令和1(行ウ)538 損害賠償請求事件(政務調査費不正支出)

裁判年月日・裁判所
令和3年1月13日 東京地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-90753.txt

判決文本文16,360 文字)

令和3年1月13日判決言渡令和元年(行ウ)第538号損害賠償請求事件(政務調査費不正支出) 主文 1 本件訴えのうち,被告が自由民主党A区議会議員団に対しA区職員42名に損害賠償金を支払うよう請求することを求める部分を却下する。 2 被告は,自由民主党A区議会議員団に対し,32万4298円を支払うよう請求せよ。 3 原告のその余の請求を棄却する。 4 訴訟費用は,これを5分し,その4を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,自由民主党A区議会議員団(以下「本件議員団」という。)に対し,38万3190円及びこれに対する平成30年4月9日から支払済みまで年14.6%(ただし,最初の1か月を経過する日までは年7.3%)の割 合による金員を支払うよう請求せよ。 2 被告は,本件議員団に対し,13万4116円を支払うよう請求せよ。 3 被告は,本件議員団に対し,123万7992円及びこれに対する平成30年4月9日から支払済みまで年5%の割合による金員をA区職員42名に支払うよう請求せよ。 第2 事案の概要本件は,東京都A区(以下「A区」という。)の住民である原告が,平成30年度に,A区が同区議会の会派の一つである本件議員団に交付した政務活動費について,本件議員団が新潟県B町において行った研修会に要した費用(交通費,会場費及び宿泊費。以下「本件費用」という。)38万3190円 (原告の請求額)は,A区議会政務活動費の交付に関する条例(平成13年A 区条例第1号。以下「本件条例」という。)等で定められた政務活動費を充てることができる政務活動に要する経費に該当せず,本件議員団が本件費用を政務活動費から支出したことは違法であり, 平成13年A 区条例第1号。以下「本件条例」という。)等で定められた政務活動費を充てることができる政務活動に要する経費に該当せず,本件議員団が本件費用を政務活動費から支出したことは違法であり,本件議員団は,その全額を不当利得としてA区に返還するとともに,地方税法の規定により,本件費用の額に対する平成30年4月9日(政務活動費の交付を受けた日)から支払済みまで年1 4.6%(ただし,最初の1か月を経過する日までは年7.3%。以下本段落において同じ。)の割合による延滞金及び本件費用の額に35%の割合を乗じて得た金額の重加算金にそれぞれ相当する額の金員をA区に支払うべきであり,併せて,上記研修会に私費で参加したA区の幹部職員42名(以下「本件職員ら」という。)に,不法行為に基づく損害賠償としてその旅費相当額を賠償す べきであるとして,被告に対し,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,①被告が,本件議員団に対し,38万3190円並びにこれに対する同日から支払済みまで年14.6%の割合による延滞金及びこれに35%の割合を乗じて得た金額の重加算金13万4116円(1円未満切捨て)にそれぞれ相当する額の金員を支払うよう請求すること,②被告が,本件議員団に対し,1 23万7992円及びこれに対する同日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金を本件職員らに支払うよう請求することを求める事案である。 1 関係法令等の定め(1) 地方自治法の定め ア地方自治法100条14項は,普通地方公共団体は,条例の定めるところにより,その議会の議員の調査研究その他の活動に資するため必要な経費の一部として,その議会における会派又は議員に対し,政務活動費を交付することができることとし,この場合において,当該政 定めるところにより,その議会の議員の調査研究その他の活動に資するため必要な経費の一部として,その議会における会派又は議員に対し,政務活動費を交付することができることとし,この場合において,当該政務活動費の交付の対象,額及び交付の方法並びに当該政務活動費を充てることができる経 費の範囲は,条例で定めなければならない旨を定めている。 イ地方自治法100条15項は,同条14項の政務活動費の交付を受けた会派又は議員は,条例の定めるところにより,当該政務活動費に係る収入及び支出の報告書を議長に提出するものとする旨を定めている。 (2) 本件条例(甲6の1~4)の定めア本件条例1条は,本件条例は,地方自治法100条14項等の規定に基 づき,A区議会議員の調査研究その他の活動に資するため必要な経費の一部として,区議会における会派に対し,政務活動費を交付することに関し必要な事項を定めるものとする旨を定めている。 イ本件条例2条は,政務活動費は,区議会の会派(以下「会派」という。)に対して交付する旨を定めている。 ウ本件条例3条は,政務活動費は,各月1日における会派の所属議員数に月額8万円を乗じて得た額を半期ごとに交付することとし(1項),各半期の最初の月に,当該半期に属する月数分を交付する旨を定める(2項本文)。 エ本件条例9条は,政務活動費は,会派又は会派に所属する議員が行う調 査研究,情報収集,研修,広報,広聴,住民相談,各種会議への参加等区政の課題及び区民の意思を把握し,区政に反映させる活動その他区民福祉の向上を図るために必要な活動(以下「政務活動」という。)に要する経費に対して交付するものとし(1項),別表で定める政務活動に要する経費に充てることができるものとする旨を定める(2項)。 区民福祉の向上を図るために必要な活動(以下「政務活動」という。)に要する経費に対して交付するものとし(1項),別表で定める政務活動に要する経費に充てることができるものとする旨を定める(2項)。 本件条例の別表(第9条関係)は,「研究研修費」の項目について,その内容を「会派が研究会,研修会を開催するために必要な経費又は会派に所属する議員が他の団体の開催する研究会,研修会等に参加するために要する経費(会場費,講師謝礼金,出席者負担金,会費,交通費,旅費,宿泊費等をいう。)」と,「調査旅費」の項目について,その内容 を「会派又は会派に所属する議員が行う活動に必要な調査又は現地調査 に要する経費(交通費,経費,宿泊費等をいう。)」とそれぞれ定めている。さらに,同表は,「備考」として,「専ら飲食に要する経費については,政務活動費を充てることができる経費から除外する」と定めている(以下,本件条例9条及び別表により定められた政務活動費の使途基準を「本件使途基準」という。)。 オ本件条例10条は,政務活動費の交付を受けた会派の経理責任者は,政務活動費に係る収入及び支出の報告書(以下「収支報告書」という。)を作成し,政務活動費により行った活動内容を記載した報告書及び領収書その他の証拠書類の原本(以下,収支報告書と併せて「収支報告書等」という。)を添付して,議長に提出しなければならない旨を定め(1項),収 支報告書等は,前年度の交付に係る政務活動費について,毎年4月30日までに提出しなければならない旨を定める(2項)。 カ本件条例11条は,政務活動費の交付を受けた会派がその年度において交付を受けた政務活動費の総額から,当該会派がその年度において本件条例9条に定める経費の範囲に基づいて支出した総額を控除して残余がある 本件条例11条は,政務活動費の交付を受けた会派がその年度において交付を受けた政務活動費の総額から,当該会派がその年度において本件条例9条に定める経費の範囲に基づいて支出した総額を控除して残余がある 場合においては,当該残余の額に相当する額の政務活動費を返還するものとする旨を定める(以下「本件返還規定」という。)。 (3) 政務活動費運用の手引(乙3。以下「本件手引」という。)の定めA区議会は,平成25年5月,政務活動費の運用について,本件手引を定めているところ,「研究研修費」の項目に係る留意事項として,首都圏近郊 で開催されるもののほか,地方都市で行う研究会・研修会・講習会・セミナー等(以下「研究会等」という。)に参加するための経費についても,「交通費」,「旅費」を含めて「研究研修費」で計上すること,研究会等を開催した場合には,研究会等の概要がわかるパンフレットや案内等の写しを添付すること,パンフレットや案内等がない場合には,領収書添付用紙上に研究 会等のテーマ等内容を補記すること,「研究研修費」に関して,専ら飲食に 要する経費については計上することができないことなどを定めている。 2 前提事実(当事者間に争いがないか,掲記の各証拠等により認めることができる事実)(1) 当事者等ア原告は,A区の住民である。 イ被告は,A区の執行機関(区長)である。 ウ本件議員団は,平成30年度において,当時のA区議会議員13名により構成されたA区議会の会派である。(甲3,弁論の全趣旨)(2) 本件議員団による本件費用の支出等ア本件議員団は,平成30年4月9日,A区長から平成30年度上半期分 の政務活動費624万円の交付を受けた。(甲15の8)イ本件議員団は,平成30 本件議員団による本件費用の支出等ア本件議員団は,平成30年4月9日,A区長から平成30年度上半期分 の政務活動費624万円の交付を受けた。(甲15の8)イ本件議員団は,平成30年7月21日(土曜日)から同月22日(日曜日)にかけて,新潟県B町(以下「C」という。)に所在するホテルDにおいて宿泊を伴う研修(以下「本件研修」という。)を開催し,本件議員団所属の議員13名,A区の幹部職員42名(本件職員ら)が参加した。 本件研修においては,同月21日午前10時から午後4時まで研修会を行う予定とされており,同月22日には研修会等は予定されていなかった。 (甲4,18,弁論の全趣旨)ウ本件議員団は,本件研修に関し,政務活動費から,交通費として15万9720円,宿泊費及び会場費として22万8750円の合計38万84 70円(本件費用)を支出した。なお,本件職員らが本件研修に参加するための旅費(交通費及び宿泊費等)は,本件職員らが私費で負担した。 (甲9,16の2,17の1,18,乙1,2,弁論の全趣旨)エ本件議員団は,A区議会議長に対し,平成31年4月26日,平成30年度分の政務活動費について,上記ウの本件費用及びその他の費目も含め た合計の支出額が1269万0221円であり,本件議員団が交付を受け た1248万円から当該合計の支出額を控除した残額は「-21万0221円」である旨を記載した収支報告書等を提出した。(甲15の8,乙9,弁論の全趣旨)オ本件議員団は,令和元年8月30日,本件費用の一部を「調査旅費」として報告していたものについて,「研究研修費」に補正した。(甲16の 1,2,弁論の全趣旨)カ本件議員団は,前記エの収支報告書等の記載内容に一部誤りがあったとして,3度にわた 調査旅費」として報告していたものについて,「研究研修費」に補正した。(甲16の 1,2,弁論の全趣旨)カ本件議員団は,前記エの収支報告書等の記載内容に一部誤りがあったとして,3度にわたり,当該部分を訂正した収支報告書等をA区議会議長に各提出し,これらの訂正により,本件議員団が政務活動費から支出した合計額は1254万4172円となり,本件議員団が交付を受けた1248 万円から当該合計の支出額を控除した残額は「-6万4172円」となった。(乙6~9,弁論の全趣旨)(3) 住民監査請求等ア原告は,A区監査委員に対し,令和元年7月16日,地方自治法242条1項に基づき,住民監査請求(以下「本件監査請求」という。)を した。 本件監査請求は,本件研修をCで行う必然性はなく,本件費用は政務活動費を充てることができる経費には該当しない旨を主張して,A区監査委員に対し,本件議員団において,本件費用に相当する金員をA区に,本件職員らが要した費用相当額を本件職員らにそれぞれ返還することを 求めるなどの必要な措置を執ることを勧告するよう求めるものであった。 (甲10の1,2)イ A区監査委員は,令和元年9月17日付けで,本件監査請求のうち,本件職員らが要した費用相当額を返還することを求める部分については,住民監査請求の対象外であるとして監査の対象から除外した上で,本件 監査請求を棄却した。(甲15の1~10,弁論の全趣旨) (4) 訴えの提起原告は,令和元年10月15日,本件訴えを提起した。(顕著な事実) 3 争点及び当事者の主張の要旨(1) 本件議員団が本件職員らに損害賠償金を支払うよう請求することを求める訴えの適法性及びその当否(争点(1)) (被告の主張) た。(顕著な事実) 3 争点及び当事者の主張の要旨(1) 本件議員団が本件職員らに損害賠償金を支払うよう請求することを求める訴えの適法性及びその当否(争点(1)) (被告の主張)地方自治法242条の2第1項4号は,「当該職員」等に対し,地方公共団体に損害を賠償するように請求する訴訟形態を認めたものであり,それ以外の者に対する損害賠償金の支払請求を認めたものではないから,本件議員団が本件職員らに損害賠償金を支払うよう請求することを求める部分は,同 号の請求には該当せず,その他,同項各号のいずれにも該当しないものであり,不適法である。また,当該請求部分は,本件監査請求において,住民監査請求の対象外であるとしてその監査から除外されているから,適法な監査請求を欠く,不適法な訴えである。 (原告の主張) 後記のとおり,本件議員団が行った本件研修に政務活動費を充てることは違法であるところ,本件議員団は,本件研修に本件職員らを参加させたことにより,本件職員らに交通費及び宿泊費等の損害を与えたのであるから,本件議員団は,本件職員らに旅費相当額123万7992円を賠償すべきである。 (2) 本件費用の支出の適法性(争点(2))(原告の主張)ア本件研修は,本件議員団所属の議員らが本件職員らから説明を受け,質疑応答を行う形式で実施されており,その内容からしてもA区内でも行うことができるものであって,本件職員らを私費で参加させてまで,Cで実 施する必要性,相当性はない。本件議員団が提出した研修会報告書におい ても,Cで研修を行ったことを正当化できる活動報告は記載されておらず,本件議員団の説明によっても,Cで研修を行う必要性は認められない。また,本件研修は, 。本件議員団が提出した研修会報告書におい ても,Cで研修を行ったことを正当化できる活動報告は記載されておらず,本件議員団の説明によっても,Cで研修を行う必要性は認められない。また,本件研修は,平成30年7月21日午前10時から午後4時までとされていたから,本件研修後,本件職員らと本件議員団所属の議員らが飲食を伴いながら話合いをしたとしても,宿泊の必要性が認められるものでは ない。本件議員団所属の議員らは,Cまで足を運んで,温泉につかりながら,夕方飲食を伴って,本件職員らから接待を受けた上,本件職員らに高額の旅費相当額を支出させただけである。 イ本件議員団は,当初,本件費用を収支報告書に調査旅費と記載していたのに,原告に連絡することなく,研究研修費に変更しているが,本件では, 「研究研修費」の科目のうち,「講師謝礼金」,「出席者負担金」及び「会費」が発生しておらず,「研究研修費」には当てはまるものではない。 ウこのように,Cで宿泊を伴う研修を行う必要性,相当性はなく,また,本件職員らを参加させることによって本件費用の支出を正当化できるものではないから,本件議員団が本件費用に政務活動費を充てたことは違法で あり,本件費用の全額をA区に返還すべきである。 (被告の主張)ア本件費用38万8470円のうち,15万9720円は本件議員団所属の議員らが研修会場に赴くための往復の「交通費」であり,残る22万8750円が研修会場に滞在するための「宿泊費」及び「研修会場費」であ るから,本件条例9条及び別表の「研究研修費」に該当する。 イ本件研修の趣旨,目的は,本件議員団所属の議員らにおいて,区政の重要課題に関する認識を深めることにあり,研修の内容として,各種団体からのヒアリ 例9条及び別表の「研究研修費」に該当する。 イ本件研修の趣旨,目的は,本件議員団所属の議員らにおいて,区政の重要課題に関する認識を深めることにあり,研修の内容として,各種団体からのヒアリング結果を参考に全庁横断的にテーマを設定し,本件職員らから説明を受け,質疑応答を行うという形式をとっており,本件研修で得ら れた内容が来年度予算に少なからず反映されている。 以上によれば,本件研修は,本件条例9条1項の政務活動に該当する。 ウ原告は,研修を行う場所がCでなければならない理由が存在しない旨主張しているが,調査とは異なり,研修についてはその地でなければならないといった積極的な理由が要求されるものではない。 そして,区議会議員は,区民や支持者からの連絡,相談事,呼出しに対 して丁寧に対応することが求められるが,他方で,区政の重要課題を取り上げる本件研修を行うに当たっては,議員が集中して研修に参加できる環境を整える必要があった。そこで,区民や支持者からの連絡等のうち,緊急を要しないものについてはすぐに戻ることができないために後日対応することで理解が得られる場所で,かつ,急を要するものについては,交通 の便が良く,おおむね2時間以内でA区内に戻って対応することができる場所で,過大な交通費の負担を要しないといった条件を考慮し,本件研修を行うこととした。また,研修場所の選定に当たって,東京都内又はA区内で50名以上を収容できる会議室を確保しようとすると,高額になってしまい,特に区内施設については,区民優先で利用してもらうため,議員 の研修のためには利用しにくいという実情もあった。以上を踏まえ,交通の便が良く,おおむね2時間もかからずにA区内に戻ることができる場所として,Cにあるホテルの会議室を 用してもらうため,議員 の研修のためには利用しにくいという実情もあった。以上を踏まえ,交通の便が良く,おおむね2時間もかからずにA区内に戻ることができる場所として,Cにあるホテルの会議室を利用して本件研修が行われたものであり,研修場所を選定した理由は合理性を有する。 エまた,原告は,本件研修の終了時刻が平成30年7月21日の午後4時 と定められていることから,宿泊の必要性はなかった旨主張する。しかし,本件研修は,同日午後4時の全体会終了後も個別の議論や意見交換が午後5時頃まで続き,その後も,飲食を伴いながら,午後9時頃まで,本件議員団所属の議員と本件職員らが個別に議論をしたり,意見交換,情報交換を行ったりしたものであり,これらは本件議員団において本件研修を 一層効果的なものにしているものと認識されているから,当該時間帯にお いて行われた活動が政務活動に当たることについて,疑義を差し挟む余地はない。 また,2日目についても,研修プログラムはないものの,各議員間,あるいは本件職員らとの間で,個別のやり取りや情報交換,議論が交わされていることからすれば,宿泊を伴うことは相当であり,その必要性は十分 認められる。 オ以上のとおり,本件費用は,本件条例別表の「研究研修費」に該当し,適法な支出である。 (3) 本件議員団がA区に返還すべき不当利得の有無及びその額(争点(3))(被告の主張) 本件条例は,具体的な使途を個別に特定した上で政務活動費を交付すべきものとは定めておらず,区長が半期ごとに一定額を交付した上で,事後にその年度において本件条例9条に定める経費の範囲に基づいて支出した総額を控除して残余がある場合に,その額に相当する額の政務活動費を返還するも めておらず,区長が半期ごとに一定額を交付した上で,事後にその年度において本件条例9条に定める経費の範囲に基づいて支出した総額を控除して残余がある場合に,その額に相当する額の政務活動費を返還するものとされているから,仮に政務活動費の収支報告書に,本件使途基準に適合 しない支出が計上されていたとしても,当該年度において,本件使途基準に適合する収支報告書上の支出の総額が交付額を下回ることとならない限り,政務活動費の交付を受けた会派又は議員が,政務活動費を法律上の原因なく利得したということはできない。 本件では,本件議員団の支出額(1254万4172円)は,平成30年 度の政務活動費の交付額(1248万円)を6万4172円上回っているから,仮に本件使途基準に適合しない支出の計上が認められたとしても,その部分については本件議員団が法律上の原因なく利得したということはできない。 また,原告が求める本件費用の額に35%の割合を乗じて得た金額の重加 算金相当額の金員の請求については,法的根拠がない。 (原告の主張)本件議員団の支出額が政務活動費の交付額を上回るとしても,本件議員団は本件使途基準に適合しない38万8470円から6万4172円を控除した,32万4218円を法律上の原因なく利得しており,これをA区に返還すべきである。 また,政務活動費を不正請求した本件議員団は,地方税法の法人事業税に関する規定(72条の45第1項)により,延滞金相当額として,本件費用に係る政務活動費をあらかじめ受領した日(平成30年4月9日)から支払済みまで年14.6%(ただし,最初の1か月間を経過するまでは年7.3%)の割合による金員を支払うべきである。さらに,本件議員団の行為は, 事実の隠ぺい 領した日(平成30年4月9日)から支払済みまで年14.6%(ただし,最初の1か月間を経過するまでは年7.3%)の割合による金員を支払うべきである。さらに,本件議員団の行為は, 事実の隠ぺいないし仮装に当たるから,本件費用の額に35%の割合を乗じて得た金額の重加算金(72条の47第1項)に相当する金員を支払うべきである。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(本件議員団が本件職員らに損害賠償金を支払うよう請求すること を求める訴えの適法性及び当否)について地方自治法242条の2第1項各号所定の住民訴訟は,同法242条1項所定の違法な公金の支出等の財務会計上の行為又は違法に公金等の財産の管理を怠る事実を対象とするものでなければならないところ,本件職員らが本件研修に参加するための旅費の支払は,本件職員らの私費によるものであるから,上 記の財務会計上の行為又は怠る事実に該当しないものであることは明らかである。 したがって,本件訴えのうち,本件議員団が本件職員らに損害賠償金を支払うよう請求することを求める訴えは,訴訟の対象とすることができない事項を対象とした住民訴訟として,不適法である。 2 争点(2)(本件費用の支出の適法性)について (1)ア地方自治法100条14項は,政務活動費の交付につき,普通地方公共団体は,条例の定めるところにより,その議会の議員の調査研究その他の活動に資するため必要な経費の一部として,その議会における会派又は議員に対し,政務活動費を交付することができ,この場合において,当該政務活動費の交付の対象,額及び交付の方法並びに当該政務活動費を充て ることができる経費の範囲は,条例で定めなければならない旨規定しているところ,その趣旨は,議会の審議能力を強化し,議員の調 該政務活動費の交付の対象,額及び交付の方法並びに当該政務活動費を充て ることができる経費の範囲は,条例で定めなければならない旨規定しているところ,その趣旨は,議会の審議能力を強化し,議員の調査研究その他の活動の基盤の充実を図るため,議会における会派又は議員に対する調査研究その他の活動の費用等の助成を制度化したものであると解される。そうすると,政務活動費を充てることが許される会派又は議員の調査研究そ の他の活動に係る経費に該当するためには,当該行為ないし活動が,その客観的な目的や性質に照らし,議員としての活動との間に合理的関連性を有することを要するものと解される(最高裁平成22年(行ヒ)第42号同25年1月25日第二小法廷判決・裁判集民事243号11頁参照)。 イ本件条例は,地方自治法100条14項等の規定を受けて,A区議会議 員の調査研究その他の活動に資するため必要な経費の一部として,区議会における会派に対し,政務活動費を交付することに関し必要な事項を定めるものである(1条)。そして,本件条例9条及び別表により定められた本件使途基準は,政務活動費の交付の対象について,「会派又は会派に所属する議員が行う調査研究,情報収集,研修,広報,広聴,住民相談,各 種会議への参加等区政の課題及び区民の意思を把握し,区政に反映させる活動その他区民福祉の向上を図るために必要な活動(政務活動)に要する経費」である旨を定め,政務活動費を充てることができる経費である「研究研修費」の内容について,「会派が研究会,研修会を開催するために必要な経費又は会派に所属する議員が他の団体の開催する研究会,研修会等 に参加するために要する経費(会場費,講師謝礼金,出席者負担金,会費, 交通費,旅費,宿泊費等をいう。)」である旨を定めて な経費又は会派に所属する議員が他の団体の開催する研究会,研修会等 に参加するために要する経費(会場費,講師謝礼金,出席者負担金,会費, 交通費,旅費,宿泊費等をいう。)」である旨を定めている。このように,地方自治法及び本件条例は,政務活動費の使途を限定しているから,当該年度において交付を受けた政務活動費のうち,本件使途基準に適合した支出に充てなかった残余がある場合には,当該残額はこれを保持する法律上の原因を欠くものとして,不当利得として返還されるべきこととなる。本 件返還規定は,このような場合に不当利得返還義務が発生することを明確にしたものであると解される。また,A区議会は,本件使途基準への該当性の判断を含む,政務活動費の運用に関する判断についての考え方を示した本件手引を作成しているところ,これは本件条例における解釈の指針を示すものとして参考となるものである。 ウもっとも,支出の費目の上では政務活動費に充てることができる経費に該当する場合であっても,当該活動の内容やその客観的な目的,性質に照らし,議員としての活動との間の関連性が乏しい活動に伴う経費や,社会通念に照らして,調査研究その他の活動のための必要性,相当性に欠けるものであるときは,議員の調査研究その他の活動は多岐にわたり,個々の 経費の支出がこれに必要か否かについては議員の合理的判断に委ねられる部分があることを考慮しても,特段の事情のない限り,当該支出は本件使途基準に適合しない違法なものと認めるのが相当である(最高裁平成21年(行ヒ)第214号同22年3月23日第三小法廷判決・裁判集民事233号279頁参照)。 (2)ア前記前提事実及び証拠(乙4)によれば,本件研修は本件議員団が主催したものであり,その参加予定者も本件議員団所属の議 3月23日第三小法廷判決・裁判集民事233号279頁参照)。 (2)ア前記前提事実及び証拠(乙4)によれば,本件研修は本件議員団が主催したものであり,その参加予定者も本件議員団所属の議員13名及び本件職員らとされ,C周辺に居住する講師や他の団体が参加することが予定されていたものではなく,その研修の内容も本件議員団所属の議員らが本件職員らからA区の施策の取組状況について説明を受け,質疑応答や意見 交換等を行うというものであったから,A区内ないしその周辺の会議室等 で行うことができる性質のものであったといえる。また,本件研修は平成30年7月21日の午前10時から午後4時にかけて行うことが予定され,同月22日には研修会等が予定されていなかったのであるから,A区とC間の距離やこの間の移動に要する時間(E駅とC駅間の新幹線による所要時間は約70分である(公知の事実)。)を考慮しても,宿泊するこ となく行うことが十分に可能であったということができる。 これらの事情によれば,本件研修は,議員の調査研究その他の活動には該当するものの,Cで,しかも宿泊を伴って行う必要性,相当性に欠けるものであり,本件費用の支出は,社会通念に照らして,調査研究その他の活動のための必要性,相当性に欠けるものであったというべきである。 イ被告は,区議会議員においては,区民や支持者からの連絡,相談事,呼出しに対して丁寧に対応することが求められるが,他方で,区政の重要課題を取り上げる本件研修を行うに当たっては,議員が集中して研修に参加できる環境を整える必要があるため,区民や支持者からの連絡等のうち,緊急を要しないものについてはすぐに戻ることができないために後日対応 することで理解が得られる場所で,かつ,急を要するものについては,交 整える必要があるため,区民や支持者からの連絡等のうち,緊急を要しないものについてはすぐに戻ることができないために後日対応 することで理解が得られる場所で,かつ,急を要するものについては,交通の便が良く,おおむね2時間以内でA区内に戻って対応することができる場所で,過大な交通費の負担を要しないといった条件を考慮し,本件研修を行うこととした旨主張する。 しかしながら,本件研修は平成30年7月21日午後4時までとされて いたのであるから,A区内又はその周辺地域で研修を実施していれば,区民や支持者からの緊急を要しない連絡等に対しても,研修の終了後その日のうちに対応することが可能であり,急を要するものについては即座に対応が可能であるといえるし,区民や支持者からの連絡等に対応せずに集中して研修に参加できる環境を整えるため,本件職員らに私費で参加させて までCにおいて研修を行い,その研修に係る議員らの交通費,宿泊費その 他の費用に政務活動費を充てることは,その財源を区民の経済的負担に依拠していることも併せ考慮すると,社会通念に照らし,必要性,相当性に欠けるものといわざるを得ず,区民の理解を得られる範囲内のものであるとも認められない。 また,被告は,研修場所の選定に当たって,東京都内又はA区内で50 名以上を収容できる会議室を確保しようとすると,高額になってしまい,特にA区内の施設については,区民優先で利用してもらうため,議員の研修のためには利用しにくいという実情もあった旨主張するが,東京都内又はA区内の会議室の確保に要する費用が本件研修で要した費用よりも高額であることを示す証拠は何ら提出されていないし,区内施設について区民 優先で利用してもらうため,Cにおいて研修を行い,その研修に係る費用に政務活動費を充て 費用が本件研修で要した費用よりも高額であることを示す証拠は何ら提出されていないし,区内施設について区民 優先で利用してもらうため,Cにおいて研修を行い,その研修に係る費用に政務活動費を充てることは,上記と同様,社会通念に照らし,必要性,相当性に欠けるものといわざるを得ず,区民の理解を得られる範囲内のものであるとも認められないから,被告の主張を採用することはできない。 ウ被告は,平成30年7月21日の午後4時以降も議員と本件職員らとの 間で個別の議論や意見交換,情報交換が午後5時頃まで続いたこと,その後も,飲食を伴いながら,午後9時頃まで,議員と本件職員らが個別に議論をしたり,意見交換,情報交換を行ったりしたものであり,これらは本件議員団において本件研修を一層効果的なものにしているものと認識されているから,当該時間帯において行われた活動が政務活動に当たることに ついて,疑義を差し挟む余地はないこと,2日目についても,各議員間,あるいは本件職員らとの間で,個別のやり取りや情報交換,議論が交わされていることからすれば,宿泊を伴うことは相当であり,その必要性は十分認められる旨主張する。 しかしながら,議員が他の議員や本件職員らとの間で個別の議論や意見 交換,情報交換を行い,これらが本件研修を一層効果的なものにしている ものと本件議員団において認識されていたとしても,同日午後4時以降,研修会は行われていないのであって,本件費用のうちの宿泊費は,結局のところ,議員らが本件職員らとの宿泊を伴う懇親会を行うための宿泊費であるというほかなく(なお,C駅を午後9時過ぎに出発する新幹線の列車に乗車すれば,E駅には午後11時頃までに到着する(公知の事 実)。),本件使途基準が定める「研究研修費」に当たらないという であるというほかなく(なお,C駅を午後9時過ぎに出発する新幹線の列車に乗車すれば,E駅には午後11時頃までに到着する(公知の事 実)。),本件使途基準が定める「研究研修費」に当たらないというべきである。 エ以上によれば,本件費用の支出は,社会通念に照らして,調査研究その他の活動のための必要性,相当性に欠けるものであり,これを本件使途基準に適合するものと認めるに足りる特段の事情があるとは認められないか ら,本件費用の支出は本件使途基準に適合しない違法なものと認めるのが相当である。 3 争点(3)(本件議員団がA区に返還すべき不当利得の有無及びその額)について(1) 上記2のとおり,本件議員団が政務活動費を充てることができる経費と して平成30年度の収支報告書等に計上した経費のうち,本件費用(38万8740円)については,本件使途基準に適合しないものと認められる。 (2) ところで,本件条例は,具体的な使途を個別に特定した上で政務活動費を交付すべきものとは定めておらず,議長が半期ごとに交付の決定を行い,当該決定に基づいて半期ごとに一定額を交付した上で,事後に収支報告書等 を提出させて使途を明らかにさせ,本件使途基準に適合した支出に充てなかった残額がある場合にはこれを返還させることにより,交付した政務活動費が本件使途基準に適合した支出に充てられることを確保しようとするものといえる。さらに,本件条例は,収支報告書上の支出の総額が当該年度の交付額を上回ることを禁ずるものとは解されず,その支出の総額が交付額を上回 る場合に,収支報告書上,支出の総額のうちどの部分について政務活動費を 充てるのかを明らかにすることを求めているものとも解されない。こうした本件条例の定めの下では,議員等が政務活動費を充てる る場合に,収支報告書上,支出の総額のうちどの部分について政務活動費を 充てるのかを明らかにすることを求めているものとも解されない。こうした本件条例の定めの下では,議員等が政務活動費を充てることができるものとして収支報告書に計上した経費に,本件使途基準に適合しないと認められるものが含まれる場合であっても,当該年度において,本件使途基準に適合する収支報告書上の支出の総額が交付額を下回ることとならない限り,政務活 動費の交付を受けた会派又は議員が,政務活動費を法律上の原因なく利得したということはできない。したがって,本件条例に基づいて交付された政務活動費について,その収支報告書上の支出の一部が本件使途基準に適合しないものであっても,当該年度において,収支報告書上の支出の総額から本件使途基準に適合しないものの額を控除した額が政務活動費の交付額を下回る こととならない場合には,当該政務活動費の交付を受けた本件議員団は,A区に対する不当利得返還義務を負わないものと解するのが相当である(最高裁平成29年(行ヒ)第404号同30年11月16日第二小法廷判決・民集72巻6号993頁参照)。 本件議員団の平成30年度の政務活動費の収支報告書によれば,本件議員 団の支出額は1254万4172円であり,政務活動費の交付額(1248万円)を6万4172円上回っていることから,当該部分については,本件議員団はA区に対する不当利得返還義務を負わないことになる。 したがって,本件議員団は,A区に対し,38万8470円から6万4172円を控除した32万4298円について,不当利得返還義務を負う。 (3)ア原告は,本件議員団に対し,本件費用に係る政務活動費をあらかじめ受領した日(平成30年4月9日)からの延滞金相当額 を控除した32万4298円について,不当利得返還義務を負う。 (3)ア原告は,本件議員団に対し,本件費用に係る政務活動費をあらかじめ受領した日(平成30年4月9日)からの延滞金相当額を支払うよう求めているところ,これは,本件議員団所属の各議員が民法704条の「悪意の受益者」に該当する旨を主張して,同条所定の利息の支払を求めるものと解される。しかしながら,同条の「悪意の受益者」とは,法律上の原因 のないことを知りながら利得したものをいい,本件における政務活動費か らの各支出についていえば,本件使途基準に適合しない支出であることを知っていることをいうものと解すべきところ,本件使途基準に適合しているか否かは,法的評価に関わる問題であるから,当該支出が本件使途基準に適合しないことが明らかな場合でない限り,本件使途基準に適合しないことについて悪意であると認めることはできないというべきである。 これを本件についてみると,前記2で本件使途基準に適合しない違法な支出であると認められた支出は,それ自体,本件使途基準に適合しないことが明らかであるとまではいえないから,本件議員団所属の各議員において,本件費用の支出につき悪意であったと認めることはできない。 イまた,仮に,原告の請求を遅延損害金の支払を求める趣旨と解したとし ても,本件議員団が負う政務活動費に係る不当利得返還義務は期限の定めのない債務であり,履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負うこととなるが(民法412条3項),返還請求権者であるA区が,本件議員団に対し,具体的な履行の請求をした事実は認められず,被告が本訴でした本件議員団に対する訴訟告知をもって履行の請求があったとみることも困難で ある。 したがって,原告の延滞金に係る請求は理 団に対し,具体的な履行の請求をした事実は認められず,被告が本訴でした本件議員団に対する訴訟告知をもって履行の請求があったとみることも困難で ある。 したがって,原告の延滞金に係る請求は理由がない。 ウなお,原告は,被告が本件議員団に対し,本件費用の額に35%の割合を乗じて得た金額の重加算金に相当する額の金員を支払うよう請求することを求めているものの,政務活動費を返還する場合において,その返還額 に重加算金相当額を加算すべきことを定めた法令等は存在しないから,原告の主張は失当である。 第4 結論以上によれば,本件訴えのうち,被告に対し,本件議員団に対して本件職員らに損害賠償金を支払うよう請求することを求める部分は不適法であるから却 下し,その余の部分に係る原告の請求は,被告に対し,本件議員団に対して3 2万4298円を支払うよう請求することを求める限度において理由があるからその限度で認容し,その余はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第3部 裁判長裁判官市原義孝 裁判官中野晴行 裁判官邊見育子

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る