平成20(受)981 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成21年4月28日 最高裁判所第三小法廷 判決 破棄自判 福岡高等裁判所 平成19(ネ)547
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判決文本文2,518 文字)

- 1 -主文 原判決中上告人敗訴部分を破棄し,同部分につき第1審判決を取り消す。 前項の部分に関する被上告人の請求を棄却する。 訴訟の総費用は被上告人の負担とする。 理由 上告代理人原田信輔の上告受理申立て理由第3について 本件は,B市の設置する公立小学校(以下「本件小学校」という。)の2年生であった被上告人が,本件小学校の教員から体罰を受けたと主張して,B市の地位を合併により承継した上告人に対し,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求める事案である。 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。 (1)被上告人は,平成14年11月当時,本件小学校の2年生の男子であり,身長は約130㎝であった。Aは,その当時,本件小学校の教員として3年3組の担任を務めており,身長は約167㎝であった。Aは,被上告人とは面識がなかった。 (2)Aは,同月26日の1時限目終了後の休み時間に,本件小学校の校舎1階の廊下で,コンピューターをしたいとだだをこねる3年生の男子をしゃがんでなだめていた。 (3)同所を通り掛かった被上告人は,Aの背中に覆いかぶさるようにして肩をもんだ。Aが離れるように言っても,被上告人は肩をもむのをやめなかったので,Aは,上半身をひねり,右手で被上告人を振りほどいた。 - 2 -(4)そこに6年生の女子数人が通り掛かったところ,被上告人は,同級生の男子1名と共に,じゃれつくように同人らを蹴り始めた。Aは,これを制止し,このようなことをしてはいけないと注意した。 (5)その後,Aが職員室へ向かおうとしたところ,被上告人は,後ろからAのでん部付近を2回蹴って逃げ出した。 (6)Aは,これに立腹して被上告人を追い掛けて捕まえ,被上告人の胸元の洋服を右手でつかんで壁に押し当て,大声で「もう,すんな たところ,被上告人は,後ろからAのでん部付近を2回蹴って逃げ出した。 (6)Aは,これに立腹して被上告人を追い掛けて捕まえ,被上告人の胸元の洋服を右手でつかんで壁に押し当て,大声で「もう,すんなよ。」と叱った(以下,この行為を「本件行為」という。)。 (7)被上告人は,同日午後10時ころ,自宅で大声で泣き始め,母親に対し,「眼鏡の先生から暴力をされた。」と訴えた。 (8)その後,被上告人には,夜中に泣き叫び,食欲が低下するなどの症状が現れ,通学にも支障を生ずるようになり,病院に通院して治療を受けるなどしたが,これらの症状はその後徐々に回復し,被上告人は,元気に学校生活を送り,家でも問題なく過ごすようになった。 (9)その間,被上告人の母親は,長期にわたって,本件小学校の関係者等に対し,Aの本件行為について極めて激しい抗議行動を続けた。 原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判断して,被上告人の上告人に対する請求を慰謝料10万円等合計21万4145円及び遅延損害金の支払を命ずる限度で認容した。 ①胸元をつかむという行為は,けんか闘争の際にしばしば見られる不穏当な行為であり,被上告人を捕まえるためであれば,手をつかむなど,より穏当な方法によることも可能であったはずであること,②被上告人の年齢,被上告人とAの身長差- 3 -及び両名にそれまで面識がなかったことなどに照らし,被上告人の被った恐怖心は相当なものであったと推認されること等を総合すれば,本件行為は,社会通念に照らし教育的指導の範囲を逸脱するものであり,学校教育法11条ただし書により全面的に禁止されている体罰に該当し,違法である。 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。 前記事実関係によれば,被上告人は,休み時間に,だだ により全面的に禁止されている体罰に該当し,違法である。 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。 前記事実関係によれば,被上告人は,休み時間に,だだをこねる他の児童をなだめていたAの背中に覆いかぶさるようにしてその肩をもむなどしていたが,通り掛かった女子数人を他の男子と共に蹴るという悪ふざけをした上,これを注意して職員室に向かおうとしたAのでん部付近を2回にわたって蹴って逃げ出した。そこで,Aは,被上告人を追い掛けて捕まえ,その胸元を右手でつかんで壁に押し当て,大声で「もう,すんなよ。」と叱った(本件行為)というのである。そうすると,Aの本件行為は,児童の身体に対する有形力の行使ではあるが,他人を蹴るという被上告人の一連の悪ふざけについて,これからはそのような悪ふざけをしないように被上告人を指導するために行われたものであり,悪ふざけの罰として被上告人に肉体的苦痛を与えるために行われたものではないことが明らかである。Aは,自分自身も被上告人による悪ふざけの対象となったことに立腹して本件行為を行っており,本件行為にやや穏当を欠くところがなかったとはいえないとしても,本件行為は,その目的,態様,継続時間等から判断して,教員が児童に対して行うことが許される教育的指導の範囲を逸脱するものではなく,学校教育法11条ただし書にいう体罰に該当するものではないというべきである。したがって,Aのした本件行為に違法性は認められない。 - 4 - 以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決のうち上告人敗訴部分は,破棄を免れない。 そして,以上説示したところによれば,上記部分に関する被上告人の請求は理由がないから,同部分につき第1審判決を取り消し,同部 反がある。論旨は理由があり,原判決のうち上告人敗訴部分は,破棄を免れない。 そして,以上説示したところによれば,上記部分に関する被上告人の請求は理由がないから,同部分につき第1審判決を取り消し,同部分に関する請求を棄却すべきである。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。 (裁判長裁判官近藤崇晴裁判官藤田宙靖裁判官堀籠幸男裁判官那須弘平裁判官田原睦夫)

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