- 1 -平成18年4月26日判決言渡平成17年(ワ)第10681号損害賠償請求事件判決主文 被告らは,原告に対し,連帯して金450万円及びこれに対する平成14年9月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 原告のその余の請求を棄却する。 訴訟費用はこれを5分し,その1を被告らの連帯負担としその余を原告の負担とする。 この判決は,第1項に限り仮に執行することができる。 事実 及び理由第一請求 被告らは,原告に対し,連帯して金2623万4151円及びこれに対する平成14年9月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 訴訟費用は被告らの負担とする。 第1項につき仮執行宣言第二事案の概要本件は,原告が,被告府中市の開設する府中市民医療センター(以下「医療センター」という)において健康診断を受けたが,医療センターに勤務する。 被告A医師(以下「A医師」という)が胸部レントゲン写真(以下「胸部。 」という)の肺の陰影を見落としたことが原因で肺ガンの発見が遅れ,手Xp。 術が1年間遅れたために肺ガンが進行し,手術で腫瘍は摘出したものの1年前に手術を受けた場合と比べて5年生存率が低下したとして,被告A医師に対しては民法709条の不法行為,被告府中市に対しては民法715条の使用者責任あるいは診療契約に基づく債務不履行責任に基づき,損害賠償と不法行為の日である平成14年9月25日から支払済みまで民法所定年5分の割合による- 2 -損害金の連帯支払を求めた事案である。 一争いのない事実等 原告は,昭和26年6月28日生まれの女性である。被告府中市は,医療センターを開設する地方自治体であり,被告A医師は,原告が医療センターで健康診断を受けた当時,同センターで胸部の読影を担 実等 原告は,昭和26年6月28日生まれの女性である。被告府中市は,医療センターを開設する地方自治体であり,被告A医師は,原告が医療センターで健康診断を受けた当時,同センターで胸部の読影を担当していた。 Xp 原告は,平成14年9月11日,医療センターで個別の有料健康診断(総合健康診査)を受診した。医療センターでは,同日,原告の胸部を撮影Xpしたところ,肺に直径約1センチメートルの異常陰影が存在していたが,A医師は,同月25日,原告に対し,胸部には異常がないと判断しその旨Xp説明した。 原告は,平成15年7月,B医院で府中市無料健康診断を受診し,同年8月上旬,肺に腫瘍の疑いがあると指摘された。原告は,同月11日,C病院で胸部検査を受け,腫瘍を疑われ早期に手術をすることを勧められた。 CT原告は,同年9月1日,D病院で,胸腔鏡下肺葉・区域切除術()のVATS方法で右肺下葉を切除し,同月6日退院した(甲,甲)。 A2C4 切除した腫瘍の病理診断は,肺ガン(低分化型腺癌)であり,進行度分類は,のⅡであり,リンパ節転移は1群まで存在した。 T2N1Stageb 被告A医師は,平成14年9月25日,原告の胸部の読影に際し,異Xp常所見の有無を慎重に判断すべき注意義務が存在するのにこれを怠り,右肺の異常陰影を見落とした注意義務違反(以下「本件見落とし」という)が。 ある。 二争点及び争点についての当事者の主張本件の争点は,第1に,A医師の本件見落としにより原告の5年生存率がどの程度低下したかという点であり(争点1,第2に,原告の損害の程度であ)る(争点2。 ) 争点1(A医師の本件見落としにより原告の5年生存率がどの程度低下し- 3 -たか)についての当事者の主張(原告の主張)( であり(争点1,第2に,原告の損害の程度であ)る(争点2。 ) 争点1(A医師の本件見落としにより原告の5年生存率がどの程度低下し- 3 -たか)についての当事者の主張(原告の主張)(一)本件見落としの時点では,原告の肺ガンの進行度はⅠであStageaったもので,Ⅰであれば,術後の5年生存率は95.4パーセStageaントであった。しかし,本件見落としのせいで発見が1年近く遅れたため,原告の肺ガンは,Ⅱまで進行してしまい,5年生存率は,Stageb50.0パーセントに低下してしまった。したがって,A医師の本件見落としによって,原告の5年生存率は,45.4パーセント低下したものである。 (二)胸腔鏡下肺葉・区域切除術()は,ⅡよりもⅠで実VATSStageStage施されることが多く,原告は,Ⅱ期で胸腔鏡下肺葉・区域切除Stageb術()を実際に受けたのであるから,Ⅰ期であれば当然胸VATSStagea腔鏡下肺葉・区域切除術()を受けていたはずである。したがっVATSて,本件見落としがなかった場合の術後5年生存率は,一般的な切除術ではなく胸腔鏡下肺葉・区域切除術()の成績を基準とすべきでVATSある。 肺癌診療ガイドライン(乙)(以下「ガイドライン」という)は,B1。 胸腔鏡下肺葉・区域切除術()について,現時点では統計学的にVATS明らかな優位性が立証されているわけではないが,多くの記述研究からはその有用性が窺われることも又事実であると評価しており,十分な症例数を持ったランダム化比較試験が行われていなくても,各施設の報告等でも5年生存率を認定できる。 (三)岡山赤十字病院(以下「岡山日赤」という)の統計において,胸。 VATSStagea腔 例数を持ったランダム化比較試験が行われていなくても,各施設の報告等でも5年生存率を認定できる。 (三)岡山赤十字病院(以下「岡山日赤」という)の統計において,胸。 VATSStagea腔鏡下肺葉・区域切除術()は,開胸手術と比べて特にⅠ期の生存率が極めて良好であり,他の胸腔鏡下手術を行っている全国の主な施設でも同様の成績であると記載されている。 - 4 -北海道大学病院からは「病理ⅠA期肺癌に対する胸腔鏡手術」を主,体とした症例73例(胸腔鏡症例67例,開胸症例6例)の5年生存率が98.5パーセントであることが報告されている(甲。 B4)(被告の反論)(一)手術時の肺ガンの病期の進行度によって,予後に差があることは認めるが,肺ガンの病期と予後については種々の統計があり,原告が主張する5年生存率は,岡山日赤という一施設における胸腔鏡手術を施行した症例の成績に過ぎず,一般性あるいは信頼性に欠ける。 一般には,肺ガンに対する胸腔鏡手術と開胸手術とで,予後,侵襲性,安全性に有意な差はないとされており,胸腔鏡手術の優位性を指摘する一部の医療施設における胸腔鏡手術の限られた症例の結果をもとに,予後を判断することは妥当ではない。 (二)肺ガンは,その進行度によって病期分類(分類)がなされてStageおり,分類には,①臨床的()分類と②病理学的StageclinicalStage()分類の2つが存在する。①臨床的分類は,症状pathologicalStageStageや胸部等の画像所見等に基づいて肺ガンの進行や広がりの程度を判Xp断して当該判断に基づいて分類したもので,②病理学的分類は,Stage手術や生検等で得られた組織の病理学的所見に基づいて肺ガンの進行や広がりの程度を判断して当該判断に 行や広がりの程度を判Xp断して当該判断に基づいて分類したもので,②病理学的分類は,Stage手術や生検等で得られた組織の病理学的所見に基づいて肺ガンの進行や広がりの程度を判断して当該判断に基づいて分類したものである。 ガイドライン(乙)は,厚生労働省の研究班によってまとめられたB1肺ガンの臨床医療のガイドラインであるが,肺ガンの術後の成績に関しては,肺癌登録合同委員会の報告(乙)が現状に最も近い報告としてB2信頼できるものとしている。肺癌登録合同委員会の報告によれば,手術時の肺ガンの病期がⅠとⅡの場合の術後5年生存率は,以StageStage下の通りである。 Ⅰの術後5年生存率Stage- 5 -臨床的( )分類c72パーセントcT1N0M0c50パーセントT2N0M0病理学的( )分類p79パーセントpT1N0M0p60パーセントT2N0M0Ⅱの術後5年生存率Stage臨床的( )分類c47.8パーセントcT1N1M0c42.5パーセントT2N1M0病理学的( )分類p58.6パーセントpT1N1M0p41.0パーセントT2N1M0(三)原告の肺ガンの病期は,平成14年9月に医療センターを受診して健康診断を受けた時点では,胸部の所見から見て,腫瘍の大きさがXp1センチメートル前後,遠隔転移の所見はなく,リンパ節転移の所見も確認されていないから,臨床的に見てc(Ⅰ)であるとT1N0M0Stage推定される。 他方,術後の診断では,D病院でp(Ⅱ)であると診T2N1M0Stage断されている。 (四)そうすると,原告の5年生存率は,ガイドラインによれば,医療センター受診時には72パーセント,手術時には41パーセントであり,約11 Ⅱ)であると診T2N1M0Stage断されている。 (四)そうすると,原告の5年生存率は,ガイドラインによれば,医療センター受診時には72パーセント,手術時には41パーセントであり,約11ヶ月間で31パーセント低下したことになる。 国立がんセンター中央病院における肺ガンの症例(平成5年~平成14年)の術後成績の統計(乙)によれば,Ⅰの5年生存率は7B3Stage7.4パーセント,Ⅱの5年生存率は,52.3パーセントであStageる。したがって,国立がんセンター中央病院の統計によれば,原告の5年生存率は,25.1パーセント低下したことになる。 争点2(原告の損害の程度)についての当事者の主張(原告の主張)- 6 -(一)逸失利益合計金1184万9229円( )家事労働分金782万9033円 原告は,家事労働の他,Eで添削業務を継続的に行っていた。 しかし,原告は,術後肺ガンがかなりの割合で再発転移する可能性があるため,できるだけ免疫力が落ちないように,無理をせずストレスを避けるよう健康に細心の注意を払って生活するようになった。一時的にでも疲れることはよくないので軽い運動すら行わない,インフルエンザ流行期には人の集まる場所に行かない,飲酒はしないなど,免疫力低下をもたらすことは一切行わないようにしている。 原告は,家事労働については,家族の協力の下,手術前の8割程度に制限しているので,20パーセントの労働能力喪失が認められる。 平成15年の女子労働者全年齢学歴計平均賃金は,349万0300円であるから,原告の家事従事者としての逸失利益は,下記のとおり782万9033円である。 ①平成15年9月1日から平成17年6月27日までの逸失利益万円×(日÷日)×%=万円 03001+300 従事者としての逸失利益は,下記のとおり782万9033円である。 ①平成15年9月1日から平成17年6月27日までの逸失利益万円×(日÷日)×%=万円 ②平成17年6月28日以降の家事労働逸失利益万円×%×=万円 ①と②を合計すると782万9033円となる。 ( )給与分金402万0196円 原告は,Eで添削業務を継続的に行い,給与を得ていた。原告は,平成15年9月の手術後から添削業務を休止し,平成16年に添削業務を再開したが,長時間の添削業務による疲労はストレスとなり,免疫力が低下するので仕事量を従前より減らさざるを得ない。 平成14年1月1日から同年12月末日までの添削業務で得た給与収入は71万4007円であり,平成15年1月1日から同年12月末日までの添削業務による給与収入は62万3054円で,平成16年1月1日から同年11月末日までの添削業務による給与収入は34万9182円である。 ①平成15年分の減収は,9万0953円である。 ②平成16年分の減収は,33万2512円である。 ③平成17年1月1日から同年6月27日までの減収は,46万5931円である。 ④平成17年6月28日以降の減収は,313万0800円である。 931円である。 万円-万円÷日×日=46万5931円 4007 9182 ④平成17年6月28日以降の減収は,313万0800円である。 (万円-万円÷日×日)×= 4007 9182 365.259.3935万円(歳から歳までの年間のライプニッツ係数 0800 )9.3935①ないし④を合計すると,402万0196円となる。 ( )有職の主婦は,時間的な制約等から専業主婦と比較して家事労働 が質量ともに劣るのが通常であり,特別な事情がない限り,家事労働と他の労働を併せて一人前の労働として評価するのが相当とされている。 しかし,本件は,その特別な事情がある場合に該当する。添削業務は家事の合間に自宅でできる性質の業務であり,原告が添削業務に従事したことで家事労働への影響が生じたことは全くなく,原告の家事労働は,専業主婦と比較して質量ともに劣るものでは決してなかった。 このような特別の事情があるので,原告の場合,家事労働分の逸失利益と添削業務の逸失利益は加算されるべき性質のものである。 - 8 -(二)慰謝料合計金1200万円( )①原告は,1年後にB医院で健康診断を受診していなければ,完 全に手遅れとなって死亡したはずであり,被告らは,原告の死亡による損害賠償債務を負うことになっていた。 原告は,日頃から体に気をつけており,できるだけ早期に診断治療を受けることが健康維持のために必要であると強く自覚していた。 原告は,体のだるさ,易疲労感等体調不良を感じ,その原因を突き止めて異常があれば治療したいとの思いから医療センターを積極的に受診した。原告は,健康に気をつけ病気を発見するためにわざわざ有料の健康診査を受診したのに さ,易疲労感等体調不良を感じ,その原因を突き止めて異常があれば治療したいとの思いから医療センターを積極的に受診した。原告は,健康に気をつけ病気を発見するためにわざわざ有料の健康診査を受診したのに,本件見落としのような医療過誤に遭ってしまったことについて,原告の無念さは計り知れない。 ②原告は,本件見落としがなければ,進行度がⅠ期で手術Stageaを受けられたはずであるのに,本件見落としのために発見が約1年近く遅れⅡ期で手術を受けることになったため,術後5年Stageb. 生存率は半減した。 Ⅰ期であれば,術後5年生存率は95Stagea4パーセントであったのであるから,原告は,死について心配する. ことはなかった。しかし,Ⅱ期では術後5年生存率は50Stageb0パーセントしかなく,原告は,死に直面して過ごさなければならず,ある意味で死よりもつらいことである。 原告は,再発・転移がないか不安を覚えながら検査を受け,検査結果を聞きに行くときの何ともいえない気持ち,再発・転移がないとわかって一瞬はほっとしても次の検査までに間があり,体調に変化があると再発しているのではないかと不安に駆られ,緊張と怖れに苛まれる日々が続く。 原告は,術後5年生存率が半減し,ガン再発・転移の危険性が倍加したことで,日々ガン再発・転移の恐怖に怯えることになった。 - 9 -原告の肺ガンは,幸いにも脳転移はなく肺切除術ができたが,1群までのリンパ節転移が認められたことが判明し,小さいうちには発見できない転移もあり得る旨告げられ,現在も再発・転移の恐怖に怯えている。 Ⅰ期で切除できたのであれば,原告にはこのような不安Stageaはなかったことを考えると,医療過誤による生存率の低下から生じたこのような精神的苦痛は,正当に評価し ・転移の恐怖に怯えている。 Ⅰ期で切除できたのであれば,原告にはこのような不安Stageaはなかったことを考えると,医療過誤による生存率の低下から生じたこのような精神的苦痛は,正当に評価して賠償されねばならない。 ③原告は,民間療法には発ガンを防止するエビデンスがなくても,藁にもすがる思いで少しでも効果がありそうに思えるものについてはいかに高額でも試している。これは,原告のみならず,生死の狭間にいるガン患者では通常のことで,民間療法の費用を積極損害として認定することは無理であっても,民間療法に多額の費用を費やさざるを得ない精神状態にあることは,慰謝料において十分考慮すべきである。 ④原告は,貴重な時間を訴訟に割きたくなかったが,被告府中市の担当者が本件について調査中であるという理由で原告に対応せずに放置したため,原告が裁判を考えていることを伝えた。しかし,被告府中市は,話合いによる解決を強く要望したので,原告も話合いによる解決を検討することにして,平成16年2月19日から被告府中市が委任した弁護士と原告との間で被告府中市の責任を認める前提で協議が始まったが,被告府中市は,平成16年7月,損害が不明であるため裁判にして欲しい旨述べ,交渉を打ち切った。被告府中市のかかる対応は,原告を振り回すもので,術後5年の経過あるいは原告の死を待っているかの如くであり,交渉の経緯自体が不誠実である。 被告らは,過誤が明白であり原告に解決の意思があるのに,具体- 10 -的な金額の提示をせず,原告は,訴訟による解決を図らざるを得なくなって,費用と時間と労力の負担が生じていることは,慰謝料を算定するうえで考慮すべきである。 ( )原告は,上記(二)( )で記載したように,死の危険にさらされて死 にも匹敵する精神的苦痛を現実に受けて と時間と労力の負担が生じていることは,慰謝料を算定するうえで考慮すべきである。 ( )原告は,上記(二)( )で記載したように,死の危険にさらされて死 にも匹敵する精神的苦痛を現実に受けている。この精神的苦痛は,死の結果が発生するか否かにかかわらず,現実の損害として発生しており,死の危険にさらされていることから受ける精神的苦痛は,死の前段階の苦痛であって,死亡慰謝料は死の直前の苦痛に対する慰謝を含むものであるから,死の危険にさらされていることから受ける精神的苦痛に対する慰謝料も,死亡慰謝料と同様に認められるべきものである。 判例は,傷害の極限概念として死亡についての慰謝料を認め,死亡慰謝料を傷害慰謝料と連続的なものと位置付け,死亡慰謝料は,死者本人において発生するという考え方をとっていることと調和する。 本件においては,上記(二)( )に記載した諸事情を勘案することは もちろん,本件見落としがなければ術後5年生存率が95.4パーセントと死の可能性をほとんど問題にしなくともよかったのに,過誤があったために術後5年生存率が50.0パーセントになったことを考慮すると,慰謝料は,死亡慰謝料2400万円の半額にあたる1200万円が相当である。 ( )被告らの注意義務違反は以下に記載するとおり重大であり,かか る事実は,慰謝料額等に反映されるべきである。 ①肺ガンは,日本において臓器別ガン死亡原因の第一位とされている重大な疾患であり,日常的に遭遇する機会が高く,進行が早く致死的で,発見された時点の病期で生存率が大きく異なる疾患であるから,稀な疾患で,進行が遅く,被致死的で発見された病期で生存- 11 -率があまり異ならない疾患と比較すると,早期発見・早期治療が有効で,肺ガンを見落とさないようにする注意義務がより大きく,その注 ,稀な疾患で,進行が遅く,被致死的で発見された病期で生存- 11 -率があまり異ならない疾患と比較すると,早期発見・早期治療が有効で,肺ガンを見落とさないようにする注意義務がより大きく,その注意義務違反は重大である。被告A医師が肺ガンを見落としたことは,重大な過誤である。 ②肺ガン検診は,旧厚生省の「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」に基づき,市町村が実施する事業のひとつである。肺ガン検診に責任を負う市町村である被告府中市が,肺ガンを見落としたことは,被告府中市の責任を加重するものである。 ③原告の肺ガンは,肺野部に存在し,肺野部は胸部で異常発見Xpが困難な部位ではない。被告A医師の過誤は,極めて初歩的な過誤である。 ④原告が受診したのは,集団検診ではなく,患者の主訴をもとに病変を発見しようとする個別健診である。本件では,原告は,体調の異常を訴えており,発見が困難な部位ではないのであるから,被告A医師が原告の体調不良がどこから来るものか注意して病変を発見しようという態度で読影していれば,他の疾患でマスクされて肺ガンの発見が困難であった等の事情はなく,原告の肺ガンは十分発見可能であった。 ⑤被告A医師は,平成元年に医学部を卒業し,内科医として10年以上のキャリアがあったが,通常10年以上のキャリアを有する医師であれば,かかる異常を発見することができる程度の能力を当然持っていたはずである。 原告は,被告府中市が開設している施設であることやベテラン医師であることを信頼しているから医療センターを受診したのであり,その信頼を裏切った点は,慰謝料算定に影響する事情である。 ( )札幌高裁平成16年1月16日判決は,型肝炎ウイルスの持続 B- 12 -B感染者(キャリア)の慰謝料について500万円を相当と 信頼を裏切った点は,慰謝料算定に影響する事情である。 ( )札幌高裁平成16年1月16日判決は,型肝炎ウイルスの持続 B- 12 -B感染者(キャリア)の慰謝料について500万円を相当としたが,型肝炎ウイルスの持続感染者(キャリア)が生存に対する深刻な脅威となり,一生涯解放されることのない不安と苦悩を持ち続けることを考慮すると,慰謝料500万円は決して高額ではない。 型肝炎ウイルスの持続感染者(キャリア)の約90パーセントはB沈静化し,約10パーセントが慢性肝炎となり,20年以上経てその20~30パーセントが肝硬変となる。慢性肝炎と肝硬変から肝ガンになったものを合わせると,約25パーセントの発癌率と推定できる。 つまり,型肝炎ウイルスの持続感染者(キャリア)の約2.5パーBセントが約30年以上を経て発ガンする。 型慢性肝炎には,インターフェロン,ラミブジン,アデホビルとBいう治療薬があるのに対し,肺ガンには特効薬はない。国立がんセンター中央病院の肺ガン(~)と肝ガン(~)の治療1993200219902000成績を比較しても,より新しい肺ガンの方が生存率が低い。本件は,型肝炎ウイルスの持続感染者以上に生存に対する深刻な脅威が切迫Bしているので,500万円の慰謝料では,到底足りない。 ( )については,判例上7級から9級相当と認められている。 PTSD原告は,生存に対する深刻な脅威にさらされ,近い将来起こるかもしれない死の恐怖に支配されている状態にある。これは,に勝るPTSDとも劣らない深刻な損害であり,過去の記憶が薄れていくことでは軽快するが,今後起こる再発,転移,死亡への恐怖は薄れるPTSDことはなく,その意味で本件の方がよりも損害は大きい。 PTSDしたがって,本件の慰謝料は,7級 り,過去の記憶が薄れていくことでは軽快するが,今後起こる再発,転移,死亡への恐怖は薄れるPTSDことはなく,その意味で本件の方がよりも損害は大きい。 PTSDしたがって,本件の慰謝料は,7級の慰謝料(1051万円)より高額となってしかるべきであり,原告が請求する慰謝料1200万円は,この観点からしても相当である。 (三)小計金2384万9229円- 13 -(四)弁護士費用金238万4922円被告らは,任意の賠償に応ぜず,原告は訴訟提起を余儀なくされた。 本件医療事故と相当因果関係がある弁護士費用は,(三)小計の1割に相当する238万4922円である。 (五)総計金2623万4151円(被告の反論)(一)逸失利益について( )原告は,肺ガンに罹患しており,仮に医療センターで胸部の Xp異常所見を指摘し早期に肺ガンと診断して治療が実施されたとしても,肺ガンの再発,転移の危険性は残る。胸部の所見からリンパ節そXpの他の臓器への転移の有無について明確に判断することはできず,少なくとも細胞レベルのリンパ節その他の臓器への転移が画像診断で描出されるものではないから,リンパ節その他の臓器への転移がないとはいえない。 したがって,本件見落としと家事労働あるいは添削業務に影響が出ることとの間に相当因果関係はない。仮に原告が主張するように,できるだけ免疫力が落ちないように無理をせずストレスを避けるよう健康に細心の注意を払って生活するため,家事労働に制約が生じるという影響があるとしても,また,長時間の添削業務による疲労はストレスとなり免疫力が低下するので,添削業務の仕事量を従前より減らさざるを得ないという影響があるとしても,それは,原告が肺ガンに罹患したことによるものであり,肺ガンである以上,平成14年9月に医療 レスとなり免疫力が低下するので,添削業務の仕事量を従前より減らさざるを得ないという影響があるとしても,それは,原告が肺ガンに罹患したことによるものであり,肺ガンである以上,平成14年9月に医療センターを受診した時点で診断して治療したとしても常に再発,転移の危険性はつきまとう。肺ガンの再発,転移の危険性があることによって家事労働あるいは添削業務を制約せざるを得ないという影響があるとしても,手術実施時の肺ガンの病期の進行度が違っているこ- 14 -とで,その影響に大きな違いが生じるとは考えられない。 原告の肺ガンの診断が遅れたことによって,原告の労働能力の低下あるいは就労時間を減少させるといった損害が生じたとは考えられない。 ( )原告の平成15年分の添削業務からの収入の減少については,原 告が肺ガンの手術を受けた年であるから手術による休業に伴う収入減少が考えられるが,肺ガンの診断時期を問わず手術は必要であったのであり,手術のための入院期間や術後の静養期間に大きな違いがあるとは考えられず,手術に伴う休業による収入減少は,本件見落としと相当因果関係がある損害ではない。 ( )原告は,家事労働と添削業務の双方について逸失利益があると主 張しているが,通常は,双方について逸失利益が生じるとは認められない。 (二)慰謝料について( )一般論として,肺ガンの病期が進行した場合には術後の予後が悪 化するが,術後の予後の悪化を根拠とする慰謝料の算定については明確な基準がない。本件では,肺ガンのⅠとⅡの術後5年StageStage生存率を比較した場合に,原告が主張する慰謝料の金額は過大である。 ( )肺ガンの再発,転移の可能性を排除するための民間療法が存在す るようであるが,一般的に効果が確認されていないような民間療法を 存率を比較した場合に,原告が主張する慰謝料の金額は過大である。 ( )肺ガンの再発,転移の可能性を排除するための民間療法が存在す るようであるが,一般的に効果が確認されていないような民間療法を行っていることをもって,損害の算定に加味することは相当ではない。 Xp( )被告らは,平成14年9月に原告が健康診査を受けた際の胸部検査で異常がないと判断したことについて不適切であったことを認め,原告側と被告側の双方が弁護士を介して損害賠償の交渉を始めたが,本件では,損害額の算定が困難であることについては,双方に共通の認識があった。原告は,交渉の当初慰謝料として少なくとも700万- 15 -円を請求する旨表明していたが,これが,本件見落としによって肺ガンの診断が遅れたことに基づく損害の全てであるという趣旨ではないと理解され,終局的な解決のための和解案の提示であるとは考えられない状況であった。そうであれば,訴訟外の交渉を続けるよりは,裁判で解決する方が速やかで合理的であるということになったのである。 (三)( )被告A医師は,胸部の異常所見を判読できず,結果的に肺 Xpガンの診断が遅れたが,肺ガンという疾患であるが故に注意義務違反の程度が重大であるということにはならない。 ( )地方自治体が開設した健康診断施設であることの故に,担当医師 の注意義務が加重され,その注意義務違反及び損害賠償責任が重大であるということにはならない。 ( )被告A医師は,胸部で肺野の異常所見を見落としたが,原告 Xpの異常所見の判読は必ずしも容易ではないのであり,異常所見の部位が肺野であることをもって,注意義務違反が重大であるということにはならない。 ( )医療センターの健康診査は,いわゆる健康診断であって,受診者 が具体的な身体症状を ないのであり,異常所見の部位が肺野であることをもって,注意義務違反が重大であるということにはならない。 ( )医療センターの健康診査は,いわゆる健康診断であって,受診者 が具体的な身体症状を有していて,その診断,治療を受けるために受診するものではない。原告は,問診票に体のだるさ等を記載しているが,その症状について診断,治療のために医療センターの健康診査を受けたわけではない。 原告は,平成14年9月11日,医療センターの健康診査を受けた際に作成した問診票に不定愁訴を記載したが,咳が出る,痰がからむ,痰に血が混じるといった項目には丸を付けておらず,特に肺ガンを疑わせるものではなく,原告の身体症状から肺ガンを疑うことはできない。その際に実施した腫瘍マーカーも正常値を示している。 ( )被告A医師が診療経験10年以上の内科医であることをもって, - 16 -本件における胸部の判読にあたっての注意義務違反が重大であるXpということにはならない。 第三当裁判所の判断一肺ガン切除術後の生存率についての事実認定甲第3号証,乙第1号証のほか下記()内に記載した証拠及び弁論のBB全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。 1(一)ガンの進行度分類としての分類が,原発巣(),リンパ節TNMT(,遠隔転移()のそれぞれについて進行度を判定し,総合して治NM)療方針決定や予後の判定に用いられていることは,当裁判所に顕著である。 ,(二)肺ガンは,その進行度によって病期分類(分類)がされておりStage分類には,①臨床的()分類と②病理学的()StageclinicalStagepathological分類の2つが存在する。 Stage①臨床的分類は,症状や胸部等の画像所見等に基づいて肺ガ 臨床的()分類と②病理学的()StageclinicalStagepathological分類の2つが存在する。 Stage①臨床的分類は,症状や胸部等の画像所見等に基づいて肺ガStageXpンの進行や広がりの程度を判断して当該判断に基づいて分類したもので,②病理学的分類は,手術や生検等で摘出した臓器の組織を顕微鏡をStage用いて観察し,その病理学的所見に基づいて肺ガンの進行や広がりの程度を判断して当該判断に基づいて分類したものである。 臨床的( )分類は,胸部やなどの画像をもとにガンの広がcStageXpCTりを推測したものであるが,ガン細胞のひとつひとつは顕微鏡でしか見えないほど小さいもので,小さな転移があっても胸部やなどに現れXpCTないことがあるから,100パーセント正確なものではない。他方,病理学的( )分類は,上記のとおり臓器の組織を顕微鏡で観察して病理組pStage織学的に判定された病期であり,臨床的分類と病理学的分類StageStageが食い違うことがあるが,病理学的分類が最終的又は確定的な判定Stageとみるべきものである。 肺ガンの分類は,ⅠからⅣまで4つに分類され,おおStageStageStage- 17 -まかにいうと,Ⅰは血行性,リンパ行性いずれの転移もない時期,StageⅡは血行性転移はないが小範囲のリンパ節転移がある時期,ⅢStageStageは血行性転移はないが広範囲のリンパ節転移がある時期,Ⅳは既にStage血行性転移をきたした末期の時期をさし,手術で完全に治る可能性があるのは,Ⅰ,ⅡとⅢの一部である(甲の頁)StageStageStageB3 。 2(一)ガイドライン(年版)は,厚 転移をきたした末期の時期をさし,手術で完全に治る可能性があるのは,Ⅰ,ⅡとⅢの一部である(甲の頁)StageStageStageB3 。 2(一)ガイドライン(年版)は,厚生労働省の研究班によってまとめら2003れた肺ガンの臨床医療のガイドラインであるが,肺ガンの術後の成績に関しては,肺癌登録合同委員会の報告(乙)が,日本全国の303施設でB21994年に切除された7408例(1999年12月で術後5年が経過した症例)をもとに術後5年生存率を算定しており,解析規模で世界最大規模,集積1年という短期間,1994年というが普及した時代でのCT解析であり,本邦における外科切除成績の現状に最も近い報告と考えられるとする(乙の頁,乙の頁)。 B1 B2 Stage(二)肺癌登録合同委員会の報告によれば,手術時の肺ガンの病期がⅠとⅡの場合の術後5年生存率は,以下のとおりである。 StageⅠの術後5年生存率(乙の頁)StageB2 臨床的( )分類c715パーセント(2618例)cT1N0M0.c501パーセント(1646例)T2N0M0.病理学的( )分類p792パーセント(2142例)pT1N0M0.p601パーセント(1488例)T2N0M0.Ⅱの術後5年生存率(乙の頁)StageB2 臨床的( )分類c478パーセント(169例)cT1N1M0.c404パーセント(793例)T2N1M0.病理学的( )分類p586パーセント(261例)pT1N1M0.p422パーセント(785例)T2N1M0. 岡山日赤呼吸器外科は,インターネットのホームページに「肺癌に対する- 18 -外 類p586パーセント(261例)pT1N1M0.p422パーセント(785例)T2N1M0. 岡山日赤呼吸器外科は,インターネットのホームページに「肺癌に対する- 18 -外科治療」という文書を掲示している。そこでは,平成7年7月から平成15年12月1日までの間に,289例の肺ガンに対して胸腔鏡下肺葉・区域切除術()を実施した手術成績(術後5年生存率)を以下のとおり掲VATS載している(甲の頁)。 B317,18臨床的( )Ⅰ91.2パーセントcStageaⅠ82.5パーセントStageb病理学的( )Ⅰ95.4パーセントpStageaⅡ50パーセントStageb同ホームページには,平成13年に発表された日本全国3043例の肺ガン症例の手術成績として,術後5年生存率が,病理学的( )Ⅰで79. pStagea0パーセント,病理学的( )Ⅱで45.0パーセントとの記載がある。 pStageb(甲の頁)B3 Stageそして,岡山日赤の手術成績が,全国平均と比較して特に病理学的Ⅰで極めて良好なことがわかり,他の胸腔鏡下手術を行っている全国の主aな施設でも同様の成績であるとの記載がある(甲の頁)。 B3 さらに,同ホームページには,胸腔鏡下肺葉・区域切除術()は,VATS手術時間,術中出血量,術後入院期間,術後合併症発生率,術後疼痛において標準開胸よりも有意に優れていました,以上の結果から胸腔鏡下肺葉・区域切除術は標準開胸に比較してあらゆる面で低侵襲すなわち『患者さんに優しい手術』といえます,との記載もある(甲の頁)。 B3 ガイドラインは,治療成績として,胸腔鏡下肺葉・区域切除術()VATSが標準手術に比 らゆる面で低侵襲すなわち『患者さんに優しい手術』といえます,との記載もある(甲の頁)。 B3 ガイドラインは,治療成績として,胸腔鏡下肺葉・区域切除術()VATSが標準手術に比較して予後,侵襲性,安全性などの点で同等ないし優れているかどうかに関しては,肯定的な研究は多いものの確定的な結論は出ておらず,行うよう勧めるだけの根拠が明確でないと記載している。 また,ガイドライン中には,エビデンスとして,臨床的Ⅰ期の肺ガStageンの予後に関する胸腔鏡下肺葉・区域切除術()と標準手術を比較しVATS- 19 -た十分な症例数を有したランダム化比較試験は存在しない。しかし,症例数はやや少ないながらもランダム化比較試験が1つあり,予後は同等とされている。その他に多数のケース・シリーズが存在し,予後は標準開胸と比較して同等またはそれ以上とするものが多い。胸腔鏡下肺葉・区域切除術()の有用性に関して,現時点では統計学的に明らかな優位性が立証VATSされているわけではないが,多くの記述研究からはその有用性が窺われることもまた事実である。臨床的Ⅱ期以上の肺ガンに対する胸腔鏡下肺葉Stage・区域切除術()の研究はほとんどなされていないので,有用なエビVATSデンスはないとの記載がある(乙の頁)。 B1104,105 外科系臨床雑誌「外科治療」2005年10月号に掲載された論文「肺癌に対する胸腔鏡下手術の適応と手技」には,胸腔鏡下手術の肺ガンの治療成績について「多くの施設で開胸手術に劣らない,あるいは優れていると報,告されているが,これらの多くはランダム化された試験ではない。胸腔鏡下手術症例と同時期の開胸症例とは背景因子が基本的に一致しない。たとえ一致したとしても,手技的に容易なために胸腔鏡下手術が選択 ,告されているが,これらの多くはランダム化された試験ではない。胸腔鏡下手術症例と同時期の開胸症例とは背景因子が基本的に一致しない。たとえ一致したとしても,手技的に容易なために胸腔鏡下手術が選択された症例と,困難なため開胸手術が選択された症例を単純に比較することはできない。過去の症例であれば手術のベースが異なることもあり,やはり単純な比較は困難である。胸腔鏡下手術による肺癌の治療成績が良好であることは納得できるものがあるとはいえ,その理由付けや再現性の確認はこれからの問題である。胸腔鏡下手術は高度な技術が必要な標準化されていない手術であり,施設間の格差が大きいため困難性は高いが,今後ランダム化された前向きの比較試験による手術成績の検討が期待される」との記載がある(甲の。 。 B4頁) 二争点1(A医師の本件見落としにより原告の5年生存率がどの程度低下したか)についての判断 原告の肺ガンの病期は,平成14年9月の医療センターを受診して健康診- 20 -断を受けた時点では,胸部の所見から見て,腫瘍の大きさが1センチメXpートル前後,遠隔転移の所見はなく,リンパ節転移の所見も確認されていないから,臨床的に見るとc(Ⅰ)であろうと推定される点にT1N0M0Stageついては,当事者間に争いがない。 他方,平成15年9月1日に右肺下葉の切除術を受けた後の病理学的診断では,D病院でp(Ⅱ)であると診断されている。 T2N1M0Stage そうすると,原告の5年生存率は,前記2(二)のガイドラインの全国統計によれば,医療センター受診時には臨床的( )Ⅰ期でcの7cStageaT1N0M0StagebT2N1M02パーセント(四捨五入,手術時には病理学的Ⅱ期でp)の42パーセント(四 ,医療センター受診時には臨床的( )Ⅰ期でcの7cStageaT1N0M0StagebT2N1M02パーセント(四捨五入,手術時には病理学的Ⅱ期でp)の42パーセント(四捨五入)であり,本件見落としによって肺ガンの発見が約11か月間遅れた間に30パーセント低下したことになる。 原告は,医療センター受診時に肺ガンが発見された場合の手術成績として,前記一3の岡山日赤における胸腔鏡下肺葉・区域切除術()の術後5年VATS生存率である病理学的( )Ⅰ期の95.4パーセントを採用するようpStagea主張し,さらに北海道大学病院からは「病理ⅠA期肺癌に対する胸腔鏡手術を主体とした症例」73例の5年生存率が98.5パーセントであったとの報告がされているとも指摘している。 そこで検討するに,まず,分類については,上記二1で認定したよStageうに,原告の肺ガンの病期は,平成14年9月の医療センター受診時には,手術も生検もなされていないので病理学的の診断は不可能であり,臨Stage床的の診断しかできない状態であることに照らすと,原告の医療センStageター受診時の分類は,臨床的( )Ⅰ期であったとしか判定できStagecStageaず,病理学的( )Ⅰ期を前提として考察することは誤りといわざるをpStagea得ない(従って,仮に,原告が主張するように岡山日赤における胸腔鏡下。 肺葉・区域切除術()の術後5年生存率を前提として考えるとしても,VATS医療センター受診時に原告の肺ガンが発見されたとしても,その場合の原告- 21 -の5年生存率は,臨床的( )Ⅰ期の5年生存率である91.2パーセcStageaントであるとしか認定できない。それゆえ,原告は,その主張ど が発見されたとしても,その場合の原告- 21 -の5年生存率は,臨床的( )Ⅰ期の5年生存率である91.2パーセcStageaントであるとしか認定できない。それゆえ,原告は,その主張どおり本件見落としがなく平成14年9月の医療センター受診時に肺ガンが発見されたと仮定し,なおかつ岡山日赤の胸腔鏡下肺葉・区域切除術の手術成績を採用したとしても,約9パーセントと1割近い死亡率があったと認定せざるを得ない)。 次に,臨床的( )Ⅰ期を前提とした場合における5年生存率についcStageaてみると,ガイドラインの全国統計が全国の303施設を対象とし症例数が7408例の肺ガン手術例をもとに算定したものであるのに対し,岡山日赤の症例数は1施設の成績で症例数も289例にとどまること,岡山日赤のデータは,ホームページに掲載されたものであり,医学論文に発表されたものと同等に評価することにはいささか躊躇せざるを得ないこと,胸腔鏡下手術は高度の技術が必要な標準化されていない手術で施設間の治療成績の格差が大きいこと,そもそも原告が岡山日赤で肺ガンの胸腔鏡下肺葉・区域切除術を受けたのではないこと,前記一4及び5で認定したように十分な症例数を有するランダム化比較試験が存在しないため胸腔鏡下肺葉・区域切除術が標準開胸手術と比べて予後が優れていると確定的に結論づけることはできないこと等に照らすと,岡山日赤の手術成績は,一般性あるいは信頼性がガイドラインの全国統計と比べて不足しており,判決の基礎として採用することはできないといわざるを得ない。 したがって,原告の5年生存率は,二2のガイドラインの記載に基づき,平成14年9月の医療センター受診時には少なくとも72パーセントであり,D病院で手術をした時点では42パーセントであったと認定するのが相当 って,原告の5年生存率は,二2のガイドラインの記載に基づき,平成14年9月の医療センター受診時には少なくとも72パーセントであり,D病院で手術をした時点では42パーセントであったと認定するのが相当である(なお,被告は,国立がんセンター中央病院における統計数値(乙)B3にも言及しているが,同統計は,分類について病理学的と臨床StageStage的の別が明らかにされていないから,原告の生存率を検討するに当たStage- 22 -っては使用できない。 。)そうすると,争点1については,A医師の本件見落としによって原告の肺ガンの発見が約11か月間遅れ,摘出手術が遅くなったことによる術後5年生存率の低下は,30パーセントと認定できる。 三原告の損害についての事実認定甲第3号証,甲第1号証,第2号証,甲第4号証,乙第1号証,ABCA第2号証のほか下記()内に記載した証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。 1(一)A医師は,平成15年11月14日付けの「原告への説明内容について」と題する書面(甲)を作成し,同年10月20日に医療センターでB1原告と面談した内容について被告府中市に報告をした。同書面には「平,成14年9月25日に判定させていただいた,胸部レントゲンを再度拝見すると,約1㎝の結節影がありました。私は,にみると確かRetrospectiveに存在し,癌とは診断できないまでも,精査をすすめなければならないものであったと思うとお話ししました。肋間ではあるが右肺動脈と重なっており,気が付かなかったものと思うこと,この時点でみつけていれば,F【裁判所注:原告のこと】様の受けた精神的,肉体的負担が軽く済んだであろうことをお話し申し訳ないと謝罪しました「F様は,D病院の先。 ,気が付かなかったものと思うこと,この時点でみつけていれば,F【裁判所注:原告のこと】様の受けた精神的,肉体的負担が軽く済んだであろうことをお話し申し訳ないと謝罪しました「F様は,D病院の先。」生からも3㎝ならわかるが,1㎝を健診でみつけるのはなかなか難しいと言われたことをお話ししてくださいました。私は,医師である以上,患者様の異常の早期発見はそれがどんなに小さいものでも義務であり,それを発見できず,F様に負担をかけてしまったことについて再度謝罪しました」との記載がある。 。 (二)原告は,その陳述書(甲)において,平成15年10月20日A医C4師と面会した際のことにつき,1㎝は発見が難しかったのではという原告の問いに対し,A医師が「そんなことはありません。これは明らかに私の- 23 -見落としです」と見落としを認め,何度もお詫びをされました。正直に。 見落としを認め土下座するごとく謝るA医師はすばらしいと思いました。 私の命があってありがとうと言った気持ちを真摯に受け止め,医療向上に努めてほしいと思いました,と記載している。 。 ,2(一)府中市健康診査事業等適正運営調査会(以下「調査会」という)は平成15年12月8日,府中市長に対して,調査会の開催結果についてという書面を提出し,原告から申出があった疑義の概要とA医師の報告書の説明を受けた後,本件見落としがあった胸部を委員全員で詳細に観察Xpし意見を交換した結果「異常なしの判定をすることが適正であったと認,定するには困難があった」と報告した。この調査会の委員は,呼吸器科医師2名を含む医師が4名と弁護士が1名で構成されていた(甲)。 B2(二)医療センター受診時の胸部(乙)によれば,原告の肺ガンの発生XpA2部位は,縦隔に存在する心臓や大動脈の陰影に 医師2名を含む医師が4名と弁護士が1名で構成されていた(甲)。 B2(二)医療センター受診時の胸部(乙)によれば,原告の肺ガンの発生XpA2部位は,縦隔に存在する心臓や大動脈の陰影に隠れてしまう部位ではなく肺野であるが,肺野の末梢部に境界鮮明な直径1センチメートルの円形の陰影(いわゆる硬貨状の病変)が存在しているわけではなく,右肺動脈等の血管陰影と重なるように肺ガンの陰影が存在している。 したがって,素人が見ても一見明白に肺に直径1センチメートルの腫瘤が存在すると判断できるわけではない。 原告は,平成14年9月11日,問診票に,①目がかすんで見えにくい,⑭顔,足がむくむ,<>めまい,立ちくらみがある,<>右下肢がしびれる, <>頭痛がある,<>疲れやすい,<>肩こり,腰痛がある,<>股関節痛 があるといった項目に○をつけて医療センター受診時に提出した。 他方,原告は,9咳が出る,たんがからむ,ゼイゼイする,たんに血 が混じったことがある,動悸,息切れがするといった呼吸器の症状を示 す項目には○をつけなかった。(乙)A14(一)肺は,解剖学的には,右肺が上葉,中葉,下葉の3つ,左肺が上葉と- 24 -下葉の二つに分かれている。肺ガンに対する標準的な根治手術は,がんが発生した肺葉ごと切除し,その周囲のリンパ節を郭清するのが一般的である(甲の頁)。 B3 (二)原告は,手術時には肺ガンがⅡまで進行していたが,受けたStageb手術の内容は,右肺下葉切除術である。そうすると仮に,原告が医療センターを受診した時点で肺ガンが発見されたとし,その場合の病期が病理学的( )Ⅰであったと仮定しても,その際に受ける手術の内容が,右pStagea肺 術である。そうすると仮に,原告が医療センターを受診した時点で肺ガンが発見されたとし,その場合の病期が病理学的( )Ⅰであったと仮定しても,その際に受ける手術の内容が,右pStagea肺下葉切除ではなく,より小範囲の下葉の一部切除にとどまったと認めるに足りる証拠はない。 したがって,原告は,平成14年9月の医療センター受診時に本件見落としがなく肺ガンが発見されていたとしても,手術時期は早まるものの,受けた手術の内容は平成15年9月に受けた手術と同一内容になり,肺ガンの発見が約11か月間遅れたことによって肺の切除範囲が広がったことはないと認定できる。 肺ガン切除術後の再発については,術後5年を経過した後に生ずることはほとんどなく,その間に再発がなければガンは完治したものとみなすことができるし,少なくとも,上記期間経過後の再発事例がきわめて少ないことからして,当初手術時の分類によって術後5年経過後の再発の可能性にStage有意な差異は認められないというのが一般的な知見であり,弁論の全趣旨からすると,原告もこのことを当然の前提としているものと認めることができる。 四争点2(原告の損害の程度)についての判断 原告の逸失利益について(一)まず,肺の切除術自体による損害の有無を検討するに,前記三4(二)で認定したように,本件見落としがあっても原告の肺の切除範囲は広がっておらず,平成14年9月の医療センター受診時に原告の肺ガンが発見さ- 25 -れたと仮定しても,今回原告が受けたのと同一内容の手術を受けたと認められることに照らすと,仮に現在原告に何らかの身体症状が存在したとしても,肺の切除範囲が異ならない以上,それらの症状は,平成14年9月の医療センター受診時に肺ガンが発見されて速やかに手術を受けた場合であっても出現し と,仮に現在原告に何らかの身体症状が存在したとしても,肺の切除範囲が異ならない以上,それらの症状は,平成14年9月の医療センター受診時に肺ガンが発見されて速やかに手術を受けた場合であっても出現したものと認めるのが相当である。 したがって,肺の切除術によって原告に現在何らかの身体症状が存在したとしても,それは,本件見落としとは相当因果関係が認められないことになる。 (二)次に,5年生存率の低下に伴う不安等により何らかの経済的損失が生じたか否かを検討する。 一般に,ガンの再発・転移は出現するか出現しないかのいずれかでありその中間はなく,いかに確率的には低くとも特定の個人についてガンの再発・転移が出現した場合には,多くは死亡という結果を免れない結果となる。そうすると,結局,5年生存率が100パーセントでない限りガンの再発・転移による死の不安からは逃れられないということになり,たとえ5年生存率が99パーセントであっても,それは死亡率が1パーセントであることを意味するのであるから,上記三5のとおり術後5年経過してガンが完治したとみなされるまでの間は,やはり程度の差こそあれ死の不安からは逃れられないというのが,通常のガン患者の心情であると考えられる。 その上,本件では,前記二5で認定したように,原告が平成14年9月に医療センターを受診した時点でガンが発見されて適切な手術がされていたとしても,5年生存率は72パーセントであり,死亡率は28パーセントに達していると認定できるのである。 原告は,平成15年8月11日にC病院で検査を受け,3センチメCTートルくらいの腫瘍があるので,ガンとは断定できないが早期に手術を受- 26 -けるよう告げられた際に,気管支鏡検査の予約を取るように勧められたが同病院では翌週まで予約が入らないと聞き,ガンかも知れ トルくらいの腫瘍があるので,ガンとは断定できないが早期に手術を受- 26 -けるよう告げられた際に,気管支鏡検査の予約を取るように勧められたが同病院では翌週まで予約が入らないと聞き,ガンかも知れないとの不安により翌週まで検査ができないことに耐えきれず取り乱し,夫の知人の医学部教授に連絡を取りD病院の医師を紹介してもらったことが認められるところ(甲の3頁,このことや弁論の全趣旨から窺われる原告の性格かC4)らすると,術後5年間の死亡率が28パーセントにとどまったとしても,原告は,ガンの再発とそれによる死亡についてかなりの程度の不安や恐怖を感ずることを免れず,もはやガンが発見される前と同様に毎日を過ごすことはできなかったと認めるのが相当である。 したがって,原告は,平成14年9月の医療センター受診時に本件見落としがなく肺ガンが発見され,速やかに適切な手術を受けていたとしても,かなりの程度の不安や恐怖を感じながら毎日の生活を過ごさざるを得なかったと認められるから,仮に原告が,現在,ガンの再発・転移を防ぐために家事や添削業務を制限していたとしても,かかる制限は,本件見落としがなく,早期に適切な手術を受けていたとしても,やはり死の不安や恐怖を免れるために行っていたものと認められ,本件見落としとの間には相当因果関係が認められないことになる。 (三)以上によると,原告が現に受けた手術自体からはもとより,5年生存率の低下による不安等によっても,原告に経済的損失が生じたとは認められず,原告に逸失利益が生じたとは認められない。 なお,逸失利益に関する原告の主張には,添削業務に費やした時間だけ家事労働に費やすことができる時間が減少しているにもかかわらず家事労働による逸失利益と添削業務による逸失利益の両方を請求していることや,術後5年経過して再発 告の主張には,添削業務に費やした時間だけ家事労働に費やすことができる時間が減少しているにもかかわらず家事労働による逸失利益と添削業務による逸失利益の両方を請求していることや,術後5年経過して再発がない場合には,前記三5のとおり,少なくともガンの再発の危険について当初ののいかんによって有意な差異があるStageとは認められないにもかかわらず,その期間を超えて13年分の逸失利益- 27 -を請求していることなどの疑問点が含まれているが,上記の検討によると,これらの疑問点を検討するまでもないこととなる。 原告の精神的損害について(一)前記二2,三5及び四1(二)で認定説示したところからすると,本件見落としによって原告に生じた精神的損害は,本件見落としがなく早期にガンが発見され速やかに手術がされた場合に比較して,術後5年生存率が低下してガンの再発による死の危険が高まったことに伴い,その不安や恐怖もまた高まったことによる精神的苦痛を内容とするものと認められる。 このような精神的苦痛に対する慰謝料をどのように算定すべきかについては,これまでのところ拠るべき基準等も見当たらず,困難な問題といわざるを得ないところ,原告は,この点について準拠すべき事項や増額すべき事項を主張しているので,まず,(二)及び(三)において,原告のこれらの主張を検討した上,(四)において,当裁判所の判断を示すこととする。 (二)原告が準拠すべきであるとする事項について( )まず,原告は,死亡慰謝料を基準として5年生存率が半減したこと から死亡慰謝料の半額をこの場合の損害額として認めるべきであると主張するが,原告の5年生存率は,本件見落としによって半減したとは認められず,30パーセント低下したにとどまることは,前記二2のとおりである。 また,死に対する不安や 損害額として認めるべきであると主張するが,原告の5年生存率は,本件見落としによって半減したとは認められず,30パーセント低下したにとどまることは,前記二2のとおりである。 また,死に対する不安や恐怖による精神的苦痛は,それ自体無視し難いものであることはいうまでもないが,死亡による精神的苦痛とは質的に異なるものであるから,前者に対する慰謝料を算定するに当たって,後者に対する慰謝料額に死亡の可能性の高まった割合を乗ずるとの考え方は,両者の質的差異を捨象するものといわざるを得ず,到底採用できない。 したがって,原告の上記主張は採用できず,死亡慰謝料の額は精神的- 28 -苦痛に対する慰謝料額の上限を画するものとして参酌するにとどめるべきである。 ( )次に,原告は,B型肝炎の持続感染者(キャリア)の慰謝料につい て500万円を認めた札幌高裁の判決との対比において,本件では,原告の精神的苦痛はB型肝炎の持続感染者(キャリア)を上回ると主張する。 しかし,同判決は,B型肝炎の持続感染者(キャリア)は,そのこと自体が生存に対する深刻な脅威となり,一生涯解放されることがない不安と苦悩を持ち続けることを理由として500万円という慰謝料額を認めたものであるところ,前記三5で認定説示したとおり,術後5年経過して再発がない場合には原告の肺ガンは完治したものとみなされ,少なくともその後はより早期にガンが発見された場合と比較してもガンの再発の可能性に有意な差異は認められなくなるのであるから,術後5年経過以降も原告が死の不安や恐怖を抱くとしても,それは本件見落としによって生じたものとは認め難く,本件見落としによって生じたと認められる不安や恐怖は術後5年間のものに限定されると認められる。そうすると,原告の慰謝料額は,上記札幌高裁の事案を上回るものとは認 としによって生じたものとは認め難く,本件見落としによって生じたと認められる不安や恐怖は術後5年間のものに限定されると認められる。そうすると,原告の慰謝料額は,上記札幌高裁の事案を上回るものとは認められず,むしろ,上記金額はそのような趣旨で参考とすべきものとなる。 また原告は,B型肝炎の持続感染者(キャリア)が肝ガンを発症する確率が約2.5パーセントであることを理由として原告の方が脅威が深刻であると主張するが,死因に限定すると,B型肝炎の持続感染者(キャリア)は肝ガンを発症して死亡するだけではなく,むしろ肝ガンを発症するまでに至らなくとも肝硬変によって死亡する症例が多いことは,公知の事実であり,原告の主張はB型肝炎の持続感染者(キャリア)の死亡率を不当に低く評価している点で採用できない(上記札幌高裁の判決は,集団訴訟の事案に対するものであり,多数の一審原告らに一律の- 29 -慰謝料額を認定したものであるという特殊性を無視できない。 。)( )さらに,原告は,との対比において慰謝料額を定めるべきで PTSDあると主張する。 しかし,について,原告と同様の状況下に多額の慰謝料を肯定PTSDすることが実務上確立しているとは認め難く,むしろ相当低額の慰謝料を認めるにとどまることも多いことからすると,仮にこれに準拠したとしても,原告主張のような多額の慰謝料を認めることにはならないし,原告の受けている精神的苦痛とのそれとの間に共通性があるか否PTSDかも明らかではないから,原告の上記主張も採用できない。 (三)次に,原告が慰謝料を増額すべき事由として,前記争点2(原告の主張)(二)( )及び(二)( )において主張する点について順次検討する。 ( )原告は肺ガンの見落としが重大な過誤であると主張するが,悪性腫 増額すべき事由として,前記争点2(原告の主張)(二)( )及び(二)( )において主張する点について順次検討する。 ( )原告は肺ガンの見落としが重大な過誤であると主張するが,悪性腫 瘍全てについて,一般的にいうと放置すれば致死的であり,発見された時点の病期によって生存率が大きく異なり,早期発見,早期治療が有効であるということが当てはまる。悪性腫瘍の中には,胃ガンや肝ガンなど患者数が相当多いものが肺ガン以外にもいくつも存在する。したがって,肺ガンを見落とさないようにする注意義務違反が特に重大であるとはいえない。 ( )原告は被告が肺ガン検診に責任を負うことや健診の主体が公立病院 であることを指摘しているが,地方自治体が旧厚生省の指針によって肺ガン検診をする義務を負うとしても,それは行政上の義務にすぎず,公立病院の医療過誤がそれ自体で被告の民事上の損害賠償責任を加重するものではないのと同様に,地方自治体が肺ガンを見落としたことが民法上の責任を加重することとは結びつかない。 ( )原告はA医師に初歩的過誤があったと主張するが,前記三1及び2 で認定したように,A医師が本件見落としをしたことは争いがないもの,- 30 -原告が平成14年9月に医療センターを受診した時点の胸部の右肺Xpの異常陰影が,誰もが容易に発見できたとまでは必ずしも言い切れないことに照らすと,A医師の本件見落としが極めて初歩的な過誤であるとはいえない。 ( )原告は,平成14年9月の医療センターの受診が個別健診であって 集団健診ではないと指摘しているが,個別健診はあくまでも健康診断であり,医療センターの医師側の注意義務の内容を,明確な症状を訴えてその治療を求めて医療機関を受診した場合と同一に考えることはできないし,前記三3で認定したように, が,個別健診はあくまでも健康診断であり,医療センターの医師側の注意義務の内容を,明確な症状を訴えてその治療を求めて医療機関を受診した場合と同一に考えることはできないし,前記三3で認定したように,原告が医療センター受診時に提出した問診票によれば,呼吸器症状は全く訴えておらず,丸が付されているものを総合すると不定愁訴というほかないものである。 したがって,A医師に,特に胸部を詳細に観察する義務を課す前Xp提を欠いている。 ( )原告は民間療法に多額の費用を支出したと主張するところ,ガン患 者が藁にもすがる思いで効果が不明な民間療法に頼ることもしばしばあるが,前記認定したように本件見落としがなくとも原告には28パーセントの死亡率があったことに照らすと,原告は,本件見落としがなくとも民間療法に頼ったことが推認され,本件見落としとの間に相当因果関係が認められないから,慰謝料の増額要因としても考慮できない。 ( )原告は本訴提起前の被告府中市の交渉態度が不誠実であったと主張 するところ,被告は,A医師に過失があったことは争っておらず,しかも弁論の全趣旨からすると原告に全く損害がないとも考えていなかったと認められるのであるから,自ら相当と考える金額の提示を行うのが本来のあり方であるが,本件のように,原告が,未だガンの再発がない段階でガンの発見が遅れたことを理由として損害賠償請求をした事案の裁判例は見当たらず,訴訟外の和解例も乏しいと推認されることに照らす- 31 -と,被告府中市が具体的な金額を提示し得なかったことにも無理からぬ面があり,この点をとらえて不誠実な交渉態度であるとまでは認定できない。 ( )以上判断したように,原告が主張する前記争点2(原告の主張)(二) ( )①,③,④及び( )の慰謝料の増額要因については理由が の点をとらえて不誠実な交渉態度であるとまでは認定できない。 ( )以上判断したように,原告が主張する前記争点2(原告の主張)(二) ( )①,③,④及び( )の慰謝料の増額要因については理由がない。 (四)慰謝料額についての当裁判所の判断以上のとおり,慰謝料算定に当たっての原告の主張はいずれも採用できず,この点について拠るべき明確な基準等も見当たらないといわざるを得ないが,原告の抱いている死への不安や恐怖は,本件見落としがなくても生じていたものであって,本件見落としによってその程度が高まったというものであり,しかもその程度が高まっていると評価すべき期間が現に手術を受けた平成15年9月から5年間に限定されること,このような原告の精神的苦痛と類似した面を有しかつその苦痛の程度が高いと認められる事案について,上記四2(二)( )のとおり500万円の慰謝料を相当とし た先例があることのほか,前記三1で認定したとおり,被告Aが原告に対して謝罪していることなど本件に現れた一切に事情に照らすと,原告の精神的損害に対する慰謝料は,金400万円と評価するのが相当である。 なお,上記の慰謝料は,既に説示したとおり,現在原告が抱いている死に対する不安や恐怖に対するものにとどまるのであるから,仮に将来不幸にして原告に肺ガンが再発し,死亡の結果が生じた場合には,その死亡の結果と本件見落としとの因果関係が認められる限り,改めて被告らに損害賠償義務が生ずることはいうまでもない。もっとも,既に認定説示したとおり,本件見落としがなく当初の健診時にガンが発見され手術がされたとしても,原告にガンが再発して死亡に至る可能性が相当程度存在したのであるから,仮に原告がガンの再発によって死亡した後に損害賠償請求がされたとしても,死亡と本件見落としとの間の相当因果 手術がされたとしても,原告にガンが再発して死亡に至る可能性が相当程度存在したのであるから,仮に原告がガンの再発によって死亡した後に損害賠償請求がされたとしても,死亡と本件見落としとの間の相当因果関係が認められない- 32 -可能性もまたかなりの程度に達するといわざるを得ない。このように死亡の結果が生じても,その損害の賠償が得られない可能性が高いことから,そのことを考慮して本訴における慰謝料額を増額すべきではないかとの考え方が生じないでもない。しかし,前記認定のとおり,肺ガン手術後の生存率は早期にガンが発見されるほど高いのであるから,本件見落としと死亡自体との因果関係が認められないとしても,本件見落としがなく,より早期にガンが発見されて手術が行われていれば,現に死亡した時点においてはなお生存していた相当程度の可能性があると認められる余地は十分にあり,その限度で損害の賠償を受けることは可能であるから(最判平成12年9月22日民集54巻7号2574頁参照,本件における慰謝料の)算定に当たり,あえて将来死亡の結果が生じた場合における訴えの帰趨を考慮する必要はない。 弁護士費用及び遅延損害金の起算点本件見落としと相当因果関係を認めることができる弁護士費用は,事案の難易等を考慮すると,金50万円が相当である。 被告A医師の本件見落としという不法行為は,平成14年9月25日に原告に検診結果を説明した際になされているから,被告らの損害賠償債務は同日から遅滞に陥ることとなる(客観的には,この時点でガンが発見されないまま手遅れとなることなどを含めて原告の死の可能性が高まり,それに応じた損害が発生したものの,その約1年後の手術によって原告の損害が上記認定の程度にまで減少したこととなる。 。)五以上によれば,原告の本訴請求は,450万円の支 告の死の可能性が高まり,それに応じた損害が発生したものの,その約1年後の手術によって原告の損害が上記認定の程度にまで減少したこととなる。 。)五以上によれば,原告の本訴請求は,450万円の支払と不法行為の日である平成14年9月25日から支払済みまで民法所定年5分の割合による損害金の支払いを求める限度で理由があるからその限度で認容し,その余の請求については理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴法64条本文,65条1項但書,61条をそれぞれ適用し,仮執行宣言につき同法- 33 -259条1項を適用して,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第34部裁判長裁判官藤山雅行裁判官金光秀明裁判官萩原孝基
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