まされ,日中も発作的に不安感が生じ,家事もできないような状態が続いていたことから,8月9日,C病院神経科を受診した。Aは,同病院において,心因反応(抑うつ反応)と診断され,その後も11月1日までの間,月2回の頻度で同病院を受診しながら,睡眠剤及び精神安定剤の投薬を受けていた(甲A2,乙A4・6ないし11頁,13頁)。 イ11月11日夕方,原告が外出先から帰宅すると,Aが左手首から血を流 間,月2回の頻度で同病院を受診しながら,睡眠剤及び精神安定剤の投薬を受けていた(甲A2,乙A4・6ないし11頁,13頁)。 イ11月11日夕方,原告が外出先から帰宅すると,Aが左手首から血を流した状態で倒れていた。Aは,同日午後4時25分,原告の手配した救急車でC病院へ搬送され,同病院にて左手首の傷口を縫合するなどの処置を受けたが,満床のため,自宅へ戻った(乙A4・11頁,12頁,18頁)。 ウ原告は,Aが呼びかけに対して反応しなくなったことから,11月11日夜,Aを被告病院へ連れていき,Aは,同日午後9時30分,同病院に入院した(甲A4・3頁,甲A6・1頁,2頁,乙A1・2頁,乙A3・3頁,23頁,24頁,乙A4・12頁)。これにより,Aと被告との間に,Aについての診療契約が成立した。 (3)被告病院における診療経過等アAは,11月11日から被告病院に入院し,被告病院内科部長のD医師のもとで全身状態改善のための治療を受けていたが,同月20日から21日にかけての深夜,投身自殺を図り,同病院4階ベランダから地上に転落した(以下「本件転落事故」という。)。同日午前1時20分ころ,被告病院看護師らが中庭で倒れているAを発見し,午前3時20分ころ,Aを国立病院E医療センターへ搬送したが,Aは,その後回復することなく,12月3日午前9時43分,頸椎損傷により死亡した(甲A1,甲A4・8頁,甲A6・6頁,甲A8,乙A3・8頁,26頁,43頁,44頁)。 - 3 -イ被告病院におけるその余の診療経過は,別紙診療経過一覧表記載のとおりである。また,被告病院における投薬経過は,別紙投薬一覧表記載のとおりである(ただし,11月13日から同月18日までのヒルナミン投与に関する部分は除く。)。 ウなお,被告病院に精神科病棟はなかった。 争点 ,被告病院における投薬経過は,別紙投薬一覧表記載のとおりである(ただし,11月13日から同月18日までのヒルナミン投与に関する部分は除く。)。 ウなお,被告病院に精神科病棟はなかった。 争点 (1)過失アAに自殺念慮があることを熟知しながら,11月19日以降も被告病院の一般病棟に入院させ続けた過失(原告の主張)以下の経過より,被告病院の従事者らは,11月19日までの時点で,Aに自殺念慮があることを認識していたのであるから,Aを精神科病院へ転院させるべき義務を負っていた。にもかかわらず,D医師は,同日以降もAを被告病院の一般病棟に入院させ続け,その結果,本件転落事故を引き起こした。 (ア)Aは,C病院において,心因反応(抑うつ反応)と診断され,睡眠薬や精神安定剤の処方を受けており,11月11日,自宅において,左手首を切る自殺を図って,同日,被告病院に入院したという経過がある。 (イ)D医師は,11月14日,被告病院精神科のF医師に対し,Aの自傷行為の可能性,一般病棟入院の適否等について見解を問う他科診療依頼を行い,同医師から「抑うつ状態にて未だ自殺念慮も残存しています。 できれば入院加療が必要です。夫とも相談して精神科入院加療を勧めて下さい。一般科ではやれないこともないでしょうが,スタッフが慣れていないと困難なことが多いでしょう。」との回答を受けていた。 (ウ)D医師は,11月17日,原告に対し,「Aは,また,何を起こすかわからないので,他の病院に移りませんか。」との神経科医師の話を伝え- 4 -た。 (エ)看護計画には,11月12日に「衝動的に自傷行為を起こす可能性がある。」と記載され,Aの身体には自殺未遂の際の傷の他,いわゆる「ためらい傷」が数か所あることが記載されていた。また,同月17日には「いまだ自殺念慮あ 1月12日に「衝動的に自傷行為を起こす可能性がある。」と記載され,Aの身体には自殺未遂の際の傷の他,いわゆる「ためらい傷」が数か所あることが記載されていた。また,同月17日には「いまだ自殺念慮あり,精神科入院治療すすめた方がいいのでは?」と記載されていた。 (被告の主張)D医師が,Aにつき,被告病院の一般病棟での入院治療を継続したのは,本来の入院目的である出血後の高度の貧血に対する治療のために必要と判断したことに基づく。当初,これまで治療を受けていたC病院に転院した方が良いと考え,C病院での診察を依頼したが,C病院には精神科病棟がないばかりか,常勤の精神科医もおらず,また,被告病院での入院治療につき原告の希望もあったことから,まず被告病院において貧血の治療を行い,精神科に関する問題については,被告病院の精神科医の診察を受けさせることにしたものである。 仮にAを精神科病院に転院させて治療を受けさせるにしても,患者をいきなり一般病院から精神科病院へ簡単に転院させられるものではなく,また,精神科病院への入院はかえって患者の絶望感を助長する可能性もあるので,慎重な対応が必要となる。F医師の判断も,「できれば入院加療が必要です。」というものであり,精神科病院への入院を必須と考えていたわけではない。 したがって,Aにつき被告病院の一般病棟での入院治療を継続したことに過失はない。 イAを一般病棟に入院させ続けておきながら,睡眠薬の量を減らし,また,睡眠導入剤の不足を補完する薬の投与を中止してAの不眠を悪化させた過失(原告の主張)- 5 -Aは,心因反応に基づく不眠症によって自殺を図ったことがきっかけで被告病院に入院したのであり,原告は,D医師に対して,C病院での経過から,Aには効果の強い睡眠薬が必要であり,C病院で処方されていた薬を使用す 因反応に基づく不眠症によって自殺を図ったことがきっかけで被告病院に入院したのであり,原告は,D医師に対して,C病院での経過から,Aには効果の強い睡眠薬が必要であり,C病院で処方されていた薬を使用するよう訴えていた。 したがって,D医師は,自殺念慮をもつAに対して,効果の強い睡眠薬を処方し,同人を熟睡させて自殺防止の措置を講ずる義務を負っていた。 にもかかわらず,D医師は,サイレースの処方量をC病院で処方されていた2㎎から1㎎に減量し,また,ヒルナミンの投与を11月13日から同月18日まで中止し,これらによりAの不眠状態を悪化させ,本件転落事故を招いた。 (被告の主張)(ア)サイレースの減量について本件において,Aに対するサイレースの処方量を減量したのは,睡眠薬投与により生じる睡眠導入の効果と起立時におけるふらつき等の副作用や入院前後に認められた意識レベルの低下などとの関係を考慮して,転倒の危険を防止するため及び全身状態を改善するためであり,Aの血圧低下や貧血の度合いから考えても,サイレースの減量が不適切であったとはいえない。 (イ)ヒルナミンの投与について11月13日から同月18日にもAに対しヒルナミンを投与しており,ヒルナミンの投与を中止した事実はない。 ウAを一般病棟に入院させ続けておきながら,自殺念慮のあるAに対する監視を怠った過失(原告の主張)Aが入院していた病室は,内側から手動で解錠してベランダに出られる構造の部屋であった。自殺念慮があるAをそのような部屋に入院させたのであ- 6 -るから,被告病院従事者らは,Aが夜間ベランダに出て自殺を図ることを予見し得たのであり,厳重な監視体制をとることにより,Aがベランダから転落するのを防止すべき義務があった。にもかかわらず,被告病院の従事者らは,Aに対する厳重な常時監 ベランダに出て自殺を図ることを予見し得たのであり,厳重な監視体制をとることにより,Aがベランダから転落するのを防止すべき義務があった。にもかかわらず,被告病院の従事者らは,Aに対する厳重な常時監視を行わず,また,11月21日午前零時の定時巡視を怠り,その結果,本件転落事故を発生させた。 (被告の主張)被告病院では,夜間帯は,2名の看護師が被告病院4階の病室を担当しており,午後8時から午前8時までの間,2時間おきに全室に定時巡視を行い,その他,患者の状態に応じて個別巡視を行っていた。 また,被告病院の看護部においては,1日3回,ミーティング及びカンファレンスを実施しており,Aについては,入院直後から,自殺未遂を行った患者であるため特に注意するようにとの確認がされており,担当医師からも同様の指示がされていた。これらの内容は,看護計画に記載されており,Aを担当する看護師は,それに目を通した上で,監視を行っていた。 自殺企図者に厳重な自殺予防措置や観察を過度に実施することは,かえって悪影響を及ぼすことがあり,しかも,一般病院では身体の拘束や隔離等の行動制限を行うことが許されていないから,前記看護体制以上の監視を行うのは不可能であり,監視を怠った過失は認められない。 (2)因果関係(原告の主張)Aを精神科病院に転院させていれば,Aがベランダに出ることはなかったのであり,本件転落事故が起こることもなかった。また,仮にAを精神科病院に転院させなかったとしても,効果の強い睡眠薬を処方してAを熟睡させ,また,Aに対する監視を怠っていなければ,本件転落事故を防止することができた。 よって,被告病院従事者らの前記注意義務違反と本件転落事故との間には因果関係が存在する。 - 7 -(被告の主張)以下のとおり,被告病院の対応と本件転落事故との間に因果関係 防止することができた。 よって,被告病院従事者らの前記注意義務違反と本件転落事故との間には因果関係が存在する。 - 7 -(被告の主張)以下のとおり,被告病院の対応と本件転落事故との間に因果関係はない。 (ア)自殺を決意した者は,実行可能なあらゆる手段を用いて自殺を遂げようとするのであり,それを阻止するのは不可能であるから,Aを精神科病院に転院させたからといって自殺を防げたとは限らない。 また,被告病院に入院していたこと自体がAの自殺の原因であったとは考えられず,むしろ,被告病院からの退院が11月21日に予定されていたことが自殺実行の結実因子となった可能性がある。 (イ)Aは,サイレースの減量により著しい不眠状態を来していたわけではなく,不眠により本件転落事故が生じたわけでもない。 (ウ)事前に自殺企図者の自殺行動を予測することは困難であり,場合によっては,観察が終了した数分後に患者が自殺行為に至ることもあるから,監視行為を尽くしても自殺を防止できるわけではない。 (3)損害(原告の主張)アAに生じた損害(ア)逸失利益2890万0053円Aは,死亡時において52歳であり,基礎年収額を賃金センサス女子労働者全年齢平均である341万7900円,就労可能年数を平均余命の2分の1である17年,生活費控除割合を25パーセントとして,ライプニッツ方式により中間利息を控除すれば,Aの逸失利益は,次のとおり2890万0053円である341万7900円×(1-0.25)×11.2740=2890万0053円(イ)死亡慰謝料2000万円(ウ)原告の相続Aの相続人は,原告,Aの姉及び妹の3人であり,原告は,その法定相- 8 -続分に従い,前記(ア)及び(イ)の損害賠償請求権の4分の3に当たる3667万5039円を相続した。 イ ウ)原告の相続Aの相続人は,原告,Aの姉及び妹の3人であり,原告は,その法定相- 8 -続分に従い,前記(ア)及び(イ)の損害賠償請求権の4分の3に当たる3667万5039円を相続した。 イ原告に生じた損害(ア)慰謝料200万円(イ)葬儀費用120万円(ウ)弁護士費用398万7503円ウまとめよって,原告は,被告に対し,診療契約の債務不履行又は不法行為に基づき,損害賠償金4386万2542円のうち1500万円及びこれに対する不法行為の日の翌日である平成13年12月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。 (被告の主張)原告の主張は争う。 第3争点に対する判断 前記前提事実に加え,証拠(各掲記のとおり)及び弁論の全趣旨によれば,Aの診療経過につき,以下の事実を認めることができる。 (1)Aは,以前より不眠等の症状に悩まされ,近医で安定剤の処方を受けていたが,不眠傾向が続き,日中も発作的に不安感が生じて,家事もできないような状態になったことから,8月9日,C病院神経科を受診し,心因反応(抑うつ反応)と診断された。そして,その後も11月1日までの間,月2回の頻度でC病院を受診しながら,睡眠剤及び精神安定剤の投薬を受けていた。(甲A2,甲A9・2頁,乙A4・6ないし11頁,13頁)。11月1日以降,C病院でAに処方されていた薬は,抗不安薬デパス(0.5㎎)2錠,抗パーキンソン薬アキネトン(1㎎)2錠,抗うつ薬デプロメール(25㎎)2錠を1日各2回,抗不安薬・睡眠薬サイレース(2㎎)1錠,抗精神病薬レボトミン(ヒルナミン,5㎎)2錠を1日各1回であった(乙A1・3頁,乙A4・5- 9 -頁,7頁,乙B2・1頁,2頁)。 (2)11月11日ア11月11日夕方,原告が外出先 錠,抗精神病薬レボトミン(ヒルナミン,5㎎)2錠を1日各1回であった(乙A1・3頁,乙A4・5- 9 -頁,7頁,乙B2・1頁,2頁)。 (2)11月11日ア11月11日夕方,原告が外出先から帰宅すると,Aが左手首を切り,血を流した状態で倒れていた。Aの手首には,2㎝ほどの切り傷が2か所あり,他にためらい傷も数か所ある状況であった。Aは,同日午後4時25分,原告の手配した救急車でC病院へ搬送され,同病院にて左手首の傷口を縫合するなどの処置を受けたが,同病院が満床であったため,入院することなく,自宅へ戻った(甲A4・3頁,4頁,甲A6・1頁,甲A9・2頁,乙A1・2頁,24頁,乙A4・3頁,11頁,12頁,18頁)。 イ同日夜,Aが呼びかけに対して反応しなくなったことから,原告は,心配して,午後8時5分ころ,Aを連れて被告病院を訪れた。被告病院の当直医であった川名和夫医師は,Aを診察した結果,意識は清明で,手首からの出血は見られなかったものの,血圧が86/50㎜Hgと低く,顔色も蒼白であったため,安静が必要と判断し,同日午後9時30分,Aに被告病院への入院を指示した。なお,薬については,Aが持参したC病院で処方されているものを続行するよう指示がされた(甲A4・3頁,甲A6・1頁,乙A1・2頁,乙A3・3頁,15頁,23頁,29頁,乙A4・11頁,乙A6・1頁)。 ウ同日入院後,Aは,車いすで移動する状態であったが,途中突然意識レベルが低下し(JCSⅢ-100),5分間ほど,声を掛けても返答しない状態となった。回復後も顔色は不良で,表情が硬く,午後10時30分までには入眠したものの,11月12日午前零時ころには,看護師に対し,余り眠れない旨の訴えがあった。しかし,A本人は,いらいらしないし大丈夫であると述べ,興奮している様子 情が硬く,午後10時30分までには入眠したものの,11月12日午前零時ころには,看護師に対し,余り眠れない旨の訴えがあった。しかし,A本人は,いらいらしないし大丈夫であると述べ,興奮している様子も見受けられなかったため,看護師がそのまま様子を見るよう促すと,午前2時,午前4時には,入眠していた(甲A6・2頁,乙A3・24頁)。 - 10 -(3)11月12日ア11月12日,D医師が,Aの診察及び検査を行った。検査の結果,Aは,RBC(赤血球数)245×10/μl(基準値376から516),Hb (血色素量)7.8g/dl(基準値11.2から15.2),Ht(ヘマトクリット値)23.6%(基準値34.3から45.2)であり,貧血が顕著であった(乙A3・10頁)。また,Aの午前10時の血圧は,90/42㎜Hgと低かった(乙A3・24頁)。D医師は,Aが身体がふらついて起き上がれない状態であったこと,失血による貧血が顕著で,かつ,一過性とはいえ,11月11日の夜間に意識レベルの低下が2回にわたって認められたことから,内科的な面から,精査・治療目的の入院が必要であると判断し,併せて,精神科的な治療も含めた総合的な治療を行うことが望ましいと考えた。そこで,まずは,従前Aの精神疾患を治療してきたC病院で,Aに治療を受けさせるのが最善と考え,C病院に電話をして,同病院への転院の可否を相談した(乙A3・12頁,乙A6・2頁,証人D反訳書1・1頁ないし3頁)。ところが,問い合わせの結果,C病院にも,常勤の精神科医はおらず,入院病棟もなく,同日は精神科の医師が不在であり,対応は困難であるとの回答を得たことから,D医師は,とりあえず11月15日にAをC病院精神科を受診させることとして外来予約を取ったうえ,それまでの間は,被告病院で,精神面に配 科の医師が不在であり,対応は困難であるとの回答を得たことから,D医師は,とりあえず11月15日にAをC病院精神科を受診させることとして外来予約を取ったうえ,それまでの間は,被告病院で,精神面に配慮しつつ,内科的治療計画を立てる他ないと判断した(乙A6・2頁,3頁)。 イ同日,D医師が,A及び原告に対して,その旨説明したところ,原告は,「一晩だけの入院で良かったのだから」と述べて,当初入院継続に消極的姿勢を示した。しかし,D医師が,内科的な入院・治療の必要性を再三説明した結果,原告も,しばらくの間,Aの入院を継続することを了承した(乙A6・3頁。なお,甲A4・4頁,乙A3・4頁には,D医師が,「被告病院には精神科ユニットが無いことを伝え,C病院での総合的な処置,治療を受- 11 -けるのが良いと勧めたところ,原告が,なお3,4日の間,Aが被告病院に入院することを希望した。」旨の記載があるけれども,上記記載は,原告本人の陳述書(甲A9・3頁)に反するうえ,上記D医師の陳述書(乙A6・3頁)の記載にも反するものであって,採用しない。)。 ウD医師は,AがC病院で処方されていた薬を基本的には続行することとした。しかし,サイレースについては,副作用としてふらつきが指摘されていたことから,Aの低血圧,貧血を原因とした起立性調節障害に対処するため,量を従前2㎎であったものを1㎎に減量した。また,レボトミン(ヒルナミン,5㎎)も2錠から1錠に減量した(甲A6・2頁,乙A3・17頁,29頁,証人D反訳書4・23頁)。なお,同日,Aからは,看護師に対して,「立ち上がる時とかふらーっとして倒れちゃうかもしれない。」,「ふらーっとするのがこわい。」などの訴えがされていた(甲A6・3頁,乙A3・25頁)。 エ被告病院では,Aの看護にあたって,Aには衝 「立ち上がる時とかふらーっとして倒れちゃうかもしれない。」,「ふらーっとするのがこわい。」などの訴えがされていた(甲A6・3頁,乙A3・25頁)。 エ被告病院では,Aの看護にあたって,Aには衝動的に自傷行為を起こす可能性があることに配慮して,看護方針として,不眠,不安,不機嫌などや表情,行動に注意すると共に,訴えを十分に聞くこと,危険物(刃物,コード類など)を身の回りに置かないこと,離院に注意することなどが確認された(甲A6・10頁,乙A3・30頁)。 (4)11月13日11月13日朝,Aは朝まで入眠し,落ち着いていると述べた。しかし,血圧は,96/40㎜Hgと,なお低い状態が続いていた(甲A6・3頁,乙A3・25頁)。 (5)11月14日ア11月14日も,Aは,夜間良眠し,状態は落ち着いていたが,表情はなお暗めであった(甲A6・4頁,乙A3・25頁)。 イ同日,D医師は,原告に対し,C病院への転院を勧めた。しかし,原告は,- 12 -C病院の精神科は距離的にも遠いと述べて,C病院への転院を拒否し,引き続き被告病院において,全身状態の管理を含めた処置を受けることを希望した。そこで,D医師は,原告に対し,内科的には,1週間くらいで退院予定である旨を告げたうえ,被告病院で,貧血を含めた評価を行いつつ,被告病院の精神科の助言も受けることとした(甲A4・4頁,乙A3・4頁)。 ウD医師は,同日,被告病院精神科のF医師に対し,Aの病状,自損行為の可能性,一般病棟入院の適否等について見解を問う他科診療依頼を行うこととし,また,原告とAに対し,翌日C病院を受診して,Aの精神科的な病状と問題点について,診療情報提供書を受け取ってくるよう指示した(甲A3,乙A1・5頁,乙A3・4頁,14頁,乙A4・15頁)。 (6)11月15日ア し,翌日C病院を受診して,Aの精神科的な病状と問題点について,診療情報提供書を受け取ってくるよう指示した(甲A3,乙A1・5頁,乙A3・4頁,14頁,乙A4・15頁)。 (6)11月15日ア11月15日,Aは,C病院の精神科外来を受診する予定であったが,体調不良のため受診できず,原告のみが,C病院へ赴き,C病院からの診療情報提供書を受領してきた。そこには,傷病名として「心因反応(抑うつ反応)」と記載され,Aは,8月9日の初診時から不安,焦燥が強く,コンタクトが取り辛い状態であり,自宅でも不安が強く,家事も出来ない状態が続いていたこと,抗うつ薬で様子を見ていたが,不安感は殆ど消失したものの,抑うつ状態(意欲低下,抑うつ気分,興味,関心の低下)が続いていたこと,9月ころから抑うつ状態は多少改善したが,身体のふるえ等が出現したため,抗うつ薬を変更するなどして様子を見ていたことなどが記載されていた(甲A5,乙A1・3頁,乙A4・16頁,17頁)。 イ同日,D医師がAを診察した。Aには,なお,貧血,出血因子が見られ,顔色も蒼白であった(乙A3・4頁)。D医師は,同日から,サイレース(1㎎)に代え,他社の同等薬品であるロヒプノール(1㎎)を処方することとした(甲B1・4頁,乙A3・25頁)。 ウ同日午後2時ころ,Aには,ベッド上で落ち着きなく手足を動かす状況が- 13 -見られ,看護師に対し,「何だか落ち着かない。」旨訴えた(甲A6・4頁,乙A3・25頁)。 (7)11月16日11月16日午後2時ころ,Aは,看護師に対し,「痛みはないし,気分も今は大丈夫だけれど,不安定になる時がある。」旨訴えたが,その後は,不安な言動もなく,大丈夫である旨述べていた(甲A6・4頁,乙A3・25頁)。 (8)11月17日ア11月17日,Aは夜間良 も今は大丈夫だけれど,不安定になる時がある。」旨訴えたが,その後は,不安な言動もなく,大丈夫である旨述べていた(甲A6・4頁,乙A3・25頁)。 (8)11月17日ア11月17日,Aは夜間良眠した(乙A3・25頁)。 イ同日,Aは,被告病院精神科で,F医師の診察を受けた。その際,Aは,手首を切ったことについて,「先行きが暗く感じて,つい死んだ方が良いと考えてしまった。発作的にやってしまった部分もある。」と述べ,食欲減退,早朝覚醒傾向,不安感,焦燥感,抑うつ気分がみられる状態であった。F医師は,入院後,自殺をほのめかすような状況が見られなかったこともあって,Aから,自殺の危険性が特に切迫しているという印象は受けなかったものの,「助かってよかった。」,「もうこういうことはしない。」といった趣旨の発言が聞かれなかったことから,未だ自殺念慮が残存していると判断し,D医師に対し,「抑うつ状態にて未だ自殺念慮も残存しています。できれば入院加療が必要です。夫とも相談して精神科入院加療を勧めて下さい。一般科でやれないこともないでしょうが,スタッフが慣れていないと困難なことが多いでしょう。」と回答した(甲A3,甲A4・5頁,乙A3・5頁,14頁,甲A3,証人F反訳書3・3頁,反訳書6・3頁)。 ウD医師は,同日,原告に対し,F医師の所見を伝えたうえ,11月19日には抜糸が予定されており,内科的には,貧血,ふらつきなどが無くなれば退院が可能であること,ソーシャルワーカーを通じて精神科病院を紹介できること,したがって,精神科病院への転院を検討してほしい旨話したところ,原告からは,世田谷警察から紹介された病院を当たりたいとの話がなされた- 14 -(甲A9・5頁,乙A3・5頁,証人D反訳書1・9頁)。 エ11月17日,D医師から,看護師に対しても したところ,原告からは,世田谷警察から紹介された病院を当たりたいとの話がなされた- 14 -(甲A9・5頁,乙A3・5頁,証人D反訳書1・9頁)。 エ11月17日,D医師から,看護師に対しても,Aには,未だ自殺念慮があり,精神科の入院加療を勧めた方が良いとの情報が伝えられた(乙A3・30頁,証人D反訳書4・12頁)。 (9)11月18日ア11月18日午前6時,Aは,看護師に対し,「暗いうちに目が覚めてしまい,それから眠れない。」旨訴えた(乙A3・26頁)。 イまた,同日午後7時ころ,原告は,看護師に対し,「11月21日(水曜日)に退院する。一泊の予定がここまで延びて何をしているのかわからない。」旨述べた。その後,午後8時ころ,Aは,視点が定まらず,落ち着かない様子で,看護師に対し,「夫が退院を勝手に決めてしまって困った。どうしていいかわからない。」旨訴えた(甲A6・5頁,乙A3・26頁)。 (10)11月19日ア11月19日,Aは,少し落ち着かない様子が見られたが,マイペースで過ごしていた(乙A3・26頁)。 イ同日,Aの手首の傷の抜糸が行われ,全身状態も良いので,貧血の改善結果を見て,退院を検討することとされた。D医師は,Aの精神状態は,やや落ち着いている状況と見ていたが,F医師の回答結果も踏まえ,早急に転院先を当たるよう,Aに話した(甲A4・6頁,乙A3・6頁,証人D反訳書4・22頁)。 ウ同日午後2時ころ,Aは,看護師に対し,「特に変わりない。」と述べ,落ち着いていた(甲A6・5頁,乙A3・26頁)。 (11)11月20日ア11月20日,貧血状態も軽減し,出血に伴う臨床症状が消失したため,Aは,内科的には11月21日の退院が可能な状況となった。Aは,D医師に対し,気分的にも落ち込みはないと告げた。D医師は, 0日ア11月20日,貧血状態も軽減し,出血に伴う臨床症状が消失したため,Aは,内科的には11月21日の退院が可能な状況となった。Aは,D医師に対し,気分的にも落ち込みはないと告げた。D医師は,精神科疾患への今- 15 -後の方針について相談したうえ,11月21日に退院が可能である旨をAに伝えた(甲A4・7頁,乙A3・7頁)。 イ11月20日,午後2時ころ,Aは,看護師に対して不安を訴えたが,午後6時ころには,「特に変わりはない。」と述べて,午後9時ころには眠前薬を内服し,入眠した。同日の担当看護師であったG(旧姓H,以下「G看護師」という。)は,Aの病室の向かいの部屋に入院していた重傷患者を見回った際にAの様子を見るなどして観察していたが,午後11時に見回った際には,Aは寝息を立てて入眠中であった(甲A6・6頁,乙A3・26頁,証人G反訳書2・5頁)。 (12)11月21日11月21日深夜,Aは投身自殺を図り,同病院4階ベランダから地上に転落した。同日午前零時40分ころ,Aが病室に不在であったため,看護師が病院内を捜したところ,午前1時20分ころ,中庭で倒れているAを発見した。 第4,5頸椎脱臼骨折,左大腿骨顆上骨折,頭部挫創のため,同日午前3時20分ころ,Aを国立病院E医療センターへ搬送したが,Aは,その後回復することなく,12月3日午前9時43分,頸椎損傷により死亡した(甲A1,甲A4・8頁,甲A6・6頁,甲A8,乙A3・8頁,26頁,43頁,44頁)。 争点(1)ア(Aを一般病棟に入院させ続けた過失の有無)について(1)原告は,被告病院の従事者らが,Aに自殺念慮があることを熟知していたのであるから,11月19日までにAを精神科病院に転院させるべき義務を負っていたにもかかわらず,同日以降も,Aを被告病院の一般病棟に 原告は,被告病院の従事者らが,Aに自殺念慮があることを熟知していたのであるから,11月19日までにAを精神科病院に転院させるべき義務を負っていたにもかかわらず,同日以降も,Aを被告病院の一般病棟に入院させ続けた点において,過失がある旨主張する。 そして,前記1に認定の事実によれば,①Aは,C病院において,心因反応(抑うつ反応)と診断され,睡眠薬や精神安定剤の処方を受けていたこと(前記1(1)),②11月11日には,自宅において,手首を切って自殺を図り,- 16 -同日,被告病院に入院したこと(前記1(2)ア,イ),③手首には2㎝ほどの切り傷が2か所あり,他にためらい傷も数か所ある状況であったこと(前記1(2)ア),④入院後も,Aは,時折,不眠を訴えたり,「何だか落ち着かない」と訴えることがあったこと(前記1(2)ウ,(6)ウ,(7),(9)ア,イ),⑤11月17日には,被告病院精神科のF医師から「抑うつ状態にて未だ自殺念慮も残存しています。できれば入院加療が必要です。夫とも相談して精神科入院加療を勧めて下さい。」との意見が出されていたこと(前記1(8)イ),⑥看護計画でも,Aは衝動的に自傷行為を起こす可能性があるとされていたこと(前記1(3)エ),⑦11月18日,Aは,退院を控えて,落ち着かない様子で,「困った。どうしていいかわからない」旨訴えていたこと(前記1(9)イ)がそれぞれ認められる。 (2)しかしながら,一方,前記1に認定の事実及び後掲証拠によれば,以下の点を指摘することができる。 ア11月11日,救急車でAの搬送を受けたC病院は,かねてAの精神疾患について診察・治療を行ってきた病院であったが,Aの手首の傷を縫合するなどの処置を行った後,Aを入院させたり,他の精神科病院に転院させるなどの措置を取ることなく,Aを帰宅させ は,かねてAの精神疾患について診察・治療を行ってきた病院であったが,Aの手首の傷を縫合するなどの処置を行った後,Aを入院させたり,他の精神科病院に転院させるなどの措置を取ることなく,Aを帰宅させる判断をしていた(前記1(2)ア)。 イAは,被告病院に入院した後,表情が暗かったり,不安を口にしたりしたことはあったものの,「いらいらしないし大丈夫」であると述べたり,「落ち着いている」と述べるなど,比較的落ち着いており,特に興奮している様子は見受けられず,自殺を企図したり,自殺を仄めかすなど,自殺に至ることを窺わせる言動も見受けられなかった(前記1(2)ウ,(4),証人D反訳書4・15頁)。 ウAは,被告病院入院後,不眠を訴える時はあったものの,良く眠れている日もあり,入院中,AからD医師に対し,特に強度な不眠の訴えや,睡眠薬の増量が要望されるようなこともなかった(前記1(4),(5),(8)ア,証人- 17 -D反訳書4・8頁,証人G反訳書2・4頁)。 エ11月17日にAを診察したF医師は,本人ないし夫である原告が受け入れるようであれば,抑うつ反応に対する治療のため,入院加療した方が良いと考えて,「できれば入院加療が必要です。夫とも相談して精神科入院加療を勧めて下さい。」とD医師に回答したが,その際,F医師は,診察時のAの状況や被告病院におけるAの生活状況,Aには,再度自殺を企図するような言動が認められなかったことから,自殺の危険性が切迫しているとは判断していなかった(証人F反訳書3・3頁,反訳書6・11頁)。 オG看護師が,Aの担当になった際も,Aは落ち着いているように見え,自殺の可能性は感じられなかった(証人G反訳書2・4頁)。 カ原告も,11月15日の時点では,適切な睡眠薬を処方してもらえば,Aは自宅に戻って生活ができると った際も,Aは落ち着いているように見え,自殺の可能性は感じられなかった(証人G反訳書2・4頁)。 カ原告も,11月15日の時点では,適切な睡眠薬を処方してもらえば,Aは自宅に戻って生活ができると考えており,また,11月20日の時点においても,退院して自宅へ帰れると考えていたものであり(甲A9・4頁,10頁),Aが直ちに精神科での入院加療が必要な切迫した状況にあるとは考えていなかった。 キこの点に関し,I医師の意見書にも,Aの場合,退院に対して不安を漏らしていたことからすれば,抑うつ気分を基盤として,退院後の生活や自己の身体状態への自信欠乏,あるいはうつ病を生じる契機となった生活状況に再び戻ることへの負担感などが自殺行動の結実要素となっている可能性が考えられるが,入院中の状況からすれば,差し迫って自殺行動に移る可能性を予測することは困難であろうとの意見が記載されている(乙B2・5頁)。 以上の事実に照らせば,11月19日までの時点で,Aが多少の不安感を訴えていたことは認められるものの,それが自殺を企図する具体的な虞を予見できるほどの切迫した状況にあったとまで認めることはできず,被告病院の従事者らにおいて,11月19日までの時点で,直ちにAを精神科病院に転院させるべき義務があったと言うことはできない。 - 18 -(3)更に,本件においては,次の事情が指摘できる。 アAは,被告病院入院当初,失血による貧血が顕著で,一過性とはいえ,意識レベルの低下が2回にわたって認められた状態であり,内科的な面から,精査・治療目的の入院が必要な状態であった(前記1(3)ア)。 イ11月12日,D医師は,AのかかりつけのC病院へ転院の可否についての相談をしたが,C病院から,当日は精神科の医師が不在であり,対応は困難であるとの回答を受けていた(前記1( 前記1(3)ア)。 イ11月12日,D医師は,AのかかりつけのC病院へ転院の可否についての相談をしたが,C病院から,当日は精神科の医師が不在であり,対応は困難であるとの回答を受けていた(前記1(3)ア)。 ウ11月14日,D医師は,原告に対し,C病院への転院を勧めたが,原告が,C病院は距離的に遠いと述べてこれを拒んだため,被告病院精神科のF医師の助言も受けつつ,被告病院での内科的治療を継続することとした(前記1(5)イ)。 エ11月17日,D医師は,原告に対し,F医師の所見を伝えたうえ,精神科病院への転院を検討してほしい旨話したところ,原告から,世田谷警察から紹介された病院を当たりたいとの話がなされたため,それを尊重することとした(前記1(8)ウ)。 オ11月19日,D医師は,Aの全身状態も良いので,退院を検討することとし,早急に転院先を当たるようAに話していた(前記1(10)イ)。 以上の事実に照らせば,D医師は,当初は緊急な全身状態の管理を目的とした内科的治療を優先しつつ,機会を見ては,Aや原告に対し,精神科の治療の受けられる病院への転院を勧めていたものであって,Aの状態が,前記のとおり切迫したものとは言えず,精神科病院への強制的な措置入院が認められる状況にはなかったと認められる(証人F反訳書3・6頁)こと,したがって,精神科病院への転院にあたっては,転院先について原告やAの意向を無視することはできなかったことに照らせば,転院先の検討を原告やAに委ねていたD医師の対応に問題があったとは認められない。 (4)この点に関し,原告の提出する,J医師の意見書(甲B1)には,①11- 19 -月18日に,原告が,「1泊の予定がここまで延びて何をしているのかわからない。」と述べていること,②11月17日に,F医師も看護師も,「未だ自 る,J医師の意見書(甲B1)には,①11- 19 -月18日に,原告が,「1泊の予定がここまで延びて何をしているのかわからない。」と述べていること,②11月17日に,F医師も看護師も,「未だ自殺念慮があり,精神科の入院を勧めた方が良い。」と判断していることなどからすれば,11月19日以降は,Aを精神科病院に入院させるべきであった旨の意見が記載されている。 しかしながら,前記説示のとおり,D医師としては,11月19日の時点で,Aや原告に精神科病院の転院先を検討するよう勧告しており,取るべき対応は取っていたと認められることに照らせば,それ以上に,Aを直ちに精神科病院に入院させるべきであったとの上記意見は採用することができない。 (5)以上によれば,被告病院の従事者らに,11月19日以降もAを一般病棟に入院させ続けた義務違反があったと認めることはできない。 争点(1)イ(睡眠薬の量を減らすなどして不眠を悪化させた過失の有無)について(1)原告は,原告がD医師に対して,C病院で処方されていた薬を使用するよう訴えていたにもかかわらず,D医師は,サイレースの処方量をC病院で処方されていた2㎎から1㎎に減量し,また,ヒルナミンの投与を11月13日から同月18日まで中止したものであり,これらによりAの不眠状態を悪化させ,本件転落事故を招いた過失がある旨主張する。 (2)サイレースについて前記認定事実及び証拠によれば,たしかに,原告が,11月12日午前零時ころ,Aの不眠を訴えて,C病院からの持参薬の処方を希望したこと(乙A3・24頁),D医師は,同日,基本的にはC病院で処方されていた薬を続行することとしたものの,サイレースの投薬量は,従前2㎎であったものを1㎎に減量したこと(前記1(1),(3)ウ)が認められる。 しかしながら,前記認定事実 日,基本的にはC病院で処方されていた薬を続行することとしたものの,サイレースの投薬量は,従前2㎎であったものを1㎎に減量したこと(前記1(1),(3)ウ)が認められる。 しかしながら,前記認定事実及び後掲証拠によれば,以下の点を指摘することができる。 - 20 -ア11月12日,Aは,身体がふらついて起き上がれない状態であり,看護師に対して,「立ち上がる時とかふらーっとして倒れちゃうかもしれない。」,「ふらーっとするのがこわい。」などと訴えている状態であった(前記1(3)ア,ウ)。また,失血による貧血が顕著で,かつ,一過性とはいえ,11月11日の夜間に意識レベルの低下が2回にわたって認められる状態であった(前記1(3)ア)。 イそこで,D医師としては,サイレースについては,副作用としてふらつきが指摘されていたことから,Aの低血圧,貧血を原因とした起立性調節障害に対処するため,サイレースの量を2㎎から1㎎に減量することとした(前記1(3)ウ)。 ウ被告病院では,サイレースの投与量を減らすことによって,Aから眠れないなどの訴えがあれば,直ぐに医師に連絡がなされるよう指示が出されていたが,Aから特に強度な不眠の訴えや,睡眠薬の増量が要望されるようなことはなかった(前記1(4),(5),(8)ア,乙A3・16頁,30頁,証人D反訳書4・8頁,証人G反訳書2・4頁)。 エ被告病院精神科のF医師も,薬は必要最小限であることが好ましく,2㎎を1㎎に減量した判断には問題がないとの意見を述べており(乙A7・4頁,証人F反訳書3・5頁),また,I医師も,減薬は,血圧低下や貧血の度合いから見て不適切とは言えず,またこれによって著しい不眠状態を来しているとも言えないとの意見書を提出している(乙B2・6頁)。 この点につき,J医師は,意見書において,A 減薬は,血圧低下や貧血の度合いから見て不適切とは言えず,またこれによって著しい不眠状態を来しているとも言えないとの意見書を提出している(乙B2・6頁)。 この点につき,J医師は,意見書において,Aに抗精神病薬が併用されていることに鑑みれば,Aの睡眠障害が重篤で,希死念慮を含む焦燥感が激越であったことを示すものであるから,処方の強化を行うべきであり睡眠導入剤を軽くしたことには過失がある旨述べる(甲B1・3頁,4頁)。 しかしながら,抗精神病薬が併用されていることから,直ちにAの睡眠障害が重篤で,希死念慮を含む焦燥感が激越であったことを推認することはできず- 21 -(証人F反訳書6・12頁,13頁),前記アないしエの事実を考慮すれば,D医師の判断が不適切であったとは認められず,上記J医師の意見は採用できない。 以上によれば,D医師が,起立性調節障害に対処するため,サイレースの投薬量を減量したことに,義務違反があったと認めることはできない。 (3)ヒルナミンについて原告は,D医師がヒルナミンの投与を11月13日から同月18日まで中止した旨主張する。 しかしながら,証拠によれば,被告病院では,一度投薬指示が出されると,改めて中止の指示がされない限り,投薬が続行される扱いであったことが認められる(乙A6・5頁)から,カーデックス(乙A3・29頁)上,11月13日から18日の間にヒルナミン等の投薬指示がないことから,直ちにこの間,ヒルナミン等の投与が中止されたと認めることはできず,他にヒルナミンが中止されたことを認めるに足りる証拠はない。 (4)以上によれば,D医師に,睡眠薬の量を減らすなどしてAの不眠を悪化させた義務違反があったと認めることはできない。 争点(1)ウ(監視を怠った過失の有無)について(1)原告は,被告病院従事者らには 上によれば,D医師に,睡眠薬の量を減らすなどしてAの不眠を悪化させた義務違反があったと認めることはできない。 争点(1)ウ(監視を怠った過失の有無)について(1)原告は,被告病院従事者らには,厳重な監視体制をとることにより,Aがベランダから転落するのを防止すべき義務があったにもかかわらず,Aに対する厳重な常時監視を行わず,また,11月21日午前零時の定時巡視を怠り,その結果,本件転落事故を発生させた過失がある旨主張する。 そして,前記認定事実及び後掲証拠によれば,①Aが入院していた病室は,被告病院4階であって,内側から手動で解錠してベランダに出られる構造の部屋であったこと(乙A8・2頁,乙B1,弁論の全趣旨),②被告病院での夜勤帯の定時巡視は本来午後8時から翌日午前8時までの2時間ごとの偶数時に行われることになっていたところ,夜間に緊急入院があったため,担当のG看- 22 -護師が巡視でAのベッドを訪れたのは11月21日午前零時40分ころであり,その時には,Aはベッドを離れ,ベランダから投身自殺を図っていたこと(乙A8・3頁,証人G反訳書5・1頁)がそれぞれ認められる。 (2)しかしながら,前記認定のとおり,Aには,11月20日までの間,差し迫って自殺行動に移る可能性を予測させる言動が見受けられていなかったことからすれば,被告病院従事者らにおいて,Aを常時監視すべき義務があったと認めることはできない。 また,前記認定事実及び後掲証拠によれば,以下の事実が認定できる。 ア被告病院の看護体制は,日勤と夜勤に分かれており,全ての入院患者につき,全ての看護師のいる場で,口頭による申し送りがされていた(乙A8・1頁,証人G反訳書2・2頁,3頁)。Aについては,衝動的に自傷行為を起こす可能性がある患者であり,看護方針として,不眠,不安,不 き,全ての看護師のいる場で,口頭による申し送りがされていた(乙A8・1頁,証人G反訳書2・2頁,3頁)。Aについては,衝動的に自傷行為を起こす可能性がある患者であり,看護方針として,不眠,不安,不機嫌などや表情,行動に注意すると共に,訴えを十分に聞くこと,危険物(刃物,コード類など)を身の回りに置かないこと,離院に注意することなどが確認されていた(前記1(3)エ)。 イ11月20日午後4時30分から翌21日午前8時までの夜勤看護師はG看護師とK看護師の2名で,Aの担当はG看護師であった(乙A8・3頁)。 G看護師は,11月20日午後9時ころ,Aに内服薬を服用させた後,消灯し,午後11時ころにも,Aを見回ったが,その際,Aは寝息を立てて入眠中であった(前記1(11)イ)。 ウその後もG看護師は,Aの病室の向かいにあった重傷患者を状態観察のため見回った際など,Aの病室に入ってAの様子や戸締まりなどを注意して観察していたが,特に変わりはなく,Aはいずれも入眠中であった(乙A5の2,証人G反訳書2・7頁ないし9頁,反訳書5・17頁)。 エ11月21日午前零時10分ころ,緊急入院患者がいたため,G看護師は,同日午前零時の定時巡視が遅れ,午前零時40分ころAの病室を訪れたとこ- 23 -ろ,Aは不在であり,G看護師が,病棟,トイレ等を捜した後,午前1時20分ころ,ベランダにスリッパを発見し,Aが中庭に倒れているのが発見された(乙A3・43頁)。 そして,これに加え,前記認定のとおり,Aには,差し迫って自殺行動に移る可能性を予測させる言動が見受けられていなかったこと,夜間,緊急入院があれば,定時巡視の時間が若干ずれるのはやむを得ない事態であることからすれば,被告病院における巡視頻度,看護・監視態勢に不適切な点があったと認めることはできず,被告 いなかったこと,夜間,緊急入院があれば,定時巡視の時間が若干ずれるのはやむを得ない事態であることからすれば,被告病院における巡視頻度,看護・監視態勢に不適切な点があったと認めることはできず,被告病院従事者らに,監視を怠った義務違反があると認めることはできない。 以上によれば,原告の主張する被告病院従事者らの義務違反は,いずれも認めることができない。 よって,原告の請求は,その余の事実について判断するまでもなく理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第30部裁判長裁判官秋吉仁美裁判官角田ゆみ裁判官渡邉隆浩
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