- 1 -主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求 被告は、原告らに対し、それぞれ550万円及びこれに対する平成30年12月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は、死刑確定者の再審請求弁護人であった原告らが、再審請求中に当該死刑確定者に対して死刑が執行されたことについて、再審請求中に死刑を執行 してはならない職務上の義務に違反した死刑執行により、原告らの再審請求弁護人としての弁護権が侵害されたなどと主張して、被告に対し、国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項に基づき、それぞれ、慰謝料等の損害賠償金550万円及びこれに対する不法行為の日(上記死刑執行がされた日)である平成30年12月27日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前 の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実又は後掲証拠〔枝番のあるものは全ての枝番を含む。以下同じ。〕及び弁論の全趣旨によって容易に認定できる事実)⑴ 原告ら原告らは、大阪弁護士会所属の弁護士であり、死刑確定者であったA(旧 姓B。以下「再審請求人」という。)の第1次から第4次までの再審請求の再審請求弁護人であった。なお、原告C及び原告Dは、確定控訴審及び確定上告審の弁護人も務めていた。 ⑵ 確定審の経過(甲A1~3)大阪地方裁判所は、平成7年3月23日、再審請求人に対する強盗殺人、 死体遺棄、詐欺、銃砲刀剣類所持等取締法違反、火薬類取締法違反被告事件 - 2 -について、再審請求人を死刑に処する旨の判決を言い渡した。再審請求人は、上記判決を不服として大阪高等裁判所に 死体遺棄、詐欺、銃砲刀剣類所持等取締法違反、火薬類取締法違反被告事件 - 2 -について、再審請求人を死刑に処する旨の判決を言い渡した。再審請求人は、上記判決を不服として大阪高等裁判所に控訴したが、同裁判所は、平成11年3月5日、再審請求人の控訴を棄却した。再審請求人は、さらに、上記判決を不服として最高裁判所に上告したが、同裁判所は、平成16年9月13日、再審請求人の上告を棄却し、同年10月15日に上記第1審判決が確定 した(以下、ここで確定した判決を「確定判決」という。)。 ⑶ 第1次から第3次までの再審請求審の経過(甲A4~6)再審請求人は、確定判決について、順次、第1次から第3次までの再審請求をしたが、そのいずれについても請求棄却の決定がされた。上記各再審請求審における審理経過の概要は、以下のとおりであった。 【第1次再審請求審】平成20年2月8日第1次再審請求平成22年6月4日大阪地方裁判所において第1次再審請求棄却平成23年6月28日大阪高等裁判所において即時抗告棄却平成23年12月19日最高裁判所において特別抗告棄却【第2次再審請求審】平成23年12月21日第2次再審請求平成26年8月26日大阪地方裁判所において第2次再審請求棄却平成27年3月30日大阪高等裁判所において即時抗告棄却平成27年11月30日最高裁判所において特別抗告棄却【第3次再審請求審】平成27年12月4日第3次再審請求平成29年3月28日大阪地方裁判所において第3次再審請求棄却平成29年7月20日大阪高等裁判所において即時抗告棄却平成29年9月11日最高裁判所において特別抗告棄却 - 3 -⑷ 第4次再審請求審の経過(甲A7)再審請 再審請求棄却平成29年7月20日大阪高等裁判所において即時抗告棄却平成29年9月11日最高裁判所において特別抗告棄却 - 3 -⑷ 第4次再審請求審の経過(甲A7)再審請求人は、平成29年9月12日、大阪地方裁判所に対し、確定判決が被害者2名に対する強盗殺人罪の成立を認めた点について、そのうち少なくとも被害者1名との関係では、その殺意の発生時期及び共犯者との共謀の成立時期は強取行為後であって、確定判決が強盗殺人罪の成立を認めたのは 誤りであり、同罪よりも軽い罪である強盗罪と殺人罪の併合罪を認めるべき明らかな証拠を新たに発見したから、刑事訴訟法435条6号所定の再審事由が存在するなどと主張し、新証拠として、平成21年3月に撮影された写真等が添付された写真撮影等報告書を提出して、第4次再審請求を申し立てた。 そうしたところ、第4次再審請求中であった平成30年12月27日、法務大臣の命令により、大阪拘置所において、再審請求人に対する死刑が執行された(以下「本件死刑執行」という。)。 その後、大阪地方裁判所は、令和元年12月5日、要旨、再審請求弁護人らが主張する事実関係を前提としても、確定判決が認定したのと同じ強盗殺 人罪が成立する上、念のため新証拠と旧証拠を併せ評価しても、確定判決の事実認定に合理的な疑いが生じないことは明らかであり、いずれにしても刑事訴訟法435条6号所定の再審事由は認められないとの理由で、第4次再審請求を棄却した。 ⑸ 関係法令等の定め 本件に関連する関係法令等の定めは、別紙のとおりである。 2 争点⑴ 本件死刑執行の国賠法上の違法性の有無(争点1)⑵ 原告らの損害の有無及び額(争点2) 3 争点についての当事者の主張 ⑴ 争点1(本件死刑 は、別紙のとおりである。 2 争点⑴ 本件死刑執行の国賠法上の違法性の有無(争点1)⑵ 原告らの損害の有無及び額(争点2) 3 争点についての当事者の主張 ⑴ 争点1(本件死刑執行の国賠法上の違法性の有無)について - 4 -(原告らの主張)法務大臣は、再審請求中に死刑確定者の死刑執行をしてはならない職務上の義務を負っており(後記ア)、再審請求人に対してのみならずその弁護人であった原告らに対してもこの義務を負っていたから(後記イ)、本件死刑執行は、原告らとの関係で、国賠法上違法である。 ア法務大臣が再審請求中に死刑確定者の死刑執行をしてはならない職務上の義務を負っていたこと以下の規定等からすれば、法務大臣は、再審請求中に死刑確定者の死刑執行をしてはならない職務上の義務を負っていた。 (ア) 憲法32条 死刑確定者の再審請求権は、司法の判断を受ける権利(司法へのアクセス権)であり、裁判を受ける権利の一内容として憲法32条により保障されている。それにもかかわらず、行政権の判断で再審請求中に死刑確定者の死刑を執行することは、司法へのアクセス権を侵害するものであり、憲法32条に違反する。 (イ) 憲法31条及び刑訴法475条2項ただし書刑訴法475条2項本文は、法務大臣の死刑執行命令は判決確定の日から6か月以内にしなければならない旨規定するが、これは訓示規定にすぎない。むしろ、同項ただし書が、再審請求がされた場合、その手続が終了するまでの期間は、その期間に算入しない旨定めていることから すると、当該規定は、憲法31条の適正手続保障を具体化し、迅速な執行の要請よりも死刑執行に当たって慎重にも慎重を期すべき要請を優先させたものと解されるから、憲法31条及び刑訴法475条2項 すると、当該規定は、憲法31条の適正手続保障を具体化し、迅速な執行の要請よりも死刑執行に当たって慎重にも慎重を期すべき要請を優先させたものと解されるから、憲法31条及び刑訴法475条2項ただし書は、再審請求中の死刑確定者について死刑の執行停止効を認めたものと解すべきである。 (ウ) 自由権規約6条4 - 5 -市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「自由権規約」という。)6条4は、死刑を言い渡されたいかなる者も、特赦又は減刑を求める権利を有する旨を規定しているが、条約法に関するウィーン条約は、条約の解釈に当たり、誠実な解釈、趣旨及び目的に照らした解釈、実効性のある解釈並びに自律的な解釈を要請しており、自由権規約6条4を解釈 するに当たっても、これらの解釈原則に沿って解釈する必要がある。その上で、①自由権規約6条の趣旨が死刑廃止を目指して死刑執行をできる限り制限しようとした点にあること、②死刑が廃止されるべきとの国際慣習法が形成されつつあること、③同条4の「特赦」の原語である「pardon」は、誤判の救済を含む意味であり、我が国の再審請求を含む 概念であること、④再審請求中の死刑執行が許されるとすると、同条4による再審請求権の保障の実効性が失われること、⑤自由権規約委員会の一般的意見は最大限尊重されるべきものであるところ、一般的意見36が、パラグラフ47において、「特赦や減刑の請求が十分に考慮され、適正な手続にのっとって最終的に結論が下される前に判決が執行されな いことを保障しなければならない」としていること(甲C1)、⑥我が国に対する総括所見でも、自由権規約委員会が、平成20年、平成26年及び令和4年の3度にわたり、再審又は恩赦請求が死刑の執行停止の効力を持つことを確保するよう勧告 」としていること(甲C1)、⑥我が国に対する総括所見でも、自由権規約委員会が、平成20年、平成26年及び令和4年の3度にわたり、再審又は恩赦請求が死刑の執行停止の効力を持つことを確保するよう勧告していること(甲C3、4、21)などを考慮すると、自由権規約6条4は、死刑確定者に対し、再審請求 中に死刑を執行されない権利を保障していると解すべきである。 (エ) 本件通牒昭和32年1月28日刑事第1585号通牒(刑事局長発検事総長、検事長、検事正宛。甲D8。以下「本件通牒」という。)は、法務省が死刑執行についての基準を定めた通達であり、自己拘束規範であるところ、 原則として再審請求中の死刑確定者の死刑執行はせず、例外としてやむ - 6 -を得ない場合に再審請求中でも死刑執行を認めるという基準を定めている。したがって、これと異なる取扱いをするためには特段の事情が必要となるが、被告は、本件死刑執行について上記特段の事情を明らかにしないから、本件死刑執行は、自己拘束規範たる本件通牒に違反する。 イ法務大臣が原告らに対しても本件死刑執行をしてはならない職務上の義 務を負っていたこと再審請求弁護人は、再審請求人の生命の救済及び誤判の是正という使命を有するところ、本件死刑執行により、再審請求弁護人である原告らは、再審請求人の生命の救済が不可能となった上、再審請求人とのコミュニケーションの機会も奪われ、誤判の是正に向けた再審請求の追行も事実上不 可能となった。したがって、本件死刑執行は原告らの固有の弁護権を侵害するものであるから、法務大臣は、原告らに対しても、本件死刑執行をしてはならない職務上の義務を負っていた。 (被告の主張)法務大臣は、以下のとおり、再審請求人に対しても再審請求弁護人に対し ても であるから、法務大臣は、原告らに対しても、本件死刑執行をしてはならない職務上の義務を負っていた。 (被告の主張)法務大臣は、以下のとおり、再審請求人に対しても再審請求弁護人に対し ても再審請求中に死刑確定者の死刑執行をしてはならない職務上の義務は負っていないから、本件死刑執行は国賠法上違法ではない。 ア法務大臣が再審請求中に死刑確定者の死刑執行をしてはならない職務上の義務を負っていなかったこと以下のいずれの規定等からも、再審請求中に死刑確定者の死刑執行をし てはならない職務上の義務を導くことはできない。 (ア) 憲法31条、32条裁判を受ける権利を保障する憲法32条は、刑事裁判においては、刑罰権の存否及び範囲を定める手続について、独立した公平な裁判所の公開法廷における対審及び判決によるべきことを定めたものと解されるか ら、このような手続により確定判決を受けた場合において、その後の再 - 7 -審請求中に死刑が執行されたとしても、憲法32条が保障する裁判を受ける権利が侵害されたとはいえない。 また、確定判決を受けるまでの適正な裁判手続が保障されていることや、死刑執行の手続の基本的事項が法定されていることにより、憲法31条の要請は満たされているから、再審請求中の死刑確定者の死刑執行 が憲法31条に反するとはいえない。 (イ) 自由権規約6条4自由権規約6条4は、その文理からして、再審請求中の死刑確定者に死刑を執行してはならない義務を規定したものと解することはできない。また、自由権規約委員会の一般的意見、総括所見及び見解は、これ に従うことを自由権規約の締結国に法的に義務付けているものではなく、法的拘束力を有するものではないから、一般的意見等を踏まえてどのように自由権規約を解釈し実施 意見、総括所見及び見解は、これ に従うことを自由権規約の締結国に法的に義務付けているものではなく、法的拘束力を有するものではないから、一般的意見等を踏まえてどのように自由権規約を解釈し実施するかは、各締結国において個別に判断されるものであり、一般的意見等を根拠に、再審請求中の死刑確定者に死刑執行をしてはならない職務上の義務は導くことはできない。 (ウ) 刑訴法475条2項ただし書刑訴法475条2項ただし書は、再審の請求等がされ、その手続が終了するまでの期間は、死刑判決が確定した日から6か月以内という法務大臣が死刑執行の命令をすべき期間に算入しないことを定めたものであって、原告が主張するように、憲法31条の適正手続保障を具体化し、 迅速な執行の要請よりも死刑執行に当たって慎重にも慎重を期すべき要請を優先させたものと解することはできない。 (エ) 本件通牒について本件通牒の内容から、再審請求中の死刑確定者の死刑執行には特段の事情が必要であるという規範を読み取ることはできない。 イ法務大臣が原告らとの関係でも本件死刑執行をしてはならない職務上の - 8 -義務を負っていないこと原告らが主張するような再審請求弁護人の弁護権は、あくまで抽象的な権利ないし利益にすぎず、法務大臣に対し、再審請求弁護人との関係で、再審請求中の死刑確定者に死刑を執行してはならない職務上の義務を負わせるものではない。したがって、本件死刑執行が、再審請求弁護人の弁護 権を侵害するものとして国賠法上違法と評価されることはない。 ⑵ 争点2(原告らの損害の有無及び額)について(原告らの主張)原告らは、本件死刑執行により、再審請求弁護人として再審請求人の生命の救済及び誤判の是正という使命を果たすことができなくなったも ⑵ 争点2(原告らの損害の有無及び額)について(原告らの主張)原告らは、本件死刑執行により、再審請求弁護人として再審請求人の生命の救済及び誤判の是正という使命を果たすことができなくなったものであ り、これによって被った精神的苦痛を慰謝するための慰謝料は、各原告につき500万円は下らない。また、原告らは、弁護士に委任して本件訴訟を提起せざるを得なくなっており、本件死刑執行と相当因果関係を有する弁護士費用は、各原告につき50万円である。 (被告の主張) 否認ないし争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(本件死刑執行の国賠法上の違法性の有無)について⑴ 憲法32条違反の主張について原告らは、再審請求中の死刑確定者に対する死刑執行は憲法32条に違反 するから、法務大臣は再審請求中に死刑確定者の死刑執行をしてはならない職務上の義務を負っていた旨主張する。 しかしながら、憲法32条は、何人も裁判所において裁判を受ける権利を奪われない旨規定するところ、これは、刑事裁判においては、刑罰権の存否及び範囲を定める手続について、独立した公平な裁判所の公開法廷における 対審及び判決によるべきことを定めたものであって、再審を開始するか否か - 9 -を定める手続はこれに含まれないと解される(最高裁判所昭和42年7月5日大法廷決定・刑集21巻6号764頁参照)。そうすると、独立した公平な裁判所の公開法廷における対審の訴訟手続によって死刑に処する旨の確定判決を受けた場合に、その後の非常救済手続である再審請求手続の審理が終了しない間に死刑が執行されたからといって、憲法32条が保障する裁判を 受ける権利が侵害されたということはできず、同条に違反するとはいえない。 これに対し、原告らは、死刑確定者の再審請求権は 終了しない間に死刑が執行されたからといって、憲法32条が保障する裁判を 受ける権利が侵害されたということはできず、同条に違反するとはいえない。 これに対し、原告らは、死刑確定者の再審請求権は司法の判断を受ける権利(司法へのアクセス権)として憲法32条により保障されており、再審請求中の死刑執行はこれを侵害するものであると主張するが、上述したところによれば、死刑確定者の再審請求権が憲法32条の裁判を受ける権利の一内 容として保障されていると解することはできず、原告らの上記主張は独自の見解といわざるを得ない。 したがって、原告らの上記主張は採用できない。 ⑵ 憲法31条及び刑訴法475条2項ただし書違反の主張について原告らは、再審請求中の死刑確定者に対する死刑執行は憲法31条及び刑 訴法475条2項ただし書に違反するから、法務大臣は再審請求中に死刑確定者の死刑執行をしてはならない職務上の義務を負っていた旨主張する。 しかしながら、前記⑴のとおり、憲法32条により、刑罰権の存否及び範囲を定める手続について、独立した公平な裁判所の公開法廷における対審及び判決によることが保障されていること、確定判決を受けるまでに刑事訴訟 法等に基づく適正な裁判手続が保障されていることに加え、再審請求の内容や過去の再審請求の回数等に関わらずおよそ再審請求により当然に死刑の執行が停止されるとすれば、再審請求が不断に繰り返されることによって、死刑の執行が事実上永続的に不可能となるところ、死刑制度の存置を前提とする限り、現行の法制度の下でそのような事態が生じることは不合理であるこ とを考慮すると、適正手続の保障を定める憲法31条から、およそ再審請求 - 10 -中の死刑確定者に対しては一律に死刑を執行してはならない義務が生じると 事態が生じることは不合理であるこ とを考慮すると、適正手続の保障を定める憲法31条から、およそ再審請求 - 10 -中の死刑確定者に対しては一律に死刑を執行してはならない義務が生じると解釈することは困難であり、他に本件死刑執行が憲法31条の保障する適正手続に違反したと認めるに足りる事情もない。 そして、刑訴法475条2項ただし書は、同項本文が、法務大臣による死刑の執行の命令は、確定判決の日から6か月以内にしなければならない旨定 めていることを前提に、再審の請求等がされその手続が終了するまでの期間は、上記6か月以内という期間に算入しないことを定めたものにすぎず、このような規定から、死刑確定者が再審請求中に死刑の執行をされない権利を有していると読み取ることはできない。これに対し、原告らは、刑訴法475条2項ただし書は、憲法31条の適正手続の保障を具体化し、迅速な執行 の要請よりも死刑執行に当たって慎重にも慎重を期すべき要請を優先させたものであるから、憲法31条及び刑訴法475条2項ただし書は、再審請求中の死刑の執行停止効を認めたものである旨主張するが、再審請求中に死刑確定者の死刑を執行した場合に直ちに憲法31条に違反するとはいえないことは前記のとおりであり、このことに、刑訴法442条が再審の請求は刑の 執行を停止する効力を有しない旨定めていることも併せ考慮すると、原告らが主張するように解すべき根拠があるとはいえない。 したがって、原告らの上記主張は採用できない。 ⑶ 自由権規約6条4違反の主張についてア原告らは、自由権規約6条4の日本語訳における「特赦」は、英語の正 文では「pardon」と記載されており、この「pardon」は日本法における再審請求を含む概念であるとの主張を前提に、同規定は死刑 は、自由権規約6条4の日本語訳における「特赦」は、英語の正 文では「pardon」と記載されており、この「pardon」は日本法における再審請求を含む概念であるとの主張を前提に、同規定は死刑確定者に対し再審請求中に死刑を執行されない権利を保障していると解すべきであり、再審請求中の死刑確定者に対する死刑執行は同規定に違反するから、法務大臣は、再審請求中の死刑確定者に死刑執行をしてはならない職務上の義務を 負っていた旨主張する。 - 11 -しかしながら、自由権規約6条4は、「死刑を言い渡されたいかなる者も、特赦(pardon)又は減刑を求める権利を有する。死刑に対する大赦、特赦又は減刑はすべての場合に与えることができる。」と規定するところ、同規定に関する外国文献においても、「pardon」が、通常国家元首によってなされるものであって、執行可能な刑罰が完全に無効とされるものをい うとされているのに対し(甲C2・63項)、我が国における再審制度は、無罪となるべき明らかな証拠が新たに発見された場合等に、裁判所によって開始され行われる再度の公判審理であるから、両者はその実施主体及び性質において異なるものといえ、「特赦(pardon)」に我が国の再審制度を含ませることは、その文理解釈の範囲を超えるものといわざるを得ない。 この点、証拠(甲C22、24の2、証人E)によれば、国際法の研究者であるF大学名誉教授のE(以下「E教授」という。)は、米国の州知事による赦免(clemency)の制度を例示し、英国や米国等の法制度の下では、「pardon」には、誤判の救済、すなわち、新たな証拠によって無罪とされる場合も含むと理解されること、自由権規約14条6には、「新たな事実 又は新しく発見された事実により誤審のあっ 下では、「pardon」には、誤判の救済、すなわち、新たな証拠によって無罪とされる場合も含むと理解されること、自由権規約14条6には、「新たな事実 又は新しく発見された事実により誤審のあったことが決定的に立証されたことを理由としてその有罪の判決が破棄され又は赦免が行われた(pardoned)とき」との規定があり、「赦免」にも英語の正文では「pardon」が用いられていることなどから、自由権規約6条4の「特赦(pardon)」には日本法における再審請求を含めて理解すべきであるとの見解を述べてい ることが認められる。しかし、諸外国の法制度において、誤判救済のためにされる「pardon」が存在し、それが自由権規約の解釈において参酌されるべきであるとしても、そのことが、裁判所による司法権の行使として行われる我が国の再審制度が自由権規約6条4の「特赦(pardon)」に含まれない旨の前記解釈を左右するものとはいえないから、E教授の前記見解 を採用することはできない。 - 12 -そうすると、自由権規約6条4の「特赦(pardon)」に我が国の再審制度が含まれるとはいえず、同規定が死刑確定者に対し再審請求中に死刑を執行されない権利を保障していると解することはできない。 イこれに対し、原告らは、自由権規約委員会の一般的意見や我が国に対する総括所見を根拠に、自由権規約6条4の「特赦(pardon)」に我が国の再 審制度が含まれており、同規定は死刑確定者に対し再審請求中に死刑を執行されない権利を保障していると解すべきである旨主張する。 確かに、一般的意見で示された自由権規約の解釈は、各締約国に対して法的拘束力を持つものではないものの、各締約国が当該規定を解釈するに当たって考慮されるべきものといえる。しかし、原告ら 主張する。 確かに、一般的意見で示された自由権規約の解釈は、各締約国に対して法的拘束力を持つものではないものの、各締約国が当該規定を解釈するに当たって考慮されるべきものといえる。しかし、原告らが指摘する一般的 意見36のパラグラフ47は、「締結国は、6条4にそって、……特赦(pardon)または減刑の要請が意味のある考慮をされ、適用される手続に沿って最終的に決定されるまで判決が執行されないことを確保することを要求される。」とするものであって(甲C1)、「特赦(pardon)」に我が国の再審制度が含まれると解することができないのは前記アのとおりであ るから、上記一般的意見が、自由権規約6条4は死刑確定者に対し再審請求中に死刑を執行されない権利を保障しているとの解釈を示したものとはいえない。 また、自由権規約委員会は、日本政府の第5回定期報告に関する総括所見(平成20年10月採択)において、「締約国は、死刑事件について義務 的再審査制度(mandatorysystemofreview)を採用し、死刑事件の再審(retrial)又は恩赦(pardon)請求が執行停止の効力を持つことを確保すべきである。執行停止の乱用を防止するために恩赦請求の回数に制限を設けることはありうる。」などと勧告しているが(甲C3・パラグラフ17)、執行停止の濫用を防止する必要性についても言及しており、その制度の在 り方について、請求回数の制限を設ける可能性をも示唆している。さらに、 - 13 -自由権規約委員会は、日本政府の第7回定期報告に関する事前質問リストにおいて、我が国に対し、「死刑事例における……再審(retrial)あるいは恩赦(pardon)の請求に執行停止効果を持たせる条件」について明らかにするよう求めている 期報告に関する事前質問リストにおいて、我が国に対し、「死刑事例における……再審(retrial)あるいは恩赦(pardon)の請求に執行停止効果を持たせる条件」について明らかにするよう求めているが(甲C5・パラグラフ11(c))、ここでも、再審請求の執行停止効が無条件のものでないことが念頭に置かれているという ことができる。そして、日本政府の第6回定期報告及び第7回定期報告に関する各総括所見(それぞれ平成26年7月、令和4年10月採択)は、いずれも、日本政府の第5回定期報告に関する総括所見を踏まえて、再審(retrial)あるいは恩赦(pardon)の請求に対する執行停止効を持たせるよう勧告しているものと認められる(甲C4・パラグラフ13(d)、甲C2 1・パラグラフ21(c))。これらによれば、上記各総括所見は、締約国である我が国に対し、死刑確定者から再審請求がされた場合に死刑の執行を停止する旨の制度を導入し、又はそのような運用の確立を求めている一方で、再審請求が繰り返されることによる弊害も踏まえた制度・運用の在り方については、締約国である我が国の裁量に委ねているものと解されるか ら、上記各総括所見が、自由権規約6条4の解釈として、同規定の「特赦(pardon)」に我が国の再審制度が含まれており、同規定により、死刑確定者に対し再審請求中に死刑を執行されない権利が保障されているとの解釈を示したものと解することはできない。 そうすると、上記一般的意見や上記各総括所見を考慮しても、自由権規 約6条4の「特赦(pardon)」に我が国の再審制度が含まれており、同規定により、死刑確定者に対し再審請求中に死刑を執行されない権利が保障されていると解することはできない。 ウその他、原告らは、上記主張の根拠として、自由権 )」に我が国の再審制度が含まれており、同規定により、死刑確定者に対し再審請求中に死刑を執行されない権利が保障されていると解することはできない。 ウその他、原告らは、上記主張の根拠として、自由権規約6条の趣旨が死刑廃止を目指して死刑執行をできる限り制限しようとした点にあること や、死刑が廃止されるべきとの国際慣習法が形成されつつあることなども - 14 -挙げるが、仮に、自由権規約6条の趣旨が上記のとおりであり、また、死刑廃止の国際的潮流があるとしても、そのことから直ちに自由権規約6条4の「特赦(pardon)」に我が国の再審制度が含まれると解することはできない。 エ以上によれば、原告らが主張する根拠を総合しても、自由権規約6条4 の「特赦(pardon)」に我が国の再審制度が含まれており、同規定により、死刑確定者に対し再審請求中に死刑を執行されない権利が保障されていると解することはできない。したがって、再審請求中の死刑確定者に対する死刑執行が直ちに自由権規約6条4に違反するということはできず、他に本件死刑執行が自由権規約6条4に違反すると認めるに足りる事情もない から、原告らの上記主張は採用できない。 ⑷ 本件通牒違反の主張について原告らは、本件通牒が、例外としてやむを得ない場合にのみ再審請求中でも死刑確定者に対する死刑執行を認めるという基準を定めた自己拘束規範であり、これと異なる取扱いをするためには特段の事情が必要となるが、被告 から本件死刑執行について特段の事情の主張がない以上、本件死刑執行は自己拘束規範たる本件通牒に違反するから、法務大臣は本件死刑執行をしてはならない職務上の義務を負っていた旨も主張する。 しかしながら、本件通牒は、その形式及び内容に照らし、行政庁内部における法的拘束力 拘束規範たる本件通牒に違反するから、法務大臣は本件死刑執行をしてはならない職務上の義務を負っていた旨も主張する。 しかしながら、本件通牒は、その形式及び内容に照らし、行政庁内部における法的拘束力のない一般的指示にとどまるものと解され、個別具体的な事 案において、これに違反することが平等原則や信義則に違反することがあり得るとしても、一般的にそれに反する扱いをすることが直ちに公務員の職務上の義務に違反し、違法となると解釈することはできず、原告らの主張は独自の見解に基づくもので採用することはできない。また、この点を措くとしても、本件通牒の内容は別紙のとおりであり、その記載内容に照らし、本件 通牒が、原則として再審請求中の死刑執行はせず、例外としてやむを得ない - 15 -場合にのみ再審請求中でも死刑確定者の死刑執行を認めるという基準を定めた自己拘束規範であるとは解されないから、本件通牒をもって、再審請求中に死刑確定者に対する死刑を執行するには特段の事情が必要となると解することはできない。 したがって、原告らの上記主張は、その前提を欠き、採用できない。 ⑸ 小括以上によれば、原告らが主張する根拠によって、およそ再審請求中の死刑確定者に対しては一律に死刑執行をしてはならない職務上の義務を導くことは困難であるといわざるを得ない。そうすると、被告が再審請求弁護人であった原告らとの関係で上記義務を負うことになるか否かを検討するまでもな く、本件死刑執行が国賠法上違法であったとは認められない。 2 結論等よって、その余の点を判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとして、主文のとおり判決する。 なお、念のため付言すると、本判決は、本件の事実関係を前提に、原告らの 主 の点を判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとして、主文のとおり判決する。 なお、念のため付言すると、本判決は、本件の事実関係を前提に、原告らの 主張を踏まえて検討しても、本件死刑執行が国賠法上違法であるとはいえないと判断したものである。死刑が人の生命を奪う不可逆的かつ究極の刑罰である以上、再審請求中の死刑確定者に対する死刑の執行については慎重な検討を要するものというべきであり、本判決によって、再審請求中の死刑確定者に対する死刑の執行が国賠法上違法と評価される場合があり得ることまで否定される ものではない。 大阪地方裁判所第19民事部 裁判長裁判官大森直哉 - 16 - 裁判官土肥大致 裁判官小川貴裕は、差支えのため、署名押印することができない。 裁判長裁判官大森直哉 - 17 -(別紙)関係法令等の定め○市民的及び政治的権利に関する国際規約第6条 1 すべての人間は、生命に対する固有の権利を有する。この権利は、法律に よって保護される。何人も、恣意的にその生命を奪われない。 2 死刑を廃止していない国においては、死刑は、犯罪が行われた時に効力を有しており、かつ、この規約の規定及び集団殺害犯罪の防止及び処罰に関する条約の規定に抵触しない法律により、最も重大な犯罪についてのみ科することができる。この刑罰は、権限のある裁判所が言い渡した確定判決によっ てのみ執行することができる。 3 (略) 4 死刑を言い渡されたいかなる者も、特赦又は減刑を求める権利を有する。 死刑に対する大赦、特赦又は減刑はすべての場合に与えることが 確定判決によっ てのみ執行することができる。 3 (略) 4 死刑を言い渡されたいかなる者も、特赦又は減刑を求める権利を有する。 死刑に対する大赦、特赦又は減刑はすべての場合に与えることができる。 5、6 (略) 第14条1~5 (略) 6 確定判決によって有罪と決定された場合において、その後に、新たな事実又は新しく発見された事実により誤審のあったことが決定的に立証されたことを理由としてその有罪の判決が破棄され又は赦免が行われたときは、その 有罪の判決の結果刑罰に服した者は、法律に基づいて補償を受ける。ただし、その知られなかった事実が適当な時に明らかにされなかったことの全部又は一部がその者の責めに帰するものであることが証明される場合は、この限りでない。 7 (略) - 18 -○条約法に関するウィーン条約第31条解釈に関する一般的な規則 1 条約は、文脈によりかつその趣旨及び目的に照らして与えられる用語の通常の意味に従い、誠実に解釈するものとする。 2 条約の解釈上、文脈というときは、条約文(前文及び附属書を含む。)のほ かに、次のものを含める。 (a) 条約の締結に関連してすべての当事国の間でされた条約の関係合意(b) 条約の締結に関連して当事国の一又は二以上が作成した文書であつてこれらの当事国以外の当事国が条約の関係文書として認めたもの 3 文脈とともに、次のものを考慮する。 (a) 条約の解釈又は適用につき当事国の間で後にされた合意(b) 条約の適用につき後に生じた慣行であつて、条約の解釈についての当事国の合意を確立するもの(c) 当事国の間の関係において適用される国際法の関連規則 4 用語は、当事国がこれに特別の意味を与えることを意図 用につき後に生じた慣行であつて、条約の解釈についての当事国の合意を確立するもの(c) 当事国の間の関係において適用される国際法の関連規則 4 用語は、当事国がこれに特別の意味を与えることを意図していたと認めら れる場合には、当該特別の意味を有する。 第32条解釈の補足的な手段前条の規定の適用により得られた意味を確認するため又は次の場合における意味を決定するため、解釈の補足的な手段、特に条約の準備作業及び条約の締結の際の事情に依拠することができる。 (a) 前条の規定による解釈によつては意味があいまい又は不明確である場合(b) 前条の規定による解釈により明らかに常識に反した又は不合理な結果がもたらされる場合 ○刑事訴訟法 第442条再審の請求は、刑の執行を停止する効力を有しない。但し、管轄裁 - 19 -判所に対応する検察庁の検察官は、再審の請求についての裁判があるまで刑の執行を停止することができる。 第475条 1 死刑の執行は、法務大臣の命令による。 2 前項の命令は、確定判決の日から六箇月以内にこれをしなければならない。 但し、上訴権回復若しくは再審の請求、非常上告又は恩赦の出願若しくは申出がされその手続が終了するまでの期間及び共同被告人があつた者に対する判決が確定するまでの期間は、これをその期間に算入しない。 ○昭和32年1月28日刑事第1585号通牒(刑事局長発検事総長、検事長、 検事正宛。甲D8)死刑確定者について再審請求があつた場合には、その再審事件が終結するまで死刑執行命令の発付を見合せる建前をとつてきたが、近時死刑確定者のうちには、実質的な再審理由もなく再三にわたつて再審を請求する傾向がみられ、これがため死刑執行に著しい障害をきたしている。そ するまで死刑執行命令の発付を見合せる建前をとつてきたが、近時死刑確定者のうちには、実質的な再審理由もなく再三にわたつて再審を請求する傾向がみられ、これがため死刑執行に著しい障害をきたしている。そこで、当局では場合によつては、 再審事件係属中にかかわらず死刑執行も止むを得ないと思料するのであるが、この点については、なお、個々の事件についてその再審請求の実体をは握し、慎重に検討の上執行の可否を決定する必要があるので、今後貴庁において、刑事関係報告規程により、死刑確定者から再審の請求があつた場合の報告をするにあたつては、その請求の理由の要旨を、又再審請求に対する決定の報告をするにあたつ ては、その決定謄本をそれぞれ添付して報告することとせられたい。 右命によつて通牒する。 以上
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